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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】空気清浄システム及び空気清浄方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20240702BHJP
   F24F 8/24 20210101ALI20240702BHJP
   F24F 8/26 20210101ALI20240702BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240702BHJP
   A61L 9/015 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61L9/00 C
F24F8/24
F24F8/26
A61L9/01 E
A61L9/015
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022561935
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041190
(87)【国際公開番号】W WO2022102614
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2020189387
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克巳
(72)【発明者】
【氏名】室伏 祥子
(72)【発明者】
【氏名】石井 浩介
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123892(JP,A)
【文献】国際公開第2008/139653(WO,A1)
【文献】特許第6930684(JP,B2)
【文献】特開2021-104144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00
A61L 9/015
A61L 9/01
F24F 8/24
F24F 8/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンガスを生成するオゾン生成部と、
アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する放出部と、
を備え、
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールの前記アルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下であり、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルが生成され
前記アルコールは、ガスとして換算した場合に、前記オゾンガスに対して体積比で12倍以下となるように放出される、空気清浄システム。
【請求項2】
前記アルコールはエタノール及びイソプロパノールの少なくともいずれか一方を含む、請求項1に記載の空気清浄システム。
【請求項3】
前記オゾン生成部と前記放出部とを収容する第1筐体をさらに備え、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とは前記第1筐体の内側で反応する、請求項1又は2に記載の空気清浄システム。
【請求項4】
オゾンガスを生成するオゾン生成部と、
アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する放出部と、
前記オゾン生成部と前記放出部とを収容する第1筐体と、
を備え
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールの前記アルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下であり、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルが生成され、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とは前記第1筐体の外側で反応する、空気清浄システム。
【請求項5】
オゾンガスを生成するオゾン生成部と、
アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する放出部と、
前記オゾン生成部を収容する第2筐体と
前記放出部を収容する第3筐体と、
を備え
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールの前記アルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下であり、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルが生成され、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とは前記第2筐体及び前記第3筐体の外側で反応する、空気清浄システム。
【請求項6】
前記第1筐体の外側の空間である外部空間のオゾンガス濃度は0.1ppm以下となるように制御される、請求項3又は4に記載の空気清浄システム。
【請求項7】
オゾン生成部と、放出部とを備える空気清浄システムで空気を清浄する空気清浄方法であって、
前記空気清浄方法は、
前記オゾン生成部でオゾンガスを生成する工程と、
前記放出部でアルコール水溶液を霧化又は気化して放出する工程と、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルを生成する工程と、
を含み、
