(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電池セルの制御装置および電池セルの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240702BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240702BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H01M10/48 101
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2020176228
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】山本 嵩
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 敏貴
(72)【発明者】
【氏名】吉原 久未
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-084704(JP,A)
【文献】特開2016-039074(JP,A)
【文献】特開2018-060684(JP,A)
【文献】特開2003-257390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R31/36-31/396
H01M10/42-10/667
H01M50/20-50/298
H01M50/50-50/598
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な二次電池である複数の電池セルであって向きが異なる前記複数の電池セルの電流制御を行う電池セルの制御装置であって、
個々の前記電池セルの向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セルを特定する特定部と、
特定された前記電池セルのハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定部と、
前記複数の電池セル全体の実効電流値を前記上
限電流値以下に制限する電流制御部と
を備えている電池セルの制御装置。
【請求項2】
前記電池セルは、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在し、電解液が含侵されたセパレータとを有する構成であり、
前記セパレータの面内における前記電池セルの充放電時において電解液の最も流れやすい方向を第1流動方向と定義したときに、
前記特定部は、2つの前記電池セルのうち、前記第1流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルをハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セルであると特定する、
請求項1に記載の電池セルの制御装置。
【請求項3】
前記電池セルは、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在し、電解液が含侵されたセパレータとを有する構成であり、
前記セパレータの面内における前記電池セルの充放電時において電解液の最も流れやすい方向を第1流動方向と定義し、かつ、前記セパレータの面内における前記第1流動方向に直交する方向を第2流動方向と定義したときに、
前記特定部は、2つの前記電池セルのうち、前記第2流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルをハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セルであると特定する、
請求項1または2に記載の電池セルの制御装置。
【請求項4】
前記複数の電池セルに対して圧縮する方向に拘束力を与える拘束力付与部と、
前記拘束力付与部を制御する拘束力制御部と
をさらに備え、
前記拘束力制御部は、ハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セルにおけるハイレート劣化への移行状態を示す劣化評価値が所定値よりも小さい場合には、前記複数の電池セルが充放電を休止している間は前記電池セルに対しての拘束力を弱めるように前記拘束力付与部を制御する、
請求項1~3のいずれか1項に記載の電池セルの制御装置。
【請求項5】
前記複数の電池セルが所定の配列方向に沿って直線的に配列された構成において、
前記拘束力付与部は、前記所定の配列方向から各々の前記電池セルへ同時に拘束力を付与し、
前記電池セル間を連結するバスバーをさらに備えており、
前記バスバーは、前記複数の電池セルが前記所定の配列方向から拘束力を受けたときに当該所定の配列方向の長さが変わる方向に変形する易変形部を有する、
請求項4に記載の電池セルの制御装置。
【請求項6】
充放電可能な二次電池である複数の電池セルであって向きが異なる複数の電池セルの電流制御を行う電池セルの制御方法であって、
個々の前記電池セルの向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セルを特定する特定工程と、
特定された前記電池セルのハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定工程と、
前記複数の電池セル全体の実効電流値を前記上
限電流値以下に制限する電流制御工程と
を含む、電池セルの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電池セルの電流制御を行う制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車やハイブリッド車などに用いられる充放電可能な二次電池である電池セルでは、大電流(ハイレート)による充放電の継続(サイクル)により電池セルの内部抵抗が一時的(すなわち、可逆的)に上昇する現象、いわゆるハイレート劣化(またはハイレートサイクル劣化)が生じる場合がある。ハイレート劣化が生じた場合、電池セルの充放電可能な実効電流を上げることができないため、電気自動車等の電力消費率(電費)の改善が難しくなる。
【0003】
そこで、特許文献1記載の電池セルの制御装置では、電池セルにおける電流値および電圧値を測定し、これらの電流値および電圧値から内部抵抗を算出し、電池セルの内部抵抗の上昇量をハイレート劣化量として求める。そして、ハイレート劣化量が所定値以上の場合には、ハイレート劣化からの完全復帰を放置(すなわち、充放電停止)時間から推定し、完全復帰していないと判定した際には充放電量を通常時よりも制限し、それによりハイレート劣化を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような特許文献1記載の電池セルの制御装置では、複数の電池セルを備えた構成では、個々の電池セルについてのハイレート劣化量を検出するために、個々の電池セルの電流値および抵抗値を逐次求める必要がある。そのため、制御装置におけるハイレート劣化の検出動作が複雑になるとともにハイレート劣化への移行を抑制する最適な実効電流の設定が難しくなる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、複数の電池セルの電流制御を行う構成において、複数の電池セルすべての電流値および抵抗値を求めることなく、電池セルのハイレート劣化への移行を容易かつ確実に抑制することが可能な電池セルの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、電気自動車などに搭載される複数の電池セルは、個々の電池セルの配置状態などによってハイレート劣化の度合いが個々に異なることを発見し、その知見に基づいて本発明を創作するに至った。
