(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】供給装置及び光ファイバケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G02B6/44 366
G02B6/44 391
(21)【出願番号】P 2020217222
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 正彦
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-186286(JP,A)
【文献】特公昭47-000769(JP,B1)
【文献】特開2006-009176(JP,A)
【文献】国際公開第2012/081407(WO,A1)
【文献】特開2016-080843(JP,A)
【文献】特開2019-015009(JP,A)
【文献】特開2005-209416(JP,A)
【文献】特開2013-095934(JP,A)
【文献】特開2004-197265(JP,A)
【文献】特開平05-298948(JP,A)
【文献】特開平09-026534(JP,A)
【文献】米国特許第09323019(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紐をガイドする複数の固定ガイドを備え、
前記複数の固定ガイドのそれぞれは、
前記紐が挿通可能な丸孔を有するループ状の形状であり、前記紐の通過に応じて回転することなく、前記紐が通過する際に一定の角度を成すパスラインを形成するように固定して配置され、
前記複数の固定ガイドは、複数の取付孔部のうちの所望の位置に取り付け可能であり、
前記紐と前記複数の固定ガイドのそれぞれとの摩擦力によって前記紐にかかる張力が調整され、前記紐を供給する、供給装置。
【請求項2】
前記紐は、光ファイバケーブルが備える光ファイバ収容体に光ファイバ心線が収容された状態のケーブルコアの外周あるいは前記ケーブルコアの周囲に巻き付けられた上巻きテープの外周に巻き付けられる粗巻き紐であり、
前記粗巻き紐を前記光ファイバケーブルの製造装置に供給する、請求項1に記載の供給装置。
【請求項3】
前記複数の固定ガイドの一部の取り付け先である前記取付孔部が他の前記取付孔部に変更された場合、前記複数の固定ガイドのうち、前記パスライン上において隣接する固定ガイド間の距離
が変更
される、請求項1または請求項2に記載の供給装置。
【請求項4】
前記複数の固定ガイドの数を変更
可能である、請求項1または請求項2に記載の供給装置。
【請求項5】
前記複数の固定ガイドは千鳥状に配置されている、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の供給装置。
【請求項6】
請求項2に記載の供給装置を用いて、前記粗巻き紐を前記製造装置に供給し、前記ケーブルコアの外周あるいは前記上巻きテープの外周に前記粗巻き紐を巻き付けることにより、前記光ファイバケーブルを形成する、光ファイバケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、紐を供給する供給装置及び当該供給装置を用いて製造する光ファイバケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、光ファイバケーブルを製造するための集合工程において、複数のリールからそれぞれ繰り出されて複数枚ずつ積層されたテープ心線が光ファイバ収納体の溝内に挿入され、テープ心線が収容された光ファイバ収納体の周囲には粗巻き体が巻付けられた後に、さらにその周囲に上巻きテープが巻き付けて巻取りリールに巻き取られることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、スロットロッドの溝に光ファイバ心線を収容するための集線装置の下流側に設けられた粗巻き装置は、粗巻き紐を巻き付けた粗巻き紐供給ボビンを有し、当該供給ボビンから粗巻き紐を供給して、光ファイバ心線を収容したスロットロッドであるケーブルコアの外周あるいはケーブルコアに巻き付けられた上巻テープの周囲に粗巻き紐を横巻きしていくことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-224549号公報
