(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エラスターゼの阻害用経口組成物及びその利用、エラスターゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤を経口摂取するエラスターゼ活性阻害方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240702BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20240702BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240702BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20240702BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240702BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20240702BHJP
C07K 5/12 20060101ALN20240702BHJP
C07K 5/087 20060101ALN20240702BHJP
【FI】
A23L19/00 Z
A23L33/105
A23L33/18
A61K36/185
A61P43/00 107
A61K38/06
C07K5/12
C07K5/087
(21)【出願番号】P 2022504931
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009785
(87)【国際公開番号】W WO2021176707
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】500081990
【氏名又は名称】ビーエイチエヌ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 郁郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌代
(72)【発明者】
【氏名】野崎 勉
(72)【発明者】
【氏名】石原 健夫
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-115143(JP,A)
【文献】特開昭59-118088(JP,A)
【文献】特開平01-168698(JP,A)
【文献】韓国登録特許第0154499(KR,B1)
【文献】ARAPITSAS, Panagiotis,Identification and quantification of polyphenolic compounds from okra seeds and skins,Food Chemistry,2008年,Vol.110,p.1041-1045
【文献】CARINI, Marina et al.,Procyanidins from Vitis vinifera seeds inhibit the respiratory burst of activated human neutrophils,Planta Med.,2001年,Vol.67,p.714-717
【文献】SANO, Susumu et al.,OF4949, NEW INHIBITORS OF AMINOPEPTIDASE B IV. EFFECTS OF OF4949 AND ITS DERIVATIVES ON ENZYME SYSTE,THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS,1987年,VOL.XL, NO.4,p.512-518
【文献】HOMSY, Rania et al.,Characterization of Human Skin Fibroblasts Elastase Activity,J. Invest. Dermatol.,1988年11月,VOL.91, NO.5,p.472-477
【文献】UMEZAWA, Hamao et al.,BESTATIN, AN INHIBITOR OF AMINOPEPTIDASE B, PRODUCED BY ACTINOMYCETES,THE JOURNAL OF ANTIBIOTICS,1976年01月,VOL.XXIX, NO.1,p.97-99
【文献】TSUKAHARA, Kazue et al.,Selective Inhibition of Skin Fibroblast Elastase Elicits a Concentration-Dependent Prevention of Ult,THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY,2001年,VOL.117, NO.3,p.671-677
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
A61K 6/00 -135/00
A61P 1/00 - 43/00
C07K 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オクラ(Abelmoschus esculentus)の種子の加工物又はオクラの種子由来の特定化合物である環状ペプチド「OF4949-II」を有効成分として含有することを特徴とする皮膚の線維芽細胞由来のエラスターゼの阻害用組成物。
