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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】転舵方法及び転舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240702BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020172079
(22)【出願日】2020-10-12
(65)【公開番号】P2022063699
(43)【公開日】2022-04-22
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓
(72)【発明者】
【氏名】種田 友明
(72)【発明者】
【氏名】宮下 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】久保川 範規
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-037370(JP,A)
【文献】特開2010-149650(JP,A)
【文献】特開2020-029194(JP,A)
【文献】特開2005-067395(JP,A)
【文献】特開2019-127153(JP,A)
【文献】国際公開第2010/109676(WO,A1)
【文献】特開2002-337711(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者の操舵入力を受け付ける操舵部と車両の操向輪を転舵する転舵部とが機械的に分離される転舵装置において、前記操向輪を転舵する転舵方法であって、
ステアリングホイールの操舵角を検出し、
操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出し、
前記車両の車速が高い場合よりも前記車速が低い場合により大きな角度比を設定し、
検出された前記操舵角に前記角度比を乗算して前記操向輪の目標転舵角を算出し、
前記実転舵角と前記目標転舵角との差に基づいて、前記実転舵角を前記目標転舵角に一致させるための転舵力指令値を算出し、
前記検出された操舵角に対する前記目標転舵角の比である前記角度比が小さい場合よりも前記角度比が大きい場合に、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相をより大きな遅延量で遅らせ、
位相を遅らせた前記転舵力指令値に応じて前記操向輪を転舵する転舵力を発生させる、
ことを特徴とする転舵方法。
【請求項2】
前記検出された操舵角に応じて算出した前記目標転舵角の位相を遅らせることにより、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせることを特徴とする請求項に記載の転舵方法。
【請求項3】
前記実転舵角と前記目標転舵角との差に基づいて算出した前記転舵力指令値の位相を遅らせることにより、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせることを特徴とする請求項に記載の転舵方法。
【請求項4】
遅延フィルタを用いて位相を遅らせることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の転舵方法。
【請求項5】
運転者の操舵入力を受け付ける操舵部と車両の操向輪を転舵する転舵部とが機械的に分離される転舵装置において、前記操向輪を転舵する転舵方法であって、
ステアリングホイールの操舵角を検出し、
操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出し、
検出された前記操舵角に応じて前記操向輪の目標転舵角を算出し、
前記実転舵角と前記目標転舵角との差に基づいて、前記実転舵角を前記目標転舵角に一致させるための転舵力指令値を算出し、
前記検出された操舵角に対する前記目標転舵角の比である角度比が小さい場合よりも前記角度比が大きい場合に、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせ、
位相を遅らせた前記転舵力指令値に応じて前記操向輪を転舵する転舵力を発生させ、
前記検出された操舵角に応じて算出した前記目標転舵角の位相を遅らせることにより、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせ、
前記検出された操舵角に応じて算出した前記目標転舵角の積分項を前記目標転舵角の比例項に加算することにより、前記目標転舵角の位相を遅らせることを特徴とする転舵方法。
【請求項6】
前記目標転舵角の変動成分のみを積分することにより前記積分項を算出し、又は前記目標転舵角に応じた制限値で前記積分項を制限することを特徴とする請求項に記載の転舵方法。
【請求項7】
前記検出された操舵角、又は該操舵角の操舵角速度、操舵角加速度、若しくは操舵角躍度、前記ステアリングホイールに加わる操舵力、又は該操舵力の時間変化が所定値未満の場合に、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせる、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の転舵方法。
【請求項8】
運転者の操舵入力を受け付ける操舵部と車両の操向輪を転舵する転舵部とが機械的に分離された、前記操向輪を転舵する転舵装置であって、
ステアリングホイールの操舵角を検出する第1センサと、
操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出する第2センサと、
前記操向輪を転舵する転舵力を発生させるアクチュエータと、
前記車両の車速が高い場合よりも前記車速が低い場合により大きな角度比を設定し、前記第1センサが検出した前記操舵角に前記角度比を乗算して前記操向輪の目標転舵角を算出し、前記実転舵角と前記目標転舵角との差に基づいて、前記実転舵角を前記目標転舵角に一致させるための転舵力指令値を算出し、前記第1センサが検出した操舵角に対する前記目標転舵角の比である前記角度比が小さい場合よりも前記角度比が大きい場合に、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相をより大きな遅延量で遅らせる遅延手段を有し、前記遅延手段によって位相を遅らせた前記転舵力指令値に応じて前記アクチュエータを駆動するコントローラと、
を備えることを特徴とする転舵装置。
【請求項9】
運転者の操舵入力を受け付ける操舵部と車両の操向輪を転舵する転舵部とが機械的に分離された、前記操向輪を転舵する転舵装置であって、
ステアリングホイールの操舵角を検出する第1センサと、
操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出する第2センサと、
前記操向輪を転舵する転舵力を発生させるアクチュエータと、
前記第1センサが検出した前記操舵角に応じて前記操向輪の目標転舵角を算出し、前記実転舵角と前記目標転舵角との差に基づいて、前記実転舵角を前記目標転舵角に一致させるための転舵力指令値を算出し、前記第1センサが検出した操舵角に対する前記目標転舵角の比である角度比が小さい場合よりも前記角度比が大きい場合に、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせる遅延手段を有し、前記遅延手段によって位相を遅らせた前記転舵力指令値に応じて前記アクチュエータを駆動するコントローラと、
を備え、前記コントローラは、
前記検出された操舵角に応じて算出した前記目標転舵角の位相を遅らせることにより、前記検出された操舵角に対して前記転舵力指令値の位相を遅らせ、
