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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/24 20060101AFI20240702BHJP
   H02K 5/22 20060101ALI20240702BHJP
   H02K 11/33 20160101ALI20240702BHJP
【FI】
H02K5/24 A
H02K5/22
H02K11/33
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023510749
(86)(22)【出願日】2022-03-08
(86)【国際出願番号】 JP2022009958
(87)【国際公開番号】W WO2022209623
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2021061414
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 盛生
【審査官】宮崎 賢司
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169572(JP,A)
【文献】特開2013-064343(JP,A)
【文献】特開2008-254555(JP,A)
【文献】国際公開第2016/006361(WO,A1)
【文献】特開2015-047050(JP,A)
【文献】特開2004-316782(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0362843(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/24
H02K 5/22
H02K 11/33
H02M 7/48
B60K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪の駆動力源である回転電機と、
前記回転電機を駆動制御するインバータ装置と、
ケースと、を備え、
前記ケースは、ケース本体と、前記ケース本体に接合されたカバー部材と、を備え、
前記ケース本体は、前記回転電機を収容する第1収容室と、前記インバータ装置を収容する第2収容室とを形成するように一体形成されていると共に、前記第2収容室から前記ケースの外部に向かって開口する開口部を備えており、
前記カバー部材は、前記開口部を覆うように配置されると共に、平板状部分を有し、
前記平板状部分の少なくとも一部を覆うように、振動を熱に変換する機能を有するシート状の制振材が貼り付けられ
前記インバータ装置は、複数のスイッチング素子によりインバータ回路が構成されたパワーモジュールと、前記インバータ回路の直流側の電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記回転電機を流れる交流電流を検出する電流センサと、を少なくとも備え、
前記パワーモジュール、前記平滑コンデンサ、及び前記電流センサは、上下方向に直交する方向に隣接して配置され、
前記カバー部材及び前記制振材は、前記上下方向視で前記パワーモジュール、前記平滑コンデンサ、及び前記電流センサと重複している、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記回転電機の回転軸に沿う方向を軸方向とし、上下方向及び前記軸方向に直交する方向を幅方向として、
前記カバー部材は、第1部位と、前記第1部位よりも前記軸方向又は前記幅方向の寸法が短い第2部位とを有し、
前記制振材は、前記第1部位に貼り付けられている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
車両に搭載された状態で、前記カバー部材は、前記インバータ装置と車両の乗員がいる車室側との間に配置されている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記パワーモジュール、前記平滑コンデンサ、及び前記電流センサの前記上下方向の配置領域が、前記回転電機の前記上下方向の配置領域と重複している、請求項1から3の何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記制振材は、少なくとも粘弾性樹脂で構成された層を備える振動伝達層と、前記振動伝達層よりも剛性が高い材質で構成された硬質層と、を備え、
前記振動伝達層が、前記硬質層よりも前記カバー部材側に配置されている、請求項1からの何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記ケース本体は、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する区画壁部を備えている、請求項1からの何れか一項に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機とこの回転電機を駆動制御するインバータ装置とケースとを備えた車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-140803号公報には、回転電機と、回転電機を制御するインバータ装置(電力制御装置)と、回転電機を収容するケースとを備えた車両用駆動装置(回転電機ユニット)が開示されている。インバータ装置は、ケースの上面に搭載されている。ケースの上面と、インバータ装置の底面との間には、吸音部材が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-140803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、ケースとインバータ装置とを別体としてユニット(車両用駆動装置の全体)が構成される場合には、回転電機などの駆動装置の振動がインバータ装置に伝わりにくい構造を得やすい。しかし、車両への搭載性や、コスト低減、空間共鳴の改善などのためにインバータ装置と駆動装置(回転電機など)とを一体化すること(インバータ装置と駆動装置とを同一のケースに収容すること)がある。このような場合には、駆動装置側の振動が、インバータ装置が収容された収容空間のカバー部材に伝搬し易い。つまり、回転電機の振動や、ギヤ機構の振動等がケースの壁を伝わって当該カバー部材を振動させる場合がある。