【化1】
【請求項2】
前記種子が完熟種子である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記加工物がオクラ種子の抽出物、抽出残渣、酵素分解物又はスプラウトである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記抽出物が熱水抽出物である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記酵素分解物がアルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼによる加水分解物である請求項3又は4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物を摂取又は投与することにより、エラスターゼの活性を阻害することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物の利用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物を配合してなることを特徴とするエラスターゼ阻害剤。
【請求項8】
請求項7記載のエラスターゼ阻害剤を経口摂取することを特徴とするエラスターゼ活性阻害方法
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項9】
ヒト皮膚繊維芽細胞由来エラスターゼの活性を阻害することを特徴とする環状ペプチド「OF4949-II」の利用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項10】
皮膚組織のエラスターゼ阻害作用に基づくエラスチン増加のためのものである請求項9に記載の環状ペプチド「OF4949-II」の利用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項11】
皮膚組織の老化症状改善用のものである請求項9に記載の環状ペプチド「OF4949-II」の利用
(但し、ヒトに対する医療行為を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オクラ(Abelmoschus esculentus)の種子の加工物を含有することを特徴とするエラスターゼ阻害用の経口組成物及びその利用、エラスターゼ阻害剤、並びにエラスターゼ阻害剤を経口摂取するエラスターゼ活性阻害方法に関する。
特に、本発明は、環状ペプチド「OF4949-II」を有効成分として含有するエラスターゼ阻害用の経口組成物及びその利用、エラスターゼ阻害剤、並びにエラスターゼ阻害剤を経口摂取するエラスターゼ活性阻害方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物や魚類の生体組織は、一般的に、皮膚の表皮や臓器の表面等の上皮組織、主に筋肉を構成する筋組織、全身に張り巡らされた神経の神経組織、及び、身体構造を保持し支えている結合組織に大別される。結合組織は支持組織とも呼ばれ、広義には骨や軟骨、血液、脂肪等も結合組織に分類されることがある。
【0003】
このうち、上皮組織や支持組織については、皮膚、骨、脂肪等において古くから研究及び開発の取り組みがなされ、近年では、例えば、皮膚の老化症状の一環として肌の張りや弾力の低下(シワ・たるみ等)の発生メカニズムが解明されつつあり、肌のシワやたるみにはエラスチン(弾性線維)が大きく関与しているといわれている。
【0004】
エラスチンは、結合組織に存在する線維状の高分子蛋白質の一種であり、高分子の蛋白質であるコラーゲン同士を格子状に結合させ、その隙間にヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸等のムコ多糖類をはじめとする種々の細胞外成分が存在する細胞外マトリックス構造を形成している。この細胞外マトリックス構造は、細胞及び皮膚組織の支持、細胞間隙における保水、皮膚の潤滑性と柔軟性の保持、紫外線、乾燥環境、機械的刺激や損傷、微生物感染等の外的因子から皮膚組織を保護する等の役割を担っている。これらの蛋白質や細胞外成分は生体内において線維芽細胞により産生されることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
生体組織中のエラスチン含有量は、一般に、項靱帯で約78~80%、動脈で約50%、肺で約20%、真皮で約2~5%程度と認識されている。また、エラスチンの特徴の1つとして、コラーゲンやヒアルロン酸とは異なり、ヒトの誕生時にはほぼ0%で成長とともに量が増え、20歳代半ばごろにピークを迎える。その後減少に転じ、40歳代を過ぎると50%以下になるといわれている。これは、加齢にともなう代謝変化や紫外線やその他の要因によって生体組織中のエラスチンが分解あるいは変性される可能性を示唆し、その一因としてエラスチンを分解する酵素であるエラスターゼの活性亢進や過剰誘導等が推察される。
【0006】
