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特許7512837現像装置およびこれを備えた画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】現像装置およびこれを備えた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/08 20060101AFI20240702BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20240702BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20240702BHJP
   G03G 5/047 20060101ALI20240702BHJP
   G03G 5/10 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G03G15/08 235
F16C13/00 B
G03G9/08 381
G03G5/047
G03G5/10 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020176629
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022019498
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020123082
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100178582
【弁理士】
【氏名又は名称】行武 孝
(72)【発明者】
【氏名】石野 正人
(72)【発明者】
【氏名】川口 弘達
(72)【発明者】
【氏名】中植 隆久
(72)【発明者】
【氏名】太田 有香里
(72)【発明者】
【氏名】玉木 友浩
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-204666(JP,A)
【文献】特開2020-60750(JP,A)
【文献】特開2008-292940(JP,A)
【文献】特開2006-48018(JP,A)
【文献】特開平8-160677(JP,A)
【文献】特開2001-34003(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230100(WO,A1)
【文献】特開2001-34058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0187808(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108129939(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/00 -5/16
G03G 13/08
G03G 13/095
G03G 13/34
G03G 15/00
G03G 15/08
G03G 15/095
G03G 15/36
G03G 21/00
G03G 21/02
G03G 21/14
G03G 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性一成分のトナーを収容する現像ハウジングと、
円筒形状を有する弾性体からなり、画像情報に応じて1.2μJ/cm以上1.6μJ/cm以下の露光量で露光光を受けることでその表面に静電潜像を担持し回転する感光体ドラムに現像ニップ部において接触しながら前記感光体ドラムと同じ方向に回転するように前記現像ハウジングに回転可能に支持され、周面に前記トナーを担持する現像ローラーと、
円筒形状を有する弾性体からなり、前記現像ハウジングに回転可能に支持され、前記現像ローラーの周面に当接することで前記現像ローラーとの間で供給ニップ部を形成し、前記現像ローラーに前記トナーを供給する一方、前記現像ローラーから前記トナーを回収する、供給ローラーと、
前記供給ニップ部よりも前記現像ローラーの回転方向下流側であって前記現像ニップ部よりも前記回転方向上流側で前記現像ローラーの周面に当接し、前記現像ローラー上の前記トナーの厚さを規制する層厚規制部材と、
を備え、
前記現像ローラーの表面自由エネルギーEが5mJ/m以上27mJ/m以下の範囲に含まれており、
前記現像ニップ部に挟持された厚さ50μmのPETフィルムが前記現像ローラーおよび前記感光体ドラムの回転に伴って前記現像ローラーの回転方向下流側に引っ張られる力である引っ張り力を前記現像ニップ部から見て前記回転方向上流側で測定した値をF(N)、前記露光量をG(μJ/cm)とすると、
0.8≦F≦-0.0389×E+(0.75×G+1.3833)
の関係式が満たされる、現像装置。
【請求項2】
前記現像ローラーは、前記弾性体としてのゴム層と、前記ゴム層の表面に形成されたコーティング層とを有する、請求項1に記載の現像装置。
【請求項3】
前記現像ハウジングは、粉砕法によって製造された前記トナーを収容している、請求項1または2に記載の現像装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の現像装置と、
前記現像ローラーから前記トナーを受け取り、前記静電潜像に応じたトナー像を担持する感光体ドラムと、
前記感光体ドラムからシートに前記トナー像を転写する転写部材と、
を備える画像形成装置。
【請求項5】
前記転写部材よりも前記感光体ドラムの回転方向下流側かつ前記現像ニップ部よりも前記感光体ドラムの回転方向上流側の範囲に、前記感光体ドラム上に残留した未転写トナーをクリーニングするためのクリーニング部材が配置されていない、クリーナーレス構造を有している、請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記感光体ドラムの表面電位が半減する露光量である半減露光量が、0.3μJ/cm以上である、請求項4または5に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非磁性一成分現像剤を用いて、感光体ドラム上に形成された静電潜像を現像する為の現像装置およびこの現像装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリンター等の画像形成装置に用いられ、非磁性一成分現像剤を用いて、感光体ドラム上に形成された静電潜像を現像する現像装置として、特許文献1に記載されているような接触型非磁性一成分現像方式の現像装置が知られている。現像装置は、感光体ドラムにトナーを現像する現像ローラーと、当該現像ローラーにトナーを供給する供給ローラーとを有している。
【0003】
