(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ミトコンドリア機能障害関連疾患の治療に使用するための、アミノ酸を備える組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20240702BHJP
A61K 31/194 20060101ALI20240702BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20240702BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20240702BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240702BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240702BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240702BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K31/198
A61K31/194
A61K31/4172
A61K31/405
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P43/00 107
A61P43/00 121
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023035509
(22)【出願日】2023-03-08
(62)【分割の表示】P 2019566579の分割
【原出願日】2018-07-20
【審査請求日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】102017000087359
(32)【優先日】2017-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517061897
【氏名又は名称】プロフェッショナル ダイエテティクス エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジェッティ、パオロ ルカ マリア
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501068(JP,A)
【文献】特表2001-521002(JP,A)
【文献】特表2004-534073(JP,A)
【文献】国際公開第2016/179657(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093104(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/181335(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/153331(WO,A1)
【文献】JISSN,2013年,10:19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/198
A61K 31/194
A61K 31/4172
A61K 31/405
A61P 25/28
A61P 25/16
A61P 25/14
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリアの機能障害に関連する神経変性疾患の予防および/または治療に用いるための組成物であって、前記組成物は、活性剤を備え、前記活性剤は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リ
ジンのアミノ酸と、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸とを含
み、
クエン酸(Cit):リンゴ酸(Mal):コハク酸(Suc)の重量比(Cit:Mal:Sac)が、10:1:1~2:1.5:1.5であり、
前記ミトコンドリアの機能障害に関連する神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、およびハンチントン病からなる群から選択される、
組成物。
【請求項2】
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の合計
(「A」とする)と、ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸にリ
ジンおよびトレオニンを加えた合計
(「B」とする)との重量比
(A/B)が、0.05~0.3、好ましくは0.1~0.25である、請求項1
に記載の組成物。
【請求項3】
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総量
(「C」とする)と、前記ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸の総量
(「D」とする)との重量比
(C/D)が、0.1~0.4、好ましくは0.15~0.35である、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
クエン酸
(「E」とする)と、リンゴ酸およびコハク酸の合計
(「F」とする)との重量比
(E/F)が、1.0~4.0、好ましくは1.5~2.5である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
クエン酸
(Cit):リンゴ酸
(Mal):コハク酸
(Suc)の重量比
(Cit:Mal:Suc)が
、7:1:1~1.5:1:1
、好ましくは5:1:1~3:1:1である、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記活性剤が、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、システインからなる群から選択される少なくとも1のアミノ酸をさらに有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記活性剤が、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システインおよび任意にチロシンをさらに有する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総モル量