このような観点から、線維芽細胞の増殖を促進する有効成分としてオクラの種子から得た水性成分を利用することが開示されている(特許文献1)。また、真皮中のエラスチンやコラーゲン等の含量の低減を防止するために様々な検討がなされ種々の報告や提案があり、一例として、皮膚の老化(シワや弾力)を改善する化粧料の有効成分としてレチノール配糖体が開示されている(特許文献2)。しかし、レチノール誘導体には過剰投与による副作用も知られており、安全性の点で十分ではない。
【0007】
また、エラスターゼの活性を阻害する物質を探索する試みも多く、これまでに植物由来成分や抽出物として、セイヨウトウキの抽出物(特許文献3)、フェニルエタノイド配糖体(エキナコサイド及びアクテオサイド)を含むハマウツボ科植物の抽出物(特許文献4)、ブドウの芽及び蔓から抽出したレスベラトロール類(特許文献5)、ザクロの花の粉末及び/又は抽出物(特許文献6)、マンネンタケの抽出物(特許文献7)、大豆タンパク加水分解物(特許文献8)、等が提案されている。
【0008】
上記の先行技術文献には、これらの成分や抽出物を化粧料や皮膚外用剤に配合して皮膚に塗布して利用する旨が記載されている。しかしながら、これらの成分や抽出物を化粧料や皮膚外用剤へ利用する場合は、成分の経皮吸収性や容易な洗浄性等の点で疑問や難点があり、皮膚の老化症状対策として望ましい効果が持続せず、皮膚組織の生理的機能を本質的に改善するものではなかった。また、ペプチド類を経口摂取する場合には、胃腸内で変質や分解を受けるリスクがあり、実用面において有効性を発現し得るものは数少なかった。したがって、前述した肌の老化症状を改善し得る、実効性のある素材が求められていた。
【0009】
なお、オクラ(Abelmoschus esculentus)はアオイ科トロロアオイ属に属する植物であり、世界の熱帯~温帯地域で生育し、野菜として栽培され食用に供されてきた長い歴史がある。通常、白色ないし黄白色の未熟な種子を内包する果実(莢)を生鮮野菜として摂食する。
【0010】
オクラを加工して得られるエキスや成分を産業的に利用する試みとして、前記の特許文献1、オクラ抽出物を含むヒアルロン酸合成促進剤及び該剤を配合する化粧料や飲食品(特許文献9)、オクラ種子由来のオリゴペプチド及び特定植物抽出物を含有する老化防止用皮膚外用剤(特許文献10)等が提案されている。しかしながら、オクラの種子や加工処理物とエラスチンやエラスターゼとの関連に言及するものは見当たらない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【文献】服部道広、「スキンケアの科学」、第6頁~第14頁及び第15頁~第83頁、(株)裳華房、1997年2月25日発行
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2018-115143号公報
【文献】特開平10-158290号公報(請求項1等)
【文献】特開2012-201615号公報、
【文献】特開2009-263279号公報
【文献】特開2008-239576号公報
【文献】特開2005-53873号公報
【文献】特開2005-23021号公報
【文献】特開2004-182687号公報
【文献】特開2004-51533号公報
【文献】特開2008-74757号公報
【文献】特開平02-288890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
かかる現状に鑑み、本発明は、紫外線や活性酸素等の外的要因、生体の代謝機能の低下等によって生じる生体組織中のエラスチンの低減を回復させ、皮膚の老化症状等を改善するための、エラスターゼ阻害用の経口組成物及びその利用、エラスターゼ阻害剤、並びにエラスターゼ阻害剤を経口摂取するエラスターゼ活性阻害方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明者らは、線維芽細胞由来のエラスターゼの活性を阻害する素材とその加工方法について鋭意検討を重ねた結果、オクラの種子の加工物が有効であることを見出した。
さらに、本発明者らは、線維芽細胞由来のエラスターゼの活性を阻害する成分とその精製方法について研究開発を続けた結果、オクラの完熟種子から得た環状ペプチド「OF4949-II」が有効成分であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の主たる特徴は概ね次の点にある。
(1)オクラ(Abelmoschus esculentus)の種子の加工物を含有することを特徴とする皮膚の線維芽細胞由来のエラスターゼの阻害用組成物。
ここで、前記種子は完熟種子であることが望ましく、前記加工物はオクラ種子の抽出物、該抽出残渣、酵素分解物又はスプラウトのいずれかであることが望ましく、前記抽出の処理は熱水抽出であることが望ましく、前記酵素分解の処理はアルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼを用いる加水分解であることが望ましい。また、前記組成物は経口的に摂取又は投与することが望ましい。
【0016】
(2)オクラの種子由来の特定化合物を有効成分として含有することを皮膚の線維芽細胞由来の特徴とするエラスターゼの阻害用組成物。
ここで、前記種子は完熟種子であることが望ましい。また、前記特定化合物は環状ペプチド「OF4949-II」であることが望ましく、前記ペプチドは下記式Iであることが望ましい。
【化1】
【0017】
(3)前記組成物を摂取又は投与することにより、エラスターゼの活性を阻害することを特徴とする組成物の利用。