このような接触型非磁性一成分現像方式の現像装置では、供給ローラーから現像ローラーにトナーを直接擦り付けて摩擦帯電させると同時にトナーを現像ローラー上に付着させて、現像ローラーによって感光体ドラムまでトナーを搬送する。その上で、感光体ドラムと現像ローラーとを接触回転させ、トナーを感光体ドラムに現像する。この結果、従来の二成分現像方式や非接触ジャンピング一成分方式の現像装置ように、マグネットや金属スリーブ、キャリアなどの部材が不要になるとともに、現像ローラーにACバイアスを印加することも不要になる。このためシンプルかつ低コストな構成でありながら、安定した現像性能を得ることができる。また、現像ローラーが感光体ドラムに接触しているため、感光体ドラム上のトナーを現像装置に回収することも可能であり、クリーニングブレードが不要となり(クリーニングブレードレス)、現像装置だけでなく感光体ドラム周りの全体の構成をシンプル化することができる。以上の理由により、接触型非磁性一成分現像方式の現像装置は、主に低速コンパクトタイプの画像形成装置、プリンターを中心に広く採用されている。
【0004】
特許文献1に記載された現像装置では、現像ローラーの表面の算術平均表面粗度、表面自由エネルギーおよび供給ローラーのアスカーF硬度をそれぞれ所定の範囲に設定することで、現像ローラーの表面の凹凸に残留した未現像トナーに起因する残像の発生を防止することができるとともに、現像剤の搬送力を大きくすることで画像の濃度を高くすることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4612697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された技術では、目標画像濃度および未現像トナーのクリーニング性を両立することが可能な現像バイアスの設定範囲を長期にわたって確保することが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、目標画像濃度および未現像トナーのクリーニング性を両立することが可能な現像バイアスの設定範囲を長期にわたって確保することが可能な現像装置およびこれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に係る現像装置は、非磁性一成分のトナーを収容する現像ハウジングと、円筒形状を有する弾性体からなり、画像情報に応じて1.2μJ/cm以上1.6μJ/cm以下の露光量で露光光を受けることでその表面に静電潜像を担持し回転する感光体ドラムに現像ニップ部において接触しながら前記感光体ドラムと同じ方向に回転するように前記現像ハウジングに回転可能に支持され、周面に前記トナーを担持する現像ローラーと、円筒形状を有する弾性体からなり、前記現像ハウジングに回転可能に支持され、前記現像ローラーの周面に当接することで前記現像ローラーとの間で供給ニップ部を形成し、前記現像ローラーに前記トナーを供給する一方、前記現像ローラーから前記トナーを回収する、供給ローラーと、前記供給ニップ部よりも前記現像ローラーの回転方向下流側であって前記現像ニップ部よりも前記回転方向上流側で前記現像ローラーの周面に当接し、前記現像ローラー上の前記トナーの厚さを規制する層厚規制部材と、を備え、前記現像ローラーの表面自由エネルギーEが5mJ/m以上27mJ/m以下の範囲に含まれており、前記現像ニップ部に挟持された厚さ50μmのPETフィルムが前記現像ローラーおよび前記感光体ドラムの回転に伴って前記現像ローラーの回転方向下流側に引っ張られる力である引っ張り力を前記現像ニップ部から見て前記回転方向上流側で測定した値をF(N)、前記露光量をG(μJ/cm)とすると、0.8≦F≦-0.0389×E+(0.75×G+1.3833)の関係式が満たされる。
【0009】
本構成によれば、現像ローラーの表面自由エネルギー、現像ニップ部における引っ張り力および露光量を所定の範囲に設定することで現像性の向上が実現し、現像バイアスの使用可能領域および現像ローラーの押圧設定範囲がより広く得られ、シンプルかつ低コストの構成でありながらも安定した画像形成が可能となる。この結果、目標画像濃度および未現像トナーのクリーニング性を両立することが可能な現像バイアスの設定範囲を長期にわたって確保することが可能な現像装置が提供される。
【0010】
上記の構成において、前記現像ローラーは、前記弾性体としてのゴム層と、前記ゴム層の表面に形成されたコーティング層とを有するものでもよい。
【0011】
上記の構成において、前記現像ハウジングは、粉砕法によって製造された前記トナーを収容しているものでもよい。
【0012】
本発明の他の局面に係る画像形成装置は、上記に記載の現像装置と、前記現像ローラーから前記トナーを受け取り、前記静電潜像に応じたトナー像を担持する感光体ドラムと、前記感光体ドラムからシートに前記トナー像を転写する転写部材と、を備える。
【0013】
本構成によれば、非磁性トナーを用いて、目標画像濃度および未現像トナーのクリーニング性を両立することが可能な現像バイアスの設定範囲を長期にわたって確保することが可能な画像形成装置を提供することができる。
【0014】
上記の構成において、前記転写部材よりも前記感光体ドラムの回転方向下流側かつ前記現像ニップ部よりも前記感光体ドラムの回転方向上流側の範囲に、前記感光体ドラム上に残留した未転写トナーをクリーニングするためのクリーニング部材が配置されていない、クリーナーレス構造を有しているものでもよい。
【0015】
上記の構成において、前記感光体ドラムの表面電位が半減する露光量である半減露光量が、0.3μJ/cm以上であることが望ましい。
【0016】
本構成によれば、感光体ドラムの感度が比較的低くなるため、通常の画像形成時における露光量を大きくすることが可能となり、ハーフトーン白抜けが発生しない領域を安定して広げることが可能になる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、目標画像濃度および未現像トナーのクリーニング性を両立することが可能な現像バイアスの設定範囲を長期にわたって確保することが可能な現像装置およびこれを備えた画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の内部構造を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の感光体ドラムの周辺の断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る現像装置の現像ローラーと供給ローラーとの間の供給ニップ部を拡大した断面図である。
図4】非磁性一成分現像装置における現像バイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。
図5】非磁性一成分現像装置における現像バイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。
図6】非磁性一成分現像装置における現像ニップ部の引っ張り力を測定する様子を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る現像装置の現像ニップ部の引っ張り力の分布を示すグラフである。
