(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】酸化染毛剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/41 20060101AFI20240702BHJP
A61Q 5/10 20060101ALI20240702BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K8/41
A61Q5/10
A61K8/34
(21)【出願番号】P 2023147281
(22)【出願日】2023-09-12
【審査請求日】2023-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598176905
【氏名又は名称】玉理化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】田中 康晶
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏
【審査官】駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-080201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
Japio-GPG/FX
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化染料及びアルカリ剤を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とを混合して用いる酸化染毛剤であって、
第1剤と第2剤とは1:1~1:3の重量比で混合され、
混合液のpHは7.2~9.3であり、
第1剤と第2剤との混合総和に対して、酸化染料は
0.82~1.64重量%含有され、
プレカーサーとして、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩と、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール及び/又はその塩とを用い、カップラーとして、レゾルシンとメタアミノフェノールと5‐アミノオルトクレゾールとを用い、
重量比で、レゾルシンをメタアミノフェノールと5‐アミノオルトクレゾールとの合計よりも多く含み、かつ、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩よりも多く含み、
メラニン色素が脱けた毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛するのに用いられる酸化染毛剤。
【請求項2】
プレカーサーとしてパラアミノフェノールをも用いる請求項1に記載の酸化染毛剤。
【請求項3】
アルカリ剤として、アンモニア、モノエタノールアミンを1種以上配合する請求項1または2に記載の酸化染毛剤。
【請求項4】
プレカーサーとして、パラフェニレンジアミンも、トルエン‐2,5‐ジアミン及びその塩類も含有しない請求項3に記載の酸化染毛剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳(JIS Z 8102準拠)の明度3.5以下、彩度3以下)に染毛するのに用いて好適な酸化染毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
冠婚葬祭や就職活動などに臨むことを契機として、脱色によって明るくなった髪色を暗くするカラーリングや白髪を目立たなくさせるカラーリングを施すとき、日本では、日本人の特徴である黒髪に近い暗い色調(黒色やこげ茶色といった黒髪に比較的近い色相)に染毛することが多い。そして、こうしたカラーリングには、一般的に酸化染毛剤(酸化染料を酸化重合させて発色させるヘアカラー)が用いられる。
【0003】
酸化染毛剤は、毛髪内に酸化染料を浸透させ、酸化剤により酸化染料を酸化重合させて発色させるものであり、酸化染料及びアルカリ剤を含有する第1剤と、過酸化水素(酸化剤の一例)を含有する第2剤とを混合して用いる二剤式の酸化染毛剤が広く使用されている。なお、第1剤にアルカリ剤が配合されているのは、毛髪を膨潤させて酸化染料の毛髪への浸透を促進するとともに、過酸化水素の活性化を図るためである。
【0004】