ここで、前記組成物は経口的に摂取又は投与して利用することが望ましく、前記経口用組成物は飲食品の態様であることが望ましい。また、前記組成物の利用は、皮膚組織のエラスターゼ活性阻害作用に基づくエラスチン増加のためのものであることが望ましく、更には、皮膚組織の老化症状改善用のものであることが望ましい。
【0018】
(4)エラスターゼの活性を阻害することを特徴とする環状ペプチド「OF4949-II」の利用。
ここで、前記ペプチドを含有する組成物を経口的に摂取又は投与して利用することが望ましく、前記ペプチドを含有する経口用組成物は飲食品の態様であることが望ましい。また、前記組成物の利用は、皮膚組織のエラスターゼ活性阻害作用に基づくエラスチン増加のためのものであることが望ましく、更には、皮膚組織の老化症状改善用のものであることが望ましい。
【0019】
(5)前記エラスターゼの阻害用組成物を配合してなることを特徴とするエラスターゼ阻害剤。
【0020】
(6)前記のエラスターゼ阻害剤を経口摂取することを特徴とするエラスターゼ活性阻害方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る、オクラの完熟種子から得た加工物である熱水抽出物、その残渣、蛋白質加水分解物及びスプラウトは、オクラの種子由来の特定化合物である環状ペプチド「OF4949-II」を有効成分として、皮膚の線維芽細胞由来のエラスターゼに対して微量でも強力な阻害効果を奏する。
このため、前記ペプチドを含む本発明のエラスターゼの阻害用組成物及びエラスターゼ阻害剤は、皮膚のターンオーバーを促して皮膚トラブルや老化症状(シワ、シミ、くすみ、ソバカス、たるみ等)を改善し、美肌促進に寄与することが可能となる。また、皮膚組織中のエラスチンを増強させ、例えば、皮膚の損傷部位の再生を促進する等、肌の健康維持に役立つことが期待できる。
かかる効果は、本発明のエラスターゼの阻害用組成物を経口的に摂取又は投与することによって顕著に発現される。したがって、本発明のエラスターゼの阻害用組成物及び組成物を配合してなる阻害剤は、とりわけ飲食品、医薬品、動物飼料等の分野において、前記剤の態様のままで又は前記分野の従来の各種製品に配合した形態で、皮膚改善のために有効利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】オクラ完熟種子の抽出物の溶液からエラスターゼ阻害活性画分を得る工程を示すフローチャートである。
【
図2】画分Fの濃度を4mg/mLで分画した場合のクロマトグラムである。
【
図3】画分Fの濃度を4mg/mLで分画した場合のクロマトグラムである。
【
図4】画分(5)-1を10mg/mL程度の濃度で分取した場合の精製物のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。まず、本発明のエラスターゼの阻害用組成物は、生体組織とりわけ皮膚の真皮組織中に存在するエラスチンを分解する酵素であるエラスターゼを阻害する作用を有するものであり、オクラの種子の加工物を含有することを特徴とする。
また、本発明のエラスターゼの阻害用組成物は、オクラの種子由来の特定化合物である環状ペプチド「OF4949-II」を有効成分とする。
【0024】
オクラは、一般に、莢の形状が五角形、八角形、丸形等の品種があり、色が緑色、紫紅色、白色等の品種がある。本発明に係るオクラは、これらの種類に制限はなく、任意のものを使用することができる。
【0025】
本発明では、前記オクラの完熟した種子を原料とすることが望ましい。完熟した種子とは、植物体が成長した果実(莢)から収穫した種子又は自然発生的に飛散する種子を指し、濃緑色~黒褐色で、直径5mm前後のサイズのものであり、播種すれば発芽する能力を有する。
一方、未熟な種子は、成長途上にある莢の中に包含されており、白色~黄白色の約2~4mm径のものであり、通常は、莢とともに食用に供せられる。オクラの完熟種子は、オクラを栽培するために種苗会社から市販されており、これを用いるのが簡便である。
【0026】
前記オクラ種子は以下に述べる加工物、すなわち、オクラ種子の抽出物、該抽出残渣、酵素加水分解物又はスプラウトとして採取することが望ましい。
【0027】
オクラ種子の抽出物は、例えば、次のような加工処理により製造することができる。脱皮若しくは非脱皮の種子を粗粉砕ないしは微粉砕し、水を加えて分散液とした後、常温あるいは加熱下、静置又は適宜に撹拌しながら、抽出処理を行なう。次いで、この抽出液を遠心分離、濾過等の常法で処理して不溶物を除去し、より望ましくは常温ないしはそれ以下の低温で濃縮及び乾燥処理あるいは凍結乾燥処理することにより、本発明に係る抽出物を製造することができる。
【0028】
なお、前述の抽出工程において、熱水抽出物を製造する場合は、水分散液を約30~約90℃、より好ましくは約40~約60℃に設定し、約10分~数日間、より好ましくは約30分~数時間抽出処理し、低温抽出物を製造する場合は、約10~約30℃、より好ましくは約15~約25℃に設定し、約30分~数日間、より好ましくは数時間~1日浸漬して抽出処理すればよい。
【0029】
オクラ種子の抽出残渣は、前記抽出工程で除去した不溶物を常法により濃縮乾燥あるいは凍結乾燥処理して製造することができる。この場合、乾燥の程度は、カビ等の発生による汚染を防止するために、水分含量を5質量%以下にすることが好ましい。なお、本発明の前記残渣は、本発明の所望の効果との関連において、前述の低温抽出物を製造する際に分離される残渣(低温抽出残渣)であることが望ましい。
