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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20240702BHJP
   H01M 8/2475 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/249 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/0444 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20240702BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M8/04 H
H01M8/2475
H01M8/04225
H01M8/04302
H01M8/249
H01M8/0444
H01M8/0438
H01M8/04746
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022002449
(22)【出願日】2022-01-11
(65)【公開番号】P2023102089
(43)【公開日】2023-07-24
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯尾 敦雄
(72)【発明者】
【氏名】江川 稔弘
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 久也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 真己人
【審査官】加藤 昌人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-068063(JP,A)
【文献】特開2006-134861(JP,A)
【文献】特開2020-087673(JP,A)
【文献】特開2004-192919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1燃料電池スタックと、
前記第1燃料電池スタックと並列に接続されており、前記第1燃料電池スタックよりも容積が大きい第2燃料電池スタックと、
前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックへ燃料ガスを供給する燃料タン
クと、
前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックを収容する筐体と、
前記筐体内の燃料ガス濃度を計測するガスセンサと、
起動指令に応答して前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックを起動する制御器と、
を備えており、
前記制御器は、
(1)前記ガスセンサの計測値が第1濃度を下回っている場合は前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックの両方を起動し、
(2)前記計測値が前記第1濃度よりも高い第2濃度を上回っている場合は前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックのいずれも起動せず、
(3)前記計測値が第1濃度以上第2濃度以下の場合は、前記第2燃料電池スタックへの燃料ガス供給は止めたまま前記第1燃料電池スタックへ前記燃料ガスを供給し、前記第1燃料電池スタック内の圧力が所定の圧力閾値に達したら前記燃料ガスの供給を停止し、所定時間後の前記第1燃料電池スタック内の圧力が所定の圧力下限値を上回っていれば、前記第1燃料電池スタックを起動する、
燃料電池システム。
【請求項2】
第1燃料電池スタックと、
前記第1燃料電池スタックと並列に接続されており、前記第1燃料電池スタックよりも容積が大きい第2燃料電池スタックと、
前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックへ燃料ガスを供給する燃料タンクと、
起動指令に応答して前記第1燃料電池スタックと前記第2燃料電池スタックを起動する制御器と、
を備えており、
前記制御器は、
(1)前記第2燃料電池スタックへの前記燃料ガスの供給は止めたまま前記第1燃料電池スタックへ前記燃料ガスを供給し、
