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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】アミノ酸の分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240702BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20240702BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N30/88 F
G01N30/06 E
G01N30/88 W
G01N30/34 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021127548
(22)【出願日】2021-08-03
(65)【公開番号】P2023022595
(43)【公開日】2023-02-15
【審査請求日】2023-12-08
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.第31回クロマトグラフィー科学会議(SCS31) クロマトグラフィー科学会主催。開催期間:2020年11月18~20日 予稿配布及びポスター発表日:2020年11月19日 2.新アミノ酸分析研究会第10回学術講演会 発表日:2020年11月30日 3.島津Application News No.L592 初版掲載日:2021年1月22日 掲載アドレス:https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/lc/an_1592.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岩田 奈津紀
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-163155(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092818(WO,A1)
【文献】実開平6-86075(JP,U)
【文献】特開昭60-038652(JP,A)
【文献】特開2005-003558(JP,A)
【文献】特開2018-100906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 30/48-30/98
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種のアミノ酸を含有する試料を誘導体化試薬で誘導体化処理し、得られた誘導体化試料を移動相と共にカラムに流通させる、液体クロマトグラフィーによるアミノ酸の分析方法であって、
前記移動相が複数の移動相から構成され、かつ少なくとも1つの移動相が混合溶媒系であり、
2種以上の誘導体化試薬を用いて、2種以上の誘導体化試料を調製し、
前記誘導体化試薬の種類毎に、前記複数の移動相の混合比を時間の経過に伴い変化させる、異なる分析条件を設定し、
かつ、前記誘導体化試薬の種類毎に、混合溶媒系である移動相における溶媒混合比を設定し、
前記2種以上の誘導体化試料を、前記異なる分析条件及び溶媒混合比を自動で切り替えて分析し、誘導体化L-アミノ酸及び誘導体化D-アミノ酸を分離し定量する、アミノ酸の分析方法。
【請求項2】
前記アミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン、アラニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、グリシンを分析する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数の移動相が、移動相A及び移動相Bの2種からなり、
前記誘導体化試薬の種類毎に、前記移動相A及び移動相Bの混合比を時間の経過に伴い変化させる分析条件を設定し、前記異なる分析条件を自動で切り替えて前記2種以上の誘導体化試料を分析する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記移動相Aが緩衝液であり、移動相Bが混合溶媒系である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記移動相Bが水、アセトニトリル及びメタノールの混合溶媒系であり、かつ前記誘導体化試薬の種類毎に、その溶媒混合比を設定し、前記2種以上の誘導体化試料の分析毎に前記溶媒混合比を自動で切り替える、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記誘導体化試薬として、o-フタルアルデヒド及びN-アセチル-L-システインの混合物、並びにo-フタルアルデヒド及びN-イソブチリル-L-システインの混合物、の2種を用いる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導体化処理を、前処理機能を有する自動試料導入装置により行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
カラムに流通する移動相のpHが7~12である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸の分析方法に関する。詳細には、本発明は、タンパク質を構成するL-アミノ酸及びD-アミノ酸の一斉分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸の多くはα位に不斉炭素原子を有しており、L体とD体の鏡像異性体が存在する。タンパク質の構成単位をはじめ自然界に存在するアミノ酸の殆どがL-アミノ酸であるが、近年、発酵食品や生体試料に、多くのL-アミノ酸以外に数種のD-アミノ酸が含まれることが知られるようになった。生体内や、食品・食材の呈味性、保存性、香気性等におけるD-アミノ酸の役割の研究を進展させ、医薬品や機能性食品の開発へ役立てる上で、アミノ酸のD/L分離の需要が高まっている。D-アミノ酸の量はL-アミノ酸の量に比べ食品中や生体内において微量であるため、高濃度に存在するL-アミノ酸と分離し定量することが求められる。
【0003】
D体を含み得るアミノ酸(以下、「D/L-アミノ酸」と記す場合がある。)の高速液体クロマトグラフ(HPLC)分析方法として、光学活性なプレカラム誘導体化試薬を用いて誘導体化し、アミノ酸のL体とD体を逆相カラムで分離し検出する方法(特許文献1及び非特許文献1参照)が知られている。
また、一般に、D/L-アミノ酸をHPLCで分析する際、単一の分析条件では全ての成分の分離が困難であるため、複数のアミノ酸の一斉分析を行う方法として、二次元HPLCによる方法が提案されている。例えば、逆相カラム及びキラルカラムを使用し、誘導体化後に蛍光検出又はMS検出する方法(特許文献2、非特許文献2及び非特許文献3参照)、プレカラム誘導体化液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC-MS/MS法:非特許文献4及び非特許文献5参照)、2種のキラルカラムを交互に使用し、試料中のアミノ酸を誘導体化することなくLC/MSで検出する、非誘導体化LC-MS/MS法(非特許文献6参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-163155号公報
【文献】特許第4291628号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Brueckner H., Wittner R., Godel H., J Chromatogr. A 1989;476:73-82.
【文献】新エネルギー・産業技術総合開発機構ニュースリリース、産技助成Vol.14、2008年7月31日、 URL:https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_0386A.html
【文献】Hamase K.,Morikawa A.,Ohgusu T.,Lindner W.,Zaitsu K., J. Chromatogr. A2007;1143:105-111.
【文献】Visser W.F.,Verhoeven-Duif N.M.,Ophoff R.,Bakker S.,Klomp L.W.,Berger R.,et al. J. Chromatogr. A 2011;1218:7130-6.