【0030】
オクラ種子の酵素分解物は、次のように加工処理して製造することができる。すなわち、オクラ種子を粉砕して水分散液とし、これに対種子当たり約0.1~約5質量%、より好ましくは約0.5~約2質量%の蛋白質加水分解酵素を添加して、常温ないしは加温(約30~約90℃、より好ましくは約40~約60℃)下、静置又は適宜に撹拌して、約10分~数日間、より好ましくは30分~数時間、加水分解処理を行わせる。該処理後、常法により酵素を加熱失活、次いで遠心分離又は濾過処理して不溶物を分離し、望ましくは常温ないしはそれ以下の低温で濃縮、乾燥処理あるいは凍結乾燥処理することによって製造することができる。なお、本発明では、前記水分散液に代えて、前述のように処理して得られるオクラ種子の抽出物又は抽出残渣を水で溶解ないしは分散させたものを用いて、同様に酵素処理してもよい。
【0031】
前記蛋白質加水分解酵素は、いかなる種類やタイプのものでも使用することが可能であるが、本発明においては、アルカリ性プロテアーゼ及び/又は中性プロテアーゼが好ましく、アルカリ性プロテアーゼがより一層望ましい。ここで、アルカリ性プロテアーゼは、基質のpHが概ね6.5~12で作用を示すものであれば使用することができ、中性プロテアーゼは、基質のpHが概ね5~8で作用を示すものであれば差し支えない。また、各プロテアーゼは、1種のみならず2種以上を組み合わせて使用してもよく、後述するような市販品を用いるのが簡便である。
【0032】
アルカリ性プロテアーゼとして以下の具体例を挙げることができる。但し、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
「プロチンSD-AY10」、「プロテアーゼP「アマノ」3SD」、「プロレザー(登録商標)FG-F」(以上、天野エンザイム(株)製)、「アルカラーゼ(登録商標)2.4LFG」(ノボザイムズ社製)、「オリエンターゼ(登録商標)22BF」(エイチビィアイ(株)製)、「アロアーゼ(登録商標)XA-10」(ヤクルト薬品工業(株)製)、「スミチーム(登録商標)MP」(新日本化学工業(株)製)、「ビオプラーゼOP、SP-20FG、AL-15FG、30G、APL-30及び30L」(ナガセケムテックス(株)製)、「OPTIMASE(登録商標)PR89L」、「MALTIFE CT(登録商標)PR6L」(以上、ダニスコUS社製)、「プロティナーゼK」、「キモトリプシン」(以上、ロシュ社製)等。
【0033】
中性プロテアーゼとして次のものを例示することができるが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
「Flavourzyme(登録商標)」、「PROTAMEX(登録商標)MG」、「Neutrase」(以上、ノボザイムズ社製)、「パンチダーゼ(登録商標)P及びMP」、「アロアーゼ(登録商標)AP-10、NP-10及びNS」(以上、ヤクルト薬品工業(株)製)、「ヌクレイシン(登録商標)」、「オリエンターゼ(登録商標)10NL及び90N」(以上、エイチビィアイ(株)製)、「プロチンP」(大和化成(株)製)、「プロテアーゼA「アマノ」G」、「パパインW40」、「ブロメラインF」(以上、天野エンザイム(株)製)、「スミチーム(登録商標)LP及びLPL」(新日本化学工業(株)製)、「食品用精製パパイン」、「デナチームAP」(以上、ナガセケムテックス(株)製)、「トリプシン」(ロシュ社製)等。
【0034】
オクラ種子のスプラウトは、公知の方法により種子を発芽、かいわれ型に生育させ、緑葉が生じて茎丈が約5~15cmになるまで栽培したものを収穫し、水洗後、乾燥処理あるいは凍結乾燥処理することによって製造することができる。
【0035】
前述のように処理して得られる前記加工物は、オクラ種子に含まれる蛋白質、多糖蛋白複合体、多糖等及び/又はこれらが加水分解されたペプチド類、アミノ酸類、オリゴ糖類、単糖ないしはオリゴ糖類とペプチド又はアミノ酸との結合体等のさまざまな成分を含有する極めて複雑な組成物である。
【0036】
前記のオクラ種子の加工物を構成する複雑な組成物について鋭意研究した結果、発明者らは、環状ペプチド「OF4949-II」が有効成分として含有されていることを発見した。環状ペプチド「OF4949-II」は、アミノペプチダーゼBの活性を強力に阻害すること、及びペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物が生産することが知られているが(特許文献11)、オクラ完熟種子に含まれているという報告はない。
【0037】
環状ペプチド「OF4949-II」は、例えば、次のような精製処理により製造することができる。オクラの完熟種子を加熱下、静置又は適宜に撹拌しながら、抽出処理を行なう。次いで、この抽出液を遠心分離、濾過等の常法で処理して不溶物を除去し、より望ましくは常温ないしはそれ以下の低温で濃縮及び乾燥処理あるいは凍結乾燥処理することにより抽出物を得る。得られた抽出物をフラッシュクロマトグラフィー又は高速液体クロマトグラフィーを使用し目的の画分を濃縮し精製を繰り返す。
【0038】
なお、前述の精製工程において、最終的に質量分析や核磁気共鳴装置により同定を行い環状ペプチド「OF4949-II」であることを確認する。
【0039】
