(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】細長い要素に微生物の培養菌を提供する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 11/02 20060101AFI20240702BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240702BHJP
D06M 16/00 20060101ALI20240702BHJP
C12N 1/00 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
C12N11/02
C12M1/00 C
D06M16/00 Z
C12N1/00 P
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019108322
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2018/065506
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】WO
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】エジェ セネル
(72)【発明者】
【氏名】セレフ アウズカラ
(72)【発明者】
【氏名】ネジディヤ ギュネシュ
(72)【発明者】
【氏名】フェヒム チャグラル
(72)【発明者】
【氏名】シェミー カザンツ
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0314193(US,A1)
【文献】特開平04-141081(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106010965(CN,A)
【文献】特開平06-257074(JP,A)
【文献】特表2018-513694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/02
C12M 1/00-3/10
D06M 16/00
C12N 1/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも微生物の培養菌(5)を細長い要素(2)に堆積させる方法であって、
a)少なくとも第1の吐出口(7)を有する少なくとも第1の給送器(4)を提供するステップ、
b)前記少なくとも第1の給送器(4)へ、ワイヤー、繊維、織糸、糸、フィラメントおよびそれらの組み合わせから選択された、少なくとも1つの前記細長い要素(2)を供給するステップ、
c)前記第1の吐出口(7)に、
液体培地中の少なくとも1つの微生物を含む第1の培養菌(5)を供給するステップ、
d)少なくとも前記第1の吐出口(7)から
前記細長い要素(2)へ前記第1の培養菌(5)を分配するステップ、及び
e)前記細長い要素(2)の少なくとも一部を前記微生物の第1の培養菌(5)と接触させ、前記細長い要素(2)の少なくとも一部に、ある量の前記微生物の第1の培養菌(5)を提供するステップ
であって、前記細長い要素(2)は、距離をおいて前記第1の吐出口(7)に供給され、それにより、前記第1の吐出口(7)から出る前記第1の培養菌(5)は、前記細長い要素(2)と接触する過程で前記第1の吐出口(7)と前記細長い要素(2)の両方に接触し、
g)少なくとも1つの前記細長い要素(2)の供給速度の関数として、及び/又は少なくとも1つの前記細長い要素(2)の吸収能力、及び/又は寸法の関数として、前記第1の培養菌(5)の分配速度を選択的に変更するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
少なくとも1つの前記細長い要素(2)は糸であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法において、前記微生物の第1の培養菌(5)は液体状態であり、前記第1の吐出口(7)から前記細長い要素(2)に不連続的又は連続的に分配されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法において、前記微生物の第1の培養菌(5)が提供された前記細長い要素(2)は、細長い要素の巻取り器(3)で収集されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法において、前記第1の培養菌(5)は、前記細長い要素(2)の供給方向に垂直な方向から、前記細長い要素(2)に分配されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項
1に記載の方法において、前記距離は、0.1mm~5mmの範囲であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の方法において、前記距離は、0.5mm~2mmの範囲であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の方法において、前記吐出口(7)から分配された前記培養菌(5)の全量が、前記細長い要素(2)に提供されることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の方法において、少なくとも1つの前記細長い要素(2)の供給の速度は、0.1m/分~10m/分の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項
9に記載の方法において、少なくとも1つの前記細長い要素(2)の前記供給の速度は、0.5m/分~5m/分の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1~
10いずれか1項に記載の方法において、前記培養菌(5)の前記分配速度は、0.01ml/分~0.5ml/分の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項
11に記載の方法において、前記培養菌(5)の前記分配速度は、0.05ml/分~0.2ml/分の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の方法において、前記ステップe)で得られた前記細長い要素を培養するステップf)をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項
13に記載の方法において、前記ステップe)で得られた前記細長い要素は、空気中及び/又は培養器(9)内で培養されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法において、少なくとも第2の吐出口(17)が設けられ、前記第2の吐出口(17)は、液体状態又は培地の第2の微生物培養菌を分配することを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項
15に記載の方法において、前記第2の吐出口(17)が前記第1の吐出口(7、16)の下流に設けられていることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項
14に記載の方法において、少なくとも前記第1の培養菌(5)及び/又は培地は、前記培養器(9)内の前記細長い要素(2)に分配されることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項
14に記載の方法において、前記ステップe)で得られた前記細長い要素は、前記培養器(9)内に収集されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項1~
18のいずれか1項に記載の方法において、前記微生物の前記培養菌(5)は、バクテリア、イースト、菌類、藻類及びその混合から選ばれた少なくとも1つの微生物を含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1~
19のいずれか1項に記載の方法において、前記微生物の培養菌(5)は、前記細長い要素(2)上に微生物産生物及び/又は微生物沈殿物を提供できる少なくとも1つの微生物を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項
20に記載の方法において、前記微生物産生物は、バイオポリマー及び/又は酵素、及び/又は染料であることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項
21に記載の方法において、前記微生物産生物は、糖ベースのバイオポリマー、アミノ酸ベースのバイオポリマー、及びウレアーゼから選択されることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項
22に記載の方法において、前記微生物産生物は、微生物セルロース及び微生物コラーゲンから選択されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項
20~23のいずれか1項に記載の方法において、前記微生物沈殿物は方解石沈殿物であることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項
21に記載の方法において、前記染料は、インディゴ染料、インディゴイド染料、顔料染料及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項
25に記載の方法において、前記染料は、インディゴであることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか1項に記載の方法において、前記培養菌は、濃度1x108CFU/ml~1x109CFU/mlの範囲の微生物を含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項
27に記載の方法において、前記培養菌は、濃度4x108CFU/ml~6x108CFU/mlの範囲の前記微生物を含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項1~
28のいずれか1項に記載の方法において、前記細長い要素(2)は、
複数の糸(2)であることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項
29に記載の方法において、前記細長い要素(2)は、親水性糸であることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項1~
30のいずれか1項に記載の方法において、前記湿潤剤は最終培養菌の重量の0.05重量%~1重量%の範囲の量が前記細長い要素に供給されることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項
