(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】内燃機関システム
(51)【国際特許分類】
F01P 11/14 20060101AFI20240702BHJP
F01P 11/16 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F01P11/14 E
F01P11/16 B
(21)【出願番号】P 2021008561
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-11-23
(31)【優先権主張番号】P 2020137917
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児玉 康朗
【審査官】上田 真誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-87825(JP,A)
【文献】特開昭54-93737(JP,A)
【文献】特開2003-172724(JP,A)
【文献】特開2004-69613(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0034510(US,A1)
【文献】特開2004-69153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 11/14
F01P 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンを冷却する冷却液として、エチレングリコールを含む冷却液を冷却しながら、前記エンジンへ循環させる冷却循環機構と、
前記エンジンを通過した前記冷却液の温度を測定する温度センサと、
を備えた内燃機関システムであって、
前記内燃機関システムは、制御装置をさらに備えており、
前記制御装置は、
前記エンジンの冷間始動を判定し、前記冷却液が交換されるまでの間において、冷間始動回数をカウントする始動回数カウント部と、
前記冷却液が交換されるまでの間において、前記温度センサが測定した前記冷却液の温度が、規定温度以上である積算時間を計測する積算時間計測部と、
前記積算時間が規定時間以上であり、かつ、前記冷間始動回数が、規定回数以上であるときに、前記冷却液を交換すべきと判定する交換判定部と、
を備えることを特徴とする内燃機関システム。
【請求項2】
前記冷却液は、防食剤をさらに含み、
前記制御装置は、前記冷却液が流れる流路を形成する金属の種類と、前記流路において、前記金属が前記冷却液に接触する接触面積とに応じて、前記規定時間と前記規定回数とを設定する設定部を、さらに備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記積算時間と前記冷間始動回数とに基づいて、前記冷却液の酸化劣化度を算出する酸化劣化度算出部と、
前記酸化劣化度に基づいて、前記冷却液の酸性を中和する中和剤の添加量、または、前記冷却液の流路を形成する金属に対する防食剤の添加量を算出する添加量算出部と、
前記添加量の中和剤または防食剤の添加後に、前記添加量に基づいて、前記規定時間と前記規定回数を変更する変更部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを備えた内燃機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、動力源としてエンジンとエンジンを制御する制御装置を備えた内燃機関システムが提案されている。エンジンの稼働時には、エンジンは、燃料と空気との混合気の燃焼により、高温に発熱する。そこで、エンジンには、冷却液が通水され、冷却循環機構により、冷却液を循環して、冷却液がエンジンに送られる。
【0003】
ところで、このような冷却液には、不凍性を目的として、エチレングリコールを含むものが使用されることがある。しかしながら、エチレングリコールは、80℃を超える温度環境下では、酸化劣化することがある。これにより、冷却液にギ酸や酢酸などの有機酸が生成され、冷却液を流れる通路が腐食するおそれがある。
【0004】
たとえば、このような冷却液を管理するシステムとして、冷却液の温度が一定温度以上である時間を積算し、この積算時間が規定時間に達すると、冷却液が劣化したと判定するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示すシステムでは、高温時における冷却液(エチレングリコール)の酸化劣化を測定しようとして、冷却液が一定温度以上である時間を積算しているが、この積算時間に、冷却液の劣化が依存しないことがある。したがって、適切な時期に、冷却液を交換することができないことがある。