【文献】Min J.Z.,Hatanaka S.,Yu H.F.,Higashi T.,Inagaki S.,Toyo’oka T., J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. LifeSci. 2011;879:3220-8.
【文献】Nakano Y.,Konya Y.,Taniguchi M.,Fukusaki E., J. Biosci. Bioeng.2017;123:134-138.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特殊な誘導体化試薬を用いる分析方法は、コストや汎用性の観点で、多種のD/L-アミノ酸の一斉分析への適用に課題がある。
二次元HPLCによる方法は、分析に長時間を要し、かつ複雑なシステムを要するという課題がある。すなわち、複数の分析条件(移動相、カラム等)を用いて試料中のD/L-アミノ酸を一斉分析する際、分析条件の切換時に移動相の置換が必要であり、全く異なる分析条件の場合は装置内の移動相の切換のみならず、使用するカラムの平衡化に時間を要する。また、複数の分析条件に各々対応する移動相の調製にも手間を要する。
さらに、分析対象とするD-アミノ酸の種類によっては、1試料に対し2種またはそれ以上の異なる誘導体化反応を行う必要があり、1試料あたり2個以上、すなわち試料数の2倍量以上のバイアルの準備や、人による誘導体化反応の作業に手間を要する。
一方、LC/MS分析は高価なシステムを要するほか、目的成分のイオン化の際にそのシグナル強度に対して、試料中に含まれる夾雑物がイオンサプレッションやエンハンスを引き起こす、マトリックス効果の影響を受けやすく、他のHPLCの検出器に比べ定量性に乏しい。そのため定量を行う場合は、内部標準による補正が必要となる。また、LC/MSの汚染原因となるイオンペア試薬(トリフルオロ酢酸等)を用いるため、装置を専用化する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、試料中のD/L-アミノ酸を高い再現性で簡便に分析可能なアミノ酸の分析方法を提供すること、特にタンパク質を構成するL-アミノ酸及びD-アミノ酸の一斉分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 複数種のアミノ酸を含有する試料を誘導体化試薬で誘導体化処理し、得られた誘導体化試料を移動相と共にカラムに流通させる、液体クロマトグラフィーによるアミノ酸の分析方法であって、
前記移動相が複数の移動相から構成され、かつ少なくとも1つの移動相が混合溶媒系であり、
2種以上の誘導体化試薬を用いて、2種以上の誘導体化試料を調製し、
前記誘導体化試薬の種類毎に、前記複数の移動相の混合比を時間の経過に伴い変化させる、異なる分析条件を設定し、
かつ、前記誘導体化試薬の種類毎に、混合溶媒系である移動相における溶媒混合比を設定し、
前記2種以上の誘導体化試料を、前記異なる分析条件及び溶媒混合比を自動で切り替えて分析し、誘導体化L-アミノ酸及び誘導体化D-アミノ酸を分離し定量する、アミノ酸の分析方法。
[2] 前記アミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、セリン、グルタミン、ヒスチジン、トレオニン、アルギニン、アラニン、チロシン、バリン、メチオニン、シスチン、トリプトファン、イソロイシン、フェニルアラニン、ロイシン、リジン、グリシンを分析する、[1]に記載の方法。
【0009】
[3] 前記複数の移動相が、移動相A及び移動相Bの2種からなり、
前記誘導体化試薬の種類毎に、前記移動相A及び移動相Bの混合比を時間の経過に伴い変化させる分析条件を設定し、前記異なる分析条件を自動で切り替えて前記2種以上の誘導体化試料を分析する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記移動相Aが緩衝液であり、移動相Bが混合溶媒系である、[3]に記載の方法。
[5] 前記移動相Bが水、アセトニトリル及びメタノールの混合溶媒系であり、かつ前記誘導体化試薬の種類毎に、その溶媒混合比を設定し、前記2種以上の誘導体化試料の分析毎に前記溶媒混合比を自動で切り替える、[3]又は[4]に記載の方法。
[6] 前記誘導体化試薬として、o-フタルアルデヒド及びN-アセチル-L-システインの混合物、並びにo-フタルアルデヒド及びN-イソブチリル-L-システインの混合物、の2種を用いる、[1]~[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 前記誘導体化処理を、前処理機能を有する自動試料導入装置により行う、[1]~[6]のいずれか1項に記載の方法。
8] カラムに流通する移動相のpHが7~12である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、試料中のD/L-アミノ酸を高い再現性で簡便に分析可能なアミノ酸の分析方法、特にタンパク質を構成するL-アミノ酸及びD-アミノ酸の一斉分析方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るアミノ酸の分析方法に用いられる、液体クロマトグラフ分析システム例を示す概略構成図である。
図2図1の液体クロマトグラフ分析システムを用いた分析動作例のフローチャートである。
図3】実施例で得られた検量線の例である。
