(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】化学療法難治性がんの治療のための新しい併用薬方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7068 20060101AFI20240702BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20240702BHJP
A61K 31/343 20060101ALI20240702BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240702BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K31/7068
A61K31/337
A61K31/343
A61P35/00
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2021520113
(86)(22)【出願日】2019-10-12
(86)【国際出願番号】 CN2019110904
(87)【国際公開番号】W WO2020074010
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】201811195239.3
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516205100
【氏名又は名称】1グローブ バイオメディカル カンパニー, リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リ チャンジェイ
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/132049(WO,A1)
【文献】特表2010-539098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体の膵臓がんを治療するための
組合せ物であって、
前記
組合せ物は、治療的有効量の式(I)の化合物、
【化1】
またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、
低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、
治療的有効量の毎週投与のパクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、を含み、
治療的有効量の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、約
480~960mgの用量で毎日投与され、低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、約100~
600mg/m
2で毎週注入投与され、治療的有効量のパクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、約10~
80mg/m
2で毎週注入投与され、
前記膵臓がんは、通常の化学療法および/または標的治療で難治の膵臓がんである
、組合せ物。
【請求項2】
以前の治療に失敗した膵臓がん被験体を化学療法レジメンに再感作させるための
組合せ物であって、
前記
組合せ物は、治療的有効量の式(I)の化合物、
【化2】
またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、
低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、
治療的有効量のパクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、を含み、
治療的有効量の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、約
480~960mgの用量で毎日投与され、低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、約100~
600mg/m
2で毎週注入投与され、治療的有効量のパクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、約10~
80mg/m
2で毎週注入投与される、以前の治療に失敗した膵臓がん被験体を化学療法レジメンに再感作させるための
組合せ物。
【請求項3】
前記膵臓がんは、進行性、転移性、切除不能、難治性、または再発性の化学療法耐薬品性がんである請求項1
または2に記載の
組合せ物。
【請求項4】
前記被験体は、少なくとも1つの以前の治療後に失敗した膵臓がん患者である請求項1
または2に記載の
組合せ物。
【請求項5】
前記被験体は、少なくとも1つの以前の治療後に進行した転移性膵臓がん患者である請求項1
または2に記載の
組合せ物。
【請求項6】
前記少なくとも1つの以前の治療は、少なくとも一次全身治療である請求項
4または
5に記載の
組合せ物。
【請求項7】
前記少なくとも一次全身治療は、一次治療、二次治療、または三次治療を含む請求項
6に記載の
組合せ物。
【請求項8】
前記少なくとも一次全身治療は、化学療法レジメンから選択され、前記化学療法レジメンは、ゲムシタビンベースの単剤または併用化学療法レジメン、パクリタキセルの単剤または併用化学療法レジメン、FOLFIRINOX、mFOLFIRINOXまたはGem-Abraxane化学療法レジメンから選択される請求項
6に記載の
組合せ物。
【請求項9】
前記式(I)の化合物、低用量のゲムシタビン、及びパクリタキセルは、同時に、別々に、および/または順に患者に投与可能である請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の
組合せ物。
【請求項10】
前記式(I)の化合物は、分割用量で投与される請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の
組合せ物。
【請求項11】
前記式(I)の化合物は、約240mgの用量で1日2回投与される請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の
組合せ物。
【請求項12】
ゲムシタビンは、約600mg/m
2、約550mg/m
2、約500mg/m
2、約450mg/m
2、約400mg/m
2、約300mg/m
2、約200mg/m
2または約100mg/m
2で毎週注入投与される請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の
組合せ物。
【請求項13】
パクリタキセルは、約80mg/m
2、約70mg/m
2、約60mg/m
2、約50mg/m
2、約40mg/m
2、約30mg/m
2、約20mg/m
2、または約10mg/m
2で毎週注入投与される請求項1乃至
8のいずれか一項に記載の
組合せ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年10月12日に出願された中国特許出願CN201811195239.3の優先権を主張する。当該出願の内容はその全体が本明細書において参照として援用される。
本発明は、化学療法難治性がんの治療に使用される医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、がんは依然として世界中の主要な死因である。手術、放射線療法、及び化学療法による、がんのある特定の種類の治療は進歩しているにもかかわらず、がんは依然として不治の病である。特定のがんに対して有効な治療が利用可能であっても、このような治療の副作用は重症で、患者の生活の品質の低下に繋がる可能性があり、がんは常に化学療法難治性に発展してしまう。
【0003】
通常の化学療法剤のほとんどは、特に進行性固形腫瘍を有する患者に対して著しい毒性や有限的な治療効果を有している。通常の化学療法剤はがん細胞を殺すが、同時に正常なヒトの細胞も損傷する。このような化学治療指数(即ち、がん細胞と正常細胞を区別する治療能力の尺度)は、非常に低い場合がある。しばしば、がん細胞を死滅させるのに有効な化学療法剤の用量は、正常細胞、特に頻繁に細胞分裂する正常細胞(例えば、上皮細胞および骨髄細胞)も死滅させる。正常細胞が治療によって影響を受ける場合、副作用には、一般的に抜け毛、造血機能阻害、および悪心が含まれる。患者の全体的な健康状態に応じて、これらの有害事象は、化学療法のさらなる投与を妨げるおそれがあり、または最低でもがん患者に極めて不快な副作用をもたらすおそれがある。腫瘍退縮を伴って化学療法に反応するがん患者にさえ、がんは、化学療法に初期に反応した後すぐ再発することがよくある。このような再発がんは、通常、化学療法に対して非常に耐薬品性または難治性である。
【0004】
がん幹細胞(CSCs、例えば、腫瘍開始細胞、がん幹様細胞、幹様がん細胞、高度腫瘍原性細胞、または超悪性細胞とも呼ばれる)または高度幹細胞性のがん細胞(幹細胞性の高いがん細胞)は、腫瘍の急速な再発や、従来の化学療法に対するさらなる耐薬品性を生じる。また、CSCsは、ほぼ全ての腫瘍タイプに特別の集団として存在し、腫瘍塊を形成するほとんどの分化細胞と、疾患を表現型に特徴付ける分化細胞とを生じることを示す証拠がますます増えている。CSCsは、がんの発生、がんの転移、がんの再発(recurrence)、及びがんのぶり返し(relapse)に根本的に関連していることが証明されている(
図1)。CSCsは、通常の化学療法に対して本質的に耐薬品性があり、これは、CSCsが一般的な腫瘍細胞の大半を死滅させる通常の治療によって残存されることを意味する(
図2)。従って、CSCsの存在は、がん及びその治療に関していくつかの意味を持っている。これらには、例えば、疾患の同定、薬物標的の選択、がんの転移や再発の予防、化学療法および/または放射線療法では難治のがんの治療、化学療法または放射線療法に対して本質的に耐薬品性を持つがんの治療、及び新しい抗がん戦略の開発が含まれる。
【0005】
STAT3は、強力な転写調節因子であり、細胞周期、細胞生存、腫瘍発生、腫瘍浸潤及び転移に関与する多数の標的の遺伝子には、Bcl-xl、c-Myc、サイクリンD1、IDO1、PDL1、VEGF、MMP-2、及びサバイビンが含まれる(
図3)が、これらに限定されない。これらのSTAT3応答性遺伝子の集団表現は、がん幹細胞(CSCs)の生存及び増殖に必要ながん幹細胞の幹細胞性を維持している。従って、STAT3は既にがん幹細胞の生存抑止と転移制御に有望な標的になっている。CSCs活性に耐性を持つSTAT3阻害剤は、がん患者にとって非常に有望である(Boman、 B. M.、 et al. J. Clin. Oncol. 2008. 26(17): p. 2795- 99)。
【0006】
PCT特許WO2009/036059によれば、式(I)の化合物は、
CSCsの成長と生存の阻害剤である。式(I)の化合物は、約0.25 μMの細胞IC
50によりStat3経路活性を阻害する。式(I)の化合物は、PCT特許WO2009/036059の、例えば実施例13に従って合成され得る。一部の実施形態では、式(I)の化合物はがんの治療方法に使用される。PCT特許WO2014/169078の、実施例6によれば、式(I)の化合物は、進行がん患者の治療のための臨床試験に入るために選択される。PCT特許WO2009/036101によれば、式(I)の化合物と別の第2の抗がん剤との2剤併用レジメンは、潜在的な相乗抗がん効果を有する。がんの転移や再発の予防、化学療法および/または放射線療法では難治のがんの治療、化学療法または放射線療法に対して本質的に耐薬品性を持つがんの治療においてCSCs経路を阻害するための新しい抗がん戦略の開発の可能性に基づいて、特定のがん患者のための式(I)の化合物に基づく新しい、取替可能な、そしてより効果的な新しい併用薬治療レジメンをさらに開発する緊急の必要性がある。
【0007】