そして、酸化染料には、プレカーサー(染料中間体)及びカップラー(調色剤)が配合される。プレカーサーは酸化剤で酸化されると重合して発色し、カップラーは単独で酸化してもほとんど発色しないが、プレカーサーと共に酸化するとプレカーサー単独での発色とは異なった色に発色するのであり、目的の発色に応じて、プレカーサー及びカップラーの組み合わせが決められる。また、例えば青色系に染毛する場合、青色系に発色するプレカーサー及びカップラーのみを用い、青色系以外の色に発色するプレカーサー及びカップラーは不要とすることができるのであり、このように、目的とする発色により、単一の色系に発色するプレカーサー及びカップラーの組み合わせのみを用いることができる場合もあるが、黒髪に近い暗い色調に発色させる場合には、黄色、褐色、紫色、青色など複数の色系に発色させるプレカーサーとカップラーを組み合わせて酸化染料がつくられる。そして、一般に、単一の色系に発色するプレカーサー及びカップラーの組み合わせのみを用いる場合に比べ、複数の色系に発色するプレカーサー及びカップラーの組み合わせを用いる場合の方が、発色が不安定化する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-057165号公報
【文献】特開2016-088891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
性別や年齢等による毛髪の質の違いに左右されない安定した染毛力を得ようとする場合、染毛性の強い酸化染料が用いられる。従来、黒髪に近い暗い色調に発色可能であり、かつ、染毛性の強い酸化染料をつくる場合、パラフェニレンジアミン又はトルエン‐2,5‐ジアミンがプレカーサーとして選択され、このとき、レゾルシンやメタアミノフェノールは外せないカップラーとなる。
【0007】
ここで、パラフェニレンジアミン又はトルエン‐2,5‐ジアミンをプレカーサーとして選択した場合、カップラーとしてのレゾルシン(この場合、黄色系に発色するカップラーとなる)は、その発色に一定以上のpH値とアルカリ度を必要とし、pH値の低下やアルカリ量の減少に伴って発色が顕著に弱くなり、これを配合した酸化染毛剤によって発色する色のバランスが崩れてしまう。
【0008】
また、パラフェニレンジアミン又はトルエン‐2,5‐ジアミンをプレカーサーとして選択した場合、カップラーとしてのメタアミノフェノール(この場合、褐色系に発色するカップラーとなる)は、発色に一定以上の時間を要する。そのため、放置時間が短くなると褐色系の発色は淡くなり、これを配合した酸化染毛剤で染めた毛髪が黒髪に近い暗い色調にならなくなってしまう。
【0009】
ところで、カラーリングを繰り返している毛髪についてみると、カラーリングの施術歴のある既染部(主として毛髪の中間から毛先側の部分)に比べ、施術歴のない新生部(主として毛髪の根元側の部分)は染まり難い傾向がある。そして、新生部をしっかり染めることのできるように染毛力を高めた酸化染毛剤は、既染部にとって過剰なスペックになる上、毛髪に余分なダメージを与えることにもなり、毛髪が長くなるほど、毛髪全体に占める既染部のボリュームが増すので、毛髪全体への負担量が多くなるという問題がある。
【0010】
そのため、美容業務では、既染部と新生部とで施術方法を異ならせる対応をとることがある。すなわち、第1剤と第2剤とで構成される酸化染毛剤では、両剤の混合比率は基本的に1:1であり、このときに十分な染毛効果が発揮できるように設定されている。そこで、この混合比率(1:1)の酸化染毛剤を新生部に塗布し、第1剤と第2剤の混合比率を1:2~3(1:2~1:3)に変更した酸化染毛剤を既染部に塗布する。この方法では、アルカリ量を減らすことで既染部への負担は軽減されるが、カップラーとしてレゾルシンを用いる上記従来の酸化染毛剤では、アルカリ量の減少に伴ってレゾルシンの発色が顕著に弱くなり、黒髪に近い暗い色調に発色させることが困難化する。
【0011】
別の対応として、混合比率1:1の酸化染毛剤を新生部に塗り、時間を置いてから同じ薬剤を既染部に塗布する方法もとられている。すなわち、既染部に対する酸化染毛剤の接触時間を短縮させることで毛髪への負担はある程度軽減できるが、カップラーとしてメタアミノフェノールを用いる上記従来の酸化染毛剤では、放置時間の短縮に伴ってメタアミノフェノールの発色が不十分となり、やはり黒髪に近い暗い色調に発色させることができない。
【0012】
近年では、酸が配合された第2剤を使用することも多くなっている。これにより、第1剤と第2剤の混合液のアルカリ度とpH値が下げられ、確実に毛髪の負担を減らすことが可能とはなるが、この場合も、発色が安定しない、染着力が弱くなる、といった欠点を伴うことになる。
【0013】
その他、第1剤中のアルカリ量を可能な限り減らし、なおかつ新生部用の第1剤と同じ発色をさせるために酸化染料の配合バランスを調製したダメージ部専用の薬剤も存在する。しかし、この薬剤が毛髪上で新生部用薬剤と触れたとき、その部分の発色が安定しないという欠点がある。
【0014】
特許文献1、2には白髪を染色する酸化染毛剤の報告がなされているが、いずれもダメージを持つ部位(既染部)への負担軽減を考慮した際に生じる不安定な発色を改善させているものではない。
