IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ファーマフーズの特許一覧

特許7513336γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品
<>
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図1
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図2
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図3
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図4
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図5
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図6
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図7
  • 特許-γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法およびそれを使用した製品
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20240702BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240702BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240702BHJP
   A23L 29/00 20160101ALN20240702BHJP
【FI】
C12P13/00
A23L5/00 J
C12N1/20 A
A23L29/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024008842
(22)【出願日】2024-01-24
(62)【分割の表示】P 2024007402の分割
【原出願日】2024-01-22
【審査請求日】2024-01-24
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10487
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500101243
【氏名又は名称】株式会社ファーマフーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】原 由洋
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】金 英一
(72)【発明者】
【氏名】田中 崇彬
(72)【発明者】
【氏名】上原 星磨
(72)【発明者】
【氏名】渡部 和哉
(72)【発明者】
【氏名】金 武祚
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2023/032371(WO,A1)
【文献】特開2003-070462(JP,A)
【文献】特開2021-164436(JP,A)
【文献】特開2010-189333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00-41/00
A23L 2/00-35/00
C12N 9/00- 9/99
C12N 1/00- 7/08
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法であって、
(1)原料にGABA産生能を有する乳酸菌を接種して培養し、GABAを含有する発酵液を得る発酵工程と、
(2)前記発酵液のpHを調整して、pH調整発酵液を得るpH調整工程と、
(3)前記pH調整発酵液を加熱し、前記乳酸菌を殺菌した加熱殺菌発酵液を得る工程と、
(4)前記加熱殺菌発酵液を活性炭処理する工程と
を包含し、前記活性炭がおが粉活性炭を含み、前記乳酸菌がラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株(FERM BP-10487)であり、前記pH調整工程が、4~7.5のpHに調整することを含む、製造方法。
【請求項2】
前記発酵工程が2~4日間発酵培養することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記pH調整工程が、.5~のpHに調整することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記pH調整工程が、.5のpHに調整することを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記GABA粉末は、ラクトバチルス・ブレビスを用いること以外は同様に製造して得られたGABA粉末と比較して、改善された味質を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記GABA粉末は、ラクトバチルス・ブレビスを用いること以外は同様に製造して得られたGABA粉末と比較して、改善された臭いを有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
凍結乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、またはそれらの任意の組み合わせによって乾燥することをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
