(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電力管理システム、サーバおよび電力需給の調整方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/14 20060101AFI20240702BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240702BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240702BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20240702BHJP
G06Q 30/0207 20230101ALI20240702BHJP
【FI】
H02J3/14 160
H02J13/00 301A
H02J13/00 311T
H02J7/00 P
G06Q50/06
G06Q30/0207
(21)【出願番号】P 2021096392
(22)【出願日】2021-06-09
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 環
(72)【発明者】
【氏名】中村 達
(72)【発明者】
【氏名】森島 彰紀
(72)【発明者】
【氏名】堀井 雄介
(72)【発明者】
【氏名】松村 亘
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-009565(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130930(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/065419(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H02J 13/00
G06Q 50/06
G06Q 30/0207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力網に電気的に接続された複数の電力調整リソースと、
前記複数の電力調整リソースを管理するサーバとを備え、
前記複数の電力調整リソースは、前記電力網からの供給電力による充電が可能に構成された車両を含み、
前記サーバは、前記電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、前記
車両に電力調整要求を出力し、
前記車両は、前記車両のユーザにより定められた前記車両の充電電力の抑制を許可可能な範囲を前記サーバに送信し、
前記サーバは、
前記
車両が前記電力調整要求に応答して電力調整を行う
場合のインセンティブを
前記車両に付与し、
前記インセンティブは、前記電力網から前記車両への充電料金を含み、さらに、
前記電力調整要求により調整を求められた第1の電力量に対する、前記車両により調整された第2の電力量の乖離が小さいほど、前記
充電料金を低くする、電力管理システム。
【請求項2】
前記サーバは、前記第1の電力量と前記第2の電力量との差分の大きさが小さいほど、前記
充電料金を低くする、請求項1に記載の電力管理システム。
【請求項3】
前記車両の充電電力の抑制を許可可能な範囲は、前記車両への最大充電電力を含む、請求項1または2に記載の電力管理システム。
【請求項4】
前記車両の充電電力の抑制を許可可能な範囲は、前記電力調整要求の非発生時における充電電力に対する、前記電力調整要求の発生時における充電電力の最大割合を含む、請求項1または2に記載の電力管理システム。
【請求項5】
前記車両の充電電力の抑制を許可可能な範囲は、前記車両の充電完了までに要する最長時間を含む、請求項1または2に記載の電力管理システム。
【請求項6】
電力系統から電力網への供給電力の調整に使用可能な複数の電力調整リソースを管理するサーバであって、
前記複数の電力調整リソースは、前記電力網からの供給電力による充電が可能に構成された車両を含み、
前記サーバは、
プロセッサと、
前記プロセッサによって実行可能なプログラムを記憶するメモリとを備え、
前記プロセッサは、
前記電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、前記
車両に電力調整要求を出力し、
前記車両のユーザにより定められた前記車両の充電電力の抑制を許可可能な範囲を前記車両から受信し、
