(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ヒートシール紙
(51)【国際特許分類】
D21H 27/30 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
D21H27/30 C
(21)【出願番号】P 2024522339
(86)(22)【出願日】2024-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2024002197
【審査請求日】2024-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2023012730
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 一行
(72)【発明者】
【氏名】松本 達也
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-169426(JP,A)
【文献】特開2021-046636(JP,A)
【文献】特開2021-142756(JP,A)
【文献】国際公開第2022/242875(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00-27/42
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記紙基材が、無機顔料を含み、
前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である、ヒートシール紙。
【請求項2】
前記無機顔料が、タルク、カオリン、炭酸カルシウムおよび酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のヒートシール紙。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記ヒートシール成分の総質量に対して90質量%以上である請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項4】
JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項5】
前記ヒートシール紙の前記ヒートシール成分が付着した面同士を、140℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールし、引張速度300mm/分でT字剥離したときの剥離強度が2N/15mm以上である請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項6】
前記ヒートシール紙をJIS P 8220-1:2012に準拠して離解したパルプのJIS P 8121-2:2012に準拠して測定されるカナダ標準ろ水度が300~600mLである請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【請求項7】
ピロー包装用である請求項1または2に記載のヒートシール紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール紙に関する。
本願は、2023年1月31日に、日本に出願された特願2023-012730号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
食品などの包装に、フィルム状の包装材料を袋状に加工(製袋)したものが用いられている。かかる包装材料としては、樹脂基材の少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂を含むヒートシール層を有するヒートシールフィルムが広く用いられているが、近年は、紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール層を有するヒートシール紙も用いられるようになっている(特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2021-188241号公報
【文献】日本国特開2022-018160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒートシール紙は、紙基材を用いているため、樹脂基材を用いたヒートシールフィルムに比べ、環境負荷が小さい。
ポリ乳酸やポリブチレンサクシネートは生分解性に優れるため、これらの樹脂をヒートシール紙のヒートシール層に用いることで、環境負荷をさらに軽減できる。
しかし、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネートをヒートシール層に用いたヒートシール紙は、剛度が高いため、加工時、特にピロー包装機での製袋(ピロー加工)時にシワが発生しやすい。
ピロー包装は、フィルム状の包装材料による包装方法の一つである。ピロー包装では、包装材料が巻き取られたロールがピロー包装機にセットされ、ロールから包装材料が巻き出され、セーラー(フォーマー)と呼ばれる治具で筒状に変形され、ヒートシールおよびカットが施されて枕状の包装体となる。製袋時にシワが発生すると、包装体が外観不良となる。
【0005】
本発明は、ピロー加工においてもシワが発生しにくいヒートシール紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、