膵臓がんは、一般的ながんの一種で、疾患の進行が早く、患者の予後が悪く、潜伏性が早期であり、手術切除率が低く、手術後の再発が容易であり、化学療法の効率が低いという特点がある。現在、手術は唯一の可能な治療法であるが、転移性膵臓がんの患者の80%以上は、診断時に既に局所進行に進行されたか、または転移が発生している。手術治療を受けることができる少数の患者にとって、ほとんどは最終的に進行性膵臓がんに進行し、5年生存率は5%未満である(Hidalgo、 2010)。現在、このような切除不能な転移性膵臓がんに対する一次標準化学療法レジメンには、主にFOLFIRINOX(5-フルオロウラシル(5-FU)、ロイコボリン(leucovorin/LV)、イリノテカン(irinotecan)及びオキサリプラチン(oxaliplatin))併用化学療法と、ゲムシタビンとアルブミン結合パクリタキセルの併用化学療法とがあり、前者の未治療の患者に対する生存期間の中央値(mOS)は11.1ヶ月(Conroy、 2011)であり、最近に完了した第II/III相試験MPACT(Von Hoff、 2013)では、後者の併用群のmOSは8.7ヶ月であり、併用群の3年生存率は前例のない4%に達した(Goldstein、 2014)。また、一次治療後も疾患が進行している患者の場合、現在の治療選択肢は非常に限られている。例えば、一次治療でゲムシタビンを使用していない患者の場合、二次治療で標準用量のゲムシタビンを使用して治療することができ、一次治療でゲムシタビンを使用した患者の場合、二次治療で通常に5-FU/LVを選択して治療することができる。一次治療が失敗した後の膵臓がん患者のmOSは、約4~5ヶ月である。Onivydeと5-FU/LVを併用した治療レジメンの最近の研究では、ゲムシタビンベースの一次治療後に進行した転移性膵臓がん患者の場合、併用治療レジメンのmOSが6.1ヶ月に増加したことが示されている(Chen、 2015)。現在、研究者は依然として懸命に努力しており、転移性膵臓がん患者、特に一次治療が失敗した転移性膵臓がん患者の生存状態を改善するための新しい治療レジメンを開発する緊急の必要性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、化学療法難治性がんの治療における新規医薬組成物の用途を開示しており、前記組成物は、治療的有効量の式(I)の化合物
またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、治療的有効量のパクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、を含む。
【0009】
本発明は、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、パクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物とを併用する治療レジメンが、以前の治療に失敗した転移性膵臓がんの患者に抗腫瘍活性と持続的な反応をもたらすことを予期せず発見した。
【0010】
一部の実施形態では、がんの治療を必要とする被験体に、治療的有効量の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、低用量のゲムシタビンまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、治療的有効量のパクリタキセルまたはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を投与することを含むがんの治療方法が、本明細書において開示される。
【0011】
前記式(I)の化合物、低用量のゲムシタビン、及びパクリタキセルは、患者に同時に(simultaneously)、同期に(concurrently)、別々に、および/または順に投与される。従って、特定の実施形態では、前記式(I)の化合物と低用量のゲムシタビンが、患者に同時に、同期に、別々に、および/または順に投与される。特定の実施形態では、前記式(I)の化合物とパクリタキセルが、患者に同時に、同期に、別々に、および/または順に投与される。
【0012】
前記式(I)の化合物は、1日1回または分割量で投与することができる。また、前記治療的有効量の式(I)の化合物は、約80~960 mg、約80~480mgの用量で毎日投与される。さらに、式(I)の化合物は、約80mg、約160mg、または約240 mgの用量で1日2回投与される。前記パクリタキセルは毎週投与することができる。また、パクリタキセルは、毎週10~100mg/m2で投与されてもよい。また、治療的有効量のパクリタキセルは、約80mg/m2、約60mg/m2、約40mg/m2で毎週の注入によって投与される。前記低用量のゲムシタビンは毎週投与されてもよい。また、低用量のゲムシタビンは、毎週100~800mg/m2で投与でき、低用量のゲムシタビンは推奨有効用量の50%未満にすることができる。また、低用量のゲムシタビンは、約600mg/m2、約550mg/m2、約500mg/m2、約450mg/m2、約400mg/m2、約300mg/m2、約200mg/m2または約100mg/m2で毎週の注入によって投与される。
【0013】
一部の実施形態では、がんは、進行性、転移性、切除不能、難治性、または再発性の膵臓がんである。一部の実施形態では、がんは、化学療法難治性の膵臓がんである。一部の実施形態では、がんは、以前の治療後に進行した少なくとも1つの膵臓がんである。一部の実施形態では、がんは、以前の化学療法後に進行した少なくとも1つの膵臓がんである。一部の実施形態では、膵臓がんは膵臓腺がんである。一部の実施形態では、膵臓がんは膵管腺がんである。一部の実施形態では、膵臓がんは、以前の治療後に進行した少なくとも1つの転移性膵臓がんである。
【0014】
一部の実施形態では、被験体を少なくとも1つの治療レジメンに再感作させる方法における医薬組成物の用途が、本明細書において開示され、式(I)を有する化合物、
またはその薬学的に許容される塩及び溶媒和物から選択される治療的有効量の式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0015】
一部の実施形態では、被験体を少なくとも1つの治療レジメンに再感作させる方法が、本明細書において開示され、治療的有効量の式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0016】
一部の実施形態では、被験体を少なくとも1つの以前の治療レジメンに再感作させる方法が、本明細書において開示され、式(I)を有する化合物、
またはその薬学的に許容される塩及び溶媒和物から選択される治療的有効量の式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0017】
一部の実施形態では、被験体を少なくとも1つの以前の治療レジメンに再感作させる方法における医薬組成物の用途が、本明細書において開示され、治療的有効量の式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0018】
一部の実施形態では、被験体を少なくとも1つの以前の治療レジメンに再感作させる方法における医薬組成物の用途が、本明細書において開示され、式(I)を有する化合物、
またはその薬学的に許容される塩及び溶媒和物から選択される治療的有効量の式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0019】
一部の実施形態では、前記少なくとも1つの以前の治療レジメンは、化学療法レジメンから選択される。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの以前の治療レジメンは、ゲムシタビンレジメンから選択される。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの以前の治療レジメンは、ゲムシタビンベースの単剤または併用化学療法レジメンから選択される。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの以前の治療レジメンは、パクリタキセル化学療法レジメンから選択される。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの以前の治療レジメンは、FOLFIRINOX、mFOLFIRINOXまたはGem-Abraxane(ゲムシタビン-アルブミンパクリタキセル)レジメンから選択される。一部の実施形態では、前記少なくとも1つの以前の治療レジメンは、手術、放射線療法、標的治療、免疫療法等の一般的ながん治療レジメンから選択される。
【0020】
一部の実施形態では、被験体を化学療法レジメンに再感作させる方法が、本明細書において開示され、式(I)を有する化合物、
またはその薬学的に許容される塩及び溶媒和物から選択される治療的有効量の式(I)の化合物、低用量のゲムシタビン、及び治療的有効量のパクリタキセルを、それを必要とする被験体に投与することを含む。一部の実施形態では、前記被験体は、以前の治療に失敗した膵臓がん患者である。一部の実施形態では、前記被験体は、以前の治療に失敗した転移性膵臓がん患者である。
【0021】
一部の実施形態では、被験体を化学療法レジメンに再感作させる方法が、本明細書において開示され、治療的有効量の式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0022】
一部の実施形態では、膵臓がん被験体から選択されるがん幹細胞及び不均一ながん細胞の生存および/または増殖を同時に阻害、低減および/または減弱する方法における医薬組成物の用途が、本明細書において開示され、前記方法は、治療的有効量の式(I)の化合物、低用量のゲムシタビン、及び治療的有効量のパクリタキセルを、それを必要とする被験体に投与することを含む。
【0023】
一部の実施形態では、式(I)の化合物、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、及び前述のいずれかの溶媒和物から選択される少なくとも1つの化合物を含むキットが開示される。一部の実施形態では、ゲムシタビン、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、及び前述のいずれかの溶媒和物から選択される少なくとも1つのゲムシタビンを含むキットが開示される。一部の実施形態では、パクリタキセル、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、及び前述のいずれかの溶媒和物から選択される少なくとも1つのパクリタキセルを含むキットが開示される。一部の実施形態では、式(I)の化合物、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、及び前述のいずれかの溶媒和物から選択される少なくとも1つの化合物と、ゲムシタビン、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、及び前述のいずれかの溶媒和物から選択される少なくとも1つのゲムシタビンと、パクリタキセル、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、及び前述のいずれかの溶媒和物から選択される少なくとも1つのパクリタキセルと、を含むキットが開示される。
【0024】
本明細書に開示される態様及び実施形態は、本発明の以下の詳細な記載で説明されるか、またはその記載により明らかになる。なお、前述の要約及び以下の詳細な説明は、例示的かつ解釈的なものに過ぎず、特許請求の範囲を制限することを意図するものではないことを理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】がん幹細胞から形成される不均一ながん細胞を示す。
【
図2】がん幹細胞の特異的な治療法と通常のがん治療法を示す。
【
図4】本明細書に開示される特定の実施形態による、異種移植腫瘍マウスモデルにおける腫瘍体積に対する、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン、ゲムシタビン(Gemzer)、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンとゲムシタビン併用の治療の例示的な効果を示す。
【
図5】膵臓がんのがん幹細胞(Panc-1)における、in vitroでのがん幹細胞性マーカーp-Stat3及びβ-cateninのタンパク質レベルに対する、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン、パクリタキセル、及び2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンとパクリタキセル併用の治療効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下は、本明細書で使用される用語の定義である。本明細書における群または用語によって提供される初期定義は、別段に示されない限り、本明細書を通してその群もしくは用語に個々に、または別の群の一部として適用される。
