(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】水域監視装置及び水域監視方法
(51)【国際特許分類】
G01V 8/16 20060101AFI20240702BHJP
G02B 6/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01V8/16
G02B6/00 B
(21)【出願番号】P 2022550378
(86)(22)【出願日】2021-07-14
(86)【国際出願番号】 JP2021026481
(87)【国際公開番号】W WO2022059322
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2020156066
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】矢野 隆
(72)【発明者】
【氏名】三隅 栄太郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 健一
(72)【発明者】
【氏名】小川 誠
(72)【発明者】
【氏名】村松 順
(72)【発明者】
【氏名】中野 正規
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-529952(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0180552(US,A1)
【文献】特開2007-286885(JP,A)
【文献】特開2000-076560(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108986363(CN,A)
【文献】中国実用新案第207197659(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 8/16
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものからの前記音または振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する水域侵入等情報検出手段と、
前記水域侵入等音を表す情報を出力する出力手段と、
を備え
、
前記水域侵入等音を、予め保持する評価ルール条件に照らして、前記水域侵入等の脅威の度合いを評価し、その結果である脅威評価結果を導出する、脅威度評価手段と、
所定の音響符号を発する音波発信機と、をさらに備え、
前記脅威度評価手段は、前記音響符号を発する音源と等しい位置にある前記侵入等の主体である侵入等主体について、前記脅威の度合いを低く評価し、
前記音響符号は所定のタイミングで変更される、
水域監視装置。
【請求項2】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものからの前記音または振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する水域侵入等情報検出手段と、
前記水域侵入等音を表す情報を出力する出力手段と、
を備え
、
前記水域侵入等音を、予め保持する評価ルール条件に照らして、前記水域侵入等の脅威の度合いを評価し、その結果である脅威評価結果を導出する、脅威度評価手段と、
所定の音響符号を発する音波発信機と、をさらに備え、
前記脅威度評価手段は、前記音響符号を発する音源と等しい位置にある前記侵入等の主体である侵入等主体について、前記脅威の度合いを低く評価し、
前記音波発信機は、前記音波発信機に前記音響符号の鍵情報が入力されることにより、前記脅威度評価手段は入域が許可されたものと見なす前記音響符号を発する、
水域監視装置。
【請求項3】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものからの前記音または振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する水域侵入等情報検出手段と、
前記水域侵入等音を表す情報を出力する出力手段と、
を備え
、
前記水域侵入等音を、予め保持する評価ルール条件に照らして、前記水域侵入等の脅威の度合いを評価し、その結果である脅威評価結果を導出する、脅威度評価手段と、
所定の音響符号を発する音波発信機と、をさらに備え、
前記脅威度評価手段は、前記音響符号を発する音源と等しい位置にある前記侵入等の主体である侵入等主体について、前記脅威の度合いを低く評価し、
前記音響符号は、時刻と暗号鍵を掛け合わせることにより生成されたものである、
水域監視装置。
【請求項4】
前記水域侵入等情報検出手段は、前記水域侵入等音を、前記水域侵入の種類、又は、前記水域侵入の行動を推定して分類する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載された水域監視装置。
【請求項5】
前記水域侵入等情報検出手段は、前記分類を、一つ以上の特徴を鍵とした、予め保持する分類条件に照らして類比判定により行う、
請求項4に記載された水域監視装置。
【請求項6】
前記水域侵入等情報検出手段は前記分類を、前記音データを、前記音または振動についての複数の周波数帯に分割した後に行う、
請求項4又は請求項5に記載された水域監視装置。
【請求項7】
前記水域侵入等音は、前記水域侵入等の主体である侵入等主体でないものからの前記音または振動が前記侵入等主体により変化して前記光ファイバにより取得されたものである、請求項1乃至
請求項6のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
【請求項8】
前記侵入等主体でないものは、前記侵入等主体に対して前記音または振動を人工的に照射するものである、
請求項7に記載された水域監視装置。
【請求項9】
前記水域侵入等情報検出手段は、前記光ファイバの複数の前記位置で取得された前記音データのうち、同一の、前記水域侵入等の主体である侵入等主体による前記音データを識別する、請求項1乃至
請求項8のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
【請求項10】
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものを音源とする前記音又は振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出し、
前記水域侵入等音を表す情報を出力
し、
前記水域侵入等音を、予め保持する評価ルール条件に照らして、前記水域侵入等の脅威の度合いを評価し、その結果である脅威評価結果を導出し、
所定のタイミングで変更される所定の音響符号を発し、
前記音響符号を発する音源と等しい位置にある前記侵入等の主体である侵入等主体について、前記脅威の度合いを低く評価する、
水域監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象水域における侵入または対象水域での行動を監視するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、港湾などの警備、密漁監視などのため、監視対象の水域(対象水域)への侵入や対象水域での行動(以下、「侵入等」という。)を監視する技術が求められている。
【0003】
対象水域における侵入等を監視する方法としては、主に次の三つの形態が考えられる。一つ目は、船舶、ヘリコプタ、ドローン等による監視である。二つ目は、陸上の高所からのカメラやレーダーによる監視(例えば特許文献1参照)である。三つ目は、水中に設置された水中マイクロフォンを用いる水中音の監視(例えば特許文献2参照)である。
ここで船舶、ヘリコプタ、ドローン等による監視は、広い水域を夜間も含めて常時監視することは、労力や費用の面で高いものが要求されるので、適用できる監視対象が限られる。そこで、遠隔から常時監視を行う技術が求められている。
【0004】
ここで、特願2020-013946は、分布型音響センシング(DAS:Distributed Acoustic Sensing)により光ファイバ周辺の音を取得する方法を開示する。また、非特許文献1は、DASの原理を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-055257号公報
【文献】実開昭58-088871号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】R. Posey Jr, G. A. Johnson and S.T. Vohra, "Strain sensing based on coherent Rayleigh scattering in an optical fibre", ELECTRONICS LETTERS, 28th September 2000, Vol. 36 No. 20, p.1688-p.1689