図8】本発明の一実施形態に係る現像装置の現像バイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。
図9】本発明の一実施形態に係る現像装置の現像ローラーの表面自由エネルギーと現像バイアス使用可能領域との関係を示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態に係る現像装置の現像ローラーの表面自由エネルギーと現像ニップ部の引っ張り力との関係を示すグラフである。
図11】本発明の一実施形態に係る感光体ドラムにおける露光量と表面電位との関係を示すグラフである。
図12】感光体ドラムに対する露光量と画像品質との関係を示すグラフである。
図13】感光体ドラムに対する露光量と図10のグラフのy切片との関係を示すグラフである。
図14】現像ローラーの接触面積率を測定する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置1の内部構造を示す側断面図である。ここでは、画像形成装置1としてモノクロプリンターを例示するが、画像形成装置は、複写機、ファクシミリ装置、或いは、これらの機能を備える複合機であってもよく、またカラー画像を形成する画像形成装置であっても良い。
【0020】
画像形成装置1は、略直方体形状の筐体構造を有する本体ハウジング10と、この本体ハウジング10内に収容される給紙部20、画像形成部30、定着部40と、を含む。
【0021】
本体ハウジング10の前面側には前カバー11が、後面側には後カバー12が各々備えられている。後カバー12は、シートジャムやメンテナンスの際に開放されるカバーである。また、本体ハウジング10の上面には、画像形成後のシートが排出される排紙部13が備えられている。前カバー11と、後カバー12と、排紙部13とによって画定される内部空間Sに、画像形成を実行するための各種装置が内装される。
【0022】
給紙部20は、画像形成処理が施されるシートを収容する給紙カセット21を含む。この給紙カセット21は、その一部が本体ハウジング10の前面からさらに前方に突出している。給紙カセット21のうち、本体ハウジング10内に収容されている部分の上面は、給紙カセット天板21Uによって覆われている。給紙カセット21には、前記シートの束が収容されるシート収容空間、前記シートの束を給紙のためにリフトアップするリフト板等が備えられている。給紙カセット21の後端側の上部にはシート繰出部21Aが設けられている。このシート繰出部21Aには、給紙カセット21内のシート束の最上層のシートを1枚ずつ繰り出すための給紙ローラー21Bが配置されている。
【0023】
画像形成部30は、給紙部20から送り出されるシートにトナー画像を形成する画像形成処理を行う。画像形成部30は、感光体ドラム31と、この感光体ドラム31の周囲に配置された、帯電装置32、露光装置35、現像装置33、転写ローラー34と、を含む。
【0024】
感光体ドラム31は、回転軸と、回転軸回りに回転する円筒面と、を備える。円筒面には、静電潜像が形成されるとともに、該静電潜像に応じたトナー像が円筒面に担持される。感光体ドラム31としては、OPC感光体ドラムを用いることができる。
【0025】
帯電装置32は、感光体ドラム31の表面を均一に帯電するものであって、感光体ドラム31に対して所定の間隔をおいて配置され、かつ、所定の電圧が印加されることで放電するスコロトロンを含む。
【0026】
露光装置35は、レーザー光源とミラーやレンズ等の光学系機器とを有し、感光体ドラム31の周面に、パーソナルコンピューター等の外部装置から与えられる画像データ(画像情報)に基づいて変調された光(露光光)を照射して、静電潜像を形成する。
【0027】
現像装置33は、感光体ドラム31上の前記静電潜像を現像してトナー像を形成するために、感光体ドラム31の周面にトナーを供給する。
【0028】
転写ローラー34(転写部材)は、感光体ドラム31の周面に形成されたトナー像をシート上に転写させるためのローラーである。転写ローラー34は、感光体ドラム31の円筒面に当接し、転写ニップ部を形成している。この転写ローラー34には、トナーと逆極性の転写バイアスが与えられる。
【0029】
定着部40は、転写されたトナー像をシート上に定着する定着処理を行う。定着部40は、加熱源を内部に備えた定着ローラー41と、この定着ローラー41に対して圧接され、定着ローラー41との間に定着ニップ部を形成する加圧ローラー42とを含む。トナー像が転写されたシートが前記定着ニップ部に通紙されると、トナー像は、定着ローラー41による加熱および加圧ローラー42による押圧により、シート上に定着される。なお、本実施形態では、現像装置33において使用される非磁性一成分トナーの95℃における溶融粘度(Pa・s)が100000以上200000以下の範囲に設定されている。
【0030】
本体ハウジング10内には、シートを搬送するために、主搬送路22F及び反転搬送路22Bが備えられている。主搬送路22Fは、給紙部20のシート繰出部21Aから画像形成部30及び定着部40を経由して、本体ハウジング10上面の排紙部13に対向して設けられている排紙口14まで延びている。反転搬送路22Bは、シートに対して両面印刷を行う場合に、片面印刷されたシートを主搬送路22Fにおける画像形成部30の上流側に戻すための搬送路である。
【0031】
主搬送路22Fは、感光体ドラム31および転写ローラー34によって形成される転写ニップ部を、下方から上方に向かって、通過するように延設される。また、主搬送路22Fの、転写ニップ部よりも上流側には、レジストローラー対23が配置されている。シートは、レジストローラー対23にて一旦停止され、スキュー矯正が行われた後、画像転写のための所定のタイミングで、前記転写ニップ部に送り出される。主搬送路22F及び反転搬送路22Bの適所には、シートを搬送するための搬送ローラーが複数配置されており、例えば排紙口14の近傍には排紙ローラー対24が配置されている。
【0032】
反転搬送路22Bは、反転ユニット25の外側面と、本体ハウジング10の後カバー12の内面との間に形成されている。なお、反転ユニット25の内側面には転写ローラー34及びレジストローラー対23の一方のローラーが搭載されている。後カバー12及び反転ユニット25は、それらの下端に設けられた支点部121の軸回りに各々回動可能である。反転搬送路22Bにおいてシートジャムが発生した場合、後カバー12が開放される。主搬送路22Fでシートジャムが発生した場合、或いは感光体ドラム31のユニットや現像装置33が外部に取り出される場合には、後カバー12に加えて反転ユニット25も開放される。
【0033】
図2は、感光体ドラム31の周辺の構造を示す断面図である。本実施形態では、感光体ドラム31の後方において転写ローラー34が感光体ドラム31に当接するように配置され、感光体ドラム31の前方かつ上方において帯電装置32が所定の間隔をおいて感光体ドラム31に対向するように配置されている。感光体ドラム31と転写ローラー34との間には、転写ニップ部が形成され、当該転写ニップ部を図2の矢印のようにシートが通過する。この際、感光体ドラム31からシートにトナー像が転写される。