前記検出された操舵角に応じて算出した前記目標転舵角の積分項を前記目標転舵角の比例項に加算することにより、前記目標転舵角の位相を遅らせることを特徴とする転舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵方法及び転舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両を操舵する操舵部材と車輪を転舵する転舵装置とを備えて、操舵角に応じた転舵角を算出し、算出された転舵角に基づいて転舵アクチュエータを制御する舵角制御装置が記載されている。また、操舵角に対する転舵角の比率を変化させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-43391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転者により操舵されるステアリングホイールの操舵角に応じて目標転舵角を設定し、操向輪の実際の転舵角である実転舵角と目標転舵角との差に基づいた転舵力を発生させると、運転者の操舵操作に対する車両挙動の応答が速くなり、運転者が違和感を覚えることがある。この傾向は、操舵角に対する転舵角の比率が大きい場合により顕著になる。
本発明は、実転舵角と目標転舵角との差に基づいた転舵力で操向輪を転舵する転舵装置において、操舵角に対する転舵角の比率が大きい場合に、操舵操作に対する車両挙動の応答が早いことによる運転者の違和感を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る車両の操向輪を転舵する転舵方法では、ステアリングホイールの操舵角を検出し、操向輪の実際の転舵角である実転舵角を検出し、検出された操舵角に応じて操向輪の目標転舵角を算出し、実転舵角と目標転舵角との差に基づいて、実転舵角を目標転舵角に一致させるための転舵力指令値を算出し、検出された操舵角に対する目標転舵角の比である角度比が小さい場合よりも角度比が大きい場合に、検出された操舵角に対して転舵力指令値の位相を遅らせ、位相を遅らせた転舵力指令値に応じて操向輪を転舵する転舵力を発生させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、実転舵角と目標転舵角との差に基づいた転舵力で操向輪を転舵する転舵装置において、操舵角に対する転舵角の比率が大きい場合に、操舵操作に対する車両挙動の応答が早いことによる運転者の違和感を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】実施形態の転舵装置の一例の概略構成図である。
図1B図1Aに示すコントローラの機能構成例のブロック図である。
図2A】操舵角の時間変化の一例の模式図である。
図2B図2Aの操舵角に応じた転舵角の模式図である。
図2C図2Bの転舵角変化を生じさせるための転舵力の模式図である。
図2D図2Bの転舵角変化により生じるセルフアライニングトルク(SAT:Self-Aligning Torque)の模式図である。
図2E図2Bの転舵角変化により生じるヨーレイトの模式図である。
図3A図2Aの操舵角に対して位相を遅らせた場合の転舵角の模式図である。
図3B図3Aの転舵角変化を生じさせるための転舵力の模式図である。
図3C図3Aの転舵角変化により生じるSATの模式図である。
図3D図3Aの転舵角変化により生じるヨーレイトの模式図である。
図4A】操舵角の時間変化の一例の模式図である。
図4B】操舵角に対する目標転舵角の角度比が大きい場合と小さい場合における目標転舵角の模式図である。
図4C図4Bの目標転舵角の位相を遅らせた場合の模式図である。
図5A】第1実施形態の転舵制御部の機能構成の一例のブロック図である。
図5B】遅延制御パラメータKdの第1例の説明図である。
図5C】遅延制御パラメータKdの第2例の説明図である。
図6】第1実施形態の転舵方法の一例のフローチャートである。
図7A】第2実施形態の遅延部の機能構成の一例のブロック図である。
図7B】遅延制御パラメータKdの第3例の説明図である。
図7C図7Aのリミッタの制限値の一例の説明図である。
図8】第2実施形態の遅延部の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
図9A】第3実施形態の転舵制御部の機能構成の一例のブロック図である。
図9B図9Aのゲイン設定部によるゲインGの一例の説明図である。
図10A】第3実施形態の転舵制御部の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
図10B図10Aのゲイン設定部によるゲインGの一例の説明図である。
図11A】第3実施形態の転舵制御部の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
図11B図11Aのゲイン設定部によるゲインGの一例の説明図である。
図12A】第3実施形態の転舵制御部の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
図12B図12Aのゲイン設定部によるゲインGの一例の説明図である。
図13A】第3実施形態の転舵制御部の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
図13B図13Aのゲイン設定部によるゲインGの一例の説明図である。
図14】第4実施形態の転舵制御部の機能構成の一例のブロック図である。
図15】第4実施形態の転舵方法の一例のフローチャートである。
図16】第4実施形態の転舵制御部の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
図17A】第5実施形態の転舵制御部の機能構成の一例のブロック図である。
図17B図17Aの転舵角設定部が設定する目標転舵角の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(第1実施形態)
(構成)
図1Aは、第1実施形態~第5実施形態の車両の転舵装置の一例の概略構成図である。実施形態の転舵装置は、運転者の操舵入力を受け付ける操舵部31と、操向輪である左右前輪34FL、34FRを転舵する転舵部32と、バックアップクラッチ33と、コントローラ11を備える。
この操舵装置は、バックアップクラッチ33が解放状態になると、操舵部31と転舵部32とが機械的に分離されるステアバイワイヤ(SBW)システムを採用している。以下の説明において左右前輪34FL、34FRを「操向輪34」と表記することがある。
【0010】
操舵部31は、ステアリングホイール31aと、コラムシャフト31bと、反力アクチュエータ12と、第1駆動回路13と、トルクセンサ16と、操舵角センサ19とを備える。
一方で転舵部32は、ピニオンシャフト32aと、ステアリングギア32bと、ラックギア32cと、ステアリングラック32dと、転舵アクチュエータ14と、第2駆動回路15と、転舵角センサ35を備える。
【0011】
操舵部31のステアリングホイール31aは、反力アクチュエータ12によって反力トルクが付与されると共に、運転者によって付与される操舵トルクの入力を受けて回転する。なお、本明細書においてアクチュエータによってステアリングホイールに付与される反力トルクを「操舵反力トルク」と表記することがある。
コラムシャフト31bは、ステアリングホイール31aと一体に回転する。
【0012】
一方で転舵部32のステアリングギア32bはラックギア32cと歯合し、ピニオンシャフト32aの回転に応じて操向輪34を転舵する。ステアリングギア32bとして、例えば、ラック・アンド・ピニオン式のステアリングギア等を採用してよい。