(2)前記第1燃料電池スタック内の圧力が所定の第1圧力閾値に達したら前記第1燃料電池スタックへの前記燃料ガスの供給を停止し、所定時間後の前記第1燃料電池スタック内の圧力(第1圧力)が所定の第1圧力下限値を上回っていれば、前記第1燃料電池スタックを起動し、前記第2燃料電池スタックへの前記燃料ガスの供給を開始し、
(3)前記第1圧力が前記第1圧力下限値を下回っていれば、前記第1燃料電池スタックを起動せず前記第1燃料電池スタック内の前記燃料ガスを空気で希釈して排出するとともに、前記第2燃料電池スタックへの前記燃料ガスの供給を開始し、
(4)前記第2燃料電池スタック内の圧力が所定の第2圧力閾値に達したら前記第2燃料電池スタックへの前記燃料ガスの供給を停止し、所定時間後の前記第2燃料電池スタック内の圧力(第2圧力)が所定の第2圧力下限値を上回っていれば、前記第2燃料電池スタックを起動し、
(5)前記第2圧力が前記第2圧力下限値を下回っている場合、前記第2燃料電池スタックを起動せず前記第2燃料電池スタック内の前記燃料ガスを空気で希釈して排出する
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、複数の燃料電池スタックが並列に接続されている燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に、並列に接続された複数の燃料電池スタックを備えた燃料電池システムが開示されている。特許文献1のシステムは、個々の燃料電池スタックに燃料ガス漏洩を検知する漏洩検知部が備えられている。漏洩検知部は、燃料ガスの圧力変動から燃料ガスの漏洩を判断する。特許文献1のシステムでは、燃料電池スタックの起動に先立って全ての漏洩検知部が同時に作動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-149347号公報
【文献】国際公開第2017/010069号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池システムでは、全ての漏洩検知部が燃料ガス漏れのないことを確認してから燃料電池スタックが起動される。燃料電池スタックの容量が大きいと、所定の圧力まで燃料電池スタックに燃料ガスを供給するのに時間を要する。すなわち、容量の大きい燃料電池スタックでは燃料ガス漏れがないことが判明するまでに時間を要する。従来の燃料電池システムは、起動指令を受けてから電力供給を開始するまでに長い時間を要する。本明細書は、複数の燃料電池スタックが並列に接続されている燃料電池システムに関し、ガス漏れチェックを効率的に行って燃料電池システムの起動時間を短縮する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する燃料電池システムは、容量の小さい第1燃料電池スタックと容量の大きい第2燃料電池スタックを備える。容量の小さい第1燃料電池スタックのガス漏れチェックが終了したら第2燃料電池スタックのガス漏れチェックが終了する前に第1燃料電池スタックを起動する。本明細書が開示する燃料電池システムは、起動指令を受けた後、素早く電力供給を開始することができる。
【0006】
本明細書が開示する燃料電池システムは、並列に接続されている第1燃料電池スタック及び第2燃料電池スタックと、第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックへ燃料ガスを供給する燃料タンクと、第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックを収容する筐体と、筐体内の燃料ガス濃度を計測するガスセンサと、制御器を備える。第2燃料電池スタックの容量は第1燃料電池スタックの容量よりも大きい。制御器は、起動指令に応答して第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックを起動する。
【0007】