31に記載の方法において、前記湿潤剤は前記培養菌と共に、前記最終培養菌の0.1重量%~0.5重量%の範囲の量が前記細長い要素に供給されることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項1~
32のいずれか1項に記載の方法を実行するための装置であって、少なくとも1つの微生物を含む前記第1の培養菌(5)を分配するための少なくとも1つの第1の吐出口(7)を有する少なくとも第1の給送器(4)と、少なくとも1つの細長い要素(2)を前記給送器に供給する少なくとも1つの第1の細長い要素源(1)とを備えており、前記培養菌が前記第1の吐出口(7)から分配されるとき、前記少なくとも1つの微生物を含む前記第1の培養菌(5)が、前記細長い要素(2)の少なくとも一部に接触するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項34】
請求項
33に記載の装置であって、前記少なくとも1つの細長い要素(2)は糸であることを特徴とする装置。
【請求項35】
請求項
33に記載の装置において、さらに、少なくとも1つの培養器(9)を含むことを特徴とする装置。
【請求項36】
請求項
33~35のいずれか1項に記載の装置において、さらに、前記微生物の培養菌又は培地を分配するための少なくとも1つの第2の吐出口を有する少なくとも第2の給送器(13)を備えていることを特徴とする装置。
【請求項37】
請求項
35に記載の装置において、前記少なくとも1つの培養器(9)は、前記第1の給送器(4)、及び/又は前記第2の給送器(13)、及び/又は、少なくとも1つの前記細長い要素の巻取り器(3)を備えており、前記細長い要素の巻取り器(3)は、前記培養菌(5)が提供された後に前記細長い要素を収集するように構成されていることを特徴とする装置。
【請求項38】
請求項
33~37のいずれか1項に記載の装置において、さらに、前記第1の培養菌の分配速度及び/又は前記細長い要素の供給速度を調節するように構成された論理制御ユニットを備えていることを特徴とする装置。
【請求項39】
請求項
38に記載の装置において、
前記論理制御ユニットは、前記吐出口で前記培養菌をモニターするための1つ又は複数のセンサーを有することを特徴とする装置。
【請求項40】
請求項
39に記載の装置において、前記1つ又は複数のセンサーは、レーザー光センサー、画像処理センサーおよび静電容量センサーからなるグループから選択されることを特徴とする装置。
【請求項41】
請求項
33~40のいずれか1項に記載の装置において、前記給送器(4)は、ポンプ(15)を含むことを特徴とする装置。
【請求項42】
請求項
41に記載の装置において、前記ポンプ(15)は、シリンジポンプであることを特徴とする装置。
【請求項43】
請求項
33~42のいずれか1項に記載の前記装置を複数含むプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維分野に関し、特に、糸などの細長い要素の仕上げに関する。特に、本発明は、細長い要素(好ましくは糸)に微生物の培養菌を提供する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品に微生物の培養菌を提供するために、多くの技術や方法が利用可能であり知られている。繊維製品を微生物の培養菌に浸漬する方法、すなわち、繊維製品を微生物の培養菌を含む含浸浴に浸漬する方法が知られている。これらの方法によれば、織物のような繊維製品は、微生物の培養菌を含む含浸浴に浸漬され、その結果、繊維製品は微生物の培養菌で含浸される。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリエステル繊維のような疎水性合成基板に親水性特性を付与する方法が開示されている。特に、アセトバクターが接種された液体培地は、浅いトレーに入れられる。その後、ポリエステルの織布のロールを連続的に供給し、織布はセルロースミクロフィブリルの付着を可能にするのに十分な期間、培地に浸漬される。その後、織布は別のロールに巻き取られ、織布の次の連続部分が培地に浸漬されている間に、乾燥がなされる。
【0004】
しかしながら、含浸浴中の培養菌中の微生物の濃度は、織物などの繊維製品が浴に供給され、浴に浸漬されると変化する。従って、微生物の培養菌は、繊維製品に対して不均一に供給される。言いかえれば、繊維製品の異なる部分に異なる量の培養菌が含浸されているため、その後の繊維製品の仕上げ処理を危うくする可能性がある。
また、繊維製品を浴に浸すと、タンパク質、ワックス、その他の不純物が含浸浴に放出され、浴と微生物の培養菌のpHが変化し、培養液中の微生物の濃度が変化する。
さらに、含浸浴には、培地の安定性を維持するため、すなわち、繊維製品の浸漬及び含浸中に浴の状態を実質的に不変に維持するために、継続的な監視/供給/回収システムが必要である。さらに、培養菌の含浸浴は汚染されやすい。
【0005】
繊維製品に微生物の培養菌を提供するために、噴霧又は散布に基づいた他の方法も利用可能である。
特許文献2は、複合織布を提供するために、織布の少なくとも片側の少なくとも一部に1つの細菌由来のバイオポリマーの層が設けられている織物の製造方法を開示している。特許文献2は、さらに、複合織布が得られたら、少なくとも織布糸の一部をバイオポリマー層と一緒に染色することも開示している。
【0006】
細菌由来のバイオポリマーの層は、処理された織物を得るために、複合織布から少なくとも部分的に除去される。特許文献2によれば、織る前に、糸を細菌由来のバイオポリマー生産微生物の培養菌と接触させ、細菌由来のバイオポリマー生産微生物を培養することで、細菌由来のバイオポリマー層を織る前に綿糸の上で直接成長させ、このようにして複合糸を提供する。特に、特許文献2は、細菌由来のバイオポリマー産生微生物の培養菌に浸漬するか、又は織る前に、細菌由来のバイオポリマーを生産する微生物の培養菌を糸に噴霧することにより、細菌バイオポリマー産生微生物の培養菌を、糸に提供できることを開示している。
【0007】
特許文献3は、菌体細胞を培養し、その菌体細胞を担体から回収する、連続培養装置及び連続培養方法を開示している。特許文献3の連続培養装置では、培地は培地供給ユニットから多孔質担体に供給される。細胞は、細胞供給ユニットから多孔質隔離材に供給される。多孔質担体と多孔質隔離材は、循環しながら培養部で接触する。この培養ユニットで、多孔質担体に含まれる培地は、多孔質分離材料を介して細胞に供給され、この細胞は気相で成長する。細菌細胞は、多孔質担体上ではなく、多孔質隔離材上で成長し、多孔質担体から多孔質隔離材を分離することによってのみ回収できる。特許文献3によれば、多孔質担体は、無端ベルト状不織布、織布などで形成されてもよく、一方、多孔質隔離材は、メッシュ、多孔質フィルムなどの形態であってもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第4,378,431号
【文献】米国特許公開公報2017/314193号
【文献】特開平04-141081号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、噴霧方法及び散布方法は、培養菌の生物学的内容、特に微生物に深刻な障害を与える。例えば、スプレー液滴の形成には高い圧力と粘度レベルが必要であり、これらの散布方法を使用すると、ジェット印刷のような微小加速が微生物に作用する。従って、現在利用可能な噴霧方法及び散布方法は、多くの場合、微生物の培養菌を繊維製品に提供するのに適していない。
【0010】
本発明の1つの目的は、上記の問題を解決し、実質的に均一な方法で、細長い要素のような繊維製品に、微生物を含む培養菌を提供する方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、培養菌及び/又は培地の特性が方法の実施過程で実質的に変化しないような、微生物を含む培養菌を細長い要素などの繊維製品に提供する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、基板上の培養菌への正確かつ実質的に再現可能な分布を可能にする、微生物を含む培養菌を細長い要素などの繊維製品に提供する方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、培養菌の汚染が効果的に防止される、細長い要素などの繊維製品に微生物を含む培養菌を提供する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
これら及び他の目的は、請求項1に記載の方法、請求項25に記載の細長い要素、請求項28に記載の布、請求項30に記載の衣服、請求項31に記載の装置、及び請求項38に記載のプラント、によって達成される。
従属請求項は、本発明の好ましい実施態様に関係している。
【0013】
本発明は、少なくとも微生物の培養菌を細長い要素、好ましくは糸に付着させる方法であって、
a)少なくとも第1の吐出口を有する第1の給送器を提供するステップ、
b)前記少なくとも第1の給送器へ、少なくとも1つの細長い要素(好ましくは糸)を供給するステップ、
c)前記第1の吐出口に、少なくとも1つの微生物を含む第1の培養菌を供給するステップ、
d)少なくとも前記第1の吐出口から前記第1の培養菌を分配するステップ、及び、
e)前記細長い要素の少なくとも一部を前記第1の微生物の培養菌と接触させて、前記細長い要素の少なくとも一部に、ある量の前記第1の微生物の培養菌を提供するステップを含むことを特徴とする。
【0014】
驚くべきことに、本発明の方法によれば、微生物を含む培養菌を細長い要素、例えば糸に、実質的に均一に提供できることがわかった。言いかえれば、実質的に同じ長さの糸の部分に、実質的に同じ量の培養菌を提供することができる。
さらに、本発明の方法において、前記微生物を含む前記培養菌の特徴及び特性は、前記方法の実施過程で実質的に変化しないという利点がある。特に、本発明の1つの様相によれば、所定量の培養菌が前記第1の吐出口から分配されて、前記細長い要素(例えば糸)に接触する。このように、本発明は、少なくとも1つの微生物を含む前記培養菌が、前記細長い要素の表面上に堆積されるので、培養廃棄物の生成を実質的に回避できるという利点がある。
【0015】
本発明の一実施態様によれば、微生物を含む培養菌は、少なくとも第1の吐出口がある給送器内に閉じ込められ、その結果、所定の量の培養菌は第1の吐出口から分配されるが、残りの培養菌は給送器から本質的に放出されない。
このようにして、培養菌の汚染の可能性が有効に防止される利点がある。
本願の明細書の記載によれば、第1の吐出口に関して説明した本発明の特徴は、必要な修正を加えて、さらなる吐出口、例えば第2の吐出口に適用することができる。
【0016】
