(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】光素子、及び光送信器
(51)【国際特許分類】
G02F 1/01 20060101AFI20240702BHJP
H04J 14/02 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
G02F1/01 B
H04J14/02
(21)【出願番号】P 2020187728
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 知之
【審査官】野口 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-149472(JP,A)
【文献】特開2019-135524(JP,A)
【文献】特開2013-205626(JP,A)
【文献】特開2002-318376(JP,A)
【文献】特開2006-106740(JP,A)
【文献】特開2001-264708(JP,A)
【文献】特開2013-186358(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132747(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0151509(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12- 6/14
G02F 1/00- 1/125
1/21- 7/00
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1単位回路を有する光素子であって、
2以上の第1単位回路が縦続接続された第1のカスケード回路と、
2以上の第1単位回路が縦続接続された第2のカスケード回路と、
1つの第1単位回路で形成され前記第1のカスケード回路と前記第2のカスケード回路を結合するコンバイナ回路と、
を有し、
前記第1単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の位相シフタとN+1個の2入力・2出力のカプラが交互に縦続接続された第1カスケード構造と、前記第1カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて、光入力パワーが減少する方向に前記位相シフタを制御する第1コントローラと、を有
し、
前記2つの出力の他方が次段の前記第1単位回路の入力または前記コンバイナ回路の入力に接続される光素子。
【請求項2】
前記第1コントローラは、前記第1カスケード構造からの1つの光入力と、
2以上のN個の前記位相シフタに
それぞれ接続されるN個以上の電気出力を有する、
請求項1に記載の光素子。
【請求項3】
前記第1のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路は、前記コンバイナ回路の一方の入力に接続され、
前記第2のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路は、前記コンバイナ回路の他方の入力に接続される、
請求項1または2に記載の光素子。
【請求項4】
前記コンバイナ回路の出力に接続される第2単位回路、
を有し、前記第2単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の第2位相シフタとN+1個の2入力・2出力の第2カプラが交互に縦続接続された第2カスケード構造と、前記第2カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて光入力パワーを増大させる方向に前記第2位相シフタを制御する第2コントローラを有し、
前記第2コントローラは、前記第2カスケード構造からの1つの光入力と、N個の前記第2位相シフタに接続されるN個以上の電気出力を有し、
前記第2カスケード構造の前記2つの出力の他方が前記光素子の出力に接続される、請求項1~3のいずれか1項に記載の光素子。
【請求項5】
前記コンバイナ回路における前記第1単位回路の前記第1カスケード構造の2つの入力の一方は、前記第1のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路における前記第1カスケード構造の2つの出力の他方に接続され、
前記コンバイナ回路における前記第1単位回路の前記第1カスケード構造の2つの入力の他方は、前記第2のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路における前記第1カスケード構造の2つの出力の他方に接続され、
前記コンバイナ回路における前記第1単位回路の前記第1カスケード構造の2つの出力の他方は、前記第2単位回路の入力に接続される、
請求項4に記載の光素子。
【請求項6】
前記第2単位回路は、波長に対する透過率が周期的に変化する透過特性を有する、
請求項4
または5に記載の光素子。
【請求項7】
異なる波長の変調光信号を出力する複数の光変調器と、
前記複数の光変調器の出力に接続される光素子と、
を有する光送信器において、
前記光素子は複数の第1単位回路で形成されており、
前記光素子は、
2以上の第1単位回路が縦続接続された第1のカスケード回路と、
2以上の第1単位回路が縦続接続された第2のカスケード回路と、1つの第1単位回路で形成され前記第1のカスケード回路と前記第2のカスケード回路を結合するコンバイナ回路とを有し、
前記第1単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の位相シフタとN+1個の2入力・2出力のカプラが交互に縦続接続された第1カスケード構造と、前記第1カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて光入力パワーが減少する方向に前記位相シフタを制御する第1コントローラとを有
し、
前記2つの出力の他方が次段の前記第1単位回路の入力または前記コンバイナ回路の入力に接続される、光送信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光素子、及び光送信器に関する。
【背景技術】
【0002】
データ通信量の増大に対処する技術のひとつが、波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)方式の光通信である。WDMでは、1本の光ファイバに複数の波長の光を多重することで、光ファイバ1本あたりの伝送レートが向上する。WDM光送信器では、デジタル電気信号を光信号に変換する際に、一般的にはデジタル信号プロセッサ(DSP:Digital Signal Processor)を用いてナイキストシェイピングを行ってスペクトル効率を改善し、クロストークを抑制している。ナイキストシェイピングは、sinc関数型の変調を行うことで、変調後のスペクトルをナイキスト周波数の中に収めて矩形パルスに整形する技術である。