【0007】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、本発明として、エンジンの冷却液の交換タイミングをより正確に判定することができる内燃機関システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、前記課題を鑑みて、鋭意検討を重ねた結果、高温時に冷却液に含まれるエチレングリコールは、酸化劣化するが、この酸化劣化は、冷却液中の溶存酸素量と相関があることがわかった。すなわち、冷却液中の溶存酸素量が少ないと、高温時においても、エチレングリコールが酸化劣化し難く、冷却液に溶存する酸素は、冷却液の温度が低温のときに、気相の酸素ガスから取り込まれ易いとの新たな知見を得た。
【0009】
本発明は、この新たな知見に基づくものであり、本発明に係る内燃機関システムは、エンジンと、前記エンジンを冷却する冷却液として、エチレングリコールを含む冷却液を冷却しながら、前記エンジンへ循環させる冷却循環機構と、前記エンジンを通過した前記冷却液の温度を測定する温度センサと、を備えた内燃機関システムであって、前記内燃機関システムは、制御装置をさらに備えており、前記制御装置は、前記エンジンの冷間始動を判定し、前記冷却液が交換されるまでの間において、冷間始動回数をカウントする始動回数カウント部と、前記冷却液が交換されるまでの間において、前記温度センサが測定した前記冷却液の温度が、規定温度以上である積算時間を計測する積算時間計測部と、前記積算時間が規定時間以上であり、かつ、前記冷間始動回数が、規定回数以上であるときに、前記冷却液を交換すべきと判定する交換判定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、制御装置の積算時間計測部により、エンジンを通過した冷却液の温度が、規定温度以上である積算時間を計測する。この積算時間が、規定時間以上である場合には、エチレングリコールの酸化劣化による有機酸が冷却液に含まれている可能性がある。しかしながら、冷却液の溶存酸素量が少ない場合には、エチレングリコールの酸化劣化はそれほど生じない。
【0011】
そこで、本発明では、冷却液の溶存酸素量を測定するため冷間始動回数をカウントする。すなわち、冷間始動前には、冷却液の温度は常温程度であるため、冷却循環機構内の酸素ガスが、冷却液に溶存し易い。したがって、この冷間始動回数が規定回数未満である場合には、冷却液の溶存酸素量が少ない状態で冷却液を使用した可能性もあるため、実際のところ、エチレングリコールの酸化劣化はそれほど生じていないことがある。この場合には、冷却液が酸化劣化していないと判断することができ、交換判定部により、冷却液を交換不要と判定することができる。
【0012】
一方、始動回数カウント部でカウントした冷間始動回数が規定回数以上であることを判定条件として、この判定条件を満たす場合には、エチレングリコールが酸化劣化するに十分な溶存酸素量が、冷却液に含まれていると判断できる。この判定条件を満たす場合には、冷却液が酸化劣化している(すなわち、エチレングリコールが酸化劣化している)と判断することができ、交換判定部により、冷却液を交換すべきと判定する。これにより、エンジンの冷却液の交換タイミングをより正確に把握することができる。
【0013】
ここで、冷却液の酸化劣化により、冷却液に接触する流路を形成する金属(流路の壁面)は腐食する。冷却液には、防食剤等が添加されているが、冷却液に接触する金属が腐食しやすい金属であれば、冷却液に防食剤が添加されていたとしても、冷却液の酸化劣化に伴い、他の金属に比べて腐食が促進されてしまう。さらに、冷却液の流路の接触面積が大きくなるに従って、冷却液に添加された防食剤の消費が多くなり、その結果、冷却液の酸化劣化が進むと、冷却液に対する金属(流路壁面)の防食性が低下してしまう。このような場合には、冷却液が酸化劣化していると早期に判断し、冷却液の交換タイミングを早めることが好ましい。
【0014】
このような観点から、より好ましい態様としては、前記冷却液は、防食剤をさらに含み、前記制御装置は、前記冷却液が流れる流路を形成する金属の種類と、前記流路において、前記金属が前記冷却液に接触する接触面積とに応じて、前記規定時間と前記規定回数とを設定する設定部を、さらに備える。
【0015】
