(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両の報知制御装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2021129711
(22)【出願日】2021-08-06
【審査請求日】2023-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 希
(72)【発明者】
【氏名】八十嶋 恒和
【審査官】佐藤 吉信
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-185877(JP,A)
【文献】特開2008-243065(JP,A)
【文献】特開2012-018505(JP,A)
【文献】特開2022-045881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方に存在する立体物と、前記自車両の前方に延在している車線を規定する区画線と、についての情報を周囲情報として取得可能な周囲情報取得装置と、
方向指示器を作動させるために自車両の運転者により操作される操作器の操作状態を検出可能な方向指示器スイッチと、
前記自車両の車速を検出可能な車速検出装置と、
前記運転者による操舵操作に基づく入力値である操舵入力値を検出する操舵入力値検出装置、又は、前記運転者によるブレーキ操作の有無を検出するブレーキスイッチの少なくとも一方を含む運転操作状態検出装置と、
報知動作を実行可能な報知装置と、
前記報知装置を制御可能な制御ユニットと、
を備え、
前記制御ユニットは、
前記自車両が存在している走行車線に対して対向車線が位置している方向を特定方向と規定すると、
前記対向車線を前記自車両に接近する方向に移動する他車両であって且つ前記他車両の移動方向に沿って延びる仮想的な延長線が前記自車両の現在位置に対して特定方向側を通過する他車両、である対向車両が存在しているか否かを前記周囲情報に基づいて判定し、
前記対向車両が存在すると判定し、且つ、前記操作器が前記特定方向側の前記方向指示器を作動させるための操作に対応した操作状態にあると判定したときに成立する前提条件を満たす場合、
操舵入力値又はブレーキ操作の有無の少なくとも一方と、車速と、を含む車両情報に基づいて前記自車両が所定の基準時間経過後に前記対向車線又は前記対向車線が合流している交差点の横断を完了している可能性が高いときに成立する横断条件を満たすか否かを判定し、
前記対向車両の移動方向と向きが反対である方向を縦方向と規定すると、
前記横断条件を満たすと判定し、且つ、前記自車両が前記縦方向に前記車速の前記縦方向における成分である縦速度で移動するとともに前記対向車両が現在の移動状態を維持して移動すると仮定した場合に前記自車両が前記対向車両と前記縦方向に仮想的にすれ違うまでに要する仮想すれ違い時間が、所定の下限時間以上且つ前記基準時間以下である所定の上限時間以下であると判定したときに成立する実行条件を満たす場合、
前記報知装置に報知動作を実行させることにより前記対向車両の存在を前記運転者に報知する報知制御を実行する、
ように構成された、
車両の報知制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の報知制御装置であって、
前記運転操作状態検出装置は、前記操舵入力値検出装置であり、
前記車両情報は、操舵角と、操舵角速度と、前記車速と、を含む第1車両情報であり、
前記縦方向と直交し且つ前記特定方向に向かう方向を横方向と規定すると、
前記制御ユニットは、
前記第1車両情報に基づいて前記自車両が前記基準時間に含まれる第1基準時間をかけて移動したと仮定した場合における移動距離を推定し、
前記移動距離の前記横方向における成分である横移動距離を演算し、
前記横移動距離が所定の距離閾値以上である場合に前記横断条件が成立すると判定する、
ように構成された、
車両の報知制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の報知制御装置であって、
前記距離閾値は、平均的な車線幅の値に設定される、
車両の報知制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両の報知制御装置であって、
前記運転操作状態検出装置は、前記ブレーキスイッチであり、
前記車両情報は、前記ブレーキ操作の有無と、減速度と、前記車速と、を含む第2車両情報であり、
前記制御ユニットは、
前記第2車両情報に基づいて前記自車両が停止するのに要する停止必要時間を推定し、
前記車速が所定の車速閾値以上であり且つ前記停止必要時間が前記基準時間に含まれる第2基準時間を超える場合に前記横断条件が成立すると判定する、
ように構成された、
車両の報知制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両が旋回時に対向車両と衝突する可能性がある場合に自車両の運転者に当該対向車両の存在を報知する車両の報知制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自車両が衝突する可能性がある他車両が検出された場合に、当該他車両との衝突を回避したり、衝突による衝撃を軽減したりする制御である衝突回避制御を行う装置(以下、「従来装置」と称する。)が知られている。衝突回避制御は、例えば、自車両の運転者に警報を発する警報制御、及び、自車両に自動的にブレーキ力を付与する自動ブレーキ制御を含む。以下、「自車両が他車両に衝突する可能性」を「衝突可能性」とも称する。
【0003】
従来装置は、衝突可能性の有無を、自車両の予測軌道及び他車両の予測軌道に基づいて判定する。具体的には、従来装置は、自車両の速度及びヨーレートに基づいて自身の旋回半径を演算し、当該旋回半径に基づいて自車両の予測軌道を演算するとともに、他車両の位置の推移に基づいて他車両の予測軌道を演算する。従来装置は、両者の予測軌道が交差しているときは、自車両及び他車両が現在の移動状態を維持して移動すると仮定した場合に両者が衝突するか否か(即ち、2つの予測軌道の交点に自車両及び他車両がそれぞれ到達するタイミングが略同一であるか否か)を判定する。自車両が他車両と衝突する(即ち、上記交点に自車両及び他車両がそれぞれ到達するタイミングが略同一である)と判定した場合、従来装置は、自車両が他車両と衝突するまでに要すると予測される時間(別言すれば、自車両が上記交点に到達するまでに要する時間)である衝突予測時間(TTC: Time To Collision)を演算し、TTCが所定のTTC閾値以下である場合、衝突可能性があると判定して衝突回避制御を実行する。
【0004】
より詳細には、衝突回避制御は2段階で実行される。即ち、従来装置は、TTCが所定の第1TTC閾値以下となった場合には、まず警報制御を実行する。そして、警報制御を実行してもTTCが減少し続けて第2TTC閾値(第1TTC閾値より小さい値)以下となった場合には、自動ブレーキ制御を実行する。この構成によれば、警報制御が実行されることにより運転者は他車両の存在を認識できる可能性が高くなるので、当該他車両との衝突を回避するための運転操作を行うことができ、自動ブレーキ制御が実行される頻度を低減することができると考えられる。
【0005】
このような2段階に亘る衝突回避制御は、自車両が直進している期間中は適切に実行され得るが、自車両が右折する際には適切に実行されない可能性が高い。
【0006】
