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特許7513343単核球含有血漿分離用組成物及び血液採取容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】単核球含有血漿分離用組成物及び血液採取容器
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
G01N33/48 D
G01N33/48 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020170316
(22)【出願日】2020-10-08
(62)【分割の表示】P 2020550884の分割
【原出願日】2020-05-19
(65)【公開番号】P2021001912
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019094270
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒井 邦哉
(72)【発明者】
【氏名】五十川 浩信
(72)【発明者】
【氏名】安楽 秀雄
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-201682(JP,A)
【文献】特開昭54-126718(JP,A)
【文献】特開平05-034339(JP,A)
【文献】特開平02-290553(JP,A)
【文献】特開昭64-006863(JP,A)
【文献】特開平08-143461(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105151(WO,A1)
【文献】特開平09-171013(JP,A)
【文献】国際公開第2016/159236(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0190148(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48,
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃で流動性を有する有機成分と、2種以上の無機微粉末とを含み、
前記25℃で流動性を有する有機成分が、樹脂を含み、
前記樹脂が、石油樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、又はポリエステル樹脂を含み、
25℃での比重が、1.060以上1.080以下である、単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項2】
前記25℃で流動性を有する有機成分が、前記樹脂と、ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体との混合物である、請求項に記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項3】
前記樹脂が、石油樹脂、又はシクロペンタジエン系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項4】
前記無機微粉末が、微粉末シリカを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項5】
前記無機微粉末が、微粉末シリカと、比重が3以上である無機微粉末とを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項6】
前記微粉末シリカが、親水性シリカを含む、請求項又はに記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項7】
前記微粉末シリカが、親水性シリカと、疎水性シリカとを含む、請求項のいずれか1項に記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項8】
有機ゲル化剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の単核球含有血漿分離用組成物。
【請求項9】
血液採取容器本体と、
請求項1~のいずれか1項に記載の単核球含有血漿分離用組成物とを備え、
前記血液採取容器本体内に、前記単核球含有血漿分離用組成物が収容されている、血液採取容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から、単核球を含む血漿を分離するために用いられる単核球含有血漿分離用組成物に関する。また、本発明は、血液採取容器本体内に上記単核球含有血漿分離用組成物が収容されている血液採取容器に関する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査において、血液サンプルを採取するために血液採取容器が広く用いられている。血清または血漿分離用組成物が内部に収容されている血液採取容器では、該分離用組成物の比重を適切に調整することで、比重差を利用して遠心分離により全血から血清あるいは血漿を分離することができる。
【0003】
下記の特許文献1には、液状有機化合物と、チクソトロピー性付与成分と、熱可塑性エラストマーとを含む血清または血漿分離用組成物が開示されている。また、特許文献1の全ての実施例では、25℃での比重が1.043~1.045である血清または血漿分離用組成物が作製されている。特許文献1の血清または血漿分離用組成物は、チクソトロピー性を有しているため、例えば、血液採取容器本体の底部に収容された該血清または血漿分離用組成物が、血液採取容器本体の開口端側まで流れにくくすることができる。
【0004】
また、血液から特定の血球成分を分離することができる分離用組成物も知られている。
【0005】
下記の特許文献2には、下記の(a),(b),(c)の工程を備える抗凝固処理された血液から血小板、リンパ球及び単核大白血球(単球)を分離する方法が開示されている。(a)血液成分に対して化学的に不活性であり、1.065~1.077g/ccの比重を有する不水溶性揺変性ゲル状物質(分離用組成物)を抗凝固処理された血液試料中に入れる。(b)上記ゲル状物質と上記血液試料とを少なくとも1200Gの力で、上記ゲル状物質が血漿、血小板、リンパ球及び単核大白血球(単球)とより重たい血球との間に障壁を形成するのに十分な時間で遠心分離する。(c)上記血漿、上記血小板、上記リンパ球及び上記単核大白血球を上記障壁上から回収する。また、特許文献2では、上記不水溶性揺変性ゲル状物質(分離用組成物)に含まれる無機微粉末として、シリカ粉末が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2016/199851A1