この態様によれば、冷却液が流れる流路を形成する金属の種類と、この流路において、この金属が冷却液に接触する接触面積とに応じて、規定時間と規定回数とを設定するので、通常よりも冷却液の交換タイミングを早めることができる。これにより、酸化劣化した冷却液による流路の壁面の腐食を低減することができる。
【0016】
より好ましい態様としては、前記制御装置は、前記積算時間と前記冷間始動回数に基づいて、前記冷却液の酸化劣化度を算出する酸化劣化度算出部と、前記酸化劣化度に基づいて、前記冷却液の酸性を中和する中和剤の添加量、または、前記冷却液の流路を形成する金属に対する防食剤の添加量を算出する添加量算出部と、前記添加量の中和剤または防食剤の添加後に、前記添加量に基づいて、前記規定時間と前記規定回数を変更する変更部と、をさらに備える。
【0017】
この態様によれば、冷却液の酸化劣化度に基づいて、中和剤または防食剤の添加量を算出するので、この添加量の中和剤または防食剤の添加により、冷却液の使用可能期間を延長し、冷却液の交換タイミングを遅らせることができる。これにより、冷却液の交換頻度を下げることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エンジンの冷却液の交換タイミングをより正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1~第3実施形態に係る内燃機関システムの模式的概念図である。
【
図2】
図1に示す内燃機関システムの第1実施形態に係る制御ブロック図である。
【
図3】全溶存酸素量と有機酸発生量との関係を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態に係る内燃機関システムの制御フロー図である。
【
図5A】冷却液が流れる流路における防食剤の作用を説明するための模式的概念図である。
【
図5B】時間経過に伴う防食剤の濃度変化を説明するための模式的な概念的なグラフである。
【
図6】
図1に示す内燃機関システムの第2実施形態に係る制御ブロック図である。
【
図7A】冷却循環機構の金属の種類と、規定時間および規定回数の関係を示す概念的なグラフである。
【
図7B】冷却液の接触面積と、規定時間および規定回数の関係を示す概念的なグラフである。
【
図8】第2実施形態に係る内燃機関システムの制御フロー図である。
【
図9】
図1に示す内燃機関システムの第3実施形態に係る制御ブロック図である。
【
図10】冷却液の接触面積と、規定時間および規定回数の関係を示す概念的なグラフである。
【
図11】第3実施形態に係る内燃機関システムの制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、
図1~
図4を参照しながら本発明に係る第1から第3実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1から第3実施形態に係る内燃機関システムの模式的概念図である。
図1に示すように、本実施形態に係る内燃機関システム1は、車両に搭載されるものである。内燃機関システム1は、エンジン10と、冷却循環機構20と、制御装置40とを備えている。内燃機関システム1は、温度センサ30と、スタータ50、および警告灯60をさらに備えている。
【0021】
エンジン10は、車両の動力源となる装置である。以下、エンジン10の詳細は図示しないが、エンジン10は、シリンダブロックに、ピストンが摺動自在に配置されており、シリンダヘッドには吸気弁および排気弁が設けられている。エンジン10の燃焼室では、燃料と吸入空気を混合した混合気を着火して燃焼し、これによりエンジン10を駆動させる。この燃焼により、エンジン10が加熱されることから、本実施形態では、エンジン10のシリンダブロックには、エンジンを冷却する冷却液が流れる流路が形成されている。
【0022】
本実施形態では、冷却液は、水にエチレングリコール等を含む添加剤が添加された液体である。本実施形態では、冷却液に、エチレングリコールを25~80質量%含有していてもよい。冷却液にエチレングリコールを添加することにより、冷却液の凍結を防止することができる。
【0023】
エンジン10を冷却する冷却液は、一般的に知られた冷却循環機構20により、エンジン10へ循環される。冷却循環機構20は、ポンプ21、ヒータコア22、ラジエータ23、およびリザーブタンク24を備えており、これらは配管を介して接続されている。
【0024】
ポンプ21は、エンジン10よりも上流側に配置されており、エンジン10に冷却液を圧送する。エンジン10の稼働時には、エンジン10が加熱されるため、ポンプ21の圧送により、ポンプ21は冷却される。
