(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 52/02 20090101AFI20240702BHJP
H04W 88/06 20090101ALI20240702BHJP
H04W 84/10 20090101ALI20240702BHJP
H04W 4/40 20180101ALI20240702BHJP
【FI】
H04W52/02
H04W88/06
H04W84/10 110
H04W4/40
(21)【出願番号】P 2021214958
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 徹
【審査官】望月 章俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-135165(JP,A)
【文献】国際公開第2020/123956(WO,A1)
【文献】特表2022-515050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W4/00-H04W99/00
H04B7/24-H04B7/26
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯情報端末と省電力通信を行う省電力通信部と、
前記携帯情報端末との超広帯域通信を行う超広帯域通信部と、
前記超広帯域通信部による通信結果から算出した車両と前記携帯情報端末との間の測距に基づいて前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度を補正し、補正した信号強度が操作許容閾値以上
であることを条件に、前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信部を介して得た操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能とする制御部と、
を含む情報処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、予め判明している前記超広帯域通信による測距と前記省電力通信の信号強度との対応関係に基づき、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度を、前記超広帯域通信による測距に対応した信号強度に補正する請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記制御部は、制御開始時に前記超広帯域通信部による測距回数を0に設定すると共に、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度が前記操作許容閾値よりも小さい省電力通信確立閾値以上で、かつ前記測距回数が1を超えていない場合に、前記超広帯域通信部による測距に基づいて前記省電力通信の信号強度を補正する請求項1又は2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車両と前記携帯情報端末との間で前記省電力通信の接続が行われる毎に前記省電力通信の信号強度を補正し、前記省電力通信の接続が切れた際に前記信号強度の補正を解除する請求項1~3のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記省電力通信による前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することが可能になった後、前記省電力通信の信号強度に基づいて前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を行う請求項1~4のいずれか1項に記載の情報処理装置。
【請求項6】
超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて省電力通信の信号強度を補正する手順と、
補正した信号強度が操作許容閾値以上
であることを条件に、前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御する手順と、
を含む情報処理方法。
【請求項7】
コンピュータを、
超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて省電力通信の信号強度を補正し、補正した信号強度が操作許容閾値以上
であることを条件に、前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能とする制御部として機能させる、情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯情報端末と車両との通信に係る情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の携帯情報端末からの操作によって、車両の施錠及び解錠、さらには車両の機関を始動させる、いわゆるデジタルキーの技術が開発されている。
【0003】
