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特許7513114車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置
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  • 特許-車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置 図1
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  • 特許-車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置 図5B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20240702BHJP
   B60K 11/02 20060101ALI20240702BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
F16H57/04 J
B60K11/02
H02K9/19 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022565113
(86)(22)【出願日】2021-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2021038668
(87)【国際公開番号】W WO2022113575
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2020195272
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松尾 武志
(72)【発明者】
【氏名】下方 伸将
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-132941(JP,A)
【文献】特開2010-144748(JP,A)
【文献】特開2006-349150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 11/02
H02K 9/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容空間を形成するケースと、前記収容空間に配置され、かつ、回転軸を有する車両駆動用モータと、前記車両駆動用モータの外周側において前記回転軸の軸方向に形成された第1油孔と、前記第1油孔と前記収容空間とを連通するように形成された第2油孔と、を備え、前記第1油孔及び前記第2油孔によって前記車両駆動用モータに潤滑及び/又は冷却のための潤滑油を供給する車両用駆動装置のケースの製造方法において、
前記ケースの壁部において前記収容空間の内部に突出し、かつ、前記軸方向に沿って延びた形状の肉厚部を前記ケースと一体に形成する肉厚部形成工程と、
前記肉厚部に穿孔して前記第1油孔を形成する第1油孔形成工程と、
前記肉厚部に穿孔して前記第2油孔を形成する第2油孔形成工程と、を備える、車両用駆動装置のケースの製造方法。
【請求項2】
前記ケースは、前記肉厚部が形成される第1ケース部材と、第2ケース部材と、を有し、
前記第1ケース部材は、前記第2ケース部材に接合される接合面を有し、
前記肉厚部は、前記軸方向の一方の端部が前記接合面まで延びた形状であり、
前記第1油孔は、前記接合面に開口し、
前記第1油孔形成工程において、前記接合面から前記肉厚部に穿孔して前記第1油孔を形成する、請求項1に記載の車両用駆動装置のケースの製造方法。
【請求項3】
前記第1油孔形成工程及び前記第2油孔形成工程の後に、前記第1油孔及び前記第2油孔に残留した切り屑を洗浄する洗浄工程を有する、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置のケースの製造方法。
【請求項4】
前記第2油孔形成工程において、円板状のスロットカッタにより前記第2油孔を形成する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の車両用駆動装置のケースの製造方法。
【請求項5】
前記車両駆動用モータは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の車両用駆動装置のケースの製造方法により製造されたケースに固定されたステータと、前記回転軸に固定支持されたロータと、を有し、
前記第2油孔が前記収容空間に開口する開口部に対して前記ステータが対向するように、前記ステータを前記ケースに組み付けるステータ組付工程を備える、車両用駆動装置の製造方法。
【請求項6】
前記車両用駆動装置は、前記潤滑油を吐出するポンプを有し、
前記潤滑油は、前記ポンプから前記第1油孔と前記第2油孔を経て、前記ステータに供給される、請求項5に記載の車両用駆動装置の製造方法。
【請求項7】
収容空間を形成するケースと、
前記収容空間に配置され、かつ、回転軸を有する車両駆動用モータと、
前記車両駆動用モータの外周側において前記回転軸の軸方向に形成された第1油孔と、
前記第1油孔と前記収容空間とを連通するように形成され、前記第1油孔からの潤滑及び/又は冷却のための潤滑油を前記車両駆動用モータに供給する第2油孔と、を備え、
前記ケースは、その内壁部において前記収容空間の内部に突出し、かつ、前記軸方向に沿って延びた形状の肉厚部を前記ケースと一体にして有し、