(「G」とする)と、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびトリプトファンの総モル量
(「H」とする)との比
(G/H)が、1.35より高い、請求項1から
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量
(「I」とする)と、リ
ジンおよびトレオニンの総モル量
(「J」とする)との比
(I/J)が、0.10~0.70、好ましくは0.15~0.55である、請求項1から
8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
クエン酸の重量またはモル量が、リンゴ酸およびコハク酸の両方の総重量またはモル量より多い、請求項1から
9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
ロイシン
(「K」とする)とクエン酸
(「L」とする)との重量比
(K/L)が、5~1、好ましくは2.50~3.50である、請求項1から1
0のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記活性剤がアルギニンを含まない、請求項1から1
1のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、1種以上のビタミン類をさらに備え、前記ビタミン類は、好ましくはビタミンB群から選択され、より好ましくはビタミンB1および/またはビタミンB6を備える、請求項1から1
2のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1から1
3のいずれか一項に記載の組成物を調製する方法であって、
前記組成物は、各成分をメッシュでふるい分けし、混合することによって調整される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、一般に、アミノ酸を備える組成物に関する。より具体的には、本明細書は、医薬品で使用するための、特にミトコンドリア機能障害に関連する疾患の治療に使用するための、アミノ酸を備える組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、細胞性オルガネラであり、その主な機能は、酸化的リン酸化、すなわち、グルコースまたは脂肪酸の代謝に由来するエネルギーがアデノシン三リン酸(ATP)に変換されるプロセスである。次いで、ATPを使用して、エネルギーを必要とするさまざまな生合成反応および他の代謝活動が促進される。
【0003】
ミトコンドリア機能障害は、あらゆる組織に影響を及ぼす可能性があり、種々の組織が関与している程度に応じて、結果的に多種多様な症状を伴う。
【0004】
ミトコンドリア機能障害から生じる疾患には、例えば、ミトコンドリア膜電位の機能不全に起因したミトコンドリアの膨潤、活性酸素種(ROS)またはフリーラジカルの作用などによる酸化ストレスに起因した機能障害、遺伝子変異に起因した機能障害およびエネルギー産生のための酸化的リン酸化メカニズムの機能的欠陥に起因した疾患が含まれ得る。
【0005】
ミトコンドリアは加齢とともに劣化し、呼吸活動を保てなくなり、それらのDNA(mtDNA)に損傷を蓄積し、過剰量の活性酸素種(ROS)を産生する。
【0006】
最近のエビデンスは、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病などの主要な神経変性疾患ならびに慢性閉塞性肺疾患(COPD)に加えて、加齢に伴う代謝および心血管系疾患(アテローム性動脈硬化症)をはじめとするいくつかの疾患におけるミトコンドリア機能障害の関与を示す。
【0007】
ミトコンドリア機能障害は、肥満ならびに2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心不全、腎疾患および骨粗鬆症をはじめとする関連疾患にも見られる。
【0008】
注目すべきことに、骨格筋量および骨格強度の不随意の喪失に起因した高齢者の機能低下と自立喪失ならびにいわゆる虚弱症候群の主要な特徴の最も重要な原因の1つとして定義されるサルコペニアは、ミトコンドリア量およびミトコンドリア機能の減少に起因している。さらに、悪液質または消耗症候群は、体重の意図しない減少、筋萎縮、疲労および脱力感として定義される。悪液質は、癌、エイズ、セリアック病、COPD、多発性硬化症、関節リウマチ、うっ血性心不全、結核および神経性無食欲症の人に見られる。この状態を予防および/または治療する薬物または栄養素は発見されていない。
【0009】
したがって、世界的な肥満の流行および人口の高齢化を考えると、次の未来に最も多い患者は、サルコペニアの肥満老齢対象者である。
【0010】
ミトコンドリアの生合成および活動における加齢に伴う障害を緩和する戦略には、カロリー制限(CR)および中程度の身体運動が含まれ、これにより哺乳類の生存が促進される。CRは、炎症性疾患、心血管疾患、癌疾患および神経変性疾患の予防を通じて、良好な健康状態(寿命)の平均余命を延ばすことがわかっている。CRは、ミトコンドリアの生合成に関与する遺伝子の発現を促進し、老化または損傷した細胞および組織におけるミトコンドリア機能を改善する(Nisoli et al.,2005)。
【0011】
CRはヒトに有益な効果をもたらすものの、そのような食事療法は高齢者に広く採用される可能性が低い。
【0012】
カロリー摂取量を減らすことなく食事制限の利点を提供する代替的な解決策として、例えば欧州登録特許第2196203号明細書に開示されているように、アミノ酸を備える特定の組成物が哺乳動物に投与されていた。
【発明の概要】
【0013】
本明細書は、対象におけるミトコンドリア生合成を促進し、ミトコンドリア機能を改善するのに特に有効な、新しいアミノ酸ベースの組成物を提供することを目的とする。
【0014】
本明細書によれば、上記の目的は、本開示の不可欠な部分を形成するものとして理解される特許請求の範囲において具体的に想起される主題のおかげで達成される。
【0015】