特許文献1には、携帯情報端末と車両との間で、低消費電力通信を行うBLE(Bluetooth low energy)による通信接続を確立するに際し、超広帯域での通信が可能なUWB(Ultra Wide Band)を用いて特定した車両からの携帯情報端末の位置に基づいて、BLEによる車両のドアまたはトランクの解錠、車両の機関の始動等の操作を実行する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、UWBは消費電力が大きく、車両と携帯情報端末との位置関係の特定のために長時間オン状態にすると、車両の消費電力を増加させてしまうおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮し、より適切なタイミングでUWBモジュールを動作させるようにすることで、車両での消費電流増加を防止する情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の情報処理装置は、携帯情報端末と省電力通信を行う省電力通信部と、前記携帯情報端末との超広帯域通信を行う超広帯域通信部と、一時的にオン状態にした前記超広帯域通信部による通信結果から算出した車両と前記携帯情報端末との間の測距に基づいて前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度を補正し、補正した信号強度が操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信部をオン状態にして前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信部を介して得た操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能とする制御部と、を含む。
【0008】
請求項1に記載の情報処理装置によれば、一時的にオン状態にした超広帯域通信部による測距に基づいて補正した省電力通信の信号強度が操作許容閾値以上の場合に、超広帯域通信部による測距を開始することにより、より適切なタイミングでUWBモジュールである超広帯域通信部を動作させることができ、車両での消費電流増加を防止できる。また、補正した省電力通信の信号強度が操作許容閾値以上の場合に、携帯情報端末から省電力通信部を介して得た操作信号に従って車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うようにすることで、省電力通信で確実に車両の解錠等の操作が可能となる場合に、当該操作を許容することができる。
【0009】
請求項2に記載の情報処理装置は、前記制御部は、予め判明している前記超広帯域通信による測距と前記省電力通信の信号強度との対応関係に基づき、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度を、前記超広帯域通信による測距に対応した信号強度に補正する。
【0010】
請求項2に記載の情報処理装置によれば、超広帯域通信による測距と省電力通信の信号強度との対応関係に基づいて省電力通信の信号強度を補正することができる。
【0011】
請求項3に記載の情報処理装置は、前記制御部は、制御開始時に前記超広帯域通信部による測距回数を0に設定すると共に、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度が前記操作許容閾値よりも小さい省電力通信確立閾値以上で、かつ前記測距回数が1を超えていない場合に、前記超広帯域通信部による測距に基づいて前記省電力通信の信号強度を補正する。
【0012】
請求項3に記載の情報処理装置によれば、携帯情報端末を所持したユーザが車両に接近してくる際に、超広帯域通信部による測距に基づいて省電力通信の信号強度を補正することができる。
【0013】
請求項4に記載の情報処理装置は、前記制御部は、前記車両と前記携帯情報端末との間で前記省電力通信の接続が行われる毎に前記省電力通信の信号強度を補正し、前記省電力通信の接続が切れた際に前記信号強度の補正を解除する。
【0014】
請求項4に記載の情報処理装置によれば、省電力通信の接続が行われる毎に省電力通信の信号強度を補正することにより、ユーザの携帯情報端末の保持のし方で変化する省電力通信の信号強度に対応した補正が可能となる。
【0015】
請求項5に記載の情報処理装置は、前記制御部は、前記省電力通信による前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することが可能になった後、前記省電力通信の信号強度に基づいて前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を行う。
【0016】
請求項5に記載の情報処理装置によれば、省電力通信による車両の操作が可能となった後は、消費電力が少ない省電力通信によって車両と携帯情報端末との位置関係を特定できる。
【0017】
請求項6に記載の情報処理装置は、携帯情報端末と省電力通信を行う省電力通信部と、前記携帯情報端末との超広帯域通信を行う超広帯域通信部と、一時的にオン状態にした前記超広帯域通信部による通信結果から算出した車両と前記携帯情報端末との間の測距に基づいて操作許容閾値を補正し、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度が前記補正した操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信部をオン状態にして前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信部を介して得た操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能とする制御部と、を含む。
【0018】