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールの前記アルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下であり、
前記アルコールは、ガスとして換算した場合に、前記オゾンガスに対して体積比で12倍以下となるように放出される、空気清浄方法。
【請求項8】
オゾン生成部と、放出部と、前記オゾン生成部と前記放出部とを収容する第1筐体とを備える空気清浄システムで空気を清浄する空気清浄方法であって、
前記空気清浄方法は、
前記オゾン生成部でオゾンガスを生成する工程と、
前記放出部でアルコール水溶液を霧化又は気化して放出する工程と、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルを生成する工程と、
を含み、
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールの前記アルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下であり、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とは前記第1筐体の外側で反応する、空気清浄方法。
【請求項9】
オゾン生成部と、放出部と、前記オゾン生成部を収容する第2筐体と、前記放出部を収容する第3筐体とを備える空気清浄システムで空気を清浄する空気清浄方法であって、
前記空気清浄方法は、
前記オゾン生成部でオゾンガスを生成する工程と、
前記放出部でアルコール水溶液を霧化又は気化して放出する工程と、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルを生成する工程と、
を含み、
前記アルコール水溶液に含まれるアルコールの前記アルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下であり、
前記オゾンガスと霧化又は気化された前記アルコール水溶液とは前記第2筐体及び前記第3筐体の外側で反応する、空気清浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気清浄システム及び空気清浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室内の空間を浄化するためにHEPAフィルタのようなフィルタが用いられた空気清浄機が販売されている。しかしながら、このような空気清浄機は、ウイルス及び細菌などの微生物を殺菌又は不活性化することができない。一方、オゾンガスは強い酸化力を有するため、空間内及び物体の表面に存在するウイルス及び細菌などの微生物を殺菌又は不活性化するために用いられる。しかしながら、高濃度のオゾンガスは人体に健康被害を及ぼすことが知られており、日本産業衛生学会はオゾン許容濃度を0.1ppm以下とするように勧告している。一方、室内のオゾンガス濃度が0.1ppm以下であると、微生物の殺菌又は不活性化効果が小さいため、特許文献1に記載のように、人が室内にいない時間に高濃度のオゾンガスが燻蒸される。
【0003】
特許文献1には、室内空間と連通する第一の通気口と、オゾン生成部と、オゾン分解部と、室内空間と連通する第二の通気口とを備える空気清浄機が開示されている。オゾン生成部は第一の通気口とオゾン分解部との間に位置している。オゾン生成部とオゾン分解部の間には、開閉可能でありかつ閉時にオゾンガスの流通を遮断可能な遮断手段が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-126063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の空気清浄機は、人が室内にいるときには遮断手段を開にしてオゾン分解部でオゾンガスを分解している。また、従来の空気清浄機は、人が室内にいないときには遮断手段を閉にし、オゾン生成部で生成されたオゾンガスで室内空間の悪臭及び悪臭源を除去している。しかしながら、従来の空気清浄機では、室内に人がいる時間には高濃度のオゾンガスを利用することができない。そのため、感染症に感染した感染者が室内にいた場合、咳などによって上記微生物のような感染源を含む飛沫が室内の空間に飛散し、物体の表面に付着して蓄積されるため、感染者から他の人への感染リスクが高くなるおそれがある。
【0006】
そこで、本開示は、オゾンガスに添加剤を加えて生成されたヒドロキシラジカルによって空気を浄化することが可能な空気清浄システム及び空気清浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る空気清浄システムは、オゾンガスを生成するオゾン生成部と、アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する放出部とを備える。アルコール水溶液に含まれるアルコールのアルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下である。オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルが生成される。
【0008】
アルコールはエタノール及びイソプロパノールの少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。アルコールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で12倍以下となるように放出されてもよい。空気清浄システムはオゾン生成部と放出部とを収容する第1筐体をさらに備え、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第1筐体の内側で反応してもよい。空気清浄システムはオゾン生成部と放出部とを収容する第1筐体をさらに備え、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第1筐体の外側で反応してもよい。空気清浄システムはオゾン生成部を収容する第2筐体と放出部を収容する第3筐体とをさらに備え、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第2筐体及び第3筐体の外側で反応してもよい。外部空間のオゾンガス濃度は0.1ppm以下となるように制御されてもよい。