【0015】
本発明者らは、染着性と毛髪への負担軽減を両立させるための研究の結果、プレカーサーとして使用されているパラフェニレンジアミン又はトルエン‐2,5‐ジアミンの代わりに、従来、補助的な使われ方をしていたパラメチルアミノフェノール及び2,2´‐〔(4‐アミノフェニル)イミノ〕ビスエタノールをプレカーサーとして採用すれば、カップラーとしてレゾルシン、メタアミノフェノールを選択し、第1剤と第2剤との混合比率を1:2~3に変更するなど、毛髪(既染部)への負担軽減を図っても、所望のこげ茶色やこれに近似する黒色など、黒髪に近い暗い色調に大きな色のばらつきが無く染毛可能であることを見出した。
【0016】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、毛髪への負担軽減を図りつつ、大きな色のばらつきが無く、黒髪に近い暗い色調に染毛することを可能とする酸化染毛剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る酸化染毛剤は、酸化染料及びアルカリ剤を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とを混合して用いる酸化染毛剤であって、第1剤と第2剤とは1:1~1:3の重量比で混合され、混合液のpHは7.2~9.3であり、第1剤と第2剤との混合総和に対して、酸化染料は0.82~1.64重量%含有され、プレカーサーとして、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩と、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール及び/又はその塩とを用い、カップラーとして、レゾルシンとメタアミノフェノールと5‐アミノオルトクレゾールとを用い、重量比で、レゾルシンをメタアミノフェノールと5‐アミノオルトクレゾールとの合計よりも多く含み、かつ、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩よりも多く含み、メラニン色素が脱けた毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛するのに用いられる(請求項1)。
【0018】
上記酸化染毛剤において、プレカーサーとしてパラアミノフェノールをも用いてもよい(請求項2)。
【0019】
上記酸化染毛剤において、アルカリ剤として、アンモニア、モノエタノールアミンを1種以上配合してもよい(請求項3)。
【0020】
上記酸化染毛剤において、プレカーサーとして、パラフェニレンジアミンも、トルエン‐2,5‐ジアミン及びその塩類も含有しなくてもよい(請求項4)。
【0021】
【発明の効果】
【0022】
本願発明では、毛髪への負担軽減を図りつつ、大きな色のばらつきが無く、黒髪に近い暗い色調に染毛することを可能とする酸化染毛剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について以下に説明する。
【0024】
本発明の酸化染毛剤は、メラニン色素が脱けた毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下又はマンセル表色系の明度4以下、彩度4以下)に染毛するのに用いられるものであり、酸化染料及びアルカリ剤を含有する第1剤と、酸化剤を含有する第2剤とからなり、例えば、第1剤と第2剤とを使用する直前に混合してから毛髪に塗布する、といった方法で使用される。
【0025】
そして、本発明の第1剤と第2剤とは、必要な染着性を損なわない範囲で、毛髪ダメージ部位に応用(塗布)するときにその部位の負担を減じるために、第1剤と第2剤の混合比率(重量比)の1:1を1:2~3にすることで第1剤と第2剤の混合剤中のアルカリ剤の含有量を減じる、第2剤に酸剤を含有させることで、第1剤と第2剤の混合時に部分的に中和し、混合時の系のpH値をアルカリ性から中性付近に調製する、通常の放置時間である30分を2分の1(15分)にすることで混合剤の接触時間を減じる、といった手段を講じることを可能とするものである。
【0026】
第1剤の酸化染料に配合するカップラーは、レゾルシンとメタアミノフェノールと、5‐アミノオルトクレゾールとを用い、本発明の効果が発揮すれば特に限定されない配合範囲で、2,6‐ジアミノピリジン、塩酸2,4‐ジアミノフェノキシエタノール、5‐(2‐ヒドロキシエチルアミノ)‐2‐メチルフェノール、α‐ナフトールを併用してもよい。
【0027】
また、第1剤の酸化染料に、パラニトロオルトフェニレンジアミンのような直接染料を配合するようにしてもよい。
【0028】