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
背景技術の項で述べた監視カメラなど光学的な遠隔監視、レーダーなど電磁波による遠隔監視は、海上を見渡せる陸上の場所に監視装置を設置する必要があるので、監視範囲が沿岸に限られ、また、監視の精度が天候に左右されやすい。
水中マイクロフォンによる監視は、通信と給電を行う水中ケーブルを用いることで陸地から離れた場所に監視装置を設置することが可能である。しかしながら、電子回路を用いるため水中での絶縁不良などにより信頼性の維持が難しい。また、水中マイクロフォンによる監視では、多数の水中マイク機器を、海中に、波や潮流に流されないように設置する必要がある。
【0008】
このように、水中マイクによる方法は、観測点を長期間維持することが難しく、また観測点の数を大きく増やすことも容易ではない。さらに、水中マイクロフォンによる監視は、観測情報をリアルタイムに陸に伝える必要があるが、1本のケーブルに複数のマイクロフォンを接続して陸地に全ての観測情報を伝えることは高度な技術が必要となる。また、電力供給上の制約もあり、十分な環境情報取得が行えずに、事象を見逃してしまう可能性がある。
本発明は、広範囲に渡る長期間の定点監視を容易化する水域監視装置等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水域監視装置は、水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものからの前記音または振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する水域侵入等情報検出部と、前記水域侵入等音を表す情報を出力する出力部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、広範囲に渡る長期間の定点監視を容易化する水域監視装置等の提供を目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第一実施形態の水域監視システムの構成例を表す概念図である。
【
図2】水域監視システムの設置のされ方の例を表す概念図である。
【
図3】海底ケーブルの敷設のされ方の例を表す概念図である。
【
図4】水域監視情報取得部の構成例を表す概念図である。
【
図5】水域監視情報取得部の処理内容の概略を説明する図である。
【
図6】水域侵入等音分類部が行う動作の第三の具体例を表す概念図(その1)である。
【
図7】水域侵入等音分類部が行う動作の第三の具体例を表す概念図(その2)である。
【
図8】水域侵入等音分類部が行う動作の第四の具体例を表す概念図(その1)である。
【
図9】水域侵入等音分類部が行う動作の第四の具体例を表す概念図(その2)である。
【
図10】第二実施形態の水域監視システムの構成及び動作を表す概念図である。
【
図11】実施形態の水域監視装置の最小限の構成を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第一実施形態>
本実施形態の水域監視システム等は、背景技術の項で説明したDASを用い、さらに、光ケーブルに備えられる光ファイバを用いて、対象水域における侵入等を監視するための音データを取得する。これにより、本実施形態の水域監視システムは、対象水域における侵入等を監視する労力が軽減し、広範囲に渡る長期間の定点監視を容易化する。
【0013】
監視対象の水域(対象水域)への侵入手段には、例えば、ダイバー等のフィンなどを用いた人間の泳力、水中スクーター(ダイバープロパルジョンビークル)、いかだ、ボート、水上バイク、船、潜水艇、潜水艦等などが考えられる。これらは、それぞれ、特徴を持つ音を発することが知られている。そのような特徴を持つ音の発生源は、エンジン音、モーター音、スクリュー音、手漕ぎ音などの、推進力の発生に伴うものであり、移動速度が速いほど音が大きくなる傾向がある。また、ダイバーは排気音を出す。
【0014】
一方、対象水域で、違法行為や迷惑行為等の何らかの行動が行われる場合がある。その場合、その行為に伴う作業音等は、その行為を検知する鍵となる。例えば、密漁、破壊、不法投棄などの行為が行われる場合、次のような音が発生する可能性がある。すなわち、網やワイヤーの切断音、穴を開けるなどの工具の稼働音、巻き上げ機や吊り上げ機の稼働音、岩に張り付いているものを削り取る音、水中の物を吸い上げる音、網を入れて引き揚げる音、何かを投下する音、何かが着底する音、などである。
本実施形態の水域監視システムは、上記のような特徴を持つ音を検出して、対象水域における侵入や対象水域での行為を監視する。
【0015】
図1は本実施形態の水域監視システムの例である水域監視システム300の構成を表す概念図である。水域監視システム300は、水域監視装置140と光ファイバ200とを備える。水域監視装置140は、インテロゲーター100と水域監視情報取得部120とを備える。ここで、インテロゲーターは、英語表記ではinterrogatorである。
【0016】
図2は、
図1の水域監視システム300の設置のされ方の例を表す概念図である。海底ケーブル920aから920dは、例えば、光通信等の目的で用いられる一般的な海底ケーブルである。海底ケーブル920a~dは、ケーブル陸揚げ地点である位置P0から海底又は海中に設置される。
【0017】
図2は、ある湾部への侵入を監視する用途を想定した場合の海底ケーブルの敷設のされ方の一例を表している。侵入等行為を未然に把握するために、
図1の光ファイバ200を備える海底ケーブルは、海底ケーブル920aのように湾内に敷設されるだけでなく、海底ケーブル920bや920cのように湾の入り口の水域を広くカバーするようにも敷設されている。光ファイバセンシングのためには海底ケーブルのどちらか一端だけがP0に陸揚げされれば十分である。しかしながら、海底ケーブル920bのようにループ状にして陸揚げしておくと、途中で切断した場合に、他方の端からも測定することで監視水域範囲の減少を最小化できる。
【0018】
さらに後述する音の空間情報、すなわち音源の位置の情報をより豊富に得るため、センサとなる海底ケーブルを複数本配置する際には、音源に対して同じような角度とならないようにするため、海底ケーブル同士は平行にならないように敷設されることが望ましい。海底ケーブルと音源との角度のバリエーションを増やすために、
図1の光ファイバ200を備える海底ケーブルは、部分的に、例えば、
図3(a)に表される海底ケーブル920のように円状に敷設されてもよい。あるいは、海底ケーブルは、部分的に、
図3(b)に表される海底ケーブル920のように三角形状に敷設されてもよい。また、
図1の光ファイバ200を備える海底ケーブルは水底に設置されるだけでなく、水中に配置されてもよい。水中に配置するためには、係留ブイなどを用いて海底ケーブルを部分的に水中に持ち上げればよい。
【0019】
図1の光ファイバ200を備える海底ケーブルは、他の用途、例えば通信ケーブルに相乗りするものであってもよい。例えば、
図2の海底ケーブル920dが、海の向こう側の陸地とP0とを結ぶ通信ケーブルであり、かつ、陸に近い部分が監視用途にも用いられるものであってもよい。
【0020】
図1の光ファイバ200は、海底ケーブル920に含まれる複数の光ファイバのうちのいずれかである。光ファイバ200は、光通信に用いられるものであっても、水域侵入等の監視に専用のものであっても構わない。
【0021】
図1の水域監視装置140は、例えば、光通信用の装置と共に、位置P0の近傍に設置されている。水域監視装置140は、陸上に設置されても、監視船等の船に設置されてもよい。
水域監視情報取得部120は、インテロゲーター100の近傍に設置されていても離れて設置されていても構わない。水域監視情報取得部120は、監視者がリアルタイムに出力を受け取れる場所に置かれることが望ましい。
【0022】
光ファイバ200は、一般的な光ファイバであり、光伝送等の、水域監視以外の目的で設置される海底ケーブル等に備えられるものを利用してもよい。一般的な光ファイバは、音を含む振動の存在等の環境により変化を受けた後方散乱光を生じる。当該後方散乱光は、典型的には、レイリー後方散乱によるものである。その場合、前記変化は主として位相の変化(位相変化)である。
【0023】
光ファイバ200は、複数の光ファイバが増幅中継器等により接続されたものであっても構わない。光ファイバ200を含むケーブルは、インテロゲーター100を備える図示されない光通信装置と他の光通信装置との間に接続されるものであっても構わない。海底ケーブル920は、光伝送やケーブル式波浪計、ケーブル式海底地震計などの他の用途に用いられるものと兼用しても構わないし、水域侵入等の監視に専用の光ケーブルであっても構わない。海底ケーブル920は、ケーブル内に複数の光ファイバ心線を備えることで、また同一の光ファイバ心線の中であっても互いに波長を異ならせることで、他のシステムと本実施形態の水域監視システムとを共存させることができる。