請求項6に記載の情報処理装置によれば、省電力通信の信号強度が一時的にオン状態にした超広帯域通信部による測距に基づいて補正した操作許容閾値以上の場合に、超広帯域通信部による測距を開始することにより、より適切なタイミングでUWBモジュールである超広帯域通信部を動作させることができ、車両での消費電流増加を防止できる。また、省電力通信の信号強度が補正した操作許容閾値以上の場合に、携帯情報端末から省電力通信部を介して得た操作信号に従って車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うようにすることで、省電力通信で確実に車両の解錠等の操作が可能となる場合に、当該操作を許容することができる。
【0019】
請求項7に記載の情報処理装置は、前記制御部は、予め判明している前記超広帯域通信による測距と前記省電力通信の信号強度との対応関係に基づいて算出した前記超広帯域通信による測距に対応した信号強度と、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度との差分に応じて前記操作許容閾値を補正する。
【0020】
請求項7に記載の情報処理装置によれば、超広帯域通信による測距と省電力通信の信号強度との対応関係に基づいて操作許容閾値を補正することができる。
【0021】
請求項8に記載の情報処理装置は、前記制御部は、制御開始時に前記超広帯域通信部による測距回数を0に設定すると共に、前記省電力通信部が受信した前記省電力通信の信号強度が前記操作許容閾値よりも小さい省電力通信確立閾値以上で、かつ前記測距回数が1を超えていない場合に、前記差分に応じて前記操作許容閾値を補正する。
【0022】
請求項8に記載の情報処理装置によれば、携帯情報端末を所持したユーザが車両に接近してくる際に、超広帯域通信部による測距に基づいて省操作許容閾値を補正することができる。
【0023】
請求項9に記載の情報処理装置は、前記制御部は、前記車両と前記携帯情報端末との間で前記省電力通信の接続が行われる毎に前記操作許容閾値を補正し、前記省電力通信の接続が切れた際に前記操作許容閾値の補正を解除する。
【0024】
請求項9に記載の情報処理装置によれば、省電力通信の接続が行われる毎に操作許容閾値を補正することにより、ユーザの携帯情報端末の保持のし方で変化する省電力通信の信号強度に対応した補正が可能となる。
【0025】
請求項10に記載の情報処理装置は、前記制御部は、前記省電力通信による前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能にする際に、前記超広帯域通信による測距により、前記車両と前記携帯情報端末との位置関係を明確にする。
【0026】
請求項10に記載の情報処理装置によれば、車両の施錠、解錠、及び機関始動等の操作を行う際に、車両と携帯情報端末との位置関係を明確にして、確実な操作を可能にする。
【0027】
請求項11に記載の情報処理方法は、一時的にオン状態にした超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて省電力通信の信号強度を補正する手順と、補正した信号強度が操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信による前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御する手順と、を含む。
【0028】
請求項11に記載の情報処理方法によれば、一時的にオン状態にした超広帯域通信による測距に基づいて補正した省電力通信の信号強度が操作許容閾値以上の場合に、超広帯域通信による測距を開始することにより、より適切なタイミングで超広帯域通信を動作させることができ、車両での消費電流増加を防止できる。また、補正した省電力通信の信号強度が操作許容閾値以上の場合に、携帯情報端末から省電力通信によって送信された操作信号に従って車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うようにすることで、省電力通信で確実に車両の解錠等の操作が可能となる場合に、当該操作を許容することができる。
【0029】
請求項12に記載の情報処理方法は、一時的にオン状態にした超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて操作許容閾値を補正する手順と、省電力通信の信号強度が前記補正した操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信による前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御する手順と、を含む。
【0030】
請求項12に記載の情報処理方法によれば、省電力通信の信号強度が一時的にオン状態にした超広帯域通信による測距に基づいて補正した操作許容閾値以上の場合に、超広帯域通信による測距を開始することにより、より適切なタイミングで超広帯域通信を動作させることができ、車両での消費電流増加を防止できる。また、省電力通信の信号強度が補正した操作許容閾値以上の場合に、携帯情報端末から省電力通信によって送信された操作信号に従って車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うようにすることで、省電力通信で確実に車両の解錠等の操作が可能となる場合に、当該操作を許容することができる。
【0031】
