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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両のトランスファ装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/344 20060101AFI20240702BHJP
   F16D 1/02 20060101ALI20240702BHJP
   F16B 39/24 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60K17/344 B
F16D1/02 210
F16B39/24 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021008028
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112264
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】大川 裕三
(72)【発明者】
【氏名】澤村 和則
(72)【発明者】
【氏名】加藤 嵩之
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-038488(JP,A)
【文献】特開2011-126487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/344
F16D 1/02
F16B 39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機の出力軸に連結されて車体前後方向一方側に延びる主駆動輪用出力軸と、前記主駆動輪用出力軸に平行に配置された補助駆動輪用出力軸と、前記主駆動輪用出力軸から取り出された駆動力を前記補助駆動輪用出力軸に伝達する動力伝達機構とを有し、前記補助駆動輪用出力軸に、車体前後方向他方側に延びると共に前記補助駆動輪用出力軸側の端部に自在継手を有するプロペラシャフトが連結される車両のトランスファ装置であって、
前記補助駆動輪用出力軸のプロペラシャフト側の端部は中空とされて前記プロペラシャフトにおける自在継手の構成部材に設けられたジョイント部にスプライン嵌合される嵌合部を有し、
前記補助駆動輪用出力軸の前記嵌合部と前記プロペラシャフトの前記ジョイント部とのスプライン嵌合は非圧入嵌合であり、
前記ジョイント部の車体前後方向一方側の端部には、車体前後方向一方側に延びて、且つ前記ジョイント部より外径が小さく形成されたセンタリング部が設けられ、
前記センタリング部の車体前後方向一方側の端部には、車体前後方向他方側に延びるボルト穴が設けられ、
前記補助駆動輪用出力軸は、前記嵌合部より車体前後方向一方側において前記補助駆動輪用出力軸の径方向内側に延びて、前記センタリング部に対応するセンタリング穴を有するフランジ部を備え、
前記フランジ部より車体前後方向一方側には、スペーサが配置され、
前記スペーサより車体前後方向一方側には、前記スペーサに車体前後方向一方側から前記センタリング部の前記ボルト穴に向けて挿通されて、前記ボルト穴に取り付けられるボルト部材が配置され、
前記ジョイント部に設けられた前記センタリング部が前記補助駆動輪用出力軸の前記フランジ部の前記センタリング穴に挿入されることにより、前記ジョイント部が前記補助駆動輪用出力軸にセンタリングされ、
前記フランジ部が前記スペーサと前記ジョイント部との間に挟まれて、且つ前記ボルト部材が前記ボルト穴に取り付けられることにより、前記プロペラシャフトを前記補助駆動輪用出力軸に組み付けるように構成され、
前記補助駆動輪用出力軸は、前記フランジ部より車体前後方向一方側に延びて、且つ前記スペーサが挿入されるスペーサ挿入穴を有するスペーサ保持部を備え、
前記補助駆動輪用出力軸の前記嵌合部の車体前後方向他方側に設けられて、前記補助駆動輪用出力軸と前記ジョイント部との間をシールする第1のシール部材と、
前記スペーサの外周面に設けられて、前記スペーサ保持部と前記スペーサとの間をシールする第2のシール部材とが配置されている、
ことを特徴とする車両のトランスファ装置。
【請求項2】
前記フランジ部の車体前後方向の長さは、車体前後方向における前記ジョイント部の車体前後方向一方側の端部と前記スペーサの車体前後方向他方側の端部との間の距離よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の車両のトランスファ装置。
【請求項3】
