(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20240702BHJP
H01F 27/24 20060101ALI20240702BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F27/24 H
H01F27/29 G
(21)【出願番号】P 2021195290
(22)【出願日】2021-12-01
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100085143
【氏名又は名称】小柴 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】辻林 太朗
(72)【発明者】
【氏名】宮本 昌史
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-147158(JP,A)
【文献】特開2021-141127(JP,A)
【文献】特開2005-056934(JP,A)
【文献】特開2004-146683(JP,A)
【文献】特開2019-135758(JP,A)
【文献】特開2021-039987(JP,A)
【文献】特開2017-143118(JP,A)
【文献】特開2012-114369(JP,A)
【文献】特開2011-096798(JP,A)
【文献】特開2009-206352(JP,A)
【文献】特開2001-093756(JP,A)
【文献】特開2016-195289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/04
H01F 27/29
H01F 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に延びる巻芯部ならびに前記巻芯部の前記軸線方向での互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有し、第1磁性体からなる、コアと、
互いに逆方向に向く下方主面および上方主面を有し、第2磁性体からなる、天板と、
前記巻芯部に巻回された、少なくとも1本のワイヤと、
を備え、
前記第1鍔部および前記第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向けられる実装面と、前記実装面の反対側の天面と、を有し、
前記天板は、前記下方主面が接着剤を介して前記第1鍔部および前記第2鍔部の各々の前記天面に対向した状態で、前記コアに固定され、
前記下方主面における前記第1鍔部に対向する領域の一部には、前記天面に接触
し、前記第1鍔部の前記天面と前記天板の前記下方主面との間に磁気飽和を発生しにくくするためのギャップを形成する凸状の第1スペーサ部が設けられ、
前記下方主面における前記第2鍔部に対向する領域の一部には、前記天面に接触
し、前記第2鍔部の前記天面と前記天板の前記下方主面との間に磁気飽和を発生しにくくするためのギャップを形成する凸状の第2スペーサ部が設けられ、
前記下方主面の延びる方向であって前記軸線方向に直交する方向を幅方向としたとき、前記第1スペーサ部は、1つの空所を介して幅方向に並ぶ2つの部分に分割され、前記第2スペーサ部は、1つの空所を介して幅方向に並ぶ2つの部分に分割され、
前記第1スペーサ部の前記2つの部分の間にある前記空所は、前記下方主面の前記幅方向の中央部に位置し、
前記第2スペーサ部の前記2つの部分の間にある前記空所は、前記下方主面の前記幅方向の中央部に位置し、
前記下方主面における前記巻芯部に対向する領域には、凸状の台状部が設けられ、
前記第1スペーサ部と前記第2スペーサ部とは、前記台状部を介して、つながっている、
コイル部品。
【請求項2】
前記下方主面の延びる方向であって前記軸線方向に直交する方向に測定した寸法を幅方向寸法としたとき、前記台状部の幅方向寸法は、前記第1スペーサ部および前記第2スペーサ部の各々の幅方向寸法より大きい、請求項1に記載のコイル部品。
【請求項3】
前記軸線方向に平行な方向に測定した寸法を長さ方向寸法としたとき、前記台状部における前記巻芯部に対向する部分の長さ方向寸法は、前記巻芯部の長さ方向寸法より小さく、かつ前記台状部は、前記第1鍔部および前記第2鍔部の各々から離れている、請求項1または2に記載のコイル部品。
【請求項4】
前記台状部の前記下方主面から測定した高さ方向寸法は、前記第1スペーサ部および前記第2スペーサ部の各々の前記下方主面から測定した高さ方向寸法と等しい、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項5】
