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特許7513390肥満改善用組成物及びII型糖尿病改善用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】肥満改善用組成物及びII型糖尿病改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20240702BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240702BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240702BHJP
   C07K 4/10 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/899 ZNA
A61K38/06
A61K38/08
A61P3/04
A61P3/10
C07K4/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019229206
(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公開番号】P2021093995
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大日向 耕作
(72)【発明者】
【氏名】正箱 尚久
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄太郎
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095624(JP,A)
【文献】国際公開第2006/093166(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第101156679(CN,A)
【文献】特開2013-040111(JP,A)
【文献】特開2013-032334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水抽出物の分離処理が施されていない米糠のサーモリシン処理物を含む肥満改善用組成物。
【請求項2】
前記サーモリシン処理物は、配列番号1及びLeu-Arg-Alaから選ばれる少なくとも一種を含む請求項1に記載の肥満改善用組成物。
【請求項3】
前記サーモリシン処理物は、圧搾脱脂米糠をサーモリシン処理したものであって、水溶性画分である請求項1又は2に記載の肥満改善用組成物。
【請求項4】
前記肥満改善は、白色脂肪組織の減少である請求項1~3のいずれか一項に記載の肥満改善用組成物。
【請求項5】
菌による発酵処理が施されておらず、また水抽出物の分離処理が施されていない米糠のサーモリシン処理物を含む血糖値又はヘモグロビンA1c(HA1c)値の改善を伴うII型糖尿病改善用組成物。
【請求項6】
前記II型糖尿病改善は、糖代謝の改善又はインスリン抵抗性の改善である請求項5に記載のII型糖尿病改善用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠由来の成分を含有する肥満改善用組成物及びII型糖尿病改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、米糠は、玄米を精米する過程で得られる果皮、種皮、胚芽等が集合した組成物であり、古くから米糠油の原料、糠漬けの糠床等として用いられてきた。また、米糠には、抗腫瘍作用、抗酸化作用等を有するフィチン酸及びフェルラ酸、更年期障害改善作用、紫外線吸収作用等を有するγ-オリザノール等の有用な成分が含まれていることが知られている。したがって、従来より米糠は、栄養価の高い健康食品の他、医薬品、化粧料等の原料にも用いられてきた。
【0003】
また、近年、例えば特許文献1,2に開示されるように、米糠に特定のプロテアーゼを作用させることにより、ACE阻害活性等の生体に有用な作用の向上効果が見出されるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6296722号公報
【文献】特許第6462100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、肥満改善作用に優れる肥満改善用組成物を提供することにある。また、別の目的とするところは、II型糖尿病の改善作用に優れるII型糖尿病改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、米糠のサーモリシン処理物が優れた肥満の改善作用及びII型糖尿病の改善作用を発揮することを見出したことに基づく発明である。