前記ジョイント部の車体前後方向一方側の端部には、前記ジョイント部と前記センタリング部との間において、車体前後方向一方側に延びて、且つ前記ジョイント部より外径が小さい一方、前記センタリング部より外径が大きく形成された中間軸部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両のトランスファ装置。
【請求項4】
前記フランジ部の車体前後方向の長さは、車体前後方向における前記中間軸部の車体前後方向一方側の端部と前記スペーサの車体前後方向他方側の端部との間の距離よりも小さいことを特徴とする請求項3に記載の車両のトランスファ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトランスファ装置に関し、特に四輪駆動車に適用される車両のトラン
スファ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車として、車体前部にエンジンなどの駆動源と変速機とを軸心が車体前後方向に延びるように配置し、変速機から伝達される駆動力を車体後方に延びる後輪用出力軸から後輪用プロペラシャフト及び後輪用差動装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達すると共に、後輪用出力軸上に補助駆動輪としての前輪に伝達する駆動力を取り出すトランスファ装置を設け、トランスファ装置の前輪用出力軸に取り出された駆動力を車体前方に延びる前輪用プロペラシャフト及び前輪用差動装置を介して前輪に伝達し、後輪に加えて前輪も駆動可能に構成した所謂FR(フロントエンジン・リヤドライブ)ベースの四輪駆動車が知られている。
【0003】
このようなトランスファ装置として、後輪用出力軸上に前輪用の駆動力を取り出すカップリングを配設し、カップリングによって取り出された駆動力を、チェーン式やギヤ式の動力伝達機構を介して前輪用出力軸に伝達するようにしたものが知られている。
【0004】
前記トランスファ装置を搭載した四輪駆動車では、前輪用プロペラシャフト及び後輪用プロペラシャフトはそれぞれ、トランスファ装置側の端部に備えらえた自在継手を介して前輪用出力軸及び後輪用出力軸に連結されることが一般的である。
【0005】
後輪用出力軸に平行に配置された前輪用出力軸に前輪用プロペラシャフトを連結する場合、前輪用出力軸に前輪用プロペラシャフトの自在継手の構成部材に設けられたジョイント部をスプライン嵌合させると共に、ボルト部材を用いて前輪用プロペラシャフトの抜け止めを行うことがある。
【0006】
例えば特許文献1には、前輪用プロペラシャフトのジョイント部を前輪用出力軸にスプライン嵌合させて、前輪用プロペラシャフトとは反対側の前輪用出力軸の端部からジョイント部に向けてボルト部材を挿通して螺合させることにより、前輪用プロペラシャフトの抜け止めを行うトランスファ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許6624177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、特許文献1には、前輪用プロペラシャフトの前輪用出力軸に対する組付性を向上させるため、前輪用出力軸と前輪用プロペラシャフトのジョイント部との間のスプライン嵌合部を非圧入嵌合にして、前輪用出力軸に嵌入されたスリーブ部材にボルト部材が挿通されてジョイント部に螺合されることにより、前輪用プロペラシャフトが前輪用出力軸に取り付けられるトランスファ装置が開示されている。これにより、ボルト部材がジョイント部に一体的に組付けられた状態で前輪用プロペラシャフトが前輪用出力軸に取り付けられるので、前輪用出力軸とジョイント部とのスプライン嵌合部における回転方向のガタによる相対回転によってボルト部材がジョイント部に対して緩むことを抑制することができる。
【0009】
一方、非圧入嵌合されている補助駆動輪用出力軸としての前輪用出力軸とジョイント部との間のスプライン嵌合部のガタにより、ジョイント部が前輪用出力軸に対して振れて、振動が発生する虞がある。
【0010】
そこで、本発明は、補助駆動輪用出力軸に対するプロペラシャフトのジョイント部の振れを抑制すると共に、ジョイント部に螺合されているボルト部材が緩むことを抑制することができる車両のトランスファ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0012】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、変速機の出力軸に連結されて車体前後方向一方側に延びる主駆動輪用出力軸と、前記主駆動輪用出力軸に平行に配置された補助駆動輪用出力軸と、前記主駆動輪用出力軸から取り出された駆動力を前記補助駆動輪用出力軸に伝達する動力伝達機構とを有し、前記補助駆動輪用出力軸に、車体前後方向他方側に延びると共に前記補助駆動輪用出力軸側の端部に自在継手を有するプロペラシャフトが連結される車両のトランスファ装置であって、