前記台状部の前記下方主面から測定した高さ方向寸法は、前記第1スペーサ部および前記第2スペーサ部の各々の前記下方主面から測定した高さ方向寸法より大きい、請求項3に記載のコイル部品。
【請求項6】
前記軸線方向に平行な方向を長さ方向としたとき、前記下方主面は、長さ方向に沿って延びる辺を有し、前記第1スペーサ部および前記第2スペーサ部は、前記長さ方向に沿って延びる辺に接して位置している、請求項1ないし
5のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項7】
前記軸線方向に平行な方向を長さ方向としたとき、前記下方主面は、長さ方向に沿って延びる辺を有し、前記第1スペーサ部および前記第2スペーサ部は、前記長さ方向に沿って延びる辺から離れて位置している、請求項1ないし
5のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項8】
前記下方主面の延びる方向であって前記軸線方向に直交する方向を幅方向としたとき、前記第1鍔部の前記天面の幅方向における両端縁は、前記第1スペーサ部の幅方向における中間部に対向する位置にあり、前記第2鍔部の前記天面の幅方向における両端縁は、前記第2スペーサ部の幅方向における中間部に対向する位置にある、請求項1ないし
7のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項9】
前記下方主面の延びる方向であって前記軸線方向に直交する方向を幅方向としたとき、前記第1鍔部の前記天面の幅方向における両端縁は、前記第1スペーサ部の幅方向における外側に外れた位置に対向する位置にあり、前記第2鍔部の前記天面の幅方向における両端縁は、前記第2スペーサ部の幅方向における外側に外れた位置に対向する位置にある、請求項1ないし
7のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項10】
前記第1スペーサ部は、前記第1鍔部の前記天面における前記巻芯部側に片寄った領域に対向し、前記第2スペーサ部は、前記第2鍔部の前記天面における前記巻芯部側に片寄った領域に対向する、請求項1ないし
9のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項11】
前記第1スペーサ部、前記第2スペーサ部および前記台状部の各々の周縁の前記下方主面からの立上がり面は勾配面を形成している、請求項1ないし
10のいずれかに記載のコイル部品。
【請求項12】
前記実装面に設けられる端子電極をさらに備え、前記ワイヤは前記端子電極と前記実装面側で接続されている、請求項1ないし
11のいずれかに記載のコイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ワイヤを巻回した巻芯部と、巻芯部の各端部に設けられた第1鍔部および第2鍔部と、を有するコア、ならびに第1鍔部および第2鍔部間に渡された状態でコアに固定された天板を備える、コイル部品に関するもので、特に、天板の形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2018-107248号公報(特許文献1)には、ワイヤを巻回した巻芯部と、巻芯部の各端部に設けられた第1鍔部および第2鍔部と、を有する磁性体からなるドラム状のコア、ならびに第1鍔部および第2鍔部間に渡された状態でコアに接着固定された磁性体からなる天板を備える、コイル部品が記載されている。
【0003】
第1鍔部および第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向けられる実装面と、実装面の反対側の天面と、を有する。天板は、その下方主面が第1鍔部および第2鍔部の各々の天面に対向した状態で、コアに接着剤を介して固定されている。
【0004】
第1鍔部および第2鍔部の各々の天面と天板の下方主面との間には、ギャップが設けられ、磁気飽和を発生しにくくし、直流重畳特性の改善が図られている。このようなギャップを設けるため、たとえば、天板の下方主面における第1鍔部および第2鍔部に対向する領域には、それぞれ、第1鍔部および第2鍔部の各々の天面に接触する複数の突起が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したコアおよび天板は、たとえば、フェライトの粉末を金型でプレス成形し、得られた成形体を焼成することによって製造される。そして、焼成後には、バレル研磨が実施され、成形時に生じたバリが除去される。このとき、コアおよび天板の稜線部分は、角が取れて、小さいアール面取り形状が付与される。
【0007】
