(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エンジン式産業車両
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240702BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20240702BHJP
【FI】
G08G1/16 C
B60W30/09
(21)【出願番号】P 2020207054
(22)【出願日】2020-12-14
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】久保谷 岳央
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-109519(JP,A)
【文献】特開2013-159117(JP,A)
【文献】特開2017-45367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
アクセル開度を検出するアクセルセンサと、
前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構と、
前記駆動輪に伝達される前記駆動力の調整を行い、かつ、前記アクセル開度から前記エンジンの目標回転数を演算する主制御装置と、
車体の進行方向に存在する物体の位置を検出する物体検出部と、
前記目標回転数を含む回転数指令に応じて前記エンジンを制御することで前記車体の車速を制御する走行制御装置と、
前記車体が通過すると予想される軌跡である予想軌跡を導出する予想軌跡導出部と、
前記物体検出部により検出された前記物体が前記予想軌跡内に位置している場合であって前記車体の進行方向が前記物体に近づく方向の場合に車速上限値を設定することで、前記車体に車速制限を課す車速上限設定部と、を備え、
前記車速上限設定部は、前記予想軌跡内に人が存在する場合、前記車速上限値を0にし、
前記主制御装置は、
前記目標回転数に制限値を設定するとともに前記アクセル開度に対応する前記目標回転数が前記制限値を上回っている場合には前記制限値を前記目標回転数とする前記回転数指令を前記走行制御装置に送り、
前記車体の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び前記駆動輪への前記駆動力を遮断する制御の少なくとも一方を行うことで前記エンジンの回転数を前記制限値に追従させて、前記車体の車速が前記車速上限値を上回らないように
し、
前記車速上限値が0に設定されている状態で前記予想軌跡内に人が存在しなくなると、加速度制限を課し、
前記加速度制限が課されている状態でアクセルオフが検出された場合、前記加速度制限を解除するように構成されているエンジン式産業車両。
【請求項2】
エンジンと、
アクセル開度を検出するアクセルセンサと、
前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構と、
前記駆動輪に伝達される前記駆動力の調整を行う主制御装置と、
車体の進行方向に存在する物体の位置を検出する物体検出部と、
前記車体が通過すると予想される軌跡である予想軌跡を導出する予想軌跡導出部と、
前記物体検出部により検出された前記物体が前記予想軌跡内に位置している場合であって前記車体の進行方向が前記物体に近づく方向の場合に車速上限値を設定することで、前記車体に車速制限を課す車速上限設定部と、を備え、
前記物体検出部による前記物体の検出可能範囲内には自動減速エリアが設定されており、
前記車速上限設定部は、前記自動減速エリア内、かつ、前記予想軌跡内に人が存在している場合、前記自動減速エリア内、かつ、前記予想軌跡外に人が存在している場合に比べて前記車速上限値を低く設定し、
前記主制御装置は、前記車体の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び前記駆動輪への前記駆動力を遮断する制御の少なくとも一方を行うことで、前記車体の車速が前記車速上限値を上回らないように構成されているエンジン式産業車両。
【請求項3】
前記自動減速エリアは、前記予想軌跡外のエリアのうち前記車速制限が課される車速制限エリアを含み、
前記車速上限設定部は、前記車速制限エリアに人が存在する場合、0より大きい前記車速上限値を設定することで前記車速制限を課し、
前記主制御装置は、
前記車速制限が課されている状態で前記車速制限エリアに人が存在しなくなると、加速度制限を課し、
前記加速度制限が課されている状態でアクセルオフが検出された場合、前記加速度制限を解除する請求項2に記載のエンジン式産業車両。
【請求項4】
前記車速上限設定部は、前記予想軌跡内に人が存在する場合、前記車速上限値を0にし、
前記主制御装置は、
前記車速上限値が0に設定されている状態で前記予想軌跡内に人が存在しなくなると、加速度制限を課し、
前記加速度制限が課されている状態でアクセルオフが検出された場合、前記加速度制限を解除する
請求項2に記載のエンジン式産業車両。
【請求項5】
前記主制御装置は、前記加速度制限が課されている状態で、前記車速が目標車速から所定値を減算した値に到達する条件、及び前記車体の進行方向が前記物体に近づく方向となるように操作が行われていない条件の少なくともいずれかが成立した場合、前記加速度制限を解除する
請求項1又は請求項4に記載のエンジン式産業車両。
【請求項6】
前記主制御装置は、前記予想軌跡内に前記物体が存在している場合には前記車速上限値を0に設定することで前記車体の走行を停止させ、前記予想軌跡内に前記物体が存在していない場合には前記車速制限を行わない請求項1又は請求項2に記載のエンジン式産業車両。
【請求項7】
前記主制御装置によって作動するブレーキ機構を備え、
前記主制御装置は、前記ブレーキ機構を作動させることで、前記車体の車速が前記車速上限値を上回らないように構成されている請求項1
~請求項6のうちいずれか一項に記載のエンジン式産業車両。
【請求項8】
前記主制御装置は、前記車体の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び前記駆動輪への前記駆動力を遮断する制御の両方を行うように構成されている請求項1
~請求項7のうちいずれか一項に記載のエンジン式産業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン式産業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示のエンジン式産業車両は、物体を検出するセンサと、制御装置と、エンジンと、を備える。エンジン式産業車両は、エンジンの駆動力によって走行する。制御装置は、センサによって設定範囲内に物体が存在していることを検出すると、エンジン式産業車両を停止させるように制御を行う。設定範囲は、エンジン式産業車両が停止するまでの最長距離である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示のエンジン式産業車両では、設定範囲内に物体が存在すると、エンジン式産業車両が停止するように制御が行われる。エンジン式産業車両には、物体との接触を更に適切に抑制することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するエンジン式産業車両は、エンジンと、前記エンジンの駆動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構と、前記駆動輪に伝達される前記駆動力の調整を行う主制御装置と、車体の進行方向に存在する物体の位置を検出する物体検出部と、前記車体が通過すると予想される軌跡である予想軌跡を導出する予想軌跡導出部と、前記物体検出部により検出された前記物体が前記予想軌跡内に位置している場合であって前記車体の進行方向が前記物体に近づく方向の場合に車速上限値を設定することで、前記車体に車速制限を課す車速上限設定部と、を備え、前記主制御装置は、前記車体の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び前記駆動輪への前記駆動力を遮断する制御の少なくとも一方を行うことで、前記車体の車速が前記車速上限値を上回らないように構成されている。
【0006】
主制御装置は、予想軌跡内に物体が位置している場合であって車体の進行方向が物体に近付く方向の場合に車速制限を課す。予想軌跡は、車体が通過すると予想される軌跡である。予想軌跡内に物体が存在している場合、車体の進行により、当該物体にエンジン式産業車両が接触するおそれがある。予想軌跡内に物体が存在している場合に車速制限を課すことで、エンジン式産業車両と物体との接触を適切に抑制することができる。
【0007】
上記エンジン式産業車両について、前記主制御装置によって作動するブレーキ機構を備え、前記主制御装置は、前記ブレーキ機構を作動させることで、前記車体の車速が前記車速上限値を上回らないように構成されていてもよい。
【0008】
主制御装置は、ブレーキ機構を作動させることで、車体の減速を行うことができる。ブレーキ機構により、車体の減速度の調整が可能になる。
上記エンジン式産業車両について、前記主制御装置は、前記車体の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び前記駆動輪への前記駆動力を遮断する制御の両方を行うように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、物体との接触を適切に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】障害物検出装置が行う処理を示すフローチャート。
【
図4】自動減速エリア及び予想軌跡を模式的に示す図。
【
図5】フォークリフトの車速を高くした場合の予想軌跡を模式的に示す図。
【
図6】フォークリフトが旋回している場合の予想軌跡を模式的に示す図。
【
図7】フォークリフトが旋回している状態でフォークリフトの車速を高くした場合の予想軌跡を模式的に示す図。
【
図9】主制御装置が遷移する各状態と、車速上限値、及び加速度上限値との対応関係を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、エンジン式産業車両の一実施形態について説明する。
図1に示すように、エンジン式産業車両としてのフォークリフト10は、車体11と、2つの駆動輪12,13と、2つの操舵輪14と、荷役装置20と、を備える。
【0012】
車体11は、運転席の上部に設けられたヘッドガード15を備える。以下の説明において、前後左右は、フォークリフト10の前後左右を示す。
駆動輪12,13は、車体11の前下部に配置されている。2つの駆動輪12,13は、車幅方向に互いに離間して配置されている。