【0008】
すなわち、上記の課題を解決するために、本発明の電池セルの制御装置は、充放電可能な二次電池である複数の電池セルであって向きが異なる複数の電池セルの電流制御を行う電池セルの制御装置であって、個々の前記電池セルの向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セルを特定する特定部と、特定された前記電池セルのハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定部と、前記複数の電池セル全体の実効電流値を前記上限電流値以下に制限する電流制御部とを備えていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、特定部は、複数の電池セルの中から、個々の電池セルの向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きいセルを特定する。そして電流設定部は、特定された電池セルのハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する。電流制御部は、複数の電池セル全体の実効電流値を前記上限電流値以下に制限する。これにより、複数の電池セルの電流制御を行う構成において、複数の電池セルすべての電流値および抵抗値を求めることなく、容易かつ確実に電池セルのハイレート劣化への移行を抑制することが可能になる。
【0010】
上記の電池セルの制御装置において、前記電池セルは、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在し、電解液が含侵されたセパレータとを有する構成であり、前記セパレータの面内における前記電池セルの充放電時において電解液の最も流れやすい方向を第1流動方向と定義したときに、前記特定部は、2つの前記電池セルのうち、前記第1流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルをハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セルであると特定するのが好ましい。
【0011】
2つの前記電池セルのうち、充放電時にセパレータの面内で電解液が最も流れやすい第1流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルは、電池セル内部において電解液が重力の影響により第1流動方向において偏りやすくなり、極間のイオン濃度分布が偏ることにより、ハイレート劣化し易い(すなわち、ハイレート劣化への移行の度合いが大きい)傾向がある。そこで、上記の構成によれば、特定部が、2つの前記電池セルのうち、前記第1流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルをハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セルであると特定することにより、ハイレート劣化し易い電池セルに基づく電流制御を確実に行うことが可能になる。
【0012】
上記の電池セルの制御装置において、前記電池セルは、正極シートと、負極シートと、前記正極シートと前記負極シートとの間に介在し、電解液が含侵されたセパレータとを有する構成であり、前記セパレータの面内における前記電池セルの充放電時において電解液の最も流れやすい方向を第1流動方向と定義し、かつ、前記セパレータの面内における前記第1流動方向に直交する方向を第2流動方向と定義したときに、前記特定部は、2つの前記電池セルのうち、前記第2流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルをハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セルであると特定するのが好ましい。
【0013】
2つの前記電池セルのうち、電解液が最も流れやすい第1流動方向に直交する第2流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルは、セパレータの面内のうち第2流動方向において下方向に近い側に電解液が溜まりやすくなり、極間のイオン濃度分布が偏ることにより、ハイレート劣化し易い(すなわち、ハイレート劣化への移行の度合いが大きい)傾向がある。そこで、上記の構成によれば、特定部が、2つの電池セルのうち、第2流動方向と上下方向とのなす角度が小さい電池セルをハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セルであると特定することにより、ハイレート劣化し易い電池セルに基づく電流制御を確実に行うことが可能になる。
【0014】
上記の電池セルの制御装置において、前記複数の電池セルに対して圧縮する方向に拘束力を与える拘束力付与部と、前記拘束力付与部を制御する拘束力制御部とをさらに備え、前記拘束力制御部は、ハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セルにおけるハイレート劣化への移行状態を示す劣化評価値が所定値よりも小さい場合には、前記複数の電池セルが充放電を休止している間は前記電池セルに対しての拘束力を弱めるように前記拘束力付与部を制御するのが好ましい。
【0015】
本発明者らは複数の電池セルが充放電を休止している間に電池セルの拘束力を弱めれば、電池セルのハイレート劣化からの復帰が早まることを実験により発見した。そこで、上記の構成によれば、複数の電池セルが充放電を休止している間では、拘束力付与部が電池セルの拘束力を弱めることにより、電池セルのハイレート劣化からの復帰を早めることが可能になる。
【0016】
上記の電池セルの制御装置において、前記複数の電池セルが所定の配列方向に沿って直線的に配列された構成において、前記拘束力付与部は、前記所定の配列方向から各々の前記電池セルへ同時に拘束力を付与し、前記電池セル間を連結するバスバーをさらに備えており、前記バスバーは、前記複数の電池セルが前記所定の配列方向から拘束力を受けたときに当該所定の配列方向の長さが変わる方向に変形する易変形部を有するのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、電池セル間を連結するバスバーが易変形部を有し、易変形部が複数の電池セルが所定の配列方向から拘束力を受けたときに当該所定の配列方向の長さが変わる方向に変形する。これにより、電池セルに付与される拘束力の変化に伴って電池セル間の距離が変形しても電池セル間の電気的な連結を容易に負荷なく維持することが可能である。