【文献】特開2016-080843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2に開示のような粗巻き装置において、ケーブルコアや上巻テープの外周に巻き付ける粗巻き紐の張力を調整するための張力調整機構が設けられる場合があるが、ダストの多い環境下でトルク式などの張力調整機構を用いると、破損や摩耗が生じやすく、その張力調整機構には改善の余地がある。
【0006】
本開示は、任意の張力で紐を供給することが可能であり、且つ、破損や摩耗等の問題が生じにくく、安価で長寿命な供給装置及び当該供給装置を用いた光ファイバケーブルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る供給装置は、
紐をガイドする複数の固定ガイドを備え、
前記複数の固定ガイドのそれぞれは、前記紐の通過に応じて回転することなく、前記紐が通過する際に一定の角度を成すパスラインを形成するように固定して配置され、
前記紐と前記複数の固定ガイドのそれぞれとの摩擦力によって前記紐にかかる張力が調整され、前記紐を供給する。
【0008】
また、本開示の一態様に係る光ファイバケーブルの製造方法は、
上記の供給装置を用いて、前記粗巻き紐を前記製造装置に供給し、前記ケーブルコアの外周あるいは前記上巻きテープの外周に前記粗巻き紐を巻き付けることにより、前記光ファイバケーブルを形成する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、任意の張力で紐を供給することが可能であり、且つ、破損や摩耗等の問題が生じにくく、安価で長寿命な供給装置及び当該供給装置を用いた光ファイバケーブルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る供給装置を用いて製造されるスロット型の光ファイバケーブルの一例を示す図である。
【
図2】本実施形態に係る供給装置を用いて製造されるスロットレス型の光ファイバケーブルの一例を示す図である。
【
図3】
図1に示す光ファイバケーブルの製造装置の一例を示す図である。
【
図4】本実施形態に係る供給装置の一例を示す図である。
【
図5】
図4に示す供給装置の粗巻き紐の張力を調整する張力調整部を示す図である。
【
図6】
図5の張力調整部が有する固定ガイドを示す図である。
【
図7A】粗巻き紐の張力を調整するための参考例に係る供給装置を示す図である。
【
図7B】
図7Aに示す参考例に係る供給装置が備える張力負荷装置を示す図である。
【
図9】固定盤に配置される固定ガイドの配置形状の変形例を示す図である。
【
図10】固定盤に配置される固定ガイドの配置形状の別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の実施形態の説明)
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係る供給装置は、
(1)紐をガイドする複数の固定ガイドを備え、
前記複数の固定ガイドのそれぞれは、前記紐が挿通可能な丸孔を有するループ状の形状であり、前記紐の通過に応じて回転することなく、前記紐が通過する際に一定の角度を成すパスラインを形成するように固定して配置され、
前記複数の固定ガイドは、複数の取付孔部のうちの所望の位置に取り付け可能であり、
前記紐と前記複数の固定ガイドのそれぞれとの摩擦力によって前記紐にかかる張力が調整され、前記紐を供給する。
この構成によれば、任意の張力で紐を供給することが可能である。また、固定ガイドが回転機構を備えていないため、破損や摩耗等の問題が生じにくく、安価で長寿命な供給装置を提供することができる。
【0012】
(2)前記紐は、光ファイバケーブルが備える光ファイバ収容体に光ファイバ心線が収容された状態のケーブルコアの外周あるいは前記ケーブルコアの周囲に巻き付けられた上巻きテープの外周に巻き付けられる粗巻き紐であり、
前記粗巻き紐を前記光ファイバケーブルの製造装置に供給してもよい。
この構成によれば、粗巻き紐の品種に応じて適切な張力で粗巻き紐を光ファイバケーブルのケーブルコア等の周囲に巻き付けることができるため、粗巻き紐の過張力や低張力に起因する光ファイバケーブルの品質不良を抑制することができる。
【0013】
(3)前記複数の固定ガイドの一部の取り付け先である前記取付孔部が他の前記取付孔部に変更された場合、前記複数の固定ガイドのうち、前記パスライン上において隣接する固定ガイド間の距離が変更されてもよい。
この構成によれば、簡便な構成で、固定ガイド間の距離を変更し、パスラインの角度を調整することができるため、紐に掛かる張力を調整することができる。具体的には、紐の通過するパスラインの角度が急峻になるように隣接する固定ガイド間の距離を変更することで、張力を高くすることができる。
