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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】タンクおよびタンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20240702BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20240702BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/06
B29C70/32
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022068674
(22)【出願日】2022-04-19
(65)【公開番号】P2023158727
(43)【公開日】2023-10-31
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 直樹
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-118288(JP,A)
【文献】特開2018-161821(JP,A)
【文献】特開2018-128116(JP,A)
【文献】特開2020-037978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00-13/24
F17C 1/06
B29C 70/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライナーと、前記ライナーの外表面に嵌合されるパイプにより構成される第1層および前記パイプを覆う第2層を含む補強層と、を有するタンクの製造方法であって、
第1繊維と第1樹脂とを含む第1繊維強化樹脂を、マンドレルに巻回し、前記マンドレルに巻回された前記第1繊維強化樹脂を第1加熱条件により熱硬化させて、前記パイプを形成する工程と、
前記パイプを前記ライナーに嵌合させて前記第1層を形成する工程と、
第2繊維と第2樹脂とを含む第2繊維強化樹脂を、前記第1層を覆うように前記ライナーに巻回し、前記ライナーに巻回された前記第2繊維強化樹脂を第2加熱条件により熱硬化させて、前記第2層を形成する工程と、
を備え、
前記第2加熱条件は、前記第1層に含まれる前記第1樹脂のせん断強度が、前記パイプ中の残留応力よりも高い状態を維持する温度を上限温度とする条件を含む、
タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のタンクの製造方法において、
前記マンドレルとして、前記第1繊維強化樹脂と同じ線膨張係数を有する材料からなるマンドレルを準備する工程を含む、タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のタンクの製造方法において、
前記第2加熱条件は、前記ライナーに巻回された前記第2繊維強化樹脂を前記第2樹脂の硬化温度で加熱する条件を含み、
前記第2樹脂の前記硬化温度において、前記第1層に含まれる前記第1樹脂のせん断強度が、前記パイプ中の残留応力よりも高くなるような前記第1樹脂および前記第2樹脂を準備する工程を更に備える、
タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のタンクの製造方法において、
前記第2加熱条件における最高加熱温度は、前記第1加熱条件における最高加熱温度よりも低い、タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
ライナーの外周に熱硬化性樹脂が含浸された繊維強化樹脂からなる補強層を備えるタンクの製造方法として、予めプリプレグによりパイプを形成し、かかるパイプをライナーに嵌め込む工程を備える製造方法が知られている。例えば特許文献1は、パイプ(円筒状のシート層)をライナーに嵌め込み、その後、パイプが嵌合したライナーに繊維強化樹脂をヘリカル巻きして加熱し、ヘリカル層を形成するタンクの製造方法を開示している。パイプの形成は、例えば、特許文献1に記載のように、繊維強化樹脂を、ライナーとは別のマンドレルに巻きつけて加熱し、熱硬化させることにより実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-223569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヘリカル巻きの後に加熱する際には、ヘリカル層を形成する繊維強化樹脂に熱が加えられるとともに、パイプにも再び熱が加えられる。このとき、パイプに含まれる樹脂が熱により再び軟化し、パイプの強度が低下する。これにより、パイプ中の残留応力が、パイプの強度を上回ることでパイプの一部が破損するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、ライナーと、前記ライナーの外表面に嵌合されるパイプにより構成される第1層および前記パイプを覆う第2層を含む補強層と、を有するタンクの製造方法が提供される。