バックアップクラッチ33は、コラムシャフト31bとピニオンシャフト32aとの間に設けられる。そして、バックアップクラッチ33は、解放状態になると操舵部31と転舵部32とを機械的に切り離し、締結状態になると操舵部31と転舵部32とを機械的に接続する。なお、バックアップクラッチ33は、車両の走行時あるいはイグニッションスイッチがオンとされている時などの通常時には解放状態であり、例えば転舵アクチュエータ14や反力アクチュエータ12の異常など、システムに何らかの異常が発生した場合や車両のイグニッションスイッチがオフとされている時(例えば駐車時)に締結状態となるものであり、通常は解放状態とされている。このため、以下ではバックアップクラッチ33は解放状態であり、ステアリングホイール31aと転舵部32とは機械的に切り離されているものとして記載する。
【0013】
トルクセンサ16は、ステアリングホイール31aからコラムシャフト31bに伝達する操舵トルクTsを検出する。
車速センサ17は、実施形態の転舵装置が搭載された車両の車輪速を検出し、車輪速に基づいて車両の車速Vvを算出する。
操舵角センサ19は、コラムシャフト回転角、すなわち、ステアリングホイール31aの操舵角θs(ハンドル角度)を検出する。
転舵角センサ35は、操向輪34の実際の転舵角である実転舵角θtを検出する。
【0014】
コントローラ11は、操向輪の転舵制御とステアリングホイールの反力制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。本明細書において「反力制御」とは、反力アクチュエータ12等のアクチュエータによりステアリングホイール31aに与える操舵反力トルクの制御をいう。コントローラ11は、プロセッサ20と記憶装置21等の周辺部品とを含む。プロセッサ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
【0015】
記憶装置21は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置を備えてよい。記憶装置21は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
なお、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路でコントローラ11を実現してもよい。例えば、コントローラ11はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0016】
図1Bは、コントローラ11の機能構成例を示すブロック図である。コントローラ11は、反力制御部40と転舵制御部41を備える。反力制御部40と転舵制御部41の機能は、例えばコントローラ11の記憶装置21に格納されたコンピュータプログラムを、プロセッサ20が実行することによって実現されてよい。
反力制御部40は、操舵角センサ19が検出した操舵角θsに応じて、ステアリングホイールへ付与する操舵反力トルク(ステアリングホイール31aへ付与する回転トルクであり、以下では反力トルクとも言う)の指令値である反力指令値fsを算出する。
【0017】
反力制御部40は、反力指令値fsを第1駆動回路13へ出力する。第1駆動回路13は、反力指令値fsに基づいて反力アクチュエータ12を駆動する。
反力アクチュエータ12は、例えば電動モータであってよい。反力アクチュエータ12は、コラムシャフト31bと同軸上に配置された出力軸を有する。
反力アクチュエータ12は、第1駆動回路13から出力される指令電流に応じて、ステアリングホイール31aに付与する回転トルクをコラムシャフト31bに出力する。回転トルクを付与することによって、ステアリングホイール31aに操舵反力トルクを発生させる。
【0018】
第1駆動回路13は、反力アクチュエータ12の駆動電流から推定される実際の操舵反力トルクと、反力制御部40から出力される反力指令値fsが示す反力トルクとを一致させるトルクフィードバックにより、反力アクチュエータ12へ出力する指令電流を制御する。あるいは、反力アクチュエータ12の駆動電流と、反力指令値fsに相当する駆動電流とを一致させる電流フィードバックによって、反力アクチュエータ12へ出力する指令電流を制御してもよい。
【0019】
転舵制御部41は、ステアリングホイール31aの操舵角θsと、操向輪34の実転舵角θtと、車両の車速Vvに基づいて、操向輪34を転舵させる転舵力トルクの指令値である転舵力指令値ftを算出する。
具体的には、転舵制御部41は、操舵角θsに基づいて、操向輪34の転舵角の目標値である目標転舵角θtrを算出する。
【0020】
転舵制御部41は、操舵角θsに対する目標転舵角θtrの比である角度比Ra=θtr/θsを、少なくとも車速Vvに応じて変化させてもよい。例えば、車速Vvが低い場合には角度比Raを比較的大きな値に設定してステアリングホイール31aの取り回し性を向上させ、車速Vvが高い場合には角度比Raを比較的小さな値に設定して操縦安定性を向上させてもよい。
【0021】
転舵制御部41は、実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差(θtr-θt)に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrに一致させるための転舵力指令値ftを算出する。転舵力指令値ftは、実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差(θtr-θt)が大きくなるほど大きな値が算出される。転舵力指令値ftは、例えば実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差(θtr-θt)に予め定められた所定のゲインを乗算して算出される。あるいは予め実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差(θtr-θt)に対する転舵力指令値ftを転舵力マップとして記憶しておき、算出された(θtr-θt)に基づいて転舵力マップを参照して転舵力指令値ftを算出してもよい。
転舵制御部41は、転舵力指令値ftを第2駆動回路15に出力する。第2駆動回路15は、転舵力指令値ftに基づいて転舵アクチュエータ14を駆動する。
転舵アクチュエータ14は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであってよい。転舵アクチュエータ14の出力軸は、減速機を介してラックギア32cと接続される。
【0022】
転舵アクチュエータ14は、第2駆動回路15から出力される指令電流に応じて、操向輪34を転舵するための転舵トルクをステアリングラック32dに出力する。
第2駆動回路15は、転舵アクチュエータ14の駆動電流から推定される実際の転舵トルクと、転舵制御部41から出力される転舵力指令値ftが示す転舵トルクとを一致させるトルクフィードバックにより、転舵アクチュエータ14へ出力する指令電流を制御する。あるいは、転舵アクチュエータ14の駆動電流と、転舵力指令値ftに相当する駆動電流とを一致させる電流フィードバックによって、転舵アクチュエータ14へ出力する指令電流を制御してもよい。
【0023】
このように実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差(θtr-θt)に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrに一致させる転舵力を発生させると、運転者の操舵操作に対する車両挙動の応答が速くなり、運転者が違和感を覚えることがある。その理由を、図2A図2Eを参照して説明する。
【0024】
図2Aは、運転者の操舵操作により変化する操舵角θsの模式図であり、図2Bは、図2Aの操舵角θsに応じた転舵角θtの模式図であり、図2Cは、図2Bの転舵角変化を生じさせるための転舵力の模式図であり、図2Dは、図2Bの転舵角変化により生じるセルフアライニングトルク(SAT:Self-Aligning Torque)の模式図であり、図2Eは、図2Bの転舵角変化により生じるヨーレイトの模式図である。
【0025】