【0009】
本開示に係る空気清浄方法は、オゾンガスを生成する工程と、アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する工程と、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルを生成する工程とを含む。アルコール水溶液に含まれるアルコールのアルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、オゾンガスに添加剤を加えて生成されたヒドロキシラジカルによって空気を浄化することが可能な空気清浄システム及び空気清浄方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る空気清浄システムを示す概略図である。
図2図2は、別の実施形態に係る空気清浄システムを示す概略図である。
図3図3は、別の実施形態に係る空気清浄システムを示す概略図である。
図4図4は、アルコールのモル分率とヒドロキシラジカル蛍光ピーク高との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0013】
[第1実施形態]
まず、図1を用いて第1実施形態に係る空気清浄システム1について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る空気清浄システム1は、空気清浄装置2を備えている。空気清浄装置2は、第1筐体10と、フィルタ部20と、送風部30と、オゾン生成部40と、放出部50と、制御部60とを備えている。ただし、空気清浄装置2はオゾン生成部40と放出部50とを備えていればよく、第1筐体10と、フィルタ部20、送風部30及び制御部60を必ずしも備えている必要はない。本実施形態に係る空気清浄システム1では、後述するように、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスと放出部50から放出された添加剤としてのアルコール水溶液とが反応してヒドロキシラジカルが生成される。そして、空気清浄システム1は、ヒドロキシラジカルによって空気を浄化する。
【0014】
オゾン(O)の酸化還元電位は2.07Vと高く、オゾンガスは極めて強い酸化力を示すため、オゾンガスは殺菌及びウイルスの不活化に用いられる。また、オゾンガスの一部が反応して空気中で生成されるヒドロキシラジカル(OH・)の酸化還元電位は、3.85Vとさらに高く、酸素原子を含む分子の中では最も酸化力が強い。しかしながら、添加剤が添加されていない通常の状態では、オゾンガスからヒドロキシラジカルが生成されにくい。そこで、本実施形態に係る空気清浄システム1では、オゾンガスの未反応の部分を添加剤としてのアルコール水溶液と反応させて酸化力の高いヒドロキシラジカルを生成し、空間中のヒドロキシラジカルの濃度を増大させることで、殺菌力を向上させている。
【0015】
第1筐体10は、フィルタ部20、送風部30、オゾン生成部40、放出部50及び制御部60を収容している。第1筐体10は、空気清浄装置2の内部空間と外部空間である室内空間とを区画している。第1筐体10には、第1筐体10の外側から空気を取り込むための吸気口11と、吸気口11から取り込まれた空気を第1筐体10の外側に排出するための排気口12とが設けられている。第1筐体10の内側には、吸気口11と排気口12とを接続する空気流路13が設けられており、吸気口11から排気口12に向かって空気流路13内を空気が流れる。空気流路13には、フィルタ部20と、送風部30と、オゾン生成部40とが上流側からこの順番で配置されている。
【0016】
フィルタ部20は吸気口11に設けられており、第1筐体10の外側から取り込まれた空気から異物を除去する。フィルタ部20は、例えば公知の防塵フィルタを含んでいてもよい。また、フィルタ部20は、防塵フィルタに加えて公知の機能性フィルタを含んでいてもよい。
【0017】
送風部30は、空気流路13においてフィルタ部20の下流側に設けられている。送風部30は、吸気口11を通じて第1筐体10の外側から第1筐体10の内側に空気を流入させ、第1筐体10内に流入した空気を、排気口12を通じて第1筐体10の外側に排出する。送風部30は、例えばシロッコファンを含んでいてもよい。送風部30は図面ではフィルタ部20の下流側に配置されているが、空気流路13内に配置されていれば吸気口11から排気口12へと向かう気流を生成することができる。そのため、送風部30は例えば排気口12付近に配置されていてもよい。
【0018】
オゾン生成部40は、オゾンガスを生成する。オゾンガスは気体のオゾンである。具体的には、オゾン生成部40は、第1筐体10の外側から取り込んだ空気中の酸素からオゾンガスを生成する。オゾン生成部40によって生成されたオゾンガスは、排気口12を通じて第1筐体10の外側に排出される。オゾン生成部40は、オゾンガスを生成することができれば特に限定されず、例えばコロナ放電及び無声放電などのような放電式オゾン発生器又は紫外線ランプ式オゾン発生器を含んでいてもよい。オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの量は、例えばオゾン生成部40の出力及びオゾン生成時間などを変更することにより調整することができる。
【0019】