請求項13に記載の情報処理プログラムは、コンピュータを、一時的にオン状態にした超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて省電力通信の信号強度を補正し、補正した信号強度が操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信による前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能とする制御部として機能させる。
【0032】
請求項13に記載の情報処理プログラムによれば、一時的にオン状態にした超広帯域通信による測距に基づいて補正した省電力通信の信号強度が操作許容閾値以上の場合に、超広帯域通信による測距を開始することにより、より適切なタイミングで超広帯域通信を動作させることができ、車両での消費電流増加を防止できる。また、補正した省電力通信の信号強度が操作許容閾値以上の場合に、携帯情報端末から省電力通信によって送信された操作信号に従って車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うようにすることで、省電力通信で確実に車両の解錠等の操作が可能となる場合に、当該操作を許容することができる。
【0033】
請求項14に記載の情報処理プログラムは、コンピュータを、一時的にオン状態にした超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて操作許容閾値を補正し、省電力通信の信号強度が前記補正した操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信による前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御することを可能とする制御部として機能させる。
【0034】
請求項14に記載の情報処理プログラムによれば、省電力通信の信号強度が一時的にオン状態にした超広帯域通信による測距に基づいて補正した操作許容閾値以上の場合に、超広帯域通信による測距を開始することにより、より適切なタイミングで超広帯域通信を動作させることができ、車両での消費電流増加を防止できる。また、省電力通信の信号強度が補正した操作許容閾値以上の場合に、携帯情報端末から省電力通信によって送信された操作信号に従って車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うようにすることで、省電力通信で確実に車両の解錠等の操作が可能となる場合に、当該操作を許容することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明に係る情報処理装置、情報処理方法、及び情報処理プログラムによれば、より適切なタイミングでUWBモジュールを動作させるようにすることで、車両での消費電流増加を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本実施形態に係る情報処理装置の構成の一例を示したブロック図である。
【
図2】ECUの具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】車両に設けられたUWBアンテナ及びBLEアンテナを中心とした位置から通信可能な範囲を示した説明図である。
【
図4】本実施形態に係る情報処理装置が備えるECUによる処理の一例を示したフローチャートである。
【
図5】携帯情報端末が、UWB測距実行エリア外となるような地点に存在している場合を示した概略図である。
【
図6】携帯情報端末が、
図5に示した地点に存在している場合で各々測定したBLEのRSSI及びUWB測距の結果を示した概略図である。
【
図7】UWB測距に対するBLEのRSSIを示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本実施形態に係る情報処理装置10について説明する。
図1は、車両200に搭載された情報処理装置10の構成の一例を示したブロック図である。情報処理装置10は、演算装置であるECU(Electronic Control Unit)12の演算に必要なデータ及びECU12による演算結果を記憶する記憶装置14と、UWBアンテナ18を介して、携帯情報端末30との通信を行うUWBモジュールであるUWB通信部20と、BLEアンテナ22を介して、携帯情報端末30との通信を行うBLE通信部24と、ECU12から入力された制御信号に従って、車両200の施錠及び解錠、並びに車両200の機関の始動等を行うアクチュエータ16と、で構成されている。ECU12は、一種のコンピュータであり、UWB通信部20による通信処理結果に基づいて、車両200と携帯情報端末30との間の測距を行うと共に、BLE通信部24による通信処理結果に基づいて、BLEのRSSI(Received Signal Strength Indicator:信号強度)の測定、及びユーザによる携帯情報端末30からの指示に従った車両200の解錠等の操作を可能にするための、アクチュエータ16に対する制御信号を生成して出力する。
【0038】
図2は、ECU12の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
図2に示したように、ECU12は、CPU(Central Processing Unit)12B、ROM(Read Only Memory)12A、RAM(Random Access Memory)12C、及び入出力ポート12Dを備える。
【0039】