制御器は、起動指令を受けると次の処理を実行する。(1)制御器は、ガスセンサの計測値が第1濃度を下回っている場合は第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックの両方を起動する。(2)制御器は、ガスセンサの計測値が第1濃度よりも高い第2濃度を上回っている場合は第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックのいずれも起動しない。(3)制御器は、ガスセンサの計測値が第1濃度以上第2濃度以下の場合は、第2燃料電池スタックへの燃料ガス供給は停止したまま第1燃料電池スタックへ燃料ガスを供給する。制御器は、第1燃料電池スタック内の圧力が所定の圧力閾値に達したら燃料ガスの供給を停止する。制御器は、所定時間後の第1燃料電池スタック内の圧力が所定の圧力下限値を上回っていれば、第1燃料電池スタックを起動する。
【0008】
上記の燃料電池システムでは、第1燃料電池スタックでガス漏れがないことが確認できたら、第2燃料電池スタックのガス漏れチェックの終了を待たずに第1燃料電池スタックを起動する。容量の小さい第1燃料電池スタックを先に起動することで、起動指令を受けた後に素早く電力供給を開始することができる。
【0009】
本明細書は、必ずしも筐体とガスセンサを要しない別の態様の燃料電池システムも開示する。その燃料電池システムは、並列に接続されている第1燃料電池スタック及び第2燃料電池スタックと、第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックへ燃料ガスを供給する燃料タンクと、制御器を備える。第2燃料電池スタックの容量は第1燃料電池スタックの容量よりも大きい。制御器は、起動指令に応答して第1燃料電池スタックと第2燃料電池スタックを起動する。
【0010】
制御器は、起動指令を受けると次の処理を実行する。(1)制御器は、第2燃料電池スタックへの燃料ガスの供給は止めたまま第1燃料電池スタックへ燃料ガスを供給する。(2)制御器は、第1燃料電池スタック内の圧力が所定の第1圧力閾値に達したら第1燃料電池スタックへの燃料ガスの供給を停止する。制御器は、所定時間後の第1燃料電池スタック内の圧力(第1圧力)が所定の第1圧力下限値を上回っていれば、第1燃料電池スタックを起動し、第2燃料電池スタックへの燃料ガス供給を開始する。(3)制御器は、第1圧力が第1圧力下限値を下回っていれば、第1燃料電池スタックを起動せずに第2燃料電池スタックへの燃料ガスの供給を開始する。(4)制御器は、第2燃料電池スタック内の圧力が所定の第2圧力閾値に達したら第2燃料電池スタックへの燃料ガスの供給を停止し、所定時間後の第2燃料電池スタック内の圧力(第2圧力)が所定の第2圧力下限値を上回っていれば、第2燃料電池スタックを起動する。(5)制御器は、第2圧力が第2圧力下限値を下回っている場合、第2燃料電池スタックを起動しない。
【0011】
第2の燃料電池システムでは、上記した(2)の処理にて、第1燃料電池スタックでガス漏れがないことが判明したら、第2燃料電池スタックのガス漏れチェックの終了を待たずに第1燃料電池スタックを起動する。容量の小さい第1燃料電池スタックを先に起動することで、起動指令を受けた後に素早く電力供給を開始することができる。
【0012】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施例の燃料電池システムのブロック図である。
図2】起動処理のフローチャートである。
図3】起動処理のフローチャートである(図2の続き)。
図4】起動処理のフローチャートである(図3の続き)。
図5】第2実施例の燃料電池システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施例)第1実施例の燃料電池システム2を説明する。以下では、説明を簡単にするため、「燃料電池」をFCと表記する場合がある。図1に、FCシステム2(燃料電池システム2)のブロック図を示す。制御器8と各種のデバイス(バルブ11a、11b、13a、13b、エアコンプレッサ14a、14b、圧力センサ12a、12b、ガスセンサ21、昇圧コンバータ16、インバータ6など)は、通信線で接続されているが、通信線の図示は省略してある。
【0015】
FCシステム2は、2個のFCスタック(第1FCスタック10aと第2FCスタック10b)を有しており、各FCスタックが発電する。第2FCスタック10bの容量は、第1FCスタック10aの容量よりも大きい。別言すれば、第1FCスタック10aの容量は、第2FCスタック10bの容量よりも小さい。「FCスタックの容量」とは、FCスタック内部の空間の大きさを意味する。容量が大きいほど、FCスタック内部に燃料ガスを充填するのに時間を要する。なお、以下では、第1FCスタック10aと第2FCスタック10bを区別なく表すときはFCスタック10と表記する場合がある。