即ち、上述したように、従来装置は、自車両及び他車両の予測軌道が交差していることを前提として衝突可能性の有無を判定するので、両者の予測軌道が交差していないときはそもそも衝突可能性の有無を判定しない。自車両が右折する際は、運転者は操舵ハンドルを右回りに操舵操作するが、右折を開始してからしばらくの期間(以下、「第1期間」とも称する。)はヨーレートが小さいので旋回半径が大きくなり、その結果、第1期間における予測軌道は、右折時の実際の軌道と比較して大回りする形状(曲率が小さい形状)となる。このため、第1期間においては、自車両の予測軌道は他車両(典型的には、対向車両)の後方領域に延在する傾向が高くなり、他車両の予測軌道と交差し難くなる。従って、第1期間においては衝突可能性の有無を判定する処理が行われ難くなる。なお、以下では、右折時に関する説明においては「他車両」ではなく「対向車両」と記載する。
【0007】
その後、ヨーレートが増大して旋回半径が徐々に小さくなると、自車両の予測軌道が対向車両の予測軌道と交差するようになるので、衝突可能性の有無の判定処理が行われるようになる。しかしながら、この時点では自車両は既にある程度旋回しているので、衝突可能性がある対向車両が存在すると判定されても、TTCは既に第1TTC閾値を下回っており、第2TTC閾値と同等又はそれ以下になっている可能性が高い。別言すれば、警報制御と自動ブレーキ制御とが同時に実行されてしまう可能性が高い。このため、自車両が右折する際は、衝突回避制御が2段階に亘って適切に実行されない可能性が高く、その結果、運転者が警報制御に基づいて対向車両との衝突を回避するための運転操作を行うことができなくなってしまう。
【0008】
そこで、右折時においても、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて「対向車両の存在を運転者に報知する制御(以下、「報知制御」と称する。)」を実行することが可能な技術が検討されている。例えば、特許文献1には、右折時における運転者の安全確認作業を補助する車両の右折時安全確認システムに関する技術が記載されている。具体的には、このシステムは、対向車線に存在する対向車両の状態を検出する対向車状態検出手段と、自車両が停止し、且つ、右方向指示器が点灯したとき、対向車両の状態に基づいて右折時の衝突可能性を判断する衝突可能性判断手段と、を備える。そして、自車両が右方向指示器を点灯させた状態で停止したとき(例えば、交差点の右折停止線の位置で停止したとき)、衝突可能性判断手段により対向車両の状態に基づいて右折時の衝突可能性が判断され、衝突可能性があると判断された場合、運転者に警告が発せられるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【0010】
特許文献1のシステムは、自車両が停止しているときに自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて運転者に警告を発することに特化した技術であるが、自車両が停止しているか否かに関わらず、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて報知制御を実行する場合、不要作動が発生する可能性がある。即ち、報知制御を実行するか否かは、右折する過程における比較的に早い段階で判定されるため、衝突可能性の有無を正確に判定することが難しく、実際には衝突可能性が極めて低い対向車両についてまで不要な報知制御を実行してしまう可能性がある。なお、「実際には衝突可能性が極めて低い対向車両」とは、例えば、自車両から見て比較的に遠方を移動している対向車両、又は、自車両が右折する過程で徐行若しくは将来的に一時停止することにより(自車両と衝突することなく)自車両の付近を通過していく対向車両である。報知制御の不要作動は自車両の乗員に煩わしさを与えるため、このような不要作動を抑制できる技術の開発が望まれている。
【0011】
なお、上述した問題は、左側通行が定められている国(対向車線が走行車線に対して右方に位置する車線レイアウトが採用されている国)において起こり得る。右側通行が定められている国(対向車線が走行車線に対して左方に位置する車線レイアウトが採用されている国)においては、上記記載の「右」を「左」と読み替えることにより、同様の問題が起こり得ることが説明される。
【0012】
本発明は、上述した問題に対処するためになされたものである。即ち、本発明の目的の一つは、旋回時において、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて報知制御を実行することと、当該報知制御の不要作動を抑制することと、を両立可能な車両の報知制御装置を提供することにある。なお、「旋回時」とは、左側通行が定められている国においては「右折時」を意味し、右側通行が定められている国においては「左折時」を意味する。
【0013】
本発明による車両の報知制御装置(以下、「本発明装置」と称する。)は、
自車両(V)の前方に存在する立体物と、前記自車両の前方に延在している車線を規定する区画線と、についての情報を周囲情報として取得可能な周囲情報取得装置(11)と、
方向指示器を作動させるために自車両の運転者により操作される操作器(WL)の操作状態を検出可能な方向指示器スイッチ(12)と、
前記自車両の車速(v)を検出可能な車速検出装置(13)と、
前記運転者による操舵操作に基づく入力値である操舵入力値(θs)を検出する操舵入力値検出装置(14)、又は、前記運転者によるブレーキ操作の有無を検出するブレーキスイッチ(114)の少なくとも一方を含む運転操作状態検出装置と、
報知動作を実行可能な報知装置(21、22)と、
前記報知装置を制御可能な制御ユニット(10)と、
を備え、
前記制御ユニットは、
前記自車両が存在している走行車線に対して対向車線が位置している方向を特定方向と規定すると、
前記対向車線を前記自車両に接近する方向に移動する他車両であって且つ前記他車両の移動方向に沿って延びる仮想的な延長線(Lo)が前記自車両の現在位置に対して特定方向側を通過する他車両、である対向車両(Vop)が存在しているか否かを前記周囲情報に基づいて判定し(ステップ610)、
前記対向車両が存在すると判定し(ステップ610:Yes)、且つ、前記操作器が前記特定方向側の前記方向指示器を作動させるための操作に対応した操作状態にあると判定したとき(ステップ620:Yes)に成立する前提条件を満たす場合、
操舵入力値又はブレーキ操作の有無の少なくとも一方と、車速と、を含む車両情報に基づいて前記自車両が所定の基準時間(Tc、Ts)経過後に前記対向車線又は前記対向車線が合流している交差点の横断を完了している可能性が高いときに成立する横断条件(条件3、条件5,条件6)を満たすか否かを判定し(ステップ630、ステップ830,ステップ840)、
前記対向車両の移動方向と向きが反対である方向を縦方向と規定すると、
前記横断条件を満たすと判定し(ステップ630:Yes、ステップ830:Yes,ステップ840:Yes)、且つ、前記自車両が前記縦方向に前記車速の前記縦方向における成分である縦速度(vy)で移動するとともに前記対向車両が現在の移動状態を維持して移動すると仮定した場合に前記自車両が前記対向車両と前記縦方向に仮想的にすれ違うまでに要する仮想すれ違い時間(Tx)が、所定の下限時間(Tl)以上且つ前記基準時間以下である所定の上限時間(Tu)以下であると判定したとき(ステップ640:Yes、ステップ850:Yes)に成立する実行条件を満たす場合、
前記報知装置に報知動作を実行させることにより前記対向車両の存在を前記運転者に報知する報知制御を実行する、
ように構成されている。
【0014】
