(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】物質遠隔特定装置および物質遠隔特定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20240702BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240702BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240702BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N21/65
C12Q1/06
C12M1/34 B
C12Q1/68
(21)【出願番号】P 2020142285
(22)【出願日】2020-08-26
【審査請求日】2023-07-14
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000144991
【氏名又は名称】株式会社四国総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】朝日 一平
(72)【発明者】
【氏名】杉本 幸代
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐嗣
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065828(WO,A1)
【文献】米国特許第04847198(US,A)
【文献】特開2005-140794(JP,A)
【文献】特開2015-059892(JP,A)
【文献】特開2016-004018(JP,A)
【文献】特開平09-015155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/74
C12Q 1/00 - C12Q 3/00
C12M 1/00 - C12M 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔地の測定対象空間に
励起波長225~227nmを含む波長のレーザー光を出射するレーザー装置と、
前記測定対象空間から放射された
前記レーザー光に基づく共鳴ラマン散乱光を検出する光検出装置と、
微生物の種別ごとに、前記レーザー光を照射した場合の共鳴ラマンスペクトルの
複数のピーク強度を有する波形パターン
または複数のピーク強度を予め記憶している記憶装置と、
前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトル
の前記複数のピーク強度を有する波形パターンまたは前記複数のピーク強度と、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、微生物の細胞構成成分
のうちアミノ酸および核酸塩基に対応するラマンシフト量を含む500cm
-1以上のラマンシフト範囲において比較
し、一致度を算出することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する微生物特定部と、を備える、物質遠隔特定装置。
【請求項2】
前記微生物特定部は、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、前記アミノ酸
および核酸塩基に対応するラマンシフト量を含む前記ラマンシフト範囲において比較
し、一致度を算出することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する、請求項1に記載の物質遠隔特定装置。
【請求項3】
前記レーザー装置は
、複数の励起波長
のレーザー光を照射
し、
前記微生物特定部は、前記アミノ酸および核酸塩基に対応する複数のピーク強度と、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを比較し、一致度を算出することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する、請求項1または2に記載の物質遠隔特定装置。
【請求項4】
前記レーザー装置は励起波長
227nm
を含む波長のレーザー光を照射
し、
前記微生物特定部は、有害微生物を特定する、請求項
1ないし3のいずれかに記載の物質遠隔特定装置。
【請求項5】
前記微生物特定部は、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、核酸塩基
に対応する1480cm
-1
のラマンシフト量およびジ
ピコリン酸に対応する
1550cm
-1
のラマンシフト量を含む前記ラマンシフト範囲において比較することで、前記微生物が栄養細胞の状態であるか芽胞の状態であるかを特定する、請求項1ないし4のいずれかに記載の物質遠隔特定装置。
【請求項6】
前記記憶装置は、微生物の分布密度と、当該微生物の共鳴ラマンスペクトルの1175cm
-1および1610cm
-1を含むラマンシフト量における強度との関係を示す検量データを記憶しており、