【0018】
本発明の電池セルの制御方法は、充放電可能な二次電池である複数の電池セルであって向きが異なる複数の電池セルの電流制御を行う電池セルの制御方法であって、個々の前記電池セルの向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セルを特定する特定工程と、特定された前記電池セルのハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定工程と、前記複数の電池セル全体の実効電流値を前記上限電流値以下に制限する電流制御工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
かかる特徴によれば、特定工程では、複数の電池セルの中から、個々の電池セルの向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きいセルを特定する。そして電流設定工程では、特定された電池セルのハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する。ついで、電流制御工程では、複数の電池セル全体の実効電流値を前記上限電流値以下に制限する。これにより、複数の電池セルの電流制御を行うときに、複数の電池セルすべての電流値および抵抗値を求めることなく、容易かつ確実に電池セルのハイレート劣化への移行を抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電池セルの制御装置および制御方法によれば、複数の電池セルの電流制御を行う構成において、複数の電池セルすべての電流値および抵抗値を求めることなく、電池セルのハイレート劣化への移行を容易かつ確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電池セルの制御装置を備えたハイブリッド車の全体構成を示す斜視図である。
【
図3】
図2の電池セル内部の電極捲回体の分解斜視図である。
【
図4】
図2の電池セルの配置を示す説明図であって、(a)は電解液が流れやすい第1流動方向が水平方向、第1流動方向に直交する第2流動方向が上下方向を向く配置、(b)は第1流動方向および第2流動方向がいずれも水平方向を向く配置、(c)は第1流動方向が上下方向、第2流動方向が水平方向を向く配置である。
【
図5】
図4の(a)~(c)に示される配置A~配置Cの電池セルに関する抵抗上昇率の時間的変化を示すグラフである。
【
図6】電池セルのハイレートサイクルの許容値を連続時間と実効電流から示したグラフである。
【
図7】本発明における電池セルのハイレート劣化を抑制するための基本的な電流制御方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図7の電流制御方法で用いられる限界積算電流量の曲線を示すマップである。
【
図9】本発明の電池セルの制御方法の一実施形態に係る電流制御方法のフローチャートである。
【
図10】
図9の電流制御方法に用いられるハイレート劣化の評価値であるイオン偏り評価値と休止時間との関係を示すマップである。
【
図11】
図9の電流制御方法で用いられる限界積算電流量値を示すマップである。
【
図12】ハイレート劣化し易い電池セルのハイレート劣化評価値と実効電流の時間的変化を示すグラフである。
【
図13】3時間の休止時間が経過した後にさらに3時間経過した場合にハイレート劣化評価値が0.8までしか戻らないことを説明するためのグラフである。
【
図14】電池セルの休止中における電池セルに対する拘束力が大きい場合と小さい場合とにおける抵抗上昇率の時間的変化を示すグラフである。
【
図15】本発明の第2実施形態に係る電池セルの制御装置に備えられた複数の電池セルを拘束する拘束付与部の構成を示す断面説明図であって、(a)は拘束前の状態、(b)は拘束後の状態を示す。
【
図16】本発明の第2実施形態における電池セルの電流制御方法のフローチャートである。
【
図17】
図16の電流制御方法に用いられるハイレート劣化の評価値であるイオン偏り評価値と休止時間との関係を示すマップである。
【
図18】休止時間後のハイレート劣化評価値の回復度合いを示すグラフであって、(a)は拘束力低下無しの場合のグラフ、(b)は拘束力低下有りの場合のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0023】
(第1実施形態)
本発明に係る電池セルの制御装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電池セルの制御装置を備えたハイブリッド車の全体構成を示す斜視図である。
【0025】
図1に示されるハイブリッド車100は、車輪10,10と、車軸12と、エンジン20と、トランスミッション30と、モータ40と、インバータ50と、バッテリモジュール(以下、バッテリという)60と、バッテリ60の電流制御をする制御装置70とを備えている。
【0026】
ハイブリッド車100は、いわゆるパラレル式のハイブリッド車である。エンジン20とモータ40とは車両の駆動力を出力する駆動源として機能し、このハイブリッド車100では、運転条件に応じて、エンジン20のみによる走行、エンジン20とモータ40の双方による走行、あるいは、モータ40のみによる走行が実現される。
【0027】
エンジン20は、トランスミッション30を介して車軸12に連結されている。エンジン20は、例えばガソリンエンジンである。
【0028】
モータ40は、車軸12に連結されているとともに、インバータ50を介してバッテリ60に接続されている。モータ40には、バッテリ60の電力がインバータ50にて交流電力に変換された後供給される。モータ40は、電力供給を受けて電動機として機能して、車軸12を回転させる。モータ40は、減速時に回生動作を行うことにより、発電機としても機能することも可能である。モータ40で発電された電気はバッテリ60に充電される。
【0029】
制御装置70は、インバータ50を介してバッテリ60の電流制御をする構成を有し、具体的には、特定部71と、電流設定部72と、電流制御部73とを備えている。
【0030】
特定部71は、バッテリ60に含まれる個々の電池セル4(
図2参照)の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル4を特定する。電池セル4の具体的な特定方法については、後段で詳細に説明する。
【0031】
電流設定部72は、特定された電池セル4のハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する。電流制御部73は、複数の電池セル4全体(バッテリ60)の実効電流値を上限電流値以下に制限する。
【0032】
バッテリ60は、