前記補助駆動輪用出力軸のプロペラシャフト側の端部は中空とされて前記プロペラシャフトにおける自在継手の構成部材に設けられたジョイント部にスプライン嵌合される嵌合部を有し、
前記補助駆動輪用出力軸の前記嵌合部と前記プロペラシャフトの前記ジョイント部とのスプライン嵌合は非圧入嵌合であり、
前記ジョイント部の車体前後方向一方側の端部には、車体前後方向一方側に延びて、且つ前記ジョイント部より外径が小さく形成されたセンタリング部が設けられ、
前記センタリング部の車体前後方向一方側の端部には、車体前後方向他方側に延びるボルト穴が設けられ、
前記補助駆動輪用出力軸は、前記嵌合部より車体前後方向一方側において前記補助駆動輪用出力軸の径方向内側に延びて、前記センタリング部に対応するセンタリング穴を有するフランジ部を備え、
前記フランジ部より車体前後方向一方側には、スペーサが配置され、
前記スペーサより車体前後方向一方側には、前記スペーサに車体前後方向一方側から前記センタリング部の前記ボルト穴に向けて挿通されて、前記ボルト穴に取り付けられるボルト部材が配置され、
前記ジョイント部に設けられた前記センタリング部が前記補助駆動輪用出力軸の前記フランジ部の前記センタリング穴に挿入されることにより、前記ジョイント部が前記補助駆動輪用出力軸にセンタリングされ、
前記フランジ部が前記スペーサと前記ジョイント部との間に挟まれて、且つ前記ボルト部材が前記ボルト穴に取り付けられることにより、前記プロペラシャフトを前記補助駆動輪用出力軸に組み付けるように構成され、
前記補助駆動輪用出力軸は、前記フランジ部より車体前後方向一方側に延びて、且つ前記スペーサが挿入されるスペーサ挿入穴を有するスペーサ保持部を備え、
前記補助駆動輪用出力軸の前記嵌合部の車体前後方向他方側に設けられて、前記補助駆動輪用出力軸と前記ジョイント部との間をシールする第1のシール部材と、
前記スペーサの外周面に設けられて、前記スペーサ保持部と前記スペーサとの間をシールする第2のシール部材とが配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記フランジ部の車体前後方向の長さは、車体前後方向における前記ジョイント部の車体前後方向一方側の端部と前記スペーサの車体前後方向他方側の端部との間の距離よりも小さいことを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記ジョイント部の車体前後方向一方側の端部には、前記ジョイント部と前記センタリング部との間において、車体前後方向一方側に延びて、且つ前記ジョイント部より外径が小さい一方、前記センタリング部より外径が大きく形成された中間軸部が設けられていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、前記フランジ部の車体前後方向の長さは、車体前後方向における前記中間軸部の車体前後方向一方側の端部と前記スペーサの車体前後方向他方側の端部との間の距離よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1に記載の発明によれば、プロペラシャフトのジョイント部がセンタリング部によって補助駆動輪用出力軸にセンタリングされているため、補助駆動輪用出力軸に対するプロペラシャフトのジョイント部の振れが抑制される。また、補助駆動輪用出力軸のフランジ部がスペーサとジョイント部との間に挟まれて、且つボルト部材がスペーサに車体前後方向一方側から挿通されてジョイント部のセンタリング部に設けられているボルト穴に取り付けられることにより、スプライン嵌合されている補助駆動輪用出力軸の嵌合部とジョイント部との間の回転方向のガタによる相対回転によってボルト部材がボルト穴に対して緩むことが抑制される。
補助駆動輪用出力軸の嵌合部とプロペラシャフトのジョイント部、及び補助駆動輪用出力軸のフランジ部のセンタリング穴に挿入されているジョイント部のセンタリング部が、車体前後方向において、第1のシール部材と第2のシール部材との間に位置するため、異物が外部から侵入して嵌合部とジョイント部との間、及びセンタリング穴とセンタリング部との間に挟まることがない。したがって、補助駆動輪用出力軸に対するプロペラシャフトのジョイント部の振れがさらに抑制される。
【0018】
また、本願の請求項2に記載の発明によれば、補助駆動輪用出力軸のフランジ部とスペーサとの間、及びフランジ部とプロペラシャフトのジョイント部との間において、隙間が生じる。また、補助駆動輪用出力軸の嵌合部とジョイント部とのスプライン嵌合は非圧入嵌合であるため、ジョイント部が補助駆動輪用出力軸に対して相対回転する。このとき、上記隙間により、ボルト穴に取り付けられているボルト部材の座面において、ボルト部材を緩める回転方向の力が与えられ難い。したがって、ボルト部材が緩むことを防止できる。
