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特許7513234複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を決定する方法
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  • 特許-複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を決定する方法 図1
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  • 特許-複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を決定する方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 1/25 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G01L1/25
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2024021698
(22)【出願日】2024-02-16
【審査請求日】2024-02-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.ウェブサイト掲載日:令和5年3月16日 2.ウェブサイトのアドレス:https://www.stress.co.jp/ https://www.stress.co.jp/0173/ https://www.stress.co.jp/0167/ 3.公開者 株式会社X線残留応力測定センター 4.公開された発明の内容: 株式会社X線残留応力測定センターが、上記アドレスのウェブサイトで公開されている株式会社X線残留応力測定センターのウェブサイトにて、三島由久が発明した「複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を決定する方法について」公開した。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516267049
【氏名又は名称】株式会社X線残留応力測定センター
(74)【代理人】
【識別番号】500067961
【氏名又は名称】三島 由久
(72)【発明者】
【氏名】三島 由久
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特公昭59-052778(JP,B1)
【文献】特開2020-173191(JP,A)
【文献】特開2002-296125(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0217730(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第114235241(CN,A)
【文献】Paul S. Prevey and Douglas J. Hornbach,X-Ray Diffraction Residual Stress Techniques,米国,Lambda Research, Inc.,2023年06月27日,pp.1-27,https://www.lambdatechs.com/wp-content/uploads/2020/10/200.pdf
【文献】INTERNET ARCHIVE wayback machine,2023年06月27日,https://web.archive.org/web/20230627123706/https://www.lambdatechs.com/wp-content/uploads/2020/10/200.pdf,検索日2024/5/13
【文献】栗田政則,応力・ひずみテンソルとX線応力測定への応用,材料,日本,公益社団法人日本材料学会,2015年12月15日,64巻12号,pp.1003-1009,https://doi.org/10.2472/jsms.64.1003
【文献】Rory Whybrow, Marcus Williamson and T. James Marrow,Strain Mapping in Graphite and MAX phase during High-Temperature Disc Compression via In-Situ Synchrotron X-ray Radiography and Diffraction,Comference Paper: 16th International Conference on Advances in Experimental Mechanics,2022年09月08日,https://www.bssm.org/archive/conferences/2022-oxford/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/00,1/25
