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特許7513287角層細胞間の接着タンパク質の増減に影響を与える成分のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】角層細胞間の接着タンパク質の増減に影響を与える成分のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240702BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240702BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240702BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20240702BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
G01N33/50 Q
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
G01N1/04 V
G01N1/04 H
G01N1/28 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021520870
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020229
(87)【国際公開番号】W WO2020235668
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019096940
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】多田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】武重 史佳
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119665(JP,A)
【文献】特開2009-115813(JP,A)
【文献】特開2014-139540(JP,A)
【文献】特開2001-097815(JP,A)
【文献】特開2016-037501(JP,A)
【文献】特開平08-068791(JP,A)
【文献】新道弘規,免疫組織化学染色に使用されるコートスライドガラスの組織切片接着メカニズム,THE CHEMICAL TIMES,2010年,2010 No.1 (通巻21号),9-13
【文献】橿淵暢夫,外1名,角層細胞による肌評価法の開発,J.Soc.Cosmet.Chem.Japan,1989年,Vol.23,No.1,55-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/53
A61K 8/00
G02B 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
角層細胞間の接着タンパク質の増減に影響を与える成分のスクリーニング方法であって、
テープストリッピング法を用いて、角層細胞を採取する採取工程と、
表面が正電荷に帯電したスライドガラス上に、角層細胞を転写する転写工程と、
前記スライドガラスを洗浄する洗浄工程と、
前記スライドガラスに探索対象成分を添加し、免疫組織染色法により、接着タンパク質を染色し、スクリーニング試料を調製する調製工程と、
前記スクリーニング試料の任意の箇所を撮影し、解析用画像を得る画像取得工程と、
前記解析用画像における染色部分の面積を指標として、前記探索対象成分の接着タンパク質の増減への影響を評価する評価工程を備え
前記調製工程において、前記探索対象成分の種類が同一であって、濃度が異なる複数のスクリーニング試料を調製し、
前記評価工程が、複数の前記スクリーニング試料の染色部分の面積を比較して、接着タンパク質の量を減少する作用における最適濃度を評価する工程である、スクリーニング方法。
【請求項2】
前記転写工程は、NH を表面に配置したスライドガラスに角層細胞を転写し、NH が角層細胞中のリン脂質のカルボキシル基とイオン結合を形成し、角層細胞をスライドガラスからはがれにくくする、転写工程である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記調製工程において、前記探索対象成分を添加せずにスクリーニング対照試料を調製し、
前記評価工程が、前記スクリーニング試料の染色部分の面積と、前記スクリーニング対照試料の染色部分の面積とを比較して、前記スクリーニング試料の染色部分の面積が小さい場合、前記探索対象成分は接着タンパク質の量を減少する作用を有すると評価する工程である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記接着タンパク質が、デスモグレイン1(desmoglein1)である、請求項1~3の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記スライドガラスが、表面にNH が配列されたスライドガラスである、請求項1~4の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記洗浄工程が、前記スライドガラスをキシレンに浸漬する工程である、請求項1~5の何れか一項に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞間の接着タンパク質の増減に影響を与える成分のスクリーニング方法、及び当該スクリーニング方法に適した角層細胞試料の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角化細胞(ケラチノサイト)の接着装置として代表的なものにデスモソームがある。デスモソームは、表皮細胞間及び角層細胞間の接着に関与している構造物であり、デスモソームを介する表皮細胞同士の接着はケラチン線維からなる細胞骨格と連携し、上皮組織における強固な構築が維持されるものであることが知られている。
