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特許75133053次元培養された幹細胞から細胞外小胞体を製造する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】3次元培養された幹細胞から細胞外小胞体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20240702BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20240702BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61P29/00
A61P37/06
A61P19/02
A61P3/10
A61P17/00
A61P25/00
A61P11/00
A61P1/04
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022565884
(86)(22)【出願日】2021-04-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-08
(86)【国際出願番号】 KR2021005408
(87)【国際公開番号】W WO2021221471
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】10-2020-0051640
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518056140
【氏名又は名称】コングク ユニバーシティ インダストリアル コーオペレーション コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チョ,サング
(72)【発明者】
【氏名】キム,セヒ
(72)【発明者】
【氏名】イム,ギョンミン
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0080723(KR,A)
【文献】特表2018-508486(JP,A)
【文献】Scientific Reports,2017年,Vol.7,16214
【文献】Tissue Eng. Regen. Med.,2018年,Vol.15, No.4,pp.427-436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップを含む、幹細胞由来の細胞外小胞体(extracellular vesicle)の製造方法であって、前記幹細胞は間葉幹細胞である、該製造方法
(a)対象体から分離された幹細胞を培養して細胞凝集体(cell aggregate)を形成するステップ、及び
(b)前記細胞凝集体を、TGF-β(Transforming growth factor beta)であるTGF-β3を含む培養液で3次元培養するステップ。
【請求項2】
前記ステップ(a)は、多重ウェル(multi-well)培養容器で幹細胞を浮遊培養(suspension culture)することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多重ウェル(multi-well)培養容器は、ウェル当たり300~500μmの大きさを有するマイクロウェルプレートであることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記浮遊培養は、前記多重ウェル(multi-well)培養容器内にウェル当たり300~500個の細胞を分注することによって行われることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(b)は、前記細胞凝集体を浮遊状態で回転振盪培養(orbital shaking culture)することによって行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記回転振盪培養は、50~70rpmの回転速度で行われることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法は、前記ステップ(b)で収得した培養液から複数回の遠心分離を介して細胞外小胞体を分離するステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞外小胞体は、30~150nmの平均直径を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法により幹細胞由来の細胞外小胞体を得て、該細胞外小胞体を有効成分として含む炎症もしくは自己免疫疾患の予防又は治療用組成物を得る、該組成物の製造方法。
【請求項10】
前記自己免疫疾患又は炎症性疾患は、リウマチ性関節炎、反応性関節炎、1型糖尿病、2型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症、特発性線維性肺胞炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、限局性強皮症、全身性強皮症、大腸炎、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)、ベーチェット病(Bechet’s disease)、川崎病(Kawasaki’s disease)、原発性胆汁性硬化症(primary biliary sclerosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、移植片対宿主病(Graft-versus-host disease、GVHD)またはクローン病(Crohn’s disease)であることを特徴とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記幹細胞由来の細胞外小胞体は、ペルオキシレドキシン-4(Peroxiredoxin-4)、チオレドキシン還元酵素1(Thioredoxin reductase 1)及びプロスタグランジンG/Hシンターゼ2(prostaglandin G/H synthase 2)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質を高発現するものである、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞外小胞体は、HSP90-β(heat shock protein 90-β)、ネプリリシン(Neprilysin)、T-複合体タンパク質1(TCP1)サブユニット-α、フィラミンA(Filamin-A)、40Sリボソームタンパク質S3、ミオシン-9、トランスアルドラーゼ、ファシン(Fascin)、チオレドキシン還元酵素1、及びRUVBL2(RuvB-like 