【0034】
現像装置33は、感光体ドラム31の前方かつ下方において、感光体ドラム31に対向するように配置されている。現像装置33は、現像ハウジング330と、現像ローラー331と、供給ローラー332と、攪拌パドル333と、規制ブレード334(層厚規制部材)と、ロワーシール335(シール部材)と、を有する。
【0035】
現像ハウジング330は、内部に非磁性一成分トナーを収容する。現像ハウジング330は、ハウジング本体330Aと、ハウジング蓋部330Bとを有する。図2に示すように、現像ハウジング330の後端部には現像ローラー331の一部を感光体ドラム31側に露出させるための開口部が形成されている。
【0036】
現像ローラー331は、現像ハウジング330に回転可能に支持され、トナーを担持する周面を有している。現像ローラー331は、感光体ドラム31に当接し、トナーを感光体ドラム31に供給するための現像ニップ部を感光体ドラム31とともに形成している。現像ローラー331では、SUS材またはSUM材のシャフトの周囲に、円筒状のゴム層(弾性体)が形成されている。当該ゴム層は一例としてNBR(Nitril-Butadiene Rubber)ゴムからなる。また、前記ゴム層の表面に所定のコート層が形成されてもよい。本実施形態では、現像ローラー331の表面の硬度が、Asker-C硬度で50以上80以下の範囲に設定されている。また、現像ローラー331には、直流電圧からなる現像バイアスが印加される。感光体ドラム31上の静電潜像の電位と現像バイアスが印加された現像ローラー331の電位との電位差によって、現像ローラー331から感光体ドラム31にトナーが移動する。
【0037】
供給ローラー332は、現像ローラー331の前方かつ下方において現像ローラー331に対向するように配置され、現像ハウジング330に回転可能に支持されている。供給ローラー332は、現像ローラー331に当接し、トナーを現像ローラー331に供給するための供給ニップ部を形成している。供給ローラー332は、金属製の所定のシャフト(軸部材)の周囲に円筒状のウレタンスポンジまたは発砲スポンジ(いずれも弾性発泡体)が固定されることで形成される。本実施形態では、供給ローラー332の表面の硬度が、Asker-FP硬度で40以上60以下の範囲に設定されている。また、前記供給ニップ幅は、径方向に沿って見た場合、回転方向において0.2mm以上1.5mm以下の範囲に設定されている。
【0038】
攪拌パドル333は、供給ローラー332の前方において現像ハウジング330に回転可能に支持されている。攪拌パドル333は、図2に示すように断面視でL字状のシャフトと、当該シャフトから径方向に延びるように配置されたPETフィルムとを含む。
【0039】
なお、図2には、画像形成装置1においてシートに対する画像形成動作が行われる際の現像ローラー331、供給ローラー332および攪拌パドル333の回転方向が図示されている。現像ローラー331は、その表面が現像ニップ部において感光体ドラム31の表面と同じ方向に移動するように回転する。一例として、現像ローラー331の感光体ドラム31に対する周速比は、1.55倍に設定されている。供給ローラー332は、その表面が現像ローラー331の表面とは逆方向に移動するように回転する。現像ローラー331の供給ローラー332に対する周速比は1.55倍に設定されている。攪拌パドル333は、現像ハウジング330内のトナーを掬い上げながら供給ローラー332に供給するように回転する。
【0040】
規制ブレード334は、前記供給ニップ部よりも現像ローラー331の回転方向下流側かつ前記現像ニップ部よりも現像ローラー331の回転方向上流側において、現像ローラー331の表面(周面)に当接している。規制ブレード334は、現像ローラー331の回転方向上流側に向かって傾斜するように現像ハウジング330に固定されている。規制ブレード334は、現像ローラー331上のトナーの厚さ(層厚)を規制する。
【0041】
ロワーシール335は、規制ブレード334とは反対側で現像ローラー331とハウジング本体330Aとの間の隙間を塞ぐようにハウジング本体330Aに支持されている。ロワーシール335の先端部は現像ローラー331の表面に当接している。
【0042】
本実施形態では、図2に示すように、感光体ドラム31と転写ローラー34とによって形成される転写ニップ部から見て、感光体ドラム31の回転方向下流側には帯電装置32が配置されており、公知のクリーニング装置が備えられていない、いわゆるクリーナーレス構造が採用されている。すなわち、転写ニップ部において感光体ドラム31からシートにトナー像が転写されると、未転写トナーが感光体ドラム31上に残存する。当該未転写トナーは、帯電装置32を通過して、現像装置33の現像ローラー331によって感光体ドラム31から回収される。この際、シートに対して連続的に画像(トナー像)が形成される場合には、現像ローラー331は感光体ドラム31から未転写トナーを回収する一方、感光体ドラム31上の静電潜像にトナーを供給する。
【0043】
一方、供給ローラー332は、前記供給ニップ部において現像ローラー331に新しいトナーを供給する一方、現像ローラー331から感光体ドラム31に供給されなかったトナーを現像ローラー331から回収する。
【0044】
図3は、本発明の一実施形態に係る現像装置33の現像ローラー331および供給ローラー332の対向部を拡大した断面図である。本実施形態では、現像ローラー331の表面が供給ローラー332の表面に食い込み量Hだけ食い込むように現像ローラー331および供給ローラー332のシャフトがそれぞれ現像ハウジング330に支持されている。この結果、現像ローラー331と供給ローラー332との間には、互いの回転方向に沿って所定の幅を有する供給ニップ部SNが形成される。なお、現像ローラー331の硬度よりも供給ローラー332の硬度が低いため、図3に示すように、主に供給ローラー332の表面が変形することで、前記供給ニップ部SNが形成される。したがって、現像ローラー331および供給ローラー332がそれぞれ回転すると、供給ローラー332によって搬送されるトナーが供給ニップ部SNの上流側で滞留し、トナー溜まりTNが形成される。当該トナー溜まりTNによって、感光体ドラム31上に高濃度の画像が形成される場合でも、供給ローラー332から現像ローラー331に安定してトナーを供給することができる。
【0045】
一方、現像ローラー331と供給ローラー332とが、断面視において点接触で互いに接触する場合、図3に示すようなトナー溜まりTNが充分に形成されないため、トナーの供給性が著しく低下することがある。
【0046】