図4】実施例で、アミノ酸の標準試料を測定して得られたクロマトグラムの例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、複数種のアミノ酸を含有する試料を誘導体化試薬で誘導体化処理し、得られた誘導体化試料を移動相と共にカラムに流通させる、液体クロマトグラフィーによるアミノ酸の分析方法であって、
前記移動相が複数の移動相から構成され、かつ少なくとも1つの移動相が混合溶媒系であり、
2種以上の誘導体化試薬を用いて、2種以上の誘導体化試料を調製し、
前記誘導体化試薬の種類毎に、前記複数の移動相の混合比を時間の経過に伴い変化させる、異なる分析条件を設定し、
かつ、前記誘導体化試薬の種類毎に、混合溶媒系である移動相における溶媒混合比を設定し、
前記2種以上の誘導体化試料を、前記異なる分析条件及び溶媒混合比を自動で切り替えて分析し、誘導体化L-アミノ酸及び誘導体化D-アミノ酸を分離し定量する、アミノ酸の分析方法(以降、単に「本方法」と記す場合がある。)である。
【0013】
本方法で分析対象となるアミノ酸は、好適にはタンパク質を構成する、プロリン以外のアミノ酸である。具体的には、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、セリン(Ser)、グルタミン(Gln)、ヒスチジン(His)、トレオニン(Thr)、アルギニン(Arg)、アラニン(Ala)、チロシン(Tyr)、バリン(Val)、メチオニン(Met)、シスチン((Cys))、トリプトファン(Trp)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、ロイシン(Leu)、リジン(Lys)、グリシン(Gly)が挙げられる。このうち、不斉炭素原子を分子内に有しないグリシンを除くアミノ酸にL体とD体が存在する。すなわち本方法では、好適には37成分のアミノ酸を一斉に分析することができる。
【0014】
本方法では、2種以上の誘導体化試薬を用いる。アミノ酸の誘導体化試薬としては、遊離のアミノ基と反応してアミノ酸分析を促進する置換基を有する化合物が従来より用いられており、例えばニンヒドリン、フェニルイソチオシアネート(PITC)、o-フタルアルデヒド(OPA)、2,4-ジニトロフルオロベンゼン(DNFB)、Nα-(2,4-ジニトロ-5-フルオロフェニル)-L-アラニンアミド(FDAA)、4-フルオロ-7-ニトロベンゾフラザン(NBD-F)等が挙げられる。
本方法において、誘導体化試薬は、D/L-アミノ酸をジアステレオマーとして誘導体化し、かかる誘導体化D-アミノ酸及び誘導体化L-アミノ酸を蛍光検出により分析可能とする。このような誘導体化試薬として、OPA及びN-アセチル-L-システイン(NAC)の混合物(以下、「OPA/NAC」と称する場合がある。)、並びにOPA及びN-イソブチリル-L-システイン(NIBC)の混合物(以下、「OPA/NIBC」と称する場合がある。)の2種類を用いるのが極めて好ましい。
NAC又はNIBCはいずれも光学活性部位を有するキラルチオールであり、これらキラルチオールの存在下でOPAを反応させることによりD/L-アミノ酸をジアステレオマー蛍光誘導体化し、蛍光検出により分析可能とできる。
【0015】
本方法では、分析に供する試料の誘導体化処理を予め手作業で行い、複数の誘導体化試料を準備して分析を行ってもよいが、本方法を一層効率的に行う観点からは、誘導体化処理を、前処理機能を有する自動試料導入装置(以下、オートサンプラーとも記す。)により行うことが好ましい。
前処理機能を有するオートサンプラーを用いると、誘導体化試薬及び試料を自動で混合して誘導体化処理する操作をプログラム設定した該オートサンプラーに誘導体化試薬及び分析対象とする試料を入れたバイアル瓶をセットし、前記設定を実行することで誘導体化処理を自動で行い、誘導体化された試料をそのまま分析に供することができる。
なお、オートサンプラーでの誘導体化処理はバイアル瓶で行われてもよいし、ニードル内で混合する機能を有する場合は、誘導体化処理がニードル内で行われてもよい。
【0016】
複数種のアミノ酸を含有する試料を誘導体化試薬で誘導体化処理し、得られた誘導体化試料を移動相と共にカラムに流通させて、HPLCによる分析を行う。
カラムの充填剤の平均粒子径は好ましくは1~6μmであり、微細孔を有していてもよく、比表面積が50~600m/gの粒子、例えばシリカ粒子であってよい。かかる粒子は、アミノ酸の分離を容易にするために誘導体化アミノ酸と相互作用する結合表面を有してもよい。好適な結合表面として、例えばC4、C8又はC18アルキル結合基を含んでいてもよいアルキル結合表面等の疎水性結合表面が挙げられる。より具体的には、例えばオクタデシルシリル(ODS)基で表面が修飾されたシリカ粒子を充填剤(固定相)とするカラムが挙げられる。
カラムの長さは15~300mmの範囲が好ましく、直径は0.5~5mmの範囲が好ましい。カラムは市販品を用いることができ、好適なカラムの例として、Shim-pack Scepter(登録商標)が挙げられる。
【0017】
本方法では、前記移動相が複数の移動相から構成され、かつ少なくとも1つの移動相が混合溶媒系であり、複数の移動相の組成を変化させながら(以下、グラジエント条件とも称する)HPLC分析を行う。詳細には、カラムに流通させる移動相の親水性が高い状態で分析を開始し、時間の経過に伴い、移動相の親水性を徐々に低くして(移動相中の疎水性溶媒の量を増加させて)いくようにグラジエント条件を設定する。このように移動相の親水性を変化させることで、親水性アミノ酸は疎水性アミノ酸より先にカラムを通過して溶出され、移動相の組成を変化させないアイソクラティック条件に比べ、分析に要する時間を短縮でき、高い再現性で多種のアミノ酸を一斉に分析できる。