2)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質をさらに高発現することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞外小胞体は、コロニン-1A(Coronin-1A)、プロリル4-ヒドロキシラーゼサブユニットα-2(Prolyl 4-hydroxylase subunit α-2)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質に対して陽性であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞の3次元培養を通じて、幹細胞由来の細胞外小胞体を高収率で収得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞外小胞体は、ヒトや動物はもちろんのこと、昆虫、植物、微生物などの様々な真核細胞から分泌される様々な大きさの脂質二重膜構造の小胞体であって、その中でナノレベルの粒径を有する微細小胞体をエキソソーム(exosome)という。エキソソームは、細胞が含有しているタンパク質、核酸、脂質、炭水化物などの特定の分子を含むと共に、脂質二重層でこれらの分子を安定的に保護し、分泌後に他の細胞にこれらを伝達する情報伝達の役割を果たす。
【0003】
一方、幹細胞を用いた再生医学又は免疫疾患の治療において、生きている幹細胞を病変部に直接移植する細胞治療法を代替する、幹細胞に由来した細胞外小胞体を用いた治療法が前臨床試験で効能を示しており、いくつかの疾病治療において臨床段階に入った事例も報告されている。幹細胞から分泌されるエキソソームは、幹細胞が有している抗炎症活性及び再生(self-renewal)活性に関連する核心因子を含有していると知られている。したがって、細胞を利用しないので、治療的有効量の細胞の確保及び維持などの問題がある既存の細胞治療剤の欠点を克服できる新たなアプローチとして脚光を浴びている。しかし、一般に有核細胞が分泌するエキソソームの個数は細胞当たり1000個程度に過ぎない。そのため、エキソソームを用いた治療剤の技術において、細胞から分離されたエキソソームの収率を向上させることは非常に重要な問題である。
【0004】
一般に、エキソソームは、細胞培養液から分離される方式で収得する。一般の幹細胞の培養時に2次元培養を行うが、この場合、多量のエキソソームを得るためには、多くの量の細胞を培養しなければならないため、結果的にコストの増加をもたらす。また、多数の細胞を培養した大量の細胞培養液からエキソソームを分離することは、かなりの労働を必要とする。エキソソームの分離及び精製には遠心分離及びTFF(tangential flow filtration)を主に用いるが、遠心分離の場合、適用できる容量が限定されているため、大量の細胞培養液からエキソソームを分離するのに不適であり、TFFは、遠心分離に比べて大量工程に適するという利点があるが、T濾過工程中に発生するせん断ストレス(shear stress)及びエキソソームの損失など解決しなければならない問題点が多い。このような問題点を解決するために、少ない数の細胞及び少量の培養液で多量のエキソソームを収得できる効率的な抽出方法の開発が求められている。
【0005】
本明細書全体にわたって多数の論文及び特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照として組み込まれ、本発明の属する技術分野のレベル及び本発明の内容がより明確に説明される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、様々な有益成分を含有しながらも、脂質二重膜で構成されることで、それ自体で安定した薬物伝達システムとしても機能する幹細胞由来の細胞外小胞体、具体的には間葉幹細胞由来のエキソソームの効率的な収得方法を開発するために鋭意研究努力した。その結果、幹細胞凝集体を3次元培養することによってインビボの条件と類似の物理的、生物学的、空間的環境を提供し、同時に、TGF-β(Transforming growth factor beta)スーパーファミリー(superfamily)サイトカインを添加する場合、エキソソームの収率だけでなく、炎症性疾患などに対する治療効果のような幹細胞固有の免疫調節効果も著しく向上することを見出すことによって、本発明を完成するようになった。
【0007】
したがって、本発明の目的は、幹細胞由来の細胞外小胞体(extracellular vesicle)の製造方法を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記方法により製造された幹細胞由来の細胞外小胞体を有効成分として含む炎症もしくは自己免疫疾患の予防又は治療用組成物を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってさらに明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、本発明は、次のステップを含む幹細胞由来の細胞外小胞体(extracellular vesicle)の製造方法を提供する:
(a)対象体から分離された幹細胞を培養して細胞凝集体(cell aggregate)を形成するステップ;及び
(b)前記細胞凝集体を、TGF-β(Transforming growth factor beta)を含む培養液で3次元培養するステップ。
【0011】
本発明者らは、様々な有益成分を含有しながらも、脂質二重膜で構成されることで、それ自体で安定した薬物伝達システムとしても機能する幹細胞由来の細胞外小胞体、具体的には間葉幹細胞由来のエキソソームの効率的な収得方法を開発するために鋭意研究努力した。その結果、幹細胞凝集体を3次元培養することによってインビボの条件と類似の物理的、生物学的、空間的環境を提供し、同時に、TGF-β(Transforming growth factor beta)スーパーファミリー(superfamily)サイトカインを添加する場合、エキソソームの収率だけでなく、炎症性疾患などに対する治療効果のような幹細胞固有の免疫調節効果も著しく向上することを見出した。
【0012】
本明細書において、用語「細胞外小胞体(extracellular vesicle)」は、様々な細胞から多胞体と原形質膜との融合を通じて細胞外環境に分泌される30~1,000nmの範囲の直径の脂質二重膜構造の小胞を意味する。