【0024】
通信海底ケーブルの敷設や陸揚げには、設置水域で漁業を行う漁業者の同意を得ることが不可欠である。通信海底ケーブルに本実施形態を適用することで海底ケーブル周辺の監視が行えるので、その監視情報を地元の漁業者に提供することにより、密漁などの監視に役立つ可能性がある。これにより、通信海底ケーブルの敷設や陸揚げへの協力が得やすくなるという効果も期待できる。
【0025】
<インテロゲーター100の動作>
インテロゲーター100は、OTDR方式の光ファイバセンシングを行うためのインテロゲーターである。ここでOTDRはOptical Time-Domain Reflectometryの略である。そのようなインテロゲーターについては、例えば、前述の特願2020-013946に説明がある。
【0026】
図1のインテロゲーター100は、取得処理部101と、同期制御部109と、光源部103と、変調部104と、検出部105とを備える。変調部104は光ファイバ201及び光カプラ211を介して、検出部105は光カプラ211及び光ファイバ202を介して、それぞれ、光ファイバ200に接続されている。
【0027】
光源部103は、レーザ光源を備え、連続的なレーザ光を変調部104に入射する。
変調部104は、同期制御部109からのトリガ信号に同期して、光源部103から入射された連続光のレーザ光を、例えば振幅変調し、センシング信号波長のプローブ光を生成する。プローブ光は、例えば、パルス状である。そして、変調部104は、プローブ光を、光ファイバ201及び光カプラ211を介して、光ファイバ200に送出する。
同期制御部109は、また、トリガ信号を取得処理部101に送付し、連続してA/D(アナログ/デジタル)変換されて入力されるデータのどこが時間原点かを伝える。
【0028】
当該プローブ光の送出が行われると、光ファイバ200の各位置で散乱された光の一部が戻り光となり、光カプラ211から光ファイバ202を介して、検出部105に到達する。光ファイバの各位置からの戻り光は、インテロゲーター100に近い位置からのものほど、プローブ光の送出を行ってから短い時間でインテロゲーター100に到達する。そして、光ファイバ200のある位置が音の存在等の環境の影響を受けた場合には、その位置において生じた後方散乱光には、その環境により、送出時のプローブ光からの変化が生じている。後方散乱光がレイリー後方散乱光の場合、当該変化は、主として位相変化である。
【0029】
当該位相変化が生じている戻り光は、検出部105により検波される。当該検波の方法には、周知の同期検波や遅延検波があるが、いずれの方法が用いられても構わない。位相検波を行うための構成は周知であるので、ここでは、その説明は省略される。検波により得られた電気信号(検波信号)は、位相変化の程度を振幅等で表すものである。当該電気信号は、取得処理部101に入力される。
【0030】
取得処理部101は、まず前述の電気信号をA/D変換してデジタルデータとする。次に、光ファイバ200の各点で散乱されて戻ってきた光の、前回の測定からの位相変化を、例えば、同じ地点の前回の測定との差の形で求める。この信号処理はDASの一般的な技術であるので詳しい説明は省略される。
【0031】
取得処理部101は、光ファイバ200の各センサ位置に、仮想的に点状の電気センサを数珠繋ぎに並べて得たのと同様の形のデータを導出する。このデータは、信号処理の結果として得られる仮想的なセンサアレイ出力データであるが、以降では説明の簡単化のためこれをRAWデータと呼ぶ。RAWデータは、各時刻において、また光ファイバ200の各点(センサ位置)において、光ファイバが検出した音の瞬時強度(波形)を表すデータである。RAWデータについては、例えば、前述の特願2020-013946の背景技術の項に説明がある。取得処理部101は、RAWデータを水域監視情報取得部120に出力する。
【0032】
<水域監視情報取得部120の動作>
水中には様々な音や振動(以下、単に「音」という場合がある。)が存在している。水域監視情報取得部120は、まず、その中から侵入等音を検出する。ここで、侵入等音は、対象水域へ侵入した主体(者又は物)(以下、「侵入等主体」という。)自体が発する音、又は、対象水域での侵入等主体の行動に由来する音をいう。
水域監視情報取得部120は、取得処理部101から入力されたRAWデータから、いつ、光ファイバ200のどの位置において、どのような種類の侵入等音が検出されたかを表す情報である侵入等音検出情報を導出する。水域監視情報取得部120の構成を
図4を参照して説明する。水域監視情報取得部120の動作の詳細は
図5乃至
図9を参照して後述する。
【0033】
図4は、
図1の水域監視情報取得部120の構成例を表す概念図である。水域監視情報取得部120は、処理部121と、記憶部131とを備える。
処理部121は、前処理部122と、音抽出部123と、侵入等音分類部124と、出力処理部128とを備える。さらに必要に応じて、音空間処理部125、背景音評価部126、脅威度評価部127を備える。
記憶部131は、RAWデータ格納部132と、ケーブルルート情報格納部133と、抽出データ格納部134と、分類条件格納部135と、侵入等音検出情報格納部136とを備える。さらに必要に応じて、背景音データ格納部138、脅威評価条件格納部137を備える。
【0034】
前処理部122には、
図1の取得処理部101から、前述のRAWデータが入力される。RAWデータは、前述のように、各時刻において、光ファイバ200の各測定点(センサ位置)において、光ファイバに伝わった音の瞬時強度(波形)を表すデータである。
【0035】
前処理部122は、RAWデータに対し、各測定点ごとに地理座標を付与する。RAWデータの段階では、各測定点の位置情報はケーブル上の位置(例えばケーブル端からの距離)で表現されている。一方、ケーブルが設置されている地理座標データは、ケーブルルート情報格納部133に格納されている。両者を照らし合わせることで、ケーブル各点の地理座標を予め求めて、ケーブルルート情報格納部133に予め格納してあるので、前処理部122は地理座標をRAWデータに付与する。地理座標を付与するなどの前処理が施されたRAWデータはRAWデータ格納部132に格納される。
【0036】
音抽出部123は、例えば、外部からの開始情報の入力により、所定の時間的範囲及び距離範囲のRAWデータについて、対象水域における侵入等によって生じた可能性がある音データを抽出し、抽出データ格納部134に格納する。これにより、侵入等音の可能性が見られない音データは除外され、後続処理の対象となる音データのデータ量が大幅に減るため、後続処理の負荷が低減される。
【0037】
侵入等音分類部124は、抽出データ格納部134に格納された各音データから、水域における侵入等によって生じた音の音データを、音の種類を表す情報(音種類情報)により分類する。侵入等音分類部124は、当該分類を、予め分類条件格納部135に格納されている分類条件により行う。ここで分類条件は、音種類情報と、その種類の音に含まれる特徴的に見られる情報(特徴的情報)とを組み合わせた情報である。ここで音種類情報には、水域における侵入等により生じた音の種類、どのような時に発せられる音であるか、後述する同一音統合処理をすべき音の種類か、後述する移動音源の追尾処理をすべき音の種類か、などを表す情報が含まれる。侵入等音分類部124は、音の音種類情報による分類結果を侵入等音検出情報格納部136に格納する。
【0038】
侵入等音分類部124は、前記分類処理を、例えば、抽出された音データの音を、前述の分類条件に照らして類比判定を行うことにより行う。
前記分類条件に含まれる特徴的情報は、例えば、検出した音の周波数に関する情報である。水域における侵入等により生じる音は固有の周波数を有する場合があり、その場合は、音の周波数から、侵入等主体の種類や挙動を分類することが可能である。周波数に関する情報としては、例えば、中心周波数や、周波数帯が想定される。例えば、船のエンジン音やスクリュー音、水中スクーターのモーター音などは周波数帯がおよそ定まっていることが知られており、これらの種類は、音の周波数帯から分類することが可能である。
【0039】
前記分類条件は、あるいは、例えば、音の間隔である。侵入等主体の種類によっては、例えばダイバーの排気音のように、ある程度定まった間隔で音を発する場合がある。その場合は、前記特徴的情報として音の間隔を用いることにより、侵入等主体の種類を分類することが可能である。
前記分類条件に含まれる特徴的情報は、あるいは、例えば、音の周波数帯の時間的な推移を表す音のパターンである。音のパターンを用いることにより、より正確な侵入等主体の分類が可能になる。
【0040】