【0003】
DSPを用いたナイキストシェイピングは、消費電力が高く、光送信器の集積化、小型化、及び大容量化が制限される。光干渉計型の回路を有する光合分波器でナイキストフィルタリングを行う手法が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】L. Zhuang et al., "Nyquist-Filtering (De)Multiplexer Using a Ring Resonator Assisted Interferometer Circuit", J. Lightwave Technol. 34. 1732 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光干渉計型の回路を有する光合分波器では、光路長誤差のためスペクトルが設計どおりにならず、隣接するチャネル間でクロストークが発生する。このクロストークゆえに、DSPを用いずにナイキストシェイピングを行う光素子はいまだ実用化されていない。
【0006】
本開示は、DSPを用いずにナイキストシェイピングを実現する光素子と、これを用いた光送信器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様では、複数の第1単位回路を有する光素子は、
1以上の第1単位回路が縦続接続された第1のカスケード回路と、
1以上の第1単位回路が縦続接続された第2のカスケード回路と、
1つの第1単位回路で形成され前記第1のカスケード回路と前記第2のカスケード回路を結合するコンバイナ回路と、
を有し、
前記第1単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の位相シフタとN+1個の2入力・2出力のカプラが交互に縦続接続された第1カスケード構造と、前記第1カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて、光入力パワーが減少する方向に前記N個の位相シフタを制御する第1コントローラと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
DSPを用いずに光素子でナイキストシェイピングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】干渉計型のナイキストフィルタリング光合分波器の技術課題を具体的に説明する図である。
【
図2】実施形態の光素子を用いた光送信器の模式図である。
【
図3】第1実施形態の光素子とパルス整形状態を示す図である。
【
図4】
図3の光素子を構成する各ブロックと通過点を示す図である。
【
図5】
図4の各通過点のパワースペクトルを示す図である。
【
図6】
図4の各ブロックでのパワースペクトルを示す図である。
【
図7】入力光パワーを減少させる減少(D)コントローラを有する第1単位回路の構成例を示す図である。
【
図8】入力光パワーを増加させる増加(I)コントローラを有する第2単位回路の構成例を示す図である。
【
図9A】複数の第1単位回路が接続された光合分波器の模式図である。
【
図9B】光合分波器に接続される等化器を構成する第2単位回路の模式図である。
【
図10】単位回路で用いられる2入力・2出力のカプラの説明図である。
【
図11】単位回路で用いられる2入力・2出力の位相シフタの説明図である。
【
図12A】1つの光入力ポートと、1以上の電気出力ポートを有するDコントローラの説明図である。
【
図12B】1つの光入力ポートと、1以上の電気出力ポートを有するIコントローラの説明図である。
【
図13】第1単位回路でN個の位相シフタを縦続接続することの効果確認に用いるモデル回路図である。
【
図14】
図10のモデル回路で計算された効果確認の結果を示す図である。
【
図15】第2実施形態の第1単位回路の構成例を示す図である。
【
図16】第2実施形態の第1単位回路の別の構成例を示す図である。
【
図17】第2実施形態の第2単位回路の構成例を示す図である。
【
図18】第2実施形態の第2単位回路の透過特性の一例を示す図である。
【
図19】第3実施形態の第1単位回路の制御構成を説明する図である。
【
図20】第3実施形態のDコントローラの模式図である。
【
図21】第3実施形態のDコントローラのサブモジュールで行われる処理のフローチャートである。
【
図22】第3実施形態のDコントローラのトリガ回路で行われる処理のフローチャートである。
【
図23】第4実施形態の第2単位回路の制御構成を説明する図である。
【
図24】第4実施形態のIコントローラの模式図である。
【
図25】第4実施形態のIコントローラのサブモジュールで行われる処理のフローチャートである。
【
図26】第4実施形態のIコントローラのトリガ回路で行われる処理のフローチャートである。
【
図31】実施形態の光素子の消費電力低減効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態では、ナイキストシェイピングを、DSPを用いずに光素子で実現することによって、消費電力を低減する。実施形態の具体的な構成を説明する前に、
図1を参照して公知のナイキストフィルタリング構成で生じる技術課題を説明する。
【0011】
図1のナイキストフィルタリング光合分波器は、一方の導波路にΔLの遅延を有する非対称のマッハツェンダ(MZ:Mach-Zehnder)干渉計で形成されている。円周が2ΔLの3つのリング共振器を用いて、ナイキストシェイピングが行われる。MZ干渉計に沿って配置される(サイドカップリングされた)リング共振器は、無限インパルス応答フィルタとして機能する。
【0012】
光合分波器が設計どおりに作製されているならば、たとえばλ1~λ4の波長の光が入力されると、ナイキストバンドに整形された4つの矩形パルスが得られる。しかし、実際はプロセス誤差等により、遅延ΔL、及び各リング共振器に光路長誤差が発生し、設計通りのスペクトルを得ることが難かしい。光合分波器の実際の光出力ではスペクトルが重なり合い、クロストークが発生する。
【0013】
実施形態では、光路長誤差の自動補正が可能な受動光回路で光合分波器を形成して、DSPを用いずにナイキストフィルタリングを実現し、消費電力を低減する。良好な実施例では、光合分波器の出力に、受動光回路で形成される等化器を接続し、より良好な矩形パルスを生成する。
【0014】
図2は、実施形態の光素子10が適用される光送信器1の模式図である。光送信器1は、複数の光源3-1~3-n(適宜、「光源3」と総称する)と、光源3-1~3-nのそれぞれに接続される光変調器5-1~5-n(適宜、「光変調器5」と総称する)と、光変調器5-1~5-nの出力に接続される光素子10を有する。
【0015】
複数の光源3はそれぞれ異なる波長の光を出射する。光変調器5には、デジタルデータ信号に基づいて生成されたアナログ駆動信号が入力され、光変調器5に入射した各波長の光を変調する。各光変調器5から出力された変調光信号は、光素子10の合波器40によって合波される。