【0025】
ポンプ21の下流には、上述した温度センサ(水温センサ)30が設けられており、温度センサ30により、エンジン10を通過した冷却液の温度を測定することができる。さらに、温度センサ30の下流には、ヒータコア22が設けられている。ヒータコア22は、車両の室内の温度を昇温する際に、冷却液の熱を熱交換により吸熱するものである。
【0026】
ヒータコア22の下流には、ラジエータ23が設けられており、ヒータコア22を通過した冷却液を冷却することができる。さらに、ラジエータ23とポンプ21との間には、冷却液を貯蔵するリザーブタンク24が設けられおり、ポンプ21に供給される冷却液の不足時には、リザーブタンク24から冷却液が供給される。本実施形態では、リザーブタンク24は、ラジエータ23とポンプ21との間に設けられたが、たとえば、ラジエータ23に設けられていてもよい。本実施形態では、
図1に示すエンジン(具体的にはシリンダブロック)10、ヒータコア22、ラジエータ23、ポンプ21に形成された冷却液が流れる流路と、これらを接続する配管内の流路とからなる流路29が、本発明でいうところの「冷却液の流路」に相当する。
【0027】
制御装置40は、スタータ50からの始動信号に基づいて、エンジン10の始動制御を行い、継続してエンジン10の燃焼制御を行う。制御装置40によるエンジン10の制御は、エンジン10の空燃比制御等、エンジン10を稼働させる一般的な制御であり、その詳細な説明を省略する。
【0028】
制御装置40は、冷却液の劣化を判定し、冷却液が酸化劣化していると判断した際には、冷却液の交換を促す警告灯60を点灯させる制御を行う。制御装置40は、温度センサ30に電気的に接続されており、温度センサ30からの冷却液の温度の計測信号を受信する。制御装置40は、CPU等の演算装置(図示せず)、および、RAM、ROMなどの記憶装置(図示せず)をハードウエアとして備えている。
【0029】
〔第1実施形態〕
以下に、第1実施形態に係る制御装置40の詳細について説明する。本実施形態では、制御装置40は、ソフトウエアとして、
図2に示す、始動回数カウント部41、積算時間計測部42、および交換判定部43とを備えている。なお、以下では、ソフトウエアとして、エンジン10を制御するための詳細な説明は、一般的に知られた制御であるため、詳細な説明を省略する。
【0030】
始動回数カウント部41は、エンジン10の冷間始動を判定し、冷却液が交換されるまでの間の冷間始動回数をカウントする。冷間始動は、エンジン10の外気温(雰囲気温度)以下における始動であり、本実施形態では、冷却液から、エンジン10から入熱された熱を完全に放熱されたときのエンジン10の始動である。
【0031】
たとえば、エンジン10の冷間始動は、スタータ50からの始動信号を受信したタイミングで、外気温度と、冷却液の温度とを対比することにより判定されてもよい。また、エンジン10の冷間始動は、冷却液の温度が低下してから、エンジン10が始動するタイミングで、判定されてもよい。
【0032】
積算時間計測部42は、冷却液が交換されるまでの間において、温度センサ30が測定した冷却液の温度が、規定温度以上である積算時間を計測する。ここで、規定温度とは、冷却液に含まれるエチレングリコールが酸化劣化して、ギ酸または酢酸が生成される温度であり、たとえば80℃である。
【0033】
交換判定部43は、積算時間計測部42で計測された積算時間が規定時間以上であり、かつ、始動回数カウント部41によりカウントされた冷間始動回数が、規定回数以上であるときに、冷却液を交換すべきと判定する。具体的には、積算時間が規定時間以上であり、かつ、カウントされた冷間始動回数が、規定回数以上であるときに、冷却液が酸化劣化していると判断することができ、この場合に、交換判定部43は、冷却液を交換すべきと判定する。この判定結果に基づいて、交換判定部43は、冷却液の交換を促すための警告信号を、警告灯60に送信する。
【0034】
なお、ここでいう規定時間(予め設定された所定時間)は、たとえば、以下のようにして求めてもよい。具体的には、冷却液に所定量の酸素が溶存している状態で、エンジン10を通過した冷却液の最高温度と同じ温度で冷却液を加熱し、エチレングリコールから生成されるギ酸および酢酸等の有機酸の量が所定の量に到達したときの加熱時間を、予め実験等により計測する。計測した加熱時間を、規定時間として設定することができる。これにより、積算時間計測部42で計測された積算時間が規定時間以上である場合には、冷却液に含まれるエチレングリコールの酸化劣化しているおそれがあると推定できる。