前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記紙基材が、無機顔料を含み、
前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である、ヒートシール紙。
[2]前記無機顔料が、タルク、カオリン、炭酸カルシウムおよび酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]のヒートシール紙。
[3]前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記ヒートシール成分の総質量に対して90質量%以上である[1]または[2]のヒートシール紙。
[4]JIS P 8116:2000に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定されるMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値が10以上である[1]~[3]のいずれかのヒートシール紙。
[5]前記ヒートシール紙の前記ヒートシール成分が付着した面同士を、140℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールし、引張速度300mm/分でT字剥離したときの剥離強度が2N/15mm以上である[1]~[4]のいずれかのヒートシール紙。
[6]前記ヒートシール紙をJIS P 8220-1:2012に準拠して離解したパルプのJIS P 8121-2:2012に準拠して測定されるカナダ標準ろ水度が300~600mLである[1]~[5]のいずれかのヒートシール紙。
[7]ピロー包装用である[1]~[6]のいずれかのヒートシール紙。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピロー加工においてもシワが発生しにくいヒートシール紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書において、「MD」はmachine directionを意味する。すなわち、抄紙機で紙基材を抄造する際の進行方向に並行な方向であり、縦方向、流れ方向とも称される。紙基材の繊維の配向方向をMDとみなすことができる。どの方向がMDであるか不明なときは、角度22.5度毎に引張強度を測定し、最も強い引張強度を示した方向をMDとする。
「CD」はcross directionを意味する。すなわち、MDに直角な方向であり、横方向とも称される。
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
本明細書に開示の数値範囲の下限値および上限値は任意に組み合わせて新たな数値範囲とすることができる。
【0009】
<ヒートシール紙>
本発明の一実施形態に係るヒートシール紙は、紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したものである。紙基材およびヒートシール成分については後で詳しく説明する。
【0010】
ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均をTとし、MDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均をSとしたときに、T/Sで表される値は、10以上が好ましく、11.5以上がより好ましく、13以上がさらに好ましい。T/Sの上限は特に限定されないが、例えば50以下、または40以下とすることができる。引裂強度は、JIS P 8116:2000に準拠して測定される。曲げ抵抗は、JIS P 8125-1:2017に準拠して測定される。
本発明者は鋭意検討の結果、ヒートシール紙のT/Sが、ピロー包装機での製袋適性に影響することを見出した。Tは破れにくさの指標であり、Sは硬さの指標である。Sが高すぎる(硬すぎる)と、Tが高くても、ピロー包装機での製袋時に破れやすい。T/Sを10以上とすることで、ピロー包装機での製袋適性が向上し、ピロー包装機での製袋時にヒートシール紙が破れることを抑制できる。
T/Sを10以上とするための手法としては、例えば、以下の手法が挙げられる。離解フリーネスについては後で詳しく説明する。
・紙基材に1~20質量%の無機顔料を含有させること。
・ヒートシール紙の離解フリーネスを300~600mLにすること。
【0011】
ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)の相乗平均Tは、T/Sを高くできる点から、300mN以上が好ましく、350mN以上がより好ましく、400mN以上がさらに好ましい。Tの上限は特に限定されないが、例えば4000mN以下、または3000mN以下とすることができる。
ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)の相乗平均Sは、T/Sを高くできる点から、60mN以下が好ましく、50mN以下がより好ましく、40mN以下がさらに好ましい。Sの下限は特に限定されないが、例えば5mN以上、または10mN以上とすることができる。
【0012】
ヒートシール紙のヒートシール成分が付着した面同士を、140℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールし、引張速度300mm/分でT字剥離したときの剥離強度(以下、「ヒートシール剥離強度」とも記す。)は、2N/15mm以上が好ましく、2.4/15mm以上がより好ましく、2.8N/15mm以上がさらに好ましい。ヒートシール剥離強度が上記下限値以上であると、ピロー包装機での製袋時に良好にヒートシールすることができ、ピロー包装適性がより優れる。