【文献】特開平02-111374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨床検査において、単核球(リンパ球及び単球)を使用した検査が行われている。しかしながら、単核球以外の血球成分(例えば、赤血球及び顆粒球等)を含む試料溶液を用いて単核球を使用した検査を行うと、検査結果に影響を及ぼすことがある。
【0008】
特許文献1に記載のような従来の血漿分離用組成物では、単核球と、単核球以外の血球成分とを分離させることを意図していない。そのため、従来の血漿分離用組成物を用いて血漿を分離した場合、得られる血漿中に含まれる単核球の数が極めて少なく、単核球を使用した検査の試料溶液として該血漿を用いることは困難である。
【0009】
一方、特許文献2に記載の不水溶性揺変性ゲル状物質(分離用組成物)では、血液から血小板、リンパ球及び単核大白血球(単球)を分離することができる。しかしながら、特許文献2に記載のように無機微粉末としてシリカ粉末のみを用いて分離用組成物の比重を大きくした場合には、該分離用組成物の粘度及びチクソ指数が高くなりすぎ、遠心分離時に該分離用組成物が十分な流動性を発揮することができず、隔壁を良好に形成させることが困難である。なお、特許文献2では、血液の採取後に採取した血液の液面上に不水溶性揺変性ゲル状物質(分離用組成物)を配置することで、隔壁の形成性をある程度高めているものの、血液採取後に血液採取容器を開栓し、分離用組成物を血液の液面上に配置する作業は、臨床検査においては実用的ではない。
【0010】
また、従来の分離用組成物では、保存中に分離用組成物が流れることがある。例えば、従来の分離用組成物では、血液採取容器本体の底部に収容された該分離用組成物が、血液採取容器本体の開口端側に流れることがある。分離用組成物の流れが生じると、血液採取時に採血針が分離用組成物によって閉塞し、採血不良が生じることがある。
【0011】
本発明の目的は、保存中の単核球含有血漿分離用組成物の流れを抑制することができ、遠心分離時に隔壁を良好に形成させることができ、かつ単核球以外の血球成分の混入量の少ない単核球含有血漿を得ることができる単核球含有血漿分離用組成物を提供することである。また、本発明は、上記単核球含有血漿分離用組成物を収容した血液採取容器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の広い局面によれば、25℃で流動性を有する有機成分と、2種以上の無機微粉末とを含み、25℃での比重が、1.060以上1.080以下である、単核球含有血漿分離用組成物が提供される。
【0013】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のある特定の局面では、前記25℃で流動性を有する有機成分が、樹脂を含む。
【0014】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物の他の特定の局面では、前記25℃で流動性を有する有機成分が、前記樹脂と、ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体との混合物である。
【0015】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記樹脂が、石油樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、又はポリエステル樹脂を含む。
【0016】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記樹脂が、石油樹脂、又はシクロペンタジエン系樹脂を含む。
【0017】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記無機微粉末が、微粉末シリカを含む。
【0018】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記無機微粉末が、微粉末シリカと、比重が3以上である無機微粉末とを含む。
【0019】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記微粉末シリカが、親水性シリカを含む。
【0020】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記微粉末シリカが、親水性シリカと、疎水性シリカとを含む。
【0021】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物のさらに他の特定の局面では、前記単核球含有血漿分離用組成物は、有機ゲル化剤を含む。
【0022】
本発明の広い局面によれば、血液採取容器本体と、上述した単核球含有血漿分離用組成物とを備え、前記血液採取容器本体内に、前記単核球含有血漿分離用組成物が収容されている、血液採取容器が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、25℃で流動性を有する有機成分と、2種以上の無機微粉末とを含み、25℃での比重が、1.060以上1.080以下である。本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物では、上記の構成が備えられているので、保存中の単核球含有血漿分離用組成物の流れを抑制することができ、遠心分離時に隔壁を良好に形成させることができ、かつ単核球以外の血球成分の混入量の少ない単核球含有血漿を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0025】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、25℃で流動性を有する有機成分と、2種以上の無機微粉末とを含む。本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、25℃での比重が、1.060以上1.080以下である。
【0026】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物では、上記の構成が備えられているので、保存中の単核球含有血漿分離用組成物の流れを抑制することができ、遠心分離時に隔壁を良好に形成させることができ、かつ単核球以外の血球成分の混入量の少ない単核球含有血漿を得ることができる。