【0003】
肌荒れ、日焼けや乾燥により生じる角層の落屑等の肌状態の悪化に関し、デスモゾームタンパク質の増加が原因の一つとして知られている。
デスモゾームタンパク質の量をコントロールする方法として、角層に蓄積したデスモゾームタンパク質のプロテアーゼにより分解し、ニキビ、フケ、落屑を改善する方法がこれまでに報告されている(特許文献1)。
【0004】
このデスモソームの構成タンパク質は、デスモグレイン1、2、3、4、デスモコリン1、2、3、及びデスモプラキン1、2等が知られている。
このデスモソームの構成タンパクの中でも、特に接着タンパク質のデスモグレイン1が、デスモソーム成分のタンパク分解と細胞剥離との間に密接な相関関係がある。このため、角層のデスモグレインの存在状態を確認することは、デスモソーム機能を評価することでもあり、皮膚の状態を評価する上で極めて重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表平7-505383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したことから、デスモソーム、又はデスモソームを構成する接着タンパク質の量を減少する成分の探索が求められている。
このような成分のスクリーニング方法として、テープストリッピング法を用いた角層細胞の採取、及びスライドガラスへの転写により、角層細胞試料を調製し、免疫組織染色法により接着タンパク質を染色し、任意の顕微鏡で観察する手法が存在する。
【0007】
ところで、テープストリッピング法を用いた角層細胞の転写は、スライドガラスに粘着テープの成分が残り、これが染色されることで接着タンパク質と区別できなくなる恐れがあるため、スライドガラスを洗浄する必要がある。
しかし、スライドガラスを洗浄すると、転写した角層細胞まで剥離してしまい、角層細胞中に存在する接着タンパク質の存在量を指標とした評価が困難であり、十分なスクリーニング方法であるといえなかった。
【0008】
本発明の課題は、従来の方法と比して正確な、デスモグレインをはじめとする角層細胞間に存在する接着タンパク質の増減に影響を与える成分のスクリーニング方法を提供することにある。
また、本発明のさらなる課題は、上述したスクリーニング方法において、より正確に接着タンパク質の存在量を評価するための角層細胞試料の調製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決する本発明は、
角層細胞間の接着タンパク質の増減に影響を与える成分のスクリーニング方法であって、
テープストリッピング法を用いて、角層細胞を採取する採取工程と、
表面が正電荷に帯電したスライドガラス上に、角層を転写する転写工程と、
前記スライドガラスを洗浄する洗浄工程と、
前記スライドガラスに探索対象成分を添加し、免疫組織染色法により、接着タンパク質を染色し、スクリーニング試料を調製する調製工程と、
前記スクリーニング試料の任意の箇所を撮影し、解析用画像を得る画像取得工程と、
前記解析用画像における染色部分の面積を指標として、前記探索対象成分のコンパクト角層の形成阻害作用を評価する評価工程を備える。
【0010】
細胞表面は、リン脂質のカルボキシ基により、負電荷(COO)を有することが知られている。
本発明のスクリーニング方法によれば、表面が正電荷に帯電したスライドガラス上に、角層細胞を転写することで、洗浄による角層細胞の剥離を防止することができ、より正確に角層細胞中の接着タンパク質の存在量を評価することができる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、
前記調製工程において、前記探索対象成分を添加しないスクリーニング対照試料を試料し、
前記評価工程が、前記スクリーニング試料の染色部分の面積と、前記スクリーニング対照試料の染色部分の面積とを比較して、前記スクリーニング試料の染色部分の面積が小さい場合、前記探索対象成分は接着タンパク質の量を減少する作用を有すると評価する工程である。
このような形態とすることで、より正確に接着タンパク質の増減に影響を与える成分をスクリーニングすることができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、
前記調製工程において、前記探索対象成分の種類が同一であって、濃度が異なる複数のスクリーニング試料を調製し、
前記評価工程が、複数の前記スクリーニング試料の染色部分の面積を比較して、接着タンパク質の量を減少する作用における最適濃度を評価する工程である。