ステアバイワイヤシステムでは、操舵角θsから算出した目標転舵角θtrと実転舵角θtを一致させるようにサーボ制御する。このため、シャフトの連結により操舵トルクを操向輪に伝達していた従来の転舵装置に比べて、操舵角θsに対する転舵角θtの位相遅れが小さくなる(図2A及び図2B)。
【0026】
転舵角θtの変化の開始直後では、操向輪34の向きと操向輪34の進行方向との角度差が大きくなる。このため、目標転舵角θtrに対して少ない遅延で実転舵角θtが追従すると、タイヤに発生する横力が急増する。
このため、転舵角θtの変化の開始直後において、図2C図2Dに示すように転舵力とセルフアライニングトルクが急増する。
この結果、図2Eに示すように、転舵角θtの変化開始直後ではヨーレイトが急増し、運転者がステアリングホイール31aに加える操舵力に対して車両挙動が速くなって運転者が違和感を覚えることがある。
【0027】
そこで、実施形態の転舵制御部41は、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせる。これにより、図3Aの実線に示すように、転舵角θtの変化開始直後において操舵角θsに対して転舵角θtを遅らせることができる。
図3A図3Dの実線は、図2Aに示した操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせた場合の転舵角θt、転舵力、SAT及びヨーレイトの模式図である。比較のため、位相を遅らせない場合を1点鎖線で示している。
図3Aに示すように転舵力指令値ftの位相を遅らせた結果として転舵角θtが遅れることにより、転舵力、SAT及びヨーレイトの変化を緩やかにすることができる。このため、運転者が加える操舵力に対して車両挙動が速くなることを抑制して、運転者の違和感を低減できる。
【0028】
ここで、上記の通り転舵制御部41は、操舵角θsに対する目標転舵角θtrの角度比(Ra=θtr/θs)を変化させることができる。角度比Raが大きくなると、転舵力指令値ftの位相を遅らせることにより奏する上記効果が阻害される。
図4Aは、運転者の操舵操作により変化する操舵角θsの模式図であり、図4Bの1点鎖線42は、角度比Raが比較的小さい場合の転舵角θtであり、図4Bの実線43は、角度比Raが比較的大きい場合の転舵角θtである。
図示のとおり、角度比Raが比較的大きい場合の転舵角θt(実線)は、角度比Raが比較的小さい場合の転舵角θt(1点鎖線)よりも速く変化する。
【0029】
転舵力指令値ftの位相を遅らせると、これらの転舵角θtは図4Cの2点鎖線44及び実線45のようになる。比較用に、角度比Raが比較的小さく位相を遅らせない場合の転舵角θtを1点鎖線42で示している。
図4Cから、角度比Raが比較的大きく且つ位相を遅らせた場合の転舵角θtの変化速度が、角度比Raが比較的小さく且つ位相を遅らせない場合の転舵角の変化速度と同じになることが分かる。
このため、一律に位相を遅らせても、角度比Raが大きくなると転舵角θtの変化開始直後の車両挙動が速くなり、運転者が違和感を覚えることがある。
【0030】
そこで、転舵制御部41は、角度比Raが小さい場合よりも角度比Raが大きい場合に、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせる。
例えば、角度比Raが所定閾値以上である場合に転舵力指令値ftの位相を遅らせ、角度比Raが所定閾値未満である場合に転舵力指令値ftの位相を遅らせない。また例えば、角度比Raが小さい場合よりも角度比Raが大きい場合に、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相の遅延量をより大きくする。
これにより、角度比Raが大きい場合に、操舵操作に対する車両挙動の応答が速いことにより生じる運転者の違和感を低減できる。
【0031】
以下、転舵制御部41についてさらに説明する。
図5Aは、第1実施形態の転舵制御部41の機能構成の一例のブロック図である。転舵制御部41は、転舵角設定部50と、遅延量設定部51と、遅延部52と、転舵角制御部53を備える。
転舵角設定部50は、操舵角θsに応じて目標転舵角θtrを算出する。例えば転舵角設定部50は、角度比Raを操舵角θsに乗算して目標転舵角θtrを算出する。角度比Raは、特許請求の範囲に記載の「ゲイン」の一例である。
【0032】
転舵角設定部50は、角度比Raを動的に変化させてもよい。例えば、転舵角設定部50は、少なくとも車速Vvに応じて角度比Raを変更してもよい。
例えば、車速Vvが低い場合には角度比Raを比較的大きな値に設定してステアリングホイール31aの取り回し性を向上させ、車速Vvが高い場合には角度比Raを比較的小さな値に設定して操縦安定性を向上させてもよい。
【0033】
転舵角設定部50は、目標転舵角θtrを遅延部52に出力し、角度比Raを遅延量設定部51に出力する。
遅延量設定部51は、遅延部52による遅延量を定める遅延制御パラメータKdを、角度比Raに応じて設定して遅延部52に出力する。
遅延部52は、転舵角設定部50が出力する目標転舵角θtrの位相を、遅延制御パラメータKdにより定まる遅延量で遅らせる(遅延させる)。遅延部52は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdを、転舵角制御部53に出力する。
【0034】
転舵角制御部53は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdと実転舵角θtとの差に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrdに一致させるための転舵力指令値ftを算出する。
このように、遅延部(遅延手段)52は目標転舵角θtrの位相を遅らせることにより、転舵角制御部53が算出する転舵力指令値ftの位相を、操舵角θsに対して遅らせる。
遅延制御パラメータKdとしては、遅延部52による遅延量を定める様々な値を採用することができる。例えば遅延制御パラメータKdは遅延量そのものであってよい。
【0035】
図5Bは、遅延量を採用した場合の遅延制御パラメータKdの第1例の説明図である。図5Bの遅延制御パラメータKdは、角度比Raが増加するほど大きくなる。このため、角度比Raが増加するほど、転舵力指令値ftの位相の遅れは大きくなる。
遅延制御パラメータKdは、図5Bに示すように非線形に増加してもよく、直線的に増加してもよい。また、図5Bに示すように角度比Raが小さいほど遅延制御パラメータKdの変化率が大きい特性(すなわち上に凸となる特性)を有していてもよい。
【0036】
図5Cは、遅延量を採用した場合の遅延制御パラメータKdの第2例の説明図である。図5Cの遅延制御パラメータKdは、角度比Raが閾値Ra1未満の場合に0であり、角度比Raが閾値Ra1以上の場合にゼロでない値のKd1となる。したがって、角度比Raが閾値Ra1以上である場合に転舵力指令値ftの位相を遅らせ、角度比Raが閾値Ra1未満である場合に転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
【0037】
遅延部52は、例えば、遅延制御パラメータKdにより定まる遅延量で入力信号の位相を遅延させる位相遅れフィルタ(遅延フィルタ)であってよい。
また、遅延部52は、後述の第2実施形態のように目標転舵角θtrの積分項を目標転舵角θtrの比例項に加算した信号を出力することにより、目標転舵角θtrの位相を遅延させてもよい。
【0038】
(動作)
次に、図6を参照して、第1実施形態の転舵方法の一例を説明する。
ステップS1において操舵角センサ19は、ステアリングホイール31aの操舵角θsを検出する。
ステップS2において転舵角センサ35は、操向輪34の実転舵角θtを検出する。
ステップS3において転舵角設定部50は、操舵角θsに応じて目標転舵角θtrを算出する。
【0039】
ステップS4において遅延量設定部51は、操舵角θsに対する目標転舵角θtrの角度比Raに応じて、遅延制御パラメータKdを算出する。