【0027】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物では、該単核球含有血漿分離用組成物が収容されている血液採取容器に血液を採取し、遠心分離することで、上記単核球含有血漿分離用組成物による隔壁が形成され、該隔壁の上方に単核球含有血漿が分離される。本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、血液から単核球(リンパ球及び単球)を含む血漿を簡便かつ迅速に得ることができる。本発明では、単に遠心分離することによって血液から単核球を分離することができるので、単核球の損傷を抑えることができる。
【0028】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物では、25℃での比重が1.060以上1.080以下の範囲内において、該単核球含有血漿分離用組成物の粘度及びチクソ指数を良好にすることができる。そのため、保存中の上記単核球含有血漿分離用組成物の流れを抑制することができ、また、上記単核球含有血漿分離用組成物を例えば血液採取本体の底部に収容した場合であっても、遠心分離時に上記単核球含有血漿分離用組成物が良好な流動性を発揮して隔壁を良好に形成させることができる。
【0029】
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物では、得られた単核球含有血漿を用いて、単核球を精度よく分析することができる。
【0030】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃での比重は1.060以上1.080以下である。上記比重が1.060未満又は1.080を超えると、血液から単核球含有血漿を良好に分離することができなかったり、単核球以外の血球成分の混入量が多くなったり、単核球の回収率が低下したりする。
【0031】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃での比重は、好ましくは1.060を超え、より好ましくは1.065以上、好ましくは1.080未満、より好ましくは1.077以下、更に好ましくは1.070以下である。上記比重が上記の好ましい範囲を満足すると、血液から単核球含有血漿を良好に分離することができ、単核球以外の血球成分の混入量が少なくかつ単核球の含有量が多い血漿を良好に得ることができる。特に、上記比重が1.065以上であると、単核球の回収率を70%以上とすることができる。また、特に、上記比重が1.070以下であると、顆粒球の混入量が極めて少ない単核球含有血漿を好適に得ることができる。例えば、上記比重が1.070以下であると、顆粒球の除去率を90%以上とすることができる。また、上記比重が上記の好ましい範囲を満足すると、低温下や、遠心力が低い場合でも、良好な強度を有する隔壁を形成することができる。また、上記比重が上記下限以上であると、単核球の回収率を高めることができる。
【0032】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃での比重は、単核球含有血漿分離用組成物1滴を、比重を0.002の間隔で段階的に調整した25℃の食塩水中に順次滴下し、食塩水中における浮沈により測定される。
【0033】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃での粘度は、好ましくは100Pa・以上、より好ましくは150Pa・s以上、好ましくは400Pa・s以下、より好ましくは300Pa・s以下である。上記粘度が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮させることができる。
【0034】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃での粘度は、E型粘度計(例えば、東機産業社製「TVE-35」)を用いて、25℃及びせん断速度1.0秒-1の条件で測定される。
【0035】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃でのチクソ指数は、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.3以下である。上記チクソ指数が上記下限以上及び上記上限以下であると、保存中の上記単核球含有血漿分離用組成物の流れをより一層効果的に抑制することができる。また、上記単核球含有血漿分離用組成物を例えば血液採取本体の底部に収容した場合であっても、遠心分離時に上記単核球含有血漿分離用組成物が良好な流動性を発揮して隔壁をより一層良好に形成させることができる。
【0036】
上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃でのチクソ指数は、以下のようにして求められる。E型粘度計を用いて、25℃及びせん断速度1.0秒-1の条件で測定した上記単核球含有血漿分離用組成物の粘度値を第1の粘度値とする。E型粘度計を用いて、25℃及びせん断速度2.0秒-1の条件で測定した上記単核球含有血漿分離用組成物の粘度値を第2の粘度値とする。第1の粘度値の第2の粘度値に対する比(第1の粘度値/第2の粘度値)を上記単核球含有血漿分離用組成物の25℃でのチクソ指数とする。なお、E型粘度計としては、例えば、東機産業社製「TVE-35」が挙げられる。
【0037】
上記単核球含有血漿分離用組成物を用いて血液から単核球含有血漿を分離したときに、分離した単核球含有血漿中に含まれる赤血球数の、分離前の血液中に含まれる赤血球数に対する割合(分離した単核球含有血漿中に含まれる赤血球数/分離前の血液中に含まれる赤血球数×100)を割合(1)とする。割合(1)は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下、更に好ましくは1%以下である。
【0038】
上記単核球含有血漿分離用組成物を用いて血液から単核球含有血漿を分離したときに、分離した単核球含有血漿中に含まれる顆粒球数の、分離前の血液中に含まれる顆粒球数に対する割合(分離した単核球含有血漿中に含まれる顆粒球数/分離前の血液中に含まれる顆粒球数×100)を割合(2)とする。割合(2)は、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。
【0039】
上記単核球含有血漿分離用組成物を用いて血液から単核球含有血漿を分離したときに、分離した単核球含有血漿中に含まれる単核球数の、分離前の血液中に含まれる単核球数に対する割合(分離した単核球含有血漿中に含まれる単核球数/分離前の血液中に含まれる単核球数×100)を割合(3)とする。割合(3)は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
【0040】
