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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】踏み間違い加速抑制装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 28/10 20060101AFI20240702BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240702BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60K28/10 Z
F02D29/02 311C
B60T7/12 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021134032
(22)【出願日】2021-08-19
(65)【公開番号】P2023028370
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】水井 健介
【審査官】渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-67013(JP,A)
【文献】特開2017-114430(JP,A)
【文献】特開2012-224119(JP,A)
【文献】特開2012-61932(JP,A)
【文献】特開2017-74909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0234907(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 28/10
F02D 29/02
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセル開度が所定のキャンセル判定開度以上である状態が所定の基準期間継続した場合に作動がキャンセルされる自動ブレーキシステムを備える車両に、後付けで搭載可能な踏み間違い加速抑制装置であって、
アクセル操作に基づくアクセル開度である実アクセル開度を入力するように構成される開度入力部(11)と、
前記開度入力部により入力された前記実アクセル開度と、擬似的なアクセル開度である疑似アクセル開度と、を選択的に出力可能に構成される開度変更部(16)と、
前記開度入力部により入力された前記実アクセル開度に基づき所定の加速抑制条件が成立したと判定した場合、前記実アクセル開度未満の前記疑似アクセル開度を前記開度変更部に出力させる加速抑制処理を実行するように構成される加速抑制部(18)と、
前記自動ブレーキシステムの作動状態を検出するように構成される作動状態検出部(17)と、
を備え、
前記加速抑制部は、前記加速抑制条件が成立したと判定した場合であっても、前記自動ブレーキシステムが作動中であることが前記作動状態検出部により検出された場合には、前記自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされたことが前記作動状態検出部により検出されるまで、前記実アクセル開度、又は、前記キャンセル判定開度以上かつ前記実アクセル開度未満の前記疑似アクセル開度、をキャンセル充足開度として前記開度変更部に出力させるキャンセル処理を、前記加速抑制処理に代えて実行するように構成される、踏み間違い加速抑制装置。
【請求項2】
請求項1に記載の踏み間違い加速抑制装置であって、
前記加速抑制部は、前記キャンセル処理の実行中に前記キャンセル充足開度が継続して出力されている期間が所定の制限期間を超えた場合、前記実アクセル開度未満かつ前記キャンセル判定開度未満の前記疑似アクセル開度を前記開度変更部に一時的に出力させ、その後再び前記キャンセル充足開度を前記開度変更部に出力させる度に前記制限期間を延ばすように構成される、踏み間違い加速抑制装置。
【請求項3】
請求項2に記載の踏み間違い加速抑制装置であって、
前記車両の走行速度を入力するように構成される速度入力部(17)を更に備え、
前記加速抑制部は、前記速度入力部により入力された前記走行速度に基づき、前記制限期間を延ばす度合いを調整するように構成される、踏み間違い加速抑制装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の踏み間違い加速抑制装置であって、
前記加速抑制部は、前記自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされたことを示す割り込み要求を前記作動状態検出部から入力した時点で、前記キャンセル処理を終了して前記加速抑制処理を実行するように構成される、踏み間違い加速抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、踏み間違い加速抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アクセルペダルの踏み間違いによる車両の加速を抑制する踏み間違い加速抑制装置が知られている。この種の装置は、運転者により誤ってアクセルペダルが強く踏み込まれたことが検出された場合に、アクセル操作に基づく実際のアクセル開度よりも小さい、擬似的なアクセル開度を出力可能である。すなわち、踏み間違い加速抑制装置により、実際のアクセル開度が、誤って強く踏み込まれたことが検出されないようなアクセル開度に変換されることで、車両の加速が抑制される。