【0014】
(4)前記複数の固定ガイドの数を変更可能であってもよい。
この構成によれば、簡便な構成で、紐と複数の固定ガイドとの摩擦力を増減させることができるため、紐に掛かる張力を調整することができる。具体的に歯、固定ガイドの数を増やすことで通過抵抗が増え、張力を高くすることができる。
【0015】
(5)前記複数の固定ガイドは千鳥状に配置されていてもよい。
この構成によれば、複数の固定ガイドを配置する領域が比較的小さくても、複数の固定ガイドにより形成される紐のパスラインに角度をつけやすくなる。
【0016】
また、本開示の一態様に係る光ファイバケーブルの製造方法は、
(6)上記の供給装置を用いて、前記粗巻き紐を前記製造装置に供給し、前記ケーブルコアの外周あるいは前記上巻きテープの外周に前記粗巻き紐を巻き付けることにより、前記光ファイバケーブルを形成する。
この方法によれば、ケーブルコア等の外周に巻き付けられる粗巻き紐の過張力や低張力に起因する品質不良を抑制可能な光ファイバケーブルを製造することができる。
【0017】
(本開示の実施形態の詳細)
本開示の実施形態に係る紐の供給装置及び当該供給装置を用いた光ファイバケーブルの製造方法の具体例を、以下に図面を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0018】
図1及び
図2は、本実施形態に係る紐の供給装置を用いて製造される光ファイバケーブルの一例を示す図である。
図1に示す光ファイバケーブル1は、スロット型の光ファイバケーブルである。
図2に示す光ファイバケーブル2は、スロットレス型の光ファイバケーブルである。
【0019】
図1の光ファイバケーブル1は、複数の光ファイバ心線12を有するケーブルコア11と、ケーブルコア11の周囲に巻き付けられた上巻きテープ16と、上巻きテープ16の周囲を被覆するシース18と、を備えている。そして、光ファイバケーブル1では、ケーブルコア11の外周に粗巻き紐15が巻き付けられ、上巻きテープ16の外周に粗巻き紐17が巻き付けられている。これらの粗巻き紐15,17が、本実施形態に係る供給装置から供給される紐である。
【0020】
ケーブルコア11は、中心に鋼線又は鋼撚線等のテンションメンバ(抗張力体とも言う)14を埋設し、外周に複数のスロット溝13aを設けたプラスチック材からなるスロットロッド13(光ファイバ収容体の一例)を有する。
【0021】
スロットロッド13のスロット溝13aは、例えば螺旋状又はSZ状に形成されている。スロット溝13a内には、複数本の光ファイバ心線12が収容される。ここで、光ファイバ心線12は、単心に限ったものではなく、図示するようなテープ状に形成された光ファイバテープ心線であってもよい。
【0022】
粗巻き紐15は、光ファイバ心線12がスロット溝13a内に収容された状態でスロットロッド13の外周に巻き付けられる。スロット溝13a内に収容された光ファイバ心線12は、スロットロッド13に巻き付けられた粗巻き紐15によってスロット溝13aから脱落しないように保持されている。
【0023】
ケーブルコア11の周囲には、上巻きテープ16が長手方向に、例えば縦添えで巻き付けられている。上巻きテープ16は、スロットロッド13に巻き付けられた粗巻き紐15の上から巻き付けられる。上巻きテープ16は、幅方向の端部同士を互いに重ねることで、重なり部分が形成されるように巻き付けられる。
【0024】
上巻きテープ16は、スロット溝13aに収容された光ファイバ心線12が外に飛び出さないように(ばらけないように)保持するとともに、シース18を樹脂の押出成形で形成する際に樹脂が光ファイバ心線12の面上に落ち込んで接触するのを抑制する接触抑制層や、シース18の押出成形時の熱絶縁層として機能する。上巻きテープ16としては、例えば、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等の繊維からなる不織布などが用いられる。
【0025】
粗巻き紐17は、縦添えされた上巻きテープ16の外周に巻き付けられる。粗巻き紐17は、縦添えされた上巻きテープ16の解れを抑える押え巻き用の紐として巻き付けられる。
【0026】
シース18は、粗巻き紐17が巻き付けられた上巻きテープ16の周囲に押出成形によって形成される。シース18が形成されることによって、上巻きテープ16の巻き付けが固定される。シース18は、例えばPVC(ポリ塩化ビニル)、ポリエチレン等で構成されている。
【0027】