本発明装置では、前提条件が成立している場合において、横断条件が成立し、且つ、仮想すれ違い時間が下限時間以上且つ上限時間(基準時間以下の時間)以下であるとき、実行条件が成立しているとして報知制御が実行される。この構成によれば、上限時間を適切な値に設定することにより、「横断条件が成立し、且つ、仮想すれ違い時間が上限時間以下である」とは、「自車両が現在の縦速度を維持しながら移動するとともに対向車両が現在の移動状態を維持して移動すると仮定した場合に自車両が対向車線内又は交差点内で対向車両と衝突する」ことを意味するようになる。また、下限時間を適切な値に設定することにより、運転者が対向車両を認識できる程度に対向車両が接近している場合には報知制御が実行されないようにすることができる。従って、本発明装置によれば、予測軌道を用いなくても旋回時における対向車両との衝突可能性を適切に判定でき、結果として、旋回時において、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて報知制御を実行することと、当該報知制御の不要作動を抑制することと、を両立することができる。
【0015】
本発明の一側面では、
前記運転操作状態検出装置は、前記操舵入力値検出装置(14)であり、
前記車両情報は、操舵角(θs)と、操舵角速度(ωs)と、前記車速(v)と、を含む第1車両情報であり、
前記縦方向と直交し且つ前記特定方向に向かう方向を横方向と規定すると、
前記制御ユニット(10)は、
前記第1車両情報に基づいて前記自車両(V)が前記基準時間に含まれる第1基準時間(Tc)をかけて移動したと仮定した場合における移動距離(d)を推定し、
前記移動距離の前記横方向における成分である横移動距離(dy)を演算し、
前記横移動距離が所定の距離閾値(Dth)以上である場合に前記横断条件(条件3)が成立すると判定する(ステップ630:Yes)、
ように構成されている。
【0016】
この構成によれば、第1基準時間及び距離閾値を適切な値に設定することにより、実行条件の精度を向上できる。別言すれば、報知制御の不要作動を抑制できる。
【0017】
この場合、
前記距離閾値(Dth)は、平均的な車線幅の値に設定される。
【0018】
この構成によれば、第1基準時間を適切な値に設定することにより、横断条件が成立している場合における「自車両が現在位置から第1基準時間かけて移動したときに対向車線又は交差点の横断を完了している可能性」を高くすることができる。この結果、実行条件の精度を向上でき、報知制御の不要作動を抑制できる。
【0019】
本発明の一側面では、
前記運転操作状態検出装置は、前記ブレーキスイッチ(114)であり、
前記車両情報は、前記ブレーキ操作の有無と、減速度と、前記車速(v)と、を含む第2車両情報であり、
前記制御ユニット(10)は、
前記第2車両情報に基づいて前記自車両(V)が停止するのに要する停止必要時間(T)を推定し、
前記車速が所定の車速閾値(vth)以上であり且つ前記停止必要時間が前記基準時間に含まれる第2基準時間(Ts)を超える場合に前記横断条件(条件5、条件6)が成立すると判定する(ステップ830:Yes、ステップ840:Yes)、
ように構成されている。
【0020】
この構成によれば、車速閾値及び第2基準時間を適切な値に設定することにより、実行条件の精度を向上できる。別言すれば、報知制御の不要作動を抑制できる。
【0021】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る車両の報知制御装置(第1実施装置)の概略構成図である。
【
図2A】条件1-4が成立している場合の一例を示す図である。
【
図2B】条件1-4が成立している場合の別の例を示す図である。
【
図2C】条件1-4が成立していない場合の一例を示す図である。
【
図3】xy座標系の設定方法について説明するための図である。
【
図4】報知制御の前提条件及び第1実行条件について説明するための図である。
【
図5A】報知制御の不要作動について説明するための図である。
【
図5B】報知制御の不要作動について説明するための図である。
【
図6】第1実施装置の報知制御ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図7】本発明の第2実施形態に係る車両の報知制御装置(第2実施装置)の概略構成図である。
【
図8】第2実施装置の報知制御ECUのCPUが実行するルーチンを示すフローチャートである。
【
図9A】従来の報知制御を実行する際の上限時間Tuの設定方法を示すタイムチャートである。
【
図9B】第2実施形態の報知制御を実行する際の上限時間Tuの設定方法を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
(構成)
以下、本発明の第1実施形態に係る車両の報知制御装置(以下、「第1実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、第1実施装置は、報知制御ECU10、及び、これに接続されたカメラセンサ11、ウインカースイッチ12、車速センサ13、操舵角センサ14、メーターパネル21、及び、スピーカ22を備える。報知制御ECU10は、マイクロコンピュータを主要部として備える。ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース(I/F)等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。以下では、第1実施装置が搭載された車両を「自車両V」と称する(これは、後述する第2実施形態において第2実施装置が搭載された車両についても同様である。)。
【0024】
報知制御ECU10は、上記センサ及びスイッチ11乃至14が出力、検出又は発生する情報又は信号を所定時間が経過する毎に取得し、取得した信号に基づいて要素(装置)21及び22を制御するように構成されている。以下では、報知制御ECU10を、単に「ECU10」とも称する。
【0025】
カメラセンサ11(周囲情報取得装置)は、自車両Vのルームミラー(インナーミラー/リアビューミラー)の裏面に設置されている。カメラセンサ11は、自車両前方の風景を撮像し、撮像された画像データに基づいて、自車両Vの前方に存在する立体物を認識(検出)し、自車両Vと立体物との相対関係を演算する。ここで、「自車両Vと立体物との相対関係」とは、自車両Vから立体物までの距離、自車両Vに対する立体物の方位及び相対速度等を含む。立体物は、移動物(例えば、他車両及び歩行者)、及び、静止物(例えば、中央分離帯、ガードレール及び街路樹)を含む。なお、移動物は、移動可能な立体物を意味しており、移動中の立体物のみを意味するものではない。
加えて、カメラセンサ11は、上記画像データに基づいて、自車両Vの前方に延在している区画線を認識(検出)し、認識した区画線に基づいて車線(隣接する2つの区画線の間の領域)の形状を演算する。即ち、車線は区画線により規定されている。カメラセンサ11は、少なくとも、走行車線(自車両Vが存在している車線)と、走行車線に隣接する一次隣接車線と、隣接車線に(走行車線とは反対側で)隣接する二次隣接車線と、の形状を演算可能となっている。
カメラセンサ11は、このようにして得られた情報を「周囲情報」としてECU10に出力する。
【0026】
ウインカースイッチ12(方向指示器スイッチ)は、ウインカーレバー(操作器)WLの位置に応じてオン又はオフする。ウインカーレバーWLは、ウインカー(方向指示器)を作動(点滅)させるために運転者によって操作される操作器であり、ステアリングコラム(図示省略)に設けられている。ウインカーレバーWLは、支軸を中心として、「中立位置から右回りに所定の角度θだけ回動した位置」である右位置と、「中立位置から左回りに角度θだけ回動した位置」である左位置と、に移動可能に構成されている。
【0027】
ウインカースイッチ12は、右ウインカースイッチ12Rと、左ウインカースイッチ12Lと、を備える。右ウインカースイッチ12Rは、ウインカーレバーWLが右位置にある場合にオンし(オン信号を発生し)、それ以外の場合にオフする(オフ信号を発生する)。左ウインカースイッチ12Lは、ウインカーレバーWLが左位置にある場合にオンし(オン信号を発生し)、それ以外の場合にオフする(オフ信号を発生する)。ECU10は、ウインカースイッチ12が発生した信号を取得し、当該信号に基づいてウインカーレバーWLの操作状態を検出する。