背景音評価部126は、侵入等主体が背景の雑音を遮るなどの現象を検出することで侵入等の行為を検知するものである。処理内容は<処理6>にて後述する。
音空間処理部125は、光ファイバセンサの各点で検出される音データを集めて、音源とその方位などを識別するものである。処理内容は<処理5>にて後述する。
【0041】
出力処理部128は、例えば、外部からの指示情報に従い、侵入等音検出情報格納部136から所定の時刻範囲及びセンサ位置範囲の侵入等音検出情報を読み出し、出力する。当該出力に係る出力先は、例えば、外部のディスプレイ、プリンタ又は通信装置である。
【0042】
さらに、水域監視装置140は、侵入等主体への警告や、警備当局などへの通報を行う外部のシステムや外部の企業に対する、侵入等の行為が検出されたことの通知(侵入等検出通知)、を行う機能を備えてもよい。これらの警告や侵入等検出通知は、例えば、後述する脅威評価値(脅威評価情報)に応じて行われる。
侵入等主体への警告は、相手が不明のため連絡手段がない場合も考えられる。その場合は、警備船(警戒船)やドローンを現地に向かわせて、拡声器などを用いた警告や、サーチライトなどによる警告をするなども考えられる。また、侵入等主体の同定の証拠とする写真やビデオの撮影も考えられる。
【0043】
警備船やドローンを現地に向かわせ、又は、当局に通報する場合には、水域監視装置140が推定した侵入等主体の移動手段の種類や行為の種類、移動の履歴、現在の場所、などの情報を、前記侵入検出情報と併せて伝えてもよい。
なお、水域監視装置140が上記のような通知機能を備える場合には、当該通知は、
図4の出力処理部128により行われる。その場合の出力処理部128は、通信機能を備える。そして、出力処理部128は、無線又は有線による送信により、上述の通知を行う。
【0044】
水域監視装置140は、さらに、地図情報と組み合わせたマッピング可視化処理を行う機能を備えてもよい。本方式はリアルタイム性を有するので、洋上の警備船に、侵入等主体が現れた場所をマッピングした情報を送信すれば、侵入等主体を捜索する効率の改善が図れる。マッピング可視化処理は、例えば、出力処理部128により行われる。
【0045】
<水域監視情報取得部120が行うデータ処理>
図5は、水域監視情報取得部120が行う音データの分析・評価のデータ処理例を表す概念図である。データが加工処理されていく大まかな流れを示している。処理1から処理8までのうち、ほぼ全ての適用場面において行われると考えられるのは処理3と処理4であり、それ以外の処理は実施されない場合もある。ある処理が実施されない場合は、前の処理で処理されたデータはそのまま次の処理の処理対象データとなる。
【0046】
水域監視情報取得部120には、
図1の取得処理部101から、前述のRAWデータが入力される。RAWデータは、前述のように、各時刻において、また光ファイバ200の各測定点(センサ位置)において、光ファイバが検出した音の瞬時強度(波形)を表すデータである。水域監視情報取得部120は、RAWデータに対し、以下の処理を行う。
【0047】
<処理1:光ケーブル上の位置ごとの感度補正>
処理1は、
図1の水域監視装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理1は、実施される場合は、例えば前処理部122で実施される。
【0048】
図1の水域監視システム300の構成上の特徴は、例えば海底ケーブルに含まれる光ファイバ200自体をセンサ(水中マイク)として用いるので、水中マイクや水中装置が不要なことである。これにより、観測点数に応じて装置台数が増えてコストが増大することが回避され、また、水中に電子回路を要しないので長期信頼性の確保が容易となる。その一方で、センサとしての特性は水中マイクのように校正されたものではなく、特定の周波数帯の強度が減衰したり、強調されたりという伝達関数(フィルタ関数)がかかっているという課題がある。さらにその伝達関数は、ケーブルの種類や設置状況などによって異なるという課題がある。これらは後述される音の分類などのために補正されることが望ましい。
【0049】
[センサ特性の不均一性:ケーブル種類などの違いと補正]
環境情報を取得する
図2の海底ケーブル920は、設置場所によってケーブルの種類や設置状況が異なる。これにより海底ケーブル920のセンサとしての特性が場所ごとに異なる。
ここで、ケーブル種類の違いは、例えば送電用/通信用などによる断面構造の違い、保護被覆の構造の違い(外装鉄線の有無やその種類)などである。設置状況の違いは、例えばケーブルを海底表面に置くだけの形態、海底に溝を掘ってケーブルを埋める工法形態、水底に立つ柱にケーブルを懸架する形態、などの違いである。
【0050】
これらのケーブルの場所ごとの伝達関数の違いは、製造記録や施工記録を参照すれば分かり、それらは、例えば、ケーブルルート情報格納部133に記録されている。このケーブルの場所ごとの伝達関数の違いは、海底ケーブル920の場所ごとにほぼ一義的に補正することができる。具体的な補正方法は、例えばフィルタ処理により、特定の周波数帯の振幅を増大させるものである。
ここでケーブル種類や工法の種類による伝達関数の違いは、予め実験を行って、例えば水中マイクで取得された音データを基準とした比較を行って把握することが望ましい。
【0051】
なおこのケーブルの場所ごとの伝達関数の違いに対する補正は、必ずしも取得データ側に施される必要はなく、後述する分類条件側に施される手法も考えられる。例えばケーブルの構造により環境情報の高周波側が減衰する特性があれば、取得データの補正はせずに、分類条件の高周波側を取得位置のケーブル種類に応じて減衰させることで、類比判定におけるパターン識別の一致が得られやすくなる。しかし、一般的には、取得データ側を補正するほうがデータ利用の汎用性が高まるなどの利点があり、好ましいと考えられる。
【0052】
[センサ特性の不均一性:現地ごとの違いと校正]
敷設されている海底ケーブル920の各測定点のセンサ特性のばらつきの要因は、前述の施工記録などから一義的に決まる(推定できる)ものだけではない。例えば、一律の深さで埋設されているという記録が存在しても、実際は場所ごとに埋設深さがばらついていたり、被せていた土砂が部分的に流されて露出していることもあり得るためである。
【0053】
この課題に対しては、現地に広範囲に伝わる音をリファレンス音として利用して校正する方法が考えられる。リファレンス音には、船や無人潜水機などから発せられる人工的な音の他、自然に生ずる音が利用されてもよい。例えばクジラのように発する音の特徴が良く分かっている海洋生物の音の利用が考えられる。広範囲に伝わる音の場合、ほぼ同じ音が海底ケーブル920上の各点で感受されるので、水域監視情報取得部120は、それらの音データが、同一に近づくように、もしくは音源からの距離に応じた値に近づくように、各点ごとに補正係数を求める。
【0054】
また、水域監視情報取得部120に、この校正により、海底ケーブル920上の各点が、侵入等主体が発する音データの取得に適するかどうかを把握させることもできる。ある点が音データの取得に適さない場合とは、例えば、その点が感度が非常に低くて補正しきれない場合や、その点が特定の周波数帯で共鳴しやすく補正も難しい場合、などである。これら音データの取得にやや難のある点は、例えば、ケーブル上の前後の測定点について、音の強度を、その移動平均値と比較することで抽出できる。そこで、水域監視情報取得部120が、これら難のある点を、観測点の分布を意識しつつ除外して、ほぼ平均的な環境情報が取得できていると思われる点からのデータを利用するようにする。これにより、水域監視情報取得部120の、侵入等音検出情報の観測の精度を改善できる。
【0055】
<処理2:各周波数帯に分ける>
処理2は、水域監視装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理2は、実施される場合は、例えば前処理部122で実施される。
【0056】
ここで周波数帯ごとに分けるとは、音データを、例えば、極低周波から0.1Hz,0.1から1Hz,1から10Hz,10から100Hz,100Hz以上、のような周波数帯ごとに分けることである。この周波数帯の設定は、侵入等主体が出す音が、その音域によりおおよそ分類されるように行われることが望ましい。
【0057】
音データを周波数帯ごとに分けて評価するのが良い理由は大きく2つある。一つは侵入等主体が発する音の周波数帯が、侵入等主体の種類やその行為の種類により、おおよそ分かれるためである。そのため、音データを周波数帯ごとに分けることにより、後述する分類処理における類比判定が容易になる。
【0058】
もう一つは、侵入等音以外の音に係る音データを除外するためである。例えば、波が岸へ打ち付ける場所のように侵入等音以外の音が大きい場所においては、水域監視情報取得部120は、音を周波数帯ごとに分けて、侵入等音以外の音は大きくなく、侵入等音が比較的大きい周波数帯で、後述する分類処理を行う。その場合、水域監視情報取得部120は、侵入等音以外の音が侵入等音の監視に与える影響を低減できる。