本発明においては、かかるオクラ種子由来の環状ペプチド「OF4949-II」のみならず、前述のような微生物等から得られる環状ペプチド「OF4949-II」であっても、本願発明のエラスターゼ阻害作用を有する有効成分として利用することが可能であり、同様の効果を期待することができる。
【0040】
本発明では、前記のオクラ種子の加工物をそのまま、又は、デキストリン、セルロ-ス、ゼラチン、精製水等の公知の賦形剤を併用して、本発明のエラスターゼの阻害用組成物を含有する、液体状、粉末状、顆粒状、カプセル状の阻害剤を調製することができる。この剤におけるオクラ種子の加工物の含量は概ね20質量%以上であり、これを下回ると本発明の所望の効果を発現し難くなるから、オクラ種子の加工物/賦形剤(質量割合)は100~約20/0~約80が望ましく、100~約50/0~約50がより一層望ましい。
【0041】
本発明のエラスターゼの阻害用組成物及びこれを含有するエラスターゼ阻害剤は、これを経口で摂取又は投与することにより、皮膚組織中のエラスターゼ作用を抑制してエラスチンの低減を防止するため、皮膚の前記トラブルを改善し、老化症状を回復し、美肌を促進するための美容手段として利用することができる。
【0042】
この好適な態様として、本発明のエラスターゼ阻害剤を固体状(粉末や顆粒)、ゲル状(ゼリー)、ペ-スト状又は液体状(飲料やドリンク)に成形した飲食品、医薬品、動物飼料等の製品とすることが可能である。また、これらの製品を製造するために使用される公知の添加物(界面活性剤、増粘剤、酸化防止剤、着色剤、香料等)や本発明の趣旨に反しない公知の素材(線維芽細胞増殖促進作用、コラーゲンやヒアルロン酸等の細胞外成分産生促進作用、皮膚老化防止作用、美肌促進作用等が公知の動植物由来の素材等)を適宜に併用して常法により前記各種製品とすることが可能である。
【実施例】
【0043】
次に、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り部や%は質量基準である。
【実施例1】
【0044】
〔オクラ種子加工物の製造例〕
製造例1
鹿児島県指宿産オクラの完熟種子をミルで粗粉砕し、この100gに蒸留水300mLを加えて撹拌しながら58℃に加熱して分散液(pH7.5)を調製し、これに蛋白質分解酵素(エイチビィアイ(株)製、商品名:「オリエンターゼ22BF」、アルカリ性プロテアーゼ)1部を添加して5時間ゆるやかに撹拌を続けた。この後、酵素を失活させ(80℃で30分間)、不溶物を遠心分離で除去し、凍結乾燥して酵素分解物(試料1)を得た。
【0045】
比較試料1
比較試料1として、エラスターゼ阻害作用を有することが公知の素材であるライチ種子由来の市販品(オリザ油化(株)製、商品名:「ライチ種子エキス-WSP」)を用いた。
【0046】
比較試料2
比較試料2として、エラスターゼ阻害作用を有することが公知の素材であるレスベラトロール含有組成物の市販品(ビーエイチエヌ(株)製、商品名:「レスベラトロールε」)を用いた。
【0047】
比較試料3
比較試料3として、植物由来の公知素材であるボタンボウフウ葉粉末の市販品(ビーエイチエヌ(株)製、商品名:「ボタンボウフウ葉粉末」)を用いた。
【0048】
比較試料4
比較試料4として、植物由来の公知素材であるゴマ葉粉末の市販品(ビーエイチエヌ(株)製、商品名:「ゴマ葉粉末」)を用いた。
【0049】
比較試料5
比較試料5として、オクラ由来の公知素材であるオクラ種子粉末の市販品(販売者:(株)松本交商、商品名:「マイオキシノール LS 9736」)を用いた。
【0050】
製造例2
製造例1で使用した完熟種子を粗粉砕し、100gに水800mLを加え、80~90℃で60分間加熱した後、室温まで冷却し、精密濾過(濾紙)して濾液を採取した。この濾過残渣に再度水600mLを加えて同様に処理して濾液を採取した。両濾液を合わせて減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して抽出物(試料2)を製造した。
【0051】
製造例3
製造例1で使用した完熟種子を粗粉砕し、100gに水800mLを加え、15~25℃で一晩浸漬後、精密濾過(濾紙)して濾液を採取し、減圧下に濃縮し、凍結乾燥及び粉砕して抽出物(試料3)を製造した。
【0052】
製造例4
製造例3に記載した濾過後の残渣を凍結乾燥及び粉砕して抽出残渣(試料4)を製造した。
【0053】
製造例5
製造例1と同じ完熟種子を0℃~室温の水に8~20時間浸漬して水を除いた後、栽培容器に播種し、室温~30℃、湿度75~90%の暗室に保存し、適宜に水を散布することで発芽させた。発芽後ハウスに移して太陽光下、室温25~30℃、適宜に水を散布しながら、5~7日後にカイワレ型のスプラウトを得た。これを水洗し、凍結乾燥及び粉砕してスプラウト粉砕物(試料5)を製造した。
【0054】
比較製造例1
製造例1において、完熟種子を未熟種子に代えたことを除き同様に処理して酵素分解物(比較試料6)を得た。
【0055】
比較製造例2
製造例1において、完熟種子をオクラ可食部(未熟種子を内包する莢。以下同じ。)由来の市販品((有)エール製、商品名:「オクラパウダー」)に代えたことを除き同様に処理して酵素分解物(比較試料7)を得た。
【0056】
比較製造例3
製造例2において、完熟種子をオクラ可食部由来の市販品((有)エール製、商品名:「オクラパウダー」)に代えたことを除き同様に処理して抽出物(比較試料8)を得た。
【0057】
試験例
