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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   F02D 23/00 20060101AFI20240702BHJP
   F02B 39/12 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F02D23/00 N
F02B39/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020212319
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098741
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】國分 弥則
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健二
(72)【発明者】
【氏名】八木 淳
(72)【発明者】
【氏名】楠 友邦
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-039393(JP,A)
【文献】特開平11-210482(JP,A)
【文献】特開平05-272348(JP,A)
【文献】特開平02-055832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00-41/10
F02D 9/00-29/06、41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたエンジンシステムであって、
エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、
前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に連結する電磁クラッチと、
前記電磁クラッチが切断される第1領域と、当該第1領域の上限のエンジン回転速度である第1回転速度よりも高速側の領域を含み且つ前記電磁クラッチが接続される第2領域とのいずれの領域でエンジンが運転されているかを判定する第1判定部と、
エンジン回転速度が前記第1回転速度未満且つ所定の第2回転速度以上である状態が所定の判定時間以上継続したという回転継続条件の成否を判定する第2判定部と、
前記第1判定部および前記第2判定部の判定結果に基づいて前記電磁クラッチの断接を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記第1判定部によってエンジンの運転領域が前記第1領域から前記第2領域に移行したと判定された場合に、前記電磁クラッチを切断状態から接続状態に切り替え、
前記第1判定部によってエンジンの運転領域が前記第1領域から前記第2領域に移行したと判定されなかった場合でも、前記第2判定部によって前記回転継続条件が成立したと判定された場合には、前記電磁クラッチを切断状態から接続状態に切り替える、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンシステムにおいて、
前記第1判定部によって前記第1領域でエンジンが運転されていると判定され且つ前記第2判定部によって前記回転継続条件が成立していると判定された場合、前記制御部は、前記電磁クラッチを切断状態から接続状態に切り替えた後、エンジンの運転領域が前記第1領域のうち前記第2回転速度よりも低い第3回転速度未満の領域にエンジンの運転領域が移行した場合に、前記電磁クラッチを接続状態から切断状態に切り替える、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンシステムにおいて、
前記判定時間は、車速に関わらず一定の時間に設定されている、ことを特徴とするエンジンシステム。
【請求項4】
請求項1または2に記載のエンジンシステムにおいて、
前記判定時間は、車両のギア段に関わらず一定の時間に設定されている、ことを特徴とするエンジンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車などに搭載されたエンジンシステムでは、エンジンが高負荷領域や高回転領域などにある場合にエンジントルクを高めるために、過給機を用いてエンジンの燃焼室へ空気を過給する技術が知られている。とくにエンジンの出力軸(例えば、クランクシャフト)からの回転駆動力を用いて過給を行う機械式過給機(いわゆるスーパーチャージャー)は、エンジンの排気圧を用いる排気タービン式過給機(いわゆるターボチャージャー)と比較して応答性が良い。
【0003】
特許文献1記載のエンジンシステムは、エンジンが所定の高負荷領域になった場合に機械式過給機とクランクシャフトを接続する電磁クラッチを備えている。このエンジンシステムでは、アクセルペダルが踏み込まれることなどによってエンジンが低負荷領域から高負荷領域に移行して目標トルクが過給領域になった場合に、電磁クラッチがクランクシャフトと機械式過給機を接続する。これにより、機械式過給機がエンジンの燃焼室へ空気を過給し、エンジントルクを高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-39393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示される機械式過給機は、上記のように排気タービン式過給機よりも応答性は良い。しかし、電磁クラッチにおいても、切断状態から接続状態に切り替えられるまでには遅れがある。そのため、単に電磁クラッチを用いただけでは加速性を十分に高められないおそれがある。