前記車両が前記電力調整要求に応答して電力調整を行う
場合のインセンティブを前記
車両に付与し、
前記インセンティブは、前記電力網から前記車両への充電料金を含み、さらに、
前記電力調整要求により調整を求められた第1の電力量に対する、前記車両により調整された第2の電力量の乖離が小さいほど、前記
充電料金を低くする、サーバ。
【請求項7】
電力系統から電力網への供給電力の調整に使用可能な複数の電力調整リソースを
サーバにより管理する、電力需給の調整方法であって、
前記複数の電力調整リソースは、前記電力網からの供給電力による充電が可能に構成された車両を含み、
前記電力需給の調整方法は、
前記電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、
前記サーバから前記
車両に電力調整要求を出力するステップと、
前記車両のユーザにより定められた前記車両の充電電力の抑制を許可可能な範囲を前記車両から前記サーバに出力するステップと、
前記車両が前記電力調整要求に応答して電力調整を行う
場合のインセンティブを
前記車両に付与するステップ
とを含み、前記インセンティブは、前記電力網から前記車両への充電料金を含み、さらに、
前記電力調整要求により調整を求められた第1の電力量に対する、前記車両により調整された第2の電力量の乖離が小さいほど、前記
充電料金を低くするステッ
プを含む、電力需給の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力管理システム、サーバおよび電力需給の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2013/115318号(特許文献1)は、電力需給を調整する上で効果的なインセンティブ情報をユーザに提供することができる電力需給調整システムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクログリッド等の電力網には複数の電力調整リソース(発電機、自然変動電源、電力貯蔵システム、充電設備、車両等)が電気的に接続されている。電力網の電力調整を行うための要求がサーバから各電力調整リソースに対して出力されると、通常は一部の電力調整リソースが要求に応答して電力調整を行う。要求に応答可能な電力調整リソースが存在しても、その応答が要求に十分に従っていない場合、適切な電力調整が行われない可能性がある。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、電力網の適切な電力調整を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示のある局面に係る電力管理システムは、電力網に電気的に接続された複数の電力調整リソースと、複数の電力調整リソースを管理するサーバとを備える。サーバは、電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、複数の電力調整リソースに電力調整要求を出力し、複数の電力調整リソースのうち電力調整要求に応答して電力調整を行う電力調整リソースである応答リソースにインセンティブを付与する。サーバは、電力調整要求により調整を求められた第1の電力量に対する、応答リソースにより調整された第2の電力量の乖離が小さいほど、インセンティブを大きくする。
【0007】
(2)サーバは、第1の電力量と第2の電力量との差分の大きさが小さいほど、インセンティブを大きくする。
【0008】
上記(1)または(2)の構成においては、電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、サーバから電力調整リソースに電力調整要求が出力される。電力調整リソースが電力調整要求に応答する際、第1の電力量に対する第2の電力量の乖離が小さいほど、大きなインセンティブ(たとえば料金割引)が電力調整リソースに付与される。したがって、できるだけ大きなインセンティブを得たい電力調整リソースのユーザ(所有者、管理者等)が、第2の電力量が第1の電力量に十分に近い値となることを許容することが期待される。よって、電力網の適切な電力調整を行うことができる。
【0009】
(3)応答リソースは、電力網からの供給電力による充電が可能に構成された車両を含む。インセンティブは、電力網から車両への充電料金を含む。
【0010】
(4)応答リソースは、電力網への給電が可能に構成された車両を含む。インセンティブは、車両から電力網への給電料金を含む。