ステップS5において遅延部52は、転舵角設定部50が出力する目標転舵角θtrの位相を、遅延制御パラメータKdにより定まる遅延量で遅らせる。
ステップS6において転舵角制御部53は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdと実転舵角θtとの差に基づいて転舵力指令値ftを算出する。
ステップS7において第2駆動回路15は、転舵力指令値ftに基づいて転舵アクチュエータ14を駆動する。
【0040】
(第1実施形態の効果)
(1)操舵角センサ19は、ステアリングホイール31aの操舵角θsを検出する。転舵角センサ35は、操向輪34の実転舵角θtを検出する。転舵角設定部50は、操舵角θsに応じて目標転舵角θtrを算出する。遅延部52は、操舵角θsに対する目標転舵角θtrの比である角度比Raが小さい場合よりも角度比Raが大きい場合に、目標転舵角θtrの位相を遅らせる。
【0041】
転舵角制御部53は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdと実転舵角θtとの差に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrdに一致させるための転舵力指令値ftを算出する。このため、角度比Raが小さい場合よりも角度比Raが大きい場合に、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相が遅れる。第2駆動回路15と転舵アクチュエータ14は、位相が遅れた転舵力指令値ftに応じて操向輪34を転舵する転舵力を発生させる。
これにより、角度比Raが大きい場合に、操舵操作に対する車両挙動の応答が早いことにより生じる運転者の違和感を低減できる。
【0042】
(2)転舵角設定部50は、操舵角θsに角度比Raを乗算して目標転舵角θtrを算出してもよい。遅延部52は、角度比Raが大きいほど、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相をより遅らせてもよい。
これにより、角度比Raの増加にともなって、操舵操作に対する車両挙動の応答がより速くなるのを抑制できる。
【0043】
(3)転舵角設定部50は、少なくとも車速Vvに応じて角度比Raを動的に設定してもよい。遅延部52は、動的に変動する角度比Raが大きいほど、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相をより遅らせてもよい。
これにより、角度比Raの動的な増加にともなって、操舵操作に対する車両挙動の応答がより速くなるのを抑制できる。
【0044】
(4)操舵角θsに応じて算出した目標転舵角θtrの位相を遅らせることにより、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせてよい。これにより、運転者が加える操舵力に対する車両挙動の応答が速くなることを抑制し、運転者の違和感を低減できる。
(5)遅延部52は、遅延フィルタであってよい。これにより、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせることができる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態では、転舵制御部41の遅延部52の一例を提示する。第2実施形態の遅延部52は、転舵角設定部50が設定した目標転舵角θtrの積分項を、目標転舵角θtrの比例項に加算することにより、目標転舵角θtrの位相を遅らせる。
図7Aを参照する。遅延部52は、ゲイン乗算部60と、遅延素子61と、加算器62及び64と、リミッタ63を備える。
【0046】
転舵角設定部50が設定した目標転舵角θtrは、配分係数K:(1-K)によりK×θtrと(1-K)×θtrとに配分される。ここで、Kは0より大きく1未満の係数であり、例えばK=0.5であってよい。この場合、目標転舵角θtrは等分される。配分係数Kは0.5以外の値であってもよく、所望する遅延の大きさに応じて適宜設定すればよい。
【0047】
転舵角設定部50は、目標転舵角θtrに配分係数をK:(1-K)を乗算することにより、目標転舵角θtrをK×θtrと(1-K)×θtrとに配分してもよい。また例えば、転舵角設定部50は遅延部52に目標転舵角θtrを出力し、遅延部52において、目標転舵角θtrにゲインK及び(1-K)を乗算して、K×θtrと(1-K)×θtrとに配分してもよい。以下、K×θtrと(1-K)×θtrを「分配目標転舵角」と表記する。
【0048】
ゲイン乗算部60は、遅延制御パラメータKdにより定まる積分ゲインKiを、分配目標転舵角(1-K)×θtrに乗算する。上記のとおり、遅延制御パラメータKdは角度比Raに応じて設定されている。
ゲイン乗算部60は、角度比Raが増加するほど遅延量が大きくなるように、積分ゲインKiを低減させる。このため、角度比Raが増加するほど転舵力指令値ftの位相の遅れは大きくなる。
【0049】
遅延制御パラメータKdとして積分ゲインKiを採用してもよい。図7Bは、積分ゲインKiを示す遅延制御パラメータKdの一例の説明図である。
図7Bの遅延制御パラメータKd(すなわち積分ゲインKi)は、角度比Raが増加するほど小さくなる。このため、転舵力指令値ftの位相の遅れは大きくなる。
遅延制御パラメータKdは、図7Bに示すように非線形に減少してもよく、直線的に減少してもよい。また、図7Bに示すように角度比Raが小さいほど遅延制御パラメータKdの変化率が大きい特性(すなわち下に凸となる特性)を有していてもよい。
【0050】
図7Aを参照する。遅延素子61は、ゲイン乗算部の出力(Ki×(1-K)×θtr)の積分値の過去値を保持する。
加算器62は、ゲイン乗算部60の出力(Ki×(1-K)×θtr)を、積分値の過去値に加算することにより、出力(Ki×(1-K)×θtr)を積分する。
ここで係数Ki×(1-K)もまた、一つの積分ゲインとみなすことができる。したがって、加算器62で積分される出力(Ki×(1-K)×θtr)の積分値は、目標転舵角θtrの積分項とみなすことができる。
【0051】
リミッタ63は、目標転舵角θtrの積分項の大きさ(すなわち絶対値)を、制限値以下に制限する。
例えば、リミッタ63は、目標転舵角θtrに応じて変化する制限値により、目標転舵角θtrの積分項の大きさ(すなわち絶対値)を制限値以下に制限してよい。
図7Cを参照する。目標転舵角θtrが大きいほど、制限値はより大きな値を有する。目標転舵角θtrと同様に、車速Vvに応じて制限値を変化させてもよい。
【0052】
これにより、保舵状態において目標転舵角θtrがゼロでない角度に維持されても、目標転舵角θtrの積分項が増加し続けるのを防止して、遅延部52の出力(すなわち、位相を遅らせた目標転舵角θtrd)を、目標転舵角θtrに応じた角度に固定できる。
図7Aを参照する。加算器64は、リミッタ63から出力される目標転舵角θtrの積分項を、分配目標転舵角K×θtr(すなわち、目標転舵角θtrの比例項)に加算することにより、位相を遅らせた目標転舵角θtrdを算出する。
【0053】
図8は、第2実施形態の遅延部52の変形例の機能構成の一例のブロック図である。変形例の遅延部52は、減算器65を備える。減算器65は、分配目標転舵角(1-K)×θtrからゲイン乗算部60の出力(Ki×(1-K)×θtr)の積分値の過去値を減算した差を、ゲイン乗算部60に入力する。
このため、目標転舵角θtrが一定になり(すなわち時間変化がなくなり)、分配目標転舵角(1-K)×θtrと、ゲイン乗算部60の出力(Ki×(1-K)×θtr)の積分値と、が等しくなると、ゲイン乗算部60への入力がキャンセルされて積分値が変化しなくなる。
【0054】
したがって、ゲイン乗算部60、遅延素子61、加算器62、減算器65は、目標転舵角θtrの変動成分のみの積分項を算出する。