以下、本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物に含まれる成分の詳細などを説明する。
【0041】
<25℃で流動性を有する有機成分>
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、25℃で流動性を有する有機成分(以下、「有機成分」と略記することがある)を含む。上記有機成分は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0042】
上記「25℃で流動性を有する」とは、25℃での粘度が500Pa・s以下であることを意味する。
【0043】
上記有機成分の25℃での粘度は、好ましくは30Pa・s以上、より好ましくは50Pa・s以上、好ましくは200Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以下である。上記粘度が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記有機成分の流動性を良好にし、単核球含有血漿分離用組成物の流動性が高められ、隔壁の強度を高めることができる。
【0044】
上記有機成分の25℃での粘度は、E型粘度計(例えば、東機産業社製「TVE-35」)を用いて、25℃及びせん断速度1.0秒-1の条件で測定される。
【0045】
上記有機成分としては、樹脂、及び樹脂と可塑剤等の有機化合物との混合物等が挙げられる。上記有機成分が、上記樹脂と上記有機化合物との混合物である場合に、該混合物(上記有機成分)として流動性を有していればよく、該樹脂又は該有機化合物が流動性を有していなくてもよい。上記有機成分が、上記樹脂と上記有機化合物との混合物である場合に、該樹脂は、例えば、25℃で固体の樹脂であってもよい。上記樹脂及び上記有機化合物はそれぞれ1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記有機成分は、上記樹脂を含むことが好ましく、上記樹脂と上記有機化合物との混合物であることがより好ましい。上記有機成分が2種以上の成分を含む場合に(上記有機成分が固形状の成分と液状の成分とを含む場合も含む)、これらの成分は、単核球含有血漿分離用組成物の製造工程において、別々に混合されてもよい。
【0047】
上記樹脂としては、石油樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、シリコーン樹脂、α-オレフィン-フマル酸エステル共重合体、セバシン酸と2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールと1,2-プロパンジオールとの共重合体、ポリエーテルポリウレタン系樹脂、及びポリエーテルポリエステル系樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
上記石油樹脂としては、石油類のスチームクラッキングにより得られる樹脂が挙げられる。上記石油樹脂としては、C留分に含まれる化合物(シクロペンタジエン、イソプレン、ピペリレン及び2-メチルブテン-1,2-メチルブテン-2等)の単独重合体又は共重合体;C留分に含まれる化合物(スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、インデン及びクマロン等)の単独重合体又は共重合体;C留分に含まれる化合物とC留分に含まれる化合物との共重合体等が挙げられる。上記石油樹脂は、未水添の樹脂であってもよく、部分水添の樹脂であってもよく、完全水添物の樹脂であってもよい。
【0049】
上記石油樹脂の市販品としては、イーストマンケミカル社製「リガライトS5090」等が挙げられる。
【0050】
上記シクロペンタジエン系樹脂としては、シクロペンタジエン系モノマーの重合体、シクロペンタジエン系モノマーと芳香族系モノマーとの共重合体、及びジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。上記シクロペンタジエン系樹脂は、水素添加されていてもよく、水素添加されていなくてもよい。上記シクロペンタジエン系モノマーの重合体及び上記シクロペンタジエン系モノマーと芳香族系モノマーとの共重合体は、オリゴマーであってもよい。
【0051】
上記シクロペンタジエン系モノマーとしては、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、及びシクロペンタジエンのアルキル置換誘導体等が挙げられる。
【0052】
上記芳香族系モノマーとしては、スチレン、メチルスチレン、インデン、及びメチルインデン等が挙げられる。
【0053】
上記シクロペンタジエン系モノマーの重合体の市販品としては、エクソンモービル社製「ESCOREZ5380」、「ESCOREZ5300」、「ESCOREZ5320」、「ESCOREZ5340」、「ESCOREZ5400」、及び「ESCOREZ ECR251」等が挙げられる。
【0054】
上記シクロペンタジエン系モノマーと芳香族系モノマーとの共重合体の市販品としては、エクソンモービル社製「ESCOREZ ECR227E」、「ESCOREZ ECR235E」、「ESCOREZ ECR231C」、「ESCOREZ5690」、及び「ESCOREZ5600」等が挙げられる。
【0055】
上記ジシクロペンタジエン樹脂の市販品としては、コロン社製「スコレッツSU500」及び「スコレッツSU90」等が挙げられる。
【0056】
上記ポリエステル樹脂としては、ポリアルキレンテレフタレート樹脂、及びポリアルキレンナフタレート樹脂等が挙げられる。上記ポリアルキレンテレフタレート樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0057】
上記ポリウレタン樹脂としては、ポリオール化合物とイソシアネート化合物との反応物等が挙げられる。
【0058】
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合することにより得られる樹脂、及び少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステル単量体と少なくとも1種の該(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体とを重合することにより得られる樹脂が挙げられる。
【0059】