【0016】
合波器40は、光導波路で形成される受動回路であり、複数波長の変調光信号を、ナイキストバンドにパルス整形して合波する。後述するように、合波器40は、フィルタリング機能と、光路長誤差を補正または吸収する機能を有し、光変調信号を合波する過程で、入力光信号のスペクトルの重なり合いが抑制されたパルス整形を行う。合波器40の出力に等化器50が接続されている場合、各波長の光信号は、より良好な矩形パルスに整形される。
【0017】
光素子10で合波された信号は、WDM信号として光送信器1の出力ポートPOUTから出力される。以下で、光素子10の具体的な構成を説明する。以下の説明で、同じ構成要素には同じ符号を付けて、重複する説明を省略することがある。
【0018】
<第1実施形態;基本構成>
図3は、第1実施形態の光素子10と、光素子10によるパルス整形状態を示す図、
図4は、
図3の光素子10を構成する各ブロックと通過点を示す図である。
図5は、
図4の各通過点のパワースペクトルを示し、
図6は、
図4の各ブロックでのパワースペクトルを示す。光素子10は、複数の入力ポート(たとえば、Port 1~Port 4)を有する合波器40と、合波器40の出力に接続される等化器50とを有する。合波器40は、1以上の第1単位回路20が縦続接続されたチャネルを複数有する。この第1単位回路が縦続接続された各チャネルを「カスケード回路」と呼んでもよい。複数のチャネルは、合波器40の最終段の第1単位回路20によって1つにまとめられる。合波器40の最終段の第1単位回路20の出力は、第2単位回路30で形成された等化器50の入力に接続されている。
【0019】
第1単位回路20は、入力光のパワーを低減(Decrease)する第1コントローラ201(図中、「D」と表記)と、第1コントローラによって制御される1以上の位相シフタを有する。第1コントローラ201は、入力光パワーを減少する制御を行うことから、以下の記載では、「Dコントローラ」と称する。図中の第1単位回路20のブロック内に記載されている数字は、Dコントローラによって制御される位相シフタの数を表す。
【0020】
図4に示すように、光素子10の入力段から出力段の間で、単位回路を含む各段をブロック(a)~ブロック(f)で表し、各ブロックの前後の通過点を、(A)~(G)で表す。各通過点(A)~(G)でのパワースペクトルを
図5に示し、各ブロック(a)~(f)のパワースペクトルを
図6に示す。
【0021】
たとえば、ITUの周波数グリッドにおいて、Port 1はチャネル(図中、「Ch」と表記)1の波長、port 2はチャネル3の波長、port 3はチャネル2の波長、port 4はチャネル4の波長を扱う。これらの4波長を合波する場合を考える。
図4のブロック(a)は、周波数グリッドで入力される光信号をグリッド間隔の4倍の周期で周期的に透過するフィルタを形成し、port 1とport 2の波長信号間のクロストーク、及び、port 3とport 4の波長信号間のクロストークを抑える。この結果、(B)点では、フィルタリングされた各波長の光信号が得られる。
【0022】
ブロック(b)は、周波数グリッドの光信号をグリッド間隔の4倍の周期で周期的に透過するフィルタを形成し、port 1のチャネル1とport 2のチャネル3という異なる波長の信号を、クロストークを抑えながら合波する。同様に、port 3のチャネル2とport 4のチャネル4という異なる波長の信号を、クロストークを抑えながら合波する。この結果、(C)点では、チャネル1とチャネル3の信号を含むパワースペクトルと、チャネル2とチャネル4の信号を含むパワースペクトルが得られる。
【0023】
ブロック(c)は、周波数グリッドの光信号をグリッド間隔の2倍の周期で周期的に透過するフィルタを形成し、信号のサイドロープを切り落とすことでナイキストフィルタリングを行う。第1単位回路20に含まれる位相シフタの数が多いほどスペクトルのスロープを急峻にする効果が得られるが、ヒータ消費電力上昇の問題があり、トレードオフである。
図4の例では、ブロック(c)の第1単位回路20は、5個の位相シフタを有する。この結果、(D)点では急峻なスロープのスペクトルが得られる。
【0024】
ブロック(d)は、ブロック(c)と同様に、グリッド間隔の2倍の周期で入力光を透過する透過フィルタを形成し、ナイキストフィルタリングする。ここで、ブロック(c)とブロック(d)をひとつのDコントローラで制御しないのは、10個の位相シフタを1つのDコントローラで制御する場合、スロープを急峻にすることはできるが、透過帯域を狭める効果を得ることが困難になり、クロストークが残ってしまうためである。帯域幅を狭くし、かつ、クロストークを低減する効果を得るため、5個の位相シフタを含む第1単位回路20を2つ、縦列接続する。この結果、(E)点で信号のスロープがさらに急峻になり、狭帯域に整形されたパワースペクトルが得られる。
【0025】
ブロック(e)は、サイドロープを切り落とすことでナイキストフィルタリングし、かつインターリーバとして偶数チャネルと奇数チャネルを合波する。この結果、(F)点で4つのチャネルが合波されたパワースペクトルが得られる。
【0026】
ブロック(f)は第2単位回路30で形成され、各信号のピークを平坦化して、矩形信号を得る。第2単位回路30は、入力光のパワーを増大(Increase)させる第2コントローラ301(図中、「I」と表記)と、第2コントローラ301によって制御される1以上の位相シフタを有する。第2コントローラ301は、入力光パワーを増大させる制御を行うことから、以下の記載では、「Iコントローラ」と称する。図中の第2単位回路30のブロック内に記載されている数字は、Iコントローラによって制御される位相シフタの数を表す。
【0027】
このように、光素子10の入力ポート(Port 1~Port 4)となる(A)点では、各波長の光信号がサイドローブを有し、メインローブは利得が3dB下がった地点で互いに重なり合っている。合波器40を透過した(F)点では、各波長の光信号がナイキスト帯域に整形され、光信号間の重なり合いが低減されている。合波器40によって、クロストークが抑制されたナイキスト帯域のパワースペクトルが得られるが、各チャネルの光パワーは凸形状のピークを有する。(G)点では、等化器50を通すことで、ピークが平坦化された矩形パルスに整形されたパワースペクトルが得られる。
【0028】
等化器50は、チャネル間隔と同じ周期で正弦的に変化する透過率を有する。パワースペクトルBを後段の等化器50に通すことで、チャネル間隔周期の正弦関数が適用されるのと同様の効果が得られる。等化器50の透過率は、透過率の谷が各チャネルの光パワーのピークに一致するように正弦的に変化する。(G)点で各矩形パルスの上端51の中央付近でわずかにくぼんでいるのは、等化器50の透過率の谷が入力パワーのピークにあたるからである。
【0029】