【0035】
しかしながら、このような加熱条件で、冷却液が加熱されていても、エチレングリコールが酸化劣化しないことがある。この点を、
図3を参照しながら説明する。
図3は、全溶存酸素量と有機酸発生量との関係を示したグラフである。
【0036】
ここで、全溶存酸素量は、冷却液中の溶存酸素量に、上述した規定温度以上(たとえば80℃以上)である積算時間との積で概算することができる。すなわち、規定温度以上において冷却液中の溶存酸素量が少ない場合には、冷却液全体での全溶存酸素量も少ないため、積算時間を長くても全溶存酸素量は少ないままである。このため、冷却液中における有機酸発生量は少ない。しかしながら、溶存酸素量が所定の量から増加するに従って、冷却液中における有機酸発生量は増加することがわかる。
【0037】
すなわち、冷却液が80℃以上の高温になると、エチレングリコールの酸化劣化が開始するが、冷却液中に含まれる溶存酸素量は消費されていく。その一方で、冷却液の溶存酸素量は、エンジン10の冷間時において、リザーブタンク24などを含む冷却循環機構20内の気相(エア)から取り込まれることにより増加する。したがって、エンジン10の冷間時には、冷却液に酸素が補充され、規定時間で溶存酸素量は飽和する。
【0038】
そこで、本実施形態では、交換判定部43は、積算時間が規定時間以上であるという判定条件に加えて、始動回数カウント部41によりカウントされた冷間始動回数が規定回数(予め設定された所定回数)以上であるときに、冷却液を交換すべきと判定する。
【0039】
これにより、エンジンの冷却液の酸化劣化をより正確に判断することができるため、有機酸を含む冷却液の交換を促し、冷却液が通過するエンジン10および冷却循環機構20の流路壁面の腐食を抑えることができる。
【0040】
図4を参照して、本実施形態の内燃機関システムにおける制御フローを説明する。まず、ステップS1では、エンジン10を始動させてから、温度センサ30で、冷却液の温度を測定する。ステップS2に進み、積算時間計測部42で、冷却液の温度が規定温度に到達したかを判定する。
【0041】
ここで、ステップS2において、冷却液の温度が、規定温度に到達した場合には、ステップS4に進み、積算時間計測部42で、その時間を計測する(具体的には、計測時間を加算する)。これにより、積算時間計測部42で、冷却液が規定温度以上となった時間を積算し、積算時間を算出することができる。
【0042】
一方、冷却液の温度が、規定温度に到達していないときには、ステップS3に進む。ここでは、ステップS4において、既に時間を計測している場合には、計測を終了し、計測時間を記憶し、ステップS1に戻る。
【0043】
ステップS4で、積算時間計測部42で積算時間を算出した後、ステップS5に進み、ステップS5では、交換判定部43で、積算時間が規定時間に達したかを判定する。積算時間が規定時間に達した場合には、ステップS6に進み、始動回数カウント部41で、エンジン10の冷間始動回数を計測し、さらにステップS7に進む。一方、交換判定部43で、積算時間が規定時間に達していないと判断した場合には、ステップS1に戻り、継続して、冷却液の温度を測定する。
【0044】
ステップS7で、交換判定部43において、冷間始動回数が規定回数に達したと判断した場合には、冷却液のエチレングリコールが酸化劣化していると判断し、冷却液を交換すべきと判定し、ステップS8に進む。ステップS8では、交換判定部43から警告灯60に警告信号を送信し、警告灯60を点灯させる。一方、ステップS7で、冷間始動回数が、規定回数に達していない場合には、ステップS1に戻り、継続して、冷却液の温度を測定する。冷却液を交換した後は、カウントした冷間始動回数と、計測した積算時間とをリセットし、再度、
図4に示すフローを実施する。
【0045】
〔第2実施形態〕
以下に第2実施形態に係る内燃機関システムを説明する。第2実施形態の内燃機関システムが、第1実施形態のものと相違する点は、制御装置である。したがって、以下に、
図5~
図8を参照しながら、制御装置の相違点について説明する。
【0046】
まず、
図5A、
図5Bを参照し、冷却液に含まれる防食剤の作用について説明する。なお、
図5Bの積算時間は、高温時における冷却液の使用時間を積算した時間のことである。本実施形態では、冷却液Wは、金属で形成された流路を流れるため、防食剤を含んでいる。したがって、
図5Aに示すように、防食剤fを含む冷却液Wを流路29に流すと、流路29の壁面には、防食皮膜29aが形成される。これにより、ギ酸または酢酸などの有機酸aによる壁面の金属の腐食を抑えることができる。