本明細書の一実施形態は、対象におけるミトコンドリア生合成を促進し、ミトコンドリア機能を改善するための組成物を提供し、この組成物は、活性剤を備え、上記活性剤は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンのアミノ酸と、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸とを含む。
【0016】
1つ以上の実施形態では、組成物の活性剤は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システインおよびチロシンからなる群から選択される1種以上のアミノ酸をさらに含む。
【0017】
1つ以上の実施形態では、本明細書に開示される組成物は、医薬品で使用され得る。
【0018】
好ましい実施形態では、組成物は、サルコペニアと心不全との間で選択されるミトコンドリア機能障害関連疾患の治療および/または予防における使用を意図している。
【0019】
別の好ましい実施形態では、組成物は、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病などのミトコンドリア機能障害関連神経変性疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0020】
更なる実施形態では、組成物は、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病、腎疾患、COPDおよび骨粗鬆症から選択されるミトコンドリア機能障害関連疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0021】
1つ以上の実施形態では、組成物は、栄養失調の臨床的状況の治療および/または予防、特にタンパク質栄養失調および悪液質の治療および/または予防に使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
これから、添付の図面を参照しながら、例示のみを目的として本発明を説明する。
【0023】
【
図1】異なるアミノ酸ベースの組成物で48時間(48時間、2日間)処理したHL-1心筋細胞内で定量PCRにより分析したミトコンドリアDNA(mtDNA)の含有量を示す。定量PCRは3回実行し、GAPDHのゲノムDNAコーディングに対して正規化する(n=3、平均±SEM)。未処理の細胞(CT)の値は1.0(
*p<0.05 vs.未処理の細胞、
♯p<0.05 vs.BCAAemおよびB2)とみなす。
【0024】
【
図2】アミノ酸ベースの組成物で24時間(1日間)処理したHL-1心筋細胞内で定量PCRにより分析したミトコンドリア生合成マーカー(Tfam、PGC-1α、Cyt c)のmRNAレベルを示す。定量PCRは3回実行し、GAPDHに対して正規化する(n=3、平均±SEM)。
♯p<0.05 vs.未処理の細胞、1.0で表される。
♯p<0.05 vs.BCAAem。
【0025】
【
図3】アミノ酸ベースの組成物で48時間(2日間)処理したHL-1心筋細胞内で定量PCRにより分析したミトコンドリア生合成マーカー(Tfam、PGC-1α、Cyt c)のレベルを示す。定量PCRは3回実行し、GAPDHに対して正規化する(n=3、平均±SEM)。
♯p<0.05 vs.未処理の細胞、1.0で表される。
♯p<0.05 vs.BCAAem
【0026】
【
図4】分岐鎖アミノ酸(BCAA)の異化を調節するタンパク質であるクルッペル様因子15(KFL15)およびミトコンドリアマトリックス標的タンパク質ホスファターゼ2Cファミリーメンバー(PP2CM)のmRNAレベルを示す。PP2CMおよびKFL15は、アミノ酸ベースの組成物で24時間(1日間)または48時間(2日間)処理したHL-1心筋細胞内で定量PCRにより分析した。定量PCRは3回実行し、GAPDHに対して正規化する(n=3、平均±SEM)。
*p<0.05 vs.未処理の細胞、1.0で表される。
♯p<0.05 vs.BCAAemおよびB2。
【0027】
【
図5】酸素消費速度(OCR)の評価を示す。アミノ酸ベースの組成物またはDETA-NOで48時間処理したHL-1心筋細胞の酸素消費量。
****p<0.001 vs.未処理の細胞;
####p<0.001 vs.BCAAemおよびB2。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下の説明では、実施形態の完全な理解を提供するために、多数の具体的な詳細が示される。実施形態は、1つ以上の具体的な詳細なしに、または他の方法、成分、材料などとともに実施することができる。他の例では、実施形態の態様を不明瞭にすることを避けるために、周知の構造、材料または動作は詳細に示されないか、または説明されない。
【0029】
本明細書を通して「一実施形態」または「実施形態」という言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造または特性が少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書を通してさまざまな箇所における「一実施形態では」または「実施形態では」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態を指しているわけではない。さらに、特定の特徴、構造または特性は、1つ以上の実施形態において任意の適切な方法で組み合わせることができる。本明細書に提供される見出しは、便宜上のものにすぎず、実施形態の範囲または意味を解釈するものではない。
【0030】
本明細書に開示される組成物は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンのアミノ酸と、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の酸類とを含む活性剤を含む。
【0031】
欧州登録特許第2196203号明細書に開示されているアミノ酸を備える組成物が、カロリー制限(CR)の利点を提供する代替的な解決策として哺乳類に投与された。そのようなベースとなるアミノ酸組成物(本開示では「BCAAem」と呼ばれる)は、心筋と骨格筋の両方でミトコンドリア生合成の増加を導くことが示されている(D'Antona et al.,2010)。これらの効果は、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現と、それに伴う一酸化窒素(NO)の産生とにより媒介されていた(D'Antona et al.,2010)。
