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特許7513100障害予測システム、障害予測装置及び障害予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】障害予測システム、障害予測装置及び障害予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20240702BHJP
   G01H 9/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H9/00 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022544614
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021030950
(87)【国際公開番号】W WO2022045117
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2020141353
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】矢野 隆
(72)【発明者】
【氏名】川上 浩
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 誠
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-221684(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0007996(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M3/00-3/40、13/00-13/04、99/00
G01H1/00-17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を感知する光ファイバと、
前記光ファイバが感知した前記環境情報を取得するセンシング機能部と、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類するイベント分類機能部と、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備えた障害発生リスク算出部を備え、
障害発生リスク算出部は、前記分類されたイベントの履歴のうち、前記対象物の指定の区間のイベントの履歴を、前記イベントの前記種類に対応する前記障害モデルに入力して、前記対象物における当該物理メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、前記障害モデルの各々の前記算出の結果を前記指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する障害予測システム。
【請求項2】
前記対象物は、通信ケーブル、送電ケーブル、パイプラインである請求項1に記載の障害予測システム。
【請求項3】
前記イベント分類機能部は、音、振動及び温度のうちの少なくとも一つを示す前記環境情報に基づいて、前記イベントを分類する請求項1または2に記載の障害予測システム。
【請求項4】
前記イベント分類機能部は、前記環境情報の時間的な変化に基づいて、前記イベントを分類する請求項1~の何れか1項に記載の障害予測システム。
【請求項5】
前記可用性が前記対象物の価値評価に用いられる
請求項1~の何れか1項に記載の障害予測システム。
【請求項6】
前記積算されたリスク情報が前記対象物の予防保守の実施計画立案に用いられる
請求項1~の何れか1項に記載の障害予測システム。
【請求項7】
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を感知する光ファイバが感知した前記環境情報を取得し、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類し、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化したものであって、前記イベントの前記種類に対応する障害モデルに、前記分類されたイベントの履歴のうち、前記対象物の指定の区間のイベントの履歴を入力し
前記対象物における当該物理メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、
前記障害モデルの各々の前記算出の結果を前記指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する障害予測方法。
【請求項8】
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を感知する光ファイバが感知した前記環境情報を取得するセンシング機能部と、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類するイベント分類機能部と、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備えた障害発生リスク算出部を備え、
障害発生リスク算出部は、前記分類されたイベントの履歴のうち、前記対象物の指定の区間のイベントの履歴を、前記イベントの前記種類に対応する前記障害モデルに入力して、前記対象物における当該物理メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、前記障害モデルの各々の前記算出の結果を前記指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する障害予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象物に沿って設置された光ファイバを用いた、長尺なインフラストラクチャの障害予測システム、障害予測装置及び障害予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海底通信ケーブル、海底送電ケーブル又はパイプラインなど、非常に長い範囲に亘って敷設されるインフラストラクチャをできるだけ漏れなく監視したいというニーズが存在する。これらのインフラストラクチャにおける障害の原因には、構造物材料の経時劣化のように設計時から予測可能な原因と、インフラストラクチャに対して何かがぶつかる、何かと擦れるなどの、設計時には予測困難な設置場所の環境に起因する原因とがある。
【0003】
上記の環境に起因する原因には、インフラストラクチャにおける異常の原因である事象の発生から、インフラストラクチャの機能に障害が発生するまでの時間が比較的短く、障害との因果関係が比較的わかりやすいものと、損傷が長時間かけて徐々に進み、障害の直接の原因がはっきりしないものとがある。
【0004】
例えば海底ケーブルを例に説明すると、海底に配置される部材の経時劣化の速度は遅いので、障害の原因としてほぼ無視できる。一方で、海底ケーブルの設置環境は障害の発生リスクに大きく影響する。障害の原因の約7割を占めるといわれているのが、漁具や船舶の錨と海底ケーブルとの接触である。このような事象を監視する手段として例えば特許文献1,2の技術が開示されている。
【0005】
漁具や錨が海底ケーブルに当たって障害が発生するケースは、障害の原因となる事象の発生から障害が発生するまでの時間が比較的短く、原因事象と障害の因果関係が比較的わかりやすい。一方で、障害の直接の原因がはっきりしないものも多い。特に比較的軽微な損耗が、長期間、同一個所に蓄積して障害に至るような場合には、障害の原因の解明は困難であった。
【0006】
機械や構造物については、長時間かけて損耗を蓄積する現象を複数の点センサを用いて捉え、また定期的に点検を行うことで予防的な保守アクションを取る技術が、開示されている。例えば特許文献3ではボイラーが障害に至る前に保守する予防保守を行う技術が開示されている。ボイラーのような構造物は人間が点検することが可能であり、また要所に点センサを設けることにより監視できる。それにより、障害にまで至らない比較的小さな異常も検知され、またそのような異常の蓄積は、前回と今回の点検の記録の差分の形で把握される。それらの情報を基に適切な予防保守アクションを行うこともできる。