図2の光ファイバケーブル2は、複数の光ファイバ心線22を有するケーブルコア21と、ケーブルコア21の周囲に巻き付けられた上巻きテープ26と、上巻きテープ26の周囲を被覆するシース28と、を備えている。そして、光ファイバケーブル2では、上巻きテープ26の外周に粗巻き紐27が巻き付けられている。この粗巻き紐27が、本実施形態に係る供給装置から供給される紐である。
【0028】
ケーブルコア21は、複数本の光ファイバ心線22をテープ23等でバンドル状に束ねて光ファイバ線束24とし、この光ファイバ線束24を複数本集合させ、ヤーンなどを束ねた緩衝材25と共に撚り合わせて外形が円形になるようにしたものである。
【0029】
ケーブルコア21の周囲には、上巻きテープ26が長手方向に、例えば縦添えで巻き付けられている。上巻きテープ26は、上述した上巻きテープ16と同様に、巻き付ける際に、幅方向の端部同士を互いに重ねることで、重なり部分が形成されるように巻き付けられる。
【0030】
粗巻き紐27は、縦添えされた上巻きテープ26の外周に巻き付けられる。粗巻き紐27は、縦添えされた上巻きテープ26の解れを抑える押え巻き用の紐として巻き付けられる。
【0031】
シース28は、粗巻き紐27が巻き付けられた上巻きテープ26の周囲に押出成形によって形成される。シース28が形成されることによって、上巻きテープ26の巻き付けが固定される。シース28には、テンションメンバ29が埋め込まれている。
【0032】
次に、本実施形態に係る光ファイバケーブルの製造方法について説明する。
図3は、
図1に示すスロット型の光ファイバケーブル1を製造するための製造装置の一例を示す図である。なお、スロットレス型である光ファイバケーブル2の製造に関する説明は、本開示の特徴部分である紐の供給装置を用いる部分が同じであるため省略する。
【0033】
図3に示すように光ファイバケーブル1の製造装置30は、スロット供給機31と、繰り出しキャプスタン32と、光ファイバ供給ボビン33と、集線装置34と、粗巻き装置45Aと、縦添え装置35と、粗巻き装置45Bと、引き取りキャプスタン39と、巻取機40と、を備える。
【0034】
製造装置30の最上流側(
図3における最左側)には、ドラムに巻き取られているSZ型構造のスロットロッド13を繰り出してパスラインに供給するスロット供給機31が設けられている。スロット供給機31から繰り出されたスロットロッド13は、繰り出しキャプスタン32を通り、集線装置34に向けて送り出される。繰り出しキャプスタン32と、集線装置34の下流側に設けられる引き取りキャプスタン39とによって、スロットロッド13に対して一定のテンションを付加し、集線装置34を通過させるようにしている。
【0035】
集線装置34は、集合ダイス等で構成されている。集線装置34は、通過するスロットロッド13の通過向きを固定させるための向き固定ガイド(図示せず)を有する。向き固定ガイドは、通過するスロットロッド13の所定のスロット溝13aが常に周方向の一定位置を通過するようにしている。
【0036】
集線装置34の上流側には、光ファイバ心線12を集線装置34に供給するための光ファイバ供給ボビン33が設けられている。光ファイバ供給ボビン33は、スロットロッド13のスロット溝13aに収容される光ファイバ心線12の収容数に応じて設けられている。本例では、例えば、8個の光ファイバ供給ボビン33が設けられている。光ファイバ供給ボビン33により供給される光ファイバ心線12は、集線装置34によってスロットロッド13の各スロット溝13aに収容される。
【0037】
集線装置34の下流側には、粗巻き紐15を巻き付けるための粗巻き装置45Aが設けられている。粗巻き装置45Aは、粗巻き紐15を供給する供給装置を有し、当該供給装置から供給される粗巻き紐15を、光ファイバ心線12が収容されたスロットロッド13であるケーブルコア11の外周に横巻きしていく。これにより、光ファイバ心線12がスロット溝13aの内部に保持される。粗巻き装置45Aが有する供給装置については、
図4~
図6で後述する。
【0038】
粗巻き紐15が巻き付けられたケーブルコア11は、粗巻き装置45Aの下流側に設けられた縦添え装置35に入線され、上巻きテープ16が縦添えで巻き付けられる。縦添え装置35は、上巻きテープ16を供給するテープ供給ボビン36と、ローラ37を含む複数のローラと、上巻きテープ16を巻き付けるフォーマ38と、を有する。フォーマ38は、ケーブルコア11の外周において、上巻きテープ16の幅方向の両端同士が重なるように上巻きテープ16を円筒状に巻き付ける。
【0039】