【0032】
驚くべきことに、本出願の発明者は、特定の酸を、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニンおよびリシンの類似の組み合わせを備える組成物に加えることにより、細胞ミトコンドリア機能の有意な増加が起こることを見出した。
【0033】
本出願の発明者は、中に含まれる酸に関して異なる多数の組成物を試験し、活性剤として、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸を、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニンおよびリシンと組み合わせて備える組成物が上掲の目的のために非常に効果的であることを見出した。実際、上述の活性剤を含む組成物および更なる特定のアミノ酸を含む上述の活性剤を含む組成物(以下の表1にリストされている)は、ミトコンドリア生合成および機能を促進する点で、以前に試験されたアミノ酸ベースの組成物(BCAAm)よりも有意に効果的である。
【0034】
組成物は、心筋細胞株(HL-1)、すなわち、心機能のin vitroモデルを表す細胞で試験した。これらの心筋細胞の分析から得られた結果を使用して、心不全の予防における新しい組成物の効力を検証することができる。
【0035】
1つ以上の実施形態では、本明細書に開示される組成物は、活性剤を備え、上記活性剤は、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸を、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンと組み合わせて含み、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸の総量と、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンのアミノ酸の総量との重量比は、0.05~0.3、好ましくは0.1~0.25である。
【0036】
1つ以上の実施形態では、活性剤は、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システイン、チロシンからなる群から選択される1種以上のアミノ酸をさらに備え得る。
【0037】
更なる実施形態では、本明細書に開示される組成物の活性剤は、アスパラギン酸および/またはオルニチンL-アルファケトグルタル酸(OKG)も含み得る。
【0038】
一実施形態によれば、組成物は、活性剤を備え、この活性剤は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システインおよび任意にチロシン、ならびにクエン酸、コハク酸およびリンゴ酸からなる活性剤を含み、上記アミノ酸は、組成物に含まれる唯一のアミノ酸である。
【0039】
更なる実施形態では、組成物は、活性剤の重量に対して35重量%~65重量%、好ましくは42重量%~56重量%の量のイソロイシン、ロイシンおよびバリンのアミノ酸を含み得る。
【0040】
1つ以上の実施形態では、ロイシンとクエン酸との重量比は、5~1、好ましくは2.50~3.50である。
【0041】
更なる実施形態では、クエン酸の重量またはモル量は、リンゴ酸およびコハク酸のそれぞれの重量またはモル量よりも多い。好ましくは、クエン酸の重量またはモル量は、リンゴ酸にコハク酸を加えた総重量または総モル量よりも多い。更なる実施形態では、クエン酸と、リンゴ酸およびコハク酸の合計との重量比は、1.0~4.0、好ましくは1.5~2.5である。好ましい実施形態では、クエン酸:リンゴ酸:コハク酸の重量比は、10:1:1~2:1.5:1.5、好ましくは7:1:1~1.5:1:1、より好ましくは5:1:1~3:1:1である。好ましい実施形態では、クエン酸:リンゴ酸:コハク酸の重量比は、4:1:1である。
【0042】
本開示のいくつかの実施形態によれば、好ましいイソロイシン:ロイシンのモル比は、0.2~0.7の範囲、好ましくは0.30~0.60の範囲であり、かつ/またはバリン:ロイシンの好ましい重量比は、0.2~0.70の範囲、好ましくは0.30~0.65の範囲である。
【0043】
更なる実施形態では、トレオニン:ロイシンのモル比は、0.10~0.90の範囲、好ましくは0.20~0.70の範囲であり、かつ/またはリシン:ロイシンの重量比は、0.20~1.00の範囲、好ましくは0.40~0.90の範囲にある。
【0044】
好ましい実施形態では、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総モル量と、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびトリプトファンの総モル量との比は、1.35よりも高い。
【0045】
1つ以上の実施形態では、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の合計と、ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸の合計との重量比は、0.1~0.4、好ましくは0.15~0.35である。
【0046】
更なる実施形態では、ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸にトレオニンおよびリシンを加えた総重量は、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の3つの酸の総重量よりも多い。好ましくは、単一酸(クエン酸、コハク酸またはリンゴ酸)の重量は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニンおよびリシンの単一アミノ酸のそれぞれの重量よりも少ない。
【0047】
更なる実施形態では、リシンおよびトレオニンの総モル量は、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量よりも多い。好ましくは、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量と、リシンおよびトレオニンの総モル量との比は、0.1~0.7、好ましくは0.15~0.55である。