【0013】
2つの操舵輪14は、車体11の後下部に配置されている。2つの操舵輪14は、車幅方向に互いに離間して配置されている。
荷役装置20は、マスト21と、一対のフォーク22と、リフトシリンダ23と、を備える。マスト21は、車体11の前部に設けられている。フォーク22は、マスト21とともに昇降可能に設けられている。フォーク22には、荷が積載される。リフトシリンダ23は油圧シリンダである。リフトシリンダ23の伸縮によってマスト21は昇降する。マスト21の昇降に伴い、フォーク22は昇降する。本実施形態のフォークリフト10は、操作者による操作によって走行動作及び荷役動作が行われるものである。
【0014】
図2に示すように、フォークリフト10は、主制御装置31と、アクセルペダル16と、アクセルセンサ34と、ディレクションレバー17と、ディレクションセンサ35と、タイヤ角センサ36と、揚高センサ37と、重量センサ38と、走行系60と、荷役系90と、物体検出部51と、バス40と、を備える。
【0015】
主制御装置31は、プロセッサ32と、記憶部33と、を備える。プロセッサ32としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はDSP(Digital Signal Processor)が用いられる。記憶部33は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含む。記憶部33には、フォークリフト10を動作させるためのプログラムが記憶されている。記憶部33は、処理をプロセッサ32に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納しているといえる。記憶部33、すなわち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。主制御装置31は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である主制御装置31は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0016】
アクセルセンサ34は、アクセルペダル16の操作量を検出する。アクセルペダル16の操作量は、アクセル開度ともいえる。アクセルセンサ34は、アクセル開度に応じた電気信号を主制御装置31に出力する。主制御装置31は、アクセルセンサ34からの電気信号によりアクセル開度を認識可能である。
【0017】
ディレクションセンサ35は、ディレクションレバー17の操作方向を検出する。ディレクションレバー17は、車体11の進行方向を指示するものである。車体11の進行方向とは、フォークリフト10の進行方向ともいえる。ディレクションセンサ35は、中立を基準として、前進を指示する方向にディレクションレバー17が操作されているか、後進を指示する方向にディレクションレバー17が操作されているかを検出する。ディレクションセンサ35は、ディレクションレバー17の操作方向に応じた電気信号を主制御装置31に出力する。主制御装置31は、ディレクションセンサ35からの電気信号によりディレクションレバー17の操作方向を認識可能である。主制御装置31は、操作者により前進が指示されているか、後進が指示されているか、いずれも指示されていないかを把握することができる。
【0018】
タイヤ角センサ36は、操舵輪14の操舵角を検出する。タイヤ角センサ36は、操舵角に応じた電気信号を主制御装置31に出力する。主制御装置31は、タイヤ角センサ36からの電気信号により操舵角を認識可能である。
【0019】
揚高センサ37は、荷役装置20の揚高を検出する。荷役装置20の揚高とは、路面からフォーク22までの高さである。揚高センサ37は、例えば、リールセンサである。揚高センサ37は、揚高に応じた電気信号を主制御装置31に出力する。主制御装置31は、揚高センサ37からの電気信号により荷役装置20の揚高を認識可能である。
【0020】
重量センサ38は、荷役装置20に積載された荷の重量を検出する。重量センサ38は、例えば、リフトシリンダ23の油圧を検出する圧力センサである。重量センサ38は、荷の重量に応じた電気信号を主制御装置31に出力する。主制御装置31は、重量センサ38からの電気信号により荷の重量を認識可能である。
【0021】
走行系60は、車体11を進行させるための機構である。走行系60は、エンジン61と、出力軸63と、回転数センサ64と、動力伝達機構70と、差動装置80と、車軸81と、車速センサ82と、走行制御装置83と、を備える。
【0022】
エンジン61は、フォークリフト10の走行動作及び荷役動作の駆動源である。本実施形態のエンジン61は、ガソリンを燃料とするガソリンエンジンである。エンジン61は、スロットルアクチュエータ62を備える。スロットルアクチュエータ62は、スロットル開度を調整する。スロットルアクチュエータ62によってスロットル開度が調整されることで、エンジン61への空気量が調整される。これにより、エンジン61の回転数が制御される。
【0023】
出力軸63は、エンジン61に連結されている。出力軸63は、エンジン61の駆動によって回転する。
回転数センサ64は、出力軸63に設けられている。回転数センサ64は、エンジン61の回転数を検出する。エンジン61の回転数とは、出力軸63の回転数である。回転数センサ64は、出力軸63の回転数に応じた電気信号を走行制御装置83に出力する。
【0024】
動力伝達機構70は、エンジン61の駆動力を駆動輪12,13に伝達する。動力伝達機構70は、トルクコンバータ71と、トランスミッション72と、電磁弁79と、を備える。
【0025】
トルクコンバータ71は、出力軸63に連結されている。エンジン61の駆動力は、出力軸63を介してトルクコンバータ71に伝達される。トルクコンバータ71は、出力軸63に連結されたポンプと、タービンと、を備える。トルクコンバータ71では、ポンプから吐出された作動油によりタービンが回転する。
【0026】
トランスミッション72は、入力軸73と、前進クラッチ74と、前進ギヤ列75と、後進クラッチ76と、後進ギヤ列77と、出力軸78と、を備える。
入力軸73は、トルクコンバータ71と連結されている。入力軸73を介して、トルクコンバータ71からトランスミッション72に駆動力が伝達される。
【0027】
前進クラッチ74は、入力軸73に設けられている。前進ギヤ列75は、前進クラッチ74と出力軸78との間に設けられている。前進クラッチ74は、接続状態又は遮断状態に切り替えられる。接続状態は、入力軸73と前進ギヤ列75とが接続される状態である。遮断状態は、入力軸73と前進ギヤ列75とが遮断される状態である。前進クラッチ74により入力軸73と前進ギヤ列75とが接続されている場合には、入力軸73から前進ギヤ列75に駆動力が伝達される。前進ギヤ列75に伝達された駆動力は、出力軸78に伝達される。前進クラッチ74が前進ギヤ列75に接続されている場合には、エンジン61の駆動力が出力軸78に伝達されるといえる。前進クラッチ74と前進ギヤ列75とが遮断されている場合、入力軸73から前進ギヤ列75に駆動力が伝達されない。
【0028】
後進クラッチ76は、入力軸73に設けられている。後進ギヤ列77は、後進クラッチ76と出力軸78との間に設けられている。後進クラッチ76は、接続状態又は遮断状態に切り替えられる。接続状態は、入力軸73と後進ギヤ列77とが接続される状態である。遮断状態は、入力軸73と後進ギヤ列77とが遮断される状態である。後進クラッチ76により入力軸73と後進ギヤ列77とが接続されている場合には、入力軸73から後進ギヤ列77に駆動力が伝達される。後進ギヤ列77に伝達された駆動力は、出力軸78に伝達される。後進クラッチ76が後進ギヤ列77に接続されている場合には、エンジン61の駆動力が出力軸78に伝達されるといえる。後進クラッチ76と後進ギヤ列77とが遮断されている場合、入力軸73から後進ギヤ列77に駆動力が伝達されない。
【0029】
前進クラッチ74、及び後進クラッチ76としては、油圧式のクラッチが用いられている。油圧式のクラッチとしては、例えば、湿式多板クラッチを挙げることができる。
出力軸78には、前進クラッチ74又は後進クラッチ76が接続状態の場合に駆動力が伝達される。出力軸78は、前進クラッチ74又は後進クラッチ76から伝達される駆動力によって回転する。
【0030】
電磁弁79は、前進クラッチ74及び後進クラッチ76のそれぞれに対応して1つずつ設けられている。電磁弁79は、前進クラッチ74及び後進クラッチ76への作動油の供給及び排出を制御する。電磁弁79は、ソレノイドへの通電量により作動油の供給及び排出を行う。電磁弁79による作動油の供給及び排出によってクラッチ74,76の接続状態と遮断状態とが切り替えられる。
【0031】
ディレクションレバー17により前進が指示されていれば、前進クラッチ74と前進ギヤ列75とが接続される。ディレクションレバー17により後進が指示されていれば、後進クラッチ76と後進ギヤ列77とが接続される。ディレクションレバー17により中立が指示されていれば、前進クラッチ74及び後進クラッチ76の両方が遮断状態にされる。
【0032】
差動装置80は、出力軸78に連結されている。車軸81は、差動装置80に連結されている。車軸81には、駆動輪12,13が連結されている。出力軸78が回転することで、車軸81は回転する。車軸81の回転によって駆動輪12,13が回転することで、フォークリフト10は走行する。前進クラッチ74と前進ギヤ列75とが接続されていれば、フォークリフト10は前進する。後進クラッチ76と後進ギヤ列77とが接続されていれば、フォークリフト10は後進する。
【0033】
車速センサ82は、車体11の車速を検出するためのセンサである。車体11の車速とは、フォークリフト10の車速ともいえる。車速センサ82は、例えば、出力軸78や車軸81に設けられている。車速センサ82は、車体11の車速に応じたパルス信号を走行制御装置83に出力する。
【0034】
走行制御装置83は、エンジン61の制御を行うエンジンコントロールユニットである。走行制御装置83のハードウェア構成は、例えば、主制御装置31と同様である。走行制御装置83は、スロットルアクチュエータ62を制御することで、スロットル開度の調整を行う。スロットル開度の調整が行われることで、エンジン61の駆動力が調整される。走行制御装置83は、クラッチ74,76の接続状態と遮断状態とを切り替える電磁弁79を制御する。これにより、クラッチ74,76の接続状態と遮断状態とが切り替えられる。
【0035】
荷役系90は、荷役装置20を動作させるための機構である。荷役系90は、作動油を貯留しているオイルタンク91と、油圧ポンプ92と、油圧機構93と、を備える。
油圧ポンプ92は、エンジン61によって駆動される。油圧ポンプ92は、オイルタンク91から作動油を汲み上げる。汲み上げられた作動油は、油圧機構93に供給される。