【0018】
従来のD-アミノ酸分析方法で、複数種の誘導体化試薬を対象試料に添加して誘導体化した試料を分析する際、まずいずれかの誘導体化試薬を用いて誘導体化した試料をHPLC分析し、続いて別の誘導体化試薬を用いて誘導体化した試料をHPLC分析する。このときに、移動相やカラム種、グラジエント条件の初期条件等の種々の分析条件に大幅な変更が伴うことが多く、手間と時間を要していた。また、複数の分析条件に各々対応する移動相の調製や試料数の2倍量以上のバイアルの準備等、分析に使用する様々な消費財のコストも無視できなかった。
【0019】
本方法の好適な実施態様では、複数の移動相が、移動相A及び移動相Bの2種からなり、誘導体化試薬の種類毎に、移動相A及び移動相Bの混合比を時間の経過に伴い変化させる分析条件を設定する。好適には移動相Aが緩衝液であり、移動相Bが混合溶媒系であり、誘導体化試薬の種類毎に、移動相Bにおける溶媒混合比を設定する。
さらに、2種以上の誘導体化試薬として、前記したOPA/NACとOPA/NIBCの2種類を用いると、2種の誘導体化試料の分析における移動相A、及び移動相Bを構成する混合溶媒系の溶媒種を同一にできる。そして、移動相Aと移動相Bのグラジエント条件、及び移動相Bの混合溶媒系の混合溶媒比以外の諸条件、すなわちカラム種、カラム温度、移動相の流速、検出器等の分析条件を同一にできる。
したがって、かかる異なる分析条件のみを自動で切り替えれば、前記2種以上の誘導体化試料を簡便に分析し、誘導体化L-アミノ酸及び誘導体化D-アミノ酸を高い再現性で分離し定量することができる。
【0020】
移動相Aに使用できる緩衝液としては、酢酸系緩衝液、リン酸系緩衝液、ホウ酸系緩衝液等が挙げられる。中でも、移動相AのpHが5以上、好ましくはpH7~12、特にpH7~11であるのが好ましい。また、移動相A及び移動相Bが混合された後のpHが7~12、好ましくは7~11の範囲に維持可能な緩衝液であるのが好ましく、リン酸系緩衝液がより好ましい。
緩衝液には、本方法におけるアミノ酸分析の精度を阻害しない範囲で、無機塩、制菌剤、界面活性剤等が含まれていてもよい。
【0021】
移動相Bに使用できる混合溶媒系を構成する溶媒としては、水、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは2種を混合しても、3種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
中でも、移動相Bが水、アセトニトリル及びメタノールの混合溶媒系であるのが好ましい。かつ、前記誘導体化試薬の種類毎に、その溶媒混合比を設定するのが好ましい。かかる態様であれば、前記2種以上の誘導体化試料の分析毎に、前記溶媒混合比を自動で切り替えればよいので好ましい。
【0023】
本方法における特に好適な実施形態は、移動相を以下のように設定する。
すなわち、OPA/NACで誘導体化した試料の分析に際しては、移動相Bにおける混合溶媒系の溶媒種の選択及び配合量比を水/アセトニトリル/メタノール=15/10/75(容量比)とする。OPA/NIBCで誘導体化した試料の分析に際しては、移動相Bにおける混合溶媒系を水/アセトニトリル/メタノール=10/20/70(容量比)とする。
OPA/NACの分析に対し、OPA/NIBCの分析における移動相Bは水の含有量が少なくアセトニトリル含有量が多く、相対的に疎水性とした条件である。また、NACはアセチル基を有するのに対し、NIBCはイソブチリル基を有するため相対的に疎水性が高く、かかる疎水性の差も利用することで、複数のアミノ酸、具体的にはタンパク質構成D/Lアミノ酸を、グリシンを含め一斉分析することが可能である。
【0024】
以下、本方法について図面を参照しながら詳細に説明する。
1.液体クロマトグラフ分析システムの構成
図1は、本方法を実施するための液体クロマトグラフ分析システムの一例の概略構成図である。この液体クロマトグラフ分析システム100は、移動相ブレンディングユニット10と、送液ユニット20と、オートサンプラー30と、カラムオーブン40及びカラム41と、検出器50と、操作部60と、表示部70とを含む。なお、液体クロマトグラフ分析システム100はこれらの構成に限定されず、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【0025】
送液ユニット20は、複数の移動相を吸引して送液する送液ポンプと、かかる複数の移動相を所定の混合比率で混合する混合器を有する。図1では、2種の移動相(移動相A及び移動相B)を送液する送液ポンプ21A、21Bを備える例を示しており、送液ポンプ21Aには移動相Aが貯留された移動相容器11が接続され、送液ポンプ21Bには移動相ブレンディングユニット10が接続されている。また、送液ポンプ21A及び21Bからそれぞれ送液される、移動相A及び移動相Bを所定の混合比率で混合する混合器22を備える。
【0026】
移動相ブレンディングユニット10は、それぞれ異なる複数の移動相が貯留された移動相容器を有し、図1では4つの移動相(以下溶媒a、溶媒b、溶媒c、溶媒dという)が貯留された移動相容器11a、11b、11c、11dを備える例を示す。