【0005】
上記背景に鑑みて、回転電機とインバータ装置とこれらが収容される一体形成されたケースとを備えた車両用駆動装置において、インバータ装置が収容される収容空間を塞ぐカバー部材の振動を少なく抑える技術の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、回転電機と、前記回転電機を駆動制御するインバータ装置と、ケースと、を備え、前記ケースは、ケース本体と、前記ケース本体に接合されたカバー部材と、を備え、前記ケース本体は、前記回転電機を収容する第1収容室と、前記インバータ装置を収容する第2収容室とを形成するように一体形成されていると共に、前記第2収容室から前記ケースの外部に向かって開口する開口部を備えており、前記カバー部材は、前記開口部を覆うように配置されると共に、平板状部分を有し、前記平板状部分の少なくとも一部を覆うように、振動を熱に変換する機能を有するシート状の制振材が貼り付けられている。
【0007】
車両用駆動装置の車両への搭載を容易にするために回転電機と回転電機を駆動するためのインバータ装置とを一体的に形成されたケース本体を有するケースに収容することがある。但し、インバータ装置と回転電機とが、このように一体的に形成されたケースに収容されると、回転電機の振動がインバータ装置を収容する第2収容室にまで伝達され易い。また、第2収容室には、例えばインバータ装置をケースに組み付けるための開口部が設けられ、当該開口部はカバー部材により覆われることが多い。そして、このカバー部材を薄型化して車両用駆動装置の小型化を図る場合、カバー部材が平板状部分を有することになる場合が多い。このような平板状部分を有すると、回転電機の振動がカバー部材に伝達された場合、特に平板状部分が振動してノイズ等の要因となり易い。本構成によれば、当該平板状部分の少なくとも一部を覆うように制振材が貼り付けられている。そのため、カバー部材から伝達された振動を制振材により熱に変換し、カバー部材の振動を低減することができる。即ち、本構成によれば、回転電機とインバータ装置とこれらが収容される一体形成されたケースとを備えた車両用駆動装置において、インバータ装置が収容される収容空間を塞ぐカバー部材の振動を少なく抑えることができる。
【0008】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用駆動装置の軸方向断面図
図2】車両用駆動装置の軸直交断面図
図3】車両用駆動装置の上下方向第1側からの平面図
図4】車両用駆動装置のスケルトン図
図5】回転電機を駆動する電気系統の模式的回路ブロック図
図6】第3カバーへ貼り付ける制振材の一例を示す図
図7】第3カバーへ貼り付ける制振材の他の例を示す図
図8】制振材の構成例と制振材による制振原理を示す図
図9】車両用駆動装置の車両への搭載例を示す図
図10】制振材の他の構成例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1の軸方向断面図、図2の軸直交断面図、図3の平面図、図4のスケルトン図、図5の回路ブロック図等に示すように、車両用駆動装置100は、回転電機MGと、回転電機MGを駆動制御するインバータ装置INVと、ケース1とを備えている。ケース1は、ケース本体2と、ケース本体2に接合されたカバー部材(第1カバー11、第2カバー12、第3カバー13)とを備えている。ケース本体2は、少なくとも回転電機MGを収容する第1収容室5と、インバータ装置INVを収容する第2収容室3とを形成するように一体形成されている。ここで、「一体形成」とは、例えば1つの金型鋳造品(die casting)として、共通の材料により形成された一体部材のことを言う。ケース本体2は、第1収容室5と第2収容室3とを区画する区画壁部4を備えている。即ち、ケース1は、少なくとも回転電機MGを収容する第1収容室5と、インバータ装置INVを収容し第1収容室5とは区画壁部4によって区画された第2収容室3とを内部に有して一体形成されている。
【0011】
車両用駆動装置100は、第1軸A1上に配置された回転電機MGと、第2軸A2上に配置されて一対の車輪Wに駆動連結される一対の出力部材OUTと、回転電機MGと出力部材OUTとの間で駆動力を伝達する伝達機構TMと、回転電機MGを駆動制御するインバータ装置INVとを備えている。回転電機MGは、一対の車輪Wの駆動力源である。伝達機構TMには、カウンタギヤ機構CG、差動歯車機構DF(出力用差動歯車装置)を含む。差動歯車機構DFは、回転電機MGから伝達される駆動力を一対の車輪Wに分配する。詳細は後述するが、差動歯車機構DFの一対のサイドギヤ(第1サイドギヤS1、第2サイドギヤS2)は、一対の出力部材OUTに相当する。本実施形態では、車両用駆動装置100には、動力発生装置としての回転電機MGと車輪Wとを結ぶ動力伝達経路に、回転電機MGの側から順に、伝達機構TM(動力伝達装置)として、カウンタギヤ機構CG、差動歯車機構DFが設けられている。
【0012】
回転電機MGの軸心(第1軸A1)と差動歯車機構DFの軸心(第2軸A2)とは、互いに平行な別軸に配置されている。カウンタギヤ機構CGの軸心(第3軸A3)は、第1軸A1及び第2軸A2に平行に配置されている。即ち、第1軸A1、第2軸A2及び第3軸A3は、互いに異なる仮想軸であり、互いに平行に配置されている。