前記微生物特定部は、前記記憶装置に記憶した前記検量データと、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルの前記
1175cm
-1
および1610cm
-1
を含むラマンシフト量における強度とに基づいて、前記測定対象空間に存在する微生物の分布密度を測定する、請求項1ないし5のいずれかに記載の物質遠隔特定装置。
【請求項7】
前記微生物特定部は、前記微生物の共鳴ラマンスペクトルのうち、1011cm
-1,1180cm
-1,1400cm
-1
,1550cm
-1
および1616cm
-1
のラマンシフト範囲
のうち複数のピーク強度に基づいて、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する、請求項
4に記載の物質遠隔特定装置。
【請求項8】
遠隔地の測定対象空間に
励起波長225~227nmを含む波長のレーザー光を出射するレーザー装置と、
前記測定対象空間において放射された
前記レーザー光に基づく共鳴ラマン散乱光を検出する光検出装置と、を有する装置を用いた物質遠隔特定方法であって、
微生物の種別ごとに、前記レーザー光を照射した場合の共鳴ラマンスペクトルの
複数のピーク強度を有する波形パターン
または複数のピーク強度を予め記憶しておき、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトル
の前記複数のピーク強度を有する波形パターンまたは前記複数のピーク強度と、予め記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、微生物の細胞構成成分
のうちアミノ酸および核酸塩基に対応するラマンシフト量を含む500cm
-1以上のラマンシフト範囲において比較
し、一致度を算出することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する、物質遠隔特定方法。
【請求項9】
前記レーザー装置から励起波長227nmを含む波長のレーザー光を照射し、有害微生物を特定する、請求項8に記載の物質遠隔特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠隔地の測定対象空間に存在する有害微生物を特定する物質遠隔特定装置および物質遠隔特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、遠隔地から可燃性ガスなどの有害物質を特定する方法として、ラマン散乱分光法(レーザーラマン法)が知られている。ラマン散乱は、単色光を分子に照射したときに、散乱光の周波数が分子に固有の振動周波数だけ変移(シフト)する現象であり、この散乱光の周波数変移量(ラマンシフト量)は、物質に固有の量となる。そのため、所定の波長のレーザー光を測定対象の物質に照射すると、レーザー光が照射された物質から、レーザー光の波長とは異なる波長のラマン散乱光が発生し、このラマン散乱光を分析することで、目的とする物質が存在するか特定することができる。また、そのラマン散乱光の強度は、その物質の密度に比例することが知られているため、検出したラマン散乱光の強度から、その物質の濃度を測定することができる。更に、レーザー波長が物質固有の共鳴励起波長に一致する場合、共鳴効果により、通常のラマン散乱光(非共鳴ラマン散乱光)よりも著しく強度の高いラマン散乱光(以下、「共鳴ラマン散乱光」という場合がある。)が発生することが知られている。
【0003】
たとえば特許文献1においては、計測対象である物質に応じたラマン散乱光に基づいて、有害物質などの不特定の物質を遠隔地から同定することが可能な物質遠隔特定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許文献1:国際公開2019/065828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、共鳴ラマン散乱光を利用した物質遠隔特定装置の検出対象として、炭疽菌、エボラウィルス、天然痘ウィルスなどの有害微生物が例示されている。しかしながら、遠隔地の測定対象空間に存在する有害微生物を特定するための具体的な方法(たとえば、測定対象空間に照射するレーザー光をどの励起波長で照射すべきか、どの範囲の周波数変移量(ラマンシフト量)を測定すべきかなど)については開示されていなかった。
【0006】
本発明は、遠隔地に存在する微生物を適切に検出することができる物質遠隔特定装置および物質遠隔特定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点に係る物質遠隔特定装置は、遠隔地の測定対象空間にレーザー光を出射するレーザー装置と、前記測定対象空間から放射された共鳴ラマン散乱光を検出する光検出装置と、微生物の種別ごとに、前記レーザー光を照射した場合の共鳴ラマンスペクトルのパターンを予め記憶している記憶装置と、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルのパターンとを、微生物の細胞構成成分に対応するラマンシフト量を含む500cm-1以上のラマンシフト範囲において比較することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する微生物特定部と、を備える。