前記第1油孔と前記第2油孔とは、前記肉厚部に別々に穿孔されて形成されている、車両用駆動装置。
【請求項8】
前記潤滑油を吐出するポンプを備え、
前記車両駆動用モータは、前記ケースに固定されたステータと、前記回転軸に固定支持されたロータと、を有し、
前記潤滑油は、前記ポンプから前記第1油孔と前記第2油孔を経て、前記ステータに供給される、請求項7に記載の車両用駆動装置。
【請求項9】
前記第2油孔は、溝形状である、請求項7又は8に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車等の車両に適用される車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、電気自動車やハイブリッド車両に用いて好適な車両用駆動装置として、ケース内の回転電機やギヤなどの潤滑及び/冷却の対象(以下、潤滑対象という)に潤滑油を供給して潤滑や冷却を行うようにしたものが普及している。このような車両用駆動装置の潤滑装置としては、例えば、ケース内の潤滑対象よりも外周側に潤滑油供給用の専用パイプを設置して、専用パイプから潤滑対象に潤滑油を供給するようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-193642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載した潤滑装置では、潤滑対象に潤滑油を供給するために専用パイプを使用しているため、その分のコストが高くなってしまう。また、専用パイプをケース内に固定するために、固定用の部品が必要になり、更なるコスト高や構造の複雑化を招いてしまう可能性がある。
【0005】
そこで、潤滑油を潤滑及び/冷却の対象に供給するための専用パイプを省略できる車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両用駆動装置のケースの製造方法は、収容空間を形成するケースと、前記収容空間に配置され、かつ、回転軸を有する車両駆動用モータと、前記車両駆動用モータの外周側において前記回転軸の軸方向に形成された第1油孔と、前記第1油孔と前記収容空間とを連通するように形成された第2油孔と、を備え、前記第1油孔及び前記第2油孔によって前記車両駆動用モータに潤滑及び/又は冷却のための潤滑油を供給する車両用駆動装置のケースの製造方法において、前記ケースの壁部において前記収容空間の内部に突出し、かつ、前記軸方向に沿って延びた形状の肉厚部を前記ケースと一体に形成する肉厚部形成工程と、前記肉厚部に穿孔して前記第1油孔を形成する第1油孔形成工程と、前記肉厚部に穿孔して前記第2油孔を形成する第2油孔形成工程と、を備える。
【0007】
また、本開示に係る車両用駆動装置の製造方法は、前記車両駆動用モータは、上記のケースの製造方法により製造されたケースに固定されたステータと、前記回転軸に固定支持されたロータと、を有し、前記第2油孔が前記収容空間に開口する開口部に対して前記ステータが対向するように、前記ステータを前記ケースに組み付けるステータ組付工程を備える。
【0008】
また、本開示に係る車両用駆動装置は、収容空間を形成するケースと、前記収容空間に配置され、かつ、回転軸を有する車両駆動用モータと、前記車両駆動用モータの外周側において前記回転軸の軸方向に形成された第1油孔と、前記第1油孔と前記収容空間とを連通するように形成され、前記第1油孔からの潤滑及び/又は冷却のための潤滑油を前記車両駆動用モータに供給する第2油孔と、を備え、前記ケースは、その壁部において前記収容空間の内部に突出し、かつ、前記軸方向に沿って延びた形状の肉厚部を前記ケースと一体にして有し、前記第1油孔と前記第2油孔とは、前記肉厚部に別々に穿孔されて形成されている。
【発明の効果】
【0009】
本車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置によると、潤滑及び/冷却の対象である車両駆動用モータへ潤滑油を供給可能にしつつ、専用パイプを不要にするため、コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のケースを示す分解斜視図である。
図2】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のモータケースの肉厚部を示す斜視図である。
図3】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の潤滑油の供給経路を示す概略図である。
図4A】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のモータケースを示す斜視図であり、第1油孔を形成する前の状態である。
図4B】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のモータケースを示す斜視図であり、第1油孔を形成する際の状態である。
図5A】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のモータケースを示す斜視図であり、第1油孔を形成した後の状態である。
図5B】第1の実施形態に係る車両用駆動装置のモータケースを示す斜視図であり、第2油孔を形成する際の状態である。
図6】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の第1油孔及び第2油孔を洗浄している状態を示す斜視図である。