【0003】
特許文献1には、出荷後の車両に搭載可能、つまり車両に後付けで搭載可能な踏み間違い加速抑制装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-67013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、障害物との衝突が予測された場合に運転者がブレーキペダルを踏み込んでいなくても自動でブレーキをかける自動ブレーキシステムを搭載する車両が増えてきている。この種の自動ブレーキシステムには、障害物をよけるために進行方向を変更して加速させるといった運転者による回避行動を考慮して、作動中に運転者が車両を加速させようとしていると判断された場合には作動をキャンセルできるものがある。例えば、アクセル開度に基づきアクセルペダルが強く踏み込まれたことが検出された場合などに、運転者が車両を加速させようとしていると判断されて作動がキャンセルされる。
【0006】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、このような自動ブレーキシステムを搭載する車両に踏み間違い加速抑制装置が後付けで搭載されると、自動ブレーキシステムの作動が適切にキャンセルされない場合がある、という課題が見出された。本来であれば自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされるような、アクセルペダルが強く踏み込まれた場面であっても、そのようなアクセル操作に基づく実際のアクセル開度が踏み間違い加速抑制装置により擬似的なアクセル開度に変換され得るからである。
【0007】
本開示の一局面は、自動ブレーキシステムを搭載した車両に踏み間違い加速抑制装置を後付けで搭載することにより自動ブレーキシステムの作動がキャンセルできなくなることを抑制する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様は、アクセル開度が所定のキャンセル判定開度以上である状態が所定の基準期間継続した場合に作動がキャンセルされる自動ブレーキシステムを備える車両に、後付けで搭載可能な踏み間違い加速抑制装置であって、開度入力部(11)と、開度変更部(16)と、加速抑制部(18)と、作動状態検出部(17)と、を備える。開度入力部は、アクセル操作に基づくアクセル開度である実アクセル開度を入力するように構成される。開度変更部は、開度入力部により入力された実アクセル開度と、擬似的なアクセル開度である疑似アクセル開度と、を選択的に出力可能に構成される。加速抑制部は、開度入力部により入力された実アクセル開度に基づき所定の加速抑制条件が成立したと判定した場合、実アクセル開度未満の疑似アクセル開度を開度変更部に出力させる加速抑制処理を実行するように構成される。作動状態検出部は、自動ブレーキシステムの作動状態を検出するように構成される。加速抑制部は、加速抑制条件が成立したと判定した場合であっても、自動ブレーキシステムが作動中であることが作動状態検出部により検出された場合には、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされたことが作動状態検出部により検出されるまで、実アクセル開度、又は、キャンセル判定開度以上かつ実アクセル開度未満の疑似アクセル開度、をキャンセル充足開度として開度変更部に出力させるキャンセル処理を、加速抑制処理に代えて実行するように構成される。
【0009】
このような構成によれば、自動ブレーキシステムを搭載した車両に踏み間違い加速抑制装置を後付けで搭載することにより自動ブレーキシステムの作動がキャンセルできなくなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】踏み間違い加速抑制装置の構成を示すブロック図である。
図2】制御部の制御状態を表す状態遷移図である。
図3】制御部の制御状態と自動ブレーキシステムの作動状態との関係を表すタイムチャートである。
図4】実アクセル開度が継続して出力される期間が制限されたキャンセル処理を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
[1-1.構成]
図1に示す踏み間違い加速抑制装置1は、アクセルペダルの踏み間違いによる車両の加速を抑制する装置である。踏み間違い加速抑制装置1は、出荷後の車両に搭載可能、つまり車両に後付けで搭載可能に構成されている。本実施形態の踏み間違い加速抑制装置1は、アクセルペダルセンサ20、前方監視センサ30、後方監視センサ40、パワートレインECU50、自動ブレーキECU60、及びCGW70を備える車両に搭載される。以下では、パワートレインECU50をパワトレECU50という。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。また、GWは、Gatewayの略であり、CGWは、Central Gatewayの略である。