空気清浄システム1は、第1筐体10の外側及び内側の少なくともいずれか一方のオゾンガス濃度を測定するオゾン濃度センサーを備えていてもよい。第1筐体10の外側のオゾンガス濃度を測定する場合には、オゾンガスとアルコール水溶液が反応した後の室内のオゾンガス濃度が測定されるため、室内のオゾンガスの量の直接的な指標を得ることができる。一方、第1筐体10の内側のオゾンガス濃度を測定する場合には、オゾン濃度センサーは例えば空気流路13におけるオゾン生成部40の下流側に配置される。この場合、オゾン濃度センサーは、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスの濃度を直接測定することができるため、オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの量の指標を得ることができる。そのため、オゾン生成部40の状態に応じてオゾンガス生成量を容易に調整することができる。
【0020】
空気清浄システム1における外部空間のオゾンガス濃度は0.1ppm以下となるように制御されることが好ましい。これにより、人が室内にいる場合であっても、空気清浄システム1によって空気を浄化することができる。外部空間のオゾンガス濃度は、0.08ppm以下となるように制御されてもよい。空気清浄システム1は、ヒドロキシラジカルによって除菌することができるため、外部空間のオゾンガス濃度の下限は特に限定されないが、例えば0.01ppm以上となるように制御されてもよい。なお、本明細書において、ppmは体積百万分率を意味する。
【0021】
オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの濃度は特に限定されない。上記のように、外部空間のオゾンガス濃度は0.1ppm以下であることが好ましい。しかしながら、オゾンガスはアルコール水溶液と反応してヒドロキシラジカルを生成するため、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスの少なくとも一部はアルコール水溶液と反応して消失する。したがって、オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの濃度は0.1ppmを超えていてもよい。ただし、第1筐体10の外側の雰囲気におけるオゾンガス濃度をより低減する観点からは、オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの濃度は0.1ppm以下となるように制御されることが好ましい。また、オゾンガス濃度を0.1ppm以下とすることにより、オゾンガスにより特定の材料が劣化するのを抑制することができる。オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの濃度は0.08ppm以下となるように制御されてもよい。また、空気清浄システム1は、ヒドロキシラジカルによって空気を浄化することができるため、オゾン生成部40で生成されるオゾンガスの濃度の下限は特に限定されないが、例えば0.01ppm以上となるように制御されてもよい。
【0022】
放出部50は、アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する。そして、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルが生成される。この際、霧化又は気化されたアルコール水溶液がオゾンガスに供給されてもよく、オゾンガスが霧化又は気化されたアルコールに供給されてもよい。
【0023】
ヒドロキシラジカルはラジカルの一種であり、例えば、微生物を構成するタンパク質及び脂質のような有機物から水素を奪い取って分解し、細菌を殺菌又はウイルスを不活性化することができる。ヒドロキシラジカルはオゾンよりも酸化還元電位が高く、ヒドロキシラジカルの濃度が低い場合であっても、十分な殺菌又は不活性化効果を有する。例えば、大腸菌を99%殺菌するのに必要なCT値(Concentration-Time Value)を比較すると、ヒドロキシラジカルはオゾンと比較して数百分の一倍以下のCT値であるとも言われている。
【0024】
そのため、本実施形態に係る空気清浄システム1によれば、ヒドロキシラジカルによる作用によって、オゾンガス濃度が低い場合であっても、効果的に細菌を殺菌し、ウイルスを不活性化することができる。また、ヒドロキシラジカルは反応性が高く、奪い取った水素と結合して水に変化するため残留性が低い。さらに、ヒドロキシラジカルは、高い酸化力によって有機物を分解することができるため、細菌の殺菌及びウイルスの不活性化だけでなく、脱臭、漂白及び洗浄などにも適用することができる。
【0025】
なお、ヒドロキシラジカルによる大腸菌を99%殺菌するのに必要なCT値は4.7×10-10mol/L・minであると言われており、他の細菌及びウイルスなどでも同様の傾向となることが予想される。一方、オゾンガス濃度が0.1ppm、相対湿度が80%(いわゆるオゾンフォグに相当)の場合、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はCT(ppm×min)=24で27%、CT=42で13%、CT=60で4.6%までTCID50が低下する。この値を指数関数で近似するとCTが約92の場合にTCID50が1%になることが推測できる。すなわち、オゾンガス濃度が0.1ppmの場合の99%不活化時間は920分すなわち約15時間になる。後述する実施例のように、オゾンガス濃度が0.1ppmのガスに添加剤を加えてヒドロキシラジカルが水分の添加よりも2倍多くできる条件の場合、99%不活化に必要な時間は1/2倍、すなわち7.5時間程度になる。この不活性化時間はオゾンガスと添加剤との反応生成物の活性化量(実質ヒドロキシラジカル濃度)と反比例する。このような考え方でオゾンガス及び添加剤の量をコントロールすることで新型コロナウイルス99%不活性化までの時間を見積もることができる。また、オゾンガスと水蒸気(水の微粒子)を混合してできるオゾンフォグを用いた場合は、水分を除去したオゾンガスを用いた場合の約1/5の時間で同等の殺菌率を示す。オゾンガスとアルコール水溶液とを反応させた場合には、オゾンフォグを使用した場合のさらに約1/2の時間で殺菌することができるので、水分を除去したオゾンガスを使用した場合に比べて不活性化までの時間が約1/10にはなると言える。