このタンクの製造方法は、第1繊維と第1樹脂とを含む第1繊維強化樹脂を、マンドレルに巻回し、前記マンドレルに巻回された前記第1繊維強化樹脂を第1加熱条件により熱硬化させて、前記パイプを形成する工程と、前記パイプを前記ライナーに嵌合させて前記第1層を形成する工程と、第2繊維と第2樹脂とを含む第2繊維強化樹脂を、前記第1層を覆うように前記ライナーに巻回し、前記ライナーに巻回された前記第2繊維強化樹脂を第2加熱条件により熱硬化させて、前記第2層を形成する工程と、を備え、前記第2加熱条件は、前記第1層に含まれる前記第1樹脂のせん断強度が、前記パイプ中の残留応力よりも高い状態を維持する温度を上限温度とする条件を含む、
この形態の方法によれば、第2層を熱硬化により形成する際に、第1層に含まれる第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも大きく維持することができる。このため、第2層形成時に、加熱によるパイプの破損を抑制することができる。
(2)上記形態の方法において、前記マンドレルとして、前記第1繊維強化樹脂と同じ線膨張係数を有する材料からなるマンドレルを準備する工程を含んでもよい。
この形態の方法によれば、パイプとマンドレルが同じ線膨張係数を有するため、パイプ形成時にパイプとマンドレルが同じ割合で熱膨張する。このため、形成されたパイプ中の残留応力が、パイプの線膨張係数と異なる線膨張係数を有するマンドレルを用いてパイプを形成した場合と比較して、小さくなる。このため、第2層形成時に加熱によるパイプの破損を抑制することができる。
(3)上記形態の方法において、前記第2加熱条件は、前記ライナーに巻回された前記第2繊維強化樹脂を前記第2樹脂の硬化温度で加熱する条件を含み、前記第2樹脂の前記硬化温度において、前記第1層に含まれる前記第1樹脂のせん断強度が、前記パイプ中の残留応力よりも高くなるような前記第1樹脂および前記第2樹脂を準備する工程を更に備えてもよい。
この形態の方法によれば、第2樹脂の硬化温度において、第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも高く保つことができる。このため、第2層形成時に加熱によるパイプの破損を抑制することができる。
(4)上記形態の方法において、前記第2加熱条件における最高加熱温度は、前記第1加熱条件における最高加熱温度よりも低くてもよい。
この形態の方法によれば、第2層を熱硬化により形成する際に、加熱温度が一定である場合に限らず、時間毎に変化する場合であっても、パイプに加えられる最高温度が、パイプ形成時に加えられた最高温度よりも低い温度となる。このため、第2層形成時に、第1樹脂のせん断強度が低下することを抑制でき、加熱によるパイプの破損を抑制することができる
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態としてのタンクの構成を示す断面図である。
図2】第1実施形態におけるタンクの製造方法を示す工程図である。
図3】熱硬化性樹脂のせん断強度(縦軸)および温度(横軸)の関係と、パイプ中の残留応力と、を示すグラフである。
図4】熱硬化性樹脂のせん断強度(縦軸)および温度(横軸)の関係と、パイプ中の残留応力と、を示すグラフである。
図5】熱硬化性樹脂のせん断強度(縦軸)および温度(横軸)の関係と、パイプ中の残留応力と、を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
A1.装置構成:
図1は、本開示の一実施形態としてのタンク100の構成を示す断面図である。タンク100は、流体を貯蔵する容器である。流体は、例えば水素ガス等の気体、または天然ガス(Liquefied Natural Gas,LNG)等の液体である。タンク100は、例えば燃料電池車(Fuel Cell Electric Vehicle,FCEV)に搭載される燃料電池等に用いられる。タンク100は、ライナー10と補強層20とを備える。
【0009】
ライナー10は、中空の容器である。ライナー10は、樹脂または金属で形成されている。そのような樹脂は、例えば、ナイロン、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ、またはポリスチレン等のガスバリア性を有する樹脂である。
【0010】
ライナー10は、ストレート部11とドーム部12,13と、口金14,15と、を備える。ストレート部11は、円筒状である。ドーム部12,13は、ストレート部11の両端に設けられている。ドーム部12,13は、ライナー10の軸AX方向に沿ってストレート部11の両端に配置され、半球状の形状を有する。ドーム部12,13のそれぞれの頂点には、口金14,15が設けられている。口金14,15は、例えばアルミニウム、またはステンレス鋼等の金属により形成される。一方の口金14は、タンク100の軸AX方向に沿った連通孔16を備えている。連通孔16は、タンク100への流体の供給、およびタンク100からの流体の取り出しの際に、流路として機能する。他方の口金15は、連通孔16が設けられておらず、封止されている。口金15は、タンク100の製造時の芯出し等に用いられる。