【0007】
一方、海底ケーブルやパイプラインのような長尺インフラストラクチャでは、全体を網羅するようにセンサを配置することは容易ではない。加えてこのような長尺インフラの多くは海底や砂漠などに設置されており、定期的な点検の実施が困難である。その結果、即時障害にならない軽微な事象は検知されにくく、定期点検による損耗などの蓄積の状況の把握も難しいため、適切な予防保守を行うことは困難だった。
【0008】
[光ファイバセンシング技術]
光ファイバセンシングは、例えば、コヒーレント光をセンシング光ファイバに入射し、センシング光ファイバの各部分からの戻り光を検出及び分析して、センシング光ファイバに作用する擾乱(動的歪み)を環境情報として取得するものである。このような擾乱は、典型的には、センシング光ファイバの部分に伝わる音響波等によって引き起こされるセンシング光ファイバの振動である。そのような、少なくともセンシング光ファイバの部分における振動の存在を表す情報を環境情報として取得する技術は、分布型音響センシング(DAS:Distributed Acoustic Sensing)と呼ばれる。
【0009】
DASの技術は、例えば、特許文献4,5及び非特許文献2などに開示されている。DASはOTDR方式のセンシング方法の一種である。ここでOTDRはoptical time-domain reflectometryの略である。
【0010】
図1は、一般的なOTDR方式の光ファイバセンシングシステムの動作の説明図である。上はセンシングシステムの主要構成を模式的に示しており、その下にはプローブ光及びその後方散乱光の距離に応じたパワーレベルと、プローブ光及びその後方散乱光が時間とともに移動する様子を模式的に表している。
【0011】
図1に表されるように、OTDR方式の光ファイバセンシングシステムは、インテロゲーター100と光ファイバ200とを備える。インテロゲーター100は、プローブ光900を、センシング光ファイバである光ファイバ200に送出する。プローブ光900は、光ファイバ200を右方に移動し、移動の過程において、光ファイバ200の各位置において、後方散乱光801、802等の後方散乱光が生じる。当該後方散乱光は、典型的には、レイリー後方散乱光である。後方散乱光は、インテロゲーター100に向けて光ファイバ200を左方に移動し、インテロゲーター100に入射する。光ファイバ200の各位置で生じた後方散乱光は、その位置の環境の影響を受けている。当該環境は、例えば、その位置の温度や音響等の振動の存在である。
【0012】
インテロゲーター100は、戻り光である後方散乱光が受けている、光ファイバ200の各位置における環境の影響の程度を検出する。
【0013】
そして、インテロゲーター100は、当該戻り光から検出した情報から、光ファイバ200の各位置における環境に関する環境情報を導出する。当該環境情報は、例えば、光ファイバ200の振動状況を表す情報である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第1619435号公報
【文献】特許第2959888号公報
【文献】特許第2851870号公報
【文献】英国特許第2126820号明細書
【文献】特開昭59-148835号公報
【文献】米国特許第10466172号明細書
【非特許文献】
【0015】
【文献】大山 昇、桑原 守二 監修、「光海底ケーブル通信」 KDDエンジニアリング・アンド・コンサルティング 発行、1991年 発行。
【文献】R. Posey Jr, G. A. Johnson and S.T. Vohra, ”Strain sensing based on coherent Rayleigh scattering in an optical fibre”, ELECTRONICS LETTERS, 28th September 2000, Vol. 36 No. 20, p.1688
【文献】G. Marra et al., “Ultrastable laser interferometry for earthquake detection with terrestrial and submarine cables”, Science 03 Aug 2018: Vol. 361, Issue 6401, pp. 486-490
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記のように、長尺インフラストラクチャでは、全体を網羅するようにセンサを配置して監視することは容易ではない。更に、海底のような場所に設置されている長尺インフラストラクチャを、人間が点検することも容易ではない。その結果、障害の発生の予測と、適切な予防保守を行うことは困難であった。
【0017】
上記のように、長尺なインフラに加わった振動や衝撃を網羅的に監視する手段を用いて、即時には障害に至らなかった事象の履歴を管理して、将来の障害が発生するリスク(以下、「障害発生リスク」とも呼ぶ。)を予測することは困難であった。
【0018】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、長尺なインフラに加わった振動や衝撃を監視する光ファイバセンシングを用いて、即時には障害に至らなかった事象の履歴を管理して、将来の障害発生リスクを予測する仕組みを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の障害予測システムは、
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を検知する光ファイバと、
前記光ファイバが感知した前記環境情報を取得するセンシング機能部と、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類するイベント分類機能部と、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備えた障害発生リスク算出部を備え、
障害発生リスク算出部は、前記分類されたイベントの履歴を、前記イベントの前記種類に対応する前記障害モデルに入力して、前記対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、前記算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する。
【0020】
本発明の障害予測方法は、
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を検知する光ファイバが感知した前記環境情報を取得し、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類し、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化したものであって、前記イベントの前記種類に対応する障害モデルに、前記分類されたイベントの履歴を入力し
前記対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、
前記算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する。
【0021】
本発明の障害予測装置は、
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を検知する光ファイバが感知した前記環境情報を取得するセンシング機能部と、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類するイベント分類機能部と、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備えた障害発生リスク算出部を備え、