【0048】
1つ以上の実施形態では、本明細書に開示される組成物は、ビタミン類をさらに備え、このビタミン類は、好ましくは、ビタミンB1および/またはビタミンB6などのビタミンB群から選択される。
【0049】
本開示の更なる実施形態では、組成物は、炭水化物、添加剤および/または香味物質を含み得る。
【0050】
さらに、特に本開示による組成物、具体的には活性剤を調製する場合、アミノ酸であるアルギニンは、好ましくは回避される。
【0051】
加えて、本明細書に開示される組成物により好ましく除外される更なるアミノ酸は、セリン、プロリン、アラニンである。
【0052】
そのようなアミノ酸は、組成物内のある濃度または化学量論比では、逆効果または有害でさえあり得る。
【0053】
本明細書に開示されるアミノ酸は、それぞれの薬学的に許容される誘導体、すなわち塩で置き換えられ得る。
【0054】
1つ以上の実施形態では、本明細書に開示される組成物は、医薬品での使用を意図している。
【0055】
以下で明らかになるように、本開示による組成物の投与は、ミトコンドリア生合成およびミトコンドリア機能の促進に特に有効である。
【0056】
好ましい実施形態では、開示される組成物は、サルコペニアと心不全との間で選択されるミトコンドリア機能障害関連疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0057】
別の好ましい実施形態では、本明細書に開示される組成物は、好ましくはアルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病から選択されるミトコンドリア機能障害関連神経変性疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0058】
更なる実施形態では、組成物は、アテローム性動脈硬化症、2型糖尿病、腎疾患、COPDおよび骨粗鬆症からなる群から選択されるミトコンドリア機能障害関連疾患の治療および/または予防に使用され得る。
【0059】
1つ以上の実施形態では、組成物は、栄養失調の臨床的状況の治療および/または予防、特にタンパク質栄養失調および悪液質の治療および/または予防に使用され得る。
【0060】
更なる実施形態によれば、アミノ酸組成物は、例えばタンパク質、ビタミン類、炭水化物、天然および人工の甘味料ならびに/または香味物質のような薬学的に許容される賦形剤を備え得る。好ましい実施形態では、薬学的に許容される賦形剤は、ホエータンパク質、マルトデキストリン、フルクトース、カゼイン酸カルシウム、魚油、クエン酸またはその塩、スクラロース、スクロースエステル、ビタミンD3、ビタミンB群から選択され得る。
【0061】
経口使用の場合、本明細書に記載の組成物は、錠剤、カプセル、顆粒、ゲル、ゲル化可能な粉末、粉末の形態をとり得る。
【0062】
組成物により提供されるさまざまなアミノ酸の量および比に関する更なる仕様は、添付の特許請求の範囲に含まれ、本発明に関して本明細書に提供される技術的教示の不可欠な部分を形成する。
【0063】
[実施例]
表1は、以下に開示されるHL-1細胞で試験した異なるアミノ酸ベースの組成物を示す。
【0064】
具体的には、BCAAem組成物は、欧州登録特許第2196203号明細書に開示されている組成物である。
【0065】
「B2」と呼ばれる組成物は、活性剤として、BCAAem組成物のアミノ酸と同様のアミノ酸の組み合わせを有するが、さらにクエン酸を含む。そのような組成物は、ビタミンB1およびB6も含む。
【0066】
アルファ5(α5)、アルファ6(α6)、アルファ7(α7)と呼ばれる組成物は、アミノ酸およびクエン酸、コハク酸およびリンゴ酸を含む活性剤を備える。さらに、アルファ7組成物の活性剤は、OKG(オルニチンL-αケトグルタル酸)およびアミノ酸のアスパラギン酸(L-アスパラギン酸)も備える。
表1
【表1】
【0067】
上記の表1の組成物は、0.8メッシュですべての成分を篩分けすることにより最初に調製することができる。予備混合物を得るために、各成分(総量の10重量%未満の量)をL-リシン塩酸塩の一部と一緒にポリエチレン袋にとり、組成物全体の重量の10%を得る。次いで、バッグを5分間手で振る。次いで、予備混合物を残りの成分と一緒にミキサー(Planetaria)に入れ、120rpmで15分間混合して均一な最終組成物を得る。
【0068】
表1にリストされる組成物をHL-1心筋細胞に投与し、ミトコンドリア機能を以下に開示するように評価した。
【0069】
[方法]
[細胞および処理]
HL-1心筋細胞(W.C. Claycomb,New Orleans,School of Schoolからの寄贈品)をフィブロネクチン/ゼラチンコーティングフラスコに播種し、Claycomb et al.,1998に開示されているように、100μMのノルエピネフリン(30mMのL-アスコルビン酸[Sigma-Aldrich]に溶解した10mMのノルエピネフリン[Sigma-Aldrich]ストック溶液から)、2mMのL-グルタミン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシンおよび10%FBS(JRH Biosciences)を添加したClaycomb培地(JRH Biosciences)で70%~80%コンフルエントに増殖した。
【0070】
細胞を、表1に示される1%(w/v)の組成物(Claycomb培地に溶解)で24時間または48時間処理した。
【0071】
これらの期間の終わりに、mRNAおよびDNAを細胞から抽出するか、または細胞を使用して酸素消費量を評価した。コントロール細胞はClaycomb培地のみで処理した。
【0072】
[遺伝子発現およびミトコンドリア生合成法]
RNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して、HL-1心筋細胞から総RNAを単離した;D'Antona et al.(2010)に記載されているように、iScript cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad Laboratories)を使用して、1μgの総RNAをcDNAに逆転写した。