上記物質遠隔特定装置において、前記微生物の細胞構成成分が、アミノ酸または/および核酸塩基であり、前記微生物特定部は、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、前記アミノ酸または/および核酸塩基に対応するラマンシフト量を含む前記ラマンシフト範囲において比較することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する構成とすることができる。
上記物質遠隔特定装置において、前記レーザー装置は励起波長220~250nmのレーザー光を照射する構成とすることができる。
上記物質遠隔特定装置において、前記レーザー装置は励起波長220~230nmのレーザー光を照射する構成とすることができる。
上記物質遠隔特定装置において、前記微生物特定部は、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、前記記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、核酸塩基およびジコピリン酸に対応するラマンシフト量を含む前記ラマンシフト範囲において比較することで、前記微生物が栄養細胞の状態であるか芽胞の状態であるかを特定する構成とすることができる。
上記物質遠隔特定装置において、前記記憶装置は、微生物の分布密度と、当該微生物の共鳴ラマンスペクトルの所定のラマンシフト量における強度との関係を示す検量データを記憶しており、前記微生物特定部は、前記記憶装置に記憶した前記検量データと、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルの前記所定のラマンシフト量における強度とに基づいて、前記測定対象空間に存在する微生物の分布密度を測定する構成とすることができる。
上記物質遠隔特定装置において、前記微生物特定部は、前記微生物の共鳴ラマンスペクトルのうち、1011cm-1,1180cm-1,1400cm-1,1480cm-1,1550cm-1,1610cm-1および/または1616cm-1を含む前記ラマンシフト範囲における強度に基づいて、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する構成とすることができる。
本発明の第2の観点に係る物質遠隔特定装置は、遠隔地の測定対象空間にレーザー光を出射するレーザー装置と、前記測定対象空間から放射された共鳴ラマン散乱光を検出する光検出装置と、前記光検出装置により検出した共鳴ラマン散乱光の共鳴ラマンスペクトルのうち、複数の微生物の細胞構成成分に対応する複数のラマンシフト量での強度に基づいて、前記測定対象空間に存在する微生物の特定を行う微生物特定部と、を備える。
本発明に係る物質遠隔特定方法は、遠隔地の測定対象空間にレーザー光を出射するレーザー装置と、前記測定対象空間において放射された共鳴ラマン散乱光を検出する光検出装置と、を有する装置を用いた物質遠隔特定方法であって、微生物の種別ごとに、前記レーザー光を照射した場合の共鳴ラマンスペクトルのパターンを予め記憶しておき、前記光検出装置により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、予め記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、微生物の細胞構成成分に対応するラマンシフト量を含む500cm-1以上のラマンシフト範囲において比較することで、前記測定対象空間に存在する微生物を特定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遠隔地に存在する有害微生物を適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る物質遠隔特定装置の斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る物質遠隔特定装置の構成図である。
【
図3】(A)は240~250nmのレーザー光を大腸菌に照射した場合の共鳴ラマンスペクトルの一例を示すグラフであり、(B)220~230nmのレーザー光を大腸菌に照射した場合の共鳴ラマンスペクトルの一例を示すグラフである。
【
図4】測定対象空間に枯草菌および大腸菌が存在する場合の共鳴ラマンスペクトルの一例を示す図である。
【
図5】枯草菌の分布密度に応じた共鳴ラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図6】枯草菌の分布密度と共鳴ラマンスペクトルのピーク強度との関係をプロットし、検量線を求めたグラフである。
【
図7】枯草菌の栄養細胞状態および芽胞状態における共鳴ラマンスペクトルを示すグラフである。
【
図8】本実施形態に係る物質遠隔特定装置の利用方法を説明するための図である。
【
