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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】タンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20240702BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240702BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N5/071
C12N5/10
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2021555106
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041377
(87)【国際公開番号】W WO2021090888
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2019200753
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古関 靖道
(72)【発明者】
【氏名】片山 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】大矢 裕介
(72)【発明者】
【氏名】緒方 文
(72)【発明者】
【氏名】平川 聖
(72)【発明者】
【氏名】樋口 拓哉
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-222793(JP,A)
【文献】特開平01-247097(JP,A)
【文献】国際公開第2011/134920(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/077217(WO,A2)
【文献】国際公開第2011/134921(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/136398(WO,A1)
【文献】Cytotechnology,1989年02月,Vol.2, No.1,pp.63-67
【文献】橋爪秀一、外,ヒト型モノクローナル抗体の作製と生産,日本農芸化学会誌,1988年,Vol.62, No.10,pp.1513-1516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
C12N 1/00- 7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物質の製造方法であって、
目的物質生産能を有する動物細胞を培地で培養すること;および
目的物質を回収すること
を含み、
前記動物細胞が、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株(CHO)であり、
前記培養が、下記(A)および/または(B)の条件で実施され;
(A)前記培地中のリン酸濃度を4mM以上に増強した条件;
(B)前記培地中のカリウム濃度を1mM以上に増強した条件;
かつ、前記培養が、少なくとも、前記培地中のリン酸濃度を4mM以上に増強した条件で実施され、
さらに、前記培養が、1,4-ブタンジアミンの存在下で実施される、方法。
【請求項2】
前記目的物質が、タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
動物細胞の培養方法であって、
動物細胞を培地で培養すること
を含み、
前記動物細胞が、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株(CHO)であり、
前記培養が、下記(A)および/または(B)の条件で実施され;
(A)前記培地中のリン酸濃度を4mM以上に増強した条件;
(B)前記培地中のカリウム濃度を1mM以上に増強した条件;
かつ、前記培養が、少なくとも、前記培地中のリン酸濃度を4mM以上に増強した条件で実施され、
さらに、前記培養が、1,4-ブタンジアミンの存在下で実施される、方法。
【請求項4】
前記培養の際の前記培地中のリン酸濃度が、11mM以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
リン酸および/またはカリウムが、培養開始時に前記濃度で前記培地に含有される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リン酸および/またはカリウムが、培養開始後に前記濃度で前記培地に含有されるように該培地に供給される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
リン酸および/またはカリウムが、培養の全期間を通じての平均値として、前記濃度で前記培地に含有される、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リン酸が、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上の供給量で前記培地に供給される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
リン酸が、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.5mM以上の供給量で前記培地に供給される、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
カリウムが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.2mM以上の供給量で前記培地に供給される、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記培養が、リン酸濃度が4mM以上の流加培地を用いた灌流培養により実施される、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記培養が、リン酸濃度が11mM以上の流加培地を用いた灌流培養により実施される、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記培養が、コリンおよび/またはセリンの存在下で実施される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記培養の際の前記培地中の1,4-ブタンジアミン濃度が、0.002mM以上である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記培養の際の前記培地中のコリン濃度が、0.2mM以上である、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記培養の際の前記培地中のセリン濃度が、2mM以上である、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記1,4-ブタンジアミン、コリン、および/またはセリンが、培養開始時に前記濃度で前記培地に含有される、請求項14~16に記載の方法。
【請求項18】
前記1,4-ブタンジアミン、コリン、および/またはセリンが、培養開始後に前記濃度で前記培地に含有されるように該培地に供給される、請求項14~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記1,4-ブタンジアミン、コリン、および/またはセリンが、培養の全期間を通じての平均値として、前記濃度で前記培地に含有される、請求項14~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記1,4-ブタンジアミンが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.0005mM以上の供給量で前記培地に供給される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
コリンが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上の供給量で前記培地に供給される、請求項13~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
セリンが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.5mM以上の供給量で前記培地に供給される、請求項13~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
リン酸濃度、またはリン酸濃度およびカリウム濃度が増強され、
さらに、1,4-ブタンジアミンを含有する、動物細胞培養用の培地であって、
リン酸濃度が4mM以上であり、
前記動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣由来細胞株(CHO)である、動物細胞培養
用の培地。
【請求項24】
さらに、コリンおよび/またはセリンを含有する、請求項23に記載の培地。
【請求項25】
初発培地である、請求項23または24に記載の培地。
【請求項26】
流加培地である、請求項23~25のいずれか1項に記載の培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞の培養方法に関するものである。本発明の一態様は、動物細胞によるタンパク質等の目的物質の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動物細胞は、組み換えタンパク質の発現宿主として利用されている。
【0003】
チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株(CHO)の発現宿主とする組み換えタンパク質の製造方法としては、培地中のリン酸濃度が1.5~3.5mMとなるようにリン酸を含有する流加培地を流加する方法が報告されている(特許文献1)。
【0004】
また、高濃度のコリンを含有する培地を用いて細胞を培養する方法(特許文献2)、高濃度のセリンを含有する培地を用いて細胞を培養する方法(特許文献3)、および高濃度のアミンを含有する培地を用いて細胞を培養する方法(特許文献4)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US6,924,124
【文献】WO2011/134921A1
【文献】WO2008/136398A1
【文献】WO2007/077217A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動物細胞の培養成績(例えば、動物細胞の増殖や動物細胞による目的物質生産)を向上させる新規な技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、動物細胞の培養の際の培地中のリン酸やカリウム等の特定の成分の濃度を増強することにより動物細胞の培養成績(例えば、動物細胞の増殖や動物細胞による目的物質生産)が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
目的物質の製造方法であって、
目的物質生産能を有する動物細胞を培地で培養すること;および
目的物質を回収すること
を含み、
前記培養が、下記(A)および/または(B)の条件で実施される、方法:
(A)前記培地中のリン酸濃度を4mM以上に増強した条件;
(B)前記培地中のカリウム濃度を1mM以上に増強した条件。
[2]
前記目的物質が、タンパク質である、前記方法。
[3]
動物細胞の培養方法であって、
動物細胞を培地で培養すること
を含み、
前記培養が、下記(A)および/または(B)の条件で実施される、方法:
(A)前記培地中のリン酸濃度を4mM以上に増強した条件;
(B)前記培地中のカリウム濃度を1mM以上に増強した条件。
[4]
前記培養が、少なくとも、前記培地中のリン酸濃度を増強した条件で実施される、前記方法。
[5]
前記培養の際の前記培地中のリン酸濃度が、11mM以上である、前記方法。
[6]
リン酸および/またはカリウムが、培養開始時に前記濃度で前記培地に含有される、前記方法。
[7]
リン酸および/またはカリウムが、培養開始後に前記濃度で前記培地に含有されるように該培地に供給される、前記方法。
[8]
リン酸および/またはカリウムが、培養の全期間を通じての平均値として、前記濃度で前記培地に含有される、前記方法。
[9]
リン酸が、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上の供給量で前記培地に供給される、前記方法。
[10]
リン酸が、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.5mM以上の供給量で前記培地に供給される、前記方法。
[11]
カリウムが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.2mM以上の供給量で前記培地に供給される、前記方法。
[12]
前記培養が、リン酸濃度が4mM以上の流加培地を用いた灌流培養により実施される、前記方法。
[13]
前記培養が、リン酸濃度が11mM以上の流加培地を用いた灌流培養により実施される、前記方法。
[14]
前記培養が、アミンの存在下で実施される、前記方法。
[15]
前記アミンが、1,4-ブタンジアミンである、前記方法。
[16]
前記培養が、コリンおよび/またはセリンの存在下で実施される、前記方法。
[17]
前記培養の際の前記培地中のアミン濃度が、0.002mM以上である、前記方法。
[18]
前記培養の際の前記培地中のコリン濃度が、0.2mM以上である、前記方法。
[19]
前記培養の際の前記培地中のセリン濃度が、2mM以上である、前記方法。
[20]
前記アミン、コリン、および/またはセリンが、培養開始時に前記濃度で前記培地に含有される、前記方法。