障害発生リスク算出部は、前記分類されたイベントの履歴を、前記イベントの前記種類に対応する前記障害モデルに入力して、前記対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、前記算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長尺なインフラに加わった振動や衝撃を監視する光ファイバセンシングを用いて、即時には障害に至らなかった事象の履歴を管理して、将来の障害発生リスクを予測する仕組みを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】一般的なOTDR方式の光ファイバセンシングシステムの動作説明図である。
図2】本発明の実施の形態1における障害予測システムの構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施の形態1における障害予測システムの構成例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施の形態1における障害発生リスク算出部33の動作例を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態2における障害予測システムの監視サーバー30の動作例を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施の形態3における障害予測装置の構成例を示すブロック図である。
図7】本発明の実施の形態3における障害予測装置の動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の記載及び図面は、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、以下の各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複する説明は省略されている。
【0025】
<実施の形態1>
[構成の概要]
まず、図2を参照して、本実施の形態1に係る障害予測システム1の構成例について説明する。この実施の形態では、後述の海底ケーブル10を障害予測の対象物として説明している。なお、対象物は、通信ケーブル、送電ケーブル、パイプラインなどであっても良い。
【0026】
障害予測システム1は、少なくとも、障害の予測対象となる海底ケーブル10(以下、ケーブルともいう。)と、海底ケーブル10に備わっている光ファイバ11を用いて海底ケーブル10の周囲の環境情報(典型的にはケーブルに加わる音、振動又は温度)をセンシングするDASインテロゲーター20と、監視サーバー30とを備えている。
【0027】
DASインテロゲーター20は、センシング機能部21及びイベント検知機能部22を含んでいる。DAS技術の概要は背景技術で述べた。光ファイバ11は、機械的な補強のための被覆が施された海底ケーブル10の内部に収容されている。また、光ファイバ11は、障害予測の対象物である海底ケーブル10に沿って敷設されていても良い。この光ファイバ11はセンサ機能およびセンシング信号の伝送媒体の役割を持つ。
【0028】
センシング機能部21は、長尺な光ファイバ11の各点で生じた後方散乱光を順次受信し、各点における環境情報を含んだセンシング信号(以下、「センシングデータ」とも呼ぶ)を出力する。環境情報は、例えば、音、振動、温度又はそれらの時間変化であっても良い。
【0029】
それらセンシング信号は監視サーバー30に出力されるが、特にデータ量が膨大となる音、振動のようなデータについては、イベント検知機能部22が、異常イベントを含んでいる部分を抽出し、データ量を絞り込んだうえで、監視サーバー30に出力する。例えば、イベント検知機能部22は、音や振動の大きさが所定の条件を満たした場合に、環境情報を異常イベントとして分類する。イベント検知機能部22が検出した事象の全てをここでは異常イベントと呼ぶことにする。
【0030】
監視サーバー30は、監視対象の海底ケーブル10の設置された位置(水深を含む地理座標)と海底ケーブル10の種類や海底ケーブル10の設置形態(表面敷設、埋設、付加防護管の有無)などの情報(これらはRPL:route position listと呼ばれる)と、海底ケーブル10の周辺の地図(海図)、を少なくとも記憶している。さらに、海底ケーブル10の各区間の異常イベントを記録するデータベース32および障害発生リスク算出部33を少なくとも備えている(これらの内容は後述する)。
【0031】
[データ処理の説明]
次に図3を参照して、本実施の形態1に係る障害予測システム1のデータ処理の流れの例について説明する。
【0032】
まず全体に渡っての主な処理内容を述べる。
【0033】
海底ケーブル10の周囲の環境情報は、センシング機能部21で収集され、そのセンシングデータはイベント検知機能部22に送られる。
【0034】
イベント検知機能部22では、イベント検知条件に照らして異常イベントを含む可能性がある部分だけを抽出し、それら異常イベントデータをイベント分類機能部31に送る。
【0035】
イベント分類機能部31では、イベント分類条件に照らしてイベントを分類し、さらに複数個所で検知した同じイベントをまとめる、移動するイベントを追尾する、などの分析を行って、類型化された異常イベント分類後データを、データベース32に保存する。
【0036】
障害発生リスク算出部33は、データベース32から読み出した異常イベント分類後データの履歴を、障害モデルに入力して、将来、海底ケーブル10に障害が発生するリスクを推算する。
【0037】
[イベント検知機能部22の処理]
DASインテロゲーター20内に備わるイベント検知機能部22は、データの一次処理を行う部分であり、予め内部に設定されたイベント検知条件に基づき、大量のセンシングデータの中から、異常イベントが含まれている部分を抽出し、「異常イベントデータ」として出力する。センシング機能部21が出力するセンシングデータには、背景雑音しか含まれていない場所および時間のデータも大量に含まれている。イベント検知機能部22はそれら分析する必要のない情報を、有意な情報まで削ってしまわない範囲で取り除き、また、次のイベント分類機能部が分類しやすいようにデータの一次処理も行う。イベント検知機能部22への入力データ量に対する出力データ量は、状況により左右されるが、典型的には数百分の一ほどになる。
【0038】
イベント検知機能部22での処理の一例を詳細に説明する。
【0039】
[地理座標の付加]
センシング機能部21が出力するセンシングデータの段階では、個々のデータの取得位置は光ケーブル上の位置(例えば光ケーブル端からの距離)で表現されている。イベント検知機能部22は、ケーブル上の位置に対応する地理座標(水深を含む)を個々のデータに付加する。
【0040】
各ケーブル上の位置に対応する地理座標(水深を含む)は、ケーブル上の位置と、施工記録に記載されている光ケーブルの地理座標とを照らし合わせることで求まる。この対応関係は、ケーブル設置後は変わらないため、監視サーバー30内に保持しているRPLなどの情報を用いて予め対応関係を求めておき、イベント検知機能部22に記憶させておく。
【0041】
[センサ特性の不均一性の補正:ケーブル種類などの違いと補正]
この処理は必要に応じて行われる処理である。
【0042】
環境情報を取得する海底ケーブル10は、設置場所によってケーブルの種類や設置工法が異なる。これにより海底ケーブル10のセンサとしての特性が場所ごとに異なる。例えば、取得した環境情報信号の中の特定の周波数域の減衰度合いが異なる。イベント検知機能部22においてより高い信頼度のイベント分類結果を得るために、この影響を取り除いて元の信号に近づける補正処理を行うことが望ましい。
【0043】
ここで、ケーブル種類の違いは、例えば送電用/通信用などによる断面構造の違い、保護被覆の構造の違い(外装鉄線の有無やその種類)などである。設置工法の違いは、例えばケーブルを海底表面に置くだけの工法や、海底に溝を掘ってケーブルを埋める工法などの違いである。
【0044】
これらのケーブルの場所ごとの違いは、製造記録や施工記録(例えばRPL)を参照すれば分かるので、海底ケーブル10の場所ごとにほぼ一義的に補正できる。具体的な補正方法は、例えばフィルタ演算により特定の周波数域の振幅を増大させるものである。
【0045】