【0013】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明の方法により製造される細胞外小胞体は、30~150nmの平均直径を有し、より具体的には50~120nmの平均直径を有する。このような範囲の微細直径を有する細胞外小胞体をエキソソーム(exosome)という。
【0014】
本明細書において、用語「幹細胞(stem cell)」は、組織を構成する各細胞に分化(differentiation)する前の段階の未分化細胞であって、特定の分化刺激(環境)下で特定の細胞に分化し得る能力を有する細胞を総称する。幹細胞は、細胞分裂が停止した分化された細胞とは異なって、細胞分裂によって自分と同じ細胞を生産(self-renewal)することができ、分化刺激が加えられると、刺激の性格に応じて様々な細胞に分化し得る、分化の柔軟性(plasticity)を有していることが特徴である。
【0015】
本発明で用いられる幹細胞は、幹細胞の特性、すなわち未分化、無限定増殖及び特定の細胞への分化能を有することで、再生しようとする組織に分化誘導が可能な細胞であれば、制限なしに利用可能である。
【0016】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明で用いられる幹細胞は間葉幹細胞である。
【0017】
本明細書において、用語「間葉幹細胞」は、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、心筋細胞への分化が可能な多分化能(multipotency)を有した幹細胞を意味する。間葉幹細胞は、渦巻き状の形態と基本的な細胞表面マーカーCD73(+)、CD105(+)、CD34(-)、CD45(-)の発現の程度を通じて識別され得、多分化能と共に免疫反応を調節する機能も有する。
【0018】
本発明の具体的な具現例によれば、前記ステップ(a)は、多重ウェル(multi-well)培養容器で幹細胞を浮遊培養(suspension culture)することによって行われる。
【0019】
本明細書において、用語「浮遊培養(suspension culture)」は、培養対象細胞を基質(substrate)などに固定させないまま、培養液中で浮遊(floating)している状態で培養することをいう。これによって、用語「浮遊培養」は、「3次元培養(3-dimensional culture)」と同じ意味で使用される。付着(adhesion)依存性である幹細胞は、浮遊培養時に細胞凝集を起こし、このような凝集に含まれることができずに単独で浮遊する細胞は、細胞死(apoptosis)を誘発して死滅するようになるので、細胞は、その付着特性に合った環境が造成されなければならない。本発明によれば、複数のウェルを有する多重ウェルで幹細胞を浮遊培養することによって、ウェルの大きさによる大きさの細胞凝集体が形成される。これによって、本発明は、同じ大きさ及び形状を有する規格化された幹細胞凝集体を大量に収得することができる。
【0020】
本明細書において、用語「細胞凝集体(aggregate)」は、単一層(monolayer)ではない、3次元的な成長が許容された浮遊培養などの環境で培養された細胞が自己集合(self aggregation)をしながら形成された3次元構造の細胞凝集塊を意味する。3次元培養の結果として作られた細胞凝集体は、幹細胞が由来した生体内組織と類似の環境を提供し、大きさ及び自己集合された細胞の数によって球状(sphere)であってもよく、球状以外の形状であってもよい。球状の細胞凝集体は、スフェロイド(spheroid)と呼ばれるが、スフェロイドは、幾何学的に完全な球状である必要はない。
【0021】
本明細書において、用語「細胞培養液」は、糖、アミノ酸、各種栄養物質、無機質などのように細胞の成長及び増殖に必須の要素を含む、インビトロで細胞の成長及び増殖のための混合物を意味する。
【0022】
細胞培養用培地に追加的に含まれ得る成分は、例えば、グリセリン、L-アラニン、L-アルギニン塩酸塩、L-システイン塩酸塩一水和物、L-グルタミン、L-ヒスチジン塩酸塩一水和物、L-リジン塩酸塩、L-メチオニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-バリン、L-アスパラギン一水和物、L-アスパラギン酸、L-シスチン2HCl、L-グルタミン酸、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-フェニルアラニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩二水和物、i-イノシトール、チアミン塩酸塩、ナイアシンアミド、ピリドキシン塩酸塩、ビオチン、D-パントテン酸カルシウム、葉酸、リボフラビン、ビタミンB12、塩化ナトリウム(NaCl)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、塩化カリウム(KCl)、塩化カルシウム(CaCl)、リン酸水素ナトリウム一水和物(NaHPO-HO)、硫酸銅五水和物(CuSO-5HO)、硫酸第二鉄七水和物(FeSO-7HO)、塩化マグネシウム(無水)、硫酸マグネシウム(MgSO)、リン酸水素二ナトリウム(NaHPO)、硫酸亜鉛七水和物(ZnSO-7HO)、D-グルコース(デキストロース)、ピルビン酸ナトリウム、ヒポキサンチンNa、リノレン酸、リポ酸、プトレシン2HCl及びチミジンを含むが、これに制限されるものではない。
【0023】
本発明に係る細胞培養用培地は、人為的に製造して使用するか、あるいは商業的に市販中のものを購入して使用してもよい。商業的に市販している培養用培地の例は、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、α-MEM(Alpha Modification of Eagle’s Medium)、F12(Nutrient Mixture F-12)及びDMEM/F12(Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12)を含むが、これに制限されるものではない。
【0024】
本発明の具体的な具現例によれば、前記多重ウェル(multi-well)培養容器は、ウェル当たり300~500μmの大きさを有する。より具体的には350~450の大きさを有し、最も具体的には約400μmの大きさを有する。
【0025】
本発明の具体的な具現例によれば、前記浮遊培養は、前記多重ウェル(multi-well)培養容器内にウェル当たり300~500個の細胞を分注して行われる。より具体的には350~450個、最も具体的には約400個の細胞を分注する。
【0026】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明で用いられるTGF-βは、TGF-β1、TGF-β2、またはTGF-β3であり、より具体的にはTGF-β3である。