[21]
前記アミン、コリン、および/またはセリンが、培養開始後に前記濃度で前記培地に含有されるように該培地に供給される、前記方法。
[22]
前記アミン、コリン、および/またはセリンが、培養の全期間を通じての平均値として、前記濃度で前記培地に含有される、前記方法。
[23]
前記アミンが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.0005mM以上の供給量で前記培地に供給される、前記方法。
[24]
コリンが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上の供給量で前記培地に供給される、前記方法。
[25]
セリンが、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.5mM以上の供給量で前記培地に供給される、前記方法。
[26]
リン酸濃度および/またはカリウム濃度が増強された、動物細胞培養用の培地。
[27]
少なくとも、リン酸濃度が増強された、前記培地。
[28]
さらに、アミンを含有する、前記培地。
[29]
前記アミンが、1,4-ブタンジアミンである、前記培地。
[30]
さらに、コリンおよび/またはセリンを含有する、前記培地。
[31]
初発培地である、前記培地。
[32]
流加培地である、前記培地。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】流加培地中のリン酸濃度がCHO細胞の増殖に与える影響を示す図。
図2】流加培地中のリン酸濃度がCHO細胞による抗体生産に与える影響を示す図。
図3】培養液中のリン酸濃度の推移を示す図。
図4】流加培地中のリン酸濃度がCHO細胞による抗体生産に与える影響を示す図。
図5】流加培地中のリン酸、アミン、コリン、およびセリンの濃度がCHO細胞による抗体生産に与える影響を示す図。
図6】流加培地中のリン酸およびカリウムの濃度がCHO細胞による抗体生産に与える影響を示す図。
図7】基礎培地および流加培地中のリン酸濃度が灌流培養(Perfusion培養)におけるCHO細胞による抗体生産に与える影響を示す図。
図8】流加培地中のリン酸濃度が灌流培養(Perfusion培養)におけるCHO細胞による抗体生産に与える影響を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1>本発明の方法
本発明の方法は、動物細胞の培養方法であって、動物細胞を培地で培養することを含み、前記培養が前記培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件で実施される方法である。
【0011】
一態様においては、動物細胞の培養により目的物質が製造されてもよい。すなわち、動物細胞が目的物質生産能を有する場合、同細胞の培養により目的物質を製造することができる。すなわち、本発明の方法の一態様は、目的物質の製造方法であって、目的物質生産能を有する動物細胞を培地で培養すること、および目的物質を回収することを含み、前記培養が前記培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件で実施される方法であってもよい。
【0012】
目的物質は、動物細胞により製造できるものであれば、特に制限されない。目的物質としては、タンパク質が挙げられる。目的物質として製造されるタンパク質を、「目的タンパク質」ともいう。
【0013】
動物細胞は、特に制限されない。動物細胞は、例えば、動物細胞の用途等の諸条件に応じて適宜選択できる。例えば、動物細胞を目的タンパク質の製造に利用する場合、動物細胞は、目的タンパク質を発現できるものであれば、特に制限されない。動物細胞を、「宿主」、「発現宿主」、または「宿主細胞」ともいう。動物としては、哺乳類、鳥類、両生類が挙げられる。動物としては、特に、哺乳類が挙げられる。哺乳類としては、げっ歯類や霊長類が挙げられる。げっ歯類としては、ハムスター、マウス、ラット、モルモットが挙げられる。ハムスターとしては、チャイニーズハムスターが挙げられる。霊長類としては、ヒト、サル、チンパンジーが挙げられる。サルとしては、アフリカミドリザルが挙げられる。鳥類としては、ニワトリが挙げられる。両生類としては、アフリカツメガエルが挙げられる。また、動物細胞が由来する組織または細胞は、特に制限されない。動物細胞が由来する組織または細胞としては、卵巣、腎臓、副腎、舌上皮、嗅上皮、松果体、甲状腺、メラノサイトが挙げられる。チャイニーズハムスターの細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞株(CHO)が挙げられる。CHOとして、具体的には、CHO-DG44やCHO-K1が挙げられる。ヒトの細胞としては、ヒト胎児腎細胞由来細胞株(HEK)が挙げられる。HEKとして、具体的には、HEK293やHEK293Tが挙げられる。アフリカミドリザルの細胞としては、アフリカミドリザル腎細胞由来細胞株(COS)が挙げられる。COSとして、具体的には、COS-1が挙げられる。アフリカツメガエルの細胞として、具体的には、アフリカツメガエル卵母細胞が挙げられる。
【0014】
「目的物質生産能を有する動物細胞」とは、目的物質を生産する能力を有する動物細胞を意味する。「目的物質生産能を有する動物細胞」とは、具体的には、培地で培養した際に、目的物質を生成(例えば、目的タンパク質を発現)し、回収できる程度に培養物中に蓄積する能力を有する動物細胞を意味してよい。「培養物中への蓄積」とは、具体的には、培地中、細胞表層、細胞内、またはそれらの組み合わせへの蓄積を意味してよい。なお、目的物質が細胞外(例えば、培地中または細胞表層)に蓄積する場合を、目的物質の「分泌」または「分泌生産」ともいう。すなわち、動物細胞は、目的物質の分泌生産能(目的物質を分泌生産する能力)を有していてもよい。目的物質の蓄積量は、例えば、培養物中への蓄積量として、10 μg/L以上、1 mg/L以上、100 mg/L以上、または1 g/L以上であってよい。動物細胞は、1種の目的物質の生産能を有していてもよく、2種またはそれ以上の目的物質の生産能を有していてもよい。
【0015】
動物細胞は、本来的に目的物質生産能を有するものであってもよく、目的物質生産能を有するように改変されたものであってもよい。また、動物細胞は、本来的に有する目的物質生産能が増強されるように改変されたものであってもよい。目的物質生産能を有する動物細胞は、例えば、上記のような動物細胞に目的物質生産能を付与することにより、または、上記のような動物細胞の目的物質生産能を増強することにより、取得できる。例えば、目的タンパク質生産能は、目的タンパク質をコードする遺伝子の導入により、付与または増強できる。目的タンパク質をコードする遺伝子を、「目的タンパク質遺伝子」ともいう。
【0016】
目的タンパク質は、動物細胞を宿主として発現可能なものであれば、特に制限されない。タンパク質は、宿主由来のタンパク質であってもよく、異種タンパク質(heterologous protein)であってもよい。「異種タンパク質(heterologous protein)」とは、同タンパク質を生産する宿主(すなわち、目的タンパク質生産能を有する動物細胞)にとって外来性(exogenous)であるタンパク質をいう。目的タンパク質は、例えば、天然に存在するタンパク質であってもよく、それらを改変したタンパク質であってもよく、人工的にアミノ酸配列をデザインしたタンパク質であってもよい。目的タンパク質は、例えば、微生物由来のタンパク質であってもよく、植物由来のタンパク質であってもよく、動物由来のタンパク質であってもよく、ウイルス由来のタンパク質であってもよい。目的タンパク質は、特に、ヒト由来のタンパク質であってもよい。目的タンパク質は、単量体タンパク質であってもよく、多量体タンパク質であってもよい。目的タンパク質は、分泌性タンパク質であってもよく、非分泌性タンパク質であってもよい。なお、「タンパク質」には、オリゴペプチドやポリペプチド等の、ペプチドと呼ばれるものも包含される。
【0017】
目的タンパク質として、具体的には、酵素、生理活性タンパク質、レセプタータンパク質、抗原タンパク質、その他のタンパク質が挙げられる。
【0018】
酵素としては、セルラーゼ、トランスグルタミナーゼ、プロテイングルタミナーゼ、イソマルトデキストラナーゼ、プロテアーゼ、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、コラゲナーゼ、およびキチナーゼが挙げられる。
【0019】
生理活性タンパク質としては、成長因子(増殖因子)、ホルモン、サイトカイン、抗体関連分子が挙げられる。
【0020】
成長因子(増殖因子)としては、上皮成長因子(Epidermal growth factor;EGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin-like growth factor-1;IGF-1)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor;TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor;NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vascular endothelial growth factor;VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor;G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor;GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor;PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin;EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin;TPO)、酸性線維芽細胞増殖因子(Acidic fibroblast growth factor;aFGFまたはFGF1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(Basic fibroblast growth factor;bFGFまたはFGF2)、角質細胞増殖因子(Keratinocyte growth factor;KGF-1またはFGF7や、KGF-2またはFGF10)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor;HGF)、幹細胞因子(Stem Cell Factor;SCF)、アクチビン(Activin)が挙げられる。アクチビンとしては、アクチビンA, C, Eが挙げられる。
【0021】
ホルモンとしては、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン(somatostatin)、ヒト成長ホルモン(human growth hormone;hGH)、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)、カルシトニン(calcitonin)、エキセナチド(exenatide)が挙げられる。
【0022】
サイトカインとしては、インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF)が挙げられる。
【0023】
また、生理活性タンパク質は、タンパク質全体であってもよく、その一部であってもよい。タンパク質の一部としては、例えば、生理活性を有する部分が挙げられる。生理活性を有する部分として、具体的には、例えば、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)の成熟体のN末端34アミノ酸残基からなる生理活性ペプチドTeriparatideが挙げられる。
【0024】
「抗体関連分子」とは、完全抗体を構成するドメインから選択される単一のドメインまたは2もしくはそれ以上のドメインの組合せからなる分子種を含むタンパク質を意味してよい。完全抗体を構成するドメインとしては、重鎖のドメインであるVH、CH1、CH2、およびCH3、ならびに軽鎖のドメインであるVLおよびCLが挙げられる。抗体関連分子は、上述の分子種を含む限り、単量体タンパク質であってもよく、多量体タンパク質であってもよい。なお、抗体関連分子が多量体タンパク質である場合には、単一の種類のサブユニットからなるホモ多量体であってもよく、2またはそれ以上の種類のサブユニットからなるヘテロ多量体であってもよい。抗体関連分子として、具体的には、完全抗体、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fc、重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)からなる二量体、Fc融合タンパク質、重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)、単鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、diabody、VHHフラグメント(nanobody(登録商標))が挙げられる。抗体関連分子として、より具体的には、トラスツズマブ(Trastuzumab)、アダリムマブ(Adalimumab)、ニボルマブ(Nivolumab)が挙げられる。
【0025】
レセプタータンパク質としては、生理活性タンパク質やその他の生理活性物質に対するレセプタータンパク質が挙げられる。その他の生理活性物質としては、ドーパミン等の神経伝達物質が挙げられる。なお、レセプタータンパク質は、対応するリガンドが知られていないオーファン受容体であってもよい。
【0026】
抗原タンパク質は、免疫応答を惹起できるものであれば特に制限されない。抗原タンパク質は、例えば、想定する免疫応答の対象に応じて適宜選択できる。抗原タンパク質は、例えば、ワクチンとして使用することができる。