しかしながら、研磨の条件によっては、バレル研磨工程において、不所望にも、突起の少なくとも一部が削り取られる可能性もある。このことは、コイル部品の特性の変動を生じさせ、所望のインダクタンス値を安定して得ることができないといった不都合を招くことになる。
【0008】
そこで、この発明の目的は、天板とコアとの間で安定してギャップを形成することができる、コイル部品を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、軸線方向に延びる巻芯部ならびに巻芯部の軸線方向での互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部および第2鍔部を有し、第1磁性体からなる、コアと、互いに逆方向に向く下方主面および上方主面を有し、第2磁性体からなる、天板と、巻芯部に巻回された、少なくとも1本のワイヤと、を備える、コイル部品に向けられる。上述の第1磁性体と第2磁性体とは同じであっても、異なっていてもよい。
【0010】
第1鍔部および第2鍔部の各々は、実装時において実装基板側に向けられる実装面と、実装面の反対側の天面と、を有する。天板は、上記下方主面が接着剤を介して第1鍔部および第2鍔部の各々の天面に対向した状態で、コアに固定される。
【0011】
天板の下方主面における第1鍔部に対向する領域の一部には、天面に接触し、第1鍔部の天面と天板の下方主面との間に磁気飽和を発生しにくくするためのギャップを形成する凸状の第1スペーサ部が設けられる。
【0012】
天板の下方主面における第2鍔部に対向する領域の一部には、天面に接触し、第2鍔部の天面と天板の下方主面との間に磁気飽和を発生しにくくするためのギャップを形成する凸状の第2スペーサ部が設けられる。
【0013】
この発明では、上述した技術的課題を解決するため、天板の下方主面の延びる方向であって軸線方向に直交する方向を幅方向としたとき、第1スペーサ部は、1つの空所を介して幅方向に並ぶ2つの部分に分割され、第2スペーサ部は、1つの空所を介して幅方向に並ぶ2つの部分に分割され、第1スペーサ部の2つの部分の間にある上記空所は、下方主面の幅方向の中央部に位置し、第2スペーサ部の2つの部分の間にある上記空所は、下方主面の幅方向の中央部に位置し、下方主面における巻芯部に対向する領域には、凸状の台状部が設けられ、第1スペーサ部と第2スペーサ部とは、台状部を介して、つながっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、第1鍔部および第2鍔部の各々の天面と天板の下方主面との間にギャップを形成するための第1スペーサ部および第2スペーサ部は、台状部を介して、つながっているので、第1スペーサ部および第2スペーサ部は、台状部とともに、比較的広い面積の凸状部を形成することになる。したがって、バリ取りまたは面取りのための研磨工程に付されても、第1スペーサ部および第2スペーサ部が削り取られて損傷することを抑えることができ、そのため、所望のインダクタンス値といった電気特性を安定して獲得することができる。
【0015】
また、この発明によれば、天板には、肉厚部となる凸状の台状部が設けられるので、天板の抗折強度といった機械的強度を高めることができるとともに、台状部は、天板の下方主面における巻芯部に対向する領域に設けられるので、製品としてのコイル部品の大型化を招くことはない。上述した機械的強度は、たとえば、コイル部品をマウンタで扱う際に要求される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明の第1の実施形態によるコイル部品1の外観を示す正面図である。
【
図2】
図1に示したコイル部品1の外観を示す左側面図である。
【
図3】
図1に示したコイル部品1の外観を示す斜視図であり、ワイヤの図示を省略している。
【
図4】
図1に示したコイル部品1に備える天板14を単独で下方主面15側から示す斜視図である。
【
図6】この発明の第2の実施形態によるコイル部品に備える天板14を単独で下方主面側から示す斜視図である。
【
図7】
図6に示した天板14を備えるコイル部品1の
図5に相当する断面図である。
【
図8】この発明の第3の実施形態によるコイル部品に備える天板14を単独で下方主面側から示す斜視図である。
【
図9】この発明の第4の実施形態によるコイル部品に備える天板14を単独で下方主面側から示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1ないし
図5を参照して、この発明の第1の実施形態によるコイル部品1について説明する。
【0018】