【0006】
すなわち、エンジン回転速度が比較的低くエンジンの運転状態が過給を要しない状態であっても、この状態が継続した場合には、その後運転者が加速する可能性が高い。しかしながら、単に、現在のエンジン回転速度が低いことに伴って電磁クラッチを切断したままでいると、その後の加速時に、電磁クラッチが接続して過給が開始されるまでにタイムラグが生じる。このため、過給機による過給の応答遅れが発生して加速性が十分に高められないおそれがある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、車両の加速性をより高めることが可能なエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のエンジンシステムは、車両に設けられたエンジンシステムであって、エンジンのクランクシャフトにより駆動される過給機と、前記クランクシャフトと前記過給機とを断接可能に連結する電磁クラッチと、前記電磁クラッチが切断される第1領域と、当該第1領域の上限のエンジン回転速度である第1回転速度よりも高速側の領域を含み且つ前記電磁クラッチが接続される第2領域とのいずれの領域でエンジンが運転されているかを判定する第1判定部と、エンジン回転速度が前記第1回転速度未満且つ所定の第2回転速度以上である状態が所定の判定時間以上継続したという回転継続条件の成否を判定する第2判定部と、前記第1判定部および前記第2判定部の判定結果に基づいて前記電磁クラッチの断接を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記第1判定部によってエンジンの運転領域が前記第1領域から前記第2領域に移行したと判定された場合に、前記電磁クラッチを切断状態から接続状態に切り替え、前記第1判定部によってエンジンの運転領域が前記第1領域から前記第2領域に移行したと判定されなかった場合でも、前記第2判定部によって前記回転継続条件が成立したと判定された場合には、前記電磁クラッチを切断状態から接続状態に切り替える、ことを特徴とする。
【0009】
本発明では、電磁クラッチを切断する第1領域でエンジンが運転されている場合であっても、エンジン回転速度が第2回転速度以上且つ第1領域の上限のエンジン回転速度未満の状態で、つまり、中速域で、エンジンが判定時間以上継続して運転された場合に、電磁クラッチが切断状態から接続状態に切り替えられるようになっている。エンジンが中速域で継続して運転される場合は、運転者が加速するタイミングを見計らってアクセルペダルを中開度で踏みこんでいる場合のように、その後加速される可能性が高い。そのため、本発明によれば、加速される可能性の高いときに事前に電磁クラッチが接続状態に切り替えられることになり、加速開始時に電磁クラッチの応答遅れが生じるのを回避でき、加速性を高めることができる。
【0010】
上記構成において、好ましくは、前記第1判定部によって前記第1領域でエンジンが運転されていると判定され且つ前記第2判定部によって前記回転継続条件が成立していると判定された場合、前記制御部は、前記電磁クラッチを切断状態から接続状態に切り替えた後、エンジンの運転領域が前記第1領域のうち前記第2回転速度よりも低い第3回転速度未満の領域にエンジンの運転領域が移行した場合に、前記電磁クラッチを接続状態から切断状態に切り替える(請求項2)。
【0011】
この構成によれば、上記のように運転者に加速の意図がある可能性が高い場合に、より長時間にわたって電磁クラッチが接続状態に維持されることになるので、加速時に電磁クラッチの接続遅れが生じるのをより確実に回避でき加速性を確実に高めることができる。
【0012】
前記構成において、好ましくは、前記判定時間は、車速に関わらず一定の時間に設定されている(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、車速によって電磁クラッチの接続が開始されるタイミングが変化しないので、加速感が車速によって変わるのが抑制される。これより、車速によって加速感が変化して運転者が違和感を覚えるのを防止できる。
【0014】
前記構成において、好ましくは、前記判定時間は、車両のギア段に関わらず一定の時間に設定されている(請求項4)。
【0015】
この構成によれば、ギア段によって電磁クラッチの接続が開始されるタイミングが変化しないので、加速感がギア段によって変わるのが抑制される。これより、ギア段によって加速感が変化して運転者が違和感を覚えるのを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のエンジンシステムによれば、加速性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係るエンジンシステムの全体構成を示すシステム図である。
図2図1のエンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。
図3図1のエンジンの運転領域を示す運転マップである。
図4】SPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)時の熱発生率の波形を示すグラフである。
図5】第1OFF移行領域と第1ON維持領域とを示す運転マップである。
図6】第2OFF移行領域、第2ON維持領域および判定領域を示す運転マップである。
図7図1の電磁クラッチの制御の流れを示したフローチャートである。