【0012】
アクセルペダルセンサ20は、運転者のアクセル操作に基づくアクセル開度を検出する。アクセル開度は、百分率で表される。運転者がアクセルペダルを全く踏んでいないときのアクセル開度が0%である。運転者がアクセルペダルを上限まで踏んでいるときのアクセル開度が100%である。
【0013】
前方監視センサ30及び後方監視センサ40は、車両の前方及び後方に存在する障害物を検出する。障害物には、例えば、歩行者、他の車両及び壁等が該当する。本実施形態では、前方監視センサ30及び後方監視センサ40として、超音波センサが用いられる。前方監視センサ30及び後方監視センサ40は、車両の製造時に搭載されてもよいし、踏み間違い加速抑制装置1とともに、車両に後付けで搭載されてもよい。なお、前方監視センサ30及び後方監視センサ40としては、例えば、ライダ、ミリ波センサ、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ、赤外線イメージセンサ等が用いられてもよい。なお、ライダはLiDARとも表記される。LiDARは、Light Detection and Rangingの略語である。
【0014】
パワトレECU50は、アクセルペダルセンサ20により検出されたアクセル開度に応じて車両の駆動力を制御するように構成されている。ただし、本実施形態では、踏み間違い加速抑制装置1が備える後述する装置本体10が、アクセルペダルセンサ20からパワトレECU50へのアクセル開度の出力経路に設けられている。このため、本実施形態では、パワトレECU50は装置本体10からアクセル開度を入力する。また、パワトレECU50は、入力したアクセル開度を、車載ネットワークであるCANに出力するように構成されている。
【0015】
本実施形態では、パワトレECU50、自動ブレーキECU60及び後述する装置本体10が、CANに接続されている。具体的には、パワトレECU50、自動ブレーキECU60及び装置本体10のそれぞれが異なる通信バスに接続されており、これらの通信バスはCGW70を介して接続されている。CGW70は、通信バス間の通信を中継する。なお、CANは、Controller Area Networkの略である。CANは登録商標である。
【0016】
自動ブレーキECU60は、車両が障害物に衝突する際の被害を軽減するためのシステムである自動ブレーキシステムを作動させるように構成されている。具体的には、自動ブレーキECU60は、障害物との衝突が予測される状況になることで、後述する開始条件が成立すると、自動ブレーキシステムを作動させる。これにより、運転者がブレーキペダルを踏み込んでいなくても自動でブレーキがかかる。本実施形態では、開始条件が成立したか否かは、例えばカメラやミリ波レーダセンサなどの、車両の周辺の障害物を検出可能なセンサから取得された検出結果に基づき判定される。また、自動ブレーキECU60は、車両が停車すると、自動ブレーキシステムの作動を停止させる。さらに、自動ブレーキECU60は、自動ブレーキシステムの作動中における運転者のアクセル操作により、後述するキャンセル条件が成立すると、自動ブレーキシステムの作動をキャンセルする。つまり、本実施形態の自動ブレーキシステムは、運転者の意思で作動を中止できる仕様となっている。本実施形態では、キャンセル条件が成立したか否かは、CANから取得されたアクセル開度に基づき判定される。また、自動ブレーキECU60は、自動ブレーキシステムの作動状態をCANに出力する。
【0017】
踏み間違い加速抑制装置1は、装置本体10、GWECU80、及び表示機90を備える。
装置本体10は、アクセルペダルセンサ20からアクセル開度を入力するための入力端子11と、前方監視センサ30から検出情報を入力するための入力端子12と、後方監視センサ40から検出情報を入力するための入力端子13と、パワトレECU50へアクセル開度を出力するための出力端子14と、CANに接続するための入出力端子15と、を備える。
【0018】
また、装置本体10は、出力切替部16と、CANインタフェース17と、制御部18と、を備える。
出力切替部16は、アクセルペダルセンサ20から入力したアクセル開度である実アクセル開度と、擬似的なアクセル開度である疑似アクセル開度と、を制御部18の指示に従い選択的に出力可能に構成されている。
【0019】
CANインタフェース17は、CANプロトコルに従った通信を行うためのインタフェースである。CANインタフェース17は、車両の走行速度を示す速度情報やシフトレバーの操作位置を示すシフト情報といった各種情報をCANから取得し、制御部18に出力する。
【0020】
制御部18は、CPU181、ROM182、及びRAM183を有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成される。制御部18の機能は、CPU181が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。本実施形態では、ROM182が非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、プログラムが実行されることにより、当該プログラムに対応する方法が実行される。なお、制御部18は、1つのマイクロコンピュータを備えてもよいし、複数のマイクロコンピュータを備えてもよい。