結晶化することをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたGABAを、食物に配合して食品を得ることを包含する、食品の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたGABAを、化粧料に配合して化粧品を得ることを包含する、化粧品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルタミン酸をグルタミン酸脱炭酸酵素(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)の作用により脱炭酸してγ-アミノ酪酸(GABA)を生成するγ-アミノ酪酸生産能を有する乳酸菌を使用してGABA含有粉末を製造する新規製造方法、およびその製造方法によって製造されたGABA含有粉末を含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
GABAは、自然界に広く分布している非タンパク質アミノ酸の1種であり、野菜や果物、穀類等に普通に含まれているアミノ酸である。生体内においては、抑制系の神経伝達物質としての働きを有し、脳や脊髄等の中枢神経系に特に多く存在することが分かっている。
【0003】
GABAは、乳酸菌を用いた発酵法により製造できることが知られており(特許文献1)、発酵法により製造されたGABAを含有する発酵生成物が多くの製品で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3880820号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、乳酸菌による新規GABA製造法、およびそのような方法によって製造された新規GABA含有粉末を提供する。本発明の主要な観点によれば、以下の発明が提供される。
(項目1)
γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法であって、
(1)原料にGABA産生能を有する乳酸菌を接種して培養し、GABAを含有する発酵液を得る発酵工程と、
(2)前記発酵液のpHを調整して、pH調整発酵液を得るpH調整工程と、
(3)前記pH調整発酵液を加熱し、前記乳酸菌を殺菌した加熱殺菌発酵液を得る工程と、
(4)前記加熱殺菌発酵液を活性炭処理する工程と
を包含する、製造方法。
(項目2)
前記発酵工程が2~4日間発酵培養することを含む、上記項目に記載の製造方法。
(項目3)
前記pH調整工程が、約4~約7.5のpHに調整することを含む、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目4)
前記pH調整工程が、約4.5~約7のpHに調整することを含む、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目5)
前記pH調整工程が、約5~約6.5のpHに調整することを含む、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目6)
前記活性炭が、おが粉活性炭を含む、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目7)
前記乳酸菌がラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株(FERM BP-10487)である、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目8)
前記GABA粉末は、ラクトバチルス・ブレビスを用いること以外は同様に製造して得られたGABA粉末と比較して、改善された味質を有する、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目9)
前記GABA粉末は、ラクトバチルス・ブレビスを用いること以外は同様に製造して得られたGABA粉末と比較して、改善された臭いを有する、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目10)
凍結乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥、またはそれらの任意の組み合わせによって乾燥することをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目11)
結晶化することをさらに含む、上記項目のいずれか一項に記載の製造方法。
(項目12)
上記項目のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたGABAを、食物に配合して食品を得ることを包含する、食品の製造方法。
(項目13)
上記項目のいずれか一項に記載の製造方法によって得られたGABAを、化粧料に配合して化粧品を得ることを包含する、化粧品の製造方法。
(項目14)
上記項目のいずれか一項の製造方法によって製造された、GABA粉末。
(項目15)
上記項目のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、食品。
(項目16)
上記項目のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された、化粧品。
【0006】
本開示において、上記の1つまたは複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得ることが意図される。なお、本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。なお、上記した以外の本開示の特徴及び顕著な作用・効果は、以下の発明の実施形態の項及び図面を参照することで、当業者にとって明確となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、味質および/または臭いの改善されたGABA製品をもたらす、乳酸菌による新規GABA製造法、およびそのような方法によって製造された新規GABA粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本願発明の一実施形態において、活性炭としておが粉を用いて製造したGABA含有粉末の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を用いた。
