(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、並びにそれを具備した照明装置、表示装置及び印刷造形物
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20240702BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20240702BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20240702BHJP
H10K 71/13 20230101ALI20240702BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20240702BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240702BHJP
【FI】
H10K50/12
G09F9/30 365
H10K59/10
H10K71/13
H10K85/10
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2021013322
(22)【出願日】2021-01-29
【審査請求日】2023-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 和博
(72)【発明者】
【氏名】泉 倫生
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼ 秀雄
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-021138(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115218(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0321755(US,A1)
【文献】特開2009-032977(JP,A)
【文献】特開2003-092182(JP,A)
【文献】特開2010-080979(JP,A)
【文献】特開2008-291236(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0005272(US,A1)
【文献】特開2004-018787(JP,A)
【文献】国際公開第2015/105058(WO,A1)
【文献】特開2002-289352(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0099446(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0103308(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/12
G09F 9/30
H10K 59/10
H10K 71/13
H10K 85/10
H10K 85/60
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基板上に、対向する陽極と陰極に挟持された画像表示部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記画像表示部が、発光画像表示部と非発光画像表示部で構成され、
前記発光画像表示部が、少なくとも電極、電荷注入層又は電荷輸送層に隣接する発光層を有し、
前記発光層が、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有し、
前記導電率が1S/m以下のポリマーが、ポリフッ化ビニリデン、ポリアセタール、ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリスルホン、ポリ[2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、アクリロニトリル-スチレン共重合ポリマー、ポリ(9-ビニルカルバゾール)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)、ポリ(1,4-フェニレンスルフィド)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-alt-ベンゾチアジアゾール)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(4,4’-イソプロピリデンジフェニレンテレフタラート)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルスチレン、ポリスチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリエーテルスルホン、ポリ(4-ビニルフェノール)及びエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマーから選ばれる少なくとも一つであり、
前記発光層において、下記式(i)で表されるポリマー比率Pが、下記条件(ii)を満たす
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(i)P=I
P/(I
P+I
H+I
Dp)
(ii)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.8以上、2.2未満である。
〔式中、I
P、I
H及びI
Dpは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により測定した、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントの二次イオン強度である。
Paは、陽極側界面付近(x=(D-[D/10]))におけるポリマー比率であり、
Pbは、中央部(x=D/2)におけるポリマー比率であり、
Pcは、陰極側界面付近(x=D/10)におけるポリマー比率である。
ただし、xは、発光層内の厚さ方向における位置を示しており、電極面に対して垂直方向をx軸とし、発光層の層厚をDとするとき、陰極側界面はx=0、陽極側界面はx=Dで表される。〕
【請求項2】
前記ポリマー比率Pが、下記条件(iii)を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(iii)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.95以上、2.0未満である
【請求項3】
前記ポリマー比率Pが、下記条件(iv)を満たす
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(iv)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、1.1以上、1.8未満である
【請求項4】
前記ポリマー比率Pが、条件(v)を満たす
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(v)Pa≦Pc
【請求項5】
前記ポリマー比率Pが、条件(vi)を満たす
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(vi)Pa<Pc
【請求項6】
前記発光層において、当該発光層の総質量を100とした場合のポリマーの質量比率が、5~80質量%の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
前記ポリマーが、導電率が1E-8S/m以下のポリマーである
ことを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記ポリマーが、ベンゼン環を含むポリマーである
ことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項9】
前記ポリマーが、ベンゼン環を側鎖として含むポリマーである
ことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項10】
前記
ポリマーが、ポリ
(4-ビニルフェノール
)である
ことを特徴とする請求項
1から請求項9までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項11】
前記発光層が、少なくとも電極又は電荷注入層と直接隣接する
ことを特徴とする請求項1から請求項
10までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項12】
前記発光層が、電極と直接隣接する
ことを特徴とする請求項1から請求項
11までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項13】
請求項1から請求項
12までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記発光層を、インクジェット印刷法によって形成する工程を有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項14】
前記発光層を、大気下で、インクジェット印刷法によって形成する工程を有する
ことを特徴とする請求項
13に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【請求項15】
請求項1から請求項
12までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する
ことを特徴とする照明装置。
【請求項16】
請求項1から請求項
12までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する
ことを特徴とする表示装置。
【請求項17】
請求項1から請求項
12までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する
ことを特徴とする印刷造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、並びにそれを具備した照明装置、表示装置及び印刷造形物に関し、より詳しくは、発光効率が高く、長寿命であり、かつ、大気下での製造における性能低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、需要が高まっている薄型化及び軽量化の観点から、自発光であり、バックライトが不要な有機エレクトロルミネッセンス素子(organic electroluminescent device(or diode);「有機EL素子」ともいう。)が注目を集めている。有機エレクトロルミネッセンス素子は、このようなフレキシブルディスプレイやフレキシブル照明の実現だけでなく、視野角が広く視認性に優れる、応答速度が速く動画再生性能に優れる等の特長も有しており、より高機能な製品化が期待されている。実用化においては、より発光効率が高く、長寿命であり、かつ、製造コストが低く抑えられることが求められており、研究開発が進められている。
【0003】
有機エレクトロルミネッセンス素子は、電圧をかけると発光する有機発光材料を利用した素子である。詳しくは、発光層を含む有機層を陰極及び陽極で挟み、電圧をかけることにより、電子と正孔が発光層で再結合する。このときに生成される励起子(エキシトン)が、失活し、基底状態に戻る際に放出する光(電磁波)を利用したものが、有機エレクトロルミネッセンス素子である。
【0004】
前記有機層は薄膜であり、薄膜の製造方法は、蒸着法と湿式法(「塗布法」ともいう。)に大きく分けられる。蒸着法は、主に低分子化合物を材料とする製造方法である。蒸着法では、材料混合数に制限があるため、層ごとに材料を変えて機能分離しながら積層しなければならず、高性能ではあるものの、工程の多さ及び蒸着時間の長さが問題であった。また、色分けにはシャドウマスクを用いており、マスク等にも材料が付着してしまうため、材料利用効率の低さには改善の余地があった。さらに、精度の観点から、マスクの大型化は困難であり、大型製品の製造は困難を極めている。
【0005】
一方、湿式法は、簡便な装置で、かつ大型製品の製造が可能であるという観点から、研究開発が行われている。特に、溶媒への良好な溶解性を示す高分子材料をインクとして用いることで、印刷技術を湿式法に応用することが可能である。
【0006】
例えば、非特許文献1では、絶縁バンク内にポリマー発光材料をインクジェット印刷法により射出し、マルチカラーピクセルを実現した有機EL表示装置の例が開示されている。しかしながら、有機EL表示装置(ディスプレイ)の製造に代表される表示装置の上記製法は、バンクの事前形成や高度なアライメント技術が必要不可欠であり、工程の簡素化及び低コスト化については改善の余地があった。また、近年のオンデマンド化に伴う少量多品種の製造には適していなかった。
【0007】
このような少量多品種の製造に適した手段として、非特許文献2では、インクジェット印刷法により、事前のバンク形成が不要で、直径200μmのドットがパターニングされた例が開示されている。詳しくは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)をインク受容層としてスピンコートした後に、発光画像表示部に該当する箇所には、ホスト化合物及び発光材料を印刷し、非発光画像表示部に該当する箇所にはインク受容層のみとする方法である。発光材料には、通常20%程度の外部量子効率を見込めるリン光発光性化合物、例えばIr(ppy)3を用いているが、実際には、発光画像表示部の外部量子効率は3.1%程度に留まっており、更なる改良が必要とされている。また、インクジェット印刷法は、大気下でも形成可能な方法であるが、成膜雰囲気下の活性ガスの影響を受けるため、素子の性能が低下することが問題であった。
【0008】
また、高分子材料を用いた製造では、層間の材料同士が溶解しやすく、単層ないし少数の層構成しか形成できず、これらの単層ないし少数の層に多くの機能を持たせる必要があり、高度な分子設計が求められる。
【0009】
さらに、従来使用されてきた真空や不活性ガス環境下での製造は、設備を必要とするため、大気下での製造が可能な有機エレクトロルミネッセンス素子の開発が進められている。大気下での製造では、製膜時に取り込まれた酸素や水分と高分子材料が反応することにより、素子としての性能が低下すると考えられており、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】T.Shimoda S.Kanbe, H.Kobayashi,S.Seki,H.Kiguchi,I.Yudasaka,M.Kimura,S .Miyashi ta, R.H.Friend, J.H.Burroughes, C.R.Towns: Multicolor Pixel Patterning of Light-Emitting Polymers by Ink-Jet Printing,SID99 Digest,26.3,p.376(1999)
【文献】Ryuichi Satoh et al ;Self-Aligned Bank Formation of Organic Electroluminescent Devices Using Ink-Jet Printing Method; Jpn. J. Appl. Phys. 43,No.11R, 7725(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、発光効率が高く、長寿命であり、かつ、大気下での製造における性能低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、並びにそれを具備した照明装置、表示装置及び印刷造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討したところ、発光画像表示部内に形成される発光層が、比較的導電性の低いポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有し、発光層内におけるポリマーを、適度に分散し、中央部又は電極側界面付近において適度に局在化させることにより、発光効率が高く、長寿命であり、かつ、大気下での製造における性能低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.少なくとも基板上に、対向する陽極と陰極に挟持された画像表示部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記画像表示部が、発光画像表示部と非発光画像表示部で構成され、
前記発光画像表示部が、少なくとも電極、電荷注入層又は電荷輸送層に隣接する発光層を有し、
前記発光層が、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有し、
前記導電率が1S/m以下のポリマーが、ポリフッ化ビニリデン、ポリアセタール、ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリスルホン、ポリ[2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、アクリロニトリル-スチレン共重合ポリマー、ポリ(9-ビニルカルバゾール)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)、ポリ(1,4-フェニレンスルフィド)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-alt-ベンゾチアジアゾール)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(4,4’-イソプロピリデンジフェニレンテレフタラート)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルスチレン、ポリスチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリエーテルスルホン、ポリ(4-ビニルフェノール)及びエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマーから選ばれる少なくとも一つであり、
前記発光層において、下記式(i)で表されるポリマー比率Pが、下記条件(ii)を満たす
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
(i)P=IP/(IP+IH+IDp)
(ii)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.8以上、2.2未満である。
〔式中、IP、IH及びIDpは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により測定した、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントの二次イオン強度である。
Paは、陽極側界面付近(x=(D-[D/10]))におけるポリマー比率であり、
Pbは、中央部(x=D/2)におけるポリマー比率であり、
Pcは、陰極側界面付近(x=D/10)におけるポリマー比率である。
ただし、xは、発光層内の厚さ方向における位置を示しており、電極面に対して垂直方向をx軸とし、発光層の層厚をDとするとき、陰極側界面はx=0、陽極側界面はx=Dで表される。〕
【0014】
2.前記ポリマー比率Pが、下記条件(iii)を満たす
ことを特徴とする第1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(iii)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.95以上、2.0未満である
【0015】
3.前記ポリマー比率Pが、下記条件(iv)を満たす
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(iv)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、1.1以上、1.8未満である
【0016】
4.前記ポリマー比率Pが、条件(v)を満たす
ことを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(v)Pa≦Pc
【0017】
5.前記ポリマー比率Pが、条件(vi)を満たす
ことを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
(vi)Pa<Pc
【0018】
6.前記発光層において、当該発光層の総質量を100とした場合のポリマーの質量比率が、5~80質量%の範囲内である
ことを特徴とする第1項から第5項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
7.前記ポリマーが、導電率が1E-8S/m以下のポリマーである
ことを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
8.前記ポリマーが、ベンゼン環を含むポリマーである
ことを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
9.前記ポリマーが、ベンゼン環を側鎖として含むポリマーである
ことを特徴とする第1項から第8項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0024】
10.前記ポリマーが、ポリ(4-ビニルフェノール)である
ことを特徴とする第1項から第9項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
11.前記発光層が、少なくとも電極又は電荷注入層と直接隣接する
ことを特徴とする第1項から第10項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0027】
12.前記発光層が、電極と直接隣接する
ことを特徴とする第1項から第11項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0028】
13.第1項から第12項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を製造する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法であって、
前記発光層を、インクジェット印刷法によって形成する工程を有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0029】