【0021】
GWECU80は、CANインタフェース17とCANの通信バスとを接続するゲートウェイとして機能するECUである。また、GWECU80は、装置本体10と表示機90との通信を中継する。ただし、このような構成は一例であり、例えば、GWECU80を備えない構成であってもよい。この場合、CANインタフェース17が通信バスに直接接続され、表示機90も装置本体10に直接接続されるように構成されていてもよい。
【0022】
表示機90は、制御部18の指示に従い、運転者に対する報知を行う報知処理を実行する。運転者に対する報知の方法としては、例えば、音声や警告音等の音の出力、文字画像やアイコン等の画像の表示、又はこれらの組み合わせを採用することができる。
【0023】
[1-2.自動ブレーキシステムのキャンセル条件]
次に、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされる条件について説明する。自動ブレーキECU60は、上述したように、キャンセル条件が成立したと判定した場合、自動ブレーキシステムの作動をキャンセルする。キャンセル条件は、入力したアクセル開度が所定のキャンセル判定開度以上である状態が所定の基準期間継続した、という条件である。キャンセル判定開度は、運転者が車両を加速させようとアクセルペダルを強く踏み込んでいると推測される比較的大きなアクセル開度に定められている。
【0024】
すなわち、障害物との衝突が予測される状況になったことで自動ブレーキシステムが作動すると、ブレーキがかかり車両が減速することで衝突被害が軽減される。ただし、障害物をよけるために進行方向を変更して加速させるといった回避行動を運転者がとることも考えられる。この場合、運転者は、車両の走行を継続させるためにアクセルペダルを強く踏み込む操作を行うことが考えられる。本実施形態のキャンセル条件は、運転者による回避行動としてのアクセル操作を判断するために設けられている。キャンセル条件が成立すると、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされることにより、自動ブレーキシステムの作動の継続よりも、運転者の回避行動を優先することができる。
【0025】
[1-3.制御部の制御状態]
次に、制御部18の制御状態について、図2を用いて説明する。図2に示すように、制御状態には、通常状態A110、加速抑制状態A120及びキャンセル待ち状態A130がある。
【0026】
まず、車両のイグニッションスイッチがオンされると、制御部18は、通常状態A110になる。
通常状態A110において、制御部18は、実アクセル開度を出力切替部16に出力させる。このため、通常状態A110においては、運転者のアクセル操作に応じて車両が加速する。
【0027】
制御部18は、通常状態A110において、加速抑制条件が成立した場合、加速抑制状態A120に遷移する。加速抑制条件は、次の条件A又は条件Bが成立した、という条件である。
【0028】
条件Aは、車両の進行方向に障害物が検出されており、かつ、実アクセル開度が所定の第1基準開度以上である、という条件である。車両の進行方向は、シフト情報が示すシフトレバーの操作位置に基づき判定可能である。例えば、シフト情報が示すシフトレバーの操作位置がドライブレンジ等の前進走行用のレンジであって前方監視センサ30の検出結果に基づき障害物が検出された場合、又は、シフト情報が示すシフトレバーの操作位置がリバースレンジ等の後進走行用のレンジであって後方監視センサ40の検出結果に基づき障害物が検出された場合に、車両の進行方向に障害物が検出されたと判定される。また、第1基準開度は、車両が急加速すると推測されるアクセル開度に定められている。実アクセル開度が第1基準開度以上である場合、運転者は比較的強くアクセルペダルを踏み込んでいることが予想される。
【0029】
条件Bは、実アクセル開度に基づき算出されるアクセルペダルの踏み込み速度が所定の基準踏み込み速度以上である、という条件である。基準踏み込み速度は、運転者がアクセルペダルを急踏みしたと推測される比較的速い速度に定められている。
【0030】
つまり、加速抑制条件が成立する状況とは、車両の進行方向に障害物が存在する状況であるにもかかわらず比較的強くアクセルペダルが踏み込まれた状況、又は、アクセルペダルが急踏みされた状況であり、運転者が誤ってアクセルペダルを踏み込んだ、すなわちアクセルペダルが踏み間違えられた可能性が高い。
【0031】
そこで、制御部18は、加速抑制条件が成立した場合、すなわち加速抑制状態A120に遷移した場合、実アクセル開度未満の疑似アクセル開度を出力切替部16に出力させる、加速抑制処理を実行する。本実施形態では、加速抑制状態A120において出力される疑似アクセル開度は、0%である。パワトレECU50がこの疑似アクセル開度に応じて車両の駆動力を制御することにより、車両の加速が抑制される。また、加速抑制状態A120において、制御部18は、表示機90に対して、アクセルペダルを離すことを促すよう警告する報知処理を実行するように指示を行う。当該指示が行われた場合、例えば「アクセルを離してください」といった警告のメッセージが表示機90に表示される。