図7】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の第2油孔の貫通検査を行っている状態を示す斜視図である。
図8】第1の実施形態に係る車両用駆動装置を製造する手順を示すフローチャートである。
図9】第1の実施形態に係る車両用駆動装置の第2油孔を形成する際の変形例を示す斜視図である。
図10】第2の実施形態に係る車両用駆動装置を示すケース及びモータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<第1の実施形態>
以下、本開示の第1の実施形態を、図1図8を参照しながら詳細に説明する。本実施形態に係る車両用駆動装置1は、所謂FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型の電気自動車に搭載されるものとしている。但し、電気自動車には限られず、ハイブリッド車両であってもよく、また、FF型には限られずFR(フロントエンジン・リアドライブ)型であってもよい。
【0012】
[車両用駆動装置の概略構成]
本実施形態に係る車両用駆動装置1は、図1に示すように、収容空間20を形成するケース2と、車両の走行用駆動力を出力する車両駆動用モータとして収容空間20に配置されたモータ3と、不図示の動力伝達機構や油圧制御装置などを備えている。ケース2は、車両の左右方向を軸方向D1として設けられており、第1ケース部材の一例であるモータケース21と、第2ケース部材の一例であるカバー22と、トランスアクスルケース23とを有している。尚、本実施形態では、ケース2の軸方向D1に関して、モータケース21の収容空間20の開口側をX方向、それとは反対側をY方向とする。ケース2は、モータケース21のX方向側にカバー22が連結され、モータケース21のY方向側にトランスアクスルケース23が連結され、これらモータケース21とカバー22とトランスアクスルケース23とが一体化されて構成されている。
【0013】
[潤滑油の供給構成]
図2及び図4Aに示すように、モータケース21は、モータ3が収容される収容空間20の外周側に肉厚部40,50を有している。肉厚部40,50は、モータケース21の壁部24にモータケース21と一体に形成され、軸方向D1に沿って延びた形状とされている。肉厚部40,50は、いずれもモータ3の上方に配置され、軸方向D1を長手方向として隣り合って平行に設けられている。肉厚部40,50は、他の壁部24よりも肉厚に形成されており、後述する第1油孔41,51及び第2油孔42,52を穿孔するのに十分な厚さを有しているものとする。尚、本実施形態では、肉厚部40,50がモータ3の上方の2か所に設けられている場合について説明しているが、これには限られず、1か所あるいは3か所以上に設けられていてもよい。
【0014】
図2に示すように、肉厚部40,50には、それぞれ第1油孔41,51と第2油孔42,52とが形成されている。第1油孔41,51は、モータ3の外周側において軸方向D1に形成されている。第2油孔42,52は、第1油孔41,51と収容空間20とを連通するように形成されており、本実施形態では複数設けられている。第1油孔41,51は、肉厚部40,50のX方向側の端部43,53に連通されており、各端部43,53において不図示の蓋部材により閉塞されている。また、第1油孔41,51は、Y方向側の端部において、肉厚部40,50から収容空間20に露出することなく第1油路61に連通されている。
【0015】
図3に示すように、車両用駆動装置1(図1参照)は、潤滑油を吐出するポンプ64を有する。第1油路61はクーラ63に接続され、クーラ63は第2油路62を介してポンプ64に接続されている。ポンプ64の吸引管65は、モータケース21の底部に開口している。
【0016】
モータ3は、モータケース21に固定されたステータ31と、収容空間20に配置された回転軸30に固定支持されたロータ32と、を有している。潤滑油は、モータ3に潤滑及び/又は冷却のために供給される。ステータ31は、回転軸30を中心として配置された潤滑及び/又は冷却の対象であり、第2油孔42,52に対向して設けられている。本実施形態では、潤滑及び/又は冷却の対象がステータ31であるため、第2油孔42,52は、ステータ31の中でも特に冷却する必要がある軸方向D1の両端部のコイルエンド部に向けて設けられている。即ち、第2油孔42,52は、収容空間20に開口する開口部に対してステータ31が対向するように形成されている。このため、第2油孔42,52は第1油孔41,51の軸方向D1の両端部に設けられている。
【0017】
モータケース21の底部に貯留した潤滑油66をステータ31に供給する際は、ポンプ64は、吸引管65を介して潤滑油66を吸引して、第2油路62を介してクーラ63に吐出する。クーラ63で冷却された潤滑油は、第1油路61を介して第1油孔41,51に流通され、第1油孔41,51から第2油孔42,52に流通され、第2油孔42,52からステータ31に向けて供給される。即ち、第2油孔42,52は、第1油孔41,51からの潤滑油をステータ31に供給し、第1油孔41,51及び第2油孔42,52によってステータ31に潤滑油を供給する。このように、潤滑油は、ポンプ64から第1油孔41,51と第2油孔42,52を経て、ステータ31に供給される。
【0018】
[モータケース及びモータの製造方法]
次に、上述したモータケース21の製造方法について、図4A図7図8に示すフローチャートを用いて説明する。まず、図4Aに示すように、モータケース21の粗材を例えばアルミ鋳造により形成し、その際に壁部24に肉厚部40,50を形成する(図8のステップS1、肉厚部形成工程)。肉厚部40,50は、潤滑油を供給したい箇所の外周側において、その近傍まで設けることが好ましい。