なおこの補正を取得データ側に施すのではなく、後述する分類条件側に施す手法も存在する。例えばケーブルの構造により環境情報の高周波側が減衰する特性があれば、取得データの補正はせずに、分類条件の高周波側を取得位置のケーブル種類に応じて減衰させることで、パターン識別の一致が得られやすくなる。しかし取得データ側を補正するほうがデータ利用の汎用性が高まるなどの利点もあり、好ましい。
【0046】
[センサ特性の不均一性の補正:現地ごとの違いと校正]
敷設されている海底ケーブル10の各点のセンサ特性のばらつきの要因は、前述の施工記録などから一義的に決まる(推定できる)ものだけではない。例えば、一律の深さで埋設されているという記録であっても、実際は場所ごとに埋設深さがばらついていたり、被せていた土砂が流されて露出していることもある。
【0047】
この課題に対しては、現地に広範囲に伝わる音をリファレンスとして利用して校正する方法が考えられる。リファレンス音には、人工的な音や自然に生ずる音が利用されてよい。同じ音が海底ケーブル10上の各点で感受されるので、それらが同一に近づくように、もしくは音源からの距離に応じた値に近づくように、各点ごとに補正する。
【0048】
またこの校正により、海底ケーブル10上の各点が、目的とする環境情報の取得に適するかどうかも把握できる。例えば、ある点は感度が非常に低くて補正しきれない、またある点は特定の周波数域で共鳴しやすく補正も難しい、などである。これら環境取得にやや難のある点は、ケーブル上の前後の移動平均トレンドと比べることで抽出できる。そこで、後段のイベント検知分類する際に、これら難のある点を、観測点の分布を意識しつつ除外して、ほぼ平均的な環境情報が取得できていると思われる点からのデータを利用することで、観測性能を改善できる。
【0049】
[周波数帯ごとに分ける]
本処理は必要に応じて行う処理である。イベント検知機能部22は、センシングデータの中から、イベントが含まれている可能性がある部分をイベント検知条件に照らして抽出するが、その前にセンシングデータを周波数帯域ごとに分ける機能を備えることが望ましい。所定の帯域とは、例えば、極低周波から0.01Hz,0.01から0.1Hz,0.1から1Hz,1から10Hz,10から100Hzのような分け方である。ただし帯域の境界付近に存在するイベントの検出を漏らさないようにするため、各帯域は多少オーバーラップさせることが望ましい。
【0050】
[イベント検知機能]
イベント検知機能部22は、各々の周波数帯に分けられたデータの中にイベントが含まれているかどうかを比較的単純な条件で判定して出力する。例えば、イベント検知機能部22は、強度の絶対値に対して一定の閾値もしくは移動平均値に連動した閾値の超過で判定する。
【0051】
イベント検知機能部22は、異常イベントデータを次のイベント分類機能部31へ渡す。ここでの異常イベントデータは、何かのイベントが含まれていると判定する根拠となった、一次処理されたセンシングデータ(該当部分)を指す。これにより、イベント情報が明らかに含まれていない部分のデータは渡さずに済むため、イベント分類機能部31が処理すべきデータを更に絞ることができる。また、周波数分析を再びイベント分類機能部31で行うなどの無駄な処理も排除できる。
【0052】
ここで、当該イベント検知部分が含まれるオリジナル(一次処理される前)のセンシングデータも、イベント分類機能部31で使用するかどうかに関わらず、監視サーバー30に渡して記録しても構わない。例えば後で(オフラインで)詳しく分析したい場合などに利用することができる。このような、用途や状況に応じた動作の細かな設定を可能にするためにプログラマブルな仕様にしておくことが望ましい。
【0053】
[イベント分類機能部31の処理]
監視サーバー30内に備わるイベント分類機能部31の機能の一例を詳細に説明する。
【0054】
イベント分類機能部31は、受け取った異常イベントデータの中に既知の異常イベントが含まれているかを予め用意されている分類条件に照らして調べる。そして、イベント分類機能部31は、最も確からしい分類結果を、異常イベント分類後データとして、時刻および場所などの付随情報と共に、データベース32に出力する。その際、検出強度などの情報も合わせて良い。分類処理の結果、“波形”情報はなくなるため、イベント分類機能部31への入力データ量に対する出力データ量は、典型的には数千分の一ほどになる。
【0055】
ただし参考情報として、分類の根拠となるなどした異常イベントデータを異常イベント分類後データに添付して、データベース32に保存してもよい。
【0056】
異常イベントデータの中には、既知の異常イベントとしては十分な確からしさで分類できないものも含まれている。その場合は、未知のイベント種類、または、イベント無し、の分類結果となる。そのような異常イベントデータも通信容量やデータベース32の容量が許容する範囲内で、データベース32に記録することが望ましい。
【0057】
これらの“波形”を含む履歴データは、通常時は障害発生リスク算出部33で活用されることはないが、後述の実施の形態2にて活用例を説明する。
【0058】
イベント分類機能部31は、異常イベントデータを分類するための、複数の分類条件を予め備えている。分類条件は、分類に用いられる「異常イベントに固有の特徴」と、そのイベント検出時に出力される情報がペアになった情報である。加えて付随する情報がある。ここでイベント検出時に出力される情報は、次の処理である障害発生リスク算出部33に渡される情報であり、少なくともその異常イベントの種類を表す用語が含まれる。さらにイベントの種類によっては、観測されたイベントの強度なども出力される。
【0059】
また分類条件に付随する情報とは、分類した後の追加処理の指定などである。分類した後の処理とは、例えば後述する、同一音の識別や移動音源の追尾などであり、付随する情報とは、それらを行うか否かのフラグ情報である。
【0060】
分類条件の中の、分類に用いられる「異常イベントに固有の特徴」は、ケーブル設置場所や海底の土質などが変わっても正しく分類できるように用意されている。その方法は、例えばケーブルの設置場所や海底の土質などに影響されにくい特徴を見出して、それを基に分類する、などである。
【0061】
もし同一の異常イベントが、ケーブル設置状況のばらつきなどによって1つの分類条件では正しく分類できないとしても、複数の分類条件のいずれか1つで検知されるようにして、同一の異常イベント種類に紐づければよい。
【0062】
この分類条件としては、周波数分析や時間的に変化する様子、パターン識別、機械学習などの技術を組み合わせて用いても良い。
【0063】
[複数個所で検知される同一音をまとめる処理]
ケーブルから離れた場所で発せられた音は、同心円状または球状に広がり、ケーブルの複数の場所で検出される場合がある。それらを別々のイベントと扱うのは正しくなく、そのままでは障害リスク予測にも悪影響を与える。そこで、検出されたイベントの種類、地理座標および時刻情報をさらに分析することで、一つの音源から出た音であると推定識別する。イベント分類機能部31は、各々の異常イベントデータを分類後に、同一音があればまとめる種類の異常イベントであれば、この処理を行う。
【0064】
同一音の識別処理を行うべきかどうかは、分類条件の中にフラグとして予め用意されている。例えば、海底ケーブル10からやや離れたところを底引き漁具が動くときの音・振動を特徴として分類する分類条件においては、同一音をまとめる処理を行うフラグは真(True)である。一方、ケーブルに何かの物体が当たるときの音・振動を特徴として分類する分類条件においては、同一音をまとめる処理を行うフラグは偽(False)である。
この、同一音をまとめる処理は、水中音に対してだけでなく、海底地面を伝わってくる振動についても同様に行うことができる。
【0065】
さらに、長尺な光ファイバそれ自身がセンサアレイとして利用できるという本構成ならではの特長を利用して、ケーブルから離れたところで生じた複数の音源、振動源を分離・識別することもできる。空間位置が互いに異なる複数の音源は、周知である音源分離技術を用いることにより、たとえ時間的に重なって観測されても分離が可能である。
一例として、底引き漁具が同時に2つ曳かれており、近くにある光ファイバケーブルがそれらを一緒に検出した場合を考える。2つの音源の空間的位置が異なるので、光ファイバの各点に届く振動も少しずつ異なっている。光ファイバの各点で検知した音・振動を、音源分離の演算処理を施すことで、漁具の数やおよその位置の情報を取り出すことができる。