【0032】
制御部18は、加速抑制状態A120において、抑制解除条件が成立した場合、通常状態A110に遷移する。抑制解除条件は、次の条件D又は条件Eが成立した、という条件である。
【0033】
条件Dは、実アクセル開度が所定の第2基準開度以下であり、かつ、車両の走行速度が所定の基準速度以下である、という条件である。第2基準開度は、第1基準開度よりも小さいアクセル開度であって、運転者がアクセルペダルの踏み込みを緩めたと推測される十分に小さいアクセル開度に定められている。基準速度は、車両が停車していると推測される十分に低い速度に定められている。
【0034】
条件Eは、実アクセル開度が所定の第2基準開度以下であり、かつ、シフトレバーの操作により車両の進行方向が変更された、という条件である。例えば、加速抑制状態A120に遷移する前後のシフト情報が示すシフトレバーの操作位置が、前進走行用のレンジから後進走行用のレンジに変更された場合、又は、後進走行用のレンジから前進走行用のレンジに変更された場合に、シフトレバーの操作により車両の進行方向が変更されたと判定される。
【0035】
上記のように、条件D及び条件Eには、実アクセル開度が所定の第2基準開度以下であることが含まれる。つまり、抑制解除条件が成立する状況とは、少なくともアクセルペダルの踏み込みが緩められた状況である。
【0036】
一方、制御部18は、加速抑制状態A120において、2度踏み判定条件が成立した場合、キャンセル待ち状態A130に遷移する。2度踏み判定条件は、次の条件F及び条件Gの両方が成立した、という条件である。
【0037】
条件Fは、加速抑制状態A120から通常状態A110に遷移した時点から、所定の2度踏み判定期間内に再び加速抑制状態A120に遷移した、という条件である。
条件Gは、自動ブレーキシステムが作動中である、という条件である。条件Gは、CANインタフェース17によりCANから取得された自動ブレーキシステムの作動状態に基づき判定される。
【0038】
条件Fが成立する一連の流れは、例えば、加速抑制状態A120においてアクセルペダルの踏み込みが緩められ通常状態A110に遷移した後、再びアクセルペダルが強く踏み込まれて加速抑制条件が成立するといった流れである。2度踏み判定期間は、アクセルペダルの踏み込みが緩められた後、短期間の間に再びアクセルペダルが強く踏み込まれたことを判断するために短い期間に定められている。換言すれば、2度踏み判定期間は、運転者がアクセルペダルを2度踏みしたことを判断するための期間である。アクセルペダルが2度踏みされる状況としては、アクセルペダルの踏み間違いでなく、運転者の意思で車両を加速させようとしている状況が想定されている。
【0039】
つまり、条件F及び条件Gの両方が成立する状況、換言すれば2度踏み判定条件が成立する状況とは、運転者が車両を加速させようとしている状況であって、自動ブレーキシステムが作動中の状況である。すなわち、2度踏み判定条件が成立する状況とは、自動ブレーキシステムの作動中に運転者が回避行動をとろうとしている状況である。上述したように、自動ブレーキシステムは、回避行動をとるためのアクセル操作によりキャンセル条件が成立すると作動がキャンセルされる仕様である。
【0040】
しかしながら、加速抑制状態A120において出力されるアクセル開度は0%であるため、加速抑制状態A120が継続されると、運転者が回避行動をとるためのアクセル操作を行っても自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされない状態が継続する。
【0041】
そこで、制御部18は、2度踏み判定条件が成立した場合、キャンセル待ち状態A130に遷移し、実アクセル開度を出力切替部16に出力させる、キャンセル処理を実行する。これにより、運転者の意思で自動ブレーキシステムの作動をキャンセルできる状態となる。
【0042】
制御部18は、キャンセル待ち状態A130において、抑制再開条件としての次の条件Hが成立した場合、加速抑制状態A120に遷移する。
条件Hは、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされた、という条件である。
【0043】
制御部18は、状態遷移のための上述した各種条件が成立したかを判定する条件判定処理を所定の周期で実行する。つまり、制御状態が遷移するのは、各種条件が実際に成立した時点ではなく、条件判定処理が実行される周期的なタイミングとなる。ここで、キャンセル待ち状態A130は、本来ならば車両の加速を抑制すべき状況であるが、自動ブレーキシステムの作動をキャンセルさせるために実アクセル開度を出力している状態である。このため、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされた場合には、速やかに加速抑制状態A120に遷移されることが好ましい。
【0044】