このような形態とすることで、接着タンパク質の量を減少する作用を有する成分のスクリーニングのみならず、その最適な濃度を評価することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記接着タンパク質が、デスモグレイン1(desmoglein1)である。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記スライドガラスが、表面にNH が配列されたスライドガラスである。
NH は、細胞表面のCOOとイオン結合を形成するため、角層細胞のスライドガラスへの接着性を向上させることができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記洗浄工程が、前記スライドガラスをキシレンに浸漬する工程である。
スライドガラスをキシレンに浸漬することにより洗浄することで、角層細胞の剥離をより抑制することができる。
【0016】
また、前記課題を解決する本発明は、
テープストリッピング法を用いた角層細胞試料の調製方法であって、
表面が正電荷に帯電したスライドガラス上に、角層を転写する転写工程と、
前記スライドガラスを洗浄する洗浄工程と、を備える。
表面が正電荷に帯電したスライドガラス上に、角層を転写することで、その後の洗浄工程における、スライドガラスからの角層細胞の剥離を抑制することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記スライドガラスが表面にNH が配列されたスライドガラスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のスクリーニング方法によれば、従来の方法と比してより正確に、接着タンパク質の増減に影響を与える成分をスクリーニングすることができる。
また、本発明の角層細胞の調製方法によれば、スライドガラス上の角層細胞の剥離を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態のスクリーニング方法を示すフローチャートである。
図2】本実施形態における角層細胞試料の調製工程を示すフローチャートである。
図3】本実施形態における評価工程を示すフローチャートである。
図4】角層細胞試料にワイルドタイム抽出物、トゲナシ抽出物を探索対象成分として添加したスクリーニング試料、及びスクリーニング対照試料の顕微鏡画像である。
図5】スクリーニング対照試料の染色部分の面積を100%とした場合における、スクリーニング試料の染色部分の面積比を表わすグラフである。
図6】実施例2における、デスモグレイン1量の測定結果を示す図面(代表)である。
図7】実施例2における、デスモグレイン1量の測定結果を示すグラフである。
図8】実施例3における、L値の測定結果を示すグラフである。
図9】実施例3における、a値の測定結果を示すグラフである。
図10】実施例3における、b値の測定結果を示すグラフである。
図11】実施例3における、硬度の測定結果を示すグラフである。
図12】実施例3における、デスモグレイン1量の測定結果を示すグラフである。
図13】実施例3における、デスモグレイン1量の測定結果を示す図(代表)である。
図14】実施例4における、デスモグレイン1量の測定結果を示す図(代表)である。
図15】実施例4における、デスモグレイン1量の測定結果を示すグラフである。
図16】実施例4における、角層細胞の剥離の様子を観察した光学顕微鏡像である。
図17】実施例5における、デスモグレイン1量の測定結果を示す図(代表)である。
図18】実施例5における、デスモグレイン1量の測定結果を示すグラフ(6週間)である。
図19】実施例5における、デスモグレイン1量の測定結果を示すグラフ(12週間)である。
【0020】
以下、図1~3のフローチャートを参考にして、本発明のスクリーニング方法について詳述する。
【0021】
本発明のスクリーニング方法は、角層細胞試料調製ステップS10、スクリーニング試料調製ステップS20、画像取得ステップS30、及び評価ステップS40を備える。
【0022】
(1)角層細胞試料調製工程
図2に、ステップS10を詳細に表したフローチャートを示す。
ステップS10は、テープストリッピング法により角層細胞を採取する採取ステップS11を行う。
テープストリッピング法とは、粘着テープに代表される感圧接着剤を肌に貼り付け、剥がすことで肌の細胞を剥離する方法の総称である。
使用する感圧接着剤は特に限定されないが、簡便性の観点からセロハンテープを用いることが好ましい。
【0023】
次いで、ステップS11で採取した角層細胞を、表面が正電荷に帯電したスライドガラスに転写する転写ステップS12を行う。
【0024】
角層細胞等のヒト細胞の表面は、脂質二重膜を形成するリン脂質のカルボキシ基(COO)の影響で、負電荷を帯びている。
ステップS12において、表面が正電荷に帯電したスライドガラスに角層細胞を転写することによって、静電的相互作用により角層細胞がスライドガラスから剥離し難くなる。
【0025】
表面が正電荷に帯電したスライドガラスとしては、スライドガラス表面をポリリジン、ポリアルキルアミン、及びアミノ変性シリコーン等で修飾したスライドガラスが例示できる。
本発明においては、スライドガラスの表面がNH が配列したスライドガラスを用いることが好ましい。
NH は、リン脂質のカルボキシ基とイオン結合を形成するため、角層細胞がスライドガラスからより剥離し難くなる、
【0026】