【0073】
遺伝子相対レベルを2-DDCTとして計算し、DDCTは、内部コントロールとしてGAPDHを使用して、いずれかの処理のDCTと未治療群のDCTとの差に対応していた。Delta-Delta-CT(DDCT)アルゴリズムは、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)実験で相対的な遺伝子発現を判定する近似法である(Livak and Schmittgen,2001を参照)。
【0074】
プライマー(以下の表2に報告されている配列)は、Beacon Designer 2.6ソフトウェア(Premier Biosoft International)を使用して設計した。グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の発現に伴って値を正規化した。
表2
【表2】
【0075】
アニーリングのTa温度(℃);アクセッション番号GAPDH:NM_008084.3;アクセッション番号Cyt c:NM_007808;アクセッション番号PGC-1α:AF049330;アクセッション番号Tfam:NM_009360.4;アクセッション番号KFL15:NM_023184.4;アクセッション番号PP2CM:NM_175523.4;Mus musculusミトコンドリア、完全ゲノム:NC_005089.1;gDNA(GAPDH):NC_000072.6;12SミトコンドリアrRNAのプライマーコード(NC_005098.1)。GAPDHを使用して、ミトコンドリアDNAを正規化した。
【0076】
ミトコンドリアDNA(mtDNA)分析のために、QIAamp DNA抽出キット(QIAGEN)で総DNAを抽出した。
【0077】
ミトコンドリアDNA(mtDNA)遺伝子に特異的なプライマーを使用してmtDNAを増幅し、GAPDH遺伝子DNAの増幅によりゲノムDNAに正規化した。Beacon Designer 2.6ソフトウェア(Premier Biosoft International、カリフォルニア州パロアルト)を使用して設計されたプライマーを、gDNAについて表2に示される。
【0078】
[統計分析]
すべての遺伝子発現データについて、両側のペアサンプルt検定(two-sided paired-sample t test)を使用して、コントロール細胞と処理細胞の値を比較した。p値<0.05を統計的に有意であるとみなした。
【0079】
[酸素消費量]
表1に示される組成物で処理した1mlのHL-1心筋細胞を、ハンクス平衡塩溶液(Sigma)に再懸濁し、遠沈してペレット細胞にした。多数のHL-1細胞にはまた、一酸化窒素(NO)ドナー、具体的には、ポジティブコントロールとして、DETA-NO(Sigma-Aldrich、ミラノ、イタリア国)とも呼ばれるジエチレントリアミン-NOを添加した。
【0080】
次いで、細胞を呼吸緩衝液(0.3Mマンニトール、10mMのKCl、5mMのMgCl2、10mMのK2PO4、pH7.4)に3.0×106/mlの密度で再懸濁した。
【0081】
チャートレコーダーに接続されたクラーク型酸素電極(Rank Brothers Ltd.)を備える気密容器内で、サンプルを37℃で分析した。
【0082】
酸素電極は、培養培地中の酸素濃度を37℃で200μmol/lと仮定して較正した。
【0083】
約10分間の連続混合で酸素消費量を評価した。次いで、トレースレコーダーの勾配を使用して酸素消費を計算した。酸素含有量は、細胞の量に応じて異なる場合がある。したがって、細胞含有量と直接相関するタンパク質含有量は、細胞サンプルの酸素消費を正規化するために使用されている。タンパク質含有量は、ビシンコニン酸タンパク質(BCA)アッセイを使用して決定した。
【0084】
[結果]
[ミトコンドリアDNA(mtDNA)]
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は、ミトコンドリア質量への影響を検証するために、異なるアミノ酸組成物で処理した細胞で最初に評価した。
【0085】
図1に示されるように、α5組成物で処理したHL-1心筋細胞は、コントロール細胞(CT)、B2処理細胞、および非常に興味深いことにBCAAem組成物で処理した細胞内で評価したmtDNAに対してmtDNAの最も有意な増加を示した。
【0086】
[PGC-1α、TfamおよびCyt c]
異なるアミノ酸組成物の効果は、ミトコンドリア生合成でも試験した。具体的には、以下のマーカーのHL-1心筋細胞による発現を評価した:
- ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマコアクチベーター1-アルファ(PGC-1α)、ミトコンドリア生合成の主要制御節因子、
- ミトコンドリアDNA転写因子A(Tfam)、mtDNA複製を調節するmtDNA転写因子、
- シトクロム複合体(Cyt c)、呼吸複合体タンパク質。
【0087】
BCAAem組成物、B2組成物(すなわちBCAAem組成物に類似するが、クエン酸も含む組成物)、α5(すなわちアミノ酸以外の活性剤としてクエン酸、コハク酸、リンゴ酸の酸類も備える組成物)の投与後に得られた結果の比較により、α5組成物がHL-1心筋細胞内で上記マーカーの発現を促進するのに最も効果的であることを示した。
【0088】
さらに、経時変化効果が観察された:3つのカルボン酸と一緒に表1にリストされるアミノ酸を備えるα5組成物を48時間添加した後、実際に、増加は基底値よりもさらに顕著であった。
【0089】
この増加は、24時間処理と比較した場合のTfamのBCAAem組成物の値(
図2)ならびに48時間処理後のPGC-1αおよびCyt cの値(
図3)に対しても統計的に有意であった。
【0090】
[KFL15およびPP2CM]
クリュッペル様因子15(KFL15)およびミトコンドリアマトリックス標的タンパク質ホスファターゼ2Cファミリーメンバー(PP2CM)は、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の異化を調節するタンパク質である。
【0091】
BCAA異化の最初のステップは3つのBCAAに共通しており、ミトコンドリア酵素BCAAアミノトランスフェラーゼ(BCAT)および分岐鎖α-ケト酸デヒドロゲナーゼ複合体(BCKDC)が必要である。