これら、同一音をまとめる処理、音源分離の処理は、障害予測システムの適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。これらの処理は、例えばイベント分類機能部31で行われる。これらの処理には、処理の対象となる音、振動の“波形”データが、異常イベント分類後データに付随している必要がある。まとめや音源分離の処理後は、これらの波形データのデータベース32への保存蓄積は行わなくてもよい。
【0066】
[移動する音源の追尾処理]
例えばケーブルからやや離れたところを底引き漁具が動くとき、その音源は移動する。音を出しつつ移動すると、同種の異常イベント分類後データが、場所を移動しながら検知され続ける。そこで、イベント分類機能部31に、移動物体のモデルを用意し、過去の検知情報を移動モデルに当てはめることで、当該漁具の速度と進行方向がおおよそ把握され、次に検出される場所が予想できようになる。そして、例えば次に検知されると予想される場所を、空間的・時間的により細かに調べるなども可能となる。また同じ種類のイベントが再び検出される可能性が高いため、そのイベントの検出しきい値を下げるなどして、検出・分類の信頼性をより高めることもできる。
【0067】
移動音源の追尾処理を行うべきかどうかは、分類条件の中にフラグとして予め用意されている。例えば、海底ケーブル10からやや離れたところを底引き漁具が動くときの音・振動を特徴として分類する分類条件においては、追尾処理を行うフラグは真(True)である。一方、ケーブルの近くに何かの重量物が着底したときの音・振動を特徴として分類する分類条件においては、追尾処理を行うフラグは偽(False)である。
【0068】
この、移動する音源の追尾の処理は、水中音に対してだけでなく、海底地面を伝わってくる振動についても同様に行うことができる。
【0069】
一例として、イベント分類機能部31は、オッタートロール漁具が海底に接触しながら進む場合において、近くにある海底ケーブル10が感じる振動の特徴パターンを分類条件として予め備えているとする。イベント分類機能部31は、異常イベントデータの中にオッタートロール漁具が海底を進んでいる特徴を見つけ出し、「底引き漁具が海底を進む」という分類条件への該当が最も確からしいと判定する。この分類条件には、「底引き漁具が海底を進む」という異常イベントの種類を示す用語(種類の名称)の他に、分類後に、同一音の識別処理を行うこと、また移動モデルに当てはめて追尾すること、という後続処理を指示するフラグ情報も持っている。
【0070】
[障害発生リスク算出部33の処理]
監視サーバー30内に備わる障害発生リスク算出部33は、異常イベントが多数回蓄積することで障害に至るモデル(以降、障害モデルと呼ぶ)を、その物理メカニズムごとに予め備えている。そして、障害発生リスク算出部33は、データベース32から、指定された海底ケーブル10の区間ごとに異常イベント分類後データを読み出し、障害モデルごとにリスクを算出する。障害発生リスク算出部33は、各障害モデルのリスク値出力を合計して、当該区間のリスク値として出力する。障害発生予測のアルゴリズムの詳細は後述する。
【0071】
障害発生リスク算出部33は、一定時間ごとに、もしくは算出指示に基づき、この障害発生リスクを算出する動作を行う。そして監視サーバー30は、障害発生予測、障害予兆警告及び総合的な可用性情報の少なくとも一つを出力する。
【0072】
[障害発生予測のアルゴリズム]
障害発生予測方法の一形態は、障害発生リスク算出部33が障害モデルを持ち、障害発生リスク算出部33がセンシングで得た異常イベント分類後データを当該モデルに入れて、残存マージン量を推算するものである。障害モデルは、ある異常イベントが同一区間に複数回起きたときに、ある物理メカニズムでケーブル障害に至るまでを推算するモデルである。
【0073】
一例として海底ケーブル10に岩のような物体が落下して損傷して障害に至る予測をする障害モデルの算出例を説明する。海底ケーブル10の各場所ごとに、物体が当たった異常イベント分類後データの履歴を、強さの度合いが3未満のイベントは係数0を乗じて加算し(実質的には影響なし)、度合いが3~5のイベントには度合いに係数5を乗じて加算し、度合いが5~8のイベントには係数10を乗じて加算し、度合いが8~10のイベントには係数20を乗じて加算する。障害発生リスク算出部33は、この障害モデルにおいて同一視できる区間内において、該当する種類のイベント履歴の全てをこの方法で集計して、その合計値が100に到達すると障害が発現すると予測する。この障害モデルの例は、イベント強度の度合いに対して障害リスクが非線形に増大する例である。単なる積算で算出できる障害モデルもありうる。
【0074】
損傷に至る物理メカニズムごとにこのような障害モデルが存在する。そして障害発生リスク算出部33は、このような障害モデルを一つ以上予め備えており、それぞれの出力値を合計して、指定された区間の障害発生確率又は可用性を出力する。
【0075】
この予測方法では、障害モデルごとに、センシングで得る異常イベントの蓄積に対する障害発生までのマージン量の関係を予め備えておく必要がある。フィールド事例データが少ない場合には模擬損傷実験を行って把握し、備えておく。
【0076】
また別の一形態は、事故に遭う確率を基にした障害モデルである。確率事象に基づく障害モデルであるが、異常イベントの履歴と組み合わせてもよい。
【0077】
障害発生リスク算出部33内での処理フローの一例を図4に示す。
【0078】
前述のように検知、分類した異常イベント分類後データは、データベース32に蓄積されている。障害発生リスク算出部33は、備えている障害モデルごとに(S301)、当該障害モデルに影響を及ぼす種類の異常イベント分類後データを、海底ケーブル10の中の指定の区間に渡って読み込み(S102)、読み込んだ異常イベント分類後データ履歴を当該障害モデルに入力して、リスクを算出する(S103)。これを全ての障害モデルに対して行ってリスク値を合計し、指定された区間のリスク値として出力する(S105)。
【0079】
[具体例]
障害モデルの例を、海底ケーブル10が対象物である場合を例に5つ挙げる。
【0080】
一つ目の例は、摩擦による損耗である。海底ケーブル10が尖った岩礁に引っかかっており、海底ケーブル10と海底との間に隙間があるような(海底から浮いている)場合がある。一つ目の例は、このような場合に、海底の潮流などによって海底ケーブル10が揺れることで、海底ケーブル10と岩礁との接触点が擦れ、長い時間をかけて海底ケーブル10の被覆が損耗して障害に至るという物理メカニズムの障害モデルである。このような場合、擦れる音や振動が恒常的に検知される。また例えば、海底ケーブル10の外装鉄線が切断に至った瞬間には、特有の音や振動が検知され、予兆を示す異常イベントとなる。
【0081】
このように、特有の音や振動が、長尺インフラ上の特定の場所にて恒常的に検知される履歴は、将来の障害と相関がある可能性が高い。上記は海底ケーブル10の例であったが、内部に流体が流れているパイプラインのようなインフラでは、内部流体に起因する異常な音や振動も将来の障害と関係する可能性がある。
【0082】
二つ目の例は、ほとんどリスクとならないイベントを処理する障害モデルの例である。例えば海底ケーブル10の傍に生息する海洋生物(例えば鉄砲エビ)が出す音などは、それが多数回蓄積しても海底ケーブル10が障害に至る可能性は極めて小さい。イベント分類機能部31は、海洋生物が出す音も分類し、異常イベント分類データとして監視サーバー30に出力する。障害発生リスク算出部33は、このような特定の海洋生物が出す音や振動のイベントを扱う障害モデルも備えている。そのモデルでは、イベントの発生回数に乗ずる係数パラメーターがゼロ近くに設定されることで、障害リスクとしてほとんど現れないという結果になる。
【0083】
三つ目の例は、海底ケーブル10のある区間を単位として、海底ケーブル10の近くに物が落ちる、近くで重量物が動く、などである。海底に落下する危険物体としては船の錨や漁具などが考えられる。また近くで重量物が動く現象としては、浮き漁礁の重りが引きずられている、船の走錨、オッタートロール漁、海底地すべり、などの事象が考えられる。DASインテロゲーター20(以下、「インテロゲーター」とも呼ぶ。)は、これらの物体が海底ケーブル10に直接当たらずとも、海底を通じて伝わるこれらの事象の振動を異常イベントとして検知できる。
