(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】グラウト材の注入構造、該注入構造を備えるセグメント及び、グラウト材の注入方法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20240702BHJP
E21D 11/08 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
E21D11/00 A
E21D11/08
(21)【出願番号】P 2020166774
(22)【出願日】2020-10-01
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【復代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【氏名又は名称】池田 顕雄
(74)【代理人】
【識別番号】110002550
【氏名又は名称】AT特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】川上 季伸
(72)【発明者】
【氏名】下田 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】三津田 起範
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036564(JP,A)
【文献】特開2012-021395(JP,A)
【文献】特開2000-074271(JP,A)
【文献】特開2001-239322(JP,A)
【文献】登録実用新案第3007863(JP,U)
【文献】特開平08-218789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/00-19/06
E21D 23/00-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工体を構成するセグメントの外面と地山との間の空隙に該セグメントの内面側からグラウト材を注入する注入構造であって、
前記グラウト材を前記セグメントの内面側から該セグメントの外面側に向けて流通させると共に、前記内面側に配された大径筒部と前記外面側に配された小径筒部とを一体に有する注入管と、
前記注入管に前記内面側から挿入されて、前記小径筒部の所定部位に固定されると共に、前記外面側から前記内面側に向けた流体の流通を規制する第1逆止弁と、
前記注入管に前記内面側から挿入されて、前記大径筒部の所定部位に固定されると共に、前記外面側から前記内面側に向けた流体の流通を規制する第2逆止弁と、を備え
、
前記第1逆止弁の外周には第1雄ねじ部が形成されており、
前記第2逆止弁の外周には第2雄ねじ部が形成されており、
前記小径筒部には前記第1雄ねじ部と螺合する第1雌ねじ部が形成されており、
前記大径筒部には前記第2雄ねじ部と螺合する第2雌ねじ部が形成されており、
前記小径筒部、前記大径筒部、前記第1雌ねじ部及び、前記第2雌ねじ部が1本の円筒管にバルジ加工を施すことにより設けられており、
前記第2雌ねじ部の山部の内径は、前記小径筒部の前記第1雌ねじ部よりも前記外面側の部分の内径よりも大径に形成されており、
前記小径筒部の前記第1雌ねじ部よりも前記外面側の部分の内径は、前記第1雄ねじ部の山部の外径よりも大径に形成されている
ことを特徴とする注入構造。
【請求項2】
前記第1逆止弁の外周と前記小径筒部の内周との隙間を封止する環状の第1シール部材と、
前記第2逆止弁の外周と前記大径筒部の内周との隙間を封止する環状の第2シール部材と、をさらに備える
請求項
1に記載の注入構造。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の注入構造を備えるセグメント。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の注入構造を用いたグラウト材の注入方法であって、
前記注入管から前記セグメントの外面に貫通する貫通孔を設ける第1工程と、
前記注入管に前記第1逆止弁を前記内面側から挿入し、該第1逆止弁を前記小径筒部に固定する第2工程と、
前記注入管に前記第2逆止弁を前記内面側から挿入し、該第2逆止弁を前記大径筒部に固定する第3工程と、
前記セグメントを前記トンネル覆工体に組み付ける第4工程と、
組み付けられた前記セグメントの前記注入管からグラウト材を前記内面側から注入する第5工程と、を有する