このような理由から、音データは、音の周波数帯ごとに分けて評価されることが好ましい。
【0059】
<処理3:侵入等音が含まれる可能性のあるデータの抽出>
処理3は、多くの場合実施される処理である。処理3は、例えば、音抽出部123で実施される。当該抽出処理は、例えば、音データの強度の、移動平均トレンドからの急激な変化を、しきい値超過判定により抽出するものである。
これにより、侵入等音の可能性がないと判定された音データが除外され、以降に行われる処理の対象となる音データ量が削減される。
【0060】
<処理4:侵入等音の分類>
処理4は、多くの場合実施される処理である。処理4は、侵入等音分類部124で実施される。例えば、特許文献2が開示するように、水中マイクで採取した音から侵入等主体の種類や挙動を自動識別する技術は活発に研究開発されている。水域監視装置140は、光ファイバセンシングで採取した音について、同様な処理を行う。
【0061】
侵入等音分類部124が行う分類処理の方法は大きくわけて2つある。一つは声紋識別技術と呼ばれるもので、侵入等主体の種類や挙動を見分けるための、音に関する複数の特徴量の条件の組合せからなる識別条件を予め見出しておき、その識別条件により判別する方法である。この方法の具体例は後述される。もう一つは機械学習、特にディープラーニングと呼ばれる手法で、それが何であるかを示すラベル付きの多数のデータを、多層階層のニューラルネットワークに入力して学習させて、学習済みモデルを得て、それを識別に用いる方法である。これらの識別手法は一例であり、組み合わせて用いられて良いし、新たに開発された分析方法が用いられてもよい。
【0062】
次に説明する例は、分類条件、すなわち複数の特徴量の条件の組合せからなる識別条件を用いて識別する、前者の例である。学習済みモデルを用いる方法では、分類条件は不要であるが、ここではその具体的な説明は省略し、分類条件を用いて類比判定する手法について具体例を4つ説明する。これらは類比判定の過程の一部の例であり、全てが説明されるものではない。
【0063】
侵入等音分類部124の分類動作の第一の具体例を説明する。
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「音の周波数がAAA[Hz]を中心として許容幅±B[Hz]以内であれば、侵入等主体CCCの音である。」が格納されているとする。ここで、値Bは値AAAと比べて十分に小さい値であるとする。
【0064】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データに含まれる音の周波数がAAA±B[Hz]以内だとする。その場合、侵入等音分類部124は、抽出データに含まれる音は侵入等主体CCCの音であると分類し、分類結果を侵入等音検出情報格納部136に格納する。
【0065】
侵入等音分類部124の分類動作の第二の具体例を説明する。
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「音の時間的間隔がDDD秒を中心として許容幅±E秒以内であれば、侵入等主体CCCの出す音である。」が格納されているとする。ここで、値Eは値DDDと比べて十分に小さい値であるとする。
【0066】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データに含まれる音の時間的間隔がDDD±E秒以内であるとする。その場合、侵入等音分類部124は、抽出データに含まれる音は侵入等主体CCCの出す音であると分類し、分類結果を侵入等音検出情報格納部136に格納する。
【0067】
侵入等音分類部124の分類動作の第三の具体例を、
図6及び
図7を参照しながら説明する。
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「
図6に表される音の強度の時間的変化パターンは、侵入等主体CCCの出す音である。」が格納されているとする。
【0068】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データの中に、
図7の強度時間変化が含まれている期間があるとする。侵入等音分類部124は、
図6の強度時間変化のパターンと抽出データの波形とを類比判定し、抽出データの中に、分類条件である
図6のパターンが、
図7の形で強い相関を持って存在している旨を判定する。侵入等音分類部124は、当該判定処理を例えば一般的な相互相関係数の算出により行う。そして、侵入等音分類部124は、抽出データに含まれる音は侵入等主体CCCの出す音であると分類し、分類結果を侵入等音検出情報格納部136に格納する。
【0069】
侵入等音分類部124の分類動作の第四の具体例を、
図8及び
図9を参照しながら説明する。
ここでは、分類条件格納部135に分類条件として、「
図8に表される、複数の周波数についての音の強度の時間変化情報(複数周波数強度時間変化情報)のパターンは、侵入等主体CCCの出す音である。」が格納されているとする。
【0070】
ここで、抽出データ格納部134から読み出した抽出データの中に、
図9の複数周波数強度時間変化情報が含まれる期間があるとする。侵入等音分類部124は、
図8の複数周波数強度時間変化情報のパターンと抽出データとを類比判定し、抽出データの中に、分類条件である
図8のパターンが、
図9の形で強い相関を持って存在している旨を判定する。侵入等音分類部124は、当該判定処理を例えば一般的な相互相関係数の算出により行う。そして、侵入等音分類部124は、抽出データに含まれる音は侵入等主体CCCの出す音であると分類し、分類結果を侵入等音検出情報格納部136に格納する。
【0071】
<処理5:同一音源の識別・音源分離・追尾>
処理5は、水域監視装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理5は、実施される場合は、例えば、音空間処理部125で実施される。
【0072】
光ケーブルから離れた場所で発せられた音は、同心円状または球状に広がり、光ケーブルの複数の場所で検出される場合がある。そこで、音空間処理部125は、類似した音を検出した測定点の地理座標および時刻情報をさらに分析することで、それらが一つの音源から出た音であることを推定し、識別する。
【0073】
さらに、複数の音が、距離的にも、時間的にも近い範囲で発生し、それらが光ケーブルの複数の場所で検出される場合もある。その場合、
図1の水域監視情報取得部120は、主に次の2つの技術を用いることで、それらの複数の音を分離して個別に認識することができる。
その1.音は、互いに音の特徴が異なっていれば、処理4で述べた方法で、たとえ一部が時間的に重なって観測されても、分離・識別することができる。
その2.互いに空間的位置が異なる複数の音源からの音は、周知の音源分離技術を用いて、たとえ時間的に重なって観測されても、分離・識別することができる。これは長尺な光ファイバそれ自体がセンサアレイとして利用できるという、
図1の水域監視システム300ならではの特長である。
【0074】
上記処理についての、一例を説明する。海底ケーブルからやや離れた場所で水中スクーターの推進音が発せられたとする。その音は水中を広がっていき、海底ケーブル上の複数の個所に伝わる。
図4の分類条件格納部135は、各種の水中スクーターの推進音の特徴量を前述の特徴的情報として含む分類条件を保持しているとする。そして、侵入等音分類部124は、海底ケーブル上の複数の個所で水中スクーターの推進音と特徴が類似した音を検知したとする。その場合、音空間処理部125は、音の検出強度と検出した座標位置および時刻から、これらが一台の水中スクーターが発した一つの推進音と推定、識別する。(上記その1の例)
【0075】
さらに、一隻の船が航行しており、そのエンジン音が水中スクーターの推進音と同時に、海底ケーブルの複数個所に伝わったとする。この場合、侵入等音分類部124は、音の特徴の違いから、両者を区別し、かつ、音空間処理部125は、一隻の船が発した一つの航行音であること、並びに、一台の水中スクーターが発した一つの推進音であることを識別する。(上記その1の例)
【0076】
さらに、同一の種類の水中スクーターが、複数台、異なる場所で時間的に重なる形で推進音を発して、その推進音が海底ケーブルの複数個所に伝わったとする。その場合、侵入等音分類部124は、海底ケーブルの複数個所で検知された音データから、水中スクーターの推進音と識別する。そして、音空間処理部125は、海底ケーブルの複数個所で検知された音について、音源分離技術、例えばビームフォーミング技術を適用することで、複数の音源が空間的に異なる場所で発せられた音であることを識別する。(上記その2の例)
【0077】