【0047】
このような防食剤fとしては、リン酸及び/又はその塩、脂肪族カルボン酸及び/又はその塩、芳香族カルボン酸及び/又はその塩、トリアゾール類、チアゾール類、ケイ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ホウ酸塩、モリブテン酸塩、及びアミン塩のいずれか1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。なお、防食剤fは、冷却液Wの全体に対して、0.5~5.0質量%添加されており、防食剤fを過多に添加すると、冷却液WのpH(水素イオン指数)が変動しやすくなる。
【0048】
ここで、
図5Bに示すように、内燃機関システムに投入される前の防食剤fの濃度が最も高く、投入後、防食皮膜29aの形成により、冷却液Wの防食剤fが消費される(
図5BのT0参照)。その後、冷却液Wの酸化劣化に伴い、防食皮膜Fが、酸化劣化した冷却液の有機酸等により攻撃され、冷却液W中の余剰な防食剤fが、防食皮膜Fの再生等に消費される。このような結果、冷却液Wの酸化劣化の進行に伴い、防食剤fの濃度が低下し、冷却液Wは、交換時期を迎える(
図5BのT1、T2参照)。
【0049】
この際、冷却液Wの接触面積が大きい流路は、それよりも小さい流路に比べて、防食剤fの消費量が多いため、冷却液W中の防食剤fの濃度が低下してしまう。したがって、接触面積が大きい流路を流れる冷却液Wの交換タイミングは、それよりも小さい流路を流れる冷却液Wの交換タイミングに比べて、早くなる。
【0050】
さらに、冷却液Wに接触する金属が腐食しやすい金属であれば、冷却液Wに防食剤fが添加されていたとしても、冷却液Wの酸化劣化に伴い、他の金属に比べて腐食が促進されてしまうので、この場合にも、冷却液Wの交換タイミングを早めることが好ましい。
【0051】
このような観点から、本実施形態では、
図6に示すように、交換判定部43による判定の閾値となる規定時間と規定回数を設定する設定部44をさらに備えている。設定部44は、冷却液Wが流れる流路29を形成する金属の種類と、流路29において、金属が冷却液Wに接触する接触面積に応じて、規定時間と規定回数とを、設定する。設定された規定時間と規定回数は、交換判定部43に送られ、第1実施形態と同様に、冷却液Wの交換を判定する閾値として用いられる。
【0052】
設定部44は、冷却液Wに接触する金属の耐食性が低ければ低いほど、規定時間が短くなりかつ規定回数が少なくなるように、規定時間と規定回数とを設定する。具体的には、
図7Aに示すように、酸化劣化した冷却液Wに、材質の異なる複数種の金属板を浸漬し、腐食による金属板の減量を測定し、その減量に応じて、金属板を形成する金属の耐食性(耐食度)を特定した上で、金属種の耐食度(耐食性)に応じて、規定時間と規定回数を設定してもよい。なお、
図7Aに示す耐食性は、実際の冷却液Wが酸化劣化した際に生成されるギ酸および酢酸などの有機酸に対する耐食度を示している。設定部44は、耐食度に応じて、規定時間および規定回数を、同じ割合で変動させてもよい。
【0053】
ここで、
図7Aでは、たとえば、黄銅、銅合金、アルミニウム合金、鉄に比べて、鋳鉄が最も腐食しやすい(耐食性が低い)。このような場合、流路29を形成する金属が鋳鉄である場合には、他の金属に比べて、規定時間を短くし、かつ、規定回数も少なくする。例えば、鉄で設定された規定時間および規定回数に対して、同じ割合の比率(1未満の比率)を乗算することにより、鋳鉄の場合の規定時間および規定回数を設定してもよい。この他のも、鉄、アルミニウム合金、銅合金、黄銅、鋳鉄の順に、規定時間と規定回数の値が小さくなるテーブルをメモリー等に設け、このテーブルに基づいて、規定時間と規定回数を設定してもよい。
【0054】
具体的には、設定部44は、
図7Bに示すように、冷却液Wに接触する金属の接触面積が大きければ大きいほど、規定時間が短くなりかつ規定回数が少なくなるように、規定時間と規定回数とを設定する。ここで、規定時間および規定回数は、同じ割合で変動させてもよい。
【0055】
設定部44では、流路29を形成する金属の種類から、予め設定された金属ごとの標準の規定時間および規定回数を仮設定する。その後、この仮設定された標準の規定時間および規定回数に対して、接触面積に応じて規定時間および規定回数を変更する。設定部44は、この変更した規定時間および規定回数を、冷却液Wの交換の閾値として、設定する。
【0056】