【0027】
本発明の具体的な具現例によれば、前記ステップ(b)は、前記細胞凝集体を浮遊状態で回転振盪培養(orbital shaking culture)することによって行われる。
【0028】
より具体的には、前記回転振盪培養は50~70rpmの回転速度で行われる。より具体的には53~67rpm、さらに具体的には55~65rpm、最も具体的には57~63rpmの回転速度で行われる。
【0029】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明の方法は、前記ステップ(b)で収得した培養液から複数回の遠心分離を介して細胞外小胞体を分離するステップをさらに含む。
【0030】
従来の方法により培養された幹細胞から遠心分離を介して細胞外小胞体を収得する場合、遠心分離の容量の限界により、十分な量の細胞外小胞体を確保することが難しかったが、本発明の方法により培養された幹細胞は、細胞当たりの細胞外小胞体の分泌量が著しく増加することによって、遠心分離だけでも治療的有効量の細胞外小胞体を容易に収得することができる。
【0031】
本発明の他の態様によれば、本発明は、上述した本発明の方法により製造された幹細胞由来の細胞外小胞体を提供する。
【0032】
本発明の更に他の態様によれば、本発明は、上述した本発明の方法により製造された幹細胞由来の細胞外小胞体を有効成分として含む炎症もしくは自己免疫疾患の予防又は治療用組成物を提供する。
【0033】
本発明で用いられる幹細胞由来の細胞外小胞体については既に詳述したので、過度の重複を避けるために、その記載を省略する。
【0034】
本明細書において、用語「予防」は、疾患又は疾病を保有していると診断されたことはないが、このような疾患又は疾病にかかる可能性がある対象体において疾患又は疾病の発生を抑制することを意味する。
【0035】
本明細書において、用語「治療」は、(a)疾患、疾病又は症状の発展の抑制;(b)疾患、疾病又は症状の軽減;または(c)疾患、疾病又は症状を除去することを意味する。本発明の組成物は、T細胞媒介免疫活性を効率的に抑制することによって、過度のまたは望まない免疫反応を原因とする様々な炎症又は自己免疫疾患の症状の発展を抑制するか、これを除去するか、または軽減させる役割を果たす。したがって、本発明の組成物は、それ自体でこれらの疾患治療の組成物となってもよく、あるいは炎症又は自己免疫疾患に対する治療効果を有する他の薬理成分と共に投与され、前記疾患に対する治療補助剤として適用されてもよい。これによって、本明細書において、用語「治療」又は「治療剤」は、「治療補助」又は「治療補助剤」の意味を含む。
【0036】
本明細書において、用語「投与」は、本発明の組成物の治療的有効量を対象体に直接的に投与することによって、対象体の体内で同じ量が形成されるようにすることをいい、「移植」又は「注入」と同じ意味を有する。
【0037】
本発明において、用語「治療的有効量」は、本発明の組成物を投与しようとする個体に治療的又は予防的効果を提供するのに十分な程度で含有された組成物の含量を意味し、これによって、「予防的有効量」を含む意味である。
【0038】
本明細書において、用語「対象体」は、制限なしに、ヒト、マウス、ラット、モルモット、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、サル、チンパンジー、ヒヒまたはアカゲザルを含む。具体的には、本発明の対象体はヒトである。
【0039】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明の組成物で予防又は治療される自己免疫疾患又は炎症性疾患は、例えば、リウマチ性関節炎、反応性関節炎、1型糖尿病、2型糖尿病、全身性紅斑性狼瘡、多発性硬化症、特発性線維性肺胞炎、多発性筋炎、皮膚筋炎、限局性強皮症、全身性強皮症、大腸炎、炎症性腸疾患、シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)、ベーチェット病(Bechet’s disease)、川崎病(Kawasaki’s disease)、原発性胆汁性硬化症(primary biliary sclerosis)、原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis)、潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)、移植片対宿主病(Graft-versus-host disease、GVHD)及びクローン病(Crohn’s disease)を含むが、これに制限されるものではない。
【0040】
本発明の組成物が薬剤学的組成物として製造される場合、本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体を含む。
【0041】
本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム及びミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。本発明の薬剤学的組成物は、前記成分以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。好適な薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳細に記載されている。
【0042】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口投与することができ、具体的には、経口、静脈、皮下または腹腔投与されてもよい。
【0043】
本発明の薬剤学的組成物の好適な投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性別、病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因によって多様に処方することができる。本発明の薬剤学的組成物の好ましい投与量は、成人を基準として0.001~100mg/kgの範囲内である。
【0044】
本発明の薬剤学的組成物は、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/又は賦形剤を用いて製剤化することによって、単位用量形態で製造されるか、または多用量容器内に入れて製造されてもよい。このとき、剤形は、オイル又は水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液の形態であるか、またはエキス剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤又はカプセル剤の形態であってもよく、分散剤又は安定化剤をさらに含むことができる。