【0036】
油圧機構93は、コントロールバルブを含む。コントロールバルブは、油圧機器への作動油の供給と排出とを制御する。油圧機器としては、リフトシリンダ23、及び荷役装置20を傾動させるティルトシリンダを挙げることができる。荷役装置20は、作動油の供給又は排出によって動作する。なお、油圧機器としては、フォークリフト10が備える油圧機器であればよく、車体11が備える油圧機器であってもよい。車体11が備える油圧機器としては、例えば、クラッチ74,76を挙げることができる。
【0037】
物体検出部51は、ステレオカメラ52と、ステレオカメラ52によって撮像された画像から物体の検出を行う障害物検出装置55と、警報装置58と、を備える。
図1に示すように、ステレオカメラ52は、ヘッドガード15に配置されている。ステレオカメラ52は、フォークリフト10の上方からフォークリフト10の走行する路面を鳥瞰できるように配置されている。本実施形態のステレオカメラ52は、フォークリフト10の後方を撮像する。従って、障害物検出装置55で検出される物体は、フォークリフト10の後方の物体となる。警報装置58及び障害物検出装置55は、ステレオカメラ52とユニット化されて、ステレオカメラ52とともにヘッドガード15に配置されていてもよい。また、警報装置58及び障害物検出装置55は、ヘッドガード15とは異なる位置に配置されていてもよい。
【0038】
図2に示すように、ステレオカメラ52は、2つのカメラ53,54を備える。カメラ53,54は、例えば、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサを用いたものである。各カメラ53,54は、互いの光軸が平行となるように配置されている。2つのカメラ53,54は、互いに離間しているため、2つのカメラ53,54によって撮像される画像では同一物体がずれて写ることになる。詳細にいえば、同一物体を撮像した場合、2つのカメラ53,54によって撮像される画像に写る物体には、2つのカメラ53,54間の距離に応じた画素のずれが生じることになる。本実施形態のステレオカメラ52としては、水平画角が100°以上の広角のステレオカメラを用いているが、ステレオカメラ52としては、広角ではないステレオカメラを用いてもよい。
【0039】
障害物検出装置55は、プロセッサ56と、記憶部57と、を備える。プロセッサ56としては、例えば、CPU、GPU、又はDSPが用いられる。記憶部57は、RAM及びROMを含む。記憶部57には、ステレオカメラ52によって撮像された画像から物体を検出するための種々のプログラムが記憶されている。記憶部57は、処理をプロセッサ56に実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納しているといえる。記憶部57、すなわち、コンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。障害物検出装置55は、ASICやFPGA等のハードウェア回路によって構成されていてもよい。処理回路である障害物検出装置55は、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、ASICやFPGA等の1つ以上のハードウェア回路、或いは、それらの組み合わせを含み得る。
【0040】
障害物検出装置55は、以下の処理を所定の制御周期で繰り返し行うことで、フォークリフト10の周囲に存在する物体の検出を行う。また、障害物検出装置55は、検出した物体の位置を導出する。物体の位置とは、フォークリフト10と物体との相対的な位置である。
【0041】
図3に示すように、ステップS100において、障害物検出装置55は、ステレオカメラ52の各カメラ53,54から画像を取得する。
次に、ステップS110において、障害物検出装置55は、ステレオ処理を行うことで、視差画像を取得する。視差画像は、画素に対して視差[px]を対応付けたものである。視差画像とは、必ずしも表示を要するものではなく、視差画像における各画素に視差が対応付けられたデータのことを示す。視差は、ステレオカメラ52の備える2つのカメラ53,54によって撮像された画像を比較し、各画像に写る同一特徴点について画像間の画素数の差を導出することで得られる。障害物検出装置55は、2つのカメラ53,54によって撮像された画像のうち一方を基準画像、他方を比較画像とし、基準画像の画素毎に、最も類似する比較画像の画素を抽出する。障害物検出装置55は、基準画像の画素と、比較画像の画素の画素数の差を視差として算出する。これにより、基準画像の各画素に視差が対応付けられた視差画像を取得することができる。なお、特徴点とは、物体のエッジなど、境目として認識可能な部分である。特徴点は、輝度情報などから検出することができる。
【0042】
次に、ステップS120において、障害物検出装置55は、実空間上の座標系であるワールド座標系における特徴点の座標を導出する。ワールド座標系は、フォークリフト10が水平面に位置している状態で水平方向のうちフォークリフト10の車幅方向に延びる軸をX軸、水平方向のうちX軸に直交する軸をY軸、鉛直方向に延びる軸をZ軸とする座標系である。特徴点の座標の導出は、ステレオカメラ52の基線長、ステレオカメラ52の焦点距離、及びステップS110で得られた視差画像からカメラ座標系における特徴点の座標を導出した後に、当該座標をワールド座標系における座標に変換することで行われる。なお、
図1に示すように、X軸、Y軸及びZ軸を矢印X,Y,Zで図示している。
【0043】
図3に示すように、ステップS130において、障害物検出装置55は、特徴点をクラスタ化することで物体の抽出を行う。障害物検出装置55は、物体の一部を表す点である特徴点のうち同一物体を表していると想定される特徴点の集合を1つの点群とし、当該点群を物体として抽出する。障害物検出装置55は、ステップS120で導出されたワールド座標系における特徴点の座標から、所定範囲内に位置する特徴点を1つの点群とみなすクラスタ化を行う。障害物検出装置55は、クラスタ化された点群を1つの物体とみなす。なお、ステップS130で行われる特徴点のクラスタ化は種々の手法で行うことができる。
【0044】
次に、ステップS140において、障害物検出装置55は、ワールド座標系における物体の座標を導出する。物体の座標は、点群を構成する特徴点の座標から導出可能である。ワールド座標系における物体の座標は、フォークリフト10と物体との相対位置を表している。詳細にいえば、ワールド座標系における物体の座標のうちX座標は原点から物体までの左右方向の距離を表しており、Y座標は原点から物体までの前後方向の距離を表している。原点は、例えば、X座標及びY座標をステレオカメラ52の配置位置とし、Z座標を路面とする座標である。X座標及びY座標から、ステレオカメラ52の配置位置から物体までのユークリッド距離を導出することも可能である。ワールド座標系における物体の座標のうちZ座標は、路面からの物体の高さを表す。
【0045】
次に、ステップS150において、障害物検出装置55は、物体が人か人以外の障害物かを判定する。物体が人か否かの判定は、種々の方法で行うことができる。本実施形態において、障害物検出装置55は、ステレオカメラ52の2つのカメラ53,54のうちいずれかで撮像された画像に対して、人検出処理を行う。障害物検出装置55は、ステップS140で得られたワールド座標系における物体の座標をカメラ座標に変換し、当該カメラ座標をカメラ53,54によって撮像された画像の座標に変換する。本実施形態において、障害物検出装置55は、ワールド座標系における物体の座標を基準画像の座標に変換する。障害物検出装置55は、基準画像における物体の座標に対して、人検出処理を行う。人検出処理は、例えば、特徴量抽出と、事前に機械学習を行った人判定器と、を用いて行われる。特徴量抽出としては、例えば、HOG:Histogram of Oriented Gradients特徴量、Haar-Like特徴量などの画像における局所領域の特徴量を抽出する手法が挙げられる。人判定器としては、例えば、教師有り学習モデルによる機械学習を行ったものが用いられる。教師有り学習モデルとしては、例えば、サポートベクタマシン、ニューラルネットワーク、ナイーブベイズ、ディープラーニング、決定木等を採用することが可能である。機械学習に用いる教師データとしては、画像から抽出された人の形状要素や、外観要素などの画像固有成分が用いられる。形状要素として、例えば、人の大きさや輪郭などが挙げられる。外観要素としては、例えば、光源情報、テクスチャ情報、カメラ情報などが挙げられる。光源情報には、反射率や、陰影等に関する情報が含まれる。テクスチャ情報には、カラー情報等が含まれる。カメラ情報には、画質、解像度、画角等に関する情報が含まれる。
【0046】
警報装置58は、フォークリフト10の操作者に対して警報を行う装置である。警報装置58としては、例えば、音による警報を行うブザー、光による警報を行うランプ、あるいは、これらの組み合わせ等を挙げることができる。
【0047】
図2に示すように、主制御装置31、走行制御装置83及び物体検出部51は、バス40によって互いに情報を取得可能に構成されている。主制御装置31、走行制御装置83及び物体検出部51は、CAN:Controller Area NetworkやLIN:Local Interconnect Networkなどの車両用の通信プロトコルに従った通信を行うことで、互いに情報を取得する。
【0048】
主制御装置31は、車体11の車速を導出する。車体11の車速は、車速センサ82の検出結果、ギヤ比、駆動輪12,13の外径、タイヤ角センサ36により検出された操舵角などを用いることで導出可能である。車速センサ82の検出結果は、走行制御装置83から取得可能である。ギヤ比、及び駆動輪12,13の外径は、予め記憶部33に記憶しておけばよい。なお、主制御装置31は、車体11の車速とともに車体11の進行方向も導出する。車体11の進行方向とは、前進方向及び後進方向のいずれかである。なお、本実施形態において、車速とは、車速の絶対値を示す。
【0049】
主制御装置31は、バス40を介して警報指令を送信することで、警報装置58を作動させる。詳細にいえば、物体検出部51は、警報装置58を作動させる作動部を備え、警報指令を受信すると作動部は警報装置58を作動させる。
【0050】
次に、フォークリフト10で行われる車速の制御について説明する。
フォークリフト10では、物体検出部51によって検出された物体の位置、及び物体の種類に応じて主制御装置31によって自動減速制御が行われる。物体の種類とは、人と、人以外の障害物のいずれかである。以下の説明において、障害物とは人以外の物体を示す。
【0051】