図9】本実施形態に係る物質遠隔特定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図に基づいて、本実施形態に係る物質遠隔特定装置を説明する。本実施形態に係る物質遠隔特定装置は、遠隔地の測定対象空間に存在する有害物質を特定するための装置であり、本発明においては、特に、有害物質として有害微生物を特定することを特徴とする。なお、本発明において特定可能な有害微生物は、特に限定されず、たとえば、赤痢アメーバなどの原虫、クモノスカビやコウジカビなどのカビ、酵母、赤痢菌、大腸菌、ブドウ球菌、枯草菌などの細菌、発疹チフスなどのリケッチア、オーム病クラミジアなどのクラミジア、ノロウィルス、インフルエンザウィルスなどのウィルスが例示される。また、本発明に係る物質遠隔特定装置は、有害微生物以外の微生物の特定にも用いることができる。
【0011】
(物質遠隔特定装置)
図1は、本実施形態に係る物質遠隔特定装置1の斜視図である。
図1に示すように、本実施形態に係る物質遠隔特定装置1は、レーザー装置10、波長変換装置20、集光光学系30、分光装置40、光検出装置50、処理装置60、表示装置70を有する。物質遠隔特定装置1は、
図1に示すように、レーザー装置10により発振したパルスレーザー光を、波長変換装置20で所定の紫外線波長に変換した後、被照射物に照射し、生じた共鳴ラマン散乱光を、集光光学系30で集光し、分光装置40および光検出装置50で検知し、処理装置60で分析し、その結果を表示装置70に表示するものである。本実施形態において、物質遠隔特定装置1は、周辺空間をセンシングするLIDAR(Light Detection and Ranging)としての機能を有する。以下に、各構成について説明する。
【0012】
レーザー装置10は、被照射物に照射するためのレーザー光を発振し、照射する。本実施形態では、レーザー装置10として、パルスレーザー光源であるNd:YAGレーザーを使用するが、レーザー装置はこれに限定されない。Nd:YAGレーザーは、基本波である1064nmのパルスレーザー光を、数ns~数十nsのパルス幅、且つ、10Hz~数kHzの繰り返し周波数で出力する。レーザー装置10から照射されたレーザー光は、波長変換装置20へと入射される。
【0013】
波長変換装置20は、被照射物(空間)に照射するレーザー光の波長を変換する。本実施形態では、波長変換装置20により、基本波であるレーザー光の波長を変換し、被照射物に複数の異なる波長のレーザー光を順次照射することで、各波長のレーザー光で発生したラマン散乱光に基づいて、被照射物の特定を行うことが可能となる。波長変換装置20は、
図2に示すように、LBO結晶21,22、第1光パラメトリック発振器23,全反射ミラー24、第2光パラメトリック発振器25を有している。
【0014】
レーザー装置10から出射された波長1064nmのレーザー光は、まず、LBO結晶21に入射され、532nmのレーザー光に変換(周波数逓倍)される。さらに、LBO結晶21を透過した1064nmおよび532nmのレーザー光は、LBO結晶22に入射され、355nmのレーザー光に変換(周波数逓倍)される。そして、LBO結晶22を透過した1064nm、532nm、355nmのレーザー光が、第1光パラメトリック発振器23に入射される。
【0015】
第1光パラメトリック発振器23は、ダイクロイック凹面ミラー231と、全反射ミラー232,233と、凹面出力ミラー234と、BBO結晶235とを主な構成として有する。
【0016】
第1光パラメトリック発振器23に入射されたレーザー光は、ダイクロイック凹面ミラー231により、355nmのレーザー光のみが透過される。ダイクロイック凹面ミラー231を透過した355nmのレーザー光は、BBO結晶235に入射され、波長変換が行われる。BBO結晶235は回転装置(図示せず)に保持されており、処理装置60の制御によって回転し、レーザー光の光軸に対する傾斜角度を連続的に変えることで、355nmのレーザー光を異なる波長のレーザー光に連続的に変更することができる。
【0017】
また、BBO結晶235を透過したレーザー光は、凹面出力ミラー234へ照射される。凹面出力ミラー234は、全反射ミラーではなく、特定波長のレーザー光を透過するとともに、残りのレーザー光を反射する。凹面出力ミラー234により反射されたレーザー光は、全反射ミラー232,233で反射された後、ダイクロイック凹面ミラー231でも反射され、BBO結晶235を透過して再度凹面出力ミラー234へ照射される。その結果、第1光パラメトリック発振器23に入射されたレーザー光は、増幅され、第1光パラメトリック発振器23から出射されることとなる。
【0018】
本実施形態では、第1光パラメトリック発振器23は、355nmのレーザー光を、420nm以上の波長のレーザー光に変更して出射する。そのため、目標とするレーザー光の波長が420nm以上の場合には、レーザー光は、
図2に示すように、第1光パラメトリック発振器23から出射され、そのまま波長変換装置20から出射される。一方、目標とするレーザー光の波長が420nm未満である場合には、第1光パラメトリック発振器23から出射されたレーザー光は、全反射ミラー24により全反射され、第2光パラメトリック発振器25に入射される。