【0019】
そして、図4Bに示すように、ロングドリル70を用いて、肉厚部40のX方向側の端部43から軸方向D1に沿ってY方向に向けて穿孔し、第1油孔41を形成する(図8のステップS2、第1油孔形成工程)。本実施形態では、小型小径スピンドルを用いた垂直方向(軸方向D1)加工ドリルをロングドリル70として汎用マシニングセンタに装着して、第1油孔41を形成する。同様に、図5Aに示すように、肉厚部50のX方向側の端部53(図4B参照)から軸方向D1に沿ってY方向に向けて穿孔し、第1油孔51を形成する。
【0020】
更に、図5Bに示すように、交差型ドリル71を用いて、肉厚部40の収容空間20側から軸方向D1に交差する方向に第1油孔41に向けて穿孔し、第2油孔42を形成する(図8のステップS3、第2油孔形成工程)。交差型ドリル71は、軸方向D1を長手方向とする支軸72と、支軸72の先端部に設けられ、軸方向D1に直交など交差する方向に向けたドリル部73とを有している。ドリル部73は、水平方向(軸方向D1の交差方向)加工ドリルであり、電気駆動式のものを使用している。但し、ドリル部73としては、電気駆動式には限られず、例えば、エアー駆動式のものであってもよい。本実施形態では、交差型ドリル71を汎用マシニングセンタに装着して、第2油孔42を形成する。同様に、肉厚部50の収容空間20側から軸方向D1に交差する方向に第1油孔51に向けて穿孔し、第2油孔52(図6参照)を形成する。尚、第2油孔42,52はそれぞれ複数設けられているが、形成順序は適宜設定することができる。
【0021】
このように、本実施形態では、第1油孔41,51と第2油孔42,52とは、肉厚部40,50に別々に穿孔されて形成されている。ここで、本実施形態では、第1油孔形成工程の後に第2油孔形成工程を実行している。このため、第2油孔42,52の形成時には既に第1油孔41,51が形成されているので、第1油孔41,51と第2油孔42,52との連通を確実に行うことができる。但し、第1油孔形成工程の後に第2油孔形成工程を実行することには限られず、第2油孔形成工程の後に第1油孔形成工程を実行するようにしてもよい。
【0022】
第1油孔41,51と第2油孔42,52とが形成された後、図6に示すように、第1油孔51及び第2油孔52に残留した切り屑を洗浄する(図8のステップS4、洗浄工程)。ここでは、例えば、噴射装置74から第1油孔51のX方向側の開口51aに水Wを噴射して、第2油孔52から噴出させることで、第1油孔51及び第2油孔52に残留した切り屑を洗い流す。尚、図6では第1油孔51及び第2油孔52を洗浄する場合について示しているが、図5Bに示す第1油孔41及び第2油孔42も同様に洗浄する。
【0023】
第1油孔41,51と第2油孔42,52とを洗浄した後、図7に示すように、第2油孔52の貫通検査を行う(図8のステップS5、検査工程)。ここでは、例えば、ペンライトのような発光装置75により第1油孔51のX方向側の開口51aをX方向側から照射して、第2油孔52の貫通方向である方向D2から第2油孔52を目視して、第1油孔51の中からの光を確認できれば、その第2油孔52は貫通しているものと判断する。切り屑などが詰まっていて貫通していない第2油孔52が検出された場合は、その第2油孔52に細い棒を貫き通すなどして貫通させる処理を行う。尚、図7では第2油孔52を検査する場合について示しているが、第2油孔42も同様に検査する。
【0024】
第2油孔42,52の貫通検査後、モータ3をモータケース21に組み付ける(図8のステップS6、ステータ組付工程)。このとき、第2油孔42,52が収容空間20に開口する開口部に対してステータ31が対向するように、モータ3をモータケース21に組み付ける。その後、カバー22をモータケース21に組み付けて(図8のステップS7)、車両用駆動装置1を完成させる。
【0025】
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置1によると、モータケース21は肉厚部40,50を有し、ステータ31に潤滑油を供給するための第1油孔41,51と第2油孔42,52とは肉厚部40,50に別々に穿孔されて形成されているので、潤滑油の供給を確保しながらも、潤滑油をステータ31に供給するための専用パイプを省略することができる。このため、専用パイプを使用する場合に比べて、コストを低減することができる。また、専用パイプをケース内に固定するための部品が不要になるので、更なるコスト高や構造の複雑化を回避することができる。更に、専用パイプを使用する場合によりも接合不良による圧力損失の発生を抑えることができるので、ステータ31への潤滑油の供給の安定化を図ることができる。
【0026】
また、本実施形態の車両用駆動装置1によると、潤滑及び/又は冷却の対象はモータ3のステータ31であるので、肉厚部40,50の近傍にモータ3用の十分に大きな収容空間20を設けることができる。このため、ロングドリル70や交差型ドリル71などの工具を軸方向D1の奥側まで容易に入れることができ、作業性を向上することができる。
【0027】