ことを特徴とするグラウト材の注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、グラウト材の注入構造、該注入構造を備えるセグメント及び、グラウト材の注入方法に関し、特に、トンネル覆工体と地山との間の空隙に対するグラウト材の注入に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、シールド工法においては、トンネル覆工体(セグメント)と地山との間の空隙にグラウト材(裏込め材)が注入される。グラウト材の注入は、シールドマシン後部の注入装置を用いない場合には、セグメントに予め設置した注入孔を用いて、セグメントリングの施工時に該注入孔から行われる(以下、本注入工法ともいう)。また、シールドマシン後部の注入装置により行う場合には、閉塞等の回復不能なトラブルが発生すると、セグメントに現場で注入孔を削孔し、該注入孔を用いて行われる(以下、予備注入工法ともいう)。例えば、特許文献1,2には、注入管の内部にグラウト材の逆流を防止する2個の逆止弁を管軸方向に直列に配置し、グラウト材を坑内側から再注入できるようにした構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5159930号公報
【文献】特許第6433861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記文献1記載の構造では、2個の逆止弁のうち、地山側に配される逆止弁を注入管に対してセグメントの外面側(地山側)から挿入するように構成されている。しかしながら、現場において、セグメントは外面が地面に接地する状態(いわゆる船形)で搬入されるのが一般的である。このため、上記文献1記載の構造では、地山側に配される逆止弁を予め工場等で取り付けておく必要があり、現場での取り付けができないか、或いは、取り付けに多大な労力を要するといった課題がある。
【0005】
上記文献2記載の構造では、セグメントの内面側(坑内側)に配される大径管と、セグメントの外面側に配される小径管とを備え、これら2本の管に対して逆止弁をそれぞれ螺着させることにより、2個の逆止弁をセグメントの内面側から取り付けられるように構成されている。しかしながら、大径管と小径管とを互いに溶接で接合することにより注入管を構成するため、取り付け時に溶接作業が必須となり、加工に手間が掛かるといった課題がある。また、管同士の接合部分が漏水の弱点となる可能性もあり、止水性の低下を招くといった課題もある。
【0006】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡素な構成で、注入管に対して2個の逆止弁をセグメントの内面側から容易に取り付けることができる注入構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の注入構造は、トンネル覆工体を構成するセグメントの外面と地山との間の空隙に該セグメントの内面側からグラウト材を注入する注入構造であって、前記グラウト材を前記セグメントの内面側から該セグメントの外面側に向けて流通させると共に、前記内面側に配された大径筒部と前記外面側に配された小径筒部とを一体に有する注入管と、前記注入管に前記内面側から挿入されて、前記小径筒部の所定部位に固定されると共に、前記外面側から前記内面側に向けた流体の流通を規制する第1逆止弁と、前記注入管に前記内面側から挿入されて、前記大径筒部の所定部位に固定されると共に、前記外面側から前記内面側に向けた流体の流通を規制する第2逆止弁と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記第1逆止弁の外周には第1雄ねじ部が形成されており、前記第2逆止弁の外周には第2雄ねじ部が形成されており、前記小径筒部には前記第1雄ねじ部と螺合する第1雌ねじ部が形成されており、前記大径筒部には前記第2雄ねじ部と螺合する第2雌ねじ部が形成されていることが好ましい。
【0009】
前記小径筒部、前記大径筒部、前記第1雌ねじ部及び、前記第2雌ねじ部が1本の円筒管にバルジ加工を施すことにより設けられていることが好ましい。
【0010】
また、前記第1逆止弁の外周と前記小径筒部の内周との隙間を封止する環状の第1シール部材と、前記第2逆止弁の外周と前記大径筒部の内周との隙間を封止する環状の第2シール部材と、をさらに備えることが好ましい。
【0011】
本開示のセグメントは、前記注入構造を備えることを特徴とする。
【0012】