コイル部品1は、たとえばNi-Zn系フェライトのようなフェライト、またはフェライト粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などの磁性体からなるコア2を備える。コア2は、軸線方向AXに延びる巻芯部3ならびに巻芯部3の軸線方向AXにおける互いに逆の端部にそれぞれ設けられた第1鍔部5および第2鍔部6を有する。巻芯部3は、横断面形状がたとえば四角形状であるが、その他、六角形状などの多角形状、円形状、楕円形状、またはこれらを組み合わせた形状であってもよい。
【0019】
第1鍔部5および第2鍔部6は、それぞれ、実装時において実装基板(図示せず。)側に向けられる実装面7および8と、実装面7および8のそれぞれの反対側の天面9および10と、を有している。
【0020】
第1鍔部の実装面7には、第1端子電極11が設けられ、第2鍔部6の実装面8には、第2端子電極12が設けられる。端子電極11および12は、たとえば、Ag粉末等の導電性金属粉末を含む導電性ペーストを浸漬または印刷し、次いで、これを焼き付け、さらに、Cuめっき、NiめっきおよびSnめっきを順に施すことによって形成される。あるいは、端子電極11および12は、導電性金属板からなる端子部材を第1および第2鍔部5および6に取り付けることによって設けられてもよい。
【0021】
巻芯部3には、
図1に示すように、少なくとも1本のワイヤ13が巻回される。なお、
図3では、ワイヤ13の図示が省略されている。ワイヤ13は、たとえば、銅、銀または金などの良導電性金属からなる中心線材と、中心線材を覆うポリアミドイミド、ポリウレタンまたはポリエステルイミドのような電気絶縁性樹脂からなる絶縁被膜と、を備える。中心線材は、たとえば40μm以上かつ200μm以下の径を有する。
【0022】
ワイヤ13の一方端は、第1鍔部5の実装面7側において、第1端子電極11に接続され、同じく他方端は、第2鍔部6の実装面8側において、第2端子電極12に接続される。この構成によれば、コア2と天板14との結合部分にワイヤ13の端部を位置させる必要がないので、ワイヤ13の存在にとらわれることなく、コア2および天板14を設計することができる。たとえば、ワイヤ13によって、後述するスペーサ部21および22の位置および形状が制限されることはない。
【0023】
端子電極11および12とワイヤ13との接続には、たとえば熱圧着や超音波溶着、レーザ溶着などが適用される。ワイヤ13の巻芯部3上でのターン数は、必要とする特性に応じて任意に選ばれる。ワイヤ13は、必要に応じて多層巻きとされてもよい。
【0024】
コイル部品1は、上記第1鍔部5および第2鍔部6間に渡された天板14を備える。天板14は、互いに逆方向に向く下方主面15および上方主面16を有する。天板14は、たとえばフェライト、またはフェライト粉もしくは金属磁性粉を含有する樹脂などの磁性体からなる。このように、コア2および天板14の双方が磁性体からなるとき、天板14は、コア2と協働して、閉磁路を構成する。
【0025】
天板14は、その下方主面15が接着剤17を介して第1鍔部5の天面9および第2鍔部6の天面10に対向した状態で、コア2に固定される。接着剤17は、たとえば、エポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂を含む。接着剤17には、熱衝撃耐性向上のため、シリカフィラーのような無機フィラーが添加されてもよい。
【0026】
コイル部品1は、一例として、長さ方向(軸線方向AX)の寸法が1.6mm、幅方向(軸線方向AXに垂直かつ実装面に平行な方向)の寸法が0.8mm、高さ方向(軸線方向AXおよび幅方向に垂直な方向)の寸法が1.1mmである。この発明によれば、天板14の機械的強度低下を抑制することができるので、この発明による効果は、特に天板14が薄くなる小型品において、より発揮される。しかしながら、この発明において、製品寸法が制限されるものではない。
【0027】
コイル部品1は、たとえば、以下のようにして製造されることが好ましい。
【0028】
まず、コア2および天板14をそれぞれ用意する。これらコア2および天板14をそれぞれ製造するため、たとえばフェライトの粉末を金型でプレス成形し、得られた成形体を焼成し、コア2となるべき焼結体および天板14となるべき焼結体を得る。その後、コア2となるべき焼結体および天板14となるべき焼結体にバレル研磨を実施することによって、バリを取り、コア2および天板14をそれぞれ得る。コア2および天板14の各々の稜線は、角が取れて小さいアール面取りが施される。
【0029】
次いで、コア2に端子電極11および12を設けるため、第1鍔部5および第2鍔部6の実装面7および8に、たとえば、Agを含む導電性ペーストを付与し、焼き付けた後、電解バレルめっき法を適用して、Cuめっき、NiめっきおよびSnめっきを順次施す。