【0019】
また、本願の請求項3に記載の発明によれば、プロペラシャフトのジョイント部には、中間軸部が設けられているため、ジョイント部の車体前後方向一方側の端部からセンタリング部の車体前後方向一方側の端部までの長さが大きくなることにより、ジョイント部の振れの抑制を向上させると共に、補助駆動輪用出力軸の嵌合部がプロペラシャフトのジョイント部にスプライン嵌合されるときの組付性が向上する。
【0020】
また、本願の請求項4に記載の発明によれば、補助駆動輪用出力軸のフランジ部とスペーサとの間、及びフランジ部とプロペラシャフトの中間軸部との間において、隙間が生じる。この隙間により、プロペラシャフトのジョイント部が補助駆動輪用出力軸に対して相対回転するとき、ボルト穴に取り付けられているボルト部材の座面において、ボルト部材を緩める回転方向の力が与えられ難い。したがって、ボルト部材が緩むことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る車両のトランスファ装置が搭載された四輪駆動車の動力伝達機構を示す概略図である。
図2図1のトランスファ装置の補助駆動輪用出力軸を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る車両のトランスファ装置が搭載された四輪駆動車の動力伝達機構を示す概略図である。図1に示すように、本発明の実施形態に係るトランスファ装置が搭載された四輪駆動車1は、フロントエンジン・リヤドライブ車ベースの四輪駆動車であり、車体前部に駆動源としてのエンジン2と変速機3とが軸心が車体前後方向に延びるように配置されている。
【0025】
変速機3の車体後方には、変速機3から伝達されるエンジン2からの駆動力を車体後方に延びる後輪用プロペラシャフト及び後輪用差動装置を介して主駆動輪としての後輪に伝達すると共に補助駆動輪としての前輪に伝達する駆動力を取り出すトランスファ装置10が設けられている。
【0026】
トランスファ装置10は、変速機3の出力軸3aに連結されて車体前後方向一方側である車体後方側に延びる主駆動輪用出力軸としての後輪用出力軸11と、後輪用出力軸11に平行に配置された補助駆動輪用出力軸としての前輪用出力軸12と、後輪用出力軸11から取り出された駆動力を前輪用出力軸12に伝達する動力伝達機構13とを有している。
【0027】
トランスファ装置10はまた、後輪用出力軸11上に設けられると共に後輪用出力軸11に連結されて後輪用出力軸11に伝達された駆動力から前輪用の駆動力を取り出すカップリング16を有している。カップリング16としては、電磁式等のカップリングが用いられる。
【0028】
動力伝達機構13は、ギヤ式のものであり、後輪用出力軸11上におけるカップリング16の車体前方側に設けられてカップリング16に連結されたドライブギヤ14と、前輪用出力軸12上に設けられると共に前輪用出力軸12に連結されてドライブギヤ14に噛み合うドリブンギヤ15とを備え、後輪用出力軸11からカップリング16によって取り出された前輪用の駆動力を前輪用出力軸12に伝達するように構成されている。
【0029】
前輪用出力軸12には、車体前方側の端部に車体前方側に延びる前輪用プロペラシャフト30が連結されている。前輪用プロペラシャフト30は、車体後方側の端部に自在継手31を有し、自在継手31を介して前輪用出力軸12に連結されている。
【0030】
前輪用プロペラシャフト30はまた、車体前方側の端部に自在継手32を有し、自在継手32を介して前輪用差動装置40の入力軸41に連結されている。前輪用差動装置40の入力軸41は、左右の前輪にそれぞれ連結された車軸42に連結されている。
【0031】
これにより、カップリング16によって後輪用出力軸11から取り出された前輪用の駆動力は、動力伝達機構13を介して前輪用出力軸12に伝達され、前輪用出力軸12から前輪用プロペラシャフト30及び前輪用差動装置40を介して前輪に伝達される。
【0032】
四輪駆動車1では、カップリング16は、前輪と後輪とのトルク配分を前輪:後輪=0:100~50:50の範囲で可変して前輪用の駆動力を取り出すようになっている。なお、カップリング16の作動は、図示しない制御ユニットによって制御される。
【0033】
トランスファ装置10はまた、後輪用出力軸11上におけるカップリング16とドライブギヤ14との間にダンパ装置17を有している。ダンパ装置17は、カップリング16からドライブギヤ14、ドリブンギヤ15、前輪用出力軸12、前輪用プロペラシャフト30及び前輪用差動装置40を介して前輪に至る前輪側の駆動系がエンジン2のトルク変動に共振する共振周波数をエンジン2の実用領域下に低下させるように構成されている。