【0084】
これらの異常イベントの障害モデルは、第一義的には海底ケーブル10に重量物が当たる確率モデルである。海底ケーブル10に重量物が当たれば即時に障害に至ると考えられるためである。もし海底ケーブル10に直接当たったものの障害に至らなければ、海底ケーブル10の損傷の蓄積や進行、および事故に当たる確率を組み合わせた障害モデルで扱えばよい。
【0085】
このように、「障害に至る前の異常イベント」には、長尺インフラに損傷が蓄積するようなイベントだけでなく、損傷リスクの高い場所に設置されていることを示すイベントも含まれる。
【0086】
四つ目の例は、埋設された海底ケーブル10の露出である。浅海においては海底に溝を掘りその中に海底ケーブル10を埋設する工法が一般的に行われる。海底ケーブル10の上を覆う土砂が保護層の役割をして、漁具などと海底ケーブル10が直接当たることを防ぐものである。しかし潮流などによって土砂が移動しやすい海底の場合、埋設してあった海底ケーブル10が露出してしまうことがある。露出した部分の再埋設工事が必要となる場合もある。
【0087】
海底ケーブル10の埋設時と露出時では、海底ケーブル10が感じる環境音,環境振動が変化する。例えば、例えば露わになった海底ケーブル10に潮流とともに土砂が当たる音であったり、海水の流れが海底ケーブル10にカルマン振動をもたらすことによる振動、などがある。
【0088】
このように、異常とは言えない音や振動であっても、時間的に変化した、という分析履歴は、将来の障害と相関がある可能性がある。例えば被覆物や設置状況に変化が生じた可能性が考えられる。被覆物や設置状況の変化が将来の障害発生を予測するうえで重要であることは海底ケーブル10に限らず、架空ケーブルやパイプラインなど様々な長尺インフラに共通している。
【0089】
五つ目の例は、海底ケーブル10の熱水噴出孔への接近である。海底の熱水噴出孔では水圧により300℃程度の水が噴出することもあり、一般的な海底ケーブルはこのような高温水に直接接すれば障害に至る。そのため、海底ケーブル10は、熱水噴出地域を避けて敷設されるが、事前調査で分からなかった噴出点があり、その近くに海底ケーブル10を敷設してしまったり、噴出点が新たに現れたり、既存の湧水点の水温が上昇することもある。海底ケーブル10で環境温度の変化を監視していれば、リスクに気づくことができる。
【0090】
この事例も、落石同様に事故に遭うランダム確率モデルであるが、温度が時間的に変化したという異常イベントは長尺インフラの損傷蓄積モデルで障害発生予測にも役立つ。例えばパイプラインでは内部を流れる流体が周囲環境とは異なる温度を持って流れていることが多いので、温度の異常は断熱被覆の損傷や流体の漏れに関係している可能性がある。
【0091】
その他にも、近くの地滑りの振動が検知されればその周辺の地勢が不安定であることが分かる。傾斜地に置かれるなどした海底ケーブル10は、不安定な設置状態の場合には時おり滑り落ちたりする。これも岩礁に引っかかるなどの将来のリスクを検討すべき可能性がある。これらの振動イベント履歴を蓄積することで将来の保守アクション検討に役立つ。
【0092】
[障害発生リスクという情報の活用例]
センシングデータの蓄積とそのリスクを推算する機能により、障害発生リスクの高低という情報が得られる。その情報の活用例を、海底ケーブル10を例に、3つ説明する。
【0093】
一つ目の活用例は修理工事などの準備である。ここでの修理工事とは、必要な資材を手配し用意しておくこと、また断となる期間の迂回通信ルートを契約し、修理工事船を予約しておくことを含む。これらにより予防交換修理を行えば、障害が発生してから修理手配を始めるよりもサービス停止期間を短縮することができる。また国家行事などの重要なイベントがある期間を避けて計画的に修理できる。
【0094】
二つ目の活用例は可用性(信頼性)を回線リース料などへ反映することである。障害発生リスクの推定方法および指標が複数の回線で比較可能となれば、障害発生リスクが低いと認められる回線はより高値で売ることができ、リスクが高めの回線は、断に対する備えが別途用意されているなど支障が少ない用途向きに売ることができるようになる。
【0095】
また障害発生時の修理費用を補償する保険が設定される場合には、障害発生リスクに応じた保険料算定に用いてもよい。
【0096】
三つ目の活用例はリスクの少ない設置ルートをより適切に選択できることである。長い時間をかけて障害に至る現象は、因果関係が直接的には見えにくいため、そのリスク判断は人の経験や勘に頼ることも多い。一般的には最も経済的なルートは最短のルートである。これに対してリスクの高いエリアを迂回すれば数十kmのケーブル長が増え、追加の増幅中継器が必要になることもあり、その判断は容易ではない。障害発生リスクポテンシャルを定量的に表すことが可能になれば、ルートを迂回させるのに要するコストと、障害発生時の修理コストと損害予想額に障害発生確率をかけたものとを比較して判断できる。
【0097】
以上述べてきた構成とデータ処理により、長尺なインフラに直接もしくは間接に加わった、即時には障害に至らなかった異常イベントの記録を蓄積して、将来の障害発生リスクを算出することが可能となる。
【0098】
以上のように、実施の形態1における障害予測システム1は、光ファイバ11、センシング機能部21、イベント検知機能部22、障害発生リスク算出部33を備える。光ファイバ11は、対象物(例えば上述の海底ケーブル10)に沿って設置され、対象物の環境情報を検知する。センシング機能部21は、光ファイバ11が感知した環境情報を取得する。イベント検知機能部22は、環境情報が示す対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類する。障害発生リスク算出部33は、対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備える。更に、障害発生リスク算出部33は、分類されたイベントの履歴を、イベントの種類に対応する障害モデルに入力して、対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する。
【0099】
以上のように、障害予測システム1においては、対象物に沿って設けられた光ファイバが感知した環境情報に基づいて、対象物のそれぞれの位置で生じたイベントを分類する。更に、分類されたイベントの種類に対応する障害モデルに入力して、区間ごとに、障害の発生リスクを算出する。そのため、障害予測システム1によれば、長尺なインフラに加わった振動や衝撃を監視する光ファイバセンシングを用いて、即時には障害に至らなかった異常イベントの履歴を管理して、将来の障害発生リスクを予測する仕組みを提供することが可能となる。
【0100】
<実施の形態2>
実施の形態2における障害予測システム1は、実施の形態1に学習による障害リスク予測性能の向上機能を追加したものであるので、構成図などは実施の形態1と同じものを用いて説明する。
【0101】
海底ケーブル10が障害に至って修理した、もしくは予防交換した際に、障害部位が回収されるので、実物の損傷具合を分析する。これにより、実際の損傷具合を監視サーバー30内にて推算した障害モデルの結果と比較してフィードバックすることで障害モデルの予測精度向上を図ることができる。
【0102】
精度の向上は、障害モデルの中の進行速度パラメーターの見直しでもたらされる他に、蓄積した異常イベントデータの履歴を改めて分析することにより、障害が発現する予兆を表す異常イベントの特徴を見つけ出せる可能性もある。それが見つかれば、障害に至る途中での進行度合いを知ることができるようになる。
【0103】
更に、実物の損傷具合の分析により、新たな障害モデルが見つかる可能性もある。
【0104】
このようにして改良された障害モデルを、実施の形態1の障害発生予測に活用することができる。
【0105】
[障害部位の分析と蓄積データとの対照による学習の仕組み]