【0026】
放出部50は、上述のようにアルコール水溶液を霧化又は気化して放出する。アルコール水溶液は霧化又は気化のいずれか一方によって放出されてもよく、霧化及び気化によって放出されてもよい。また、アルコール水溶液は、霧化された直後は微小な液滴であり、その後微小な液滴が気化されてもよい。アルコール水溶液が霧化又は気化されることによって、オゾンガスとアルコール水溶液との反応が進行しやすくなるため、ヒドロキシラジカルを効率よく生成することができる。放出部50は、アルコール水溶液を霧化する噴霧器及びアルコール水溶液を気化する気化器の少なくともいずれか一方を含んでいてもよい。噴霧器は、例えば、超音波式噴霧器、メッシュ式噴霧器及びコンプレッサー式噴霧器からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。気化器は、例えば加熱式気化器を含んでいてもよい。
【0027】
超音波式噴霧器は、超音波のキャビテーション効果によってアルコール水溶液を噴霧する。超音波式噴霧器は、超音波振動子が設けられた外側槽と、外側槽よりも内側に設けられた内側槽とを含んでいてもよい。超音波式噴霧器は、例えば、内側槽と接するように外側槽に水などのような冷却液が収容され、冷却液を通じて内側槽に収容されたアルコール水溶液に超音波振動子からの超音波振動エネルギーが伝達されることでアルコール水溶液を噴霧することができる。
【0028】
メッシュ式噴霧器は、超音波振動とメッシュを用いてアルコール水溶液を噴霧する。メッシュ式噴霧器は、超音波振動子と、複数の開口部を有するメッシュと、アルコール水溶液を収容するタンクとを含んでいてもよい。メッシュ式噴霧器は、例えば、タンク内のアルコール水溶液が超音波振動子の振動によってメッシュの複数の開口部から押し出される。これにより、メッシュ式噴霧器は、アルコール水溶液を噴霧することができる。
【0029】
コンプレッサー式噴霧器は、コンプレッサーにより圧縮された気体を用いてアルコール水溶液を噴霧する。コンプレッサー式噴霧器は、スプレーノズルと、タンクと、コンプレッサーとを含んでいてもよい。タンクに収容されたアルコール水溶液はスプレーノズルへ送液され、コンプレッサーは空気などの気体をスプレーノズルに圧送する。コンプレッサー式噴霧器は、コンプレッサーで送られた気体によってスプレーノズルからアルコール水溶液を噴霧することができる。
【0030】
加熱式気化器は、アルコール水溶液を加熱し、加熱によって気化されたアルコール水溶液を放出する。加熱式気化器は、加熱器と、アルコール水溶液を貯蔵するタンクとを含んでいてもよい。加熱式気化器は、タンクに貯蔵されたアルコール水溶液が加熱器に送液され、送液されたアルコール水溶液が加熱によって気化されてもよい。加熱器は、ジュール熱によってアルコール水溶液を加熱してもよい。
【0031】
アルコール水溶液に含まれるアルコールのアルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下である。ヒドロキシラジカルは、オゾンガスと水とを反応させることによっても生成することができるが、モル分率が上記の範囲内のアルコール水溶液を用いると、オゾンガスとアルコール水溶液とを反応させて得られるヒドロキシラジカルの生成量が多くなる。そのため、オゾンガスよりも酸化力の高いヒドロキシラジカルを高い効率で生成することができるため、室内のオゾンガス濃度を低い状態で維持したままであっても、細菌の殺菌及びウイルスの不活性化効果を向上させることができる。アルコール水溶液中のアルコールのモル分率は0.1以上であってもよく、0.3以下であってもよい。
【0032】
アルコールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で12倍以下となるように放出されてもよい。上記体積比が12倍以下であると、オゾンガスとアルコール水溶液とを反応させて得られるヒドロキシラジカルの生成量が多くなる場合がある。上記体積比は11倍以下であってもよい。また、上記体積比は0.1倍以上であってもよく、1倍以上であってもよく、2倍以上であってもよい。
【0033】
アルコール水溶液に含まれるアルコールは特に限定されない。アルコール水溶液を容易に霧化又は気化する観点から、炭素数が1以上5以下のアルコールを含むことが好ましい。アルコール水溶液は、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのプロパノール、ブタノール及びペンタノールからなる群より選択される少なくとも一種のアルコールを含んでいてもよい。これらの中でも、アルコールは、消毒用アルコールとして汎用的に使用されているエタノール及びイソプロパノールの少なくともいずれか一方を含むことが好ましい。また、ヒドロキシラジカルの生成量が多くなるという観点から、アルコールはエタノールを含むことが好ましい。
【0034】
本実施形態に係る空気清浄システム1では、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第1筐体10の内側で反応する。第1筐体10の内側でオゾンガスとアルコール水溶液とを反応させることにより、第1筐体10の内側でオゾンガスの一部が消失する。そのため、多くのオゾンガスを生成しても、高濃度のオゾンガスが室内に放出されることを抑制することができる。放出部50は、例えば、空気流路13内にアルコール水溶液を放出してもよく、空気流路13とは異なる混合室内にアルコール水溶液を放出し、空気流路13又は混合室内でオゾンガスとアルコール水溶液とを反応させてもよい。放出部50は、アルコール水溶液を、図1に示すように空気流路13におけるオゾン生成部40よりも下流側に放出してもよく、上流側に放出してもよい。