【0011】
補強層20は、ライナー10の外表面を覆う層であり、ライナー10の強度を補強する。補強層20は、厚さ方向に第1層21と第2層22とを有する。換言すると、補強層20は、内層として第1層21を有し、外層として第2層22を有する。具体的には、補強層20はライナー10のストレート部11の外側を覆うように形成される第1層21と、ライナー10のうちの口金14,15を除く他の露出部分および第1層21の外側を覆うように形成される第2層22と、を有する。
【0012】
第1層21は、円筒状の外観形状を有し、「パイプ」と呼ばれる後述の部材が、ライナー10に嵌合することにより形成される。パイプは、成形型であるマンドレルに第1繊維強化樹脂を巻回し、熱硬化することで形成される。第1繊維強化樹脂は、第1繊維に第1樹脂を含浸することで形成される。第1繊維は、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、またはアラミド繊維等である。特に、強度および軽量性等の観点から、炭素繊維を用いることが好ましい。第1樹脂は、例えば、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリアミド樹脂またはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である。
【0013】
第2層22は、第1層21を覆うようにライナー10に第2繊維強化樹脂を巻回し、熱硬化することで形成される。具体的には、第2層22は、第1層21の外表面とドーム部12,13の外表面とに、第2繊維強化樹脂を巻回し、熱硬化することで形成される。第2繊維強化樹脂は、第2繊維に第2樹脂を含浸することで形成される。第2繊維は、第1樹脂と同様に、例えば炭素繊維、ガラス繊維、またはアラミド繊維等である。第2樹脂は、第1樹脂と同様に、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ポリアミド樹脂またはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂である。
【0014】
A2.タンク100の製造方法:
図2は、第1実施形態におけるタンク100の製造方法を示す工程図である。タンク100の製造は、タンク100の製造における一工程として実行される。タンク100の製造が実行される前に、予め一対の口金14,15が、ライナー10に取り付けられている。
【0015】
マンドレルと、第1繊維強化樹脂と、第2繊維強化樹脂と、ライナー10と、が準備される(工程P105)。マンドレルは、パイプの成形型である。マンドレルは、例えば円柱状の形状を有する。本実施形態では、マンドレルは、アルミニウムで形成される。
【0016】
マンドレルに第1繊維強化樹脂を巻回する(工程P110)。第1繊維強化樹脂の巻回は、例えばフィラメントワインディング法(FW法)により行われる。第1繊維強化樹脂の巻回パターンは、例えばフープ巻、ヘリカル巻、またはこれらの組み合わせ等である。第1繊維強化樹脂は、複数回巻回されることで、積層されてもよい。
【0017】
第1加熱条件で、巻回した第1繊維強化樹脂を加熱し、熱硬化させる(工程P115)。第1加熱条件とは、第1繊維強化樹脂を硬化させるために十分な温度、圧力および時間等をいう。第1加熱条件において、温度は一定であってもよいし、または時間ごとに変化してもよい。なお、本実施形態の第1加熱条件における「温度」とは、第1繊維強化樹脂の加熱を行う加熱炉内の温度のことをいう。第1加熱条件は、第1繊維強化樹脂に含まれる第1樹脂の主剤、硬化剤、および触媒等により異なる。また、第1加熱条件は、パイプに求められる強度によっても異なる。第1加熱条件は、例えば第1樹脂の硬化温度で加熱することを含む。本実施形態において、上述の「硬化温度」とは、一般に、樹脂の「成形温度」として特定される温度範囲内の任意の温度を意味する。なお、上述のような温度範囲内の温度に限らず、かかる温度範囲よりも低い温度であっても長時間加熱することにより効果が起きるような温度を、上述の「硬化温度」に適用してもよい。硬化温度は、例えば示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry、DSC)により求めることができる。
【0018】
工程P115の熱硬化は、例えば以下のように行うことができる。まず、第1繊維強化樹脂を巻回したマンドレルを加熱炉内に静置する。次いで、加熱炉内の温度を徐々に上昇させる。このときの加熱炉内の上限温度は、第1加熱条件における温度である。第1繊維強化樹脂は、反応による発熱のために想定より高い温度が第1繊維強化樹脂に加えられるおそれがある。そのため、予め第1繊維強化樹脂と同様の繊維強化樹脂の試験片を準備し、様々な温度変化の加熱パターンについて試験を行い、加熱パターン毎の試験片の温度データを収集する。収集したデータを用いることで、適切な温度上昇の手順(温度プロファイル)を決定し、かかる手順通りに温度上昇させてもよい。また、加熱の際に、第1繊維強化樹脂の温度を監視しながら温度上昇を行うことにより、第1繊維強化樹脂の温度が設定温度を超えてオーバーシュートしてしまうことを抑制してもよい。