ヒートシール剥離強度の上限は特に限定されないが、例えば30N/15mm以下、または20N/15mm以下とすることができる。
ヒートシール剥離強度は、例えば、単位面積当たりのヒートシール成分の付着量、ヒートシール成分の総質量に対する熱可塑性樹脂の含有量により調整できる。
【0013】
ヒートシール紙の単位面積当たりのヒートシール成分の付着量は、片面あたりの付着量で、2~30g/m2が好ましく、3~20g/m2がより好ましく、4~10g/m2がさらに好ましい。ヒートシール成分の付着量が上記下限値以上であると、ピロー包装適性がより優れる。ヒートシール成分の付着量が上記上限値以下であると、ブロッキングや工程での汚れの発生を抑制しやすい。
【0014】
ヒートシール成分の付着量が上記範囲内である場合、紙基材の繊維表面に付着したヒートシール成分の厚みは、4μm以下程度であると考えられるが、特に限定されない。紙基材の繊維表面のヒートシール成分の厚みは、繊維断面の顕微鏡観察によって確認され得る。
ヒートシール紙の平面に垂直な断面視においては、ヒートシール成分からなるヒートシール層が観察される場合があり得るが、かかるヒートシール層は必ずしも明確には観察されない場合もあると考えられる。
【0015】
ヒートシール紙においてヒートシール成分は、紙基材の片面に付着していてもよく、両面に付着していてもよい。生産コストをさらに低減する点では、紙基材の片面にヒートシール成分が付着していることが好ましい。
ヒートシール紙においてヒートシール成分は、紙基材に均一に付着していてもよく、上面視でドット状、線状、網目状等、不均一に付着していてもよい。
【0016】
ヒートシール紙をJIS P 8220-1に準拠して離解したパルプのJIS P 8121-2:2012に準拠して測定されるカナダ標準ろ水度(以下、「離解フリーネス」とも記す。)は、300~600mLが好ましく、350~550mLがより好ましく、400~500mLがさらに好ましい。ヒートシール紙の離解フリーネスが上記範囲内であると、ヒートシール紙の引裂強度がより高くなる傾向がある。
【0017】
ヒートシール紙の米坪は、20~200g/m2が好ましく、35~150g/m2がより好ましく、40~100g/m2がさらに好ましい。ヒートシール紙の米坪が上記下限値以上であると、ヒートシール紙の引裂強度がより高くなる傾向がある。ヒートシール紙の米坪が上記上限値以下であると、ヒートシール紙の曲げ抵抗がより低くなる傾向がある。
ヒートシール紙の米坪は、JIS P 8124:2011に準拠して測定される。
【0018】
ヒートシール紙の厚みは、20~300μmが好ましく、35~220μmがより好ましく、40~150μmがさらに好ましい。ヒートシール紙の厚みが上記下限値以上であると、ヒートシール紙の引裂強度がより高くなる傾向がある。ヒートシール紙の厚みが上記上限値以下であると、ヒートシール紙の曲げ抵抗がより低くなる傾向がある。
ヒートシール紙の厚みは、JIS P 8118:2014に準拠して測定される。
【0019】
(紙基材)
紙基材は、パルプを主成分とする。ここで「パルプを主成分とする」とは、紙基材の質量に対してパルプの含有量が70質量%以上であることを意味する。
本実施形態では、紙基材は1~20質量%の無機顔料を含む。したがって、パルプの含有量は、紙基材の質量に対して80~99質量%の範囲内である。パルプの含有量は、紙基材の質量に対して85~97質量%が好ましく、90~95質量%がより好ましい。
【0020】
紙基材は、一般的に用いられている紙であってよく、例えば、木材パルプを主成分とする紙基材が挙げられる。
紙基材の具体例としては、晒クラフト紙、未晒クラフト紙、上質紙、板紙、ライナー紙、塗工紙、片艶紙、グラシン紙、グラファン紙が挙げられる。なかでもヒートシール紙のヒートシール性の点で、晒クラフト紙、未晒クラフト紙、塗工紙、片艶紙が好ましい。
【0021】
パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の化学パルプが挙げられる。他にも、ストーングランドパルプ(GP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等の未晒パルプ、半晒パルプ、晒パルプが挙げられる。亜硫酸パルプ、古紙パルプ等も挙げられる。
【0022】
印刷適性を高める点から、パルプは、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)等の広葉樹パルプを含むことが好ましい。
広葉樹パルプの含有量は、パルプの総質量に対し、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0023】
引裂強度を高める点から、パルプは、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、針葉樹晒サルファイトパルプ(NBSP)等の針葉樹パルプを含むことも好ましい。
針葉樹パルプの含有量は、パルプの総質量に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0024】
広葉樹パルプと針葉樹パルプとを併用してもよい。
広葉樹パルプと針葉樹パルプとを併用する場合、パルプの総質量に対し、広葉樹パルプの含有量が50~90質量%、針葉樹パルプの含有量が10~50質量%であることが好ましく、広葉樹パルプの含有量が70~90質量%、針葉樹パルプの含有量が10~30質量%であることがより好ましい。