スライドガラスの表面にNH が配列したスライドガラスとしては、市販の物を用いることができ、例えば、「PLLコートスライドグラス」(松浪硝子工業株式会社製)、「APSコートスライドグラス」(松浪硝子工業株式会社製)、及び「MASコートスライドグラス」(松浪硝子工業株式会社製)等が例示できる。
【0027】
次いで、角層細胞を転写したスライドガラスを洗浄する洗浄ステップS13を行う。
スライドガラスの洗浄方法は、特に限定されず、振とう式、及び超音波式の洗浄機を用いて洗浄することができる。
本発明においては、有機化合物を含む洗浄剤にスライドガラスを浸漬することで洗浄することが好ましい。
このような形態とすることで、より角層細胞の剥離を抑制することができる。
【0028】
洗浄剤としては、キシレン、クロロホルム、酢酸エチル等の有機溶剤が例示できるが、角層細胞の接着タンパク質の量に影響を及ぼさないキシレンを用いることが好ましい。
【0029】
浸漬による洗浄を行う場合、その浸漬時間は、室温であれば、好ましくは3時間以上であり、より好ましくは6時間以上であり、さらに好ましくは12時間以上であり、特に好ましくは24時間以上である。
【0030】
上述したステップを得て、角層細胞試料を調製したら、次いでスクリーニング試料調製ステップS20を行う。
ステップS20は、探索対象となる成分(以下、探索対象成分という)を、角層細胞試料に添加する。
【0031】
探索対象成分は特に限定されないが、接着タンパク質の量を減少する作用を有する成分をヒトに適用することに鑑みれば、例えば、化粧品に適用可能な成分、及び食品に適用可能な成分を探索対象成分とすることができる。
このような成分として、例えば植物抽出物が例示できる。
【0032】
探索対象成分は、スクリーニングを行う濃度に応じて、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈することが好ましい。
【0033】
本発明の一実施形態においては、探索対象成分を添加しない、スクリーニング対照試料を調製してもよい。
このような実施形態は、接着タンパク質の量を減少する作用を有する成分の種類のスクリーニングに適している。
【0034】
本発明の一実施形態においては、探索対象成分の種類が同一であって、濃度が異なる複数のスクリーニング試料を調製してもよい。
このような実施形態は、接着タンパク質の量を減少する作用を奏する、最適な濃度のスクリーニングに適している。
【0035】
また、ステップS20において、探索対象成分を添加した角層細胞を、免疫組織染色法により染色する。
免疫組織染色法による染色は、常法により行うことができ、接着タンパク質の種類に応じて、直接法、間接法及び増感法を任意に選択することができる。
また、必要に応じて、任意のブロッキング剤を用いることができる。
【0036】
染色する対象となる接着タンパク質は、角層細胞に含まれるものであれば特に限定されないが、好ましくはデスモグレイン1である。
デスモグレイン1は、デスモソーム成分のタンパク分解と細胞剥離との間に密接な相関関係があり、その量の増減に影響を与える成分のスクリーニングは、非常に有用である。
【0037】
次いで、接着タンパク質を染色した角層細胞の画像を撮影する画像取得ステップS30を行う。
画像の撮影は、顕微鏡を用いて行われる。顕微鏡の種類は特に限定されず、ステップS20で行った免疫組織染色法に応じて、適当な顕微鏡を用いることができる。
顕微鏡としては、光学顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡、光学顕微鏡、電子顕微鏡等が挙げられる。
【0038】
本発明においては、共焦点レーザー顕微鏡を用いることが好ましい。
共焦点レーザー顕微鏡を用いることで、染色部分(接着タンパク質)と非染色部分(接着タンパク質以外の部分、スライドガラス等)との境界がぼけずに、ピントがあった画像を撮影することができるため、染色部分を指標とした本発明のスクリーニング方法の精度を上げることができる。
なお、共焦点レーザー顕微鏡を用いる場合には、前記免疫組織染色法として、蛍光抗体法を採用することが好ましい。
【0039】
次いで、撮影した画像から、角層細胞が転写された部分内において、無作為に選択した範囲を拡大し、白黒画像(二値画像)に変換する。
得られた画像から、染色部分、及び/又は非染色部分の面積値、あるいは染色部分及び/又は非染色部分の面積の割合(%)を算出する(以下、単に面積というときは、面積値、及び面積の割合の両方を含む)。
【0040】
上述した画像処理、及び面積の算出については、画像解析ソフトを用いて行うことができる。
画像解析ソフトとしては、「Image J(アメリカ国立衛生研究所、NIH)」等が例示できる。
【0041】
染色部分の面積は、複数の無作為に選択した範囲から算出した面積の平均値とすることが好ましい。
複数箇所の面積の平均値を指標とすることで、より正確なスクリーニングを行うことができる。
【0042】
次いで、ステップS30にて得られた面積を指標として、探索対象成分の接着タンパク質の増減への影響を評価する評価ステップS40を行う。
【0043】
図3に、ステップS40を詳細に表したフローチャートを示す。図3を参照して、前記スクリーニング試料の染色部分の面積と、前記スクリーニング対照試料の染色部分の面積とを比較する一実施形態における、評価工程について説明する。
【0044】
ステップS41において、スクリーニング試料の染色部分の面積Atと、スクリーニング対照試料の染色部分の面積Acとを比較する。