本開示の注入方法は、前記注入構造を用いたグラウト材の注入方法であって、前記注入管から前記セグメントの外面に貫通する貫通孔を設ける第1工程と、前記注入管に前記第1逆止弁を前記内面側から挿入し、該第1逆止弁を前記小径筒部に固定する第2工程と、前記注入管に前記第2逆止弁を前記内面側から挿入し、該第2逆止弁を前記大径筒部に固定する第3工程と、前記セグメントを前記トンネル覆工体に組み付ける第4工程と、組み付けられた前記セグメントの前記注入管からグラウト材を前記内面側から注入する第5工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示の技術によれば、簡素な構成で、注入管に対して2個の逆止弁をセグメントの内面側から容易に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】シールド工法により構築されたシールドトンネルの一例を示す模式的な斜視図である。
【
図2】(A)は、本実施形態に係るセグメントを斜め上方から視た模式的な斜視図であり、(B)は、本実施形態に係るセグメントの模式的な断面図である。
【
図3】本実施形態に係る注入構造を示す模式的な断面図である。
【
図4】本実施形態に係る注入構造を用いたグラウト材の注入方法を説明するフロー図である。
【
図5】他の実施形態に係る注入構造を示す模式的な断面図である。
【
図6】他の実施形態に係る注入構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係るグラウト材の注入構造、該注入構造を備えるセグメント及び、グラウト材の注入方法について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
[全体構成]
図1は、シールド工法により構築されたシールドトンネル1の一例を示す模式的な斜視図である。
【0017】
図1に示すように、シールドトンネル1は、複数のセグメント10をトンネル周方向に接合して1リング分の覆工体(セグメントリング2)を形成し、該覆工体に対して次のセグメントリング2をトンネル軸方向に順次接合することにより覆工体全体が構築されている。セグメントリング2と地山との間の空隙には、不図示のシールドマシン後部に配された注入装置からグラウト材(裏込め材)が注入される。
【0018】
なお、注入装置に閉塞等の回復不能なトラブルが発生した場合には、組み付け前のセグメント10に本開示の注入構造20を設けると共に、該セグメント10を組み付けた後に、注入構造20からグラウト材の注入が行われる。グラウト材の種類は特に限定されず、セメント系やモルタル系等、シールドトンネル1の設計条件・性能条件等に応じて適宜に選択することができる。
【0019】
[セグメント]
図2(A)は、本実施形態に係るセグメント10を斜め上方から視た模式的な斜視図であり、
図2(B)は、本実施形態に係るセグメント10の模式的な断面図である。なお、
図2(B)において、符号Gは地面を示している。
【0020】
図2に示すように、セグメント10は、略円弧状に湾曲して形成されている。以下では、セグメント10の地山側となる円弧外側面を単に「外面10A」、セグメント10の覆工体内面となる円弧内側面を単に「内面10B」という。セグメント10の種類は、特に制限されず、RCセグメント、合成セグメント、鋼製セグメントの何れであってもよいが、以下ではRCセグメントを一例に説明する。また、セグメント10の形状も、図示例の円弧状に限定されず、シールドトンネル1(
図1参照)の断面形状に応じて適宜の形状とすることができる。
【0021】
セグメント10の略中央部分には、内面10Bから所定の深さで窪むエレクター取り付け孔11が設けられている。また、セグメント10のエレクター取り付け孔11の近傍には、内面10Bから所定の深さで窪む注入孔12が設けられている。注入孔12の位置は、図示例のエレクター取り付け孔11の近傍に制限されず、設計条件等に応じて適宜の位置とすることができる。
【0022】
注入孔12には、本開示の注入構造20が設置される。注入構造20からグラウト材を注入する際は、注入孔12に不図示のドリル等を挿入して、該注入孔12の底部からセグメント10の外面10Aに亘って貫通する貫通孔13を削孔する。本開示の注入構造20は、注入孔12への取り付けを、セグメント10の内面10B側から行えるように構成されている。すなわち、作業者は、セグメント10を外面10Aが地面Gと接地するいわゆる船形の状態で、注入構造20の取り付けを行えるようになっている。以下、本開示の注入構造20の詳細について説明する。
【0023】
[注入構造]
図3は、本実施形態に係る注入構造20を示す模式的な断面図である。
【0024】
図3に示すように、注入構造20は、略円筒状の注入管21と、第1逆止弁30と、第2逆止弁40と、プラグ60とを備えている。
【0025】
注入管21は、セグメント10の内面10Bから所定の深さで凹設された注入孔12に、好ましくは、該注入孔12の略全長に亘って設けられている。注入孔12よりも外面10A側には、ドリル等で削孔した貫通孔13が設けられる。
【0026】