【0019】
熱硬化した第1繊維強化樹脂をマンドレルから引き抜く(工程P120)。これにより、円筒状のパイプが形成される。
【0020】
パイプをライナー10に嵌合させ、第1層21を形成する(工程P125)。本実施形態において、マンドレルを成形型として第1繊維強化樹脂を熱硬化させたものをパイプといい、ライナー10に嵌合させたパイプを第1層21という。したがって、パイプと第1層21とは互いに置換可能な用語である。パイプの内径が、ライナー10のストレート部11の外径よりも大きい場合、ライナー10の内部を加圧することで、ライナー10とパイプをより密着させることができる。他方で、パイプの内径が、ライナー10のストレート部11の外径と同程度またはストレート部11の外径よりも小さい場合、ライナー10を予め冷却し収縮させた後に、パイプをライナー10に嵌合させてもよい。
【0021】
ライナー10に第2繊維強化樹脂を巻回する(工程P130)。第2繊維強化樹脂の巻回は、例えば、工程P110と同様に、フィラメントワインディング法(FW法)により行われる。第2繊維強化樹脂の巻回パターンは、例えばフープ巻、ヘリカル巻、またはこれらの組み合わせ等である。第2繊維強化樹脂は、複数回巻回されることで、積層されてもよい。
【0022】
第2加熱条件で、巻回した第2繊維強化樹脂を加熱し、熱硬化させる(工程P135)。第2加熱条件とは、第2繊維強化樹脂を硬化させるために十分な温度、圧力および時間等をいう。なお、本実施形態の第2加熱条件における「温度」とは、第2繊維強化樹脂の加熱を行う加熱炉内の温度のことをいう。第2加熱条件は、第2繊維強化樹脂に含まれる第2樹脂の主剤、硬化剤、および触媒等により異なり、第2層22に求められる強度によっても異なる。第2加熱条件は、例えば第2樹脂の硬化温度で加熱することを含む。
【0023】
本実施形態において、第2加熱条件における上限温度は、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力よりも高い状態を維持できる温度である。このような温度は、例えば以下に説明する方法によって決定することができる。まず、上述した工程P105~P120により、測定用のパイプを作製する。次いで、パイプ中の残留応力を測定する。かかる測定は、例えば穿孔法(ASTM E837-13規格に従う)により行われる。続いて、第1樹脂のせん断強度を測定する。かかる測定は、例えばJIS K7087規格に従ったせん断試験により行われる。せん断強度の測定は、様々な温度で行われる。続いて、第2繊維強化樹脂の硬化温度を測定する。かかる測定は、例えばDSC法等によって行われる。第2繊維強化樹脂の硬化温度は、第2樹脂に含まれる主剤、硬化剤、および触媒等により制御することができる。このように測定したパイプ中の残留応力と、第1樹脂のせん断強度と、第2繊維強化樹脂の硬化温度と、から、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力よりも高い状態を維持できるような、第2繊維強化樹脂を加熱する温度を決定することができる。
【0024】
工程P135の熱硬化は、例えば以下のように行うことができる。まず、第2繊維強化樹脂を巻回したライナー10を加熱炉内に静置する。次いで、加熱炉内の温度を徐々に上昇させる。このときの加熱炉内の上限温度は、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力よりも高い状態を維持できる温度である。工程P115の第1繊維強化樹脂の熱硬化で説明したように、第2繊維強化樹脂についても予め様々な温度変化パターンについて試験を行い、試験結果に基づいて温度上昇の手順(温度プロファイル)を決定することができる。また、第2繊維強化樹脂の温度を監視しながら温度上昇を行ってもよい。このような加熱により、第2繊維強化樹脂を熱硬化させることができる。第2繊維強化樹脂の熱硬化により第2層22が形成されると、図1に示したタンク100が完成する。
【0025】
上述のように、第2加熱条件における上限温度を、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力よりも高い状態を維持できる温度とする理由について以下に説明する。図3は、熱硬化性樹脂のせん断強度(縦軸)および温度(横軸)の関係と、パイプ中の残留応力と、を示すグラフである。実線L1は、第1樹脂のせん断強度と温度の関係を示す。実線L2は、パイプ中の残留応力を示す。温度Tは、第1樹脂のせん断強度とパイプ中の残留応力とが等しくなる温度である。したがって、温度Tよりも高温になると、第1樹脂のせん断強度が、パイプ中の残留応力を下回るので、パイプの破損が発生し得る。
【0026】
