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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】レーダ装置、及び方位推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/02 20060101AFI20240702BHJP
   G01S 3/48 20060101ALI20240702BHJP
   G01S 13/931 20200101ALI20240702BHJP
   H01Q 21/08 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01S7/02 218
G01S3/48
G01S13/931
H01Q21/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021136368
(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公開番号】P2023030942
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】黒野 泰寛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕
【審査官】安井 英己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/175558(WO,A1)
【文献】特開2011-075448(JP,A)
【文献】特開2020-186972(JP,A)
【文献】国際公開第2021/106792(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0131752(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00- 3/74,
G01S 7/00- 7/42,
G01S 13/00-13/95,
H01Q 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナ(Txm)と、
複数の受信アンテナ(Rxn)と、
前記複数の送信アンテナと前記複数の受信アンテナとから構成される仮想アレーにより受信された第1受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定するように構成された方位推定部(30,S20)と、
前記方位推定部により推定された前記方位におけるモード行列及び前記第1受信信号の推定電力から、前記複数の送信アンテナの送信方位と前記第1受信信号の到来方位とが同一であると仮定して、前記第1受信信号を復元した信号に相当する第2受信信号を算出するように構成された復元部(30,S30)と、
前記第1受信信号と前記第2受信信号とから、誤差を算出するように構成された誤差算出部(30,S30)と、
前記誤差算出部により算出された前記誤差が、設定された判定閾値よりも大きい場合に、前記方位推定部により推定された前記方位が偽方位であると判定する偽方位判定部(30,S40)と、を備え、
前記誤差算出部は、前記第1受信信号の相関行列と前記第2受信信号の相関行列とから前記誤差を算出するように構成されている、
レーダ装置。
【請求項2】
前記誤差算出部は、所定周期で繰り返し前記誤差を算出するように構成されており、
偽方位判定部は、前記誤差算出部により算出された複数回分の前記誤差に基づいて、前記方位推定部により推定された前記方位が偽方位か否か判定するように構成されている、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
複数の送信アンテナ(Txm)と、
複数の受信アンテナ(Rxn)と、
前記複数の送信アンテナと前記複数の受信アンテナとから構成される仮想アレーにより受信された第1受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定するように構成された方位推定部(30,S20)と、
前記方位推定部により推定された前記方位におけるモード行列及び前記第1受信信号の推定電力から、前記複数の送信アンテナの送信方位と前記第1受信信号の到来方位とが同一であると仮定して、前記第1受信信号を復元した信号に相当する第2受信信号を算出するように構成された復元部(30,S30)と、
前記第1受信信号と前記第2受信信号とから、誤差を算出するように構成された誤差算出部(30,S30)と、
前記誤差算出部により算出された前記誤差が、設定された判定閾値よりも大きい場合に、前記方位推定部により推定された前記方位が偽方位であると判定する偽方位判定部(30,S40)と、を備え、
前記誤差算出部は、所定周期で繰り返し前記誤差を算出するように構成されており、
偽方位判定部は、前記誤差算出部により算出された複数回分の前記誤差に基づいて、前記方位推定部により推定された前記方位が偽方位か否か判定するように構成されている、
レーダ装置。
【請求項4】