【0045】
本発明の更に他の態様によれば、本発明は、本発明の幹細胞由来の細胞外小胞体を有効成分として含む組成物を対象体に投与するステップを含む炎症もしくは自己免疫疾患の予防又は治療方法を提供する。
【0046】
本発明の更に他の態様によれば、ペルオキシレドキシン-4(Peroxiredoxin-4)、チオレドキシン還元酵素1(Thioredoxin reductase 1)及びプロスタグランジンG/Hシンターゼ2(prostaglandin G/H synthase 2)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質を高発現する幹細胞由来の細胞外小胞体(extracellular vesicle)を提供する。
【0047】
本発明によれば、本発明の方法により培養された間葉幹細胞から分離した細胞外小胞体、例えばエキソソームは、従来の方法により収得したエキソソームと比較して、タンパク質発現プロファイルにおいても明確な差を示す。下記実施例に示されたように、前記3つのタンパク質は、2次元培養、またはTGF-β3の処理なしに3次元培養のみを適用した間葉幹細胞由来のエキソソームに比べて有意に高発現されるタンパク質であって、本発明の方法により収得されたエキソソームの組成自体も、従来に存在しなかった新規な組成を有することが分かる。
【0048】
本明細書において、用語「高発現」は、本発明の方法によらずに従来の方法により収得した間葉幹細胞由来のエキソソームと比較して、特定のタンパク質などのエキソソーム内の含量、分泌量または発現量が測定可能な程度に有意に増加したことを意味し、具体的には、含量、分泌量または発現量が40%以上増加したことを意味し、より具体的には60%以上増加したことを意味し、より一層具体的には80%以上増加したことを意味し、最も具体的には100%以上増加したことを意味する。
【0049】
本発明の具体的な具現例によれば、前記細胞外小胞体は、HSP90-β(heat shock protein 90-β)、ネプリリシン(Neprilysin)、T-複合体タンパク質1(TCP1)サブユニット-α、フィラミンA(Filamin-A)、40Sリボソームタンパク質S3、ミオシン-9、トランスアルドラーゼ、ファシン(Fascin)、チオレドキシン還元酵素1、及びRUVBL2(RuvB-like 2)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質をさらに高発現する。
【0050】
本発明の具体的な具現例によれば、前記細胞外小胞体は、コロニン-1A(Coronin-1A)、プロリル4-ヒドロキシラーゼサブユニットα-2(Prolyl 4-hydroxylase subunit α-2)及びプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)で構成された群から選択される1つ以上のタンパク質に対して陽性である。本発明によれば、前記3つのタンパク質は、2次元培養、またはTGF-β3の処理なしに3次元培養のみを適用した間葉幹細胞由来のエキソソームでは検出されないタンパク質であって、本発明の方法により収得されたエキソソームは、全く新しいタンパク質発現プロファイルを有することが分かる。
【発明の効果】
【0051】
本発明の特徴及び利点を要約すると、次の通りである:
(a)本発明は、3次元培養された幹細胞から細胞外小胞体を製造する方法を提供する。
【0052】
(b)本発明の方法は、TGF-βの存在下で幹細胞凝集体を回転振盪培養(orbital shaking culture)することによって、幹細胞由来の細胞外小胞体を高い収率で収得できるので、細胞治療剤を代替する薬理成分として活用可能なエキソソームを産業的規模で大量生産する工程に有用に用いることができる。
【0053】
(c)併せて、本発明の方法により収得されたエキソソームは、従来の方法で生産されたエキソソームに比べて免疫調節機能も著しく改善され、様々な炎症又は自己免疫疾患に対する優れた治療組成物としても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1A】本発明の方法による間葉幹細胞の3次元培養過程を示した図であって、胚様体の形成の過を示図1A
図1B】本発明の方法による間葉幹細胞の3次元培養過程を示した図であって、回転撹拌機を用いた3D培養の過を示図1B
図2】各培養条件によるエキソソームの収率を示した図である。
図3】TGF-βの処理によるPDI値の変化を示す図であって、TGF-βを処理した3D振盪培養の条件では単一のピーク(one peak)が現れることを示す。
図4A】TGF-βがT細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。それぞれ、PHAを用いてPBMCの増殖を誘発した後、陰性対照群(無処理群)、陽性対照群(MSC処理群)、3D振盪培養の条件のみを適用したエキソソーム(3D-EV)、3D振盪培養の条件下でTGF-β3を培養液に添加して得られたエキソソーム(T-3D-EV)のT細胞抑制効果を確認した(図4A
図4B】TGF-βがT細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。それぞれ、PHAを用いてPBMCの増殖を誘発した後、陰性対照群(無処理群)、陽性対照群(MSC処理群)、3D振盪培養の条件のみを適用したエキソソーム(3D-EV)、3D振盪培養の条件下でTGF-β3を培養液に添加して得られたエキソソーム(T-3D-EV)のT細胞抑制効果を確認した。その結果、TGF-βを処理した3D振盪培養の条件を通じて収得したエキソソーム(T-3D-EV)が最も著しいT細胞抑制効果を有することが確認されて、本発明の方法により収得されたエキソソームは、収率だけでなく機能も強化されたことを示す図4B
図4C】TGF-βがT細胞の増殖に及ぼす影響を示す図である。それぞれ、PHAを用いてPBMCの増殖を誘発した後、陰性対照群(無処理群)、陽性対照群(MSC処理群)、3D振盪培養の条件のみを適用したエキソソーム(3D-EV)、3D振盪培養の条件下でTGF-β3を培養液に添加して得られたエキソソーム(T-3D-EV)のT細胞抑制効果を確認した。その結果、TGF-βを処理した3D振盪培養の条件を通じて収得したエキソソーム(T-3D-EV)が最も著しいT細胞抑制効果を有することが確認されて、本発明の方法により収得されたエキソソームは、収率だけでなく機能も強化されたことを示す図4C
図5A】動的光散乱(dynamic light scattering、DLS)分析を通じてエキソソームの大きさを調査した結果を示す図である。
図5B】エキソソームの形態及び構造を透過電子顕微鏡(TEM)で観察した結果である。