ここで使用されている用語「細長い要素」とは、糸に似た形状の要素(つまり糸のような要素)を指す。細長い要素の一例は、糸である。一般に、細長い要素では、3次元のうちの2つの次元は、第3の次元よりもはるかに短く、一般的に無視できる。例えば、細長い要素は、長さに関して無視できる幅と厚さを有する、帯板形状を有している。
【0017】
好ましくは、細長い要素は、3つの次元のうち、第3の次元(理想的には線)と比較して無視できる、2つの次元を有する。例えば、細長い要素は、ワイヤー、繊維、織糸、糸、フィラメント及びそれらの組み合わせでも良い。細長い要素では、3つの次元のうちの1つの次元、つまり長さは、他の2つの次元よりも、例えば少なくとも10倍大きく、好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは、少なくとも50倍大きい。
【0018】
一実施態様によれば、微生物を含む培養菌は、液体の状態であり、吐出口から不連続的にすなわち細長い要素の一部のみに、又は、連続的に細長い要素の全体たとえば糸全体に、分配される。言いかえると、一実施態様によれば、培養菌は、第1の吐出口から、不連続的にあるいは連続的に分配しても良い。
培養菌は、ポンプによって、吐出口及び細長い要素に供給しても良い。ポンプ速度は、細長い要素に、所定の量の培養菌を供給するようにセットされる。
【0019】
本発明の1つの様相によれば、細長い要素(例えば糸)が、吐出口で微生物の培養菌と接触する場合、所定の量の培養菌が細長い要素に提供される。所定の量の培養菌が細長い要素に提供される場合、培養菌の浪費を回避しながら細長い要素(例えば、糸)に十分な量の培養菌を提供できるような所定量の培養菌を供給するために、一定量の培養菌が吐出口から分配される。言いかえれば、培養菌の分配は本質的に連続的でも良く、この場合、給送器の吐出口における培養菌の量は、少なくとも培養菌が細長い要素と接触する過程の間、本質的に一定に保たれる。
【0020】
例えば、微生物を含む培養菌は、吐出口からこの吐出口の下の細長い要素(例えば糸)上に、「ハーフドロップ」を形成するように、吐出口から分配される。これにより、培養菌は、細長い要素(好ましくは糸)を包むが、細長い要素から滴下したり、吐出口で乾燥したりするのを防ぐように、選択された流量で、給送器の吐出口から分配されるのが望ましい。
一実施態様では、微生物の培養菌は、前記第1の吐出口から本質的に連続的に分配される。
言いかえれば、一実施態様において、微生物の培養菌は、例えば、液体の状態で、少なくとも第1の給送器からの実質的に連続的な放出により分配される。
【0021】
微生物の培養菌は、第1の吐出口から本質的に連続的に分配され、また、細長い要素を微生物の培養菌と接触させる過程の間に吐出口から出る培養菌の実質的に全体が細長い要素(例えば糸)に提供されるように、給送器の吐出口からの培養菌を分配する速度(つまり給送器の吐出口によって分配される培養菌の流量)、及び吐出口への細長い要素の供給の速度が調節されるのが、望ましい。
【0022】
本発明の方法の一実施態様によれば、微生物の培養菌は、単一の細長い要素(例えば単一の糸)に提供される。言いかえれば、各給送器の吐出口は、それぞれ、例えば、単一の細長い要素(例えば単一の糸)に、微生物の培養菌を分配する。
一実施態様では、第1の微生物の培養菌と共に提供される細長い要素は、糸巻取り器(例えば、巻取りボビン)のような、細長い要素の巻取り器で収集される。
【0023】
一実施態様では、微生物を含む培養菌は、細長い要素の供給方向に実質的に垂直な方向において、少なくとも給送器から細長い要素に分配される。例えば、糸は、糸の供給源から糸巻取り器に向けて、本質的に水平に供給され、培養菌は、給送器の吐出口から糸に対して本質的に垂直方向に分配される。
【0024】
一実施態様によれば、細長い要素(例えば糸)は、距離をおいて吐出口に供給され、それにより、吐出口を出る培養菌は、細長い要素との接触の過程で、吐出口と細長い要素の両方に接触する。好ましくは、細長い要素は、距離をおいて吐出口に供給され、それにより、細長い要素が微生物の培養菌と接触する過程の間、吐出口から出る培養菌は、吐出口と細長い要素(例えば、糸)の両方に接触し、これにより、吐出口から出る培養菌の実質的に全体が細長い要素に提供される。
【0025】
言いかえれば、微生物を含む培養菌が細長い要素(例えば糸)に分配される吐出口と前記細長い要素とは、吐出口を出る培養菌が、吐出口と細長い要素、例えば糸、の両方に接触するように、選択された距離だけ離れている。例えば、一実施態様によれば、糸は、培養菌が供給手段の出口(ノズルなど)から糸(すなわち、細長い要素)まで実質的に連続的に延びるように、供給手段(すなわち給送器)の出口に十分に接近して配置してもよい。このようにすると、分配された培養菌の滴下や乾燥が実質的に防止される利点がある。上記の通り、細長い要素を培養菌と接触させる過程中に、吐出口の下側の細長い要素上に「ハーフドロップ」を形成するように、培養菌を分配しても良い。
【0026】
ここで使用されている「ハーフドロップ」という用語は、給送器の吐出口にある液体の一部、例えば、液体培地中の微生物を含む培養菌の一部、あるいは培地のみを指し、この液体あるいは培地の一部に、細長い要素が接触し、この細長い要素がある量の培養液を受け取るように導かれる。
言いかえれば、「ハーフドロップ」という用語は、少なくとも、細長い要素を給送器からの培養菌と接触させる過程の間、給送器の吐出口において、培養菌によって占有されたスペース領域を指す。細長い要素(例えば糸)を培養液と接触させる過程中に、給送器の出口から出る微生物の培養菌あるいは培地は、視覚的に、「ハーフドロップ」の形状に類似している。
【0027】
図面からわかるように、好ましくは、培養菌は細長い要素(例えば糸)の周囲まで延び、給送装の吐出口とは反対側の細長い要素の側面に、湾曲部分を形成する。この量の培養液は、「ハーフドロップ」と呼ばれる。
一実施態様によれば、微生物の培養菌は、少なくとも第1の給送器の第1の吐出口で、細長い要素の供給源の出口から供給される細長い要素(例えば糸)へ分配され、この細長い要素は培養菌と接触した後、吐出口から離れ、好ましくは、細長い要素の巻取り器で収集される。
【0028】
有利なことに、吐出口を通過する細長い要素は、吐出口から出る培養菌によって含浸される。言いかえれば、細長い要素(例えば糸)は、給送器に対して相対的に移動するため、その結果、給送器の出口から分配された培養菌の実質的に全体、好ましくは全体が、細長い要素に提供され、この細長い要素で保持される。
一実施態様では、細長い要素と微生物を含む培養菌が分配される吐出口との間の距離は、0.1mm~5mm、好ましくは0.5mm~2mmの範囲にある。
一実施態様によれば、吐出口から分配された実質的に全量の培養菌が、細長い要素に提供される。
【0029】
一実施態様によれば、方法は、さらに、ステップe)で得られた細長い要素を培養するステップf)を含んでいる。
本発明の一実施態様によれば、ステップe)で得られた細長い要素、(つまり少なくとも所定の量の微生物の培養菌と共に提供される細長い要素、例えば糸)は、空気、及び又は培養器の中で、培養される。
一実施態様によれば、培養器は、制御された条件下で微生物を成長させることができる機器であり、例えば、細長い要素の微生物培養菌の乾燥を実質的に防止し、培養菌の汚染も実質的に防止する密閉機器(密閉された箱など)が望ましい。
適切な培養器は、それ自体が当技術分野で公知のものである。
【0030】
一実施態様によれば、培養器には、この培養器内の細長い要素の滞在時間を延長するように構成された、1つ又は複数の延長要素を統合してもよい。
例えば、培養器内の細長い要素の滞留時間を延長するように構成された延長要素は、培養器内の細長い要素の方向を変更するように構成された延長要素であってもよく、及び/又は、培養器内の細長い要素を部分的に巻くように構成された延長要素でも良い。
好ましくは、培養器の中で細長い要素の滞在時間を延長するように構成された延長要素は、回転可能な延長要素である。例えば、培養器内で細長い要素の滞在時間を延長するように構成された延長要素は、1つ以上のプーリー及び/又は1つ以上のボビンでもよい。
【0031】
一実施態様によれば、培養器内の細長い要素の滞留時間を延長するように構成された延長要素は、細長い要素の方向を変えるように構成された延長要素、すなわち、培養器を通過する細長い要素(例えば、糸)の向きを逸脱させるように構成された延長要素である。
例えば、糸の方向を変えるように構成された1つ以上の延長要素が培養器に一体化されている場合、培養器内の糸の経路は、曲線及び/又は蛇行及び/又は経路のレベルの切り替えを含んでおり、糸は「マルチレベル」又は「三次元」の経路に沿って移動する。
【0032】
一実施態様によれば、本発明の方法は、さらに、ステップe)又はf)から適切な形式で微生物の培養菌と共に提供される細長い要素を、例えば、細長い要素の巻取り器により収集するステップを含んでいる。言い換えれば、一実施態様によれば、この方法は、培養器の前及び/又は後で、適切な形態で微生物の培養菌が提供された細長い要素を収集するステップをさらに含むことができる。
例えば、一実施態様において、微生物の培養菌が提供された糸は、例えば、巻取りボビンに巻き付けることにより、糸巻取り器で収集されてもよい。
【0033】
一実施態様によれば、微生物の培養菌と共に提供される細長い要素の収集は、培養器内で行なっても良い。
一実施態様によれば、この方法は、細長い要素の供給速度の関数として、及び/又は細長い要素の吸収能力、及び/又は少なくとも1つの細長い要素の寸法の関数として、第1の培養菌の分配の速度を選択的に変えるステップを含むのが良い。
【0034】
一実施態様によれば、この方法は、第1の培養菌の分配速度の関数として、及び/又は細長い要素の吸収能力の関数として、及び/又は少なくとも1つの細長い要素の寸法に応じて、細長い要素(例えば、糸)の供給速度を選択的に変えるステップを含んでいる。
一実施態様によれば、少なくとも1つの細長い要素(例えば、糸)の供給速度は、0.1m/分~10m/分、好ましくは0.5m/分~5m/分、より好ましくは0.8m/分~2m/分の範囲である。
一実施態様によれば、培養菌の分配速度(すなわち、給送器によって分配される培養菌の流量)は、0.01ml/分~0.5ml/分、好ましくは0.05ml/分~0.2ml/分の範囲である。
一実施態様によれば、少なくとも第2の吐出口が、好ましくは第1の吐出口の下流に設けられる。
【0035】
一実施態様によれば、第2の吐出口は、第2の給送器の吐出口あるいは第1の給送器の第2の吐出口でも良い。
一実施態様によれば、少なくとも第2の吐出口は、第2の微生物の培養菌あるいは培地を、(例えば液体の状態で)、分配する。
一実施態様によれば、第2の培養菌は微生物を含む第1の培養菌と同じでも良い。このようにして、少なくとも第1の培養菌は、複数の吐出口から、糸などの少なくとも1つの細長い要素に分配される。
一実施態様によれば、微生物を含む第1の培養菌に添加するのに適した培地は、少なくとも第2の吐出口を通して、細長い要素に提供される。