【0092】
分解の最初で完全に可逆的なステップでは、ミトコンドリアBCATは、アミノ基をBCAAからα-ケトグルタル酸に転移させ、対応する分岐鎖α-ケト酸(BCKA)およびグルタミン酸を形成する。
【0093】
その後、BCKDCは、BCKAのカルボキシル基の脱炭酸を触媒し、対応する分岐鎖アシルCoAエステルを形成する。
【0094】
この反応は不可逆的であるため、BCAAを劣化させる。
【0095】
BCKDC活性は、NADH、α-ケトイソカプロン酸および分岐鎖アシルCoAエステルによる最終産物のアロステリック阻害により調節される。
【0096】
BCKDC活性は、その調節サブユニットE1aのリン酸化状態により決定される。
【0097】
BCAAレベルが低い場合、E1aは、BCKDキナーゼにより過剰リン酸化され、BCKDC活性の阻害と遊離BCAAの保存につながる。
【0098】
BCAAレベルが高い場合、E1aは、ミトコンドリア内のPP2C(PP2CM)と呼ばれるミトコンドリア標的2C型Ser/Thrタンパク質ホスファターゼまたはタンパク質ホスファターゼ、Mg2+/Mn2+依存性1K(PPM1K)により脱リン酸化され、BCKDCの活性化および総BCAAの減少につながる(Bifari and Nisoli,2016)。
【0099】
さらに、KLF15は、心臓内でのBCAT、BCKDCおよびPP2CM遺伝子発現を増加させることがわかった(Sun et al.,2016)。
【0100】
PP2CMおよびKFL15のmRNAレベルの評価により、α5組成がHL-1心筋細胞内の基底値を超えてPP2CMおよびKLF15のmRNAレベルを増加させることが示された。この増加は、BCAAem組成物に対してさえも有意であった(
図4)。
【0101】
これらの結果は、活性剤を備える組成物であって、この活性剤が、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンと、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸とを含む組成物が、ミトコンドリア機能の促進に非常に効果的であり、代謝的に活性な細胞内のBCAAem組成物に対してさえも、ミトコンドリア生合成をより効率的に活性化することを示す。
【0102】
[酸素消費量(OCR)]
異なる組成物を添加したHL-1細胞の酸素消費量を試験した。ポジティブコントロールとしてジエチレントリアミン-NO(DETA-NO)を添加した細胞も試験した。細胞の酸素消費量の増加に及ぼすDETA-NOの効果は明らかにされている(Nisoli et al.,2003)。NOは、褐色脂肪細胞ならびに3T3-L1、U937およびHeLa細胞などの多種多様な細胞でミトコンドリア生合成を引き起こすことがわかった。一酸化窒素のこの効果は、環状グアノシン3',5'-一リン酸(cGMP)に依存し、ミトコンドリア生合成の主要調節因子であるPGC-1αの誘導により媒介された(Nisoli et al.,2003)。
【0103】
48時間のDETA-NO処理の後、予期していたとおり、酸素消費量の増加が観察された。
【0104】
最も注目すべきことに、HL-1細胞にα5組成物を48時間添加した場合、酸素消費量の著しい増加量が観察され、したがって、ミトコンドリア活性の上昇が示されたことがわかる(
図5)。
【0105】
この増加は、B2およびBCAAem組成物の投与後に観察される増加よりも有意に高い。
【0106】
まとめると、これらの結果は、活性剤を備える組成物であって、この活性剤が、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシン、クエン酸、コハク酸およびリンゴ酸の組み合わせを含む組成物が、HL-1心筋細胞内でのミトコンドリア生合成、ミトコンドリア機能およびBCAA異化の促進において有意に活性が高いことを示す。
【0107】
BCAA、トレオニンおよびリシン、ならびにクエン酸、コハク酸およびリンゴ酸を備える有効成分を提供する組成物のアルファ6(α6)およびアルファ7(α7)は、同様の利点を達成すると考えられる。
【0108】
注目すべきことに、アセチルCoAに加えて、混合物に富むBCAAの異化が、スクシニルCoAを提供する。この後者は、スクシニル-CoAシンテターゼ反応を活性化する可能性があり、これはまたコハク酸デヒドロゲナーゼの後続反応の基質としてコハク酸を産生する。
【0109】
それゆえ、コハク酸をBCAAとともに混合物に提供すると、コハク酸デヒドロゲナーゼ反応も促進され、したがって、サイクルがさらに促進されることになる。注目すべきことに、コハク酸デヒドロゲナーゼは、FADH2を直接提供することから、ミトコンドリアの電子伝達鎖(複合体II)の一部でもある。それゆえ、コハク酸による刺激は、ミトコンドリアの酸化還元キャリアを直接活性化し、膜電位を増加させ、したがって、プロトン勾配、酸素消費およびATP合成が促進されることになる。
【0110】
同時に、リンゴ酸サプリメントは、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ反応を活性化し、NADHレベルを増加させ得る;これはまた、コハク酸由来FADH2と同じ方法で、複合体Iの基質を提供し、ひいてはATPレベルを増加させる。一方で、リンゴ酸は、リンゴ酸アスパラギン酸シャトルの活性を刺激し得る。これは、ミトコンドリア内への細胞質ゾルNADHの侵入も助長し(さもなければミトコンドリア膜を透過できない)、したがって、ミトコンドリアの酸化に利用できるようになる。これにより、ミトコンドリアの活性および酸素消費量がさらに増加する。
【0111】
上記から、本開示による組成物が、ヒトおよび動物における不十分なミトコンドリア機能により区別される病的状態の治療にどのように有用であるかが明らかになる。
【0112】
[参考文献]
Bifari F,Nisoli E.Branched-chain amino acids differently modulate catabolic or anabolic states in mammals:a pharmacological point of view.Br J Pharmacol.016 Sep 17.doi:10.1111/bph.13624.[Epub ahead of print].