【0027】
「約」という用語が数値範囲と併用される場合、この用語は、その境界を、それらの数値より上および下に拡大することによって、その範囲を修正する。一般に本明細書では、「約」という用語は、ある数値を、記載値より上および下に、20%、10%、5%、または1%の分散率によって修正するために使用される。一部の実施形態では、「約」という用語は、ある数値を、記載値より上および下に、10%の分散率によって修正するために使用される。一部の実施形態では、「約」という用語は、ある数値を、記載値より上および下に、5%の分散率によって修正するために使用される。一部の実施形態では、「約」という用語は、ある数値を、記載値より上および下に、1%の分散率によって修正するために使用される。「未満」という用語が数値範囲と組み合わせて使用される場合、その範囲を除く当該範囲よりも小さい各選択可能な数値とサブ範囲をカバーすることを意図している。例えば、「5mg未満」とは、1mg、2mg、3mg、4mgを含むことを意味する。一部の実施例では、600 mg/m2未満での投与は、599mg/m2での投与、598mg/m2での投与等を含む。
【0028】
本明細書および特許請求の範囲で使用される「および/または」という句は、そのように結合した要素、すなわちある場合には接続的に存在し、他の場合には離接的に存在する要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきである。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などの制限がない言葉と併用される場合、一実施形態ではAだけ(任意選択でB以外の要素を含む)を指し、別の実施形態ではBだけ(任意選択でA以外の要素を含む)を指し、さらに別の実施形態ではAおよびBの両方(任意選択で他の要素を含む)等を指すことができる。本明細書で一連の数値が列挙される場合、その範囲内の各数値およびサブ範囲を含むことを意図する。例えば、「1~5mg」は、1mg、2mg、3mg、4mg、5mg、1~2mg、1~3mg、1~4mg、1~5mg、2~3mg、2~4mg、2~5mg、3~4mg、3~5mg、および4~5mgを含むことを意図する。
【0029】
「投与する」、「投与すること」または「投与」という用語は、本明細書では、最も広範な意味で使用される。これらの用語は、本明細書に記載される化合物または医薬組成物を、被験体に導入する任意の方法を指し、例えば、化合物を、被験体に全身的に、局所的にまたはin situで導入することを含み得る。したがって、組成物(その組成物が化合物を含むかどうかに関わらず)から被験体のin vivoで生成される本開示の化合物は、これらの用語に含まれる。これらの用語は、「全身」または「全身的に」という用語と関連して使用される場合、一般に、血流中の化合物または組成物のin vivoでの全身吸収または蓄積、その後の全身にわたる分布を指す。
【0030】
「被験体」という用語は、一般に、本明細書に記載される化合物または医薬組成物が投与され得る生物を指す。被験体は、ヒトまたはヒト細胞を含めた、哺乳動物または哺乳動物細胞であり得る。またこの用語は、細胞、またはこのような細胞のドナーもしくはレシピエントを含む生物を指す。様々な実施形態では、「被験体」という用語は、本明細書に記載される化合物または医薬組成物のレシピエントとなるべき、ヒト、哺乳動物および非哺乳動物、例えば非ヒト霊長類、マウス、ウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、爬虫類、魚、線虫、および昆虫を含めた任意の動物(例えば、哺乳動物)を指すが、それらに限定されない。ある状況において、ヒト被験体に言及する「被験体」および「患者」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0031】
本明細書で使用される「治療的有効量」という用語は、当技術分野で一般に許容される通りのその意味を指す。この用語は、一般に、細胞、組織、系、動物またはヒトにおいて必須の生物学的または医学的反応を誘発する、化合物または組成物の量を指す。例えば、疾患または障害と関連する測定可能なパラメータが少なくとも約25%低下すると所与の臨床治療が有効とみなされる場合、その疾患または障害を治療するための薬物の治療的有効量は、そのパラメータを少なくとも約25%低下するのに必要な量である。
【0032】
がんの治療において、「治療的有効量」とは、以下の効果の1つまたは複数を引き出すことができる量を意味する:(1)成長の緩徐または完全な成長停止を含む、がんもしくは腫瘍の成長をある程度に阻害すること、(2)がんもしくは腫瘍細胞の数を減少すること、(3)腫瘍サイズを減少すること、(4)末梢臓器へのがんもしくは腫瘍細胞の浸潤を阻害する(すなわち、低減、緩徐、または完全に停止する)こと、(5)転移を阻害する(すなわち、低減、緩徐、または完全に停止する)こと、(6)腫瘍の退縮もしくは拒絶をもたらし得るが必須ではなく、抗腫瘍免疫応答を増強すること、または(7)がんもしくは腫瘍と関連する1つもしくは複数の測定可能な症状からのある程度に解放されること。一部の実施形態では、「治療的有効量」は、全身的に、局所的に、またはin situで投与される量(例えば、被験体においてin situで生成される化合物の量)を指す。治療的有効量は、個体の病状、年齢、性別、および体重、ならびに個体において所望の応答を誘発する1種または複数種の抗がん剤の能力などの要因に応じて変化し得る。また「治療的有効量」は、任意の毒性または有害効果よりも、治療上有益な効果が上回る量でもある。
【0033】
本明細書で使用される「治療すること(treating)」、「治療(treatment)」、「治療する(to treat」、「軽減すること(alleviating)」または「軽減する(to alleviate)」という用語は、(1)症状の治癒、緩徐、軽減、および/または診断が停止された病理学的状態または障害の進行と、(2)標的とされる病理学的状態または障害の進行を予防または緩徐する予防的(prophylactic)または予防(preventative)措置(「予防すること」または「予防する」)とを指す。したがって治療を必要とするものには、既にそのような障害を有しているもの、障害になりやすいもの、および障害を予防する必要があるものが含まれる。
【0034】
「がんを治療すること」、「がんの治療」という用語またはそれらと等価な語句は、がん細胞の複製を低減、減少もしくは阻害すること、がんの広がり(転移の形成)を低減、減少もしくは阻害すること、腫瘍サイズを低減すること、腫瘍の数を低減すること(すなわち腫瘍の負荷を低減すること)、体内のがん細胞の数を低下もしくは減少させること、外科的切除もしくは他の抗がん治療後のがんの再発を予防すること、および/または測定可能な治療エンドポイント(すなわち、結果)を改善することを意味する。
【0035】
本明細書のように、「標準治療」という用語は本分野で認識されている用語であり、臨床で広く使用されているがん治療法を指すものと理解され、通常、化学療法でがんを治療することを指し、手術および/または放射線療法と組み合わせることができる。その具体的なレジメンとして、米国がん研究所(National Cancer Institute、 www.cancer.gov)、米国臨床腫瘍学会(American Society for Clinical Oncology、 www.asco.org)、及び米国総合がんセンターネットワーク(National Comprehensive Cancer Network、 www.nccn.org)等によって維持されているWebサイトで見つけることができる。一部の実施形態では、「一次治療」または「一次療法」という用語は、本分野で認識されている用語であり、疾患の最初の治療を指すと理解され、通常、標準治療レジメンの一部である。例えば手術治療及びその後に実行する化学療法及び放射線療法を最良の治療法として使用し、初級の治療または初級の療法とも呼ばれる。一部の実施形態では、「二次治療」または「二次療法」という用語は、本分野で認識されている用語であり、最初または初級の治療(一次または初級の療法)が機能しない、または機能しなくなった時に行われる化学療法治療を意味すると理解され、手術、放射線療法および/または免疫療法と組み合わせることもできる。本明細書のように、「以前の治療」という用語は、本発明の治療レジメンを受ける前に患者が受けた疾患に対する全ての治療を含むことができる。例えば、一次治療、二次治療、三次治療等を含むが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される「相乗作用」、「相乗的」、「相乗的に」または「増強された」という用語は、2つまたはそれ以上の構成成分の相互作用または組合せの効果が、それらの別個の効果の総和(または「相加効果」)を上回ることを指す。
【0037】
「がん」という用語は、細胞にがんを引き起こす典型的な細胞特徴、例えば、制御不能な増殖、不死、転移能、急速な成長および増殖速度、ならびに特定の形態学的特徴などが存在することを指す。通常、がん細胞は、腫瘍または塊の形態であるが、このような細胞は、被験体内に単独で存在する場合があるか、または白血病もしくはリンパ腫細胞などの独立な細胞として血流中を循環する場合がある。
【0038】
「がん」という用語は、例えば、AIDS(エイズ)関連がん、乳がん、消化/胃腸管がん、内分泌および神経内分泌がん、眼がん、尿生殖器系がん、胚細胞がん、婦人科がん、頭頸部がん、血液系がん、筋骨格がん、神経系がん、呼吸器/胸部がん、皮膚がん、小児期がん、ならびに原発不明のがんを含む。
【0039】
例示的なAIDS関連がんとして、AIDS関連リンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫およびカポジ肉腫が挙げられるが、それらに限定されない。
【0040】
消化/胃腸管の例示的ながんとして、肛門がん、肛門領域がん、虫垂がん、胃腸良性がん腫瘍、胆管がん、カルチノイド腫瘍、胃腸管がん、結腸がん、食道がん、胆嚢がん、胃腸管間質腫瘍(GIST)、膵島細胞腫瘍、膵臓神経内分泌腫瘍、肝臓がん、膵臓がん、直腸がん、結腸直腸腺がん、小腸がん、胃食道接合部(GEJ)がん、胃腺がんおよび胃がんが挙げられるが、それらに限定されない。
【0041】
例示的な内分泌がんおよび神経内分泌がんとして、副腎皮質がん、胃腸管カルチノイド腫瘍、膵島細胞腫瘍、膵臓神経内分泌腫瘍、副腎皮質がん、メルケル細胞がん、非小細胞肺神経内分泌腫瘍、小細胞肺神経内分泌腫瘍、副甲状腺がん、褐色細胞腫、下垂体腫瘍、および甲状腺がんが挙げられるが、それらに限定されない。
【0042】
例示的な尿生殖器系がんとして、膀胱がん、腎臓(腎細胞)がん、陰茎がん、前立腺がん、腎盂および尿管がん、移行細胞がん、精巣がん、尿道がん、ウィルムス腫瘍、ならびに他の小児期腎臓腫瘍が挙げられるが、それらに限定されない。
【0043】
例示的な婦人科がんとして、子宮頸がん、子宮内膜がん、子宮がん、卵管がん、妊娠性栄養芽細胞腫、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞腫瘍、低悪性度の潜在的な卵巣腫瘍、原発性腹膜がん、子宮肉腫、腟がんおよび外陰がんが挙げられるが、それらに限定されない。
【0044】
例示的な頭頸部がんとして、下咽頭がん、喉頭がん、唇および口腔がん、原発潜在性転移性扁平上皮頸部がん、口がん、上咽頭がん、口腔がん、唇および口腔咽頭がん、副鼻腔および鼻腔がん、副甲状腺がん、咽頭がん、唾液腺がん、咽喉がん、ならびに甲状腺がんが挙げられるが、それらに限定されない。
【0045】
例示的な血液系がんとして、白血病、急性リンパ芽球性白血病、成人急性リンパ芽球性白血病、小児期急性リンパ芽球性白血病、成人急性骨髄性白血病、小児期急性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、有毛細胞白血病、リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫、成人ホジキンリンパ腫、小児期ホジキンリンパ腫、妊娠中のホジキンリンパ腫、菌状息肉症、小児期非ホジキンリンパ腫、成人非ホジキンリンパ腫、妊娠中の非ホジキンリンパ腫、原発性中枢神経系リンパ腫、セザリー(Sezary)症候群、皮膚T細胞リンパ腫、ワルデンストレーム(Waldenstrom)マクログロブリン血症、慢性骨髄増殖性腫瘍、ランゲルハンス(Langerhans)細胞組織増殖、多発性骨髄腫/形質細胞腫、骨髄異形成症候群および骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍が挙げられるが、それらに限定されない。