図2に示されるように、充放電可能な二次電池であって向きが異なる複数の電池セル4がケーシング2、3に収容されることにより1つのモジュールを構成している。ケーシング2は、水平方向に延びる直方体の箱体である。ケーシング2の内部には、複数の電池セル4(4A)が立てた状態で所定の配列方向で並んで配置されている。ケーシング3は、平たい箱体であり、車体底板に沿って寝かして配置されている。ケーシング3の内部には、1個またはそれ以上の電池セル4(4B)が寝た状態(水平面に沿った状態)で配置されている。
【0033】
各電池セル4は、平たい直方体形状のハウジング5と、ハウジング5の内部に収容された電極捲回体6と、ハウジング5の外面に設けられた正極端子7および負極端子8とを有する。
【0034】
立てた状態の電池セル4Aでは、正極端子7および負極端子8が第1水平方向Xに並ぶとともに電極捲回体6の巻軸方向も第1水平方向Xを向くが、電極捲回体6の楕円断面の長辺方向が上下方向Zを向いている。一方、寝た状態の電池セル4Bでは、正極端子7および負極端子8が第1水平方向Xに並ぶととともに電極捲回体6の巻軸方向も第1水平方向Xを向くが、電極捲回体6の楕円断面の長辺方向が第1水平方向に直交する第2水平方向Yを向いている。
【0035】
電池セル4(具体的には、
図2における立てた状態の電池セル4A)の電極捲回体6は、リチウムイオン電池を構成し、具体的には、
図3に示されるように、正極シート6aと、負極シート6bと、正極シート6aと負極シート6bとの間に介在し、リチウム塩を含む電解液が含侵されたセパレータ6cとを有する。電極捲回体6は、正極シート6a、セパレータ6c、および負極シート6bの積層体を第1水平方向Xを巻軸方向として巻き取って上下方向に長い長円形の断面を有する扁平なロール状にしたものである。正極シート6aは、ハウジング5の外面の正極端子7に電気的に接続されている。負極シート6bは、ハウジング5の外面の負極端子8に電気的に接続されている。
【0036】
なお、電池セル4については、正極シート6a、セパレータ6c、および負極シート6bの積層体が巻き取られた電極捲回体6の形態でなく、積層体が多数回繰り返し積層された形態であってもよい。
【0037】
正極シート6aは、例えば、正極活物質および助剤がアルミニウム箔などの金属製の集電体に塗布されたものである。負極シート6bは、負極活物質および助剤が銅箔などの金属製の集電体に塗布されたものである。セパレータ6cは、多孔性フィルムからなり、電解液が含侵されている。
【0038】
電解液は、例えば、リチウム塩が非水溶媒に溶解されたものである。非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状炭酸エステル、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)等の鎖状炭酸エステル、γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン(GVL)等の環状カルボン酸エステルなどが用いられる。非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
電池セル4は、配置される向きによって電解液が流れる方向と電解液が溜まっていく位置が変わる。具体的には、
図4(a)~(c)に示される配置状態の電池セル4について考察する。
【0040】
図4(a)~(c)に示される電池セル4では、いずれも電極捲回体6の巻軸方向に沿う方向が充放電時にセパレータ6cの面内に沿って電解液が最も流れやすい。そこで、
図4(a)~(c)では、上記のような電解液が最も流れやすい方向(本実施形態では、巻軸方向)は第1流動方向A1と定義される。また、セパレータ6cの面内における第1流動方向A1と直交する方向(本実施形態では、電極捲回体6の楕円断面の長辺方向)は第2流動方向A2と定義される。
【0041】
したがって、
図4(a)~(c)に示される電池セル4は、以下のような3種類の異なる配置であることがわかる。具体的には、
図4(a)は、立てた状態(配置A)の電池セル4Aの配置を示し、具体的には、電解液が流れやすい第1流動方向A1が第1水平方向X、第1流動方向A1に直交する第2流動方向A2が上下方向Zを向く。
図4(b)は、寝た状態(配置B)の電池セル4Bの配置を示し、第1流動方向A1および第2流動方向A2がいずれも水平方向を向く。具体的には、第1流動方向A1が第1水平方向Xを向き、第2流動方向A2が第1水平方向Xに直交する第2水平方向Yを向く。
図4(c)は、横向きに立てた状態(配置C)の電池セル4Cの配置を示し、第1流動方向A1が上下方向Z、第2流動方向A2が第2水平方向Yを向く。
【0042】
図4(a)~(c)に示される3種類の異なる配置(配置A)~(配置C)の電池セル4A~4Cでは、充放電が休止された状態において電解液が下方向Bへ溜まっていく位置がそれぞれ異なっている。これらの電池セル4A~4Cのうち、
図4(b)に示される寝た状態(配置B)の電池セル4Bでは、電解液が下方向Bへ溜まっていく位置が最も広い範囲になり、当該電池セル4Bは電池セル4中での電解液の偏りを最も抑えることが可能である。また、
図4(a)に示される立てた状態(配置A)の電池セル4Aでは、電解液が下方向Bへ溜まっていく位置が電解液の最も流れやすい第1流動方向A1と同じ方向に沿って延びる範囲になり、当該電池セル4Aは電池セル4中での電解液の偏りを多少抑えることが可能である。これら電池セル4B、4Aに対して、
図4(c)に示される横向きに立てた状態(配置C)の電池セル4Cでは、電解液が下方向Bへ溜まっていく位置が電解液の最も流れやすい第1流動方向A1において末端(下端)で直交方向(第2流動方向A2)に沿って延びる範囲になり、当該電池セル4Cでは電池セル4中での電解液の偏りが最も大きくなると考えられる。
【0043】
このように、
図4(a)~(c)に示される3種類の異なる配置(配置A)~(配置C)の電池セル4A~4Cでは、電解液が下方向Bへ溜まっていく位置がそれぞれ異なっていることによって、内部抵抗が異なると考えられる。
【0044】
このような見地から、
図4(a)~(c)に示される3種類の異なる配置(配置A)~(配置C)の電池セル4A~4Cのそれぞれの内部抵抗の上昇率(抵抗上昇率Rθ)の時間的な変化を調べた結果が、
図5のグラフに示される。
【0045】
図5のグラフを見れば、寝た状態(配置B)の電池セル4Bの抵抗上昇率Rθの上昇度合いが最も低く、ついで、立てた状態(配置A)の電池セル4Aの抵抗上昇率Rθの上昇度合いが低い。それに対して、横に立てた状態(配置C)の電池セル4Cの抵抗上昇率Rθの上昇度合いが最も大きいことがわかる。
【0046】
ハイレート劣化は、過大な電流(ハイレート)による充放電の継続(サイクル)により電池セルの内部抵抗が一時的(すなわち、可逆的)に上昇する現象である。
図5の結果をみれば、電池セル4の向きによってハイレート劣化のし易さ(すなわち、ハイレート劣化への移行同度合いの大きさ)が異なることが見い出される。
【0047】
そこで、本発明者らは電池セル4の向きからハイレート劣化が最もしやすい電池セル4を特定し、特定された電池セル4に基づいて上限電流値を設定し、バッテリ60全体の電池セル4について上限電流値に基づいて電流制御をすれば、ハイレート劣化を抑制できると考えて、本発明を創作するに至った。