パイプの形成時に、第1繊維強化樹脂は、FW法により張力をかけられながら、マンドレルに巻回されている。第1繊維強化樹脂を熱硬化させる際に、マンドレルは熱により膨張する。このとき、パイプにはFW法による張力だけでなく、マンドレルの熱膨張による引張方向の力も加えられる。これら2つの力が加えられた状態で硬化が進むため、熱硬化後のパイプ中には残留応力が存在する。そして、第2繊維強化樹脂を熱硬化させる際に、パイプには再度熱が加えられるため、パイプ中の第1樹脂は温度上昇とともに軟化し、せん断強度が低下する。温度Tを超え、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力を下回ると、パイプは破損するおそれがある。そこで、本実施形態のように、第2加熱条件における上限温度を、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力よりも高い状態を維持する温度(例えば、温度Tよりも低い温度)とすることで、第2層22を熱硬化で形成する際に、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力を下回ることを抑制できる。これにより、第2層22を熱硬化で形成する際、パイプの破損を抑制できる。
【0027】
以上説明した第1実施形態のタンク100の製造方法によれば、第2加熱条件が、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力よりも高い状態を維持する温度を上限温度として含むので、第2層22を熱硬化で形成する際、パイプの破損を抑制することができる。
【0028】
B.第2実施形態:
第2実施形態のタンク100の製造方法は、パイプの成形型のマンドレルとして、第1繊維強化樹脂と同じ線膨張係数を有する材料からなるマンドレルを準備する工程を含む点で、第1実施形態のタンク100の製造方法と異なる。かかる工程は、上述した工程P105において行われ得る。第2実施形態のタンク100の製造方法におけるその他の構成は、第1実施形態のタンク100の製造方法と同じであるので、その説明を省略する。なお、本明細書において「同じ線膨張係数」とは、線膨張係数が全く同一である場合に限らず、±10%程度の範囲で異なる線膨張係数である場合も含む広い概念を有する。
【0029】
図4は、熱硬化性樹脂のせん断強度(縦軸)および温度(横軸)の関係と、パイプ中の残留応力と、を示すグラフである。実線L3は、第1樹脂のせん断強度と温度との関係を示す。破線L4は、パイプと異なる線膨張係数を有する材料(例えばアルミニウム)からなるマンドレルを成形型として、パイプを形成したときのパイプ中の残留応力を示す。実線L5は、第1繊維強化樹脂と同じ線膨張係数を有する材料(例えば第1繊維強化樹脂)からなるマンドレルを成形型として、パイプを形成したときのパイプ中の残留応力を示す。温度Tは、第1樹脂のせん断強度と、パイプと異なる材料からなるマンドレルを成形型としてパイプを形成したときのパイプ中の残留応力と、が等しくなる温度である。したがって、温度Tよりも高温になると、第1樹脂のせん断強度が、パイプ中の残留応力を下回るので、パイプの破損が発生するおそれがある。
【0030】
第1繊維強化樹脂と同じ線膨張係数を有する材料からなるマンドレルを使用した場合、熱硬化によりパイプを形成する際に、マンドレルとパイプが同じ割合で熱膨張する。このため、形成したパイプ中の残留応力は、パイプの線膨張係数と異なる線膨張係数を有する材料からなるマンドレルを用いた場合と比較して、小さくなる。したがって、第1樹脂のせん断強度とパイプ中の残留応力とが等しくなる温度を、温度Tより高い温度である温度Tとすることができる。これにより、温度Tより高い温度であっても、第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも高く保つことができる。
【0031】
以上説明した第2実施形態のタンク100の製造方法によれば、第1繊維強化樹脂と異なる線膨張係数を有するマンドレルを使用してパイプを形成した場合と比べて、パイプ中の残留応力を低減させることができる。このため、第2層22を熱硬化により形成するときに、第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも高く保つことができるので、残留応力によるパイプの破損を抑制することができる。
【0032】
C.第3実施形態:
第3実施形態のタンク100の製造方法は、第2加熱条件が、ライナー10に巻回された第2繊維強化樹脂を第2樹脂の硬化温度で加熱する条件を含む点で異なる。また、第2樹脂の硬化温度において、第1層21に含まれる第1樹脂のせん断強度が、パイプ中の残留応力よりも高くなるような第1樹脂および第2樹脂を準備する工程を、工程P105において含む点で、第1および第2実施形態のタンク100の製造方法と異なる。第3実施形態のタンク100の製造方法におけるその他の構成は、第1実施形態のタンク100の製造方法と同じであるので、その説明を省略する。なお、第3実施形態のタンク100の製造方法は、第2実施形態で説明したタンク100の製造方法と組み合わせてもよい。