図5C】CD9、CD63、Flotillin-1及びAlixの発現を確認するためのウエスタンブロッティング分析の結果を示す。
図5D】流細胞分析を通じてエキソソームの表面の免疫表現型分析を行った結果を示す。
図6A】本発明のエキソソームによる皮膚上皮細胞(Keratinocyte、HaCaT)での創傷治癒能力を調査した結果を示す図6A
図6B】本発明のエキソソームによる皮膚上皮細胞(Keratinocyte、HaCaT)での創傷治癒能力を調査した結果を示す図6B
図7】クラスタリング分析を通じて導出された4個のクラスターのうち、本発明の方法により収得したエキソソームであるT-3D-EV試料において特異的に変化するタンパク質を示す図である。
図8】本発明のエキソソームで特徴的な発現様相を示すタンパク質の生物学的特徴を比較分析した結果を示す。
図9】導出された3つのクラスターのタンパク質の生物学的機能及びその免疫関連の特徴を示す図である。
図10】主成分分析(Principal component analysis)を通じて各グループ間の分離の程度をDiscrimination indexを用いて示した結果を示す。
図11】遺伝子セット濃縮分析の結果であって、濃縮された遺伝子セット、標準化された濃縮点数(NES)及びp-値をそれぞれ示す。
図12】本発明で濃縮された遺伝子グループを示した図である。
図13】本発明の方法により収得したエキソソームにおいて3D培養群に比べて2倍以上増加または減少したタンパク質を並べた図である図13
図14発明の方法により収得したエキソソームでのみ発現されたタンパク質を べた図である図14
図15】本発明の方法により収得したエキソソームにおいて炎症関連タンパク質の発現様相を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないということは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0056】
実施例
実施例1:間葉幹細胞の3次元細胞培養
幹細胞の3次元細胞培養のために、ウェル当たり400μmの大きさのマイクロウェルを約7000個含むAggreWellTM400(STEMCELL Technologies;#34425)にF127溶液を処理し、ウェル当たり約400個の臍帯由来の間葉幹細胞(ソウル大病院、建国大学校生命倫理委員会承認番号:001355-201705-BR-181)をシーディングして、120~200μmの直径範囲の均一なスフェロイド(spheroid)を生産した。非吸着培養皿にTGF-β3が含まれた培養液にスフェロイドをシーディングした後、3日間、回転振盪機(orbital shaker、INFORS HT Celtron;#69455)で60rpm、37℃で振盪培養(shaking culture)した。3日後、得られた培養液からエキソソームを分離した。
【0057】
実施例2:エキソソームの分離及び定量
培養液を300gで10分間遠心分離して細胞デブリを除去し、2000gで10分間遠心分離した後、上澄液を新しいチューブに移してから再び10,000gで30分間遠心分離して、再度上澄液を187,000gで2時間遠心分離してペレットからエキソソームを収得した。培養液からエキソソームを分離した後、NTA装備(NS300、NANOSIGHT System)を用いて、製造者の指示に従ってNTA(nanoparticle tracking analysis)を行うことによって、エキソソームの数及びピーク(peak)を確認した。その結果、振盪(shaking,60rpm)なしに3D培養のみを適用した場合、一般の2D培養の環境と収率に大きな差がなく、3次元培養自体による効果は有意でないものと示された。併せて、振盪(60rpm)なしに3D培養でTGF-β3のみを添加するか、またはTGF-β3なしに3D振盪培養条件のみを適用した場合に比べて、3D、振盪(60rpm)及びTGF-β3を全て適用した群で著しい収率の増加が確認できた(図2)。かつ、TGF-βを処理した3D振盪培養の条件では、単一のピーク(one peak)が現れることによって、均質のエキソソームが生産されることが確認された(図3)。
【0058】
実施例3:PBMC増殖アッセイ
実施例2の方法により収得したエキソソームに対して、従来に報告された方法によって(Hsu,P.J.,et al.J.Vis.Exp.(106),e53265,doi:10.3791/53265(2015))PBMC増殖アッセイを行うことによって、TGF-βを処理した培養液から得られたエキソソームが、対照群(一般の細胞培養液)に比べてT細胞抑制効果があるかを確認した。血液(建国大学校病院、建国大学校生命倫理委員会承認番号:7001355-201705-BR-181)からフィコール(ficoll)を用いてPBMCを分離した後、培養5日後、CFSE(Carboxyfluorescein succinimidyl ester,Invitrogen;#C34554)でPBMCを染色し、流細胞分析を通じてPBMCの増殖を確認した。PHA(Phytohaemaglutinin,Sigma;#L1668)を処理して、T細胞の増殖が伴う炎症環境を誘導した後、間葉幹細胞自体のPBMC抑制効果を陽性対照群として設定した後、一般の細胞培養液から得られたエキソソーム(EV);3D振盪培養の条件のみを適用したエキソソーム(3D-EV)、3D振盪培養の条件下でTGF-β3を培養液に添加して得られたエキソソーム(T-3D-EV)のPBMC抑制効果を確認した(図4A)。その結果、TGF-βを処理した3D振盪培養の条件を通じて収得した本発明のエキソソームが、43.1%に達していたMSC処理群の増殖性T細胞を9.6%まで減少させ、陽性対照群に比べても80%に近い著しい減少率を示しながら、最も優れたT細胞抑制効果を示した(図4B及び図4C)。これによって、本発明の方法を通じて収得されたエキソソームは、収率だけでなく機能も大きく強化されたことが分かった。
【0059】
実施例4:各エキソソームの特性の分析
エキソソームの大きさは、Nano Zetasizer(Malvern Instruments,Malvern、UK)を用いた動的光散乱(dynamic light scattering、DLS)分析を通じて調査し、EVの数は、ナノ粒子追跡分析機NS300(Nanosight,Amesbery,UK)を用いて測定した。エキソソームの形態及び構造は、80kVで透過電子顕微鏡(TEM,JEM-1010,Nippon Denshi,Tokyo,Japan)を用いて分析し、観察の結果、エキソソームの形態は、カップ状または球状であった(図5B)。
【0060】