【0048】
上記の「上限電流値」とは、ハイレート劣化が生じない上限の電流値であり、ハイレートサイクル(すなわち、大電流による充放電のサイクル)の許容値として定義付けられる。
図6には、電池セル4のハイレートサイクルの許容値を連続時間t(h)と実効電流Ie(A)から示したグラフが示される。
図6のグラフを見れば、ハイレートサイクルの許容値は、連続時間tと実効電流Ieから一義的に決定され、曲線Hs上に沿った線上に示される。例えば、連続時間3時間の場合では実効電流は80A、6時間の場合では60A、16時間の場合では40A、48時間以上の場合では20Aになる。
【0049】
ハイレート劣化(ハイレートサイクル劣化)の基本的な制御方法では、充放電時において、実効電流値と限界電流積算量に基づいてハイレート劣化評価値を逐次推定して実効電流を制限する。具体的には、
図7の制御フローチャートに沿って実行される。
【0050】
図7に示されるフローチャートでは、まず、ハイブリッド車の走行時(充放電時)において、所定の時間間隔ΔTにおける電池セル4の実効電流を検出する(ステップS1)。ついで、制御装置70(
図1参照)は、実効電流が所定値より大きいか否か判別する(ステップS2)。
【0051】
実効電流が所定値より大きい場合にはステップS3に進み、限界積算電流値をマップにより取得し、ついで実効電流値を用いてハイレートサイクル(劣化)評価値Nを算出する(ステップS4)。一方、実効電流が所定値より小さい場合にはステップS3、S4をスキップしてステップS5へ進む。
【0052】
ステップS3の限界積算電流値の求め方は、具体的には、まず、実効電流値(例えば、80A)を
図8の限界積算量の曲線を示すマップに入力し、実効電流値(80A)に対応する曲線上の積算電流値(239Ah)を限界積算電流値として求める。
【0053】
ステップS4では、ハイレート劣化評価値Nは、実効電流値Ie(A)、経過時間t(秒)、ステップS3で求められた限界積算電流値IS(Ah)から以下の(式1)のようにして求められる。
N=1-(Ie×t/3600)/IS (式1)
例えば、実効電流値Ieが80A、経過時間tが10秒、限界積算電流値ISが239Ahを上記の(式1)に入力すれば、ハイレート劣化評価値Nは、
N=1-(80×10/3600)/239=0.999073
のように求められる。
【0054】
ついで、ハイレート劣化評価値Nが目標値より大きいか否か判別する(ステップS5)。
【0055】
ハイレート劣化評価値Nが目標値より大きい場合には、ステップS6に進み、ハイレート劣化評価値Nを制御装置70に記録する。
【0056】
一方、ハイレート劣化評価値Nが目標値より小さい場合にはステップS7に進み、ハイレート劣化評価値Nを所定値以下に制限した後ステップS6に進む。
【0057】
これにより、ハイレート劣化し易い電池セル4について実効電流を制限してハイレート劣化を抑制することが可能になる。
【0058】
つぎに、
図9に示されるフローチャートを用いて、本発明の電池セルの制御方法の一実施形態に係る電流制御方法のフローについて説明する。
【0059】
本実施形態の電流制御方法は、基本的には、以下の3つの工程(i)~(iii)を有する。
(i) 個々の電池セル4の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル4を特定する特定工程。
(ii)特定された電池セル4のハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定工程。
(iii) 複数の電池セル4全体の実効電流値を上限電流値以下に制限する電流制御工程。
【0060】
本実施形態の電流制御方法では、まず、スタート前の事前動作として、制御装置70の特定部71(
図1参照)が、あらかじめ、バッテリ60に含まれる複数の電池セル4について、電池セル4の向きからハイレート劣化が最もしやすい電池セル4を特定しておく(特定工程)。
【0061】
具体的には、特定部71は、バッテリ60に含まれる複数の電池セル4が接続される電気接続部の位置または複数の電池セル4が収容されるケーシング2、3(
図2参照)の種類などから、電池セル4の向きが、例えば、
図4(a)~(c)に示される向きになっているかを自動的に判別する。そして、特定部71は、判別した電池セル4の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい(ハイレート劣化を最もし易い)電池セル4(例えば、
図4(c)の横に立てた状態の電池セル4C)を特定する。
【0062】
ここで、特定部71は、
図4(a)~(c)に示される電池セル4における2つの電池セル4(例えば、
図4(a)の電池セル4Aと
図4(c)の電池セル4C)のうち、電解液が最も流れやすい第1流動方向A1と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4をハイレート劣化への移行の度合いが大きい(ハイレート劣化をし易い)電池セル4(具体的には、
図4(c)の電池セル4C)であると特定する。
【0063】
また、特定部71は、
図4(a)~(c)に示される電池セル4における2つの電池セル4(例えば、
図4(a)の電池セル4Aと
図4(b)の電池セル4B)のうち、第2流動方向A2と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4をハイレート劣化への移行の度合いが大きい(ハイレート劣化をし易い)電池セル4(具体的には、
図4(a)の電池セル4A)であると特定する。
【0064】
特定部71は、上記の2つの特定結果から、ハイレート劣化への移行の度合いの大きさ(ハイレート劣化のし易さ)の順番が電池セル4C、電池セル4A、電池セル4Bであることを導き出し、ハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい(ハイレート劣化を最もし易い)電池セル4Cを特定する。
【0065】
図9に示されるフローチャートでは、ハイブリッド車のイグニッションをオン(IG―ON)にすることによってスタートする。
【0066】
ステップS11では、制御装置70(
図1参照)は、前回の走行時(すなわち、前回のIG-ONからIG-OFFの間)の最も悪いハイレート劣化評価値Nを検出する。具体的には、スタート前に事前に制御装置70の特定部71によって特定されたハイレート劣化が最もしやすい電池セル4(例えば、
図4(c)の横に立てた状態の電池セル4C)についてのハイレート劣化への移行状態を示す劣化評価値として、前回の走行時におけるハイレート劣化評価値Nを制御装置70のメモリから呼び出す。
【0067】
ついで、ステップS12では、制御装置70は、前回の走行時から所定時間経過しているか否かを判別する。所定時間は、評価値Nが1に戻るのに十分な時間である。所定時間を経過している場合にはステップS13に進み、走行スタート時の評価値N=1を取得し、ついで、電池温度(複数の電池セル4の平均温度またはハイレート劣化が最もしやすい電池セル4の温度(ハイレート劣化が最もしやすい配置の電池セル4が複数ある場合は、複数の電池セル4のうち最も温度が低い電池セル4の温度))を検出する(ステップS14)。