【0013】
以下の説明では、上記の軸(A1~A3)に平行な方向を、車両用駆動装置100の「軸方向L」とする。そして、軸方向Lにおける一方側(本実施形態では、差動歯車機構DFに対して回転電機MGが配置される側)を「軸方向第1側L1」とし、その反対側を「軸方向第2側L2」とする。また、上記の第1軸A1、第2軸A2、及び第3軸A3のそれぞれに直交する方向を、各軸を基準とした「径方向R」とする。尚、どの軸を基準とするかを区別する必要がない場合やどの軸を基準とするかが明らかである場合には、単に「径方向R」と記す場合がある。また、車両用駆動装置100が車両に取り付けられた状態で鉛直方向に沿う方向を「上下方向V」とする。また、本実施形態では、上下方向Vの一方側である上下方向第1側V1が上方であり、他方側である上下方向第2側V2が下方である。水平面に平行な状態で車両用駆動装置100が車両に取り付けられる場合には、径方向Rの1方向と上下方向Vとが一致する。また、軸方向L及び上下方向Vに直交する方向を「幅方向H(前後方向)」と称する。また、幅方向Hの一方側を幅方向第1側H1、他方側を幅方向第2側H2と称する。上下方向Vと同様に、径方向Rの1方向と幅方向Hとも一致する。尚、以下の説明では、各部材についての方向や位置等に関する用語は、製造上許容され得る誤差による差異を有する状態をも含む概念である。また、各部材についての方向は、それらが車両用駆動装置100に組み付けられた状態での方向を表す。
【0014】
ケース1に形成された第1収容室5は、回転電機MG、カウンタギヤ機構CG、差動歯車機構DFを囲むように形成された周壁部25を備えている。ケース1における第1収容室5は、上下方向V及び幅方向Hを周壁部25によって囲われており、軸方向Lの両側が開口している。ここで、第1収容室5の軸方向第1側L1の開口部を第1開口部21と称し、第1収容室5の軸方向第2側L2の開口部を第2開口部22と称する。第1開口部21は、周壁部25の軸方向第1側L1の端部に接合される第1カバー11によって塞がれる。第2開口部22は、周壁部25の軸方向第2側L2の端部に接合される第2カバー12によって塞がれる。即ち、第1収容室5は、周壁部25と、第1カバー11と第2カバー12とによって囲まれた空間として形成されている。
【0015】
周壁部25の一部は、第1収容室5と第2収容室3とを区画する区画壁部4として機能する。周壁部25からは、上下方向Vに沿って延びる収容壁30が形成されている。収容壁30の端部は開放されており、第2収容室3からケース1の外部に向かって開口する開口部(第3開口部23)が形成されている。第3開口部23は、収容壁30の端部に接合される第3カバー13によって塞がれる。即ち、第2収容室3は、区画壁部4(周壁部25)と、収容壁30と、第3カバー13とによって囲まれた空間として形成されている。図1から図3に示すように、第3カバー13は、第3開口部23を覆うように配置されると共に、平板状部分を有している。
【0016】
第3カバー13は、図3に示すように平面視で台形状に形成されており、第1部位131と、第1部位131よりも軸方向L又は幅方向Hの寸法が短い第2部位132とを有している。第1部位131と第2部位132とは連続して形成されており、本実施形態では、幅方向Hに沿って第1部位131の側(ここでは幅方向第2側H2)から第2部位132の側(同、幅方向第1側H1)に向かうに従って、軸方向Lにおける寸法が短くなるように第2部位132が形成されている。本実施形態では、第2部位132の軸方向第1側L1の辺が、幅方向第1側H1に向かうに従って、軸方向第2側L2へ傾斜することで、第2部位132の軸方向Lにおける寸法が短くなっている。上述したように、第3カバー13は、平面視で台形状であり、矩形状の第1部位131と、三角形状の第2部位132とを有しているということもできる。
【0017】
回転電機MGは、複数相の交流(例えば3相交流)により動作する回転電機(Motor/Generator)であり、電動機としても発電機としても機能することができる。回転電機MGは、図5を参照して後述するように、高圧バッテリBH(高圧直流電源)から電力の供給を受けて力行し、又は、車両の慣性力により発電した電力を高圧バッテリBHに供給する(回生する)。
【0018】
図1図5に示すように、回転電機MGは、ケース1などに固定されたステータ81と、当該ステータ81の径方向内側に回転自在に支持されたロータ82とを有する。ステータ81は、ステータコアとステータコアに巻き回されたステータコイル83とを含み、ロータ82は、ロータコアとロータコアに配置された永久磁石とを含む。回転電機MGのロータ82は、ロータ軸82a及び入力部材INを介して入力ギヤG1(図1図4参照)に駆動連結されている。
【0019】
入力ギヤG1は、カウンタギヤ機構CGに駆動連結されている。本実施形態では、カウンタギヤ機構CGは、軸部材によって連結された2つのギヤ(第1カウンタギヤG2、第2カウンタギヤG3)を有する。第1カウンタギヤG2は入力ギヤG1に噛み合い、第2カウンタギヤG3は、差動歯車機構DFの差動入力ギヤG4に噛み合っている。差動歯車機構DFは、出力軸OXを介して車輪Wに駆動連結されている。差動歯車機構DFは、互いに噛合する複数の傘歯車を含んで構成されている。本実施形態では、軸方向第1側L1の第1サイドギヤS1が連結軸JTを介して一方の出力軸OXに連結され、軸方向第2側L2の第2サイドギヤS2が他方の出力軸OXに連結される。差動入力ギヤG4に入力される回転及びトルクは、それぞれ第1サイドギヤS1及び第2サイドギヤを介して2つの出力軸OX(即ち2つの車輪W)に分配して伝達される。これにより、車両用駆動装置100は、回転電機MGのトルクを車輪Wに伝達させて車両を走行させることができる。
【0020】