【0027】
その他のタンパク質としては、Liver-type fatty acid-binding protein(LFABP)、蛍光タンパク質、イムノグロブリン結合タンパク質、アルブミン、フィブロイン様タンパク質、細胞外タンパク質が挙げられる。蛍光タンパク質としては、Green Fluorescent Protein(GFP)が挙げられる。イムノグロブリン結合タンパク質としては、Protein A、Protein G、Protein Lが挙げられる。アルブミンとしては、ヒト血清アルブミンが挙げられる。フィブロイン様タンパク質としては、WO2017/090665やWO2017/171001に開示されたものが挙げられる。
【0028】
細胞外タンパク質としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、オステオポンチン、ラミニン、それらの部分配列が挙げられる。ラミニンは、α鎖、β鎖、およびγ鎖からなるヘテロ三量体構造を有するタンパク質である。ラミニンとしては、哺乳類のラミニンが挙げられる。ラミニンのサブユニット鎖(すなわち、α鎖、β鎖、およびγ鎖)としては、5種のα鎖(α1~α5)、3種のβ鎖(β1~β3)、3種のγ鎖(γ1~γ3)が挙げられる。ラミニンは、これらサブユニット鎖の組み合わせによって種々のアイソフォームを構成する。ラミニンとして、具体的には、例えば、ラミニン111、ラミニン121、ラミニン211、ラミニン213、ラミニン221、ラミニン311、ラミニン321、ラミニン332、ラミニン411、ラミニン421、ラミニン423、ラミニン511、ラミニン521、ラミニン523が挙げられる。ラミニンの部分配列としては、ラミニンのE8断片であるラミニンE8が挙げられる。ラミニンE8は、具体的には、α鎖のE8断片(α鎖E8)、β鎖のE8断片(β鎖E8)、およびγ鎖のE8断片(γ鎖E8)からなるヘテロ三量体構造を有するタンパク質である。ラミニンE8のサブユニット鎖(すなわち、α鎖E8、β鎖E8、およびγ鎖E8)を総称して、「E8サブユニット鎖」ともいう。E8サブユニット鎖としては、上記例示したラミニンサブユニット鎖のE8断片が挙げられる。ラミニンE8は、これらE8サブユニット鎖の組み合わせによって種々のアイソフォームを構成する。ラミニンE8として、具体的には、例えば、ラミニン111E8、ラミニン121E8、ラミニン211E8、ラミニン221E8、ラミニン332E8、ラミニン421E8、ラミニン411E8、ラミニン511E8、ラミニン521E8が挙げられる。
【0029】
目的タンパク質は、例えば、上記のようなタンパク質の公知または天然のアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。また、目的タンパク質は、例えば、上記のようなタンパク質の公知または天然のアミノ酸配列を有するタンパク質のバリアントであってもよい。バリアントとしては、公知または天然のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。「1又は数個」とは、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味してよい。バリアントとしては、公知または天然のアミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質も挙げられる。なお、由来する生物種で特定されるタンパク質は、当該生物種において見出されるタンパク質そのものに限られず、当該生物種において見出されるタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質およびそれらのバリアントを包含するものとする。バリアントは、当該生物種において見出されてもよく、見出されなくてもよい。すなわち、例えば、「ヒト由来タンパク質」とは、ヒトにおいて見出されるタンパク質そのものに限られず、ヒトにおいて見出されるタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質およびそれらのバリアントを包含するものとする。
【0030】
なお、アミノ酸配列間の「同一性」とは、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味する。
【0031】
目的タンパク質遺伝子は、上記のような目的タンパク質をコードするものであれば、特に制限されない。目的タンパク質遺伝子は、例えば、上記のようなタンパク質をコードする遺伝子の公知または天然の塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、目的タンパク質遺伝子は、例えば、上記のようなタンパク質をコードする遺伝子の公知または天然の塩基配列を有する遺伝子のバリアントであってもよい。目的タンパク質遺伝子は、例えば、上記例示したようなバリアント配列を有するタンパク質をコードするよう改変されてもよい。目的タンパク質遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。目的タンパク質遺伝子は、例えば、宿主細胞のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されていてもよい。
【0032】
なお、本発明において、「遺伝子」という用語は、対応する発現産物をコードする限り、DNAに限られず、任意のポリヌクレオチドを包含してよい。すなわち、「目的タンパク質遺伝子」とは、目的タンパク質をコードする任意のポリヌクレオチドを意味してよい。目的タンパク質遺伝子は、DNAであってもよく、RNAであってもよく、その組み合わせであってもよい。目的タンパク質遺伝子は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。目的タンパク質遺伝子は、一本鎖DNAであってもよく、一本鎖RNAであってもよい。目的タンパク質遺伝子は、二本鎖DNAであってもよく、二本鎖RNAであってもよく、DNA鎖とRNA鎖からなるハイブリッド鎖であってもよい。目的タンパク質遺伝子は、単一のポリヌクレオチド鎖中に、DNA残基とRNA残基の両方を含んでいてもよい。目的タンパク質遺伝子は、イントロンを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。目的タンパク質遺伝子の態様は、目的タンパク質の発現手段等の諸条件に応じて適宜選択できる。
【0033】
「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、特記しない限り、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」ことを意味し、当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合も包含する。
【0034】
目的タンパク質は、目的タンパク質遺伝子から発現する。すなわち、目的タンパク質生産能を有する動物細胞は、目的タンパク質遺伝子を有する。目的タンパク質生産能を有する動物細胞は、具体的には、目的タンパク質遺伝子を発現可能に有する。なお、目的タンパク質生産能を有する動物細胞は、所望の程度に目的タンパク質を発現するまで目的タンパク質遺伝子を有していれば足りる。すなわち、目的タンパク質生産能を有する動物細胞は、目的タンパク質の発現後には、目的タンパク質遺伝子を有していてもよく、いなくてもよい。なお、「目的タンパク質遺伝子の発現」と「目的タンパク質の発現」とは同義に用いられてよい。
【0035】
目的タンパク質遺伝子は、目的タンパク質遺伝子を有する生物からのクローニングにより取得できる。クローニングには、同遺伝子を含むゲノムDNAやcDNA等の核酸を利用できる。また、目的タンパク質遺伝子は、化学合成によっても取得できる(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。
【0036】
取得した目的タンパク質遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、目的タンパク質遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。また、目的タンパク質遺伝子のバリアントを化学合成によって直接取得してもよい。
【0037】
目的タンパク質遺伝子を宿主細胞に導入する形態は特に制限されない。目的タンパク質遺伝子は、発現可能に宿主細胞に保持されていればよい。具体的には、例えば、目的タンパク質遺伝子をDNA等の転写を要する形態で導入する場合、宿主細胞において、目的タンパク質遺伝子は、当該宿主細胞で機能するプロモーターの制御下で発現可能に保持されていればよい。宿主細胞において、目的タンパク質遺伝子は、染色体外に存在していてもよく、染色体上に導入されていてもよい。2つまたはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主細胞に保持されていればよい。
【0038】
目的タンパク質遺伝子を発現させるためのプロモーターは、宿主細胞において機能するものであれば特に制限されない。「宿主細胞において機能するプロモーター」とは、宿主細胞においてプロモーター活性を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主細胞由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、目的タンパク質遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターは、目的タンパク質遺伝子の固有のプロモーターよりも強力なプロモーターであってもよい。動物細胞において機能するプロモーターとしては、SV40プロモーター、EF1aプロモーター、RSVプロモーター、CMVプロモーター、SRalphaプロモーターが挙げられる。また、プロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得し利用してもよい。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
【0039】
目的タンパク質遺伝子は、例えば、同遺伝子を含むベクターを用いて宿主細胞に導入することができる。目的タンパク質遺伝子を含むベクターを、「目的タンパク質遺伝子の発現ベクター」ともいう。目的タンパク質遺伝子の発現ベクターは、例えば、目的タンパク質遺伝子を含むDNA断片をベクターと連結することにより、構築することができる。目的タンパク質遺伝子の発現ベクターを宿主細胞に導入することにより、同遺伝子を宿主細胞に導入することができる。ベクターは、薬剤耐性遺伝子などのマーカーを備えていてもよい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーター等の発現調節配列を備えていてもよい。ベクターは、宿主細胞の種類や目的タンパク質遺伝子の導入形態等の諸条件に応じて適宜選択できる。動物細胞への遺伝子導入に用いることができるベクターとしては、プラスミドベクターやウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、例えば、レトロウイルスベクターやアデノウイルスベクターが挙げられる。プラスミドベクターとしては、例えば、pcDNAシリーズベクター(pcDNA3.1等;Thermo Fisher Scientific)、pBApo-CMVシリーズベクター(タカラバイオ)、pCI-neo(Promega)が挙げられる。なお、ベクターの種類や構成によっては、ベクターは、宿主細胞の染色体に組み込まれ得るし、宿主細胞の染色体外で自律複製し得るし、あるいは宿主細胞の染色体外に一時的に保持され得る。例えば、SV40複製起点等のウイルスの複製起点を有するベクターは、動物細胞の染色体外で自律複製し得る。具体的には、例えば、pcDNAシリーズベクターはSV40複製起点を有しており、SV40のラージT抗原を発現する宿主細胞(COS-1やHEK293T等)において染色体外で自律複製し得る。
【0040】
また、目的タンパク質遺伝子は、例えば、同遺伝子を含む核酸断片を宿主細胞に導入することによっても、宿主細胞に導入することができる。そのような核酸断片としては、直鎖状DNAや直鎖状RNAが挙げられる。直鎖状RNAとしては、例えば、mRNAやcRNAが挙げられる。
【0041】
ベクターや核酸断片等の核酸を宿主細胞に導入する方法は、宿主細胞の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。動物細胞にベクターや核酸断片等の核酸を導入する方法としては、DEAEデキストラン法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法が挙げられる。また、ベクターがウイルスベクターである場合は、同ベクター(ウイルス)を宿主細胞に感染させることにより、宿主細胞に同ベクターを導入することができる。
【0042】
また、本来的に目的タンパク質遺伝子を有する細胞を、目的タンパク質遺伝子の発現が増大するよう改変して用いてもよい。「遺伝子の発現が増大する」とは、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変細胞と比較して増大することを意味する。ここでいう「非改変細胞」とは、標的の遺伝子の発現が増大するように改変されていない対照細胞を意味する。非改変細胞としては、野生型の細胞や改変元の細胞が挙げられる。目的タンパク質遺伝子の発現を増大させる手法としては、目的タンパク質遺伝子のコピー数を増加させることや目的タンパク質遺伝子の転写効率や翻訳効率を向上させることが挙げられる。目的タンパク質遺伝子のコピー数の増加は、目的タンパク質遺伝子を宿主細胞に導入することにより達成できる。目的タンパク質遺伝子の導入は、上述したように実施できる。なお、導入される目的タンパク質遺伝子は、宿主細胞由来であってもよく、異種由来であってもよい。目的タンパク質遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、プロモーター等の遺伝子の発現調節配列の改変により達成できる。例えば、目的タンパク質遺伝子の転写効率の向上は、目的タンパク質遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。