図8図1の電磁クラッチの制御を実施した時の各パラメータの時間変化を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0019】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンシステムの全体構成を示すシステム図である。図1に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置50を備えている。なお、本発明のエンジンは、回転駆動力を出力する出力軸を有する構成であればよく、図1のようにピストン5が往復駆動するレシプロエンジンだけでなく、ロータリーエンジンなどでもよい。
【0020】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。
【0021】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力を受けてピストン5が上下方向に往復運動する。
【0022】
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランクシャフト7が設けられている。クランクシャフト7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
【0023】
シリンダブロック3には、クランクシャフト7の回転角度(クランク角)およびクランクシャフト7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1と、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサSN2とが設けられている。
【0024】
シリンダヘッド4には、吸気通路30から供給される空気を燃焼室6に導入するための吸気ポート9と、燃焼室6で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポート10と、吸気ポート9の燃焼室6側の開口を開閉する吸気弁11と、排気ポート10の燃焼室6側の開口を開閉する排気弁12とが設けられている。
【0025】
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構により、クランクシャフト7の回転に連動して開閉駆動される。
【0026】
吸気弁11用の動弁機構には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気S-VT13が内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気S-VT14が内蔵されている。吸気S-VT13(排気S-VT14)は、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁11(排気弁12)の開弁時期および閉弁時期を同時にかつ同量だけ変更する。
【0027】
図1に示すように、シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(ガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と吸入空気とが混合された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部と対向するように、燃焼室6の天井面の中心部に配置されている。点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。
【0028】
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
【0029】
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。
【0030】
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN3と、吸気の温度を検出する吸気温センサSN4と、吸気の圧力を検出する吸気圧センサSN5とが設けられている。エアフローセンサSN3および吸気温センサSN4は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量および温度を検出する。吸気圧センサSN5は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
【0031】
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
【0032】
機械式の過給機33は、エンジン本体1のクランクシャフト7(出力軸)により駆動される。過給機33は、エンジン本体1の吸気ポート9を介して燃焼室6に通じる吸気通路30に配置されている。
【0033】
過給機33とエンジン本体1との間には、接続/解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34は、クランクシャフト7と過給機33とを断接可能に接続する。すなわち、電磁クラッチ34が接続されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される。
【0034】
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0035】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面(吸気通路30とは反対側の面)に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