入力ポートPort 1~Port 4から入力された光信号は、光素子10の合波器40で合波されることで、クロストークが抑制された状態で、ナイキスト帯域にシェイピングされている。等化器50を用いることで、合波された光信号は、より良好な形状の矩形パルスにシェイピングされる。
【0030】
図7は、第1単位回路20の構成例を示す。第1単位回路20は、Dコントローラ201と、Dコントローラ201と電気的に接続されるN個(Nは1以上の整数)の位相シフタPSと、隣接する位相シフタPS間に配置されるカプラCを有する。位相シフタPSとカプラCは縦続接続されて第1カスケード構造27が形成される。第1単位回路に含まれる位相シフタPSの数をNとすると、Dコントローラ201は、1つの光入力と、N個以上の電気出力を有する。
【0031】
カプラCは、2入力・2出力のカプラである。
図7の例では、最終段のカプラCの一方の出力が、Dコントローラ201の光入力に接続される。各位相シフタPSは、2入力・2出力を有する。位相シフタPSにはポート間結合がなく、ポート間の位相関係がDコントローラ201からの電気信号に従って変化する。
図11を参照して後述するように、Dコントローラ201から1つの位相シフタPSに入力される電気信号の数は1個とは限らないので、N個の位相シフタPSを有する構成では、N個の位相シフタPSに対してN個以上の電気入力がある。Dコントローラ201は、光入力パワーが減少するように電気信号出力を変化させる。
【0032】
この明細書と特許請求の範囲では、位相シフタPSの数にかかわらず、N個(Nは自然数)の位相シフタPSと、N+1個のカプラCが交互に縦続接続された第1カスケード構造27の2つの出力の一方がDコントローラ201の光入力となり、かつ、Dコントローラの電気出力が各位相シフタPSの電気入力になっている構造を、「第1単位回路20」と呼ぶ。
【0033】
図8は、第2単位回路30の構成例を示す。第2単位回路30は、第1単位回路20のDコントローラ201をIコントローラ301に置き換えた構成を有する。第2単位回路30は、Iコントローラ301と、Iコントローラ301と電気的に接続されるN個(Nは1以上の整数)の位相シフタPSと、隣接する位相シフタPS間に配置されるカプラCを有する。第1単位回路20と第2単位回路30のNの値は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。この明細書と特許請求の範囲で、第2単位回路30の位相シフタPSを、第1単位回路20の位相シフタPSと区別するために「第2位相シフタ」と呼ぶことがある。同様に、第2単位回路30のカプラCを、第1単位回路20のカプラCと区別するために「第2カプラ」と呼ぶことがある。第2位相シフタPSと第2カプラCは縦続接続されて第2カスケード構造37が形成される。
【0034】
第2単位回路30でN個の位相シフタPSが用いられる場合、Iコントローラ301は、1つの光入力と、N個以上の電気出力を有する。カプラCは、2入力・2出力のカプラであり、
図8の例では、最終段のカプラCの一方の出力が、Iコントローラ301の光入力に接続される。第2単位回路30の各位相シフタPSにはポート間結合がなく、各位相シフタPSのポート間の位相関係がIコントローラ301からの電気信号に従って変化する。Iコントローラ301から1つの位相シフタPSに入力される電気信号の数は1個とは限らないので、N個の位相シフタPSを有する構成では、N個の位相シフタに対してN個以上の電気入力がある。Iコントローラ301は、光入力パワーが増加するように、各位相シフタPSへの電気信号出力を変化させる。
【0035】
この明細書と特許請求の範囲では、第2位相シフタの数にかかわらず、N個(Nは自然数)の位相シフタPSと、N+1個のカプラCが交互に縦続接続された第2カスケード構造37の2つの出力の一方がIコントローラ301への光入力となり、かつ、Iコントローラの電気出力が各位相シフタPSの電気入力になっている構造を、「第2単位回路30」と呼ぶ。
【0036】
図9Aは、
図7の第1単位回路20を縦続接続した合波器40の模式図である。合波器40は、1以上の第1単位回路20が縦続接続された第1のカスケード回路23と、1以上の第1単位回路20が縦続接続された第2のカスケード回路24を有する。この例で、第1のカスケード回路23はポートAに接続され、第2のカスケード回路24はポートBに接続されている。
【0037】
第1のカスケード回路23と、第2のカスケード回路24は、伝搬方向の最終段で、コンバイナ回路25によって結合される。コンバイナ回路25は、合波器40の最終段に配置される第1単位回路20で形成されている。第1のカスケード回路23は、それぞれが第1単位回路20で形成される1以上のフィルタ回路21-1~21-m(mは1以上の整数)を有する。第2のカスケード回路24は、それぞれが第1単位回路20で形成される1以上のフィルタ回路22-1~22-k(kは1以上の整数)を有する。
【0038】
第1のカスケード回路23に含まれる第1単位回路20の数と、第2のカスケード回路24に含まれる第1単位回路20の数は、同じであっても、異なっていてもよい。第1のカスケード回路23、第2のカスケード回路24、及びコンバイナ回路25において、第1単位回路20に含まれる位相シフタPSの数Nは同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0039】
第1のカスケード回路23の出力は、コンバイナ回路25の入力端のカプラCの一方の入力に接続される。第2のカスケード回路24の出力は、コンバイナ回路25の入力端のカプラCの他方の入力に接続される。
【0040】
コンバイナ回路25を形成する第1単位回路20で、最終段のカプラCの一方の出力はDコントローラ201に接続され、他方の出力は、次段への入力となる。
【0041】
図9Bは、
図8の第2単位回路30で形成される等化器50の模式図である。
図9Aの合波器40の出力、すなわちコンバイナ回路25の出力は、等化器50の入力端のカプラCの一方の入力に接続される。この入力端のカプラCに縦続接続される1以上の位相シフタPSの各々で、2つの出力間の位相関係はIコントローラによって制御される。Iコントローラによる位相シフタPSの制御は、正弦的に変化する等化器50の透過率の谷を、合波器40の出力パワースペクトルのピークに合わせこむ制御である。
【0042】
図10は、第1単位回路20、及び第2単位回路30で用いられるカプラCの模式図である。カプラCは、2つの入力Ei1とEi2と、及び、2つの出力Eo1とEo2を有する。出力Eo1とEo2は、反射係数rと透過係数tを用いて、
Eo1 =r1Ei1 +t21Ei2
Eo2 =t12Ei1
+r2Ei2
と表される。
【0043】
図11は、第1単位回路20、及び第2単位回路30で用いられる位相シフタPSの模式図である。位相シフタPSは、2つの光入力Ei1とEi2、2つの電気入力Vc1、Vc2、及び、2つの光出力Eo1とEo2を有する。位相シフタPSの光出力Eo1とEo2は、それぞれ入力信号の角周波数ωと電気入力Vc1、Vc2の関数として、