【0016】
それぞれのFCスタック10には昇圧コンバータ16が付随している。FCスタック10の出力端に昇圧コンバータ16が接続されており、昇圧コンバータ16の出力端はインバータ6の直流端に接続されている。昇圧コンバータ16は、FCスタック10が生成した直流電力を昇圧してインバータ6に供給する。インバータ6は、昇圧された直流電力を交流電力に変換する。インバータ6の交流端にシステム出力端7が接続されており、FCスタック10が生成した電力は、システム出力端7から他のデバイスへ供給される。
【0017】
FCスタック10には、燃料供給管4を通じて燃料タンク3から燃料ガス(水素ガス)が供給される。燃料供給管4には燃料バルブ11a(11b)が接続されており、燃料バルブ11a(11b)の開度を調整することで、第1FCスタック10a(第2FCスタック10b)へ供給される燃料ガスの流量を調整することができる。燃料バルブ11a、11bは、インジェクタと呼ばれる場合もある。
【0018】
燃料バルブ11a(11b)の下流側には圧力センサ12a(12b)が接続されている、圧力センサ12a(12b)が計測する圧力は、第1FCスタック10a(第2FCスタック10b)の中の圧力に等しい。制御器8は、FCスタック10が発電している間、圧力センサ12a(12b)の計測値が適正な範囲に保持されるように、燃料バルブ11a、11bの開度を制御する。
【0019】
FCスタック10には空気供給管5を通じて空気(酸素)が供給される。空気供給管5にはエアコンプレッサ14a(14b)と空気バルブ13a(13b)が備えられており、エアコンプレッサ14a(14b)により第1FCスタック10a(第2FCスタック10b)に空気が送り込まれる。第1FCスタック10a(第2FCスタック10b)に供給される空気量(酸素量)は、エアコンプレッサ14a(14b)の出力と空気バルブ13a(13b)の開度により調整される。
【0020】
FCスタック10で燃料ガス(水素)と空気(酸素)が反応して電力が生成される。反応後のガス(排気ガス)は排ガス管31で気液分離器33に送られる。気液分離器33では、反応に使われなかった水素ガスが排ガスから分離される。分離された水素ガスはリターン管4aで再び燃料供給管4に戻される。残った排ガスと水は、排空気管32を通じてFCスタック10から排出された空気と混合され、マフラ35を通じて大気へ放出される。気液分離器33の出口には排気バルブ34が設けられている。排気バルブ34の開度を調整することで、燃料ガス濃度が適切な濃度に下がるまで空気で希釈される。FCスタック10に残った燃料ガスを排出する場合、燃料ガスは、排空気管32から送られてくる空気で所定の安全濃度まで希釈されてから大気へ放出される。
【0021】
第1FCスタック10aと第2FCスタック10bは筐体20に収容されている。筐体20には、筐体内の燃料ガス濃度を計測するガスセンサ21が備えられている。
【0022】
ガスセンサ21や圧力センサ12a、12bなどのセンサの計測値は制御器8に送られる。また、先に述べたように、エアコンプレッサ14aなどのアクチュエータ、FCスタック10や昇圧コンバータ16などのデバイスと制御器8は通信線で接続されており、制御器8がアクチュエータやデバイスを制御する。
【0023】
FCシステム2の起動処理について説明する。制御器8は外部から起動指令を受けると、FCスタック10を起動し、システム出力端7から電力を供給できる準備を整える。制御器8は、FCスタック10を起動するのに先立って、安全確認として、FCスタック10で燃料ガスの漏れが発生していないことをチェックする。以下では、説明の便宜上、「燃料ガスの漏れ」を単に「ガス漏れ」と称する場合がある。
【0024】
制御器8は、まず、ガスセンサ21の計測値(筐体内の燃料ガス濃度)を用いて筐体20の内部に燃料ガスが充満していないかをチェックする。筐体20の内部の燃料ガス濃度が所定の第1濃度を下回っていれば、個々のFCスタック10のガス漏れをチェックすることなく、全部のFCスタック10でガス漏れが生じていないことが確認できる。筐体内にガスセンサ21を設置することで、個々のFCスタック10のガス漏れをチェックする場合と比較して、ガス漏れチェックを短時間で終わらせることができる。すなわち、起動指令を受けてから電力供給の準備が整うまでの時間を短縮できる。