第1剤の酸化染料に配合するプレカーサーは、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩と、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール及び/又はその塩とを用い、本発明の効果が発揮すれば特に限定されない配合範囲でパラアミノフェノールを併用しても良い。なお、上述のように、カップラーとしてレゾルシンとメタアミノフェノールとを用いる場合に、プレカーサーとしてパラフェニレンジアミン又はトルエン‐2,5‐ジアミンを選択すると、所望の発色が達成されない恐れがあるので、パラフェニレンジアミンや、トルエン‐2,5‐ジアミン及びその塩類はプレカーサーとして含有しない。
【0029】
なお、レゾルシン(カップラー)は、パラメチルアミノフェノール(プレカーサー)との組み合わせで黄色系を発色し、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール(プレカーサー)との組み合わせで赤色系を発色する。メタアミノフェノール(カップラー)は、パラメチルアミノフェノール(プレカーサー)との組み合わせで黄色系を発色し、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール(プレカーサー)との組み合わせで青色系を発色する。5‐アミノオルトクレゾール(カップラー)は、パラメチルアミノフェノール(プレカーサー)との組み合わせで黄色系を発色し、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール(プレカーサー)との組み合わせで紫色系を発色する。そして、プレカーサーとしての、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩と、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール及び/又はその塩と、カップラーとしての、レゾルシン、メタアミノフェノール及び5‐アミノオルトクレゾールの組み合わせにより、狙いとする黒髪に近い暗い色調の発色が基本的には達成される。
【0030】
一方、パラアミノフェノール(プレカーサー)は、レゾルシン(カップラー)、メタアミノフェノール(カップラー)、5‐アミノオルトクレゾール(カップラー)との組み合わせでそれぞれ黄色系、オレンジ色系、オレンジ色系を発色するものであり、これを用いることにより、狙いとする黒髪に近い暗い色調を持つ色としてのこげ茶色等への発色を行い易くなる。しかし、このパラアミノフェノール(プレカーサー)を用いるかわりに、単独でオレンジ色に発色する直接染料であるパラニトロオルトフェニレンジアミンを用いることが可能である。このように、プレカーサーとカップラーの組み合わせのみの発色では狙いとする髪色にならない場合、その発色との関係で狙いとする髪色に寄せるための色(狙いとする髪色が黒色の場合は補色となる色)やそれに近い色に発色する直接染料を用いるようにしてもよい。
【0031】
第1剤と第2剤の混合総和に対して、酸化染料の含有量は、好ましくは0.1~7.0重量%であり、特に0.5~3.5重量%含有されることが好ましい。酸化染料の含有量が0.1重量%未満では本発明の目的に達するための十分な染毛力が得られにくく、7.0重量%を超えて配合してもそれ以上の染毛力が得られにくい。
【0032】
尚、メラニン色素が脱色し明るくなった毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛する観点から、プレカーサーとしての、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩と、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール及び/又はその塩と、カップラーとしての、レゾルシン、メタアミノフェノール及び5‐アミノオルトクレゾールとの合計量が酸化染料全量中の70重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましい。
【0033】
また、パラメチルアミノフェノール及び/又はその塩(イ)と、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノール及び/又はその塩(ロ)との配合比は本発明の効果が発揮すれば特に限定されないが、メラニン色素が脱色し明るくなった毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛する観点から、重量%比で、イ:ロ=1:4~1:13とすることが好ましく、より好ましくは1:7~1:11である。
【0034】