注入管21は、セグメント10がRCセグメント、或いは、合成セグメントの場合には、セグメント10を現場に搬入するよりも前の工場等において、注入孔12の周囲のコンクリートに予め埋設しておけばよい。また、セグメント10が鋼製セグメントの場合には、注入孔12を設けることなく、注入管21の開口端の周縁をセグメント10のスキンプレート等に溶接等で接合すればよい。
【0027】
本実施形態において、注入管21は一本の円筒管で形成されており、内面10B側(坑内側)の大径筒部22と、外面10A側(地山側)の小径筒部25とを一体に有する。注入管21の部材は特に制限されないが、例えば、アルミニウムやステンレス、鉄、炭素鋼、銅、真鍮等が挙げられる。大径筒部22は、円筒管の一端側をバルジ加工することにより形成され、小径筒部25は、円筒管の他端側をバルジ加工することにより形成されている。なお、バルジ加工以外の加工法であれば、注入管21は、金属材以外の例えば、プラスチック等の樹脂材で形成してもよい。
【0028】
大径筒部22には、バルジ加工により第2雌ねじ部23が設けられている。この第2雌ねじ部23は、大径筒部22の軸方向の所定範囲に亘って形成されており、大径筒部22の第2雌ねじ部23よりも小径筒部25側の部分には、凹凸を有しない平坦内周面部24が残されている。
【0029】
小径筒部25には、バルジ加工により第1雌ねじ部26が設けられている。この第1雌ねじ部26は、小径筒部25の軸方向の所定範囲に亘って形成されており、小径筒部25の第1雌ねじ部26よりも外面10A側の部分には、凹凸を有しない平坦内周面部27が残されている。
【0030】
このように、一本の円筒管にバルジ加工を施すことにより、大径筒部22、第2雌ねじ部23、小径筒部25及び、第1雌ねじ部26を一体に有する複雑な形状の注入管21を容易に作製することができる。係る注入管21は、漏水の弱点となりやすい管同士の接合箇所が無いため、止水性を効果的に向上することが可能となる。また、管同士を接合する溶接が不要となり、加工工数や部品点数の削減を図ることも可能となる。また、注入管21全体を薄肉に形成できるため、重量の低減を図ることも可能となる。
【0031】
プラグ60は、注入管21の坑内側の開口を閉塞するもので、円盤状の蓋部61と、蓋部61から延びる円筒状の本体部62とを有する。本体部62の外周には、前述の第2雌ねじ部23と螺合する雄ねじ部63が設けられており、プラグ60が大径筒部22に着脱可能となっている。また、本体部62の外周には、リング状のシール部材64が設けられており、止水性を安定的に確保できるようになっている。
【0032】
第2逆止弁40は、いわゆる高止水型の逆止弁であって、主として、有底円筒状の第2ハウジング41と、第2ハウジング41の底部41Aに設けられた開口42と、開口42を閉塞可能な弁体43と、弁体43を開口42に向けて付勢するスプリング44とを備えている。この第2逆止弁40は、坑内側から地山側に向けた流体の流通を許容しつつ、逆方向への流体の流通を規制するように機能する。
【0033】
第2ハウジング41の外周面のうち、底部41Aとは反対側(坑内側)の部位には、前述の第2雌ねじ部23と螺合する第2雄ねじ部45が設けられている。すなわち、第2逆止弁40が大径筒部22に対して着脱可能となっている。また、第2ハウジング41の外周面のうち、底部41A側(地山側)の部位には、環状の凹溝41Bが周方向の全長に亘って設けられている。この凹溝41Bには、リング状のシール部材46が嵌め込まれている。
【0034】
シール部材46は、例えば、膨潤性の樹脂材等で形成されており、第2ハウジング41の第2雄ねじ部45を第2雌ねじ部23の地山側の端部まで螺着させると、大径筒部22の平坦内周面部24に到達し、該平坦内周面部24に圧接される。これにより、第2ハウジング41と注入管21との隙間がシール部材46によって確実に封止されるようになり、止水性を安定的に確保できるようになる。
【0035】
弁体43は、第2ハウジング41の底部41Aに対して地山側に配置されている。この弁体43は、開口42の開口径よりも大径、且つ、底部41Aの外径よりも小径に形成されている。
【0036】
スプリング44は、第2ハウジング41の内部に配された有底筒状の収容部47内に設けられている。この収容部47は、第2ハウジング41の内周面から径方向内側に延びる複数枚の板部材48によって第2ハウジング41に固定されている。具体的には、収容部47は、底部が地山側(弁体43側)となるように、板部材48に取り付けられている。
【0037】
スプリング44は、一端部(地山側の端部)を収容部47の底部に係止させると共に、他端部(坑内側の端部)を皿ねじ49の頭部49Aに係止させている。皿ねじ49は、頭部49Aから延びるロッド部49Bを有する。このロッド部49Bは、スプリング44、収容部47の底部及び、弁体43の中央部を貫通し、その先端部にはナット49Cが螺合している。