【0030】
次に、たとえばノズルによって、ワイヤ13をコア2の巻芯部3に巻回し、ワイヤ13の一方端および他方端をそれぞれ第1端子電極11および第2端子電極12に接続する。ここで、ワイヤ13と端子電極11および12との接続には、たとえばヒーターチップによる熱圧着が適用される。端子電極11および12に接続されたワイヤ13の余分は、カット刃により切断され除去される。
【0031】
次に、天板14が、接着剤17を介して、コア2の上に配置され、天板14とコア2とが互いに固定される。
【0032】
以上のようにして、コイル部品1が完成される。
【0033】
コイル部品1は、特に天板14において、以下のような特徴を有している。
【0034】
図4によく示されているように、天板14の下方主面15における第1鍔部5および第2鍔部6にそれぞれ対向する領域には、天面9および10の各一部にそれぞれ接触する凸状の第1スペーサ部21および第2スペーサ部22が設けられる。なお、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22は、それぞれ、天面9および10との間に接着剤17の薄い膜を介する場合もある。スペーサ部21および22は、第1鍔部5および第2鍔部6の各々の天面9および10と天板14の下方主面15との間に
磁気飽和を発生しにくくするためのギャップを形成するためのものである。第1スペーサ部21および第2スペーサ部22の各々の下方主面15からの高さ方向寸法、すなわちギャップの寸法は、たとえば20μm以上かつ70μm以下とされる。
【0035】
この実施形態では、下方主面15の延びる方向であって軸線方向AXに直交する方向を幅方向WDとしたとき、第1スペーサ部21は、1つの空所を介して幅方向WDに並ぶ2つの部分21aおよび21bに分割され、第2スペーサ部22は、1つの空所を介して幅方向WDに並ぶ2つの部分22aおよび22bに分割されている。これは、スペーサ部21および22と鍔部5および6との接触面積を減じ、磁気飽和を発生しにくくする手段の一つであるとともに、コア2に対する天板14の姿勢の安定化を図るためのものである。
上述のように、2つの部分21aおよび21bの間に形成される空所が1つであるということは、2つの部分21aおよび21bの間にはたとえば凸状となる部分が存在しないということであり、同じく、2つの部分22aおよび22bの間に形成される空所が1つであるということは、2つの部分22aおよび22bの間にはたとえば凸状となる部分が存在しないということである。
第1スペーサ部21の上記2つの部分21aおよび21bの間にある空所は、下方主面15の幅方向WDの中央部に位置し、同様に、第2スペーサ部22の上記2つの部分22aおよび22bの間にある空所は、下方主面15の幅方向WDの中央部に位置して形成されている。
【0036】
また、天板14の下方主面15における巻芯部3に対向する領域には、肉厚部となる凸状の台状部23が設けられる。そして、第1スペーサ部21と第2スペーサ部22とは、台状部23を介して、つながっている。その結果、第1スペーサ部21、第2スペーサ部22および台状部23は、H字型の平面形状をなしている。
【0037】
このようにして、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22は、台状部23とともに、比較的広い面積の凸状部を形成することになる。したがって、バリ取りまたは面取りのためのバレル研磨工程に付されても、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22が削り取られて損傷することを抑えることができ、その結果、電気特性への影響を低減することができる。
【0038】
また、天板14には、肉厚部となる凸状の台状部23が設けられるので、天板14の抗折強度といった機械的強度を高めることができるとともに、台状部23は、天板14の下方主面15における巻芯部3に対向する領域といった外側には張り出さない領域に設けられるので、製品としてのコイル部品1の大型化を招くことはない。
【0039】
また、前述のように、第1スペーサ部21、第2スペーサ部22および台状部23がH字型の平面形状をなしているので、第1スペーサ部21の部分21aおよび21bと台状部23とで仕切られたスペースならびに第2スペーサ部22の部分22aおよび22bと台状部23とで仕切られたスペースのそれぞれに接着剤17を塗布するようにすれば、接着剤17の安定した塗布形状を得ることができる。
【0040】
この実施形態では、さらに、以下のような特徴をも見出すことができる。