Eo1 =t1(ω,Vc1)Ei1
Eo2 =t2(ω,Vc2)Ei2
と表される、2つの出力ポート間の偏角すなわち位相は、
arg[t1(ω,Vc1)/t2(ω,Vc2)]=ω[τ1(Vc1)-τ2(Vc2)]
と表される。ここで、t1、t2は2つの出力ポートへの透過率、τ1、τ2は時間である。
【0044】
図12Aは、第1単位回路20で用いられるDコントローラ201の模式図である。この例で、Dコントローラ201は、1つの光入力Piと、N個の電気出力Vc1~VcNを有する。電気出力Vc1~VcNは対応する位相シフタPSに入力される。電気出力Vc1~VcNの少なくとも一部は、1以上の電気信号を含んでいてもよい。Dコントローラ201は、光入力Piのパワーが減少するように、電気出力Vc1~VcNを制御する。
【0045】
図12Bは、第2単位回路30で用いられるIコントローラ301の模式図である。Iコントローラ301は、1つの光入力Piと、N個の電気出力Vc1~VcNを有する。電気出力Vc1~VcNは対応する位相シフタPSの入力に接続される。電気出力Vc1~VcNの少なくとも一部は、1以上の電気信号を含んでいてもよい。Iコントローラ301は、光入力Piのパワーが増大するように、電気出力Vc1~VcNを制御する。
【0046】
図13は、Dコントローラ201を有する第1単位回路20で、位相シフタPSをN個縦続接続することの効果確認に用いるモデル回路図、
図14は、効果確認の結果を示す図である。
図13のモデル回路では、8入力ポートの合波器40の入力段の第1単位回路20の位相シフタPSの数は1個、2段目の第1単位回路20の位相シフタPSの数は2個である。3段目の第1単位回路20と、コンバイナ回路25を形成する第1単位回路20の位相シフタPSの数をN個に設定し、Nの値を変えてビットエラーレートを計算する。図中で「D」と表記されているブロックは、すべてDコントローラ201である。コンバイナ回路25の出力は、Iコントローラ301を有する第2単位回路30の入力に接続されている。
【0047】
図14の横軸は、第1単位回路20の位相シフタPSの数Nを示し、縦軸はビットエラーレートを示す。ビットエラーレートは、ボーレートを72Gbd、チャネル間隔を75GHzとして計算されている。第1単位回路20で、縦続接続する位相シフタPSの数Nを増やすほど、ビットエラーレートは急激に小さくなり、クロストークが改善されていることがわかる。上述した条件では、カスケード回路の最終段及びコンバイナ回路の第1単位回路のNの数は、5~10個、より好ましくは、7~10個である。位相シフタPSの数を増やして、透過スペクトルの形状を矩形に近くすることでクロストークが減少する。コントローラによる制御能力との関係で、Nの数を、狭帯域化すなわちクロストーク低減効果が十分に得られる範囲、たとえば、5~8個に設定してもよい。
【0048】
ボーレートが72Gbdよりも低い条件では、Nの値が
図14よりも小さくても、
図14と同様の効果が得られることが期待される。デジタルコヒーレント光通信では、Cバンドの最短波長から最長波長までをサポートするため、光フィルタも波長可変機能を有することが望ましい。後述するように、位相シフタPSにヒータ等を設けて温度制御することで、光素子10に波長可変機能をもたせることができる。
【0049】
<第2実施形態;導波路構成>
図15と
図16は、第2実施形態の第1単位回路20の具体的な構成図、
図17は、第2単位回路30の具体的な構成図である。
図15の第1単位回路20Aで、Dコントローラ201Aに接続される位相シフタPSの数は2個である。
図16の第1単位回路20Bで、Dコントローラ201Bに接続される位相シフタPSの数は5個である。
【0050】
図15で、各位相シフタPSは、非対称MZ干渉計で形成され、非対称MZ干渉計を構成する各光導波路に、ヒータ205が設けられている。光導波路は暖めると光路長が長くなるので、温度制御については、非対称MZ干渉計を形成する2つの光導波路の両方を暖めるのは効率が悪く、上側アームか下側アームのいずれか一方のヒータを暖めて、光路長を調整してもよい。
【0051】
位相シフタPS1の入力側のカプラC1のパワー分岐比は0.5と0.5である。カプラC2で、短い方の光導波路へのパワー分岐比は0.24である。カプラC3で、Dコントローラ201Aに接続される光導波路へのパワー分岐比は0.24である。
【0052】
Dコントローラ201Aは、ひとつの光入力と、2つの電気出力を有する。2つの電気信号の少なくとも一方が、一対の電気信号を含んでいてもよい。Dコントローラ201Aの光入力は、カプラC3の一方の出力である。Dコントローラ201Aは、パワーモニタ202を有し、カプラC3から入力される光のパワーをモニタする。パワーモニタ202のモニタ結果は、位相シフタPSの数に対応して設けられている減少回路Decに供給される。減少回路Decは、モニタ結果に基づき、光入力パワーが減少する方向に、ヒータ205を制御する電気信号のレベルを変化させる。この例では、各減少回路Decから一対の電気信号が出力されているが、上述したように、位相シフタPSの2本のアームのいずれか一方のヒータを制御するときは、減少回路Decから1つの電気信号が出力されてもよい。ヒータ205の温度を制御することで、2本の光導波路間の実効的な光路長差を設計値に近づけることができる。
【0053】
図16の第1単位回路20Bは、位相シフタPSの数と、減少回路Decの数が増えたことを除いて、
図15の第1単位回路20Aと同じである。カプラC1のパワー分岐比は0.5と0.5である。カプラC2の短い方の光導波路へのパワー分岐比は0.24である。カプラC3の短い方の光導波路へのパワー分岐比は0.24である。カプラC4の短い方の光導波路へのパワー分岐比は0.09である。カプラC5の短い方の光導波路へのパワー分岐比は0.054である。カプラC6のパワーモニタ202へのパワー分岐比は0.03である。
【0054】
位相シフタPS1~PS5の各々で、光導波路にヒータ205が設けられている。Dコントローラ201Bは、ひとつの光入力と、5つの電気出力を有する。5つの電気出力の少なくとも一部が、一対の電気信号を含んでいてもよい。Dコントローラ201Bの光入力は、カプラC6の一方の出力である。パワーモニタ202のモニタ結果は、5つの減少回路Decに供給される。減少回路Decは、モニタ結果に基づき、光入力パワーが減少する方向に、対応する位相シフタPSのヒータ205を制御する電気信号のレベルを変化させる。
【0055】
位相シフタPSの温度を制御することで、光路長誤差を吸収するとともに、光素子10に波長可変機能をもたせることができる。Cバンドの帯域全体にわたって光路長誤差を修正し、クロストークの少ないナイキストシェイピングが実現される。
【0056】