14.前記発光層を、大気下で、インクジェット印刷法によって形成する工程を有する
ことを特徴とする第13項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法。
【0030】
15.第1項から第12項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する
ことを特徴とする照明装置。
【0031】
16.第1項から第12項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する
ことを特徴とする表示装置。
【0032】
17.第1項から第12項までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を具備する
ことを特徴とする印刷造形物。
【発明の効果】
【0033】
本発明の上記手段により、発光効率が高く、長寿命であり、かつ、大気下での製造における性能低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、並びにそれを具備した照明装置、表示装置及び印刷造形物を提供することができる。
【0034】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0035】
本発明では、発光画像表示部内に形成される発光層が、ポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有し、発光層内において、比較的導電性の低い前記ポリマーの含有状態を中央部又は電極側界面付近において適度に局在化させることにより前記課題を解決することができたと推察される。
以下の説明は、発光層内におけるポリマー分布比率を制御して得られた効果の発現機構を考察したものであり、必ずしも明確にはなっていない。従って、本発明の効果の発現機構は、下記推察機構に限定されるものではない。
【0036】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極と陰極に挟持された画像表示部を有し、画像表示部は、発光画像表示部と非発光画像表示部で構成される。発光画像表示部は発光層を有しており、発光層以外に電子及び正孔、すなわち電荷キャリアの注入層及び輸送層を有していてもよい。単層ないし少数の層で構成されることが好ましい場合には、電荷キャリアの注入性及び輸送性を有する化合物を発光層内に含有させ、層の数を少なくすることができる。
【0037】
非特許文献2では、ポリメチルメタクリレート(PMMA)を塗布した後に、発光画像表示部に該当する箇所には、ホスト化合物及び発光材料を溶解させたクロロホルム溶液を印刷する例が開示されている。この例における発光層は、ホスト化合物、発光材料及びPMMAがまじりあって形成されており、多層構成と比較して、キャリアバランス性やブロック能が乏しく、有機EL素子としての発光効率や駆動寿命については、更なる改良が求められていた。
【0038】
そこで、検討を進めたところ、発光層内において、比較的導電性の低いポリマーを適度に分散させ、中央部又は電極側界面付近において適度に局在化するようにすることにより、単層構成でありながら、多層構成のようなキャリアバランス性やブロック性を発現でき、発光効率が高く、長寿命であり、かつ、大気下での製造における性能低下が抑制された有機エレクトロルミネッセンス素子が得られることを見出した。
【0039】
この機能発現のメカニズムの詳細は、未だ明らかではないが、次のような可能性を推測している。
【0040】
発光効率を高めるためには、高確率で発光させ、消光に寄与する因子を取り除くことが求められる。高確率で発光させるためには、発光層内において、電子及び正孔の再結合をより起こりやすくさせる必要があり、電荷キャリアが自由に移動できることが好ましい。一方、電子及び正孔が再結合できずに留まり蓄積電荷となると、電荷を帯び、不安定で活性化された化学種が他の化学種と反応し変化する機会が増加し、消光に寄与する因子を発生させる可能性があるため、電荷キャリアバランスが保たれ、蓄積電荷を抑制することが好ましい。
【0041】
また、素子を一定電流で駆動すると輝度が徐々に低下していく。これを寿命と呼んでいる。寿命をより長期化させるためには、ディスプレイ等の駆動方式等による対策と併せて、発光材料そのものの輝度の低下を抑制することが求められる。輝度の低下については、さまざまな原因が考えられるが、発光材料がディスプレイ等の駆動によって生成された化学種と反応し変化することが考えられる。特に、一定電流で駆動し、電子及び正孔が再結合できずに留まり蓄積電荷となると、電荷を帯び、不安定で活性化された化学種(例えばイオンやラジカル)が発光材料と反応する機会が増加する。そのため、寿命の観点からも、電荷キャリアバランスが保たれていることが好ましい。
【0042】
発光層内において、ホスト化合物は、電子や正孔すなわち電荷キャリアの輸送及び電荷キャリアの移動の道筋を担っており、また、発光性ドーパントの分散状態を維持する媒体(マトリックス)の役割を果たしている。
【0043】
一方、発光層内に、比較的導電性の低いポリマーを含有させた場合、当該ポリマーはブロック能が発現し、発光層と隣接層間、又は、発光層と電極間において、ホスト化合物や発光性ドーパントへの電荷キャリアや化合物等の化学種の移動が制限される。そのため、電荷キャリアバランスが保たれやすく、消光に寄与する因子の発生を抑制しやすい。また、ポリマーが、発光層中央部と比較して電極側界面に集中することで、よりブロック能が働くため、顕著な効果が得られる。
【0044】
また、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる材料は、酸素や水と反応してしまうと、本来有する機能を示さなくなる場合があるため、酸素や水の存在下での製造は難しい。しかし、本発明に係る電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントは、ポリマーの隙間に入り込むため、大気下での成膜において、大気中の酸素や水と比較的接触しづらく、反応を抑制することができる。
【0045】
本発明の効果は、発光層がインクジェットなどの液滴吐出法により成膜される場合に発揮されやすい。液滴吐出法により成膜される場合のほうが、蒸着やスピンコートなどで成膜する場合よりも成膜雰囲気の活性ガス影響が顕著であり、発光効率の低下や短寿命化の影響をより受けやすいが、このような場合でも、性能低下を生じることなく発光する。従って、不活性ガスや真空設備の製造コストも下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】画像表示部が発光画像表示部及び非発光画像表示部からなることを示す概念図
【
図4】本発明の有機EL素子の製造方法に適用可能なシングルパス方式(ラインヘッド方式)のインクジェット記録装置の一例を示す模式図
【
図5】実施例において作製した有機EL素子の断面図
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも基板上に、対向する陽極と陰極に挟持された画像表示部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記画像表示部が、発光画像表示部と非発光画像表示部で構成され、 前記発光画像表示部が、少なくとも電極、電荷注入層又は電荷輸送層に隣接する発光層を有し、前記発光層が、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有し、前記導電率が1S/m以下のポリマーが、ポリフッ化ビニリデン、ポリアセタール、ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリスルホン、ポリ[2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン]、アクリロニトリル-スチレン共重合ポリマー、ポリ(9-ビニルカルバゾール)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)、ポリ(1,4-フェニレンスルフィド)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-alt-ベンゾチアジアゾール)、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド)、ポリ(4,4’-イソプロピリデンジフェニレンテレフタラート)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルスチレン、ポリスチレン-メタクリル酸メチル共重合体、ポリ(2-ビニルピリジン)、ポリエーテルスルホン、ポリ(4-ビニルフェノール)及びエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマーから選ばれる少なくとも一つであり、前記発光層において、前記式(i)で表されるポリマー比率Pが、前記条件(ii)を満たすことを特徴とする。
この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0048】
本発明の実施形態としては、ポリマーによるブロック能がより有効に機能する観点から、ポリマー比率Pにおいて、少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.8以上、2.2未満である、ことが好ましく、0.95以上、2.0未満である、ことがより好ましく、1.1以上、1.8未満である、ことが更に好ましい。
【0049】
ポリマー比率Pにおいて、PaとPcの大小、又は、同一関係は、特に限定されないが、電子及び正孔の移動速度及びそれらの数量の制御、すなわち電荷キャリアのバランスの調整の観点から、Pa≦Pcであることが好ましく、Pa<Pcであることがより好ましい。
【0050】
ポリマーによるブロック能がより有効に機能する観点から、発光層の総質量を100とした場合のポリマーの質量比率が、5~80質量%の範囲内であるであることが好ましい。
【0051】
ポリマーによるブロック能がより有効に機能する観点から、ポリマーが、導電率が1E-8S/m以下のポリマーであることが好ましい。
【0052】
発光層材料を相互作用により相溶させる観点から、ポリマーが、ベンゼン環を含むポリマーであることが好ましい。また、当該ポリマーが、ベンゼン環を側鎖として含むポリマーであることが好ましい。
【0053】
また、発光層の密度向上の観点から、ポリマーが、ポリスチレン及びポリスチレン誘導体であることが好ましい。さらに、ポリスチレン誘導体が、ポリビニルフェノールであることが好ましい。
【0054】
発光層界面におけるポリマー比率を制御でき、電荷キャリアバランスを調整できる観点から、ポリマーが、立体規則性の異なる成分の混合物であることが好ましい。
【0055】
単層ないし少数の層により構成できる観点から、発光層が、少なくとも電極又は電荷注入層と直接隣接することが好ましく、発光層が、電極と直接隣接することがより好ましい。
【0056】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法は、前記発光層を、インクジェット印刷法によって形成する工程を有することを特徴とする。また、前記発光層を、大気下で、インクジェット印刷法によって形成する工程を有することが、より好ましい。
【0057】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、照明装置、表示装置及び印刷造形物に好適に使用できる。
【0058】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0059】
1 ≪本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子の概要≫
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも基板上に、対向する陽極と陰極に挟持された画像表示部を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記画像表示部が、発光画像表示部と非発光画像表示部で構成され、前記発光画像表示部が、少なくとも電極、電荷注入層又は電荷輸送層に隣接する発光層を有し、前記発光層が、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有し、前記発光層において、下記式(i)で表されるポリマー比率Pが、下記条件(ii)を満たすことを特徴とする。
【0060】
(i)P=IP/(IP+IH+IDp)
(ii)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.8以上、2.2未満である。
〔式中、IP、IH及びIDpは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により測定した、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントの二次イオン強度である。
Paは、陽極側界面付近(x=(D-[D/10]))におけるポリマー比率であり、
Pbは、中央部(x=D/2)におけるポリマー比率であり、
Pcは、陰極側界面付近(x=D/10)におけるポリマー比率である。
ただし、xは、発光層内の厚さ方向における位置を示しており、電極面に対して垂直方向をx軸とし、発光層の層厚をDとするとき、陰極側界面はx=0、陽極側界面はx=Dで表される。〕
【0061】
本発明でいう上記「発光層の電極側界面」とは、発光層に対して電極側にある、陽極又は陰極を含めたすべての機能層に接する発光層の界面をいう。例えば、発光層の陽極側に隣接して「正孔輸送層」がある場合は、「発光層の正孔輸送側の界面」を指す。
【0062】
また、「発光層の電極側界面付近」とは、「陽極側界面付近」については、陽極と発光層の界面(x=D)の位置から発光層の厚さ方向すなわち陰極方向に距離D/10だけ離れた位置(x=(D-[D/10])をいう。
一方、「陰極側界面付近」については、陰極と発光層の界面(x=0)の位置から発光層の厚さ方向すなわち陽極極方向に距離D/10だけ離れた位置(x=D/10)をいう。
【0063】
本発明の有機EL素子は、種々の形態/構成を採り得るが、例えば光を取り出す方法・形式としては、基板側から光を取り出すボトムエミッション型であることが好ましい。ボトムエミッション型では、基板側から見たときに、画像が表示される仕組みとなっており、画像が表示される箇所(平面的及び立体的構造を含む。)を「画像表示部」という。
【0064】
図1は、視認側から見た画像表示部40の概念図(平面図)である。
図1において、黒いドットで示されている箇所が「発光画像表示部」41であり、その他の白い箇所が「非発光画像表示部」42である。例えば青色(B)発光する発光画素21、緑色(G)発光画素22及び赤色(R)発光画素23が、ドット状に配置されることにより、複数のドットからなる線や種々の図形を描くことができる。
【0065】
つまり「発光画像表示部」とは、例えば発光画素をドット状の形状にした場合、前記
図1に示す個々のドット自体及びその集合体をいう。なお、当該「発光画素」は、発光することによって、色情報 (色調や階調) を発現する最小要素である。また、「発光画素」は、「発光ドット」、「ドット発光画像」又は簡単に「ドット」ともいう。
本発明に係る「発光画像表示部」は、有機EL素子の断面図について見ると、発光画像表示部の発光性の発現に寄与する発光層等の要素も含む。具体的には、
図2における41で示される箇所全体を指す。
【0066】
「非発光画像表示部」は、画像表示部において、発光画像表示部以外の、発光に直接的には寄与しない箇所を指す。本発明においては、前記非発光画像表示部は、発光現象に直接的には寄与しない絶縁性層等の要素を含む。具体的には、
図2における42で示される箇所全体を指す。
【0067】
よって、厳密には、電圧をかけると発光するのは、発光画像表示部のみであり、狭義での有機EL素子としての機能を果たしているのは、発光画像表示部のみである。したがって、「有機EL素子」とは、
図2において、狭義には、ドット状の各有機EL素子41を指し、一方、広義には、発光画像表示部及び非発光画像表示部全体を含む10を指す。
【0068】
(1.1) ≪有機EL素子の構成≫
本発明の有機EL素子は、基板上に、対向する陽極と陰極に挟持された画像表示部を有しており、画像表示部は、発光層を有する発光画像表示部と、非発光画像表示部とで構成される。発光画像表示部は、発光層の他に、電荷注入層及び電荷輸送層を有していてもよいが、高分子材料を用いた製造では、層間の材料同士が溶解しやすいため、単層ないし少数の層構成とすることが好ましく、電荷注入層及び電荷輸送層を有していなくてもよい。電荷注入層とは、正孔注入層及び電子注入層を指し、電荷輸送層とは、正孔輸送層及び電子輸送層を指す。また、前述を考慮すると、本発明の有機EL素子は、非発光画像表示部も含む広義の有機EL素子を指す。
【0069】
図1は、本発明に係る発光画像表示部に発光画素を構成する狭義の有機EL素子がドット状に配置されていることを表す概念図である。
図2は、本発明に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。
本発明の有機EL素子10の表面に対して、基板1側から垂直方向に見たとき、青色(B)発光する発光画素21、緑色(G)発光画素22及び赤色(R)発光画素23が、ドット状に配置され、複数のドットからなる線や種々の図形を描くことができるように配置されていることが画像表示の観点から好ましい。また、当該ドットは、画像表示装置における画像を通常の目視による観察法で見た場合において、ドットとして視認できないような微小な画素として形成・配置されていることも好ましい。
【0070】
本発明に係る発光層をドット状に形成する際には、パターニング可能であることが望ましい。パターニング開口部のあるマスクを用いた印刷法であっても良いが、非発光層への損傷(ダメージ)が少ないという観点から非接触で形成する方法が望ましい。また、高解像度可能という点から、ディスペンサー法又はインクジェット印刷法がより好ましい。発光性ドーパントを含む溶液の体積は10μL以下、好ましくは100pL以下である。
【0071】
なお、ドットの大きさは、発光層の主たる発光面側から撮影した光学顕微鏡写真(平面図)に基づいて計測した場合、円換算粒径として、30~300μmの範囲内であることが好ましい。
【0072】
図1において、ドットを除く箇所が非発光画像表示部である。非発光画像表示部は、発光層さえ有していなければ、発光に寄与しない、すなわち非発光性であるため、発光画像表示部において、発光層の代わりに絶縁性層とし、その他の層構成は同一としてもよい。
【0073】
本来、非発光画像表示部は、発光性の発現に寄与する要素を有する必要はないが、発光層以外の層を発光画像表示部と同一層とすることで、一様の塗布等により形成でき、製造しやすい。また、発光層の代わりに絶縁性層とすることにより、電子や正孔すなわち電荷キャリアが入り込むのを防ぐことができる。
【0074】
本発明の有機EL素子の構成について、
図2を参照して説明する。
図2は、本発明に係る有機EL素子の一例を示す概略断面図である。有機EL素子10は、基板11、陽極12、正孔注入層13、正孔輸送層14、発光層15、電子輸送層16、電子注入層17及び陰極18をこの順に備えている。また、正孔阻止層(正孔障壁層)及び電子阻止層(電子障壁層)を備えていてもよい。なお、正孔注入層から電子注入層までを「有機機能層」ともいう。
【0075】
有機EL素子の素子構成としては、
図2に示す構成例に限られるものではなく、例えば、代表的な素子構成の層構成として以下の構成を挙げることができる。
【0076】
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(5)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
(8)陽極/発光層/電子注入層/陰極
(9)陽極/正孔注入層/発光層/陰極
上記の中で(1)、(2)及び(9)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではなく、上記構成に対して一部の機能層を省いても、又は加えてもよい。
【0077】
本発明では、発光層が、電荷注入層に直接隣接する又は電極に直接隣接する構成であることが、電荷キャリアの移動度の制御の点で好ましい。なお、「直接隣接する」とは、発光層と電荷注入層又は電極の間に何らの機能層も存在せず、直接的に接して存在することをいう。
【0078】
これらの各層は、本発明の規定を満たす限り、公知の材料及び方法で形成することができる。各層について、以下で説明する。
【0079】
(1.1.1)発光画像表示部の構成要素
[発光層]
発光層は、電極又は隣接層から注入される電子と正孔とが再結合し、励起子を経由して発光する場を提供する層である。当該発光層は、単層又は複数層で構成される。
すなわち、有機エレクトロルミネッセンス素子は、電圧をかけると発光する有機発光材料を利用した素子である。電圧をかけることにより、電子と正孔が発光層で再結合し、このときに生成される励起子(エキシトン)が、失活し、基底状態に戻る際に放出する光(電磁波)を利用したものである。
【0080】
本発明に係る発光層は、少なくとも電極、電荷注入層又は電荷輸送層に隣接し、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物(以下、「ホスト化合物」ともいう。)及び発光性ドーパントを含有することを特徴とする。発光層は、単層であっても複数層であってもよい。
【0081】
また、本発明に係る発光層において、下記式(i)で表されるポリマー比率Pが、下記条件(ii)を満たすことを特徴とする。
(i)P=IP/(IP+IH+IDp)
(ii)少なくともPa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が、0.8以上、2.2未満である。
〔式中、IP、IH及びIDpは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により測定した、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントの二次イオン強度である。
Paは、陽極側界面付近(x=(D-[D/10]))におけるポリマー比率であり、
Pbは、中央部(x=D/2)におけるポリマー比率であり、
Pcは、陰極側界面付近(x=D/10)におけるポリマー比率である。