ECU12では、CPU12B、ROM12A、RAM12C、及び入出力ポート12Dがアドレスバス、データバス、及び制御バス等の各種バスを介して互いに接続されている。入出力ポート12Dには、各種の入出力機器として、フラッシュメモリ又はハードディスク(HDD)等の不揮発性記憶装置である記憶装置14、アクチュエータ16、UWB通信部20、及びBLE通信部24等が各々接続されている。
【0040】
記憶装置14には、UWBによる車両200と携帯情報端末30との間の測距(以下、「UWB測距」と略記)を行うと共に、BLEのRSSIの測定、及びBLEによる携帯情報端末30からの通信に従った車両200の解錠等の操作を可能にするための情報処理プログラムがインストールされている。本実施形態では、CPU12Bが情報処理プログラムを実行することにより、上述の処理を実行する。なお、本実施形態の情報処理プログラムを情報処理装置10にインストールするには、幾つかの方法があるが、例えば、情報処理プログラムをセットアッププログラムと共にCD-ROMやDVD等に記憶しておき、入出力装置であるディスクドライブ等にディスクをセットし、CPU12Bに対してセットアッププログラムを実行することにより記憶装置14に情報処理プログラムをインストールする。または、公衆電話回線又はネットワークを介してECU12と接続される他の情報処理機器と通信することで、記憶装置14に情報処理プログラムをインストールするようにしてもよい。
【0041】
次に、ECU12のCPU12Bが情報処理プログラムを実行することで実現される各種機能について説明する。情報処理プログラムは、CPU12Bを、携帯情報端末30とのBLEによる接続状態を判定するBLE接続判定機能、携帯情報端末30とのBLEのRSSIを測定するRSSI測定機能、UWB測距を行うUWB測距機構、及びBLEによる携帯情報端末30からの通信に従った車両200の解錠等の操作を可能にするためのアクチュエータ制御機能として機能させる。CPU12Bは、情報処理プログラムを実行することにより、BLE接続判定部40、RSSI測定部42、UWB測距部44、及びアクチュエータ制御部46として機能する。UWB測距には種々の方式があるが、一例として、本実施形態では、車両200の情報処理装置10がUWBアンテナ18を介して携帯情報端末30に送信、又は携帯情報端末30から車両200に送信したUWBの信号のパルス伝搬時間を測定し、測定したパルス伝播時間に光速を乗算して距離を算出するTOA(Time of Arrival)方式を採用する。
【0042】
図3は、車両200に設けられたUWBアンテナ18及びBLEアンテナ22を中心とした位置から通信可能な範囲を示した説明図である。BLE接続エリア100は、情報処理装置10と携帯情報端末30とのBLE接続が可能な範囲を、UWB測距可能エリア102は、UWB測距が可能な範囲を、第1閾値適用エリア104は、BLEのRSSIを判定するために、後述する第1閾値が適用される範囲を、第2閾値適用エリア106は、BLEのRSSIを判定するために、後述する第2閾値が適用される範囲を、そしてUWB測距実行エリア108は、UWB測距を実行したい範囲を各々示している。
【0043】
一例として、BLEにおいて省電力を優先した場合、通信の到達距離は5m程度なので、
図3に示したBLE接続エリア100の半径も5m程度であるとする。
【0044】
前述のように、BLEのRSSIは、通信に供する携帯情報端末30をユーザがどのように握って保持しているか、携帯情報端末30の機種毎の特性、及び携帯情報端末30の個々の製品の個体差等によって差異(バラつき)が生じやすい。本実施形態では、
図4に示したように、BLEのRSSIが所定の第1閾値以上の場合に最初のUWB測距を行い、UWB測距の結果に基づいて、BLEで検出したRSSIを補正し、BLEによる車両200の施錠及び解錠等を確実に行えるようにする。
【0045】
図4は、本実施形態に係る情報処理装置10が備えるECU12による処理の一例を示したフローチャートである。
図4に示した処理は、車両200にデジタルキーの機能を備えた携帯情報端末30が接近した場合に開始される。
【0046】
ステップS100では、車両200と携帯情報端末30との間でのBLE接続の有無を判定する。具体的には、携帯情報端末30からBLEの信号が常時発信されているのであれば、情報処理装置10は、当該信号を受信して、BLE接続の有無を判定する。ステップS100では、
図3に示したBLE接続エリア100内に携帯情報端末30が存在する場合に、BLE接続有りと判定する。ステップS100で、BLE接続有りと判定した場合は手順をステップS104に移行し、BLEの信号を受信したものの、BLEのRSSIが微弱等の理由により、BLE接続なしと判定した場合は手順をステップS102に移行する。
【0047】
ステップS102では、UWB測距回数を0に変更し、UWB測距回数をリセットする。
【0048】
ステップS104では、BLEのRSSIを測定し、ステップS106では、ステップS104で測定したRSSIが第1閾値以上であるか否かを判定する。第1閾値は、
図3に示した第1閾値適用エリア104内に携帯情報端末30が存在する場合に測定されるRSSIに基づいて決定する。
図3に示したように、第1閾値適用エリア104は、UWB測距が可能な範囲であるUWB測距可能エリア102よりも車両200に近く、第2閾値が適用される範囲である第2閾値適用エリア106よりも車両200からは遠い範囲である。従って、第2閾値は第1閾値よりも大きな値となる。
【0049】