【0033】
図5は、2種類の熱硬化性樹脂のせん断強度(縦軸)および温度(横軸)の関係と、パイプ中の残留応力と、を示すグラフである。L6は、熱硬化性樹脂のせん断強度と温度との関係を示す。L7は、高耐熱性熱硬化性樹脂のせん断強度と温度との関係を示す。L8は、パイプ中の残留応力を示す。温度Tは、熱硬化性樹脂のせん断強度と、パイプ中の残留応力と、が等しくなる温度である。硬化した樹脂の性質は、樹脂に含まれる主剤、硬化剤、および触媒等によって制御され得る。例えば、高温において、せん断強度を比較的高く保つことができる高耐熱性熱硬化性樹脂を用いてパイプを形成することによって、樹脂のせん断強度と、パイプ中の残留応力と、が等しくなる温度を、温度Tよりも高い温度Tにすることができる。したがって、第1樹脂として、上述したような高耐熱性の熱硬化性樹脂を用いることで、温度Tよりも高い温度であっても、第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも高く保つことができる。
【0034】
また、上述したように、樹脂の硬化温度も樹脂に含まれる主剤、硬化剤、および触媒等によって制御され得る。したがって、比較的低温な硬化温度を有する第2樹脂を準備することによって、第2層22形成時に、パイプに加えられる熱を低減させることができる。
【0035】
以上説明した第3実施形態のタンク100の製造方法によれば、第2樹脂の硬化温度において、第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも高く保つことができる。このため、第2層22を熱硬化で形成する際、残留応力によるパイプの破損を抑制することができる。
【0036】
また、タンク100の製造において、第2層22形成時のパイプの破損を防ぐために、第2樹脂の硬化温度よりも僅かに低い温度で加熱することで、第2層22を形成する場合がある。しかし、硬化温度よりも僅かに低い温度で加熱するため、硬化温度以上で加熱する場合と比べて、第2樹脂の硬化に長い時間を要する。第3実施形態のタンク100の製造方法によれば、第2樹脂の硬化温度において、第1樹脂のせん断強度をパイプ中の残留応力よりも高く保つことができるので、第2層22形成時に、第2樹脂の硬化温度で加熱することができる。これにより、パイプの破損を防ぐために第2樹脂の硬化温度よりも僅かに低い温度で加熱する場合と比べて、タンク100の製造時間を短縮させることができる。
【0037】
D.他の実施形態:
(D1)第1実施形態において、アルミニウムの線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する材料からなるマンドレルを工程P105において準備してもよい。
第1実施形態において、マンドレルは、アルミニウムにより形成されていたが、アルミニウムに代えて、アルミニウムの線膨張係数よりも小さい線膨張係数を有する任意の材料により形成されていてもよい。そのような材料でマンドレルを形成することで、パイプ形成時のマンドレルの熱膨張を抑制することができる。そのような材料は、例えばSUS、インバー、鋼、またはノビナイト(登録商標)等である。かかる方法によれば、パイプ形成時のマンドレルの熱膨張が小さくなるので、形成したパイプ中の残留応力も小さくなる。したがって、第2層22を熱硬化により形成する際に、パイプの破損を抑制することができる。
【0038】
(D2)各実施形態において、第2加熱条件における最高加熱温度は、第1加熱条件における最高加熱温度よりも低くてもよい。
かかる方法によれば、加熱温度が一定である場合に限らず、時間毎に変化する場合であっても、第2層22形成時にパイプに加えられる最高温度は、パイプ形成時に加えられた最高温度よりも低くなる。このため、第2層22形成時に、第1樹脂のせん断強度が低下することを抑制でき、パイプの破損を抑制することができる。
【0039】
(D3)第1実施形態に記載のタンク100において、第1層21に含まれる第1樹脂の硬化温度は、第2層22に含まれる第2樹脂の硬化温度よりも高くてもよい。
このような構成のタンク100によれば、第1樹脂の硬化温度が第2樹脂の硬化温度よりも高いため、第1樹脂の硬化温度が第2樹脂の硬化温度よりも低い場合と比較して、第2層22を熱硬化で形成する際に、第1樹脂のせん断強度がパイプ中の残留応力を下回ることを抑制することができる。したがって、第2層22形成時のパイプの破損を抑制することができる。
【0040】
(D4)各実施形態において、第1層21は、ライナー10のストレート部11の外側を覆うように形成されているが、本開示はこれに限定されない。例えば、第1層21は、ライナー10のうち、口金14,15を除いた外周の部分を覆うように形成されてもよい。
【0041】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10…ライナー、11…ストレート部、12,13…ドーム部、14,15…口金、16…連通孔、20…補強層、21…第1層、22…第2層、100…タンク、AX…軸
図1
図2
図3
図4
図5