(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】衝撃吸収構造
(51)【国際特許分類】
B60R 21/045 20060101AFI20240702BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20240702BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20240702BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240702BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60R21/045 332
F16F7/00 B
F16F7/00 J
F16F7/12
F16F15/02 Z
F16F15/023 A
(21)【出願番号】P 2021002980
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】薮押 正人
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05382051(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0248742(US,A1)
【文献】特開2000-043672(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113734007(CN,A)
【文献】特表2002-522286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/045
F16F 7/00
F16F 7/12
F16F 15/02
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空状に形成され、車両の
内装部材に固定されるブラケットに取り付けられる衝撃吸収体を備え、
前記衝撃吸収体は、
前記ブラケットに取り付けられる壁部に排気孔を有し、前記車両の衝突時に前記取付部と乗員との間で圧縮されて塑性変形すると共に、前記圧縮による内圧上昇によって内部の空気を
前記排気孔から外部に排気
し、
前記ブラケットは、前記排気孔と対向する箇所にエア流出孔を有し、
前記排気孔は、前記ブラケットと前記内装部材との間に形成される隙間に前記エア流出孔を介して連通される衝撃吸収構造。
【請求項2】
前記衝撃吸収体は、前記
壁部における前記排気孔の周辺箇所が前記取付部とは反対側へ凹んだ凹部とされる請求項1に記載の衝撃吸収構造。
【請求項3】
前記衝撃吸収体
において、前記取付部と対向して配置される壁部と、前記乗員と対向して配置される壁部とをつなぐ周壁部には、前記衝撃吸収体の外側へ凸をなす凸形状又は前記衝撃吸収体の内側へ凹をなす凹形状が周方向に沿って付与される請求項1又は請求項2に記載の衝撃吸収構造。
【請求項4】
前記
衝撃吸収体は、前記排気孔とは別に、前記圧縮時に潰れる部位に、前記圧縮による内圧上昇によって内部の空気を外部に排気するための別排気孔を有する請求項1~請求項3の何れか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項5】
前記
衝撃吸収体は、前記別排気孔を複数有する請求項4に記載の衝撃吸収構造。
【請求項6】
前記
部位は、前記周壁部において前記凸形状又は前記凹形状が付与される部位である請求項3を引用する請求項4又は請求項3を引用する請求項5に記載の衝撃吸収構造。
【請求項7】
前記衝撃吸収体は、
ブロー成型によって製造されるブロー成型体である請求項1~請求項6の何れか1項に記載の衝撃吸収構造。
【請求項8】
前記衝撃吸収体は、
車両用ニーボルスターの構成部材として前記乗員の膝部に対する車両前方に配置される請求項1~請求項7の何れか1項に記載の衝撃吸収構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空体を備える衝撃吸収構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両の乗員の膝からの荷重の入力によって変形し、膝への衝撃を吸収するニーボルスターが開示されている。このニーボルスターは、ブロー成型によって製造される中空のブロー成型体からなる。