ただし、xは、発光層内の厚さ方向における位置を示しており、電極面に対して垂直方向をx軸とし、発光層の層厚をDとするとき、陰極側界面はx=0、陽極側界面はx=Dで表される。〕
【0082】
一般的に、発光層内において、ホスト化合物は、電子や正孔すなわち電荷キャリアの輸送及び電荷キャリアの移動の道筋を担っており、また、発光性ドーパントの分散状態を維持する媒体(マトリックス)及び濃度消光を防止する役割を果たしている。
【0083】
しかし、有機EL表示装置の駆動によって生成された化学種(イオンやラジカル等)と発光性ドーパントやホスト化合物等の発光材料が反応し劣化する現象が生じる。すなわち、一定電流で駆動し、電子及び正孔が再結合できずに留まり蓄積電荷となると、電荷を帯び、不安定で活性化された化学種(イオンやラジカル)が発光材料と反応する機会が増加する。そのため、寿命の観点からも、電荷キャリアバランスが保たれていることが好ましい。
【0084】
そこで、発光層内に、比較的導電性の低いポリマーを含有させた場合、当該ポリマーはブロック能を発現し、発光層と隣接層間、又は、発光層と電極間において、ホスト化合物や発光性ドーパントへの電荷キャリアや活性なイオン又はラジカル等の化学種の移動が制限される。そのため、電荷キャリアバランスが保たれやすく、消光に寄与する因子の発生を抑制しやすい。また、ポリマーを、発光層中央部と比較して電極側界面に適度に局在化させることで、よりブロック能が働くため、顕著な効果が得られる。
【0085】
また、発光層を大気下で製造すると、ホスト化合物及び発光性ドーパントは、酸素や水との反応性が高いため、反応してしまい、本来有している機能を失いやすい。しかし、発光層内にポリマーを分散させることにより、大気下での製膜乾燥時において、発光層の表面にホスト化合物及び発光性ドーパントが露出しづらくなるため、反応を抑制することができる。
【0086】
本発明に係る発光層の厚さは、特に限定されないが、再結合領域と電子輸送層との距離の観点から、50nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましい。また、駆動電圧の観点から、150nm以下であることが好ましい。
【0087】
本発明に係る発光層の形成方法は、特に限定されないが、ポリマーを含むことから、湿式法等が好ましい。湿式法により形成する場合、ホスト化合物及び発光性ドーパントが低分子化合物であることが、ポリマーの高分子鎖間に入り込み分散し発光効率が高くなるという観点から好ましい。
【0088】
湿式法としては、例えば、スピンコート法、キャスト法、インクジェット印刷法、印刷法、ダイコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディスペンサー法、スプレーコート法、カーテンコート法、LB法(ラングミュア-ブロジェット法)等を用いることができる。中でも、均質な薄膜が得られやすく、かつ高生産性の点から、ダイコート法、ロールコート法、ディスペンサー法、及びインクジェット印刷法等のロールtoロール方式に適用可能な方法が好ましい。インクジェット印刷法については後述する。
【0089】
本発明に係る導電率が1S/m以下のポリマーの重量平均分子量は、結晶化や低分子成分の拡散影響を抑える観点で分子量1000以上が好ましく、重合不純物の残留の観点から分子量300万以下のものが好ましい。重量平均分子量は、後述のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0090】
本発明に係るホスト化合物及び発光性ドーパントの分子量は限定されず、高分子でも低分子でも良い。湿式法では、これらの発光層材料を溶媒中に溶解させる必要があるため、分子量3000以下の化合物であることが好ましく、分子の安定性と溶解性の両立の観点から分子量500以上、2000以下であることがより好ましい。
【0091】
発光層材料を溶解又は分散する液媒体としては、例えば、イソプロパノール、テトラフルオロプロパノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル等の脂肪酸エステル類、クロロホルム、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒を用いることができる。これらを2種以上混合した溶媒も適用できる。
【0092】
また、発光層材料を液媒体中に分散させる場合には、例えば、超音波分散、スクリュー、マイクロ流路、ノズル圧力等を用いた高剪断力分散、撹拌子やビーズミルを用いたメディア分散等の分散方法により分散させることができる。
【0093】
発光層の形成条件としては、大気下及び不活性ガス下どちらでも可能であるが、本発明の有機EL素子においては、通常見受けられる大気下製造時での性能低下が抑制されるため、発光層の形成においても、大気下であることが好ましい。なぜなら、本発明の手段によれば、大気下製造でも、性能低下が抑制されるだけでなく、設備の面でコストを低減できるからである。さらに、大気下では、発光層表面の吸着活性ガスの吸着が飽和し、大気劣化度が一様にそろうため色度のばらつきや発光ムラが抑えられる利点もある。
【0094】
また、ホスト化合物及び発光性ドーパントの分子構造は、特に限定されるものではないが、ジベンゾフラン環、ジベンゾチオフェン環又はカルバゾール環を有し、かつアルキル基、アルケニル基、アルキニル基又はアリールアルキル基を有しない化合物を含有することが再結合確率向上の観点から好ましい。
【0095】
〈ポリマー〉
本発明に係るポリマーは、導電率が1S/m以下であることを特徴とする。
なお、「導電率(「電気伝導率」又は「電気伝導度」ともいう。)」とは、どの程度電気を通しやすいかを表す指標となる値をいい、電気抵抗率の逆数をSI系単位であるS/m(ジーメンス毎メートル)で表すことにする。
【0096】
電気抵抗率は、ニ重リング電極を用いた定電圧印加・漏洩電流測定法によりJIS-K-6911に準拠した条件で得られた値を用いる。
【0097】
導電率が1S/m以下であることにより、注入される電子及び正孔すなわち電荷キャリアの移動を制御しやすい。導電率が1E-8S/m以下であることがより好ましい。
一方、導電率が1S/mを超えると、ホスト化合物やドーパントに電荷が移動するよりもポリマーを伝うほうが律速となり、再結合確率が低下する。
【0098】
ポリマーとしては、導電率が1S/m以下であれば、制限されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等のポリアルキレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルエーテル、ポリエチレンエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール等のベンゼン環含有ポリマー、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の硬化樹脂、及びこれらの樹脂の誘導体等を用いることができる。
【0099】
(芳香環含有ポリマー)
本発明に用いられるポリマーとしては下記一般式(I)及び一般式(II)で表される構造を有する芳香環含有ポリマーであることが好ましい。特に、ベンゼン環を含むポリマーであることが好ましい。また、前記ベンゼン環を含むポリマーの、導電率が1S/m以下であることが好ましい。更に当該ポリマーが、ベンゼン環を側鎖として含むポリマー、例えばポリスチレンやポリスチレン誘導体であることも好ましい。
以下において、下記一般式(I)及び一般式(II)で表される構造を有する芳香環含有ポリマーについて詳細な説明をする。
【0100】
【0101】
【0102】
〔上記一般式(I)及び一般式(II)において、Aは、芳香環を表し、当該芳香環には芳香族炭化水素環及び芳香族複素環が含まれる。x及びyは、0以上の整数を表すが、どちらか一方が0のとき、もう一方は1以上である。nは1以上の整数を表す。nは、重合度を表し、10~100000の範囲内である。〕
【0103】
上記一般式(I)及び(II)において、Aで表される芳香族炭化水素環及び芳香族複素環は、それぞれ単環であっても縮合環であっても良い。導電率が1S/m以下である観点から、芳香族炭化水素環であることが好ましい。置換基を除いた芳香環を構成する原子数は、溶解性の観点から20以下が好ましく、12以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。
【0104】
芳香族炭化水素環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、アントラセン環、フェンスレン環、テトラセン環、ペンタセン環、クリセン環、ピレン環、ペリレン環、コロネン環、フルオランテン環、ジベンゾアントラセン環、ベンゾピレン環等のアセン系構造が挙げられ、好ましくはベンゼン環、ナフタレン環である。
芳香族複素環としては、例えばピリジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、アクリジン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェ環ン、インドール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イゾオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、トリアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、ジオキサゾール環、ジチアゾール環、テトラゾール環、ペンタゾール環等が挙げられる。
発光層材料を相互作用により相溶させる観点から、Aで表される芳香環がベンゼン環であることが好ましく、更に置換基を有していてもよい。具体的には、下記一般式(III)で表されるベンゼン環を含む構造を有する環が挙げられる。
【0105】
【0106】
〔R1~R5は、水素又は置換基を表し、それぞれ独立して水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシル基、スルホ基、アルコキシカルボニル基、ハロホルミル基、ホルミル基、アシル基、アルコキシ基、メルカプト基、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アミノ基、カルバモイル基、シリル基、ホスフィンオキシド基、イミド基、芳香族イミド環基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、又は非芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。
X及びYは、水素、又は、一般式(I)及び(II)中の繰り返し単位L若しくはAとの結合部を表す。〕
【0107】
前記一般式(I)及び(II)において、Lは、それぞれ、2価の連結基を表し、アルキレン基、アルケニレン基、カルボニル基、エーテル基、イミノ基、イミド基、アミド基、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、スルホニル基、スルフィド基、チオエステル基、シリル基、ホスフィンオキシド基、又は二価の芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。
【0108】
前記一般式(I)及び(II)において、Lで表されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ブタン-1,2-ジイル基、ヘキシレン基等が挙げられる。
また、Lで表されるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、ブテニレン基、ペンテニレン基、1-メチルビニレン基、1-メチルプロペニレン基、2-メチルプロペニレン基、1-メチルペンテニレン基、3-メチルペンテニレン基、1-エチルビニレン基、1-エチルプロペニレン基、1-エチルブテニレン基、3-エチルブテニレン基等が挙げられる。
【0109】
また、Lで表されるアミド基としては、例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2-エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等が挙げられる。
また、Lで表される二価の芳香族複素環基としては、例えば、上記一般式においてR1~R5で表される芳香族複素環基として挙げられたものから導出される二価の基が挙げられる。
【0110】
上記一般式(I)~(III)において、R1~R5で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、(t)ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ベンジル基等を挙げることができる。
【0111】
また、R1~R5で表されるアルケニル基としては、例えば、上記アルキル基に1個以上の二重結合を有するものが挙げられ、より具体的には、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等が挙げられる。
【0112】
また、R1~R5で表されるアルキニル基としては、例えば、エチニル基、アセチレニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基(プロパルギル基)、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、2-ヘキシニル基、3-ヘキシニル基、1-ヘプチニル基、2-ヘプチニル基、5-ヘプチニル基、1-オクチニル基、3-オクチニル基、5-オクチニル基等が挙げられる。
【0113】
また、R1~R5で表される芳香族炭化水素環基(アリール基ともいう。)としては、例えば、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等が挙げられる。
【0114】
また、R1~R4で表される芳香族複素環基としては、例えば、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4-トリアゾール-1-イル基、1,2,3-トリアゾール-1-イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す。)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等が挙げられる。
【0115】
また、R1~R5で表される非芳香族炭化水素環基としては、例えば、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、テトラヒドロナフタレン環、9,10-ジヒドロアントラセン環、ビフェニレン環等から導出される1価の基等が挙げられる。
【0116】
また、R1~R5で表される非芳香族炭化水素環基としては、例えば、エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε-カプロラクトン環、ε-カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3-ジオキサン環、1,4-ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン-1,1-ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]-オクタン環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、オキサントレン環、チオキサンテン環、フェノキサチイン環等から導出される一価の基等が挙げられる。
上記一般式において、R1~R5で表されるアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、オクタデシルオキシ基等が挙げられる。
【0117】
また、R1~R5で表されるアシル基としては、例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2-エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニ
ルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等が挙げられる。
また、R1~R5で表されるアミノ基としては、例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2-ピリジルアミノ基等が挙げられる。
【0118】
また、R1~R5で表されるシリル基としては、例えば、トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等が挙げられる。
【0119】
また、R1~R5で表されるホスフィンオキシド基としては、例えば、ジフェニルホスフィンオキシド基、ジトリルホスフィンオキシド基、ジメチルホスフィンオキシド基、ジナフチルホスフィンオキシド基、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド基等を挙げることができる。
【0120】
R1~R5で表される基が更に有していても良い置換基としては、例えば、各々独立に、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、(t)ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ベンジル基等)、シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(例えば、ビニル基、アリル基等)、アルキニル基(例えば、プロパルギル基等)、芳香族炭化水素基(アリール基ともいい、例えば、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等)、複素環基(例えば、エポキシ環、アジリジン環、チイラン環、オキセタン環、アゼチジン環、チエタン環、テトラヒドロフラン環、ジオキソラン環、ピロリジン環、ピラゾリジン環、イミダゾリジン環、オキサゾリジン環、テトラヒドロチオフェン環、スルホラン環、チアゾリジン環、ε-カプロラクトン環、ε-カプロラクタム環、ピペリジン環、ヘキサヒドロピリダジン環、ヘキサヒドロピリミジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロピラン環、1,3-ジオキサン環、1,4-ジオキサン環、トリオキサン環、テトラヒドロチオピラン環、チオモルホリン環、チオモルホリン1,1-ジオキシド環、ピラノース環、ジアザビシクロ[2,2,2]-オクタン環等)、芳香族複素環基(ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4-トリアゾール-1-イル基、1,2,3-トリアゾール-1-イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す。)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、フッ素原子等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等)、シクロアルコキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等)、シクロアルキルチオ基(例えば、シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等)、アルコキシカルボニル基(例えば、メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等)、スルファモイル基(例えば、アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2-ピリジルアミノスルホニル基等)、ウレイド基(例えば、メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2-ピリジルアミノウレイド基等)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2-エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等)、アミド基(例えば、メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、ジメチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2-エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等)、カルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2-エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2-ピリジルアミノカルボニル基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2-エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2-ピリジルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基又はアリールスルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2-エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2-ピリジルスルホニル基等)、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ジアリールアミノ基(例えば、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、フェニルナフチルアミノ基等)、ナフチルアミノ基、2-ピリジルアミノ基等)、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アルキルシリル基又はアリールシリル基(例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、(t)ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、(t)ブチルジフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、トリナフチルシリル基、2-ピリジルシリル基等)、アルキルホスフィノ基又はアリールホスフィノ基(ジメチルホスフィノ基、ジエチルホスフィノ基、ジシクロヘキシルホスフィノ基、メチルフェニルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、ジナフチルホスフィノ基、ジ(2-ピリジル)ホスフィノ基)、アルキルホスホリル基又はアリールホスホリル基(ジメチルホスホリル基、ジエチルホスホリル基、ジシクロヘキシルホスホリル基、メチルフェニルホスホリル基、ジフェニルホスホリル基、ジナフチルホスホリル基、ジ(2-ピリジル)ホスホリル基)、アルキルチオホスホリル基又はアリールチオホスホリル基(ジメチルチオホスホリル基、ジエチルチオホスホリル基、ジシクロヘキシルチオホスホリル基、メチルフェニルチオホスホリル基、ジフェニルチオホスホリル基、ジナフチルチオホスホリル基、ジ(2-ピリジル)チオホスホリル基)から選ばれるいずれかの基を表す。なお、これらの置換基は更に上記の置換基によって置換されていても良いし、また、それらが互いに縮合して更に環を形成していても良い。