ステップS106で、RSSIが第1閾値以上と判定した場合は手順をステップS108に移行し、RSSIが第1閾値以上ではないと判定した場合は手順をステップS100に移行する。
【0050】
ステップS108では、UWB測距の回数が1を超えているか否かを判定する。ステップS108で、UWB測距の回数が1を超えていると判定した場合は手順をステップS110に移行し、UWB測距の回数が1を超えていないと判定した場合は手順をステップS116に移行する。
【0051】
ステップS110では、ステップS104で測定したBLEのRSSIが第2閾値以上であるか否かを判定する。第2閾値は、
図3に示した第2閾値適用エリア106内に携帯情報端末30が存在する場合に測定されるRSSIに基づいて決定する。本実施形態では、
図3に示したように、第2閾値適用エリア106は、UWB測距を実行したい範囲であるUWB測距実行エリア108の外縁を含むので、UWB測距実行エリア108の外縁近くに携帯情報端末30が存在する場合に測定されるRSSIに基づいて第2閾値を決定してもよい。
【0052】
ステップS110で、RSSIが第2閾値以上と判定した場合は手順をステップS112に移行し、RSSIが第2閾値以上ではないと判定した場合は手順をステップS100に移行する。
【0053】
ステップS112では、UWB通信部20をオン状態にしてUWB測距を行う。UWBは、BLEのような省電力通信に対応していないので、消費電力は多い。一方で、測距精度は高い。本実施形態では、BLEのRSSIが第2閾値以上となり、車両200の施錠及び解錠等のデジタルキーの操作が確実に可能となった場合に、UWB測距を行って車両200と携帯情報端末30との位置関係を明確にする。ステップS112におけるUWB測距の結果は、例えば、記憶装置14にログとして記録してもよい。
【0054】
ステップS114では、デジタルキー機能が作動可能な状態にして、
図4に示した一連の処理を終了する。ステップS114でデジタルキー機能が作動可能な状態にした後、ECU12は、ユーザによる携帯情報端末30の操作に従って車両200の施錠、解錠、及び機関始動等を行うようにアクチュエータ16を制御する。ユーザの操作による車両200の施錠、解錠、及び機関始動等の履歴は、記憶装置14にログとして記録してもよい。
【0055】
ステップS108で、UWB測距の回数が1を超えていないと判定した場合は、ステップS116においてUWB通信部20をオン状態にしてUWB測距を行うと共に、UWB測距の回数を1インクリメントする。ステップS116でのUWB測距後は、消費電力を抑制するために、UWB通信部20をオフ状態にする。
【0056】
ステップS118では、ステップS116でのUWB測距結果に基づいてBLEのRSSIのバラつきを補正する。BLEのRSSIのバラつきの補正の際しては、例えば、
図5に示したような状況を想定する。
図5は、携帯情報端末30が、UWB測距実行エリア108外となるような、UWBアンテナ18から距離Bの地点Xに存在している場合を示している。携帯情報端末30が、
図5に示した地点Xに存在している場合で各々測定したBLEのRSSI及びUWB測距は、以下のようになる。
BLEのRSSI測定の理論値(理想値):A(dBm)
UWB測距の理論値(理想値): B(mm)
BLEのRSSI測定のバラつき: ±a(dBm)
UWB測距のバラつき: ±b(mm)
【0057】
図6は、携帯情報端末30が、
図5に示した地点Xに存在している場合で各々測定したBLEのRSSI及びUWB測距の結果を示した概略図である。BLEのRSSI測定の理論値はA、UWB測距の理論値はBであるが、UWB測距の実測値120は±bの範囲で、BLEのRSSIの実測値122は±aの範囲で誤差が生じている。前述のように、BLEのRSSIは、通信に供する携帯情報端末30をユーザがどのように握って保持しているか、携帯情報端末30の機種毎の特性、及び携帯情報端末30の個々の製品の個体差等によってバラつきが生じやすい。しかしながら、UWBは、測距のバラつきの範囲は比較的狭く、携帯情報端末30が、
図5に示した地点Xに存在している場合でも、比較的信頼できる測距結果が得られる。
【0058】
図7は、UWB測距に対するBLEのRSSIを示した概略図である。
図7において、BLEのRSSIは±aのバラつき130を、UWB測距は±bのバラつき132を各々示している。RSSIは、距離に対して線形的に変化しないが、
図7では横軸のスケールを調整して、UWB測距の距離に対してBLEのRSSIが直線136を呈するようにしている。
【0059】
図5に示した地点XでのBLEのRSSIが実測値122の場合、BLEのRSSIの実測値122のみで車両200と携帯情報端末30との間の測距を行うと、車両200と携帯情報端末30との間は距離Yになる。しかしながら、地点Xで測定したBLEのRSSIは±aという比較的大きな範囲で誤差を生じ得るので、測距精度は良好ではない。
【0060】
また、
図5に示した地点XでのUWB測距の結果が実測値120の場合、UWB測距は距離Zを示す。UWB測距は、前述のようにBLEのRSSIに基づいた測距よりも高精度なので、ステップS118では、横軸が距離Zを示す際の直線136上のBLEのRSSIの値と、実測値122との差分134を、BLEのRSSIの補正値とし、BLEのRSSIのバラつきを補正することにより、BLEのRSSIをUWB測距に対応した信号強度に補正して手順をステップS100に移行する。
【0061】
ステップS118でBLEのRSSIのバラつきを補正した後は、ステップS100~S114の手順を実行して処理を終了する。