このニーボルスターには、乗員の膝からの荷重に対する耐力を高めるための横溝リブが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空のブロー成型体からなるニーボルスターは、鋼板製のニーボルスターや硬質発泡ウレタン製のニーボルスター等と比較して安価で軽量であるだけでなく、膝部に加える反力の立ち上がりが良好である。しかしながら、中空のブロー成型体からなるニーボルスターでは、座屈により割れが発生し、内部の空気が抜けることにより、反力が急激に低下する場合がある。特に上記の横溝リブには応力が集中するため、割れが発生し易くなる。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、中空状の衝撃吸収体から乗員に加わる反力が急激に低下することを抑制できる衝撃吸収構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様の衝撃吸収構造は、中空状に形成され、車両の車室内に設けられる取付部に取り付けられる衝撃吸収体を備え、前記衝撃吸収体は、前記車両の衝突時に前記取付部と乗員との間で圧縮されて塑性変形すると共に、前記圧縮による内圧上昇によって内部の空気を外部に排気するための排気孔を有する。
【0007】
第1の態様では、中空状に形成され、車両の車室内に設けられる取付部に取り付けられる衝撃吸収体が、車両の衝突時に上記取付部と乗員との間で圧縮されて塑性変形する。この衝撃吸収体は、上記の圧縮による内圧上昇によって内部の空気を外部に排気するための排気孔を有する。この排気孔から流出する空気の粘性抵抗力により、変形途中の衝撃吸収体に割れ等が発生し難くなるので、衝撃吸収体から乗員に加わる反力が急激に低下することを抑制できる。
【0008】
第2の態様の衝撃吸収構造は、第1の態様において、前記衝撃吸収体は、前記取付部に取り付けられる壁部に前記排気孔を有する。
【0009】
第2の態様では、衝撃吸収体において、取付部に取り付けられる壁部に排気孔が設けられる。この壁部は、衝撃吸収体の圧縮時における変形が少なく且つ取付部に対して変位し難い部位である。このため、上記の壁部以外の壁部に排気孔が設けられる構成と比較して、排気孔が不用意に閉塞されることを防止するための対策を施し易い。
【0010】
第3の態様の衝撃吸収構造は、第2の態様において、前記衝撃吸収体は、前記壁部における前記排気孔の周辺箇所が前記取付部とは反対側へ凹んだ凹部とされる。
【0011】
第3の態様では、衝撃吸収体において、取付部に取り付けられる壁部は、排気孔の周辺箇所が前記取付部とは反対側へ凹んだ凹部とされる。これにより、排気孔からの排気が取付部によって阻害されることを簡素な構成で防止できる。
【0012】
第4の態様の衝撃吸収構造は、第2の態様又は第3の態様において、前記取付部は、前記排気孔と対向する箇所が開放された形状に形成される。
【0013】
第4の態様では、衝撃吸収体が取り付けられる取付部は、衝撃吸収体の排気孔と対向する箇所が開放された形状に形成される。これにより、排気孔からの排気が取付部によって阻害されることを簡素な構成で防止できる。
【0014】
第5の態様の衝撃吸収構造は、第4の態様において、前記取付部は、前記車両の内装部材に固定されるブラケットであり、当該ブラケットと前記内装部材との間に形成される隙間に前記排気孔が連通される。
【0015】
第5の態様では、車両の内装部材に固定されるブラケットに衝撃吸収体が固定される。このブラケットは、衝撃吸収体の排気孔と対向する箇所が開放された形状に形成される。このブラケットと内装部材との間に形成される隙間には、衝撃吸収体の排気孔が連通されるので、衝撃吸収体が圧縮される際には、衝撃吸収体の内部の空気を排気孔から上記の隙間に排気することができる。
【0016】
第6の態様の衝撃吸収構造は、第1の態様~第5の態様の何れか1つの態様において、前記衝撃吸収体において、前記取付部と対向して配置される壁部と、前記乗員と対向して配置される壁部とをつなぐ周壁部には、前記衝撃吸収体の外側へ凸をなす凸形状又は前記衝撃吸収体の内側へ凹をなす凹形状が周方向に沿って付与される。
【0017】
第6の態様では、衝撃吸収体の上記周壁部に、上記凸形状又は凹形状が付与されるので、衝撃吸収体が取付部と乗員との間で圧縮される際に、上記周壁部を設定通りに変形させることができ、衝撃吸収体の変形モードを安定させることができる。
【0018】
第7の態様の衝撃吸収構造は、第1の態様~第6の態様の何れか1つの態様において、前記衝撃吸収体は、前記排気孔とは別に、前記圧縮時に潰れる部位に、前記圧縮による内圧上昇によって内部の空気を外部に排気するための別排気孔を有する。