【0035】
制御部60は、CPU、ROM及びRAMを含んでいる。CPUは、ROMに記憶されたプログラムを読み込み、プログラムに従って演算及び制御などの命令を実行することができる。RAMは、送風部30、オゾン生成部40及び放出部50などから取得した情報を記憶し、CPUはRAMに記憶された情報を読み出して演算などの処理に用いることができる。制御部60は、送風部30、オゾン生成部40及び放出部50の駆動のON及びOFFを制御してもよい。制御部60は、送風部30、オゾン生成部40及び放出部50が連続して駆動するように制御してもよく、所定のタイミングで断続的に駆動するように制御してもよい。送風部30、オゾン生成部40及び放出部50の駆動のタイミングは同じであってもよく、それぞれ異なっていてもよい。例えば、制御部60は、オゾンガスの生成とアルコール水溶液の放出とが同時に生じるようにオゾン生成部40と放出部50との駆動のタイミングを制御してもよい。また、制御部60は、オゾンガスの生成とアルコール水溶液の放出とが異なるタイミングで生じるようにオゾン生成部40と放出部50との駆動のタイミングを制御してもよい。また、制御部60は、オゾン濃度センサーで測定された濃度に基づいてオゾン生成部40の駆動を制御してもよい。
【0036】
なお、本実施形態では、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスと放出部50から放出されたアルコール水溶液とが反応して生成されたヒドロキシラジカルは、オゾン分解部などを介さずに排気口12から排出される例について説明した。しかしながら、本実施形態に係る空気清浄システム1は、ヒドロキシラジカルによって空気が浄化されるため、空気流路13におけるヒドロキシラジカルが生成される領域の下流側に未反応のオゾンガスを分解するオゾン分解部を備えていてもよい。これにより、空気を浄化しつつ、室内のオゾンガス濃度を低減することができる。オゾン分解部は、例えば、オゾンガスと接触することによりオゾンガスを分解する二酸化マンガンのようなオゾン分解触媒を含んでいてもよい。
【0037】
以上説明した通り、本実施形態に係る空気清浄システム1は、オゾンガスを生成するオゾン生成部40と、アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する放出部50とを備えている。アルコール水溶液に含まれるアルコールのアルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下である。そして、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルが生成される。
【0038】
また、本実施形態に係る空気清浄方法は、オゾンガスを生成する工程と、アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する工程と、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とが反応することによってヒドロキシラジカルを生成する工程とを含む。アルコール水溶液に含まれるアルコールのアルコール水溶液に対するモル分率は0.05以上0.35以下である。
【0039】
ヒドロキシラジカルは、オゾンガスと比較して酸化力が高いため、空間内のヒドロキシラジカルの濃度が低い場合であっても、効果的に細菌を殺菌し、ウイルスを不活性化することができる。そのため、従来の空気清浄機のように、人が室内にいない時間に高濃度のオゾンガスを燻蒸しなくてもよい。また、ヒドロキシラジカルは、高い酸化力によって有機物を分解することができるため、細菌の殺菌及びウイルスの不活性化に代えて又はこれらに加え、脱臭、漂白及び洗浄などにも適用することができる。したがって、本実施形態に係る空気清浄システム1又は空気清浄方法によれば、オゾンガスに添加剤を加えて生成されたヒドロキシラジカルによって空気を浄化することができる。なお、空気清浄システム1又は空気清浄方法は、人が室内にいない場合に、細菌の殺菌及びウイルスの不活性化を向上させるため、高濃度のオゾンガスをヒドロラジカルと併用して用いてもよい。
【0040】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る空気清浄システム1について図2を用いて説明する。第1実施形態に係る空気清浄システム1では、オゾン生成部40と放出部50とを収容する第1筐体10を備え、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第1筐体10の内側で反応している。本実施形態に係る空気清浄システム1では、オゾン生成部40と放出部50とを収容する第1筐体10を備えている点で第1実施形態に係る空気清浄システム1と共通する。一方、本実施形態に係る空気清浄システム1では、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第1筐体10の外側で反応する。それ以外の点については、第2実施形態に係る空気清浄システム1は第1実施形態に係る空気清浄システム1と同様である。
【0041】
放出部50は、図2に示すように、アルコール水溶液を第1筐体10の外側に放出可能なように第1筐体10に設けられている。放出部50は、例えば、第1筐体10の排気口12を通じて排出されたオゾンガスに向かってアルコール水溶液を放出する。これにより、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスと放出部50から放出されたアルコール水溶液とは第1筐体10の外側で混合され、ヒドロキシラジカルが生成される。