このような、一つの音が光ケーブル上の複数個所で検出された場合にそれを1つの音として識別する処理は、音源が光ケーブルから離れた場所にあり、かつ、音源同士の距離が光ファイバセンシングの空間分解能よりも十分離れている場合に重要となる。その理由は、同一音源であることを識別する処理を行うことで、例えば侵入等主体の数を誤って多く計測するようなことを防ぐためである。
【0078】
さらに音源が移動している場合、この推定及び識別が継続して行われることで、音を出すものが移動しているというモデルに当てはめることができ、音源の速度と進行方向の把握と、少し先のその侵入等主体の位置(場所)の予測が可能となる。
【0079】
一例として、水中スクーターによるダイバーの移動を考える。水中スクーターは移動の際に、モーター音やスクリュー音などの推進音を継続的もしくは断続的に発する。侵入等音分類部124は、その推進音を検知し続ける。そして、音空間処理部125で、水中スクーター音源を、空間内を移動する物体のモデルに当てはめることで、当該水中スクーターの速度と進行方向をおおよそ把握し、次に検出されるであろう場所を予測することができる。
【0080】
また、移動物体のモデルに当てはめた場合、侵入等音分類部124は、同じ水中スクーターの推進音を再び検出する可能性が高い。そこで、その種類の音の検出しきい値を下げるなどして、水域監視情報取得部120による、侵入等音の検出・分類の信頼性をより高めることができる。また、この場合、次に検知されると予想される場所を、空間的・時間的により細かに、音空間処理部125に推定させることなども可能になる。その際にも、光ファイバのセンサアレイとしての能力を利用して、例えば周知のビームフォーミング技術を用いることで、音空間処理部125が移動する音源の追尾をしやすくすることができる。
【0081】
<処理6:背景音の変化の検出>
処理6は、水域監視装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理6が実施される場合は、例えば、背景音評価部126で実施される。
図5に示すデータ処理において、処理3、処理4は、侵入等による行為に伴って音や振動が発生する場合の検出分析処理である。これに対して処理6は、侵入等による行為自体が音をほとんど発しない場合でも検出する可能性を提供する処理である。
処理3,処理4と処理6は、共に用いられても構わない。
【0082】
処理6の原理概要は次のようなものである。広範囲の水中又は水底に設置した光ファイバ200の各点における音は常時モニタされている。その中には侵入等の行為と関係のない音(以降、背景音と呼ぶ)も含まれている。背景音評価部126は光ファイバ各点で観測される直近の背景音の状態を背景音データ格納部138に格納し、適宜更新している。水域に物体が侵入すると、例えば、背景音の音源と光ファイバ200との間に侵入等主体が入ることで、光ファイバ200に届く背景音の一部が遮られる。もしくは進行方向が曲げられる(回折)。または、背景音自体の生じ方に変化が生じることも考えられる。このように、光ファイバ200の各点でほぼ常時検出されている背景音に変化が生じたことを背景音評価部126は検出して侵入等の行為を検知する。
【0083】
背景音の音源としては、水面の波浪の音や波が岸に打ち寄せる音などが代表的な音源である。水面に船などの物体が浮いていると、物体が浮いている水面からは波浪が発する背景音は生じなくなり、物体が浮いていないときからの変化が生じる。このような自然由来の音源の他に、人工的な音を利用しても良い。人工的な音源としては、侵入等行為を検出する目的で発せられるものでも良いし、洋上風力発電風車の稼働音のように他の目的で生じる音を利用してもよい。
侵入等行為を検出する目的で発せられる人工的な音は、不審なエリアを詳細に探査するなどのため、必要に応じて追加で照射されるものでもよい。この場合、光ファイバ200は背景音が遮られることだけでなく、物体に当たって反射された音を検知することもできる。
【0084】
背景音自体も時々刻々変化するので、その時間的な前後比較により侵入等行為を検出するためには、背景音の測定で得られる情報のうち、時間的な変化が比較的緩やかな成分を取り出して前後比較することが望ましい。例えば、背景音の強度の時間的な移動平均の分布を2次元平面に投影して前後比較するとよい。
【0085】
背景音を用いた侵入等の検出にも処理5は重要となる。すなわち、センサアレイの出力から、背景音の音源を含む音空間を仮定して、例えば音を遮る物体の位置や大きさを推定する処理が必要である。またその物体が移動すれば追尾処理が重要となる。
図5には図示しないが、処理6においても、物体の種類と位置が分かっている状態での遮音の様子を水域監視情報取得部120に学習させておき、水域監視情報取得部120が、実際に得られた背景音の遮音や回折の様子から物体を推測する機能を備えてもよい。さらには、水域監視情報取得部120は、推測した物体の種類に応じた脅威度の評価の機能を備えてもよい。これらは処理4および処理8の拡張に相当する。すなわち、発生音が微弱でそれ単独では検知分類が難しい物体を、検出される背景音の変化具合と併せて評価することで、何かが侵入したことをより確かに検知し、追尾し、脅威度合いを評価するようなことが実現される。
【0086】
<処理7:許可の有無判別>
処理7は、水域監視装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理7は、実施される場合は、例えば、脅威度評価部127で実施される。
出力処理部128は、水域監視情報取得部120が侵入や迷惑行為等の行動を検出した際に、注意や警告、当局への通報などのアクションのトリガを発出することもできる。ただし、入域やその行為についての許可を得ている船等については警告や通報のトリガを発出するべきではない。例えば日常的に作業船が出入りする湾内において、アワビ漁などの密漁行為を監視する場合、許可を得てアワビ漁をする船だけでなく、通行するだけの船についても、警告や通報の対象から除外されるべきである。
【0087】
許可を得ている船かどうかを判別する方法の一例としては、AIS(Automatic Identification System)のような船舶の位置情報サービスを受信して利用する方法がある。ここでAISは、国際海事機関(IMO)の主導により2002年にSOLAS条約(海上人命安全条約)の中で大型船舶に設置が義務付けられ、その後小型船にも普及が広まっている船舶の航路情報通知システムである。水域監視装置140がAISなどの情報を受信すれば、各船の位置と固有の識別番号が分かる。そのため、水域監視装置140は、入域許可を得ている船の識別番号を別のシステムから入手して対照すれば、許可の有無を判別することができる。
AISを要しない別の仕組みについては、第二実施形態で説明する。
【0088】
<処理8:脅威の評価>
処理8は、水域監視装置140の適用状況により実施されるか否かが選択されるものである。処理8が実施される場合は、例えば、脅威度評価部127で実施される。
前述のように、出力処理部128は、水域監視装置140が侵入や迷惑行為等の行為を検出した際に、注意や警告、当局への通報などのアクションのトリガとなる情報を発出することもできる。その際に、脅威度評価部127が、検出された行動の脅威の度合いを評価して、検出情報と合わせて出力処理部128から出力することもできる。当該通知を受けたものは、脅威評価値に応じてアクションを行う。各種の検出事象に対する脅威評価値の条件は、水域監視装置140の適用状況に応じて予め設定され、例えば
図4の脅威評価条件格納部137に保持されている。
【0089】
脅威評価条件の内容は、例えば、特定の場所への侵入等主体の接近の予想である。例えば水域監視装置140が、養殖いけすから水産物を盗む行為を警備(監視)する目的に用いられる場合を考える。その場合、監視水域は養殖いけすを取り巻く周囲の水域である。そして、水域監視装置140が、前述の、処理4、処理5を通じて、監視水域内を移動する船等が、その移動方向や速度も含めて認識したとする。脅威度評価部127では、それらの船等のうち、養殖いけすの方向に向かって進んでいる船は、他の方向に向かっている船などに比べて高い脅威評価値とする。さらに、脅威度評価部127は、いけすに近づく速度といけすまでの距離から、いけすへの到達時刻を推測し、到達時刻が速いことが予想される船ほど、高い脅威評価値とする。
【0090】
脅威評価条件の内容は、あるいは、例えば、検知された行為の種類が特定の物であることである。例えば、水域監視装置140が、ある警戒水域への舟の単なる侵入を検知した場合の脅威評価値は低く設定されている。その一方、例えば、水域監視装置140が密漁行為に関連する音を検知した場合の脅威評価値は、高く設定されている。
【0091】
[効果]