実際に障害が発生し、修理工事によって障害部位を回収できれば、それを分析することで、図5に一例を示すような手順を監視サーバー30を用いて実行することで障害モデルを改善することができる。
【0106】
まず、監視サーバー30は、障害部位を分析した結果を受け付ける(S201)。監視サーバーは、分析の結果に基づいて、既存の障害モデルに該当するかどうかで条件分岐する(S202)。既存の障害モデルに該当する場合は、監視サーバー30は、当該箇所の異常イベントの履歴と障害発生時刻から予測モデルを検証し、必要あればパラメーターを修正する(S203)。次に異常イベントデータの履歴を見直して、障害の進展と相関がある予兆現象が見つかれば、それを新たな異常イベントの特徴パターンとして登録する。また、障害モデルを改良する(S204)。
【0107】
該当しない場合は、その物理メカニズムを検討して、当該箇所の異常イベントの履歴と障害発生時刻から、新たな障害モデルを作成する(S205)。
【0108】
なお、S204及びS205の処理は人間が行っても良いし、監視サーバー30が行っても良い。監視サーバー30は、S204及びS205の処理を行う際に、機械学習を用いても良い。
【0109】
このような障害モデルを改良または追加する検討を行うためには、異常イベント分類後データの蓄積だけでは情報が不十分である。未知のイベントと分類された異常イベントデータの蓄積や、既知のイベントとして分類されたが参考情報として添付された波形データの蓄積などが必要である。
【0110】
なおこれら障害モデルを改良または追加する処理は、機械学習等を用いて行ってもよい。
【0111】
また必要に応じて、イベント分類機能部31内の分類条件や、イベント検知機能部22内のイベント検知条件を、追加又はパラメーターを調整してもよい。
【0112】
以上述べた処理フローを実施の形態1に追加することにより、既知の障害モデルについてはそのリスク算出精度が向上し、新たに分かった障害モデルについては、その物理メカニズムによる障害も予測可能となる。
【0113】
また、実施の形態と同様に、実施の形態2の障害予測システム1は、長尺なインフラに加わった振動や衝撃を監視する光ファイバセンシングを用いて、即時には障害に至らなかった異常イベントの履歴を管理して、将来の障害発生リスクを予測する仕組みを提供することが可能となる。
【0114】
[変形例]
本実施の形態で述べた、異常イベントの分類条件、および、障害に至るまでのリスク蓄積を推算する障害モデルは、別の場所に敷設されている長尺インフラと共用可能である。ある長尺インフラで得られた、新たなもしくは改良された異常イベントの分類条件や障害モデルは、他の同様な長尺インフラの障害予測システムに展開可能である。
【0115】
本実施の形態で述べた、DASインテロゲーター20内部での異常イベントの分類、および、監視サーバー30内部での障害モデルの推算、という2つの機能の分割の仕方は一例であり、1つの装置に統合されてもよいし、役割の分割境界を変えても構わない。
【0116】
本実施の形態では、光ファイバセンシングの方法として、DASを例に説明したが、DVSやDTS、BOTDRなど他の手法でもよい。ここで、DVSはdistributed vibration sensingの略、DTSはdistributed temperature sensingの略、BOTDRはBrillouin optical time-domain reflectometryの略である。
【0117】
さらにはOTDR方式以外の、広く分布的にセンシングを行える光ファイバセンシングであっても構わない。例えば特許文献6や非特許文献3では、反射戻り光を使うOTDR方式ではなく、透過光を使う分布型光ファイバセンシング技術が開示されている。
【0118】
本実施の形態では、長尺インフラが運用されている期間中の例で説明したが、長尺インフラが敷設工事中や、サービス運用休止中の期間にも監視する方が望ましい。長尺インフラへのリスクイベントは、運用中か否かに依らず生じるので、非監視の期間を減らすことが望ましい。また検出した異常イベントの記録は紛失させずに、運用中の記録と一体化して、リスク評価に用いることが望ましい。
【0119】
本実施の形態では、もっぱら通信海底ケーブルで説明したが、光ファイバを含んだ海底電力ケーブルや、光ファイバを沿わせた海底パイプラインなどでも、本開示を用いた監視が可能である。線路、道路、トンネルなどの長尺なインフラであっても、本実施の形態と同様な障害リスクの蓄積により障害に至るメカニズムについては、監視できる。
【0120】
本実施の形態では、ケーブルを海で用いる例で説明したが、河川,湖沼の実施でも有効である。
【0121】
本実施の形態では、ケーブルを水中で用いる例で説明したが、地中ケーブルや架空ケーブル等にも同様に適用できるものである。
【0122】
本実施の形態では、海底ケーブルが感じる音または振動の検知手段として光ファイバセンシングを用いる例で説明したが、海底機器に内蔵した音または振動のセンサ素子を搭載してそれで検知してもよい。
【0123】
本実施の形態では、海底ケーブルが感じる環境情報として音または振動の現象による監視の例で説明したが、例えば温度変化でもよい。
【0124】
<実施の形態3>
実施の形態3における障害予測システム1Aについて、図6及び図7を用いて説明する。図6は、障害予測システム1Aの構成例を示すブロック図である。図6に示されるように、障害予測システム1Aは、光ファイバ11、センシング機能部21A、イベント検知・分類機能部22A及び障害発生リスク算出部33Aを備える。図6では、センシング機能部21Aは、イベント検知・分類機能部22Aと別体として設けられているが、一体であってもよい。
【0125】
光ファイバ11は、対象物10Aに沿って敷設される。光ファイバ11は、図1に示されるように、対象物10Aに収容されていても良い。対象物10Aは、例えば、通信ケーブル、送電ケーブル、パイプラインである。
【0126】
センシング機能部21Aは、光ファイバ11に出力したプローブ光の後方散乱光から対象物10Aの環境情報を取得する。この環境情報は、各場所および各時刻における観測値、という形のデータである。イベント検知・分類機能部22Aは、取得した環境情報に含まれるイベントを見つけると同時に分類する。イベント検知・分類機能部22Aは、イベントの種類に加えて、更に、イベントの強さの度合い等を出力してもよい。
【0127】
例えば、イベント検知・分類機能部22Aは、あるイベントが対象物10Aに生じた場合の環境情報に含まれる特徴を、分類条件として予め1つ以上備えている。イベント検知・分類機能部22Aは、対象物10Aに岩等の物体がぶつかった時に現れる特徴を見分ける分類条件を備えている。そのような特徴が環境情報に含まれている場合、イベント検知・分類機能部22Aは当該分類条件によってそのイベントを分類する。一方で、平時には生じないイベントだが、その種類が不明なイベントも検知可能としており、その場合、イベント検知・分類機能部22Aは、未知のイベントとして分類する。なお、上記の説明では、センシング機能部21Aは、環境情報を後方散乱光から取得するとしたが、別の方法により環境情報を取得しても良い。例えば、特許文献6や非特許文献3に開示されるように、センシング機能部21Aは、透過光を用いて環境情報を取得しても良い。イベント検知・分類機能部22Aは、イベント分類機能部の一例である。
【0128】
障害発生リスク算出部33Aは、対象物10Aが障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを予め1つ以上備えている。対応する種類のイベントデータの履歴を障害モデルに入力することで、当該メカニズムによる損傷度合いが計算される。損傷度合いは例えば、機能障害に至る損傷度合いを基準に、現在の損傷度合いを表現したものである。
【0129】
障害発生リスク算出部33Aは、このような障害モデルを一つ以上持ち、それぞれの出力値を合計して、指定された区間の障害発生確率又は可用性を出力する。
【0130】
次に図7を用いて、障害予測システム1Aの動作例を説明する。図7は、障害予測システム1Aの動作を示すフローチャートである。
【0131】
センシング機能部21Aは、光ファイバ11に出力したプローブ光の後方散乱光から対象物10Aの環境情報を取得する(S301)。