図2図2は、本願発明の一実施形態において、活性炭としておが粉を用いて製造したGABA含有粉末の発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を用いた。
図3図3は、本願発明の一実施形態において、活性炭としてヤシ殻を用いて製造したGABA含有粉末の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を用いた。
図4図4は、本願発明の一実施形態において、活性炭としてヤシ殻を用いて製造したGABA含有粉末の発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を用いた。
図5図5は、本願発明の一実施形態において、活性炭として石炭を用いて製造したGABA含有粉末の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を用いた。
図6図6は、本願発明の一実施形態において、活性炭として石炭を用いて製造したGABA含有粉末の発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を用いた。
図7図7は、本願発明の一実施形態において、活性炭としておが粉、ヤシ殻、および石炭を用いて製造したGABA含有粉末の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHがpH6~6.3のものを用いた。
図8図8は、本願発明の一実施形態において、活性炭としておが粉、ヤシ殻、および石炭を用いて製造したGABA含有粉末の発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を示すグラフである。培養96時間経過後の発酵液のpHがpH6~6.3のものを用いた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0010】
(定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0011】
本明細書において、「約」とは、後に続く数値の±10%を意味する。
【0012】
本明細書において、「室温」とは、約20℃~約40℃をいう。
【0013】
本明細書において、「静置」とは、静止した状態で平穏環境下に置いておくことをいい、振動や音波等の外部からの人為的な物理的刺激を与えないことを意味する。
【0014】
本明細書において、「γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末」とは、粉末中の主成分がGABAである任意の粉末をいう。粉末において「ある成分が主成分である」とは、粉末中の20重量%以上が当該成分であることをいう。
【0015】
本明細書において、物質Aが物質Bよりも「改善された味質」を有するとは、基準となる物質に対する物質Aおよび物質Bの味質をそれぞれ複数の評価者によって官能評価した結果を平均した場合に、物質Aの方が物質Bの評価結果よりも優れていることをいう。本発明における官能評価は、複数の評価者により、基準に対する強弱を-2、-1、0、+1、+2の5段階評価でVASアンケート形式でチェックし、全評価者の結果を平均値としたものである。本発明における味質は、塩味、後味の残り、または苦味であり得るが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書において、物質Aが物質Bよりも「改善された臭い」を有するとは、基準となる物質に対する物質Aおよび物質Bの臭いを官能評価した結果を平均した場合に、物質Aの方が物質Bの評価結果よりも優れていることをいう。本発明における臭いは、酵母臭、発酵臭、およびすっぱい臭いであり得るが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書において、pHの「調整」とは、一般に、酸または塩基の添加によって、組成物(例えば、液体)のpHを変更することを意味する。酸性から中性またはアルカリ性に調整すること、およびアルカリ性から中性または酸性に調整することのいずれも含まれる。pHの調整は任意の酸またはアルカリを用いて行うことができ、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを用いることができる。
【0018】
本明細書において、「活性炭処理」とは、溶液を活性炭に接触させて、当該溶液中に含まれる粒子等の不純物を活性炭に吸着させて除去する処理である。具体的には、活性炭に対して処理対象の溶液を混合または通液する処理であり、こうした活性炭処理は、処理に供する溶液の量や濃度と、用いる活性炭の種類、量及び接触時間、温度等を適宜設定することができる。活性炭の種類としては、おが粉、ヤシ殻、石炭などを挙げることができる。活性炭による処理後は、ろ過、遠心分離等の公知の固液分離手段によって活性炭を除去して所望の活性炭処理溶液を取得することができる。
【0019】
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つの値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0020】
(乳酸菌およびその発酵)