第1収容室5は、回転電機MGを回転可能に支持する第1軸受B1と、出力軸OXと差動歯車機構DFの第1サイドギヤS1とを連結する連結軸JTを回転可能に支持する第2軸受B2とを収容している。第1軸受B1は、第1ロータ軸受B1aと第2ロータ軸受B1bとを含む。第1ロータ軸受B1aは、第1カバー11に支持されている。第2ロータ軸受B1bは、ケース1と一体的に形成されて第1軸A1に直交する軸直交方向に延在する支持壁8に支持されている。回転電機MGのロータ軸82aは、軸方向第1側L1及び軸方向第2側L2の双方において第1軸受B1によって回転可能に支持されている。第2軸受B2は、第1カバー11に支持されている。一方の出力軸OXは軸方向第1側L1で第2軸受B2に支持され、軸方向第2側L2で連結軸JTに連結され、連結軸JTは軸方向第2側L2で差動歯車機構DFの第1サイドギヤS1に連結されている。他方の出力軸OXは、軸方向第1側L1で差動歯車機構DFの第2サイドギヤS2に連結されている。
【0021】
回転電機MGのロータ軸82aは、入力部材INに連結され、入力部材INと一体的に回転する。入力部材INには、入力ギヤG1が形成されている。入力部材INは、軸方向第1側L1において、軸受を介して支持壁8に回転可能に支持されると共に、軸方向第2側において、軸受を介して第2カバー12に回転可能に支持されている(図面における軸受の符号は省略している。)。同様に、カウンタギヤ機構CGも、軸方向第1側L1において、軸受を介して支持壁8に回転可能に支持されると共に、軸方向第2側において、軸受を介して第2カバー12に回転可能に支持されている。また、差動歯車機構DFも、軸方向第1側L1において、軸受を介して支持壁8に回転可能に支持されると共に、軸方向第2側において、軸受を介して第2カバー12に回転可能に支持されている。このように、第1収容室5に支持壁8を備えることで、ケース1が大型化することを抑制しつつ、第1収容室5内に適切に回転電機MGや伝達機構TMが収容されている。
【0022】
図5に示すように、回転電機MGは、インバータ装置INVにより駆動制御される。インバータ装置INVは、直流電力と複数相の交流電力との間で電力を変換するインバータ回路60を備えている。本実施形態では、交流の回転電機MG及び高圧バッテリBHに接続されて、複数相(ここではU相、V相、W相の3相)の交流と直流との間で電力を変換するインバータ回路60を例示する。インバータ回路60は、複数のスイッチング素子を有して構成され、高圧バッテリBHに接続されると共に、交流の回転電機MGに接続されて直流と複数相の交流(ここでは3相交流)との間で電力を変換する。高圧バッテリBHは、例えば、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池(バッテリ)や、電気二重層キャパシタなどにより構成されている。回転電機MGが、車両の駆動力源の場合、高圧バッテリBHは、大電圧大容量の直流電源であり、定格の電源電圧は、例えば200~400[V]である。
【0023】
インバータ回路60の直流側には、インバータ回路60の直流側の正極電源ラインPと負極電源ラインNとの間の電圧(直流リンク電圧)を平滑する直流リンクコンデンサ64(平滑コンデンサ)が備えられている。直流リンクコンデンサ64は、回転電機MGの消費電力の変動に応じて変動する直流電圧(直流リンク電圧)を安定化させる。
【0024】
インバータ回路60は、上段側スイッチング素子と下段側スイッチング素子との直列回路により構成された交流1相分のアームを複数本(ここでは3本)備えている。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などの高周波での動作が可能なパワー半導体素子を適用すると好適である。図5に示すように、本実施形態では、スイッチング素子としてIGBTが用いられる形態を例示している。本実施形態では、フリーホイールダイオードも含め、インバータ回路60が1つのパワーモジュール61(図3参照)に一体化されてスイッチング素子モジュールが構成されている。
【0025】
図5に示すように、インバータ回路60は、インバータ制御装置65(M-CTRL)により制御される。インバータ制御装置65は、マイクロコンピュータ等の論理回路を中核部材として構築されている。インバータ制御装置65は、回転電機MGの目標トルクに基づいて、ベクトル制御法を用いた電流フィードバック制御を行って、インバータ回路60を介して回転電機MGを制御する。回転電機MGの目標トルクは、例えば、車両内の上位の制御装置の1つである車両制御装置91(VCL-CTRL)等の他の制御装置等から要求信号として提供される。回転電機MGの各相のステータコイル83を流れる実電流は電流センサ84により検出される。また、回転電機MGのロータの各時点での磁極位置は、例えばレゾルバなどの回転センサ85により検出される。尚、本実施形態では、電流センサ84が、インバータ装置INVの内部のインバータ側交流バスバー51において交流電流を検出する形態を例示しているが、電流センサ84は、インバータ装置INVの外部において、例えば回転電機側交流バスバー53を流れる交流電流を検出してもよい。
【0026】
インバータ制御装置65は、電流センサ84及び回転センサ85の検出結果を用いて、電流フィードバック制御を実行する。インバータ制御装置65は、電流フィードバック制御のために種々の機能部を有して構成されており、各機能部は、マイクロコンピュータ等のハードウエアとソフトウエア(プログラム)との協働により実現される。電流フィードバック制御については、公知であるのでここでは詳細な説明は省略する。
【0027】