【0036】
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。
【0037】
排気通路40における触媒コンバータ41よりも上流側には、排気ガス中の酸素濃度を検出するA/FセンサSN6が設けられている。
【0038】
外部EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガス(外部EGRガス)を熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。
【0039】
(2)制御系統
図2は、エンジンシステムの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100は、エンジン等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0040】
PCM100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、上記のクランク角センサSN1、水温センサSN2、エアフローセンサSN3、吸気温センサSN4、吸気圧センサSN5、A/FセンサSN6と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、吸気流量、吸気温、吸気圧、排気酸素濃度)がPCM100に逐次入力されるようになっている。
【0041】
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダル60の開度(以下、アクセル開度という)を検出するアクセルセンサSN7と、車両の走行速度(以下、車速という)を検出する車速センサSN8とが設けられている。また、車両は、複数のギア段を有する変速機70を備えており、車両には、現在のギア段を検出するギア段センサSN9が設けられている。これらのセンサSN7~SN9による検出信号もPCM100に逐次入力される。
【0042】
PCM100は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、PCM100は、吸・排気S-VT13,14、インジェクタ15、点火プラグ16、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0043】
具体的に、PCM100は、燃焼制御部101と、目標トルク演算部102と、過給制御部103とを機能的に有している。また、PCM100は、各種の値、マップ等を記憶する記憶部104と、時間を計測するためのタイマー105とを機能的に有している。
【0044】
燃焼制御部101は、燃焼室6での混合気の燃焼を制御する制御モジュールであり、混合気の燃焼モードが後述する各モードとなり、且つ、エンジンの出力トルク等がドライバーの要求に応じた適切な値となるようにエンジンの各部を制御する。
【0045】
目標トルク演算部102は、アクセルセンサSN7から検出したアクセル開度など(具体的には、アクセル開度、ギア段、車速、およびエンジン回転速度)から、エンジントルクの目標値である目標エンジントルクを演算する。
【0046】
過給制御部103は、バイパス弁39および電磁クラッチ34を制御する。過給制御部103の具体的な制御内容については後段で詳述する。
【0047】
(3)エンジンの燃焼制御
エンジンの燃焼制御について説明する。図3には、エンジンの運転領域および過給機33の制御領域を示す運転マップが示されている。なお、図3のグラフの縦軸はエンジン負荷であって目標エンジントルクに相当する。
【0048】
図3に示すように、エンジンの運転領域は、燃焼形態の相違によって4つの運転領域A1~A4に大別される。それぞれ第1運転領域A1、第2運転領域A2、第3運転領域A3、第4運転領域A4とすると、第3運転領域A3は、エンジン回転速度が第1基準速度N1未満となる極低速域であり、第4運転領域A4は、エンジン回転速度が第3基準速度N3以上となる高速域であり、第1運転領域A1は、第3・第4運転領域A3,A4以外の速度域(低・中速領域)のうち目標エンジントルクが比較的低い、つまり、エンジン負荷が比較的低い低速・低負荷の領域であり、第2運転領域A2は、第1、第3、第4運転領域A1,A3,A4以外の残余の領域である。
【0049】
図3の例によれば、第1運転領域A1は、第2運転領域A2の内側に位置する略矩形状の領域とされ、第2運転領域A2の下限速度である第1基準速度N1と、第2運転領域A2の上限速度(第3基準速度N3)よりも低い第2基準速度N2と、エンジンの最低負荷よりも高い第1トルクL1と、第1トルクL1よりも高い第2トルクL2とに囲まれている。
【0050】
燃焼制御部101は、現在のエンジンの運転領域が第1~第4運転領域のいずれで運転されているかを判定し、判定した領域に対応する燃焼モードが実現されるように、インジェクタ15等を制御する。
【0051】
第3運転領域A3および第4運転領域A4では、SI燃焼が実施される。第1運転領域A1と第2運転領域A2とでは、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせた部分圧縮着火燃焼(以下、これをSPCCI燃焼という)が実行される。また、第1運転領域A1では、燃焼室6内の混合気の空燃比が理論空燃比よりも大きくされてその空気過剰率λは1より大きくされる。一方、第2運転領域A2では、混合気の空燃比はほぼ理論空燃比とされてその空気過剰率λはほぼ1とされる。