そこで、本実施形態では、キャンセル待ち状態A130から加速抑制状態A120への遷移については、条件判定処理の実行周期を待たずに、割り込み処理により実行される。具体的には、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされたことを示す作動状態をCANインタフェース17がCANから取得した場合、CANインタフェース17は、制御部18に割り込み要求を出力する。制御部18は、CANインタフェース17から割り込み要求を入力した時点で、制御状態をキャンセル待ち状態A130から加速抑制状態A120に遷移する。これにより、キャンセル処理が終了し、加速抑制処理が開始される。
【0045】
[1-4.制御状態と自動ブレーキシステムの作動状態との関係]
次に、制御部18の制御状態と自動ブレーキシステムの作動状態との関係について、図3を用いて説明する。図3には、実アクセル開度、装置本体10が出力するアクセル開度、自動ブレーキECU60が入力するアクセル開度及び自動ブレーキシステムの作動状態の、時系列的な変化が示されている。なお、自動ブレーキECU60には、CAN通信のためのデータ変換や通信周期などの理由により、アクセル開度がやや遅れて入力される。
【0046】
時点T1では、車両の進行方向に障害物が存在しており、運転者によりアクセルペダルは踏み込まれておらず、実アクセル開度は0%である。制御部18の制御状態は通常状態A110である。通常状態A110において、装置本体10が出力するアクセル開度は実アクセル開度である。このため、自動ブレーキECU60が入力するアクセル開度も実アクセル開度である。
【0047】
時点T2で、アクセルペダルが強く踏み込まれ、実アクセル開度が第1基準開度以上となる。これにより、踏み間違い加速抑制装置1においては、加速抑制条件が成立し、制御部18の制御状態が加速抑制状態A120に遷移する。加速抑制状態A120において、装置本体10が出力するアクセル開度は0%の疑似アクセル開度である。このため、自動ブレーキECU60が入力するアクセル開度も同様に0%である。また、自動ブレーキECU60においては、障害物との衝突が予測される状況となって開始条件が成立し、自動ブレーキシステムが作動する。本実施形態では、開始条件は、車両の周辺の障害物に対する衝突予測時間が所定時間未満である、という条件である。衝突予測時間は、障害物との距離を障害物との相対速度で除して算出される。
【0048】
時点T3で、アクセルペダルの踏み込みが緩められ、実アクセル開度が第2基準開度以下となる。これにより、踏み間違い加速抑制装置1において、抑制解除条件が成立し、制御部18の制御状態が通常状態A110に遷移する。
【0049】
通常状態A110に遷移した時点から2度踏み判定期間内の時点である時点T4で、再びアクセルペダルが強く踏み込まれ、実アクセル開度が第1基準開度以上かつキャンセル判定開度以上となる。これにより、踏み間違い加速抑制装置1において、加速抑制条件が成立し、制御部18の制御状態が加速抑制状態A120に遷移する。その後、時点T5において、2度踏み判定条件が成立し、制御部18の制御状態がキャンセル待ち状態A130に遷移する。キャンセル待ち状態A130において、装置本体10が出力するアクセル開度は実アクセル開度である。このため、自動ブレーキECU60が入力するアクセル開度も、実アクセル開度である。
【0050】
時点T6で、自動ブレーキECU60が入力するアクセル開度がキャンセル判定開度以上である状態が基準期間に達する。これにより、自動ブレーキECU60において、キャンセル条件が成立し、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされる。踏み間違い加速抑制装置1においては、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされたことにより、抑制再開条件が成立し、制御部18の制御状態が加速抑制状態A120に遷移する。
【0051】
[1-5.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1a)制御部18は、加速抑制条件が成立したと判定した場合、制御状態を加速抑制状態A120に遷移し、0%の疑似アクセル開度を出力切替部16に出力させる加速抑制処理を実行する。ただし、制御部18は、加速抑制条件が成立したと判定した場合であっても、2度踏み判定条件が成立したと判定した場合には、制御状態をキャンセル待ち状態A130に遷移し、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされるまで実アクセル開度を出力切替部16に出力させるキャンセル処理を実行する。上述したように、自動ブレーキシステムの作動中に加速抑制処理が実行されると、運転者が回避行動をとるためのアクセル操作を行っても自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされない状態が継続してしまう。この点、本実施形態によれば、運転者が回避行動をとっていると判断される状況においては実アクセル開度が出力されるため、運転者の意思で自動ブレーキシステムの作動をキャンセルすることができる。
【0052】
なお、自動ブレーキシステムの作動をキャンセルさせることは、実アクセル開度を固定の期間継続して出力する構成によっても実現することができる。しかしながら、車種等の条件によっては、自動ブレーキシステムの作動をキャンセルするのに必要な期間が異なり得るため、固定の期間を必要最小限に設定しようとすると、条件ごとに適切な期間を確認して個別に設定する必要がある。この点、本実施形態によれば、実アクセル開度が継続して出力される期間を車種等の条件に関係なく最短にすることができる。