【0011】
(5)応答リソースは、電力網との間で電力の授受が可能に構成された車両を含む。インセンティブは、車両が電力網との間で電力の授受を行うために駐車する駐車スペースへの駐車料金を含む。
【0012】
上記(3)~(5)の構成によれば、車両のユーザにとって電力調整要求に応える意欲が向上するインセンティブを付与できる。
【0013】
(6)本開示の他の局面に係るサーバは、電力系統から電力網への供給電力の調整に使用可能な複数の電力調整リソースを管理する。サーバは、プロセッサと、プロセッサによって実行可能なプログラムを記憶するメモリとを備える。プロセッサは、
電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、複数の電力調整リソースに電力調整要求を出力し、複数の電力調整リソースのうち電力調整要求に応答して電力調整を行う電力調整リソースである応答リソースにインセンティブを付与する。プロセッサは、電力調整要求により調整を求められた第1の電力量に対する、応答リソースにより調整された第2の電力量の乖離が小さいほど、インセンティブを大きくする。
【0014】
上記(6)の構成によれば、上記(1)の構成と同様に、電力網の適切な電力調整を行うことができる。
【0015】
(7)本開示のさらに他の局面に係る電力需給の調整方法は、電力系統から電力網への供給電力の調整に使用可能な複数の電力調整リソースを管理する。電力需給の調整方法は、第1~第3のステップを含む。第1のステップは、電力網における消費電力の抑制または余剰電力の消費が求められる場合に、複数の電力調整リソースに電力調整要求を出力するステップである。第のステップは、複数の電力調整リソースのうち電力調整要求に応答して電力調整を行う電力調整リソースである応答リソースにインセンティブを付与するステップである。第3のステップは、電力調整要求により調整を求められた第1の電力量に対する、応答リソースにより調整された第2の電力量の乖離が小さいほど、インセンティブを大きくするステップである。
【0016】
上記(7)の方法によれば、上記(1)の構成と同様に、電力網の適切な電力調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、電力網の適切な電力調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本開示の本実施の形態に係る電力管理システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】電力調整要求との不一致の一例を説明するためのタイムチャートである。
【
図3】乖離に応じたインセンティブの設定手法の第1例を示す図である。
【
図4】乖離に応じたインセンティブの設定手法の第2例を示す図である。
【
図5】乖離に応じたインセンティブの設定手法の第3例を示す図である。
【
図6】本実施の形態におけるインセンティブの設定に関連する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0020】
[実施の形態]
<電力管理システムの全体構成>
図1は、本開示の本実施の形態に係る電力管理システムの概略的な構成を示す図である。電力管理システム100は、CEMS1と、CEMSサーバ2と、受変電設備3と、電力系統4と、送配電事業者サーバ5とを備える。CEMSとは、コミュニティエネルギー管理システム(Community Energy Management System)または街エネルギー管理システム(City Energy Management System)を意味する。
【0021】
CEMS1は、工場エネルギー管理システム(FEMS:Factory Energy Management System)11と、ビルエネルギー管理システム(BEMS:Building Energy Management System)12と、ホームエネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)13と、発電機14と、自然変動電源15と、電力貯蔵システム(ESS:Energy Storage System)16と、充電設備(EVSE:Electric Vehicle Supply Equipment)17と、車両18とを含む。CEMS1では、これらの構成要素によってマイクログリッドMGが構築されている。なお、マイクログリッドMGは、本開示に係る「電力網」の一例に相当する。