【0042】
以上説明した通り、本実施形態に係る空気清浄システム1は、オゾン生成部40と放出部50とを収容する第1筐体10をさらに備え、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第1筐体10の外側で反応する。本実施形態に係る空気清浄システム1によれば、第1筐体10の外側でヒドロキシラジカルが生成されるため、室内の壁、床及び天井並びに室内に置かれた物体に付着した細菌及びウイルスの殺菌又は不活性化に寄与し得る。
【0043】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る空気清浄システム1について図3を用いて説明する。第1実施形態に係る空気清浄システム1では、オゾン生成部40と放出部50とを収容する第1筐体10を備えていた。一方、本実施形態に係る空気清浄システム1は、第1筐体10に代え、オゾン生成部40を収容する第2筐体15と放出部50を収容する第3筐体51とを備えている。そして、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第2筐体15及び第3筐体51の外側で反応する。それ以外の点については、第3実施形態に係る空気清浄システム1は第1実施形態に係る空気清浄システム1と同様である。
【0044】
本実施形態に係る空気清浄システム1は、オゾン生成装置3と、放出装置4とを備えている。オゾン生成装置3は、第2筐体15と、フィルタ部20と、送風部30と、オゾン生成部40と、制御部60とを備えている。第2筐体15は、フィルタ部20、送風部30、オゾン生成部40及び制御部60を収容している。第2筐体15は、第1筐体10に相当し、オゾン生成装置3の内部空間と外部空間である室内空間とを区画している。第2筐体15には、第1筐体10と同様に、吸気口11と排気口12とが設けられており、第2筐体15の内側には、吸気口11と排気口12とを接続する空気流路13が設けられている。オゾン生成装置3は放出部50を備えていない点において第1実施形態に係る空気清浄装置2と異なるが、それ以外の点については空気清浄装置2と同様である。なお、オゾン生成装置3はオゾン生成部40を備えていればよく、フィルタ部20、送風部30及び制御部60を必ずしも備えている必要はない。
【0045】
放出装置4は、放出部50と、第3筐体51とを備えている。放出部50は、第3筐体51に収容されている。放出部50は第3筐体51に設けられており、第3筐体51の外側にアルコール水溶液を噴霧する。放出部50は、第1実施形態と同様のものを使用することができ、アルコール水溶液を霧化又は気化して放出する。
【0046】
オゾン生成部40で生成されたオゾンガスは第2筐体15の外側に放出される。また、放出装置4はアルコール水溶液を第3筐体51の外側に放出する。そして、オゾン生成部40で生成されたオゾンガスと放出部50から放出されたアルコール水溶液とが第2筐体15及び第3筐体51の外側で混合され、ヒドロキシラジカルが生成される。
【0047】
以上説明した通り、本実施形態に係る空気清浄システム1は、オゾン生成部40を収容する第2筐体15と放出部50を収容する第3筐体51とをさらに備えている。そして、オゾンガスと霧化又は気化されたアルコール水溶液とは第2筐体15及び第3筐体51の外側で反応する。本実施形態に係る空気清浄システム1によれば、オゾンガスとアルコール水溶液とは第2筐体15及び第3筐体51の外側で反応する。そのため、第2筐体15及び第3筐体51の外側でヒドロキシラジカルが生成されるため、室内の壁、床及び天井並びに室内に置かれた物体に付着した細菌及びウイルスの殺菌又は不活性化に寄与し得る。また、オゾン生成部40を収容する第2筐体15と、放出部50を収容する第3筐体51とを別体とすることができるため、故障の際のメンテナンスを容易にすることができる。
【0048】
空気清浄システム1は、例えば、建物及び移動体などの室内に設置され、室内の空気を浄化することができる。空気清浄システム1は、例えば、家屋、病院、学校、工場、喫煙室、自動車、バス、電車及び船舶などで用いることができる。
【0049】
なお、第1実施形態から第3実施形態では、持ち運び可能な移動式の空気清浄システム1について説明したが、空気清浄システム1は、室内の天井又は壁などに設けられた固定式の空気清浄システムであってもよい。
【実施例
【0050】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
まず、富士フイルム和光純薬株式会社製の特級イソプロパノールのモル分率が0.1となるようにイソプロパノールと水とを1:9の比率で混合してイソプロパノール水溶液の薬剤(添加剤)を調製した。次に、ガスとして換算した場合に、オゾン:イソプロパノール=1:2.8(体積比)程度の混合比となるように、オゾンガスと気化されたイソプロパノール水溶液とを反応槽で反応させた。具体的には、イソプロパノールを、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で約2.8倍となるように放出した。より具体的には、流量20μL/分で放出された上記薬剤を加熱して気化した。そして、気化された薬剤をオゾンガス濃度が500ppm、流量500mL/minのガスと混合し、30℃で保温された反応槽で反応させた。
【0052】
反応槽内には化学センサー液を入れたビーカーを載置した。化学センサー液は、テレフタル酸の濃度が2mmol/Lとなるように、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド):メタノール=4:1の混合液250mLにテレフタル酸0.084gを溶解して調製した。テレフタル酸は富士フイルム和光純薬株式会社製の特級を使用し、DMFは富士フイルム和光純薬株式会社製の特級を使用し、メタノールは富士フイルム和光純薬株式会社製の特級を使用した。