本発明の乳酸菌は、培地にグルタミン酸またはその塩類を添加することにより増殖が促進されてグルタミン酸脱炭酸酵素の作用によりγ-アミノ酪酸を生成する能力を有する任意の乳酸菌であり得る。代表的な実施形態において、本発明の乳酸菌は、1L中に100gのグルタミン酸ナトリウムを含む液体培地において、30℃の温度で48時間培養したとき、γ-アミノ酪酸を45g/L以上生産することができる。特に好ましい実施形態においては、本発明に係る乳酸菌は、ラクトバチルス・ヒルガルディーに属するK-3株(FERM BP-10487)である。
【0021】
K-3株の菌学的性質を表1に示す。
【0022】
【表1】
本発明においては、乳酸菌を使用し、グルタミン酸またはその塩類を含有する発酵原料に乳酸菌を接種し培養して、γ-アミノ酪酸を含有する発酵食品を製造する。乳酸菌としては、凍結乾燥菌体、凍結保存株および液体培養液のうちのいずれを使用してもよいが、使用の前日から1%以上のグルタミン酸を含む発酵液または液体培地で前培養したものを使用することが好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で用いるグルタミン酸は、化学的にはアミノ酸の一種であるL-グルタミン酸を指し、調味料としての用途を持つ食品添加物であるグルタミン酸やグルタミン酸ナトリウム、その他のグルタミン酸塩、さらに食品蛋白質を酸や酵素で加水分解して得られるグルタミン酸のいずれを用いても構わない。また、調味料、水産加工品、トマトなど、遊離グルタミン酸を含む食品をそのままで用いても構わない。ただし、より多量のγ-アミノ酪酸を含有した食品を得ようとする場合には、より多量のグルタミン酸を含有する発酵原料を用いることが必要である。
【0024】
発酵培地は、乳酸菌の生育のために、上記したグルタミン酸の他に、ブドウ糖、果糖、麦芽糖などの糖質や、酵母エキス、肉エキス等のビタミンやミネラルを含む食品を含有することが好ましい。さらに、乳化剤や安定剤、pH調整剤などの食品添加物を用いることができる。
【0025】
発酵処理に使用される容器は、洗浄や加熱殺菌を行うことができて、食品の製造に使用可能である容器であれば、大きさや材質を問わないが、雑菌が混入しにくい構造をしたものが好ましい。
【0026】
発酵温度は、好ましくは約20℃~約30℃で、発酵時間は、例えば約48時間~約96時間であり、5重量%以上の高濃度のグルタミン酸ナトリウムを含む発酵培地を用いて発酵させる場合は、菌の増殖が最も促進される初発pH4.5~5.5が最も好ましい。一実施形態において、好ましい発酵時間は約96時間である。
【0027】
乳酸菌によるグルタミン酸またはその塩類を含有する原料の発酵においては、例えば、4重量%のグルタミン酸ナトリウムを含む液体培地でK-3株を培養させた場合、72時間後のγ-アミノ酪酸の生成量は、初発pH6.3および初発pH5.0のいずれにおいても約2重量%であったのに対し、10重量%のグルタミン酸ナトリウムを含む液体培地でK-3株を培養させた場合には、72時間後のγ-アミノ酪酸の生成量は、初発pH6.3では約3重量%であるのに対し、初発pH5.0では約5重量%に達した。また、発酵液のpHは、K-3株の増殖に伴って上昇し、発酵処理を開始してから24時間~48時間経過した時点ではpH7~8の中性域に達する。このため、発酵処理を開始してから24時間前後経過した時点で、発酵液を再びpH5程度に調整して発酵処理を続けるようにする。このようにすることにより、乳酸菌の増殖をさらに促進させ、γ-アミノ酪酸生成の速度や効率を上昇させることができる。
【0028】
(発酵液のpH調整)
本発明は、所定時間の発酵が終了した時点で、乳酸菌を培養して得られたγ-アミノ酪酸を含有する発酵液のpHを調整してpH調整発酵液を得ることを含む。pHの調整は、任意の酸またはアルカリを用いて行うことができ、例えば、塩酸、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらのpH調整剤はいずれも食品製造工程において使用することが認められているものであり、添加する食品の安全性に影響を与えないことが公知である。理論に拘束されることを意図しないが、本発明の製造方法による、ラクトバチルス・ブレビス(NBRC 12005)と比べた場合の味質や臭いの改善は、乳酸菌(ラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株(FERM BP-10487))のGABAの産生活動によるものであると考えられるため、そのような本発明の味質や臭いの改善は、pH調整剤の種類に依存するものではなく、乳酸菌の種類と、その発酵液の処理条件に依存するであろうことが理解される。好ましい実施形態において、加熱殺菌工程の後、乳酸菌を培養して得られたγ-アミノ酪酸を含有する発酵液は、約4~約7.5のpHに調整することができる。さらに好ましい実施形態において、本願発明の発酵液は、約4.5~約7のpHに調整することができる。またさらに好ましい実施形態において、本願発明の発酵液は、約5~約6.5のpHに調整することができる。もっとも好ましい実施形態において、本願発明の発酵液は、約5.3のpHに調整することができる。
【0029】
(乳酸菌の殺菌および発酵の停止のための加熱(加熱殺菌工程))
本発明においては、所定の時間発酵を行い、pHを調整した後、乳酸菌を殺菌し、発酵を停止するために加熱(加熱殺菌工程)を行う。加熱殺菌工程は、発酵液中の乳酸菌が死滅する任意の条件によって行われ得る。乳酸菌は、約75℃以上約15分の加熱により死滅するので、本発明の加熱殺菌工程の条件は、約75℃以上の温度での約15分以上の加熱であり得る。
【0030】
1つの実施形態において、本発明の加熱殺菌工程は、約75℃~約120℃で約30分の加熱によって行われ得る。
【0031】
(発酵後の賦形剤との混合)