縦添え装置35の下流側には、粗巻き紐17を巻き付けるための粗巻き装置45Bが設けられている。粗巻き装置45Bは、粗巻き紐17を供給する供給装置を有し、当該供給装置から供給される粗巻き紐17を、上巻きテープ16が縦添えされたケーブルコア11の外周に横巻きしていく。これにより、縦添えされた上巻きテープ16の解れが抑えられる。粗巻き装置45Bが有する供給装置については、
図4~
図6で後述する。
【0040】
このように粗巻き紐17が巻き付けられた後のケーブルコア11は、引き取りキャプスタン39により引き取られ、巻取機40で巻き取られる。巻取機40で巻き取られたケーブルコア11は、その後、再び繰り出され、その外周に押出成形装置(図示せず)によってシース18が被覆され、冷却装置(図示せず)で冷却されて、完成品の光ファイバケーブル1になる。なお、
図3の製造装置において、引き取りキャプスタン39の上流側に、押出成形装置、冷却装置を設けるなどして、シース18による被覆工程まで同じ製造装置で実行するようにしてもよい。
【0041】
次に、
図4~
図6を参照して、粗巻き装置45A,45Bに設けられている粗巻き紐15,17の供給装置50A,50Bについて説明する。
図4は、供給装置50A,50Bの一例を示す図である。
図5は、供給装置50A,50Bにおける粗巻き紐15,17の張力を調整する張力調整部52を示す図である。
図6は、張力調整部52が有する固定ガイド53を示す図である。なお、供給装置50Aと50Bは、同じ構成であるため、以下の説明では供給装置50Aについてのみ説明する。
【0042】
図4に示すように、供給装置50Aは、粗巻き紐15が巻き付けられた紐供給ボビン51と、粗巻き紐15の張力を調整可能な張力調整部52と、を有している。張力調整部52は、粗巻き紐15が通される複数(本例では、5個)の固定ガイド53と、固定ガイド53が着脱可能に取り付けられる固定盤54とで構成されている。また、張力調整部52の前段には、紐供給ボビン51から供給される粗巻き紐15を張力調整部52にガイドするプレガイド55が設けられている。また、張力調整部52の後段には、張力調整部52から送出される粗巻き紐15を所定のパスラインを流れるケーブルコア11に向けてガイドするガイドローラ56が設けられている。
【0043】
紐供給ボビン51から供給された粗巻き紐15は、プレガイド55を介して、張力調整部52の固定盤54に固定された各固定ガイド53に通される。
図6に示すように、固定ガイド53は、粗巻き紐15が挿通可能な丸孔53aを有するループ状の基体60と、基体60の外周面の一部から外側に突出する取付部61とを有している。固定ガイド53は、摩耗に強く、且つ、粗巻き紐15が通される丸孔53aの表面滑性に優れている材質であることが好ましく、例えば、セラミック、ステンレス等の材質で構成されている。
【0044】
図5に示すように、張力調整部52の固定盤54には、固定ガイド53を取り付けるための複数の取付孔部57が碁盤の目状に設けられている。本例では、例えば、縦6列横5行となるように複数の複数の取付孔部57が設けられている。固定ガイド53の取付部61(
図6参照)を複数の取付孔部57のうち所定の取付孔部57に差し込むことで、固定ガイド53が固定盤54上の所望の位置に取り付け可能である。すなわち、これらの取付孔部57に取り付けられる固定ガイド53の取り付け位置は自由に変更可能である。なお、取付孔部57に取り付けられた状態の固定ガイド53は、紐供給ボビン51から高速で繰り出される粗巻き紐15が丸孔53a内を通過する場合にも粗巻き紐15の通過に応じて回転等することなく固定して配置されている。
【0045】
固定ガイド53は、固定盤54上において粗巻き紐15が通過するパスラインに一定の角度が付けられるように配置されている。すなわち、固定ガイド53は、粗巻き紐15が通過する際に一定の角度を成すパスラインを形成するように配置されている。具体的には、固定ガイド53は、固定盤54上に、例えば千鳥状に配置されている。
図5に示すように、千鳥状に配置された各固定ガイド53A,53B,53C,53D,53Eの丸孔53aに粗巻き紐15が順に通されることで、各固定ガイド53A~53Eの丸孔53aを構成する内周面62(
図6参照)と粗巻き紐15との間に摩擦力が生じて、粗巻き紐15に掛かる張力が決定されるように構成されている。
なお、「一定の角度を成すパスラインを形成」とは、
図5に示すように、固定ガイド53のところでパスラインが曲げられ、鋭角の角度(例えば、
図5に示す角度θ)が付いている状態を表す。パスラインにこのような角度が付くことで、固定ガイド53と粗巻き紐15との間に摩擦力が生じ、粗巻き紐15に掛かる張力が決定される。