【0046】
例示的な筋骨格がんとして、骨がん、ユーイング肉腫、骨肉腫、骨の悪性線維性組織球腫、小児期横紋筋肉腫、軟骨肉腫および軟組織肉腫が挙げられるが、それらに限定されない。
【0047】
例示的な神経性がんとして、成人脳腫瘍、小児期脳腫瘍、星状細胞腫、脳および脊髄腫瘍、脳幹神経膠腫、多形神経膠芽腫、非定型奇形腫様/横紋筋中枢神経系腫瘍、胚性中枢神経系腫瘍、胚細胞中枢神経系腫瘍、星状細胞腫、上衣腫、シュワン細胞腫、髄芽細胞腫、髄膜腫頭蓋咽頭腫、神経芽細胞腫、下垂体腫瘍、下垂体腺腫、ならびに原発性中枢神経系(CNS)リンパ腫が挙げられるが、それらに限定されない。
【0048】
例示的な呼吸器/胸部がんとして、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、悪性中皮腫、胸腺腫および胸腺がんが挙げられるが、それらに限定されない。
【0049】
例示的な皮膚がんとして、皮膚T細胞リンパ腫、カポジ肉腫、黒色腫、メルケル細胞がん、皮膚がん、皮膚T細胞リンパ腫、菌状息肉症、眼内黒色腫およびセザリー症候群が挙げられるが、それらに限定されない。
【0050】
がんには、上記がんのいずれかの難治性のもの、または上記がんの1つもしくは複数の組合せが含まれる。例示されるがんの一部は、一般用語及びこの用語に含まれる。例えば、泌尿器系がんの一般用語には、膀胱がん、前立腺がん、腎臓がん、精巣がん等が含まれ、肝胆道がんの別の一般用語には、肝臓がん(それ自体が、肝細胞がんまたは胆管細胞がんを含む一般用語である)、胆嚢がん、胆道がん、または膵臓がんが含まれる。泌尿器系がんと肝胆道がんの両方は、本発明によってカバーされ、「がん」という用語に含まれる。
【0051】
「がん」という用語には、「固形腫瘍」も含まれる。本明細書で使用される場合、「固形腫瘍」という用語は、肉腫、がん腫、およびリンパ腫などの異常な腫瘍塊を形成する、がんなどの状態を指す。固形腫瘍の例として、非小細胞肺がん(NSCLC)、神経内分泌腫瘍、甲状腺腫、線維性腫瘍、転移性結腸直腸がん(mCRC)等が挙げられるが、それらに限定されない。一部の実施形態では、固形腫瘍疾患は、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん等である。
【0052】
一部の実施形態では、がんは、膵臓がん、胃腺がん、胃食道接合部(GEJ)腺がん、胃食道腺がん、非小細胞肺がん(NSCLC)、乳がん、トリプルネガティブ乳がん(TNBC;すなわち、エストロゲン受容体(ER-)、プロゲステロン受容体(PR-)、およびHER2(CD340(分化グループ340)、がん原遺伝子Neu、ERBB2(ヒト)としても呼ばれる受容体チロシン-タンパク質キナーゼerbB-2;HER2-)に対する試験でネガティブとされる乳がん)、卵巣がん、プラチナ製剤抵抗性(platinum-resistant)卵巣がん(PROC)、黒色腫、小細胞肺がん、および胆管がんから選択される。一部の実施形態では、がんは、膵臓がんである。一部の実施形態では、がんは、膵管腺がんである。
【0053】
例示的な膵臓神経内分泌腫瘍(膵臓NETsまたはPNETs)として、ガストリノーマ(Zollinger-Ellison症候群)、グルカゴノーマ、インスリノーマ(insulinoma)、ソマトスタチノーマ、VIPomas(Verner-Morrison症候群)、水様性下痢および低カリウム血症無酸症(WDHA)、非機能性膵島細胞腫瘍、ならびに多発性内分泌腺腫瘍1型(MEN1;ウェルマー(Wermer)症候群とも呼ばれる)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0054】
例示的な膵臓外分泌腫瘍として、腺がん、膵管腺がん(PDAC)、腺房細胞がん、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腺がん、固形偽性乳頭状(pseudopapillary)腫瘍および膵臓芽細胞腫が挙げられるが、それらに限定されない。
【0055】
一部の実施形態では、がんは、切除不能、進行性、難治性、再発性、または転移性である。
【0056】
本明細書で使用される「進行する」、「進行した」および「進行」という用語は、以下の少なくとも1つを指す:(1)進行性疾患(PD)の以前の治療(例えば、化学療法)に対する応答、(2)以前の治療(例えば、化学療法)後に1つまたは複数の新しい病変の出現、および(3)研究で最小の合計(ベースライン合計が研究で最小の合計である場合には、そのベースライン合計を含む)を参照として、標的病変の直径の合計の少なくとも5%(例えば、10%、20%)の増大、及び(4)非標的病変が明らかに進行すること。
【0057】
本明細書で使用される場合、「感作すること(sensitizing)」という用語またはそれと等価な語句(例えば、「感作する(sensitize)」または「感作(sensitization)」)は、以前の治療レジメン(例えば、従来の化学療法、標的化治療、または免疫療法)に対して、既に抵抗性、非応答性またはわずかに応答性であった被験体を、以前の治療レジメンに対して感受性、応答性またはより応答性にすることを意味する。特定の実施形態では、「感作すること」という用語またはそれと等価な語句には、ある治療レジメンへの以前の曝露によって、当該治療レジメン(例えば、従来の化学療法、標的化治療、または免疫療法)に対して抵抗性、非応答性またはわずかに応答性となった被験体を、その治療レジメンに対して感受性、応答性またはより応答性にする、「再感作すること」またはそれと等価な語句が含まれる。
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つの式(I)の化合物」という用語は、式(I)を有する化合物の
プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、および前述のいずれかの溶媒和物から選択される化合物を意味する。「式(I)の化合物」という用語は、式(I)を有する化合物
またはその薬学的に許容される塩及び溶媒和物から選択される化合物を意味する。
【0058】
一部の実施形態では、式(I)を有する化合物のプロドラッグまたは誘導体は、STAT3阻害剤である。式(I)を有する化合物のプロドラッグの非限定的な例として、PCT特許 WO2009/036099に化合物番号4011および4012であるリン酸エステルおよびリン酸ジエステルが記載され、米国特許第9,150,530号に記載されている適切な化合物でもある。式(I)を有する化合物の誘導体の非限定的な例として、PCT特許WO2009/036059に開示されている誘導体が挙げられる。PCT特許WO2009/036099、WO2009/036059、ならびに米国特許第9,150,530号の開示は、任意の目的のためにそれらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0059】
以下に示すように、式(I)を有する化合物は、
2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン、ナパブカシン(napabucasin)、またはその互変異性体を含む。
【0060】
2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン(その結晶形および他のがん幹細胞阻害剤を含む)を調製する適切な方法は、既にPCT出願であるWO2009/036099、WO2009/036101、WO2011/116398、WO2011/116399、およびWO2014/169078に記載され、以上の各出願の内容は、任意の目的でその全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つのゲムシタビン」という用語は、ゲムシタビン、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、および前述のいずれかの溶媒和物から選択される化合物を意味する。一部の実施形態では、前記「ゲムシタビン」は、ゲムシタビン、またはその薬学的に許容される塩および溶媒和物から選択される化合物を意味する。
【0062】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つのパクリタキセル」という用語は、パクリタキセル、プロドラッグ、誘導体、前述のいずれかの薬学的に許容される塩、および前述のいずれかの溶媒和物から選択される化合物を意味する。「パクリタキセル」という用語は、パクリタキセル、またはその薬学的に許容される塩及び溶媒和物から選択される化合物を意味する。一部の実施形態では、前記「パクリタキセル」とは、中国食品薬品監督管理局(現在の国家薬品監督管理局)によって製造を承認されたパクリタキセル注射剤を指す。
【0063】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語に含まれる「式(I)の化合物」、「パクリタキセル」、「ゲムシタビン」は、一緒に混合して単一の投薬単位を形成してもよく、それぞれが独立的に投薬単位になってもよい。これらの有効成分は、一緒に、同時に、前後に、連続的に、そして別々に使用することができる。
【0064】
「塩」という用語は、本明細書で使用される場合、無機および/または有機の酸および塩基で形成された酸性塩および/または塩基性塩を含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」という用語は、良好な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応および/または同様の状態なしに被験体の組織と接触させて使用するのに適している塩を指し、合理的な利益/リスク比を有する。薬学的に許容される塩は、当技術分野で周知である。例えば、Bergeらは、J. Pharmaceutical Sciences、66:1~19(1977)で薬学的に許容される塩を詳説している。
【0065】
薬学的に許容される塩は、無機酸または有機酸から調製され得る。適切な無機酸の非限定的な例として、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸が挙げられる。適切な有機酸の非限定的な例として、酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、およびマロン酸が挙げられる。適切な薬学的に許容される塩の他の非限定的な例として、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩(benzenesulfonate)、ベシル酸塩(besylate)、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、ショウノウ酸塩、ショウノウスルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、および吉草酸塩が挙げられる。一部の実施形態では、塩が誘導され得る有機酸には、例えば、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、乳酸、トリフルオロ酢酸(trifluoracetic acid)、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、およびサリチル酸が含まれる。
【0066】