【0036】
一実施態様によれば、少なくとも1つの微生物及び(又は)少なくとも1つの培地を含む第1の培養菌が、前記培養器の内の細長い要素に分配される。
一実施態様によれば、本発明の方法のステップe)で得られた細長い要素(すなわち、少なくともある量の微生物の培養菌が提供された細長い要素)は、培養器内で収集されてもよい。
一実施態様によれば、微生物の培養菌は、細菌、酵母、真菌、藻類及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの微生物を含んでいる。
【0037】
一実施態様によれば、微生物の培養菌は、細長い要素の上、例えば糸上に、微生物産生物及び/又は微生物沈殿物を提供することができる、少なくとも1つの微生物を含んでいる。
本明細書で使用される「培養菌」、「微生物培養菌」、「微生物の培養菌」及び「少なくとも微生物を含む培養菌」という用語は、培地中の少なくとも1つの微生物を指し、この培地は、微生物の成長と増殖に適している。培養菌は、2つ以上の異なる微生物を含む、共培養菌でもよい。
【0038】
ここに使用されている用語「共培養菌」は、培地中の少なくとも2つの異なる微生物を指す。この培地は、その中に含まれているすべての微生物の成長及び増加に適している。異なる微生物が、必要に応じて支持材料、例えば、糸などの細長い要素の上で、実質的に同時に培養されてもよい。
例えば、共培養菌はバイオポリマーを生産し、染料生産する微生物を含んでいても良い。この場合、このような共培養菌が、本発明の方法に従って細長い要素に提供されるとき、このバイオポリマー及び染料の生成が、培養の単一ステップ(例:単一の培養)の間に生じ、染色されたバイオポリマーを含む細長い要素が、「同時」プロセスによって得られる利点がある。
本発明の方法で共培養されるのに適した微生物に関しては、例えば、本願の出願人による国際特許出願、PCT/EP2019/058800、発明の名称「染色されたバイオポリマーの製法とその製品」に開示されている。
【0039】
ここで使用されている「液体状態の培養菌」という用語は、培地が液体状態である、すなわち液体培地である、少なくとも1つの微生物を含む培養菌を指している。
ここでは、「微生物産生物」という用語は、微生物によって産生され得る任意の分子及び/又は代謝産物を指す。代表的な微生物産生物は、バイオポリマー、酵素及び染料である。
ここで使用される、「バイオポリマー」及び「微生物ポリマー」という用語は、微生物によって産生され得るすべてのポリマーを指す。
【0040】
ここで使用される「微生物」という用語は、肉眼では見るには小さすぎるが顕微鏡で見ることができる小さな単細胞又は多細胞生物を指し、細菌、酵母、真菌、ウイルス、及び藻類を含む。「微生物」という用語は、遺伝子組み換えされていない(即ち、野生型)微生物及び遺伝子組み替えした微生物の両者を包含する。例えば、微生物は、遺伝子組み換えされていない場合(すなわち、野生型微生物である場合)、同じ微生物によって産生されない微生物産生物及び/又は微生物沈殿物を産生するために、遺伝子組み換えがなされ得る。
【0041】
この明細書の中で、「微生物沈殿物」という用語は、例えば培地から基板への沈殿が微生物によって実行及び/又は誘発される可能性がある任意の材料を指す。代表的な「微生物沈殿物」は、「方解石」としても知られる炭酸カルシウムである。
一実施態様によれば、培養ステップは、微生物による微生物産生物及び/又は微生物沈殿物の産生を得るために、細長い要素上に提供される微生物を培養するのに適した環境条件を提供するように構成された、培養器内で実行できるという利点がある。
【0042】
本発明の方法は、少なくとも部分的に微生物産生物(例えば、微生物バイオポリマー及び/又は酵素及び/又は染料)、及び/又は微生物沈殿物(例えば、方解石)が提供された、細長い要素の製造を可能にする有利な点がある。
例えば、微生物による微生物産生物及び/又は微生物沈殿物の生成は、細長い要素を湿潤状態に保ち、培養中の培養菌の乾燥を防ぐのに適した環境を提供することにより促進される。栄養素及び任意に湿潤剤及び/又は分散剤を含む培地サプリメントは、細長い要素に培養器に及び/又は培養の前に供給されてもよい。
一実施態様によれば、微生物産生物は、バイオポリマー及び/又は酵素及び/又は染料である。
【0043】
一実施態様によれば、微生物産生物は、糖ベースのバイオポリマー、好ましくは微生物セルロース、及びアミノ酸ベースのバイオポリマー、好ましくは微生物コラーゲン、又はそれらの混合物から選択されるバイオポリマーである。一実施態様によれば、バイオポリマー、すなわち微生物バイオポリマーは、微生物セルロース、微生物コラーゲン、微生物セルロース/キチン共重合体、微生物絹、及びそれらの混合物からなる群から選択される。これらのバイオポリマーは、当技術の中でそれ自身知られている。
一実施態様によれば、酵素はウレアーゼである。
好ましい実施態様では、微生物沈殿物は方解石の沈殿物である。特定の科学的説明に縛られることなく、方解石(炭酸カルシウム)の沈殿は酵素ウレアーゼによって触媒されることが観察されている。特に、上記で定義された微生物産生物としてウレアーゼを産生することができる微生物を含む培養菌が細長い要素(例えば、糸)上に提供されると、ウレアーゼが細長い要素上に放出され、その結果、培地から細長い要素へ方解石が提供される。従って、ウレアーゼは、「沈殿剤」、すなわち物質の沈殿を誘発する物質として定義され、「沈殿物」、この場合は方解石を提供する。
【0044】
有利なことに、例えば、糸に方解石沈殿物を提供することにより、糸の引張強度の増加及び糸の白色化が得られ得る。
従って、例えば、微生物沈殿により得られた方解石が提供された糸を含む繊維製品は、強く、織りやすく、仕上げプロセスに耐性があるという利点がある。さらに、方解石のない同じ製品と比較して、繊維製品はより白く染色しやすくなる。さらに、一般に、染色前に糸又は織布を白くするための多くのプロセスが含まれる。従って、本発明の一実施態様によれば、細長い要素、例えば糸に炭酸カルシウム沈殿物を提供することにより、過酷な白色化プロセス及び化学物質の使用を有利に置き換えるか又は実質的に減らすことができる。
【0045】
上記のように、一実施態様によれば、微生物産生物は染料である。
一実施態様によれば、染料、すなわち、伸長要素に提供される微生物によって生成される染料は、インディゴ染料、インディゴイド顔料染料、及びそれらの混合物から選択される。好ましくは、染料はインディゴ染料であり、インディゴを生成できる微生物によって生成される。
ここに使用されるように、「インディゴイド」という用語は、インディゴ誘導体である染料分子を指す。用語「インディゴイド染料」はインディゴ派生語である染料分子を指す。本明細書で使用される「顔料染料」という用語は、インディゴ誘導体ではない染料分子を指す。
【0046】
一実施態様によれば、インディゴイド染料は、例えば、6,6’-ジブロモインディゴ、5-ブロモインディゴ、5,5’-ジブロモインディゴ、5,7,5’,7’-テトラブロモインディゴ、4,5,7,4’,5’-ペンタブロモインディゴ、4,5,6,4’,5’、6’-ヘキサブロモインディゴ、7,7’-ジメチルインディゴ、4,5,4’、5’-テトラクロロインディゴ、及びそれらの混合物から選択される。
上述のインディゴイド染料は、本発明で使用するのに適したインディゴイド染料の非限定的な例として意図されなければならない。
一実施態様によれば、顔料染料は、メラニン、アントラキノン、キサントモナジン、インディゴイジン、アスタキサンチン、カンタキサンチン、シクロプロジギオシン、グラナダエン、ヘプチル-プロジギオシン、プロジギオシン、ピオシアニン、ルブロロン、シトネミン、スタフィロキサンチン、フラビンカリン、モリン、アンデシルプロジジンナフトキノン、リボフラビン、ルブロパンクタチン、β-カロチン、トルラロジン及びそれらの混合物から選ばれます。
【0047】
上記顔料染料は、本発明で使用するのに適した顔料染料の非限定的な例として意図されなければならない。
上述のように、染料は好ましくはインディゴ染料である。
一実施態様によれば、少なくとも1つの微生物を含む培養菌は、1×108CFU/ml~1×109CFU/ml、好ましくは4×108CFU/ml~6×108CFU/mlの濃度の微生物を含む。
【0048】
一実施態様によれば、バイオポリマー及び/又は酵素及び/又は染料を産生することができる微生物は、細菌、藻類、及びそれらの混合物から選択することができる。
例えば、バイオポリマー産生細菌は、グルコナセトバクター、アエロバクター、アセトバクター、アクロモバクター、アグロバクテリウム、アゾトバクター、サルモネラ、アルカリゲネス、シュードモナス、リゾビウム、サルシナ及びストレプトコッカス、バチルス属、遺伝子改変大腸菌、及びそれらの混合物、及びバイオポリマー産生藻類から選択され得る褐藻類、紅藻類及び紅藻類、及びそれらの混合物から選択される。
【0049】
一実施態様によれば、酵素産生微生物、好ましくは、ウレアーゼ産生微生物は、バチルス属、スポロサルシナ、シュードモナスプチダ、ミクソコッカス、アルスロバクター、シネココッカス、デスルホビブリオ、プロテウス、プロクロロコッカス、ハロモナス及びトリコデルマから選択される。
一実施態様によれば、酵素産生細菌は、バチルス属の細菌から選択される。
一実施態様によれば、リーゼ産生菌は、バチルス属、スポロサルシナ、シュードモナスプチダ、粘液球菌、アルスロバクター、シネココッカス、デスルホビブリオ、プロテウス、プロクロロコッカス、ハロモナス、及びウレアーゼ産生菌はトリコデルマ属のものから選択される。
【0050】
有利なことに、ウレアーゼ産生菌は、糸に炭酸カルシウムを沈殿させるのに適している。
一実施態様によれば、染料産生微生物は、染料産生細菌、染料産生真菌及びそれらの混合物から選択される。
染料産生細菌は、クロモバクテリウム ビオラセウム、セラチア菌、クリセオバクテリウム属菌種、黄色ブドウ球菌、ストレプトマイセス属菌種、ビブリオ属菌種、コリネバクテリウム属、遺伝子組み換え大腸菌、及び、それらの混合物から選択される。
染料産生菌は、ペニシリウム、タラロマイセス、フザリウム、スキタリジウム、トラメテス、キサントモナス、ストレプトマイセス、アスペルギルス、及び、それらの混合物から選択される。
【0051】
染料産生細菌及び染料産生真菌は、本発明での使用に適した染料産生細菌及び染料産生真菌の非限定的な例として意図されなければならない。
例えば、インディゴを生産する遺伝子組み換え大腸菌、すなわち組換え大腸菌は、下記の文献により知られている。
米国特許第4,520,103号、米国特許第5,834,297号、科学論文「fmo遺伝子を保有する組換え大腸菌によるバイオインディゴ生産の最適化」、GH.Han et al(2008)、「酵素及び微生物技術 42」:617-623、「クローン化されたロドコッカス遺伝子を含む大腸菌が産生するインディゴ関連染料の同定」、Hart、S.、K. R. Koch、及び、D. R. Woods、1992、J. Gen. Microbiol. 138:211-216。