【0046】
粗巻き紐15に掛かる張力の大きさは、粗巻き紐15のパスライン上において隣接して配置される固定ガイド53間の距離を変更することによって調整することが可能である。固定ガイド53が千鳥状に配置されている本例の場合、
図5において、上側に固定されている固定ガイド53A,53C,53Eと下側に固定されている固定ガイド53B,53Dとの上下方向の距離を変更することにより、粗巻き紐15のパスラインの角度が変わり、摩擦力が変わるので、粗巻き紐15に掛かる張力を調整することができる。
【0047】
例えば、上側に固定されている固定ガイド53A,53C,53Eと下側に固定されている固定ガイド53B,53Dとの距離を広げることにより、粗巻き紐15が通過するパスラインの角度が急峻になり、粗巻き紐15に掛かる張力を大きくすることができる。これとは反対に、上側に固定されている固定ガイド53A,53C,53Eと下側に固定されている固定ガイド53B,53Dとの距離を狭めることにより、粗巻き紐15が通過するパスラインの角度が緩やかになり、粗巻き紐15に掛かる張力を小さくすることができる。
【0048】
張力調整部52によって張力が調整された粗巻き紐15は、所望のパスラインに沿って流れるケーブルコア11に向けて供給されて、スロット溝13a内に光ファイバ心線12が収容されたスロットロッド13の外周に巻き付けられる。
【0049】
なお、
図1の光ファイバケーブル1に示すように、ケーブルコア11の外周には2本の粗巻き紐15が巻き付けられている。このように2本の粗巻き紐15をケーブルコア11に巻き付ける場合には、
図3に示すように、ケーブルコア11のパスラインの上部と下部にそれぞれ1個ずつ粗巻き装置45A,45Bを設ければよい。すなわち、ケーブルコア11の外周に巻き付ける粗巻き紐15の本数に応じた数の粗巻き装置が設けられる。
なお、
図4及び
図5等では図示の簡略化のため、ケーブルコア11のパスラインの上部に配置された粗巻き装置45A(45B)が備える供給装置50A(50B)のみを図示している。
【0050】
ところで、粗巻き装置において、光ファイバケーブルに使用する粗巻き紐の張力を調整するために、例えば、
図7A及び
図7Bに示すような構成の供給装置100が使用される場合がある。
図7Aは、参考例に係る供給装置100を示す図であり、
図7Bは供給装置100が備える張力調整部152を示す図である。
【0051】
図7Aに示すように、供給装置100は、粗巻き紐15が巻き付けられた紐供給ボビン151と、粗巻き紐15の張力を調整可能な張力調整部152と、を備えている。紐供給ボビン151と張力調整部152とは回転装置160によりその全体が、パスラインに沿って流れるケーブルコア11の周方向に沿って回転される。図面の簡略化のため、ケーブルコア11の下部に配置される紐供給ボビン151から供給される粗巻き紐15の張力を調整するための張力調整部(上部の張力調整部152と同様の機構)については図示をしていない。
なお、
図4や
図5では回転装置の図示を省略しているが、本実施形態の供給装置50A(50B)においても、回転装置により紐供給ボビン51および張力調整部52は、ケーブルコア11の周方向に沿って回転される。
【0052】
図7Bに示すように、張力調整部152は、粗巻き紐15が巻き付けられる一対のローラ153,154を備えている。一対のローラ153,154のうち紐供給ボビン151側に設けられるローラは、粗巻き紐15の線速にブレーキを掛けるためのブレーキローラ153である。一対のローラ153,154のうちブレーキローラ153よりも後段に設けられるローラは、粗巻き紐15を送り出すための従動ローラ154である。また、張力調整部152の前段には紐供給ボビン151から供給される粗巻き紐15を張力調整部152にガイドするプレガイド155が設けられている。張力調整部152の後段には従動ローラ154から送出される粗巻き紐15をケーブルコア11に向けてガイドするガイドローラ156が設けられている。
【0053】
ブレーキローラ153には、トルク制御装置157が連結されている。トルク制御装置157は、装置内に磁石が設けられており、トルク制御装置157の軸が回転すると磁石も回転するように構成されている。トルク制御装置157は、磁石の位置を変化させることにより、トルク制御装置157に生じるトルクを変化させることができる。トルク制御装置157のトルクを変化することで、トルク制御装置157に軸連結されているブレーキローラ153のブレーキ力を変化させることができる。
【0054】