【0022】
FEMS11は、工場で使用される電力の需給を管理するシステムである。FEMS11は、マイクログリッドMGから供給される電力によって動作する工場建屋(照明器具、空調設備等を含む)、産業設備(生産ライン等)などを含む。図示しないが、FEMS11は、工場に設置された発電設備(発電機、太陽光パネル等)を含み得る。これらの発電設備により発電された電力がマイクログリッドMGに供給される場合もある。FEMS11は、CEMSサーバ2と双方向通信が可能なFEMSサーバ110をさらに含む。
【0023】
BEMS12は、オフィスまたは商業施設等のビルで使用される電力の需給を管理するシステムである。BEMS12は、ビルに設置された照明器具および空調設備を含む。BEMS12は、発電設備(太陽光パネル等)を含んでもよいし、冷熱源システム(廃熱回収システム、蓄熱システム等)を含んでもよい。BEMS12は、CEMSサーバ2と双方向通信が可能なBEMSサーバ120をさらに含む。
【0024】
HEMS13は、家庭で使用される電力の需給を管理するシステムである。HEMS13は、マイクログリッドMGから供給される電力によって動作する家庭用機器(照明機器、空調装置、他の電気製品等)を含む。また、HEMS13は、太陽光パネル、家庭用ヒートポンプシステム、家庭用コージェネレーションシステム、家庭用蓄電池などを含んでもよい。HEMS11は、CEMSサーバ2と双方向通信が可能なHEMSサーバ130をさらに含む。
【0025】
発電機14は、気象条件に依存しない発電設備であり、発電された電力をマイクログリッドMGに出力する。発電機14は、蒸気タービン発電機、ガスタービン発電機、ディーゼルエンジン発電機、ガスエンジン発電機、バイオマス発電機、定置式の燃料電池などを含み得る。発電機14は、発電時に発生する熱を活用するコージェネレーションシステムを含んでもよい。
【0026】
自然変動電源15は、気象条件によって発電出力が変動する発電設備であり、発電された電力をマイクログリッドMGに出力する。
図1には太陽光発電設備(太陽光パネル)が例示されているが、自然変動電源15は、太陽光発電設備に代えてまたは加えて、風力発電設備を含んでもよい。
【0027】
電力貯蔵システム16は、自然変動電源15などにより発電された電力を蓄える定置式電源である。電力貯蔵システム16は、二次電池であり、たとえば車両で使用されたバッテリ(リサイクル品)のリチウムイオン電池またはニッケル水素電池である。ただし、電力貯蔵システム16は、二次電池に限られず、余剰電力を用いて気体燃料(水素、メタン等)を製造するパワー・ツー・ガス(Power to Gas)機器であってもよい。
【0028】
充電設備17は、マイクログリッドMGに電気的に接続され、マイクログリッドMGとの間で充電および放電(給電)が可能に構成されている。
【0029】
車両18は、具体的には、プラグインハイブリッド車(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle)、電気自動車(EV:Electric Vehicle)等である。車両18は、外部充電および外部給電のうちの一方または両方が可能に構成されている。すなわち、車両18は、充電ケーブルが車両18のインレット(図示せず)に接続された場合に、マイクログリッドMGから車両18へと電力を供給することが可能に構成されている(外部充電)。また、車両18は、充電ケーブルが車両18のアウトレット(図示せず)に接続された場合に、車両18からマイクログリッドMGへと電力を供給することが可能に構成されていてもよい(外部給電)。
【0030】
なお、
図1に示す例では、CEMS1に含まれるFEMS11、BEMS12、HEMS13、発電機14、自然変動電源15、電力貯蔵システム16の数が1個ずつであるが、これらのシステムまたは設備の含有数は任意である。CEMS1は、これらのシステムまたは設備を複数含んでもよい、また、CEMS1に含まれないシステムまたは設備があってもよい。CEMS1に含まれるFEMS11(工場建屋、産業設備等)、BEMS12(照明器具、空調設備等)、HEM13(家庭用機器等)、発電機14、自然変動電源15、電力貯蔵システム16、充電設備17、車両18の各々は、本開示に係る「電力調整リソース」に相当するため、これらのシステムまたは設備を特に区別しない場合には以下、「電力調整リソース」とも記載する。
【0031】