【0062】
ステップS118で設定した補正値は、BLE接続が切れた時点で初期化され、BLEのRSSIの補正は解除される。そして、携帯情報端末30を所持したユーザが、新たに車両200に接近した際に、
図4に示した処理が実行され、BLEのRSSIの新たな補正値が設定される。BLEのRSSIは、前述のように、通信に供する携帯情報端末30をユーザがどのように握って保持しているか、携帯情報端末30の機種毎の特性、及び携帯情報端末30の個々の製品の個体差等によって異なるので、車両200と携帯情報端末30との間でBLE接続が行われる毎に補正値を設定することが合理的である。
【0063】
本実施形態では、ステップS118でBLEのRSSIを補正したが、これに限定されない。BLEのRSSIに代えて、第2閾値、又は第1閾値と第2閾値との各々を補正してもよい。
図7に示した場合であれば、BLEのRSSIの実測値122から、
図7に示した差分134を減算することによりBLEのRSSIを補正した。
図7に示したような場合に、第1閾値、及び第2閾値の各々を補正するのであれば、第1閾値、及び第2閾値の各々に差分134を加算する等の処理により、差分134に応じて第1閾値、及び第2閾値の各々を補正できる。
【0064】
BLEのRSSIを補正した場合も、第2閾値、又は第1閾値と第2閾値との各々を補正した場合も、結果として、BLEによるデジタルキーの操作の確実性を担保する制御が可能になると共に、より適切なタイミングでUWB通信部20を動作させるようにすることで、車両200での消費電流増加を防止できる。また、第2閾値、又は第1閾値と第2閾値との各々を補正した場合も、車両200と携帯情報端末30との間でBLE接続が行われる毎に第2閾値、又は第1閾値と第2閾値との各々を新たに補正し、BLE接続が切れた時点で当該補正は解除される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によれば、バラつきが顕著なBLEのRSSI又は第2閾値等をUWB測距に基づいて補正することにより、BLEによるデジタルキーの操作の確実性を担保する制御が可能となると共に、より適切なタイミングでUWB通信部20を動作させるようにすることで、車両200での消費電流増加を防止できる。また、BLEのRSSIを補正した後は、BLEのRSSIに基づいた測距の精度が向上するので、消費電力が大きいUWB測距に代えて、BLEのRSSIに基づいた測距であるSSR(Signal Strength Ranging)を利用できるようになり、車両200における消費電力を抑制することが可能となる。
【0066】
また、特許請求の範囲に記載の「省電力通信部」は、明細書の発明の詳細な説明に記載の「BLE通信部24」に、特許請求の範囲に記載の「超広帯域通信部」は、同「UWB通信部20」に、特許請求の範囲に記載の「制御部」は、同「ECU12」に、特許請求の範囲に記載の「信号強度」は、同「RSSI」に、特許請求の範囲に記載の「省電力通信確立閾値」は、同「第1閾値」に、特許請求の範囲に記載の「操作許容閾値」は、同「第2閾値」に、各々相当する。
【0067】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0068】
上記各実施形態では、プログラムが記憶装置14等に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記憶媒体に記憶された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0069】
(付記項1)
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、
一時的にオン状態にした超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて省電力通信の信号強度を補正し、
補正した信号強度が操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信による前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御する、
ように構成されている情報処理装置。
【0070】
(付記項2)
メモリと、
前記メモリに接続された少なくとも1つのプロセッサと、
を含み、
前記プロセッサは、
一時的にオン状態にした超広帯域通信の通信結果から算出した車両と携帯情報端末との間の測距に基づいて操作許容閾値を補正し、
省電力通信の信号強度が前記補正した操作許容閾値以上の場合に、前記超広帯域通信による前記車両と前記携帯情報端末との間の測距を開始し、前記携帯情報端末から前記省電力通信によって送信された操作信号に従って前記車両の施錠、解錠、及び機関始動を行うように前記車両を制御する、
ように構成されている情報処理装置。
【符号の説明】
【0071】
10 情報処理装置
12 ECU
12A ROM
12B CPU
12C RAM
12D 入出力ポート
14 記憶装置
16 アクチュエータ
18 UWBアンテナ
20 UWB通信部
22 BLEアンテナ
24 BLE通信部
30 携帯情報端末
40 BLE接続判定部
42 RSSI測定部
44 UWB測距部
46 アクチュエータ制御部
100 BLE接続エリア
102 UWB測距可能エリア
104 第1閾値適用エリア
106 第2閾値適用エリア
108 UWB測距実行エリア
120、122 実測値
134 差分
136 直線
200 車両