【0038】
第2逆止弁40は、坑内側からグラウト材が注入されない通常時は、スプリング44の付勢力によって弁体43が第2ハウジング41の底部41Aに着座し、開口42を閉塞することで、地山側からの流体の流れを規制する閉弁状態とされる。一方、第2逆止弁40は、坑内側からグラウト材が注入されると、弁体43がスプリング44の付勢力に抗して底部41Aから移動し、開口42を開放することで、グラウト材の流通を許容する開弁状態とされる。
【0039】
第1逆止弁30は、いわゆる簡易型の逆止弁であって、主として、円筒状の第1ハウジング31と、一対の半円形状の弁体32と、第1ハウジング31内を径方向に延びる隔壁部33とを備えている。
【0040】
半円形状の弁体32は、一対で第1ハウジング31の開口と同形の円形をなすように構成されている。各弁体32は、弾性変形可能なヒンジ部材34を介して隔壁部33に回動可能に取り付けられている。第1ハウジング31の内周面には、径方向内側に突出する円環状の凸部35が設けられている。この凸部35は、各弁体32の円弧周縁を着座させる弁座として機能する。
【0041】
第1逆止弁30は、坑内側からグラウト材が注入されない通常時は、各弁体32が凸部35に着座し、第1ハウジング31の開口を閉塞することで、地山側からの流体の流れを規制する閉弁状態とされる。一方、第1逆止弁30は、坑内側から第2逆止弁30を介してグラウト材が注入されると、各弁体32が回動して第1ハウジング31の開口を開放することにより、グラウト材の流通を許容する開弁状態とされる。
【0042】
第1ハウジング31の外周面のうち、内面10B側(坑内側)の部位には、前述の第1雌ねじ部25と螺合する第1雄ねじ部36が設けられている。すなわち、第1逆止弁30が小径筒部25に対して着脱可能となっている。また、第1ハウジング31の外周面のうち、外面10A側(地山側)の部位には、環状の凹溝31Aが周方向の全長に亘って設けられている。この凹溝31Aには、リング状のシール部材37が嵌め込まれている。
【0043】
シール部材37は、例えば、膨潤性の樹脂材等で形成されており、第1ハウジング31の第1雄ねじ部36を第1雌ねじ部25の地山側の端部まで螺着させると、小径筒部25の平坦内周面部27に到達し、該平坦内周面部27に圧接される。これにより、第1ハウジング31と注入管21との隙間がシール部材37によって確実に封止されるようになり、止水性を安定的に確保できるようになる。
【0044】
本実施形態において、第2雌ねじ部23の山部23Aの内径は、小径筒部25の内径よりも大径に形成されており、小径筒部25の内径は、第1雄ねじ部36の山部36Aの外径よりも大径に形成されている。すなわち、第1逆止弁30を内面10B側から大径筒部22内に挿入し、第2雌ねじ部23と干渉させることなく通過させて、小径筒部25に設置できるように構成されている。これにより、作業者は、第1逆止弁30及び、第2逆止弁40の両方を、注入管21に対して内面10B側(坑内側)から容易に取り付けることが可能となる。
【0045】
[注入方法]
次に、
図4のフローに基づいて、本実施形態に係る注入構造20を用いたグラウト材の注入方法について説明する。本ルーチンは、(1)シールドマシン後部の注入装置を用いずに、セグメントリング2(
図1参照)を構築しながら、グラウト材を注入構造20から注入する本注入工法の場合、(2)シールドマシン後部の注入装置にトラブルが発生した予備注入工法の場合、或いは、(3)トンネル覆工体の構築後に該覆工体と地山との間に新たな空隙が形成されて、該空隙にグラウト材を再注入工法する場合の何れで行ってもよいが、以下では、(1)本注入工法又は、(2)予備注入工法を一例に説明する。
【0046】
第1工程では、上記(2)の予備注入工法であれば、予め注入管21が埋設された注入孔12内にドリルを挿入し、セグメント10に貫通孔13を削孔する。係る貫通孔13の削孔は、覆工体に組み付けられる前のセグメン10に対して行われる。貫通孔13を削孔したならば、第2工程へと移行する。なお、上記(1)の本注入工法の場合、貫通孔13は工場等で予め設置する。以下に説明する第2工程以降、上記(1)の本注入工法及び、上記(2)の予備注入工法は何れも同じ内容となる。
【0047】
第2工程では、第1逆止弁30を、セグメント10の内面10B側から注入管21の小径筒部25内に挿入し、第1雄ねじ部36を第1雌ねじ部26と螺合させる。次いで、第3工程では、第2逆止弁40を、セグメント10の内面10B側から注入管21の大径筒部22に挿入し、第2雄ねじ部45を第2雌ねじ部23と螺合させる。これにより、注入構造20の取り付け作業が終了する。