【0019】
第7の態様によれば、衝撃吸収体の圧縮時には、前述した排気孔のみならず、上記の別排気孔からも空気が排気される。但し、この別排気孔は、衝撃吸収体において圧縮時に潰れる部位に設けられている。この部位が潰れると、別排気孔が閉塞又は狭められ、別排気孔からの空気の排気が妨げられる。これにより、衝撃吸収体から乗員に加わる反力を段階的に変化させることができる。
【0020】
第8の態様の衝撃吸収構造は、第7の態様において、前記衝撃吸収体は、前記別排気孔を複数有する。
【0021】
第8の態様によれば、衝撃吸収体には、上記の別排気孔が複数設けられるので、例えば複数の別排気孔の孔径や位置等を変更することにより、衝撃吸収体から乗員に加わる反力を可変させるタイミングや大きさを調整することができる。また例えば、上記の反力を多段階に変化させることも可能となる。
【0022】
第9の態様の衝撃吸収構造は、第6の態様を引用する第7の態様又は第6の態様を引用する第8の態様において、前記部位は、前記周壁部において前記凸形状又は前記凹形状が付与される部位である。
【0023】
第9の態様では、衝撃吸収体において、取付部と対向して配置される壁部と、乗員と対向して配置される壁部とをつなぐ周壁部に、凸形状又は凹形状が付与され、その凸形状又は凹形状が付与される部位に別排気孔が設けられる。この部位が衝撃吸収体の圧縮時に設定通りに圧縮方向に潰れることにより、別排気孔を設定通りに閉塞又は狭めることができる。
【0024】
第10の態様の衝撃吸収構造は、第1の態様~第9の態様の何れか1つの態様において、前記衝撃吸収体は、ブロー成型によって製造されるブロー成型体である。
【0025】
第10の態様では、衝撃吸収体がブロー成型体であるため、例えば射出成型によって製造された複数の部材が接合されて中空状の衝撃吸収体が製造される構成と比較して、衝撃吸収体の製造が容易で安価になる。
【0026】
第11の態様の衝撃吸収構造は、第1の態様~第10の態様の何れか1つの態様において、前記衝撃吸収体は、車両用ニーボルスターの構成部材として前記乗員の膝部に対する車両前方に配置される。
【0027】
第11の態様によれば、車両の前面衝突時には、中空状の衝撃吸収体が取付部と乗員の膝部との間で圧縮されて塑性変形し、膝部の衝撃が吸収される。このように中空状の衝撃吸収体を塑性変形させる構成では、例えばエアバッグやインフレータを備えるニーエアバッグ装置により膝部の衝撃を吸収する構成と比較して、構成を簡素化することができる。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明に係る衝撃吸収構造では、中空状の衝撃吸収体から乗員に加わる反力が急激に低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係る衝撃吸収構造が適用されて構成された車両用ニーボルスターを示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るブロー成型体の変形初期の状態を示す
図2に対応した断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るブロー成型体の変形後期の状態を示す
図2に対応した断面図である。
【
図5】第1実施形態に係るブロー成型体のFS特性を示す線図である。
【
図6】第2実施形態に係る衝撃吸収構造が適用されて構成された車両用ニーボルスターの部分的な構成を示す断面図である。
【
図7】第2実施形態に係るブロー成型体の変形初期の状態を示す
図6に対応した断面図である。
【
図8】第2実施形態に係るブロー成型体の変形後期の状態を示す
図6に対応した断面図である。図である。
【
図9】第2実施形態に係るブロー成型体のFS特性を示す線図である。
【
図10】第2実施形態に係るブロー成型体のFS特性の変更について説明するための
図8に対応した線図である。
【
図11】シートベルトを装着しているAF05のダミー人形を車両用ニーボルスターで拘束する場合に要求されるFS特性について説明するための線図である。
【
図12】シートベルトを装着していないAM50のダミー人形を車両用ニーボルスターで拘束する場合に要求されるFS特性について説明するための線図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<第1実施形態>
以下、
図1~