これにより、保舵状態において目標転舵角θtrがゼロでない角度に維持されても、目標転舵角θtrの積分項が増加し続けるのを防止して、遅延部52の出力(すなわち、位相を遅らせた目標転舵角θtrd)を、目標転舵角θtrに応じた角度に固定できる。
【0055】
(第2実施形態の効果)
(1)遅延部52は、操舵角θsに応じて算出した目標転舵角θtrの積分項を目標転舵角θtrの比例項に加算することにより、目標転舵角θtrの位相を遅らせてもよい。これにより、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせることができる。
(2)遅延部52は、目標転舵角θtrの変動成分のみを積分することにより算出した積分項を目標転舵角θtrの比例項に加算してもよく、目標転舵角θtrに応じた制限値で、目標転舵角θtrの積分項を制限してから目標転舵角θtrの比例項に加算してもよい。これにより、保舵状態において目標転舵角θtrがゼロでない角度に維持されても、目標転舵角θtrの積分項が増加し続けるのを防止して、遅延部52の出力(すなわち、位相を遅らせた目標転舵角θtrd)を、目標転舵角θtrに応じた角度に固定できる。
【0056】
(第3実施形態)
上記のとおり、操舵操作に対する車両挙動の応答が速くなるのは、実転舵角θtの変化開始直後である。したがって、実転舵角θtの変化開始直後の期間には、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、それ以外の期間には位相を遅らせないのが好ましい。
そこで、第3実施形態の転舵制御部41は、操舵角θsが所定値未満の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵角θsが所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
【0057】
図9Aは、第3実施形態の転舵制御部41の機能構成の一例のブロック図である。第3実施形態の転舵制御部41は、さらにゲイン設定部70と、乗算器71及び73と、減算器72と、加算器74を備える。なお、遅延部52は、位相遅れフィルタ(遅延フィルタ)であってもよく、第2実施形態の遅延部52であってもよい。
【0058】
ゲイン設定部70は、操舵角θsに応じたゲインGを設定する。ゲインGは、操舵角θsが所定値未満の場合にゼロでなく、操舵角θsが所定値以上の場合にゼロとなるゲインである。
例えば、ゲイン設定部70は、操舵角θsに基づいて設定される目標転舵角θtrに応じてゲインGを設定してもよい。上記のとおり、目標転舵角θtrは操舵角θsと角度比Raとの積である。
【0059】
図9Bは、ゲインGの一例の説明図である。ゲインGの値は、目標転舵角θtrがθ1以下である場合に「1」であり、目標転舵角θtrがθ2以上の場合に「0」であり、目標転舵角θtrがθ1より大きくθ2未満である場合には、目標転舵角θtrの増加に伴って「1」から「0」まで減少する。
乗算器71及び73、減算器72及び加算器74は、遅延部52により位相を遅らせた目標転舵角θtrdと、目標転舵角θtrとの重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)を算出する。
【0060】
転舵角制御部53は、重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)と実転舵角θtとの差に基づいて、実転舵角θtを重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)に一致させるための転舵力指令値ftを算出する。
したがって、目標転舵角θtrがθ2以上の場合には、重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)の値は目標転舵角θtrとなって、位相遅れがなくなる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れは発生しない。
【0061】
一方で、目標転舵角θtrがθ2未満の場合には重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdの成分を含むため、操舵角θsに対して位相が遅れる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れが発生する。
これにより、操舵角θsが中立位置から変化を開始した直後の期間では、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、それ以外の期間には位相が遅れないように、転舵力指令値ftを生成できる。
【0062】
図10Aは、第3実施形態の転舵制御部41の第1変形例の機能構成の一例のブロック図である。
第1変形例の転舵制御部41は、操舵角θsの角速度が所定値未満の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵角θsの角速度が所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
これにより、操舵角θsが中立位置から変化を開始した直後だけでなく、操舵角θsが中立位置以外の位置で保舵された状態から変化を開始した直後にも、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせることができる。
【0063】
ゲイン設定部70は、操舵角θsの角速度に応じたゲインGを設定する。例えば、ゲイン設定部70は、操舵角θsの角速度が所定値未満の場合にゼロでなく、操舵角θsの角速度が所定値以上の場合にゼロとなるゲインGを設定してもよい。
例えば、ゲイン設定部70は、目標転舵角θtrを微分した転舵角速度ωに応じてゲインGを設定してもよい。
【0064】
第1変形例の転舵制御部41は、目標転舵角θtrを微分して転舵角速度ωを算出する微分器75を備える。
ゲイン設定部70は、転舵角速度ωに応じたゲインGを設定する。
図10Bは、ゲインGの一例の説明図である。ゲインGの値は、転舵角速度ωがω1以下である場合に「1」であり、転舵角速度ωがω2以上の場合に「0」である。
【0065】
転舵角速度ωがω1より大きくω2未満である場合には、転舵角速度ωの増加に伴って「1」から「0」まで減少する。
したがって、転舵角速度ωがω2以上の場合には、重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)の値は目標転舵角θtrとなって、位相遅れがなくなる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れは発生しない。
【0066】
一方で、転舵角速度ωがω2未満の場合には重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdの成分を含むため、操舵角θsに対して位相が遅れる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れが発生する。
これにより、ステアリングホイール31aが静止した状態から操舵角θsが変化を開始した直後の期間では、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵角θsが変化している期間には位相が遅れないように、転舵力指令値ftを生成できる。
【0067】
図11Aは、第3実施形態の転舵制御部41の第2変形例の機能構成の一例のブロック図である。
上記の第1変形例の転舵制御部41は、操舵角θsが変化を開始した直後の期間でなくても、操舵角θsが変化している状態からステアリングホイール31aが静止した保舵状態に移る期間に、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせるおそれがある。保舵状態に移る期間では操舵角θsの角速度が小さくなるためである。
【0068】