【0121】
一般式(I)及び(II)において、重合度nは、10~100000の範囲内であることが好ましく、共重合比は、x:y=1:99~99:1の範囲内であることが好ましい。これらの繰り返し構造は、例えば、A-L-A-L、の繰り返しのように逐次的に重合されたものであっても良いし、A-A-L-L、A-L-L-A、のようなブロック重合されたものであっても良い。また、x及びyの、両方又はいずれか一方が、2以上の場合、2以上のA、L及びR1~R5は互いに同じであっても異なっていても良い。
【0122】
以下、本発明に係るポリマーの具体例を示すが、これらに限られるものではない。n、x及びyは上記と同義の整数を表す。
【0123】
下記実施例において、下記構造式(1)~(3)で表されるポリマーを用いた素子は、比較例として記載されているが、これは、ポリマー比率が本発明における数値規定を満たしていないためであり、数値規定を満たしている場合には、本発明に使用することができる。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
なお、上記ポリマーの構造式において、重合度nは、10~100000の範囲内であることが好ましい。また、上記構造式(15)及び(25)において、共重合比は、x:y=1:99~99:1の範囲内であることが好ましい。
重量平均分子量は、結晶化や低分子成分の拡散影響を抑える観点で分子量1000以上が好ましく、重合不純物の残留の観点から分子量300万以下のものが好ましい。より好ましくは、5万以上100万以下である。
【0128】
ここでいう重量平均分子量とは、溶媒としてジメチルホルムアミドを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレンで換算した重量平均分子量をさす。ジメチルホルムアミドで測定できない場合については、テトラヒドロフランを用い、さらに測定できない場合は、ヘキサフルオロイソプロパノールを用い、ヘキサフルオロイソプロパノールでも測定できない場合は、2-クロロナフタレンを用いて測定を行う。
【0129】
発光層材料を相互作用により相溶させる観点から、ポリマーとしては、ベンゼン環を含むポリマーであることが好ましく、例えば、前述のポリマーのうち、構造式(6)~(10)、(13)~(25)及び(27)~(29)が挙げられる。
【0130】
また、電極や隣接層との電子的相互作用のし易さの観点から、ベンゼン環を側鎖に含むポリマーであることがより好ましく、例えば、前述のポリマーのうち、構造式(15)、(16)、(24)、(25)、(28)及び(29)が挙げられる。
【0131】
さらに、発光層の密度向上の観点から、ポリスチレン及びポリスチレン誘導体からなるポリマーであることが特に好ましく、例えば、前述のポリマーのうち、構造式(28)及び(29)が挙げられる。
【0132】
本発明に係る発光層は、ポリマー、ホスト化合物及び発光性ドーパントを含有しており、それぞれが発光層内に分散していることにより、機能性を有するが、比較的高分子であるポリマーが含まれることにより、比較的低分子であるホスト化合物及び発光性ドーパントがポリマー間の隙間に入り込む必要がある。しかし、多くのホスト化合物及び発光性ドーパントが、ベンゼン環を有する構造であることを利用し、ポリマーにベンゼン環を含ませることで、ベンゼン環同士が相互作用し、ポリマーの絡み合う隙間に、ホスト化合物及び発光性ドーパントが入り込むことができる。
【0133】
また、ポリマーにおいて、ベンゼン環は側鎖に含まれることにより、主鎖の弾性を維持しつつ、上述のようなホスト化合物および発光性ドーパントの分散性を両立することができるため、電極や隣接層と電子的に相互作用しやすくなる。
【0134】
さらに、ポリマーが、ポリスチレン及びポリスチレン誘導体からなるポリマーであることにより、Π共役平面と水素結合の両方の相互作用の効果を活用できるため、発光層の膜密度が向上し、発光クエンチャーや結晶化の要因となる溶媒分子を、製膜乾燥時に排出しやすくなる。
【0135】
ポリマーは、立体規則性の異なる成分の混合物であることが好ましい。立体規則性の異なる成分の混合物であることにより、ポリマーの絡み合う隙間が大きくなるため、ホスト化合物及び発光性ドーパントが更に入り込みやすくなる。混合比率は、上記隙間を得やすい観点から、0.1%以上50%以下が好ましく、1%以上25%以下がより好ましい。
【0136】
本発明に係るポリマー比率Pは、下記式(i)で表される。
(i)P=IP/(IP+IH+IDp)
式中、IP、IH及びIDpは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により測定した、導電率が1S/m以下のポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントの二次イオン強度である。測定条件を以下に示す。
【0137】
1次イオン:ビスマスクラスターのダブルチャージイオン(Bi3++)
1次イオン加速電圧:30kV
質量範囲(m/z):0~1500
測定範囲:100μm×100μm
スキャン数:16scan/cycle
ピクセル数(1辺):256pixel
エッチングイオン:Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)
エッチングイオン加速電圧:5.0kV
【0138】
本発明における、発光層中央部及び電極側界面付近のポリマー比率Pは、以下のように表される。
Pa:陽極側界面付近(x=(D-[D/10]))
Pb:中央部(x=D/2)
Pc:陰極側界面付近(x=D/10)
ただし、xは、発光層内の厚さ方向における位置を示しており、電極面に対して垂直方向をx軸とし、発光層の層厚をDとするとき、陰極側界面はx=0、陽極側界面はx=Dで表される。
【0139】
本発明に係るポリマー比率Pは、少なくとも、ポリマー比率Pa/Pb又はPc/Pbのどちらか一方が0.8以上、2.2未満であることを特徴とする。
【0140】
発光層内におけるポリマーの分布状況は、電極側界面付近におけるポリマー比率(Pa及びPc)を中央部におけるポリマー比率Pbで割った数値(Pa/Pb及びPc/Pb)により、おおよそ判断することができる。つまり、Pa/Pbの値により、発光層内における中央部から陽極側界面にかけての分布状況、Pc/Pbの値により、中央部から陰極側界面にかけての分布状況がおおよそ分かる。
【0141】
例えば、1を下回る場合は、ポリマーは比較的中央部に集中し、1を上回る場合は、ポリマーは比較的電極側界面に局在化している。また、1に近い場合は、ポリマーはおおよそ均一に含有されていると考えられる。
【0142】
ポリマーが発光層内で適度に分散していることにより、ホスト化合物及び発光性ドーパントについても発光層内で分散させることができる。従って、ホスト化合物については、電荷キャリアの輸送性を適度に発揮することができる。また、発光性ドーパントについては、凝集状態に起因する消光を防止することができる。
【0143】
前記式(i)で表されるポリマー比率Pは、用いるポリマーの構造によって制御することができる。
ポリマー分子内にベンゼンのような芳香環を含むことで、発光層塗布時の基材側の界面の電極の結晶格子または隣接層材料の芳香環とポリマーが相互作用しやすくなり、比較的電極側界面に局在化した構造をつくりやすい。
また、ポリマー分子内に極性基が含まれる場合、膜表面の張力を上げて安定な膜構造となるようにポリマー分子が最表面に凝集し、Pa<Pcの局在状態をつくりやすい。
【0144】
また、ポリマー比率Pは、下記実施例で示すように、複数のポリマーを使用し、含有比率を調整することによっても、制御することができる。
【0145】
電極側界面付近におけるポリマー比率については、電荷キャリアバランスが保たれる観点から、Pa≦Pcであることが好ましく、Pa<Pcであることが、より好ましい。
【0146】
ポリマー、ホスト化合物及び発光性ドーパントの総質量を100としたとき、ポリマーの質量比率は5~80質量%であることが、好ましい。上記範囲内であると、ポリマーが、電極側界面にも十分存在するため、発光層と隣接層間、又は、発光層と電極間において、電荷キャリアや化合物等の化学種の移動を制限することができ、電荷キャリアバランスが保たれ、有機EL素子の劣化や消光を引きおこす因子の発生を抑制できる。ポリマーの質量比率は、より好ましくは、10~75質量%であり、更に好ましくは、25~60質量%である。
【0147】
〈電荷輸送性ホスト化合物〉
電荷輸送性ホスト化合物は、発光層において主に電荷の注入及び輸送を担う化合物であり、有機EL素子においてそれ自体の発光は実質的に観測されない化合物であることが好ましい。
【0148】
発光層に用いられるホスト化合物としては、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。例えば、低分子化合物や、繰り返し単位を有する高分子化合物でもよいし、ビニル基やエポキシ基のような反応性基を有する化合物でもよい。
【0149】
公知のホスト化合物としては、正孔輸送能又は電子輸送能を有しつつ、発光の長波長化を防ぎ、更に、有機EL素子を高温駆動時や素子駆動中の発熱に対する安定性の観点から、高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。ホスト化合物としては、Tgが80℃以上であることが好ましく、より好ましくは100℃以上である。
【0150】
ここで、ガラス転移点(Tg)とは、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS-K-7121に準拠した方法により求められる値である。
【0151】
ホスト化合物は、駆動安定性の観点から、カチオンラジカル状態、アニオンラジカル状態、及び励起状態の全ての活性種の状態において安定に存在でき、分解や付加反応などの化学変化を起こさないこと、さらに、層中において通電経時でホスト分子がオングストロームレベルで移動しないことが好ましい。
【0152】
本発明に用いることができるホスト化合物としては、特に制限はなく、従来有機EL素子で用いられる化合物を用いることができる。代表的にはカルバゾール誘導体、トリアリールアミン誘導体、芳香族誘導体、含窒素複素環化合物、チオフェン誘導体、フラン誘導体、オリゴアリーレン化合物等の基本骨格を有するもの、又は、カルボリン誘導体やジアザカルバゾール誘導体(ここで、ジアザカルバゾール誘導体とは、カルボリン誘導体のカルボリン環を構成する炭化水素環の少なくとも一つの炭素原子が窒素原子で置換されているものを表す。)等が挙げられる。
【0153】
本発明に用いることができる公知のホスト化合物としては正孔輸送能、電子輸送能を有しつつ、かつ、発光の長波長化を防ぎ、なおかつ前述のとおり高Tgである化合物が好ましい。
【0154】
また、本発明においては、従来公知のホスト化合物を単独で用いてもよく、又は複数種併用して用いてもよい。ホスト化合物を複数種用いることで、電荷の移動を調整することが可能であり、有機EL素子を高効率化することができる。また、従来公知の化合物を複数種用いることで、異なる発光を混ぜることが可能となり、これにより任意の発光色を得ることができる。
【0155】
また、本発明に用いられるホスト化合物としては、低分子化合物でも、繰り返し単位をもつ高分子化合物でもよく、ビニル基やエポキシ基のような重合性基を有する低分子化合物(重合性ホスト化合物)でもよく、このような化合物を1種又は複数種用いても良い。
【0156】
本発明の有機EL素子に公知のホスト化合物を用いる場合、その具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0157】
特開2001-257076号公報、同2002-308855号公報、同2001-313179号公報、同2002-319491号公報、同2001-357977号公報、同2002-334786号公報、同2002-8860号公報、同2002-334787号公報、同2002-15871号公報、同2002-334788号公報、同2002-43056号公報、同2002-334789号公報、同2002-75645号公報、同2002-338579号公報、同2002-105445号公報、同2002-343568号公報、同2002-141173号公報、同2002-352957号公報、同2002-203683号公報、同2002-363227号公報、同2002-231453号公報、同2003-3165号公報、同2002-234888号公報、同2003-27048号公報、同2002-255934号公報、同2002-260861号公報、同2002-280183号公報、同2002-299060号公報、同2002-302516号公報、同2002-305083号公報、同2002-305084号公報、同2002-308837号公報、同2016-178274号公報、米国特許出願公開第2003/0175553号明細書、米国特許出願公開第2006/0280965号明細書、米国特許出願公開第2005/0112407号明細書、米国特許出願公開第2009/0017330号明細書、米国特許出願公開第2009/0030202号明細書、米国特許出願公開第2005/0238919号明細書、国際公開第2001/039234号、国際公開第2009/021126号、国際公開第2008/056746号、国際公開第2004/093207号、国際公開第2005/089025号、国際公開第2007/063796号、国際公開第2007/063754号、国際公開第2004/107822号、国際公開第2005/030900号、国際公開第2006/114966号、国際公開第2009/086028号、国際公開第2009/003898号、国際公開第2012/023947号、特開2008-074939号公報、特開2007-254297号公報、欧州特許第2034538号明細書、国際公開第2011/055933号、国際公開第2012/035853号、特開2015-38941号公報、米国特許出願公開第2017/056814号明細書である。
【0158】
その中でも本発明のホスト化合物としては、非ハロゲン溶媒に溶解するホスト化合物が好ましく、エステル系溶媒に溶解するホスト化合物であることがさらに好ましい。ハロゲン溶媒であると隣接層がある場合にその下層を溶解してしまう問題があるからである。隣接する層が電極の場合は特に限定されない。また、ホスト化合物の分子量としては、1000以下であると溶解しやすいために好ましい。
【0159】
ポリマー、ホスト化合物及び発光性ドーパントの総質量を100としたとき、ホスト化合物の質量比率は、電荷輸送の観点から、10%以上であることが好ましく、ポリマーによる分散効果を受けやすい観点から、75%以下であることが好ましい。より好ましくは、30~60%の範囲内である。
【0160】
本発明に用いられるホスト化合物としては、以下の一般式で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0161】
〔一般式(1)で表される構造を有する化合物〕
発光層は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含有する塗布液を用いて形成することが好ましい。
【0162】
【0163】
〔一般式(1)中、Xは、O、S又はNR9を表す。R9は、水素原子、重水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、非芳香族複素環基又は下記一般式(2)で表される置換基を表す。R1~R8は、それぞれ、水素原子、重水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基、シリル基、ホスフィンオキシド基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、非芳香族炭化水素環基、非芳香族複素環基又は下記一般式(2)で表される置換基を表す。R1~R9の少なくとも一つは、下記一般式(2)で表される置換基を表す。R1~R9は、互いに同じであっても異なっていても良く、更に置換基を有していても良い。〕
【0164】
【0165】
〔一般式(2)中、Lは、それぞれ、アルキレン基、アルケニレン基、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、アミド基又は二価の芳香族複素環基を表し、更に置換基を有していても良い。nは、1~8の整数を表す。nが2以上の整数を表す場合、2以上のLは、互いに同じであっても異なっていても良い。Rは、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基、炭素原子数1~20のフッ化アルキル基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又は非芳香族炭化水素環基を表し、更に置換基を有していても良い。mは、1~3の整数を表す。L及びRのうち少なくとも一つはアルキレン基又はアルキル基を表す。一般式(2)で表される置換基が複数ある場合、L及びRは、互いに同じであっても異なっていても良いが、互いに連結し環を形成することはない。〕
【0166】
上記一般式(1)におけるR1~R9で表される置換基は、前記一般式(I)~(III)におけるR1~R6と同義である。また、上記一般式(2)におけるLで表される連結基は、前記一般式(I)及び(II)におけるLと同義である。
【0167】
上記一般式(2)において、Rで表される炭素原子数1~20のアルキル基としては、例えば、上記一般式(1)においてR1~R9で表されるアルキル基として挙げられたもののうち、炭素原子数が1~20の基が挙げられる。
【0168】
Rで表される炭素原子数1~20のフッ化アルキル基としては、例えば、上記炭素原子数1~20のアルキル基の水素原子がフッ素原子に置換した基が挙げられる。
【0169】
Rで表される炭素原子数1~20のアルコキシ基としては、例えば、上記一般式(1)においてR1~R8で表されるアルコキシ基として挙げられたもののうち、炭素原子数が1~20の基が挙げられる。
【0170】
Rで表される芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又は非芳香族炭化水素環基としては、例えば、上記一般式(1)においてR1~R9で表される芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基又は非芳香族炭化水素環基と同様のものが挙げられる。
【0171】
上記一般式(2)において、L及びRが更に有していても良い置換基としては、例えば、上記一般式(1)においてR1~R9が有していても良い置換基と同様のものが挙げられる。
【0172】
上記一般式(1)で表される構造を有する化合物としては、一般式(2)で表される置換基のうち、少なくとも一つのLが炭素原子数1~6のアルキレン基であるものが好ましく、また、一般式(2)で表される置換基のうち、少なくとも一つのRが炭素原子数1~6のアルキル基であるものが好ましい。
【0173】
以下、本発明に係る一般式(1)で表される構造を有する化合物の具体例を示すが、これらに限られるものではない。
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
〈発光性ドーパント〉
本発明に係る「発光性ドーパント」とは、電圧をかけると下記機構により発光する有機発光性化合物をいう。発光層を、陰極及び陽極で挟み、電圧をかけることにより、注入される電子と正孔が発光層内の発光性ドーパントの分子上で再結合する。発光性ドーパントは、このときに生じるエネルギーにより励起される。そして、励起状態から再び基底状態に戻る際に光が発生する。励起状態(一重項)から基底状態に戻る際の発光が蛍光であり、一重項状態からややエネルギー準位の低い三重項状態を経由して基底状態に戻る際の発光がリン光である。
【0180】
電子と正孔の再結合により生成される励起子には、一重項励起子と三重項励起子があり、その生成確率はスピン統計則に従い、一重項励起子が25%、三重項励起子が75%である。通常室温では、有機化合物の発光は、一重項励起状態からの発光(蛍光)のみからであり、残りの75%の三重項励起状態は発光せずに熱失活してしまう。すなわち、再結合により得られる励起子のうちの25%のみしか発光には寄与しておらず、残り75%の励起子を発光として活用することにより、発光効率は格段に向上すると考えられる。
【0181】
近年では、安達らの発見により一重項励起状態と三重項励起状態のエネルギーギャップを小さくすることで、発光中のジュール熱及び/又は発光素子が置かれる環境温度によりエネルギー準位の低い三重項励起状態から一重項励起状態に逆項間交差がおこり、結果としてほぼ100%に近い蛍光発光を可能とする現象(熱活性型遅延蛍光又は熱励起型遅延蛍光ともいう:「TADF」:thermally activated delayed fluorescence)とそれを可能にする蛍光発光性化合物が見いだされている(例えば、非特許文献H.Uoyama,et al.,Nature,2012,492,234-238、H.Nakanоtani,et al.,Nature Communicaion,2014,5,4016-4022等参照。)。
【0182】
前記「蛍光発光」及び「リン光発光」に用いられる発光性ドーパントとしては、蛍光発光性ドーパント(蛍光ドーパント、蛍光性化合物ともいう。)又はリン光発光性ドーパント(リン光ドーパント、リン光性化合物ともいう。)が好ましく用いられる。また、発光性ドーパントは、複数種含まれていてもよく、例えば、構造の異なるドーパント同士の組み合わせや、蛍光発光性ドーパントとリン光発光性ドーパントとを組み合わせて用いてもよい。これにより、任意の発光色を得ることができる。
【0183】