図17で、第2単位回路30は、ひとつの位相シフタPSと、Iコントローラ301を有する。位相シフタPSの各光導波路に、ヒータ305が設けられている。Iコントローラ301は、パワーモニタ302と、位相シフタPSのヒータ305を制御する増加回路Incを有する。位相シフタPS1の入力側のカプラC1で、短い方の光導波路へのパワー分岐比は0.15である。カプラC2で、パワーモニタ302へのパワー分岐比は0.15である。
【0057】
Iコントローラ301は、ひとつの光入力と、一対の電気信号を含む1つの電気出力を有する。Iコントローラ301の光入力は、カプラC2の一方の出力である。パワーモニタ302のモニタ結果は、増加回路Incに供給される。増加回路Incは、モニタ結果に基づき、光入力パワーが増大する方向に、ヒータ305を制御する電気信号のレベルを変化させる。位相シフタのヒータ305を制御する電気信号の数が1つでもよいことは、上述したとおりである。
【0058】
図18は、第2単位回路30で構成される等化器50の特性を示す。カプラC1とカプラC2の結合係数kを変えることで、正弦的に変化する透過率の変化の度合い(振幅)を調整することができる。結合係数kを0.05、0.1、0.15と大きくしていくと、チャネル間隔で周期的に変化するパワー(または透過率)の変化の振幅が大きくなるが、変化の谷に当たる位置は、各チャネルの中心周波数の位置である。各位相シフタPSのヒータ温度を制御することで、透過率の変化の谷を、各チャネルの入力光信号のピークに合わせこむことができる。
【0059】
等化器50に
図18の透過特性をもたせることで、等化器50に入力される光信号に含まれる各チャネルの光波形のピークが平坦化され、理想的な矩形パルスの形状に近づき、スペクトル効率を向上することができる。
【0060】
<第3実施形態;第1単位回路の制御>
図19は、第1単位回路20の制御構成を説明する図である。第1実施形態、及び第2実施形態で説明したように、第1単位回路20は、カプラCによって縦続接続される1以上の位相シフタPSを含む第1カスケード構造27と、Dコントローラ201を有する。Dコントローラ201は、トリガ信号の入力によって波形シェイピング、各位相シフタPSの制御を開始する。トリガ信号は、たとえば光送信器1が収容されるパッケージ内に設けられるロジックデバイス、マイクロプロセッサ等から入力されてもよい。
【0061】
図20は、Dコントローラ201の模式図である。Dコントローラ201は、トリガ回路211と、パワーモニタ202と、1つ以上のサブモジュール215を有する。サブモジュール215は、
図15及び
図16の減少回路Decに相当する。サブモジュール215の数は、位相シフタPSの数に相当する。
【0062】
パワーモニタ202は、第1カスケード構造27の一方の出力ポートから入力されるモニタ光のパワーPmonを測定し、モニタ結果を表す電気信号をサブモジュール215-1~215-N(以下、適宜「サブモジュール215」と総称する)に供給する。トリガ回路211は、トリガ信号の入力により、各サブモジュール215を駆動する。各サブモジュール215は、順次に駆動されてもよいし、同時に駆動されてもよい。
【0063】
図21は、i番目(iは1~Nまでの自然数)のサブモジュール215で行われる処理のフローチャートである。まず、i番目のサブモジュール215-iの動作がトリガされたか否かを判断する(S11)。トリガの有無は、i番目のサブモジュール215-iのトリガフラグが「1」に設定されたかどうかで判断されてもよい。トリガフラグが「1」になるまで、フラグ値の監視を続ける(S11でNoの場合のループ)。トリガフラグが「1」になると、対応する位相シフタPSのヒータ電力Piを初期値Pi0に初期化し(S12)、初期値Pi0よりもΔP高くした値を、現在のヒータ電力Piとする(S13)。
【0064】
現在のヒータ電力で、パワーモニタ202からモニタ光の測定値が入力されるまで待機し、モニタ光のパワーが得られると、ヒータ電力をΔP上げたときのパワーモニタ値Pmon+として記録する(S14)。次に、ヒータ電力を初期値Pi0よりもΔP下げた値を、現在のヒータ電力Piに設定する(S15)。現在のヒータ電力でパワーモニタ202からモニタ光の測定値が入力されるまで待機し、測定値が得られると、ヒータ電力をΔP下げたときのパワーモニタ値Pmon‐として記録する(S16)。
【0065】
得られたモニタ値を比較し、Pmon‐がPmon+よりも大きいか否か(Pmon+<Pmon‐)を判断する(S17)。Pmon+の方が小さい場合は(S17でYes)、ヒータ電力をΔP上げる制御が、光入力のパワーを減少させる方向の制御になるので、Pi0+ΔPを現在のヒータ電力値Piに設定する(S19)。この時点でi番目のサブモジュールのトリガはオフにされており、処理はステップS11に戻って、次にトリガが「1」になるまでS11を繰り返す。
【0066】
Pmon‐がPmon+以下の場合は(S17でNo)、ヒータ電力をΔPだけ低くする制御が光入力のパワーを減少させる方向の制御になる。そこで、、Pi0-ΔPを現在のヒータ電力値Piとして設定し(S18)、ステップS11に戻って次にトリガが「1」になるまでS11を繰り返す。
図21の処理により、Dコントローラ201で光入力パワーを減少させる制御が行われる。
【0067】
図22は、トリガ回路211で行われる処理のフローチャートである。まず、入力されるトリガ信号がオン状態か否かを判断し(S21)、トリガ信号がオンになるまでS21を繰り返す。トリガ状態の判断は、たとえば入力されるトリガ信号の値が「1」であるか否かで判断してもよい。トリガ信号がオンになると(S21でYes)、N個のサブモジュール215を順次、または同時に駆動する。
図22では、順次に駆動する例が示されている。すなわち、サブモジュール215-1のトリガフラグを「1」に設定し、その他のサブモジュール215-2~215-Nのトリガフラグを「0」に設定する(S22-1)。所定時間待機し(S23-1)、次のサブモジュール215-2をトリガする(S23-2)。すべてのサブモジュール215について、ステップS22とS23を繰り返したならば、S21に戻って、次にトリガ信号がオンになるまでS21を繰り返す。
【0068】
上記の処理により、トリガのタイミングで第1単位回路20の制御が行われる。Dコントローラ201によりモニタ光パワーを低減することで、位相シフタの2つの出力ポート間の位相関係のずれ、すなわち光路長誤差を低減することが可能になる。光路長誤差を低減し、設計どおりの光路長とすることで、ナイキストフィルタリング効果に適した設計どおりのフィルタ特性に補正することが可能になる。
【0069】
<第4実施形態;第2単位回路の制御>
図23は、第2単位回路30の制御構成を説明する図である。第1実施形態、及び第2実施形態で説明したように、第2単位回路30は、カプラCで接続される1以上の位相シフタPSを含む第2カスケード構造37と、Iコントローラ301を有する。Iコントローラ301は、トリガ信号の入力により矩形パルスへのシェイピング、すなわちパワーモニタ結果に基づく各位相シフタPSの制御を開始する。トリガ信号は、たとえば光送信器1が収容されるパッケージ内に設けられるロジックデバイス、マイクロプロセッサ等から入力されてもよい。