車両制御装置91やインバータ制御装置65は、その中核となるマイクロコンピュータ等の動作電圧が、例えば5[V]や3.3[V]であり、高圧バッテリBHよりも低電圧(例えば12~24[V])の低圧バッテリBL(低圧直流電源)から電力を供給されて動作する低圧系回路である。このため、インバータ制御装置65には、各スイッチング素子に対するスイッチング制御信号(IGBTの場合、ゲート駆動信号)の駆動能力(例えば電圧振幅や出力電流など、後段の回路を動作させる能力)をそれぞれ高めて中継する駆動回路が備えられている。インバータ回路60を構成する各スイッチング素子の制御端子(は、駆動回路を介してインバータ制御装置65の中核となるマイクロコンピュータ等に接続されており、それぞれ個別にスイッチング制御される。インバータ制御装置65は、1枚、又は複数の基板に回路部品が実装されて構成されている。
【0028】
インバータ装置INVは、上述したようなインバータ制御装置65、直流リンクコンデンサ64、インバータ回路60(パワーモジュール61)を含んだユニットとして構成されている。例えば、インバータ装置INVは、複数のスイッチング素子によりインバータ回路60が構成されたパワーモジュール61と、インバータ回路60の直流側の電圧を平滑する直流リンクコンデンサ64(平滑コンデンサ)と、回転電機MGを流れる交流電流を検出する電流センサ84とを少なくとも備えて構成されている。ユニットとしてのインバータ装置INVは、後述するように、ケース1内部の第2収容室3に配置され、ボルト等の締結部材によってケース1に固定されている。
【0029】
本実施形態では、インバータ装置INVの構成部品の多くが上下方向Vに直交する方向(軸方向L及び幅方向H)に隣接して配置されている。本実施形態では、図3に示すように、少なくとも、パワーモジュール61、直流リンクコンデンサ64、及び電流センサ84が、上下方向Vに直交する方向に隣接して配置されている。つまり、軸方向第2側L2から軸方向第1側L1に向かって、直流リンクコンデンサ64、パワーモジュール61、電流センサ84が軸方向Lに沿ってほぼ同一平面上に配置されている。図3には、さらに、電流センサ84の軸方向第1側L1に交流バスバーコネクタ52が配置され、交流バスバーコネクタ52の幅方向第1側H1に直流バスバーコネクタ54が配置されている形態を例示している。
【0030】
本実施形態では、このようにインバータ装置INVの構成部品が平面上に広がって配置されている(いわゆる平置きされている)。つまり、インバータ装置INVは、上下方向Vにおける寸法が短くなるように構成されている。そして、図1から図3に示すように、インバータ装置INVは、カウンタギヤ機構CGや、差動歯車機構DFの上下方向第1側V1に配置されている。即ち、インバータ装置INVは、上下方向視でカウンタギヤ機構CG及び差動歯車機構DFと重複するように配置されている。また、インバータ装置INVは、図1及び図2に示すように、上下方向Vにおける配置領域が、回転電機MGの配置領域と重複するように配置されている。上述したように、インバータ装置INVは、パワーモジュール61、直流リンクコンデンサ64、及び電流センサ84を少なくとも備えて構成されており、これらパワーモジュール61、直流リンクコンデンサ64、及び電流センサ84は、上下方向Vの配置領域が、回転電機MGの上下方向Vの配置領域と重複するように配置されている。
【0031】
図5に示すように、インバータ装置INVと回転電機MGのステータコイル83とは、交流バスバー50によって電気的に接続されている。交流バスバー50は、インバータ側交流バスバー51、交流バスバーコネクタ52、回転電機側交流バスバー53を含む。第1収容室5と第2収容室3との間には、区画壁部4を貫通するように、交流バスバーコネクタ52(交流バスバー接続部材)が配置されている。交流バスバーコネクタ52の一端と、インバータ側交流バスバー51とは、第2収容室3の内部で電気的に接続される。また、交流バスバーコネクタ52の他端と、回転電機側交流バスバー53とは、第1収容室5の内部で電気的に接続される。
【0032】
上述したように、ケース本体2は、回転電機MG等を収容する第1収容室5と、インバータ装置INVを収容する第2収容室3とを形成するように一体形成されている。例えば、第1収容室5が形成されたケース部材の外部に、インバータ装置INVを収容する別のケース部材が載置された直載構造の車両用駆動装置の場合、インバータ装置INVを収容するケース部材の底壁が振動し、空間共鳴によるノイズが生じ易い。しかし、本実施形態のように、第2収容室3が第1収容室5と一体的に1つのケース1(ケース本体2)として形成されていると、第2収容室3には底壁を設けなくてもよい。このため、このような底壁が振動して、空間共鳴によるノイズが生じることが抑制できる。
【0033】
また、ケース本体2が、第1収容室5と第2収容室3とを形成するように一体形成されていると、別体で形成された第1収容室5と第2収容室3とが組み付けられてケース1が構成される場合に比べて、ケース1に高い剛性を持たせることができる。また、2つの収容室が別体で形成される場合に比べて、第1収容室5と第2収容室3とを区画する区画壁部4が共通化できるため、ケース1を軽量化することができる。
【0034】
このように、ケース1が、第1収容室5と第2収容室3とを形成するように一体形成されたケース本体2を備えることによって、小型化及び軽量化による車両への搭載性に優れ、コストが低減され、空間共鳴が改善された車両用駆動装置100を構成することができる。しかし、第1収容室5に収容される機器(回転電機MG及び伝達機構TM)の動作に伴う振動が、ケース本体2の周壁部25及び収容壁30を介して第3カバー13に伝搬し、第3カバー13を振動させる場合がある。本実施形態では、図1から図3に示すように、第3カバー13は平板状部分を有している。伝搬した振動が、この平板状部分を振動させ、太鼓のような膜振動を生じさせる場合がある。特に本実施形態のように、インバータ装置INVの構成部品が平面上に広がって配置されている場合には、第3カバー13の平板状部分の面積も広くなる傾向がある。このため、膜振動も発生し易くなる傾向がある。例えば、第3カバー13に上下方向Vに突出する格子状リブを形成しても、膜振動のピーク周波数が変化するだけで振動の低減は限定的である。また、例えば、第3カバー13の材質を鉄からアルミニウムに変更するなど、第3カバー13の材質を変更して重量の増加を抑制しつつ肉厚を増加させることで膜振動の抑制効果は得られるが、肉厚の増加による搭載性の悪化や、コストの上昇が課題となる。