【0068】
一方、所定時間経過していない場合にはステップS15に進み、
図10に示される評価値Nと休止時間のマップより現在の評価値Nを取得した後ステップS14に進む。
図10に示されるマップは、ハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nと休止時間trとの関係を示す。例えば、休止時間trが1.2時間の場合にイオン偏り評価値Nが0.7、休止時間8時間の場合には評価値Nが0.97になる。
図10によれば、ステップS12における「所定時間」は、評価値Nが1に戻る休止時間である11時間が相当する。
【0069】
ついで、ステップS16において、検出された電池温度が目標値に達したか否かを判別する。目標温度は、ハイレート劣化しにくい比較的高い温度であって、かつ、ドライバーの運転に適した温度が設定される。
【0070】
電池温度が目標温度に達した場合には、ステップS17に進み、バッテリ60(すなわち、複数の電池セル4全体)の実効電流を検出する。電池温度が目標温度に達していない場合には、ステップS18に進み、電池温調をONにした後ステップS17に進む。電池温調では、具体的には、複数の電池セル4を温調装置で温度調整(加熱または冷却)して目標温度に近づける(なお、目標温度に到達しなくてもよい)。
【0071】
なお、以下のステップS19~S25は、上記の
図7の基本的な制御フローチャートにおけるステップS2からS7に基本的には同じ動作を行うが、ステップS20の限界積算電流値をマップにより取得する工程、ステップS24の上流電源値を設定する工程、およびS25の実効電流を上限電流値以下に制限する工程が異なる。
【0072】
具体的には、制御装置70(
図1参照)は、実効電流が閾値より大きいか否か判別する(ステップS19)。
【0073】
実効電流が閾値より大きい場合にはステップS20に進み、限界積算電流値をマップにより取得し、ついで実効電流値を用いて評価値Nを算出する(ステップS21)。一方、実効電流が所定値より小さい場合にはステップS20をスキップしてステップS21へ進む。
【0074】
ステップS20の限界積算電流値の求め方は、具体的には、まず、実効電流値(例えば、80A)を
図11の実効電流、電池温度、および限界積算量の3つのパラメータによって示される曲線を示すマップに入力し、実効電流値(40~95A)および電池温度T(℃)に対応する曲線上の積算電流値を限界積算電流値IS(Ah)として求める。
【0075】
ステップS21では、評価値Nを、実効電流値Ie(A)、経過時間t(秒)、ステップS20で求められた限界積算電流値IS(Ah)から上記の(式1)から求める。
【0076】
ついで、評価値Nが目標値より大きいか否か判別する(ステップS22)。目標値は、任意の数値であり、例えば、0から1間の範囲で任意に設定される。
【0077】
評価値Nが目標値より大きい場合には、ステップS23に進み、評価値Nを制御装置70に記録して一連の電流制御を終了する。
【0078】
一方、評価値Nが目標値より小さい場合にはステップS24に進み、制御装置70の電流設定部72がハイレート劣化評価値Nを目標値に近づける上限電流値を設定する(電流設定工程)。ついで、ステップS25において、電流制御部73が実効電流を上限電流値以下に制限する(電流制御工程)。その後、ステップS23に進んで終了する。
【0079】
以上の一連の制御フローチャートを実行することにより、ハイレート劣化し易い電池セル4を制御装置70の特定部71によって電池セル4の向きからあらかじめ特定しておき、特定されたハイレート劣化し易い電池セル4について実効電流を制限してハイレート劣化を抑制することが可能になる。
【0080】
上記のように、特定されたハイレート劣化し易い電池セル4のハイレート劣化評価値Nを基準として複数の電池セル4の電流制御を行うことにより、
図12に示されるように、複数の電池セル4の実効電流が線Ie1のように時間によって変動した場合に、それに伴ってハイレート劣化評価値Nが線HE1のように変動する。しかし、線HE1は、ハイレート劣化(ハイレートサイクル偏り劣化)が発生する閾値S(例えば、評価値N=0)を下回らないので、ハイレート劣化を抑制できていることが分かる。
【0081】
(本実施形態の特徴)
(1)
本発明の第1実施形態の電池セル4の制御装置70は、充放電可能な二次電池である複数の電池セルであって向きが異なる複数の電池セル4の電流制御を行う。制御装置70は、
図1に示されるように、個々の電池セル4の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル4を特定する特定部71と、特定された電池セル4のハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定部72と、複数の電池セル4全体の実効電流値を上
限電流値以下に制限する電流制御部73とを備えている。
【0082】
かかる構成によれば、特定部71は、複数の電池セル4の中から、個々の電池セル4の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きいセルを特定する。そして電流設定部72は、特定された電池セル4のハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する。電流制御部73は、複数の電池セル4全体の実効電流値を上限電流値以下に制限する。これにより、複数の電池セル4の電流制御を行う構成において、複数の電池セル4すべての電流および抵抗を得ることなく、容易かつ確実に電池セル4のハイレート劣化への移行を抑制することが可能になる。
【0083】
(2)
第1実施形態の電池セル4の制御装置70では、電池セル4は、
図3に示されるように、正極シート6aと、負極シート6bと、正極シート6aと負極シート6bとの間に介在し、電解液が含侵されたセパレータ6cとを有する構成であり、セパレータ6cの面内における電池セル4の充放電時において電解液の最も流れやすい方向を第1流動方向A1としたときに、特定部71は、2つの電池セル4(例えば、
図4(a)の電池セル4Aと
図4(c)の電池セル4C)のうち、第1流動方向A1と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4をハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セル4(具体的には、
図4(c)の電池セル4C)であると特定する。
【0084】