【0052】
SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮等により十分に高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。なお、「SPCCI」は「Spark Controlled Compression Ignition」の略である。
【0053】
図4は、上記のようなSPCCI燃焼が行われた場合の燃焼波形、つまりクランク角による熱発生率(J/deg)の変化を示したグラフである。本図に示すように、SPCCI燃焼では、SI燃焼による熱発生とCI燃焼による熱発生とがこの順に連続して発生する。このとき、CI燃焼の方が燃焼速度が速いという性質上、SI燃焼時よりもCI燃焼時の方が熱発生の立ち上がりが急峻になる。このため、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、SI燃焼からCI燃焼に切り替わるタイミング(後述するθci)で現れる変曲点Xを有している。
【0054】
(4)過給機33の制御
過給制御部103は、電磁クラッチ34を制御するとともに、過給圧がその目標値になるようにバイパス弁39を制御する。
【0055】
本実施形態では、目標エンジントルクが予め設定された第3トルクL3以上に設定されたバイパス弁開領域で、過給機33による過給が行われる。過給制御部103は、エンジン回転速度と目標エンジントルクとに基づいてエンジンがバイパス弁開領域で運転されているか否かを判定し、バイパス弁開領域で運転されている場合はバイパス弁39を開弁させ、その他の領域で運転されている場合はバイパス弁39を全閉にする。また、バイパス弁39を開弁する場合において、過給制御部103は、別途演算した過給圧の目標値が実現されるようにバイパス弁39の開度を調整する。
【0056】
このように過給機33による過給は上記のバイバス弁開領域で実施されるが、クラッチ34は、バイパス弁開領域でエンジンが運転されているという条件の成立時に加えて他の条件の成立時にも過給機33とクランクシャフト7とを接続する。以下、本発明の特徴的な部分であるクラッチ34の制御について詳述する。以下では、電磁クラッチ34を単にクラッチ34という。また、クラッチ34により過給機33とクランクシャフト7とが接続された状態つまりクラッチ34が接続状態にあることをクラッチ34がONであるといい、クラッチ34により過給機33とクランクシャフト7との接続が切断された状態つまりクラッチ34が切断状態にあることをクラッチ34がOFFであるという。
【0057】
(クラッチの制御)
過給制御部103は、機能的に、第1判定部110、第2判定部111およびクラッチ制御部112を有する。クラッチ制御部112は、請求項の「制御部」に相当する。
【0058】
第1判定部110は、エンジンがどの領域で運転されているのかを判定する。第1判定部110は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転速度と、目標トルク演算部102によって算出された目標エンジントルクとに基づいて判定を行う。
【0059】
第1判定部110は、クラッチ34がOFFの場合、図4に示すように、低速・低負荷側に設定されたOFF維持領域A11と、その他の領域であって図4において鎖線で囲まれたクラッチON移行領域A10とのいずれの領域でエンジンが運転されているかを判定する。OFF維持領域A11は、目標エンジントルクが第3トルクL3未満且つエンジン回転速度が基本切替速度N4未満の領域に設定されており、クラッチON移行領域A10は、OFF維持領域A11よりも高負荷側の領域および高速側の領域を含む。基本切替速度N4は、第2基準速度N2よりも高く第3基準速度N3よりも低い速度である。基本切替速度N4は、例えば、2750rpmに設定されている。
【0060】
第1判定部110は、クラッチ34がONで、且つ、後述する早期クラッチON条件の非成立時の場合、図5に示すように、低速・低負荷側に設定された第1OFF領域A21と、その他の領域であって図5において実線で囲まれた第1ON維持領域A20とのいずれの領域でエンジンが運転されているかを判定する。第1OFF領域A21は、目標エンジントルクが第3トルクL3未満且つエンジンン回転速度が第1OFF速度N10未満の領域に設定されている。第1OFF速度N10は、基本切替速度N4よりも低く第1基準速度N1よりも高い速度である。第1OFF速度N10は、例えば、2600rpmに設定されている。図5において色付けした領域はクラッチON移行領域A10であり、第1ON維持領域A20は、クラッチON移行領域A10とOFF維持領域A11のうちの高速側の領域とを合わせた領域である。
【0061】
第1判定部110は、クラッチ34がONで、且つ、後述する早期クラッチON条件が成立している場合、図6に示すように、低速・低負荷側に設定された第2OFF領域A31と、その他領域であって図6に実線で示した第2ON維持領域A30とのいずれの領域でエンジンが運転されているかを判定する。第2OFF領域A31は、目標エンジントルクが第3トルクL3未満且つエンジン回転速度が第2OFF速度N20未満の領域に設定されている。第2OFF速度N20は、第1OFF速度N10よりも低く第1基準速度N1よりも高い速度である。第2OFF速度N20は、例えば、2100rpmに設定されている。ここで、第2OFF速度N20は後述する判定回転速度N40よりも低く、第2OFF領域A31は、OFF維持領域A11のうちの判定回転速度N40よりも低い第2OFF速度N20未満の領域に相当する。