一実施形態において、加熱殺菌工程の後、乳酸菌を培養して得られたγ-アミノ酪酸を含有する発酵液を賦形剤と混合して混合液を得ることができる。この段階で発酵液に添加される賦形剤としては、デキストリン、でんぷん、シクロデキストリン、マルトデキストリン、アラビアガムなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの賦形剤はいずれも無味無臭であり、添加する食品の味や臭いに影響を与えないことが公知である。好ましい実施形態において、この段階で発酵液に添加される賦形剤はでんぷんまたはデキストリンである。
【0032】
一実施形態において、賦形剤と発酵液との混合の際に、賦形剤と発酵液との混合を促進するために、混合液を加熱すること(加熱混合工程)もできる。加熱混合工程は、賦形剤を少なくとも部分的に溶解し、賦形剤と発酵液との混合を促進し得る温度で行われ得る。でんぷん、デキストリン、シクロデキストリンなどの賦形剤は、一般的に40℃以上に加熱することによって発酵液との混合を促進することができる。
【0033】
1つの実施形態において、本発明の加熱混合工程は、約60℃~約120℃で30分の加熱によって行われ、好ましい実施形態においては、約75℃~約110℃で30分以上の加熱によって行われ得る。
【0034】
本発明の発酵液は、賦形剤との混合に加えて、濾過、濃縮などの処理工程に供してもよい。典型的には、加熱殺菌工程の後、濾過および/または濃縮し、γ-アミノ酪酸の含有量をさらに高めてから利用するようにしてもよい。
【0035】
(加熱殺菌発酵液の活性炭処理)
本発明における発酵後の処理としては、加熱殺菌発酵液の濃縮、不純物除去、清澄化、脱塩、脱色、酵素処理などが挙げられるが、これらに限定されない。典型的な実施形態において、本発明は、加熱殺菌発酵液を活性炭処理することを含む。一実施形態において、活性炭処理の前または後に、予備的に、脱塩、脱色、不純物除去などのために、膜処理、カラム精製、または遠心分離などを行うこともできる。
【0036】
活性炭処理は、活性炭に対して加熱殺菌発酵液を混合または通液することによって行うことができる。活性炭の種類としては、おが粉、ヤシ殻、石炭などの活性炭を挙げることができるが、これらに限られるものではない。一実施形態において、活性炭処理は、処理に供する発酵液の量、pH、濃度、活性炭の種類、量、および接触時間、温度等を適宜設定することができる。一実施形態において、最終的に得られるγ-アミノ酪酸粉末において改善したい味質および/または臭いの種類に応じて、活性炭の種類を変更することもできる。また活性炭処理に供する発酵液の性質(量、pH、濃度など)に応じて、活性炭の種類を変更することもできる。好ましい実施形態において、活性炭処理に用いる活性炭はおが粉由来の活性炭である。
【0037】
一実施形態において、活性炭として利用するおが粉、ヤシ殻、石炭の種類は任意のものであってもよく、またその形状も粉末、粒状、またはペレット状であってもよい。本願発明においては、加熱殺菌発酵液を活性炭処理することで、最終的に得られるGABA含有粉末の苦味、コク味、塩味、後味の残り、発酵におい、すっぱい臭い、舌触り、および酸味を含む味質の改善および/または臭いの改善を達成することができる。例えば、活性炭の性能や品質を評価するために使用される主要なパラメータとしては、吸着容量、内部表面積、孔径分布、粒度、粒径、表面官能基、比表面積、ヨウ素価などを挙げることができるが、どのような活性炭を用いても、味質の改善および/または臭いの改善を達成することができる。これは、理論に縛られるものではないが、発酵液を活性炭処理することで、活性炭の微細な孔に、GABA製造時の不純物が吸着されたためと考えられる。
【0038】
一実施形態において、本願発明の方法において、活性炭の比表面積は約800~約1100m/g、好ましくは約900~約1000m/gのものを使用することができる。また本願発明の方法において、活性炭のヨウ素価は約900~約1300mg/g、好ましくは約1000~約1200mg/gのものを使用することができる。また本願発明の方法において、活性炭の粒径は約75μm以下、好ましくは約45μm以下、より好ましくは粒径約45μm以下のものが少なくとも約90%を占める活性炭を使用することができる。
【0039】
上述のとおり、本願発明の一実施形態において、乳酸菌を培養して得られたγ-アミノ酪酸を含有する発酵液のpHを調整してpH調整発酵液を得ることができる。好ましい実施形態において、発酵液のpHを弱酸性、例えば、約4.5~約7のpH、約5~約6.5のpH、または約5.3のpHに調整してから、そのpH調整発酵液を加熱殺菌し、さらにおが粉由来の活性炭で活性炭処理することで、最終的に得られるGABA含有粉末の苦味、コク味、塩味、後味の残り、発酵におい、すっぱい臭い、舌触り、および酸味を含む味質の改善および/または臭いの改善を達成することができる。
【0040】
活性炭による処理後は、ろ過、遠心分離等の公知の固液分離手段によって活性炭を除去して所望の活性炭処理溶液を取得することができる。
【0041】
濾過は、濾紙、濾布などを用いた通常の食品加工用の濾過設備を使用して行うことができ、珪藻土やセルロース、活性炭などの濾過助剤を用いるようにしてもよい。濃縮工程は、真空濃縮機、減圧濃縮機、蒸留釜、凍結濃縮機などの設備を用いて行う以外にも、火にかけた鍋で発酵液中の水分を蒸発させてもよい。
【0042】
これらの処理工程は、賦形剤との混合の前に行われてもよいし、混合の後に行われてもよい。典型的には、処理工程は賦形剤との混合の後に行われ得る。
【0043】
(加熱混合工程後の静置)
一実施形態において、加熱混合工程後に、発酵液または処理液を特定の条件で静置することができる。
【0044】
好ましい実施形態において、本発明の製造方法において、加熱混合工程後に、混合液を約10分以上、約20分以上、より好ましくは約30分以上静置してから、その後の乾燥工程に供し得る。好ましい実施形態において、本発明の製造方法において、加熱混合工程後に、混合液を約100時間以下、約48時間以下、約24時間以下、より好ましくは約18時間以下静置してから、その後の乾燥工程に供し得る。より好ましい実施形態において、本発明の製造方法において、加熱混合工程後に、混合液を、約20分~約48時間、約20分~約24時間、約20分~約18時間、約30分~約48時間、約30分~約24時間、約30分~約18時間静置してから、その後の乾燥工程に供し得る。