上記(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、炭素数が1以上20以下であるアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジルエステル、(メタ)アクリル酸フェノキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルエステル、(メタ)アクリル酸イソボルニルエステル、及び(メタ)アクリル酸アルコキシシリルアルキルエステル等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0060】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記樹脂は、石油樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、ポリエステル樹脂、又はポリウレタン樹脂を含むことが好ましく、石油樹脂、シクロペンタジエン系樹脂、又はポリエステル樹脂を含むことがより好ましく、石油樹脂、又はシクロペンタジエン系樹脂を含むことが更に好ましい。
【0061】
本発明の効果をより一層効果的に発揮する観点からは、上記有機化合物は、ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体であることが好ましい。したがって、上記有機成分は、上記樹脂と、上記ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体との混合物であることが好ましい。
【0062】
上記ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体としては、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、及びピロメリット酸エステル等が挙げられる。上記ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
上記トリメリット酸エステルとしては、トリメリット酸トリn-オクチル、トリメリット酸トリイソオクチル、及びトリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。
【0064】
上記ピロメリット酸エステルとしては、ピロメリット酸テトライソオクチル等が挙げられる。
【0065】
上記トリメリット酸エステルの市販品としては、DIC社製「モノサイザーW700」、及び「モノサイザーW-750」、新日本理化社製「サンソサイザーTOTM」及び「サンソサイザーTITM」等が挙げられる。
【0066】
上記ピロメリット酸エステルの市販品としては、DIC社製「モノサイザーW-7010」等が挙げられる。
【0067】
上記ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体は、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、又はピロメリット酸エステルであることが好ましく、トリメリット酸エステルであることがより好ましい。
【0068】
また、上記有機成分としては、ポリ-α-ピネンポリマーと塩素化炭化水素との液状混合物、塩素化ポリブテンとエポキシ化動植物油等との液状混合物、三弗化塩化エチレン又はベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体等とポリオキシアルキレングリコール等との液状混合物、石油樹脂又はジシクロペンタジエン樹脂等とベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体等との液体/液体あるいは固体/液体の組み合わせからなる混合物も挙げられる。
【0069】
上記有機成分の25℃での比重は、好ましくは1.020以上、より好ましくは1.030以上、好ましくは1.080以下、より好ましくは1.060以下、更に好ましくは1.050以下である。上記比重が上記上限以下であると、単核球含有血漿分離用組成物の比重が高くなりすぎず、隔壁を良好に形成できる。上記比重が上記下限以上であると、無機微粉末を大量に添加することなく、単核球含有血漿分離用組成物の比重を良好に調整することができる。無機微粉末を大量に添加すると、単核球含有血漿分離用組成物の流動性が低下して、隔壁を良好に形成できなくなることがある。
【0070】
上記有機成分の25℃での比重は、該有機成分1滴を、比重を0.002の間隔で段階的に調整した25℃の食塩水中に順次滴下し、食塩水中における浮沈により測定される。
【0071】
<無機微粉末>
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、2種以上の無機微粉末を含む。上記無機微粉末は、2種のみが用いられてもよく、3種以上が用いられてもよい。
【0072】
上記無機微粉末としては、微粉末シリカ、酸化チタン粉末、酸化亜鉛粉末、アルミナ粉末、ガラス微粉末、タルク粉末、カオリン粉末、ベントナイト粉末、チタニア粉末、及びジルコニウム粉末等が挙げられる。
【0073】
本発明の効果をより一層効果的に発揮させる観点からは、上記無機微粉末は、微粉末シリカを含むことが好ましい。すなわち、上記2種以上の無機微粉末の内の1種類が、微粉末シリカであることが好ましい。本発明の効果を更により一層効果的に発揮させる観点からは、上記無機微粉末は、微粉末シリカと、該微粉末シリカとは異なる無機微粉末とを含むことがより好ましい。上記該微粉末シリカとは異なる無機微粉末は、比重が3以上である無機微粉末であることが好ましい。無機微粉末として微粉末シリカのみを用いて、単核球含有血漿分離用組成物の比重を1.060以上1.080以下に調製する場合、微粉末シリカを比較的多量に配合させる必要があるため、該単核球含有血漿分離用組成物の粘度やチクソ指数が過度に高くなることがある。無機微粉末として微粉末シリカと、微粉末シリカとは異なりかつ比重が3以上である無機微粉末とを併用することにより、単核球含有血漿分離用組成物の粘度やチクソ指数を好適に保ちつつ、単核球含有血漿分離用組成物の比重を容易に制御することができる。
【0074】
上記微粉末シリカとしては、天然シリカ及び合成シリカが挙げられる。合成シリカとしては、親水性シリカ及び疎水性シリカが挙げられる。品質が安定していることから、微粉末シリカは、合成シリカであることが好ましく、気相法により作製された合成シリカであることがより好ましい。本発明では、微粉末シリカを1種類の無機微粉末として数える。
【0075】
親水性シリカは、粒子表面の水酸基同士が水素結合することにより、単核球含有血漿分離用組成物にチクソトロピー性を付与すると共に、比重を調整する作用を有する。一方、疎水性シリカは、親水性シリカに比べてチクソトロピー性の付与効果は小さい。
【0076】