【0025】
紙基材は、無機顔料を含む。紙基材が無機顔料を含むことで、紙基材の灰分が増えて引張弾性率が低下する。紙基材の曲げ抵抗は、引張弾性率×厚みの3乗に比例する。引張弾性率を低くすることで、紙基材の曲げ抵抗、ひいてはヒートシール紙の曲げ抵抗が低くなり、ピロー加工においてもシワが発生しにくくなる。また、ピロー包装適性も向上する。
【0026】
無機顔料としては、例えばタルク、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト等が挙げられる。これらの中でも、経済性の点から、タルク、カオリン、炭酸カルシウムおよび酸化チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0027】
無機顔料の含有量は、紙基材の総質量に対して1~20質量%であり、3~15質量%が好ましく、5~10質量%がより好ましい。無機顔料の含有量が上記下限値以上であると、曲げ抵抗が低くなりやすい。無機顔料の含有量が上記上限値以下であると、紙紛の発生が少ない。
【0028】
紙基材は、無機顔料以外の内添剤をさらに含んでいてもよい。
内添剤としては、例えば、サイズ剤、填料、紙力増強剤、歩留り向上剤、pH調整剤、濾水性向上剤、耐水化剤、柔軟剤、帯電防止剤、消泡剤、スライムコントロール剤、染料、顔料(ただし、無機顔料を除く)が挙げられる。
【0029】
紙基材は必要に応じて、クレーコート層のような任意層を片面または両面の少なくとも一部にさらに有してもよい。クレーコート層は、紙基材を目止めし、平滑化させるためのものである。クレーとしては、例えば、カオリン、タルク、マイカが挙げられる。
【0030】
紙基材の密度(緊度)は、0.60~1.00g/cm3が好ましく、0.65~0.95g/cm3がより好ましく、0.70~0.90g/cm3がさらに好ましい。紙基材の密度が上記下限値以上であると、紙基材へのヒートシール成分の過剰な浸透が抑制され、ヒートシール剥離強度が高くなる傾向がある。紙基材の密度が上記上限値以下であると、ヒートシール紙が硬くならず、破れにくい傾向がある。
紙基材の密度は、紙基材の坪量を厚さで割ることで求められる。紙基材の坪量と厚さの測定方法は、ヒートシール紙の坪量と厚さの測定方法と同様である。
【0031】
(ヒートシール成分)
ヒートシール成分は熱可塑性樹脂を含む。そのため、ヒートシール紙は実用的な加熱温度の範囲内でヒートシール性を示す。
また、熱可塑性樹脂は、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネート(以下、「PBS」とも記す。)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。以下、ポリ乳酸およびPBSを総称して「樹脂I」とも記す。樹脂Iは生分解性に優れるため、ヒートシール紙は環境負荷の小さいものとなる。
【0032】
ポリ乳酸はL-乳酸の単独重合体であってもよく、D-乳酸の単独重合体であってもよく、L-乳酸とD-乳酸の共重合体であってもよく、L-乳酸、D-乳酸と共重合可能なモノマーとの共重合体であってもよい。L-乳酸、D-乳酸と共重合可能なモノマーとしては、例えば、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ酪酸、4-ヒドロキシ吉草酸、5-ヒドロキシ吉草酸、6-ヒドロキシカプロン酸が挙げられる。
ポリ乳酸は市販品を用いてもよい。ポリ乳酸の市販品としては、例えば、ミヨシ油脂株式会社製品のランディPL-1000、ランディPL-3000(ポリ乳酸の水性分散液)、中京油脂社製品のレゼムY225(ポリ乳酸の水性分散液)が挙げられる。
樹脂Iは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。樹脂Iとしては、入手しやすい点で、ポリ乳酸が好ましい。
【0033】
樹脂Iの含有量、すなわちポリ乳酸およびPBSの合計の含有量は、熱可塑性樹脂の総質量に対し、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
【0034】
熱可塑性樹脂は樹脂I以外の他の熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよい。
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、樹脂I以外の他の生分解性樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド、スチレンブタジエンラテックス、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデンが挙げられる。他の熱可塑性樹脂は、非石油由来の樹脂であってもよい。他の熱可塑性樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
他の生分解性樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)が挙げられる。他の生分解性樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体は、オレフィンと不飽和カルボン酸系単量体との共重合体である。
オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレンが挙げられる。オレフィンは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
不飽和カルボン酸系単量体としては、例えば不飽和カルボン酸、その塩およびエステルが挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸等の不飽和カルボン酸;イタコン酸モノエチルエステル、フマル酸モノブチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル等の少なくとも1個のカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸アルキルエステル;アクリルアミドプロパンスルホン酸、アクリル酸スルホエチルナトリウム塩、メタクリル酸スルホプロピルナトリウム塩等の不飽和スルホン酸単量体およびその塩;が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0037】
オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体は、例えば、エチレン等のオレフィンと不飽和カルボン酸系単量体とを乳化重合することによって得ることができる。
オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体として、市販品を用いてもよい。オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体の市販品としては、例えば、住友精化株式会社製品のザイクセンAC(エチレン-アクリル酸共重合体アンモニウム塩の水性分散液、アクリル酸の共重合比率20モル%)が挙げられる。
オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0038】
非石油由来の樹脂は、特に限定されるものではなく、各種の熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、バイオマス由来のポリオレフィン、バイオマス由来のポリエステル、バイオマス由来のポリアミド、バイオマス由来のポリウレタン、バイオマス由来の酢酸セルロースが挙げられる。バイオマスとしては、植物由来のものが好ましい。例えば、トウモロコシ由来のバイオマス、サトウキビ由来のバイオマスが挙げられる。非石油由来の樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0039】
バイオマス由来のポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン等の種々のオレフィンの重合体、該オレフィンの共重合体が挙げられる。なかでもバイオマス由来のポリプロピレン、バイオマス由来のポリエチレンが好ましく、バイオマス由来のポリエチレンがより好ましい。
【0040】
バイオマス由来のポリオレフィンとして、市販品を用いてもよい。バイオマス由来のポリオレフィンの市販品としては、例えば、ブラスケム社製品のSBC818(バイオマス低密度ポリエチレン)、SGF4950(バイオマス高密度ポリエチレン)が挙げられる。
【0041】
バイオマス由来のポリエステルにおいては、アルコール単位およびカルボン酸単位のいずれか一方または両方がバイオマス由来である。
アルコールとしては、例えば、ジオールが挙げられる。例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、デカンジオール、2-エチル-ブチル-1-プロパンジオールが挙げられる。
ただし、アルコールはこれらの例示に何ら限定されない。また、アルコールは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
カルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、これらの誘導体が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸が挙げられる。芳香族ジカルボン酸の誘導体としては、例えば、芳香族ジカルボン酸の低級アルキルエステルが挙げられる(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等)。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数が2~40の鎖状のまたは脂環式のジカルボン酸が挙げられる。例えば、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸、アゼライン酸、ドデカジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の誘導体としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸の低級アルキルエステルが挙げられる(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル等)。無水コハク酸等の脂肪族ジカルボン酸の酸無水物も挙げられる。
ただし、カルボン酸はこれらの例示に何ら限定されない。また、カルボン酸は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0043】
バイオマス由来のポリエステルとして、市販品を用いてもよい。バイオマス由来のポリエステルの市販品として、例えば、FENC社製品のCB602AB(バイオポリエチレンテレフタレート)が挙げられる。