Grid(Formvar/Carbon 300 Mesh,Copper_FCF300-CU 50/pk)上にエキソソームを付着し、1%リンタングステン酸水和物(sigma,P4006)を用いて陰性染色を行った。エキソソーム関連陽性マーカーを確認するために、免疫ブロッティングでCD9(ab263023,abcam)、CD63(ab134045,abcam)、Flotillin-1(#18634,CST)、Alix(#2171,CST)タンパク質の発現を調査した。ウエスタンブロッティングの結果、エキソソームの陽性マーカーは発現され、エキソソームの陰性マーカーであるGM130(#12480,CST)タンパク質の発現は観察されなかった。
【0061】
流細胞分析を通じてエキソソームの表面の免疫表現型分析を行った。まず、エキソソームのサイズは、流細胞分析機を用いて分析できない大きさであるため、エキソソームの陽性マーカーであるCD9抗体が結合されている2.7umのダイナビーズ(Dynabead)(10620D,invitrogen,Exosome-Human CD9 Flow Detection Reagent (from cell culture))をエキソソームに付着してサイズを大きくした後、CD9-BV421(BD Bioscience,743047)、CD63-PE(BD Bioscience,556020)、CD81-APC(macs miltenyi biotec,M130-119-787)抗体で標識した。その後、流細胞分析機(Beckman Coulter,CytoFlex Flow Cytometry Analyzer)を用いて、標識された抗体で生成される蛍光強度を測定した。その結果、エキソソームでCD9、CD63、CD81の蛍光発現量が96%以上発現されることを確認した。分離されたエキソソームが、エキソソームの陽性マーカーが96~98%発現されることからみて、均質なエキソソームが分離されたことを確認できる。
【0062】
実施例5:各エキソソームの創傷治癒能の分析(Wound healing Assay)
エキソソームの皮膚上皮細胞(Keratinocyte,HaCaT)での治癒能力を評価するために、HaCaT細胞を培養皿に接種して90%まで育てた後、1000μlのチップ先端を用いて長く傷をつけた。その後、エキソソーム(1E+10 particles/ml)が含まれた細胞培養培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium-high glucose,D6429,sigma)に交換した後、一定の時間毎に創傷部位を撮影し、創傷が治癒される能力を分析した。
【0063】
その結果、エキソソームを処理した群の全てにおいて、陰性対照群よりも早く創傷部位が閉鎖されることを確認し、3D振盪培養のみを適用した群(3D-EV)よりも、TGF-β3及び3D振盪培養の両方を適用した群(T-3D-EV)でさらに早く創傷部位が閉鎖されることを確認した(図6)。
【0064】
実施例6:エキソソーム発現タンパク質の分析
タンパク質の抽出及び定量分析
各ゲルで染色されたタンパク質は、ゲル内消化(in-gel digestion)方法を通じてペプチドを製造し、抽出した。詳細には、タンパク質の脱染色のために、50mMの炭酸水素アンモニウムと50%のアセトニトリルで構成された溶液、及び100%のアセトニトリル溶液を用いて行った後、50mMのジチオトレイトール(dithiothreitol)を用いて37℃でジスルフィド結合(disulfide bond)を還元させ、55mMのヨードアセトアミド(iodoacetamide)を用いて光遮断条件でアルキル化反応を行った後、100%のアセトニトリル溶液を用いて脱水化過程を行った。50mMの炭酸水素アンモニウムに溶解されているLysS/トリプシン混合プロテアーゼを使用してペプチドを製造した。抽出されたペプチドは、0.1%のギ酸で溶かし、液体クロマトグラフィー(Liquid chromatography、LC)と結合された質量分析を行った。質量分析装備はQ-Exactive Plus(Thermo,USA)を、液体クロマトグラフィーはUltiMateTM 3000 RSLCnano System(Thermo,USA)を使用し、ペプチド試料は5μlずつ注入して250μl/minの流速で、NanoLCと連動するイオントラップ質量分析機(Ion trap mass spectrometer)を用いて分析を行った。LCは、溶液A(5%ジメチルスルホキシド、0.1%ギ酸)と溶液B(95%アセトニトリル、0.1%ギ酸、5%ジメチルスルホキシド)の濃度勾配150分を含めて総200分間分離し、使用する分析カラムは、C18(2μm、100Å)を充填した内径75μm、外径360μm、長さ50cmの融合シリカ毛細管カラムを使用して、ペプチド混合体を分離した。分離されたペプチドは、質量分析器に注入してスペクトルデータを獲得した。オービトラップ(Orbitrap)MS分析は、350~1800m/zの範囲に対してイオントラップMSで1回のサーベイスキャン(survey scan、解像度70,000)後に、HCD(Higher energy collision dissociation,27% energy level)方式を用いてオービトラップMSを用いて、20回のMS/MS(解像度17,500)分析を行った。20秒の動的排除オプション(dynamic exclusion option)を通じて、重複するペプチドイオン検出を最小化した。イオントラップのAuto gain control target settingは、Full MSに対しては3E06を、FT MS/MSに対しては1E5を使用した。獲得したRAWファイルを、Andromedaアルゴリズムベースのデータベース分析ソフトウェアであるMaxQuant(version 1.6.10.43,https://www.maxquant.org/)を用いて、定性分析及び非標識定量分析を行った。システイン(Cysteine)にはシステインカルバミドメチル化を固定値(Fixed modification)として処理し、メチオニン(Methionine)に酸化を変動値(Variable modification)として行った。タンパク質配列のデータベースは、2019年10月に発表されたヒトSwissProt databaseを使用し、非標識定量のために、MaxLFQアルゴリズムを用いてタンパク質の定量値を導出した。同定されたタンパク体を、Perseus(http://www.perseus-framework.org)を用いてヒートマップ(heat map)、クラスタリング分析及び主成分分析を行った。各クラスターのタンパク質の特徴を確認するために、ClueGO、ShinyGO v0.60、GSEAプログラムを使用した。
【0065】