【0070】
図24は、Iコントローラ301の模式図である。Iコントローラ301は、トリガ回路311と、パワーモニタ302と、1つ以上のサブモジュール315を有する。サブモジュール315は、
図17の増加回路Incに相当する。サブモジュール315は、縦続接続される位相シフタPSの数だけ設けられる。
【0071】
パワーモニタ302は、第2カスケード構造37の一方の出力ポートから入力されるモニタ光のパワーPmonを測定し、モニタ結果を表す電気信号を各サブモジュール315に供給する。トリガ回路311は、トリガ信号の入力により、サブモジュール315-1~315-Nのトリカをオンにする。サブモジュール315-1~315-Nの動作は、順次、または同時に駆動されてもよい。
【0072】
図25は、i番目(iは1~Nまでの自然数)のサブモジュール315で行われる処理のフローチャートである。まず、i番目のサブモジュール315-iの動作がトリガされたか否かを判断する(S31)。トリガの有無は、i番目のサブモジュール315-iのトリガフラグが「1」に設定されたかどうかで判断されてもよい。トリガフラグが「1」になるまで、フラグ値の監視を続ける(S31でNoの場合のループ)。トリガフラグが「1」になると、対応する位相シフタPSのヒータ電力Piを初期値Pi0に設定し(S32)、初期値Pi0よりもΔP高くした値を、現在のヒータ電力Piとする(S33)。
【0073】
現在のヒータ電力で、パワーモニタ302からモニタ光の測定値が入力されるまで待機し、測定値が得られると、ヒータ電力をΔP上げたときのパワーモニタ値Pmon+として記録する(S34)。次に、ヒータ電力を初期値Pi0よりもΔP下げた値を、現在のヒータ電力Piに設定する(S35)。現在のヒータ電力でパワーモニタ202からモニタ光の測定値が入力されるまで待機し、測定値が得られると、ヒータ電力をΔP下げたときのパワーモニタ値Pmon‐として記録する(S36)。
【0074】
得られたモニタ値を比較し、Pmon‐がPmon+よりも小さいか否か(Pmon+>Pmon‐)を判断する(S37)。Pmon+の方が大きい場合は(S37でYes)、ヒータ電力をΔP上昇する制御が光入力のパワーを増大させる方向の制御になるので、Pi0+ΔPを現在のヒータ電力値Piとして設定する(S39)。この時点でトリガはトリガ回路211によってオフにされており、処理はステップS31に戻って、次にトリガが「1」になるまでS31を繰り返す。
【0075】
Pmon‐がPmon+以上の場合は(S37でNo)、ヒータ電力をΔP低くする制御が光入力のパワーを増大させる方向の制御になる。そこで、、Pi0-ΔPを現在のヒータ電力値Piとして設定し(S38)、ステップS31に戻って次にトリガが「1」になるまでS31を繰り返す。
図22の処理により、第2単位回路30で光入力パワーを増加させる制御が行われる。
【0076】
図26は、トリガ回路311で行われる処理のフローチャートである。まず、入力されるトリガ信号がオン状態か否かを判断し(S41)、トリガ信号がオンになるまでS41を繰り返す。トリガ状態の判断は、たとえば入力されるトリガ信号の値が「1」であるか否かで判断してもよい。トリガ信号がオンになると(S41でYes)、N個のサブモジュール315を順次、または同時に駆動する。
図23では、順次に駆動する例が示されている。すなわち、サブモジュール315-1のトリガフラグを「1」に設定し、その他のサブモジュール315-2~315-Nのトリガフラグを「0」に設定する(S42-1)。所定時間待機し(S43-1)、次のサブモジュール315-2をトリガする(S43-2)。すべてのサブモジュール315について、ステップS42とS43を繰り返したならば、S41に戻って、次にトリガ信号がオンになるまでS41を繰り返す。
【0077】
上記の処理により、トリガのタイミングで第2単位回路30の制御が行われる。
【0078】
<光素子の変形例>
図27は、光素子の変形例として8チャネルの光素子10Aを示す。光素子10Aは、合波器40Aと、等化器50を有する。合波器40Aで用いられる第1単位回路20の構成は、
図7で示したものと同じである。等化器50で用いられる第2単位回路30の構成は、
図8で示したものと同じである。
【0079】
合波器40Aのカスケード回路の最終段の第1単位回路20と、コンバイナ回路25を構成する第1単位回路20で、位相シフタPSの数は10個である。コンバイナ回路25の出力は等化器50の入力に接続されている。
【0080】
図28は、
図27の光素子10Aの等化器50の効果を示す図である。
図28の(A)で、破線は各ポートから光素子10Aに入力された光信号のパワースペクトル、実線は等化器50の透過スペクトルである。上述したように、等化器50の透過率は、入力波形のピークに透過率の谷が来るように周期的に変化する。
図28の(B)で、破線は、光素子10Aに入力された光信号のパワースペクトル、実線は等化器50から出力される光信号のパワースペクトルである。
【0081】
等化器50では、Iコントローラ301によって、透過率の谷が入力光信号のピークと整合するように制御されている。合波器40Aで合波された光信号は、等化器50を通過することでピークが平坦化された矩形パルスに整形される。正弦的に変化する透過率によって、出力パワースペクトルの上端がやや凹状になっているが、ピークの平坦化によるスペクトル効率の改善効果にはそれほど影響しない。
【0082】
図29は、光素子の別の変形例である16チャネルの光素子10Bの模式図である。光素子10AB、合波器40Bと、等化器50を有する。合波器40Bで用いられる第1単位回路20の構成は、
図7で示したものと同じである。等化器50で用いられる第2単位回路30の構成は、
図8で示したものと同じである。
【0083】
合波器40Bのコンバイナ回路25の第1単位回路20と、コンバイナ回路25に接続される2つの第1単位回路20で、位相シフタPSの数は10個である。コンバイナ回路25の出力は等化器50の入力に接続されている。
【0084】
図30は、
図29の光素子10Bの等化器50の効果を示す図である。
図30の(A)で、破線は各ポートから光素子10Bに入力された光信号のパワースペクトル、実線は等化器50の透過スペクトルである。
図30の(B)で、破線は、光素子10Bに入力された光信号のパワースペクトル、実線は等化器50から出力される光信号のパワースペクトルである。入力ポート数が16の場合も、光素子10Bによって、Cバンドの帯域全体にわたって、良好な矩形パルスに整形されることがわかる。
【0085】
<消費電力低減効果>
図31は、実施形態の光素子の消費電力低減効果を示す図である。横軸はチャネル数、縦軸は消費電力(W)である。DSPを用いてナイキストシェイピングを行う場合、チャネル数が増えるほど、消費電力はリニアに増大する。ここでは、1チャネル当たり1Wの電力が消費されると仮定している。一方、実施形態の光素子10を用いることで、DSPの制御なしにナイキストシェイピングを行うので、チャネル数が増加しても、ナイキストシェイピングに必要な消費電力はほとんどない。実施形態の光素子10は、これまで消費電力によって制限されていた光送受信器の集積化、小型化、大容量化に有効である。