【0043】
動物細胞の培養は、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件で実施される。動物細胞の培養は、例えば、少なくとも、培地中のリン酸濃度を増強した条件で実施されてよい。「培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件」を「リン酸/カリウム増強条件」ともいう。「培地中のリン酸濃度を増強した条件」を特に「リン酸増強条件」ともいう。「培地中のカリウム濃度を増強した条件」を特に「カリウム増強条件」ともいう。「培地中のリン酸濃度およびカリウム濃度のいずれも増強していない条件」を「対照条件」ともいう。対照条件としては、動物細胞の培養に利用される一般的な条件が挙げられる。対照条件として、具体的には、以下に例示するリン酸/カリウム増強条件を満たさない条件が挙げられる。
【0044】
リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、動物細胞の培養成績を向上させることができる。具体的には、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、対照条件で動物細胞を培養する場合と比較して、動物細胞の培養成績を向上させることができる。また、例えば、培地中のリン酸濃度およびカリウム濃度の両方を増強した条件で動物細胞を培養することにより、培地中のリン酸濃度およびカリウム濃度の一方のみを増強した条件で動物細胞を培養する場合と比較して、動物細胞の培養成績が向上してもよい。動物細胞の培養成績の向上としては、動物細胞の増殖の向上、動物細胞の生存率の向上、動物細胞による目的物質生産の向上、動物細胞の培養期間の延長が挙げられる。
【0045】
すなわち、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、例えば、動物細胞の増殖および/または生存率が向上してよい。具体的には、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、対照条件で動物細胞を培養する場合と比較して、動物細胞の増殖および/または生存率が向上してよい。リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、動物細胞の生細胞密度は、培養中に、例えば、培養開始時の生細胞密度の1.5倍以上、2倍以上、2.5倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、5倍以上、7倍以上、10倍以上、20倍以上、30倍以上、40倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、200倍以上、500倍以上、または1000倍以上の密度に到達してよい。リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、動物細胞の生細胞密度は、培養中に、例えば、1.5×10cells/mL以上、1.6×10cells/mL以上、1.7×10cells/mL以上、1.8×10cells/mL以上、1.9×10cells/mL以上、2×10cells/mL以上、3×10cells/mL以上、5×10cells/mL以上、7×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、または1×10cells/mL以上の密度に到達してよい。動物細胞の生細胞数は、例えば、生死細胞オートアナライザーVi-CELLTM XR(ベックマン・コールター社)またはフローサイトメーターguava easy Cyte(Luminex社)を用いて測定することができる。
【0046】
また、動物細胞が目的タンパク質生産能等の目的物質生産能を有する場合、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、例えば、動物細胞による目的タンパク質等の目的物質の生産が向上してよい。具体的には、動物細胞が目的タンパク質生産能等の目的物質生産能を有する場合、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、対照条件で動物細胞を培養する場合と比較して、動物細胞による目的タンパク質等の目的物質の生産が向上してよい。
【0047】
また、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、例えば、動物細胞の培養期間が延長されてもよい。具体的には、リン酸/カリウム増強条件で動物細胞を培養することにより、対照条件で動物細胞を培養する場合と比較して、動物細胞の培養期間が延長されてもよい。動物細胞の培養期間の延長としては、動物細胞の増殖が継続する期間の延長、動物細胞が維持される(すなわち、動物細胞が生存する)期間の延長、動物細胞による目的タンパク質等の目的物質の生産が継続する期間の延長が挙げられる。
【0048】
言い換えると、本発明の方法の一態様は、動物細胞の増殖を向上させる方法であってもよい。また、本発明の方法の一態様は、動物細胞の生存率を向上させる方法であってもよい。また、本発明の方法の一態様は、動物細胞による目的物質生産を向上させる方法であってもよい。また、本発明の方法の一態様は、動物細胞の培養期間を延長する方法であってもよい。
【0049】
「動物細胞の培養」には、動物細胞の増殖を目的とするものに限られず、動物細胞の維持や動物細胞による目的物質の製造等の、動物細胞の増殖を目的としないものも包含されてよい。
【0050】
培地組成や培養条件は、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が増強されること以外は、動物細胞の培養の目的を達成できる限り、特に制限されない。例えば、動物細胞の増殖を目的とする場合、培地組成や培養条件は、動物細胞が増殖するように構成することができる。また、例えば、動物細胞の維持を目的とする場合、培地組成や培養条件は、動物細胞が維持される(すなわち、動物細胞が生存する)ように構成することができる。また、例えば、目的タンパク質等の目的物質の生産を目的とする場合、培地組成や培養条件は、目的物質が生産される(例えば、目的タンパク質が発現する)ように構成することができる。動物細胞の増殖を目的としない場合、培養の際に、動物細胞は、増殖してもよく、しなくてもよい。動物細胞の増殖を目的としない場合でも、典型的には、培養の際に、動物細胞は、増殖してよい。培地組成や培養条件は、例えば、動物細胞の種類等の諸条件に応じて、適宜設定することができる。培養は、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が増強されること以外は、例えば、動物細胞の培養に利用される通常の培地および通常の条件をそのまま、あるいは適宜改変して用いて実施することができる。
【0051】
培養は、例えば、液体培地を用いて実施することができる。動物細胞の培養に利用できる培地として、具体的には、D-MEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium)、CELLiST Basal Media BASAL4P(味の素株式会社)、Opti-MEM(Thermo Fisher Scientific)、RPMI 1640(Thermo Fisher Scientific)、CD293(Thermo Fisher Scientific)、CHO-S-SFMII(Thermo Fisher Scientific)、CHO-SF(Sigma-Aldrich)、EX-CELL CD CHO(Sigma-Aldrich)、EX-CELLTM302(Sigma-Aldrich)、IS CHO-CD(Irvine Scientific)、IS CHO-CDXP(Irvine Scientific)が挙げられる。培地は、例えば、炭素源、アミノ酸、ビタミン、無機塩、リン酸、コリン、アミン、pH緩衝剤、成長因子、血清、血清アルブミン、選択薬剤、遺伝子発現誘導剤等の各種培地成分を含有していてよい。炭素源としては、グルコースが挙げられる。アミノ酸としては、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸やそれらの誘導体が挙げられる。アミノ酸は、例えば、L体であってよい。アミノ酸として、具体的には、グルタミンやセリンが挙げられる。グルタミンとしては、L-グルタミンが挙げられる。セリンとしては、L-セリンが挙げられる。アミンとしては、1,4-ブタンジアミン(「プトレシン」ともいう)、アグマチン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、スペルミジン、スペルミン、アマンタジンが挙げられる。芳香族アミンとしては、アニリン、フェネチルアミン、トルイジン、カテコールアミン、1,8-ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンが挙げられる。複素環式アミンとしては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、キヌクリジン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オキサゾール、チアゾール、4-ジメチルアミノピリジンが挙げられる。アミンとしては、特に、1,4-ブタンジアミン、エタノールアミン、スペルミジン、スペルミンが挙げられる。アミンとして、さらに特には、1,4-ブタンジアミンが挙げられる。
【0052】
塩を形成し得る成分は、いずれも、フリー体として使用されてもよく、塩として使用されてもよく、それらの組み合わせとして使用されてもよい。すなわち、例えば、「アミノ酸」という用語は、特記しない限り、フリー体のアミノ酸、もしくはその塩、またはそれらの組み合わせを意味してよい。また、例えば、「リン酸」という用語は、特記しない限り、フリー体のリン酸、もしくはその塩、またはそれらの組み合わせを意味してよい。また、例えば、「コリン」という用語は、特記しない限り、フリー体のコリン、もしくはその塩、またはそれらの組み合わせを意味してよい。また、例えば、「アミン」という用語は、特記しない限り、フリー体のアミン、もしくはその塩、またはそれらの組み合わせを意味してよい。塩は、動物細胞の培養に利用できるものであれば、特に制限されない。例えば、リン酸基やカルボキシル基等の酸性基に対する塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、上記例示したようなアミンとの塩、アルギニンやリジン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。また、例えば、アミノ基等の塩基性基に対する塩としては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸等の無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩が挙げられる。具体的には、例えば、リン酸の塩としては、特に、リン酸2水素ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウムが挙げられる。また、具体的には、例えば、コリンの塩としては、特に、重酒石酸コリンが挙げられる。
【0053】
培養開始時の動物細胞の播種量は、例えば、1×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、または1×10cells/mL以上であってもよく、1×1010cells/mL以下、1×10cells/mL以下、1×10cells/mL以下、1×10cells/mL以下、1×10cells/mL以下、1×10cells/mL以下、または1×10cells/mL以下であってもよい。
【0054】
培養は、種培養と本培養とに分けて実施してもよい。種培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。目的タンパク質等の目的物質の生産を目的とする場合、目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。例えば、種培養により動物細胞を十分に増殖させてから、本培養により目的タンパク質等の目的物質を製造してもよい。
【0055】
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。流加培養または連続培養としては、灌流培養(perfusion culture)が挙げられる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」または「基礎培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(例えば、初発培地)に供給される培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を供給することを、「流加」ともいう。流加は、培養の全期間を通じて実施されてもよく、培養の一部の期間においてのみ実施されてもよい。また、流加は、連続的に実施されてもよく、間欠的に実施されてもよい。培養(特に、灌流培養等の流加培養または連続培養)の際には、培養液の引き抜きが実施されてもよい。培養液の引き抜きは、例えば、動物細胞を含む培養液の引き抜きであってもよく、培養上清の引き抜きであってもよい。また、引き抜いた培養液から動物細胞を回収して培養系に戻してもよい。培養液の引き抜きは、培養の全期間を通じて実施されてもよく、培養の一部の期間においてのみ実施されてもよい。培養液の引き抜きは、連続的に実施されてもよく、間欠的に実施されてもよい。培養液の引き抜きと流加は、同時に行われてもよく、そうでなくてもよい。引き抜く培養液の量は、流加する流加培地の量と同等量であるのが好ましい。「同等量」とは、例えば、流加する流加培地の量に対して93~107%(v/v)の量を意味してよい。なお、培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、種培養と本培養の培養形態は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