【0019】
第2光パラメトリック発振器25は、
図2に示すように、全反射ミラー251、BBO結晶252,253、出力ミラー254を有する。第2光パラメトリック発振器25では、第1光パラメトリック発振器23で変換されたレーザー光の波長を倍周波へと変換する。たとえば、第1光パラメトリック発振器23で変換されたレーザー光の波長が420nmである場合に、第2光パラメトリック発振器25から出射されるレーザー光の波長は210nmとなる。また、第2光パラメトリック発振器25から出射されるレーザー光の波長を300nmとする場合には、第1光パラメトリック発振器23においてレーザー光の波長を600nmとすればよい。なお、第2光パラメトリック発振器25から出射されたレーザー光は、波長変換装置20から出射され、
図1に示すように、被照射物(空間)へと照射される。
【0020】
ここで、波長変換装置20から出射されたレーザー光の波長が、被照射物と共鳴ラマン散乱を生じる波長である場合に、非共鳴ラマン散乱よりも著しく強度の高い共鳴ラマン散乱光を生じる。非共鳴ラマン散乱は、単原子分を除くほぼ全ての分子において生じるが、散乱光強度は極め微弱である。これに対して、共鳴ラマン散乱は、非共鳴ラマン散乱に対して、論理上、散乱断面積(散乱の確率を示す値、分子ごとの散乱強度の指標とされる)の増大率は104~106倍となり、共鳴ラマン散乱光は、非共鳴ラマン散乱光よりも著しく高い強度で得られる。本実施形態では、共鳴ラマン散乱光を検出することで、被照射物を高い精度で検出することを可能としている。
【0021】
レーザー光を照射することにより遠隔地で生じた共鳴ラマン散乱光は、
図1に示すように、集光光学系(望遠鏡)30により、高い効率で集光され、分光装置40に入射される。分光装置40は、たとえば回折格子式またはプリズム式の分光器を備えてなり、特定の範囲の波長を分光し、光検出装置50に入射する。光検出装置50は、波長毎の光強度を検出する光センサを備えている。この光センサは、一つの光センサから構成されたもの(例えば、アバランシェフォトダイオードまたは光電子倍増管)であってもよいし、複数の光センサによって構成されたマルチチャンネル型センサ(たとえば、CCDセンサまたはCMOSセンサ)であってもよい。
【0022】
処理装置60は、後述する有害物質(有害微生物を含む)ごとの共鳴ラマンスペクトルのパターンデータおよび解析プログラムが格納された記憶装置と、解析プログラムを実行する動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)とを備える。処理装置60は、分光装置40および光検出装置50から求めた被照射物である有害物質の共鳴ラマンスペクトルのパターンと、記憶装置に予め記憶された有害物質ごとの共鳴ラマンスペクトルとを比較することで、有害物質の特定を行う。特に、本実施形態において、処理装置60は、有害物質として遠隔地に存在する有害微生物の種別および分布密度を特定する。なお、有害微生物の特定方法の詳細については後述する。また、処理装置60は、レーザー装置10によるレーザーの発振や、波長変換装置20により変換するレーザー光の波長なども制御する。
【0023】
表示装置70は、処理装置60による有害物質の特定情報(同定した有害微生物の名称、共鳴ラマンスペクトル、濃度など)を表示するモニター(表示画面)を備えて構成される。表示装置70による表示方法は特に限定されないが、カメラにより撮像された撮像画像に、有害微生物が存在する位置や濃度を画像情報として重ね合わせることで(たとえば、有害微生物が存在する場所に対応する撮像画像の部分を、有害微生物およびその濃度に応じた色を着色することで)、使用者が直感的に有害微生物の情報を把握できるように、有害微生物の情報を表示することができる。なお、このような撮像画像に有害微生物の情報を重ね合わせる方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0024】
(有害微生物の特定)
検出対象となる有害微生物の特定方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る物質遠隔特定装置1により測定した大腸菌のラマンスペクトルの一例を示す図である。具体的には、
図3(A)は、240~250nmのレーザー光を、大腸菌を懸濁した水に照射した場合のラマンスペクトルを示し、
図3(B)は、220~230nmのレーザー光を、大腸菌を懸濁した水に照射した場合のラマンスペクトルを示す。
図3(A),(B)に示すように、240~250nmのレーザー光を照射した(A)のラマンスペクトルと比べて、220~230nmのレーザー光を照射した(B)のラマンスペクトルでは、500cm
-1以上のラマンシフト範囲において、複数のピーク強度を有し、かつ、強度の高い特徴的なラマンスペクトルが得られた。特に、測定対象空間に照射するレーザー光の波長は220~230nmの波長のうち、223~227nmの波長が好ましく、225~227nmの波長がより好ましく、227nmの波長が最も好ましい。このように、有害微生物を特定する場合には、220~230nmのレーザー光を照射することで、500cm
