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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】センサ信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240702BHJP
   G01P 3/481 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D45/00 362
G01P3/481 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021136370
(22)【出願日】2021-08-24
(65)【公開番号】P2023030944
(43)【公開日】2023-03-08
【審査請求日】2023-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】岩間 祐治
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-105882(JP,A)
【文献】特開昭63-42473(JP,A)
【文献】特開平3-167478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
G01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転を検出するマグネットピックアップ方式の回転センサが出力する電圧信号が入力され、前記電圧信号を閾値と比較するコンパレータ(3)と、
このコンパレータの出力信号を処理することで、前記内燃機関の回転状態を検出する信号処理部(13~15,23,29,32)と、
前記出力信号の出力間隔を検出する出力間隔検出部(23)と、
前記出力間隔に応じて、前記閾値を可変設定する閾値設定部(14,32)と、
前記出力間隔が異常判定時間を超えると異常と判定する異常判定部(31)とを備え
前記閾値設定部は、前記異常判定部が前記異常を判定すると、前記閾値を低下させるセンサ信号処理装置。
【請求項2】
内燃機関の回転を検出するマグネットピックアップ方式の回転センサが出力する電圧信号が入力され、前記電圧信号を閾値と比較するコンパレータ(3)と、
このコンパレータの出力信号を処理することで、前記内燃機関の回転状態を検出する信号処理部(13~15,23,29,32)と、
前記出力信号の出力間隔を検出する出力間隔検出部(23)と、
前記出力間隔に応じて、前記閾値を可変設定する閾値設定部(14,32)と、
前記出力間隔が異常判定時間を超えると異常と判定する異常判定部(31)とを備え、
前記閾値設定部は、前記異常判定部が前記異常を判定すると、前記閾値の設定を初期化するセンサ信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク角を検出する磁気ピックアップ式の回転センサより出力される電圧信号を処理する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関のクランク角を検出するため、外周に複数の突起を形成した円盤状の回転パルサをクランク軸に設け、その回転により変位する複数の突起を磁気センサで検出することにより、回転信号を発生する磁気ピックアップ式の回転センサが用いられている。この回転センサが出力する起電力の大きさをコンパレータにて閾値と比較することで、クランク軸の回転状態を検出する。以下、この回転センサをMPUセンサと称す。
【0003】
MPUセンサは磁気的な性質を持つため、角速度に応じて起電力が変動する。角速度が遅くなると起電力は小さくなり、角速度が速くなると起電力は大きくなる。そのため、コンパレータに設定する閾値を、角速度に応じて変動させて対応する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4239775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、MPUセンサについては、車両のエンジンが始動する際に発生する機械的な振動を検出して起電力を発生させる場合があり、それが高周波的なノイズとなって現れる問題がある。