CEMSサーバ2は、CEMS1内の電力調整リソースを管理するコンピュータである。CEMSサーバ2は、制御装置21と、記憶装置22と、通信装置23とを含む。制御装置21は、プロセッサを含み、所定の演算処理を実行するように構成されている。記憶装置22は、制御装置21により実行されるプログラムを記憶するメモリを含み、そのプログラムで使用される各種情報(マップ、関係式、パラメータ等)を記憶している。通信装置23は、通信インターフェースを含み、外部(他のサーバ等)と通信するように構成されている。
【0032】
CEMSサーバ2は、アグリゲータサーバであってもよい。アグリゲータとは、複数の電力調整リソースを束ねてエネルギーマネジメントサービスを提供する電気事業者である。CEMSサーバ2は、本開示に係る「サーバ」に相当する。また、FEMS11、BEMS12およびHEMS13の各システムに含まれるサーバ(110,120,130)を本開示に係る「サーバ」とすることもできる。
【0033】
受変電設備3は、マイクログリッドMGの連系点(受電点)に設けられ、マイクログリッドMGと電力系統4との並列(接続)/解列(切り離し)を切り替え可能に構成されている。受変電設備3は、いずれも図示しないが、高圧側(一次側)の開閉装置、変圧器、保護リレー、計測機器および制御装置を含む。マイクログリッドMGが電力系統4と連系しているときに、受変電設備3は、電力系統4から、たとえば特別高圧(7000Vを超える電圧)の交流電力を受電し、受電した電力を降圧してマイクログリッドMGに供給する。
【0034】
電力系統4は、発電所および送配電設備によって構築された電力網である。この実施の形態では、電力会社が発電事業者と送配電事業者とを兼ねる。電力会社は、一般送配電事業者に相当するとともに、電力系統4の管理者に相当し、電力系統4を保守および管理する。
【0035】
送配電事業者サーバ5は、電力会社に帰属し、電力系統4の電力需給を管理するコンピュータである。送配電事業者サーバ5もCEMSサーバ2と双方向通信が可能に構成されている。
【0036】
<電力調整要求との不一致>
マイクログリッドMGの電力調整を行うための要求がCEMSサーバ2から電力調整リソースに対して出力されると、電力調整リソースが電力調整要求に応答して電力調整を行う。しかし、電力調整リソースによる応答が電力調整要求に十分に従っていない場合、CEMSサーバ2がマイクログリッドMG内の電力需給を適切に管理することが難しくなり得る。
【0037】
図2は、電力調整要求との不一致の一例を説明するためのタイムチャートである。横軸は経過時間を表す。この例では、期間Tの間、マイクログリッドMG内の消費電力の抑制が求められた状況を想定する。
【0038】
CEMSサーバ2は、マイクログリッドMG内の消費電力の抑制を求める要求である「抑制要求」を電力調整リソースに出力する。電力調整リソース(本開示に係る「応答リソース」に相当)は、抑制要求に応答し、抑制要求への応答前と比べて消費電力を抑制する。簡単のため、この例において、電力調整リソースは、CEMSサーバ2からの抑制要求に速やかに応答する。つまり、CEMSサーバ2から抑制要求が出力されるタイミングと、電力調整リソースにより実際に消費電力が抑制されるタイミングとの間に時間的な乖離は生じていない。
【0039】
その一方で、抑制要求により抑制を求められた消費電力量と、電力調整リソースにより実際に抑制された消費電力量との間には、一定程度の乖離が生じている。
図2に示す例では、P1の消費電力の抑制が要求されているのに対して、電力調整リソースによる実際の消費電力の抑制はP2に留まる。抑制を要求された消費電力量がP1×Tであるのに対して、実際に抑制された消費電力量はP2×Tであり、上記2つの電力量の間に(P1-P2)×Tの乖離が生じている。このような乖離が生じた場合、乖離が大きいほど、マイクログリッドMG内の電力需給管理が難しくなる。
【0040】
そこで、本実施の形態においては、抑制要求により抑制を求められた消費電力量と、電力調整リソースにより実際に抑制された消費電力量との間の「乖離」が小さいほど(両者の一致度合いが高いほど)、CEMS2サーバから電力調整リソースに対して大きなインセンティブを付与する構成を採用する。よって、電力調整リソースには、電力量の面で抑制要求に厳密に従うほど、大きなインセンティブが付与される。
【0041】
<インセンティブ>
図3は、乖離に応じたインセンティブの設定手法の第1例を示す図である。
図4は、乖離に応じたインセンティブの設定手法の第2例を示す図である。