また、本実施形態の車両用駆動装置1のモータケース21の製造方法によると、肉厚部40,50を形成する肉厚部形成工程と、第1油孔41,51を形成する第1油孔形成工程と、第2油孔42,52を形成する第2油孔形成工程と、を備えているので、潤滑油の供給を確保しながらも、潤滑油をステータ31に供給するための専用パイプを省略することができる。このため、専用パイプを使用する場合に比べて、コストを低減することができる。また、専用パイプをケース内に固定するための部品が不要になるので、更なるコスト高や構造の複雑化を回避することができる。更に、専用パイプを使用する場合によりも接合不良による圧力損失の発生を抑えることができるので、ステータ31への潤滑油の供給の安定化を図ることができる。
【0028】
また、本実施形態の車両用駆動装置1のモータケース21の製造方法によると、第1油孔形成工程及び第2油孔形成工程の後に、第1油孔41,51及び第2油孔42,52に残留した切り屑を洗浄する洗浄工程を有している。このため、第1油孔41,51及び第2油孔42,52に残留した切り屑を除去できるので、ステータ31への潤滑油の供給の安定化を図ることができる。
【0029】
上述した本実施形態の車両用駆動装置1では、第2油孔42,52を交差型ドリル71により形成した場合について説明したが、これには限られない。例えば、図9に示すように、軸方向D1に沿った回転軸76を有する円板状のスロットカッタ77により第2油孔52を形成するようにしてもよい。この場合、スロットカッタ77を軸方向D1に位置決めし、回転軸76を回転させてスロットカッタ77の外周部が第1油孔51に達するまで切削し、第1油孔51に連通する第2油孔52を形成する。この場合も、第2油孔42,52を形成する第2油孔形成工程を備えているので、潤滑油をステータ31に供給するための専用パイプを省略することができる。
【0030】
<第2の実施形態>
次に、本開示の第2の実施形態を、図10を参照しながら詳細に説明する。本実施形態では、モータケース121の肉厚部140に形成された第1油孔141は、Y方向側の端部は閉塞しており、X方向側の端部143はカバー122の油路122aに連通している点で、第1の実施形態と構成を異にしている。但し、それ以外の構成については、第1の実施形態と同様であるので、符号を同じくして詳細な説明を省略する。
【0031】
本実施形態では、第1ケース部材の一例であるモータケース121は、第2ケース部材の一例であるカバー122に接合される接合面121aを有している。そして、肉厚部140は、軸方向D1の一方であるX方向側の端部143が接合面121aまで延びた形状となっている。第1油孔141は、接合面121aに開口し、その開口141aはカバー122に形成された油路122aに連通している。カバー122の外部から油路122aに供給された潤滑油は、油路122aから開口141aを介して第1油孔141に流通し、第1油孔141から第2油孔142を介してステータ31に供給される。
【0032】
本実施形態の車両用駆動装置のモータケース121の製造方法では、第1油孔形成工程(図8のステップS2参照)において、接合面121aから肉厚部140に穿孔して第1油孔141を形成する。その他の構成については、第1の実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。
【0033】
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置によると、第1油孔141はカバー122との接合面121aに開口しているので、モータケース121にカバー122を連結することで第1油孔141をカバー122の油路122aに連通することができる。このため、第1油孔141に潤滑油を供給するための油路の形成を簡易化することができる。また、第1油孔形成工程では、モータケース121の接合面121aから穿孔しているので、モータケース121の外側であるY方向側から穿孔してから形成された孔を閉塞する場合に比べて工数を減らすことができる。
【0034】
上述した本実施形態の車両用駆動装置では、第1油孔141はカバー122の油路122aに連通している場合について説明したが、これには限られず、例えば、第1油孔141の接合面121aでの開口141aに対向するカバー122の部分を平坦な形状にして第1油孔141を閉塞するようにしてもよい。この場合、第1油孔141を閉塞するための別部材を不要にできるので、部品点数を削減できる。
【0035】
また、上述した第1及び第2の実施形態では、潤滑及び/又は冷却の対象をモータ3とした場合について説明したが、これには限られず、車両用駆動装置に適用される変速装置や動力伝達機構などに適用することができる。その場合に、潤滑及び/又は冷却の対象に必要とされる潤滑油の供給位置に応じて、第1油孔及び第2油孔の形状や配置を適宜設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示に係る車両用駆動装置のケースの製造方法、車両用駆動装置の製造方法及び車両用駆動装置は、例えば、自動車等の車両に搭載されるモータを備えた車両用駆動装置に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…車両用駆動装置、2…ケース、3…モータ(車両駆動用モータ)、20…収容空間、21,121…モータケース(第1ケース部材)、22,122…カバー(第2ケース部材)、24…壁部、30…回転軸、31…ステータ、32…ロータ、40,50,140…肉厚部、41,51,141…第1油孔、42,52,142…第2油孔、64…ポンプ、121a…接合面、D1…軸方向
図1
図2
図3
図4A
図4B
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図5B
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図10