【0045】
静置工程はどのような温度で行われてもよいが、好ましくは室温で行われ得る。
【0046】
(乾燥および結晶化)
活性炭処理を経た発酵液は、必要に応じて加熱、濾過、濃縮、脱塩を行い、その後、乾燥工程に供され、GABAを含むGABA含有粉末を提供し得る。乾燥工程は、噴霧乾燥、凍結乾燥、または減圧乾燥など、当該分野で公知の効率的かつ衛生的な方法により行うことができ、またこれらの乾燥方法を組み合わせて使用することもできる。本発明の典型的な実施形態においては噴霧乾燥によって行うことができる。
【0047】
噴霧乾燥や凍結乾燥などの乾燥工程の前後において、さらに殺菌工程を設けてもよい。
【0048】
また本発明の一実施形態において、活性炭処理を経た発酵液は、冷却して結晶化を行い、結晶を回収した後に乾燥工程に供することもできる。発酵液の結晶化は当該分野で公知の手法によって行うことができ、例えば冷却晶析法(冷却することで溶解度を下げる)、蒸発晶析法(溶液を蒸発させて溶質濃度を上げる)、貧溶媒添加晶析法(溶質に難溶の溶媒を添加して溶解度を下げる)、反応晶析法(沈殿剤や反応ガスなどで化学反応を生じさせる)、およびこれらの任意の組み合わせなどを用いることができる。
【0049】
(好ましい実施形態)
本発明の製造方法によって得られるGABA含有粉末は、GABA固形分当りの量にして、約20重量%、約30重量%、約40重量%、約50重量%、約60重量%、約70重量%、約80重量%、約90重量%、又はそれ以上の量であり得る。GABA含有粉末中のGABA含有量は、利用した発酵培地、培養条件、微生物の種類や菌株の種類、濃縮および精製方法等の要因に応じて変化し得る。
【0050】
本発明のGABA含有粉末は、GABAに加えて、その他のアミノ酸、糖等のその他成分、発酵培地成分、微生物もしくはその一部を含んでもよい。
【0051】
特に好ましい実施形態において、本発明の製造方法において、pH調整工程において発酵液を約4~約7.5のpHに、好ましくは約4.5~約7のpHに、より好ましくは約5~約6.5のpHに調整し、加熱殺菌発酵液をおが粉によって活性炭処理することができる。このようにしてGABA含有粉末を製造することにより、得られるGABA含有粉末は、苦味、コク味、塩味、後味の残り、発酵におい、すっぱい臭い、舌触り、および酸味を含む味質の改善および/または臭いの改善を、好ましくは味質の改善および臭いの改善を達成し得る。
【0052】
好ましい実施形態において、本発明に従ってラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株を用いて得られたGABA含有粉末は、ラクトバチルス・ブレビス(例えば、NBRC 12005)を用いること以外は同様の条件で得られたGABA含有粉末(比較GABA含有粉末)と比べて、基準に対する味質および/または臭いの官能評価において、好ましい評価を有する。特定の実施形態において、苦味について、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、コク味について、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、塩味について、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、後味の残りについて、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.3以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.5以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、発酵においについて、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、すっぱい臭いについて、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.1以上、より好ましくは0.2以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、舌触りについて、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上良い官能評価を有し得る。特定の実施形態において、酸味について、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも0.4以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上良い官能評価を有し得る。
【0053】
好ましくは、本発明のGABA含有粉末は、比較GABA含有粉末よりも、苦味、コク味、塩味、後味の残り、発酵におい、すっぱい臭い、舌触り、および酸味のうちの任意の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、または8つについて、良い官能評価を有し得る。
【0054】
(用途)
本発明の製造方法によって得られたGABA含有粉末は、食品に配合されて使用され得る。本発明の製造方法によって得られるGABA含有粉末を食品の用途に使用する場合、改善された味質や改善された臭いが有利であり得る。
【0055】