【0034】
次に、図2を参照しながらトランスファ装置10についてさらに詳しく説明する。
【0035】
図2は、図1のトランスファ装置10の前輪用出力軸12を示す断面図である。図2に示すように、トランスファ装置10は、トランスファケース51を備え、トランスファケース51は、車体前方側から順に配置される第1ケース部材52と第2ケース部材53とを備えている。第1ケース部材52と第2ケース部材53とは、締結ボルト54を用いて締結固定されている。
【0036】
トランスファケース51内には、図1に示すように、変速機3の出力軸3aに連結された後輪用出力軸11と後輪用出力軸11に平行に配置された前輪用出力軸12とがそれぞれ回転可能に支持されている。
【0037】
トランスファケース51内における第1ケース部材52の縦壁部52aと第2ケース部材53の縦壁部53aとの間に動力伝達機構13が配置され、後輪用出力軸11上にドライブギヤ14が配置され、前輪用出力軸12上にドリブンギヤ15が配置されている。
【0038】
図示するように、ドリブンギヤ15は、車体後方側に延びると共に径方向内方側に延びる後方側延設部15aを備え、後方側延設部15aの径方向内方側が前輪用出力軸12に結合されて前輪用出力軸12に一体的に形成されている。
【0039】
ドリブンギヤ15は、ドリブンギヤ15の内周面とトランスファケース51との間に配設された軸受57と前輪用出力軸12の車体後方側とトランスファケース51との間に配設された軸受58とを介してトランスファケース51に回転可能に支持されている。
【0040】
前輪用出力軸12は、中空状に形成され、ドリブンギヤ15に備えられた後方側延設部15aの車体前後方向に延びている。前輪用出力軸12の車体前方側には、自在継手31を介して前輪用プロペラシャフト30(以下、「プロペラシャフト30」という)が連結されている。
【0041】
自在継手31は、構成部材として、トランスファ装置10側に設けられた外側継手部材33と、プロペラシャフト30のシャフト部材34に結合された内側継手部材35と、外側継手部材33と内側継手部材35との間に介装されて外側継手部材33と内側継手部材35との間で動力を伝達するボール36と、外側継手部材33の内周面と内側継手部材35の外周面との間に配置されてボール36を保持するゲージ37とを備え、外側継手部材33とシャフト部材34との間で動力を伝達できるようになっている。
【0042】
自在継手31はまた、シャフト部材34の可動範囲を覆うように設けられたカバー部材38と、シャフト部材34とカバー部材38との間を覆うように設けられたブーツ39とを備えている。カバー部材38は、外側継手部材33から車体前方側に略円筒状に延びるように設けられ、ブーツ39は、ゴムなどの弾性材料から形成されてシャフト部材34の外周面とカバー部材38の内周面との間をシールするように設けられている。
【0043】
自在継手31の外側継手部材33には、車体後方側に延びるジョイント部61が設けられている。ジョイント部61は、略円柱状に形成され、外周面にジョイント部61の軸方向に延びるスプライン部61bが形成されている。
【0044】
前輪用出力軸12の車体前方側の端部の内周面には、プロペラシャフト30のジョイント部61にスプライン嵌合される嵌合部12aが設けられている。この嵌合部12aには、前輪用出力軸12の軸方向に延びるスプライン部12bが形成されている。前輪用出力軸12の嵌合部12aのスプライン部12bにプロペラシャフト30のジョイント部61のスプライン部61bが嵌合され、前輪用出力軸12の嵌合部12aとプロペラシャフト30のジョイント部61とがスプライン嵌合されている。
【0045】
前輪用出力軸12の車体前方側の端部に形成されたスプライン部12bは、前輪用出力軸12の中心軸に平行に歯部及び溝部が形成されている。一方、プロペラシャフト30のジョイント部61に形成されたスプライン部61bは、ジョイント部61の中心軸に平行に歯部及び溝部が形成され、前輪用出力軸12の嵌合部12aとプロペラシャフト30のジョイント部61とのスプライン嵌合は非圧入嵌合とされている。
【0046】
プロペラシャフト30のジョイント部61には、車体後方側に延びる中間軸部62が設けられている。中間軸部62は、ジョイント部61より外径が小さい略円柱状に形成されている。
【0047】
プロペラシャフト30の中間軸部62には、車体後方側に延びるセンタリング部63が設けられている。センタリング部63は、中間軸部62より外径が小さい略円筒状に形成されている。また、ジョイント部61、中間軸部62、及びセンタリング部63は、中心軸が一致するように設けられている。
【0048】