【0113】
Claycomb WC,Lanson NA Jr,Stallworth BS,Egeland DB,Delcarpio JB, Bahinski A,Izzo NJ Jr.HL-1 cells:a cardiac muscle cell line that contracts and retains phenotypic characteristics of the adult cardiomyocyte.Proc Natl Acad Sci USA 95:2979-2984,1998.
【0114】
D'Antona G,Ragni M,Cardile A,Tedesco L,Dossena M,Bruttini F,Caliaro F,Corsetti G, Bottinelli R, Carruba MO,Valerio A,Nisoli E.Branched-chain amino acid supplementation promotes survival and supports cardiac and skeletal muscle mitochondrial biogenesis in middle-aged mice.Cell Metab.12:362-372,2010.
【0115】
Livak KJ,Schmittgen TD.Analysis of relative gene expression data using real-time quantitative PCR and the 2(-Delta Delta C(T))Method.Methods 25:402-408, 2001.
【0116】
Nisoli E,Clementi E,Paolucci C,Cozzi V,Tonello C,Sciorati C,Bracale R,Valerio A,Francolini M,Moncada S,Carruba MO.Mitochondrial biogenesis in mammals: the role of endogenous nitric oxide.Science:299(5608):896-9,2003.
【0117】
Nisoli E,Tonello C,Cardile A,Cozzi V,Bracale R,Tedesco L,Falcone S, Valerio A,Cantoni O,Clementi E,Moncada S,Carruba MO.Calorie restriction promotes mitochondrial biogenesis by inducing the expression of eNOS.Science 310:314-317,2005.
【0118】
Sun H,Olson KC,Gao C,Prosdocimo DA,Zhou M,Wang Z,Jeyaraj D,Youn JY,Ren S,Liu Y,Rau CD,Shah S,Ilkayeva O,Gui WJ,William NS,Wynn RM,Newgard CB,Cai H,Xiao X,Chuang DT,Schulze PC,Lynch C,Jain MK,Wang Y.Catabolic Defect of Branched-Chain Amino Acids Promotes Heart Failure.Circulation 133:2038-2049,2016.
【0119】
[項目1]
対象におけるミトコンドリア生合成を促進し、ミトコンドリア機能を改善するための組成物であって、組成物は、活性剤を備え、活性剤は、ロイシン、イソロイシン、バリン、トレオニン、リシンのアミノ酸と、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸とを含む組成物。
[項目2]
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の合計と、ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸にリシンおよびトレオニンを加えた合計との重量比が、0.05~0.3、好ましくは0.1~0.25である、項目1に記載の組成物。
[項目3]
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総量と、ロイシン、イソロイシン、バリンの分岐鎖アミノ酸の総量との重量比が、0.1~0.4、好ましくは0.15~0.35である、項目1または2に記載の組成物。
[項目4]
クエン酸と、リンゴ酸およびコハク酸の合計との重量比が、1.0~4.0、好ましくは1.5~2.5である、項目1から3のいずれか一項に記載の組成物。
[項目5]
クエン酸:リンゴ酸:コハク酸の重量比が、10:1:1~2:1.5:1.5、好ましくは7:1:1~1.5:1:1、より好ましくは5:1:1~3:1:1である、項目1から4のいずれか一項に記載の組成物。
[項目6]
活性剤が、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、チロシン、システインからなる群から選択される少なくとも1のアミノ酸をさらに有する、項目1から5のいずれか一項に記載の組成物。
[項目7]
活性剤が、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン、システインおよび任意にチロシンをさらに有する、項目6に記載の組成物。
[項目8]
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸の総モル量と、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジンおよびトリプトファンの総モル量との比が、1.35より高い、項目6または7に記載の組成物。
[項目9]
クエン酸、コハク酸、リンゴ酸の3つの酸の総モル量と、リシンおよびトレオニンの総モル量との比が、0.10~0.70、好ましくは0.15~0.55である、項目1から8のいずれか一項に記載の組成物。
[項目10]
クエン酸の重量またはモル量が、リンゴ酸およびコハク酸の両方の総重量またはモル量より多い、項目1から9のいずれか一項に記載の組成物。
[項目11]
ロイシンとクエン酸との重量比が、5~1、好ましくは2.50~3.50である、項目1から10のいずれか一項に記載の組成物。
[項目12]
活性剤がアルギニンを含まない、項目1から11のいずれか一項に記載の組成物。
[項目13]
組成物が、1種以上のビタミン類をさらに備え、ビタミン類は、好ましくはビタミンB群から選択され、より好ましくはビタミンB1および/またはビタミンB6を備える、項目1から12のいずれか一項に記載の組成物。
[項目14]
医薬品で使用するための、項目1から13のいずれか一項に記載の組成物。
[項目15]
サルコペニアおよび心不全から選択されるミトコンドリア機能障害関連疾患の治療および/または予防に使用するための、項目1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【配列表】