流路29に複数種の金属が存在する場合には、後述する接触面積に応じた規定時間、規定回数の設定を行う前に、まず、最も耐食性の低い金属に対応付けられた標準の規定時間および規定回数を仮設定する。その後、この仮設定された標準の規定時間および規定回数に対して、接触面積に応じた規定時間および規定回数を設定してもよい。
【0057】
この他にも、流路29に複数種の金属が存在する場合、金属ごとに予め設定された標準の規定時間または規定回数に対して、金属ごとの接触面積に応じて、標準の規定時間または規定回数を補正する。金属ごとに、補正された規定時間または規定回数のうち、最短の規定時間、最小の規定回数を、規定時間および規定回数として設定してもよい。
【0058】
図8は、第2実施形態に係る内燃機関システムの制御フロー図である。第1実施形態に係る制御フロー図と相違する点は、初めに、ステップS101、ステップS102を設けた点であり、その他の制御フローは、同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0059】
まず、ステップS101において、内燃機関システムに冷却液Wを外部から投入する前後(初回のエンジン10の始動前)に、流路29の金属の種類と接触面積を、入力装置(図示せず)を介して、制御装置40に入力する。次に、ステップS102において、入力された金属の種類と接触面積に基づいて、設定部44が、規定時間および規定回数を設定する。それ以降は、第1実施形態と同様のフローを実行する。
【0060】
本実施形態では、冷却液Wが流れる流路29を形成する金属の種類と、この流路29において、この金属が冷却液Wに接触する接触面積に応じて、規定時間と規定回数とを、設定するので、通常よりも冷却液Wの交換タイミングを早めることができる。具体的には、設定部44が、冷却液Wに接触する金属が、冷却液Wに対して金属の耐食性が低くなるに従って、規定時間が短くなりかつ規定回数が少なくなるように、規定時間と規定回数とを設定するので、通常よりも冷却液Wの交換タイミングが早めることができる。この結果、酸化劣化した冷却液Wによる流路29の腐食を低減することができる。
【0061】
同様に、設定部44は、冷却液Wに接触する流路29の金属の接触面積が増加するに従って、規定時間が短くなりかつ規定回数が少なくなるように、規定時間と規定回数とを設定するので、通常よりも冷却液Wの交換タイミングを早めることができる。これにより、酸化劣化した冷却液Wによる流路29の腐食を低減することができる。
【0062】
〔第3実施形態〕
以下に第3実施形態に係る内燃機関システムを説明する。第3実施形態の内燃機関システムが、第3実施形態のものと相違する点は、制御装置である。したがって、以下に、
図9~
図11を参照しながら、制御装置の相違点について説明する。
【0063】
図10に示すように、この実施形態では、制御装置40は、酸化劣化度算出部45と、添加量算出部46と、変更部47とを備えている。酸化劣化度算出部45は、積算時間計測部42で測定した積算時間と、始動回数カウント部41と冷間始動回数に基づいて、冷却液Wの酸化劣化度を算出する。
【0064】
具体的には、
図3等で説明したように、冷却液Wは、積算時間が増加し、かつ、冷間始動回数が増加するに従って、エチレングリコールが酸化し、冷却液が酸化劣化する。冷却液の酸化劣化度は、予め測定した積算時間と始動回数との複数の条件に対して、たとえば冷却液Wの水素イオン指数(pH)をpH測定計で測定し、これらの関係を構築することにより、算出することができる。なお、pHが高いほど、酸化劣化が進んでいるので、酸化劣化度が高い。
【0065】
この他にも、予め測定した積算時間と始動回数との複数の条件、各条件における冷却液のpHまたはこれに応じた酸化劣化度を教師データとして、pHまたは酸化劣化度の算出を機械学習させてもよい。また、本実施形態では、酸化劣化度算出部45は、酸化劣化度を算出したが、例えば、pH測定計で測定した水素イオン指数に基づいて、酸化劣化度を算出してもよい。
【0066】
ここで、冷却液が酸化劣化すると、冷却液Wが酸性化し、酸化劣化度が大きいと、冷却液Wの液性は、強酸側に近づく。そして、冷却液Wの酸化劣化が進むに従って、流路29の壁面の腐食が促進される。そこで、添加量算出部46は、酸化劣化度算出部45により算出した冷却液の酸化劣化度に基づいて、冷却液Wの酸性を中和する中和剤の添加量、または、冷却液Wの流路29を形成する金属に対する防食剤の添加量を、算出する。
【0067】
具体的には、