【0056】
リン酸等の各種成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。すなわち、培養の過程において、リン酸等の各種成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、培地に供給してもよい。これらの成分は、いずれも、1回または複数回供給されてもよく、連続的に供給されてもよい。初発培地と流加培地の組成(例えば、含有する成分の種類および/または濃度)は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、流加培地が灌流培養に用いられる場合に、初発培地と流加培地の組成は同一であってもよい。また、組成(例えば、含有する成分の種類および/または濃度)の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地の組成は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、リン酸等の各種成分は、粉末等の、流加培地に含有されない形態で、培地に供給してもよい。
【0057】
培養は、例えば、5%CO等のCO含有雰囲気下で実施してよい。培地のpHは、例えば、中性付近であってよい。「中性付近」とは、例えば、pH6~8、pH6.5~7.5、またはpH6.8~7.2を意味してよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、36~38℃であってよい。培養期間は、例えば、0.5日以上、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、12日以上、15日以上、または20日以上であってもよく、50日以下、40日以下、30日以下、25日以下、20日以下、15日以下、12日以下、10日以下、9日以下、8日以下、または7日以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培養期間は、具体的には、例えば、1~30日、3~25日、または5~20日であってもよい。培養の際には、適宜、目的タンパク質の発現等の遺伝子発現を誘導してよい。
【0058】
リン酸等の各種成分は、いずれの形態で培地中に存在していてもよい。例えば、或る成分がイオン化し得る成分である場合、当該成分は培地中でイオン化していてもよく、いなくてもよい。
【0059】
「或る成分の濃度」とは、当該成分が複数の形態で液体中に存在し得る場合、溶解している当該成分の総濃度を意味してよい。すなわち、例えば、「或る成分の濃度」とは、当該成分が分子およびイオンの形態で液体中に存在し得る場合、当該成分の分子の濃度およびイオンの濃度の合計を意味してよい。例えば、「培地中の或る成分の濃度」とは、当該成分が複数の形態で培地中に存在し得る場合、培地中に溶解している当該成分の総濃度を意味してよい。すなわち、例えば、「培地中の或る成分の濃度」とは、当該成分が分子およびイオンの形態で培地中に存在し得る場合、培地中の当該成分の分子の濃度およびイオンの濃度の合計を意味してよい。
【0060】
例えば、「リン酸濃度」とは、溶解しているリン酸分子種の総濃度を意味してよい。すなわち、「リン酸濃度」とは、具体的には、リン酸分子(HPO)の濃度およびリン酸イオン(PO 3-,HPO 2-,およびHPO )の濃度の合計を意味してよい。例えば、「培地中のリン酸濃度」とは、培地中に溶解しているリン酸分子種の総濃度を意味してよい。すなわち、例えば、「培地中のリン酸濃度」とは、具体的には、培地中のリン酸分子(HPO)の濃度および培地中のリン酸イオン(PO 3-,HPO 2-,およびHPO )の濃度の合計を意味してよい。
【0061】
培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度の増強の程度は、動物細胞の培養成績(例えば、動物細胞の増殖や動物細胞による目的物質生産)が向上する限り、特に制限されない。培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度の増強の程度は、動物細胞の種類、培養期間の長さ、所望の目的物質生産量等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0062】
「培養が培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件で実施される」とは、例えば、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が所定の範囲であることを意味してよい。
【0063】
培地中のリン酸濃度は、例えば、0.2mM以上、0.5mM以上、1mM以上、1.5mM以上、2mM以上、2.5mM以上、3mM以上、3.5mM以上、4mM以上、4.5mM以上、5mM以上、5.5mM以上、6mM以上、6.5mM以上、7mM以上、7.5mM以上、8mM以上、8.5mM以上、9mM以上、9.5mM以上、10mM以上、11mM以上、12mM以上、13mM以上、14mM以上、15mM以上、16mM以上、17mM以上、18mM以上、19mM以上、または20mM以上であってもよく、100mM以下、70mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、29mM以下、28mM以下、27mM以下、26mM以下、25mM以下、24mM以下、23mM以下、22mM以下、21mM以下、20mM以下、19mM以下、18mM以下、17mM以下、16mM以下、15mM以下、14mM以下、13mM以下、12mM以下、11mM以下、10mM以下、9mM以下、8mM以下、7mM以下、6mM以下、または5mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中のリン酸濃度は、特に、4mM以上であってよい。培地中のリン酸濃度は、さらに特には、11mM以上であってよい。培地中のリン酸濃度は、具体的には、例えば、0.2~100mM、4~70mM、11~50mM、11~40mM、11~30mM、11~27mM、または10~25mMであってもよい。
【0064】
培地中のカリウム濃度は、例えば、0.2mM以上、0.5mM以上、1mM以上、2mM以上、3mM以上、4mM以上、5mM以上、6mM以上、7mM以上、8mM以上、9mM以上、または10mM以上であってもよく、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下、15mM以下、12mM以下、10mM以下、9mM以下、8mM以下、7mM以下、6mM以下、または5mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中のカリウム濃度は、特に、1mM以上であってよい。培地中のカリウム濃度は、具体的には、例えば、0.2~50mM、0.5~30mM、または1~10mMであってもよい。
【0065】
培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度は、培養の全期間において増強されていてもよく、培養の一部の期間にのみ増強されていてもよい。すなわち、「培養が培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件で実施される」とは、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が培養の少なくとも一部の期間において増強されていれば足り、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が培養の全期間において増強されていることを要しない。
【0066】
培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度は、例えば、培養の全期間において上記例示した濃度に増強されていてもよく、培養の一部の期間にのみ上記例示した濃度に増強されていてもよい。すなわち、「培養が培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を或る濃度に増強した条件で実施される」または「培養が或るリン酸濃度および/またはカリウム濃度の培地で実施される」とは、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が培養の少なくとも一部の期間において当該濃度の範囲内にあれば足り、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度が培養の全期間において当該濃度の範囲内にあることを要しない。リン酸および/またはカリウムは、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に供給されてもよい。また、リン酸および/またはカリウムは、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有され、且つ、培養開始後(例えば、消費後)に上記例示した濃度となるように培地にさらに供給されてもよい。培養が種培養と本培養とに分けて行われる場合、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度は、少なくとも本培養の期間に、すなわち本培養の全期間または本培養の一部の期間に、増強されていればよい。すなわち、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度は、種培養の期間には、増強されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、培養についての記載(例えば、「培養期間(培養の期間)」や「培養開始」)は、本培養についてのものとして読み替えることができる。
【0067】
「一部の期間」は、動物細胞の培養成績(例えば、動物細胞の増殖や動物細胞による目的物質生産)が向上する限り、特に制限されない。「一部の期間」は、動物細胞の種類、培養期間の長さ、所望の目的物質生産量等の諸条件に応じて適宜設定できる。「一部の期間」は、例えば、培養の全期間の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の期間であってよい。また、「一部の期間」は、例えば、0.5日以上、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、12日以上、または15日以上の期間であってもよい。
【0068】
また、培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度は、例えば、培養の全期間を通じての平均値として、上記例示した濃度に増強されていてもよい。すなわち、「培養が培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を或る濃度に増強した条件で実施される」または「培養が或るリン酸濃度および/またはカリウム濃度の培地で実施される」とは、培養の全期間を通じての培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度の平均値が当該濃度の範囲内にあることを意味してもよい。「培養の全期間を通じての培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度の平均値」とは、培養の全期間におけるリン酸濃度および/またはカリウム濃度の変動を把握できるものであれば特に制限されないが、例えば、培養の全期間を通じて60分ごと、30分ごと、20分ごと、または10分ごとに測定された培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度の平均値を意味してよい。
【0069】
また、「培養が培地中のリン酸濃度および/またはカリウム濃度を増強した条件で実施される」とは、例えば、培地へのリン酸および/またはカリウムの供給量が所定の範囲であることを意味してもよい。
【0070】
培地へのリン酸の供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上、0.1mM以上、0.15mM以上、0.2mM以上、0.25mM以上、0.3mM以上、0.35mM以上、0.4mM以上、0.45mM以上、0.5mM以上、0.55mM以上、0.6mM以上、0.65mM以上、0.7mM以上、0.75mM以上、0.8mM以上、0.85mM以上、0.9mM以上、0.95mM以上、または1mM以上であってもよく、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下、または1mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地へのリン酸の供給量は、特に、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上であってもよい。培地へのリン酸の供給量は、さらに特には、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.5mM以上であってもよい。培地へのリン酸の供給量は、具体的には、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05~5mM、0.1~4mM、0.4~3mM、または0.7~2mMであってもよい。
【0071】