面積の比較は、面積の絶対値の比較であっても良く、スクリーニング対照試料の面積を100%とした場合における面積の割合の比較であってもよい。
複数のスクリーニング試料について評価を行う場合には、スクリーニング対照試料の面積を100%とした比較を行うのが好ましい。
【0045】
面積Atが面積Acより小さい場合(面積At < 面積Ac)、ステップS42に移行し、当該スクリーニング試料に添加した探索対象成分は、接着タンパク質の量を減少する作用を有する成分であると評価する。
【0046】
一方で、面積Atが面積Acと同一、又は面積Atが面積Acより大きい高い場合(面積At 面積Ac)にはステップS43に移行し、当該スクリーニング試料に添加した探索対象成分は、接着タンパク質の量を減少する作用を有さない成分であると評価する。
【0047】
図3を参照して、一実施形態に係る評価工程について説明したが、本発明のスクリーニング方法における評価工程は、スクリーニング試料の染色部分の面積を指標とした、接着タンパク質の増減への影響の評価であれば、特に限定されない。
【0048】
例えば、接着タンパク質の量を増加する成分をスクリーニングしたい場合においては、ステップS41にて、「面積At > 面積Ac」であるかを判定し、結果が「yes」であれば、ステップS42にて、「接着タンパク質の量を増加する作用を有する成分である」と評価してもよい。
また、ステップS42において、「接着タンパク質の量を減少する作用を有する成分である」と評価し、ステップS43において、「接着タンパク質の量を増加する作用を有する成分である」と評価してもよい。
【0049】
また、別の実施形態においては、ステップS20で説明した通り、探索対象成分の濃度が異なる複数のスクリーニング試料を調製し、これらを評価する工程であってもよい。
当該実施形態においては、複数のスクリーニング試料における面積を比較し、接着タンパク質の量が減少する作用、又は増加する作用において、顕著な効果が発現するしきい値となる特定の濃度が存する場合には、「当該探索対象成分は、特定の濃度以上で顕著な接着タンパク質の量が減少する作用、又は増加する作用を有する。」と評価することができる。
また、特定の濃度以上としないと上記作用が発現しない成分については、「当該探索対象成分は、特定の濃度以上で接着タンパク質の量が減少する作用、又は増加する作用を発現する」と評価することができる。
【0050】
本発明のスクリーニング方法は、敏感肌の改善及び/又は予防のために用いられる成分のスクリーニングに用いることが好ましい。
ここで、本明細書における「敏感肌」は、外部刺激(乾燥、紫外線、化合物の塗布)抵抗性が低下(皮膚刺激値が低下)した肌質をいう。
【0051】
より具体的には、本明細書における「敏感肌」は、(1)及び/又は(2)で提起される肌質をいう。
【0052】
(1)「医薬品外用剤、化粧品、植物、紫外線、金属などの物質に反応し、皮膚トラブルを起こしやすい肌。また、アレルギー性物質(花粉、香料など)や刺激性物質(アルコールなど)に過敏な肌」
(2)「睡眠不足、過労、生理、季節の変わり目、精神的なストレスなどの状況下で、刺激物に対して一時的に皮膚トラブルを起こしやすくなる肌。」
【0053】
また、本明細書における「敏感肌の改善及び/又は予防のため」は、外部刺激抵抗性が低下(皮膚刺激閾値が低下)した肌質の改善、及び/又は、肌質における外部刺激抵抗性の低下(皮膚刺激閾値の低下)の予防を指す。
【0054】
また、本発明のスクリーニング方法は、ヒト表皮角化細胞の細胞間接着抑制作用を有する成分のスクリーニングに用いることが好ましい。
なお、本明細書において、「細胞間接着」の語は、デスモゾーム蛋白質(デスモグレインを含むたんぱく質群)の増加による角層接着機能異常(細胞接着性の亢進により角層の重層化が進むこと)をいう(要すれば、特許4197194号、特許第4002635号 参照)。
また、本明細書において、「細胞間接着抑制」の概念は、細胞間接着の予防又は改善の何れも含む。
【0055】
ここで、ヒト表皮角化細胞の細胞間接着が抑制されることで、角層の重層化が抑制され、角層重層剥離を抑制する作用を得ることができる。
すなわち、本願発明のスクリーニング方法は、角層重層剥離の予防、又は改善作用を有する成分のスクリーニングに用いることができる。
なお、本明細書において、「角層重層剥離」とは、角層が複数枚重なった状態で皮膚表面から剥がれ落ちることをいう。皮膚が角層重層剥離する状態か否かは、テープストリッピング法により角層を採取し、採取した角層を染色して観察することで確認することができる。
【0056】
また、後述する実施例に示すように、肌の明度の低い箇所では、デスモグレイン1が多く存在し、肌の明度の低下は、角層の重層化によるものと考えられる。
上記知見に鑑みると、デスモグレインを減少させる作用を有する成分は、肌の明度改善作用を有する成分であるということができる。
すなわち、本発明のスクリーニング方法は、肌の明度改善作用を有する成分のスクリーニングに使用することができる。
ここで、本明細書において、「肌の明度改善」は、正常状態の肌とデスモグレインの過剰存在により明度の低下した肌との間における、明度の差が少なくなることを指す。
【0057】
また、後述する実施例に示すように、デスモグレイン減少作用を有する成分は、より透明感のある肌状態に改善する作用を有する。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、肌の透明感向上作用を有する成分のスクリーニングに使用できる。