【0028】
なお、右又は左ウインカースイッチ12R又は12Lがオン信号を発生すると、当該オン信号はウインカーの作動を制御するECU(例えば、メータECU)に送信される。このECUは、オン信号を受信すると対応する右又は左のウインカーを作動(点滅)させる。
【0029】
車速センサ13(車速検出装置)は、自車両Vの速度(以下、「車速」と称する。)vを検出し、その検出信号をECU10に出力する。
【0030】
操舵角センサ14(操舵入力値検出装置)は、操舵ハンドルの操舵角θsを検出し、その検出信号をECU10に出力する。操舵角θsは、運転者による操舵操作(操舵ハンドルの操作)に基づく入力値の一種である。操舵角センサ14は、「運転操作状態検出装置」の一例に相当する。
【0031】
メーターパネル21は、自車両Vの運転席の正面(運転者が視認可能な位置)に設けられている。スピーカ22は、ナビゲーションシステム(図示省略)の構成要素であり、図示しないタッチパネルディスプレイの近傍に設けられている。メーターパネル21及びスピーカ22は、「報知装置」の一例に相当する。
【0032】
(作動の詳細)
次に、ECU10の作動の詳細について説明する。従来のように、自車両V及び対向車両Vopの予測軌道に基づいて報知制御の実行要否を判定する構成では、第1期間(右折を開始してからしばらくの期間)において予測軌道の形状を適切に演算できず、その結果、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて報知制御を実行することができない。その一方で、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて報知制御を実行しようとすると、不要作動が発生し易くなる。そこで、本実施形態では、ECU10は、予測軌道を用いずに対向車両Vopとの衝突可能性を判定するように構成されている。
【0033】
具体的には、ECU10は、まず、報知制御の前提条件が成立しているか否かを判定する。前提条件とは、「対向車両Vopが接近している最中に自車両Vが右折する可能性がある」場合に成立する条件であり、以下の条件1及び条件2が何れも成立した場合に成立する。なお、本明細書では、走行車線に対して対向車線が位置している方向を「特定方向」と規定する。本実施形態(及び後述する第2実施形態)では、特定方向は右方向である。
【0034】
(条件1)対向車両Vopが接近している。
(条件2)右ウインカースイッチ12Rがオンしている。
【0035】
まず、条件1について説明する。条件1は、周囲情報に含まれる立体物が以下の4つの条件を全て満たしている場合に成立する。
(条件1-1)立体物が一次隣接車線及び/又は二次隣接車線に存在している。
(条件1-2)立体物の種類が車両である。
(条件1-3)立体物の速度の大きさが所定の速度閾値voth以上である。
(条件1-4)立体物が将来的に自車両Vの現在位置の右側を通過すると予想される。
【0036】
ECU10は、周囲情報に含まれる一次隣接車線及び/又は二次隣接車線上に立体物が存在している場合は条件1-1が成立していると判定し、そうでない場合は条件1-1が不成立であると判定する。なお、交差点において区画線が途切れている場合には、ECU10は、区画線をその延在方向に延長し、これにより条件1-1の成立可否を判定する。
ECU10は、周知のパターンマッチングの手法を用いて立体物の種類を特定可能に構成されている。ECU10は、特定された立体物の種類が車両である場合は条件1-2が成立していると判定し、そうでない場合は条件1-2が不成立であると判定する。
ECU10は、周囲情報に含まれる立体物の相対速度から当該立体物の対地速度voを演算する。ECU10は、対地速度voの大きさが速度閾値voth以上(|vo|≧voth)である場合は条件1-3が成立していると判定し、そうでない場合は条件1-3が不成立であると判定する。
【0037】
条件1-4については
図2A乃至
図2Cを参照して説明する。
図2A乃至
図2Cは、条件1-4が成立しているか否かを判定する方法を説明するための図である。これらの図により示される例では、何れも、条件1-1乃至条件1-3が成立していると仮定する。
図2A乃至
図2Cに示すように、ECU10は、他車両Voの移動方向(矢印参照)を演算し、当該移動方向に沿って延びる仮想的な延長線Loを設定する。ここで、他車両Voの移動方向は、「周囲情報に含まれる他車両Voの位置(即ち、自車両Vから他車両Voまでの距離、及び、自車両に対する他車両Voの方位)」の推移に基づいて演算され得る。また、延長線Loは、例えば、他車両Voの前端中央部を始点とする半直線として設定され得る。
【0038】
ECU10は、延長線Loが自車両Vの現在位置に対して右側(特定方向側)を通過している場合は条件1-4が成立していると判定し、そうでない場合は条件1-4が不成立であると判定する。ECU10は、延長線Loが自車両Vの現在位置に対して右側を通過しているか否かを、延長線Loと延長線L(後述)が交差しているか否かに基づいて判定する。即ち、ECU10は、自車両Vの右前方角部を始点として車幅外側方向(即ち、自車両Vの移動方向(矢印参照)と直交し且つ自車両から離間する方向)に延びる仮想線を延長線Lとして設定する。そして、延長線Loが延長線Lと交差しているか否かを判定し、交差している場合は、延長線Loが自車両Vの現在位置に対して右側を通過している、即ち、他車両Voが将来的に自車両Vの現在位置の右側を通過すると予想される(条件1-4が成立している)と判定する。一方、交差していない場合は、延長線Loが自車両Vの現在位置に対して右側を通過していない、即ち、他車両Voが将来的に自車両Vの現在位置の右側を通過するとは予想されない(条件1-4が不成立である)と判定する。
【0039】
図2A及び
図2Bの例では、延長線Loは延長線Lとそれぞれ点P1及び点P2において交差している。一方、
図2Cの例では、延長線Loは延長線Lと交差していない。このため、ECU10は、
図2A及び
図2Bの例では条件1-4が成立していると判定する。別言すれば、条件1が成立しており、他車両Voが「自車両Vに接近している対向車両Vop」に該当すると判定する。そして、
図2Cの例では条件1-4が不成立であると判定する。別言すれば、条件1が不成立であり、他車両Voが「自車両Vに接近している対向車両Vop」に該当しないと判定する。なお、条件1-1乃至条件1-4を判定する順序は問わない。また、条件1-3は、条件1の成立要件に含まれていなくてもよい。
【0040】
次に、条件2について説明する。ECU10は、右ウインカースイッチ12Rがオンしている場合は条件2が成立していると判定し、右ウインカースイッチ12Rがオフしている場合は条件2が不成立であると判定する。「右ウインカースイッチ12Rがオンしている場合」とは、別言すれば、ウインカーレバーWLが右側のウインカーを作動させるための操作に対応した操作状態にある場合ということもできる。なお、条件1及び条件2を判定する順序は問わない。
【0041】
条件1及び条件2が何れも成立しており、これにより前提条件が成立している(即ち、対向車両Vopが接近している最中に自車両Vが右折する可能性がある)場合、ECU10は、報知制御の第1実行条件が成立しているか否かを判定する。第1実行条件とは、「自車両が右折を完了する前に対向車両Vopと衝突する可能性がある」場合に成立する条件であり、以下の条件3及び条件4が何れも成立した場合に成立する。なお、「右折を完了する」とは、自車両Vが交差点にて右折する場合には、「自車両Vが右折前に走行していた車線と交差点にて交差している交差車線」に自車両Vの後端が進入したことを意味し、自車両Vが対向車線沿いの施設の駐車場等に進入する目的で対向車線を右折する場合には、自車両Vの後端が当該駐車場等に進入したことを意味する。