図5を参照して、本発明の第1実施形態に係る衝撃吸収構造が適用されて構成された車両用ニーボルスター10ついて説明する。なお、各図においては、図面を見易くする関係から一部の符号を省略している場合がある。また、各図中に適宜記す矢印FRは車両前方を示し、矢印RHは車両右方を示している。以下に記載する前後左右上下の方向は、特に断りのない限り、車両に対する方向を示すものとする。
【0031】
第1実施形態に係る車両用ニーボルスター10は、車両の前面衝突時に運転席の乗員Pの両膝部Nを拘束するための装置であり、左右一対のブロー成型体12と、左右一対のブラケット30とを備えている。ブロー成型体12は、本発明の「衝撃吸収体」に相当し、ブラケット30は、本発明の「取付部」に相当する。左側のブロー成型体12及びブラケット30は、乗員Pの左側の膝部Nの前方に配置され、右側のブロー成型体12及びブラケット30は、乗員Pの右側の膝部Nの前方に配置される。
【0032】
左右のブロー成型体12は、左右のブラケット30を介してインパネリインフォースメント40に取り付けられている。インパネリインフォースメント40は、例えば金属製のパイプ材によって構成された車両の内装部材であり、車両幅方向を軸線方向とする姿勢で配置されている。このインパネリインフォースメント40は、車室内の前部に設けられた図示しないインストルメントパネルの内側に配置されており、左右の車体パネル間に架け渡されている。なお、
図1ではインパネリインフォースメント40の一部のみが図示されている。
【0033】
左右のブラケット30は、図示しない運転席の前方でインパネリインフォースメント40の後側に配置されており、運転席に着座した乗員Pの左右の膝部Nに対して車両前方に配置される。左右のブラケット30は、例えば金属板がプレス成型されて製造されたものであり、車両上下方向から見て前方側が開放されたハット状の断面を有している。各ブラケット30は、車両前後方向を板厚方向とする後壁部30Aと、後壁部30Aの左右両端部から車両前方側へ延びる左右一対の側壁部30Bと、左右の側壁部30Bの前端部から左右方向両外側へ延びる左右一対のフランジ部30Cとを有している。左右一対のフランジ部30Cは、溶接等の手段でインパネリインフォースメント40に固定されている。後壁部30Aの左右方向中央部には、当該後壁部30Aを前後方向に貫通した貫通孔であるエア流出孔32が形成されている。
【0034】
左右のブロー成型体12は、左右のブラケット30の後側に配置されており、運転席に着座した乗員Pの左右の膝部Nに対して車両前方に配置される。なお、左右のブロー成型体12と乗員Pの左右の膝部Nとの間には、図示しないインストルメントパネルの一部が介在される。各ブロー成型体12は、ブロー成型によって製造されたものであり、中空状に形成されている。各ブロー成型体12の材料は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等、耐衝撃性が高く割れ難い樹脂である。各ブロー成型体12は、一例として車両上下方向を長手とする中空の六面体状(中空の略直方体状)をなしている。各ブロー成型体12は、
図2に示されるように、ブラケット30と対向して配置される前壁部12Aと、乗員Pと対向して配置される後壁部12Bと、前壁部12Aと後壁部12Bとをつなぐ周壁部12Cとを有している。
【0035】
ブロー成型体12の周壁部12Cは、例えば車両前後方向から見て略矩形環状の断面を有している。周壁部12Cには、ブロー成型体12の内側へ凹をなす凹形状14が周方向に沿って付与されている。周壁部12Cにおいて凹形状14が付与された部位は、ブロー成型体12の内側へ断面略円弧状に凹んでいる。なお、図示は省略するが、上記の凹形状14の代わりに、ブロー成型体12の外側へ凸をなす凸形状が周壁部12Cの周方向に沿って周壁部12Cに付与される構成にしてもよい。
【0036】
ブロー成型体12の前壁部12Aは、ブラケット30の後壁部30Aに対して後方側から接している。前壁部12Aの左右両端部には、それぞれクリップ16が固定されており、ブラケット30の後壁部30Aには、左右のクリップ挿入孔34が形成されている。なお、本実施形態では一例として、クリップ16及びクリップ挿入孔34の数がそれぞれ2つとされているが、これに限らず、上記の数は適宜変更可能である。
【0037】