【0025】
筐体20の内部の燃料ガス濃度が所定の第2濃度を超えている場合、制御器8は、FCスタック10の起動に適さないと判断し、いずれのFCスタック10も起動せずに処理を中止する。なお、第2濃度は第1濃度よりも高い値に設定されている。
【0026】
筐体20の内部の燃料ガス濃度が第1濃度以上第2濃度以下の場合は、ガス漏れを生じていないFCスタック10は起動してもよい。その場合、制御器8は、容量の小さい第1FCスタック10aのガス漏れを先にチェックし、ガス漏れがないことが確認できたら、第2FCスタック10bのガス漏れチェックの完了を待たずに第1FCスタック10aを起動する。第1FCスタック10aは容量が小さいため、ガス漏れチェックに要する時間が短い。容量の大きい第2FCスタック10bよりも先に容量の小さい第1FCスタック10aのガス漏れチェックを行うことで、起動指令を受けてから電力供給の準備が整うまでの時間を短縮することができる。
【0027】
図2-4のフローチャートを参照しつつ制御器8が実行する起動処理を詳しく説明する。なお、図3、4の「FCS」は、燃料電池スタックを意味する。
【0028】
制御器8は、ガスセンサ21を使って筐体20の内部の燃料ガス濃度を計測する(ステップS2)。燃料ガス濃度が第2濃度を超えている場合、制御器8は、FCスタック10の起動に適さないと判断してガス漏れを通知し、処理を終了する(ステップS3:YES、S4)。ガス漏れ発生の通知は、制御器8に接続されているディスプレイ9(図1参照)、あるいは、ユーザの端末に送られる。通知を受けたディスプレイ9あるいはユーザの端末には、ガス漏れ発生を示すメッセージが表示される。燃料電池システム2が自動車に搭載されている場合には、インストルメントパネルにガス漏れ発生を示すメッセージが表示される。
【0029】
燃料ガス濃度が第2濃度を超えていない場合、制御器8は筐体20の内部の燃料ガス濃度を第1濃度と比較する(ステップS3:NO、S5)。先に述べたように、第2濃度はFCスタック10の起動に適さない濃度に設定されており、第1濃度は第2濃度よりも低い値に設定されている。第1濃度は、2個のFCスタック10のどちらかでガス漏れが発生した可能性を示す値に設定されている。
【0030】
燃料ガス濃度が第1濃度を下回っていた場合(ステップS5:YES)、制御器8は、2個のFCスタック10のいずれもガス漏れを生じていないと判断する。その場合、制御器8は、燃料バルブ11a、11bを開き、2個のFCスタック10への燃料ガス供給を開始し、空気供給も開始し、2個のFCスタック10を起動する(ステップS6)。ステップS6が実行されると、電力供給の準備が整う。ステップS6の後は、要求に応じた電力が供給できるように、制御器8は、FCスタック10に供給する燃料ガスと空気(酸素)の量を調整する。
【0031】
一方、燃料ガス濃度が第1濃度以上であり、かつ第2濃度以下である場合(ステップS3:NO、S5:NO)、制御器8は、第1FCスタック10aのガス漏れをチェックする。図3のフローチャートが第1FCスタック10aのガス漏れチェックに相当する。
【0032】
制御器8は、まず、燃料バルブ11aを開いて、第1FCスタック10aへの燃料ガス供給を開始する(ステップS12)。このとき、燃料バルブ11bは閉じたままであり、第2FCスタック10bへは燃料ガスを供給しない。制御器8は、第1FCスタック10aの中の圧力が第1圧力閾値に達するまで、燃料ガス供給を続ける(ステップS13)。第1圧力閾値は、第1FCスタック10aが発電可能となる値に設定されている。また、第1FCスタック10aの内部の圧力は、圧力センサ12aで計測される。
【0033】
制御器8は、第1FCスタック10aの内部の圧力が第1圧力閾値に達すると、燃料バルブ11aを閉じ、第1FCスタック10aへの燃料供給を停止する。その後の所定時間待機する(ステップS13)。所定時間は例えば1分に設定されている。所定時間の後に第1FCスタック10aの内部の圧力が相当に下がっていれば、第1FCスタック10aでガス漏れが生じていることが判明する。逆に、所定時間が経過した後も第1FCスタック10aの内部の圧力があまり下がっていなければガス漏れは生じていないことが判明する。
【0034】
一定時間の待機の後、制御器8は、圧力センサ12aで再び第1FCスタック10aの内部の圧力を計測する(ステップS14)。説明の都合上、所定時間が経過した後の第1FCスタック10aの中の圧力を第1FC圧と称する。