【0042】
(条件3)所定の基準時間Tc経過後の自車両Vの横移動距離dyが所定の距離閾値Dth以上である。
(条件4)自車両Vが対向車両Vopと縦方向に仮想的にすれ違うまでに要する時間Txが所定の下限時間Tl以上且つ所定の上限時間Tu(≦Tc)以下である。
【0043】
まず、条件3について説明する。前提条件が成立している場合、ECU10は、xy座標系を設定する。具体的には、
図3に示すように、ECU10は、自車両Vの前端中央部を原点として、「x軸の正の向き」が「対向車両Vopの移動方向とは反対の方向」を指すようにx軸を設定し、「y軸の正の向き」が当該x軸と直交し且つ特定方向(本実施形態では、右方)を指すようにy軸を設定する。なお、原点の位置は自車両Vの前端中央部に限られない。以下では、x方向を「縦方向」とも称し、y方向を「横方向」とも称する。
【0044】
次に、ECU10は、車速センサ13から取得された車速vを、縦方向の成分である縦速度vxと、横方向の成分である横速度vyと、に分解する。ECU10は、操舵角センサ14から取得された操舵角θsと、操舵角速度ωs(操舵角θsの時間微分値)と、横速度vyと、を含む第1車両情報に基づいて、周知の方法を用いて自車両Vが現時点から基準時間Tcだけ移動したと仮定した場合における移動距離dを推定する。そして、移動距離dの横方向の成分を「横移動距離dy」として演算する。なお、移動距離dは、現在の操舵角θs、現在の操舵角速度ωs、及び、現在の横速度vyと、に基づいて推定されるが、これに限られず、例えば、現在までの所定の期間における、操舵角θsの変化率、操舵角速度ωsの変化率、及び、横速度vyの変化率、にも基づいて推定されるように構成されてもよい。また、第1車両情報は、操舵角θs及び操舵角速度ωsに代えて、又は、加えて、図示しない操舵トルクセンサから取得される操舵トルクを含んでいてもよい。なお、基準時間Tcは、「第1基準時間」の一例に相当する。
【0045】
続いて、ECU10は、横移動距離dyが所定の距離閾値Dth以上であるか否かを判定し、dy≧Dthの場合は条件3が成立していると判定し、dy<Dthの場合は条件3が不成立であると判定する。基準時間Tcには自車両Vが車線の横断を完了するのに要する平均的な時間が設定され、その値は、例えば4.0秒である。また、距離閾値Dthには平均的な車線幅が設定され、その値は、例えば3.5mである。
【0046】
即ち、条件3は、自車両Vが現在位置から「車線の横断を完了するのに要する平均的な基準時間Tc」をかけて移動したときに「交差点(厳密には、対向車線が合流している交差点)又は対向車線」の横断を完了している可能性が高い場合に成立する条件である。この構成によれば、自車両Vが車線変更する場合には条件3が成立しない可能性が極めて高い。このため、条件3を導入することにより、自車両Vの右ウインカースイッチ12Rがオンしている理由が右折であるのか車線変更であるのかを適切に判別することができる。条件3は、「横断条件」の一例に相当する。なお、以下では、「交差点又は対向車線の横断を完了する」ことを単に「交差点の横断を完了する」と記載する場合がある。
【0047】
上記説明から明らかなように、条件3は、「横方向(y方向)が車線幅方向と略平行であること(別言すれば、対向車両Vopの移動方向(-x方向)は対向車線の延在方向と略平行であること)」を前提としている。
【0048】
次に、条件4について説明する。ECU10は、条件3の成立下で条件4の成立可否を判定するように構成されている。条件3が成立している場合、ECU10は、「自車両Vが縦速度vxで等速直線運動し、且つ、対向車両Vopが現在の移動状態を維持して移動する」と仮定した場合に、自車両Vが対向車両Vopと縦方向に仮想的にすれ違うまでの時間Txを演算する。ここで、「縦方向に仮想的にすれ違う」とは、自車両Vと対向車両Vopとが縦方向に接近して互いのx座標が一時的に一致し、その後、両者が縦方向に離間することを意味する。また、「縦方向に仮想的にすれ違う時点」とは、自車両Vのx座標と対向車両Vopのx座標とが一致する時点を意味する。自車両Vは対向車両Vopと実際にすれ違うわけではないため、以下では、時間Txを「仮想すれ違い時間Tx」とも称する。仮想すれ違い時間Txは、「自車両Vから対向車両Vopまでの距離の縦方向の成分」を「『自車両Vの縦速度vxの大きさ』と『対向車両Vopの車速vopの大きさ』との和」で除算することにより演算され得る。
【0049】
ECU10は、仮想すれ違い時間Txが所定の下限時間Tl以上且つ所定の上限時間Tu以下であるか否かを判定し、Tl≦Tx≦Tuの場合は条件4が成立していると判定し、Tx<Tl又はTu<Txの場合は条件4が不成立であると判定する。ここで、自車両Vが対向車両Vopと縦方向に仮想的にすれ違う位置を「仮想すれ違い点Px」と規定すると、仮想すれ違い点Pxは、自車両Vの現在位置(別言すれば、原点)からvx・Txだけ+x方向に位置している。仮想すれ違い点Pxは、仮想すれ違い時間Txが大きいほど遠方に位置し、仮想すれ違い時間Txが小さいほど近傍に位置する点である。別言すれば、仮想すれ違い点Pxは、対向車両Vopが遠方を移動している、及び/又は、車速vopの大きさが(速度閾値voth以上の範囲内で)比較的に小さい場合には、遠方に位置している。また、仮想すれ違い点Pxは、対向車両Vopが近辺を移動している、及び/又は、車速vopの大きさが比較的に大きい場合には、近傍に位置している。
【0050】
上限時間Tuには、基準時間Tc以下の所定の値(例えば、3.2秒)が設定される。時間TuがTu≦Tcを満たすことにより、条件4が成立する場合、仮想すれ違い点Pxを交差点内に位置させることができる。このため、上限時間Tuは、「仮想すれ違い点Pxが交差点内に留まることができる仮想すれ違い時間Txの最大値」ということもできる。また、自車両Vが右折する過程で対向車両Vopとの距離がある程度短くなると、運転者は対向車両Vopを認識できるため対向車両Vopとの衝突を回避するための運転操作(典型的には、ブレーキ操作)を自発的に行う(即ち、右回りの操舵操作を一時的に停止する)と考えられる。この知見に基づき、下限時間Tlには、「運転者が対向車両Vopを認識(視認)できない可能性が高いために右回りの操舵操作を継続し得る仮想すれ違い時間Txの最小値」が設定される。下限時間Tlの値は、例えば1.0秒である。なお、上限時間Tu及び下限時間Tlは変更可能に構成されてもよい。即ち、対向車両Vopが一次隣接車線を移動している場合と、二次隣接車線を移動している場合と、で時間Tu及び時間Tlはそれぞれ異なる値に設定されてもよい。この場合、時間Tu及び時間Tlの変更に合わせて基準時間Tc及び距離閾値Dthも変更されるように構成されてもよい。
【0051】
即ち、条件4は、自車両Vが現在の縦速度vxを維持して右折する場合に交差点内で(即ち、交差点の横断を完了する前に)対向車両Vopと衝突する可能性が高い場合に成立する条件である。
【0052】
条件3及び条件4が何れも成立しており、これにより第1実行条件が成立している(即ち、自車両Vが右折を完了する前に対向車両Vopと衝突する可能性がある)場合、ECU10は、報知制御(対向車両の存在を運転者に報知する制御)を実行する。具体的には、ECU10は、以下の処理1及び処理2を報知制御として実行する。
(処理1)メーターパネル21に所定のマーク(例えば、対向車両Vopが接近していることを明示するマーク)を表示させる。