単核球含有血漿分離用組成物の比重とチクソトロピー性との双方を共に好適な範囲に維持する観点からは、上記微粉末シリカは、親水性シリカを含むことが好ましく、親水性シリカと疎水性シリカとを含むことがより好ましい。上記微粉末シリカは、親水性シリカを少なくとも含むことが好ましい。
【0077】
単核球含有血漿分離用組成物100重量%中、親水性シリカの含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.3重量%以上、好ましくは2.50重量%以下、より好ましくは2.00重量%以下である。上記親水性シリカの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、単核球含有血漿分離用組成物の比重とチクソトロピー性との双方をより一層好適な範囲に維持することができる。上記親水性シリカの含有量が2.50重量%を超えると、2.50重量%以下である場合と比べて、単核球含有血漿分離用組成物の粘度及びチクソ指数が高くなりすぎることがあり、遠心分離時に隔壁が良好に形成されないことがある。
【0078】
上記微粉末シリカの平均粒子径は、特に限定されない。上記微粉末シリカの平均粒子径は、1nm以上であってもよく、10nm以上であってもよく、500nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。
【0079】
上記微粉末シリカ及び後述の微粉末シリカとは異なる無機微粉末の平均粒子径は、体積基準で測定される平均径であり、50%となるメディアン径(D50)の値である。上記体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法、画像解析法、コールター法、及び遠心沈降法等により測定可能である。上記体積平均粒子径(D50)は、レーザー回折・散乱法又は画像解析法による測定により求めることが好ましい。
【0080】
上記親水性シリカの市販品としては、例えば、アエロジル(登録商標)90G、130、200、300、200CF、300CF等のアエロジルシリーズ(日本アエロジル社製)、レオロシール(登録商標)QS-10、QS-20、QS-30等のレオロシールシリーズ(トクヤマ社製)、WACKER HDK S13、N20、T30等のWACKER HDKシリーズ(旭化成ワッカーシリコーン社製)等が挙げられる。上記親水性シリカの市販品は、気相法により作製された親水性シリカであり、使用し易い。
【0081】
上記疎水性シリカの市販品としては、例えば、アエロジルR972、R974、R805、R812等のアエロジルシリーズ(日本アエロジル社製)、レオロシールMT-10、DM-30S、HM-30S、KS-20S、PM-20等のレオロシールシリーズ(トクヤマ社製)、WACKER HDK H15、H18、H30等のWACKER HDKシリーズ(旭化成ワッカーシリコーン社製)等が挙げられる。上記疎水性シリカの市販品は、気相法により作製された疎水性シリカであり、使用し易い。
【0082】
上記微粉末シリカとは異なりかつ比重が3以上である無機微粉末としては、酸化チタン粉末、酸化亜鉛粉末及びアルミナ粉末等が挙げられる。
【0083】
チクソトロピー性と比重とを好適な範囲に維持する観点からは、上記比重が3以上である無機微粉末は、酸化チタン粉末、又は酸化亜鉛粉末であることが好ましい。
【0084】
上記比重が3以上である無機微粉末の比重は、好ましくは3.5以上、より好ましくは4以上である。上記比重が3以上である無機微粉末の比重は大きいほどよい。上記比重が上記下限以上であると、上記単核球含有血漿分離用組成物の比重を効果的に大きくすることができる。
【0085】
上記比重が3以上である無機微粉末の平均粒子径は、特に限定されない。上記比重が3以上である無機微粉末の平均粒子径は、10nm以上であってもよく、100nm以上であってもよく、10μm以下であってもよく、1μm以下であってもよい。
【0086】
上記単核球含有血漿分離用組成物100重量%中、上記比重が3以上である無機微粉末の含有量は、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。上記比重が3以上である無機微粉末の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、本発明の効果をより一層効果的に発揮することができる。また、上記比重が3以上である無機微粉末の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、上記単核球含有血漿分離用組成物の比重を効果的に大きくすることができる。
【0087】
<他の成分>
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上述した成分以外の他の成分を含んでいてもよい。本発明の単核球含有血漿分離用組成物は、例えば、上記他の成分として、有機ゲル化剤、熱可塑性エラストマー、ポリアルキレングリコール、シリコーンオイル、補助溶媒、酸化防止剤、着色剤及び水等を含んでいてもよい。上記他の成分はそれぞれ、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0088】
上記有機ゲル化剤としては、ジベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール誘導体、及び脂肪酸アミド等が挙げられる。上記有機ゲル化剤を含むことにより、チクソトロピー性をより一層良好にすることができる。
【0089】
上記ジベンジリデンソルビトール及びジベンジリデンソルビトール誘導体の市販品としては、新日本理化社製「ゲルオールMD」及び「ゲルオールD」等が挙げられる。
【0090】
上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレン共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-ブタジエン共重合体(SB)、スチレン-イソプレン共重合体(SI)、スチレン-エチレン-ブチレン共重合体(SEB)、スチレン-ブタジエン-ブチレン共重合体(SBB)、及びスチレン-エチレン-プロピレン共重合体(SEP)並びにこれらの変性体等が挙げられる。
【0091】
上記ポリアルキレングリコールとしては、ポリブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンソルビット、ポリセリン、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシプロピレングリコールモノエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル並びにこれらの変性体等が挙げられる。
【0092】