-1以上のラマンシフト範囲において、有害微生物に由来する共鳴ラマンスペクトルが得られることがわかった。
【0025】
また、
図4は、枯草菌と大腸菌の共鳴ラマンスペクトルを示す図である。なお、
図4に示す図では、227nmのレーザー光を、枯草菌および大腸菌をそれぞれ懸濁した水に照射している。
図4に示すピークのうち、枯草菌と大腸菌の共鳴ラマンスペクトルは、1011cm
-1,1180cm
-1,1400cm
-1,1550cm
-1,1616cm
-1のピークにおいて特に差が認められる。ここで、1011cm
-1はアミノ酸のトリプトファン(Trp)に対応するピークであり、1180cm
-1はアミノ酸のチロシン(Tyr)に対応するピークであり、1400cm
-1はアミノ酸のアデニン(A)、グアニン(G)およびチロシン(Tyr)に対応するピークであり、1550cm
-1はトリプトファン(Trp)に対応するピークであり、1616cm
-1はトリプトファン(Trp)およびチロシン(Tyr)に対応するピークである。このように、枯草菌や大腸菌などの微生物の共鳴ラマンスペクトルのうち、500cm
-1以上、より好ましくは1000cm
-1以上のラマンシフト範囲において、微生物の構成成分のうちアミノ酸や核酸塩基に対応するピークが得られることがわかった。
【0026】
そこで、本実施形態において、処理装置60は、枯草菌や大腸菌などの各種有害微生物の共鳴ラマンスペクトルのパターンデータ(波形データ)を記憶装置に予め記憶しておき、光検出装置50により検出した共鳴ラマンスペクトルと、記憶装置に記憶している各微生物の共鳴ラマンスペクトルのパターンとを、500cm-1以上、より好ましくは1000cm-1以上のラマンシフト範囲において比較することで、測定対象空間に存在する有害微生物を特定する。たとえば、処理装置60は、1000cm-1以上のシフト範囲における、光検出装置50により検出した測定対象空間における微生物の共鳴ラマンスペクトルと、記憶装置に予め記憶した有害微生物Xの共鳴ラマンスペクトルとの一致度が所定値以上である場合には、測定対象空間に存在する微生物を有害微生物Xと特定することができる。なお、一致度の算出方法は、公知の方法を用いることができる。
【0027】
また、処理装置60は、共鳴ラマンスペクトルのパターンではなく、たとえば、各種微生物の共鳴ラマンスペクトルのうちアミノ酸や核酸塩基に対応する複数のピーク強度(たとえば、1011cm-1,1180cm-1,1400cm-1,1550cm-1,1616cm-1のピーク強度)を記憶装置に予め記憶しておき、光検出装置50により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルのうちアミノ酸や核酸塩基に対応する複数のピーク強度と、記憶装置に予め記憶した各種有害微生物の共鳴ラマンスペクトルのうちアミノ酸や核酸塩基に対応する複数のピーク強度とを比較することで、測定対象空間に存在する有害微生物を特定する構成とすることもできる。
【0028】
(微生物の分布密度の測定)
また、本実施形態に係る物質遠隔特定装置1は、測定対象空間に存在する微生物の分布密度を測定することができる。ここで、
図5は、2×10
9[cfu/ml]の枯草菌(栄養細胞)を懸濁した水をそれぞれ10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈、80倍希釈および160倍希釈した場合の共鳴ラマンスペクトルを示すグラフである。なお、
図5においては、レーザー光の励起波長を226nmとし、溶媒であるH
2Oのスペクトルは差分により除去している。
図5に示すように、枯草菌の共鳴ラマンスペクトルの波形自体は分布密度に応じて大きく変化していないが、共鳴ラマンスペクトル全体の強度は、枯草菌の分布密度が高いほど高くなる。
【0029】
そこで、本実施形態では、
図6に示すように、所定の希釈倍率(分布密度)で予め測定した1175cm
-1および1610cm
-1のピーク強度に基づいて、1175cm
-1および1610cm
-1のピーク強度についての検量線を作成し、作成した検量線のデータを、処理装置60の記憶装置に記憶しておく。これにより、たとえば測定対象空間に存在する微生物が枯草菌であると特定した場合、処理装置60は、この枯草菌の共鳴ラマンスペクトルの1175cm
-1および1610cm
-1におけるピーク強度と、記憶装置に予め記憶した枯草菌の1175cm
-1および1610cm
-1のピーク強度の検量線とに基づいて、測定対象空間における枯草菌の分布密度を測定することができる。このように、本実施形態に係る処理装置60は、微生物の共鳴ラマンスペクトルの所定のラマンシフト量における強度との関係を示す検量データとして記憶装置に記憶しておき、記憶装置に記憶した検量データと、光検出装置50により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルの所定のラマンシフト量における強度とに基づいて、測定対象空間に存在する微生物の分布密度を測定する。なお、
図6は、
図5に示す各希釈倍率での枯草菌の共鳴ラマンスペクトルにおける1175cm
-1および1610cm