ポリマー、ホスト化合物及び発光性ドーパントの総質量を100としたとき、発光性ドーパントの質量比率は、使用される特定のドーパント及びデバイスの必要条件に基づいて、任意に決定することができ、発光層の層厚方向に対し、均一であってもよいし、任意の分布を有していてもよい。
【0184】
発光性ドーパントは、酸素や水と反応すると発光機能を失ってしまうため、大気下での製造においては、大気中の酸素や水と接触しづらくする必要がある。本発明では、ポリマー比率Pを範囲内に調整することにより、接触しづらくしており、発光性ドーパントの質量比率が30%以下であることが好ましい。
【0185】
(蛍光発光性ドーパント)
蛍光発光性ドーパントは、励起一重項からの発光が可能な化合物であり、励起一重項からの発光が観測される限り特に限定されない。
【0186】
蛍光発光性ドーパントしては、例えば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、フルオランテン誘導体、ペリレン誘導体、フルオレン誘導体、アリールアセチレン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、スチリルアミン誘導体、アリールアミン誘導体、ホウ素錯体、クマリン誘導体、ピラン誘導体、シアニン誘導体、クロコニウム誘導体、スクアリウム誘導体、オキソベンツアントラセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、ピリリウム誘導体、ペリレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、又は希土類錯体系化合物等が挙げられる。
【0187】
(リン光発光性ドーパント)
リン光発光性ドーパントは、励起三重項からの発光が観測される化合物であり、具体的には、室温(25℃)にてリン光発光する化合物であり、25℃においてリン光量子収率が0.01以上の化合物である。発光層に用いられるリン光発光性ドーパントにおいて、好ましいリン光量子収率は0.1以上である。
【0188】
前記リン光量子収率は、第4版実験化学講座7の分光IIの398頁(1992年版、丸善)に記載の方法により測定できる。溶液中でのリン光量子収率は種々の溶媒を用いて測定できる。発光層に用いられるリン光発光性ドーパントは、任意の溶媒のいずれかにおいて上記リン光量子収率(0.01以上)が達成されればよい。
【0189】
リン光発光性ドーパントは、有機EL素子の発光層に使用される公知の材料から適宜選択して用いることができる。本発明に使用できる公知のリン光発光性ドーパントの具体例としては、以下の文献に記載されている化合物等が挙げられる。
【0190】
Nature 395,151(1998)、Appl.Phys.Lett.78,1622(2001)、Adv.Mater.19,739(2007)、Chem.Mater.17,3532(2005)、Adv.Mater.17,1059(2005)、国際公開第2009/100991号、国際公開第2008/101842号、国際公開第2003/040257号、米国特許出願公開第2006/835469号明細書、米国特許出願公開第2006/0202194号明細書、米国特許出願公開第2007/0087321号明細書、米国特許出願公開第2005/0244673号明細書、Inorg.Chem.40,1704(2001)、Chem.Mater.16,2480(2004)、Adv.Mater.16,2003(2004)、Angew.Chem.lnt.Ed.2006,45,7800、Appl.Phys.Lett.86,153505(2005)、Chem.Lett.34,592(2005)、Chem.Commun.2906(2005)、Inorg.Chem.42,1248(2003)、国際公開第2009/050290号、国際公開第2002/015645号、国際公開第2009/000673号、米国特許出願公開第2002/0034656号明細書、米国特許第7332232号明細書、米国特許出願公開第2009/0108737号明細書、米国特許出願公開第2009/0039776号明細書、米国特許第6921915号明細書、米国特許第6687266号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2006/0008670号明細書、米国特許出願公開第2009/0165846号明細書、米国特許出願公開第2008/0015355号明細書、米国特許第7250226号明細書、米国特許第7396598号明細書、米国特許出願公開第2006/0263635号明細書、米国特許出願公開第2003/0138657号明細書、米国特許出願公開第2003/0152802号明細書、米国特許第7090928号明細書、Angew.Chem.lnt.Ed.47,1(2008)、Chem.Mater.18,5119(2006)、Inorg.Chem.46,4308(2007)、Organometallics 23,3745(2004)、Appl.Phys.Lett.74,1361(1999)、国際公開第2002/002714号、国際公開第2006/009024号、国際公開第2006/056418号、国際公開第2005/019373号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2005/123873号、国際公開第2007/004380号、国際公開第2006/082742号、米国特許出願公開第2006/0251923号明細書、米国特許出願公開第2005/0260441号明細書、米国特許第7393599号明細書、米国特許第7534505号明細書、米国特許第7445855号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書、米国特許出願公開第2008/0297033号明細書、米国特許第7338722号明細書、米国特許出願公開第2002/0134984号明細書、米国特許第7279704号明細書、米国特許出願公開第2006/098120号明細書、米国特許出願公開第2006/103874号明細書、国際公開第2005/076380号、国際公開第2010/032663号、国際公開第2008140115号、国際公開第2007/052431号、国際公開第2011/134013号、国際公開第2011/157339号、国際公開第2010/086089号、国際公開第2009/113646号、国際公開第2012/020327号、国際公開第2011/051404号、国際公開第2011/004639号、国際公開第2011/073149号、米国特許出願公開第2012/228583号明細書、米国特許出願公開第2012/212126号明細書、特開2012-069737号公報、特開2012-195554号公報、特開2009-114086号公報、特開2003-81988号公報、特開2002-302671号公報、特開2002-363552号公報等である。
【0191】
中でも、好ましいリン光発光性ドーパントとしては、Irを中心金属に有する有機金属錯体が挙げられる。更に好ましくは、金属-炭素結合、金属-窒素結合、金属-酸素結合、金属-硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含む錯体が好ましい。
【0192】
(遅延蛍光化合物)
〔励起三重項-三重項消滅(TTA)遅延蛍光化合物〕
蛍光発光性化合物の問題点を解決すべく登場したのが遅延蛍光を利用した発光方式である。三重項励起子同士の衝突を起源とするTTA方式は、下記のような一般式で記述できる。すなわち、従来、励起子のエネルギーが、無輻射失活により、熱にしか変換されなかった三重項励起子の一部が、発光に寄与しうる一重項励起子に逆項間交差できるメリットがあり、実際の有機EL素子においても従来の蛍光発光素子の約2倍の外部取り出し量子効率を得ることができている。
【0193】
一般式:T*+T*→S*+S(式中、T*は三重項励起子、S*は一重項励起子、Sは基底状態分子を表す。)
しかしながら、上式からも分かるように、二つの三重項励起子から発光に利用できる一重項励起子は一つしか生成しないため、この方式で100%の内部量子効率を得ることは原理上できない。
【0194】
〔熱活性型遅延蛍光(TADF)化合物〕
もう一つの高効率蛍光発光であるTADF方式は、TTAの問題点を解決できる方式である。
【0195】
蛍光発光性化合物は、前記のごとく無限に分子設計できる利点を持っている。すなわち、分子設計された化合物の中で、特異的に三重項励起状態と一重項励起状態のエネルギー準位差(以下において、適宜、「ΔEST」と略記する。)が極めて近接する化合物が存在する。
【0196】
このような化合物は、分子内に重原子を持っていないにもかかわらず、ΔESTが小さいために通常では起こりえない三重項励起状態から一重項励起状態への逆項間交差が起こる。さらに、一重項励起状態から基底状態への失活(=蛍光発光)の速度定数が極めて大きいことから、三重項励起子はそれ自体が基底状態に熱的に失活(無輻射失活)するよりも、一重項励起状態経由で蛍光を発しながら基底状態に戻る方が速度論的に有利である。そのため、TADFでは理論的には100%の蛍光発光が可能となる。
【0197】
蛍光発光性ドーパントして、遅延蛍光を発する化合物(遅延蛍光発光性化合物及び熱活性型遅延蛍光化合物)の例としては、国際公開第2011/156793号、特開2011-213643号公報、特開2010-93181号公報、特許5366106号、国際公開第2013/161437号、国際公開第2016/158540号等に記載の化合物が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0198】
また、本発明では、発光層に含有される発光素子として、量子ドット含有有機発光素子(QD-OLED)を用いることも可能であり、例えば、特開2014-077046号公報、特開2014-078380号公報、特開2014-078381号公報、特開2017-101128号公報等に記載されている構成を参照することができる。
【0199】
また、量子ドットを含有する無機発光素子(QLED)としては、例えば、特開2015-156367号公報、特開2018-078279号公報に記載されている内容を参照することができる。
【0200】
さらに、本発明に係る発光層は、ペロブスカイト化合物を含有する層としてもよい。
【0201】
本発明において、「ペロブスカイト化合物」とは、ペロブスカイト構造を有する化合物をいう。ペロブスカイト化合物は、有機物及び無機物がペロブスカイト構造の構成要素となっているペロブスカイト化合物(有機無機ハイブリッド構造のペロブスカイト化合物)であることが好ましい。
【0202】
本発明においては、ペロブスカイト化合物が、下記一般式(a)で表される構造を有することが、光電変換効率の観点から好ましい。
【0203】
一般式(a):R-M-X
上記一般式(a)において、Rは有機分子を表す。Mは金属原子を表す。Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子を表す。
【0204】
上記一般式(a)において、Rは有機分子であり、ClNmXn(l、m及びnはいずれも正の整数を表す。)で示される分子であることが好ましい。
【0205】
Rは、具体的には、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、イミダゾリン、カルバゾール及びこれらのイオン(例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)等)やフェネチルアンモニウム等が挙げられる。なかでも、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン及びこれらのイオンやフェネチルアンモニウムが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン及びこれらのイオンがより好ましい。
【0206】
Mは金属原子であり、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、ユウロピウム等が挙げられる。これらの元素は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0207】
Xはハロゲン原子又はカルコゲン原子であり、例えば、塩素、臭素、ヨウ素、硫黄、セレン等が挙げられる。これらの元素は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なかでも、構造中にハロゲン原子を含有することで、上記ペロブスカイト化合物が有機溶媒に可溶になり、安価な印刷法等への適用が可能になることから、ハロゲン原子が好ましい。更に、上記有機無機ペロブスカイト化合物のエネルギーバンドギャップが狭くなることから、ヨウ素がより好ましい。
【0208】
以下、本発明において、好適に用いることができる発光性ドーパントの具体例を示すが、これらに限られるものではない。
【0209】
【0210】
【0211】
【0212】
(電荷キャリア輸送層)
「電荷キャリア輸送層(「電荷輸送層」ともいう。)」とは、電荷キャリアすなわち電子又は正孔を輸送する機能を有する化合物を含有する層をいう。
以下においては、電荷キャリア輸送層(「電荷輸送層」)を「電子輸送層」と「正孔輸送層」に分けて説明する。
【0213】
[電子輸送層]
「電子輸送層」とは、電子を輸送する機能を有する材料からなり、広い意味で電子注入層も電子輸送層に含まれる。電子輸送層は単層又は複数層設けることができる。
【0214】
また、電子輸送層は、以下に説明する電子輸送材料を含有する塗布液を用いて形成することが好ましい。また、当該塗布液は前記極性フッ化溶媒を含有することが好ましい。極性フッ化溶媒に対する溶解度は、電子輸送層の材料、絶縁性層の材料、発光層の材料の順に低くなることが好ましい。
【0215】
従来、電子輸送層(複数層とする場合は陰極側に隣接する電子輸送層)に用いられる電子輸送材料としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していれば良く、従来公知の化合物の中から任意のものを選択して用いることができる。例えば、フルオレン誘導体、カルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、シロール誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、8-キノリノール誘導体等の金属錯体等が挙げられる。
【0216】
その他、メタルフリー若しくはメタルフタロシアニン、又はそれらの末端がアルキル基やスルホン酸基等で置換されているものも、電子輸送材料として好ましく用いることができる。
【0217】
これらの中でもカルバゾール誘導体、アザカルバゾール誘導体、ピリジン誘導体等が本発明では好ましく、アザカルバゾール誘導体であることがより好ましい。
【0218】
電子輸送層は、前記電子輸送材料を、例えば、スピンコート法、キャスト法、インクジェット印刷法を含む印刷法、LB法等の公知の方法により、薄膜として形成することができ、好ましくは、前記電子輸送材料及びフッ化アルコール溶剤を含有する塗布液を用いたウェット・プロセスにより形成することができる。
【0219】
電子輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmである。電子輸送層は前記材料の1種又は2種以上からなる一層構造であっても良い。
【0220】
また、前記電子輸送材料の他に、不純物をゲスト材料としてドープしたn性の高い電子輸送層を用いることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、同10-270172号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報、J.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0221】
本発明における電子輸送層には、有機物のアルカリ金属塩を含有することが好ましい。有機物の種類としては特に制限はないが、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、サリチル酸塩、ピルビン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、アジピン酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩が挙げられ、好ましくはギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、カプロン酸塩、エナント酸塩、カプリル酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、より好ましくはギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩等の脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩が好ましく、脂肪族カルボン酸の炭素原子数が4以下であることが好ましい。最も好ましくは酢酸塩である。
【0222】
有機物のアルカリ金属塩のアルカリ金属の種類としては特に制限はないが、Na、K、Cs、Liが挙げられ、好ましくはK、Cs、更に好ましくはCsである。有機物のアルカリ金属塩としては、前記有機物とアルカリ金属の組み合わせが挙げられ、好ましくは、ギ酸Li、ギ酸K、ギ酸Na、ギ酸Cs、酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、プロピオン酸Li、プロピオン酸Na、プロピオン酸K、プロピオン酸Cs、シュウ酸Li、シュウ酸Na、シュウ酸K、シュウ酸Cs、マロン酸Li、マロン酸Na、マロン酸K、マロン酸Cs、コハク酸Li、コハク酸Na、コハク酸K、コハク酸Cs、安息香酸Li、安息香酸Na、安息香酸K、安息香酸Cs、より好ましくは酢酸Li、酢酸K、酢酸Na、酢酸Cs、最も好ましくは酢酸Csである。
【0223】
これらドープ材の含有量は、添加する電子輸送層に対し、好ましくは1.5~35質量%であり、より好ましくは3~25質量%であり、最も好ましくは5~15質量%である。
【0224】
本発明の有機EL素子に用いられる、公知の好ましい電子輸送材料の具体例としては、以下の文献に記載の化合物等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0225】
米国特許第6528187号明細書、米国特許第7230107号明細書、米国特許出願公開第2005/0025993号明細書、米国特許出願公開第2004/0036077号明細書、米国特許出願公開第2009/0115316号明細書、米国特許出願公開第2009/0101870号明細書、米国特許出願公開第2009/0179554号明細書、国際公開第2003/060956号、国際公開第2008/132085号、Appl.Phys.Lett.75,4(1999)、Appl.Phys.Lett.79,449(2001)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.81,162(2002)、Appl.Phys.Lett.79,156(2001)、米国特許第7964293号明細書、米国特許出願公開第2009/030202号明細書、国際公開第2004/080975号、国際公開第2004/063159号、国際公開第2005/085387号、国際公開第2006/067931号、国際公開第2007/086552号、国際公開第2008/114690号、国際公開第2009/069442号、国際公開第2009/066779号、国際公開第2009/054253号、国際公開第2011/086935号、国際公開第2010/150593号、国際公開第2010/047707号、欧州特許第2311826号明細書、特開2010-251675号公報、特開2009-209133号公報、特開2009-124114号公報、特開2008-277810号公報、特開2006-156445号公報、特開2005-340122号公報、特開2003-45662号公報、特開2003-31367号公報、特開2003-282270号公報、国際公開第2012/115034号等に記載の化合物を挙げることができる。
【0226】
[正孔輸送層]
正孔輸送層は、正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料から構成されており、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、正孔輸送層は、単層又は複数層設けることができる。
【0227】
正孔輸送材料としては、正孔の注入又は輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであっても良い。例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、導電性高分子オリゴマー及びチオフェンオリゴマー等が挙げられる。
【0228】
正孔輸送材料としては、上記のものを使用することができるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物を用いることができ、特に芳香族第3級アミン化合物を用いることが好ましい。
【0229】
芳香族第3級アミン化合物及びスチリルアミン化合物の代表例としては、N,N,N′,N′-テトラフェニル-4,4′-ジアミノフェニル、N,N′-ジフェニル-N,N′-ビス(3-メチルフェニル)-〔1,1′-ビフェニル〕-4,4′-ジアミン(略称:TPD)、2,2-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N,N′,N′-テトラ-p-トリル-4,4′-ジアミノビフェニル、1,1-ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、ビス(4-ジメチルアミノ-2-メチルフェニル)フェニルメタン、ビス(4-ジ-p-トリルアミノフェニル)フェニルメタン、N,N′-ジフェニル-N,N′-ジ(4-メトキシフェニル)-4,4′-ジアミノビフェニル、N,N,N′,N′-テトラフェニル-4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル、N,N,N-トリ(p-トリル)アミン、4-(ジ-p-トリルアミノ)-4′-〔4-(ジ-p-トリルアミノ)スチリル〕スチルベン、4-N,N-ジフェニルアミノ-(2-ジフェニルビニル)ベンゼン、3-メトキシ-4′-N,N-ジフェニルアミノスチルベンゼン及びN-フェニルカルバゾール等が挙げられる。更には米国特許第5061569号明細書に記載されている2個の縮合芳香環を分子内に有するもの、例えば、4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル(略称:NPD)、特開平4-308688号公報に記載されているトリフェニルアミンユニットが三つスターバースト型に連結された4,4′,4″-トリス〔N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ〕トリフェニルアミン(略称:MTDATA)等が挙げられる。