培地へのカリウムの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上、0.1mM以上、0.15mM以上、0.2mM以上、0.25mM以上、0.3mM以上、0.35mM以上、0.4mM以上、0.45mM以上、または0.5mM以上であってもよく、5mM以下、4.5mM以下、4mM以下、3.5mM以下、3mM以下、2.5mM以下、2mM以下、1.5mM以下、1mM以下、0.7mM以下、0.5mM以下、または0.2mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地へのカリウムの供給量は、特に、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.2mM以上であってもよい。培地へのカリウムの供給量は、具体的には、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05~5mM、0.1~3mM、または0.2~1mMであってもよい。
【0072】
リン酸および/またはカリウムは、例えば、連続的に培地へ供給されてもよく、間欠的に培地へ供給されてもよい。リン酸および/またはカリウムは、例えば、毎日培地へ供給されてもよく、数日おきに培地へ供給されてもよい。
【0073】
培地へのリン酸および/またはカリウムの供給は、例えば、動物細胞の生細胞密度が1.5×10cells/mL以上、1.6×10cells/mL以上、1.7×10cells/mL以上、1.8×10cells/mL以上、1.9×10cells/mL以上、2×10cells/mL以上、3×10cells/mL以上、5×10cells/mL以上、7×10cells/mL以上、1×10cells/mL以上、または1×10cells/mL以上の密度である時点で実施してよい。
【0074】
培養は、アミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施されてもよい。培養は、例えば、少なくとも培地中のリン酸濃度が増強されている場合に、アミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施されてもよい。培養は、例えば、少なくとも、アミンの存在下で実施されてもよい。培養は、例えば、少なくとも、コリンおよび/またはセリンの存在下で実施されてもよい。
【0075】
「培養がアミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施される」とは、例えば、培地がアミン、コリン、および/またはセリンを含有することを意味してよい。
【0076】
培地中のアミン濃度は、例えば、0.001mM以上、0.002mM以上、0.005mM以上、0.01mM以上、0.02mM以上、0.03mM以上、0.04mM以上、0.05mM以上、0.06mM以上、0.07mM以上、0.08mM以上、0.09mM以上、または0.1mM以上であってもよく、0.5mM以下、0.4mM以下、0.3mM以下、0.2mM以下、0.15mM以下、0.12mM以下、0.1mM以下、0.09mM以下、0.08mM以下、0.07mM以下、0.06mM以下、0.05mM以下、0.04mM以下、0.03mM以下、0.02mM以下、または0.01mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中のアミン濃度は、特に、0.002mM以上であってもよい。培地中のアミン濃度は、さらに特には、0.007mM以上であってもよい。培地中のアミン濃度は、具体的には、例えば、0.002~0.5mM、0.005~0.2mM、または0.007~0.1mMであってもよい。
【0077】
培地中のコリン濃度は、例えば、0.1mM以上、0.2mM以上、0.5mM以上、1mM以上、2mM以上、3mM以上、4mM以上、5mM以上、6mM以上、7mM以上、8mM以上、9mM以上、または10mM以上であってもよく、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下、15mM以下、12mM以下、10mM以下、9mM以下、8mM以下、7mM以下、6mM以下、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下、または1mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中のコリン濃度は、特に、0.2mM以上であってもよい。培地中のコリン濃度は、さらに特には、1mM以上であってもよい。培地中のコリン濃度は、具体的には、例えば、0.2~50mM、0.5~20mM、または1~10mMであってもよい。
【0078】
培地中のセリン濃度は、例えば、0.5mM以上、1mM以上、2mM以上、3mM以上、4mM以上、5mM以上、6mM以上、7mM以上、8mM以上、9mM以上、10mM以上、12mM以上、15mM以上、20mM以上、25mM以上、30mM以上、35mM以上、40mM以上、50mM以上、60mM以上、70mM以上、80mM以上、90mM以上、または100mM以上、であってもよく、500mM以下、400mM以下、300mM以下、200mM以下、150mM以下、100mM以下、70mM以下、50mM以下、40mM以下、30mM以下、20mM以下、15mM以下、12mM以下、10mM以下、9mM以下、8mM以下、7mM以下、6mM以下、または5mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中のセリン濃度は、特に、2mM以上であってもよい。培地中のセリン濃度は、さらに特には、10mM以上であってもよい。培地中のセリン濃度は、具体的には、例えば、1~200mM、2~100mM、4~50mM、2~500mM、5~200mM、または10~100mMであってもよい。
【0079】
アミン、コリン、および/またはセリンは、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「培養がアミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施される」または「培養がアミン、コリン、および/またはセリンを含有する培地で実施される」とは、アミン、コリン、および/またはセリンが培養の少なくとも一部の期間において培地に含有されていれば足り、アミン、コリン、および/またはセリンが培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。
【0080】
アミン、コリン、および/またはセリンは、例えば、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ上記例示した濃度で培地に含有されていてもよい。すなわち、「培養が或る濃度のアミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施される」または「培養が或るアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度の培地で実施される」とは、培地中のアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度が培養の少なくとも一部の期間において当該濃度の範囲内にあれば足り、培地中のアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度が培養の全期間において当該濃度の範囲内にあることを要しない。
【0081】
「一部の期間」については、リン酸/カリウム増強条件における「一部の期間」についての記載を準用できる。
【0082】
また、培地中のアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度は、例えば、培養の全期間を通じての平均値として、上記例示した濃度に設定されていてもよい。すなわち、「培養が或る濃度のアミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施される」または「培養が或るアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度の培地で実施される」とは、培養の全期間を通じての培地中のアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度の平均値が当該濃度の範囲内にあることを意味してもよい。「培養の全期間を通じての培地中のアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度の平均値」とは、培養の全期間におけるアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度の変動を把握できるものであれば特に制限されないが、例えば、培養の全期間を通じて60分ごと、30分ごと、20分ごと、または10分ごとに測定された培地中のアミン濃度、コリン濃度、および/またはセリン濃度の平均値を意味してよい。
【0083】
また、「培養がアミン、コリン、および/またはセリンの存在下で実施される」とは、例えば、培地にアミン、コリン、および/またはセリンが供給されることを意味してもよい。
【0084】
培地へのアミンの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.0002mM以上、0.0005mM以上、0.001mM以上、0.0015mM以上、0.002mM以上、0.0025mM以上、0.003mM以上、0.0035mM以上、0.004mM以上、0.0045mM以上、または0.005mM以上であってもよく、0.025mM以下、0.02mM以下、0.015mM以下、0.01mM以下、0.007mM以下、0.005mM以下、0.002mM以下、または0.001mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地へのアミンの供給量は、特に、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.0005mM以上であってもよい。培地へのアミンの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.0005~0.025mMmM、0.001~0.015mM、0.002~0.007mM、または0.003~0.004mMであってもよい。
【0085】
培地へのコリンの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.02mM以上、0.05mM以上、0.1mM以上、0.15mM以上、0.2mM以上、0.25mM以上、0.3mM以上、0.35mM以上、0.4mM以上、0.45mM以上、または0.5mM以上であってもよく、2.5mM以下、2mM以下、1.5mM以下、1mM以下、0.7mM以下、0.5mM以下、0.2mM以下、または0.1mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地へのコリンの供給量は、特に、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05mM以上であってもよい。培地へのコリンの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.05~2.5mM、0.1~1.5mM、0.2~0.7mM、または0.3~0.5mMであってもよい。
【0086】
培地へのセリンの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.1mM以上、0.2mM以上、0.3mM以上、0.4mM以上、0.5mM以上、0.6mM以上、0.7mM以上、0.8mM以上、0.9mM以上、1mM以上、1.2mM以上、1.5mM以上、2mM以上、2.5mM以上、3mM以上、3.5mM以上、4mM以上、4.5mM以上、または5mM以上、であってもよく、25mM以下、20mM以下、15mM以下、10mM以下、7mM以下、5mM以下、4mM以下、3mM以下、2mM以下、1mM以下、0.7mM以下、または0.5mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地へのセリンの供給量は、特に、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.5mM以上であってもよい。培地へのセリンの供給量は、例えば、培養の全期間を通じて、一日当たり、0.2~10mM、0.4~5mM、0.8~3mM、0.5~25mM、1~15mM、2~7mM、または3.5~5mMであってもよい。
【0087】
アミン、コリン、および/またはセリンは、例えば、連続的に培地へ供給されてもよく、間欠的に培地へ供給されてもよい。アミン、コリン、および/またはセリンは、例えば、毎日培地へ供給されてもよく、数日おきに培地へ供給されてもよい。
【0088】
流加培地の流加によりリン酸を培地へ供給する場合、流加培地中のリン酸濃度は、所望のリン酸の供給量が得られる限り、特に制限されない。流加培地中のリン酸濃度は、例えば、上記例示した培地中のリン酸濃度であってよい。例えば、流加培地が灌流培養に用いられる場合に、流加培地中のリン酸濃度は、上記例示した培地中のリン酸濃度であってよい。また、流加培地中のリン酸濃度は、例えば、上記例示した培地中のリン酸濃度の1倍超、1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、7倍以上、10倍以上、15倍以上、または20倍以上の濃度であってもよく、100倍以下、70倍以下、50倍以下、30倍以下、20倍以下、10倍以下、または5倍以下の濃度であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。また、流加培地中のリン酸濃度は、例えば、10mM以上、20mM以上、30mM以上、50mM以上、70mM以上、100mM以上、150mM以上、または200mM以上であってもよく、1000mM以下、700mM以下、500mM以下、300mM以下、200mM以下、100mM以下、70mM以下、または50mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。流加培地中のリン酸濃度は、具体的には、例えば、10~1000mM、30~500mM、または50~200mMであってもよい。