移動相ブレンディングユニット10は、移動相容器11a、11b、11c、11dから溶媒a、溶媒b、溶媒c、溶媒dを吸引して所定の混合比率で混合して移動相Bを調製する、複数の開度調整可能な電磁バルブを含む混合器12を備えており、調製された移動相Bは送液ポンプ21Bにより送液される。
【0027】
オートサンプラー30は、一定量の試料を注入するオートインジェクター33を備える。オートサンプラー30は好適には分析試料の前処理機能を有しており、複数の誘導体化試薬31a、31b及び分析試料32を設置できる。
【0028】
オートサンプラー30には、混合器22を介して移動相A及び移動相Bが所定の混合比率で混合された移動相が送られてくる。オートサンプラー30の前処理機能を用いて、誘導体化試薬及び分析試料を予め混合して誘導体化処理し、調製した誘導体化試料をオートインジェクター33で所定量吸引して移動相に注入する。オートインジェクター33により注入された誘導体化試料は、前記混合された移動相と共に、誘導体化アミノ酸成分を時間方向に分離するカラム41を通過し、該試料に含まれる分離された誘導体化アミノ酸成分を検出器50により検出する。カラムオーブン40は分析中にカラム41を一定温度に保つ。カラム41は、例えば逆相カラム(ODS(オクタデシルシリル)基で表面が修飾されたシリカゲルを固定相とするC18カラムなど)である。
【0029】
検出器50は蛍光検出器であり、特定の励起波長の励起光で試料中の誘導体化アミノ酸成分を励起させることにより蛍光させ、特定の蛍光波長の蛍光を検出する。
制御部60は、移動相ブレンディングユニット10、送液ユニット20、オートサンプラー30、カラムオーブン40および検出器50と電気的に接続されており、設定された分析条件に基づいてこれらの動作を制御する機能や、検出信号に基づき所定の演算処理(クロマトグラムの作成等)を行う機能を有する。本方法の実施形態では、混合器22において、複数の移動相の混合率を時間経過とともに変化させながら分析が行われる。
【0030】
制御部60では、本方法で用いる複数の誘導体化試薬の種類毎に、分析条件を複数設定することができる。分析条件には、例えば、試料の種類、移動相の種類、カラムの種類等が含まれる。これにより、液体クロマトグラフ分析システム100は、試料の分析を複数の分析条件で行うことができる。
制御部60には記憶部が内蔵され、例えば、論理演算を実行するCPU、移動相ブレンディングユニット10、送液ユニット20等の制御に必要な動作プログラムが格納されたROM、制御時にデータ等が一時的にストアされるRAM等から構成される。
【0031】
制御部60に含まれるCPU等がこの動作プログラムに従って移動相ブレンディングユニット10の各部や、送液ユニット20、オートサンプラー30の前処理を適宜制御することで、後述する分析動作が行われる。検出器50で検出されたデータを制御部60で処理して、試料中のアミノ酸成分を同定し定量する。また、表示部70は例えば液晶表示器であり、分析結果などを表示する。
なお、制御部60は、パーソナルコンピュータやより高度なワークステーションをハードウエア資源として、該コンピュータに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを該コンピュータ上で実行することによりそれぞれの機能を実現する構成とすることができ、液体クロマトグラフ分析システム100全体を制御できる。
【0032】
2.分析動作
次に、図2のフローチャートに沿って、図1の液体クロマトグラフ分析システムを用いた分析動作を説明する。
【0033】
分析試料と複数の誘導体化試薬(誘導体化試薬1としてOPA/NAC、及び誘導体化試薬2としてOPA/NIBC)を、前処理機能を有する自動試料導入装置(オートサンプラー30)に設置する。
制御部60は、移動相Bを溶媒混合比条件1に制御し、そして移動相Aと移動相Bとがグラジエント条件1における所定の初期混合比率となるように送液ポンプ21A、21Bを制御し、混合された移動相が所定流速となるように送液ポンプ21A、21Bを動作させる。
【0034】
ここで、後述する実施例では、移動相Aとしてリン酸系緩衝液が貯留されている移動相容器11と、水、アセトニトリル、メタノールがそれぞれ貯留されている3つの移動相容器11a、11b及び11cが設けられている(移動相容器11dは未使用である)。制御部60は、移動相ブレンディングユニット10の混合器12で、水、アセトニトリル及びメタノールを、予め設定した溶媒混合比条件1で混合して移動相Bを調製するように制御する。そして、送液ポンプ21Aにより移動相Aが、及び送液ポンプ21Bにより移動相Bがそれぞれ送液され、混合器22においてグラジエント条件1における所定の初期混合比率で混合された移動相がオートサンプラー30を介してカラム41に一定流速で流される。
移動相Bにおける水、アセトニトリル及びメタノールの溶媒混合比条件1、並びに移動相Aと移動相Bのグラジエント条件1はいずれも、誘導体化試薬1で誘導体化した誘導体化試料1の分析に対応して設定された条件である。
【0035】
次いで、制御部60に予め格納されている動作プログラムに従ってオートサンプラー30を制御して、誘導体化試薬1により分析試料の誘導体化を行い、誘導体化試料1を調製する。
誘導体化処理は、オートサンプラー30中に設置する他のバイアル(図示せず)に誘導体化試薬及び分析試料を所定量秤量して混合することで行える。あるいは、オートインジェクター33のニードルに誘導体化試薬及び分析試料を続けて所定量吸引し、ニードル内で混合可能な前処理機能をオートサンプラー30が有する場合には、かかる機能を用いて誘導体化試薬及び分析試料を混合することで誘導体処理を行うこともできる。