前記復元部は、前記方位推定部により推定された前記方位における前記モード行列の一般化逆行列を用いて、前記方位における前記推定電力を算出するように構成されている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記復元部は、前記複数の送信アンテナのうちの1つと前記複数の受信アンテナ、又は、前記複数の送信アンテナと前記複数の受信アンテナのうちの1つに基づいた前記モード行列の一般化逆行列を用いて、前記方位における前記推定電力を算出するように構成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
複数の送信アンテナ(Txm)から送信波を送信し、
前記複数の送信アンテナと複数の受信アンテナ(Rxn)とから構成した仮想アレーにより受信された第1受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定し、
推定された前記方位における前記第1受信信号の推定電力を算出し、
推定された前記方位におけるモード行列と前記推定電力とから、前記複数の送信アンテナの送信方位と前記第1受信信号の到来方位とが同一であると仮定して、前記第1受信信号を復元した信号に相当する第2受信信号を算出し、
前記第1受信信号の相関行列と前記第2受信信号の相関行列とから、誤差を算出し、
算出された前記誤差が、設定された判定閾値よりも大きい場合に、推定された前記方位が偽方位であると判定する、
方位推定方法。
【請求項7】
複数の送信アンテナ(Txm)から送信波を送信し、
前記複数の送信アンテナと複数の受信アンテナ(Rxn)とから構成した仮想アレーにより受信された第1受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定し、
推定された前記方位における前記第1受信信号の推定電力を算出し、
推定された前記方位におけるモード行列と前記推定電力とから、前記複数の送信アンテナの送信方位と前記第1受信信号の到来方位とが同一であると仮定して、前記第1受信信号を復元した信号に相当する第2受信信号を算出し、
前記第1受信信号と前記第2受信信号とから、所定周期で繰り返し誤差を算出し、
算出された複数回分の前記誤差に基づいた平均誤差が、設定された判定閾値よりも大きい場合に、推定された前記方位が偽方位であると判定する、
方位推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のレーダ装置は、Multiple Input and Multiple output(MIMO)を用いた方位推定において、送信方位と受信方位の両方を考慮したステアリングベクトルを用いて、送信方位及び受信方位の2次元方位推定を行い、送信方位と受信方位とが異なる信号を特定している。そして、上記レーダ装置は、ターゲットが存在しない偽の方位が検出されることによる方位推定精度の低下が生じないように、特定した信号に基づいて相関行列を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/155625号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記レーダ装置は、送信方位と受信方位の両方を考慮したステアリングベクトルを用いて2次元方位推定を行うため、処理負荷が大きく、検出されたすべての方位に対して実施することは困難である。
【0005】
本開示の1つの局面は、処理負荷を抑制しつつ、偽方位を判定することが可能なレーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の1つの局面のレーダ装置は、複数の送信アンテナ(Txm)と、複数の受信アンテナ(Rxn)と、方位推定部(30,S20)と、復元部(30,S30)と、誤差算出部(30,S30)と、偽方位判定部(30,S40)と、を備える。方位推定部は、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナとから構成される仮想アレーにより受信された第1受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定するように構成される。復元部は、方位推定部により推定された方位におけるモード行列及び第1受信信号の推定電力から、複数の送信アンテナの送信方位と第1受信信号の到来方位とが同一であると仮定して、第1受信信号を復元した信号に相当する第2受信信号を算出するように構成される。誤差算出部は、第1受信信号と第2受信信号とから、誤差を算出するように構成される。偽方位判定部は、誤差算出部により算出された誤差が、設定された判定閾値よりも大きい場合に、方位推定部により推定された方位が偽方位であると判定する。
【0007】