【0089】
流加培地の流加によりアミンを培地へ供給する場合、流加培地中のアミン濃度は、所望のアミンの供給量が得られる限り、特に制限されない。流加培地中のアミン濃度は、例えば、上記例示した培地中のアミン濃度であってよい。例えば、流加培地が灌流培養に用いられる場合に、流加培地中のアミン濃度は、上記例示した培地中のアミン濃度であってよい。また、流加培地中のアミン濃度は、例えば、上記例示した培地中のアミン濃度の1倍超、1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、7倍以上、10倍以上、15倍以上、または20倍以上の濃度であってもよく、100倍以下、70倍以下、50倍以下、30倍以下、20倍以下、10倍以下、または5倍以下の濃度であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。また、流加培地中のアミン濃度は、例えば、0.05mM以上、0.1mM以上、0.2mM以上、0.3mM以上、0.5mM以上、0.7mM以上、1mM以上、または1mM以上であってもよく、5mM以下、3mM以下、2mM以下、1mM以下、0.7mM以下、0.5mM以下、0.3mM以下、または0.2mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。流加培地中のアミン濃度は、具体的には、例えば、0.05~5mM、0.1~3mM、または0.2~1mMであってもよい。
【0090】
流加培地の流加によりコリンを培地へ供給する場合、流加培地中のコリン濃度は、所望のコリンの供給量が得られる限り、特に制限されない。流加培地中のコリン濃度は、例えば、上記例示した培地中のコリン濃度であってよい。例えば、流加培地が灌流培養に用いられる場合に、流加培地中のコリン濃度は、上記例示した培地中のコリン濃度であってよい。また、流加培地中のコリン濃度は、例えば、上記例示した培地中のコリン濃度の1倍超、1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、7倍以上、10倍以上、15倍以上、または20倍以上の濃度であってもよく、100倍以下、70倍以下、50倍以下、30倍以下、20倍以下、10倍以下、または5倍以下の濃度であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。また、流加培地中のコリン濃度は、例えば、5mM以上、10mM以上、20mM以上、30mM以上、50mM以上、70mM以上、または100mM以上であってもよく、500mM以下、300mM以下、200mM以下、100mM以下、70mM以下、50mM以下、30mM以下、または20mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。流加培地中のコリン濃度は、具体的には、例えば、5~500mM、10~300mM、または20~100mMであってもよい。
【0091】
流加培地の流加によりセリンを培地へ供給する場合、流加培地中のセリン濃度は、所望のセリンの供給量が得られる限り、特に制限されない。流加培地中のセリン濃度は、例えば、上記例示した培地中のセリン濃度であってよい。例えば、流加培地が灌流培養に用いられる場合に、流加培地中のセリン濃度は、上記例示した培地中のセリン濃度であってよい。また、流加培地中のセリン濃度は、例えば、上記例示した培地中のセリン濃度の1倍超、1.1倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、5倍以上、7倍以上、10倍以上、15倍以上、または20倍以上の濃度であってもよく、100倍以下、70倍以下、50倍以下、30倍以下、20倍以下、10倍以下、または5倍以下の濃度であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。また、流加培地中のセリン濃度は、例えば、20mM以上、30mM以上、50mM以上、70mM以上、100mM以上、200mM以上、300mM以上、500mM以上、700mM以上、または1000mM以上であってもよく、5000mM以下、3000mM以下、2000mM以下、1000mM以下、700mM以下、500mM以下、300mM以下、200mM以下、100mM以下、または70mM以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。流加培地中のセリン濃度は、具体的には、例えば、30~2000mM、50~1000mM、70~500mM、50~5000mM、100~3000mM、または200~1000mMであってもよい。
【0092】
各種成分の濃度は、例えば、化合物の検出または同定に用いられる公知の方法により測定することができる。そのような方法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの方法は、目的物質が生成したことの確認にも利用できる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0093】
上記のようにして動物細胞を培養することができる。動物細胞が目的タンパク質生産能等の目的物質生産能を有する場合、上記のようにして動物細胞を培養することにより、目的物質が生成(例えば、目的タンパク質が発現)し、以て目的物質を含有する培養物が得られる。目的タンパク質等の目的物質は、具体的には、培地中、細胞表層、細胞内、またはそれらの組み合わせへ蓄積してよい。
【0094】
以下、特に、目的タンパク質を製造する場合を参照して目的タンパク質の生成の確認、回収、精製等の操作について説明するが、目的タンパク質以外の目的物質についても、適宜、そのような操作を実施することができる。
【0095】
目的タンパク質が生成したことは、タンパク質の検出または同定に用いられる公知の方法により確認することができる。そのような方法としては、例えば、SDS-PAGE、Western blotting、質量分析、N末アミノ酸配列解析、酵素活性測定が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0096】
目的タンパク質は、適宜回収することができる。目的タンパク質は、具体的には、目的タンパク質を含有する適当な画分として回収することができる。そのような画分としては、例えば、培養物、培養上清、培養細胞、培養細胞の処理物(破砕物、溶解物、抽出物(無細胞抽出液)が挙げられる。培養細胞は、例えば、アクリルアミドやカラギーナン等の担体で固定化した固定化細胞の形態で取得されてもよい。
【0097】
目的タンパク質は、さらに、所望の程度に精製されてもよい。
【0098】
培地中に目的タンパク質が蓄積する場合、目的タンパク質は、例えば、細胞等の固形分を遠心分離等により培養物から除去した後、上清から精製することができる。
【0099】
細胞内に目的タンパク質が蓄積する場合、目的タンパク質は、例えば、細胞を破砕、溶解、または抽出等の処理に供した後、処理物から精製することができる。細胞は、遠心分離等により培養物から回収することができる。細胞の破砕、溶解、または抽出等の処理は、公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、超音波破砕法、ダイノミル法、ビーズ破砕、フレンチプレス破砕、リゾチーム処理が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0100】
細胞表層に目的タンパク質が蓄積する場合、目的タンパク質は、例えば、可溶化した後、可溶化物から精製することができる。可溶化は、公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、塩濃度の上昇や界面活性剤の使用が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0101】
目的タンパク質の精製(例えば、上記のような上清、処理物、または可溶化物からの精製)は、タンパク質の精製に用いられる公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0102】
目的タンパク質は、遊離の状態で取得されてもよいし、樹脂等の固相に固定化された固定化酵素の状態で取得されてもよい。
【0103】
回収した目的タンパク質は、適宜、製剤化してもよい。剤形は特に制限されず、目的タンパク質の使用用途等の諸条件に応じて適宜設定することができる。剤形としては、例えば、液剤、懸濁剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤が挙げられる。製剤化にあたっては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定化剤、矯味剤、矯臭剤、香料、希釈剤、界面活性剤等の薬理学的に許容される添加剤を使用することができる。
【0104】
<2>本発明の培地
本発明の培地は、リン酸濃度および/またはカリウム濃度が増強された、動物細胞培養用の培地である。本発明の培地は、例えば、本発明の方法に用いることができる。
【0105】
本発明の培地については、例えば、本発明の方法に用いられる培地の記載(流加培地の記載も含む)を準用できる。
【0106】
本発明の培地は、リン酸および/またはカリウムを含有する。本発明の培地は、さらに、アミン、コリン、および/またはセリンを含有していてよい。本発明の培地は、例えば、少なくともリン酸を含有する場合に、アミン、コリン、および/またはセリンを含有していてよい。本発明の培地は、例えば、少なくとも、アミンを含有していてよい。本発明の培地は、例えば、少なくとも、コリンおよび/またはセリンを含有していてよい。
【0107】
本発明の培地は、例えば、基礎培地(初発培地)であってもよく、流加培地であってもよい。流加培地は、例えば、流加培養または連続培養に用いるものであってよい。流加培地は、例えば、特に、灌流培養に用いるものであってもよい。
【0108】
本発明の培地におけるリン酸濃度については、例えば、上記例示した本発明の方法における培地中のリン酸濃度の記載(流加培地中のリン酸濃度の記載も含む)を準用できる。
【0109】
本発明の培地におけるカリウム濃度については、例えば、上記例示した本発明の方法における培地中のカリウム濃度の記載(流加培地中のカリウム濃度の記載も含む)を準用できる。
【0110】
本発明の培地におけるアミン濃度については、例えば、上記例示した本発明の方法における培地中のアミン濃度の記載(流加培地中のアミン濃度の記載も含む)を準用できる。
【0111】
本発明の培地におけるコリン濃度については、例えば、上記例示した本発明の方法における培地中のコリン濃度の記載(流加培地中のコリン濃度の記載も含む)を準用できる。
【0112】
本発明の培地におけるセリン濃度については、例えば、上記例示した本発明の方法における培地中のセリン濃度の記載(流加培地中のセリン濃度の記載も含む)を準用できる。
【実施例
【0113】
以下、非限定的な実施例を参照して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0114】
実施例1:流加培地へのリン酸添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果の評価
本実施例では、流加培地へのリン酸添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果を評価した。CHO細胞としては、抗体Adalimumabを生産するよう改変されたCHO DG-44系統の細胞を用いた。
【0115】
(1)基礎培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL4P;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)、デキストラン硫酸ナトリウム(終濃度400 mg/L)、およびL-Glutamine(終濃度 6 mM)を添加し、基礎培地を調製した。
【0116】
(2)流加培地の調製
CELLiST(登録商標) Feed media(味の素株式会社:FEED2)にグルコース(終濃度75 g/L)とリン酸二水素ナトリウム(終濃度0、125、250、500、1000、4000、または7000 mg/L(すなわち、0.0、1.0、2.1、4.2、8.3、33.3、または58.3 mM))を添加し、リン酸濃度の異なる7種類の流加培地を調製した。
【0117】
(3)培養実験
調製した基礎培地を用いて3×105 cells/mLに調整したCHO細胞懸濁液30 mLを125 mLフラスコ(CORNING:431143)へ播種し、14日間培養を行った。培養は、全ての実験群についてn=2で実施した。培養温度は37℃、撹拌速度は110 rpmとした。調製した流加培地を、培養開始4、7、9、11日目にそれぞれ2.1 mL添加した。培養開始4、7、9、11、および14日目に細胞培養液をサンプリングし、生細胞数を生死細胞オートアナライザーVi-CELLTM XR(ベックマン・コールター社)を用いて測定し、抗体産生量をOctet QK(FORTEBIO社)を用いて測定した。
【0118】
(4)培養結果
生細胞数の推移および培養14日目の抗体産生量を図1および2に示す。流加培地中のリン酸濃度の増大に伴い、生細胞数と抗体産生量が向上することが明らかとなった。
【0119】
実施例2:流加培地へのリン酸添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果の評価
本実施例では、流加培地へのリン酸添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果を評価した。CHO細胞としては、抗体Adalimumabを生産するよう改変されたCHO DG-44系統の細胞を用いた。