【0230】
更に、これらの材料を高分子鎖に導入した、又はこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。また、p型-Si、p型-SiC等の無機化合物も正孔注入材料、正孔輸送材料として使用することができる。
【0231】
また、特開平11-251067号公報、J.Huang et.al.,Applied Physics Letters,80(2002),p.139に記載されているような、いわゆるp型正孔輸送材料を用いることもできる。本発明においては、より高効率の発光素子が得られる観点から、これらの材料を用いることが好ましい。
【0232】
正孔輸送層は、前記正孔輸送材料を、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット印刷法を含む印刷法及びLB法(ラングミュア・ブロジェット、Langmuir Blodgett法)等の公知の方法により、薄膜化することにより形成することができる。正孔輸送層の層厚については特に制限はないが、通常は5nm~5μm程度、好ましくは5~200nmの範囲内である。この正孔輸送層は、前記材料の一種又は二種以上からなる一層構造であっても良い。
【0233】
また、正孔輸送層の材料に不純物をドープすることにより、p性を高くすることもできる。その例としては、特開平4-297076号公報、特開2000-196140号公報、同2001-102175号公報及びJ.Appl.Phys.,95,5773(2004)等に記載されたものが挙げられる。
【0234】
このように、正孔輸送層のp性を高くすると、より低消費電力の素子を作製することができるため好ましい。
【0235】
[電子阻止層]
電子阻止層とは、広い意味では、正孔輸送層の機能を有する。電子阻止層は、正孔を輸送する機能を有しつつ、電子を輸送する能力が著しく小さい材料からなり、正孔を輸送しつつ電子を阻止することで電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。
また、正孔輸送層の構成を必要に応じて電子阻止層として用いることができる。本発明に適用する正孔阻止層の層厚としては、好ましくは3~100nmの範囲であり、更に好ましくは5~30nmの範囲である。
【0236】
(電荷キャリア注入層:電荷注入層)
「電荷キャリア注入層(以下において「電荷注入層」ともいう。)」とは、電荷キャリアすなわち電子又は正孔を注入する機能を有する化合物を含有する層をいう。
以下においては、電荷キャリア注入層(「電荷注入層」)を「正孔注入層」と「電子注入層」に分けて説明する。
【0237】
電荷注入層(正孔注入層及び電子注入層)とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために、電極と発光層の間に設けられる電荷キャリアすなわち電子又は正孔の注入層のことで、「有機EL素子とその工業化最前線(1998年11月30日エヌ・ティー・エス社発行)」の第2編第2章「電極材料」(123~166頁)にその詳細が記載されており、正孔注入層と電子注入層とがある。
【0238】
電荷注入層は、必要に応じて設けることができる。正孔注入層であれば、アノードと発光層又は正孔輸送層との間、電子注入層であればカソードと発光層又は電子輸送層との間に存在させても良い。
【0239】
「正孔注入層」は、特開平9-45479号公報、同9-260062号公報、同8-288069号公報等にその詳細が記載されており、具体例として、銅フタロシアニンに代表されるフタロシアニン層、酸化バナジウムに代表される酸化物層、アモルファスカーボン層、ポリアニリン(エメラルディン)やポリチオフェン等の導電性高分子を用いた高分子層等が挙げられる。
【0240】
「電子注入層」は、特開平6-325871号公報、同9-17574号公報、同10-74586号公報等にその詳細が記載されており、具体的にはストロンチウムやアルミニウム等に代表される金属層、フッ化カリウムに代表されるアルカリ金属ハライド層、フッ化マグネシウムに代表されるアルカリ土類金属化合物層、酸化モリブデンに代表される酸化物層等が挙げられる。本発明においては、電子注入層はごく薄い膜であることが望ましく、構成材料にもよるが、その層厚は1nm~10μmの範囲が好ましい。
【0241】
(電極)
[陽極]
有機EL素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが好ましく用いられる。このような電極物質の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO2、ZnO、IZO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In2O3-ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いても良い。陽極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成しても良く、パターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極物質の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成しても良い。また、有機導電性化合物のように塗布可能な物質を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式など湿式製膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。更に、膜厚は材料にもよるが、通常10~1000nmの範囲内、好ましくは10~200nmの範囲内で選ばれる。
【0242】
[陰極]
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する。)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、銀、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al2O3)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、銀、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm~5μmの範囲内、好ましくは50~200nmの範囲内で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機EL素子の陽極又は陰極のいずれか一方が、透明又は半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
【0243】
また、陰極に上記金属を1~20nmの膜厚で作製した後に、陽極の説明で挙げた導電性透明材料をその上に作製することで、透明又は半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0244】
(1.1.2)(非発光画像表示部の構成要素)
[絶縁性層]
本発明の有機EL素子は、「発光画像表示部」と「非発光画像表示部」で構成される画像表示部を有するが、当該非発光画像表示部は、当該画像表示部を構成する「発光画像表示部」以外の部位である。すなわち、本発明の有機EL素子は、画像表示部の中に含まれている複数の非発光画像表示部の間に、発光画素がドット状に配置された発光画像表示部を有する形態であることが好ましい。なお、当該非発光画像表示部は、非発光性の部位であることから、電気的な絶縁性層として機能する隔壁(以下、「バンク」ともいう。)や発光材料を含有するインクを浸透させていない絶縁性インク受容層部分を隔壁(絶縁性層)として機能させる形態であることが好ましい。
【0245】
「絶縁性」とは、電子や正孔が移動しにくい、すなわち、電気を通しにくい性質をいい、本発明の非発光画像表示部における絶縁性層においては、抵抗率が105Ω・m超である性質をいう。換言すると、導電率が1E-5S/m未満である性質をいう。電気抵抗率は、ニ重リング電極を用いた定電圧印加・漏洩電流測定法によりJIS-K-6911に準拠した条件で得られた値を用いる。
【0246】
本発明の有機EL素子の実施形態としては、事前にバンクを形成しても良いし、又は、絶縁性層を一様に形成した後に、インクジェットの打ち分けによって発光層を形成し、自発的にバンクを形成しても良いが、前者の方法が好ましい。
【0247】
本発明においては、基板表面に絶縁性層としてバンクを形成することが好ましい一形態である。各層を形成する領域の周縁に事前にバンクを形成することにより、領域外に各層の形成に用いる材料が流出するのを防ぎ、ポリマー比率を規定することができる。また、電子や正孔は、バンクが絶縁性であるために入り込めず、発光層に入り込みやすくなる。
【0248】
図3は、バンクを有する基板の一例を示す断面図である。バンク2によって区切られた基板1表面の領域はバンクの凹部2aであり、バンクの表面にはバンクの凸部2bがある。前記凹部2aに本発明に係る発光画像表示部を形成する。
【0249】
バンクの高さは、インク等の流出を防ぐことが可能であれば特に限定されないが、1.1~2.5μmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましい範囲は、1.5~2.5μmである。また、バンクの形状は、
図3で例示した台形の他、目的効果に応じて様々な形状のバンクを適用することができる。
【0250】
(絶縁性材料)
本発明に係る絶縁性層(バンク)の材料には、公知のものを用いることができるが、ポリシロキサン骨格に少なくとも一種のアルキル基以外の有機基を有する有機無機ハイブリッドポリマーを含有することが、好ましい。ポリシロキサン構造に少なくとも一種のアルキル基以外の有機基を有することにより、耐溶媒性と耐剥離性に優れた発光画像表示部とすることが可能となる。
【0251】
(有機無機ハイブリッドポリマー構造)
本発明に用いられる有機無機ハイブリッドポリマーのアルキル基以外の有機基としては、公知の置換基を特に制限なく使用可能であり、例えば、アリール基、アラアルキル基、シクロアルキル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、ニトロ基、ニトロソ基、アゾ基、ジアゾ基、アジ基、カルボニル基、フェニル基、ヒドロキシ基、ペルオキシ基、アシル基、アセチル基、アルデヒド基、カルボキシ基、アミド基、イミド基、エステル基、オキシム基、チオール基、スルホ基、ウレア基、イソニトリル基、アレン基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基等を用いることができる。アクリロイル基、エポキシ基又はイソシアネート基が好ましい。中でもアクリロイル基が特に好ましい。
【0252】
(ポリシロキサン構造)
ポリシロキサン構造としては、例えば、Si-O-Si結合を有するポリシロキサン(ポリシルセスキオキサンを含む)を挙げることができる。ポリシロキサンとしては、具体的には、一般構造単位としての〔R3SiO1/2〕、〔R2SiO〕、〔RSiO3/2〕及び〔SiO2〕を含むことができる。ここで、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基(例えば、メチル基(Me)、エチル基、プロピル基等)、アリール基(例えば、フェニル基(Ph)等)、不飽和アルキル基(例えば、ビニル基等)からなる群より独立して選択される。特定のポリシロキサン構造の例としては、〔PhSiO3/2〕、〔MeSiO3/2〕、〔HSiO3/2〕、〔MePhSiO〕、〔Ph2SiO〕、〔PhViSiO〕、〔ViSiO3/2〕(Viはビニル基を表す。)、〔MeHSiO〕、〔MeViSiO〕、〔Me2SiO〕、〔Me3SiO1/2〕等が挙げられる。また、ポリシロキサンの混合物やコポリマーも使用可能である。
【0253】
(バインダー樹脂)
絶縁性層には、本発明に用いられる有機無機ハイブリッドポリマーの他に、本発明の効果を損なわない範囲内でバインダー樹脂を用いることができる。
バインダー樹脂としては、例えば、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロース誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、コポリブチレン/テレ/イソフタレート等のポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、ポリビニルベンザール等のポリビニルアルコール誘導体、ノルボルネン化合物を含有するノルボルネン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート等のアクリル樹脂又はアクリル樹脂とその他樹脂との共重合体を用いることができるが、特にこれら例示する樹脂材料に限定されるものではない。この中では、セルロース誘導体、アクリル樹脂が好ましく、アクリル樹脂が最も好ましく用いられる。
【0254】
(絶縁性金属酸化物)
絶縁性層の材料としては、バインダー樹脂に絶縁性金属酸化物を含有することも好ましい。
【0255】
絶縁性金属酸化物としては、特に制限されないが、化学的安定性、物理的安定性という観点から、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ、マグネシア又はニオブが好ましい。具体的には、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化ジルコニウムと酸化シリコンとの固溶体、酸化シリコン、酸化二アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化銅、酸化スズ、酸化ハフニウム、又はこれら金属酸化物の水和物、さらには、チタン酸バリウム、ジルコニウム酸バリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、タンタル酸ストロンチウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ビスマスナトリウム、又はこれらのうち少なくとも一種を組成に含む絶縁性固溶体を例示することができる。
【0256】
中でも好ましくは、比誘電率100以上の金属酸化物が挙げられ、この例としては、ルチル型の酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO)、五酸化ニオブ(Nb2O3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)や、チタン酸ジルコン酸バリウム(BaTi0.5Zr0.5O3)、チタン酸ジルコン酸鉛(PbTi0.5Zr0.5O3)などの組成式MTi1-xZrxO3(Mは2価の金属元素、xは0以上1未満)で表される絶縁性金属酸化物、またはこれらの水和物、さらにはこれらのうち少なくとも一種類を組成に含む絶縁性固溶体が挙げられる。
【0257】
絶縁性層は、事前にバンクを形成しても良いし、又は、絶縁性層を一様に形成した後に、インクジェットの打ち分けによって発光層を形成し、自発的にバンクを形成してもよい。事前にバンクのパターニングをしておく場合、例えば、絶縁性層は以下のような手法によって形成される。
【0258】
基板として、0.5mmのガラス基板(コーニング社製 EagleXG)をアルカリ洗浄し、次に、酸化チタンを30質量%含有する感光性ポリイミド(メルク社製)を、スピンコート法で塗布し、60℃で120秒環のプリベークを行う。次に、フォト工程でパターン露光し、水酸化テトラメチルアンモニウム(略称:TMAH)で現像、純水リンスすることで、開口部を有するバンクを形成する。
【0259】
(極性フッ化溶媒)
本発明の有機EL素子の製造方法において、絶縁性層の形成には極性フッ化溶媒が用いられることが好ましい。また、後述する電子輸送層の形成にも極性フッ化溶媒が用いられることが好ましい。
【0260】
ここで、極性フッ化溶媒とは、溶媒分子中にフッ素原子を含み、比誘電率が3以上かつ25℃における水への溶解度が5g/L以上である溶媒をいう。
【0261】
極性フッ化溶媒の沸点としては、50~200℃の範囲内が好ましい。50℃以上とすることで、塗布膜乾燥時の蒸発熱によるムラの発生をより確実に抑制できる。200℃以下とすることで、速やかに溶媒を乾燥させることができ、形成される層内の溶媒含有量が低減するため層内の結晶成長をより確実に抑制できるとともに、溶媒の抜け道が粗とならないため密度が向上し電流効率を上昇させることができる。より好ましくは、70~150℃の範囲内である。
【0262】
極性フッ化溶媒の水分含有量は、極微量であっても発光のクエンチャーとなるため少ない程良く、100ppm以下が好ましく、20ppm以下であることが更に好ましい。
【0263】
また、極性フッ化溶媒中の水分以外の不純物含有量も同様に、極微量であっても発光のクエンチャーとなったり、気泡や乾燥後の膜質低下要因となったりするため少ない程良く、100ppm以下が好ましく、20ppm以下であることが更に好ましい。水分以外の不純物としては、酸素や、窒素、アルゴン及び二酸化炭素等の不活性ガス、調製及び精製時に使用される触媒、吸着材及び器具等から持ち込まれる無機化合物又は金属等が挙げられる。
【0264】
極性フッ化溶媒としては、例えば、フッ化アルコール、フッ化アクリレート、フッ化メタクリレート、フッ化エステル、フッ化エーテル又はフッ化ヒドロキシアルキルベンゼン、フッ化アミンが好ましく、フッ化アルコール、フッ化エステル又はフッ化エーテルがより好ましく、溶解性と乾燥性の観点からフッ化アルコールが更に好ましい。
【0265】
また、フッ化アルコールの炭素原子数は、沸点及び材料の可溶性の観点から、炭素原子数3~5であることが好ましい。
【0266】
フッ素置換位置としては、例えばアルコールであれば水素の位置が挙げられ、フッ素化率としては、層材料の溶解性を損なわない程度であれば良く、下層材料を溶出させない程度にフッ素化されていることが望ましい。
【0267】
フッ化アルコールとしては、例えば、1H,1H-ペンタフルオロプロパノール、6-(パーフルオロエチル)ヘキサノール、1H,1H-ヘプタフルオロブタノール、2-(パーフルオロブチル)エタノール(FBEO)、3-(パーフルオロブチル)プロパノール、6-(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2-パーフルオロプロポキシ-2,3,3,3-テトラフルオロプロパノール、2-(パーフルオロヘキシル)エタノール、3-(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、1H,1H-(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、6-(パーフルオロ-1-メチルエチル)ヘキサノール、1H,1H,3H-テトラフルオロプロパノール(TFPO)、1H,1H,5H-オクタフルオロペンタノール(OFAO)、1H,1H,7H-ドデカフルオロヘプタノール(DFHO)、2H-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、1H,1H,3H-ヘキサフルオロブタノール(HFBO)、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-1,6-ヘキサンジオール、2,2-ビス(トリフルオロメチル)プロパノール、1H,1H-トリフルオロエタノール(TFEO)等が挙げられるが、前述の沸点及び層材料の溶解性の観点からTFPO、OFAO及びHFBOが好ましい。
【0268】
また、フッ化エーテルとしては、例えば、ヘキサフルオロジメチルエーテル、ペルフルオロジメトキシメタン、ペルフルオロオキセタン、ペルフルオロ-1,3-ジオキソラン、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。
【0269】
また、フッ化エステルとしては、例えば、メチルパーフルオロブチレート、エチルパーフルオロブチレート、メチルパーフルオロプロピオネート、メチルジフルオロアセテート、エチルジフルオロアセテート、メチル-2-トリフルオロメチルー3,3,3-トリフルオロプロピオネート等が挙げられる。
【0270】
絶縁性層形成用塗布液中、絶縁性化合物の含有量は0.05~10質量%、極性フッ化溶媒の含有量は90~99.95質量%であることが好ましい。
【0271】
また、極性フッ化溶媒としては、発光層材料を溶解させないものであれば、2種以上の極性フッ化溶媒の混合溶媒でも良いし、極性フッ化溶媒と極性フッ化溶媒以外の溶媒との混合溶媒でも良い。例えば、フッ化アルコールとアルコールとの混合溶媒等を用いることができる。混合溶媒を用いる場合、極性フッ化溶媒の含有量は50質量%以上であることが好ましい。
【0272】
(1.1.3)その他の共通構成要素
以下、発光画像表示部及び非発光画像表示部の両方に関与する共通要素について述べる。
【0273】
[基板]
有機EL素子に用いられる基板の材料には特に限定はなく、好ましくは、例えば、ガラス、石英又は樹脂フィルム等を挙げることができる。特に好ましくは、有機EL素子にフレキシブル性を与え、印刷物等に内蔵することが可能な樹脂フィルムである。
【0274】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類又はそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリル又はポリアリレート類、アートン(商品名、JSR社製)又はアペル(商品名、三井化学社製)といったシクロオレフィン系樹脂等のフィルムが挙げられる。
【0275】
樹脂フィルムの表面には、無機物若しくは有機物の被膜又はその両者のハイブリッド被膜等によるガスバリアー膜が形成されていても良い。ガスバリアー膜は、JIS K 7129-1992に準拠した方法で測定された水蒸気透過度(25±0.5℃、湿度(90±2)%RH)が0.01g/(m2・24h)以下のガスバリアー性フィルムであることが好ましい。更には、JIS K 7126-1987に準拠した方法で測定された酸素透過度が、1×10-3mL/(m2・24h・atm)以下、水蒸気透過度が、1×10-5g/(m2・24h)以下の高ガスバリアー性フィルムであることが好ましい。