G01N 23/00-23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線の回折現象を利用した応力測定において、1点の測定点における複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を推定する方法であって、2~16方向の応力とせん断応力測定データまたは、それらを平均化したデータをX軸に応力、Y軸にせん断応力としてプロットして、それら測定点とモールの応力円との距離を最小にするモールの応力円軌道を決定して、モールの応力円軌道とX軸の応力軸との交点から主応力を決定することを特徴とする方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数方向の応力とせん断応力の測定結果から主応力を決定する方法に関する
【背景技術】
【0002】
X線の回折現象を利用した応力測定において、応力場で主応力の推定する場合、従来は、3方向の応力から主応力を求める方法が用いられてきたが、応力値の誤差の程度によっては、見当違いの結果が計算される場合がある。従来法では理想的な平面応力場に近い場合しか妥当な計算結果を得られなかった。また、その誤差の程度についての情報も得られなかった。
以下 図2により従来の主応力の推定方法について説明する。0、45、90度の応力値から主応力を計算する場合である。σ0,σ45,σ90はそれぞれ0、45、90度の応力値である。これを用いてC(モールの応力円の中心の応力値)および R(モールの応力円の半径)を求めて、主応力σ1, σ2を計算する。
【0003】
測定された複数方向の応力値から主応力とその方向を計算する方法はいくつか提案されていて、測定誤差を含まない場合は、いずれも同等に有効である。しかし、実際の測定値は誤差を含んでおり、応力測定値で主応力計算を行うと、その誤差の影響で実態とは大きく異なる結果が計算されることがあった。
【0004】
モールの応力円は、X線応力測定や材料力学の教科書に載っている応力とせん断応力の関係がモールの応力円軌道になる事を示す円である。(非特許文献1、非特許文献2)これまでは、応力計算結果を図示するために用いられている。理由は、モールの応力円を構成する応力とせん断応力のうち、せん断応力を測定する方法がなく、モールの応力円に実測のせん断応力を使用することがなかった。2012年に2次元検出器によるX線応力測定機が開発されて、せん断応力を測定できるようになり、モールの応力円および主応力の推定に実測のせん断応力値の利用が可能となった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】

【文献】日本材料学会編「改著X線応力測定法」養賢堂発行1990年
【文献】田中啓介ほか「残留応力のX線評価」養賢堂発行2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
測定された複数方向の応力値から主応力とその方向を計算する方法は、いくつか提案されていて、測定誤差を含まない場合は、いずれも同等に有効である。しかし、実際の測定値は誤差を含んでおり、実測定値で計算を行うと、その誤差の影響で実態とは大きく異なる結果が計算されることがある。本発明では、このような計算値が妥当でない課題を解決してより妥当な主応力の推定を行うのが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、X線の回折現象を利用した応力測定において測定された応力に加えて、測定されたせん断応力値を用いて精度の高い主応力推定を行う方法。1点の測定点を2~16の方向から測定した応力とせん断応力の値を使用する。はじめに、2次元検出器を用いた応力とせん断応力の両方が出力される測定装置で1点に対して2~16の方向から測定を行う。例えば0,45,90度の3方向または、0,45,90,135度の4方向 3軸の応力の発生がある場合には、0,45,90,180,225,270度6方向、または0,45,90,135,180,225,270,315度等8方向の測定を行う。応力の状況に合わせて測定数を増減する。つまり、より平面応力場に近い場合は、少ない方向数の測定で十分な精度を得られるが、3軸の応力の発生等の平面応力場からの誤差が大きい場合は、より多くの方向の測定が必要になる。より多くの測定で精度は向上するが、測定コストも増大するので実用的な測定数は、最大16程度である。
【0008】
次に、それら測定データをX軸に応力値、Y軸にせん断応力値をプロットする。また、0と180度、45と225度,90と270度,135と315度のように180度違う反対方向の2つの測定点の平均することにより3軸応力成分の影響による誤差を緩和することができる。
【0009】
3番目に、各測定点の近くを通るモールの応力モールの応力円軌道を推定する。モールの応力円の推定方法には、2つの方法がある。(1)各測定点とモールの応力円軌道の距離の合計を最小とする円の中心と半径を決める方法、つまり各測定点とモールの応力円軌道上の最も近い点との距離の合計が最小となる円を決定する方法と(2)各測定点と円の中心の距離の合計が最小になるように円の中心決めて、各測定点と全円軌道上の点の距離の合計が最小になるように決める方法である。その推定された円と応力X軸との2交点が主応力になる。
【0010】
上記解決手段による作用は次の通りである。1点の応力を複数の方向から測定して複数組の応力、せん断応力値を得る。その複数組の応力とせん断応力値をそれぞれ、X軸とY軸として平面にプロットする。最小二乗法でモールの応力円を決定して、円軌道と応力軸との2つの交点で主応力を決定することにより、誤差の影響を軽減したり、相殺したりすることができる。また、各測定点のプロットとモールの応力円の位置関係から測定点の誤差の程度を視覚的に確認することができる