【0052】
さらなる実施態様において、細長い要素は、好ましくは糸、より好ましくは親水性糸、さらにより好ましくは綿糸である。
本発明の一実施態様によれば、親水性糸は、天然糸、つまり天然繊維でできている糸である。
好ましくは、天然糸は、綿、羊毛、亜麻、ケナフ、ラミー、麻、麻、及びそれらの混合物から選択される天然繊維を含む。
本発明の一実施態様によれば、親水性糸は合成糸であってもよい。例えば、合成糸は、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、ライクラ、及びそれらの混合物から選択された合成繊維を含む。
親水性の細長い要素、例えば親水性糸は、微生物を含む培養菌及び/又は液体培地で、特に簡単かつ効果的な方法で含浸される有利な点がある。
一実施態様によれば、湿潤剤は、好ましくは微生物の培養と共に、好ましくは最終培養重量の0.05重量%~1重量%、より好ましくは、最終培養重量の0.1重量%~0.5重量%の範囲で、細長い要素に供給されてもよい。
【0053】
一実施態様によれば、1つ以上の湿潤剤は、細長い要素(例えば、糸)に分配する前に、微生物を含む培養菌に含まれてもよい。
微生物を含む培養菌に含まれるのに適した適切な湿潤剤は、当技術分野で知られている。適切な湿潤剤の例は、Cottoclarin(登録商標)TR CT,Foryl(登録商標) DLW,Kieralon(登録商標)Wash Jet B conz,Primasol(登録商標)NF,Sanwet(登録商標)M-25,Sanwet(登録商標)M-30である。
一実施態様によれば、1つ以上の分散剤が、糸に分配する前に微生物を含む培養菌に含まれてもよい。微生物を含む培養菌に含まれるのに適した分散剤は、当技術分野で知られている。
【0054】
一実施態様によれば、本発明の方法により、バイオポリマー、好ましくは糖ベースのバイオポリマー、より好ましくは微生物セルロースを少なくとも部分的に備えた細長い要素(例えば糸)を得ることができる。
有利なことに、一実施態様によれば、本発明の方法により、微生物沈殿物、好ましくは方解石を少なくとも部分的に備えた細長い要素(例えば糸)を得ることができる。
有利なことに、一実施態様によれば、本発明の方法により、例えばインディゴ染色微生物セルロースなどの染色バイオポリマーを少なくとも部分的に備えた細長い要素(例えば糸)を得ることができる。
【0055】
本発明はまた、本発明による方法によって得られる、例えば糸などの、細長い要素に関する。
一実施態様によれば、本発明の方法により得られる細長い要素の少なくとも一部には、微生物産生物、好ましくはバイオポリマー、より好ましくは微生物セルロース、及び/又は微生物沈殿物、好ましくは方解石が提供される。
一実施態様によれば、バイオポリマー、好ましくは微生物セルロースが提供された細長い要素は、少なくとも部分的に染色されていてもよい。
一実施態様によれば、バイオポリマー、好ましくは微生物セルロースが提供された細長い要素の少なくとも一部は、それ自体が当技術分野で知られている方法に従って染色、好ましくはインディゴ染色することができる。
一実施態様によれば、本発明の方法により得られる細長い要素(例えば糸)は乾燥しており場合により染色されている。そしてこの細長い要素には、微生物産生物(例えば、微生物セルロースのような微生物のバイオポリマー)、及び又は微生物の沈殿が提供されている。
【0056】
別の様相によれば、本発明の目的は、本発明の方法により得られるような細長い要素(例えば、糸)を含む布である。好ましくは、細長い要素は乾燥しており、必要に応じて染色され、微生物バイオポリマー及び/又は微生物沈殿物が提供される。一実施態様では、布は織物であり、好ましくはデニム織物である。
さらに、本発明の目的は、発明の細長い要素を含む布を含む衣服を提供することである。
【0057】
本発明のさらなる目的は、本発明の方法を実施するための装置の提供であり、この装置は、吐出口から少なくとも1つの微生物を含む少なくとも第1の培養菌を分配するための少なくとも1つの第1の吐出口を有する少なくとも第1の給送器と、少なくとも1つの細長い要素を給送器に供給するための1つの第1の細長い要素の供給源を備えており、この装置は、培養菌が吐出口から分配されるとき、少なくとも1つの微生物を含む少なくとも第1の培養菌が前記細長い要素の少なくとも一部と接触するように構成されている。
一実施態様では、前記装置はさらに少なくとも1個の培養器を備えている。
一実施態様によれば、前記装置は、微生物の培養菌又は培地を分配するための少なくとも1つの第2の吐出口を有する少なくとも第2の給送器を備えている。
第2の給送器及び第2の吐出口を介して、微生物を含む第2の培養菌及び/又は栄養素を含む培地を、前記細長い要素に提供することができる利点がある。
【0058】
一実施態様によれば、前記装置は、微生物の培養菌が提供された後に細長い要素を収集するために、少なくとも細長い要素の巻取り器を備えている。例えば、細長い要素の巻取り器は、糸巻取り器、例えば、糸巻取りボビンであってもよい。
一実施態様によれば、培養器は、第1の給送器、及び/又は第2の給送器、及び/又は少なくとも1つの細長い要素の巻取り器を含むことができる。
【0059】
一実施態様によれば、第1の培養器は、第1の給送器と第2の給送器との間に配置することができ、第2の培養器は、第2の給送器に対して下流に配置される。
発明の様相によれば、細長い要素の巻取り器は、少なくとも微生物を含む第1の培養菌が提供された後に細長い要素を収集するように構成される。
一実施態様によれば、細長い要素の巻取り器は、微生物産生物及び/又は微生物沈殿物及び/又は染料が提供された後、細長い要素を収集するように構成されている。
【0060】
一実施態様では、有利なことに、前記装置は、さらに、少なくとも第1の培養菌の給送器からの分配速度(すなわち、給送器によって分配される培養菌の流量)及び/又は細長い要素の供給源からの前記細長い要素(例えば、糸)の供給速度を調整するように構成された論理制御ユニットを備える。
【0061】
好ましくは、前記装置は、吐出口での培養に関連する少なくとも1つのパラメーターのモニターのために、少なくとも1つのセンサーを備えている。例えば、センサーは、給送器の吐出口を出る培養の量を示す信号を提供しても良い。
一実施態様によれば、前記装置において、センサーは、レーザー光線センサー、画像処理センサー及び容量性センサーを含むグループから選ばれる。
一実施態様によれば、論理制御ユニットは、少なくとも1つのセンサーからの信号に応じて、給送器からの少なくとも第1の培養菌の分配速度、及び/又は、細長い要素の供給源からの細長い要素の供給速度を制御(例えば、調整)するのに有利なように構成される。
一実施態様によれば、前記装置おいて、前記給送器は、ポンプ(好ましくはシリンジポンプ)を含んでいる。
【0062】
一実施態様によれば、培養器は、少なくとも第1の給送器を統合しても良い。このようにして、微生物を含む少なくとも第1の培養菌が、培養器内の細長い要素に提供される。
例えば、培養器は、微生物を含む培養菌及び栄養素を含む培地をそれぞれ、この培養器内の細長い要素に提供するために、第1の給送器と第2の給送器を統合してもよい。言いかえれば、微生物を含む培養菌、及び栄養素を含む培地は、培養器に接続された2つの異なる吐出口によって細長い要素に提供されても良い。
【0063】
本発明の他の様相によれば、本発明により、複数の装置を含むプラントが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】本発明の一実施態様に基づく、微生物を含む培養菌を細長い要素に分配する、本発明の装置の例を概略的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施態様に基づく、培養器を有する本発明の装置の例を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施態様に基づく、2つの給送器及び2つの培養器を有する、本発明の装置の例を概略的に示す図である。
【
図4】本発明の一実施態様に基づく、互いに平行して配置された4つの装置を備えた、本発明のプラントの例を概略的に示す図である。
【
図5】培養器が細長い要素の巻取り器と一体化された、本発明の特別の例を概略的に示す図である。
【
図6】培養器が細長い要素の巻取り器と一体化された、本発明の特別の例を概略的に示す図である。
【
図7】第1の給送器が統合された本発明の特別の例を概略的に示す図である。
【
図8】培養器が、細長い要素の巻取りボビン及び給送器と統合された、本発明の特定の例を概略的に示す図であり、この給送器は、微生物を含む培養菌及び又は細長い要素への栄養素を含む培地を分配するものである。
【
図9】培養器が、細長い要素の巻取りボビン及び給送器と統合された、本発明の特定の例を概略的に示す図であり、この給送器は、微生物を含む培養菌及び又は細長い要素への栄養素を含む培地を分配するものである。
【
図10】培養器が第1の給送器及び第2の給送器の両方と統合された、本発明の一例を示す図である。
【
図11】培養器内における細長い要素の滞留時間を延長するために、培養器に複数の延長要素を統合した、本発明の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明のさらなる様相及びその利点について、本発明の例示的な実施態様を概略的に示し、例示的かつ非限定的な例として提供される添付の図面を参照して、より詳細に説明する。
【0066】
本発明について、
図1~
図11を参照しながら、微生物セルロース産生微生物を含む培養菌が、細長い要素、特に糸に提供される、代表的な実施態様を参照して説明する。
これらの図では、細長い要素として糸が参照されているが、上述のように、異なる細長い要素が使用されてもよい。上記のように、細長い要素は、例えば、繊維、フィラメント、織糸、糸、ワイヤー、及びそれらの組み合わせであってもよい。
【0067】
以下の例では、微生物セルロースの生産のための細菌の使用を挙げているが、本発明の範囲は、糸上に微生物産生物及び/又は微生物沈殿物を生成することができる、あらゆる微生物の培養菌を包含することに留意すべきである。
微生物の培養菌は、例えば、細菌、酵母、真菌、藻類及びそれらの混合物から選択される少なくとも1つの微生物を含んでいる。
微生物によって生産される微生物産生物は、微生物セルロースなどの糖ベースのバイオポリマーなどのバイオポリマー、又は微生物コラーゲンなどのアミノ酸ベースのバイオポリマー、又はそれらの混合物である。
【0068】
一実施態様によれば、微生物産生物は、方解石沈殿物などの沈殿物(すなわち、沈殿によって得られた生成物)でも良い。
上記の通り、特定の科学的説明に縛られることなく、方解石又は炭酸カルシウムの沈殿は、酵素ウレアーゼによって触媒されることが観察されている。この酵素ウレアーゼは、バチルス属の細菌などの細菌によって有利に生産することができる。