図4に示すように、物体検出部51による物体の検出可能範囲内には、自動減速制御に用いられる自動減速エリアAA2が設定されている。物体検出部51による物体の検出可能範囲とは、ステレオカメラ52による撮像可能範囲ともいえる。本実施形態において、自動減速エリアAA2は、物体検出部51による物体の検出可能範囲と同一の領域である。自動減速エリアAA2は、ステレオカメラ52の配置位置からフォークリフト10の後方、及びフォークリフト10の車幅方向に拡がる領域である。自動減速エリアAA2は、ワールド座標系におけるX座標及びY座標で規定されるエリアである。
【0052】
主制御装置31は、車体11の予想軌跡Tを導出する。予想軌跡Tとは、車体11が通過すると予想される軌跡である。本実施形態において、主制御装置31は、車体11の進行方向が後進方向の場合、例えば、操作者により後進を指示する方向にディレクションレバー17が操作されている場合に車体11が通過すると予想される予想軌跡Tを導出する。車体11の予想軌跡Tとは、フォークリフト10の予想軌跡Tともいえる。
【0053】
予想軌跡Tは、操舵輪14の操舵角及びフォークリフト10の寸法情報から導出することができる。フォークリフト10の寸法情報には、駆動輪12,13の中心軸線から車体11の後端までの寸法[mm]、ホイールベース[mm]、及び車幅[mm]が含まれる。フォークリフト10の寸法情報は、既知情報であるため、主制御装置31の記憶部33等に予め記憶しておくことができる。予想軌跡Tは、車体11の左端LEが通過する軌跡LTと、車体11の右端REが通過する軌跡RTとの間の軌跡である。主制御装置31は、フォークリフト10の後方に延びる予想軌跡Tのワールド座標系におけるX座標及びY座標を導出する。
【0054】
図4及び
図5に示すように、フォークリフト10が直進している場合、予想軌跡Tは、フォークリフト10から後進方向に向けて直線状に延びる軌跡となる。
図6及び
図7に示すように、フォークリフト10が旋回している場合、予想軌跡Tは、フォークリフト10から後進方向に向けて曲がる軌跡となる。フォークリフト10が右方に旋回している場合、予想軌跡Tは右方に延び、フォークリフト10が左方に旋回している場合、予想軌跡Tは左方に延びる。主制御装置31は、フォークリフト10が旋回している場合、旋回方向に向けて延びる予想軌跡Tを導出するといえる。
【0055】
図5に示すフォークリフト10は、
図4に示す状態のフォークリフト10よりも車速が高い。同様に、
図7に示すフォークリフト10は、
図6に示すフォークリフト10よりも車速が高い。
図4~
図7に示すように、主制御装置31は、車体11の車速が高いほど、予想軌跡Tを進行方向に長くする。本実施形態では、車速によって軌跡導出閾値YTが変更される。軌跡導出閾値YTは、ワールド座標系におけるY座標に対して設定された閾値であり、車速が高いほどフォークリフト10から離れたY座標になる。主制御装置31は、フォークリフト10から軌跡導出閾値YTまでの予想軌跡Tを導出する。なお、車体11の車速が高いほど予想軌跡Tを進行方向に長くするとは、車体11の車速と予想軌跡Tの進行方向の長さとが比例関係になる態様に限られず、車体11の車速が高くなれば予想軌跡Tの進行方向の長さが長くなる相関があればよい。
【0056】
予想軌跡Tは、自動減速エリアAA2内で導出される。本実施形態において、主制御装置31が予想軌跡導出部として機能している。
自動減速制御について説明する。なお、以下の説明におけるX座標及びY座標は、ワールド座標系におけるX座標及びY座標である。
【0057】
自動減速制御には、走行停止制御と、車速制限制御と、が含まれる。走行停止制御は、フォークリフト10を停止させる制御である。車速制限制御は、車速上限値以下でのフォークリフト10の走行を許容する制御である。
【0058】
図8に示すように、走行停止制御では、主制御装置31の状態を通常制御状態S10、プレ走行制限状態S11、走行制限状態S12、及び走行制限プレ解除状態S13のいずれかの状態にすることで、各状態に応じた制御が行われる。
【0059】
図9に示すように、通常制御状態S10とは、車速制限が課されていない状態である。また、通常制御状態S10では、加速度についても制限が課されない。主制御装置31が通常制御状態S10の場合、主制御装置31は、アクセルセンサ34により検出されたアクセル開度から目標回転数を演算する。目標回転数は、アクセル開度が大きいほど大きな値になる。主制御装置31は、ディレクションレバー17の操作方向からフォークリフト10を前進させるか後進させるかを判断する。主制御装置31は、目標回転数を示す情報とディレクションレバー17の操作方向を示す情報を含む回転数指令を生成する。主制御装置31は、当該回転数指令を走行制御装置83に送る。走行制御装置83は、目標回転数に追従するようにエンジン61の制御を行う。詳細にいえば、走行制御装置83は、スロットルアクチュエータ62を制御することで、スロットル開度を調整する。これにより、操作者によるアクセルペダル16の操作量に応じた車速でフォークリフト10は走行する。このように、主制御装置31は、走行制御装置83に回転数指令を送ることで、エンジン61の回転数を制御することができる。エンジン61の回転数が制御されることで、駆動輪12,13に伝達される駆動力が調整されるといえる。主制御装置31は、駆動輪12,13に伝達される駆動力を調整可能といえる。
【0060】
なお、車速制限が課されていない状態とは、車速上限値が設定されていない態様に加えて、フォークリフト10の到達し得る最高速度よりも高い車速上限値を設定する等、実質的には機能しない車速上限値を設定する態様を含む。同様に、加速度制限が課されていない状態とは、加速度上限値が設定されていない態様に加えて、フォークリフト10の到達し得る最高加速度よりも高い加速度を設定する等、実質的には機能しない加速度上限値を設定する態様を含む。
【0061】
図8に示すように、主制御装置31が通常制御状態S10の際に、プレ走行制限条件が成立すると、主制御装置31はプレ走行制限状態S11に遷移する。プレ走行制限条件の成立とは、以下の条件A1,A2の両方が成立することである。
【0062】
条件A1…警報エリアに人が存在している。
条件A2…フォークリフト10が後進方向に走行している。
警報エリアは、自動減速エリアAA2内のうち車速制限が課されるエリアとは異なるエリアである。警報エリアとは、予想軌跡T内に人が入る前に警報装置58による警報を行えるように設定されたエリアである。条件A1の警報エリアは、予想軌跡T内を除く自動減速エリアAA2の全体であってもよいし、予想軌跡Tから予想軌跡T外に拡がる所定の範囲のエリアであってもよい。
【0063】
フォークリフト10が後進方向に走行しているか否かは、主制御装置31により演算される車速及び進行方向から判定することができる。主制御装置31は、フォークリフト10の進行方向が後進方向であり、かつ、車速が停止判定閾値[km/h]より高い場合にフォークリフト10が後進方向に走行していると判断する。停止判定閾値は、フォークリフト10が停止しているとみなせる値に設定されている。停止判定閾値は、例えば、0[km/h]~3.0[km/h]から任意の値を設定することができる。
【0064】
プレ走行制限状態S11とは、警報装置58による警報が行われる状態である。プレ走行制限状態S11では、車速制限、及び加速度制限は課されない。なお、プレ走行制限状態S11での警報は、フォークリフト10のスイッチバック時には行われない。スイッチバックとは、ディレクションレバー17の操作により前進から後進又は後進から前進を切り替える動作である。主制御装置31は、ディレクションセンサ35の検出結果と、フォークリフト10の進行方向とが不一致になると、スイッチバックフラグをオンにする。主制御装置31は、スイッチバックフラグがオンの状態で、プレ走行制限状態S11に遷移しても、警報装置58による警報を行わない。スイッチバックフラグは、例えば、プレ走行制限状態S11から他の状態に主制御装置31が遷移することで解除される。
【0065】
主制御装置31がプレ走行制限状態S11の際に、プレ走行制限解除条件が成立すると、主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。プレ走行制限解除条件の成立とは、以下の条件B1,B2の少なくともいずれかが成立することである。
【0066】
条件B1…予想軌跡T内及び警報エリア内に人が存在しない。
条件B2…後進方向への走行停止、かつ、後進操作されていない。
後進方向への走行停止とは、フォークリフト10の車速が停止判定閾値より高い状態から停止判定閾値以下となることである。即ち、走行しているフォークリフト10を停止させることである。後進操作されていない状態とは、アクセルペダル16が操作されていない状態、及びディレクションセンサ35の検出結果が後進ではない状態の少なくともいずれかが成立する状態である。ディレクションセンサ35の検出結果が後進ではない状態とは、ディレクションセンサ35の検出結果が中立又は前進の状態である。
【0067】
主制御装置31がプレ走行制限状態S11の際に、走行制限条件が成立すると、主制御装置31は走行制限状態S12に遷移する。走行制限条件の成立とは、以下の条件C1,C2の全てが成立することである。
【0068】
条件C1…予想軌跡T内に人が存在する。
条件C2…フォークリフト10が後進方向に走行している。
条件C1が成立しているか否かは、人のX座標及びY座標から判定することができる。予想軌跡Tは、X座標及びY座標で規定されているため、人のX座標及びY座標から、人が予想軌跡T内に存在しているかを判定することができる。条件C2は、条件A2と同一条件である。
【0069】
図9に示すように、走行制限状態S12は、車速上限値を0にすることで、走行しているフォークリフト10を減速させて、停止させる状態である。車速上限値が設定されることで、車体11に車速制限が課される。車体11の車速制限とは、フォークリフト10の車速制限ともいえる。主制御装置31は、駆動輪12,13への駆動力を遮断する制御を行う。駆動輪12,13への駆動力の遮断は、駆動輪12,13に伝達される駆動力の調整の一態様である。主制御装置31は、走行制御装置83に遮断指令を送ることで、駆動輪12,13への駆動力を遮断する。走行制御装置83は、遮断指令を受けると、動力伝達機構70を制御することで、エンジン61の駆動力が駆動輪12,13に伝達されないようにする。例えば、走行制御装置83は、クラッチ74,76とギヤ列75,77とが接続されないようにトランスミッション72を制御したり、クラッチ74,76を遮断状態にする。これにより、フォークリフト10は、走行抵抗により減速していく。フォークリフト10が平坦路で走行している場合、フォークリフト10は停止する。走行抵抗は、空気抵抗、転がり抵抗、及び勾配抵抗を含む。走行制限状態S12では、警報装置58による警報が行われる。
【0070】