【0011】
上述のように本発明は、主応力を決定する際に、誤差の影響を軽減したり、相殺したりすることができる。また、各測定点のプロットとモールの応力円の位置関係から、その誤差の程度を視覚的に確認することができる。
【発明の効果】
【0012】
1点の応力を複数の方向から測定して応力、せん断応力空間にプロットして、最小二乗法でモールの応力円を決定して、その応力軸との交点で主応力を決定することにより、測定誤差の影響を軽減したり、相殺したりすることができる。また、各測定点のプロットとモールの応力円の位置関係からその誤差の程度を視覚的に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態を示すモールの応力円推定結果と測定点
図2】従来技術発明の主応力計算方法
図3】本発明の第2実施形態を示すモールの応力円推定結果と測定点
図4】本発明の第3実施形態を示すモールの応力円推定結果と測定点
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1実施形態について図1を用いて説明する。誤差が小さい場合の測定点とモールの応力円を図示したものである。0,45,90,135,180,225,270,315度等8方向の応力測定を行い、応力とせん断応力の測定値を得る。0と180度、45と225度,90と270度,135と315度のように180度違う2つの測定点の平均を求める。8測定から4つの平均点を求めて、次に、それら測定平均点をX軸に応力値、Y軸にせん断応力値としてプロットする。
【0015】
【表1】
@0001
【0016】
さらに、測定平均点と円軌道上の最近点との距離の合計が最小になるようにモールの応力円軌道を決定する。主応力は、円とX軸との交点2点の応力値で実施例では、最大主応力 -69MPa 角度約45度 最小主応力は、-969MPaで角度は、約135度となる。
【0017】
次に本発明の第2実施形態について図3を用いて説明する。一部のデータに誤差が含まれるがモールの応力円により誤差が緩和される場合である。0,45,90,135,180,225,270,315度等8方向の応力測定を行い、応力とせん断応力の測定値を得る。0と180度、45と225度,90と270度,135と315度のように180度違う反対向の2つの測定点の平均を求める。8測定から4つの平均点を求めて、次に、それら平均点をX軸に応力値、Y軸にせん断応力値としてプロットする。
【0018】
【表2】
@0002

【0019】
さらに、モールの応力円軌道と平均点の距離の合計が最小になるようにモールの応力円軌道を決定する。主応力は、円とX軸との交点2点の応力値で実施例では、最大主応力 最小主応力で角度は、45度135度となる。実施例2では、135、315度のデータのみ多角形が凹になっていて誤差が大きいが、モール応力円および最大主応力最小主応力には大きな影響を及ぼさない。このことは、誤差が大きい135,315度とその平均点は、モールの応力円の軌道から離れているが、他の平均点は、モールの応力円の軌道に近い、つまり、誤差が大きい135,315度の測定の影響が緩和されている。従来法の場合は、135度付近のデータが計算に含まれていると、誤差が大きくなるが、本発明では大きな影響を及ぼさない。
【0020】
最後に本発明の第3実施形態について図4を用いて説明する。モールの応力円解析により物理的に測定できない方向であっても応力を推定できる例である。T字継手の溶接の応力測定では、溶接線平行方向(0度とする)は継ぎ手が邪魔になり溶接線近傍応力が物理的に測定できない。この場合は、測定可能な45度、90度,135度の測定結果から、モールの応力円軌道と平均点の距離の合計が最小になるようにモールの応力円
を決定して、モールの応力円上の45度、90度,135度の測定点位置から、0度方向を決めて(溶接線平行)方向の応力を推定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
誤差を含む測定値に基づく応力解析において妥当な主応力とその方向を推定することができる。また、対象物形状等により直接測定できない方向の応力を推定でき、構造物等の安全性の評価に寄与できる。
【符号の説明】
【0022】
・ 推定されたモールの応力円
・ 各角度の測定点のプロット 円形
・ 180度異なる測定点の平均点 円形枠
・ 180度異なる測定点の平均点を結ぶ多角形
・ 応力軸[単位はMPa]
・ せん断応力軸[単位はMPa]
・ 最大主応力推定点 四角形枠
・ 最小主応力推定点 四角形枠
【要約】
【課題】実測定応力値で主応力計算を行うと、その誤差の影響で実態とは大きく異なる結果が計算されることがあった.
【解決手段】
X線の回折現象を利用した応力測定において1点の測定点を2~16の方向から測定した応力とせん断応力の値を応力、せん断応力空間にプロットして、円軌道または円上の各点の距離の合計が最小となるように最小二乗法でモールの応力円を決定して、その応力軸との交点で主応力を決定する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4