図5は、乖離に応じたインセンティブの設定手法の第3例を示す図である。横軸は、電力量の乖離を表す。乖離は、(P1-P2)×Tであってもよいし、その値を相対値に換算したもの(たとえば(P1-P2)/P1)であってもよい。縦軸は、CEMS2サーバから電力調整リソースに付与されるインセンティブを表す。
【0042】
本実施の形態においては、乖離が小さいほどインセンティブが大きく定められる。乖離とインセンティブとの間の関係は、たとえば
図3に示すような直線関係である。しかし、当該関係は、これに限定されるものではなく、曲線的な関係(
図4参照)であってもよいし、ステップ的な関係(
図5参照)であってもよい。
【0043】
インセンティブの大小は、たとえば料金によって規定され得る。具体的には、インセンティブが大きくなるとは、たとえば、CEMS1内の電力調整リソースのユーザ(所有者)が支払う電気料金が低くなることを意味する。一例として電力調整リソースが車両18である場合、インセンティブが大きくなるに従って、外部充電における車両18への充電料金が低くなる。あるいは、インセンティブが大きくなるとは、ユーザが受け取る売電料金が高くなることを意味する。電力調整リソースが車両18である場合、インセンティブが大きくなるに従って、外部給電における車両18からの給電料金が高くなる。インセンティブは、外部充電時または外部給電時における車両18の駐車料金であってもよい。
【0044】
このように、電力量の乖離に応じたインセンティブを導入することで、より厳密に抑制要求に従って電力調整リソースが電力調整を行うことが期待できる。その結果、マイクログリッドMG内の電力需給を適切に管理し、それにより、CEMS1と電力会社との間の契約を遵守したりすることが可能になる。
【0045】
なお、
図2では理解を容易にするため、電力が2回だけステップ的に変化する単純な例について説明したが、電力が3回以上ステップ的に変化してもよいし、電力が連続的に変化してもよい。
【0046】
<処理フロー>
以下においては、車両18が電力調整リソースとして用いられる構成を例に説明する。この例では、充電設備17を介したマイクログリッドMGから車両18への充電電力を抑制する(または、充電設備17を介して車両18からマイクログリッドMGに給電する)ことで、マイクログリッドMGの電力調整が行われる。
【0047】
図6は、本実施の形態におけるインセンティブの設定に関連する処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、予め定められた条件が成立する度に、または、予め定められた周期毎にメインルーチン(図示せず)から呼び出されて実行される。
図4では、CEMSサーバ2により実行される一連の処理を左側に示し、車両18により実行される一連の処理を右側に示している。各ステップは、CEMSサーバ2または車両18のECU(Electronic Control Unit)によるソフトウェア処理により実現されるが、CEMSサーバ2または車両18内に作製されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。以下、ステップをSと略す。
【0048】
S11において、CEMSサーバ2は、マイクログリッドMGの電力需要過多の状況が発生することが予測されるかどうかを判定する。たとえば、CEMSサーバ2は、30分同時同量にて計画された供給電力量に対する実際の供給電力量の比率(差であってもよい)が所定値を超えた場合に、電力需要過多の状況が発生し得ると判定できる。また、CEMSサーバ2は、電力系統4からマイクログリッドMGへの供給電力に対する、マイクログリッドMG内の各電力調整リソースの合計消費電力の比率が所定値よりも高くなることが過去の電力消費実績に基づき予測される場合に、電力需要過多の状況が発生し得ると判定してもよい。
【0049】
電力需要過多の状況が発生しない場合(S11においてNO)には以降の処理は実行されることなく、処理がメインルーチンに戻される。電力需要過多の状況が発生し得る場合(S11においてYES)、CEMSサーバ2は、車両18に充電電力の抑制を要求する(S12)。
【0050】
抑制要求を受けた車両18のユーザは、その抑制要求を承諾可能かどうかを回答する(S21)。たとえば、抑制要求を承諾可能であることを示す操作をユーザが車両18のHMI(Human Machine Interface)またはスマートホン等のユーザ端末(いずれも図示せず)に対して行った場合に、車両18は、抑制要求を承諾可能と回答できる。ユーザが抑制要求を承諾しない場合(S21においてNO)、車両18は、処理をメインルーチンに戻す。抑制要求を承諾する場合(S21においてYES)、車両18は、その旨をCEMSサーバ2に出力する(S22)。