塩は、本明細書に開示される化合物の単離および精製中にin situで調製され得、または化合物を適切な塩基もしくは酸とそれぞれ反応させることなどによって別個に調製され得る。塩基から誘導された薬学的に許容される塩の非限定的な例として、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩およびN+(C1~4アルキル)4塩が挙げられる。適切なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩の非限定的な例として、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、マンガン塩、およびアルミニウム塩が挙げられる。適切な薬学的に許容される塩のさらなる非限定的な例として、適切な場合、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩、およびアリールスルホン酸塩等の対イオンを使用して形成された非毒性のアンモニウム、第四級アンモニウム、およびアミンカチオンが挙げられる。塩が誘導され得る適切な有機塩基の非限定的な例として、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、置換アミン(天然に存在する置換アミンを含む)、環状アミン、および塩基性イオン交換樹脂(イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびエタノールアミン等)が挙げられる。一部の実施形態では、薬学的に許容される塩基付加塩は、アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、およびマグネシウム塩から選択され得る。
【0067】
「溶媒和物」という用語は、本明細書に開示される1つまたは複数の化合物分子と1つまたは複数の溶媒分子または溶媒を含む凝集物を表す。本明細書に開示される化合物の溶媒和物には、例えば水和物が含まれる。
【0068】
本明細書で使用される「低用量」という用語は、標準治療用量よりも低い用量での治療的有効量を指す。例えば、ゲムシタビンの推奨される標準用量は1000~1200 mg/m2である。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビンは、約800mg/m2、約600mg/m2、約550mg/m2、約500mg/m2、約450mg/m2、約400mg/m2、約350mg/m2、約300mg/m2、約250mg/m2、約200mg/m2、約150mg/m2または約100mg/m2未満で毎週投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビンは、推奨有効用量の50%以下である。
【0069】
一部の実施形態では、ゲムシタビン及びパクリタキセルは、レジメンに従って、28日サイクルごとの1、8及び15日目に投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビン(例えば、約600mg/m2、約550mg/m2、約500mg/m2、約450mg/m2、約400mg/m2、約350mg/m2、約300mg/m2、約250mg/m2、約200mg/m2、約150mg/m2または約100mg/m2)が毎週投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビン(例えば、約600mg/m2、約550mg/m2、約500mg/m2、約450mg/m2、約400mg/m2、約350mg/m2、約300mg/m2、約250mg/m2、約200mg/m2、約150mg/m2または約100mg/m2)が7週間まで毎週投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビン(例えば、約600mg/m2、約550mg/m2、約500mg/m2、約450mg/m2、約400mg/m2、約350mg/m2、約300mg/m2、約250mg/m2、約200mg/m2、約150mg/m2または約100mg/m2)が4週間のうち3週間に毎週投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビンが100~800mg/m2、好ましくは100~600mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビンが約800mg/m2、約600mg/m2、約300mg/m2、または約100mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、低用量のゲムシタビンが600mg/m2未満で毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルが約100 mg/m2、約80 mg/m2、約70 mg/m2、約60 mg/m2、約50 mg/m2、約40 mg/m2、約30 mg/m2、約20 mg/m2、または約10 mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルが約100 mg/m2、約80 mg/m2、約70 mg/m2、約60 mg/m2、約50 mg/m2、約40 mg/m2、約30 mg/m2、約20 mg/m2、または約10 mg/m2で7週間まで毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルが約100 mg/m2、約80 mg/m2、約70 mg/m2、約60 mg/m2、約50 mg/m2、約40 mg/m2、約30 mg/m2、約20 mg/m2、または約10 mg/m2で4週間のうち3週間に毎週投与される。一部の実施形態では、4週間のうち3週間、パクリタキセルが約100 mg/m2、約80 mg/m2、約70 mg/m2、約60 mg/m2、約50 mg/m2、約40 mg/m2、約30 mg/m2、約20 mg/m2、または約10 mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルが10~100mg/m2、好ましくは40~80mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルが約80mg/m2、約60mg/m2、または約40mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルが80mg/m2未満で毎週投与される。一部の実施形態では、パクリタキセルがレジメンに従って80 mg/m2で静脈内投与され、同じ日に式(I)の化合物を服用してから少なくとも2時間後に開始し、注入は約60分間続けて行う。一部の実施形態では、ゲムシタビンは、レジメンに従ってパクリタキセルの注入直後に600 mg/m2で静脈内投与を開始し、約30~60分間続けて行う。
【0070】
一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約80mg~約960mgの範囲の1日総用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約80mg~約480mgの範囲の1日総用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約160mg~約480mgの範囲の1日総用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物の1日総用量は、1日1回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、1日あたり約480mgの用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、1日あたり約400mgの用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、1日あたり約320mgの用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、1日あたり約240mgの用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、1日あたり約160mgの用量で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物の総量は、分割用量で1日1回を超えて、例えば、1日2回(BID)またはそれ以上の頻度で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約80mg~480mgの範囲の1日総用量で1日2回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約80mg~240mgの範囲の1日総用量で1日2回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約240mgの1日総用量で1日2回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約480mgの1日総用量で1日2回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約160mgの1日総用量で1日2回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約80mgの1日総用量で1日2回投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約240mgで1日2回、8~12時間の間隔で投与される。一部の実施形態では、式(I)の化合物は、約80mgで1日2回、8~12時間の間隔で投与される。
【0071】
本明細書に開示される化合物は、医薬組成物(医薬製剤)の形態であり得る。一部の実施形態では、当該医薬組成物(医薬製剤)は、式(I)の化合物と少なくとも1つの薬学的に許容される担体を含み得る。一部の実施形態では、当該医薬組成物(医薬製剤)は、式(I)の化合物、パクリタキセル、及び低用量のゲムシタビンを含み得る。一部の実施形態では、当該医薬組成物(医薬製剤)は、式(I)の化合物とパクリタキセルを含み得る。一部の実施形態では、当該医薬組成物(医薬製剤)は、式(I)の化合物と低用量のゲムシタビンを含み得る。
【0072】
本明細書で使用される「担体」という用語は、薬学的に許容される材料、組成物またはビヒクル、例えば、対象医薬化合物をある臓器もしくは身体部分から別の臓器もしくは身体部分に運搬もしくは輸送することに関与するか、またはそうすることができる液体または固体充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、あるいは被包材料などを意味する。各担体は、製剤中の他の成分と適合することができ、患者にとって有害でないという意味で「許容され」なければならない。薬学的に許容される担体および/または希釈剤の非限定的な例として、糖、例えばラクトース、グルコースおよびスクロース;デンプン、例えばトウモロコシデンプンおよびバレイショデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロースおよび酢酸セルロース;粉末化トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;賦形剤、例えばカカオバターおよび坐剤ワックス;油、例えばピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油および大豆油;グリコール、例えばプロピレングリコール;ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール;エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;寒天;緩衝剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張食塩水;リンガー液;エタノール;リン酸緩衝液;ならびに医薬製剤で用いられる他の適合性のある非毒性物質が挙げられる。湿潤剤、乳化剤および滑沢剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウムおよびポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマー)、ならびに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤および賦香剤、保存剤、ならびに抗酸化剤も、組成物中に存在し得る。
【0073】
本明細書に開示される医薬組成物(医薬製剤)は、経口投与に適したものであり、その形態は、カプセル、カシェ剤、丸剤、錠剤、トローチ剤(風味付け基剤、通常スクロースおよびアカシアまたはトラガカントを使用する)、散剤、顆粒剤、水性もしくは非水性液体中の液剤、水性もしくは非水性液体中の懸濁液、水中油乳剤、油中水乳剤、エリキシル剤、シロップ剤、トローチ剤(pastille)(不活性基剤、例えばゼラチン、グリセリン、スクロース、および/またはアカシアを使用する)および/または含嗽剤であり得る。各形態は、いずれも所定量の少なくとも1つの式(I)の化合物を含む。