左右のクリップ16は、例えば弾性が高い樹脂によって構成されており、インサート成形によって前壁部12Aに固定されている。各クリップ16は、前壁部12Aから前方側へ略円柱状に突出しており、左右のクリップ挿入孔34に挿入されている。各クリップ16の前後方向中間部には、鍔状の鍔部16Aが形成されており、当該鍔部16Aがクリップ挿入孔34の孔縁部に対して前方側から接触している。各クリップ16の鍔部16Aは、各クリップ16が各クリップ挿入孔34に挿入される際に弾性変形し、その後に弾性復帰することで各クリップ挿入孔34の孔縁部に引っ掛かる。これらのクリップ16によりブロー成型体12がブラケット30に取り付けられている。
【0038】
ブロー成型体12において上記のようにブラケット30に取り付けられる前壁部12Aには、排気孔であるオリフィス18が形成されている。ブロー成型体12は、オリフィス18以外に孔や開口を有しない構成とされている。オリフィス18は、一例として前壁部12Aの左右方向中央部に形成されており、ブラケット30のエア流出孔32に対して後方側から対向している。つまり、ブラケット30は、オリフィス18と対向する箇所が開放された形状に形成されている。このオリフィス18を介してブロー成型体12の内部と外部とが連通している。エア流出孔32の代わりに、ブラケット30においてオリフィス18と対向する箇所に切欠き等が形成される構成にしてもよい。
【0039】
ブロー成型体12の前壁部12Aは、オリフィス18の周辺箇所がブラケット30とは反対側(後側)へ凹んだ凹部20とされている。オリフィス18の孔縁部は、上記の凹部20内で前方側へ円筒状に突出している。また、オリフィス18の孔縁部には、ブロー成型体12の内側部分にR面取り状のR形状22が付与されている。このオリフィス18は、ブラケット30とインパネリインフォースメント40との間に形成された隙間42に連通されている。
【0040】
本実施形態では、
図3及び
図4に示されるように、車両の前面衝突時には、車両に減速加速度が生じることにより、乗員Pが慣性により車両に対して前方側へ相対移動する(
図3及び
図4の矢印M参照)。その結果、乗員の膝部Nがインストルメントパネルを介してブロー成型体12の後壁部12Bに押し当てられ、膝部Nとブラケット30との間でブロー成型体12が圧縮されて塑性変形するように構成されている。この際には、ブロー成型体12の周壁部12Cにおいて凹形状14が付与された部位がブロー成型体12の内側へ向かって折れ曲がる(
図4参照)。また、上記のようにブロー成型体12が圧縮されると、ブロー成型体12の内圧が上昇することにより、ブロー成型体12の内部の空気がオリフィス18からブロー成型体12の外部へと排気されるように構成されている(
図3及び
図4の矢印E参照)。つまり、オリフィス18は、ブロー成型体12の圧縮時の内圧上昇によって、ブロー成型体12の内部の空気を外部に排気するためにブロー成型体12に形成されている。
【0041】
(作用及び効果)
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
本実施形態によれば、車両の前面衝突時には、前方側へ慣性移動する乗員の膝部Nとブラケット30との間でブロー成型体12が圧縮されて塑性変形する。これにより、乗員Pの衝撃エネルギが吸収され、乗員Pの膝部Nが拘束される。これにより、乗員Pの下肢を含む身体の慣性移動が制限されるので、乗員Pの頭部が車両のウインドシールドガラス等に接触することを回避可能となる。但し、膝部Nの拘束が強すぎると下肢障害が発生してしまい、弱すぎると上記の接触が生じてしまう。
【0043】
この点、本実施形態では、上記のようにブロー成型体12が圧縮される際には、ブロー成型体12の内圧上昇によって、ブロー成型体12の内部の空気がオリフィス18からブロー成型体12の外部へと排気される。このオリフィス18から流出する空気の粘性抵抗力により、ブロー成型体12が変形途中で一気に座屈する現象が起き難くなる。その結果、変形途中のブロー成型体12に割れ等が発生し難くなるので、ブロー成型体12から膝部Nに加わる反力が急激に低下することを防止又は効果的に抑制できる。
【0044】
つまり、本実施形態では、ブロー成型体12から膝部Nに加わる反力の低下を遅延させることができ、ブロー成型体12の圧縮ストロークの後半まで反力を持続させることが可能となる。その結果、ブロー成型体12から膝部Nに加わる反力の最大値を抑えながら、時間をかけて乗員Pを減速することが可能となるので、下肢障害が生じ難くなる。しかも、中空のブロー成型体を用いたニーボルスターは、金属製のニーボルスターや硬質発泡ウレタン製のニーボルスター等と比較して安価で軽量であるだけでなく、膝部Nに加える反力の立ち上がりが良好である。このため、例えば車室内のスペース上の制約により、ブロー成型体12の圧縮ストロークを十分に確保し難い車両においても、乗員Pの適切な保護が可能となる。上記の効果について以下の表1及び