【0044】
環境対応の点で、他の熱可塑性樹脂としては、他の生分解性樹脂および非石油由来の樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂が融点を有する場合、その融点は80~180℃が好ましく、100~170℃がより好ましく、110~160℃がさらに好ましい。熱可塑性樹脂の融点が上記範囲内であると、ピロー包装機での製袋時に良好にヒートシールすることができる。
熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)で測定される。ヒートシール成分が2種類以上の熱可塑性樹脂を含む場合、複数の熱可塑性樹脂の混合物について測定される質量平均値を熱可塑性樹脂の融点とする。
ポリ乳酸の融点は、例えば145~180℃である。PBSの融点は、例えば100~120℃である。
【0046】
ヒートシール成分中の熱可塑性樹脂の含有量は、ヒートシール成分の総質量に対し、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましく、100質量%であってもよい。ヒートシール成分中の熱可塑性樹脂の含有量が上記下限値以上であると、ピロー包装機での製袋時に良好にヒートシールすることができ、ピロー包装適性がより優れる。
ヒートシール成分が熱可塑性樹脂以外の成分を含む場合、ヒートシール成分中の熱可塑性樹脂の含有量は、ヒートシール成分の総質量に対し、例えば99質量%以下、98質量%以下、98.5質量%以下、または97質量%以下とすることができる。
【0047】
ヒートシール成分は、ヒートシール紙のヒートシール後の接着力を高めるために、アクリル酸重合体の塩をさらに含んでいてもよい。
アクリル酸重合体としては、例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸マレイン酸共重合体、アクリル酸スルホン酸共重合体が挙げられる。塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0048】
ヒートシール成分がアクリル酸重合体の塩を含む場合、アクリル酸重合体の塩の含有量は、ヒートシール成分中の熱可塑性樹脂の質量に対して0.1~3質量%が好ましく、0.2~2質量%がより好ましく、0.5~1.5質量%がさらに好ましい。アクリル酸重合体の塩の含有量が上記下限値以上であると、良好なヒートシール性が得られやすい。アクリル酸重合体の塩の含有量が上記上限値以下であると、添加量に見合ったヒートシール性改善効果が得られる。
【0049】
ヒートシール成分は、必要に応じて、熱可塑性樹脂およびアクリル酸重合体の塩以外に、各種の助剤をさらに含んでいてもよい。助剤としては、例えば、消泡剤、増粘剤、増粘多糖類、中和剤、可塑剤、防腐剤、pH調整剤、架橋剤、アンチブロッキング剤、滑剤、染料、顔料が挙げられる。顔料としては、例えば、前記した無機顔料が挙げられる。ただし、助剤はこれらの例示に何ら限定されない。
【0050】
(ヒートシール紙の製法)
ヒートシール紙は、上述の紙基材を製造し、紙基材の少なくとも一方の面に上述のヒートシール成分を付着させることで製造できる。
【0051】
紙基材は、例えば、無機顔料を含むパルプスラリーを抄紙機により抄紙し、形成された湿紙を乾燥させて製造できる。
抄紙機は特に限定されない。例えば、長網抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、円網式抄紙機、短網式抄紙機が挙げられる。経済性の点で、オンマシン塗工機を備えた抄紙機が好ましい。
【0052】
抄紙用のパルプスラリーの調製のために、パルプを離解し、パルプに適当な柔軟性や毛羽立ちを与えるためにリファイナー、ビーターを用いて叩解することが好ましい。ただし、パルプ叩解法は特に限定されない。パルプの叩解度の指標となる離解フリーネスは、前記したように、300~600mLが好ましく、350~550mLがより好ましく、400~500mLがさらに好ましい。
叩解済のパルプを無機顔料および必要に応じてサイズ剤、紙力増強剤等の他の内添剤と混合し、水に分散させ、抄紙に適した濃度のパルプスラリーを調製してもよい。
【0053】
抄紙機によって得られた湿紙は、多段式シリンダードライヤーやエアドライヤーやヤンキードライヤーを使用して乾燥することが好ましい。
【0054】
紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール成分を付着させる方法としては、例えば、紙基材の少なくとも一方の面にヒートシール成分を含む塗工液を塗布し、乾燥させる方法が挙げられる。
塗工液としては、熱可塑性樹脂を含む水性分散液(例えば水性エマルジョン)が好ましい。
塗工液は、熱可塑性樹脂以外に、アクリル酸重合体の塩や助剤を任意成分としてさらに含んでいてもよい。
【0055】
塗工液の塗布方法は、特に限定されない。一般に入手可能な種々の塗工機を用いることができる。塗工機としては、例えばブレードコーター、エアーナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、スロットダイコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、ブラシコーター、スライドビードコーター、ツーロールサイズプレスコーター、ポンドサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ショートドウェルコーター、ゲートロールコーター、キャレンダーによるニップコーターが挙げられる。なかでも、生産性の点で、オンマシン塗工機が好ましい。オンマシン塗工機としては、例えば、ブレードコーター、バーコーター、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ポンドサイズプレスコーターが好ましい。