【0051】
S23において、ユーザは、車両18への充電電力の抑制をどの程度であれば許可可能か、許可する範囲を設定する。たとえば、ユーザは、抑制要求により求められた通りに充電電力を抑制することを許可する旨を設定できる。あるいは、抑制要求により求められた通りに充電電力を抑制すると充電時間が長くなり過ぎる場合には、ユーザは、充電電力の抑制を許可可能な範囲を設定してもよい。具体例を挙げて説明すると、ユーザは、たとえば、充電設備17の充電電力(供給可能な最大電力)は40kWであるが、車両18への最大充電電力を10kWまで抑制することを許可すると設定してもよい。ユーザは、通常の充電時(抑制要求の非発生時)の50%までの範囲であれば充電電力の抑制を許可すると設定してもよい。ユーザは、3時間後までに充電を完了可能な範囲内で充電電力の抑制を許可すると設定してもよい。なお、ユーザは、上記の範囲を抑制要求の発生前に予め設定しておいてもよい。設定された範囲はCEMSサーバ2に送られる。
【0052】
S24において、車両18は、抑制要求に対して応答する。すなわち、車両18は、S23にて設定された範囲内で、条件抑制要求への承諾前と比べて、マイクログリッドMGから車両18への充電電力を抑制する。なお、ここでは充電電力の抑制を例に説明したが、逆に、車両18からマイクログリッドMGへの給電が行われてもよい。
【0053】
S13において、CEMSサーバ2は、マイクログリッドMG内の電力消費抑制に関する終了条件が成立したかどうかを判定する。CEMSサーバ2は、たとえば、抑制要求の出力時から所定時間が経過した場合に終了条件が成立したと判定できる。終了条件が成立した場合(S13においてYES)、CEMSサーバ2は、抑制要求により抑制を求められた消費電力量と、電力調整リソースにより実際に抑制された消費電力量との間の乖離を算出する(S14)。前述のように、乖離は、電力量の差(P1-P2)×Tであってもよいし、抑制要求により抑制を求められた消費電力量P1×Tに対する、上記電力量の差(P1-P2)×Tの割合(P1-P2)/P1であってもよい。
【0054】
S15において、CEMSサーバ2は、S14にて算出された乖離に応じたインセンティブを車両18に付与する。
図3~
図5にて説明したように、インセンティブは、乖離が小さいほど大きくなるように設定される。
【0055】
以上のように、本実施の形態においては、電力需要過多となる状況が予測される場合に、CEMSサーバ2から車両18に充電電力の抑制要求が出力される。車両18のユーザが充電電力の抑制を承諾した場合、実際に抑制された充電電力量が抑制要求に従って抑制された場合の充電電力量に近いほど、大きなインセンティブ(充電料金の割引、駐車料金の割引等)がユーザに付与される。したがって、できるだけ大きなインセンティブを得たいユーザが、自身が受け入れ可能な範囲内で十分に大きな充電電力の抑制を許可することが期待されるので、実際と要求との間の充電電力量の乖離を低減させることができる。よって、本実施の形態によれば、CEMSサーバ2がマイクログリッドMGの電力需給を適切に管理できる。
【0056】
なお、この例では、マイクログリッドMGにおいて電力需要過多となる状況の発生が予測される場合に、電力量の乖離に応じたインセンティブを付与すると説明した。しかし、電力需要過多の状況が既に発生している場合にも同様に、電力量の乖離に応じたインセンティブを付与できる。また、
図2および
図6ではマイクログリッドMG内の消費電力を抑制する例について説明したが、CEMSサーバ2は、マイクログリッドMG内で電力系統4の余剰電力の消費を増大させる場合にも同様にインセンティブを可変に設定できる。
【0057】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 CEMS、11 FEMS、110 FEMSサーバ、12 BEMS、120 BEMSサーバ、13 HEMS、130 HEMSサーバ、14 発電機、15 自然変動電源、16 電力貯蔵システム、17 充電設備、18 車両、2 CEMSサーバ、21 制御装置、22 記憶装置、23 通信装置、3 受変電設備、4 電力系統、5 送配電事業者サーバ、100 電力管理システム。