センタリング部63の車体後方側の端部には、センタリング部63と中間軸部62にわたって、車体前方側に延びるボルト穴64が設けられている。
【0049】
一方、前輪用出力軸12は、嵌合部12aより車体後方側において、前輪用出力軸12の内周面から径方向内側に延びるフランジ部121を備える。
【0050】
フランジ部121は、前輪用出力軸12の内周面から径方向内側に延びることにより、センタリング部63に対応するセンタリング穴122を有する。このセンタリング穴122は円形状に形成されて、センタリング穴122の中心軸が前輪用出力軸12の中心軸と一致すると共に、センタリング穴122の内径がセンタリング部63の外径より大きくなるように、また車体前後方向におけるセンタリング穴122の長さが車体前後方向におけるセンタリング部63の長さよりも小さくなるように構成されている。例えば、車体前後方向におけるセンタリング穴122の長さは5.8ミリメートルに設定され、車体前後方向におけるセンタリング部63の長さは6.2ミリメートルに設定される。例えば、センタリング部63の長さとセンタリング穴122の長さの差は、0.1ミリメートルから1ミリメートルまでの範囲に設定される。
【0051】
フランジ部121より車体前後方向一方側には、車体後方側に延びる略円筒状のスペーサ70が配置されている。前輪用出力軸12は、フランジ部121より車体後方側において、スペーサ70を保持するため、車体後方側に延びるスペーサ保持部123を備える。スペーサ保持部123は、スペーサ70が挿入されるように、車体後方側に延びるスペーサ挿入穴124を有する。このスペーサ挿入穴124は、スペーサ挿入穴124の内径がセンタリング穴122の内径とスペーサ70の外径より大きくなるように構成されている。
【0052】
スペーサ70より車体後方側には、スペーサ70の車体後方側からセンタリング部63のボルト穴64に向けて挿通されて、ボルト穴64に取り付けられるボルト部材20が配置されている。トランスファケース51には、前輪用出力軸12の車体後方側の端部に対応して挿通穴53bが形成され、スペーサ70及びボルト部材20を挿通できるようになっている。
【0053】
ボルト部材20は、六角形状の頭部21と、頭部21から車体前方側に向けて延びるねじ部22とを有する。
【0054】
プロペラシャフト30を前輪用出力軸12に組み付けるとき、トランスファ装置10では、ジョイント部61のスプライン部61bの車体後方側を前輪用出力軸12のスプライン部12bの車体前方側に嵌合させながら、ジョイント部61に設けられているセンタリング部63を前輪用出力軸12のフランジ部121のセンタリング穴122に挿入することにより、ジョイント部61が前輪用出力軸12にセンタリングされる。この状態から、スペーサ70を前輪用出力軸12の車体後方側の端部からスペーサ挿入穴124に挿入し、ボルト部材20をスペーサ70に前輪用出力軸12の車体後方側の端部からセンタリング部63のボルト穴64に向けて挿通してボルト穴64に取り付けることにより、前輪用出力軸12の嵌合部12aにプロペラシャフト30のジョイント部61が取り付けられる。
【0055】
ボルト部材20がボルト穴64に取り付けられることにより、ボルト部材20の頭部21とジョイント部61のセンタリング部63との間に位置するスペーサ70はセンタリング部63に当接する。このとき、車体前後方向におけるセンタリング部63の長さは、車体前後方向におけるジョイント部61の中間軸部62の車体後方側の端部とスペーサ70の車体前方側の端部との間の距離と等しくなる。したがって、車体前後方向における中間軸部62の車体後方側の端部とスペーサ70の車体前方側の端部との間の距離が車体前後方向におけるフランジ部121のセンタリング穴122の長さよりも大きいため、フランジ部121はスペーサ70と中間軸部62との間に挟まれている一方、車体前後方向におけるフランジ部121とスペーサ70との間、及び/又はフランジ部121と中間軸部62との間において、隙間が生じる。この隙間により、ボルト部材20は、プロペラシャフト30のジョイント部61の中間軸部62とボルト部材20の頭部21との間にスペーサ70を介してフランジ部121を挟み込んだ状態でフランジ部121を押圧することなくセンタリング部63の車体後方側の端面を押圧して所定の軸力を発生するように締め付けられる。
【0056】
トランスファ装置10ではまた、トランスファケース51内の潤滑油が外部に漏洩することを防止するためのシール部材が複数配設されている。図2に示すように、第1ケース部材52と前輪用出力軸12の車体前方側との間にシール部材71が配設され、第2ケース部材53と前輪用出力軸12の車体後方側との間にシール部材72が配設されている。また、前輪用出力軸12の嵌合部12aとプロペラシャフト30のジョイント部61との間にグリスが供給され、ジョイント部61と嵌合部12aの車体前方側との間にシール部材73が配設され、スペーサ保持部123とスペーサ70との間にシール部材74が配設されている。