本実施形態の水域監視装置は、海中又は海底に設置される光ケーブルが備える光ファイバを用いて、光ファイバセンシング技術により侵入等の行為を監視する。そのため、水中マイクを海中に設置する必要がない。本実施形態の水域監視装置は、また監視情報をリアルタイムに陸に伝えることができる。これらにより、本実施形態の水域監視装置は、侵入等の行為を監視するための音の観測の労力を軽減し、広範囲に渡る高い監視点密度での定点監視を容易化する。また、本実施形態の水域監視装置は、供給電力の制約がなく、かつ、取得可能な情報の全てを陸に伝えることができる。
【0092】
さらに、少しずつ場所がずれた多数の監視点から、測定可能な音データの全てを収集できるため、それら豊富な音データをパターン識別や音源分離などの情報処理にかけることにより、侵入等主体の種類や行動の情報をより詳細に得ることができる。また、本実施形態の水域監視装置は、水中音響センサ部に電子回路を要しないため故障しにくい。そのため、本実施形態の水域監視装置は、長期に渡る運用を維持しやすく、長期的な定点監視を容易にする。
【0093】
<第二実施形態>
第二実施形態は、第一実施形態に加えて、監視対象の水域に入ることを許可された侵入等主体を自動識別する仕組みを追加した水域監視システムについての実施形態である。以下、本実施形態の水域監視システムの第一実施形態のものと異なる点を主に説明する。
【0094】
図10は、本実施形態の水域監視システム310の構成及び動作の一例を示すイメージ図である。水域監視システム310は、第一の実施形態の
図1のものに加えて、許可される可能性のある侵入等主体が有する水中音波発生装置400を備える。
図10においては、水域監視装置140と水中音波発生装置400との組み合わせが、水域監視装置141として示されている。
【0095】
監視水域に入域する可能性のある侵入等主体、例えば船は、水中音波発生装置400を備えている。水中音波発生装置400は、水底に向けて音を出す発信器と、入域許可パターンの鍵情報の入力部(例えばQRコード(登録商標)スキャナ)と、時計(図示は省略)とを備えている。
入域許可を管理する者は、許可者に許可コードを渡す。その方法は例えば、許可コードの印刷物が渡されても良いし、許可コードが、無線インタネットなどを通じて、例えばバーコードやQRコード(登録商標)のような2次元図形により送信されることにより渡されてもよい。
【0096】
入域を許可された者は、その許可コードを、印刷物であれば紙面を開いて、また無線で受信したコードであればスマートフォンなどの端末画面に表示して、水中音波発生装置400の入力部(スキャナ等)により読み取る。すると水中音波発生装置400は、許可コードに含まれる鍵情報と時刻情報とを掛け合わせて得られる固有のパターンを、水中音響である固有音響パターンとして間欠的に発信する。水域監視装置140は、光ファイバ200により当該固有音響パターンを取得する。そして、水域監視装置140は、
図5の「処理7:許可の有無判別」において、その固有音響パターンが入域許可を表す固有音響パターンと一致する場合は、この固有音響パターンの音を出す侵入等主体(船)を、侵入等についての被疑、警告対象から除外する。
【0097】
入域許可を表す固有音響パターンは、周辺の船で録音されて、それを再発信することで許可船として偽装されてしまう恐れがある。この偽装を防ぐためには、例えば、固有音響パターンを多種類用意して、一つの固有音響パターンは一度に一隻の船でしか有効にならないようにする方法をとればよい。あるいは、固有音響パターンを時刻と秘密鍵から生成するなどして所定の間隔で定期的に更新するなどの対策をとればよい。時刻に連動した定期更新の仕組みは例えばワンタイムパスワードなどにおいて周知である。
【0098】
入域許可管理者が、許可者に送信する許可コードには、許可の期限の情報が暗号化されて含まれていてもよい。その場合、許可期間の終了後は、水中に固有音響パターンが発信されない、もしくは、水中に発信される固有音響パターンが無効なものとなるので、水域監視装置140は、無許可な侵入等主体として認識する。
水域監視装置140は、許可の期限後も入域している者を検知した場合には、入域許可管理所に通知するように構成されてもよい。その場合、入域許可管理者は、許可の期限後も入域している者に対し、水域からの退出もしくは追加料金の支払いを催促することができる。
【0099】
このように無線通信を利用することにより、入域許可管理者と各許可受領者とは直接の書面等のやり取りをしなくても、許可の発行、停止を行うことができる。入域許可管理者は、電子決済システムと連携するなどすれば、入域料を支払った者に対し、即時に入域許可コードを発行することも可能である。
【0100】
[効果]
本実施形態の水域監視システムは、監視対象の水域に入ることを許可された者だけが音として水中に発する固有音響パターンをDASにより検出することで、入域許可を得ている侵入等主体を判別し、監視対象から除外する。本実施形態の水域監視システムは、これにより誤警告や誤通報等を抑制できる。本実施形態の水域監視システムにおいては、さらに、許可された者への入域許可を表すパターンの伝達に携帯電話などの無線通信を用いることで、許可を希望する者が事前に許可管理者の所在地等に赴き登録手続きするなどの手間を不要とすることができる。
【0101】
以上説明した例では光ファイバを含む光ケーブルが海底ケーブルである場合について説明した。しかしながら、光ケーブルは、湾やカスピ海等の海洋以外の海、湖沼、川又は運河に設置されるものであっても構わない。その場合、実施形態の水域監視装置は、海、湖沼、川又は運河の中の監視水域における侵入等を監視する水域監視装置である。
【0102】
監視水域における侵入等の行為を監視する手段として、以上説明した水中音響を用いる手法に加えて、光学カメラ、サーマル(赤外線)カメラ、レーダー(電波反射)、水中音響カメラ、アクティブソーナーなどの手法が併用されても構わない。
図11は、実施形態の水域監視装置の最小限の構成である水域監視装置140xの構成を表す概念図である。水域監視装置140xは、水域侵入等情報検出部120axと、出力部120bxとを備える。水域侵入等情報検出部120axは、音データから、前記音データが取得された時刻における、水域侵入等音、及び、音または振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する。ここで、前記水域侵入等音は、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である。また、前記音または振動の前記水域侵入等による変化は、及び、前記水域侵入等でないものからの前記音または振動の前記水域侵入等による変化である。また、前記音データは、水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における前記音または振動に関するデータである。出力部120bxは、前記水域侵入等音を表す情報を出力する
【0103】
水域監視装置140xは、水中又は水底に敷設される光ケーブルの光ファイバを利用して、前記水域侵入等を観測することができる。そのため、水域監視装置140xは、広範囲に渡る長期間の定点観測を容易化する。そのため、水域監視装置140xは、前記構成により、[発明の効果]の項に記載した効果を奏する。
【0104】
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の基本的技術的思想を逸脱しない範囲で更なる変形、置換、調整を加えることができる。例えば、各図面に示した要素の構成は、本発明の理解を助けるための一例であり、これらの図面に示した構成に限定されるものではない。
また、前記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記述され得るが、以下には限られない。
(付記1)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものからの前記音または振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する水域侵入等情報検出部と、
前記水域侵入等音を表す情報を出力する出力部と、
を備える、水域監視装置。
(付記2)
前記水域侵入等情報検出部は、前記水域侵入等音を、前記水域侵入の種類、又は、前記水域侵入の行動を推定して分類する、付記1に記載された水域監視装置。
(付記3)
前記水域侵入等情報検出部は、前記分類を、一つ以上の特徴を鍵とした、予め保持する分類条件に照らして類比判定により行う、付記2に記載された水域監視装置。
(付記4)
前記水域侵入等情報検出部は前記分類を、前記音データを、前記音または振動についての複数の周波数帯に分割した後に行う、付記2又は付記3に記載された水域監視装置。
(付記5)
前記水域侵入等音は、前記水域侵入等の主体である侵入等主体でないものからの音または振動が前記侵入等主体により変化して前記光ファイバにより取得されたものである、付記1乃至付記4のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記6)