(処理2)スピーカ22に所定のメッセージ(例えば、「接近車両にご注意下さい」とのメッセージ)を発話させる。
【0053】
なお、ECU10は、報知制御の実行要否を、衝突回避制御の実行要否と並行して判定するように構成されている。衝突回避制御の一種である自動ブレーキ制御は、対向車両VopについてのTTCが第2TTC閾値以下である場合に実行されるが、下限時間Tlは、Tl≦Txが成立している期間中は当該TTCが第2TTC閾値以下にはならないような値に予め設定されている。このため、報知制御の実行中に自動ブレーキ制御が実行される事態は発生しない。
【0054】
報知制御の前提条件及び第1実行条件について
図4を参照してより具体的に説明する。
図4は、走行車線30を+x方向に移動してきた自車両Vが交差点で右折する過程の一部を示す。この例では、時刻tがt=t1及びt=t2(>t1)のときの自車両V及び他車両Voの挙動を示している。自車両Vの運転者は、t=t1では操舵操作をしておらず、t=t2では右回りに操舵操作をしている。自車両Vの右ウインカースイッチ12Rは、時刻tがt1に到達する少し前の時点からオンされている。また、他車両Voは、車速の大きさが速度閾値voth以上を満たすような車速で移動している。なお、xy座標系の図示は省略している。
【0055】
図4に示すように、t=t1及びt=t2のとき、他車両Voは一次隣接車線に存在しており、その種類が車両であり、車速の大きさが速度閾値voth以上であり、且つ、他車両Voの延長線Loが自車両Vの延長線Lとそれぞれ点Pt1(t=t1)及び点Pt2(t=t2)において交差しているので、条件1-1乃至条件1-4が全て成立している。従って、ECU10は、t=t1及びt=t2において条件1が成立している(即ち、他車両Voは対向車線32を自車両Vに接近する方向に移動している対向車両Vopである)と判定する。以下、他車両Voを「対向車両Vop」と称する。また、t=t1及びt=t2において自車両Vの右ウインカースイッチ12Rがオンしているので、ECU10は、条件2が成立していると判定する。以上より、ECU10は、報知制御の前提条件が成立していると判定する。
【0056】
このため、ECU10は、報知制御の第1実行条件の成立可否を判定すべく、条件3の成立可否を判定する。上述したように、t=t1のときは操舵操作されていないので、操舵角θs及び操舵角速度ωsは何れも略ゼロである。加えて、自車両Vは+x方向に移動しているので、車速vは縦速度vxに等しく、横速度vyはゼロである(v=vx、vy=0)。このため、t=t1における横移動距離dyはゼロとなり、dy<Dとなるので、ECU10は、t=t1において条件3は不成立であると判定する。
【0057】
一方、t=t2のときは右回りに操舵操作されており、その結果、自車両Vは右斜め前方に移動している。t=t2において、操舵角θs、操舵角速度ωs及び横速度vyに基づいて演算される横移動距離dyがdy≧Dを満たす場合、ECU10は、t=t2において条件3が成立している(即ち、自車両Vが現在位置から基準時間Tcをかけて移動した場合、交差点(対向車線32が合流している交差点)の横断を完了している可能性が高いと判定する。
【0058】
続いて、ECU10は、t=t2における条件4の成立可否を判定すべく、仮想すれ違い時間Txを演算する。この例では、自車両Vと対向車両Vopは、y軸と平行に延びている直線Lp上で縦方向に仮想的にすれ違う。このため、仮想すれ違い点Pxは、x軸(破線参照)と直線Lpとの交点に位置している。ECU10は、仮想すれ違い時間Txを演算すると、Tl≦Tx≦Tuが成立しているか否かを判定する。例えば、t=t2における仮想すれ違い時間Txが2.0秒であるとすると、Tl≦Tx≦Tuが成立しているため、ECU10は、t=t2において条件4が成立している(即ち、自車両Vが現在の縦速度vxを維持して右折する場合に交差点内で対向車両Vopと衝突する可能性が高い)と判定する。以上より、ECU10は、t=t2において報知制御の第1実行条件が成立していると判定し、報知制御を実行する。なお、
図4は自車両Vが交差点にて右折する場合を例示しているが、自車両Vが対向車線沿いの施設の駐車場等に進入する目的で対向車線を右折する場合においてもECU10は同様の処理を実行する。
【0059】
報知制御が実行されることにより、運転者は自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて対向車両Vopの存在を認識できるので、当該対向車両Vopとの衝突を回避するための運転操作を行うことができ、自動ブレーキ制御が実行される頻度を低減できる。加えて、上限時間Tuを基準時間Tc以下の所定の値(「仮想すれ違い点Pxが交差点内に留まることができる時間Txの最大値」)に設定するとともに、下限時間Tlを「運転者が対向車両Vopを認識できない可能性が高いために右回りの操舵操作を継続し得る時間Txの最小値」に設定することにより、報知制御の不要作動を抑制することができる。
【0060】
報知制御の不要作動について
図5A及び
図5Bを参照して説明する。
図5Aは、上限時間Tuを基準時間Tcより大きい値に設定した場合における不要作動の一例を説明するための図である。この例では、条件1乃至条件3は何れも成立している。
図5Aに示すように、対向車両Vopは比較的に遠方を移動しているため、仮想すれ違い時間Txは比較的に大きく、この結果、仮想すれ違い点Pxは交差点の外部に位置している。これは、仮想すれ違い時間Txが基準時間Tcよりも大きい(Tx>Tc)ことを意味する。このため、仮想すれ違い点Pxが交差点の外部に位置している場合は、自車両Vが交差点内で対向車両Vopと衝突することはない。上限時間Tuを基準時間Tcより大きくすると、このように仮想すれ違い点Pxが交差点の外部に位置している場合にもTx≦Tuが成立し得るため、実際には衝突する可能性がない対向車両Vopについて報知制御が実行される事態が発生し、不要作動となる。これに対し、本実施形態では、上限時間Tuを基準時間Tc以下の所定の値(「仮想すれ違い点Pxが交差点内に留まることができる時間Txの最大値」)に設定する。これにより、仮想すれ違い点Pxが交差点の外部に位置している場合には報知制御が実行されないため、不要作動を抑制できる。
【0061】
図5Bは、下限時間Tlを「運転者が対向車両Vopを認識できない可能性が高いために右回りの操舵操作を継続し得る時間Txの最小値」未満の値に設定した場合における不要作動の一例を説明するための図である。この例では、条件1乃至条件3は何れも成立している。
図5Bに示すように、対向車両Vopは比較的に近辺を移動しているため、仮想すれ違い時間Txは比較的に小さく、この結果、仮想すれ違い点Pxは自車両Vの近傍に位置している。この時点では運転者は対向車両Vopを認識できるため、衝突を回避するための運転操作を自発的に行う可能性が極めて高い。下限時間Tlを上記の値に設定すると、このように運転者が自発的に衝突回避操作を行う場合にもTl≦Txが成立し得るため、既に運転者が認識している対向車両Vopについて報知制御が実行される事態が発生し、不要作動となる。これに対し、本実施形態では、下限時間Tlを「運転者が対向車両Vopを認識できない可能性が高いために右回りの操舵操作を継続し得る仮想すれ違い時間Txの最小値」に設定する。これにより、運転者が対向車両Vopを認識できる程度に対向車両Vopが接近している場合には報知制御が実行されないため、不要作動を抑制できる。
【0062】
なお、時間Txが下限時間Tlを下回っても運転者が自発的に衝突回避操作を行わない場合は、その後、対向車両VopについてのTTCが減少して第2TTC閾値以下となるため、自動ブレーキ制御が実行され、これにより、対向車両Vopとの衝突を適切に回避することができる。即ち、報知制御は、自車両Vが右折を完了する前に対向車両Vopと衝突する可能性があるにも関わらず運転者が対向車両Vopを認識できない可能性が高い場合に対向車両Vopの存在を運転者に報知することを目的としており、運転者が対向車両Vopを認識できる程度に対向車両Vopが接近している場合にまでその存在を報知することを目的としたものではない。