図8に示すように、主制御装置31が走行制限状態S12の際に、走行制限解除条件が成立すると、主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。走行制限解除条件の成立とは、以下の条件D1が成立することである。
【0071】
条件D1…後進方向への走行停止、かつ、後進操作されていない。
条件D1は、条件B2と同一条件である。
主制御装置31が走行制限状態S12の際に、走行制限プレ解除条件が成立すると、主制御装置31は走行制限プレ解除状態S13に遷移する。走行制限プレ解除条件の成立とは、以下の条件E1,E2の全てが成立することである。
【0072】
条件E1…予想軌跡T内に人が存在していない。
条件E2…フォークリフト10が後進方向に走行している。
条件E1は、条件C1が不成立になると成立するといえる。条件E2は、条件A2と同一条件である。
【0073】
図9に示すように、走行制限プレ解除状態S13とは、車速制限が解除される一方で、加速度制限が課される状態である。主制御装置31は、加速度上限値をAS1[m/s2]に設定し、フォークリフト10の加速度がAS1を上回らないように制御を行う。AS1は、0より大きい値であり、フォークリフト10の到達し得る最高加速度よりも低い値である。主制御装置31は、AS1以下でのフォークリフト10の加速を許容する。加速度制限が課されている場合、主制御装置31は、フォークリフト10の加速度が加速度上限値を上回らないように制御を行う。例えば、主制御装置31は、エンジン61の回転数の増加を制限することで、加速度制限を行う。主制御装置31は、走行制御装置83にエンジン61の回転数の増加を制限するように指令を送る。走行制御装置83は、エンジン61の回転数の単位時間当たりの増加量を制限することで、フォークリフト10の加速度がAS1を上回らないように制御を行う。走行制限プレ解除状態S13では、警報装置58による警報は行われない。
【0074】
図8に示すように、主制御装置31が走行制限プレ解除状態S13の際に、走行制限本解除条件が成立すると、主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。走行制限本解除条件の成立とは、以下の条件F1,F2の少なくともいずれかが成立することである。
【0075】
条件F1…フォークリフト10の車速が目標車速から第1所定値を減算した値に到達。
条件F2…後進操作されていない。
条件F1は、目標車速と、フォークリフト10の車速との差である速度偏差が第1所定値未満になることといえる。走行制限プレ解除状態S13では、加速度制限が課されるため、フォークリフト10の速度追従性が低下し、フォークリフト10の車速が目標車速に到達しにくい。第1所定値は、加速度制限が課されている状態で、フォークリフト10の車速が操作者の意図する目標車速に到達したと判定するために設定されている。第1所定値としては、例えば、0.5[km/h]~2.0[km/h]から任意の値を設定できる。
【0076】
主制御装置31が走行制限プレ解除状態S13の際に、走行制限条件が成立すると、主制御装置31は、走行制限状態S12に遷移する。同様に、主制御装置31が通常制御状態S10の際に、走行制限条件が成立すると、主制御装置31は、走行制限状態S12に遷移する。
【0077】
なお、前述したように、主制御装置31は、車体11の車速が高いほど予想軌跡Tを進行方向に延ばす。主制御装置31が走行制限状態S12に遷移し、車体11の車速が低くなるにつれて予想軌跡Tを進行方向に短くすると、人が予想軌跡T外となるおそれがある。すると、フォークリフト10と人とが近づいているにも関わらず、主制御装置31は走行制限状態S12と走行制限プレ解除状態S13とを交互に遷移することになる。これを抑制するため、主制御装置31は、予想軌跡T内に存在する人を検出した場合、車体11の車速に関わらず予想軌跡Tの進行方向への長さ、即ち、軌跡導出閾値YTを維持する。軌跡導出閾値YTの維持は、例えば、予想軌跡T内に人が存在しなくなることを契機に解除される。
【0078】
次に、車速制限制御について説明する。車速制限制御は、物体が人の場合と、物体が障害物の場合で異なる制御が行われる。物体が人の場合と、物体が障害物の場合で状態遷移図は同一となるため、
図10を用いて物体が人の場合と、物体が障害物の場合の車速制限制御について説明を行う。まず、物体が人の場合の車速制限制御について説明する。
【0079】
図10に示すように、車速制限制御では、主制御装置31の状態を制限解除状態S21、プレ制限開始状態S22、制限開始状態S23、及び制限プレ解除状態S24のいずれかの状態にすることで、各状態に応じた制御が行われる。
【0080】
図9に示すように、制限解除状態S21とは、車速制限が課されていない状態である。また、制限解除状態S21では、加速度についても制限が課されない。
図10に示すように、主制御装置31が制限解除状態S21の際に、プレ制限開始条件が成立すると、主制御装置31はプレ制限開始状態S22に遷移する。プレ制限開始条件の成立とは、以下の条件G1,G2の全てが成立することである。
【0081】
条件G1…自動減速エリアAA2のうち事前警報エリアに人が存在。
条件G2…フォークリフト10が後進方向に走行している。
事前警報エリアとは、車速制限が課される車速制限エリアよりも遠方に存在するエリアである。車速制限エリアとは、自動減速エリアAA2内、かつ、予想軌跡T外のエリアのうち車速制限が課されるエリアである。自動減速エリアAA2内のうちフォークリフト10から遠方の位置では、車速制限を課さない場合がある。即ち、自動減速エリアAA2内には、車速制限が課される車速制限エリアと車速制限エリアよりもフォークリフト10から離れたエリアであって車速制限が課されないエリアの両方が存在し得る。車速制限エリアは、予想軌跡Tから予想軌跡Tの後方及び予想軌跡Tの左右に拡がる領域である。車速制限エリアは、フォークリフト10の車速及び予想軌跡Tから定まる。事前警報エリアは、フォークリフト10の車速と、人の位置に応じて設定される車速上限値から導出される。事前警報エリアは、人が事前警報エリア内に入ってから車速制限エリアに入るまでの時間が予め定められた設定時間となるように導出される。予め定められた設定時間としては、例えば、1秒~3秒等である。
【0082】
プレ制限開始状態S22とは、警報装置58による警報が行われる状態である。プレ制限開始状態S22とは、車速制限が課される前に操作者に対して車速制限が課されるおそれがあることを警報するための状態といえる。プレ制限開始状態S22では、車速制限、及び加速度制限は課されない。プレ制限開始状態S22でも、プレ走行制限状態S11の場合と同様に、フォークリフト10のスイッチバック時には警報が行われない。
【0083】
主制御装置31がプレ制限開始状態S22の際に、プレ制限開始解除条件が成立すると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。プレ制限開始解除条件は、以下の条件H1,H2の少なくともいずれかが成立することである。
【0084】
条件H1…車速制限エリア及び事前警報エリアに人が存在しない。
条件H2…後進方向への走行停止、かつ、後進操作されていない。
主制御装置31がプレ制限開始状態S22の際に、第1制限開始条件が成立すると、主制御装置31は制限開始状態S23に遷移する。第1制限開始条件の成立とは、以下の条件I1,I2の全てが成立することである。
【0085】
条件I1…自動減速エリアAA2のうち車速制限エリアに人が存在。
条件I2…フォークリフト10が後進方向に走行している。
図9に示すように、制限開始状態S23とは、自動減速エリアAA2のうち車速制限エリアに人が存在することで、フォークリフト10に車速制限が課される状態である。車速上限値は、フォークリフト10から人までの距離が短いほど低い値に設定される。主制御装置31の記憶部33、あるいは、外部記憶装置などの記憶媒体には、フォークリフト10から人までの距離に車速上限値を対応付けたマップが記憶されている。主制御装置31は、マップに応じた車速上限値であるマップ値を車速上限値として設定する。なお、車速上限値は、フォークリフト10から人までの距離が短くなるのに比例して低くなる態様に限られず、フォークリフト10から人までの距離が短くなると車速上限値が低くなるような相関があればよい。自動減速エリアAA2のうち車速制限エリアに複数の人が存在する場合、最もフォークリフト10に近い人の位置によって車速上限値は定まる。
【0086】
制限開始状態S23で設定される車速上限値は、0より大きい値である。制限開始状態S23で車速上限値が設定されると、主制御装置31は、車体11の車速が車速上限値を上回らないように車体11の進行を妨げる方向への力を作用させる制御を行う。主制御装置31は、エンジン61の目標回転数に制限値を設定することで車体11の車速が車速上限値を上回らないように制御を行う。制限値の最低値は、アイドル回転数である。主制御装置31は、アクセル開度に対応する目標回転数が制限値以下であれば、アクセル開度に対応する目標回転数を含む回転数指令を走行制御装置83に送る。主制御装置31は、アクセル開度に対応する目標回転数が制限値を上回っている場合には、制限値を目標回転数とする回転数指令を走行制御装置83に送る。走行制御装置83は、エンジン61の回転数が制限値になるようにスロットルアクチュエータ62の制御を行う。これにより、フォークリフト10は、エンジンブレーキによって減速していく。エンジンブレーキによって、車体11の進行を妨げる方向への力がフォークリフト10に作用する。フォークリフト10は、エンジン61の回転数が制限値に対応する車速になるまで減速する。制限開始状態S23では、警報装置58による警報が行われる。
【0087】
図10に示すように、主制御装置31が制限開始状態S23の際に、制限開始解除条件が成立すると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。制限開始解除条件の成立とは、以下の条件J1が成立することである。また、主制御装置31が制限解除状態S21の際に、第1制限開始条件が成立すると、主制御装置31は制限開始状態S23に遷移する。
【0088】
条件J1…後進方向への走行停止、かつ、後進操作されていない。
主制御装置31が制限開始状態S23の際に、制限プレ解除条件が成立すると、主制御装置31は制限プレ解除状態S24に遷移する。制限プレ解除条件の成立とは、以下の条件K1が成立することである。
【0089】
条件K1…自動減速エリアAA2のうち車速制限エリアに人が存在しない。
図9に示すように、制限プレ解除状態S24とは、車速制限が解除される一方で、加速度上限値がAS2[m/s