【0120】
(1)基礎培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL4P;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)、リン酸二水素ナトリウム(115 mg/L(すなわち、終濃度2.9 mM))、デキストラン硫酸ナトリウム(終濃度400 mg/L)とL-Glutamine(終濃度 6 mM)を添加し、基礎培地を調製した。
【0121】
(2)流加培地の調製
CELLiST(登録商標) Feed media(味の素株式会社:FEED2)にグルコース(終濃度75 g/L)とリン酸二水素ナトリウム(終濃度0、1000、2000、3000、4000、または5000 mg/L(すなわち、0.0、8.3、16.7、25、33.3、または41.7 mM))を添加し、リン酸濃度の異なる6種類の流加培地を調製した。
【0122】
(3)培養実験
調製した基礎培地を用いて3×105 cells/mLに調整したCHO細胞懸濁液30 mLを125 mLフラスコ(CORNING:431143)へ播種し、14日間培養を行った。培養は、全ての実験群についてn=2で実施した。培養温度は37℃、撹拌速度は110 rpmとした。調製した流加培地を、培養開始4、7、9、11日目にそれぞれ2.1 mL添加した。培養開始4、7、9、11、および14日目に細胞培養液をサンプリングし、生細胞数を生死細胞オートアナライザーVi-CELLTM XR(ベックマン・コールター社)を用いて測定し、抗体産生量をCEDEX Bio HT(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて測定した。
【0123】
(4)培養結果
培養液中のリン酸濃度の推移および培養14日目の抗体産生量を図3および4に示す。終濃度2000 mg/Lリン酸二水素ナトリウムを含有する流加培地を添加することにより、先行特許(US6,924,124)に記載のリン酸濃度(培養液中のリン酸濃度1.5~3.5 mM)を再現した。先行特許の条件より高濃度のリン酸を含有する流加培地を添加することで、先行特許の条件と比較して抗体の生産性が向上することが明らかとなった。
【0124】
実施例3:流加培地へのリン酸及びセリン、コリン、またはアミンの添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果の評価
本実施例では、流加培地へのリン酸ならびにセリン、コリン、またはアミンの添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果を評価した。CHO細胞としては、抗体Adalimumabを生産するよう改変されたCHO S系統の細胞を用いた。
【0125】
(1)基礎培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL4P;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)、リン酸二水素ナトリウム(115 mg/L(すなわち、Basal mediaに含有されるリン酸との合計で終濃度2.9 mM))、デキストラン硫酸ナトリウム(終濃度400 mg/L)、およびL-Glutamine(終濃度 6 mM)を添加し、基礎培地を調製した。
【0126】
(2)流加培地の調製
CELLiST(登録商標) Feed media(味の素株式会社:FEED2)にグルコース(終濃度75 g/L)、リン酸二水素ナトリウム(終濃度0または2500 mg/L(すなわち、0.0または20.8 mM))、および必要により以下の成分(A)、(B)、(C)、または(D)を添加し、10種類の流加培地を調製した:
(A)1,4-ブタンジアミン(終濃度12.8 mg/L(すなわち、0.145 mM));
(B)セリン(終濃度20,000 mg/L(すなわち、190 mM))、重酒石酸コリン(終濃度4,400 mg/L(すなわち、17.4 mM))、および1,4-ブタンジアミン(終濃度12.8 mg/L(すなわち、0.145 mM));
(C)1.5倍濃度の成分(B)(すなわち、セリン:30,000 mg/L , 重酒石酸コリン:6,600 mg/L, および1,4-ブタンジアミン:19.2 mg/L);
(D)2倍濃度の成分(B)(すなわち、セリン:40,000 mg/L , 重酒石酸コリン:8,800 mg/L, および1,4-ブタンジアミン:25.6 mg/L)。
【0127】
(3)培養実験
調製した基礎培地を用いて3×105 cells/mLに調整したCHO細胞懸濁液を4 mLを6wellフラスコ(CORNING:3471)へ播種し、14日間培養を行った。培養は、全ての実験群についてn=2で実施した。培養温度は37℃、撹拌速度は110 rpmとした。調製した流加培地を、培養開始4、7、9、11日目にそれぞれ280 μL添加した。培養開始4、7、9、11、14日目に細胞培養液をサンプリングし、生細胞数をフローサイトメーターguava easyCyte(Luminex社)を用いて測定し、抗体産生量をCEDEX Bio HT(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて測定した。
【0128】
(4)培養結果
培養14日目の抗体産生量を図5に示す。流加培地中へリン酸二水素ナトリウムを添加しない条件では、セリン、重酒石酸コリン、または1,4-ブタンジアミンの添加効果は認められなかった。一方、流加培地へリン酸二水素ナトリウムを添加した条件では、1,4-ブタンジアミンを添加することで抗体の生産性が向上し、セリン、重酒石酸コリン、および1,4-ブタンジアミンを添加することで抗体の生産性がさらに向上することが明らかとなった。特に、セリン、重酒石酸コリン、および1,4-ブタンジアミンを1.5倍濃度で添加した場合に最大の抗体濃度を示した。
【0129】
実施例4:流加培地へのリン酸またはカリウムの添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果の評価
本実施例では、流加培地へのリン酸またはカリウムの添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果を評価した。CHO細胞としては、抗体Herceptinを生産するよう改変されたCHO S系統の細胞を用いた。
【0130】
(1)基礎培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL3;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)とL-Glutamine(終濃度 6 mM)を添加し、基礎培地を調製した。
【0131】
(2)流加培地の調製
CELLiST(登録商標) Feed media(味の素:FEED2)にリン酸水素二ナトリウム(終濃度0または4,510 mg/L(すなわち、0.0または20.8 mM))と塩化カリウム(終濃度0または2,850 mg/L(すなわち、0.0または38.2 mM))を添加し、4種類の流加培地を調製した。
【0132】
(3)培養実験
調製した基礎培地を用いて3×105 cells/mLに調整したCHO細胞懸濁液30 mLを125 mLフラスコ(CORNING:431143)へ播種し、14日間培養を行った。培養は、全ての実験群についてn=2で実施した。培養温度は37℃、撹拌速度は110 rpmとした。調製した流加培地を、培養開始4、6、8、10、12日目にそれぞれ1.2 mL添加した。培養開始4、7、9、11、および14日目に細胞培養液をサンプリングし、生細胞数を生死細胞オートアナライザーVi-CELLTM XR(ベックマン・コールター社)を用いて測定し、抗体産生量をCEDEX Bio HT(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて測定した。また、培養開始4、7、9、11日目に細胞培養液をサンプリングし、グルコース濃度をCEDEX Bio HT(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて測定し、グルコースの終濃度が11 g/Lとなるように500 g/Lグルコース水溶液を添加した。
【0133】
(4)培養結果
培養14日目の抗体産生量を図6に示す。流加培地中へリン酸および/またはカリウムを添加した群では、無添加群と比較して抗体生産量は高値を示した。また、リン酸およびカリウムを添加した群では、リン酸単独添加群およびカリウム単独添加群と比較して抗体産生量は高値を示した。
【0134】
実施例5:Perfusion培養におけるリン酸強化培地による抗体生産の向上効果の評価
本実施例では、基礎培地および流加培地へのリン酸添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果をPerfusion培養にて評価した。CHO細胞としては、抗体Adalimumabを生産するよう改変されたCHO S系統の細胞を用いた。
【0135】
(1)基礎培地および流加培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL4P;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)、リン酸二水素ナトリウム(添加量0, 1450, または1690 mg/L(すなわち、Basal mediaに含有されるリン酸との合計で終濃度1.9, 14, または16 mM))、およびL-Glutamine(終濃度 6 mM)を添加し、基礎培地および流加培地を調製した。
【0136】
(2)培養実験
調製した基礎培地を用いて25×105 cells/mLに調整した10 mLのCHO細胞懸濁液をマイクロバイオリアクターambr15(sartorius:001-0881)を用いて8日間培養を行った。培養中は、pH 7.2±0.1、DOを飽和濃度に対して50%、培養温度37℃、攪拌速度=1000 rpmとなるように管理した。また、細胞数が200×105cells/mLに到達した後、毎日細胞数を測定し、培地交換後の培養液中の細胞濃度が200×105 cells/mLとなるように過剰な細胞培養液を除いた後、培地交換を実施した。培地交換は、培養液を遠心分離し、遠心上清が3.68 mL残るように取り除き、基礎培地と同一の新鮮な流加培地を6.32 mL添加し、撹拌することで実施した。培地交換後に、培養を再開した。生細胞数を生死細胞オートアナライザーVi-CELLTM XR(ベックマン・コールター社)を用いて測定し、抗体産生量をCEDEX Bio HT(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて測定した。
【0137】
(3)培養結果
培養8日目の抗体産生量を図7に示す。基礎培地および流加培地のリン酸濃度を14 mM以上に増強した場合には、基礎培地および流加培地のリン酸濃度を増強しない場合と比較して、抗体濃度が増加することが明らかとなった。
【0138】
実施例6:Perfusion培養におけるリン酸強化培地による抗体生産の向上効果の評価
本実施例では、流加培地へのリン酸添加によるCHO細胞の増殖及び抗体生産の向上効果をPerfusion培養にて評価した。CHO細胞としては、抗体Adalimumabを生産するよう改変されたCHO S系統の細胞を用いた。
【0139】
(1)基礎培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL4P;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)とL-Glutamine(終濃度 6 mM)を添加し、基礎培地を調製した。
(2)流加培地の調製
CELLiST(登録商標) Basal media(味の素株式会社:BASAL4P;終濃度1.9 mMのリン酸を含有する)にLR3-IGF-1(終濃度10 μg/mL)、リン酸二水素ナトリウム(添加量0, 490, または730 mg/L(すなわち、Basal mediaに含有されるリン酸との合計で終濃度1.9, 6, または8 mM))、およびL-Glutamine(終濃度6 mM)を添加し、流加培地を調製した。
【0140】
(3)培養実験
調製した基礎培地を用いて25×105 cells/mLに調整した10 mLのCHO細胞懸濁液をマイクロバイオリアクターambr15(sartorius:001-0881)を用いて12日間培養を行った。培養中は、pH 7.2±0.1、DOを飽和濃度に対して50%、培養温度37℃、攪拌速度=1000 rpmとなるように管理した。また、細胞数が150×105 cells/mLに到達した後、毎日細胞数を測定し、培地交換後の培養液中の細胞濃度が150×105 cells/mLとなるように、過剰な細胞培養液を除いた後、培地交換を実施した。培地交換は、培養液を遠心分離し、遠心上清が3.68 mL残るように取り除き、新鮮な流加培地を6.32 mL添加することで実施した。培地交換後に、培養を再開した。生細胞数を生死細胞オートアナライザーVi-CELLTM XR(ベックマン・コールター社)を用いて測定し、抗体産生量をCEDEX Bio HT(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いて測定した。
【0141】
(4)培養結果
培養8日目の抗体産生量を図8に示す。流加培地のリン酸濃度を6 mM以上に増強した場合には、流加培地のリン酸濃度を増強しない場合と比較して、抗体濃度が増加することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明によれば、動物細胞の培養成績(例えば、動物細胞の増殖や動物細胞による目的物質生産)を向上させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8