上記目的を達成するために、本発明の一態様の肥満改善用組成物は、米糠のサーモリシン処理物を含むことを特徴とする。
【0007】
前記サーモリシン処理物は、配列番号1及びLeu-Arg-Alaから選ばれる少なくとも一種を含んでもよい。
前記サーモリシン処理物は、圧搾脱脂米糠をサーモリシン処理したものであって、水溶性画分であってもよい。
【0008】
前記肥満改善は、白色脂肪組織の減少であってもよい。
本発明の別の態様のII型糖尿病改善用組成物は、米糠のサーモリシン処理物を含むことを特徴とする。
【0009】
前記II型糖尿病改善は、糖代謝の改善又はインスリン抵抗性の改善であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた肥満改善作用を発揮できる。また、本発明によれば、優れたII型糖尿病の改善作用を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】各試験グループの個体群における7~25週齢までの体重変化を示すグラフ。
図2】各試験グループの個体群における試験食の摂取量を示すグラフ。
図3】糖負荷試験における各試験グループの個体群の血糖値の変化を示すグラフ。
図4】インスリン負荷試験における各試験グループの個体群の血糖値レベルの変化を示すグラフ。
図5】各試験グループの個体群における白色脂肪組織の質量を示すグラフ。
図6】各試験グループの個体群における褐色脂肪組織の質量を示すグラフ。
図7】各試験グループの個体群における肝臓の質量を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明の肥満改善用組成物を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の肥満改善用組成物に含まれる米糠のサーモリシン処理物の原料に用いられる米糠は、特に限定されないが、例えば米糠そのものであってもよく、脱脂米糠が適用されてもよい。脱脂米糠としては、例えば圧搾により脱脂された圧搾脱脂米糠、有機溶媒を用いて抽出処理された抽出脱脂米糠等が挙げられる。これらの原料の中で圧搾脱脂米糠が好ましい。圧搾脱脂米糠の製造方法としては、例えばまず搗精後に得られた米糠(生米糠)を加熱することでリパーゼを失活させ(リパーゼ失活処理)、さらに圧搾処理する方法が挙げられる。
【0013】
リパーゼ失活処理は、18~20質量%程度の脂質を含有する米糠(生米糠)の酸化劣化を防ぐ目的で行われる。通常、生米糠を70~130℃程度で加熱焙煎することにより行われる。圧搾処理は、公知の圧搾法、例えば加熱焙煎処理され100~115℃程度になった米糠を低温連続圧搾機(例えばテクノシグマ社製の商品名:ミラクルチャンバー)により圧搾する方法を適用できる。圧搾は、圧搾後の脱脂米糠中の脂質が5~20質量%程度となるまで行うことが好ましい。また、リパーゼ失活処理前の米糠や搾油後の脱脂米糠の水分含量を低減させる等の目的で乾燥処理を行ってもよい。更に、特に圧搾脱脂米糠は、公知の方法により粉砕、分級し、粉末状とすることが好ましい。この際、粉末の平均粒子径は、5~200μmが好ましく、10~150μmがより好ましく、40~100μmが最も好ましい。平均粒子径は、篩法により測定できる。なお、脱脂米糠中の脂質含量は、特に限定されないが、5~20質量%が好ましく、7~15質量%がより好ましい。なお、脱脂米糠は、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば商品名ハイブレフ(サンブラン社製)等が挙げられる。
【0014】
サーモリシンは、バチルス・サーモプロテオライティクス由来の中性金属プロテアーゼであり、EC番号は3.4.24.27である。サーモリシンは、上記微生物より抽出精製したものを使用してもよく、生化学的に合成したものを使用してもよく、また、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えばペプチド研究所社製、和光純薬工業社製等が挙げられる。
【0015】
サーモリシン処理物を得るための処理条件としては、サーモリシンの活性が得られる条件であれば、特に制限はされず、例えば温度、pH、時間等の諸条件を適宜設定できる。処理方法としては、例えば米糠原料に溶液として水を加え、必要によりpH調整を行った後、所定量のサーモリシンが添加される。サーモリシンの添加量は、処理条件、原料との比率、酵素の力価等を考慮し、適宜設定できる。サーモリシン処理時の米糠原料は、米糠原料としての米糠又は脱脂米糠をそのまま適用してもよく、米糠原料の水抽出物(水溶性画分)を適用してもよい。米糠原料の水抽出物は、米糠原料を水で抽出処理して得られた液体組成物(水及び抽出された米糠成分からなる)である。水抽出条件は、特に制限されないが、例えば10~50℃程度の水に米糠原料を1~24時間程度浸漬(又は撹拌)する方法が例示される。