【0062】
上記の各領域A10、A11、A20、A21、A31は、それぞれ予め設定されてPCM100(記憶部104)に記憶されている。上記のOFF維持領域A11は請求項の「第1領域」に相当し、上記のクラッチON移行領域A10は請求項の「第2領域」に相当する。また、基本切替速度N4はOFF維持領域A11の上限のエンジン回転速度であり、この基本切替速度N4は請求項の「第1回転速度」に相当する。また、上記の第2OFF速度N20は請求項の「第3回転速度」に相当する。
【0063】
第2判定部111は、エンジン回転速度が判定回転速度N40以上であり且つ基本切替速度N4未満である状態が判定時間以上継続したという回転継続条件の成否を判定する。第2判定部111は、クランク角センサSN1により検出されたエンジン回転速度に基づいてこの判定を行う。判定回転速度N40は、基本切替速度N4および第1OFF速度N10よりも低く、第2OFF速度N20よりも高い値に設定されている。
【0064】
判定時間および判定回転速度N40は、予め設定されてPCM100(記憶部104)に記憶されている。本実施形態では、判定時間は、エンジンあるいは車両の運転状態に関わらずそれぞれ一定の値に設定されている。つまり、車速センサSN8により検出された車速や、ギア段センサSN9により検出されたギア段に関わらず、判定時間は一定の値とされる。判定時間は、例えば、4sに設定されている。また、判定回転速度N40は、例えば、2250rpmに設定されている。この判定回転速度N40は、請求項の「第2回転速度」に相当する。
【0065】
クラッチ制御部112は、第1判定部110および第2判定部111の判定結果に基づいてクラッチ34をON(接続状態)とOFF(切断状態)との間で切り替える。
【0066】
クラッチ制御部112は、クラッチ34がOFFの場合に、第1判定部110によってエンジンの運転領域がOFF維持領域A11からクラッチON移行領域A10に移行したと判定されると、クラッチ34をOFFからONに切り替える。また、クラッチ制御部112は、クラッチ34がOFFの場合に、第1判定部110によってエンジンの運転領域がクラッチON移行領域A10に移行したと判定されなかった場合でも、第2判定部111によって回転継続条件が成立したと判定されると、クラッチ34をOFFからONに切り替える。
【0067】
ここで、第1判定部110によってエンジンの運転領域がクラッチON移行領域A10に移行したと判定されない、且つ、第2判定部111によって回転継続条件が成立したと判定されるという条件は、クラッチ34がOFFの状態で図6に示す判定領域A_xでエンジンが継続して判定時間以上運転される(運転されたことが判定される)という条件と同じである。以下では、この条件を早期クラッチON条件という。これより、クラッチ制御部112は、クラッチ34がOFFの状態でエンジンがクラッチON移行領域A10で運転された場合にクラッチ34をOFFからONに切り替えるとともに、早期クラッチON条件が成立した場合にも、クラッチ34をOFFからONに切り替えることになる。
【0068】
また、クラッチ制御部112は、クラッチ34がONで、且つ、早期クラッチON条件の成立していない場合、第1判定部110によってエンジンの運転領域が第1ON維持領域A20から第1OFF領域A21に移行したと判定されると、クラッチ34をONからOFFに切り替える。また、クラッチ制御部112は、早期クラッチON条件の成立に伴ってクラッチ34がOFFからONに切り替えられた場合、第1判定部110によってエンジンの運転領域が第2ON維持領域A30から第2OFF領域A31に移行したと判定されると、クラッチ34をONからOFFに切り替える。
【0069】
このように、クラッチ制御部112は、クラッチ34をONからOFFに切り替えるか否かの判定に用いるエンジンの運転領域を早期クラッチON条件の成否によって切り替える。以下では、クラッチ制御部112が最終的にこの判定に用いる領域であってクラッチ34をONからOFFに切り替えるエンジンの運転領域をクラッチOFF移行領域という。つまり、クラッチOFF移行領域は、早期クラッチON条件の非成立時に第1OFF領域A21に設定されて、早期クラッチON条件の成立時は第2OFF領域A31に設定されるものである。
【0070】
ただし、クラッチ制御部112は、第1判定部110によってエンジンの運転領域がクラッチOFF移行領域(第1OFF領域A21あるいは第2OFF領域A31)に移行したと判定されてもすぐにはクラッチ34をOFFに切り替えず、クラッチOFF移行領域(早期クラッチON条件の非成立時は第1OFF領域A21、早期クラッチON条件の成立時は第2OFF領域A31)で所定のディレイ時間エンジンが継続して運転された場合にクラッチ34をOFFにする。
【0071】
エンジンの運転領域がクラッチOFF移行領域(第1OFF領域A21あるいは第2OFF領域A31)に移行してからの経過時間は、タイマー105により計測される。クラッチ制御部112は、第1判定部110によってクラッチOFF移行領域(第1OFF領域A21あるいは第2OFF領域A31)への移行が判定されるとタイマー105を作動させて計測を開始させる。そして、タイマー105の計測時間がディレイ時間以上になるとタイマー105の作動を停止するとともにその計測時間を0(ゼロ)にリセットする。また、ディレイ時間が経過する前にクラッチOFF移行領域(早期クラッチON条件の非成立時は第1OFF領域A21、早期クラッチON条件の成立時は第2OFF領域A31)から外れるとタイマー105の作動を停止するとともにその計測時間を0にリセットする。ディレイ時間は予め設定されてPCM100に記憶されている。ディレイ時間は、例えば、1sに設定されている。