図5を参照して補足する。
【0045】
【0046】
上記の表1にはニーボルスターの構造タイプ別の拘束性能及び経済性の比較が記載されている。鋼板ブラケットタイプのニーボルスターでは、反力の立ち上がりや反力の持続性を形状の設定によって確保可能であるが、コストや質量の点で課題がある。硬質発泡ウレタンタイプのニーボルスターは、反力の持続性が良好であるものの、反力の立ち上がりやコスト及び質量の点で課題がある。従来のPE(ポリエチレン)ブロー成型タイプのニーボルスターは、反力の立ち上がり、コスト及び質量の点で優れているが、反力の持続性の点で課題がある。
【0047】
これに対し、本実施形態に係るブロー成型体12では、反力の持続性を確保することができるため、
図5に示されるFS線図の実効面積(
図5においてハッチングを付した領域の面積)を大きくすることができる。従来のPEブロー成型タイプのニーボルスターでは、変形途中で一気に座屈が生じることにより、反力が急激に低下する(
図5の破線参照)ため、上記の実効面積が小さくなる。上記の実効面積が大きいほど、下肢拘束時に下肢に生じる最大加速度を抑えながら、効率よく乗員を減速することができる。但し、ニーボルスターの圧縮ストロークは、車両のスペース上の制約等から増やせない場合がある。この点、本実施形態では、従来のPEブロー成型タイプの弱点を解消することにより、反力の立ち上がりが速く且つ反力の持続性が高い極めて優れた拘束性能を獲得しながら、コスト及び質量の経済性をも両立させることができる。また、例えばエアバッグやインフレータを備えるニーエアバッグ装置により乗員膝部の衝撃を吸収する構成と比較して、構成を格段に簡素化することができる。
【0048】
また、本実施形態では、ブロー成型体12において、ブラケット30と対向して配置される前壁部12Aにオリフィス18が形成されている。この前壁部12Aは、ブロー成型体12の圧縮時における変形が少なく且つブラケット30に対して変位し難い部位である。このため、ブロー成型体12において、周壁部12Cや後壁部30Aに排気孔が設けられる構成と比較して、ブロー成型体12の圧縮時におけるオリフィス18の不用意な閉塞を防止するための対策を施し易い。例えば、周壁部12Cにオリフィス18が設けられる場合、周壁部12Cの変形によってオリフィス18が閉塞される可能性がある。また例えば、後壁部30Aにオリフィス18が設けられる場合、図示しないインストルメントパネルによってオリフィス18が閉塞される可能性がある。この点、本実施形態のように、前壁部12Aにオリフィス18が設けられる場合、ブロー成型体12及びブラケット30の少なくとも一方に、オリフィス18の閉塞を防止するための形状を予め付与しておくことができるので、上記の対策が容易になる。
【0049】
すなわち、本実施形態では、ブロー成型体12において、ブラケット30に取り付けられる前壁部12Aは、オリフィス18の周辺箇所がブラケット30とは反対側へ凹んだ凹部20とされている。また、ブラケット30は、オリフィス18と対向する箇所にエア流出孔32を有しており、上記の箇所が開放された形状に形成されている。これらのことにより、オリフィス18からの排気がブラケット30によって阻害されることを簡素な構成で防止できる。なお、凹部20及びエア流出孔32の少なくとも一方を有していれば上記の効果が得られる。
【0050】
また、本実施形態では、ブラケット30が固定されたインパネリインフォースメント40とブラケット30との間に形成された隙間42に、ブロー成型体12のオリフィス18が連通されている。これにより、ブロー成型体12が圧縮される際には、ブロー成型体12の内部の空気をオリフィス18から上記の隙間42に排気することができるので、空気の排気経路を簡素な構成で確保することができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、ブロー成型体12の周壁部12Cには、ブロー成型体12の内側へ凹をなす凹形状14が周方向に沿って付与されている。このため、ブロー成型体12がブラケット30と乗員Pの膝部Nとの間で圧縮される際に、周壁部12Cを設定通りに変形させることができ、ブロー成型体12の変形モードを安定させることができる。
【0052】