本開示の1つの局面のレーダ装置では、推定された方位におけるモード行列と推定電力とから、送信方位と到来方位とが同一であると仮定して、第2受信信号が算出される。第2受信信号は、第1受信信号を復元した信号に相当する。送信方位と到来方位とが同一であるという仮定が正しい場合には、第2受信信号は第1受信信号と略一致し、上記仮定が誤っている場合には、第2受信信号と第1受信信号との誤差が大きくなる。すなわち、送信方位と到来方位とが大きく異なり、推定された方位にターゲットが存在しない場合には、第2受信信号と第1受信信号との誤差が大きくなる。よって、誤差が判定閾値よりも大きい場合には、推定された方位が、実際にはターゲットが存在しない偽方位であると判定される。また、送信方向と到来方向とが同一であると仮定して、第2受信信号を算出するだけなので、2次元方向推定を行う場合と比べて、処理負荷を抑制できる。したがって、処理負荷を抑制しつつ、偽方位を判定することができる。
【0008】
本開示の別の1つの局面の方位推定方法は、複数の送信アンテナ(Txm)から送信波を送信し、複数の送信アンテナと複数の受信アンテナ(Rxn)とから構成した仮想アレーにより受信された第1受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定し、推定された方位における第1受信信号の推定電力を算出し、推定された方位におけるモード行列と推定電力とから、複数の送信アンテナの送信方位と第1受信信号の到来方位とが同一であると仮定して、第1受信信号を復元した信号に相当する第2受信信号を算出し、第1受信信号と第2受信信号とから、誤差を算出し、算出された誤差が、設定された判定閾値よりも大きい場合に、推定された方位が偽方位であると判定する。
【0009】
上記別の1つの局面の方位推定方法は、上記レーダ装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係るレーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】3個の送信アンテナと2個の受信アンテナから構成される仮想アレーで受信される受信信号の位相を説明する図である。
図3】6個の受信アンテナで受信される受信信号の位相を説明する図である。
図4】送信方位と受信方位が同一でゴーストが発生しない状況の一例を示す図である。
図5】送信方位と受信方位が同一でゴーストが発生しない状況の別の一例を示す図である。
図6】送信方位と受信方位が異なりゴーストが発生する状況の一例を示す図である。
図7】送信方位と受信方位が異なりゴーストが発生する状況の別の一例を示す図である。
図8】送信方位と受信方位が異なる場合における仮想アレーでの受信信号の位相を示す図である。
図9】第1実施形態に係る方位推定処理の手順を示すフローチャートである。
図10】第1実施形態に係る仮想アレー化の概要を説明する図である。
図11】第1実施形態に係る方位推定の概要を説明する図である。
図12】第1実施形態に係る推定した方位における推定電力の算出処理を説明する図である。
図13】第1実施形態に係る偽方位を判定する処理を示すフローチャートである。
図14】第3実施形態に係る推定電力の算出に用いるモード行列に対応した送信アンテナ及び受信アンテナの一例を示す図である。
図15】第3実施形態に係る推定電力の算出に用いるモード行列に対応した送信アンテナ及び受信アンテナの別の一例を示す図である。
図16】第4実施形態に係る偽方位を判定する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
(1.第1実施形態)
<1-1.レーダ装置の構成>
本実施形態に係るレーダ装置100の構成について、図1を参照して説明する。
【0012】
レーダ装置100は、送信アンテナ部10と、受信アンテナ部20と、処理装置30と、を備える。本実施形態では、レーダ装置100は、移動体(具体的には車両50)に搭載されている。
【0013】
処理装置30は、CPU31、ROM32、RAM33を備え、CPU31が、ROM32に記憶されているプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。これらの機能を実現する手法は、ソフトウェアに限るものではなく、その一部又は全部の機能を、論理回路やアナログ回路等を組み合わせたハードウェアを用いて実現してもよい。
【0014】
処理装置30は、送信アンテナ部10は所定周波数の送信信号を供給する。また、処理装置30は、受信アンテナ部20から出力された受信信号を処理して、レーダ装置100に対するターゲットの方位、レーダ装置100からターゲットまでの距離、レーダ装置100に対するターゲットの速度などを算出する。
【0015】
送信アンテナ部10は、M個の送信アンテナTxm(Mは2以上の整数、m=1,…,M)を有する。受信アンテナ部20は、N個の受信アンテナRxn(Nは2以上の整数、n=1,…,N)を有する。レーダ装置100は、複数のアンテナで同時に電波を送受信するMultiple Input and Multiple Output(MIMO)レーダ装置である。
【0016】
図2に示すように、本実施形態に係る送信アンテナ部10は、3個の送信アンテナTx1,Tx2,Tx3を有する。送信アンテナTx1,Tx2,Tx3は、処理装置30から供給された送信信号に基づいて、所定の送信方位へ同時に送信波を繰り返し送信する。
【0017】
送信アンテナTx1,Tx2,Tx3は、予め設定された配列方向に沿って間隔D1で一列に配置されている。送信アンテナTx1,Tx2,Tx3は、送信アンテナTx1,Tx2,Tx3から所定の送信方位へ所定周波数の送信波を送信する。送信アンテナTx1,Tx2,Tx3は、ターゲットまでの経路において、隣り合うアンテナ間で2×αの位相差が生じるように、配置されている。