2]に設定されることで、加速度制限が課される状態である。AS2は、0より大きい値であり、フォークリフト10の到達し得る最高加速度よりも低い値である。主制御装置31は、AS2以下でのフォークリフト10の加速を許容する。AS2は、AS1と同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0090】
図10に示すように、主制御装置31が制限プレ解除状態S24の際に、第2制限開始条件が成立すると、主制御装置31は制限開始状態S23に遷移する。第2制限開始条件の成立とは、以下の条件L1が成立することである。
【0091】
条件L1…自動減速エリアAA2のうち車速制限エリアに人が存在。
主制御装置31が制限プレ解除状態S24の際に、制限本解除条件が成立すると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。制限本解除条件の成立とは、以下の条件M1,M2の少なくともいずれかが成立することである。
【0092】
条件M1…フォークリフト10の車速が目標車速から第2所定値を減算した値に到達。
条件M2…後進操作されていない。
条件M1は、目標車速と、フォークリフト10の車速との差である速度偏差が第2所定値未満になることといえる。制限プレ解除状態S24では、加速度制限が課されるため、フォークリフト10の速度追従性が低下し、フォークリフト10の車速が目標車速に到達しにくい。第2所定値は、加速度制限が課されている状態で、フォークリフト10の車速が操作者の意図する目標車速に到達したと判定するために設定されている。第2所定値としては、例えば、0.5[km/h]~2.0[km/h]から任意の値を設定することができる。第2所定値は、第1所定値と同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0093】
なお、走行停止制御の場合と同様に、主制御装置31は、車速制限エリアに存在する人を検出した場合、軌跡導出閾値YTを維持するようにしてもよい。
次に、物体が障害物の場合の車速制限制御について説明する。以下では、物体が人の場合に行われる車速制限制御と異なる点について説明し、物体が人の場合に行われる車速制限制御と同様な点については説明を省略する。
【0094】
物体が障害物の場合のプレ制限開始条件の成立とは、以下の条件N1,N2の両方が成立することである。
条件N1…自動減速エリアAA2のうち事前警報エリアに障害物が存在。
【0095】
条件N2…フォークリフト10が後進方向に走行している。
事前警報エリアは、車速制限エリアよりも遠方に存在するエリアである。事前警報エリアは、フォークリフト10の車速と、障害物の位置に応じて設定される車速上限値から導出され、障害物が事前警報エリア内に入ってから車速制限エリアに入るまでの時間が予め定められた設定時間となるように導出される。予め定められた設定時間としては、例えば、1秒~3秒等である。物体が障害物の場合、事前警報エリアは、例えば、予想軌跡T内のうち車速制限エリアよりも遠方のエリア、予想軌跡T外であって予想軌跡Tの延長線上のエリア、及びこれら両方を含むエリアのいずれかである。
【0096】
物体が障害物の場合の車速制限エリアは、自動減速エリアAA2のうち予想軌跡T内のエリアである。物体が障害物の場合、予想軌跡T内で車速制限エリアが設定される点が、物体が人の場合とは異なる。即ち、障害物が予想軌跡T内に存在している場合、主制御装置31は、車体11の車速が車速上限値を上回らないように車体11の進行を妨げる方向への力を作用させる制御を行う。物体が人の場合と同様に、主制御装置31は、エンジンブレーキによって車体11の車速が車速上限値を上回らないようにする。
【0097】
物体が障害物の場合のプレ制限開始解除条件、第1制限開始条件、制限開始解除条件、制限プレ解除条件、第2制限開始条件、及び制限本解除条件の各条件については、人を障害物に変更した条件となる。
【0098】
なお、物体が障害物の場合にフォークリフト10に課される車速上限値は、フォークリフト10から障害物までの距離が短いほど低い値に設定される。主制御装置31の記憶部33、あるいは、外部記憶装置などの記憶媒体には、フォークリフト10から障害物までの距離に車速上限値を対応付けたマップが記憶されている。主制御装置31は、マップから車速上限値を設定している。物体が障害物の場合にフォークリフト10に課される車速上限値は、0よりも大きい値である。なお、車速上限値は、フォークリフト10から障害物までの距離が短くなるのに比例して低くなる態様に限られず、フォークリフト10から障害物までの距離が短くなると車速上限値が低くなるような相関があればよい。
【0099】
上記したように、主制御装置31は、状態に応じて車速上限値を設定する。本実施形態では、主制御装置31が車速上限設定部として機能しているといえる。
本実施形態の作用について説明する。
【0100】
フォークリフト10の走行中に、警報エリアに人が入ると、主制御装置31はプレ走行制限状態S11に遷移する。主制御装置31は、警報装置58による警報を行うことで、操作者に予想軌跡T内に人が入るおそれがあることを認識させる。操作者が人から離れる方向にフォークリフト10を旋回させたり、フォークリフト10を停止させて後進操作を行わないようにすると、主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。主制御装置31がプレ走行制限状態S11に遷移した状態で人が予想軌跡Tに入ると、主制御装置31は走行制限状態S12に遷移する。主制御装置31は、車速上限値を0に設定し、フォークリフト10は停止することになる。この際、主制御装置31は、エンジン61の駆動力が駆動輪12,13に伝達されることを遮断する。これにより、走行抵抗による減速によってフォークリフト10は停止する。
【0101】
主制御装置31が走行制限状態S12に遷移した後に、フォークリフト10が停止し、操作者による後進操作がされていないと、主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。主制御装置31が通常制御状態S10の際に、走行制限条件が成立すると、主制御装置31はプレ走行制限状態S11を介することなく、走行制限状態S12に遷移する。プレ走行制限条件が成立することなく、走行制限条件が成立する状況とは、例えば、フォークリフト10の速度が高い場合や、物体検出部51による検出可能範囲の死角から物体が予想軌跡T内に進入してくる状況が想定される。
【0102】
主制御装置31が走行制限状態S12の際に、フォークリフト10が停止する前に予想軌跡T内に人が存在しなくなると、主制御装置31は走行制限プレ解除状態S13に遷移する。また、走行制限プレ解除状態S13に遷移した後に、再度、予想軌跡T内に人が入ると、主制御装置31は走行制限状態S12に遷移する。走行制限プレ解除状態S13では加速度に制限が課される。走行制限状態S12では、車速制限が課されているため、速度偏差が大きくなっている場合がある。このため、走行制限状態S12から通常制御状態S10に遷移する前に走行制限プレ解除状態S13を介在させることで、フォークリフト10を緩やかに加速させる。
【0103】
走行制限プレ解除状態S13のまま、フォークリフト10が加速し、速度偏差が小さくなると、主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。走行制限プレ解除状態S13では、加速度に制限が課されているため、効率良く加速を行うことができない。効率良く加速を行いたい場合、アクセルオフにより走行制限プレ解除状態S13の解除を可能にすることで、作業性の向上を図っている。
【0104】
上記したように、フォークリフト10が後進している状態で、人が予想軌跡T内に入ると、走行停止制御が機能することでフォークリフト10が停止する。フォークリフト10は後進しており、人はフォークリフト10の後方に位置している。従って、フォークリフト10の進行方向が人に近づく方向の場合に車速上限値は設定されるといえる。
【0105】
フォークリフト10の走行中に、事前警報エリアに障害物が入ると、主制御装置31はプレ制限開始状態S22に遷移する。主制御装置31は、警報装置58による警報を行うことで、障害物が近くにあることを操作者に認識させる。操作者が障害物から離れる方向にフォークリフト10を旋回させたり、フォークリフト10を停止させて後進操作を行わないようにすると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。主制御装置31がプレ制限開始状態S22に遷移した状態で障害物が車速制限エリアに入ると、主制御装置31は制限開始状態S23に遷移する。主制御装置31は、車速上限値をマップに応じた値に設定する。この際、エンジンブレーキにより、フォークリフト10は減速する。
【0106】
制限開始状態S23では、車速上限値は設定されるものの、車速上限値以下でのフォークリフト10の走行は許容されている。操作者は、障害物を回避しながらフォークリフト10を走行させることが可能である。主制御装置31が制限開始状態S23の際に制限開始解除条件が成立すると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移することで、車速制限を解除する。
【0107】
制限開始状態S23のまま操作者がフォークリフト10の走行を継続し、車速制限エリアに障害物が存在しなくなると、主制御装置31は制限プレ解除状態S24に遷移する。これにより、車速制限は解除される。制限プレ解除状態S24では加速度に制限が課される。制限開始状態S23では、車速制限が課されているため、速度偏差が大きくなっている場合がある。このため、制限開始状態S23から制限解除状態S21に遷移する前に制限プレ解除状態S24を介在させることで、フォークリフト10を緩やかに加速させる。
【0108】
制限プレ解除状態S24のまま、フォークリフト10が加速し、速度偏差が小さくなると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。制限プレ解除状態S24では、加速度に制限が課されているため、効率良く加速を行うことができない。効率良く加速を行いたい場合、アクセルオフにより制限プレ解除状態S24の解除を可能にすることで、作業性の向上を図っている。制限プレ解除状態S24中に、操作者が進行方向を前進方向に変更すると、主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。また、制限プレ解除状態S24から制限解除状態S21に遷移する前に、再度、障害物が車速制限エリアに入った場合、主制御装置31は制限開始状態S23に遷移する。
【0109】