【0086】
さらに、上述した光素子10の光路長誤差の自動修正機能により、クロストークが抑制され、良好なパルス波形が得られる。
【0087】
特定の構成例に基づいて実施形態を説明してきたが、本発明は上述した例に限定されない。合波器40のカスケード回路を構成する第1単位回路20の数、第1単位回路20に含まれる位相シフタPSの数は、チャネル数に応じて最適な通信品質が得られるように、適宜選択される。等化器50の第2単位回路30に含まれる位相シフタPSの数は、1個であってもよいが、必要に応じて、2個以上を縦続接続してもよい。
【0088】
以上の説明に対して、以下の付記を呈示する。
(付記1)
複数の第1単位回路を有する光素子であって、
1以上の第1単位回路が縦続接続された第1のカスケード回路と、
1以上の第1単位回路が縦続接続された第2のカスケード回路と、
1つの第1単位回路で形成され前記第1のカスケード回路と前記第2のカスケード回路を結合するコンバイナ回路と、
を有し、
前記第1単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の位相シフタとN+1個の2入力・2出力のカプラが交互に縦続接続された第1カスケード構造と、前記第1カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて、光入力パワーが減少する方向に前記N個の位相シフタを制御する第1コントローラと、を有する
光素子。
(付記2)
前記第1コントローラは、前記第1カスケード構造からの1つの光入力と、N個の前記位相シフタに接続されるN個以上の電気出力を有する、
付記1に記載の光素子。
(付記3)
前記第1のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路は、前記コンバイナ回路の一方の入力に接続され、
前記第2のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路は、前記コンバイナ回路の他方の入力に接続される、
付記1または2に記載の光素子。
(付記4)
前記コンバイナ回路の出力に接続される第2単位回路、
を有し、前記第2単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の第2位相シフタとN+1個の2入力・2出力の第2カプラが交互に縦続接続された第2カスケード構造と、前記第2カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて光入力パワーを増大させる方向に前記第2位相シフタを制御する第2コントローラを有し、
前記第2コントローラは、前記第2カスケード構造からの1つの光入力と、N個の前記第2位相シフタに接続されるN個以上の電気出力を有する、
付記1~3のいずれかに記載の光素子。
(付記5)
前記第2単位回路は、波長に対する透過率が周期的に変化する透過特性を有する、付記4に記載の光素子。
(付記6)
前記第2単位回路の前記第2位相シフタは、非対称マッハツェンダ干渉計型の光導波路で形成されている付記4または5に記載の光素子。
(付記7)
前記第1単位回路の前記位相シフタは、非対称マッハツェンダ干渉計型の光導波路で形成されている、付記1~6のいずれかに記載の光素子。
(付記8)
異なる波長の変調光信号を出力する複数の光変調器と、
前記複数の光変調器の出力に接続される光素子と、
を有する光送信器において、
前記光素子は複数の第1単位回路で形成されており、
前記光素子は、1以上の第1単位回路が縦続接続された第1のカスケード回路と、1以上の第1単位回路が縦続接続された第2のカスケード回路と、1つの第1単位回路で形成され前記第1のカスケード回路と前記第2のカスケード回路を結合するコンバイナ回路と、を有し、
前記第1単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の位相シフタとN+1個の2入力・2出力のカプラが交互に縦続接続された第1カスケード構造と、前記第1カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて光入力パワーが減少する方向に前記位相シフタを制御する第1コントローラとを有する、
光送信器。
(付記9)
前記光素子の前記第1コントローラは、前記第1カスケード構造からの1つの光入力と、N個の前記位相シフタに接続されるN個以上の電気出力を有する、
付記8に記載の光送信器。
(付記10)
前記光素子の前記第1のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路は、前記コンバイナ回路の一方の入力に接続され、前記第2のカスケード回路の最終段の前記第1単位回路は、前記コンバイナ回路の他方の入力に接続される、
付記8または9に記載の光送信器。
(付記11)
前記光素子は、前記コンバイナ回路の出力に接続される第2単位回路を有し、
前記第2単位回路は、N個(Nは1以上の整数)の2入力・2出力の第2位相シフタとN+1個の2入力・2出力の第2カプラが交互に縦続接続された第2カスケード構造と、前記第2カスケード構造の2つの出力の一方に接続されて光入力パワーが増大する方向に前記第2位相シフタを制御する第2コントローラとを有し、
前記第2コントローラは、前記第2カスケード構造からの1つの光入力と、N個の前記位相シフタに接続されるN個以上の電気出力を有する、
付記8~10のいずれかに記載の光送信器。
(付記12)
前記光素子の前記第2単位回路は、波長に対する透過率が周期的に変化する透過特性を有する、付記11に記載の光送信器。
(付記13)
前記光素子の前記第2単位回路の前記第2位相シフタは、非対称マッハツェンダ干渉計型の光導波路で形成されている付記11または12に記載の光送信器。
(付記14)
前記光素子の前記第1単位回路の前記位相シフタは、非対称マッハツェンダ干渉計型の光導波路で形成されている、付記8~13のいずれかに記載の光送信器。
【符号の説明】
【0089】
1 光送信器
3-1~3-N 光源
5-1~5-N 光変調器
10、10A、10B 光素子
20 第1単位回路
21-1~21-m、22-1~22-m フィルタ回路
23 第1のカスケード回路
24 第2のカスケード回路
25 コンバイナ回路
27 第1カスケード構造
30 第2単位回路
37 第2カスケード構造
40、40A、40B 合波器
50 等化器
201 第1コントローラ(Dコントローラ)
202 パワーモニタ
211 トリガ回路
215-1~215-N サブモジュール
301 第2コントローラ(Iコントローラ)
302 パワーモニタ
315-1~315-N サブモジュール
PS 位相シフタ
C カプラ
Dec 減少回路
Inc 増加回路