【0018】
図2に示すように、本実施形態に係る受信アンテナ部20は、2個の受信アンテナRx1,Rx2を有する。受信アンテナRx1,Rx2は、予め設定された配列方向に沿って間隔D2で一列に配列されている。受信アンテナRx1,Rx2は、所定の到来方位(すなわち受信方位う)から到来した所定周波数の反射波を受信して受信信号を出力する。受信アンテナRx1,Rx2は、ターゲットからの経路において、隣り合うアンテナ間でαの位相差が生じるように、配置されている。
【0019】
受信アンテナRx1、Rx2の各々は、送信アンテナTx1,Tx2,Tx3から送信された送信波がターゲットで反射されて生じた反射波を受信する。受信アンテナRx1,Rx2の各々は、2×αずつ位相がずれた3つの反射波を繰り返し受信して、2×αずつ位相が異なる3つの受信信号を繰り返し出力する。
【0020】
受信アンテナRx2の位相は、受信アンテナRx1の位相とαずれている。したがって、図2に示すように、受信アンテナ部20は、αずつ位相がずれた6個の受信信号を出力する。N個の受信アンテナRxnの位相差Δφ2が、M個の送信アンテナTxmの位相差Δφ1の1/Nであるため、受信アンテナ部20は、Δφ2ずつ位相がずれたM×N個の受信信号を出力する。
【0021】
受信アンテナ部20から出力される受信信号は、図3に示す6個の受信アンテナRx1,Rx2,Rx3,Rx4,Rx5,Rx6から出力される受信信号と等しい。図3に示す6個の受信アンテナRx1,Rx2,Rx3,Rx4,Rx5,Rx6は、所定の配列方向に沿って、ターゲットからの経路において、隣り合うアンテナ間でαの位相差が生じるように、配置されている。
【0022】
すなわち、レーダ装置100は、M個の送信アンテナTxmと、N個の受信アンテナRxnとから、M×N個の受信アンテナを仮想的に形成している。以下では、レーダ装置100が形成する仮想的なM×N個の受信アンテナを仮想アレーと称する。
【0023】
レーダ装置100は、M+N個のアンテナを用いて仮想アレーを形成することにより、1個の送信アンテナとM×N個の受信アンテナを備えるレーダ装置と同等の方位分解能を実現する。
【0024】
<1-2.ゴーストが発生する状況>
レーダ装置100は、形成した仮想アレーで受信した受信信号を処理してターゲットの方位を推定する。このとき、図4及び図5に示すように、送信波の送信方位と反射波の受信方位(すなわち、反射波が到来する方向)とが一致する場合には、高い分解能で高精度に方位を推定できる。
【0025】
一方で、図6及び図7に示すように、送信方位と受信方位とが異なる場合には、ターゲットの実際の方位とは異なる偽方位が推定される。図8に示すように、送信方位と異なる方位から反射波が受信アンテナRx1,Rx2へ到来した場合、ターゲットからの経路において、受信アンテナRx1と受信アンテナRx2との間に生じる位相差がαからβに変化する。
【0026】
よって、仮想アレーから出力される受信信号の位相は、0、β、2×α、2×α+β、4×α、4×α+βとなり、受信信号間の位相差が一定にならない。その結果、受信信号に基づいた方位の推定精度が低下し、偽方位が推定される(すなわち、ゴーストが生じる)。そこで、レーダ装置100は、仮想アレーから出力される受信信号に基づいて推定した方位が、実方位か偽方位であるか判定する。
【0027】
<1-3.方位推定処理>
次に、本実施形態に係る処理装置30が実行する方位推定処理について、図9のフローチャートを参照して説明する。処理装置30は、方位推定処理を所定の周期で繰り返し実行する。
【0028】
S10では、仮想アレー化する。具体的には、M個の送信アンテナTxmとN個の受信アンテナRxnとからM×N個の仮想アレーを形成し、仮想アレーで受信したM×N個の受信信号を取得する。そして、図10に示すように、M×N個の受信信号を、並び変える。並び順は、図2で示している総位相が0×α、1×α、2×α、3×α、4×α、5×αとなる順である。以下では、仮想アレーにより受信された受信信号を第1受信信号xと称する。第1受信信号xは、M×N個の要素を有するベクトルである。
【0029】
続いて、S20では、並び変えたM×N個の受信信号に基づいて、ターゲットの方位を推定する。例えば、図11に示すように、MUSIC法を適用して、方位スペクトルを算出し、方位スペクトルのピークに対する方位をターゲットの方位として取得する。図11に示す例では、2つのターゲットの方位が推定される。以下、S20で推定した方位を推定方位と称し、K個の推定方位を要素とするベクトルを方位ベクトルθと称する。Kは、S20において推定した方位の数である。なお、方位の推定手法は、MUSICに限らない。例えば、DBFやCapon、ESPRITなどの手法を適用して、ターゲットの方位を推定してもよい。
【0030】