前記の各試料がエラスターゼ活性に及ぼす影響を以下に述べる方法で調べた。
【0058】
試験例1:エラスターゼ阻害作用(その1)
エラスターゼ活性を測定する試験試料として前記の試料1、比較試料1~3を用いた。各試験試料を100mMトリス・塩酸バッファー(pH8.0)に溶解し、終濃度40.0~1000.0μg/mlの試験溶液を調製した。この際、溶解し難い場合には、10%以内でDMSOを添加した。
96マイクロプレートにこの試験溶液25μlとヒト皮膚線維芽細胞由来エラスターゼ溶液(ここで、前記エラスターゼ溶液は、ヒト皮膚線維芽細胞(クラボウ(株)社製)をコンフルエントになるように前培養し、2%FBS含有DMEM培地で24時間培養したのちPBS(-)で2回洗浄後、0.1% triton X-100を加え、超音波処理にて溶解させた。この溶解液を12000rpmで5分間遠心し、上清を回収し、凍結乾燥した粉末を粗酵素粉末とし、各試験において都度、緩衝液にて溶解させた。)25μlを混合し、37℃で5分間予加温した。
尚、対照として、当該エラスターゼ溶液に100mMトリス・塩酸バッファー及びDMSOのみを加えた混合液も、同様に処理した。
次に、基質としてN-サクシニル-トリアラニル-P-ニトロアニリドを含む溶液(基質を最小量のDMSOに溶解し、100mMトリス・塩酸バッファー(pH8.0)を加えて5mMとしたもの)50μlを加え、反応を開始させた。2時間経過後に、エラスターゼの作用によって遊離してくるニトロアニリンを、分光光度計(コロナ電気(株)製、Microplate Reader SH9000 Lab)を用いて405nm波長光として測定し、試験試料を添加しない対照の吸光度に対する検体の吸光度からエラスターゼ阻害率を算出した。エラスターゼ阻害率は次の計算式から求めた。
エラスターゼ阻害率(%)={1-(対照-試料)/(対照-ブランク)}×100
【0059】
この結果を表1に示す。同表において、線維芽細胞由来のエラスターゼ阻害率の度合は、同時に実施した対照試験の値を0としたときの相対値で表した。
同表のデ-タから、完熟種子を酵素処理した場合(試料1)は試験試料のいずれの濃度においても極めて高いエラスターゼ阻害作用を示した。これに対して、エラスターゼ阻害作用が既に知られているライチ種子エキス(比較試料1)やレスベラトロール含有組成物(比較試料2)は、高濃度の場合に阻害作用が高まるが低濃度では阻害作用が小さいこと、また、植物由来のボタンボウフウ葉粉末(比較試料3)及びゴマ葉粉末(比較試料4)では、いずれの濃度においても阻害作用が弱いことを確認した。
【0060】
【0061】
試験例2:エラスターゼ阻害作用(その2)
本試験例では、オクラ種子の酵素分解物以外の加工物及び完熟種子以外の加工物がエラスターゼ阻害作用に及ぼす影響を調べた。ここで、エラスターゼ阻害活性の測定や該阻害作用の度合いの評価は試験例1と同じ方法で実施したが、試験溶液の終濃度は0.4~10.0μg/mlに設定した。また、試験試料は前記の試料1、試料2~5、比較試料5~8を用いた。
【0062】
この結果を表2に示す。同表において、エラスターゼ阻害作用の度合(阻害率)は、同時に実施した対照試験の値を0としたときの相対値で表した。
同表のデ-タから、オクラの完熟種子の加工物である抽出物(試料2、3)、抽出残渣(試料4)及びスプラウト(試料5)は酵素分解物(試料1)と同程度の強力なエラスターゼ阻害作用を示すこと、一方、オクラの種子由来粉末の場合(比較試料5)はエラスターゼ阻害作用が劣り、未熟種子を酵素分解した場合(比較試料6)、可食部(未熟種子を含む莢)を酵素処理した場合(比較試料7)及び熱水抽出した場合(比較試料8)は、エラスターゼ阻害作用がほとんど認められないことを確認した。
【0063】
【0064】
試験例3:ヒトモニター試験
以下の試験に同意を得たボランティアの成人女性40名(30歳~55歳、平均年齢: 44.5歳)を対象とし、1群20名に分かれてもらい、1群は試料1(100mg)もう1群はプラセボ(デキストリン100mg)、を1日2回経口摂取してもらい、これを4週間続けた。摂取する前後の肌の変化について、肌の乾燥・シミ・シワ・はり・すくみ・たるみ・ほうれい線・化粧のり・毛穴の開き等の項目を用い、改善の有無についてアンケ-ト調査を行ない、評価した。
【0065】
この結果、試料1群においては、摂取前と比べ肌が改善した:17名、変化しなかった:2名、改悪した1名、プラセボ群においては肌が改善した:2名、変化しなかった:14名、改悪した4名、であった。肌の変化した17名は、特にシワ・はり・たるみ・ほうれい線の項目について2つ以上の改善の選択があった。また、プラセボ群には見られなかった、肌の乾燥や毛穴の開きの改善についても選択されていた。
結果は、本発明に係るオクラ完熟種子の加工物がエラスターゼの活性を阻害することによる肌の改善に有用であることを示唆する。
【実施例2】
【0066】
〔環状ペプチド「OF4949-II」の製造例〕
オクラの完熟種子から得た抽出物5gに蒸留水10mLを加え、よく撹拌し、超音波処理を行い、遠心又は静置後、上清を回収し、分画サンプルとした。この分画サンプル1mLを、分取用充填剤TOYOPEARL HW-40F(東ソー)が詰められたクロマトグラフ管に供し、一定量の20%メタノールを流した。
図1に示すフローチャートのように、順次溶出する溶液を、ガラス試験管に3mL毎に分画した。
【0067】
試験例