張力調整部152にガイドされた粗巻き紐15は、ブレーキローラ153と従動ローラ154との間を複数回折り返した後にガイドローラ156に送出される。このとき、ブレーキローラ153のブレーキ力を変化させることで粗巻き紐15に掛かる張力を調整することができる。
【0055】
しかしながら、
図7Aに示す回転装置160は、粗巻き紐15をケーブルコア11の外周に巻回するために、例えば100rpm以上の高速で供給装置100全体を回転させる。このため、回転装置160の回転に伴い供給装置100内のトルク制御装置157には遠心力が掛かる。これにより、トルク制御装置157の破損が生じやすい。また、粗巻き紐15は紐供給ボビン151から高速で繰り出される。このため、粗巻き紐15の繰り出し速度に応じてトルク制御装置157の軸も高速で回転するので、トルク制御装置157内に設けられているベアリングが摩耗しやすい。
さらに、ベアリングが摩耗した状態のトルク制御装置157は、粗巻き紐15の張力の調整が不安定になる。例えば、粗巻き紐15の張力調整が過張力の場合には、ケーブルコア11への粗巻き紐15の食い込みが発生する。一方で、粗巻き紐15の張力調整が低張力の場合には、スロットロッド13のスロット溝13aに収容された光ファイバ心線12がスロット溝13aから脱落する可能性が高まる。このようなことから、
図7A及び
図7Bに示す参考例に係る供給装置100を使用した場合、光ファイバケーブルの品質不良が生じやすい。
【0056】
これに対して、本実施形態に係る粗巻き紐15の供給装置50Aは、粗巻き紐15をガイドする複数の固定ガイド53を備え、各固定ガイド53は、粗巻き紐15の通過に応じて回転することなく、粗巻き紐15が通過する際に一定の角度を成すパスラインを形成するように固定して配置されている。そして、供給装置50Aは、各固定ガイド53に通される粗巻き紐15と各固定ガイド53との摩擦力によって粗巻き紐15に掛かる張力が調整され、粗巻き紐15を供給する。この構成によれば、固定ガイド53と粗巻き紐15との間に生じる摩擦力によって粗巻き紐15に掛かる張力を調整することができるので、任意の張力で粗巻き紐15をケーブルコア11に供給することができる。また、本実施形態の供給装置50Aの固定ガイド53は、粗巻き紐15の繰り出しに応じて回転することなく固定して固定盤54に取り付けられる。すなわち、固定ガイド53は、紐供給ボビン51から高速で繰り出された粗巻き紐15が固定ガイド53を通過しても、その繰り出し速度に応じて可動するような回転機構が設けられていない。そのため、固定ガイド53の破損や摩耗等の問題が生じにくく、安価で長寿命な供給装置50Aを提供できる。これにより、変動の少ない安定した張力を粗巻き紐15に掛けることができ、粗巻き紐15の過張力や低張力に起因する光ファイバケーブル1の品質不良の発生を抑制することができる。
【0057】
また、供給装置50Aによれば、複数の固定ガイド53のうち粗巻き紐15のパスライン上において隣接する固定ガイド53間の距離を変更してパスラインの角度が調整されることにより粗巻き紐15の張力が調整される。具体的には、粗巻き紐15の通過するパスラインの角度が急峻になるように上下方向における隣接する固定ガイド53間の距離を大きくすることで、粗巻き紐15に掛かる張力を大きくすることができる。このような簡便な構成で、粗巻き紐15に掛かる張力を調整することができる。
【0058】
また、供給装置50Aによれば、複数の固定ガイド53は千鳥状に配置されている。このため、複数の固定ガイド53を配置する領域が比較的小さくても、複数の固定ガイド53によって形成される粗巻き紐15のパスラインに角度をつけやすく、粗巻き紐15に掛かる張力を容易に調整することができる。
【0059】
また、本実施形態に係る光ファイバケーブル1の製造方法は、供給装置50Aを用いて、粗巻き紐15を供給して、光ファイバケーブル1のケーブルコア11の外周あるいはケーブルコア11の周囲に巻き付けられた上巻きテープ16の外周に粗巻き紐15を巻き付けることにより、光ファイバケーブル1を形成する。この方法によれば、ケーブルコア11や上巻きテープ16の外周に巻き付けられる粗巻き紐15の過張力や低張力に起因する品質不良を抑制可能な光ファイバケーブル1を製造することができる。
【0060】
なお、上述実施形態では、固定ガイド53間の距離を変更することで粗巻き紐15に掛かる張力を調整しているが、これに限られない。例えば、固定ガイド53の数を変更することにより粗巻き紐15に掛かる張力を調整するようにしてもよい。具体的には、
図4及び