続いて、S30では、フィッティングを実行する。詳しくは、送信波の送信方位と第1受信信号xが到来した方位(すなわち受信方位)とが同一であると仮定して、K個の推定方位におけるモード行列を並べたモード行列Aと、K個の推定方位における第1受信信号xの推定電力sとから、第2受信信号yを算出する。モード行列Aは、L×Kの行列である。Lは、L=M×Nである。すなわち、本実施形態では、モード行列Aは、6×2の行列である。モード行列AのL×Kの要素は、推定方位の各々に依存する。推定電力sは、K個の要素を有するベクトルである。
【0031】
第2受信信号yは、M×N個の要素を有するベクトルであり、上述の仮定に基づいて、第1受信信号xを復元した信号に相当する。ここでは、上述の仮定に基づいて第1受信信号xを復元し、後述する誤差eを算出する処理をフィッティングと称している。
【0032】
上述の仮定が正しい場合には、第2受信信号yは、第1受信信号xに略一致する。上述の仮定が誤っている場合、すなわち、送信方位が受信方位と異なりゴーストが発生する状況では、第2受信信号yは、第1受信信号xと一致せず、第2受信信号yと第1受信信号xとの誤差eが大きくなる。よって、第2受信信号yと第1受信信号xとの誤差eに基づいて、方位ベクトルθの各要素が実在する物体の方位か物体が存在しない偽方位かを判定できる。
【0033】
S30では、まず、モード行列Aの一般化逆行列を用いて、推定電力sを算出する。具体的には、図12に示すように、モード行列Aの一般化逆行列に第1受信信号xを乗算して、推定電力sを算出する。さらに、モード行列Aに推定電力sを乗算して、第2受信信号yを算出する。すなわち、y=Asの式に基づいて、第2受信信号yを算出する。続いて、第1受信信号xと第2受信信号yとの誤差eを算出する。具体的には、e=abs(x-y)の式に基づいて、誤差eを算出する。
【0034】
次に、S40では、偽方位判定処理を実行する。詳しくは、S40では、図13に示すサブルーチンを実行し、方位ベクトルθの各推定方位が、実方位か偽方位か判定する。
【0035】
S100では、S30で算出した誤差eが判定閾値よりも大きいか否か判定する。S100において、誤差eが判定閾値以下であると判定した場合は、S110の処理へ進む。S110では、方位ベクトルθの各推定方位が実方位であると判定する。
【0036】
また、S100において、誤差eが判定閾値よりも大きいと判定した場合は、S120の処理へ進む。S120では、方位ベクトルθの各推定方位が偽方位であると判定する。
<1-4.効果>
以上詳述した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0037】
(1)レーダ装置100は、推定方位におけるモード行列Aと推定方位における推定電力sとから、送信方位と受信方位とが同一であると仮定して、第2受信信号yを算出する。第2受信信号yは、第1受信信号xを復元した信号に相当する。送信方位と受信方位とが同一であるという仮定が正しい場合には、第2受信信号yは第1受信信号xと略一致し、上記仮定が誤っている場合には、第2受信信号yと第1受信信号xとの誤差eが大きくなる。すなわち、送信方位と受信方位とが大きく異なり、推定方位にターゲットが存在しない場合には、誤差eが大きくなる。よって、誤差eが判定閾値よりも大きい場合には、推定方位が、実際にはターゲットが存在しない偽方位であると判定される。また、送信方位と受信方位とが同一であると仮定して、第2受信信号yを算出するだけなので、2次元方向推定を行う場合と比べて、処理負荷を抑制できる。したがって、処理負荷を抑制しつつ、偽方位を判定することができる。
(2)モード行列Aの一般化行列を用いることで、容易に推定電力sを算出できる。
【0038】
(2.第2実施形態)
<2-1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0039】
前述した第1実施形態では、誤差eとして、第1受信信号xと第2受信信号yとの差分を算出した。これに対して、第2実施形態では、誤差eとして、第1受信信号xの相関行列Xと第2受信信号yの相関行列Yとの差分を算出する点で、異なる。すなわち、第2実施形態では、e=abs(X-Y)の式に基づいて、誤差eを算出する。
【0040】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態が奏する効果(1)と同様の効果を奏するとともに、第1受信信号xの相関行列Xと第2受信信号yの相関行列Yとから、誤差を算出できる。
【0041】
(3.第3実施形態)
<3-1.第1実施形態との相違点>
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0042】
前述した第1実施形態では、M個の送信アンテナTxmとN個の受信アンテナRxnのすべてのアンテナに基づいたモード行列Aと、第1受信信号xとを用いて、推定電力sを算出した。これに対し、第2実施形態では、1個の送信アンテナTxmとN個の受信アンテナRxn、又は、M個の送信アンテナTxmと1個の受信アンテナRxnに基づいたモード行列AAと、抽出信号xxと、を用いて、推定電力sを算出する点で異なる。モード行列AAは、K×Nの行列、又は、K×Mの行列である。抽出信号xxは、第1受信信号xの要素から、モード行列AAに対応する要素を取り出したベクトルである。すなわち、抽出信号xxは、N又はM個の要素を有するベクトルである。