【0048】
本実施形態において、第1逆止弁30及び、第2逆止弁40は、何れも注入管21に対してセグメント10の内面10B側から挿入して設置できるようになっている。これにより、作業者は、セグメント10を外周10Aが地面に接地したいわゆる船形の状態で取り付け作業を容易に行うことが可能となる。
【0049】
第4工程では、注入構造20が取り付けられたセグメント10をシールドマシンによって組み付ける。セグメント10を覆工体に組み付けたならば、第4工程では、注入管21内にセグメント10の内面10B側からグラウト材を注入し、本ルーチンを終了する。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、セグメント10の内面10B側から外面10A側にグラウト材を流通させる注入管21は、内面10B側の大径筒部22と、外面10A側の小径筒部25とを一体に有する一本の円筒管で形成されている。大径筒部22には、第2逆止弁40の第2雄ねじ部45を螺合させる第2雌ねじ部23が設けられ、小径筒部25には、第1逆止弁30の第1雄ねじ部36を螺合させる第1雌ねじ部26が設けられている。さらに、大径筒部22、第2雌ねじ部23及び、小径筒部25の内径は、何れも第1逆止弁30の第1雄ねじ部36の外径よりも大径に形成されている。すなわち、第1逆止弁30が内面10B側から注入管21内を大径筒部22や第2雌ねじ部23、小径筒部25と干渉することなく容易に通過し、第1雌ねじ部26に到達できるように構成されている。
【0051】
これにより、第1逆止弁30及び、第2逆止弁40を、何れも注入管21に対してセグメント10の内面10B側から挿入して設置できるようになり、現場での取り付け作業を容易にすることが可能となる。
【0052】
また、注入管21を一本の円筒管で構成することで、大径管と小径管とを接合する従前構造に比べ、部品点数を削減しつつ、管同士の溶接作業を廃止することができ、現場での施工性も確実に向上することが可能となる。また、漏水の弱点となりやすい管同士の接合部分がなくなることで、止水性も確実に向上することができる。
【0053】
また、第1雌ねじ部26や第2雌ねじ部23をバルジ加工により形成することで、注入管の内周に雌ねじ部を切削により加工する構造に比べ、注入管21全体の薄肉化や軽量化を図ることも可能となる。
【0054】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態において、セグメント10はRCセグメントを一例に説明したが、セグメント10は、
図5に示すように鋼製セグメントであってもよい。セグメント10が鋼製セグメントの場合には、地山側に臨むスキンプレート16に注入管21の小径筒部25の端部を溶接等で接合固定すればよい。貫通孔13は、上記(1)の本注入であれば、セグメント10を製造する工場等で予め設けておき、上記(2)の予備注入工法又は、上記(3)の再注入工法であれば、現場で穿設すればよい。
【0056】
また、セグメント10は、
図6に示すように合成セグメントであってもよい。セグメント10が合成セグメントの場合には、地山側に臨むスキンプレート16に注入管21を溶接等で仮止めし、該注入管21をコンクリートに埋設すればよい。貫通孔13は、上記(1)の本注入であれば、セグメント10を製造する工場等で予め設けておき、上記(2)の予備注入工法又は、上記(3)の再注入工法であれば、現場で穿設すればよい。
【0057】
また、第1逆止弁30は小径筒部25に、第2逆止弁40は大径筒部22に、それぞれ螺着固定されるものとして説明したが、これら逆止弁30,40を螺着以外の他の手法(例えば、各筒部22,25に設けた円環凹溝と、該円環凹溝に嵌め込まれるスナップリング等)により固定することも可能である。
【0058】
また、小径筒部25、大径筒部22、第1雌ねじ部26及び、第2雌ねじ部23は、一本の円筒管にバルジ加工を施すことにより形成されるものとして説明したが、これらの何れか一つ又は全部を他の加工方法により形成してもよい。
【0059】
また、逆止弁30,40の個数は2個に限定されず、3個以上としてもよく、逆止弁30,40の種類も、全ての逆止弁30,40を高止水型、又は、簡易型の何れか一方のみとして構成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 シールドトンネル
2 セグメントリング
10 セグメント
10A 外面
10B 内面
12 注入孔
13 貫通孔
20 注入構造
21 注入管
22 大径筒部
23 第2雌ねじ部
25 小径筒部
26 第1雌ねじ部
30 第1逆止弁
36 第1雄ねじ部
37 シール部材
40 第2逆止弁
45 第2雄ねじ部
46 シール部材
60 プラグ