上記したように、フォークリフト10が後進している状態で、障害物が予想軌跡T内に設定された車速制限エリアに入ると。障害物に対する車速制限制御が機能することで、車速制限が課される。一方で、障害物が予想軌跡T外に存在する場合、車速制限は行われない。フォークリフト10は後進しており、障害物はフォークリフト10の後方に位置している。従って、フォークリフト10の進行方向が障害物に近づく方向の場合に車速上限値は設定されるといえる。
【0110】
本実施形態では、走行停止制御、人に対する車速制限制御、及び障害物に対する車速制限制御それぞれの状態遷移が並行して行われる。このため、各状態遷移で異なる車速上限値及び警報態様が設定されるおそれがある。この場合には、予め優先度を設定しておき、いずれか1つの状態に対応する制御が行われればよい。例えば、主制御装置31は、車速上限値が最も低くなる状態で定められた制御を行う。
【0111】
本実施形態の効果について説明する。
(1)主制御装置31は、予想軌跡T内に物体が位置している場合であって車体11の進行方向が物体に近付く方向の場合に車速制限を課す。予想軌跡Tは、フォークリフト10が通過すると予想される軌跡であるため、予想軌跡Tに物体が位置している場合に車速制限を課すことで、フォークリフト10と物体との接触を適切に抑制することができる。
【0112】
主制御装置31は、車速上限値を上回らないようにエンジン61を制御する。車体11の車速が車速上限値を上回っている場合、車体11の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び駆動輪12,13への駆動力を遮断する制御を行う。エンジンブレーキによる減速は、減速度が低いため、フォークリフト10の緩やかな減速が可能となる。駆動輪12,13への駆動力を遮断した場合には、走行抵抗による減速が行われる。走行抵抗による減速は、減速度が低いため、フォークリフト10の緩やかな減速が可能となる。従って、荷崩れが生じることを抑制しつつ、フォークリフト10に車速制限を課すことができる。
【0113】
(2)主制御装置31は、車体11の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び駆動輪12,13への駆動力を遮断する制御の両方を行っている。実施形態では、走行制限状態S12では、駆動輪12,13への駆動力を遮断している。制限開始状態S23では、エンジンブレーキにより車体11の進行を妨げる方向への力を作用させている。走行制限状態S12では、フォークリフト10を停止させるため、駆動輪12,13への駆動力を遮断している。制限開始状態S23では、フォークリフト10を停止させる必要がないため、エンジンブレーキによる減速を行っている。即ち、状況に応じたフォークリフト10の減速を行うことができる。
【0114】
(3)主制御装置31は、車体11の車速が高いほど進行方向に予想軌跡Tを長くする。車体11の車速が高いほど、物体に到達するまでの時間が短い。このため、車体11の車速が高いほど、予想軌跡Tを長くすることで、車体11の車速に応じた適正な車速制限を行うことが可能になる。
【0115】
実施形態は、以下のように変更して実施することができる。実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○
図11に示すように、フォークリフト10は、ブレーキ機構100を備えていてもよい。ブレーキ機構100は、ブレーキアクチュエータ101と、ブレーキホイールシリンダ102と、ブレーキコントローラ103と、を備える。
【0116】
ブレーキアクチュエータ101は、ブレーキホイールシリンダ102に供給する作動油を制御するアクチュエータである。ブレーキアクチュエータ101は、例えば、電磁弁により作動油の供給を制御するものである。
【0117】
ブレーキホイールシリンダ102は、駆動輪12,13に設けられている。ブレーキホイールシリンダ102は、操舵輪14に設けられていてもよい。ブレーキホイールシリンダ102は、ブレーキアクチュエータ101から供給される作動油によってブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けて摩擦制動力を発生させる。
【0118】
ブレーキコントローラ103のハードウェア構成は、例えば、走行制御装置83と同様である。ブレーキコントローラ103は、主制御装置31からの指令により、ブレーキアクチュエータ101の制御を行う。主制御装置31は、ブレーキコントローラ103に指令を送ることで、ブレーキ機構100を制御可能といえる。
【0119】
主制御装置31は、走行抵抗による減速に加えてブレーキ機構100による減速を行うことで、車体11の車速が車速上限値を上回らないようにすることができる。例えば、走行制限状態S12の際にフォークリフト10の減速を行う場合、主制御装置31は、走行制御装置83に遮断指令を送ることで駆動輪12,13への駆動力を遮断する。主制御装置31は、ブレーキコントローラ103に、制動指令を送る。制動指令を受けると、ブレーキコントローラ103は、ブレーキアクチュエータ101を制御することで、ブレーキホイールシリンダ102に作動油を供給する。ブレーキコントローラ103は、フォークリフト10の減速度が予め定められた減速度制限値[m/s2]以下になるように制御を行う。減速度制限値は、0より大きい値であり、フォークリフト10の最高減速度よりも低い値である。これにより、減速時の荷崩れを抑制することができる。フォークリフト10は減速度制限値以下の減速度で減速していき、停止する。
【0120】
主制御装置31は、エンジンブレーキによる減速に加えてブレーキ機構100による減速を行うことで、車体11の車速が車速上限値を上回らないようにすることができる。例えば、障害物に対する車速制限制御において、制限開始状態S23の際にフォークリフト10の減速を行う場合、主制御装置31は、走行制御装置83に回転数指令を送ることでエンジンブレーキを作用させる。主制御装置31は、ブレーキコントローラ103に制動指令を送る。ブレーキコントローラ103は、フォークリフト10の減速度が予め定められた減速度制限値[m/s2]以下になるように制御を行う。
【0121】
ブレーキ機構100を設けることで、フォークリフト10の減速度の調整が可能になる。また、ブレーキ機構100を設けることで、フォークリフト10が傾斜路を進行している場合であっても、フォークリフト10を停止させることができる。
【0122】
フォークリフト10がブレーキ機構100を備えている場合、フォークリフト10の減速を行う際の減速度は、荷の重量が重いほど低い値としてもよい。この場合、荷の重量が重いほど、フォークリフト10は緩やかに減速することになる。同様に、フォークリフト10がブレーキ機構100を備えている場合、フォークリフト10の減速を行う際の減速度は、荷役装置20の揚高が重いほど低い値としてもよい。この場合、荷役装置20の揚高が高いほど、フォークリフト10は緩やかに減速することになる。フォークリフト10がブレーキ機構100を備えている場合、フォークリフト10の減速を行う際の減速度は、荷役装置20の揚高が高いほど低い値、かつ、荷の重量が重いほど低い値としてもよい。
【0123】
○主制御装置31は、エンジンブレーキによる減速のみで車体11の車速が車速上限値を上回らないようにしてもよい。例えば、走行制限状態S12の際にフォークリフト10の減速を行う場合、主制御装置31は、エンジン61の回転数に制限値を設定する。そして、主制御装置31は、エンジン61の回転数が制限値を上回らないように走行制御装置83に回転数指令を送る。フォークリフト10は、エンジンブレーキにより減速する。この場合、車体11の車速は、エンジン61のアイドル回転数に対応する車速未満にはならないため、フォークリフト10を停止させることができない。
【0124】
また、主制御装置31は、エンジンブレーキによる減速と上記したブレーキ機構100による減速とを組み合わせてもよい。即ち、走行制限状態S12、及び障害物に対する制限開始状態S23の両方で、エンジンブレーキによる減速とブレーキ機構100による減速とを行ってもよい。この場合、主制御装置31は、駆動輪12,13への駆動力を遮断する制御を行わないといえる。
【0125】
○主制御装置31は、走行抵抗による減速のみで車体11の車速が車速上限値を上回らないようにしてもよい。例えば、障害物に対する制限開始状態S23の際に、主制御装置31は、走行制御装置83に遮断指令を送る。フォークリフト10は、走行抵抗により減速する。この場合、制限開始状態S23で設定される車速上限値は0になる。
【0126】
また、主制御装置31は、走行抵抗による減速と上記したブレーキ機構100による減速とを組み合わせてもよい。即ち、走行制限状態S12、及び障害物に対する制限開始状態S23の両方で、走行抵抗による減速とブレーキ機構100による減速とを行ってもよい。この場合、主制御装置31は、エンジン61の目標回転数に制限値を設定する制御を行わないといえる。
【0127】
○主制御装置31は、走行制限状態S12での減速を行う際に、エンジンブレーキによる減速と走行抵抗による減速の両方によりフォークリフト10の減速を行ってもよい。主制御装置31は、走行制限状態S12に状態が遷移すると、回転数指令を走行制御装置83に送ることでエンジンブレーキによる減速を行う。この回転数指令に含まれる目標回転数は、例えば、アイドル回転数である。フォークリフト10は、エンジンブレーキにより減速していく。車体11の車速が閾値未満になると、主制御装置31は、走行制御装置83に遮断指令を送る。閾値としては、例えば、アイドル回転数に対応する車速を挙げることができる。走行制御装置83は、駆動輪12,13への駆動力を遮断する。走行抵抗によりフォークリフト10は更に減速する。フォークリフト10が平坦路を進行している場合には、フォークリフト10は停止する。このように、エンジンブレーキによる減速と走行抵抗による減速とを組み合わせることで、走行抵抗よりも高い減速度で減速を行いつつ、フォークリフト10を停止させることができる。上記したような制御態様は、車体11の進行を妨げる方向への力を作用させる制御、及び駆動輪12,13への駆動力を遮断する制御の両方を行う態様の1つといえる。
【0128】
○主制御装置31は、回転数指令に代えて、トルク指令を走行制御装置83に送るようにしてもよい。トルク指令には、目標トルクが含まれる。主制御装置31は、アクセル開度が大きいほど目標トルクを高くする。走行制御装置83は、エンジン61のトルクが目標トルクに追従するようにスロットルアクチュエータ62の制御を行う。フォークリフト10に車速制限を課す場合、主制御装置31は、目標トルクに制限値を設定する。
【0129】
○エンジン61としては、液化石油ガスを燃料とするエンジンを用いてもよい。この場合であっても、スロットルアクチュエータ62によりスロットル開度を調整することで、駆動輪12,13への駆動力を調整することができる。
【0130】
○エンジン61としては、ディーゼルエンジンであってもよい。この場合、走行制御装置83によって燃料噴射量が調整されることで、駆動輪12,13への駆動力を調整することができる。