このため、適度な食い込み量Hになるように現像ローラー331と供給ローラー332の軸間距離(シャフト間距離)やそれぞれの直径が設定される必要がある。現像ローラー331の硬度は、感光体ドラム31という硬い部材と接触するために、Asker-C硬度で50以上80以下の範囲に設定される。したがって、図3のように現像ローラー331が供給ローラー332にめり込んだ構成とするためには、供給ローラー332の硬度が現像ローラー331の硬度よりも低く設定されることが望ましい。
【0047】
<現像バイアスの使用可能範囲について>
図4は、非磁性一成分現像装置における現像バイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。なお、画像濃度は、東京電色製のTC-6DXによって用紙上の反射濃度で測定した。以後のグラフでも同様である。
【0048】
現像ローラー331が感光体ドラム31の周面に接触している接触型非磁性一成分現像方式およびクリーナレスシステム(クリーニングブレードレスシステム)が採用された画像形成装置1の性能は、図4の現像感度特性によって現すことができる。現像ローラー331に印加される現像バイアスは、予め設定された目標の画像濃度が用紙上で得られ、かつ、感光体ドラム31上にクリーニング不良(回収不良)が発生しないように調整される。画像濃度は、現像ローラー331から感光体ドラム31へのトナーの移動量(現像量)に対応し、感光体ドラム31上の露光後の電位と現像バイアス(直流電圧)との電位差に応じて変化する。また、クリーニング不良の発生は、感光体ドラム31の表面電位(背景部電位)と現像バイアスとの電位差によって変化する。このため、目標の画像濃度を確保しつつクリーニング不良が発生しない現像バイアスの使用可能領域が存在する。図4では、画像形成装置1の使用初期の条件(黒丸データ)と、画像形成装置1が長期に亘って使用された場合(耐久)や画像形成装置1の周囲の環境が変動した場合を含む条件(白四角データ)との各条件における現像バイアスと画像濃度との関係が示されている。いずれの条件においても、目標の画像濃度(1.3以上)が満たされ、濃度不足が発生せず、クリーニング不良(回収不良)が発生しない範囲として、現像バイアスの使用可能領域が図示されている。そして、感光体ドラム31上の電位のバラつきやトナーの劣化、環境(温湿度)による現像感度の変動を考慮すると、上記の現像バイアスの使用可能領域として、少なくとも120Vの範囲が確保されることが望ましい。この使用可能領域を如何にして広く確保することができるかが、接触型非磁性一成分現像方式の現像装置では重要となる。
【0049】
<現像ローラーの押圧力と画像濃度について>
図5は、非磁性一成分現像装置における現像バイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。なお、図5では、感光体ドラム31に対する現像ローラー331の押圧力(接触圧力)を3つの水準(押圧力が弱、中、強)で変化させた場合のそれぞれのグラフが示されている。また、図6は、非磁性一成分現像装置における現像ニップ部の引っ張り力を測定する様子を示す図である。更に、図7は、本実施形態に係る現像装置33の現像ニップ部の引っ張り力の分布を示すグラフである。
【0050】
本実施形態に係る現像装置33では、現像ローラー331に感光体ドラム31が接触押圧されるが、このときの押圧力により前述の現像感度が変化する。図5に示すように、押圧力が強すぎると、現像バイアスが低い領域で画像濃度が不足し、ハーフトーン画像において白抜けが発生する。この現象のメカニズムは、以下のように推察される。現像ローラー331を感光体ドラム31に対して強く押さえつけるほど、「トナー」と「現像ローラーの表面」との間のミクロな接触面積が増大し、トナーの現像ローラー331への付着力が増大する。この結果、トナーは現像ローラー331から離れにくくなり、感光体ドラム31への現像量が減り、画像濃度が低下する。
【0051】
一方、押圧力が弱すぎると感光体ドラム31上の未転写トナー(残トナーとも言う)を現像ローラー331が回収できずに、クリーニング不良が発生する。したがって、現像ローラー331の押圧力にも適正な範囲があり、現像ローラー331の長手方向(軸方向)に沿ってできる限る均一な押圧力が確保される必要がある。本実施形態では、感光体ドラム31および現像ローラー331が回転駆動中の現像ニップ部における押圧力の代用特性として、PETフィルムを用いた引っ張り力にて現像ローラー331の押圧力を間接的に評価している。図6に示すように、感光体ドラム31と現像ローラー331との間に軸方向の幅が20mm、厚さ50μmのPETフィルムを挟持させ、感光体ドラム31および現像ローラー331が回転駆動した際にPETフィルム(図6のPF)にかかる引っ張り力を、現像ニップ部から見て現像ローラー331の回転方向上流側に配置されたプッシュプルゲージ50で測定した。
【0052】
図7に示すように、現像ニップ部における現像ローラー331の感光体ドラム31に対する押圧力を上記の引っ張り力で代用すると、引っ張り力が0.9(N)を下回ると回収不良(クリーニング不良)が発生し、1.4(N)を超えるとハーフトーン画像において白抜けが発生する。したがって、現像ローラー331の軸方向全体にわたって、引っ張り力が0.9(N)以上1.4(N)以下に示される適正範囲に設定されることが望ましい。すなわち、非磁性一成分方式の現像装置33において、「現像バイアスに対する使用可能領域」および「現像ローラーの押圧力に対する適正範囲」ができるだけ広く確保されると、シンプルかつ低コストの画像形成装置1が提供される。
【0053】
本発明の発明者は、上記のような現像装置33を備えた画像形成装置1を実現するために、鋭意実験を重ねた結果、現像ローラー331の表面自由エネルギーと現像性(現像感度)との間に密接な関係があることを新たに知見した。
【0054】
以下に上記の実験について詳述する。実験機には京セラドキュメントソリューションズ製プリンター「ECOSYS FS-1040」の改造機を用いた。表1は、更に詳細な実験条件である。
【0055】
【表1】
【0056】
なお、その他の実験条件は以下のとおりである。
・感光体ドラム31の周速度:118mm/sec
・現像ローラー331の周速度:182mm/sec
・感光体ドラム31に対する現像ローラー331の周速比:1.55
・現像バイアスDC成分:350V
・供給バイアスDC成分:450V
・感光体ドラム31の表面電位:640V
【0057】
図8は、上記の実験を通じて得られた、本実施形態に係る現像装置33の現像バイアスと画像濃度との関係を示すグラフである。本実験では、表層の表面自由エネルギーが互いに異なる3種類(12、21、30mJ/m)の現像ローラー331を作製した。なお、本実施形態では、現像ローラー331の表層コーティングとしてウレタン樹脂を採用しているが、表面自由エネルギーを低下させるために、分子構造にフッ素やシリコーンを持つ他の材料をウレタンに追加配合し、その配合量を増減することで表面自由エネルギーを調整した。なお、現像ローラー331の表面自由エネルギーは、英弘精機製のOCA20にて測定した。
【0058】