前記の各画分がエラスターゼ活性に及ぼす影響を以下に述べる方法で調べた。
【0068】
試験例:エラスターゼ阻害作用
エラスターゼ活性を測定する試験試料として前記の各画分を用いた。
試験方法は、前記の試験例2と同様の方法において、試験溶液の終濃度を0.4~10.0μg/mlに設定して実施した。
【0069】
この結果を表3に示す。同表において、各画分のエラスターゼ阻害率の度合は、同時に実施した対照試験の値を0としたときの相対値で表した。
同表のデータから、画分Fは他の画分のいずれの濃度においても極めて高いエラスターゼ阻害作用(%)を示した。
【0070】
【0071】
次に、前記の画分Fを以下のように処理して精製した。前記画分Fを濃縮・乾固し1~5mg/mL程度の濃度になるように蒸留水に溶解した。溶解後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて流速0.7mL/minでC18カラムである5C
18-MS-II(ナカライテスク)を使用しグラジエント分析を行い5種類の画分(溶出順に(1)~(5))を得て、各画分のエラスターゼ阻害活性を同様に測定した結果、画分(5)に最も高い阻害活性が認められた。
なお、グラジエント分析において、HPLCの移動相には0.1%のギ酸を含有した水(移動相A)とアセトニトリル(移動相B)をグラジエントで使用し、移動相Bの割合は0-5(min):0%、15(min):50%、15-25(min):80%である。
さらに、同様の条件で画分(5)を3種類の画分((5)-1~3)に分けて分画したところ実質的に(5)-1にのみ高い阻害活性が確認された。結果を表4に示す。
画分Fの濃度を4mg/mLで分画した場合のクロマトグラムを
図2、
図3に示す。
図2、3において縦軸は紫外線吸収強度(mV/cm)、横軸は保持時間(min/cm)である。
【0072】
【0073】
阻害活性が高かった画分(5)-1を同様に繰り返し十分な量を得たのち、HPLCを用いて流速0.6mL/minでアミノカラムであるIntrada Amino Acid(Imtakt)を使用しグラジエント分析を行い10.5分頃のピークを回収し精製した。
なお、グラジエント分析において、HPLCの移動相には0.1%のギ酸を含有した水(移動相A)とアセトニトリル(移動相B)をグラジエントで使用し、移動相Bの割合は0-3(min):90%、10(min):0%、10-15(min):0%である。
例えば、画分(5)-1を10mg/mL程度の濃度で分取した場合の精製物のクロマトグラムを
図4に示す。
図4において縦軸は紫外線吸収強度(mV)、横軸は保持時間(min)である。
【0074】
前述の処理で得た精製物を、直接導入/質量分析(DI/MS)および核磁気共鳴分析(NMR)に供して、分子量:472、分子式:C22H24N4O8を推定し、前記式Iで示される環状ペプチドの「OF4949-II」(CAS番号:93375-50-9)であることを確認した。
【0075】
試作例1:ハードカプセル製剤
前記の試料1をカプセル充填機に供して、常法により1粒あたり内容量が100mgのゼラチン被覆ハードカプセル製剤を試作した。ハードカプセル製剤(製造例1の完熟オクラ種子を配合したもの)をモニター試験で経口摂取してもらったところ、肌の改善に有用である知見を得た。したがって、本錠剤は肌の改善のための経口摂取可能な栄養補助食品、医薬品又は動物用飼料として利用することができる。
【0076】
試作例2:錠剤
以下に示す原料を常法により打錠して錠剤を試作した。ここで、完熟オクラ種子としては、前記の試料1~5のいずれか1種を使用した。これらの錠剤はいずれも安定で服用し易いものであり、栄養補助食品や医薬品として利用することができる。
(配合原料) (1錠当たりの質量(mg))
1.オクラ完熟種子 100
2.デキストリン 100
3.バレイショデンプン 49
4.微結晶セルロ-ス 20
5.合成ケイ酸アルミニウム 30
6.ステアリン酸カルシウム 1
【0077】
試作例3:栄養補助食品
前記試料1を100mg、ロイシンを400mg、イソロイシンを250mg、バリンを200mg、アルギニンを300mgとし、これらの混合、篩過した粉末を包装充填し、栄養補助食品を試作した。この栄養補助食品はヒトのみならずペットフ-ドにも利用することができる。
【0078】
試作例4:食品(麺類)
前記の試料1を10g、そば粉を350g、強力粉を150gとし、これらを混ぜ合わせながら、篩にかけ、水を150ml混合して、そばを試作した。これは市販品と比べて風味や食感に違和感のないものであった。
【0079】
試作例5:清涼飲料水、ドリンク剤
市販の清涼飲料水及びドリンク剤100mLに前記試料1又は試料2を500mg又は100mg加えて十分に混合し飲料を試作した。この飲料は元の清涼飲料水及びドリンク剤と比較して風味及び保存安定性で何ら■色のないものであった。これは清涼飲料又はドリンク剤として利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0080】
オクラの完熟種子から得られる加工物、特に、オクラの完熟種子から得られる環状ペプチド「OF4949-II」は、線維芽細由来のエラスターゼ活性を阻害する作用を有するため、これを経口的に摂取又は投与することにより、皮膚の本来の生理機能を回復させ、皮膚トラブルの改善、美肌の促進、皮膚損傷の早期回復等に役立つ飲食品、医薬品、動物飼料等として有効利用が可能となる。