本発明の製造方法によって得られるGABA含有粉末を含む食品には、食品製造において通常使用される成分をさらに任意に配合することができる。この成分としては、例えば、タンパク質、炭水化物、脂肪、栄養素、調味料及び香味料等を用いることができる。炭水化物としては、単糖類、例えば、ブドウ糖、果糖など;二糖類、例えば、マルトース、スクロース、オリゴ糖など;及び多糖類、例えば、デキストリン、シクロデキストリンなどのような通常の糖及び、キシリトール、ソルビトール、エリトリトールなどの糖アルコールが挙げられる。香味料としては、天然香味料(タウマチン、ステビア抽出物等)及び合成香味料(サッカリン、アスパルテーム等)を使用することができる。その他に、通常食品に添加される、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味剤、矯臭剤、pH調整剤、着色剤等の添加物を使用してもよい。
【0056】
本発明における食品は、固形食品や液状飲食品であり得る。固形食品としては、乾燥食品、サプリメント等、例えば、ゼリー、ヨーグルト、冷菓、飴、タブレット、チョコレート、ガム、クラッカー、ビスケット、クッキー、ケーキ、パン等が挙げられるが、これらに限定はされない。また、液状飲食品としては、例えば、清涼飲料、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、炭酸飲料、茶(緑茶、ウーロン茶、紅茶、ハーブティー等)、ミネラルウォーター、濃縮果汁、濃縮還元ジュース、ストレートジュース、果実ミックスジュース、果肉入り果実ジュース、果汁入り飲料、果実・野菜ミックスジュース、野菜ジュース、牛乳、乳飲料、ココア飲料、粉末飲料等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0057】
本発明の製造方法によって得られたGABA含有粉末はまた、化粧品に配合されて使用され得る。本発明の製造方法によって得られるGABA含有粉末を化粧品の用途に使用する場合、改善された臭いが有利であり得る。
【0058】
本発明の製造方法によって得られるGABA含有粉末を含む化粧品には、化粧品製造において通常使用される成分を任意に配合することができる。そのような成分としては、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリーブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワー油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パーム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類;流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類;セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オクチルドデカノール、ミリスチルアルコール、セトステアリルアルコール等の高級アルコール等;イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ-2-エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、ジ-2-ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキサン酸グリセリン、トリ-2-エチルヘキサン酸トリメチロールプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ-2-エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類;ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン;オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサンシロキサン等の環状ポリシロキサン;アミノ変性ポリシロキサン、ポリエーテル変性ポリシロキサン、アルキル変性ポリシロキサン、フッ素変性ポリシロキサン等の変性ポリシロキサン等のシリコーン油等の油剤類を使用してもよい。
【0059】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0060】
(実施例1:原料発酵後のpH調整および活性炭処理条件の検討)
乳酸菌として、ラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株(FERM BP-10487)およびラクトバチルス・ブレビスNBRC 12005株を用い、それぞれ同一の条件でGABA含有粉末を製造した。具体的な製造条件は以下のとおりである。
【0061】
まず、乳酸菌を30℃、96時間培養した。培養96時間経過後の発酵液のpHをpH3、pH5.3、pH7、またはpH9に調整した4群の発酵液を得た。酸性のpH調整(pH3、およびpH5.3)にはHClを、塩基性のpH調整(pH7、およびpH9)にはNaOHをそれぞれ用いた。
【0062】
pH調整後、乳酸菌を97℃30分で加熱殺菌した。加熱殺菌後の発酵液を活性炭処理して濾過した。活性炭処理は、各pH調整群をさらに3群にわけ、それぞれ、おが粉(太閤SW50)(フタムラ化学株式会社製)、ヤシ殻(白鷺WP)(大阪ガスケミカル株式会社製)、または石炭(白鷺DO-5)(大阪ガスケミカル株式会社製)の3通りの活性炭で処理した。その後、各群について、さらに加熱殺菌や脱塩処理を行い、濃縮して結晶化した後に乾燥してGABA含有粉末を得た。
【0063】
各条件(乳酸菌2種類×pH調整4種類×活性炭3種類の計24通り)で得られたGABA含有粉末について、苦味、コク味、塩味、後味の残り、舌触り、および酸味について、3人の評価者に実際に少量のGABA含有粉末を食してもらい、評価した。また、各条件で得られたGABA含有粉末について、発酵の匂い、およびすっぱい匂いについて、3人の評価者に粉末の入った袋の臭いを嗅いでもらい、評価した。評価者は、市販の「ラクトギャバン」(株式会社ファーマフーズ)を基準とし、各項目の強弱を-2、-1、0、+1、+2の5段階評価でVASアンケート形式でチェックした。3人の評価者の平均値を官能評価の結果とした。