【0074】
本明細書に開示される医薬組成物(医薬製剤)は、丸剤、舐剤、またはペースト剤として投与され得る。
【0075】
経口投与のための固体剤形(カプセル、錠剤、丸剤、糖衣錠、散剤、顆粒剤等)は、1種または複数種の薬学的に許容される担体、例えばクエン酸ナトリウムもしくはリン酸二カルシウムおよび/または以下のいずれか:充填剤もしくは増量剤、例えばデンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、および/またはケイ酸;結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよび/またはアカシアなど;保湿剤、例えばグリセロール;崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウム、バレイショもしくはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、炭酸ナトリウム、およびデンプングリコール酸ナトリウム;溶解遅延剤、例えばパラフィン;吸収促進剤、例えば第四級アンモニウム化合物;湿潤剤、例えば、セチルアルコール、グリセロールモノステアレート、およびポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシドコポリマーなど;吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土;滑沢剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびそれらの混合物;ならびに着色剤と混合され得る。カプセル、錠剤および丸剤の場合、医薬組成物は、緩衝剤も含み得る。ラクトース(lactose)または乳糖(milk sugars)、ならびに高分子量ポリエチレングリコール等の賦形剤を使用して、同様のタイプの固体組成物を、軟質および硬質充填ゼラチンカプセルにおける充填剤として用いることもできる。
【0076】
経口投与のための液体剤形には、薬学的に許容される乳剤、マイクロ乳剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤およびエリキシル剤が含まれ得る。液体剤形は、活性成分に加えて、当技術分野で一般に使用される不活性希釈剤、例えば水または他の溶媒、可溶化剤および乳化剤、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、油(特に、綿実油、落花生油、コーン油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油)、グリセロール、テトラヒドロフリルアルコール、ポリエチレングリコールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物などを含有し得る。さらに、化合物を可溶化するために、シクロデキストリン(例えばヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン)が使用され得る。
【0077】
医薬組成物(医薬製剤)は、例えば、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味剤、香味剤、着色剤、賦香剤、ならびに保存剤等のアジュバントも含み得る。懸濁液は、本発明による化合物に加えて、懸濁剤、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天およびトラガカント、ならびにそれらの混合物などを含有し得る。
【0078】
本明細書に開示される医薬組成物(医薬製剤)は、坐剤として直腸または膣内投与することができる。この坐剤は、本発明による1種または複数種の本明細書に開示される化合物を、例えば、カカオバター、ポリエチレングリコール、坐剤ワックスまたはサリチレートを含み、室温では固体であるが体温で液体になり、したがって直腸または膣腔内で溶融し、本開示の活性剤を放出する、1種または複数種の適切な非刺激性の賦形剤または担体と混合することによって調製され得る。膣内投与に適した医薬組成物には、当技術分野で適切であることが公知の担体を含有する、膣坐剤、タンポン、クリーム剤、ゲル剤、ペースト剤、泡状物質またはスプレー製剤も含まれ得る。
【0079】
本明細書に開示される医薬組成物(医薬製剤)または医薬錠剤は、局所または経皮投与のための剤形に用いられ、散剤、スプレー剤、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、液剤、パッチ剤および吸入剤が含まれ得る。医薬組成物または医薬錠剤は、薬学的に許容される担体、および必要とされ得る任意の保存剤、緩衝液または噴霧剤と、無菌条件下で混合され得る。
【0080】
軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤およびゲル剤は、本明細書に開示される医薬組成物(医薬製剤)または医薬錠剤に加えて、動物性および植物性脂肪、油、ワックス、パラフィン、デンプン、トラガカント、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリシロキサン、ベントナイト、ケイ酸、タルクおよび酸化亜鉛、またはそれらの混合物などの賦形剤を含有し得る。
【0081】
散剤およびスプレー剤は、本明細書に開示される医薬組成物(医薬製剤)または医薬錠剤に加えて、ラクトース、タルク、ケイ酸、水酸化アルミニウム、ケイ酸カルシウムおよびポリアミド粉末、またはこれらの物質の混合物などの賦形剤を含有し得る。さらに、スプレー剤は、通常の噴霧剤(例えばクロロフルオロ炭化水素)および揮発性の非置換炭化水素(例えばブタンおよびプロパン)を含有し得る。
【0082】
眼科用製剤、眼軟膏、散剤、液剤等も、本明細書に開示される範囲に含まれる。
【0083】
非経口投与に適した組成物(医薬製剤)は、少なくとも1つの薬学的に許容される無菌等張水性もしくは非水性液剤、分散剤(dispersion)、懸濁剤もしくは乳剤、または滅菌散剤(使用直前に注入可能な滅菌液剤もしくは分散剤に再構築され得る)を含むことができ、これらは、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、製剤を指定されるレシピエントの血液と等張にする溶質または懸濁化剤もしくは増粘剤を含有し得る。
【0084】
様々な実施形態では、本明細書に記載された式(I)の化合物は、医薬組成物に含まれている。当該医薬組成物(医薬製剤)は、式(I)の化合物及びその薬学的に許容される塩及びその溶媒和物、及び1つまたは複数の界面活性剤から選択される化合物を含む。一部の実施形態では、界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、または1種もしくは複数種のポリオキシグリセリド(polyoxylglyceride)である。例えば、ポリオキシグリセリドは、ラウロイルポリオキシグリセリド(Gelucire(商標)と呼ばれることもある)またはリノレオイルポリオキシグリセリド(Labrafil(商標)と呼ばれることもある)であり得る。このような組成物の例は、その内容全体が本明細書に組み込まれる、PCT特許WO2014/169078に示されている。
【0085】
CSCsには、悪性腫瘍を引き起こすと考えられる、幹細胞性、幹細胞性シグナル伝達経路の調節不全、従来のがん治療に対する抵抗性、及び転移傾向という少なくとも4つの特性が含まれる。本明細書で使用される場合、「幹細胞性」は一般的に自己複製し、がん幹細胞に形質転換する幹細胞集団の能力を意味する(Gupta PBら、Nat. Med. 2009年;15巻(9号):1010~1012頁)。CSCsは、腫瘍におけるがん細胞集団のごく一部しか占めていない(Clarke MF、Biol. Blood Marrow Transplant. 2009年;11巻(2号、付録2):14~16頁)が、腫瘍の大半を構成する、分化したがん細胞の不均一な系列を生じる可能性がある(Guptaら、2009年)。さらに、CSCsは、体の様々な部位に移動し、そこで新しい腫瘍の成長を結実する能力を有する(Jordan CTら、N. Engl. J. Med. 2006年;355巻(12号):1253~1261頁)。
【0086】
CSCsにおける幹細胞特性の誘導および維持は、幹細胞性シグナル伝達経路の進行性調節不全によって引き起こされる。当該シグナル伝達経路は、ヤヌス(Janus)キナーゼ/シグナル伝達兼転写活性化因子(JAK/STAT)、Hedgehog(Desert(DHH)、Indian(IHH)、およびSonic(SHH))/PATCHED/(PTCH1)/SMOOTHENED(SMO)、NOTCH/DELTA-LIKE(DLL1、DLL3、DLL4)/JAGGED(JAG1、JAG2)/CSL(CBF1/Su(H)/Lag-1)、WNT/APC/GSK3/P-CATENIN/TCF4およびNANOGと関連するシグナル伝達経路(Boman BMら、J. Clin. Oncol. 2008年;26巻(17号):2828~2838頁)を含むが、それらに限定されるものではない。
【0087】
CSCsにおけるこれらの幹細胞性シグナル伝達経路の異常な調節(Bomanら、2008年)が、化学療法および放射線療法に対するCSCsの抵抗性をもたらし、最終的にがんの再発および伝播をもたらすと推定される。したがって、化学療法および放射線療法は、腫瘍において急速に分裂する大量のがん細胞のほとんどを死滅することができるが、CSCsにおける幹細胞性シグナル伝達経路の調節不全によって、CSCsは化学療法および放射線療法によって誘導される細胞死を回避できるようになり、生き残ったCSCsが、原発腫瘍から遠位にある体内部位に転移する能力をどのようにして獲得するかについても説明することができる。
【0088】
シグナル伝達兼転写活性化因子3(急性期応答因子、APRF、DNA結合タンパク質APRF、ADMIO3、HIESとも呼ばれ、本明細書ではSTAT3と呼ばれる)は、複数の細胞因子のシグナル伝達経路の接合点に機能する。例えば、
図3に示すように、(Catlett-Falcone,R.,et al.Immunity,1999.10(1):p.105-15;Bromberg,J.F.,et al.Cell,1999.98(3):p.295-303;Kanda,N.,et al.Oncogene,2004.23(28):p.4921-29;Schlette,E.J.,et al.J Clin Oncol,2004.22(9):p.1682-88;Niu,G.,et al.Oncogene,2002.21(13):p.2000-08;Xie,T.X.,et al.Oncogene,2004.23(20):p.3550-60)STAT3は、細胞周期(CYCLIN D1、D2及びc-MYC)、細胞生存(BCL-XL、BCL- 2、MCL-1)及び血管生成(HIF1a、VEGF)の遺伝子表現(Furqan et al. Journal of Hematology & Oncology (2013) 6:90)を調節・制御するだけではなく、腫瘍免疫監視と免疫細胞募集の重要な負の調節因子でもある(Kortylewski,M.,et al.Nat.Med.,2005.11(12):p.1314-21;Burdelya,L.,et al.J.Immunol.,2005.174(7):p.3925-31;及びWang,T.,et al.Nat.Med.,2004.10(1):p.48-54) 。
【0089】
正常細胞では、STAT3の活性化は一過性であり、厳密に、例えば、約30分間~数時間続くように制御される。しかし、全ての主要ながん及び一部の血液腫瘍を含む様々なヒト腫瘍において、STAT3は異常に活性であることが見出された(Lin et al.,Oncogene(2000)19,2496-2504;Bromberg J.Clin.Invest.(2002)109:1139-1142;Buettner et al.,Clinical Cancer Research(2002)8,945-954;Frank Cancer Letters 251(2007)199-210;Yu et al.Nature Reviews Cancer(2004)4,97-105)。STAT3の持続的な活性化は、乳がん、肺がん、結腸直腸がん(CRC)、卵巣がん、肝細胞がん、多発性骨髄腫、及び膵臓がん等の半数以上、及び95%を超える頭/頸部がんで発生する。