【0058】
また、後述する実施例に示すように、肌の硬度が高い箇所では、デスモグレイン1が多く存在し、肌の硬さの要因は、角層の重層化によるものと考えられる。
上記知見に基づくと、デスモグレインを減少させることで、肌が柔らかくなる効果を得られる。すなわち、本発明のスクリーニング方法は、肌の軟化作用を有する成分のスクリーニングに使用できる。
【0059】
ここで、肌が柔らかくなることにより、他の薬剤成分の浸透をより効率的に行うことができる。そのため、本発明のスクリーニング方法は、美白剤等の薬効成分をより効率良く肌に浸透させる作用を有する成分のスクリーニングに使用することができる。
【実施例
【0060】
[実施例1]
<角層細胞試料の調製工程>
ヒト前腕外側より、セロハンテープで採取した角層を、スライドガラス(「MASコート」、松浪硝子工業株式会社製)に転写し、当該スライドガラスをキシレンに一晩浸漬した。
次いで、当該スライドガラスをキシレンで10分間、2回洗浄した後、PBSで洗浄した。
【0061】
<探索対象成分の調製>
ワイルドタイム抽出液(一丸ファルコス社 製、ヨウシュイブキジャコウソウ(Wild Thyme,T.serpyllum)の地上部抽出物)、及びトゲナシ抽出液(丸善製薬社 製、トゲナシ(ROSA roxburghii)の果実抽出物)を、それぞれ濃度が0.1質量%、0.05質量%、0.025質量%、0.0125質量%となるようにPBSで希釈し、探索対象成分を得た。
<スクリーニング用試料の調製>
探索対象成分に、角層細胞を一晩浸漬し、試料を得た。また、対照試料として、探索対象成分に浸漬させない角層細胞を用意した。
【0062】
<免疫染色試験>
それぞれの試料をPBSで洗浄後、4%PFA・リン酸緩衝液中、室温で15分間インキュベートした。
次いで、それぞれの試料をPBSで洗浄後、20%ブロックエース(DSバイオファーマメディカル社製)水溶液中、室温で1時間インキュベートした。
それぞれの試料に、一次抗体(Anti-Desmoglein 1,Mouse-Mono)を加え、湿潤箱中、室温で2時間インキュベートした。
それぞれの試料をPBSで5分間、3回洗浄した後、二次抗体(Allexa Fluor@488 Goat Anti-mouce IgG)、を加え、湿潤箱中、室温で1時間インキュベートした。
それぞれの試料をPBSで5分間、3回洗浄し、蒸留水で2回洗浄した後、Fluoromout-G(southern biotech社製)を用いて封入し、複数のスクリーニング試料、及びスクリーニング対照試料を得た。
【0063】
<画像解析>
スクリーニング試料、及びスクリーニング対照試料を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、それぞれ解析用画像を撮影した(図4)。
画像解析ソフト(Image J)を用いて、解析用画像における、4か所の任意の範囲を拡大、白黒画像化し、染色部分、及び非染色部分の面積を算出し、平均値を算出した。
スクリーニング対照試料の染色部分の面積を100%として、スクリーニング試料の染色部分の面積の割合(4か所の平均値)を算出した。結果を表1、図5に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
図4及び図5に示す通り、ワイルドタイム抽出物、及びトゲナシ抽出物を添加したスクリーニング試料は、スクリーニング対照試料と比して、デスモグレイン1の発現量が減少していることがわかる。
この結果から、ワイルドタイム抽出物、及びトゲナシ抽出物は、デスモグレイン1の量を減少する作用を有する成分であると評価することができる。
【0066】
また、添加したワイルドタイム抽出物の濃度が0.1質量%であるスクリーニング試料は、濃度が0.05、0.025、及び0.0125質量%であるスクリーニング試料と比して、染色部分の面積が約2.5倍~2.8倍減少していることがわかる。
【0067】
同様に、添加したトゲナシ抽出物の濃度が0.1質量%であるスクリーニング試料は、濃度が0.05、0.025、及び0.0125質量%であるスクリーニング試料と比して、染色部分の面積が、7.6~8.0倍減少していることがわかる。
【0068】
このことから、ワイルドタイム抽出物、及びトゲナシ抽出物は、その濃度が0.1質量%以上で、デスモグレイン1の量を減少する顕著な作用を有すると評価することができる。
【0069】
[実施例2]
<角層細胞試料の調製工程>
実施例1と同一の手法により、角層細胞試料を調製した。
【0070】
<探索対象成分の調製>
ウスベニタチアオイ抽出液(jurlique社製、ウスベニタチアオイ(Althaea Officinalis)の根の抽出物)を、濃度が0.25質量%となるようにPBSで希釈し、探索対象成分を得た。
【0071】
<スクリーニング用試料の調製>
探索対象成分に、角層細胞を一晩浸漬し、試料を得た。また、対照試料として、探索対象成分に浸漬させない角層細胞を用意した。
【0072】
<免疫染色試験>
実施例1と同一の手法により、スクリーニング用試料、及びスクリーニング対照試料を得た。
【0073】
<画像解析>