また、本実施形態では、オリフィス18の孔縁部には、ブロー成型体12の内側部分にR形状22が付与されている。これにより、オリフィス18から排気される空気流を層流にすることが可能となり、乱流の発生を抑制できる。その結果、例えばブロー成型体12から乗員Pの膝部Nに加わる反力の調整等が容易になる。
【0053】
また、本実施形態では、車両用ニーボルスター10の衝撃吸収体が、ブロー成型によって製造されたブロー成型体12であるため、例えば射出成型によって製造された複数の部材が接合されて中空状の衝撃吸収体が製造される構成と比較して、衝撃吸収体の製造が容易で安価になる。
【0054】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第1実施形態と基本的に同様の構成及び作用については、第1実施形態と同符号を付与し、その説明を省略する。
【0055】
<第2の実施形態>
図6には、本発明の第2実施形態に係る衝撃吸収構造が適用されて構成された車両用ニーボルスター50の部分的な構成が断面図にて示されている。この車両用ニーボルスター50では、ブロー成型体12がオリフィス18とは別に2つのオリフィス24、26を有している。それ以外の構成は、第1実施形態と同様とされている。2つのオリフィス24、26は何れも、本発明における「別排気孔」に相当する。以下、オリフィス18を「第1オリフィス18」と称し、オリフィス24を「第2オリフィス24」と称し、オリフィス26を「第3オリフィス26」と称する。
【0056】
第2オリフィス24は、ブロー成型体12の周壁部12Cにおいて車両左方側を向く部分に形成されており、第3オリフィス26は、周壁部12Cにおいて車両左方側を向く部分に形成されている。ブロー成型体12は、第1オリフィス18、第2オリフィス24及び第3オリフィス26以外に、孔や開口を有しない構成とされている。なお、第2オリフィス24及び第3オリフィス24は、周壁部12Cにおいて車両上方側又は車両下方側を向く部分に形成されてもよい。
【0057】
第2オリフィス24及び第3オリフィス26は、第1オリフィス18と同様に、ブロー成型体12の圧縮時の内圧上昇によって、ブロー成型体12の内部の空気を外部に排気するためにブロー成型体12に形成されている。但し、周壁部12Cにおいて、第2オリフィス24及び第3オリフィス26が形成された部位は、凹形状14が付与された部位である。この凹形状14が付与された部位は、
図7及び
図8に示されるように、ブロー成型体12がブラケット30と乗員Pの膝部Nとの間で圧縮される際に車両前後方向に潰れる部位である。このため、凹形状14が付与された部位が車両前後方向に潰れると、第2オリフィス24及び第3オリフィス26が閉塞又は狭められ、第2オリフィス24及び第3オリフィス26からの空気の排気が妨げられるように構成されている。
【0058】
この実施形態では、上記以外の構成は第1実施形態と同様とされている。このため、この実施形態においても第1実施形態と同様に、ブロー成型体12から膝部Nに加わる反力が急激に低下することを抑制できる。しかも、この実施形態では、ブロー成型体12の圧縮時には、第1オリフィス18のみならず、第2オリフィス24及び第3オリフィス26からも空気が排気される。これらの第2オリフィス24及び第3オリフィス26は、ブロー成型体12において圧縮時に潰れる部位に設けられている。この部位が潰れると、第2オリフィス24及び第3オリフィス26が閉塞又は狭められ、第2オリフィス24及び第3オリフィス26からの空気の排気が妨げられる。これにより、
図9に示されるように、ブロー成型体12から膝部Nに加わる反力を、ブロー成型体12の圧縮ストロークの増加に応じて段階的に可変させることができる。その結果、乗員Pの体格やシートベルト装着の有無に関わらず、乗員Pを適切に保護することが可能となる。
【0059】
しかも、本実施形態では、ブロー成型体12には、複数の別排気孔である第2オリフィス24及び第3オリフィス26が形成されている。このため、第2オリフィス24及び第3オリフィス26の孔径や位置等を変更することにより、ブロー成型体12から膝部Nに加わる反力を可変させるタイミングや大きさを調整することができる(
図10の矢印C参照)。また例えば、上記の反力を多段階に変化させることも可能となる。
【0060】
また、本実施形態では、ブロー成型体12の周壁部12Cに凹形状14が付与され、その凹形状14が付与された部位に第2オリフィス24及び第3オリフィス26が形成されている。この部位がブロー成型体12の圧縮時に設定通りに圧縮方向に潰れることにより、第2オリフィス24及び第3オリフィス26を設定通りに閉塞又は狭めることができる。