さらにまた、全プレカーサー(ハ)と全カップラー(ニ)の配合比は、本発明の効果が発揮すれば特に限定されないが、メラニン色素が脱色し明るくなった毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛する観点から、重量%比で、ハ:ニ=4:1~1:3とすることが好ましく、より好ましくは3:1~1:2である。
【0035】
第1剤に配合するアルカリ剤は、第1剤に配合可能であれば特に限定されないが、明るい毛髪、特に白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛する観点から、アンモニア、モノエタノールアミン、重炭酸アンモニウム等を用いることが好ましい。
【0036】
第1剤中のアルカリ剤の含有量は、染毛の対象とする毛髪を膨潤させて酸化染料の毛髪への浸透を促進する程度であれば特に限定されないが、毛髪への染色性の観点からアルカリ度として1mL以上が好ましく、3mL以上がより好ましい。アルカリ度とは、試料1gを中和するのに要する0.1mol/L‐塩酸溶液のmL数をいう。
【0037】
また、染毛時に酸化染毛剤が頭皮に付着した時の刺激性の観点から、アルカリ度として15mL以下が好ましく、12mL以下が好ましい。これらのことから、第1剤中のアルカリ剤の含有量はアルカリ度として、1~15mLであり、より好ましくは3~12mLである。
【0038】
一方、第2剤は、本発明の効果を発揮するために、必須成分として酸化剤を含有する。酸化剤として、過酸化水素を用いることが考えられる。
【0039】
第2剤中の酸化剤(過酸化水素)の含有量は、本発明の効果を発揮すれば特に限定されない。染色性の観点から、第1剤と第2剤の混合総和に対して、酸化剤(過酸化水素)の含有量は、好ましくは0.5~5.0重量%であり、特に2~3.5重量%含有されることが好ましい。含有量が0.5重量%未満では本発明の目的に達するための十分な染毛力が得られにくく、5.0重量%を超えて配合してもそれ以上の染毛力が得られにくい。
【0040】
特にダメージをもつ毛髪(既染部)に対して負担を軽減するという観点から、本発明の効果を発揮する範囲で、第2剤に酸(酸性物質)を配合してもよい。酸の具体的な例としては、リン酸、グリオキシル酸、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、ピロリドンカルボン酸、酒石酸、コハク酸、レブリン酸、乳酸、マロン酸、グリコール酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
また、酸の含有量は0.1~7重量%の範囲とするのが好ましく、0.5~5重量%の範囲とするのがより好ましい。なぜなら、0.1重量%を下回ると、第1剤のアルカリ度下げる(アルカリ剤を部分的に中和する)効果が得にくくなり、中和量を増やすために第2剤の混合比率を上げていくと、混合液中の酸化染料の含有量が減り、希望の染色が得られないからである。また、7重量%を上回ると、第1剤と第2剤の混合時の系のアルカリ度が極端に減り、安定した発色が得られないからである。
【0042】
尚、本発明に係る第1剤および第2剤の剤型としては、液状、ジェル状、クリーム状等の種々の剤型で用いることができ、第1剤と第2剤を混合して使用する。第1剤と第2剤の混合比は、通常、重量比で1:1~1:3程度で混合すればよい。
【0043】
第1剤と第2剤の混合時の系のpH値は、本発明の効果を発揮すれば特に限定されないが、メラニン色素が脱色し明るくなった毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛する観点から、pH6~11が好ましく、pH7~10がより好ましい。
【0044】
以下、処方例を示し、その応用方法によって本発明の条件を満たす実施例と条件を満たさない比較例をあげ、本発明を説明する。なお、処方例に示す配合量は特記しないかぎり重量%で表す。また、示性値としてのアルカリ度とは、試料1gを中和するのに要する0.1mol/L‐塩酸溶液のmL数をいい、酸度とは、試料1gを中和するのに要する0.1mol/L‐水酸化ナトリウム溶液のmL数をいう。
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
表1~表4中のpH値は、pH測定器(F-52、株式会社堀場製作所製)で測定した結果、表1、表2に示すアルカリ度ならびに酸度は、電位差自動滴定装置(AT-710、京都電子工業株式会社製)で測定した結果である。また、表3及び表4中のアルカリ度は、第1剤と第2剤を混合した時点でアルカリ剤が消費されるため、表1と表2の測定値から計算した理論値である。
【0050】