実施例1と同一の手法により、スクリーニング用試料及びスクリーニング対照試料の解析用画像を撮影し、スクリーニング対照試料の染色部分の面積を100%として、スクリーニング試料の染色部分の面積の割合)を算出した。結果を表2、図6、及び図7に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
図6及び図7に示す通り、ウスベニタチアオイ抽出物を添加したスクリーニング試料は、スクリーニング対照試料と比して、デスモグレイン1の発現量が減少していることがわかる。
この結果から、ウスベニタチアオイ抽出物は、デスモグレイン1の量を減少する作用を有する成分であると評価することができる。
【0076】
[実施例3]
以下、肌の明度の相違とデスモグレイン1の存在量の関係性及び、デスモグレイン1の存在量と肌の硬度の関係性を裏付ける試験結果を示す。
【0077】
(1)被験者及び測定部位
本実施例では、40歳から52歳の女性20名を被験者とした。
そして、本実施例では、被験者顔面における、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)と正常状態の部位(図13中部位B 参照)を測定部位として選定した。
【0078】
(2)測定
(2-1)L値、a値、b値測定
上記の測定部位に分光光度計を当て、各部位5回ずつ測定に供することにより、L値、a値、b値を測定した。
結果を、図8図10に示す。
【0079】
L値に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、有意に低い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、暗いことが確認できた。
【0080】
a値に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、赤みが強いことが確認できた。
【0081】
b値に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、黄みが強いことが確認できた。
【0082】
(2-2)硬度測定
上記(2-1)の試験に供した各測定部位にインデントメーターを押し当て5回ずつ測定に供することにより、硬度を測定した。
結果を、図11に示す。
【0083】
硬度に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、有意に低い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、硬いことが確認できた。
【0084】
(2-3)デスモグレイン1(Dsg1)染色
上記(2-1)、(2-2)の試験に供した各測定部位の角層細胞をテープストリッピング法で採取し、スライドガラスに貼付した。
【0085】
角層細胞を貼付したスライドガラスを、キシレンに一晩浸漬させた。
浸漬後、洗浄、風乾させたのち、4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液中で室温、条件下、15分間静置した。
【0086】
15分後、角層細胞をPBSで洗浄し、0.5%TritonX(ナカライテスク社製)/PBS溶液に、室温条件下、5分間浸漬させた。
【0087】
浸漬後、洗浄し、ブロックエース水溶液中(DSバイオファーマメディカル UK-B80)、室温条件下、1時間静置した。
【0088】
静置後、リキッドブロッカー(大道産業社 製)で枠付けし、一次抗体を加え、湿潤箱中、室温条件下、2時間静置した。
一次抗体として、Anti Desmoglein 1,Mouse Mono(Dsg1 P23) Progen,651110 原液(IgG 濃度:10-15g/mL)を使用した。
【0089】
静置後、PBSを用い洗浄し、二次抗体を加え、湿潤箱中、室温条件下、1時間静置した。
二次抗体として、Alle xa Fluor@488 Goat Anti mouse IgG Invitrogen,A 11001 PBS200倍希釈溶液を使用した。
【0090】
静置後洗浄し、Fluoromout-G(southern biotech 社製)で封入し、室温で30分乾燥させた。
【0091】
乾燥後、マニキュアでカバーガラスを固定し、乾燥させたのち、(撮影)共焦点レーザー顕微鏡(Nikon A1)、×20での観察に供した。
結果を、図12に示す。
【0092】
デスモグレイン1(Dsg1)量に関し、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、有意に高い値を示した。すなわち、目視により明度の低下していることが確認できた部位(黒みがかった部分、図13中部位A 参照)は、正常状態の部位(図13中部位B 参照)に比して、デスモグレイン1(Dsg1)量が多いことが確認できた。
【0093】
(3)考察
図8図10、及び図12に示すように、肌の明度の低い箇所では、デスモグレイン1が多く存在することが分かった。ここで、肌の明度の低下は、肌のpHが低くデスモグレイン1を分解するセリンプロテアーゼの活性が低いために、角層の重なりが密になったこと(角層の重層化)によるものと考えられる。
【0094】
そして、前述の通り、本願発明の有効成分はデスモグレイン減少作用を奏する。
上記知見に鑑みると、本発明の有効成分は、デスモグレイン1を減少させることによる肌の明度改善作用を奏することがわかった。
【0095】