【0276】
ガスバリアー膜を形成する材料としては、水分や酸素等の浸入を抑制する機能を有する材料であれば良い。例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に、ガスバリアー膜の脆弱性を改良するために、これら無機層と有機材料からなる層との積層構造を持たせることがより好ましい。無機層と有機層の積層順については特に制限はないが、両者を交互に複数回積層させることが好ましい。
【0277】
ガスバリアー膜の形成方法については特に限定はなく、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。例えば、特開2004-68143号公報に記載されているような大気圧プラズマ重合法によるものが好ましい。
【0278】
[封止]
本発明の有機EL素子の封止に用いられる封止手段としては、例えば、封止部材と、電極、支持基板とを接着剤で接着する方法を挙げることができる。
【0279】
封止部材としては、有機EL素子の表示領域を覆うように配置されていれば良く、凹板状でも、平板状でも良い。また、透明性、電気絶縁性は特に限定されない。
【0280】
具体的には、ガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等が挙げられる。ガラス板としては、特にソーダ石灰ガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、鉛ガラス、アルミノケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス、石英等を挙げることができる。また、ポリマー板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルファイド、ポリサルフォン等を挙げることができる。金属板としては、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、亜鉛、クロム、チタン、モリブテン、シリコン、ゲルマニウム及びタンタルからなる群から選ばれる一種以上の金属又は合金からなるものが挙げられる。
【0281】
本発明においては、有機EL素子を薄膜化できるということからポリマーフィルム、金属フィルムを好ましく使用することができる。更には、ポリマーフィルムは、酸素透過度10-3g/(m2・24h)以下、水蒸気透過度10-3g/(m2・24h)以下のものであることが好ましい。また、前記の水蒸気透過度、酸素透過度がいずれも10-5g/(m2・24h)以下であることが、更に好ましい。
【0282】
封止部材を凹状に加工するのは、サンドブラスト加工、化学エッチング加工等が使われる。接着剤として具体的には、アクリル酸系オリゴマー、メタクリル酸系オリゴマーの反応性ビニル基を有する光硬化及び熱硬化型接着剤、2-シアノアクリル酸エステルなどの湿気硬化型等の接着剤を挙げることができる。また、エポキシ系等の熱及び化学硬化型(二液混合)を挙げることができる。また、ホットメルト型のポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィンを挙げることができる。また、カチオン硬化タイプの紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤を挙げることができる。
【0283】
前記接着剤中に乾燥剤を分散させておいても良い。封止部分への接着剤の塗布は、市販のディスペンサーを使っても良いし、スクリーン印刷のように印刷しても良い。
【0284】
また、有機機能層を挟み支持基板と対向する側の電極の外側に、該電極と有機機能層を被覆し、支持基板と接する形で無機物、有機物の層を形成し封止膜とすることも好適にできる。この場合、該膜を形成する材料としては、水分や酸素等素子の劣化をもたらすものの浸入を抑制する機能を有する材料であれば良く、例えば、酸化ケイ素、二酸化ケイ素、窒化ケイ素等を用いることができる。更に、該膜の脆弱性を改良するためにこれら無機層と有機材料からなる層の積層構造を持たせることが好ましい。これらの膜の形成方法については、特に限定はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法などを用いることができる。
【0285】
封止部材と有機EL素子の表示領域との間隙には、気相及び液相では、窒素、アルゴン等の不活性気体や、フッ化炭化水素、シリコンオイルのような不活性液体を注入することが好ましい。また、真空とすることも可能である。また、内部に吸湿性化合物を封入することもできる。
【0286】
吸湿性化合物としては、例えば、金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等)、硫酸塩(例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸コバルト等)、金属ハロゲン化物(例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、フッ化セシウム、フッ化タンタル、臭化セリウム、臭化マグネシウム、沃化バリウム、沃化マグネシウム等)、過塩素酸類(例えば過塩素酸バリウム、過塩素酸マグネシウム等)等が挙げられ、硫酸塩、金属ハロゲン化物及び過塩素酸類においては無水塩が好適に用いられる。
【0287】
[保護膜、保護板]
有機機能層を挟み支持基板と対向する側の封止膜又は封止用フィルムの外側に、素子の機械的強度を高めるために、保護膜又は保護板を設けても良い。特に、封止が封止膜により行われている場合には、その機械的強度は必ずしも高くないため、このような保護膜、保護板を設けることが好ましい。これに使用することができる材料としては、上記封止に用いたのと同様なガラス板、ポリマー板・フィルム、金属板・フィルム等を用いることができるが、軽量かつ薄膜化ということからポリマーフィルムを用いることが好ましい。
【0288】
(その他)
[光取り出し向上技術]
有機EL素子は、空気よりも屈折率の高い(屈折率1.6~2.1程度の範囲内)層の内部で発光し、発光層で発生した光のうち15~20%程度の光しか取り出せないことが一般的に言われている。
【0289】
これは、臨界角以上の角度θで界面(透明基板と空気との界面)に入射する光は、全反射を起こし素子外部に取り出すことができないことや、透明電極又は発光層と透明基板との間で光が全反射を起こし、光が透明電極又は発光層を導波し、結果として、光が素子側面方向に逃げるためである。
【0290】
この光の取り出しの効率を向上させる手法としては、例えば、透明基板表面に凹凸を形成し、透明基板と空気界面での全反射を防ぐ方法(例えば、米国特許第4774435号明細書)、基板に集光性を持たせることにより効率を向上させる方法(例えば、特開昭63-314795号公報)、素子の側面等に反射面を形成する方法(例えば、特開平1-220394号公報)、基板と発光体の間に中間の屈折率を持つ平坦層を導入し、反射防止膜を形成する方法(例えば、特開昭62-172691号公報)、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法(例えば、特開2001-202827号公報)、基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法(特開平11-283751号公報)などが挙げられる。
【0291】
本発明においては、これらの方法を前記有機EL素子と組み合わせて用いることができるが、基板と発光体の間に基板よりも低屈折率を持つ平坦層を導入する方法、又は基板、透明電極層や発光層のいずれかの層間(含む、基板と外界間)に回折格子を形成する方法を好適に用いることができる。
【0292】
透明電極と透明基板の間に低屈折率の媒質を光の波長よりも長い厚さで形成すると、透明電極から出てきた光は、媒質の屈折率が低いほど、外部への取り出し効率が高くなる。
【0293】
本発明は、これらの手段を組み合わせることにより、さらに高輝度又は耐久性に優れた素子を得ることができる。
【0294】
低屈折率層としては、例えば、エアロゲル、多孔質シリカ、フッ化マグネシウム、フッ素系ポリマーなどが挙げられる。透明基板の屈折率は一般に1.5~1.7程度の範囲内であるので、低屈折率層は、屈折率がおよそ1.5以下であることが好ましい。またさらに1.35以下であることが好ましい。
【0295】
また、低屈折率媒質の厚さは、媒質中の波長の2倍以上となるのが望ましい。これは、低屈折率媒質の厚さが、光の波長程度になってエバネッセントで染み出した電磁波が基板内に入り込む膜厚になると、低屈折率層の効果が薄れるからである。
【0296】
全反射を起こす界面又は、いずれかの媒質中に回折格子を導入する方法は、光取り出し効率の向上効果が高いという特徴がある。この方法は、回折格子が1次の回折や、2次の回折といった、いわゆるブラッグ回折により、光の向きを屈折とは異なる特定の向きに変えることができる性質を利用して、発光層から発生した光のうち、層間での全反射等により外に出ることができない光を、いずれかの層間又は、媒質中(透明基板内や透明電極内)に回折格子を導入することで光を回折させ、光を外に取り出そうとするものである。
【0297】
導入する回折格子は、二次元的な周期屈折率を持っていることが望ましい。これは、発光層で発光する光はあらゆる方向にランダムに発生するので、ある方向にのみ周期的な屈折率分布を持っている一般的な一次元回折格子では、特定の方向に進む光しか回折されず、光の取り出し効率がさほど上がらない。
【0298】
しかしながら、屈折率分布を二次元的な分布にすることにより、あらゆる方向に進む光が回折され、光の取り出し効率が上がる。
【0299】
回折格子を導入する位置としては、いずれかの層間、又は媒質中(透明基板内や透明電極内)でも良いが、光が発生する場所である有機発光層の近傍が好ましい。このとき、回折格子の周期は、媒質中の光の波長の約1/2~3倍程度の範囲内が好ましい。回折格子の配列は、正方形のラチス状、三角形のラチス状、ハニカムラチス状など、二次元的に配列が繰り返されることが好ましい。
【0300】
[集光シート]
本発明の有機EL素子は、支持基板(基板)の光取出し側に、例えばマイクロレンズアレイ上の構造を設けるように加工すること、又は、いわゆる集光シートと組み合わせることにより、特定方向、例えば素子発光面に対し正面方向に集光することにより、特定方向上の輝度を高めることができる。
【0301】
マイクロレンズアレイの例としては、支持基板の光取り出し側に一辺が30μmでその頂角が90度となるような四角錐を二次元に配列する。一辺は10~100μmの範囲内が好ましい。これより小さくなると回折の効果が発生して色付く、大きすぎると厚さが厚くなり好ましくない。
【0302】
集光シートとしては、例えば液晶表示装置のLEDバックライトで実用化されているものを用いることが可能である。このようなシートとして例えば、住友スリーエム社製輝度上昇フィルム(BEF)などを用いることができる。プリズムシートの形状としては、例えば基板に頂角90度、ピッチ50μmの△状のストライプが形成されたものであってもよいし、頂角が丸みを帯びた形状、ピッチをランダムに変化させた形状、その他の形状であっても良い。
【0303】
また、有機EL素子からの光放射角を制御するために光拡散板・フィルムを、集光シートと併用してもよい。例えば、(株)きもと製拡散フィルム(ライトアップ)などを用いることができる。
【0304】
(1.2)≪有機EL素子のその他の構成≫
本発明に適用可能な有機EL素子の構成のその他の概要については、例えば、特開2013-157634号公報、特開2013-168552号公報、特開2013-177361号公報、特開2013-187211号公報、特開2013-191644号公報、特開2013-191804号公報、特開2013-225678号公報、特開2013-235994号公報、特開2013-243234号公報、特開2013-243236号公報、特開2013-242366号公報、特開2013-243371号公報、特開2013-245179号公報、特開2014-003249号公報、特開2014-003299号公報、特開2014-013910号公報、特開2014-017493号公報、特開2014-017494号公報等に記載されている構成を挙げることができる。
【0305】
また、タンデム型の有機EL素子の具体例としては、例えば、米国特許第6337492号明細書、米国特許第7420203号明細書、米国特許第7473923号明細書、米国特許第6872472号明細書、米国特許第6107734号明細書、米国特許第6337492号明細書、特開2006-228712号公報、特開2006-24791号公報、特開2006-49393号公報、特開2006-49394号公報、特開2006-49396号公報、特開2011-96679号公報、特開2005-340187号公報、特許第4711424号公報、特許第3496681号公報、特許第3884564号公報、特許第4213169号公報、特開2010-192719号公報、特開2009-076929号公報、特開2008-078414号公報、特開2007-059848号公報、特開2003-272860号公報、特開2003-045676号公報、国際公開第2005/009087号、国際公開第2005/094130号等に記載の素子構成や構成材料等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
【0306】
2 ≪有機EL素子の製造方法≫
図2に示す有機EL素子10を製造する場合を例にとって、本発明の有機EL素子の製造方法の一例を具体的に説明する。
【0307】
まず、基板11上に、陽極12を形成する。次に、陽極12上に、バンク2を形成し、バンク2の凹部2aに、正孔注入層13及び正孔輸送層14をこの順に形成する。次に、発光層形成用塗布液を用いて発光層15を形成する。次に、発光層15上に、電子輸送層16、電子注入層17及び陰極18を形成する。陽極12及び陰極18は発光層に対して共通の電極を形成している。
同様にして、青色(B)発光する発光画素21、緑色(G)発光画素22及び赤色(R)発光画素23を形成する。
但し、発光画素は、前記B、G及びRの発光画素に加えて、4色(B,G、R及びW(白色))や、5色(B,G、R、W(白色)、LB(BとGの混色)及びO(GとRの混色)である構成にすることも好ましく、これらの発光色から画像部に合う1種類以上の構成を選択することができる。
【0308】
最後に、陰極18を形成した後の素子を封止する(不図示)。当該素子の封止に用いられる封止手段としては、公知の部材、方法を使用することができる。以上のようにして有機EL素子10を製造することができる。
【0309】
なお、有機EL素子10を構成するバンク以外の各層の形成方法としては、上記したとおり、湿式法、蒸着及びスパッタ等いずれの方法であってもよい。ただし、発光層については、大気下製造時の性能低下が抑制されており、コストが抑えられることから、湿式法を用いることが好ましく、インクジェット印刷法を用いるのが特に好ましい。
【0310】
インクジェット印刷法に用いられる液媒体としては、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等の脂肪酸エステル類、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の非フッ化アルコール類、トリフルオロエタノール(TFEO)、テトラフルオロプロパノール(TFPO)、ヘキサフルオロプロパノール(HFPO)等のフッ化アルコール類、シクロヘキサン、デカリン、ドデカン等の脂肪族炭化水素類、DMF、DMSO等の有機溶媒を用いることができるが、素子中の含まれる溶媒量を抑制する点から、沸点が50℃~180℃の範囲の溶媒が好適に用いられる。また分散方法としては、超音波、高剪断力分散やメディア分散等の分散方法により分散することができる。
【0311】
本発明において、有機EL素子中に含まれる溶媒含有量としては、0.01~1μg/cm2の範囲である。0.01μg以下の場合には、有機膜が疎となるため素子駆動時の高電圧化を引き起こし、1μg/cm2以上の場合には素子駆動時の物質拡散や発光材料の凝集を引き起こし、低効率、低駆動寿命となってしまう。これらの溶媒含有量は昇温脱離ガス分光法により求めることができる。
【0312】
(インクジェット印刷法)
本発明に係る発光層は、インクジェット印刷法により形成することが好ましく、特に大気下でのインクジェット印刷法により形成することが好ましい。インクジェット印刷法等の液滴吐出法により成膜される場合のほうが、蒸着やスピンコートなどで成膜する場合よりも成膜雰囲気の活性ガスの影響が顕著であり、発光効率の低下や短寿命化の影響をより受けやすいが、このような場合でも、性能低下を生じることなく発光する。従って、大気下での製造が可能であり、不活性ガスや真空設備の製造コストも下げることができる。
なお、有機EL素子を構成するその他の層の形成方法については限定されず、インクジェット印刷法であっても、その他の方法であってもよい。
【0313】
インクジェット印刷法で用いられるインクジェットヘッドとしては、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でもよい。また、吐出方式としては、電気-機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気-熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)、静電吸引方式(例えば、電界制御型、スリットジェット型等)、放電方式(例えば、スパークジェット型等)などを具体的な例として挙げることができるが、いずれの吐出方式を用いてもよい。また、印字方式としては、シリアルヘッド方式、ラインヘッド方式等を制限なく用いることができる。
【0314】
ヘッドから射出するインク滴の体積は、0.5~100pLの範囲とすることが好ましい。塗布ムラが少なく、かつ印字速度を高速化できる観点から、2~50pLの範囲であることが、より好ましい。なお、インク滴の体積は、印加電圧の調整等によって適宜調整可能である。
【0315】
印字解像度は、好ましくは180~10000dpi(dots per inch)の範囲、より好ましくは360~2880dpiの範囲で、湿潤厚さとインク滴の体積等を考慮して適宜設定することができる。
【0316】
本発明において、インクジェット塗布時(塗布直後)における湿潤塗膜の湿潤厚さは、適宜設定することができるが、好ましくは1~100μmの範囲、より好ましくは1~30μmの範囲、最も好ましくは1~5μmの範囲において、本発明の効果がより顕著に奏される。なお、湿潤厚さは、塗布面積、印字解像度及びインク滴の体積から算出できる。
【0317】
インクジェットによる印字方法には、シングルパス(ワンパス)印字法とマルチパス印字法がある。シングルパス印字法は、所定の印字領域を1回のヘッドスキャンで印字する方法である。対して、マルチパス印字法は、所定の印字領域を複数回のヘッドスキャンで印字する方法である。
【0318】
シングルパス印字法では、所望とする塗布パターンの幅以上の幅に亘ってノズルが並設された広幅のヘッドを用いることが好ましい。同一の基板上に、互いにパターンが連続していない独立した複数の塗布パターンを形成する場合は、少なくとも各塗布パターンの幅以上の広幅ヘッドを用いればよい。
【0319】
以下、インクジェット印刷法による有機機能層の形成方法について、その一例を、図を交えて説明する。
【0320】
図1に、有機EL素子10の表面に対して垂直方向から見たとき、ドット状に前記発光画素21~23が配置されていることを表す概念図を示す。それぞれのドットの位置は、規則正しい順列であっても、千鳥配列であってもよい。中でも千鳥配列であることがより好ましい。
【0321】
図4は、本発明の有機EL素子の製造方法に適用可能なシングルパス方式(ラインヘッド方式)のインクジェット記録装置の一例を示す模式図である。
図4(a)において、100がラインヘッド型のヘッドユニットであり、それぞれ色相の異なるインク(例えば、レッド(R)、グリーン(G)及びブルー(B)色の発光をする化合物を含有するインク)を吐出するヘッド102~104で構成され、各ヘッドのノズルピッチは360dpi程度であることが好ましい。なお、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
基板1は、ロール状に積層された状態で、搬送機構101より矢印方向に繰り出される。
【0322】
図4(b)は、各ヘッド底部におけるノズルの配置を示す底面図である。
図4(b)に示すように、それぞれヘッド102とヘッド103、ヘッド104のノズルNは、半ピッチずつずらした千鳥配列となっている。このようなヘッド構成とすることにより、より緻密な画像を形成することができる。
【0323】
図4(c)は、ヘッドユニット構成の一例を示す模式図である。幅の広い基板1を用いる場合は、基板1の全幅をカバーするように複数個のヘッドHを千鳥配列に配置したヘッドユニットHUを用いることも好ましい。
【0324】
前記インクジェット記録装置を用いて、基板1を連続的に搬送しながら、基板1上に、有機EL素子の発光層を形成する発光性ドーパントやホスト化合物等と溶媒を含有する塗布液(インク)、又は、有機機能層を形成する有機機能材料等と溶媒を含有する塗布液(インク)を、インク液滴として順次、基板1上に射出して、発光層や有機機能層を形成する。
【0325】
本発明に用いられインクジェット記録装置のほかにも、例えば、特開2012-140017号公報、特開2013-010227号公報、特開2014-058171号公報、特開2014-097644号公報、特開2015-142979号公報、特開2015-142980号公報、特開2016-002675号公報、特開2016-002682号公報、特開2016-107401号公報、特開2017-109476号公報、特開2017-177626号公報等に記載されている構成からなるインクジェットヘッドを適宜選択して適用することができる。
【0326】
3 ≪用途≫
(照明装置)
上述した実施形態の有機EL素子は、面或いは微小発光体であるため、各種の発光光源として用いることができる。例えば、家庭用照明や車内照明等の照明装置、時計や液晶用のバックライト、看板広告用照明、信号機の光源、光記憶媒体の光源、電子写真複写機の光源、光通信処理機の光源、光センサーの光源等が挙げられる。
【0327】
(表示装置;印刷造形物)
また、フレキシブル性を活かした、カラーディスプレイとしても有用である。特に本発明の有機EL素子は、簡易な表示装置であるため、2次元インクジェットや3次元インクジェット法によりオンデマンドに対応した細かい作り分けが可能であり、有機EL素子を内蔵した印刷造形物や3次元造形物などを提供することができる。