【0035】
そこで、本実施形態では、第3カバー13における平板状部分の少なくとも一部を覆うように、振動を熱に変換する機能を有するシート状の制振材7が貼り付けられている。ケース1の形状を維持しつつ、制振材7を貼付することで、膜振動を低減することができる。上述したような材料の変更や形状の変更の必要性も少なくすることができる。
【0036】
尚、第3カバー13には、リブ等の突出部が形成されている場合があるが、膜振動は板状の部分において生じ易い。従って、第3カバー13の表面において、凹凸のない部分に制振材7が貼付されると好適である。第3カバー13に凹凸が存在する場合、図3に示すように凹凸を避けて制振材7が貼付されると好適である。また、制振材7は平板状部分の全てに貼付されていなくてもよく、平板状部分の一部を覆う形態であってもよい。
【0037】
上述したように、第3カバー13は、第1部位131と、第1部位131よりも軸方向L又は幅方向Hの寸法が短い(本実施形態では軸方向Lの寸法が短い)第2部位132とを有している。制振材7が第3カバー13の平板状部分の全てではなく、平板状部分の一部を覆う形態の場合、例えば、制振材7は、第1部位131に貼り付けられていると好適である。
【0038】
工業製品として生産される制振材7のシートは矩形状であることが多い。シートから貼付するための制振材7を切り出す際に、制振材7の形状が台形状などの異形であると、シートからの取り数が減少し、制振材7の一枚当たりのコストが上昇する可能性がある。第1部位131はほぼ矩形状であるため、第1部位131に制振材7を貼付することで、コストを抑制しつつ、制振効果を得ることができる。また、本実施形態のように、寸法が短い部分を有する第2部位132に比べて、第1部位131の方が面積が広い場合が多いため、第1部位131に制振材7を貼付することで、制振効果も得られ易い。
【0039】
また、本実施形態では、制振材7は、第3カバー13における平板状部分の外側表面を覆うように貼り付けられている。制振材7は、平板状部分の内側表面(つまり第2収容室3の内部)に貼り付けることも可能である。しかし、例えば経年変化等によって制振材7が剥離した場合、制振材7がインバータ装置INVの回路に干渉するなど、回路に影響を与えるおそれがある。このため、制振材7は第3カバー13の外側表面に貼付されることが好ましい。
【0040】
図8に示すように、制振材7は、少なくとも粘弾性樹脂で構成された層を備える振動伝達層71と、振動伝達層71よりも剛性が高い材質で構成された硬質層72とを備えている。そして、振動伝達層71が、硬質層72よりもカバー部材(第3カバー13)の側に配置されている。例えば、振動伝達層71は、ブチル系ゴムによって構成され、硬質層72は、アルミニウムによって構成されている。本実施形態では、制振材7は、さらに粘着層73を備えており、粘着層73は、振動伝達層71よりも第3カバー13の側に配置されている。粘着層73により、制振材7が第3カバー13に貼り付けられている。粘着層73は、例えばアクリル系感圧粘着材によって構成されている。
【0041】
膜振動を生じる対象部材WKにこのような制振材7が貼付された場合、対象部材WKの変形に応じて制振材7も変形する。上述したように、制振材7は、材質の異なる少なくとも2つの層(振動伝達層71、硬質層72)を備えている。対象部材WKの変形に応じた変形は、2つの層で異なる。例えば、振動伝達層71は対象部材WKから伝達される振動によって変形するが、対象部材WKとは逆側の表面には振動伝達層71よりも変形しにくい硬質層72が配置されている。このため、振動伝達層71の変形は抑制され、対象部材WKから伝達される振動が低減される。対象部材WKの膜振動のエネルギーは、硬質層72において熱エネルギーに変換されて消費される。即ち、制振材7の変形から生じる層間のずれ(剪断歪み)により、振動エネルギーが吸収される。このように、振動伝達層71が、硬質層72よりも対象部材WK(第3カバー13)の側に配置されていることで、対象部材WKの膜振動が効果的に抑制される。
【0042】
尚、本実施形態では、図9に示すように、車両200に搭載された状態で、第3カバー13は、インバータ装置INVに対して車両200の乗員300がいる車室201の側を覆うように配置されている。即ち、第3カバー13は、車両に搭載された状態で、インバータ装置INVと車両200の乗員300がいる車室201の側との間に配置されている。車室201の側に配置された第3カバー13が膜振動を生じると乗員300に可聴ノイズが届き易いが、制振材7により当該可聴ノイズが抑制される。
【0043】
当然ながら、車両用駆動装置100において生じた可聴ノイズは、車両200の構造材を介して車室201に伝搬する場合がある。このため、第3カバー13が車室201の側を覆うように配置されていなくても、制振材7によって第3カバー13の膜振動を抑制することで、乗員300に伝達される可聴ノイズを抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上述したように、ケース本体2は、第1収容室5と第2収容室3とを区画する区画壁部4を備えている。区画壁部4によって、回転電機MGや伝達機構TMから第3カバー13に伝達される振動を低減させることができる。
【0045】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0046】