【0061】
上記の効果について、
図11及び
図12を用いて補足する。米国連邦自動車安全基準(Federal Motor Vehicle Safety Standard)208では、AF05ダミーにシートベルトを装着する条件や、AM50ダミーにシートベルトを装着しない条件でも前面衝突試験が行われる。これらの条件をカバーするため、シートベルトのプリテンショナーやフォースリミッターに加え、乗員膝部の拘束が必要となる。その場合例えば、AF05ダミーにシートベルトを装着する条件では、膝部の拘束に求められる反力が1~2kNとなり、AM50ダミーにシートベルトを装着しない条件では、膝部の拘束に求められる反力が6~8kNとなる。このように幅広い範囲の反力を、例えばニーエアバッグ装置でカバーするためには、反力を可変させるための制御が必要となり、高価なシステムとなる。この点、本実施形態では、安価な中空ブロー成型体により、圧縮ストロークに対する反力を段階的に可変させて制御することが可能となる。
【0062】
なお、上記各実施形態では、ブロー成型体12において、ブラケット30と対向して配置される前壁部12Aにオリフィス18(排気孔)が形成された構成にしたが、これに限るものではない。例えば周壁部12Cの前端部など、ブロー成型体12の圧縮時に潰れにくい部位に排気孔が形成される構成にしてもよい。
【0063】
また、上記各実施形態では、ブロー成型体12の前壁部12Aにおけるオリフィス18の周辺箇所がブラケット30とは反対側へ凹んだ凹部20とされ、ブラケット30においてオリフィス18と対向する箇所が開放された形状に形成された構成にしたが、これに限るものではない。例えば、上記のように周壁部12Cの前端部に排気孔が形成される場合、上記の凹部20や開放された形状が不要となる。
【0064】
また、上記各実施形態では、インパネリインフォースメント40とブラケット30との間に形成される隙間42にオリフィス18が連通された構成にしたが、これに限るものではない。例えばブラケット30においてオリフィス18と対向する箇所が閉塞される一方、ブロー成型体12の凹部20がブロー成型体12の上側、下側、左側又は右側に開放される構成にしてもよい。
【0065】
また、上記各実施形態では、ブロー成型体12の周壁部12Cにブロー成型体12の内側へ凹をなす凹形状14が周方向に沿って付与されることで、ブロー成型体12の変形モードを安定させる構成にしたが、これに限るものではない。例えば上記の凹形状14や凸形状が周壁部12Cに付与されない構成にしてもよい。
【0066】
また、上記第2実施形態では、ブロー成型体12が2つの別排気孔である第2オリフィス24及び第3オリフィス26を有する構成にしたが、これに限らず、別排気孔の数は適宜変更可能である。
【0067】
また、上記各実施形態では、ブロー成型体12(衝撃吸収体)が中空の六面体状に形成された構成にしたが、これに限らず、衝撃吸収体の形状は適宜変更可能である。例えば衝撃吸収体がその圧縮方向から見て円形状、長円形状又は六角形状をなすように形成される構成にしてもよい。
【0068】
また、上記各実施形態では、ブロー成型体12が衝撃吸収体とされた構成にしたが、これに限るものではない。例えば射出成型やプレス成型により、一端側が開口した箱状の部材を2つ製造し、それらの部材を各々の開口部側で互いに接合することにより、中空状の衝撃吸収体を製造してもよい。
【0069】
また、上記各実施形態では、本発明に係る衝撃吸収構造が車両用ニーボルスター10に適用された構成にしたが、これに限るものではない。本発明に係る衝撃吸収構造は、車両の乗員を保護するための構造として、車両衝突時に乗員が衝突する内装部材(例えば車両用シート、サイドドア等)に配設することができる。
【0070】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記各実施形態に限定されないことはいうでもない。
【符号の説明】
【0071】
10 車両用ニーボルスター
12 ブロー成型体
12A 前壁部(取付部に取り付けられる壁部;取付部と対向して配置される壁部)
12B 後壁部(乗員と対向して配置される壁部)
12C 周壁部
14 凹形状
18 オリフィス(排気孔)
20 凹部
24 オリフィス(別排気孔)
26 オリフィス(別排気孔)
30 ブラケット(取付部)
40 インパネリインフォースメント(内装部材)
42 隙間
50 車両用ニーボルスター
N 膝部
P 乗員