【0056】
ヒートシール紙には、必要に応じて平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理は通常のスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化処理装置を用い、オンマシンまたはオフマシンで実施できる。発明の効果を損なわない範囲内であれば、塗工液を塗布する前の紙基材に平滑化処理を施してもよい。
【0057】
得られたヒートシール紙はロール状に巻き取られる。
その後、ヒートシール紙の幅を後工程の加工機の幅に合わせるために、巻き取りの両端の部分をスリッターにより除去してもよい。
【0058】
以上説明したヒートシール紙においては、紙基材が1~20質量%の無機顔料を含むため、ピロー加工(ピロー包装機での製袋)時にシワが生じにくい。また、ピロー包装適性に優れており、ピロー包装機で連続的に製袋する時にヒートシール紙が破れにくい。ヒートシール性や印刷適性も良好である。
【0059】
上記ヒートシール紙の用途は特に限定されない。例えば、紙製品、食品(例えば菓子)、医療品、電子部品、衛生用品、農業資材、建築部材のような種々の分野で包装材料として利用され得る。
上記ヒートシール紙が包装材料として利用される場合、包装方法は公知の包装方法を適用でき、例えばピロー包装、ガゼット包装、チューブ包装、三方シール包装、四方シール包装、スティック包装、パウチ包装、深絞り包装が挙げられる。
上記効果を奏することから、上記ヒートシール紙は、ピロー包装用として好適である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。「部」、「%」はそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。
【0061】
<実施例1>
ポリ乳酸の水性エマルジョン(中京油脂社製「レゼムY225」、ポリ乳酸の融点150℃)90部、カオリン(イメリス社製「バリサーフHX」)8.5部、ポリアクリル酸系スルホン酸塩(サンノプコ社製品「SNシックナー615」)1部、鉱油系消泡剤(サンノプコ社製品「ノプタム777F」)0.5部を混合して水性塗工液を調製した。
パルプとして広葉樹パルプ(LBKP)100部を叩解し、内添剤として、タルクを5.5%、硫酸バンド(自製)を1.5%、ロジンサイズ剤(荒川化学社製品、サイズパインG)を0.55%、カチオン化澱粉(王子コーンスターチ社製品、GELTRON18)を0.5%となるように配合してパルプスラリーを得た。各成分の配合量(%)は、パルプの質量を100%としたときの割合である。このパルプスラリーをヒートシール紙の米坪が50g/m2となるように抄紙して紙基材を得た。パルプの叩解度は、得られるヒートシール紙の離解フリーネスが500mLになるよう調整した。
得られた紙基材のフェルト面に、ロッドメタリングサイズプレスコーターによってオンマシンで上記水性分散液を塗布し、乾燥させて、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0062】
<実施例2>
タルクの代わりに酸化チタンを用いた以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0063】
<実施例3~4>
タルクの配合量を、紙基材の無機顔料の含有量が表1に示す値になるように変更した以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0064】
<実施例5~6>
パルプの叩解度を、紙基材の離解フリーネスが表1に示す値になるよう調整した以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0065】
<実施例7>
水性塗工液としてポリ乳酸の水性エマルジョン(中京油脂社製「レゼムY225」)をそのまま用いた以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0066】
<実施例8>
パルプとして広葉樹パルプ(LBKP)60部および針葉樹パルプ(NBKP)40部を用いた以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0067】
<実施例9>
ポリ乳酸の水性エマルジョン(中京油脂社製「レゼムY225」、ポリ乳酸の融点150℃)70部、カオリン(イメリス社製「バリサーフHX」)28.5部、ポリアクリル酸系スルホン酸塩(サンノプコ社製品「SNシックナー615」)1部、鉱油系消泡剤(サンノプコ社製品「ノプタム777F」)0.5部を混合して水性塗工液を調製した。この水性塗工液を用いた以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0068】
<実施例10>
パルプの叩解度を、紙基材の離解フリーネスが280mLになるよう調整し、紙基材の米坪を40g/m2にした以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0069】
<比較例1>