上記シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーンオイル、メタクリレート変性シリコーンオイル、及びアルコキシ変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0093】
上記補助溶媒としては、トルエン、N,N-ジメチルホルムアミド、1-メチル-2-ピロリドン、及びジメチルスルホキシド等が挙げられる。上記補助溶媒を用いることにより、例えば、有機ゲル化剤及び熱可塑性エラストマー等を容易に配合することができる。
【0094】
上記単核球含有血漿分離用組成物は水を含んでいてもよく、含んでいてなくてもよい。上記水は精製水であることが好ましい。上記水の含有量は少ないほどよい。
【0095】
<単核球含有血漿分離用組成物の製造方法>
上記単核球含有血漿分離用組成物の製造方法は特に限定されない。上記単核球含有血漿分離用組成物は、例えば、上記25℃で流動性を有する有機成分と、上記無機微粉末と、必要に応じて配合される他の成分とを混合することにより製造することができる。混合方法については特に限定されず、プラネタリミキサー、ボールミル、ディスパーなどの公知の混練機により混合してよい。
【0096】
<血液採取容器>
本発明に係る血液採取容器は、血液採取容器本体と、上述した単核球含有血漿分離用組成物とを備え、上記血液採取容器本体内に、上記単核球含有血漿分離用組成物が収容されている。
【0097】
上記単核球含有血漿分離用組成物は、上記血液採取容器本体の底部に収容されていることが好ましい。本発明では、血液採取本体の底部に上記単核球含有血漿分離用組成物を収容した場合であっても、遠心分離時に隔壁を良好に形成させることができる。
【0098】
上記血液採取容器本体の素材としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アクリロニトリル-スチレン共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の熱可塑性樹脂;不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ-アクリレート樹脂等の熱硬化性樹脂;酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、エチルキチン等の変性天然樹脂;ソーダ石灰ガラス、リンケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス等のケイ酸塩、石英ガラス等のガラスや、これらを組み合わせたもの、あるいはこれらを主成分とするもの等の公知の素材が挙げられる。
【0099】
血液採取容器本体は栓体、又はアルミシール等の密閉部材で密閉されていてもよい。
【0100】
上記血液採取容器の内圧は特に限定されない。上記血液採取容器は、内部が排気された上で、上記密閉部材によって密閉された真空採血管として用いることもできる。真空採血管である場合、採血者の技術差によらず一定量の血液採取を簡便に行うことができる。
【0101】
細菌感染を防止する観点から、血液採取容器の内部はISO、及びJISの基準に則って滅菌されていることが好ましい。
【0102】
上記血液採取容器本体の内壁には、血液付着防止等の目的に応じて、血液付着防止剤等の公知の薬剤を付着させてもよい。
【0103】
上記血液採取容器本体内には、抗凝固剤が収容されていることが好ましい。この場合に、上記抗凝固剤を、上記血液採取容器本体の内壁に付着させていてもよい。なお、上記抗凝固剤は、採取した血液に添加されていてもよい。上記抗凝固剤としては、ヘパリン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及びクエン酸等が挙げられる。
【0104】
<単核球含有血漿の分離方法>
本発明に係る単核球含有血漿分離用組成物を用いて、血液から単核球含有血漿を分離することができる。上記単核球含有血漿の分離方法は、上述した血液採取容器本体内に血液を採取する工程(血液採取工程)と、上記血液が採取された上記血液採取容器を遠心分離する工程(遠心分離工程)とを備えることが好ましい。
【0105】
上記血液採取工程において、上記血液採取容器本体内に上記抗凝固剤が収容されているか、又は、上記血液採取容器本体内に上記抗凝固剤が添加された血液が採取されることが好ましい。
【0106】
上記遠心分離工程における遠心分離条件は、上記単核球含有血漿分離用組成物により隔壁を形成させて、単核球と単核球以外の血球成分とを分離させることができる限り、特に限定されない。上記遠心分離条件としては、例えば、400G以上4000G以下で10分間以上120分間以下で遠心分離する条件等が挙げられる。上記遠心分離工程において、上記単核球含有血漿分離用組成物により形成された隔壁よりも下方に赤血球や顆粒球が位置し、上方に単核球含有血漿が位置する。
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されない。
【0108】
単核球含有血漿分離用組成物の材料として、以下を用意した。
【0109】
(25℃で流動性を有する有機成分の材料)
樹脂:
石油樹脂(イーストマンケミカル社製「リガライトS5090」)
ジシクロペンタジエン樹脂1(コロン社製「スコレッツSU500」)
ジシクロペンタジエン樹脂2(コロン社製「スコレッツSU90」)
有機化合物:
トリメリット酸エステル(ベンゼンポリカルボン酸アルキルエステル誘導体、DIC社製「モノサイザーW700」)
【0110】
(無機微粉末)
親水性シリカ(微粉末シリカ、日本アエロジル社製「200CF」、比重2.2)
疎水性シリカ(微粉末シリカ、日本アエロジル社製「R974」、比重2.2)
酸化チタン粉末(石原産業社製「A-100」、比重4)
酸化亜鉛粉末(ハクスイテック社製「Zncox Super F-2」、比重5.6)
【0111】
(その他の成分)
有機ゲル化剤(新日本理化社製「ゲルオールD」)
1-メチル-2-ピロリドン(補助溶媒)
熱可塑性エラストマー(日本ゼオン社製「3421C」)
【0112】
(実施例1)
25℃で流動性を有する有機成分の作製:
表1に記載の25℃で流動性を有する有機成分の材料を配合し、130℃で加熱溶解し、混合して、25℃で流動性を有する有機成分を作製した。
【0113】
単核球含有血漿分離用組成物の作製:
表1に記載の配合割合で、25℃で流動性を有する有機成分と無機微粉末とその他の成分とを混合し、単核球含有血漿分離用組成物を作製した。
【0114】
(実施例2~5及び比較例1~3)
配合成分の種類及び配合量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、単核球含有血漿分離用組成物を作製した。