なお、分析試料の誘導体化処理を予め手作業により行った後、誘導体化処理した試料をオートサンプラー30に設置してもよいが、オートサンプラー30の前処理機能を用いて、誘導体化試薬及び分析試料を予め設置して自動で誘導体化処理するように制御することで、前処理に要する労力及び時間を削減できる。また、誘導体化の反応時間の一定化により、安定性と再現性が向上する。
【0036】
制御部60から誘導体化試料1の分析開始が指示されると、その指示に応じて、オートサンプラー30に備えられているオートインジェクター33は、移動相中に所定のタイミングで上記誘導体化試料1を所定量注入する。注入された誘導体化試料1は移動相の流れに乗ってカラム41に導入され、カラム41を通過する間に、該試料中の誘導体化アミノ酸成分が時間方向に分離されてカラム41出口から溶出する。
【0037】
制御部60はまた、誘導体化試料1の注入時点から、グラジエント条件1に従って、混合器22における移動相Aと移動相Bの混合比を時間経過に伴い変化させる。すなわち、分析中、制御部60は、有機溶媒を含有する移動相Bの混合比率を時間経過とともに上昇させながら移動相としてカラム41に供給する。なお、制御部60は、移動相A及び移動相Bのグラジエント条件1を実行させるように構成されたグラジエントタイムプログラム作成部を有することができる。
【0038】
予め設定された分析用制御プログラムに基づいて制御部60が各部の動作を制御することにより、検出器50からの検出信号が取得される。
アミノ酸37成分のうちの最後の成分が溶出し終えた後、移動相A及び移動相Bの混合比をグラジエント条件1によって初期比に戻し、平衡化時間を十分に確保して誘導体化試料1の分析を終了する。
なお、複数の分析試料をオートサンプラー30に設置することにより、分析すべき誘導体化試料1が複数存在する場合、先の誘導体化試料1の分析終了後、移動相A及び移動相Bの混合比が初期比に戻り上記の平衡化時間が経過後に、制御部60は、続いての誘導体化試料1の分析開始を指示する。そして、移動相Aと移動相Bとがグラジエント条件1における所定の初期混合比率となるように送液ポンプ21A、21Bを制御し、混合された移動相が所定流速となるように送液ポンプ21A、21Bを動作させ、アミノ酸37成分のうちの最後の成分が溶出し終えた後、移動相A及び移動相Bの混合比をグラジエント条件1によって初期比に戻し、平衡化時間を十分に確保することを繰り返す。
【0039】
誘導体化試料1の分析が終了後、溶媒混合比の条件を変化させる。すなわち、制御部60は、移動相ブレンディングユニット10の混合器12で、水、アセトニトリル及びメタノールの混合量比を、各々の移動相容器からの電磁バルブを調整することによって溶媒混合比条件1から溶媒混合比条件2に変更して移動相Bを調製するように制御する。そして、送液ポンプ21Aにより移動相Aが、送液ポンプ21Bにより移動相Bがそれぞれ送液され、混合器22においてグラジエント条件2における所定の初期混合比率で混合された移動相がオートサンプラー30を介してカラム41に一定流速で流される。
ここで、移動相Bにおける水、アセトニトリル及びメタノールの溶媒混合比条件2、並びに移動相Aと移動相Bのグラジエント条件2はいずれも、誘導体化試薬2で誘導体化した誘導体化試料2の分析に対応して設定された条件である。
そして、図2のフローチャートにおける「非注入分析」を行うのが好ましい。具体的には、制御部60は、誘導体化試料2の分析に先立ち、グラジエント条件2に従って、混合器22における移動相Aと移動相Bの混合比を時間経過に伴い変化させ、以降はグラジエント条件2を実行しながら移動相をカラム41に供給する操作を行う。
【0040】
「非注入分析」が終了後、制御部60に予め格納されている動作プログラムに従ってオートサンプラー30を制御して、誘導体化試薬2による分析試料の誘導体化を行い、誘導体化試料2を調製する。誘導体化処理は上記と同様にして行える。続いて誘導体化試料2の分析開始が指示される。
制御部60からの指示に応じ、オートサンプラー30に備えられているオートインジェクター33は、移動相中に所定のタイミングで上記誘導体化試料2を所定量注入する。注入された誘導体化試料2は移動相の流れに乗ってカラム41に導入され、カラム41を通過する間に、該試料中の誘導体化アミノ酸成分が時間方向に分離されてカラム41出口から溶出する。
【0041】
制御部60は誘導体化試料2の注入時点から、グラジエント条件2に従って、混合器22における移動相Aと移動相Bの混合比を時間経過に伴い変化させ、以降はグラジエント条件2を実行しながら移動相をカラム41に供給する。分析中は、予め設定された分析用制御プログラムに基づいて制御部60が各部の動作を制御することにより、検出器50からの検出信号が取得される。
【0042】
アミノ酸37成分のうちの最後の成分が溶出し終えた後、移動相A及び移動相Bの混合比をグラジエント条件2により初期比に戻し、平衡化時間を十分に確保して、誘導体化試料2の分析を終了する。
なお、複数の分析試料をオートサンプラー30に設置することにより、分析すべき誘導体化試料2が複数存在する場合、先の誘導体化試料2の分析終了後、移動相A及び移動相Bの混合比が初期比に戻り上記の平衡化時間が経過後に、制御部60は、続いての誘導体化試料2の分析開始を指示する。そして、移動相Aと移動相Bとがグラジエント条件2における所定の初期混合比率となるように送液ポンプ21A、21Bを制御し、混合された移動相が所定流速となるように送液ポンプ21A、21Bを動作させ、アミノ酸37成分のうちの最後の成分が溶出し終えた後、移動相A及び移動相Bの混合比をグラジエント条件2によって初期比に戻し、平衡化時間を十分に確保することを繰り返す。