【0090】
アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、ドミナントネガティブ形態のSTAT3、および/またはSTAT3の依存性チロシンキナーゼ活性を標的化阻害してSTAT3シグナル伝達を抑止することによって、in vitroおよび/またはin vivoの両方でがん細胞の成長停止、アポトーシス、および転移頻度の低減が引き起こされるが、このことは、CSCsの幹細胞性が、STAT3転写因子の持続的活性化に依存することを示唆している。Pedranzini,L.,et al.J Clin.Invest.,2004.114(5):p.619-22;Bromberg,J.F.,et al.Cell,1999.98(3):p.295-303;Darnell,J.E.Nat.Med.,2005.11(6):p.595-96;及びZhang,L.,et al.Cancer Res,2007.67(12):p.5859-64。したがって、STAT3は、広範ながんにわたって、CSCsの生存および自己複製能に重要な役割を果たす可能性がある。
【0091】
前述の通り、本明細書は被験体における異常なSTAT3経路活性に関係する少なくとも1つの疾患を治療する方法を開示している。異常なSTAT3経路の活性は、リン酸化STAT3(「pSTAT3」)またはその代替の上流もしくは下流調節因子の発現によって同定され得る。
【0092】
STAT3経路は、IL-6等のサイトカインに応答して、またはEGFR、JAK、ABL、KDR、c-MET、SRCおよびHER2等の1つまたは複数のチロシンキナーゼによって活性化され得る。例えば、
図3参照。STAT3の下流エフェクターには、BCL-XL、c-MYC、サイクリンD1、VEGF、MMP-2、およびサバイビンが含まれるが、それらに限定されない。同上。STAT3経路は、多くの種類のがんで異常に活性化されていることが見出された。持続的に活性化されるSTAT3経路は、乳がん、肺がん、肝細胞がん、多発性骨髄腫の半数以上、及び95%を超える頭/頸部がんで発生する可能性がある。STAT3経路を遮断することによって、in vitroおよび/またはin vivoでがん細胞の成長停止、アポトーシス、および転移頻度の低減が引き起こされる。STAT3の活性化は、多くの自己免疫性および炎症性疾患においても実証されている。さらに、インターロイキン-6(IL-6)を介した炎症が、アテローム性動脈硬化症、末梢血管疾患、冠動脈疾患、高血圧、骨粗鬆症(Osteroprorosis)、2型糖尿病および認知症の原因となる共通起源であることが開示され、gp130-JAKS-STATがIL-6によって主に活性化されることを開示しているため、STAT3経路を阻害することによって、これらの疾患も同様に治療または予防することができる(Libby,P.,et al.Circulation,2002.105(9):p.1135-43;Stephens,J.W.,et al.Mol.Genet.Metab.,2004.82(2):p.180-86;Cesari,M.,et al.Circulation,2003.108(19):p.2317-22;Orshal,J.M.and R.A.Khalil.Am.J.Physiol.Regul.Integr.Comp.Physiol.,2004.286(6):p.R1013-23;Manolagas,S.C.Bone,1995.17(2Suppl):p.63S-67S;及びYaffe,K.,etal.Neurology,2003.61(1):p.76-80)。
【0093】
一部の実施形態では、少なくとも1つの障害は、STAT3経路の異常な活性に関連するがんから選択され得る。例えば、活性化pSTAT3は、膵臓がん細胞において検出される(Wei et al. Oncogene (2003) 22(3): 319-329; Scholz et al. Gastroenterology (2003) 125:891-905; Toyonaga et al. Cancer Lett. (2003) 10;201(1):107-16; Qiu et al. Cancer Sci. (2007) 98(7): 1099-106)。
【0094】
一部の実施形態では、少なくとも1つの障害は、異常なSTAT3経路の活性に関係する自己免疫性疾患および異常なSTAT3経路の活性に関係する炎症性疾患から選択され得る。一部の実施形態では、異常なSTAT3経路の活性に関係する疾患は、炎症性腸疾患、関節炎、クローン病、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、喘息、アレルギー、および全身性紅斑性狼瘡から選択され得る。
【0095】
一部の実施形態では、少なくとも1つの障害は、異常なSTAT3経路の活性に関係するCNS疾患から選択され得る。一部の実施形態では、CNS疾患は、自己免疫性脱髄障害、アルツハイマー病、脳卒中、虚血再灌流傷害、および多発性硬化症から選択され得る。一部の実施形態では、少なくとも1つの障害は、炎症によって引き起こされ、異常なSTAT3経路の活性に関係する疾患から選択される。一部の実施形態では、炎症及び関連する異常なSTAT3経路の活性によって引き起こされる疾患は、末梢血管疾患、冠動脈疾患、高血圧、骨粗鬆症、2型糖尿病、および認知症から選択され得る。
【0096】
上記のように、CSCsはがん細胞の亜集団(固形腫瘍または血液がんに見られる)であり、幹細胞に一般的に関連する特徴を持っている。これらの細胞は、化学療法によって通常の非幹性がん細胞を低減した後、より急速に成長するが、これは、化学療法後のがんの頻繁な再発の原因となる機構である可能性がある。非腫瘍原性であるがん細胞の大半とは対照的に、CSCsは、腫瘍原性(腫瘍形成性)である。ヒト急性骨髄性白血病では、これらの細胞の割合は、10,000分の1未満である。Bonnet, D.およびJ. E. Dick、Nat. Med.、1997年、3巻(7号):730~37頁。
【0097】
がん治療の有効性は、試験の初期段階において、通常、死滅させる腫瘍塊の量とサイズによって測定される。CSCsは、腫瘍細胞集団のごくわずかな割合を形成し、分化したそれらの子孫とは著しく異なる生物学的特徴を有するので、腫瘍塊の測定は、CSCsに特異的に作用する薬物の選択には使用できない場合がある。実際、CSCsは放射線に耐性があり、化学療法薬や標的薬で治療するのは困難である。正常なヒト幹細胞は、化学療法剤に対して自然に耐性があり、薬物を排出する様々なポンプ(例えば、多剤耐性タンパク質ポンプ)、より高いDNA修復能を有し、細胞代謝回転速度が遅い(化学療法剤は、急速に複製する細胞を自然に標的とする)。正常な幹細胞の変異型対応物であるCSCsも、治療を生き延ばせる類似の機能を有することができる。換言すれば、通常の化学療法は、腫瘍の本体を形成するが新しい腫瘍細胞を生成することができない分化した(または分化している)細胞を死滅させる。例えば、
図2。新しい腫瘍細胞を生じたCSCs集団は、変化しないままであり、疾患の再発を引き起こす可能性がある。さらに、化学療法剤による治療後、化学療法に耐性のあるCSCsのみが残る可能性があり、後に続く腫瘍も、化学療法に対して抵抗性となる可能性が増大するおそれがある。また、がん幹細胞は、放射線治療(XRT)に対して耐性があることも実証されている。Hambardzumyanら、Cancer Cell、2006年、10巻(6号):454~56頁;およびBaumann, M.ら、Nat. Rev. Cancer、2008年、8巻(7号):545~54頁。
【0098】
生き残ったCSCsは、腫瘍を再生して再発を引き起こすおそれがあるので、CSCsに対する抗がん治療法は、悪性腫瘍の治療に非常に有望である。Jones RJら、J Natl Cancer Inst. 2004年;96巻(8号):583~585頁。CSCsの標的化治療によって、侵襲性の切除不可能な腫瘍および難治性または再発性腫瘍を有する患者を治療し、腫瘍転移および再発を予防することが可能になる。したがって、CSCs経路を標的化する特異的治療の開発は、がん患者の生存期間を延長し、特にがん転移を有するがん患者の生活の質を改善することが期待される。
【0099】
最近の研究は、腫瘍を再生することができるがん幹細胞(CSCs)を開示している(
図1)。これらのがん幹細胞は、腫瘍の継続的な悪性成長、転移、再発、およびがん薬物耐性と機能的に関連していることが開示されている。がん幹細胞およびそれらの分化した子孫は、著しく異なる生物学的特徴を有する。がん幹細胞およびそれらの分化した子孫は、特徴的であるが希少な集団として、腫瘍内に存続している。通常のがん薬物のスクリーニングは、腫瘍塊の量の測定に依存しているため、幹細胞に対して特異的に作用する薬物を同定することができない。実際、がん幹細胞は、標準化学療法に対して耐性があり、標準化学療法で治療した後に濃縮されることが開示され、例えば
図2を参照されたい。これは、難治性のがんとがんの再発に繋がる。CSCsが放射線療法に対して抵抗性を有することも実証されている。Baumann, M.ら、Nat. Rev. Cancer、2008年、8巻(7号):545~54頁。がん幹細胞が単離されたと報告されているがん型には、膵臓がん、乳がん、頭部がん、頸部がん、肺がん、卵巣がん、結腸直腸がん、前立腺がん、黒色腫、多発性骨髄腫、カポジ肉腫、ユーイング肉腫、肝臓がん、髄芽腫、脳腫瘍、および白血病が含まれる。STAT3は、がん幹細胞の生存および自己複製因子として同定された。したがって、STAT3阻害剤は、がん幹細胞を死滅させることができ、および/またはがん幹細胞の自己複製を阻害することができる。一部の実施形態によれば、がん幹細胞とは、自己複製能を有しており、腫瘍原性であるがん幹細胞の微小集団を指す。以前の研究では、式(I)の化合物がSTAT3経路を効果的に阻害でき、それによってCSCsの成長と生存を阻害できることが証明されている。臨床試験では、式(I)の化合物を進行性がん患者の治療に使用することができる。前相試験に基づいて、本発明は、式(I)の化合物、低用量のゲムシタビン及びパクリタキセルの新規薬物の組み合わせが、進行性がん患者、特に以前の治療の失敗後の転移性膵臓がん患者も効果的に治療できることが初めて予期せず発見された。これまで、低用量のゲムシタビンとパクリタキセルを含む併用化学療法レジメンが進行性膵臓がん患者の治療に効果的に使用できることは報告されていない。従って、本発明は進行性、特に一次治療の失敗後の転移性膵臓がん患者の生存を改善するための新しい選択肢を提供している。
【0100】
本明細書は、がん幹細胞の生存および/または自己複製を阻害、低減および/または弱めるための方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビンと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、がん幹細胞の生存および/または自己複製を阻害、低減および/または弱めるための方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を治療的有効量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことをさらに開示する。本明細書は、がん幹細胞の生存および/または自己複製を阻害、低減および/または弱めるための方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビン及び治療的有効量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことをさらに開示する。一部の実施形態では、前記式(I)の化合物は医薬組成物に含まれる。
【0101】
本明細書は、通常の化学療法および/または標的治療では難治である少なくとも1つの被験体がんを治療する方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビンと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、通常の化学療法および/または標的治療では難治である少なくとも1つの被験体がんを治療する方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、通常の化学療法および/または標的治療では難治である少なくとも1つの被験体がんを治療する方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビン及び毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことを開示する。各実施形態において、前記式(I)の化合物は医薬組成物に含まれる。