【0115】
(評価)
(1)比重
得られた25℃で流動性を有する有機成分1滴、又は、得られた単核球含有血漿分離用組成物1滴を、比重を0.002の間隔で段階的に調整した25℃の食塩水中に順次滴下し、食塩水中における浮沈により比重を測定した。
【0116】
(2)粘度
得られた単核球含有血漿分離用組成物の25℃での粘度を、E型粘度計(東機産業社製「TVE-35」)を用いて、25℃及びせん断速度1.0秒-1の条件で測定した。
【0117】
(3)チクソ指数
E型粘度計(東機産業社製「TVE-35」)を用いて、得られた単核球含有血漿分離用組成物を25℃及びせん断速度1.0秒-1の条件で測定し、第1の粘度値を求めた。同様に、E型粘度計(東機産業社製「TVE-35」)を用いて、得られた単核球含有血漿分離用組成物を25℃及びせん断速度2.0秒-1の条件で測定し、第2の粘度値を求めた。第1の粘度値の第2の粘度値に対する比(第1の粘度値/第2の粘度値)を算出し、単核球含有血漿分離用組成物の25℃でのチクソ指数とした。
【0118】
(4)流れ
得られた単核球含有血漿分離用組成物1.0gを、内径14mm、長さ100mmの透明なPET有底管(血液採取容器本体)の底部に収容し、ブチルゴム栓により栓をして血液採取容器を作製した。次いで、血液採取容器本体の開口端側が45°斜め下向きかつ底部側が45°斜め上向きとなるように血液採取容器を傾け、この状態で55℃に保温したオーブン中に1日間静置した。静置前後で、単核球含有血漿分離用組成物が血液採取容器の内壁に沿って下方に流れた距離を、ノギスを用いて測定した。
【0119】
(5)隔壁の形成性
血液採取容器の作製:
長さ100mm、開口部の内径14mmのPET有底管(血液採取容器本体)を用意した。得られた単核球含有血漿分離用組成物1.0gを、上記血液採取容器本体の底部に収容した。また、上記血液採取容器本体の内壁に、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を付着させ、血液採取容器内部を50kPaに減圧し、ブチルゴム栓により密封した。このようにして、血液採取容器本体内に単核球含有血漿分離用組成物が収容されている血液採取容器を作製した。
【0120】
3名の血液を用意し、以下の工程を順に行った。
【0121】
血液採取工程:
得られた血液採取容器の上記血液採取容器本体内に血液4mLを採取した。
【0122】
遠心分離工程:
血液採取容器を1500Gで30分間遠心分離した。
【0123】
目視観察:
遠心分離前に、血液採取容器本体の底部に収容されていた単核球含有血漿分離用組成物が、遠心分離後に、赤血球層と血漿層との間に移動して隔壁を良好に形成しているか否かを目視で確認した。具体的には、以下の方法で、隔壁の形成性を評価した。
【0124】
試験(1):遠心分離後の血液採取容器を目視にて観察した。単核球含有血漿分離用組成物が赤血球層と血漿層との間に位置している場合に良好と判定した。一方、単核球含有血漿分離用組成物の全量が赤血球層よりも下方に位置している場合に、不良と判定した。
【0125】
試験(2):血液採取容器の底部が90°上向きになるように、遠心分離後の血液採取容器を静置した。このとき、単核球含有血漿分離用組成物よりも血液採取容器の底部側に位置していた血球成分が、単核球含有血漿分離用組成物よりも血液採取容器の開口端側に移動して、該血球成分が血漿に混ざりこむか否かを目視にて観察した。該血球成分が血漿に混ざりこまない場合に、良好と判定した。一方、該血球成分が血漿に混ざりこむ場合に、不良と判定した。
【0126】
[隔壁の形成性の判定基準]
○:試験(1)及び試験(2)の判定結果がともに良好
×:試験(1)又は試験(2)の判定結果が不良
【0127】
(6)単核球含有血漿の回収
「(5)隔壁の形成性」での遠心分離工程の後、上記単核球含有血漿分離用組成物により形成された隔壁上に位置する血球成分を、該血球成分よりも上方に位置する血漿で懸濁し、血球成分を含む血漿を回収した。なお、比較例3では、隔壁が形成されていなかったため、本評価を行わなかった。
【0128】
多項目自動血球分析装置(シスメックス社製「XE5000」)を用いて、回収液を分析することにより、分離した血漿中の血球成分(赤血球、顆粒球(好中球、好酸球及び好塩基球)、単核球(リンパ球及び単球))の細胞数を測定した。また、用意した血液(全血サンプル)についても、同様にして、全血サンプル中の血球成分(赤血球、顆粒球(好中球、好酸球及び好塩基球)、単核球(リンパ球及び単球))の細胞数を測定した。なお、上記血球成分の濃度はそれぞれ用意した3名の血液で評価して得られた結果の平均値である。
【0129】
下記式により、赤血球の除去率、顆粒球の除去率、及び単核球の回収率をそれぞれ算出した。
【0130】
赤血球の除去率(%)=100-[(分離した血漿中に含まれる赤血球の数(個))/(全血サンプルに含まれる赤血球の数(個))×100]
顆粒球の除去率(%)=100-[(分離した血漿中に含まれる顆粒球の数(個))/(全血サンプルに含まれる顆粒球の数(個))×100]
単核球の回収率(%)=(分離した血漿中に含まれる単核球の数(個))/(全血サンプルに含まれる単核球の数(個))×100
【0131】
組成及び結果を下記の表1に示す。
【0132】
【表1】
【0133】
実施例1~5で得られた比重が1.060以上1.080以下である単核球含有血漿分離用組成物では、単核球の回収率が高く、かつ赤血球及び顆粒球の除去率が高いことが理解できる。これに対して、比較例1で得られた比重が1.060未満である単核球含有血漿分離用組成物では、赤血球及び顆粒球の除去率を高めることができるものの、単核球の回収率が低かった。また、比較例2で得られた比重が1.080を超える単核球含有血漿分離用組成物では、単核球の回収率を高めることができるものの、赤血球及び顆粒球の除去率が低かった。
【0134】
特に、実施例1~3で得られた比重が1.060以上1.070以下である単核球含有血漿分離用組成物では、顆粒球の除去率を特に高めることができていることが理解できる。
【0135】
また、実施例1~5で得られた2種以上の無機微粉末(微粉末シリカ及び比重が3以上である無機微粉末)を含む単核球含有血漿分離用組成物では、該単核球含有血漿分離用組成物の粘度及びチクソ指数を良好にすることができ、保存中の単核球含有血漿分離用組成物の流れを抑制することができ、遠心分離時に隔壁を良好に形成させることができていた。これに対して、無機微粉末として微粉末シリカのみ(1種類の無機微粉末)を用いた比較例3で得られた単核球含有血漿分離用組成物では、保存中の単核球含有血漿分離用組成物の流れを効果的に抑えることができているものの、遠心分離時に十分に流動せず隔壁を形成させることができなかった。