【0132】
イベント検知・分類機能部22Aは、環境情報の中から事象を見つけて分類する(S302)。
【0133】
障害発生リスク算出部33Aは、イベント検知・分類機能部22Aによって分類されたイベントデータの履歴を障害モデルに入力し、それら1つ以上の障害モデルの出力値を合計することにより、対象物10Aの障害の発生確率または可用性を算出する(S303)。
【0134】
以上のように、障害予測システム1Aにおいては、対象物10Aに沿って敷設された光ファイバ11を用いて取得された環境情報から抽出したイベントデータを蓄積し、個々の障害発生メカニズムに照らして障害発生確率を算出する。これにより、障害予測装置2は、将来の障害発生リスクを予測できる。これにより、実施の形態1及び実施の形態2に記載の障害予測システム1と同様の効果を奏する。
【0135】
上記では、障害予測装置2が、対象物10Aにおける障害の発生を予測することについて述べた。この情報を、対象物の価格やリース料金を設定する際に利用することは有益である。例えば、可用性が高い対象物ほど高い料金を設定する。
【0136】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を検知する光ファイバと、
前記光ファイバが感知した前記環境情報を取得するセンシング機能部と、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類するイベント分類機能部と、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備えた障害発生リスク算出部を備え、
障害発生リスク算出部は、前記分類されたイベントの履歴を、前記イベントの前記種類に対応する前記障害モデルに入力して、前記対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、前記算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する障害予測システム。
(付記2)
前記対象物は、通信ケーブル、送電ケーブル、パイプラインである
付記1に記載の障害予測システム。
(付記3)
障害の原因と損傷度合いを分析した結果を受け付け、
前記原因が既存の障害モデルに該当する場合、前記損傷度合いが、前記分類されたイベントデータ履歴を対応する障害モデルに入力して得られる推算された損傷度合いと比較し、実際と推算結果が一致するように障害モデルの内部パラメーターを調整する、
付記1又は2に記載の障害予測システム。
(付記4)
障害の原因と損傷度合いを分析した結果を受け付け、
前記原因が既存の障害モデルに該当しない場合、
前記原因の物理メカニズムを検討して、前記分類されたイベントの履歴及び前記障害の発生時刻から新たな障害モデルを作成する
付記1から3の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記5)
前記イベント分類機能部は、音、振動及び温度のうちの少なくとも一つを示す前記環境情報に基づいて、前記イベントを分類する付記1~4の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記6)
前記イベント分類機能部は、前記環境情報の時間的な変化に基づいて、前記イベントを分類する付記1~5の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記7)
前記可用性が前記対象物の価値評価に用いられる
付記1~6の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記8)
前記積算されたリスク情報が前記対象物の予防保守の実施計画立案に用いられる
付記1~6の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記9)
前記積算されたリスク情報が前記対象物のルート設計に用いられる
付記1~6の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記10)
前記イベント分類機能部は、前記環境情報のうち、前記イベントが明らかに含まれていない部分を除外した後に分類する、付記1~9の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記11)
前記イベント分類機能部は、前記環境情報を複数の周波数帯域に分けた後で分類する、付記1~10の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記12)
前記イベント分類機能部は、前記対象物の種類及び前記対象物の敷設状態の少なくとも一方に基づいて前記取得した環境情報を補正したのち分類する、付記1~11の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記13)
前記イベント分類機能部は、同一の音又は振動に応じた前記環境情報を前記光ファイバの複数の位置から取得した場合、前記複数の位置において生じた前記イベントを一つのイベントとして前記種類に分類する付記2~12の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記14)
前記イベント分類機能部は、前記光ファイバが感知した前記環境情報を、センサアレイ出力として用いて、前記振動源の空間的な分離を行う付記2~13の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記15)
前記イベント分類部は、発生位置が移動する前記種類に前記イベントを分類した場合、前記イベントが生じた前記対象物の複数の位置の位置情報に基づいて、前記イベントの発生位置の移動方向及び移動速度を求める付記2~14の何れか1項に記載の障害予測システム。
(付記16)
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を検知する光ファイバが感知した前記環境情報を取得し、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類し、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化したものであって、前記イベントの前記種類に対応する障害モデルに、前記分類されたイベントの履歴を入力し
前記対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、
前記算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する障害予測方法。
(付記17)
対象物に沿って設置され、前記対象物の環境情報を検知する光ファイバが感知した前記環境情報を取得するセンシング機能部と、
前記環境情報が示す前記対象物のそれぞれの位置に生じたイベントを、イベント分類条件に基づき種類ごとに分類するイベント分類機能部と、
前記対象物が機能障害に至る物理メカニズムをモデル化した障害モデルを1つ以上予め備えた障害発生リスク算出部を備え、
障害発生リスク算出部は、前記分類されたイベントの履歴を、前記イベントの前記種類に対応する前記障害モデルに入力して、前記対象物における当該メカニズムによる障害の発生リスクを各々算出し、前記算出の結果を指定の区間で積算し、リスク又は可用性として出力する障害予測装置。
【0137】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
この出願は、2020年8月25日に出願された日本出願特願2020-141353を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0138】
1、1A 障害予測システム
2 障害予測装置
10 海底ケーブル
11 光ファイバ
20 DASインテロゲーター
21、21A センシング機能部
22 イベント検知機能部
22A イベント検知・分類機能部
30 監視サーバー
31 イベント分類機能部
32 データベース
33,33A 障害発生リスク算出部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7