2つの電池セル4のうち、充放電時にセパレータ6cの面内で電解液が最も流れやすい第1流動方向A1と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4は、電池セル4内部において電解液が重力の影響により第1流動方向A1において偏りやすくなり、極間のイオン濃度分布(具体的には、リチウムイオン濃度分布)が偏ることにより、ハイレート劣化し易い(すなわち、ハイレート劣化への移行の度合いが大きい)傾向がある。そこで、上記の構成によれば、特定部71が、2つの電池セル4のうち、第1流動方向A1と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4をハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セル4であると特定することにより、ハイレート劣化し易い電池セル4に基づく電流制御を確実に行うことが可能になる。
【0085】
(3)
第1実施形態の電池セル4の制御装置70では、電池セル4は、正極シート6aと、負極シート6bと、正極シート6aと負極シート6bとの間に介在し、電解液が含侵されたセパレータ6cとを有する構成であり、セパレータ6cの面内における電池セル4の充放電時において電解液の最も流れやすい方向を第1流動方向A1と定義し、かつ、セパレータ6cの面内における第1流動方向A1に直交する方向を第2流動方向A2と定義したときに、特定部71は、2つの電池セル4(例えば、
図4(a)の電池セル4Aと
図4(b)の電池セル4B)のうち、第2流動方向A2と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4をハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セル4(具体的には、
図4(a)の電池セル4A)であると特定する。
【0086】
2つの電池セル4のうち、電解液が最も流れやすい第1流動方向A1に直交する第2流動方向A2と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4は、セパレータ6cの面内のうち第2流動方向A2において下方向に近い側に電解液が溜まりやすくなり、極間のイオン濃度分布(具体的には、リチウムイオン濃度分布)が偏ることにより、ハイレート劣化し易い(すなわち、ハイレート劣化への移行の度合いが大きい)傾向がある。そこで、上記の構成によれば、特定部71が、2つの電池セル4のうち、第2流動方向A2と上下方向Zとのなす角度が小さい電池セル4をハイレート劣化への移行の度合いが大きい電池セル4であると特定することにより、ハイレート劣化し易い電池セル4に基づく電流制御を確実に行うことが可能になる。
【0087】
(4)
第1実施形態の電池セル4の制御方法は、充放電可能な二次電池である複数の電池セル4であって向きが異なる複数の電池セル4の電流制御を行う電池セル4の制御方法であって、個々の電池セル4の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル4を特定する特定工程と、特定された電池セル4のハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する電流設定工程と、複数の電池セル4全体の実効電流値を上限電流値以下に制限する電流制御工程とを含む。
【0088】
かかる特徴によれば、特定工程では、複数の電池セル4の中から、個々の電池セル4の向きからハイレート劣化への移行の度合いが最も大きいセルを特定する。そして電流設定工程では、特定された電池セル4のハイレート劣化への移行状態に基づき上限電流値を設定する。ついで、電流制御工程では、複数の電池セル4全体の実効電流値を上限電流値以下に制限する。これにより、複数の電池セル4の電流制御を行うときに、複数の電池セル4すべての電流および抵抗を得ることなく、容易かつ確実に電池セル4のハイレート劣化への移行を抑制することが可能になる。
【0089】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る電池セル4の制御装置は、充放電の休止している間において電池セル4の拘束力を弱めることによって、ハイレート劣化からの復帰を早めることを可能にする。
【0090】
大電流(ハイレート)で電池セル4を充放電した後、休止時間が十分ではない場合、電池セル4がハイレート劣化の状態から完全に復帰していないので、上記の第1実施形態の電流制御だけでは実効電流が制限されやすく、ハイブリッド車の燃費やドライブフィールが良好になりにくい。
【0091】
例えば、
図13に示されるグラフには、ハイレート劣化評価値N(線HE2)、実効電流(線Ie2)、電池温度(線T2)の時間的変化が示されている。ハイレート劣化評価値Nは、線HE2に示されるように、3時間の休止時間が経過した後にさらに3時間経過した場合でもN=0.8までしか復帰しておらず、N=1を下回っているため、電池セル4の実効電流が制限される。
【0092】
このような休止時間が十分でない場合のハイレート劣化からの早期復帰のために、電池セルの休止中において、電池セル4の拘束力(すなわち、充放電時に極板間の距離を縮めて内部抵抗を抑えるための極板間の押圧力)を一時的に弱めることが有効であることが実験から発見された。
【0093】
具体的には、
図14に示される電池セル4がハイレート充放電と休止とを交互に繰り返したときに、休止中の電池セルの拘束力が小さい場合(P1)の方が、大きい場合(P2)よりも抵抗上昇率Rθ(%)が小さくなることが実験により分かった。
【0094】
そこで、第2実施形態の電池セル4の制御装置は、ハイレート劣化からの早期復帰のために、上記の第1実施形態の制御装置70(
図1参照)の構成に加えて、
図15(a)、(b)に示される拘束機構22、具体的には、拘束力付与部23および拘束力制御部24を備えた拘束機構22が追加されている。
【0095】
拘束力付与部23は、複数の電池セル4に対して圧縮する方向に拘束力を与える構成を有する。
図15(a)、(b)では、複数の電池セル4が所定の配列方向Dに沿って直線的に配列された構成において、拘束力付与部23は、所定の配列方向Dから各々の電池セル4へ同時に拘束力を付与するように構成されている。
【0096】
具体的には、複数の電池セル4は当該電池セル4の厚さ方向において水平方向に並べられ、かつ電池セル4間にばね13が介在した状態でケーシング2に収容されている。電池セル4の積層体はその両端から一対の端板14によって挟まれている。拘束力付与部23は、一方の端板14を押圧する押圧ギア15と、当該押圧ギア15に噛み合って押圧ギア15をケーシング2内部に押し出すように回転する駆動ギア17と、駆動ギア17を回転駆動するモータ16とを備えている。拘束力付与部23は、
図15(a)、(b)に示されるように、モータ16の駆動力を受けた駆動ギア17が押圧ギア15をケーシング2内部に押し出すことにより、端板14を介してケーシング2内部の水平方向に並べられた複数の電池セル4を水平方向に拘束力を与えるとともに電池セル4間のばね13を縮める。
【0097】
また、
図15(a)、(b)に示される構成は、電池セル4間を連結するバスバー21をさらに備えている。バスバー21は、各電池セル4の電極端子19に電気的に接続される一対の接続部21aと、一対の接続部21a間を接続し、かつ、複数の電池セル4が所定の配列方向Dから拘束力を受けたときに当該所定の配列方向Dの長さが変わる方向に変形する易変形部21bとを有している。バスバー21が易変形部21bを有していることにより電池セル4への拘束力が変化してもバスバー21による電池セル4間の電気的な接続を維持することが可能である。