図10に示すように、添加量算出部46は、冷却液Wの酸化劣化度が大きくなるに従って、中和剤または防食剤の添加量が大きくなるように、中和剤または防食剤の添加量を算出する。添加量の算出は、酸化劣化度に対する添加量の関係を特定した数式、テーブルなどにより行うことができ、これらの関係は、予め実験等により求めることができる。
【0068】
中和剤の添加量は、たとえば、冷却液Wの総量に対して、冷却液Wの液性が、初期の冷却液Wの液性(中性)となる量として、算出することができる。さらに、防食剤の添加量は、たとえば、酸化劣化度ごとに、冷却液中の消費される防食剤の濃度を予め実験等で記録しておき、冷却液Wの総量に対して添加量算出部46は防食剤の低下した濃度分を補う量として、算出することができる。
【0069】
変更部47は、算出された添加量の中和剤または防食剤の添加後に、添加量に基づいて、規定時間と規定回数を変更する。具体的には、中和剤または防食剤の添加により、冷却液Wの使用可能期間が延長されるため、変更部47は、規定時間がより長くなり、規定回数がより多くなるように、規定時間と規定回数を変更する。
【0070】
図11は、第3実施形態に係る内燃機関システムの制御フロー図であり、
図4に示す第1実施形態に係る内燃機関システムの制御フローと並行して実行されるフロー図であり、
図4に示すステップS8より前、すなわち、冷却液Wを交換すべきと判定される前までに、実行されるフロー図である。
【0071】
まず、ステップS91において、積算時間計測部42により、積算時間を計測する。このステップS91では、
図4のステップS1~ステップS4までのステップと同様の処理を実行する。次に、ステップS92において、始動回数カウント部41により、エンジン10の冷間始動を判定し、冷却液が交換されるまでの間の冷間始動回数をカウントする。
【0072】
ステップS93では、酸化劣化度算出部45により、積算時間と、冷間始動回数に基づいて、冷却液Wの酸化劣化度を算出し、ステップS94に進む。ステップS94では、添加量算出部46により、算出した冷却液の酸化劣化度に基づいて、中和剤の添加量または防食剤の添加量を算出する。ステップS95では、算出した添加量の結果を、出力装置(図示せず)等に表示する。
【0073】
ステップS96では、算出した添加量の中和剤または防食剤を添加したかどうかを判定する。たとえば、冷却液Wの流路29にpH測定計を設け、pH測定計が測定するpHの変化に基づいて、添加の実行の有無を判定してもよい。この他にも、冷却液Wの電気伝導度を測定するセンサを設け、電気伝導度の変化に基づいて、添加の実行の有無を判定してもよい。この他にも、中和剤または防食剤を添加した際に、作業者が、添加を実行した信号を制御装置40に送信することにより、この信号(添加実行の入力信号)の入力に基づいて、添加の実行の有無を判定してもよい。
【0074】
ステップS96で、中和剤または防食剤が添加されたと判定した場合には、ステップS97で、変更部47により、規定時間と規定回数を変更する。一方、中和剤または防食剤が添加されていないと判定した場合には、ステップS91に戻る。
【0075】
本実施形態によれば、添加量算出部46により、冷却液Wの酸化劣化度に基づいて、中和剤または防食剤の添加量を算出する。この添加量の中和剤または防食剤の添加により、冷却液の使用可能期間を延長し、冷却液Wの交換タイミングを遅らせることができる。さらに、添加量の中和剤または防食剤の添加により、変化する冷却液Wの交換タイミングを、変更部47による規定時間と規定回数の変更により、適切なタイミングに変更することができる。
【0076】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0077】
第1実施形態では、エンジンの制御を行う制御装置と、冷却液の交換を判定し、警告灯の点灯制御を行う制御装置を、1つの制御装置として車両に搭載する例を示した。しかしながら、たとえば、
図2に示す警告灯の点灯制御をする制御装置を、車両の外部の管理システムに設け、管理システムを介した通信により、警告灯の点灯制御を行ってもよい。さらに、第3実施形態の制御装置に、第2実施形態の設定部を設けてもよい。また、第3実施形態で、中和剤または防食剤を添加する際に、冷却液にエチレングリコールをさらに添加してもよく、冷却液をさらに加えてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1:内燃機関システム、10:エンジン、20:冷却循環機構、29:流路、30:温度センサ、40:制御装置、41:始動回数カウント部、42:積算時間計測部、43:交換判定部、44:設定部、45:酸化劣化度算出部、46:添加量算出部、47:変更部、W:冷却液