そこで、第2変形例の転舵制御部41は、操舵角θsの角加速度が所定値未満の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵角θsの角加速度が所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
これにより、保舵状態に移る期間に操舵角θsの角速度が小さくなっても、操舵角θsの角加速度を検出して、転舵力指令値ftの位相を遅らせるのを抑制できる。
【0069】
ゲイン設定部70は、操舵角θsの角加速度に応じたゲインGを設定する。例えば、ゲイン設定部70は、操舵角θsの角加速度が所定値未満の場合にゼロでなく、操舵角θsの角加速度が所定値以上の場合にゼロとなるゲインGを設定してもよい。
例えば、ゲイン設定部70は、目標転舵角θtrを2階微分した転舵角加速度αに応じてゲインGを設定してもよい。
【0070】
第1変形例の転舵制御部41は、目標転舵角θtrの転舵角速度ωを微分して転舵角加速度αを算出する微分器76を備える。
ゲイン設定部70は、転舵角加速度αに応じたゲインGを設定する。図11Bは、ゲインGの一例の説明図である。ゲインGの値は、転舵角加速度αがα1以下である場合に「1」であり、転舵角加速度αがα2以上の場合に「0」である。
【0071】
転舵角加速度αがα1より大きくα2未満である場合には、転舵角加速度αの増加に伴って「1」から「0」まで減少する。
したがって、転舵角加速度αがα2以上の場合には、重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)の値は目標転舵角θtrとなって、位相遅れがなくなる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れは発生しない。
【0072】
一方で、転舵角加速度αがα2未満の場合には重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdの成分を含むため、操舵角θsに対して位相が遅れる。このため操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れが発生する。
これにより、ステアリングホイール31aが静止した状態から操舵角θsが変化を開始し、操舵角θsの変化開始直後のまだ角加速度が小さい初期の期間において、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせることができる。
また、操舵角θsが変化している状態からステアリングホイール31aが静止した保舵状態に移る期間において、操舵角θsの角速度が小さくなっても、操舵角θsの角加速度を検出して、転舵力指令値ftの位相を遅らせるのを抑制できる。
【0073】
図12Aは、第3実施形態の転舵制御部41の第3変形例の機能構成の一例のブロック図である。
第3変形例の転舵制御部41は、ステアリングホイール31aに加わる操舵トルクTsが所定値未満の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵トルクTsが所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
第3変形例の転舵制御部41は、第2変形例の転舵制御部41の効果と同様の効果を奏する。
【0074】
ゲイン設定部70は、操舵トルクTsに応じたゲインGを設定する。図12Bは、ゲインGの一例の説明図である。ゲインGの値は、操舵トルクTsがT1以下である場合に「1」であり、操舵トルクTsがT2以上の場合に「0」である。
【0075】
操舵トルクTsがT1より大きくT2未満である場合には、操舵トルクTsの増加に伴って「1」から「0」まで減少する。
したがって、操舵トルクTsがT2以上の場合には、重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)の値は目標転舵角θtrとなって、位相遅れがなくなる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れは発生しない。
一方で、操舵トルクTsがT2未満の場合には重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdの成分を含むため、操舵角θsに対して位相が遅れる。このため操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れが発生する。
【0076】
図13Aは、第3実施形態の転舵制御部41の第4変形例の機能構成の一例のブロック図である。
第4変形例の転舵制御部41は、操舵トルクTsの時間変化jが所定値未満の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵トルクTsの時間変化jが所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
操舵トルクTsの時間変化jを、操舵角θsの操舵角躍度(操舵角加加速度、操舵角ジャーク)に代えてもよい。
【0077】
これにより、ステアリングホイール31aが静止した状態から操舵角θsが変化を開始し、操舵角θsの変化開始直後のまだ操舵角躍度がまだ小さな初期の期間において、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせることができる。
また、操舵角θsが変化している状態からステアリングホイール31aが静止した保舵状態に移る期間において、保舵状態に移る直前に操舵角躍度が小さくなる時点まで、転舵力指令値ftの位相を遅らせるのを抑制できる。
【0078】
第1変形例の転舵制御部41は、操舵トルクTsを微分して操舵トルクTsの時間変化jを算出する微分器75を備える。
ゲイン設定部70は、時間変化jに応じたゲインGを設定する。図13Bは、ゲインGの一例の説明図である。ゲインGの値は、時間変化jがj1以下である場合に「1」であり、時間変化jがj2以上の場合に「0」である。
【0079】
時間変化jがj1より大きくj2未満である場合には、時間変化jの増加に伴って「1」から「0」まで減少する。
したがって、時間変化jがj2以上の場合には、重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)の値は目標転舵角θtrとなって、位相遅れがなくなる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れは発生しない。
一方で、時間変化jがj2未満の場合には重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)は、位相を遅らせた目標転舵角θtrdの成分を含むため、操舵角θsに対して位相が遅れる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れが発生する。
【0080】
なお、上記の第1変形例~第4変形例のいずれか複数の変形例を組み合わせてもよい。例えば、操舵角θsの操舵角速度、操舵角加速度、若しくは操舵角躍度のうち複数の変数の値のいずれもがそれぞれ閾値未満の場合に、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせてもよい。操舵角θsの操舵角加速度と操舵角躍度を、操舵トルクTs、又は操舵トルクTsの時間変化jに代えてもよい。
【0081】
(第3実施形態の効果)
転舵制御部41は、操舵角θs、又は操舵角θsの操舵角速度、操舵角加速度、若しくは操舵角躍度、ステアリングホイール31aに加わる操舵トルクTs、又は操舵トルクTsの時間変化jが所定値未満の場合に、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせる。
これにより、操舵操作に対する車両挙動の応答が速くなる転舵角θtの変化開始直後の期間に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、それ以外の期間に位相を遅らせるのを抑制できる。