(1)上記においては、振動伝達層71がブチル系ゴムによって構成され、硬質層72がアルミニウムによって構成されている制振材7を例示した。即ち、振動伝達層71が、粘弾性樹脂により構成されている形態を例示した。しかし、図10に示すように、振動伝達層71は、粘弾性樹脂により構成された層(粘弾性樹脂層)に加えて動的空間層74を有して構成されていてもよい。動的空間層74は、例えば、ポリプロピレンなどの合成樹脂によって多数の小さい室を形成してなる合成樹脂セルによって構成されていると好適である。
【0047】
(2)上記においては、第3開口部23が上下方向第1側V1に向けて開口している形態を例示して説明した。しかし、第3開口部23は、上下方向Vに沿った方向又は幅方向Hに沿った方向における任意の方向(つまり、径方向Rにおける任意の方向)に向けて開口していてもよい。また、第3開口部23は、軸方向Lに沿った任意の方向に向けて開口していてもよい。
【0048】
(3)上記においては、区画壁部4によって第1収容室5と第2収容室3とが区画されている形態を例示した。しかし、ケース本体2が第1収容室5と第2収容室3とを形成するように一体形成されていれば、ケース本体2に区画壁部4が備えられていなくてもよい。
【0049】
(4)図1から図3を参照して説明したケース1は例示であり、ケース1の形状は上記に限定されるものではない。ケース1が平板状部分を有するカバー部材を備えており、当該カバー部材の平板状部分に制振材7が貼り付けられていればよい。
【0050】
(5)上記においては、車輪Wの駆動力源として回転電機MGを備えた車両用駆動装置100を例示して説明したが、車両用駆動装置100は、車両の車輪Wの駆動力源として内燃機関及び回転電機MGの双方を備えたハイブリッド駆動装置(例えば、いわゆる1モータパラレル方式や2モータスプリット式等の各種形式のハイブリッド駆動装置)であってもよい。
【0051】
(6)上記においては、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3の3軸が平行に配置された3軸の車両用駆動装置100を例示して説明したが、車両用駆動装置100は、第1軸A1、第2軸A2の2軸が平行に配置された2軸であってもよい。また、車両用駆動装置100は、第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3とは異なる1つの軸以上がさらに配置され、4軸以上が配置された構成であってもよい。またこれらの場合において、一部の軸が他の軸に対して平行ではない方向に沿って配置されていても良い。
【0052】
〔実施形態の概要〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置(100)の概要について簡単に説明する。
【0053】
1つの態様として、車両用駆動装置(100)は、回転電機(MG)と、前記回転電機(MG)を駆動制御するインバータ装置(INV)と、ケース(1)と、を備え、前記ケース(1)は、ケース本体(2)と、前記ケース本体(2)に接合されたカバー部材(13)と、を備え、前記ケース本体(2)は、前記回転電機(MG)を収容する第1収容室(5)と、前記インバータ装置(INV)を収容する第2収容室(3)とを形成するように一体形成されていると共に、前記第2収容室(3)から前記ケース(1)の外部に向かって開口する開口部(23)を備えており、前記カバー部材(13)は、前記開口部(23)を覆うように配置されると共に、平板状部分を有し、前記平板状部分の少なくとも一部を覆うように、振動を熱に変換する機能を有するシート状の制振材(7)が貼り付けられている。
【0054】
車両用駆動装置(100)の車両(200)への搭載を容易にするために回転電機(MG)と回転電機(MG)を駆動するためのインバータ装置(INV)とを一体的に形成されたケース本体(2)を有するケース(1)に収容することがある。但し、インバータ装置(INV)と回転電機(MG)とが、このように一体的に形成されたケース(1)に収容されると、回転電機(MG)の振動がインバータ装置(INV)を収容する第2収容室(3)にまで伝達され易い。また、第2収容室(3)には、例えばインバータ装置(INV)をケース(1)に組み付けるための開口部(23)が設けられ、当該開口部(23)はカバー部材(13)により覆われることが多い。そして、このカバー部材(13)を薄型化して車両用駆動装置(100)の小型化を図る場合、カバー部材(13)が平板状部分を有することになる場合が多い。このような平板状部分を有すると、回転電機(MG)の振動がカバー部材(13)に伝達された場合、特に平板状部分が振動してノイズ等の要因となり易い。本構成によれば、当該平板状部分の少なくとも一部を覆うように制振材(7)が貼り付けられている。そのため、カバー部材(7)から伝達された振動を制振材(7)により熱に変換し、カバー部材(13)の振動を低減することができる。即ち、本構成によれば、回転電機(MG)とインバータ装置(INV)とこれらが収容される一体形成されたケース(1)とを備えた車両用駆動装置(100)において、インバータ装置(INV)が収容される収容空間を塞ぐカバー部材(13)の振動を少なく抑えることができる。
【0055】
また、車両用駆動装置(100)は、前記回転電機(MG)の回転軸に沿う方向を軸方向(L)とし、上下方向(V)及び前記軸方向(L)に直交する方向を幅方向(H)として、前記カバー部材(13)が、第1部位(131)と、前記第1部位(131)よりも前記軸方向(L)又は前記幅方向(H)の寸法が短い第2部位(132)とを有し、前記制振材(7)が、前記第1部位(131)に貼り付けられていると好適である。
【0056】