近年、多くの車両にアイドリングストップシステムが採用されているため、エンジンの始動性の改善が要請されており、その要請とMPUセンサの応答性改善とをどのように両立させるかが課題となっている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関が始動する際に発生する機械的な振動に基づく回転センサの誤検出を排除して、応答性を改善できるセンサ信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載のセンサ信号処理装置によれば、コンパレータは、内燃機関の回転を検出するマグネットピックアップ方式の回転センサが出力する電圧信号を閾値と比較し、信号処理部は、コンパレータの出力信号を処理することで内燃機関の回転状態を検出する。出力間隔検出部は、前記出力信号の出力間隔を検出し、閾値設定部は、その出力間隔に応じてコンパレータの閾値を可変設定する。そして、異常判定部は、前記電圧信号の出力間隔が異常判定時間を超えると異常と判定する。
【0008】
回転センサが出力する電圧信号がノイズ的に変化すると、閾値設定部は、その信号の極めて短い発生間隔に応じてコンパレータの閾値を増大させる。すると、コンパレータの出力信号は、回転センサの出力信号の変化に応じて適切に変化しなくなるが、異常判定部は、コンパレータの出力信号の出力間隔が異常判定時間を超えると異常と判定する。これにより、前記判定の結果に基づいて、閾値の不適切な設定状態を解消することが可能となり、センサ信号の変化に対する応答性を改善できる。
【0009】
具体的には、閾値設定部は、異常判定部が異常を判定すると、コンパレータの閾値を低下させる。
また、請求項記載のセンサ信号処理装置のように、閾値設定部は、異常判定部が異常を判定すると、前記閾値の設定を初期化する。これらのように構成すれば、増大させた閾値を低下させて、コンパレータの出力信号が、回転センサの出力信号の変化に応じて適切に変化するように復帰させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態であり、センサ信号処理装置の構成を示す機能ブロック図
図2】動作が正常な場合の各信号を示すタイミングチャート
図3】動作が異常な場合の各信号を示すタイミングチャート
図4】持ち上げ禁止信号の出力タイミングを詳細に示すタイミングチャート
図5】ランプ発生回路によるダイナミックヒステリシス特性の付与を示すタイミングチャート
図6】センサ信号処理装置の動作を概略的に示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示すように、本実施形態のセンサ信号処理装置1は、アナログ回路部2にコンパレータ3を備えている。コンパレータ3の非反転入力端子には、アナログ回路部2の入力端子NEI及び抵抗素子4を介して、図示しない回転センサより出力される電圧信号が入力される。回転センサは、磁気ピックアップ式であり、例えば車両のエンジンのクランク角を検出する。電源とグランドとの間には、抵抗素子5a及び5bの直列回路が接続されており、抵抗素子4a及び4bの共通接続点は、抵抗素子6を介してコンパレータ3の反転入力端子に接続されている。これらの抵抗素子5及び6により、コンパレータ3の反転入力端子に所定の閾値電圧が付与される。
【0012】
6ビットのD/Aコンバータ7の出力端子は、V-I変換部8及びアナログスイッチ9を介してコンパレータ3の非反転入力端子に接続されている。以下、「D/Aコンバータ」を「DAC」と表記する。7ビットのDAC10の出力端子は、V-I変換部11を介してコンパレータ3の反転入力端子に接続されている。また、前記反転入力端子は、アナログスイッチ12を介してV-I変換部8の出力端子に接続されている。
【0013】
DAC7の入力端子には、6ビットカウンタであるランプ発生回路13より6ビットのデータが入力される。DAC10の入力端子には、7ビットカウンタであるスレッシュ電圧発生回路14より7ビットのデータが入力される。アナログスイッチ9,12は、アナログ制御回路部15のアナログスイッチ制御部16により制御される。
【0014】
コンパレータ3の出力端子は、アナログ制御回路部15の持上禁止信号発生回路17及びNEIエッジ検出部18の入力端子に接続されている。また、コンパレータ3の出力端子は、NOTゲート19を介してアナログ回路部2の端子NEOにも接続されている。
【0015】
アナログ制御回路部15において、NEIエッジ検出部18の出力信号は、ランプ発生回路13に6ビットデータのロード信号として入力されている。持上禁止信号発生回路17は、フィルタ20及びロジック部21を備えており、コンパレータ3の出力信号Scは、両者に入力されている。フィルタ20は、上記の出力信号を若干遅延させる時定数を有しており、ロジック部21は、入力される2つの信号を論理合成してアナログスイッチ9,12の制御信号を生成する。また、フィルタ20の出力信号は、NEI立下りエッジ検出部22にも入力されている。