【0131】
○フォークリフト10は、トルクコンバータ71と、トランスミッション72等の代わりに、HST(Hydro-Static Transmission(静油圧式無段変速機))を有する車両であってもよい。
【0132】
○制限開始状態S23の際に設定される車速上限値を荷役装置20の揚高が高いほど低い値としてもよい。
○制限開始状態S23の際に設定される車速上限値を荷の重量が重いほど低い値としてもよい。
【0133】
○制限開始状態S23の際に設定される車速上限値は、荷役装置20の揚高が高いほど低い値、かつ、荷の重量が重いほど低い値としてもよい。即ち、車速上限値について記載した上記2つの変形例を組み合わせてもよい。
【0134】
○制限プレ解除状態S24で設定される加速度上限値は、荷役装置20の揚高が高いほど低い値としてもよい。この場合、荷役装置20の揚高が高いほど、フォークリフト10は緩やかに加速することになる。
【0135】
○制限プレ解除状態S24で設定される加速度上限値は、荷の重量が重いほど低い値としてもよい。この場合、荷の重量が重いほど、フォークリフト10は緩やかに加速することになる。
【0136】
○制限プレ解除状態S24で設定される加速度上限値は、荷役装置20の揚高が高いほど低い値、かつ、荷の重量が重いほど低い値としてもよい。即ち、加速度上限値について記載した上記2つの変形例を組み合わせてもよい。
【0137】
○荷役装置20の揚高に応じて車速上限値、及び加速度上限値のいずれも変更しない場合、フォークリフト10は揚高センサ37を備えていなくてもよい。
○荷の重量に応じて車速上限値、及び加速度上限値のいずれも変更しない場合、フォークリフト10は重量センサ38を備えていなくてもよい。
【0138】
○制限開始状態S23の際に設定される車速上限値は、物体までの距離に応じて変更しなくてもよい。即ち、制限開始状態S23の際に設定される車速上限値は、固定値であってもよい。
【0139】
○主制御装置31は、車体11の車速が高いほど、進行方向に対する予想軌跡Tの長さを長くしなくてもよい。この場合、進行方向に対する予想軌跡Tの長さは、予め定められた一定の長さとする。
【0140】
○主制御装置31は、操舵輪14の操舵角に応じて予想軌跡Tを変更しなくてもよい。即ち、予想軌跡Tは、フォークリフト10が旋回しているか否かに関わらず、フォークリフト10が後進方向に直進している場合の予想軌跡Tであってもよい。
【0141】
○主制御装置31は、車体11の左端LEが通過する軌跡LTと、車体11の右端REが通過する軌跡RTとの間の領域に加えて、この領域よりも外側に位置し、軌跡LTと軌跡RTに沿って延びる領域を予想軌跡Tとしてもよい。即ち、予想軌跡Tは、フォークリフト10が通過すると予想される領域に、フォークリフト10の車幅方向に拡がるマージンを加えたものであってもよい。
【0142】
○主制御装置31は、車体11の車速及び操舵角と、X座標及びY座標とを対応付けたマップから予想軌跡Tを導出してもよい。
○主制御装置31は、物体が人か障害物かによって異なる制御を行わなくてもよい。詳細にいえば、主制御装置31は、自動減速制御を行う際に、予想軌跡T内に物体が存在している場合にはフォークリフト10の走行を停止させ、予想軌跡T内に物体が存在していない場合には車速制限を行わなくてもよい。また、主制御装置31は、自動減速制御を行う際に、予想軌跡T内に物体が存在している場合には、予想軌跡T外に物体が存在している場合に比べて車速上限値を低くしてもよい。この場合、障害物検出装置55は、物体が人か否かの判定を行わなくてもよい。
【0143】
○走行停止制御は、主制御装置31の状態を少なくとも通常制御状態S10及び走行制限状態S12の2つの状態にできればよい。この場合、走行制限条件の成立で主制御装置31は走行制限状態S12に遷移し、走行制限解除条件の成立で主制御装置31は通常制御状態S10に遷移する。即ち、主制御装置31は、予想軌跡T内に人が存在している場合に、車速上限値を0にできればよい。
【0144】
○車速制限制御は、主制御装置31の状態を少なくとも制限解除状態S21及び制限開始状態S23の2つの状態にできればよい。この場合、第1制限開始条件の成立で主制御装置31は制限開始状態S23に遷移し、制限開始解除条件の成立で主制御装置31は制限解除状態S21に遷移する。即ち、主制御装置31は、物体が車速制限エリアに存在している場合に、車速上限値を設定できればよい。
【0145】
○主制御装置31は、少なくとも車速上限値を設定できればよく、加速度上限値の設定を行わなくてもよい。
○自動減速エリアAA2は、物体検出部51による物体の検出可能範囲よりも狭いエリアであってもよい。
【0146】
○プレ走行制限状態S11及びプレ制限開始状態S22での警報は、フォークリフト10のスイッチバック時にも行われるようにしてもよい。
○走行制限状態S12では、警報装置58による警報が行われなくてもよい。
【0147】
○走行停止制御、人に対する車速制限制御、及び障害物に対する車速制限制御の全ての状態で、警報装置58による警報を行わなくしてもよい。この場合、フォークリフト10は警報装置58を備えていなくてもよい。
【0148】
○物体検出部51は、車体11の進行方向のうち前進方向に存在する物体の位置を検出するものであってもよい。この場合、ステレオカメラ52は、フォークリフト10の前方を向いて配置される。物体検出部51によりフォークリフト10の前進方向に存在する物体の位置を検出する場合、自動減速エリアAA2はフォークリフト10から前方に拡がるエリアとなる。また、フォークリフト10が前進している場合に、走行停止制御、人に対する車速制限制御、及び障害物に対する車速制限制御は機能することになる。詳細にいえば、走行停止制御、人に対する車速制限制御、及び障害物に対する車速制限制御の各制御で、実施形態に記載した「後」と「前」を反転させることで、フォークリフト10が前進している場合に、物体の位置に応じて車速制限を課すことができる。物体検出部51により車体11の進行方向のうち前進方向に存在する物体の位置を検出する場合、主制御装置31は前進方向に延びる予想軌跡Tを導出する。
【0149】
物体検出部51としては、車体11の進行方向のうち後進方向及び前進方向のいずれの方向に存在する物体の位置を検出できるものであってもよい。この場合、1つの物体検出部51により車体11の進行方向のうち後進方向及び前進方向のいずれの方向に存在する物体を検出可能にしてもよいし、前進方向用の物体検出部51と、後進方向用の物体検出部51を設けてもよい。車体11の進行方向のうち後進方向及び前進方向のいずれの方向に存在する物体の位置を検出する場合、フォークリフト10が前進している場合には、前進方向に存在する物体によって車速制限が課されるようにする。フォークリフト10が後進している場合には、後進方向に存在する物体によって車速制限が課されるようにする。即ち、主制御装置31は、車体11の進行方向が物体検出部51により検出された物体に近づく方向の場合に車速上限値を設定するといえる。
【0150】
○物体検出部51は、ステレオカメラ52に代えて、ToF(Time of Flight)カメラ、LIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)、ミリ波レーダー等を用いてもよい。ToFカメラは、カメラと、光を照射する光源と、を備え、光源から照射された光の反射光を受光するまでの時間からカメラによって撮像された画像の画素毎に奥行き方向の距離を導出するものである。LIDARは、照射角度を変更しながらレーザーを照射し、レーザーが当たった部分から反射された反射光を受光することで周辺環境を認識可能な距離計である。ミリ波レーダーとは、所定の周波数帯域の電波を周囲に照射することで周辺環境を認識可能なものである。ステレオカメラ52、ToFカメラ、LIDAR、及びミリ波レーダーは、ワールド座標系における3次元座標を計測することができるセンサである。物体検出部51としては、3次元座標を計測することができるセンサを備えることが好ましい。物体検出部51が3次元座標を計測できるセンサを備える場合、障害物検出装置55は、予め機械学習を行った人判定器を用いることで、物体が人か障害物かの判定を行うことができる。なお、物体検出部51は、ステレオカメラ52とLIDAR等、複数のセンサを組み合わせたものを備えていてもよい。
【0151】
また、物体検出部51は、ステレオカメラ52に代えて、水平面を表す座標面であるXY平面での物体の座標を計測することができるセンサを備えていてもよい。即ち、センサとしては、物体の2次元座標を計測することができるものを用いてもよい。この種のセンサとしては、例えば、水平方向への照射角度を変更しながらレーザーの照射を行う2次元のLIDAR等を用いることができる。
【0152】
○ステレオカメラ52は、3つ以上のカメラを備えていてもよい。
○警報装置58は、物体検出部51以外が備えていてもよい。
○警報装置58は、主制御装置31が直接作動させるようにしてもよい。
【0153】
○フォークリフト10は、三輪式のフォークリフト10であってもよい。この場合、主制御装置31は、三輪式のフォークリフト10の予想軌跡Tを導出する式やマップから予想軌跡Tを導出する。即ち、予想軌跡Tを導出する式やマップは、エンジン式産業車両の種類によって変更される。
【0154】
○フォークリフト10は、自動での操作と手動での操作とを切り替えられるものでもよい。
○フォークリフト10は、フォークリフト10に搭乗していない操作者により遠隔操作されるものであってもよい。
【0155】
○予想軌跡導出部及び車速上限設定部は、主制御装置31とは異なる装置であってもよい。この場合、予想軌跡導出部及び車速上限設定部と主制御装置31とをバス40によって接続し、主制御装置31、予想軌跡導出部及び車速上限設定部で互いの情報を取得可能に構成する。
【0156】
○主制御装置31は、走行停止制御、及び障害物に対する車速制限制御の少なくともいずれかの制御を行うものであればよい。
○主制御装置31と走行制御装置83とは、同一の制御装置であってもよい。
【0157】
○主制御装置31、走行制御装置83及び物体検出部51は、無線機によって互いの情報を取得可能に構成されていてもよい。
○エンジン式産業車両としては、荷等の搬送に用いられる牽引車、ピッキング作業に用いられるオーダーピッカー等、限られた領域での作業に用いられるものであればどのようなものであってもよい。即ち、エンジン式産業車両としては、荷下ろしや荷積みを行う荷役装置20を備えていないものであってもよい。
【符号の説明】
【0158】
10…エンジン式産業車両としてのフォークリフト、31…予想軌跡導出部及び車速上限設定部としての主制御装置、51…物体検出部、61…エンジン、70…動力伝達機構、100…ブレーキ機構。