本発明の様相によれば、バイオポリマーを生成するか、あるいは沈殿剤として糸に有利な特性を与える可能性のある他の物質の沈殿を引き起こすものであれば、どんな種類の微生物が使用されてもよい。
一実施態様によれば、微生物の産物は染料であってもよい。
一実施態様によれば、染料、すなわち、細長い要素に提供される微生物によって生産される染料は、インディゴ染料、インディゴイド系顔料染料及びそれらの混合から選択される。
【0069】
上記の通り、
図1は、本発明による装置が微生物を含む培養菌を、細長い要素、すなわち糸に分配する、本発明の一実施態様を概略的に示している。
図1において、1は、細長い要素の供給源、すなわち、糸供給ボビンなどの糸の供給源を示し、そこから、細長い要素2、すなわち糸2が、細長い要素の巻取り器3、すなわち糸巻取り器3、例えば糸巻取りボビンの方向に実質的に連続的に供給される。この巻取り器は、方法の最後の段階で、少なくとも微生物を含む培養菌5を含んだ細長い要素(すなわち糸)を収集する。細長い要素2は、綿糸のような親水性の糸でも良い。
微生物を含む培養菌5は、第1の給送器4により第1の吐出口7を通して、糸2の上に提供される。
第1の給送器4、すなわち微生物培養菌の供給手段は、例えば、微生物培養菌5を含む第1の供給パイプ6と、この供給パイプ6から第1の吐出口7を介して培養菌5の分配及び調整を行うポンプ15とを備えている。例えば、
図1の例によれば、第1の吐出口7は、供給パイプ6の片端に位置するノズルである。
【0070】
第1の給送器4は、細長い要素の供給源1から所定の距離に配置され、ポンプ15、好ましくはシリンジポンプ、供給パイプ6、及び第1の吐出口7を備えている。第1の吐出口7から、糸2の供給方向に対して実質的に垂直方向に、培養菌5が出る。
図1の例によれば、培養が糸2及び吐出口7の両方と本質的に同時に接触するように、微生物5を含む培養菌5は、第1の吐出口7から分配される。好ましくは、給送器4は、培養菌5が、糸(つまり、細長い要素)を包み込んで糸2と吐出口7の両方に実質的に同時、好ましくは同時に接触する、ハーフドロップ8を形成する量だけ、第1の吐出口7から分配されるように、構成されている。
給送器4は、培養菌5、すなわち、培養菌のハーフドロップ8が糸2から滴下すること、又は吐出口7で乾燥することを実質的に回避するために、事前に選択された量及び/又は速度に従って、培養菌5が第1の吐出口7から実質的に連続的に分配されるように構成されているのが良い。
【0071】
この例によれば、第1の吐出口7と糸2は、培養菌5が給送器4から分配されるときに、吐出口7と糸5の両方に接触するように選択された距離だけ離れている。
一実施態様によれば、この距離は、0.1mm~5mm、好ましくは0.5mm~2mmの範囲である。
第1の吐出口7と糸2との間の距離、及び/又は糸2の供給速度、及び/又は培養菌5の分配速度(すなわち、給送器4によって分配される培養菌5の流量)を調整することにより、糸2に、分配された培養菌5の実質的に全量が、好ましくは実質的に連続的に提供される利点がある。
一実施態様によれば、微生物培養菌5は、1×108CFU/ml~1×109CFU/ml、好ましくは4×108CFU/ml~6×108CFU/mlの範囲の濃度の微生物を含むのがよい。この場合、この微生物の濃度により、バイオポリマー及び/又は酵素及び/又は沈殿物及び/又は染料を細長い要素上に短時間で生成することができる利点がある。
【0072】
細長い要素の供給源1、すなわち糸の供給源1と、細長い要素の巻取り器3、すなわち糸巻取り器3は、細長い要素2すなわち糸2が培養菌5の流れを通過することにより吐出口7から出る培養菌に接触し、その結果、糸2に微生物培養菌5が含浸するように、培養菌の給送器4に対して配置される。このようにして、糸2は、所定量の培養菌5をピックアップする利点がある。さらに、培養菌5の分配速度及び/又は糸5の供給速度は、糸2がその全長にわたって微生物培養菌5で均一に含浸されるように、調整できる。言いかえれば、培養菌5の分配速度及び/又は糸2の供給速度は、糸2に提供される所定量の培養菌5が糸2の長さ全体にわたって実質的に同じになるように調整することができる。好ましくは、吐出口7から分配される培養菌の量は、吐出口7を通過する糸2に提供される培養菌5の量の関数として調整することができ、それにより、実質的に吐出口7から出る培養菌の全体(好ましくは全体)が、細長い要素2すなわち糸2に、好ましくは、実質的に連続的な方法で、提供される。
【0073】
吐出口7から糸2への培養菌の実質的に連続した分配、すなわち吐出口7からの実質的に連続的な供給により、実質的に吐出口7から出る培養菌の全体を糸2へ提供することが可能になる。これにより、培養菌が糸から滴下するのを効果的に防ぎ、従って、培養菌の廃棄物の生成を効果的に防止できる。
【0074】
一実施態様によれば、第1の培養菌5の分配速度は、細長い要素2が供給される速度に応じて、及び/又は、細長い要素2の吸収能力に応じて、及び/又は、細長い要素2の寸法に応じて、変化する。
例えば、細長い要素2(すなわち、糸2)が細長い要素の供給源1によって供給される速度は、0.1m/分~10m/分、好ましくは0.5m/分~5m/分、より好ましくは0.8m/分~2m/分の範囲である。
例えば、微生物培養菌5が吐出口7から分配される速度は、0.01ml/分~0.5ml/分、好ましくは、0.05ml/分~0.2ml/分の範囲である。
【0075】
一実施態様によれば、細長い要素2が供給される速度は、第1の培養菌5の分配速度(すなわち、給送器4の吐出口7から分配された培養菌5の流量)に応じて、及び/又は細長い要素2(例えば、糸2)の吸収能力及び/又は細長い要素2(例えば、糸2)の寸法に応じて変化する。
細長い要素は、微生物5を含む所定量の培養菌を受け取った後、巻取り器3に向かって移動する。給送器4と巻取り器3は、所定の距離だけ離れており、その結果、微生物培養菌5が供給された細長い要素2(例えば糸2)は、所定の期間、例えば1分~60分の範囲において、空気に曝される。
このようにして、細長い要素(つまり糸)は、空気中で培養され、その結果、細長い要素上の微生物を成長させて、必要量の微生物の産物及び/又は微生物沈殿物を生成する。例えば、糸2に、バイオポリマー産生細菌を含む培養菌5を含浸させ、所定量のバイオポリマーを糸に提供するために、空気中で培養することができる。例えば、バイオポリマーは、アセトバクターキシリナムなどの細菌によって産生される微生物セルロースであってもよい。
【0076】
一般に、細長い要素(例えば糸)に提供することができる微生物セルロースの量は、本発明の方法によれば、0.05~0.15g/m(すなわち、糸などの細長い要素のメートルあたりの微生物セルロースのグラム)の範囲、好ましくは0.07~0.13g/mの範囲にある。
本発明の一実施態様によれば、微生物セルロースの量は、0.05~0.08g/mの範囲にある。
本発明の一実施態様によれば、微生物セルロースの量は、0.08~0.15g/mの範囲にある。
【0077】
次の表(表1)に、綿糸に供給された同量の微生物培養菌について、異なる重量の微生物セルロース収量に対する空気培養期間の例を示す。
【0078】
【0079】
この例によれば、微生物培養菌5は異なる微生物を含んでいる、つまり、微生物の共存培養でも良い。例えば、微生物培養菌はバイオポリマーを生産する微生物及び染料を生産する微生物の両方を含んでいても良い。この場合、細長い要素2(例えば糸2)は、バイオポリマー産生微生物と染料産生微生物の両方を含む培養菌5で含浸され、その後、細長い要素2に染色されたバイオポリマーを提供するために、空気中及び/又は培養器内で培養されてもよい。
簡単にするために、各図面では、参照符号5が、細長い要素、例えば糸に提供された微生物培養菌を示している。言いかえれば、各図面中の参照符号5は、少なくとも第1の微生物培養菌が提供された細長い要素(例えば糸)を示している。
【0080】
また、
図5~
図11では、異なる例示的な実施態様において、培養器の内部に配置された各要素を分かり易く示すために、培養器は透明な箱として概略的に表わされている。
微生物培養菌のハーフドロップ8のサイズ(つまり、吐出口7で培養菌が占める体積)は、既知の方法に従って測定することができ、吐出口7と細長い要素2でハーフドロップ8を形成するための培養菌の流量は、所定の量の微生物培養菌5を提供するように調整することができる。例えば、細長い要素が糸である場合、この糸の直径、糸の吸収能力、及び糸の毛羽/流動性及び/又は親水性/疎水性の特性に応じて、調整できる。
このようにして、吐出口7及び/又は細長い要素2からの培養菌の滴下や浪費を実質的に回避しながら、吐出口7から分配された培養菌5の実質的に全体を、実質的に連続的に細長い要素2の上に堆積させることが可能である、という利点がある。
【0081】
培養菌のハーフドロップ8のサイズの調整は、方法の実施過程で連続的に、例えば、負のフィードバックによって、又は、以前に収集されたデータに基づいて、各本稼働の実行の前に先制的に実行してもよい。
例えば、前記装置は、培養菌の流量を調節するように構成された論理制御ユニットをさらに備えているのが、より有利である。例えば、1つ若しくは複数のセンサーが、給送器4の吐出口7から出る培養菌の量、例えば吐出口7におけるハーフドロップ8のサイズを示す信号を提供してもよい。
【0082】
一実施態様によれば、論理制御ユニットは、少なくとも1つのセンサーから来る信号の関数として、負帰還により、給送器4からの少なくとも第1の培養菌の分配速度、及び/又は、細長い要素源1から細長い要素2(例えば、糸2)を供給する速度を制御する(例えば、調整する)ように、構成されるのが良い。
連続的な負帰還ループ制御システムの例として、第1の実施態様では、ハーフドロップの下を通過するレーザー光のレーザー源と光センサーとの間に光路を形成し、それにより、液滴のサイズが特定のしきい値を超えることでレーザー光が光センサーに到達するのが妨げられた場合、培養液を供給するポンプの速度を低下させ、又は、細長い要素(糸など)の供給速度を変えるように構成されている。
【0083】
一実施態様によれば、制御システムに、レーザーに加えてさらにあるいはレーザーの代わりに、吐出口におけるハーフドロップのサイズを調整するためのフィードバックループを提供するために、オープンソースライブラリ(例えばOpenCVライブラリー)に基づく適切なアルゴリズムを使用した画像処理を採用しても良い。
さらに、あるいは代案として、一実施態様によれば、ハーフドロップ8と基準レベルの間の距離を測定するための静電容量センサーを使用し、これでフィードバックループを提供しても良い。
さらに、あるいは代案として、一実施態様によれば、分配される微生物を含む培養菌5の量を調節する1つの可能性は、培養菌を含浸させた後、細長い要素の湿度、たとえば糸の湿度を動的に測定し、それに応じてポンプ速度を調整することである。
【0084】