【0082】
(第4実施形態)
上記の第1実施形態の転舵制御部41は、目標転舵角θtrの位相を遅らせることにより、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせる。
これに代えて第4実施形態の転舵制御部41は、転舵角制御部53が出力する転舵力指令値の位相を遅らせることにより、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせる。
これにより、第1実施形態の転舵制御部41の効果と同様の効果を奏する。
【0083】
図14は、第4実施形態の転舵制御部41の機能構成の一例のブロック図である。
転舵角制御部53は、転舵角設定部50が設定した目標転舵角θtrと実転舵角θtとの差に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrに一致させるための基準転舵力指令値ft0を算出する。
遅延部52は、転舵角制御部53が出力する基準転舵力指令値ft0の位相を、遅延制御パラメータKdにより定まる遅延量で遅らせて(遅延させて)、転舵力指令値ftとして出力する。遅延部52は、例えば位相遅れフィルタ(遅延フィルタ)であってよい。
【0084】
次に、図15を参照して、第4実施形態の転舵方法の一例を説明する。
ステップS11~S14の処理は、図6のステップS1~S4の処理と同様である。
ステップS15において転舵角制御部53は、転舵角設定部50が設定した目標転舵角θtrと実転舵角θtとの差に基づいて、実転舵角θtを目標転舵角θtrに一致させるための基準転舵力指令値ft0を算出する。
【0085】
ステップS16において遅延部52は、転舵角制御部53が出力する基準転舵力指令値ft0の位相を、遅延制御パラメータKdにより定まる遅延量で遅らせて(遅延させて)、位相を遅らせた転舵力指令値ftを出力する。
ステップS17の処理は、図6のステップS7の処理と同様である。
【0086】
図16は、第4実施形態の転舵制御部41の変形例の機能構成の一例のブロック図である。
第4実施形態の転舵制御部41は、第3実施形態の転舵制御部41と同様に、操舵角θsが所定値未満の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせ、操舵角θsが所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせない。
【0087】
このため変形例の転舵制御部41は、第3実施形態の転舵制御部41と同様に、ゲイン設定部70と、乗算器71及び73と、減算器72と、加算器74を備える。
ゲイン設定部70は、第3実施形態のゲイン設定部70と同様に操舵角θsに応じたゲインGを設定する。ゲインGは、操舵角θsが所定値未満の場合にゼロでなく、操舵角θsが所定値以上の場合にゼロとなるゲインである。
乗算器71及び73、減算器72及び加算器74は、遅延部52により基準転舵力指令値ft0の位相を遅らせた転舵力指令値ft1と、基準転舵力指令値ft0との重み付け和(G×ft1+(1-G)×ft0)を、転舵力指令値ftとして算出する。
【0088】
したがって、操舵角θsが所定値以上の場合には、転舵力指令値ftは位相遅れを含まない基準転舵力指令値ft0となる。このため、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れは発生しない。
一方で、操舵角θsが所定値未満の場合には重み付け和(G×θtrd+(1-G)×θtr)は、位相を遅らせた転舵力指令値ft1の成分を含む。このため、第3実施形態と同様に、操舵角θsに対する転舵力指令値ftの位相遅れが発生する。
【0089】
さらに、第4実施形態のゲイン設定部70は、第3実施形態の第1変形例~第4変形例のゲイン設定部70と同様に、転舵角速度ω、転舵角加速度α、操舵トルクTs、操舵トルクTsの時間変化に応じたゲインを算出してもよい。
これにより、第4実施形態の転舵制御部41は、操舵角θsの操舵角速度、操舵角加速度、若しくは操舵角躍度、ステアリングホイール31aに加わる操舵力Ts、又は操舵力Tsの時間変化jが所定値以上の場合に操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせず、これら操舵角速度、操舵角加速度、操舵角躍度、操舵力Ts、又は操舵力の時間変化jが、所定値未満の場合に遅らせてもよい。
【0090】
(第4実施形態の効果)
転舵制御部41は、実転舵角θtと目標転舵角θtrとの差に基づいて算出した転舵力指令値ftの位相を遅らせることにより、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相を遅らせてもよい。
これにより、運転者が加える操舵力に対する車両挙動の応答が速くなることを抑制し、運転者の違和感を低減できる。
【0091】
(第5実施形態)
図17Aは、第5実施形態の転舵制御部41の機能構成の一例のブロック図である。第5実施形態における転舵角設定部50は、操舵角θsに応じて角度比Raを変化させる。すなわち、操舵角θsに応じて角度比Raを設定する。
例えば、転舵角設定部50は、車速Vvと操舵角θsとに応じて、角度比Raを変化させてもよい。
【0092】
図17Bは、図17Aの転舵角設定部50が設定する目標転舵角θtrの一例の説明図である。図17Bの目標転舵角θtrから分かるように、操舵角θsが大きいほど角度比Raが大きくなり、車速Vvが高いほど角度比Raが小さくなる。
操舵角θsが大きいほど大きな角度比Raを設定することにより、ステアリングホイール31aの取り回し性を向上させることができる。
【0093】
これに代えて、転舵角設定部50は、操舵角θsが大きいほど小さな角度比Raを設定してもよい。操舵角θsが大きいほど小さな角度比Raを設定することにより、操縦安定性を向上させることができる。
遅延量設定部51は、角度比算出部51aと係数設定部51bとを備える。
角度比算出部51aは、目標転舵角θtrから操舵角θsを除算して角度比Raを算出する。
【0094】
係数設定部51bは、遅延制御パラメータKdを、角度比Raに応じて設定して遅延部52に出力する。角度比Raに応じた遅延制御パラメータKdの設定方法は、上記説明と同様である。
なお、第5実施形態の転舵角設定部50と遅延量設定部51を、第2実施形態~第4実施形態に適用してもよい。
【0095】
(第5実施形態の効果)
転舵角設定部50は、少なくとも操舵角θsに応じて角度比Raを動的に設定してもよい。遅延部52は、動的に変動する角度比Raが大きいほど、操舵角θsに対して転舵力指令値ftの位相をより遅らせてもよい。
これにより、角度比Raの動的な増加にともなって、操舵操作に対する車両挙動の応答がより速くなるのを抑制できる。
【符号の説明】
【0096】
11…コントローラ、12…反力アクチュエータ、13…第1駆動回路、14…転舵アクチュエータ、15…第2駆動回路、16…トルクセンサ、17…車速センサ、19…操舵角センサ、20…プロセッサ、21…記憶装置、31…操舵部、31a…ステアリングホイール、31b…コラムシャフト、32…転舵部、32a…ピニオンシャフト、32b…ステアリングギア、32c…ラックギア、32d…ステアリングラック、33…バックアップクラッチ、34…操向輪、34FL…左右前輪、34FR…左右前輪、35…転舵角センサ、40…反力制御部、41…転舵制御部、50…転舵角設定部、51…遅延量設定部、51a…角度比算出部、51b…係数設定部、52…遅延部(遅延手段)、53…転舵角制御部、60…ゲイン乗算部、61…遅延素子、62、64、74…加算器、63…リミッタ、65、72…減算器、70…ゲイン設定部、71、73…乗算器、75、76…微分器
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17A
図17B