【0072】
上記のPCM100(クラッチ制御部112、第1判定部110、第2判定部111、タイマー105)の制御をまとめると図7のフローチャートのようになる。図7のフローチャートの各ステップは、所定の時間毎に繰り返し実施される。
【0073】
PCM100は、まず、クラッチ34がOFFであるか否かを判定する(ステップS1)。PCM100は、クラッチ34のON/OFFの切り替えに伴って所定のフラグを0と1とで切り替えており、このフラグの値に基づきステップS1の判定を行う。なお、エンジン始動時はクラッチ34はOFFとされておりこのフラグは0になっている。
【0074】
ステップS1の判定がYESであってクラッチ34がOFFである場合、PCM100は、エンジンの運転領域がクラッチON移行領域A10であるか否か(クラッチON移行領域A10に移行したか否か)を判定する。
【0075】
ステップS2の判定がYESであってエンジンの運転領域がクラッチON移行領域A10の場合、PCM100は、クラッチ34をOFFからONに切り替えて(ステップS3)、ステップS1に戻る。
【0076】
一方、ステップS2の判定がNOでってエンジンの運転領域がクラッチON移行領域A10ではない(OFF維持領域A11である)場合、PCM100は、判定領域A_xでエンジンが運転されるという状態が判定時間以上継続したか否か(つまり、判定領域A_xでエンジンが継続して判定時間以上運転されるという早期クラッチON条件が成立したか否か)を判定する(ステップS5)。
【0077】
ステップS5の判定がNOであって判定領域A_xでエンジンが運転されるという状態が判定時間以上継続していない場合(早期クラッチON条件が非成立の場合)、PCM100は、ステップS1に戻る。
【0078】
一方、ステップS5の判定がYESであって、判定領域A_xでエンジンが運転されるという状態が判定時間以上継続した場合(早期クラッチON条件が成立した場合)、PCM100は、クラッチOFF移行領域を、第1OFF領域A21から第2OFF領域A31に変更する。また、PCM100は、ステップS3に進みクラッチ34をOFFからONに切り替えて、ステップS1に戻る。なお、クラッチOFF移行領域の初期領域は、第1OFF領域A21に設定されており、ステップS6が実施されて初めてクラッチOFF移行領域は第1OFF領域A21から第2OFF領域A31に切り替わる。
【0079】
ステップS1に戻り、ステップS1の判定がNOであってクラッチ34がONである場合、PCM100は、エンジンの運転領域がクラッチOFF移行領域であるか否かを判定する(ステップS10)。なお、上記のように、ステップS6が実施されていない場合はクラッチOFF移行領域は第1OFF領域A21に設定されており、ステップS6が実施された場合は、クラッチOFF移行領域は第2OFF領域A31に設定されている。
【0080】
ステップS10の判定がNOであってエンジンの運転領域がクラッチOFF移行領域ではない場合、PCM100は、タイマー105の計測を停止してその計測時間を0にリセットするとともに(ステップS20)、クラッチ34をONに維持する(ステップS21)。なお、タイマー105の計測が開始されておらずタイマー105が停止してその計測時間が0である場合は、停止および0を維持する。
【0081】
一方、ステップS10の判定がYESであってエンジンがクラッチOFF移行領域で運転されている場合、PCM100は、タイマー105が作動中であるか否かを判定する(ステップS11)。ステップS11の判定がNOであってタイマー105が作動中でない場合、PCM100は、タイマー105の作動を開始させて(ステップS12)、ステップS13に進む。一方、ステップS11の判定がYESであってタイマー105が既に作動している場合、PCM100は、そのままステップS13に進む。
【0082】
ステップS13にて、PCM100は、タイマー105の計測時間がディレイ時間以上であるか否かを判定する。ステップS13の判定がNOであってタイマー105の計測時間がディレイ時間未満の場合、PCM100は、クラッチ34のONを維持する(ステップS21)。
【0083】
一方、ステップS13の判定がYESであってタイマー105の計測時間がディレイ時間以上の場合、PCM100は、クラッチ34をOFFにする(ステップS14)。また、PCM100は、タイマー105の計測を停止するとともにその計測時間を0にリセットする(ステップS15)。また、PCM100は、クラッチOFF移行領域を第1OFF領域A21に戻す(ステップS16)。
【0084】
以上の制御を実施したときの各パラメータの時間変化の一例を図8に示す。実線は、本実施形態に係る時間変化の例である。鎖線は、比較例であって早期クラッチON条件の成立時であっても非成立時と同様の制御を行った場合の例を示している。また、図8の各グラフは、上から順に、エンジン回転速度、クラッチOFF移行領域のエンジン回転速度の上限値を表したOFF上限回転速度、クラッチ34の状態を示している。なお、図示は省略したが、少なくとも時刻t2までの期間、および、時刻t3以降の期間では、目標エンジントルクは第3トルクL3未満となっている。
【0085】
図8の例では、アクセルペダル60が踏み込まれることに伴いエンジン回転速度が上昇していき、時刻t1でエンジン回転速度が判定回転速度N40以上になる。そして、時刻t1から所定の期間、エンジン回転速度が判定回転速度N40以上且つ基本切替速度N4未満でエンジンの運転領域が判定領域A_xである状態が継続する。