図8に示すように、現像ローラー331の表面自由エネルギーが小さいほど、低い現像バイアスでも画像濃度が上昇し、現像性が良くなる傾向が確認された。この現象は、表面自由エネルギーが低いほど、現像ローラー331とトナーとの間の非静電的な付着力が低減することに起因するものと推察される。このように、本実施形態では、現像ローラー331の表面自由エネルギーを調整することで、トナーと現像ローラー331の表面との付着力を調整し、その結果、トナーの現像性を調整することを達成した。
【0059】
なお、表面自由エネルギーの他の調整方法として、現像ローラー331の表面にステアリン酸亜鉛の粉末をあらかじめ塗布し、表面自由エネルギーを下げるために当該ステアリン酸亜鉛の塗布量を調整してもよい。ただし、この場合、現像ローラー331の回転にともなってステアリン酸亜鉛の粉末が順次脱落する可能性があるため、上記の分子構造の変化と比較して長期的な効果を確認することは難しい。ただし、現像性に対する表面自由エネルギーの寄与を検証する実験に限定すれば、図8と同様の結果を得られることが確認された。
【0060】
図9は、本実施形態に係る現像装置33の現像ローラー331の表面自由エネルギーと現像バイアス使用可能領域との関係を示すグラフである。図9は、前述のように表面自由エネルギーを変化させた各現像ローラー331において、図4と同様の評価を行うことで、各現像ローラー331における現像バイアスの使用可能領域の広さを評価したものである。図9に示すように、目標の画像濃度として反射濃度が1.3以上であり、クリーニング不良が発生しない現像バイアスの使用可能領域の広さが表面自由エネルギーに対してどのように変化するかが示されている。現像バイアスの使用可能範囲の目標値はΔ120V以上であるため、表面自由エネルギーが27mJ/m以下であれば目標を達成することができる。なお、表面自由エネルギーが小さいほど現像性は良くなるが、クリーニング不良が発生する現像バイアスの値は変化しない。
【0061】
更に、図10は、本実施形態に係る現像装置33の現像ローラー331の表面自由エネルギーと前述の現像ニップ部の引っ張り力との関係を示すグラフである。表面自由エネルギーが互いに異なる3つの現像ローラー331において、ハーフトーン白抜けに起因する限界値と、クリーニング不良の発生に基づく限界値とから、押圧力(PETフィルムの引っ張り力)の適正範囲が図10に示されるように得られた。図10に示すように、表面自由エネルギーの低い現像ローラー331ほど、現像ニップ部の押圧力が強いときに発生する濃度低下が起こりにくく、押圧力(引っ張り力)の適正範囲が広くなる。なお、図10に示されるハーフトーン白抜け限界の2つのグラフは、3つの表面自由エネルギーが異なる現像ローラー331におけるハーフトーン白抜け限界を直線回帰したものであって、それぞれ感光体ドラム31に対する露光量が異なる2つの条件におけるグラフである。
【0062】
上記のように、現像バイアスの使用可能領域(図9)の観点から、現像ローラー331の表面自由エネルギーEは27mJ/m以下に設定されることが好ましく、このとき、現像ニップ部における引っ張り力Fはクリーニング不良(図10)が発生しないために、0.8(N)≦Fが満たされることが望ましく、更に、ハーフトーン白抜け(図10)が発生しないために、感光体ドラム31に対する露光量が1.2μJ/cmの場合は、引っ張り力Fが、図10の黒丸データに基づくグラフ以下、すなわち、F≦-0.0389×E+2.2833が満たされることで、良好な画像品質を得ることができることが知見された。また、ハーフトーン白抜け(図10)が発生しないために、感光体ドラム31に対する露光量が1.6μJ/cmの場合は、引っ張り力Fが、図10の白四角データに基づくグラフ以下、すなわち、F≦-0.0389×E+2.5833が満たされることで、良好な画像品質を得ることができることが知見された。
【0063】
上記の2つのグラフについて検討した結果、本発明者は、感光体ドラム31に対する露光量を増加させると、ハーフトーン白抜けが発生しない領域を引っ張り力Fが大きい側に拡大できることを新たに知見した。これは、露光量を増大させることで、ハーフトーン画像を構成する微小なトナー像(1ドット)に対してトナーがより多く現像されるため、現像性能の影響が少なくなることに起因するものと推察される。また、本実施形態に係る感光体ドラム31のように正帯電ドラムの場合、露光装置35による露光量を増大させると、感光体ドラム31上の画像部の電位がより低くなる(0Vに近づく)。この際、露光部(画像部、1ドット部)と未露光部(非画像部、前記1ドット部の周囲の白紙部)の隣り合う電位差がより拡大して回り込み電界が強くなる(電気力線が密集する)ため、感光体ドラム31の表面のトナー保持力が上がり、ハーフトーン白抜けが発生しにくくなるものと推察される。また、上記のように露光量を増大させると、1ドットの大きさが大きくなることで、現像押圧(現像ローラー331を感光体ドラム31に押し付ける力)が強く現像性が下がるような場合でも濃度の変化が見えにくくなるものと推察される。なお、露光量を増大させ感光体ドラム31上の1ドットが大きくなると、本来、ハーフトーン画像の濃度は濃くなるが、画像形成装置1における画像処理にてハーフトーンの階調ごとのドットの粗密を調整するため、実際には露光量を増大しても肉眼上の濃度はほぼ同等に調整される。
【0064】
表2は、感光体ドラム31に対する露光量を増減させたときの各画像評価を示した結果である。図11は、本実施形態に係る感光体ドラム31における露光量と表面電位との関係を示すグラフである。更に、図12は、感光体ドラムに対する露光量と画像品質との関係を示すグラフであって、表2の結果を視覚化したものである。なお、表2の評価では、現像ローラー331としてその表面自由エネルギーが12mJ/mのローラーを使用して実験を行った。
【0065】
【表2】
【0066】
表2に示すように、露光量を上げるほどハーフトーン白抜け発生限界に相当する引っ張り力Fが上昇することがわかる。また、露光量が低すぎると、画像濃度の低下および文字や細線画像の途切れが発生する。逆に、露光量が高すぎるとトナーが多く現像されすぎて文字潰れなどの不具合が発生する。この結果、図12に示すように、感光体ドラム31に対する露光量は、100%ベタ画像に対応して1.2μJ/cm以上1.6μJ/cm以下の範囲に設定されることが望ましい。
【0067】
なお、一般的に、感光体ドラム31の感光層に含まれる電荷発生材料や電荷輸送材料といった、光導電作用を発揮するための材料を極力少なくすることで、感光体ドラム31を低コスト化することができる。そして、これらの材料を少なくするほど、感光体ドラム31の感度が低くなるため、比較的強い露光量が必要になる。換言すれば、その感度が比較的低い感光体ドラム31を用いることで、通常の画像形成時における露光量を大きくすることが可能となり、ハーフトーン白抜けが発生しない領域を広げることが可能になる。
【0068】