前記侵入等主体でないものは、前記侵入等主体に対して前記音または振動を人工的に照射するものである、付記5に記載された水域監視装置。
(付記7)
前記水域侵入等情報検出部は、前記光ファイバの複数の前記位置で取得された前記音データのうち、同一の、前記水域侵入等の主体である侵入等主体による前記音データを識別する、付記1乃至付記6のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記8)
前記水域侵入等情報検出部は、前記光ファイバの複数の光ファイバ位置で検出された前記音または振動の前記音データをセンサアレイ出力として用いて、空間的な前記侵入等主体の位置の分離を行い、前記侵入等主体の位置の履歴から、前記侵入等主体の各々の移動方向及び移動速度を推定する、付記7に記載された水域監視装置。
(付記9)
前記水域侵入等情報検出部は、移動する前記侵入等主体を、移動モデルに当てはめて追尾する、付記7又は付記8に記載された水域監視装置。
(付記10)
前記光ファイバは、光ケーブルに備えられ、
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水域侵入等情報検出部へ送付する、取得処理部、及び前記水域侵入等情報検出部のうちの少なくとも一方は、前記光ケーブルの設置状況の記録情報を基に、前記音データから前記設置状況の違いによる感度への影響、又は、前記光ケーブルの種類の情報を基に、前記音データから前記種類の違いによる感度への影響、を低減する処理を行う、付記9に記載された水域監視装置。
(付記11)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水域侵入等情報検出部へ送付する、取得処理部、及び前記水域侵入等情報検出部のうちの少なくとも一方は、前記光ケーブルの広範囲に伝わるリファレンス音を用いて、前記音データが取得された前記位置による差異の程度を取得し、前記差異の程度の情報に基づき、前記音データから、前記音データが取得された前記位置による感度の差異を低減する処理を行い、又は、前記音データを取得する位置を選択する、付記10に記載された水域監視装置。
(付記12)
前記水域侵入等音を、予め保持する評価ルール条件に照らして、前記水域侵入等の脅威の度合いを評価し、その結果である脅威評価結果を導出する、脅威度評価部をさらに備える、付記1乃至付記11のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記13)
所定の音響符号を発する音波発信機をさらに備え、
前記脅威度評価部は、前記音響符号を発する音源と等しい位置にある前記侵入等の主体である侵入等主体について、前記脅威の度合いを低く評価する、付記12に記載された水域監視装置。
(付記14)
前記音響符号は所定のタイミングで変更される、付記13に記載された水域監視装置。
(付記15)
前記音波発信機は、前記音波発信機に前記音響符号の鍵情報が入力されることにより、前記脅威度評価部は入域が許可されたものと見なす前記音響符号を発する、付記13又は付記14に記載された水域監視装置。
(付記16)
前記音データの取得は、分布型音響センシングである光ファイバセンシングにより行われる、付記1乃至付記15のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記17)
前記光ファイバにより前記音データを取得し、取得した前記音データを前記水域侵入等情報検出部へ送付する、取得処理部をさらに備える、付記1乃至付記16のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記18)
付記1乃至付記17のうちのいずれか一に記載された水域監視装置と、前記光ファイバと、を備える、水域監視システム。
(付記19)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものを音源とする前記音又は振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出し、
前記水域侵入等音を表す情報を出力する、
水域監視方法。
(付記20)
水中又は水底に設置される光ファイバにより取得された、前記光ファイバの各々の位置における音または振動に関するデータである音データから、前記音データが取得された時刻における、対象水域における侵入又は前記対象水域での所定の行為である水域侵入等を表す音である水域侵入等音、及び、前記水域侵入等でないものを音源とする前記音又は振動の前記水域侵入等による変化、のうちの少なくともいずれかを検出する処理と、
前記水域侵入等音を表す情報を出力するする処理と、
をコンピュータに実行させる水域監視プログラム。
(付記21)
前記分類に用いられる前記特徴は、前記音データの、周波数、周波数の時間変化及び強度包絡線の時間変化のうちの少なくともいずれかを含む、付記3に記載された水域監視装置。
(付記22)
前記侵入等の主体である侵入等主体への注意又は警告、警備船、警戒船又はドローンなどを向かわせての前記侵入等主体の撮影、及び、前記侵入等についての関係当局への通報、のうちの少なくともいずれかを行うための通知を行う通知部をさらに備える、付記1乃至付記17のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記23)
前記光ファイバの光ファイバ心線を分ける、もしくは、波長を分けることにより、前記光ケーブルを他の用途と共用する、付記10又は付記11に記載された水域監視装置。
(付記24)
前記脅威度評価部は、前記脅威の度合いの評価を、前記水域侵入等音の種類または検出した場所または移動速度から行う付記12に記載された水域監視装置。
(付記25)
前記音響符号は、時刻と暗号鍵を掛け合わることにより生成されたものである、付記13乃至付記15のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
(付記26)
前記音響符号の鍵情報は、前記対象水域への入域を許可する者から、前記入域を許可される者へ、無線により送付される、付記15に記載された水域監視装置。
(付記27)
前記音波発信機は、前記対象水域への入域が許可されたものが保持又は備えることが想定されたものである、付記13乃至付記15のうちのいずれか一に記載された水域監視装置。
なお、上記付記における「光ファイバ」は、例えば、
図1の光ファイバ200である。また、「水域侵入等情報検出部」は、例えば、
図1の水域監視情報取得部120の前記水域侵入等音を検出する部分である。また、「出力部」は、例えば、
図1の水域監視情報取得部120の前記水域侵入等音を出力する部分である。
また、「水域監視装置」は、例えば、
図1の水域監視装置140である。また、付記2、付記3の動作は、例えば、
図5の処理4に対応する。また、付記4の動作は、例えば、
図5の処理2に対応する。また、付記7、付記8、付記9の動作は、例えば、
図5の処理5に対応する。
また、「光ケーブル」は、例えば、
図2又は
図10の海底ケーブル920である。また、付記10、付記11の動作は、例えば、
図5の処理1に対応する。また、付記12の動作は、例えば、
図5の処理8に対応する。また、「音波発信機」は、例えば、
図10の水中音波発生装置400である。
また、「取得処理部」は、例えば、
図1の取得処理部101である。また、「コンピュータ」は、例えば、
図1の水域監視装置140が備えるコンピュータである。また、「水域監視プログラム」は、例えば、
図1の水域監視装置140が備えるコンピュータに処理を実行させるプログラムである。また、「通知部」は、例えば、
図4の出力処理部128である。
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
この出願は、2020年9月17日に出願された日本出願特願2020-156066を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0105】
100 インテロゲーター
101 取得処理部
103 光源部
104 変調部
105 検出部
120 水域監視情報取得部
121 処理部
122 前処理部
123 音抽出部
124 侵入等音分類部
125 音空間処理部
126 背景音評価部
127 脅威度評価部
128 出力処理部
131 記憶部
132 RAWデータ格納部
133 ケーブルルート情報格納部
134 抽出データ格納部
135 分類条件格納部
136 侵入等音検出情報格納部
137 脅威評価条件格納部
138 背景音データ格納部
140 水域監視装置
200、201、202 光ファイバ
211 光カプラ
300、310 水域監視システム
400 水中音波発生装置
920、920a、920b、920c、920d 海底ケーブル