【0043】
制御部60は、得られたデータを用いてクロマトグラムを作成し、試料中に存在が確認されたアミノ酸について、クロマトグラム上のピークの面積値を計算し、予め作成した検量線を参照してピーク面積値からアミノ酸毎に濃度値を求め、分析結果レポートを作成する。制御部60は、前記分析結果レポートの作成を行うデータ処理部を有することができる。
【0044】
なお、全ての分析が終了後に、移動相ブレンディングユニット10から送液ポンプ21Bを介して水と有機溶媒の混合溶液を送液し、後処理としてシステム、カラム等を洗浄することができる。かかる後処理により、試料を注入するプローブへの試料の残存や、システム、カラム中における塩の析出を防止できる。
【0045】
本方法では、2種類の誘導体化試薬を用いて分析対象である試料をそれぞれ誘導体化処理し、一方の誘導体化試料の分析と他方の誘導体化試料の分析において、移動相の選択及びグラジエント条件を検討して、第1分析条件と第2分析条件の大部分の共通化を達成することができた。したがって、両者の分析条件における移動相Bの混合溶媒系の混合比と、移動相A及び移動相Bのグラジエント条件の2つを変更して制御するのみで、従来分離検出が困難であったD-アミノ酸の分離性能を高めると共に、迅速に、多種のアミノ酸の同時分析が可能となる。
【0046】
上記した制御が可能なシステムの例としては、Nexera(登録商標)X3システム(株式会社島津製作所製)が挙げられる。このシステムは低圧グラジエントキットを備え、かかるキット内の低圧グラジエントユニットが上記で説明した移動相ブレンディングユニットに相当し、複数の移動相の混合比を制御可能な移動相ブレンディング機能を有している。移動相ブレンディング機能とオートサンプラーの自動前処理機能を用いることで、移動相やグラジエント条件を変更した分析スケジュールを自動で作成し、切替可能なので、移動相の調製、移動相置換に要する時間、及び誘導体化の手間等を削減することができる。
上記実施形態は本発明の一例であり、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行えることは明らかである。
【0047】
本方法は、酒類及び各種の食品分析をはじめ、生化学・医療分野等の様々な分野におけるアミノ酸含有量分析にも適用できる。酒類としてはビール、日本酒、赤ワイン、白ワイン等の醸造酒等が挙げられる。食品としては発酵食品等が挙げられる。
【実施例
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0049】
[誘導体化試薬の調製例]
・0.1mol/lホウ酸緩衝液:
ホウ酸0.62g及び水酸化ナトリウム0.20gを純水100mlに加えて完全に溶解させて調製した。
・o-フタルアルデヒド(OPA)試剤:
OPA10mgにエタノール0.3mlを加えて完全に溶解させ、次いで0.1mol/lホウ酸緩衝液0.7ml及び純水4mlを加えて調製した。
・N-アセチル-L-システイン(NAC)溶液:
NAC20mgに0.1mol/lホウ酸緩衝液10mlを加えて調製した。
・N-イソブチリル-L-システイン(NIBC)溶液:
NIBC20mgに0.1mol/lホウ酸緩衝液10mlを加えて調製した。
<誘導体化試薬1:OPA/NAC>
OPA試剤及びNAC溶液を等容量で混合して調製し、分析に用いた。
<誘導体化試薬2:OPA/NIBC>
OPA試剤及びNIBC溶液を等容量で混合して調製し、分析に用いた。
【0050】
[オートサンプラーによる、誘導体化試料の調製及び注入例]
誘導体化試薬1又は誘導体化試薬2をオートサンプラーのニードルに4μL吸引し、次いで試料1μLを吸引して、ニードル内で混合した後、移動相に注入した。
なお、誘導体化プログラムにより、分析サンプル、バイアル番号、注入量、ミキシング回数、ミキシング容量、待ち時間、エアギャップ量を設定することができる。
【0051】
[分析装置]
HPLCシステム:Nexera X3(島津製作所製)
・デガッサー:DG-403、DG-405
・ポンプ:LC-40D X3(2台)、低圧グラジエントキット(1台)
・オートサンプラー:SIL-40C X3
・カラム恒温槽:CTO-40C
・コミュニケーションバスモジュール:SCL-40
・分光蛍光検出器:RF-20AXS
【0052】
[HPLC分析条件]
《誘導体化試薬1を用いた誘導体化試料1》
カラム:Shim-pack Scepter(登録商標;株式会社島津製作所製)
固定相C8、長さ150mm×内径3.0mm、充填物粒子径1.9μm
移動相:
[移動相A]リン酸二水素カリウム0.68g及びリン酸水素二カリウム2.61gを純水2000mLに加えて完全に溶解させて調製した、リン酸系緩衝液(10mmol/L、pH7.5)
[移動相B]水/アセトニトリル/メタノール=15/10/75
<移動相のグラジエント条件(タイムプログラム)>
4%B(0-3分)→11%B(13分)→14%B(22分)→25%B(30分)→30%B(35分)→41%B(61分)→80%B(61.01-63分)→4%B(63.01-67分)
<流速>0.6mL/分
カラム温度:35℃
サンプル注入量:1μL
バイアル:SHIMADZU LabTotal(登録商標)for LC 1.5mL,Glass
検出器(FL):RF-20AXS,Ex:350nm,Em:450nm