このような第1部位(131)と第2部位(132)とを有するカバー部材(13)の平面視での形状は、矩形状ではない。一方、工業製品として生産される制振材(7)のシートは矩形状であることが多い。シートから貼付するための制振材(7)を切り出す際に、制振材(7)の形状が異形であると、シートからの取り数が減少し、制振材(7)一枚当たりのコストが上昇する可能性がある。第1部位(131)はほぼ矩形状であると考えられるため、第1部位(131)に制振材(7)を貼付することで、コストを抑制しつつ、制振効果を得ることができる。また、寸法が短い部分を有する第2部位(132)に比べて、第1部位(131)の方が、面積が広い場合が多いため、第1部位(131)に制振材(7)を貼付することで、制振効果も得られ易い。
【0057】
ここで、前記カバー部材(13)は、車両用駆動装置(100)が車両(200)に搭載された状態で、前記インバータ装置(INV)と車両(200)の乗員(300)がいる車室(201)の側との間に配置されていると好適である。
【0058】
車室(201)の側に配置されたカバー部材(13)が膜振動を生じると乗員(300)に可聴ノイズが届き易い。この構成によれば、インバータ装置(INV)と車室(201)との間に配置された制振材(7)により当該可聴ノイズが適切に抑制される。
【0059】
また、車両用駆動装置(100)は、前記インバータ装置(INV)が、複数のスイッチング素子によりインバータ回路(60)が構成されたパワーモジュール(61)と、前記インバータ回路(60)の直流側の電圧を平滑する平滑コンデンサ(64)と、前記回転電機(MG)を流れる交流電流を検出する電流センサ(84)と、を少なくとも備え、前記パワーモジュール(61)、前記平滑コンデンサ(64)、及び前記電流センサ(84)が、上下方向(V)に直交する方向に隣接して配置されていると好適である。
【0060】
インバータ装置(INV)の構成部品がこのように平面上に広がって配置されている場合には、カバー部材(13)の平板状部分の面積も広くなる傾向がある。このため、膜振動も発生し易くなる傾向がある。従って、このような構成の車両用駆動装置(100)において、制振材(7)によって膜振動を抑制することは有用である。
【0061】
また、車両用駆動装置(100)は、前記パワーモジュール(61)、前記平滑コンデンサ(64)、及び前記電流センサ(84)の前記上下方向(V)の配置領域が、前記回転電機(MG)の前記上下方向の配置領域と重複していると好適である。
【0062】
この構成によれば、上下方向視で回転電機(MG)と重複するようにインバータ装置(INV)が配置されるのではないため、車両用駆動装置(100)の上下方向(V)の寸法を小さく抑え易い。回転電機(MG)の上下方向(V)の配置領域と、インバータ装置(INV)の上下方向の配置領域とが重複するように、インバータ装置(INV)の構成部品を配置するため、本構成では、インバータ装置(INV)の構成部品が平面上に広がるように配置されている。この場合、上述したように、カバー部材(13)の膜振動が生じ易くなるため、制振材(7)によって膜振動を抑制することは有用である。即ち、車両用駆動装置(100)の小型化を実現するために、回転電機(MG)とインバータ装置(INV)とこれらが収容される一体形成されたケース(1)とを備えている場合において、インバータ装置(INV)が収容される収容空間を塞ぐカバー部材(13)の振動を少なく抑えることができる。
【0063】
また、車両用駆動装置(100)は、前記制振材(7)が、少なくとも粘弾性樹脂で構成された層を備える振動伝達層(71)と、前記振動伝達層(71)よりも剛性が高い材質で構成された硬質層(72)とを備え、前記振動伝達層(71)が、前記硬質層(72)よりも前記カバー部材(13)の側に配置されていると好適である。
【0064】
膜振動を生じる対象部材(WK)にこのような制振材(7)が貼付された場合、対象部材(WK)の変形に応じて制振材(7)も変形する。本構成では、制振材(7)が、材質の異なる少なくとも2つの層(振動伝達層(71)、硬質層(72))を備えている。対象部材(WK)の変形に応じた変形は、2つの層で異なる。例えば、振動伝達層(71)は対象部材(WK)から伝達される振動によって変形するが、対象部材(WK)とは逆側の表面には振動伝達層(71)よりも変形しにくい硬質層(72)が配置されている。このため、振動伝達層(71)の変形は抑制され、対象部材(WK)から伝達される振動が低減される。対象部材(WK)の膜振動のエネルギーは、硬質層(72)において熱エネルギーに変換されて消費される。即ち、制振材(7)の変形から生じる層間のずれ(剪断歪み)により、振動エネルギーが吸収される。本構成のように、振動伝達層(71)が、硬質層(72)よりも対象部材(WK)であるカバー部材(13)の側に配置されていることで、カバー部材(13)の膜振動が効果的に抑制される。
【0065】
また、車両用駆動装置(100)は、前記ケース本体(2)が、前記第1収容室(5)と前記第2収容室(3)とを区画する区画壁部(4)を備えていると好適である。
【0066】
この構成によれば、区画壁部(4)によって、回転電機(MG)からカバー部材(13)に伝達される振動を低減させることができる。
【符号の説明】
【0067】
1:ケース、2:ケース本体、3:第2収容室、4:区画壁部、5:第1収容室、7:制振材、13:第3カバー(カバー部材)、23:第3開口部(開口部)、60:インバータ回路、61:パワーモジュール、64:直流リンクコンデンサ(平滑コンデンサ)、71:振動伝達層、72:硬質層、84:電流センサ、100:車両用駆動装置、131:第1部位、132:第2部位、200:車両、201:車室、300:乗員、H:幅方向、INV:インバータ装置、L:軸方向、MG:回転電機、V:上下方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10