図5において、固定ガイド53間の上下方向の距離を一定にした状態で、固定盤54に取り付ける固定ガイド53の数を増やし、粗巻き紐15が固定ガイド53を通過する際のトータルの通過抵抗を増加させることにより、粗巻き紐15に掛かる張力を大きくしてもよい。これとは反対に、固定ガイド53の数を減らすことで、粗巻き紐15が固定ガイド53を通過する際のトータルの通過抵抗を減少させて、粗巻き紐15に掛かる張力を小さくしてもよい。固定ガイド53の数は、例えば、3~10個、好ましくは5~7個である。複数の固定ガイド53を通過する際に粗巻き紐15に掛かるトータルの張力は、例えば、0.1~20Nである。
【0061】
また、上記実施形態では、粗巻き紐15,17を光ファイバケーブル1の製造装置30に供給する供給装置50A,50Bについて説明したが、供給装置の用途はこれに限られない。供給装置は、固定ガイドと紐とに生じる摩擦力によって紐に掛かる張力を調整する用途であればいずれの装置に用いられてもよい。
【0062】
(変形例)
図8は変形例に係る固定ガイドを示す図である。張力調整部52に着脱可能な固定ガイドの形状は、
図6に示すものに限られない。例えば、固定ガイドとして、
図8に示すような固定ガイド63が用いられてもよい。固定ガイド63は、長尺部材の長手方向中央をループ状に成形したものであり、スネールガイドとも呼ばれる。すなわち、固定ガイド63は、直線状の基部64と、基部64に連続する円弧部65と、円弧部65に連続する直線状の先端部66から構成されている。基部64が固定盤54に形成された取付孔部57に差し込まれることで、固定ガイド63は固定盤54に着脱可能に固定される。円弧部65により、粗巻き紐15(17)が通過する丸孔65aが形成される。このような基部64と円弧部65と先端部66とが連続して形成された固定ガイド63では、基部64と円弧部65との境界部67aおよび円弧部65と先端部66との境界部67bとの間に隙間が形成される。そのため、固定ガイド63に粗巻き紐15(17)を通す場合には、粗巻き紐15(17)の先端を丸孔65aに通す方法に加えて、境界部67a,67b間の隙間を通して粗巻き紐15(17)を丸孔65aに通すこともできる。
【0063】
また、上記実施形態の供給装置50A,50Bでは、複数の固定ガイド53が固定盤54に千鳥状に配置される場合について説明したが、固定ガイド53の配置形状はこれに限られない。例えば、
図9に示すように、固定ガイド53は、張力調整部52の固定盤54上に矩形状のパスラインを形成するように配置してもよい。あるいは、
図10に示すように、固定ガイド53は、張力調整部52の固定盤54上に円形状のパスラインを形成するように配置してもよい。
【0064】
固定ガイド53が
図9及び
図10に示すような形状に配置される場合にも、粗巻き紐15(17)が通過するパスライン上において隣接する固定ガイド53間の距離を変更することで、粗巻き紐15(17)と固定ガイド53との間に生じる摩擦力により粗巻き紐15に掛かる張力を調整する。あるいは、配置される固定ガイド53の数を変更して、粗巻き紐15(17)が固定ガイド53を通過する際のトータルの通過抵抗を変化させることにより、粗巻き紐15に掛かる張力を調整する。このように固定ガイド53が矩形状あるいは円形状のパスラインを形成するように配置された供給装置の場合にも、上記実施形態の供給装置50A,50Bと同様の効果を得ることができる。
【0065】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0066】
1,2:光ファイバケーブル
11,21:ケーブルコア
12,22:光ファイバ心線
13:スロットロッド(光ファイバ収容体の一例)
13a:スロット溝
14,29:テンションメンバ
15,17,27,115:粗巻き紐
16,26:上巻きテープ
18,28:シース
23:テープ
24:光ファイバ線束
25:緩衝材
30:製造装置
31:スロット供給機
32:繰り出しキャプスタン
33:光ファイバ供給ボビン
34:集線装置
35:縦添え装置
36:テープ供給ボビン
37:ローラ
38:フォーマ
39:引き取りキャプスタン
40:巻取機
45A,45B:粗巻き装置
50A,50B,100:供給装置
51,151:紐供給ボビン
52,152:張力調整部
53,63:固定ガイド
53a,65a:丸孔
54:固定盤
55,155:プレガイド
56,156:ガイドローラ
57:取付孔部
60:基体
61:取付部
62:内周面
64:基部
65:円弧部
66:先端部
67a,67b:境界部
153:ブレーキローラ
154:従動ローラ
157:トルク制御装置