また、図11に示すように、本実施形態に係る感光体ドラム31では、暗電位すなわち初期帯電電位が640Vおよび500Vのいずれの場合においても、露光量を0.30μJ/cmとすることで、表面電位が50%に半減する。すなわち、感光体ドラム31の表面電位が半減する露光量である半減露光量が、0.30μJ/cm以上である場合、前述のように感光体ドラム31の感度が比較的低くなるため、通常の画像形成時における露光量を大きくすることが可能となり、ハーフトーン白抜けが発生しない領域を安定して広げることが可能になる。なお、図11に示すように、同じ材料構成の感光体ドラム31であれば初期の表面電位(暗電位)にかかわらず半減露光量はおおむね一定である。
【0069】
前述のように、感光体ドラム31に対する露光量が1.2μJ/cmの場合は、引っ張り力Fが、図10の黒丸データに基づくグラフ以下、すなわち、F≦-0.0389×E+2.2833が満たされることで、ハーフトーン白抜けが発生しない良好な画像品質を得ることができる。一方、感光体ドラム31に対する露光量が1.6μJ/cmの場合は、引っ張り力Fが、図10の白四角データに基づくグラフ以下、すなわち、F≦-0.0389×E+2.5833が満たされることで、ハーフトーン白抜けが発生しない良好な画像品質を得ることができることが知見された。すなわち、感光体ドラム31に対する露光量を増加させると、ハーフトーン白抜けが発生しない領域を引っ張り力Fが大きい側に拡大できることを新たに知見した。
【0070】
図13は、感光体ドラム31に対する100%ベタ画像の露光量と図10のグラフのy切片との関係を示すグラフである。本発明者は、図13において上記の感光体ドラム31に対する露光量1.2μJ/mおよび1.6μJ/cmを横軸に取り、対応する一次式のy切片である2.2833および2.5833を縦軸にとり、2点を通る回帰直線として、下記の式1を新たに導出した。
y=0.75×x+1.3833 ・・・(式1)
したがって、図10において、ハーフトーン白抜けが発生しないPETフィルムの引っ張り力の境界線(図10の黒丸、白四角のデータ)は、現像ローラー331の表層の表面自由エネルギーEの大きさおよび感光体ドラム31への露光量Gを変数として、下記の式2を満たすように変化する。
F≦-0.0389×E+(0.75×G+1.3833) ・・・(式2)
【0071】
なお、上記の評価において、現像ローラー331の表面自由エネルギーEが5mJ/mを下回ると、現像ローラー331上のトナーの付着力が下がりすぎて、供給ローラー332から現像ローラー331へのトナー供給時にトナーが現像ローラー331に付着しにくくなり、トナー層の安定性が低下することが知見された。したがって、表面自由エネルギーEは5mJ/m以上、27mJ/m以下の範囲に設定されることが望ましい。
【0072】
以上のように、本実施形態によれば、感光体ドラム31が、100%ベタ画像の画像情報に応じて1.2μJ/cm以上1.6μJ/cm以下の露光量で露光光を受けることでその表面に静現像ローラー331の表面自由エネルギーEが5mJ/m以上27mJ/m以下の範囲に含まれており、規制ブレード334によって規制された現像ローラー331上のトナー搬送量が1g/m以上10g/m以下の範囲に設定された状態で、現像ニップ部に挟持された厚さ50μmのPETフィルムが現像ローラー331および感光体ドラム31の回転に伴って現像ローラー331の回転方向下流側に引っ張られる力である引っ張り力を現像ニップ部から見て回転方向上流側で測定した引っ張り力の値をF(N)、前記露光量をG(μJ/cm)とすると、0.8≦F≦-0.0389×E+(0.75×G+1.3833)の関係式が満たされる。
【0073】
このように、現像ローラー331の表面自由エネルギーを所定の範囲に設定することで、現像性の向上が実現し、現像バイアスの使用可能領域および現像ローラーの押圧設定範囲がより広く得られ、シンプルかつ低コストの構成でありながらも安定した画像形成が可能となる。
【0074】
また、本実施形態では、現像ローラー331は、弾性体としてのゴム層と、前記ゴム層の表面に形成されたコーティング層とを有する。
【0075】
本構成によれば、現像ローラー331の現像性を安定して維持することができる。なお、他の実施形態において、現像ローラー331は、上記のようなコーティング層を有さず、基層のゴム層(基層ゴム)の表面を研磨したことで構成されるものでもよい。一方、上記のようなコーティング層を有することで、基層ゴムの特性に左右されることなく、現像ローラー331の表面粗さ、表面自由エネルギーなどを精度よく、独立してコントロールすることが可能となる。特に、表面粗さはコーティング層の中に樹脂やシリカビーズを分散させることで制御し、表面自由エネルギーは前述のとおり材料変更によって増減させることができる。また、コーティング層を構成するコーティング剤の中のイオン導電剤やカーボンの量を増減させることで、現像ローラー331の電気抵抗も変化させてもよい。このように、現像ローラー331がコーティング層を有することで、狙いの品質を備えるとともにコストに見合った特性を得ることが可能となる。
【0076】
また、本実施形態では、現像ハウジング330は、粉砕法によって製造されたトナーを収容している。
【0077】
現像装置33で使用されるトナーが重合トナー(円形度が高い)の場合も、上記と同様の効果が得られるが、もともと重合トナーは真球形状のため、現像ローラー331の表面に対する付着力が低く、現像性が良いため現像バイアスの使用可能領域は広い。一方、本実施形態では、重合トナーと比較して異形であり現像ローラー331の表面に対する付着力が高い粉砕トナーが使用されても、現像性の向上が実現し、現像バイアスの使用可能領域および現像ローラーの押圧設定範囲がより広く得られ、安定した画像形成が可能となる。この結果、重合トナーよりも低コストの粉砕トナーによって、画像形成装置1を低コストで実現することができる。
【0078】
また、本実施形態に係る画像形成装置1は、転写ローラー34よりも感光体ドラム31の回転方向下流側かつ前記現像ニップ部よりも感光体ドラム31の回転方向上流側の範囲に、感光体ドラム31上に残留した未転写トナーをクリーニングするためのクリーニング部材(クリーニングブレード、クリーニングブラシ)が配置されていない、クリーナーレス構造を有している。このため、クリーニング部材を有する他の画像形成装置と比較して、低コストの画像形成装置1を実現することができる。
【0079】
なお、本発明者は、上記の効果を以下の条件においても確認している。
【0080】