【0041】
台状部23の幅方向WDの寸法は、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22の各々の幅方向WDの寸法より大きい。ここで、第1スペーサ部21の幅方向WDの寸法とは、部分21aの幅方向WDの寸法および部分21bの幅方向WDの寸法の合計であり、第2スペーサ部22の幅方向WDの寸法とは、部分22aの幅方向WDの寸法および部分22bの幅方向WDの寸法の合計である。この構成によれば、肉厚の台状部23による、天板14の抗折強度向上の効果をより発揮させることができる。
【0042】
軸線方向AXに平行な方向に測定した寸法を長さ方向寸法としたとき、台状部23の長さ方向寸法は、巻芯部3の長さ方向寸法より小さく、かつ台状部23は、第1鍔部5および第2鍔部6の各々から離れている。これらのことは
図1に破線で示した台状部23の輪郭から推測できる。この構成によれば、台状部23が磁束回路形成に寄与せず、直流重畳特性改善の効果を損なうことなく、機械的強度の向上を図ることができる。この効果は、第1鍔部5および第2鍔部6の各々と台状部23との間の間隔が、前述したスペーサ部21および22による鍔部5および6と天板14との間隔より広いとき、より確実に奏される。
【0043】
天板14の下方主面15から測定した高さ方向寸法に関して、台状部23の高さ方向寸法は、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22の各々の高さ方向寸法と等しい。この構成によれば、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22の各々と台状部23との間に段差が生じない。段差は応力の集中箇所となり得るが、段差が生じないようにすれば、天板14の機械的強度を一層向上させることができる。
【0044】
また、台状部23に注目すると、台状部23は、幅方向WDにおいて一連に延びている。台状部が、幅方向WDにおいて、複数箇所に分かれて設けられる場合には、天板14の下方主面15との間に段差が生じるが、一連に延びている場合には、段差が生じない。したがって、段差による応力の集中箇所がないため、このような段差によって、天板14の機械的強度が低下してしまうことがない。
【0045】
図2および
図5に示すように、天板14の幅方向WDの寸法は、コア2に備える鍔部5および6の幅方向WDの寸法より大きい。この構成に加えて、軸線方向AXに平行な方向を長さ方向としたとき、天板14の下方主面15は、長さ方向に沿って延びる辺24(
図4参照)を有し、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22は、長さ方向に沿って延びる辺24に接して位置している。なお、
図5では、接着剤17の図示が省略されている。
【0046】
上述の状況の下、
図5によく示されているように、第1鍔部5の天面9の幅方向WDにおける両端縁は、第1スペーサ部21の幅方向WDにおける中間部に対向する位置にあり、第2鍔部6の天面10の幅方向WDにおける両端縁は、第2スペーサ部22の幅方向WDにおける中間部に対向する位置にある、という条件を満たすようにされる。
【0047】
このような構成によれば、たとえば
図5において破線で示すように、天板14のコア2に対する位置が幅方向WDにわずかにずれても、天板14の下方主面15と鍔部5および6の天面9および10との接触面積を一定に保つことができる。したがって、天板14のコア2に対する位置ずれが生じても、磁気特性が実質的に変化することがないようにすることができる。
【0048】
図1および
図3に示すように、第1スペーサ部21は、第1鍔部5の天面9における巻芯部3側に片寄った領域に対向し、第2スペーサ部22は、第2鍔部6の天面10における巻芯部2側に片寄った領域に対向している。たとえば、第1スペーサ部21は、天面9の軸線方向AXでの長さの1/3~1/2の領域で天面9と重なり、第2スペーサ部22は、天面10の軸線方向AXでの長さの1/3~1/2の領域で天面10と重なるようにされる。この構成は、スペーサ部21および22と鍔部5および6との接触面積を減じ、磁気飽和を発生しにくくする手段の一つである。また、この構成によれば、スペーサ部21および22と天面9および10との接触部分が巻芯部3側に片寄っているので、コア2と天板14とで形成される閉磁路をより短くすることができるので、磁気抵抗を低減することができる。
【0049】
第1スペーサ部21、第2スペーサ部22および台状部23の各々の周縁の下方主面からの立上がり面は勾配面を形成している。この構成によれば、応力の分散が可能となり、機械的強度の向上に寄与するとともに、金型による天板14の成形がより容易となる。