表3より、比較例1に対して比較例2、比較例3のpH値はほぼ同等ではあるが、アルカリ度が下がっていることから、毛髪への負担は軽減されると考えられる。また、比較例4、5、6のpH値とアルカリ度は、それぞれ比較例1、2、3よりも低い数値であることから、さらなる負担軽減がなされると考えられる。
【0051】
表4より、実施例1に対して実施例2、実施例3のpH値はほぼ同等ではあるが、アルカリ度が下がっていることから、毛髪への負担は軽減されると考えられる。また、実施例4、5、6のpH値とアルカリ度は、それぞれ実施例1、2、3よりも低い数値であることから、さらなる負担軽減がなされると考えられ、本発明の酸化染毛剤は、負担軽減の使用方法は可能である。
【0052】
次に、表3、表4に示した薬剤を用いて明度差のある四種類の毛束に染毛処理(下の[染毛処理方法]を参照)を施し、その薬剤の染着性から染毛剤としての能力を比較する。
[染毛処理方法]
1本当たり1.2g、120mmの株式会社ジョージ・マタイ・ジャパン製毛束(ヤク毛(20レベル)、15レベル人毛、10レベル人毛、5レベル人毛)を使用した。表1記載の第1剤と表2記載の第2剤を、表3、表4記載の比率で調製した混合液を毛束1本に対して2g塗布し、その後、30℃下に15分または30分放置した。さらにその後、温湯で水洗、シャンプー、トリートメント処理をして、染毛処理を完了させた。なお、15レベル人毛、10レベル人毛、5レベル人毛とは、弊社トーンスケール(玉理化学株式会社が作成したレベルスケール)で測定した明度が15レベル、10レベル、5レベルの人毛であり、ヤク毛の明度は20レベルであった。
【0053】
ここで、弊社トーンスケールとは、日本人の黒髪の暗さである4レベルを起点に白色の明るさを20レベルとして15段階に明度番号を付けたものである。以下に、弊社トーンスケール(ナイロン製のスケールである)の各スケール番号(4~20)が、JIS色名帳(JIS Z 8102準拠)のいずれの色名に該当(一致ないし最も近似)するかを判定した結果を示しておく。
【表5】
【0054】
[黒髪に近い暗い色調の確認試験]
上記染毛処理を施した各毛束に関して、黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下)に染毛されているか否かを、JIS色名帳を用いて確認した。
○:JIS色名帳の「明度3.5以下、彩度3以下」となっている。
×:上記条件をクリアできていない。
【0055】
【0056】
【0057】
表6より、比較例1~8に係る酸化染毛剤の配合では、毛髪の明度が明るくなると、または染料濃度(第1剤と第2剤の混合総和に占める酸化染料の濃度)が低くなると、さらには染毛に要する時間が短縮(通常、薬剤の塗布後30分放置を15分短縮)されると、黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下)に染まりにくくなる傾向があることが確認できる。一方、表7より、実施例1~8に係る本発明の酸化染毛剤の配合では、毛髪の明度が明るくなっても、または染料濃度がある程度低くなっても、さらには染毛に要する時間がある程度短縮されても、黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下)に染まるのであり、つまりは、ダメージ毛を考慮し染着に不利な条件下であっても、メラニン色素が脱色し明るくなった毛髪や白髪を黒髪に近い暗い色調に染毛するといった効果を奏することが確認できる。
【0058】
[明度の確認試験]
上記染毛処理を施した各毛束の明度についてより厳密に評価するため、弊社トーンスケールを用いてそれぞれの明度を測定した。この測定結果を表8、表9に示す。元来、明度差のある毛髪を染毛するとき、染毛後の明度を完全に合致させることは困難なことではあるが、黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下)に染まっていて、かつ、弊社トーンスケールにおいて明度差(レベル差)を2未満に抑えた場合、明度差が非常に目立ちにくくなり、明度差に由来する大きな色のばらつきのない(明度差に由来する色のばらつきが目立たない)仕上がりとなる。
【0059】
【0060】
【0061】
表8に示すように、比較例2~8(ダメージ部位用の薬剤)では、15レベル毛以上の明るさの毛髪を染毛したとき、比較例4を除いて明度が6レベル以上であり、最も明度が低くなる比較例1の5レベル毛の染毛明度(4レベル)を基準とすると、この基準との明度差が2レベル以上となるのであり(表中のアンダーライン部)、明度の均一性に乏しく、違和感が生じるといえる。
【0062】