【0053】
(1b)制御部18は、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされたことを示す割り込み要求を入力した時点で、制御状態をキャンセル待ち状態A130から加速抑制状態A120に遷移する。このような構成によれば、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされた時点で速やかに加速抑制処理が実行されるため、車両の加速を抑制すべき状況における加速抑制処理が開始されるまでの遅延期間を短くすることができる。
【0054】
なお、本実施形態では、出力切替部16が開度変更部に相当し、制御部18が加速抑制部に相当し、CANインタフェース17が作動状態検出部に相当する。
[2.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0055】
(2a)上記実施形態では、キャンセル処理として、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされるまで、実アクセル開度が継続して出力される構成を例示したが、キャンセル処理において実アクセル開度を出力する方法はこれに限定されたものではない。例えば、制御部18は、キャンセル処理において実アクセル開度が継続して出力される期間を制限してもよい。具体的には、例えば図4に示すように、制御部18は、実アクセル開度が継続して出力されている期間が所定の制限期間を超えた場合、実アクセル開度未満かつキャンセル判定開度未満の疑似アクセル開度、好ましくは0%の疑似アクセル開度を出力切替部16に一時的に出力させる。その後、制御部18は、再び実アクセル開度を出力切替部16に出力させるが、制限時間は、実アクセル開度の出力を再開するごとに延ばされる。つまり、制限期間が段階的に長く変更されて、最終的に自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされる。
【0056】
上述したように、キャンセル処理が終了するための条件は、自動ブレーキシステムの作動がキャンセルされることである。このため、キャンセル処理として実アクセル開度が継続して出力される期間の長さは、自動ブレーキシステムの作動のキャンセルという発生のタイミングが不確定なイベントにより、特段の制限もなく変わることになる。かといって、固定の制限期間を設けたのでは、自動ブレーキシステムの作動が適切にキャンセルされないことが生じ得る。上記のような構成によれば、キャンセル処理において、実アクセル開度が継続して出力される期間を制限しつつ、自動ブレーキシステムの作動をキャンセルすることができる。
【0057】
また、車両の走行速度に基づき、制限期間を延ばす度合いを調整する構成であってもよい。この場合、例えば、制御部18は、車両の走行速度が高いほど制限期間を延ばす度合いを小さくしてもよい。また例えば、制御部18は、車両の走行速度に基づき算出された所定の期間における車両の移動距離が長いほど制限期間を延ばす度合いを小さくしてもよい。ここでいう車両の移動距離としては、例えばキャンセル処理が開始されてからの車両の移動距離が挙げられる。これは、車両の走行速度が高いほど、また、車両の移動距離が長いほど、実アクセル開度が連続して出力される期間を短くする必要があるからである。このような構成によれば、車両の状況に応じてより適切な態様でキャンセル処理を実行することができる。
【0058】
(2b)キャンセル処理において出力されるアクセル開度は、上記実施形態で例示した実アクセル開度に限らず、キャンセル判定開度以上かつ実アクセル開度未満の疑似アクセル開度であってもよい。
【0059】
(2c)加速抑制処理において出力されるアクセル開度は、上記実施形態で例示した0%の疑似アクセル開度に限らず、0%以上かつ実アクセル開度未満の疑似アクセル開度であってもよい。
【0060】
(2d)制御部18の制御状態や、その状態遷移のための各種条件は、上記実施形態で例示したものに限定されるものではない。例えば、制御部18の制御状態には、上記実施形態で例示した3つ以外の制御状態があってもよい。また例えば、状態遷移のための各種条件は、上記実施形態で例示した条件に加えて又は代えて、他の条件が採用されてもよい。例えば、通常状態A110から加速抑制状態A120への遷移のための条件として上記実施形態で例示した条件Aや条件Bには、車両が低速で走行しているという要件が加えられてもよい。また例えば、加速抑制状態A120からキャンセル待ち状態A130への遷移のための条件は、上記実施形態で例示した、条件F及び条件Gの両方が成立したという条件に代えて、条件Gが成立したという条件であってもよい。
【0061】
(2e)上記実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…踏み間違い加速抑制装置、16…出力切替部、17…CANインタフェース、18…制御部、20…アクセルペダルセンサ、50…パワートレインECU、60…自動ブレーキECU。
図1
図2
図3
図4