さらに、あるいは代案として、一実施態様によれば、例えば、使用する細長い要素(例えば、糸)の吸収率を決定し、それに応じてポンプ速度及び/又は、細長い要素の速度、従って、今回の本稼働に必要な培地の量を設定するために、各本稼働の実行前に、システムのキャリブレーションを実行する。この場合、有利なことに、フィードバック制御の必要性が大幅に減少する可能性がある。
一実施態様によれば、細長い要素に、湿潤剤が提供されてもよい。細長い要素の親水性/疎水性特性に応じて、所望の射出速度を得るために、湿潤剤の濃度を調整しても良い。これは、既知の方法によって、事前に決定することができる。
一実施態様によれば、湿潤剤は、細長い要素(例えば糸)への注入前に、少なくとも1つの微生物を含む培養菌5に、直接添加されてもよい。
さらに、あるいは代案として、以下で説明するように、湿潤剤を1つ以上の培養器に供給しても良い。一実施態様によれば、湿潤剤は、最終培養重量の0.05~1重量%の範囲、より好ましくは最終培養重量の0.1~0.5重量%の範囲の量が、培養内に提供されるのが良い。
【0085】
図2は、本発明による装置の例を示しており、培養器9が、給送器4に対して下流の細長い要素の経路に沿って設けられている。培養器9は、それ自体既知の方法で、細長い要素2、例えば糸2上で、微生物を培養及び成長させるのに適した環境を提供する。特に、培養器は、細長い要素を湿潤状態に保ち、培養器中の培養菌の乾燥を防ぐのに適した環境を提供する。
さらに、1つ以上の培地栄養補助食品、例えば、微生物の成長をさらに促進するために、栄養素及び/又は湿潤剤を培養器に供給してもよい。さらに、培養器を使用する場合、培養の温度は、例えば、成長させる微生物に応じて事前に選択及び設定することができまる。
例えば、微生物が微生物セルロース産生微生物である場合、(空気中及び/又は培養器内で)培養中に、微生物セルロースが産生され、細長い要素上に提供される。
【0086】
例えば、微生物がウレアーゼ産生微生物である場合、(空気中及び/又は培養器内で)培養中、ウレアーゼが産生され、細長い要素の上に提供される。この場合、適切な培地の存在下で、培地から細長い要素への炭酸カルシウムの沈殿が得られる利点がある。
簡単にするために、図面では、直線経路(例えば、培養器内)に沿って移動する糸(すなわち、例示的な細長い要素)を概略的に示している。しかしながら、一実施態様によれば、糸は、培養器の内側及び/又は外側で異なる経路をとってもよい。例えば、糸の経路は、曲線及び/又は蛇行及び/又は経路のレベルの切り替えを含むことができ、糸は「多層」又は「三次元」経路に従って移動する。
培養器内の細長い要素の経路を変えることにより、培養器内の細長い要素の滞留時間を変えることができ、例えば、延長することができる利点がある。
【0087】
例えば、培養器内の細長い要素の経路が長いほど、培養器内の細長い要素の所定の速度での滞留時間が長くなる。
上述のように、一実施態様によれば、培養器は、培養器内の細長い要素の方向を変えるように構成された要素、及び/又は培養器内の細長い要素(例えば、糸)を部分的に巻供養に構成された要素など、培養器内の細長い要素の滞留時間を延長するように構成された1つ又は複数の要素を統合してもよい。
【0088】
図3は、本発明による装置の別の例を示す図である。ここで は、2つの培養器、すなわち第1の培養器10及び第2の培養器11、及び2つの微生物培養菌の給送器、すなわち第1の給送器12及び第2の給送器13が、細長い要素の経路に沿って、順に直列に配置されている。
図3に示される例によれば、第1の給送器12は、微生物5を含む第1の培養菌を細長い要素2(例えば糸2)に分配する。その後、培養菌5と共に提供される細長い要素は、第1の培養器10内で所定の時間培養される。培養器による培養中に、微生物は培養され成長する。例えば、微生物が微生物セルロースを生産する微生物である場合、培養中に、細長い要素2上に微生物セルロースが生産される。第1の培養器10を出た後、すでに第1の量の培養菌5を有する細長い要素2は、第2の給送器13から分配された液体の第2の「ハーフドロップ」14と接触する。
【0089】
第2の給送器13は、第1の培養菌を再び分配してもよい。あるいは、適切な培地(すなわち、微生物を含まない液体培地)、又は、第1の給送器12によって分配された第1の培養菌とは異なる第2の微生物培養菌を分配してもよい。続いて、細長い要素(例えば、糸)は、第2の培養器11に入り、そこで第2の培養期間を受ける。このようにして、特定のニーズを満たすために、細長い要素に堆積する微生物又は培地の量を増やすことができる。例えば、微生物セルロース産生微生物を含む培養菌が第1の給送器12及び第2の給送器13の両方から分配される場合、微生物セルロースは糸上に2回、すなわち第1の培養器10で最初の培養菌が、そして2番目の培養器での2番目の培養菌が提供される。同様に、微生物セルロース産生微生物を含む培養菌が第1の給送器12から分配され、培地が第2の給送器13によって分配される場合、2段階の培養中に、微生物セルロースが、糸上に2回生成される。
【0090】
例えば、微生物セルロース産生微生物を含む培養菌が第1の給送器12から分配され、染料生成微生物(例えばインディゴ生産微生物)を含む培養菌が第2の給送器13から分配される場合、微生物セルロースが細長い要素上に生成される。細長い要素が、第2の培養器11での第2の培養中に染料が生成される。すなわち、第1の培養器10での第1の培養中に微生物セルロースが細長い要素上に生成され、第2の培養器11での第2の培養中に染料が生成される。
このようにして、染色されたバイオポリマー(例えば、インディゴ染色された微生物セルロース)が、2段階プロセスによって、細長い要素上に得られ得る。
本発明のこの例によれば、このプロセスは、「連続」プロセスとして定義することができ、バイオポリマーの生成及び染料、すなわち染料分子の生成が、実質的に連続して起こる。
この例によれば、バイオポリマー産生微生物は、染料産生微生物を提供する前にバイオポリマーから除去されない。この場合、染料産生微生物が提供されると、バイオポリマー産生微生物が細長い要素上に依然として存在しているため、バイオポリマー層の厚さが増加するという利点がある。
【0091】
さらに、あるいは、代案として、栄養素を含む培地が、細長い要素に、又はボビンを供給する細長い要素に直接注入されてもよい。一実施態様によれば、微生物の成長、及び例えば、細長い要素上へのバイオポリマーの生成をさらに促進するため、例えば、細長い要素(例えば、糸)にバイオポリマー(微生物セルロースなど)の厚い層を提供するために、細長い要素の経路に沿って、栄養素を供給するための他の給送器及び/又は吐出口(ノズルなど)をさらに配置することができる。
【0092】
図4は、本発明のプラントの一例を概略的に示している。特に、
図4は、本発明による4つの装置の概略構成を示している。簡単にするために、
図4は、
図2を参照して説明した例による4つの装置を示しており、4つの装置は並列に配置されている。
本発明による複数の装置が使用される場合、複数の細長い要素、例えば糸に、実質的に同時に1つ又は複数の微生物培養菌が提供される利点がある。異なる給送器は、同じ又は異なる培養菌を分配する。細長い要素2は、同じものでも、異なるものでも良い。細長い要素2は、同じ特徴を有していてもよく、異なる特徴を有していても良い。異なる培養器9の中に、同じ状態で、あるいは異なる状態で培養される。
本発明による複数の装置が使用される場合、同時に、本質的に異なる複数の細長い要素2(例えば糸2)が、提供される利点がある。例えば、第1の糸2には、所定の量の微生物セルロースが提供されても良い。第2の糸2は、第1の糸に対して、より多量のあるいはより少量の微生物セルロースが提供される。第3の糸2には、所定量の方解石沈殿物が提供され、第4の糸2には、第3の糸2に対して多量又は少量の方解石沈殿物が提供される。
図2の概略図を参照して説明した本装置の他のすべての様相は、
図4に概略的に示したプラントの4つの装置のそれぞれに準用される。
【0093】
図4の例において、本発明による各装置内に、単一の細長い要素2、たとえば単一の糸2に微生物培養菌が供給される。言いかえれば、本発明による各装置の給送器の吐出口は、例えば、単一の細長い要素2(例えば単一の糸2)、微生物培養菌を分配する。
【0094】
図5及び
図6は、細長い要素の巻取り器3(例えば、糸巻取り器3)が培養器9内に組み込まれている、本発明の装置の特定の例による培養器を概略的に示す図である。
特に、
図5は、培養器9の側面図であり、
図6は、培養器9の正面図である。
図6の培養器は、
図5の矢印A1方向から見た図である。
さらに、矢印A1は、少なくとも1つの微生物を含む培養菌5が供給された細長い要素(例えば糸)が培養器9に供給される方向を概略的に表わしている。
【0095】
図5及び
図6に示した例によれば、培養器9には、微生物を含む培養菌5が提供された後に細長い要素を収集するための、細長い要素の巻取り器3(例えば、糸巻取り器3)、例えばボビン、が設けられている。培養器9は、培養菌5中の微生物を、細長い要素上に成長させるための適切な環境条件、例えば、温度や湿度などの条件を提供する。そして、一実施態様によれば、さらに、バイオポリマー(例えば、微生物セルロース)、方解石、又はインディゴなどの微生物産生物及び/又は微生物沈殿物及び/又は染料の生産のための環境条件を提供する。
【0096】
図7は、第1の給送器4を一体化した、本発明の特別の例による培養器9を概略的に示す。
図7の矢印A2は、細長い要素2(例えば、糸2)が、例えば細長い要素の供給源から、培養器9に組み込まれた第1の給送器4に供給される方向を概略的に示している。
【0097】
図7の例によれば、微生物を含む培養菌5は、培養が細長い要素2(つまり糸2)及び吐出口7の両方と本質的に同時に接触するように、第1の吐出口7から分配される。給送器4は、前に示したように、第1の吐出口7からの少なくとも1つの微生物を含む第1の培養菌5を分配するように構成されている。培養液5は細長い要素2に接触し、その結果、培養菌5が細長い要素2に提供される。細長い要素2に、所定の量の微生物培養菌5が提供された後、細長い要素は培養器9の外部へ移動する。
図7の矢印A3は、細長い要素が培養器9から出る方向を概略的に表わしている。
一実施態様によれば、細長い要素が培養器9を出た後、微生物を含む第2の培養菌及び/又は培地をさらに提供してもよい。一実施態様によれば、その後、細長い要素は、培養器9から出て、糸巻取りボビンなどの細長い要素の巻取り器で収集しても良い。
【0098】
図8及び
図9は、特定の形態の1個以上の培養器が使用される本発明の装置の例を示している。
図8は、培養器9の側面図であり、
図9は培養器9の正面図である。
図9の培養器は、
図8の矢印A4方向から見た図である。
さらに、矢印A4は、細長い要素2が培養器9に入る方向を概略的に表わしており、細長い要素2は、少なくとも1つの微生物を含む培養菌5と接触する。この培養菌は、第1の給送器4によって、第1の吐出口7を介して細長い要素2に供給される。