【0053】
《誘導体化試薬2を用いた誘導体化試料2》
カラム:Shim-pack Scepter(登録商標;株式会社島津製作所製)
固定相C8、長さ150mm×内径3.0mm、充填物粒子径1.9μm
移動相:
[移動相A]リン酸二水素カリウム0.68g及びリン酸水素二カリウム2.61gを純水2000mLに加えて完全に溶解させて調製した、リン酸系緩衝液(10mmol/L、pH7.5)
[移動相B]水/アセトニトリル/メタノール=10/20/70
<移動相のグラジエント条件(タイムプログラム)>
10%B(0分)→15%B(3-15分)→20%B(25分)→52%B(57分)→80%B(57.01-59分)→10%B(59.01-63分)
<流速>0.6mL/分
カラム温度:35℃
サンプル注入量:1μL
バイアル:SHIMADZU LabTotal(登録商標)for LC 1.5mL,Glass
検出器(FL):RF-20AXS,Ex:350nm,Em:450nm
【0054】
実施例1
分析対象とする試料に、誘導体化試薬1(OPA/NAC)又は誘導体化試薬2(OPA/NIBC)を反応させることにより、試料中のD/L-アミノ酸をジアステレオマー蛍光誘導体化し、誘導体化試料を上記分析条件でHPLC分析して、蛍光検出した。誘導体化はオートサンプラーにより自動で行い、移動相Bは送液ポンプの移動相ブレンディング機能を用いて調製した。誘導体化試料1の分析終了後、誘導体化試料2への分析条件の切替を自動で行った。
【0055】
2.分析方法の安定性及び精度の評価
2-1.検量線の直線性
2種類の誘導体化試薬、すなわち異なるキラルチオールを用いることにより、37成分のアミノ酸を分離した。検量線の直線性はいずれも寄与率(r)が0.999以上であった。37成分のアミノ酸についての、検量線の直線性の評価結果を表1に示す。また、得られた検量線の例を図3に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
2-2.各アミノ酸の保持時間と面積の再現性
D/L-アミノ酸標準溶液(37成分、各2μmol/L)について、6回の繰り返し分析における、保持時間と面積の再現性(%RSD)を確認したところ、それぞれ0.1%以下、1.5%以下であった。かかるD/L-アミノ酸標準溶液のクロマトグラムを図4に示す。図4において、横軸は時間を示し、縦軸は検出器の信号強度を示す。
また、保持時間と面積の再現性の評価結果を表2に示す。
図4のクロマトグラムのピークに付した番号は、表1及び表2のアミノ酸種に付した番号と対応している。
表1及び表2において、斜体文字で記した成分がOPA/NAC誘導体化により検出され、常体文字(通常字体)で記した成分がOPA/NIBC誘導体化により検出されることを意味する。
【0058】
【表2】
【0059】
すなわち、OPA/NACによって誘導体化されたD-Asp、D-Arg、D-Ala、D-Trp、D-Phe、L-Asp、L-Arg、L-Ala、L-Trp、L-Ile、L-Pheを検出し、一方、OPA/NIBCによって誘導体化された、D-Glu、D-Asn、D-Ser、D-Gln、D-His、D-Thr、D-Tyr、D-Val、D-Met、D-(Cys)、D-Ile、D-Leu、D-Lys、L-Glu、L-Asn、L-Ser、L-Gln、L-His、L-Thr、Gly、L-Tyr、L-Val、L-Met、L-(Cys)、L-Leu、L-Lysを検出する。
【0060】
このように、本方法の極めて好適な実施態様では、誘導体化試薬としてOPA/NAC及びOPA/NIBCの2種類を用い、かかる誘導体化試薬毎の移動相の条件を、上述のとおり移動相Aとしていずれもリン酸系緩衝液を用い、また移動相Bは水、アセトニトリル及びメタノールの混合溶媒系であって、誘導体化試薬毎に溶媒混合比が異なるのみとし、移動相Aと移動相Bのグラジエント条件以外のHPLC分析条件を同一にする(共通化する)ことができた。
したがって、OPA/NACによる誘導体化試料1の分析を終えて誘導体化試料2の分析を行う際において、移動相ブレンディングユニットで、水、アセトニトリル及びメタノールの混合比を自動で変更して移動相Bを調製し、かつ、誘導体化試料1の分析におけるグラジエント条件1、及び誘導体化試料2の分析におけるグラジエント条件2を自動で制御する分析メソッドを切り替えることで、手間がかからず簡易に分析条件を変更できる。試料中の、タンパク質を構成するD/L-アミノ酸計37成分が良好に分離され、精度よく正確に同定、定量することができる。
また、37成分のアミノ酸の分析を、合計130分の分析時間で行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の分析方法は、試料中のD/L-アミノ酸を、高い再現性で簡便に分析可能であり、特にタンパク質を構成するL-アミノ酸及びD-アミノ酸を一斉に分析することができる。そのため、ビール、日本酒、ワイン等の醸造酒をはじめとする各種の食品分析分野におけるアミノ酸分析に有用である。
【符号の説明】
【0062】
符号の説明
100…液体クロマトグラフ分析システム
10…移動相ブレンディングユニット
11、11a、11b、11c、11d…移動相容器
12…混合器
20…送液ユニット
21A、21B…送液ポンプ
22…混合器
30…オートサンプラー
31a、31b…誘導体化試薬
32…分析試料
33…オートインジェクター
40…カラムオーブン
41…カラム
50…検出器
60…制御部
70…表示部

図1
図2
図3
図4