【0016】
NEI立下りエッジ検出部22の出力信号は、NEI周期計測部23の1回目エッジ検出部24に入力されている。1回目エッジ検出部24は、信号STAがイネーブル状態になった1回目のエッジをマスクし、2回目以降のエッジを次段のNEI周期カウンタ25へ通過させる。NEI周期カウンタ25は、1回目エッジ検出部24で検出される1回目エッジの間隔を計測するカウンタである。NEI周期カウンタ25のカウント値は、直列に接続されたNEI周期レジスタ26及び27に順次格納されると共に、欠歯判定部28にも入力される。NEI周期レジスタ26及び27に格納されるデータ値は、何れもNEI平均周期演算部28に入力される。
【0017】
NEI平均周期演算部28は、NEI周期レジスタ26,27に格納されたカウントデータ値を加算して2分することで、出力信号Scの2回目以降のエッジ発生周期の平均値を演算する。ここで、上記の平均値を「NEI平均周期」と称する。NEI平均周期は、欠歯判定部29及びクランプ回路32に入力される。NEI周期計測部23は、出力間隔検出部に相当する。
【0018】
欠歯判定部29は、NEI周期カウンタ25のカウント値を参照して欠歯検出回路30により欠歯検出を行うと共に、異常判定回路31により異常判定を行う。欠歯検出回路30は、マグニチュードコンパレータによって、上記のカウント値を、NEI平均周期のα倍と比較する。αは、例えば0.125~7.875まで、0.125の倍数刻みで設定可能であるが、これに限らない。マグニチュードコンパレータの出力信号は、欠歯検出信号となり、NEI周期レジスタ26及び27には、データラッチをマスクする信号として入力される。異常判定回路31も同様に、マグニチュードコンパレータによって、上記のカウント値を、NEI平均周期の4α倍と比較する。
【0019】
クランプ回路32は、入力されるNEI平均周期に基づいて、ランプ発生回路13,スレッシュ電圧発生回路14にカウントデータの初期値を出力する。尚、クランプ回路32とスレッシュ電圧発生回路14との間には、保持orダウン決定部14Aが介在している。異常判定回路31が出力する異常判定信号は、上記の保持orダウン決定部14Aにダウン切替え信号として入力される。異常判定回路31は、異常判定部に相当する。
【0020】
基準クロック発生回路33は、2つのクロック信号CLK1,CLK2を、それぞれランプ発生回路13,スレッシュ電圧発生回路14に供給する。クロック信号CLK2の周期は例えば3.2msであり、クロック信号CLK1の周期はそれよりも短く設定されている。尚、センサ信号処理装置1よりアナログ回路部2を除いた部分は、信号処理部に相当する。また、クランプ回路32及びスレッシュ電圧発生回路14は、閾値設定部に相当ずる。
【0021】
次に、本実施形態の作用について説明する。図2に示す正常動作時のタイミングチャートは、α=1の場合である。尚、信号STAは、図1には示さないが、センサ信号処理装置1の動作を有効化するイネーブル信号であり、この信号がローレベルを示す期間に、NEI周期レジスタ26及び27、並びにクランプ回路32に内蔵されているNEI平均周期が格納されるレジスタは初期化される。ランプ発生回路13が設定するコンパレータ3の閾値の変化分もゼロであり、抵抗素子5a及び5bのみで設定される初期値となる。
【0022】
NEI周期カウンタ25は、信号NEIの立下りエッジ間隔T1,T2,T3,…をカウントする。クランプ回路32に、最初の平均値である{(初期値)+T1}/2が入力されると、次のクロック信号CLK2の立上りに同期してスレッシュ電圧発生回路14が閾値を更新する。回転パルサの欠歯部分に掛かると、コンパレータ3の出力信号Scが変化しなくなるので、欠歯検出回路30は欠歯検出信号を出力する。上述したように、この欠歯検出信号が出力される期間に、各レジスタ値は更新されない。
【0023】
図4に示すように、信号Scの立上り,立下りにチャタリングが発生した際には、持ち上げ禁止信号発生回路17によりアナログスイッチ9及び12を制御して対応する。フィルタ20は、コンパレータ3の出力信号に所定時間の遅延を付与して出力する。ロジック部21は、2つの信号を論理合成してスレッシュ,入力の各持ち上げ禁止信号を生成する。チャタリングの発生に応じて検出されるエッジに対応して、ランプ発生回路13へのロード信号が出力されるが、出力信号の立上り期間には、スレッシュ持ち上げ禁止信号が出力されてアナログスイッチ12がオフとなり、同立下り期間には、入力持ち上げ禁止信号が出力されてアナログスイッチ9がオフとなる。これにより、チャタリングの影響は排除される。