定量分析を行って得たデータから、各試料に応じてタンパク質発現パターンの変化を非標識定量法を通じてタンパク質体を定量し、試料間のパターンの変化によって、タンパク質の群を4個のクラスター(cluster)に分類した。4個のクラスターのうち、本発明の方法により収得したエキソソームであるT-3D-EV試料で特異的に変化するタンパク質を選別し、これを図7に示した。
【0066】
タンパク質の生物学的特徴の比較分析
本実験は、T-3D-EVで特異的な特徴を有するタンパク質を発掘するために、比較群としてTGF-β3の処理なしに3D振盪培養のみを適用した群(3D-EV)及び2D培養群(2D-EV)でのタンパク質発現様相を比較分析した。図8に示したように、T-3D-EVで特異的に変化するタンパク質グループは、解糖(glycolytic)過程、創傷治癒炎症反応関連連結組織代替、血小板形成、五炭糖リン酸経路、酸化地点などの特徴が確認され、他の比較群と明確な差が観察された。図9に示したように、更に他の生物学的特徴の比較分析も、T-3Dで免疫関連の特徴が観察された。
【0067】
主成分分析
主成分分析(Principal component analysis)は、各試料グループ間にどれくらい明確に分離されたかをDiscrimination indexを用いて示す。図10に示したデータは、試料処理方法に応じて、3回繰り返して質量分析を行った結果であって、第1主成分値の寄与率は60.2%であり、第2主成分値の寄与率は28.9%であった。その結果、試料処理方法に応じて、観察されたタンパク質の定性及び定量的特徴間に大きなパターンの差を確認した。また、3D-EVとT-3D-EVとの間のパターンの距離に比べて、これらと2D-EVとの間の距離がさらに遠いことから見て、2D方法と3D方法との差によりタンパク質の変化が観察されるものと推測できる。
【0068】
遺伝子セット濃縮分析
遺伝子セット濃縮分析は、GSEAモジュールを用いて行った。濃縮点数(Enrichment score)は、該当セットに含まれた遺伝子が表現型で一致する方式で有意に差別的に発現されるとき、遺伝子の予備特定化されたクラスを付与する。標準化された濃縮点数は、濃縮点数を遺伝子セット内の遺伝子の数に対して調整することによって計算した。名目上、p-値は、感受性及び耐性標識を置換し、ゼロ(null)分布を生成するために標準化された濃縮点数を再計算することによって決定される。図11は、本分析での遺伝子セット濃縮分析の結果であって、濃縮された遺伝子セット、標準化された濃縮点数(NES)及びp-値が提示され、NESが高く、p-値が低いほど、発見が有意である可能性がさらに大きい。本分析における濃縮された遺伝子グループは、図12に示した。
【0069】
T-3D-EV特異的タンパク質の同定
TGFbを添加したグループで有意に変化するタンパク質グループを見つけるために、試料間の対比較を行った。観察されたタンパク質は、3D-EVと比較してT-3D-EVで2倍以上増加又は減少し、Benjamini-hochberg FDRが0.05以下という2つの基準下で選別した。また、T-3D試料でのみ発見されたタンパク質も含めた。選別されたタンパク質は、図13及び図14に示した。
【0070】
EV内に存在するタンパク質の分析時に、図15に示されたように、抗酸化タンパク質及び炎症関連因子が発現されていることを確認できる。
【0071】
細胞のストレス反応の中で代表的なものが、ROS生成及びこれによる細胞酸化還元調節ネットワークの活性化である。ROSは、フリーラジカルであって、細胞内の高分子物質であるタンパク質とDNAを攻撃して構造及び活性の変化を誘導し、これによって、DNA修理、細胞周期の調節、及び細胞の成長/死滅に関与する。
【0072】
哺乳動物には6種類の類型のペルオキシレドキシンが存在し、これらは、各種細胞及び組織に広く分布し、組織で発生するHを除去するのに主要な抗酸化タンパク質として作用する。チオレドキシンシステムは、このようにROSなどによって誘発されたストレスを解消するために作動する代表的な細胞内防御体系であって、活性酸素によって酸化したタンパク質を可逆的酸化還元反応で復旧させるROSスカベンジャーとしての機能と共に、様々な細胞防御システムに広範囲に関与するところ、細胞の生存誘導因子としてだけでなく、抗アポトーシス(anti-apoptotic)、抗炎症(anti-inflammatory)及び免疫調節(immuno-regulatory)因子としても作用して、細胞の防御体系を管掌する核心タンパク質として知られている。このような抗酸化タンパク質であるペルオキシレドキシン-4(Peroxiredoxin-4)とチオレドキシン還元酵素(Thioredoxin reductase)が、本発明の方法により収得したエキソソームであるT-3D-EVにおいて高いレベルで発現されることを確認した(図15)。
【0073】
また、T-3D-EVにおいてCOX-2の発現も高いものと示された(図15)。一般に、炎症反応は、外部から物理的、化学的刺激や細菌の感染に対する生体組織の防御反応の一つであり、損傷した組織を修復又は再生しようとするメカニズムである。体内で炎症反応が起こると、大食細胞のような炎症細胞は、一酸化窒素(NO)、プロスタグランジンE2(PGE2)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α,TNF-α)、インターロイキン-1β(IL-1β)など炎症媒介物質を分泌する。PGE2の合成は、ホスホリパーゼA2によって膜リン脂質(membrane phospholipid)からアラキドン酸が作られることから始まる。アラキドン酸は、酵素作用によってプロスタグランジンG2となり、再び不安定な代謝産物であるプロスタグランジンH2となるが、これらの2つの過程は、COX(cyclooxygenase)によって促進される。COXは、2種類以上の同位酵素(isoenzyme)が存在するが、これらのうちCOX-1は、持続的に発現して血小板の凝集、胃粘膜の保護、腎機能の調節などの生理的機能を担当し、COX-2は、炎症などの刺激によって発現し、COX-2によって生成されたプロスタグランジンが炎症反応及び細胞増殖に関与すると知られている。したがって、COX-2がT-3D-EVで高く発現されることは、本発明のエキソソームを免疫関連細胞に処理したときに、炎症反応の調節に関与するためであると判断される。
【0074】
以上、本発明の特定の部分を詳細に記述したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な記述は、単に好ましい具現例に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されないという点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によって定義されるといえる。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15