【0043】
<3-2.推定電力の算出>
図14に、送信アンテナTx1と、受信アンテナRx1,Rx2とに基づいてモード行列AAを生成する例を示す。図14において、太枠で囲まれたアンテナに基づいてモード行列AAを生成する。すなわち、1個の送信アンテナTxmから送信された送信波がターゲットで反射して生じた反射波を、N個の受信アンテナRxnで受信したことに応じて、N個の受信アンテナRxnから出力されたN個の受信信号に基づいて、モード行列AAを生成する。抽出信号xxは、このN個の受信信号を要素とするベクトルとする。
【0044】
図14に示すように、送信アンテナを1個しか用いていないため、送信方位と受信方位とが異なっていても、受信信号間の位相差が一定になる。すなわち、ゴーストが生じない受信信号の組み合わせを用いて、推定電力sを算出する。
【0045】
図15に、M個の送信アンテナTxmと、1個の受信アンテナRxnを用いてモード行列AAを生成する例を示す。図15において、太枠で囲まれたアンテナに基づいてモード行列AAを生成する。すなわち、M個の送信アンテナTxmから送信された送信波がターゲットで反射して生じた反射波を、1個の受信アンテナRxnで受信したことに応じて、1個の受信アンテナRxnから出力されたM個の受信信号に基づいて、モード行列AAを生成する。抽出信号xxは、このM個の受信信号を要素とするベクトルである。
【0046】
図15に示すように、受信アンテナを1個しか用いていないため、送信方位と受信方位とが異なっていても、受信信号間の位相差が一定になる。すなわち、ゴーストが生じない受信信号の組み合わせを用いて、推定電力sの精度を算出する。
【0047】
<3-3.効果>
以上詳述した第3実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様の効果を奏するとともに、より高精度な推定電力を算出することができる。
【0048】
(4.第4実施形態)
<4-1.第1実施形態との相違点>
第4実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0049】
前述の第1実施形態では、算出された1回分(すなわち、1回の処理周期分)の誤差eに基づいて、推定方位が実方位か偽方位か判定した。これに対して、第4実施形態では、算出された複数回分(すなわち、複数の処理周期分)の誤差eに基づいて、推定方位が実方位か偽方位か判定する点で、第1実施形態と異なる。
【0050】
<4-2.偽方位判定処理>
次に、本実施形態に係る処理装置30が実行する偽方位判定処理について、図16に示すサブルーチンを参照して説明する。処理装置30は、図16に示すサブルーチンを実行し、方位ベクトルθの要素である各推定方位が、実方位か偽方位か判定する。
【0051】
まず、S200では、前回の処理周期で算出した平均誤差Eoと、S30において算出した誤差eとから、C×Eo+(1-C)×eの式を用いて加重平均値を算出し、算出した加重平均値を今回の処理周期における平均誤差Eoとする。平均誤差Eoは、K個の要素を有するベクトルである。Cは、加重平均係数である。
【0052】
続いて、S210では、S200において算出した平均誤差Eoが判定閾値よりも大きいか否か判定する。S210において、平均誤差Eoが判定閾値以下であると判定した場合は、S220の処理へ進む。S220では、各推定方位が実方位であると判定する。
【0053】
また、S210において、平均誤差Eoが判定閾値よりも大きいと判定した場合は、S230の処理へ進む。S230では、各推定要素が偽方位であると判定する。
<4-3.効果>
以上説明した第4実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)及び(2)と同様の効果を奏するとともに、より高精度に推定方位が偽方位か否かを判定することができる。
【0054】
(3.他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0055】
(a)第3実施形態において、誤差eの算出に対して、第2実施形態に係る誤差eの算出を適用してもよい。
(b)第4実施形態において、誤差eの算出に対して、第2実施形態に係る誤差eの算出を適用してもよい。
【0056】
(c)第4実施形態において、推定電力sの算出において、第3実施形態に係る推定電力sの算出を適用してもよい。
(d)上述したレーダ装置の他、当該レーダ装置を構成要素とするシステム、当該レーダ装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、方位推定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0057】
10…送信アンテナ部、20…受信アンテナ部、30…処理装置、100…レーダ装置、A,AA…モード行列、Rx1,Rx2,Rx3,Rx4,Rx5,Rx6,Rxn…受信アンテナ、Tx1,Tx2,Tx3,Txm…送信アンテナ、e…誤差、s…推定電力、x…第1受信信号、y…第2受信信号。
図1
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