【0102】
本明細書は、被験体がんの再発または転移を治療または予防する方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビンと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、さらに、被験体がんの再発または転移を治療または予防する方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、さらに、被験体がんの再発または転移を治療または予防する方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビン及び毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことを開示する。様々な実施形態において、前記式(I)の化合物は医薬組成物に含まれる。様々な実施形態において、被験体は以前の治療の失敗後の膵臓がん患者である。様々な実施形態において、被験体は以前の治療の失敗後の転移性膵臓がん患者である。
【0103】
本明細書は、被験体がんの治療方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビンと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、被験体がんの治療方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことを開示する。本明細書は、被験体がんの治療方法であって、治療的有効量の式(I)の化合物を低用量のゲムシタビン及び毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルと併用して投与することを含むことを開示する。様々な実施形態において、前記式(I)の化合物は医薬組成物に含まれる。
【0104】
本明細書は、被験体がんの治療方法における医薬組成物の用途を開示しており、当該組成物は、治療的有効量の式(I)の化合物、低用量のゲムシタビン及び毎週投与の治療的有効量または低用量のパクリタキセルを含む。前記式(I)の化合物は、80-960mgの用量で毎日投与される。前記パクリタキセルは10-100mg/m2で毎週投与されてもよい。前記ゲムシタビンは100-800mg/m2で毎週投与されてもよい。好ましい一部のレジメンにおいて、前記式(I)の化合物は約80mg~約480mgの範囲の1日総用量で投与される。好ましい一部のレジメンにおいて、前記パクリタキセルは40-80mg/m2で毎週投与される。好ましい一部のレジメンにおいて、前記ゲムシタビンは100-600mg/m2で毎週投与される。一部の実施形態では、前記被験体は以前の治療の失敗後の膵臓がん患者である。様々な実施形態において、被験体は以前の治療の失敗後の転移性膵臓がん患者である。
【0105】
一部の実施形態では、がんは、進行性、転移性、切除不能、難治性、または再発性であり得る。一部の実施形態では、がんは膵臓がんであってもよい。一部の実施形態では、がんは以前の治療後に進行した膵臓がんであってもよい。一部の実施形態では、膵臓がんは膵臓腺がんであってもよい。一部の実施形態では、膵臓がんは膵管腺がんであってもよい。一部の実施形態では、がんは転移性膵臓がんであってもよい。一部の実施形態では、がんは以前の治療後に進行した転移性膵臓がんであってもよい。一部の実施形態では、がんは活性化されたpSTAT3の過剰表現と関連してもよい。一部の実施形態では、がんは核のβ-cateninの位置決めに関連してもよい。
【0106】
(実施例)
以下、本発明の様々な特徴をさらに説明するために、実施例を提供する。これらの実施例は本発明を実施するのに有用な方法も説明している。これらの実施例は、保護請求する発明を限定しない。
【0107】
本明細書は、低用量のゲムシタビン、毎週投与のパクリタキセル、及び式(I)の化合物を、それを必要とする被験体に投与する方法を開示する。
【0108】
(実施例1)
式(I)の化合物である2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン、ゲムシタビン、および2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンとゲムシタビンの組合せの効果を研究した。具体的には、ヒト膵臓腺がん(Panc-1)を有する免疫阻害マウスに、次のような担体、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン(100mg/kg、PO、bid)、ゲムシタビン(Gemzar、80mg/kg、IV、q3d)、または2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンとゲムシタビンの組合せ物を投与した。治療中、腫瘍サイズを定期的に評価した。各点は、5つの腫瘍の平均±SEMを表す。
図4に示すように、マウスモデルにおいて、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンまたはゲムシタビンは、腫瘍成長の阻害において一定の効果を示したが、当該組合せ物は、腫瘍成長を著しく低減している。
【0109】
(実施例2)
がん異種移植物モデルにおいて、パクリタキセルの併用と非併用時のがん幹細胞マーカーに対する式(I)の化合物である2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンの効果を検出した。
【0110】
ヒトがん細胞を5~7週齢の無胸腺ヌードマウスの右腹部に皮下移植した。腫瘍サイズが200mm3に達したら、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン(例えば、50mg/kg(BID)で強制経口投与(n=3/グループ))、パクリタキセル、または2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンとパクリタキセルを併用して動物を治療する。腫瘍は最初の投与の24時間後に採取する。
【0111】
採取した組織を3.7%中性緩衝ホルムアルデヒド中に4℃で一晩固定した。パラフィンで包埋する。約5μmにカットし、正に帯電したスライドガラスに固定した。ベーキング及び脱パラフィン後、腫瘍または対照組織を有するスライドガラスを10mMクエン酸ナトリウム(pH 6.0)中で10分間インキュベートした。抗原の修復後に、一次抗体P-STAT3(ウサギ、細胞シグナリング(Cell Signaling)、1:100)、β-catenin(マウス、サンタクルス(Santa Cruz)、1:400)を使用して4℃でスライドガラスに一晩標記し、その後にAlexa Fluor蛍光色素で結合した二次抗体(1:500、Invitrogen)を使用する。カバー後、Zeiss蛍光顕微鏡の20倍の対物レンズでProlong封入剤を有するDAPI(Invitrogen)含有のスライドガラスを検出し、Zenソフトウェアで分析する。
【0112】
図5に示すように、パクリタキセル単剤によっては幹細胞マーカーの染色が増加され、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン単剤は幹細胞マーカーのp-STAT3及びβ-cateninの両方の表現を著しく低下させることができ、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンとパクリタキセルを併用した場合、幹細胞マーカーの表現はより低下する。
【0113】
(実施例3)
第II/III相拡張の開放ラベルの国際多中心試験において、式(I)の化合物、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンをパクリタキセル及び低用量ゲムシタビンを併用して以前の治療に失敗した進行性膵臓がん患者への作用効果を研究した。
【0114】
当該臨床研究では、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンを毎週投与のパクリタキセル及び低用量のゲムシタビンと併用して以前の治療に失敗した進行性膵臓がん患者の抗腫瘍活性及び安全性を観察した。患者は過去に少なくとも一次全身治療を受けて失敗し、画像診断による疾患の進行があった。以前の治療は、ゲムシタビンベースの単剤または併用化学療法、および/またはFOLFIRINOX/mFOLFIRINOX化学療法を含む。
【0115】
登録された患者は、4週間(28日)を1治療サイクルとして、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンの、240 mg、1日2回(毎日総用量は480 mg)の毎日経口投与を受け、パクリタキセル及び低用量のゲムシタビンを併用して治療する場合、パクリタキセルは、最初の治療サイクルの初日から80 mg/m2 IVで投与を開始し、その後、ゲムシタビンを600 mg/m2 IVで、28日ごとの治療サイクルで、1日目、8日目、15日目に投与し、薬物毒性の反応が発生したら、用量を調整することができる(減量または中止)。
【0116】
RECIST 1.1基準に従って、腫瘍の寛解と進行を評価した。2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンをパクリタキセル及び低用量のゲムシタビンと併用した場合の抗腫瘍活性を評価した。
【0117】
登録された進行性膵臓がん患者のうち、1人の患者が登録前に三次化学療法(一次ゲムシタビン+テガフール(替吉奥);二次ゲムシタビン;三次アベルマブ)を行って疾患進行が発生し、登録して治療した後、最初の評価(試験への無作為化から8週間後)では、標的病変が9.1%減少し、腫瘍はSD(安定した疾患)と評価され、2回目の評価(試験への無作為化から20週間後)では、標的病変が41%減少し、腫瘍の効果評価はPR(部分奏効)に達し、非標的病変は明らかに減少した。また、1人の患者が登録前に一次化学療法(カペシタビン+テガフール)を行って疾患進行が発生し、登録して治療した後、最初の評価(試験への無作為化から8週間後)では、標的病変が25.6%減少し、腫瘍はSDと評価され、非標的病変は明らかに減少した。2人の患者は現在まだレジメン治療を受けている。
【0118】
治療を受けている全ての患者で観察される2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンに関連する有害事象は主に胃腸の有害事象(下痢、便秘、悪心、嘔吐など)であり、当該併用薬レジメンによると、患者の毒性副作用を増加させず、安全性が良好である。
【0119】
この試験から、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオンをパクリタキセル及び低用量のゲムシタビンと併用すると、良好な相乗効果があることが示され、以前の治療に失敗した転移性膵臓がん患者では、2-アセチルナフト[2,3-b]フラン-4,9-ジオン(240mg BID)を毎週80 mg/m2 IVでのパクリタキセル及び600 mg/m2 IVでのゲムシタビンと併用すると、安全で、認容性があり、良好な抗腫瘍活性がある。
【0120】
本開示の多くの特色および利点は、詳細な本明細書から明らかであり、したがって、添付の特許請求の範囲によって、本開示の真の趣旨および範囲に含まれる本開示のこのようなすべての特色および利点を包含することが意図される。さらに、数々の改変および変更は、当業者に容易に思い当たるので、本開示は、したがって例示され記載されている正確な構成および操作に限定されることは望ましくなく、本開示の範囲に含まれるすべての適切な改変および等価物が用いられ得る。
【0121】
本明細書で別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に引用される方法は、開示された特定の順序以外の論理的に可能な任意の順序で実施することができる。
【0122】
(引用による参考)
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