【0064】
活性炭としておが粉を用いた場合の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を図1に、発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を図2に、それぞれ示した。
【0065】
活性炭としてヤシ殻を用いた場合の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を図3に、発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を図4に、それぞれ示した。
【0066】
活性炭として石炭を用いた場合の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を図5に、発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を図6に、それぞれ示した。
【0067】
図1~6に示したとおり、K-3株を用いた場合には、原料の発酵後のpHをpH5.3~7に調整することで、pH3またはpH9に調整した場合よりも、苦味、後味の残り、発酵のにおい、すっぱい匂い、および酸味の評価において優れていた。特に活性炭としておが粉を用いた場合には、苦味、コク味、塩味、後味の残り、発酵のにおい、すっぱい匂い、および酸味の評価において優れていた。図1~6から明らかなように、これは同様にGABA生産能を有する一般的な乳酸菌であるブレビス株には見られなかった現象で、K-3株特有のものであった点において驚くべきことであった。
【0068】
(実施例2:他の製法での活性炭処理条件の検討)
実施例1において、原料の発酵後にpHを弱酸性に調整するのが好ましいことが示唆されたため、製法を変えた場合の好ましい活性炭処理条件を検討した。
【0069】
乳酸菌として、ラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株(FERM BP-10487)およびラクトバチルス・ブレビスNBRC 12005株を用い、それぞれ同一の条件でGABA含有粉末を製造した。具体的な製造条件は以下のとおりである。
【0070】
まず、乳酸菌を30℃、96時間培養した。培養96時間経過後の発酵液のpHがpH6~6.3となっていることを確認した。
【0071】
その後、乳酸菌を97℃30分で加熱殺菌した。加熱殺菌後の発酵液を濃縮し、活性炭処理して濾過した。活性炭処理は、発酵液を3群にわけ、それぞれ、おが粉(白鷺A)(フタムラ化学株式会社製)、ヤシ殻(白鷺WP)(大阪ガスケミカル株式会社製)、または石炭(白鷺DO-5)(大阪ガスケミカル株式会社製)の3通りの活性炭で処理した。活性炭処理後の各群の発酵液を濃縮し、減圧乾燥を行い、GABA含有粉末を得た。
【0072】
各条件(乳酸菌2種類×活性炭3種類の計6通り)で得られたGABA含有粉末について、苦味、コク味、塩味、後味の残り、舌触り、および酸味について、3人の評価者に実際に少量のGABA含有粉末を食してもらい、評価した。また、各条件で得られたGABA含有粉末について、発酵の匂い、およびすっぱい匂いについて、3人の評価者に粉末の入った袋の臭いを嗅いでもらい、評価した。評価者は、市販のGABA製品(株式会社ファーマフーズ社製)を基準とし、各項目の強弱を-2、-1、0、+1、+2の5段階評価でVASアンケート形式でチェックした。3人の評価者の平均値を官能評価の結果とした。
【0073】
培養96時間経過後の発酵液のpHが弱酸性の場合の苦味、コク味、塩味、および後味の残りについての結果を図7に、発酵のにおい、すっぱい匂い、舌触り、および酸味についての結果を図8に、それぞれ示した。
【0074】
図7~8に示したとおり、K-3株を用いて原料の発酵後のpHが弱酸性(pH6~6.3)となっている場合には、おが粉を原料とする活性炭は、他の2種類の活性炭と比較して苦味、コク味、塩味、後味の残り、発酵のにおい、すっぱいにおいをより改善することが明らかになった。図7~8から明らかなように、これは同様にGABA生産能を有する一般的な乳酸菌であるブレビス株には見られなかった現象で、K-3株特有のものであった点において驚くべきことであった。
【0075】
これらの結果からも実証されているように、K-3株を用いて原料の発酵後のpHをpH5.3~7に調整することで、味質や臭いの改善は達成された。またこのような特徴は、味質や臭いの種類によっては、おが粉を含む種々の活性炭を用いることで達成でき、活性炭の種類に依存するものではないことが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
GABA含有粉末を製造する新規製造方法、およびその製造方法によって製造されたGABA含有粉末を含む製品が提供される。
【受託番号】
【0077】
ラクトバチルス・ヒルガルディーK-3株 FERM BP-10487
【0078】
【表2】
【要約】      (修正有)
【課題】味質および/または臭いの改善されたGABA製品をもたらす、乳酸菌による含有粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、γ-アミノ酪酸(GABA)含有粉末の製造方法であって、(1)原料にGABA産生能を有する乳酸菌を接種して培養し、GABAを含有する発酵液を得る発酵工程と、(2)前記発酵液のpHを調整して、pH調整発酵液を得るpH調整工程と、(3)前記pH調整発酵液を加熱し、前記乳酸菌を殺菌した加熱殺菌発酵液を得る工程と、(4)前記加熱殺菌発酵液を活性炭処理する工程とを包含する、製造方法が提供される。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8