【0035】
制御器8は、第1FC圧が所定の第1圧力下限値を上回っていれば、第1FCスタック10aでガス漏れが生じていないと判断する。この場合、制御器8は、第1FCスタック10aへの燃料供給を再開し、第1FCスタック10aを起動する(ステップS15:YES、S16)。ステップS16が実行されると、第1FCスタック10aによる電力供給が可能となる。ステップS16の後、制御器8は、要求に応じた電力が供給できるように、第1FCスタック10aに供給する燃料ガスと空気(酸素)の量を調整する。なお、この時点では第2FCスタック10bはまだ起動していない。
【0036】
第1FC圧が第1圧力下限値を下回っている場合、制御器8は、第1FCスタック10aのガス漏れを通知する(ステップS15:NO、S17)。ステップS17の通知は、ステップS4における通知と同様に、制御器8からディスプレイ9、あるいは、ユーザの端末に送られる。
【0037】
なお、筐体20の内部のガス濃度は第2濃度以下であるので(ステップS3:NO)、仮に第2FCスタック10bでガス漏れが発生していても、第1FCスタック10aを起動してよい。
【0038】
続いて制御器8は、第2FCスタック10bのガス漏れチェック処理を実行する。図4のフローチャートが、第2FCスタック10bのガス漏れチェック処理を示している。
【0039】
第2FCスタック10bのガス漏れチェック処理は、第1FCスタック10aのガス漏れチェックと同じである。
【0040】
制御器8は、燃料バルブ11bを開いて、第2FCスタック10bへの燃料ガス供給を開始する(ステップS22)。制御器8は、第2FCスタック10bの中の圧力が第2圧力閾値に達するまで、燃料ガス供給を続ける(ステップS23)。第2圧力閾値は、第2FCスタック10bが発電可能となる値に設定されている。第2FCスタック10bの内部の圧力は、圧力センサ12bで計測される。
【0041】
制御器8は、第2FCスタック10bの内部の圧力が第2圧力閾値に達すると、燃料バルブ11bを閉じ、第2FCスタック10bへの燃料供給を停止する。その後の所定時間待機する(ステップS23)。所定時間待機した後に第2FCスタック10bの内部の圧力が相当に減っていれば、第2FCスタック10bでガス漏れが生じていることが判明する。逆に、所定時間が経過した後も第2FCスタック10bの内部の圧力があまり下がっていなければガス漏れは生じていないことが判明する。
【0042】
一定時間の待機の後、制御器8は、圧力センサ12bで再び第2FCスタック10bの内部の圧力を計測する(ステップS24)。説明の都合上、所定時間経過後の第2FCスタック10bの内部の圧力を第2FC圧と称する。
【0043】
制御器8は、第2FC圧が所定の第2圧力下限値を上回っていれば、第2FCスタック10bへの燃料供給を再開し、第2FCスタック10bを起動する(ステップS25:YES、S26)。ステップS26が実行されると、第2FCスタック10bからも電力供給が可能となる。ステップS26の後、制御器8は、要求に応じた電力が供給できるように、第1FCスタック10aと第2FCスタック10bに供給する燃料ガスと空気(酸素)の量を調整する。
【0044】
一方、第2FC圧が第2圧力下限値を下回っている場合、制御器8は、第2FCスタック10bのガス漏れを通知する(ステップS25:NO、S27)。ステップS27の通知は、ステップS4における通知と同様に、制御器8からディスプレイ9、あるいは、ユーザの端末に送られる。
【0045】
ステップS26が実行されると、FCシステム2は、2個のFCスタック10で発電する。ステップS25の判断がNOとなるとき、FCシステム2は、第1FCスタック10aのみで発電する。このとき、FCシステム2は、大きな電力は供給できず、第1FCスタック10aの能力内での電力供給が可能となる。
【0046】
以上のとおり、FCシステム2は、まず、筐体内のガス濃度をチェックし、ガス漏れ発生がないと判断した場合には直ちに第1FCスタック10aと第2FCスタック10bを起動する。FCシステム2は、起動指令を受けた後に速やかに電力供給の準備が整う。
【0047】