図11図12に示すように、肌の硬度が高い箇所では、デスモグレイン1が多く存在するが分かった。ここで、肌の硬さの要因は、肌のpHが低くデスモグレイン1を分解するセリンプロテアーゼの活性が低いために、角層の重なりが密になったこと(角層の重層化)によるものと考えられる。
【0096】
上記知見に基づくと、デスモグレイン1を減少させることにより、肌が柔らかくなることがわかった。
そして、前述の通り、本願発明の有効成分はデスモグレイン減少作用を奏する。
つまり、本発明の有効成分は、デスモグレイン1を減少させることによる肌の軟化作用を奏することがわかった。
【0097】
[実施例4]
以下、デスモグレイン減少作用を有する成分を含む組成物の重層剥離抑制作用の検証結果を示す。
(1)製剤の調製
表3に記載の組成に従い、トゲナシ抽出物を含む製造例1の化粧料を調製した。
【0098】
【表3】
【0099】
(2)被験者及び対象部位
本実施例では、女性5名を被験者とし、被験者の左右前腕内側部(n=10)に、製造例1の化粧品を1日2回(朝と晩)塗布し、これを10日間続けた。
【0100】
(3)デスモグレイン減少作用の検証
製造例1の化粧品の使用前、使用後(10日間継続後)のそれぞれの段階で、実施例1の「<角層細胞試料の調製工程>」に記載の方法に準拠して、各被験死者の左右前腕内側部の角層を採取し、角層細胞試料を調製した。次いで、実施例1の「<免疫染色試験>」に記載の方法に準拠し、角層細胞試料中のデスモグレイン1を染色し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、製造例1の使用前後の解析用画像を撮影し、蛍光(染色)の確認を行った。
【0101】
解析用画像全体の面積を100%として、蛍光部分の面積を算出した。結果を図14図15に示す。なお、図15において、*は、p<0.05である。
【0102】
図14、及び図15に示す通り、トゲナシ抽出物を含む製造例1の化粧品を使用し続けることで、デスモグレイン1の量が減少することが確認できた。
【0103】
(4)重層剥離抑制作用の検証
製造例1の化粧品の使用前後において、実施例1の「<角層細胞試料の調製工程>」に記載の方法に準拠して、各被験死者の左右前腕内側部の角層を採取し、角層細胞試料を調製した。次いで、それぞれの角層細胞試料を、ゲンチアナバイオレットとブリリアントグリーンを用いて常法により染色し、光学顕微鏡により観察した。
結果の代表図を図16に示す。
【0104】
図16に示す通り、製造例1の使用前における角層細胞の光学顕微鏡像には、色が濃い部分が複数存在している。この色濃い部分は、テープストリッピング法により、角層細胞が重層剥離した部分である。
一方で、製造例1を10日間使用し続けた後に採取した角層細胞試料では、使用前に採取した角層細胞試料と比して、大部分が淡く染色している。この淡い部分は、角層細胞が一層のみ剥がされた部分であり、すなわち、重層剥離が生じていないことを意味している。
以上の通り、デスモグレイン減少作用を有する成分を含む製造例1の化粧品を使用することで、重層剥離が改善されることが確認できた。
【0105】
[実施例5]
以下、デスモグレイン減少作用を有する成分を含む組成物のデスモグレイン減少能を調べた。
【0106】
(1)組成物の調製
下記表4に示す処方に従って、ワイルドタイム抽出物を含む化粧料(乳液)を調製した。即ち、(イ)、(ロ)、(ハ)の成分をそれぞれ70℃に加熱し、(ロ)に(ハ)を加えて中和し、これを撹拌しながら(イ)を徐々に加えて乳化し、ホモジナイザーを用いて均質化した後、撹拌しながら冷却し、製造例2の乳液を得た。
【0107】
【表4】
【0108】
(2)被験者及び測定部位
本実施例では、40歳から52歳の女性20名を被験者とした。
そして、本実施例では、被験者顔面における、シミが存在する部位(92箇所)を測定部位として選定した。
各被験者のシミが存在する部位に、製造例の乳液を1日2回塗布し、これを12週間続けた。
【0109】
(3)測定
製造例の乳液の使用前、使用継続6週間経過時点、及び12週間経過時点において、実施例1の「<角層細胞試料の調製工程>」に記載の方法に準拠して、被験者のシミが存在する部位の角層細胞を採取し、角層細胞試料を調製した。次いで、実施例1の「<免疫染色試験>」に記載の方法により準拠して、それぞれの角層細胞試料におけるデスモグレイン1を染色し、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、製造例2の使用前後の解析用画像を撮影し、蛍光(染色)の確認行った。
【0110】
解析用画像全体の面積を100%として、蛍光部分の面積を算出した。結果を表5、表6、及び図17(代表)、図18、19に示す。なお、乳液使用12週間経過後のデータは、シミ部位9箇所のうち、80箇所のデータを集計し、同箇所における乳液使用前のデータと比較した。また、図18において、**はp<0.01であり、図19において、***はp<0.001である。
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
表5~6、及び図17~19に示す通り、ワイルドタイム抽出物を含む乳液を継続的に使用することで、シミ部位におけるデスモグレイン1量が有意に減少することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、接着タンパク質の量に関連する解析手法に応用できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19