【0099】
図8及び
図9に概略的に表わされた本発明の装置の例において、培養器9は、細長い要素の巻取り器3(例えば、糸などの細長い要素を収集するための特定の器としてボビンを選択することができる)と、第1の給送器4とを備えている。この例では、第1の給送器4及び細長い要素の巻取り器3は、培養器9に一体化されている。
図8及び
図9の例によれば、糸2は、例えば糸の供給源から供給され、そして、培養器9内へ入る。培養器9の内部では、微生物を含む培養菌5が、第1の給送器4の第1の吐出口7から、糸2に分配される。糸2に、所定の量の微生物培養菌5が提供された後、糸は培養器9の内部で糸巻取り器3によって収集される。
【0100】
上記の通り、
図8及び
図9で説明した代表的な例では、第1の給送器4が、細長い要素2へ、つまり糸2に、微生物を含む第1の培養菌5を提供する。
一実施態様によれば、第1の給送器4に加えて、少なくとも第2の微生物培養菌及び又は栄養素を含む培地を供給するための第2の給送器が、培養器9へ統合されても良い。
【0101】
有利な実施態様によれば、本発明は、微生物産生物(たとえば、微生物セルロースなどのバイオポリマー)及び/又は方解石などの微生物沈殿物を少なくとも部分的に提供することができる細長い要素、たとえば糸、の製造を可能にする。
このような細長い要素(例えば糸)は、布と衣服の生産に使用するのに適している。さらに、バイオポリマー、例えば微生物、セルロースが提供された糸を染色、例えばインディゴ染色するのも適している。例えば、微生物セルロースが提供された細長い要素(例えば、糸)の染色は、それ自体が当技術分野で知られている技術に基づいて実施することができる。
【0102】
図10は、培養器9に、第1の給送器12及び第2の給送器13の両方が一体化された発明の例を示す。
図10の例では、第1の給送器12及び第2の給送器13は、細長い要素の経路に沿って、互に直列に配置され、両方とも培養器9と一体化されている。その結果、少なくとも微生物を含む第1の培養菌5は、培養器9の内部の細長い要素2に分配される。
【0103】
図10では、矢印A5は、細長い要素2(例えば、糸2)が、例えば細長い要素の供給源から培養器9に供給される方向を概略的に表わしている。培養器は、第1の給送器12及び第2の給送器13を備えている。微生物を含む培養菌5は、第1の吐出口12からその第1の吐出口16を経て糸2に分配される。第1の給送器12は、少なくとも1つの微生物を含む第1の培養菌5を糸2に分配する。
【0104】
続いて、第1の量の培養菌5が提供された糸2は、第2の給送器13の第2の吐出口17から分配された第2の培養液体14と接触する。例えば、第2の給送器13は、第1の培養菌5を再び供給しても良く、又は既に糸2に供給されている微生物の栄養素を含む適切な培地(つまり、微生物を含まない液体媒体)、 又は、第1の給送器12によって分配された第1の培養とは異なる第2の微生物培養菌を供給しても良い。
続いて、糸は、矢印A6で概略的に表わされる方向に沿って、培養器9から出る。
【0105】
図11は、培養器9内での細長い要素の滞留時間を延長するように構成された、複数の延長要素18を統合した培養器9を概略的に示している。
図11の例によれば、微生物培養菌5が提供された細長い要素(例えば糸)は培養器9に入る。
図11は、培養器9の側面図を概略的に示している。
培養器9の内部には、培養器9での中の細長い要素の滞在時間を延長するように構成された複数の延長要素18が存在する。
特に、延長要素18は、培養器9において、細長い要素の方向を変えるように構成された延長要素、すなわち、細長い要素(すなわち、糸)をずらすように構成された延長要素である。培養器9の中での細長い要素の滞在時間を延長するように構成された延長要素18は、例えば、滑車及び又はボビンでもよく、好ましくは回転可能な延長要素であればよい。
【0106】
図11は、培養器9内での細長い要素の滞留時間を延長するように構成された延長要素18の例を示しており、実質的に曲がりくねった経路を規定している。培養器9は、この培養器内での細長い要素の滞留時間を延長するように構成された12個の延長要素18を含んでいる。これらは、6個の延長要素18を含む第1のシリーズ(例えば、上部)と6個の延長要素18を含む第2シリーズ(例えば、下部)の2つのシリーズに分配される。
図11に示す例によれば、微生物培養菌5が提供された糸は培養器9に入り、第1のシリーズ(例えば、上部)の第1の延長要素18に接触する。この糸は、第2のシリーズ(例えば、下部)の中の第2の延長要素18に向けて、その向きが変えられる。この糸は、第2の延長要素18に接触し、続いて、第1のシリーズ中の第3の延長要素18と接触するように向きが変えられ、次に、第2のシリーズ中の他の延長要素18、そして、再び第1のシリーズ中の他の延長要素18と、順次向きが変えられ、以下同様に、最後の延長要素18まで繰り返される。言いかえれば、
図11に説明された例によれば、糸(つまり細長い要素)は、複数の延長要素18に連続的に接触する。好ましくは、第1(例えば、上部)シリーズの延長要素18と、第2(例えば、下部)シリーズの延長要素18に交互に接触する。
【0107】
最後の延長要素18と接触した後、糸は、培養器9から出る。
一実施態様によれば、複数の延長要素18は、培養器の内部で、細長い要素を部分的に巻くように構成されても良い。例えば、細長い要素は、第2の延長要素18と接触する前に、第1の延長要素18に1回以上巻きつけられても良い。この場合、培養器の中における細長い要素の滞在時間はさらに長くなる。
一実施態様によれば、培養器から出る細長い要素には、少なくとも部分的にある量の微生物バイオポリマー(微生物セルロースなど)及び/又はある量の微生物沈殿物(例えば、方解石の沈殿物)が提供される。例えば、培養器から出る細長い要素(例えば糸)には、有利なことに、ある量の微生物のバイオポリマーが提供され、例えば一般的な染色プロセスにより染色することができる。
【0108】
以下の実施例では、糸のサンプルを、本発明の方法を実行するための、細長い要素として使用した。
【実施例1】
【0109】
本発明による方法及び装置を使用して、第1の実験を実施し、微生物(バクテリア)培養菌を糸のサンプルに注入し、付着した微生物(バクテリア)セルロースの量を決定するために、最終乾燥糸の重量を測定した。
第1の実験は、次の各ステップを含んでいた。
約25gの糸を、適切なボビンに供給し、グルコナセトバクター(Gluconacetobacter)の細菌由来の培養菌(BC)1200mlを、200rpm、28°Cで、2日間培養した。
細菌由来のセルロース培養菌は、(培養期中に生産された)セルロース系繊維を削除するために、スクリムを使用することにより濾過された。
1200mlの培養菌を、5000rpmで15分間遠心分離し、濃縮して、5.4x108CFU/mlの高濃度の培養菌を形成した。0.5重量%の湿潤剤を、培養液に加えた。シリンジポンプを使用して、濃縮培養菌を、糸サンプルに注入した。(ポンプ速度:0.1ml/分、糸供給源ボビンの巻き戻し速度は、使用電圧(1.3V)で固定)。
培養グルコナセトバクターと共に提供された糸を、空気中の、長さ5メートルのベンチ上で、約10分間培養した。その後、細菌培養菌でコーティングされた糸を、0.1MのNaOH溶液により、80℃で、20分間洗浄し、蒸留水で中和した。
室温で乾燥させた後、糸の重量を測定し、糸に付着した細菌由来のセルロースの量を、糸の初期重量に対して8.12%に等しいと決定した。
【0110】
一般に、本発明の一実施態様によれば、加えられた微生物のセルロースの量は、0.05~0.08g/mの範囲にある。
微生物セルロースが提供された乾燥糸を染色、例えばインディゴ染色し、布及び/又は衣服の製造に使用してもよい。
【実施例2】
【0111】
実施された第2の例では、細菌由来の培養菌が準備され、前の例1に示した糸に対して適用された。糸の上への細菌由来の培養菌の注入の後、糸は、培養器の内部に置かれ糸巻取りボビンに巻きつけられた。細菌由来の培養菌を注入した糸は、培養器の中で培養された。栄養が、給送器によって培養器内の糸に供給された。
糸に付着した細菌由来のセルロースの量は、糸の初期重量に対して13%に等しいと決定された。
【0112】
一実施態様によれば、提供される微生物セルロースの量は、0.08~0.15g/mの範囲にある。
上記したように、微生物セルロースが提供された乾燥糸を染色、例えばインディゴ染色し、布及び/又は衣服の製造に使用してもよい。
【実施例3】
【0113】
本発明の方法による第3の実施例では、3g/Lの栄養ブロス(Difco)、10g/L NH4Cl、及び2.12g/LのNaHCO3(6N HCLでpH6.0に調整された25.2mMに相当)の溶液を含む、尿素-CaCl2培地での、バチルス種の培養による微生物誘発炭酸カルシウム(CaCO3)沈殿(MICP)の使用を含んでいる。
上記例1及び例2に開示されている供給及び培養の方法及び条件は、必要な変更を加えて例3に適用された。
糸に微生物沈殿物、特に方解石沈殿物を提供することにより、糸の引張強度を増加させることが可能であるという利点がある。微生物の方解石沈殿の他の有利な効果は、方解石が糸を白くすることにある。このようにして、容易に染色できる糸を得ることができる。
さらに、従来の方法では、環境を汚染する可能性のある物質が使用されていたが、本発明は、環境に優しい、糸の処理方法を提供する利点がある。
得られた乾燥糸は、布及び/又は衣服の製造に使用することができる。
【0114】
本発明は、例えば綿糸のような糸等の細長い要素に、実質的に連続的で、均質で、再現性があり、かつ汚染のない方法で、微生物培養菌を供給する新規な製造方法を提供する。この方法は、好ましくは、微生物セルロースなどのバイオポリマー及び/又は方解石沈殿物などの微生物沈殿物、及び/又はインディゴなどの染料を生成し、これらを細長い要素の少なくとも一部に提供することで、細長い要素に上記の有利な特性を与えることができる。
本発明の方法は、例えば、繊維分野、特に布及び衣服の製造に使用するのに適した、糸の製造を可能にする。
本発明は、例示的かつ非限定的な上記の説明に開示された実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって定義された保護の範囲内で、当業者によって想定され得るように、修正及び変形が可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 細長い要素の供給源
2 細長い要素(糸)
3 細長い要素の巻取り器
4 培養菌の給送器
5 培養菌
6 供給パイプ(第1の供給パイプ)
7 吐出口(第1の吐出口)
8 微生物培養菌のハーフドロップ
9 培養器9
10 第1の培養器
11 第2の培養器
12 第1の給送器
13 第2の給送器
14 第2の培養液体
15 ポンプ
16 第1の吐出口
17 第2の吐出口
18 延長要素