【0098】
拘束力制御部24は、拘束力付与部23のモータ16に対して拘束力を弱めるように制御する。拘束力制御部24は、ハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル4の劣化評価値が所定値よりも小さい場合(例えば、N<1)には、複数の電池セル4が充放電を休止している間では電池セル4に対しての拘束力を弱めるように(すなわち、
図15(b)の状態から
図15(a)の状態に戻るように)拘束力付与部23を制御する。
【0099】
電池セル4の制御装置70(
図1参照)が上記のような
図15(a)、(b)に示される拘束力付与部23および拘束力制御部24をさらに備えた構成では、電池セル4の電流制御方法は、
図16に示されるフローチャートに沿って実行される。
【0100】
図16に示されるフローチャートでは、ハイブリッド車のイグニッションをオフ(IG―OFF)にすることによってスタートする。
【0101】
ステップS31では、制御装置70(
図1参照)は、IG-OFFの直前においてもっとも悪いハイレート劣化評価値Nが1より小さいか否か(N<1)を判別する。ここで、もっとも悪いハイレート劣化評価値Nとは、制御装置70の特定部71によって事前に特定されたハイレート劣化が最もしやすい電池セル4(例えば、
図4(c)の横に立てた状態の電池セル4C)についてのIG-OFFの直前の走行時におけるハイレート劣化評価値Nのことである。
【0102】
上記のハイレート劣化評価値Nが1より小さい場合にはステップS32に進み、拘束力制御部24は、拘束力付与部23に対して、電池セル4の拘束力を小さくするように制御する。なお、評価値Nが1以上の場合には、後述するステップS39に進んだ後に終了する。
【0103】
ステップS32の電池セル4の拘束力を小さくする工程の後ステップS34に進み、制御装置は、ハイレート劣化評価値と休止時間のマップを読み出す。具体的には、
図17に示されるように、ハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nと休止時間tr(h)のグラフであって、休止中の拘束力が小さい曲線L1、および休止中の拘束力が大きい曲線L2を示すグラフを読み出す。
【0104】
ついで、ステップS35では、休止時間からハイレート劣化評価値を算出する。具体的には、
図17のグラフの休止中の拘束力が小さい曲線L1上から休止時間に対応するハイレート劣化評価値としてのイオン偏り評価値Nを算出する。ここで、
図17のグラフを見れば、休止中の拘束力が小さい曲線L1では、休止時間t1が7時間の場合にイオン偏り評価値Nが1に復帰するのに対し、休止中の拘束力が大きい曲線L2では、休止時間t2が11時間になるまでイオン偏り評価値Nが1に復帰しないことが分かる。
【0105】
ついで、ステップS36において、制御装置は、イグニッションオン(IG-ON)しないか否か判別する。IG-ONしない場合にはステップS37に進み、IG-ONする場合にはステップS38に進む。
【0106】
ステップS37では、ハイレート劣化評価値Nが1に達している(N≧1)か否か判別する。評価値Nが1に達している場合にはステップS38に進み、達していない場合にはステップS35に戻って評価値Nを再度算出する。
【0107】
ステップS38では、拘束力制御部24は、拘束力付与部23に対して、電池セル4の拘束力をステップS32の拘束力を小さくする工程の前の状態に戻すように制御する。
【0108】
ついで、ステップS39では、評価値Nを制御装置70に記録して一連の制御を終了する。
【0109】
これにより、休止時間において、電池セル4の拘束力を小さくすることにより、ハイレート劣化から早期に復帰することが可能になる。
【0110】
上記のような電池セル4の拘束力の制御を行うことにより、
図18(b)のグラフに示されるように、第2実施形態のように休止時において拘束力低下有りの場合(ハイレート劣化評価値N(線HE4)、実効電流(線Ie4)、電池温度(線T4))では、ハイレート劣化評価値N(線HE4)が3時間の休止時間が経過した後にさらに3時間経過した場合にはN=1に復帰して、ハイレート劣化から早期に復帰していることが分かる。一方、比較例として
図18(a)に示される休止時において拘束力低下無しの場合(ハイレート劣化評価値N(線HE3)、実効電流(線Ie3)、電池温度(線T3)では、ハイレート劣化評価値N(線HE3)が3時間の休止時間が経過した後にさらに3時間経過した場合でもN=0.8までしか復帰していなかったので、上記の
図18(b)のように休止時の拘束力低下がハイレート劣化からの早期の復帰に効果があることが明らかである。
【0111】
(第2実施形態の特徴)
(1)
本発明の第2実施形態の電池セル4の制御装置では、複数の電池セル4に対して圧縮する方向に拘束力を与える拘束力付与部23と、拘束力付与部23に対して拘束力を弱めるように制御する拘束力制御部24とをさらに備える。
【0112】
拘束力制御部24は、ハイレート劣化への移行の度合いが最も大きい電池セル4におけるハイレート劣化への移行状態を示す劣化評価値が所定値よりも小さい場合には、複数の電池セル4が充放電を休止している間では電池セル4に対しての拘束力を弱めるように拘束力付与部23を制御する。
【0113】
本発明者らは複数の電池セル4が充放電を休止している間に電池セル4の拘束力を弱めれば、電池セル4のハイレート劣化からの復帰が早まることを実験により発見した。そこで、上記の構成によれば、複数の電池セル4が充放電を休止している間では、拘束力付与部23が電池セル4の拘束力を弱めことにより、電池セル4のハイレート劣化からの復帰を早めることが可能になる。
【0114】
(2)
第2実施形態の電池セル4の制御装置は、複数の電池セル4が所定の配列方向Dに沿って直線的に配列された構成において、拘束力付与部23は、所定の配列方向Dから各々の電池セル4へ同時に拘束力を付与し、電池セル4間を連結するバスバー21をさらに備える。バスバー21は、複数の電池セル4が所定の配列方向Dから拘束力を受けたときに当該所定の配列方向Dの長さが変わる方向に変形する易変形部21bを有する。
【0115】
かかる構成によれば、電池セル4間を連結するバスバー21が易変形部21bを有し、易変形部21bが複数の電池セル4が所定の配列方向Dから拘束力を受けたときに当該所定の配列方向Dの長さが変わる方向に変形する。これにより、電池セル4に付与される拘束力の変化に伴って電池セル4間の距離が変形しても電池セル4間の電気的な連結を容易に負荷なく維持することが可能である。
【符号の説明】
【0116】
4 電池セル
6 電極捲回体
6a 正極シート
6b 負極シート
6c セパレータ
21 バスバー
21a 端子接続部
21b 易変形部
23 拘束力付与部
24 拘束力制御部
60 バッテリ
70 制御装置
71 特定部
72 電流設定部
73 電流制御部
A1 第1流動方向
A2 第2流動方向
D 配列方向