これに対し、表9に示す実施例2~8(ダメージ部位用の薬剤)では、最も明度が低くなる実施例1の5レベル毛の染毛明度(4レベル)を基準としたとき、全ての実施例において、染毛結果が2レベル未満の明度となり、上述のように、黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下)に染まることと相俟って、明度差が非常に目立ちにくくなり、明度差に由来する大きな色のばらつきのない(明度差に由来する色のばらつきが目立たない)仕上がりとなる。
【0063】
[色合いのばらつきの確認試験]
黒髪に近い暗い色調(JIS色名帳の明度3.5以下、彩度3以下)に染まっていて、かつ、弊社トーンスケールにおいて明度差(レベル差)を2未満に抑えた場合、明度差に由来する大きな色のばらつきのない(明度差に由来する色のばらつきが目立たない)仕上がりになるが、この場合でも、理論的には、色調の違いが目立つ可能性はある。この傾向は、明度、彩度が上がるほど強まり、また、色調の違いが目立つ場合に色相の系統が違うと違和感を生じさせ、ひいては染毛結果に大きな影響を及ぼす恐れがあると考えられる。そこで、上記染毛処理を施した各毛束に関して、比較例1に対する比較例2~8の色合いの違いと、実施例1に対する実施例2~8の色合いの違いとを、目視にて以下4段階の評価し、その結果を表10、表11に示した。ここでいう色合いの違いとは、色調(明度、彩度のバランス)の違いと色相の違い(違和感)とを総合的に評価したものを指す。
◎:色調の違いが認められず、違和感がない
○:色調はやや異なるが、違和感がない。
△:色調はやや異なり、やや違和感がある。
×:色調が全く異なるか、色調はやや異なり強い違和感がある。
【0064】
【0065】
【0066】
表10より、比較例1を基準としたとき、比較例2~8(ダメージ部位用薬剤)は毛髪の明度が明るくなると、または染料濃度(第1剤と第2剤の混合総和に占める酸化染料の濃度)が低くなると、その染毛色の違いが見える傾向にあるといえる。一方、表11に示す実施例2~8は、実施例1を基準としたとき、この実施例1に近似した染毛結果となり、メラニン色素が脱色し明るくなった毛髪や白髪を、大きな色のばらつきが無く、黒髪に近い暗い色調に染毛するといった効果を奏することを、色合い(色調及び色相)のばらつきの観点から確認できた。
【0067】
上記黒髪に近い暗い色調の確認試験の結果を示す表6、表7と、上記明度の確認試験の結果を示す表8、表9と、上記色合いのばらつきの確認試験の結果を示す表10、表11とから理解されるように、本発明による実施例1~8に係る酸化染毛剤の配合では、明度差のある毛髪であっても、黒髪に近い暗い色調に染毛し、所望の明度を実現しつつ明度差を抑えることができ、しかも色合いのばらつき(色調及び色相のばらつき)をも抑えられるのであり、比較例1~8に係る酸化染毛剤の配合に優越する効果がみてとれる。
【0068】
また、表7、表9、表11より、第1剤と第2剤の混合比率1:1から1:2~3に変更することでアルカリ量を減らす、通常の放置時間である30分を2分の1(15分)にする、第2剤として酸(上の例ではリン酸)を配合したものを使用し、第1剤と第2剤との混合薬剤を中性に近づける、というようなダメージ毛を考慮した染着条件で施術を行っても安定した染着性が実現されることが理解できる。もちろん、例えば第2剤に酸を配合せず、第1剤と第2剤との混合薬剤を中性に近づけない場合は、染着により有利な条件となり、こうしたダメージ毛を考慮しない条件で施術を行えばより安定した染着性が実現されるのは明らかである。
【0069】
上記実施例1の処方は、ヤク毛を暗い灰紫(JIS色名帳で色名「5P 3.5/3」)に染めるように構成したものであり、実施例2~8のうち、最も色変化が生じ易い条件である実施例8の処方は、ヤク毛を暗い灰青紫(JIS色名帳で色名「10PB 3/3」)に染めるのであり、実施例1~8の間で染毛結果(色調等)に大きな変化があるとは認められない。
【0070】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0071】
上記実施の形態では、毛髪処理剤が2剤式である場合について説明したが、毛髪処理剤は、2剤式に限らず、例えば3剤式以上の多剤式であってもよい。
【0072】
本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【要約】
【課題】毛髪への負担軽減を図りつつ、大きな色のばらつきが無く、黒髪に近い暗い色調に染毛することを可能とする酸化染毛剤を提供すること。
【解決手段】酸化染料及びアルカリ剤を含有する第1剤、酸化剤を含有する第2剤からなり、両剤は1:1~1:3の重量比で混合され、両剤の混合総和に対して酸化染料は0.1~7.0重量%含有され、プレカーサーとして、パラメチルアミノフェノールと、2,2´‐[(4‐アミノフェニル)イミノ]ビスエタノールとを用い、カップラーとして、レゾルシンとメタアミノフェノールと5‐アミノオルトクレゾールとを用いる。
【選択図】なし