【0063】
(具体的作動)
続いて、ECU10の具体的作動について説明する。ECU10のCPUは、イグニッションスイッチがオン位置にある期間中、所定の演算時間が経過する毎に
図6にフローチャートにより示したルーチン繰り返し実行するように構成されている。
【0064】
所定のタイミングになると、CPUは、
図6のステップ600から処理を開始してステップ610に進み、周囲情報に基づいて対向車両Vopが接近しているか否かを判定する(条件1)。対向車両Vopが存在しない、又は、対向車両Vopは存在するものの接近していない(典型的には、旋回中である)場合、CPUは、ステップ610にて「No」と判定し(即ち、条件1が成立していない(前提条件が成立していない)と判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、対向車両Vopが接近している場合、CPUは、ステップ610にて「Yes」と判定し(即ち、条件1が成立していると判定し)、ステップ620に進む。
【0065】
ステップ620では、CPUは、右ウインカースイッチ12Rがオンしているか否かを判定する(条件2)。右ウインカースイッチ12Rがオフしている場合、CPUは、ステップ620にて「No」と判定し(即ち、条件2が成立していない(前提条件が成立していない)と判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、右ウインカースイッチ12Rがオンしている場合、CPUは、ステップ620にて「Yes」と判定し(即ち、条件2が成立している(前提条件が成立している)と判定し)、ステップ630に進む。
【0066】
ステップ630では、CPUは、基準時間Tc経過後の自車両Vの横移動距離dyが距離閾値Dth以上であるか否かを判定する(条件3)。dy<Dthの場合、CPUは、ステップ630にて「No」と判定し(即ち、条件3が成立していない(第1実行条件が成立していない)と判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、dy≧Dthの場合、CPUは、ステップ630にて「Yes」と判定し(即ち、条件3が成立していると判定し)、ステップ640に進む。
【0067】
ステップ640では、CPUは、仮想すれ違い時間TxがTl≦Tx≦Tu(Tu≦Tc)を満たしているか否かを判定する(条件4)。Tx<Tl又はTu<Txの場合、CPUは、ステップ640にて「No」と判定し(即ち、条件4が成立していない(第1実行条件が成立していない)と判定し)、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、Tl≦Tx≦Tuの場合、CPUは、ステップ640にて「Yes」と判定し(即ち、条件4が成立している(第1実行条件が成立している)と判定し)、ステップ650に進む。
【0068】
ステップ650では、CPUは、メーターパネル21を制御して所定のマークを表示させるとともにスピーカ22を制御して所定のメッセージを発話させる。これにより、報知制御が実行される。その後、CPUは、ステップ695に進んで本ルーチンを一旦終了する。
【0069】
以上説明したように、第1実施装置によれば、右折時において、自動ブレーキ制御よりも早いタイミングにて報知制御を実行することと、当該報知制御の不要作動を抑制することと、を両立することができる。
【0070】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態に係る車両の報知制御装置(以下、「第2実施装置」とも称する。)について図面を参照しながら説明する。第1実施形態と同一の要素には同一の符号を付している。第2実施装置は、「自車両Vが基準時間経過後に交差点の横断を完了している可能性が高いか否か」の判定方法が第1実施装置と相違している。以下、第1実施装置との相違点について具体的に説明する。
【0071】
(構成)
図7に示すように、第2実施装置は、報知制御ECU110(以下、単に「ECU110」とも称する。)を備える。ECU110は、操舵角センサ14に代えてブレーキスイッチ114を備える点でECU10と相違している。ブレーキスイッチ114は、運転者によりブレーキペダル(図示省略)が操作されている(踏み込まれている)場合にオンし(オン信号を発生し)、ブレーキペダルが操作されていない場合にオフする(オフ信号を発生する)。ECU110は、ブレーキスイッチ114が発生した信号を取得し、当該信号に基づいてブレーキペダルの操作の有無を検出する。ブレーキスイッチは、「運転操作状態検出装置」の一例に相当する。
【0072】
(作動の詳細)
本実施形態においても、ECU110は、予測軌道を用いずに対向車両Vopとの衝突可能性を判定するように構成されている。具体的には、ECU110は、第1実施形態において説明した条件1及び条件2が何れも成立しており、これにより前提条件が成立している場合、報知制御の第2実行条件が成立しているか否かを判定する。第2実行条件とは、「自車両が右折を完了する前に対向車両Vopと衝突する可能性がある」場合に成立する条件であり、以下の条件5乃至条件7が全て成立した場合に成立する。
【0073】
(条件5)車速vが所定の車速閾値vth以上である。
(条件6)自車両Vの停止必要時間Tが基準時間Tsを超えている。
(条件7)仮想すれ違い時間Txが下限時間Tl以上且つ上限時間Tu(≦Ts)以下である。
【0074】
まず、条件5について説明する。前提条件が成立している場合、ECU110は、xy座標系を設定する。続いて、ECU110は、車速vが車速閾値vth以上であるか否かを判定し、v≧vthの場合は条件5が成立していると判定し、v<vthの場合は条件5が不成立であると判定する。車速閾値vthには、「右折を開始した自車両Vが交差点内又は対向車線内で停止することなく横断を完了するときの車速vの最小値」が設定され、その値は、例えば時速15kmである。即ち、条件5は、自車両Vが交差点内又は対向車線内で停止する可能性が低い場合に成立する条件である。条件5は、「横断条件」の一例に相当する。
【0075】
次に、条件6について説明する。ECU110は、条件5の成立下で条件6の成立可否を判定するように構成されている。条件5が成立している場合、ECU110は、ブレーキスイッチ114から取得されたブレーキペダルの操作の有無(ブレーキ操作の有無)と、減速度(後述)と、車速vと、を含む第2車両情報に基づいて、周知の方法を用いて自車両Vが停止するために要する停止必要時間Tを推定する。ここで、減速度は、負の加速度であり、車速vの推移に基づいて演算され得る。なお、第2車両情報は、ブレーキペダルの操作の有無に代えて、又は、加えて、運転者によるブレーキ操作を検出可能な他の装置から取得されたブレーキ操作の有無を含んでいてもよい。
【0076】
ECU110は、停止必要時間Tが基準時間Tsを超えているか否かを判定し、T>Tsの場合は条件6が成立していると判定し、T≦Tsの場合は条件6が不成立であると判定する。基準時間Tsには、右折の途中で運転者が対向車両Vopの存在に気付いて自車両Vを停止させようとした場合に要する一般的な時間に基づいて設定され、その値は、例えば4.0秒である。即ち、条件6は、運転者が対向車両Vopを認識していない可能性が高い場合に成立する条件でもある。なお、条件6は、「横断条件」の一例に相当すし、基準時間Tsは、「第2基準時間」の一例に相当する。
【0077】