【0050】
次に、
図6以降を参照して、この発明の他の実施形態について説明する。
図6以降の図面において、
図1ないし
図5に示した要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明を省略する。他の実施形態の説明は、
図1ないし
図5に示した実施形態と比較して実質的に異なる部分、あるいは特徴的な部分のみを対象とする。
【0051】
図6および
図7を参照して、第2の実施形態では、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22は、天板14の下方主面15の長さ方向に延びる辺24から離れて位置している。同様に、台状部23についても、天板14の下方主面15の長さ方向に延びる辺24から離れて位置している。この構成によれば、天板14のバリ取りまたは面取りのためのバレル研磨工程において、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22ならびに台状部23が削り取られて損傷することを一層抑えることができる。
【0052】
上述した構成に加えて、第2の実施形態では、
図7に示すように、第1鍔部5の天面9の幅方向WDにおける両端縁は、第1スペーサ部21の幅方向WDにおける外側に外れた位置に対向する位置にあり、第2鍔部6の天面10の幅方向WDにおける両端縁は、第2スペーサ部22の幅方向WDにおける外側に外れた位置に対向する位置にある。
【0053】
この構成によれば、
図7からわかるように、天板14の幅方向WDの寸法が、コア2に備える鍔部5および6の幅方向WDの寸法と等しい場合であっても、天板14のコア2に対する位置が幅方向WDにわずかにずれても、磁気特性の変化を少なくすることができる。
【0054】
図8を参照して、第3の実施形態では、天板14の下方主面15から測定した高さ方向寸法に関して、台状部23の高さ方向寸法は、第1スペーサ部および第2スペーサ部の各々の高さ方向寸法より大きいことを特徴としている。この構成によれば、天板14の抗折強度といった機械的強度を一層高めることができる。
【0055】
ここで、台状部23は、天板14の下方主面15における巻芯部に対向する領域といった外側には張り出さない領域に設けられることにも注目すべきである。この場合、台状部23の高さ方向寸法が大きくされても、台状部23が巻芯部に近づくのみで、製品としてのコイル部品1の大型化を招くことはない。
【0056】
上述した第3の実施形態は、直流重畳特性改善の効果を損なうことなく、機械的強度の向上を図るためには、前述した第1の実施形態に関して説明したように、台状部23の長さ方向寸法は、巻芯部の長さ方向寸法より小さく、かつ台状部23は、第1鍔部および第2鍔部の各々から離れている、という構成を備えることが特に有効である。なぜなら、台状部23の高さ方向寸法が大きくなるほど、第1鍔部および第2鍔部の各々と台状部23とがより近づき、直流重畳特性改善の効果が減殺されるからである。
【0057】
図9を参照して、第4の実施形態は、第3の実施形態の特徴、すなわち、台状部23の高さ方向寸法は、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22の各々の高さ方向寸法より大きい、という特徴を備えながら、第2の実施形態の特徴、すなわち、第1スペーサ部21および第2スペーサ部22ならびに台状部23は、天板14の下方主面15の長さ方向に延びる辺24から離れて位置している、という特徴を備えている。
【0058】
以上、この発明を図示した実施形態に関連して説明したが、この発明の範囲内において、その他種々の変形例が可能である。
【0059】
たとえば、この発明が向けられるコイル部品は、図示された実施形態のように、単一のコイルを構成するもの以外に、コモンモードチョークコイルを構成するもの、トランスやバランなどを構成するものであってもよい。したがって、ワイヤの数についても、コイル部品の機能に応じて変更され、それに応じて、各鍔部に設けられる端子電極の数も変更され得る。
【0060】
また、この発明に係るコイル部品を構成するにあたり、この明細書に記載された異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 コイル部品
2 コア
3 巻芯部
5,6 鍔部
7,8 実装面
9,10 天面
11,12 端子電極
13 ワイヤ
14 天板
15 下方主面
16 上方主面
17 接着剤
21,22 スペーサ部
23 台状部
24 長さ方向に延びる辺
AX 軸線方向
WD 幅方向