【0053】
テレフタル酸は波長310nmの紫外線を照射しても蛍光を発しない。しかしながら、テレフタル酸とヒドロキシラジカルとが反応して生成された2-ヒドロキシテレフタル酸は、波長310nmの紫外線を吸収して波長425nm付近にピークを有する蛍光を発する。そのため、この化学センサー液をヒドロキシラジカルの生成量の指標として用いた。化学センサー液の蛍光強度は、株式会社島津製作所製の分光蛍光光度計RF-5300を用いて測定した。具体的には、波長310nmの紫外線を化学センサー液に照射し、化学センサー液から発せられる蛍光の波長425nm付近のスペクトルのピーク強度(ヒドロキシラジカル蛍光ピーク高)を測定した。
【0054】
[実施例2]
イソプロパノールのモル分率が0.3となるようにイソプロパノールと水とを3:7の比率で混合してイソプロパノール水溶液の薬剤を調製した以外は実施例1と同様にしてヒドロキシラジカル蛍光ピーク高を測定した。なお、イソプロパノールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で約8.1倍となるように放出した。
【0055】
[実施例3]
富士フイルム和光純薬株式会社製の特級エタノールのモル分率が0.1となるようにエタノールと水とを1:9の比率で混合してエタノール水溶液の薬剤を調製した以外は実施例1と同様にしてヒドロキシラジカル蛍光ピーク高を測定した。なお、エタノールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で約3.6倍となるように放出した。
【0056】
[実施例4]
エタノールのモル分率が0.3となるようにエタノールと水とを3:7の比率で混合してエタノール水溶液の薬剤を調製した以外は実施例1と同様にしてヒドロキシラジカル蛍光ピーク高を測定した。なお、エタノールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で約11倍となるように放出した。
【0057】
[比較例1]
アルコールのモル分率が0の水を薬剤として用いた以外は実施例1と同様にしてヒドロキシラジカル蛍光ピーク高を測定した。
【0058】
[比較例2]
イソプロパノールのモル分率が0.5となるようにイソプロパノールと水とを1:1の比率で混合してイソプロパノール水溶液の薬剤を調製した以外は実施例1と同様にしてヒドロキシラジカル蛍光ピーク高を測定した。なお、イソプロパノールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で約13倍となるように放出した。
【0059】
[比較例3]
エタノールのモル分率が0.5となるようにエタノールと水とを1:1の比率で混合してエタノール水溶液の薬剤を調製した以外は実施例1と同様にしてヒドロキシラジカル蛍光ピーク高を測定した。なお、エタノールは、ガスとして換算した場合に、オゾンガスに対して体積比で約19倍となるように放出した。
【0060】
【表1】
【0061】
表1及び図4に示すように、実施例1~実施例4では、モル分率が0.05以上0.35以下であるアルコール水溶液とオゾンガスとを反応させている。なお、図4には、ヒドロキシラジカル蛍光ピーク高の測定誤差である+5%及び-5%の線を追加している。これらの実施例では、比較例1~比較例3のような水及びモル分率が0.5であるアルコール水溶液とオゾンガスとを反応させた場合と比較し、ヒドロキシラジカルの発生量が増加した。例えば、エタノール水溶液(モル分率0.1)の場合、ヒドロキシラジカルのピーク比が水の場合と比較して1.9倍で、約2倍の活性(殺菌性能)がある。このメカニズムは定かではないが、オゾンガスの反応性から推定される。まず、湿分が存在するとオゾンガスと反応してヒドロキシラジカルが発生しやすくなる。
【0062】
オゾンガスは水よりアルコールとの反応性が高いため、実施例1~実施例4のようなアルコール水溶液を反応させた場合の方が、水を反応させた場合よりもヒドロキシラジカルの発生量が約2倍に多くなると思われる。一方、アルコールのモル分率が多くなりすぎると、生成したヒドロキシラジカルがアルコールと反応し、生成ヒドロキシラジカルの一部が消失してしまう。そのため、モル分率が0.5である場合にはヒドロキシラジカル発生量が低くなったと推定される。なお、本例では装置の都合上、オゾンガスの濃度が500ppmである場合のヒドロキシラジカルの生成量を評価したが、オゾンガスの濃度が0.1ppmのような低濃度の系でも同様の結果になることが予想される。
【0063】
また、オゾンガスに対する気化したアルコールの体積比(アルコール体積比)をみると、ヒドロキシラジカル濃度が増えたアルコールのモル分率が0.1の実施例1では2.8、実施例3では3.6である。また、アルコールのモル分率が0.3の実施例2では8.1、実施例4では11である。このため、アルコールの添加量は、ガスとして換算した場合、オゾンガスとの体積比が12倍までが好ましい範囲となる。
【0064】
特願2020-189387号(出願日:2020年11月13日)の全内容は、ここに援用される。
【0065】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【0066】
本開示は、例えば、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3『あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する』に貢献することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 空気清浄システム
10 第1筐体
15 第2筐体
40 オゾン生成部
50 放出部
51 第3筐体
図1
図2
図3
図4