続いて、条件7について説明する。ECU110は、条件6の成立下で条件7の成立可否を判定するように構成されている。条件7は、第1実施形態の条件4と同一の条件である。即ち、ECU110は、条件6が成立している場合、仮想すれ違い時間Txを演算し、時間Txが下限時間Tl以上且つ上限時間Tu以下であるか否かを判定する。ECU110は、Tl≦Tx≦Tuの場合は条件7が成立していると判定し、Tx<Tl又はTu<Txの場合は条件7が不成立であると判定する。なお、時間Tu及び時間Tlには、第1実施形態と同様の理由に基づいた値が設定され、それらの値は、例えばTu=3.2秒、Tl=1.0秒である。即ち、条件7は、自車両Vが現在の縦速度vxを維持して右折する場合に交差点内で(即ち、交差点の横断を完了する前に)対向車両Vopと衝突する可能性が高い場合に成立する条件である。なお、基準時間Tsは、Tu≦Tsを満たす値に設定される。
【0078】
条件5乃至条件7が全て成立しており、これにより第2実行条件が成立している(即ち、自車両が右折を完了する前に対向車両Vopと衝突する可能性がある)場合、ECU110は、報知制御(処理1及び処理2)を実行する。
【0079】
この構成によれば、条件5が不成立の場合、即ち、v<vthの場合、報知制御が実行されない。前提条件の成立下でv<vthである場合、運転者が対向車両Vopを認識したことにより自車両Vを減速させた可能性が高い。従って、このように、運転者が対向車両Vopを認識できている可能性が高い場合には報知制御を実行しないことにより、不要作動を抑制できる。
【0080】
また、条件6が不成立の場合、即ち、T≦Tsの場合、報知制御が実行されない。前提条件の成立下でv≧vthであるにも関わらずT≦Tsである場合、右折の途中で運転者が対向車両Vopの存在に気付いて自車両Vを停止させようとした可能性が高い。従って、このように、運転者が対向車両Vopを認識できている可能性が高い場合には報知制御を実行しないことにより、不要作動を抑制できる。
【0081】
(具体的作動)
続いて、ECU110の具体的作動について説明する。ECU110のCPUは、イグニッションスイッチがオン位置にある期間中、所定の演算時間が経過する毎に
図8にフローチャートにより示したルーチン繰り返し実行するように構成されている。このルーチンでは、ステップ630及びステップ640の処理の代わりにステップ830乃至ステップ850の処理が行われる点で第1実施形態のルーチンと相違している。以下では、第1実施形態と相違している処理についてのみ説明する。
【0082】
ステップ830:CPUは、車速vが車速閾値vth以上であるか否かを判定する(条件5)。v<vthの場合、CPUは、ステップ830にて「No」と判定し(即ち、条件5が成立していない(第2実行条件が成立していない)と判定し)、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、v≧vthの場合、CPUは、ステップ830にて「Yes」と判定し(即ち、条件5が成立していると判定し)、ステップ840に進む。
【0083】
ステップ840:CPUは、停止必要時間Tが基準時間Tsを超えているか否かを判定する(条件6)。T≦Tsの場合、CPUは、ステップ840にて「No」と判定し(即ち、条件6が成立していない(第2実行条件が成立していない)と判定し)、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、T>Tsの場合、CPUは、ステップ840にて「Yes」と判定し(即ち、条件6が成立していると判定し)、ステップ850に進む。
【0084】
ステップ850:CPUは、仮想すれ違い時間TxがTl≦Tx≦Tu(Tu≦Ts)を満たしているか否かを判定する(条件7)。Tx<Tl又はTu<Txの場合、CPUは、ステップ850にて「No」と判定し(即ち、条件7が成立していない(第2実行条件が成立していない)と判定し)、ステップ895に進んで本ルーチンを一旦終了する。一方、Tl≦Tx≦Tuの場合、CPUは、ステップ850にて「Yes」と判定し(即ち、条件7が成立している(第2実行条件が成立している)と判定し)、ステップ650に進む。
【0085】
以上説明したように、第2実施装置によっても、第1実施装置と同様の作用効果を奏することができる。
図9A及び
図9Bは、第2実施装置の作用効果を説明するための図であり、
図9Aは、従来の報知制御を実行する際の上限時間Tuの設定方法を示すタイムチャートであり、
図9Bは、本実施形態における報知制御を実行する際の上限時間Tuの設定方法を示すタイムチャートである。タイムチャートの横軸は、運転者がブレーキ操作を行う少し前の任意の時点からの経過時間teを示し、縦軸は、車速v及び仮想すれ違い時間Txを示す。何れのタイムチャートにおいても、時間Txが上限時間Tu以下となった場合に報知制御が実行されるようになっている。
【0086】
図9A及び
図9Bに示すように、経過時間teが時間tbに到達するまでは、自車両Vと対向車両Vopは、vx+|vop|が一定の値となるように対向車両Vopが自車両Vに接近している。このため、te<tbの期間においては、仮想すれ違い時間Txは線形減少している。運転者は、右折の途中で対向車両Vopの存在に気が付き、te=tbの時点で自車両Vを停止させるべくブレーキ操作を開始している。このため、車速vは一定の減速度で減少している。また、これにより縦速度vxが減少するため、te=tbの時点において仮想すれ違い時間Txが増加し、それ以降、時間Txは非線形減少(詳細には、上に凸の二次関数的に減少)している。
【0087】
従来は、
図9Aに示すように、上限時間Tuは、ブレーキ操作が継続されている期間中は緩やかに減少するように構成されていた。この構成によれば、たとえ上限時間Tuを減少させても、Tx≦Tuとなる時点(te=tn)が自車両Vが停止する時点(te=ts)よりも前であれば、運転者は自車両Vを認識しているにも関わらずte=tnの時点にて報知制御が実行されてしまい、不要作動の原因となっていた。
【0088】
これに対し、本実施形態では、
図9Bに示すように、上限時間Tuは、ブレーキ操作の開始時点(te=tb)からΔtのタイムラグを経た時点において所定の値だけ減少している。これは、ブレーキ操作が開始されたことにより空走時間を考慮する必要がなくなったことによる。それ以降、ブレーキ操作が継続されている期間中は、上限時間Tuは緩やかに減少しているが、te=trの時点において車速vが車速閾値vth未満になると、上限時間Tuはゼロに設定される。これは、上述したように、v<vthの場合は自車両Vが交差点内又は対向車線内で停止する可能性が高く(即ち、運転者が対向車両Vopを認識している可能性が高く)、報知制御を実行する必要性が極めて低いからである。このように、第2実施装置によれば、上限時間Tuの値が適切に変更されることにより、運転者が対向車両Vopを認識している可能性が高い場合にまで報知制御が実行される可能性を大幅に低減でき、当該制御の不要作動を抑制できる。
【0089】
以上、本実施形態に係る車両の報知制御装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限り種々の変更が可能である。
【0090】
例えば、上記実施形態では特定方向が右方向の場合について説明したが、これに限られない。本発明は特定方向が左方向の場合にも適用することができ、この場合は、上記実施形態の「右」を「左」に、「左」を「右」に読み替えることによりその構成が説明され得る。
【符号の説明】
【0091】
10:報知制御ECU、11:カメラセンサ、12:ウインカースイッチ、12R:右ウインカースイッチ、12L:左ウインカースイッチ、13:車速センサ、14:操舵角センサ、21:メーターパネル、22:スピーカ