-1におけるピーク強度をプロットしたグラフであり、縦軸はピーク強度、横軸は分布密度を示す。
【0030】
(細胞形態の特定)
さらに、枯草菌などの芽胞菌では、芽胞を形成している状態と、芽胞を形成していない栄養細胞の状態をとることが知られている。ここで、
図7は、枯草菌の芽胞状態と栄養細胞状態との共鳴ラマンスペクトルを示すグラフである。なお、
図7に示す例では、レーザー光の励起波長は242nmとしている。
図7に示すように、芽胞を形成している状態と、栄養細胞の状態では、共鳴ラマンスペクトルの波形が異なる。特に、枯草菌が栄養細胞の状態では、増殖に必要な核酸塩基であるアデニン(A)およびグアニン(G)に対応する1480cm
-1においてピークが表れるのに対して、枯草菌が芽胞の状態では1480cm
-1においてこのようなピークは見られない。また、枯草菌が芽胞の状態では、細胞壁を構成する成分であるジ
ピコリン酸に対応する1550cm
-1においてピークが見られるのに対して、枯草菌が栄養細胞の状態では1550cm
-1においてこのようなピークは見られない。そのため、本実施形態において、処理装置60は、たとえば、測定対象空間に存在する微生物が枯草菌であると特定した場合に、1480cm
-1および1550cm
-1におけるピークの有無を検出することで、枯草菌が芽胞の状態であるか栄養細胞の状態であるかを特定することもできる。なお、芽胞菌が芽胞の状態であるか栄養細胞の状態であるかを特定する場合、レーザー光の励起波長の選定が重要となり、芽胞菌が枯草菌の場合は242nmにおいて最も明確に識別することができる。
【0031】
(開放空間での利用方法)
また、
図8は、物質遠隔特定装置1の利用方法を説明する図である。物質遠隔特定装置1が利用される場所は、屋内、屋外に限定されないが、
図8に示す図では、屋外において、有害微生物の他、大気汚染物質や化学剤や農薬を含む有害物質を検出、特定する場面を例示している。物質遠隔特定装置1は、図示しない走査装置の上に載置されており、処理装置60の制御に従って走査装置によりレーザー光の照射方向を変更して被照射空間内を走査(縦・横、或いは水平・煽り)することが可能となっている。物質遠隔特定装置1は、被照射空間の第1の方向(X1,Y1)で異なる波長のレーザー光を規定回数出射し、次いで第1の方向と連続する第2の方向(X1,Y2またはX2,Y1)で異なる波長のレーザー光を規定回数出射し、同様に従前と異なる第3以降の方向で異なる波長のレーザー光を規定回数出射する作業を繰り返し実施する。これにより、物質遠隔特定装置1は、被照射空間内において、有害微生物を含む有害物質の位置および濃度を特定することができる。これとは異なり、第1の波長のレーザー光で被照射空間内を走査し、第1の波長と異なる第2の波長のレーザー光で被照射空間内を走査し、同様に従前と異なる第3の波長以降のレーザー光で被照射空間内を走査する作業を繰り返し実施するようにしてもよい。
【0032】
たとえば、物質遠隔特定装置1は、ある方位において、レーザー装置10からの出射光を、波長変換装置20により異なる複数の紫外線領域の波長のレーザー光に連続的に変換して被照射空間に照射する。また、照射したレーザー光の励起により生じた共鳴ラマン散乱光を、集光光学系30で集光し、分光装置40および光検出装置50により検知し、処理装置60により検知した共鳴ラマン散乱光に基づいて、共鳴ラマンスペクトルを作成する。ここで、被照射空間に存在する物質が何であるかについてある程度見当がついている場合には、特定範囲の波長を照射することが効率的であるため、レーザー光の波長を複数の異なる波長に不連続で段階的に変換して照射し、有害物質を同定する構成を採用してもよい。また、レーザー装置10および波長変換装置20からなる照射系統を複数設け、各照射系統から異なる波長のレーザー光を出射することにより、物質特定に要する時間を短縮してもよい。
【0033】
(動作)
次に、
図9に基づいて、本実施形態に係る微生物特定処理について説明する。
図9は、本実施形態に係る微生物特定処理を示すフローチャートである。
【0034】
まず、ステップS101では、レーザー装置10により、測定対象空間に向けてレーザー光の照射が行われる。本実施形態においては、微生物を構成するアミノ酸や核酸塩基に対応する共鳴ラマン散乱光を検出するため、処理装置60は、レーザー装置10に220~230nmのレーザー光を照射させる。これにより、測定対象空間に微生物が存在する場合、当該微生物に対応する共鳴ラマン散乱光が測定対象空間から放射されることとなる。
【0035】
ステップS102では、光検出装置50により、測定対象空間から放射された共鳴ラマン散乱光に基づく共鳴ラマンスペクトルが生成される。具体的には、共鳴ラマン散乱光は、集光光学系30により高い効率で集光され、分光装置40へと入射する。分光装置40において、共鳴ラマン散乱光は分光され、光検出装置50へと入射する。これにより、ステップS103において、光検出装置50により、測定対象空間に存在する有害微生物に由来する共鳴ラマンスペクトルが生成される。微生物の共鳴ラマンスペクトルのデータは、光検出装置50から処理装置60へと出力される。
【0036】