【0086】
比較例では、エンジンの運転領域が判定領域A_xである状態が継続してもクラッチ34の切り替えは行われず、エンジン回転速度が基本切替速度N4以上になる時刻t11までクラッチ34はOFFの状態に維持される。また、比較例では、クラッチOFF移行領域が第1OFF領域A21に設定されることからOFF上限回転速度は第1OFF速度N10に維持される。そして、比較例では、エンジン回転速度が第1OFF速度N10未満になってからディレイ時間後の時刻t12にてクラッチ34がONからOFFに切り替えられる。
【0087】
これに対して、本実施形態では、エンジン回転速度が基本切替速度N4に到達する時刻t11よりも早い時刻t2にて、エンジンの運転領域が判定領域A_xである状態の継続時間が判定時間dtになるのに伴ってクラッチがOFFからONに切り替えられる。また、本実施形態では、時刻t2にて、OFF移行領域が第1OFF領域A21から第2OFF領域A31に切り替えられて、OFF上限回転速度が第1OFF速度N10からこれよりも低い第2OFF速度N20に変更される。そして、本実施形態では、時刻t12を超えてもクラッチ34はONに維持され、時刻t3にてエンジン回転速度が第2OFF速度N20未満になってからディレイ時間経過後の時刻t4に、クラッチ34がONからOFFに切り替えられることになる。
【0088】
(5)作用等
以上のように、上記実施形態では、判定領域A_xでエンジンが継続して判定時間以上運転されると、電磁クラッチ34がONに切り替えられる。つまり、クラッチ34のOFFを維持してクラッチ34を切断するOFF維持領域A11でエンジンが運転されている場合であっても、エンジン回転速度が判定回転数N40以上且つOFF維持領域A11の上限のエンジン回転速度である基本切替速度N4未満の状態でエンジンが判定時間以上継続して運転されると、電磁クラッチ34がONに切り替えられる。そのため、加速開始時にクラッチ34の応答遅れが生じるのを回避でき、加速性を高めることができる。
【0089】
具体的には、エンジン回転速度が継続して判定回転数N40以上且つ基本切替速度N4未満つまり中速域に維持されるという状況は、運転者がアクセルペダル60を比較的軽く且つ微調整しながら踏み込んでいる場合に生じやすい。そして、このような運転は、高速道路での追い越しのために運転者が加速するタイミングを見計らっているときのような運転者がその後加速しようとしているときに行われやすく、上記の状況では、その後、加速される可能性が高い。これに対して、上記実施形態では、上記の状況になるのに伴ってクラッチ34がONに切り替えられるので、その後の加速開始時にクラッチ34の応答遅れ(OFFからONに切り替えられるまでのタイムラグ)が生じるのを回避して加速開始時から過給機33による過給を行うことができる。従って、加速性を高めることができる。
【0090】
また、上記実施形態では、判定領域A_xでエンジンが継続して判定時間以上運転されるのに伴ってクラッチ34をONに切り替えた場合は、クラッチOFF移行領域が第2OFF領域A31であってOFF維持領域A11のうちの判定回転速度N40よりも低い第2OFF速度N20未満の領域とされて、エンジン回転速度が判定回転速度N40未満に低下しても第2OFF速度N20を下回らない限りクラッチ34がONに維持される。
【0091】
そのため、判定領域A_xでエンジンが継続して判定時間以上運転された場合であって上記のように運転者に加速の意図がある可能性が高い場合に、より長時間にわたってクラッチ34を接続状態に維持することができる。従って、より確実に加速時にクラッチ34の応答遅れが生じるのを回避して加速性を高めることができる。
【0092】
また、判定時間を車速やギア段によって異ならせると、車速やギア段によってクラッチ34がONになって過給が可能となるタイミングが変化する。そのため、判定時間を車速やギア段によって異ならせると、エンジンの運転状態が同じであるにも関わらず加速感に違いが生じてしまい、運転者が違和感を覚えるおそれがある。
【0093】
これに対して、上記実施形態では、判定時間が車速やギア段に関わらず一定の時間とされている。そのため、車速やギア段によって加速感が変化するのを防止でき、運転者が違和感を覚えるのを防止できる。
【0094】
(6)変形例
上記実施形態では、クラッチ34がONの状態でクラッチOFF移行領域(第1OFF移行領域21あるいは第2OFF領域A31)に移行してから、この領域での運転がディレイ時間継続した後にクラッチ34をONからOFFに切り替えた場合を説明したが、クラッチOFF移行領域に移行した直後にクラッチ34をOFFに切り替えてもよい。
【0095】
また、上記の判定時間の具体的な値、上記の判定回転速度N40の具体的な値、上記の第2OFF速度N20の具体的な値、クラッチ34のON/OFFに係る各領域A10、A11、A20、A21、A30、A31の具体的な範囲は上記に限らない。
【0096】
また、エンジン本体1で行われる燃焼モードは上記に限らない。
【符号の説明】
【0097】
1 エンジン本体
7 クランクシャフト(出力軸)
33 過給機
34 クラッチ(電磁クラッチ)
60 アクセルペダル
70 変速機
100 PCM
103 過給制御部
110 第1判定部
111 第2判定部
112 クラッチ制御部(制御部)
N4 基本切替速度(第1回転速度)
N20 第2OFF速度(第3回転速度)
N40 判定回転速度(第2回転速度)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8