筐体内のガス濃度が第1濃度以上第2濃度以下の場合、容量の小さい第1FCスタック10aのガス漏れチェックを先に行う。第1FCスタック10aは、第2FCスタック10bと比較して容量が小さいので、素早く燃料ガスを充填させることができる。ガス圧の低下によってガス漏れチェックを行う場合、容量が小さい方が早くガス漏れチェックを終えることができる。FCシステム2は、容量の小さい第1FCスタック10aのガス漏れを先にチェックするので、起動指令を受けてから電力供給の準備が整うまでの時間が短い。
【0048】
なお、第1FCスタック10aでガス漏れが検知された場合(ステップS15:NO)、制御器8は、第1FCスタック10aの中の燃料ガスを空気で希釈して大気へ放出する。第2FCスタック10bでガス漏れが検知された場合(ステップS25:NO)も同様に、第2FCスタック10bの中の燃料ガスを空気で希釈して大気へ放出する。
【0049】
(第2実施例)図5を参照しつつ第2実施例のFCシステム102を説明する。FCシステム102は、ガスセンサ21を備えないことを除き、第1実施例のFCシステム2と同じ構造である。従ってFCシステム102は、ガスセンサを使ったガス漏れ検知は行わない。FCシステム102の制御器108は、図2の処理は実行せず、図3、4の処理によりガス漏れチェックを行う。第1実施例のFCシステム2と同様に、第2実施例のFCシステム102も、第1FCスタック10aの容量は、第2FCスタック10bの容量よりも小さい。
【0050】
制御器108は、起動指令を受けると次の処理を実行する。(1)第2FCスタック10bへの燃料ガスの供給は止めたまま第1FCスタック10aへの燃料ガス供給を開始する(ステップS12)。(2)第1FCスタック10a内の圧力が所定の第1圧力閾値に達したら第1FCスタック10aへの燃料ガスの供給を停止し、所定時間待機する(ステップS13)。所定時間の待機の後、第1FCスタック10a内の圧力(第1FC圧)が第1圧力下限値を上回っていれば、第1FCスタック10aを起動する(ステップS15:YES、S16)。続いて第2FCスタック10bへの燃料ガス供給を開始する(ステップS22)。(3)第1FC圧が第1圧力下限値を下回っていれば、第1FCスタック10aを起動せずに第2FCスタック10bへの燃料ガスの供給を開始する(ステップS15:NO、S17、S22)。(4)第2FCスタック10b内の圧力が第2圧力閾値に達したら第2FCスタック10bへの燃料ガスの供給を停止し、所定時間待機する(ステップS23)。所定時間の待機の後、第2FCスタック10b内の圧力(第2FC圧)が所定の第2圧力下限値を上回っていれば、第2FCスタック10bを起動する(ステップS25:YES、S26)。(5)第2FC圧が第2圧力下限値を下回っている場合、第2FCスタック10bを起動しない(ステップS25:NO、S27)。
【0051】
第2実施例のFCシステム102も、容量の小さい第1FCスタック10aのガス漏れチェックを第2FCスタック10bよりも先に実施する。第1FCスタック10aにガス漏れが生じていないことが確認できると、第2FCスタック10bのガス漏れチェックの終了をまたずに第1FCスタック10aを起動する。第2実施例のFCシステム102も、起動指令を受けた後、素早く電力供給を開始することができる。
【0052】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。本明細書が開示するFCシステムは、並列に接続された3個以上のFCスタックを有していてもよい。3個以上のFCスタックのうち、少なくとも1個のFCスタックの容量が他のFCスタックの容量よりも小さければよい。
【0053】
実施例の説明において、「を上回る」との表現は「以上」に代えてもよい。同様に、「を下回る」という表現は「以下」に代えてもよい。すなわち、フローチャートの不等式の判断において、右辺と左辺が等しい場合を「YES」に含むか「NO」に含むかはどちらでもよい。
【0054】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0055】
2、102:燃料電池システム 3:燃料タンク 4:燃料供給管 4a:リターン管 5:空気供給管 6:インバータ 7:システム出力端 8、108:制御器 9:ディスプレイ 10、10a、10b:FCスタック 11a、11b、131、13b:バルブ 12a、12b:圧力センサ 14a、14b:エアコンプレッサ 16:昇圧コンバータ 20:筐体 21:ガスセンサ 31:排ガス管 32:排空気管 33:気液分離器 34:排気バルブ 35:マフラ
図1
図2
図3
図4
図5