ポリ乳酸の水性エマルジョンの代わりにスチレン・ブタジエン系ラテックス(日本ゼオン社製「LX407-S12」)を用いた以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0070】
<比較例2>
パルプの叩解度を、紙基材の離解フリーネスが200mLになるよう調整し、タルクを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0071】
<比較例3>
タルクを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0072】
<比較例4>
タルクの含有量が紙基材の質量に対して25質量%になるようにタルクの配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、片面にヒートシール成分が付着したヒートシール紙を得た。
【0073】
<測定および評価>
(米坪)
ヒートシール紙の米坪は、JIS P 8124:2011に準拠して測定した。
(離解フリーネス)
ヒートシール紙をJIS P 8220-1に準拠して離解し、得られたパルプについて、JIS P 8121-2:2012に準拠してカナダ標準ろ水度を測定し、その値を離解フリーネスとした。
【0074】
(ヒートシール紙の引裂強度)
JIS P 8116:2000に準拠し、エルメンドルフ形引裂試験機を用い、ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの引裂強度(mN)を測定し、それらの相乗平均Tを求めた。
(ヒートシール紙の曲げ抵抗)
JIS P 8125-1:2017に準拠し、ヒートシール紙のMDおよびCDそれぞれの曲げ抵抗(mN)を測定し、それらの相乗平均Sを求めた。
【0075】
(ヒートシール剥離強度)
2枚の各例のヒートシール紙を、ヒートシール成分が付着した面同士が向き合うように重ね、ヒートシールテスター(テスター産業社製「TP-701-B」)を用いて、140℃、0.2MPa、1秒の条件でヒートシールして試験片を得た。得られた試験片を温度23℃±1℃、湿度50%±2%の室内で4時間以上静置した。続いて、試験片を15mm幅にカットし、引張試験機を用いて、引張速度300mm/minでT字剥離し、記録された最大荷重をヒートシール剥離強度とした。
【0076】
(印刷適性)
各例のヒートシール紙のワイヤー面に対し、グラビア印刷試験機(熊谷理機工業製)により印圧30kg/cm、速度60m/minの条件で水性グラビアインク(DIC社製「サーフWHプロセス墨」)を印刷した。印刷面を目視により観察し、以下の基準で印刷適性を評価した。
A:網点の抜けがなく、良好な外観。
B:網点の抜けがあり、一部がかすれている。
【0077】
(ヒートシール性)
高速横型ピロー包装機FW3410/B(フジキカイ社製)を使用し、各例のヒートシール紙の製袋を100袋/分の速度で行い、以下の基準でヒートシール性を評価した。
A:シール温度150℃で接着し、接着部を剥がすと、紙基材が破壊される(材破)。
B:シール温度180℃で接着し、接着部を剥がすと、紙基材が破壊される(材破)。
C:シール温度180℃で接着し、接着部を剥がすと、紙基材が破壊されない(界面剥離または未接着)。
【0078】
(製袋時のシワ)
高速横型ピロー包装機FW3410/B(フジキカイ社製)を使用し、各例のヒートシール紙の製袋を行い、以下の基準で製袋機のセーラーでのシワの発生状況(製袋時のシワ)を評価した。
A:シワの発生なし。
B:薄いシワが発生する。
C:明らかなシワが発生し、外観が劣る。
【0079】
(製袋適性)
高速横型ピロー包装機FW3410/B(フジキカイ社製)を使用し、各例のヒートシール紙の製袋を行い、以下の基準で製袋適性を評価した。製袋適性は、袋の連続生産に適していることを示す。破れなど、袋としての性能を損なうような不具合が生じると、連続生産が難しい。
A:問題なく生産可能である。
B:安定して製袋させるために製袋速度を減少させる必要があるものの、生産可能である。
C:破れなどの不具合が発生し、連続生産が難しい。
【0080】
<結果>
各例の測定結果、評価結果を表1、2に示す。
表1~2中、「PLA」はポリ乳酸を示す。
【0081】
【0082】
【0083】
実施例1~10のヒートシール紙は、製袋時のシワの発生が抑制されていた。また、充分なヒートシール性を有しており、印刷適性にも優れていた。離解フリーネスが300~600mLである実施例1~9のヒートシール紙は、製袋適性にも優れていた。
一方、ヒートシール成分に樹脂I以外の熱可塑性樹脂を用いた比較例1は、環境負荷の点で劣る。
紙基材が無機顔料を含まない比較例2~3は、製袋時に明らかなシワが発生した。また、製袋適性にも劣っていた。
紙基材における無機顔料の含有量が25質量%の比較例4は、ヒートシール性に劣り、ヒートシール紙として適さないものであった。また、製袋適性にも劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、ピロー加工においてもシワが発生しにくいヒートシール紙を提供できる。
【要約】
本発明の一実施形態に係るヒートシール紙は、パルプを主成分とする紙基材の少なくとも一方の面に、熱可塑性樹脂を含むヒートシール成分が付着したヒートシール紙であり、前記熱可塑性樹脂が、ポリ乳酸およびポリブチレンサクシネートからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、前記紙基材が、無機顔料を含み、前記無機顔料の含有量が、前記紙基材の総質量に対して1~20質量%である。