【0024】
図5の最上段に太線で示すコンパレータ3の入力信号に対して、信号NEOがハイレベルを示す期間に、破線で示すコンパレータ3の閾値は、所定値が加算された状態から徐々に低下する様に変化する。また、信号NEOがローレベルを示す期間に、細線で示すコンパレータ3の入力信号の持ち上げ分は、閾値を確実に上回るように付与される。ランプ発生回路14のカウンタには、信号Scの両エッジに応じてカウント値「0」がロードされ、クロック信号CLK1に応じてカウントアップする。カウント値が「61」に達すると頭打ちになる。尚、図2及び図3のタイミングチャートでは、入力信号の持上げ処理については反映させていない。
【0025】
図3に示すように、信号STAが立ち上がった直後に、回転センサが、車両のエンジンが始動した際の機械的な振動の影響を受けて、信号NEIが高周波ノイズ的に、つまり短時間内に複数回変化したとする。尚、信号NEIに重ねて示す破線は、コンパレータ3の閾値である。クランプ回路32は、NEI平均周期が短い期間にセットされたことに応じて、コンパレータ3の閾値を一気に増大させる。一例として、NEI周期カウンタ25は、約130msが経過するとカウント値がフルになる設定である。そこで、異常判定回路31では、NEI平均周期の4α倍値が130msに相当するように設定されている。上記の4α倍値が異常判定時間に相当する。
【0026】
閾値が上昇したことで、コンパレータ3の出力信号の反転である信号NEIは、その後変化しなくなるので、欠歯検出信号が出力され、その後、約130msが経過すると異常検出信号が出力される。これを受けて、保持orダウン決定部14Aは、スレッシュ電圧発生回路14をダウンカウント動作に切り替える。すると、クロック信号CLK2に応じて閾値が順次低下する。
【0027】
図6は、センサ信号処理装置1の動作を概略的に示している。信号STAがハイレベルに変化することで回転センサ信号の受付を許可すると(S1)、先ず、信号Scの立下りエッジを3回検出した時点で最初のNEI平均周期が確定する(S2)。続いて、異常検出信号が出力されることなく、次の信号Scの立下りエッジを検出すると(S4;YES)、そのエッジ信号を取り込んで処理してから(S5)ステップS3に戻る。
【0028】
一方、次の信号Scの立下りエッジが検出されず、異常検出信号が出力されると(S4;NO)、保持orダウン決定部14Aがスレッシュ電圧発生回路14をダウンカウント動作に切り替えて、閾値を低下させる。
【0029】
以上のように本実施形態によれば、センサ信号処理装置1において、コンパレータ3は、マグネットピックアップ方式の回転センサが出力する電圧信号を閾値と比較し、信号処理部は、コンパレータ3の出力信号Scを処理することでエンジンの回転状態を検出する。NEI周期計測部23は、信号Scの出力間隔を検出し、クランプ回路32及びスレッシュ電圧発生回路14は、その出力間隔に応じてコンパレータ3の閾値を可変設定する。そして、異常判定回路31は、信号Scの出力間隔が異常判定時間を超えると異常と判定する。
【0030】
これにより、回転センサの出力信号NEIが、車両のエンジンが始動する際に発生する機械的な振動を検出して高周波ノイズ的に変化することで、コンパレータ3の閾値が不適切な設定状態となっても、それを解消することが可能になる。具体的には、クランプ回路32及びスレッシュ電圧発生回路14は、異常判定回路31が異常を判定するとコンパレータ3の閾値を低下させるので、コンパレータ3の出力信号が、回転センサの出力信号NEIの変化に応じて変化するように復帰させることができる。すなわち、センサ信号NEIの変化に対する応答性を改善できる。
【0031】
(その他の実施形態)
異常判定回路31が異常を判定した際に、コンパレータ3の閾値を初期設定値に設定しても良い。
異常判定時間については、個別の設計に応じて適宜変更すれば良い。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0032】
図面中、1はセンサ信号処理装置、3はコンパレータの、13はランプ発生回路、14はスレッシュ電圧発生回路、15はアナログ制御回路部、23はNEI周期計測部、29は欠歯判定部、31は異常判定回路を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6