【0057】
本実施形態では、中間軸部62がプロペラシャフト30のジョイント部61とセンタリング部63との間に設けられているが、車体後方側に延びるセンタリング部がプロペラシャフトのジョイント部に設けられてもよい。この場合、車体前後方向における前輪用出力軸の車体前方側の端部からフランジ部の車体前方側の端部までの距離は、車体前後方向におけるジョイント部の長さより僅かに小さくなるように構成されていることが好ましい。
【0058】
このように、本実施形態に係るトランスファ装置10では、前輪用出力軸12のプロペラシャフト側の端部に形成された嵌合部12aがプロペラシャフト30の自在継手31に設けられたジョイント部61にスプライン嵌合され、ジョイント部61に設けられたセンタリング部63を前輪用出力軸12のフランジ部121のセンタリング穴122に挿入することにより、ジョイント部61が前輪用出力軸12にセンタリングされ、スペーサ70を前輪用出力軸12の車体後方側の端部からスペーサ挿入穴124に挿入し、ボルト部材20をスペーサ70に前輪用出力軸12の車体後方側の端部からセンタリング部63のボルト穴64に向けて挿通してボルト穴64に取り付けることにより、前輪用出力軸12の車体前方側に形成された嵌合部12aにプロペラシャフト30のジョイント部61が取り付けられる。
【0059】
これにより、プロペラシャフト30のジョイント部61がセンタリング部63によって前輪用出力軸12にセンタリングされているため、前輪用出力軸12に対するプロペラシャフト30のジョイント部61の振れを抑制することができる。また、前輪用出力軸12のフランジ部121がスペーサ70とジョイント部61との間に挟まれて、且つボルト部材20がスペーサ70に車体後方側から挿通されてジョイント部61のセンタリング部63に設けられているボルト穴64に取り付けられることにより、スプライン嵌合されている前輪用出力軸12の嵌合部12aとジョイント部61との間の回転方向のガタによる相対回転によってボルト部材20がボルト穴64に対して緩むことが抑制される。
【0060】
また、プロペラシャフト30のジョイント部61には、中間軸部62が設けられているため、ジョイント部61の車体後方側の端部からセンタリング部63の車体後方側の端部までの長さが大きくなることにより、ジョイント部61の振れの抑制を向上させると共に、前輪用出力軸12の嵌合部12aがプロペラシャフト30のジョイント部61にスプライン嵌合されるときの組付性が向上する。
【0061】
また、前輪用出力軸12のフランジ部121とスペーサ70との間、及びフランジ部121とプロペラシャフト30の中間軸部62との間において、隙間が生じる。この隙間により、プロペラシャフト30のジョイント部61が前輪用出力軸12に対して相対回転するとき、ボルト穴64に取り付けられているボルト部材20の座面において、ボルト部材20を緩める回転方向の力が与えられ難い。したがって、ボルト部材20が緩むことを防止することができる。
【0062】
また、前輪用出力軸12の嵌合部12aとプロペラシャフト30のジョイント部61、及び前輪用出力軸12のフランジ部121のセンタリング穴122に挿入されているジョイント部61のセンタリング部63が、車体前後方向において、シール部材73とシール部材74との間に位置するため、異物が外部から侵入して嵌合部12aとジョイント部61との間、及びセンタリング穴122とセンタリング部63との間に挟まることがない。したがって、前輪用出力軸12に対するプロペラシャフト30のジョイント部63の振れを確実に抑制することができる。
【0063】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。
【0064】
以上のように、本発明によれば、四輪駆動車に搭載されるトランスファ装置において、補助駆動輪用出力軸に対するプロペラシャフトのジョイント部の振れを抑制すると共に、プロペラシャフトが抜けることを抑制することが可能となるから、この種の車両の製造業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0065】
1 四輪駆動車
3 変速機
3a 変速機の出力軸
10 トランスファ装置
11 後輪用出力軸(主駆動輪用出力軸)
12 前輪用出力軸(補助駆動輪用出力軸)
12a 嵌合部
13 動力伝達機構
20 ボルト部材
30 プロペラシャフト
31 自在継手
61 ジョイント部
63 センタリング部
64 ボルト穴
70 スペーサ
121 フランジ部
122 センタリング穴
図1
図2