【0328】
(その他)
また、本発明は、ポリマーと電荷輸送性材料で形成された発光しない有機半導体デバイスにおいても同様に機能を発現可能であり、太陽電池、フォトダイオード、各種センサー等にも適用できる。例えば、有機フォトダイオードの場合、導電性の低いポリマーにより、フラーレン等の電子吸引性材料とクマリン30等の光電変換材料との分子接触やバルクヘテロ構造化を促進し、電荷分離能が向上するだけでなく、界面近傍にポリマー材料が局在することで、酸素や水による電荷トラップを抑制できる。
【実施例】
【0329】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0330】
ポリマーについては、前述のポリマーを使用した。素子102については、以下の構造式(11)に示すポリマーを用いた。また、ホスト化合物については、前述のKH-1、KH-2、KH-12、KH-15及びKH-22を用いた。発光性ドーパントについては、前述のRD-3、BD-2、BD-3、BD-4及びBD-5を用いた。
【0331】
【0332】
ポリマー(1)~(30)については、以下の市販品を用いた。Mwは、各市販品の重量平均分子量、Mnは数平均分子量である。
(1)ポリメチルメタクリレート[Mw:~120k、シグマアルドリッチ社製]
(2)ポリエチレン[Mw:~4k、シグマアルドリッチ社製]
(3)ポリクロロトリフルオロエチレン[ダイキン工業社製、ポリフロン(登録商標)M-12]
(4)ポリフッ化ビニリデン[Mw:410~575、Piezotech社製、Piezotech(登録商標)RT-TS]
(5)ポリアセタール[ポリプラスチック社製、ジュラコン(登録商標)M90-44]
(6)ポリ(1,4-ブチレンテレフタラート)[シグマアルドリッチ社製]
(7)ポリエチレンテレフタラート[シグマアルドリッチ社製]
(8)ポリイミド[DuPont社製、Vespel(登録商標)SP-1]
(9)ポリアミドイミド[ソルベイ社製、Torlon(登録商標)4000TF]
(10)ポリエーテルイミド[シグマアルドリッチ社製、melt index:18g/10min(337℃/6.6kg)]
(11)ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)[シグマアルドリッチ社製、Aedtron C-NM]
(12)ポリ(3-ヘキシルチオフェン)[Mn:27k~45k、東京化成工業社製]
(13)ポリスルホン[Mn:~22k、シグマアルドリッチ社製]
(14)ポリ[2-メトキシ-5-(2’-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン][Mn:40k~70k、シグマアルドリッチ社製]
(15)アクリロニトリル-スチレン共重合ポリマー[Mw:~165k、x=75、y=25、シグマアルドリッチ社製]
(16)ポリ(9-ビニルカルバゾール)[Mw:~110k、シグマアルドリッチ社製]
(17)ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン)[Mw:~20k、シグマアルドリッチ社製]
(18)ポリ(1,4-フェニレンスルフィド)[Mn:~10k、シグマアルドリッチ社製]
(19)ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-alt-ベンゾチアジアゾール)[Mn:~25k、シグマアルドリッチ社製]
(20)ポリカーボネート[シグマアルドリッチ社製、GF65553598]
(21)ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンオキシド) [Mn:20k、Mw:30k、シグマアルドリッチ社製]
(22)ポリ(4,4’-イソプロピリデンジフェニレンテレフタラート)[ユニチカ社製 U-100]
(23)ポリエーテルエーテルケトン[Mn:~10.3k、Mw:~20.8、シグマアルドリッチ社製]
(24)ポリメチルスチレン[Mw:~72k、シグマアルドリッチ社製]
(25)ポリスチレン-メタクリル酸メチル共重合体[Mw:100k~150k、x=40、y=60、シグマアルドリッチ社製]
(26)ポリ(2-ビニルピリジン)[Mn:152k、Mw:159k、シグマアルドリッチ社製]
(27)ポリエーテルスルホン[シグマアルドリッチ社製]
(28)ポリスチレン[Mw:~280k、シグマアルドリッチ社製]
(29)ポリ(4-ビニルフェノール)[Mw:~25k、シグマアルドリッチ社製]
(30)エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー[旭硝子社製、Fluon(登録商標)ETFE]
【0333】
図5に示すように、基板11上に、陽極12/発光層15/電子注入層17/陰極18を積層して封止層30で封止し、ボトムエミッション型の有機EL素子10を以下のようにして作製した。
【0334】
[実施例1]
《有機EL素子101aの作製》
(基板の準備)
まず、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、以下、「PEN」と略記する。)の陽極を形成する側の全面に、特開2004-68143号公報に記載の構成の大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、酸化ケイ素(SiOx;1<x≦4)からなる無機物のガスバリアー層を層厚500nmとなるように形成した。これにより、酸素透過度0.001mL/(m2・24h)以下、水蒸気透過度0.001g/(m2・24h)以下のガスバリアー性を有する可撓性の基板を作製した。
【0335】
(陽極の形成)
上記基板上に面積30mm、厚さ120nmのITO(インジウム・スズ酸化物)をスパッタ法により製膜し、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、陽極を形成した。
【0336】
(絶縁性層(バンク)の形成)
上記作製した陽極上に、コニカミノルタ社製インクジェットヘッド(MEMSヘッド1pL)を用いて、一辺100μmの正方形の塗布パターンを10μmの間隔を空けて4箇所形成するよう、塗布液を塗布した。塗布液としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテルを使用した。
【0337】
次いで大気圧プラズマ放電処理装置を用いて、塗布液を塗布した基板を親液化処理した。放電ガスとしてアルゴンガス、反応性ガスとして酸素ガスを用い、25℃、1L/(min・cm)で供給した。また、プラズマ生成に用いた電源は、ハイデン研究所製PHF2-Kであり、約2kVの電圧をかけてプラズマを生成した。
【0338】
次にエアーウォーター社製ドライアイス洗浄機を用いて、親液化処理した基板表面を洗浄処理することで、塗布液を除去した。これにより、親液領域と撥液領域のパターンが形成された基板を得た。
【0339】
次にコニカミノルタ社製インクジェットヘッド(MEMSヘッド1pL)を用いて、親液領域と撥液領域のパターンが形成された前述工程後の基板に信越化学工業社製X-41-1053を30%にメチルイソブチルケトン50%とプロピレングリコール20%を加え、インクを調液し、前記親液領域に塗設した。120℃で30min乾燥後、紫外線を5min照射し硬化させてバンクを形成した。これらバンク壁は、幅10μmで格子状に形成されていた。
【0340】
(発光層の形成)
陽極及びバンクを形成した基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥し、UVオゾン洗浄を5分間行った。次に、窒素雰囲気下で、下記組成の発光層形成用のインク組成物を用い、前述の
図4に記載の構造からなるピエゾ方式インクジェットプリンターヘッドであるコニカミノルタ社製のピエゾ方式インクジェットプリンターヘッド「KM1024i」を用いて、40℃で、乾燥後の層厚が50nmとなる条件で基板上にインク組成物を射出したのち、120℃で30分間乾燥して、発光層を形成した。
【0341】
〈発光層形成用塗布液〉
ホスト化合物KH-22 22.8質量部
発光性ドーパントRD-3 7.2質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0342】
(電子注入層及び陰極の形成)
続いて、基板を真空蒸着装置へ取り付けた。また、モリブデン製抵抗加熱ボートにフッ化ナトリウム及びフッ化カリウムを入れたものを真空蒸着装置に取り付け、真空槽を4×10-5Paまで減圧した。その後、ボートに通電して加熱し、フッ化ナトリウムを0.02nm/秒で前記発光層及びバンク上に蒸着し、厚さ1nmの薄膜を形成した。同様に、フッ化カリウムを0.02nm/秒でフッ化ナトリウム薄膜上に蒸着し、層厚1.5nmの電子注入層を形成した。
【0343】
引き続き、アルミニウムを蒸着して厚さ100nmの陰極を形成した。
【0344】
(封止)
以上の工程により形成した積層体に対し、市販のロールラミネート装置を用いて封止基板を接着した。
【0345】
封止基板として、可撓性を有する厚さ30μmのアルミニウム箔(東洋アルミニウム(株)製)に、ドライラミネーション用の2液反応型のウレタン系接着剤を用いて層厚1.5μmの接着剤層を設け、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムをラミネートしたものを作製した。
【0346】
封止用接着剤として熱硬化性接着剤を、ディスペンサーを使用して封止基板のアルミニウム箔の接着面(つや面)に沿って厚さ20μmで均一に塗布した。これを100Pa以下の真空下で12時間乾燥させた。更に、その封止基板を露点温度-80℃以下、酸素濃度0.8ppmの窒素雰囲気下へ移動して、12時間以上乾燥させ、封止用接着剤の含水率が100ppm以下となるように調整した。
【0347】
熱硬化性接着剤としては下記の(A)~(C)を混合したエポキシ系接着剤を用いた。
【0348】
(A)ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)
(B)ジシアンジアミド(DICY)
(C)エポキシアダクト系硬化促進剤
前記封止基板を前記積層体に対して密着・配置して、圧着ロールを用いて、圧着ロール温度100℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minの圧着条件で密着封止した。
【0349】
以上のようにして、有機EL素子101aを作製した。
【0350】
《有機EL素子101bの作製》
有機EL素子101aの作製において、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とした以外は、同様にして大気下製造有機EL素子101bを作製した。
【0351】
《有機EL素子102~131の作製》
有機EL素子101の作製において、ポリマーを表Iに記載の条件に変更した以外は、同様にして、素子102a~131aを作製した。
【0352】
〈発光層形成用塗布液〉
表Iに記載のポリマー 15質量部
ホスト化合物KH-22 11.4質量部
発光性ドーパントRD-3 3.6質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0353】
また、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とし、ポリマーを表Iに記載の条件に変更した以外は、同様にして、素子102b~131bを作製した。
【0354】
≪評価方法≫
作製した有機EL素子101a~131a及び101b~131bについて、下記の評価を実施した。
【0355】
(1)ポリマーの導電率の測定
上記発光層形成用塗布液から、ホスト化合物及び発光性ドーパントを除いたポリマー単体の塗布液をそれぞれ作製し、別途石英基板上に同様にして成膜した。成膜面に対し、日東精工アナリテック社製ハイレスターUXを用いて抵抗率を測定し、抵抗率の逆数を導電率として導出した。
【0356】
(2)ポリマー比率Pの評価
作製した有機EL素子101a~131aにおいて、発光層内のポリマー、ホスト化合物及び発光性ドーパントの分布状態を、前述の飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により以下の条件で測定した。なお、素子101b~131bについても同様の値が得られた。
【0357】
(測定条件)
1次イオン:ビスマスクラスターのダブルチャージイオン(Bi3++)
1次イオン加速電圧:30 kV
質量範囲(m/z):0~1500
測定範囲:100μm×100μm
スキャン数:16 scan/cycle
ピクセル数(1辺):256 pixel
エッチングイオン:Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)
エッチングイオン加速電圧:5.0 kV
【0358】
ポリマー比率Pは、下記式(i)で表される。
(i)P=IP/(IP+IH+IDp)
式中、IP、IH及びIDpは、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF‐SIMS)により測定した、ポリマー、電荷輸送性ホスト化合物及び発光性ドーパントの二次イオン強度である。
【0359】
また、ポリマー比率Pa、Pb及びPcは、発光層内の厚さ方向における位置によって、以下のように表される。
Pa:陽極側界面付近(x=(D-[D/10]))におけるポリマー比率
Pb:中央部(x=D/2)におけるポリマー比率
Pc:陰極側界面付近(x=D/10)におけるポリマー比率
ただし、xは、発光層内の厚さ方向における位置を示しており、電極面に対して垂直方向をx軸とし、発光層の層厚をDとするとき、陰極側界面はx=0、陽極側界面はx=Dで表される。
【0360】
Pa/Pb及びPc/Pbの値を表Iに示す。
【0361】
(3)外部量子収率(EQE比)の評価
有機EL素子101a~131a及び101b~131bの発光外部量子収率の評価には、室温(25℃)で、2.5mA/cm2の定電流密度条件下による点灯を行い、分光放射輝度計CS-2000(コニカミノルタ社製)を用いて、各素子の発光外部量子収率を測定し、素子101aの発光外部量子収率を100とした場合の相対値を求めた。
【0362】
(4)駆動寿命(LT比)の評価
有機EL素子101a~131a及び101b~131bの駆動寿命の評価には、室温(25℃)で、100cd/m2条件下による点灯を行い、分光放射輝度計CS-2000(コニカミノルタ社製)を用いて、各素子の輝度を測定し、素子101aの点灯開始から輝度半減までの寿命を100とした場合の相対値を求めた。
【0363】
(5)大気下製造時の性能評価
大気下で製造した有機EL素子101b~131bの前記(3)発光外部量子収率の相対値及び前記(4)駆動寿命の相対値を、それぞれ窒素雰囲気下で製造した有機EL素子101a~131aの値で割り、性能比(%)を求めた。
【0364】
これらの結果を表Iに示す。
【0365】
【0366】
表Iから、本発明の実施例である有機EL素子106から131は、比較例の有機EL素子101から105に対し、発光効率及び駆動寿命と大気下製造時の性能低下の抑制とを両立できることが分かる。
【0367】
[実施例2]
《有機EL素子201の作製》
前記有機EL素子101aの作製において、下記発光層形成用塗布液へ変更した以外は同様にして、有機EL素子201aを作製した。
【0368】
〈発光層形成用塗布液〉
ホスト化合物KH-1 76質量部
発光性ドーパントBD-2 24質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0369】
《有機EL素子201bの作製》
有機EL素子201aの作製において、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とした以外は、同様にして大気下製造有機EL素子201bを作製した。
【0370】
《有機EL素子202~214の作製》
有機EL素子201aの作製において、ポリマーを表IIに記載の条件に変更した以外は、同様にして、素子202a~214aを作製した。
【0371】
〈発光層形成用塗布液〉
表に記載のポリマー化合物 15質量部
ホスト化合物KH-1 11.4質量部
発光性ドーパントBD-2 3.6質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0372】
また、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とし、ポリマーを表IIに記載の条件に変更した以外は、同様にして、素子202b~214bを作製した。
【0373】
そして、実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表IIに示す。
【0374】
【0375】
表I及び表IIから、本発明の有機EL素子は、発光性ドーパントに赤色発光性ドーパント及び青色発光性ドーパントのどちらを用いても同様の効果が得られることが分かる。
【0376】
[参考例]
《有機EL素子301~302の作製》
前記有機EL素子130aの作製において、下記発光層形成用塗布液へ変更し、アタクチックポリスチレン(重量平均分子量28万、シグマアルドリッチ社製)及びシンジオタクチックポリスチレン(重量平均分子量31万;Macromolecule,1988,21,3356)の含有比を表IIIに記載の条件に変更した以外は同様にして、有機EL素子301a及び302aを作製した。なお、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とした以外は同様にして、大気下製造有機EL素子301b及び302bを作製した。
【0377】
〈発光層形成用塗布液〉
ポリマー 15質量部
ホスト化合物KH-2 11.4質量部
発光性ドーパントBD-3 3.6質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0378】
そして、実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表IIIに示す。
【0379】
【0380】
表IIIから、本発明の有機EL素子は、ポリマーが立体規則性の異なる成分の混合物であることにより、発光効率及び駆動寿命が更に優れており、かつ大気下製造時の性能低下の抑制をも更に両立できることが分かる。
【0381】
[実施例4]
《有機EL素子401の作製》
前記有機EL素子101aの作製において、下記発光層形成用塗布液へ変更した以外は同様にして、有機EL素子401aを作製した。なお、有機EL素子401aの作製において、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とした以外は、同様にして大気下製造有機EL素子401bを作製した。
【0382】
〈発光層形成用塗布液〉
ホスト化合物KH-12 76質量部
発光性ドーパントBD-5 24質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0383】
《有機EL素子402~410の作製》
有機EL素子401aの作製において、ポリマーを表IVに記載の条件に変更した以外は、同様にして、素子402a~410aを作製した。なお、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とした以外は、同様にして、素子402b~410bを作製した。
【0384】
〈発光層形成用塗布液〉
表に記載のポリマー化合物 15質量部
ホスト化合物KH-12 11.4質量部
発光性ドーパントBD-5 3.6質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0385】
そして、実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表IVに示す。
【0386】
【0387】
表IVから、本発明の有機EL素子は、ポリマー、ホスト化合物及び発光性ドーパントの総質量を100としたときのポリマーの質量比率が、5~80質量%の範囲内であることにより、発光効率及び駆動寿命が更に優れており、かつ大気下製造時の性能低下の抑制をも更に両立できることが分かる。
【0388】
[実施例5]
《有機EL素子501~507の作製》
前記有機EL素子130aの作製において、下記発光層形成用塗布液へ変更した以外は同様にして、有機EL素子501aを作製した。次に、ポリスチレン(重量平均分子量28万、シグマアルドリッチ社製)及びポリ(4-ビニルフェノール)(重量平均分子量25万;シグマアルドリッチ社製)の2種類のポリマーを、表Vに記載の含有比で添加することを変更した以外は同様にして、有機EL素子502a~507aを作製した。なお、発光層の成膜雰囲気を空気(温度20℃;湿度50%)とした以外は同様にして、大気下製造有機EL素子501b~507bを作製した。
【0389】
〈発光層形成用塗布液〉
ポリマー 15質量部
ホスト化合物KH-15 11.4質量部
発光性ドーパントBD-4 3.6質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 2000質量部
【0390】
そして、実施例1と同様の評価を行った。これらの結果を表Vに示す。
【0391】
【0392】
表Vから、ポリマーを多種用いて含有比率を調整することにより、ポリマー比率を制御でき、ポリマー比率Pが、Pa≦Pcであるとき、特にPa<Pcであるとき、発光効率及び駆動寿命が更に優れており、かつ大気下製造時の性能低下の抑制をも更に両立できることが分かる。
【0393】
上記結果から、発光層に含有させる特にポリマーの比率等により、正孔と電子の挙動を制御することにより、本発明の課題を解決できることが分かる。
すなわち、発光効率が高く、長寿命で、かつ、大気下での製造時の性能低下を抑制可能であり、低コストにて製造可能である有機エレクトロルミネッセンス素子及びその製造方法、並びに照明装置、表示装置及び印刷造形物を提供することができる。
【符号の説明】
【0394】
1 基板
2 バンク(絶縁性層)
2a 凹部
2b 凸部
10 有機エレクトロルミネッセンス素子
11 基板
12 陽極
13 正孔注入層
14 正孔輸送層
15 発光層
16 電子輸送層
17 電子注入層
18 陰極
21 青色発光画素
22 緑色発光画素
23 赤色発光画素
30 封止層
40 画像表示部
41 発光画像表示部
42 非発光画像表示部
100 ラインヘッド型のヘッドユニット
101 搬送機構
102、103、104 ヘッド
N ノズル
H ヘッド
HU ヘッドユニット