現像ローラー331の接触面積率は4.5%以上10%以下の範囲に設定されることが望ましく、6%以上8%以下の範囲に設定されることが更に望ましい。図14は、現像ローラー331の接触面積率を測定する様子を示す図である。図14に示すように、互いに直交する外面801、802と、外面801及び外面802とそれぞれ45°で交差する外面803とを有する三角柱形状のガラス製のプリズム80が用意される。つまり、プリズム80の断面は、直角二等辺三角形となっている。そして、現像ローラー331は、プリズム80の外面803に対して、現像ローラー331の周面が接触線圧1N/mで接触するように配置される。そして、プリズム80の外面801を介して現像ローラー331の周面と外面803との接触部に白色光を照射することで、プリズム80の外面802に投影される現像ローラー331の周面と外面803との接触部の画像を、顕微鏡によって撮影すればよい。例えば、白色光を照射する光源には、株式会社レイマック製の白色LED光源「IHM-25」を使用すればよい。また、顕微鏡には、HiROX社製の「KH-8700」を使用すればよい。当該撮影した画像における黒色の領域は、現像ローラー331の周面とプリズム80の外面803とが実際に接触しているために、プリズム80の外面801を介して照射された白色光が吸収された領域である。つまり、当該黒色の領域は、現像ローラー331の周面における凹部を除いた領域であると考えられる。換言すれば、当該撮影された画像において黒色ではない領域は、現像ローラー331の周面とプリズム80の外面803とが接触していない領域であり、現像ローラー331の周面における凹部の領域と考えられる。このため、上記の撮影した画像を二値化処理し、当該二値化処理後の画像の面積に対する前記黒色の領域の面積の比率(=黒色の領域の面積/二値化処理後の画像の面積)を、現像ローラー331の周面の接触面積率として算出することができる。
【0081】
また、規制ブレード334が現像ローラー331の表面に押圧される際の規制圧は、10N/m以上60N/m以下の範囲に設定されることが望ましく、15N/m以上25N/m以下の範囲に設定されることが更に望ましい。
【0082】
現像ローラー331の表面粗さは、粒子を含むコートが施されることで設定されてもよいし、現像ローラー331の素管が研磨されること設定されてもよく、特にその製法には限定されないが、表面粗さRzが2μm以上4μm以下の範囲に設定され、Smが12μm以上290μm以下の範囲に設定され、Sm/Rz=30以上145以下の範囲に設定されることが好ましい。
【0083】
また、使用されるトナーの平均粒子径は6.8μm(D50)で実験したが、この結果は6.0μm以上8.0μm以下の範囲で同様の結果が得られることを確認している。この範囲からトナーの平均粒子径を選択する場合、6.0μmより粒径が小さくなるとトナーの製造コストアップにつながり、8.0μmより大きいとトナー消費量が増えて定着性が悪化し、加えて画質が低下するため好ましくない。
【0084】
また、トナーの円形度は0.96のトナーで測定したが、0.93以上0.97以下の範囲で同様の結果が得られることを確認している。円形度が0.93未満では画像品質が低下する傾向にある。また、0.97を超える範囲では製造コストが大幅にアップするため、それぞれ好ましくない。
【0085】
更に、感光体ドラム31と現像ローラー331との間の周速差は、1.1倍以上1.6倍以下(感光体ドラム31よりも現像ローラー331の表面速度が速い)の範囲にて同様の結果が得られていることを確認している。周速差が1.1倍より小さくなると白紙部にトナーが付着するトナーカブリが発生するため好ましくない。また、周速差が1.6倍を超える範囲では装置の駆動トルクや振動、トナーのストレスが増えるため装置の寿命の観点から好ましくない。
【0086】
また、各バイアスは、感光体ドラム31の表面電位が500V以上800V以下、感光体ドラム31の露光後の電位が70V以上200V以下の範囲で、同様の結果を得られることを確認している。
【0087】
特に、現像ローラー331の表面自由エネルギーが低い場合、現像ローラー331へトナーを付着させやすくするため、供給ローラー332の材質は発泡材(たとえば発泡ウレタンゴム)が好ましく、現像ローラー331の外径と同径以上の外径で、現像ローラー331と同方向に回転させる(=ニップ部ではカウンター、逆向きで接触する)ことが好ましい。現像ローラー331と供給ローラー332との食い込み量は0.5mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上1.0mm以下の範囲がよい。食込み量が0.5mmよりも浅すぎると供給量が減少する傾向がみられ、逆に深すぎると現像器の駆動トルクの増大、および長期放置による供給ニップ部の永久変形凹みが発生しやすい。
【0088】
また、供給ローラー332に印加する電圧は、現像ローラー331と同電位以上とすることが好ましい。より好ましくは現像ローラーへの印加電圧+100V以上の電圧が印加されることが望ましい。
【0089】
なお、前述のように、PETフィルムを現像ニップ部に挟み込み、引っ張り力を測定する際、実際にPETフィルムと接触しているのは、感光体ドラム31および現像ローラー331上のトナーである。現像ローラー331上のトナー搬送量は、少なくとも1g/m以上10g/m以下の範囲で上記の効果が成り立つことが確認されている。なお、トナー搬送量が1g/m未満になると感光体ドラム31へのトナー現像量が少なすぎて、画像濃度が下がりすぎてしまう。逆に、10g/mを超える範囲ではトナー消費量が多くコストがかかる、また、紙面上のトナーが多すぎるため用紙にトナーを熱定着できなくなります。そのため、1g/m以上10g/m以下の範囲に設定されることが望ましい。
【0090】
更に、上記と同様の評価結果(効果)が、現像ローラー331の直径が11.0mm以上15.0mmの以下の範囲で再現された。同様に、上記と同様の評価結果(効果)が、現像ローラー331と供給ローラー332との周速比(現像ローラー331の方が高い周速度)が1.3以上1.8以下の範囲で再現された。
【0091】
また、現像ローラー331の表面粗さや周速比、現像ローラー331上のトナー搬送量に関しては、上記の関係式に大きく影響しないことが確認されている。
【0092】
以上、本発明の実施形態に係る現像装置33およびこれを備えた画像形成装置1について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば次のような変形実施形態を採用することができる。
【0093】
(1)上記の実施形態では、画像形成装置1に1つの現像装置33が備えられる態様にて説明したが、画像形成装置1は複数の色に応じた現像装置33をそれぞれ有するカラー画像形成装置であってもよい。
【0094】
(2)上記の実施形態では、現像装置33の現像ハウジング330が内部に非磁性トナーを貯留する態様にて説明したが、現像ハウジング330とは別に非磁性トナーを収容するトナーコンテナ、トナーカートリッジを有するものでもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 画像形成装置
31 感光体ドラム
33 現像装置
330 現像ハウジング
330A ハウジング本体
330B ハウジング蓋部
331 現像ローラー
332 供給ローラー
333 攪拌パドル
334 規制ブレード(層厚規制部材)
335 ロワーシール
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