ステップS104では、処理装置60により、記憶装置に予め記憶した微生物ごとの共鳴ラマンスペクトルのパターンデータの取得が行われる。そして、ステップS105では、処理装置60により、ステップS104で取得した微生物ごとの共鳴ラマンスペクトルのパターンに基づいて、測定対象空間に存在する微生物を特定する処理が行われる。たとえば、処理装置60は、ステップS103で生成した、測定対象空間において検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、記憶装置に記憶した各微生物の共鳴ラマンスペクトルのパターンとを、微生物の細胞構成成分に対応する500cm
-1以上、より好ましくは1000cm
-1以上のラマンシフト範囲において比較し、測定対象空間において検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと最も一致度の高い共鳴ラマンスペクトルのパターンを有する微生物の種別を、測定対象空間において検出した微生物の種別として特定することができる。また、
図7に示すように、処理装置60は、芽胞菌については、栄養細胞の状態の共鳴ラマンスペクトルのパターンデータと、芽胞の状態の共鳴ラマンスペクトルのパターンデータとに基づいて、芽胞菌が栄養細胞の状態であるか、芽胞の状態であるかを特定することもできる。
【0037】
続いて、ステップS106では、処理装置60により、微生物の分布密度の測定が行われる。具体的には、処理装置60は、
図6に示すように、微生物ごとに、当該微生物の分布密度に応じた所定のラマンシフト量における強度をプロットした検量線データを有している。処理装置60は、ステップS105で特定した微生物の検量線データを取得し、ステップS103で生成した測定対象空間に存在する微生物の共鳴ラマンスペクトルの所定のラマンシフト量における強度と、この検量線における所定のラマンシフト量の強度とが一致する微生物の分布密度を、測定対象空間における当該微生物の分布密度として測定することができる。なお、ステップS106では、芽胞菌のうち、栄養細胞の状態での分布密度と、芽胞の状態での分布密度も特定することができる。
【0038】
そして、ステップS107では、処理装置60から表示装置70へと測定結果が出力され、表示装置70において、ユーザに対して、測定対象空間における有害微生物の特定情報が表示される。これにより、ユーザは、測定対象空間において有害微生物が存在するか否かだけではなく、測定対象空間に存在する有害微生物の種別(芽胞菌については細胞状態も含む)や分布密度も把握することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態に係る物質遠隔特定装置1では、光検出装置50により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、微生物の細胞構成成分に対応する500cm-1以上、より好ましくは1000cm-1以上のシフト範囲において比較することで、遠隔地の測定対象空間に存在する微生物を適切に存在することができる。特に、本実施形態では、光検出装置50により検出した微生物の共鳴ラマンスペクトルと、記憶装置に記憶した各種微生物の共鳴ラマンスペクトルとを、微生物の細胞構成成分に対応する500cm-1以上、より好ましくは1000cm-1以上のラマンシフト範囲という限定した範囲において比較することで、微生物の特定精度を高めることができるとともに、処理速度の向上や負荷の低減を図ることができる。
【0040】
また、従来、ラマン散乱光は微弱な光であるため、検出精度が低くなるという問題があった。しかしながら、本実施形態では、微生物の細胞構成成分であるアミノ酸または/および核酸塩基に対応する、通常のラマン散乱光よりも強度の高い、共鳴ラマン散乱光を集光することで、検出するラマン散乱光の強度を高くすることができ、微生物の特定精度を高めることができる。また、本実施形態では、レーザー装置10により励起波長220~230nmのレーザー光を照射することで、特徴的な共鳴ラマンスペクトルを得られ、これにより、微生物の特定精度をさらに高めることができる。
【0041】
加えて、芽胞菌も、栄養細胞の状態と芽胞の状態と共鳴ラマンスペクトルのパターンが変わるため、共鳴ラマンスペクトルのパターンに基づいて、芽胞菌が栄養細胞の状態であるか、芽胞の状態であるかを特定することができる。特に、核酸塩基およびジピコリン酸に対応するラマンシフト量を含むラマンシフト範囲の強度を測定することで、芽胞菌が栄養細胞の状態であるか、芽胞の状態であるかの特定精度を高くすることができる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態の記載に限定されるものではない。上記実施形態例には様々な変更・改良を加えることが可能であり、そのような変更または改良を加えた形態のものも本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1…物質遠隔特定装置
10…レーザー装置
20…波長変換装置
21,22…LBO結晶
30…集光光学系
40…分光装置
50…光検出装置
60…処理装置
70…表示装置