【0016】
サーモリシンの処理条件としては、例えば米糠原料及びサーモリシンを水に混合したうえ、37℃前後で穏やかに撹拌しながら10~30時間程度反応させることで処理を行うことができる。当該処理後、サーモリシンを失活させてもよい。サーモリシンの失活処理は、例えば加熱(例えば100℃、10~20分程度の処理)等により行うことができる。
【0017】
サーモリシン処理物は、上述したように米糠をサーモリシンにより処理して得られた組成物であり、サーモリシンにより低分子化した米糠由来のタンパク質の分解物(特にペプチド)を含む組成物である。かかるペプチドとしては、約10kDa以下のものが含まれることが好ましい。より具体的には、配列番号1(Val-Tyr-Thr-Pro-Gly)及びLeu-Arg-Alaから選ばれる少なくとも一種を含むことがより好ましい。
【0018】
なお、サーモリシン処理後の処理液について、油分が含まれる場合には、さらに米糠タンパク質分解物が含まれる水溶性画分を取り出すことが好ましい。かかる水溶性画分には肥満改善作用及び後述するII型糖尿病改善作用を発揮する成分が含まれている。水溶性画分は、サーモリシン処理後の処理液を例えば遠心分離することにより得られる。また、サーモリシン処理後の処理液は、濾過を行って不溶性画分を除いた濾液として回収することが好ましい。
【0019】
米糠のサーモリシン処理物の使用形態としては、特に限定されず、上記のように得られた処理液を液状の形態で肥満改善用組成物としてそのまま適用してもよく、蒸留等により濃縮した濃縮液として適用してもよく、凍結乾燥等により乾燥させて固形物の形態で適用してもよい。
【0020】
米糠のサーモリシン処理物を含む肥満改善用組成物は、肥満改善のために適用され、特に経口摂取により優れた肥満改善作用を発揮する。肥満は、正常な状態と比べて体重が多い状態、体脂肪量が過剰に蓄積した状態を示す。また、本実施形態の肥満改善用組成物は、肥満改善のための適用のみならず、症状の悪化の防止又は遅延、健常者の肥満の予防を目的とした適用も含むものとする。
【0021】
生体において脂肪組織を構成する成熟脂肪細胞は、褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の2つにも大別される。白色脂肪細胞は、脂肪を蓄積する機能を有する脂肪細胞であり、絶食などのエネルギー不足の状態に陥ったときに不足するエネルギーを補う目的で脂肪を分解することが知られている。一方、褐色脂肪細胞は平常状態においても脂肪を酸化分解することが知られている。成人における脂肪細胞の殆どは白色脂肪細胞であり、皮下脂肪や内臓脂肪等として広く分布し、体内の余分なエネルギーを脂肪として蓄積する。本実施形態の肥満改善用組成物は、特に白色脂肪細胞を減少させ、皮下脂肪、内臓脂肪等の過剰な体脂肪を減少させることにより、肥満状態を改善させる。
【0022】
本実施形態の肥満改善用組成物は、肥満が関連する各種疾患の改善、悪化の防止、予防のために用いられてもよい。肥満改善用組成物の適用により肥満が改善し、肥満が関連する各種疾患の改善効果が期待される。肥満が関連する各種疾患としては、例えば糖尿病、動脈硬化、耐糖能異常、メタボリックシンドローム、高血圧、高脂血症、高中性脂肪血症、高コレステロール血症、肝疾患、歯周病(歯肉炎、歯周炎)等が挙げられる。
【0023】
肥満改善用組成物の適用形態としては、特に限定されず、例えば飲食品、医薬品、医薬部外品として適用される。米糠のサーモリシン処理物は、そのまま飲食品又は医薬品素材として用いてもよいし、薬学上又は食品衛生学上許容される担体、添加物等を適宜配合したうえで、製品としてもよい。
【0024】
本実施形態の肥満改善用組成物を、食品、飲料等の飲食品に適用する場合、例えば食品添加用組成物、各種菓子類、ガム類、錠剤、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、各種加工食品、各種飲料等に適用できる。形態としては、適用する素材に応じて適宜設計することができ、例えば粉末状、顆粒状等の固体状、ペースト状、液状等として構成できる。
【0025】
飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、病者用食品、特定用途食品、保健機能食品、栄養機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品等として適用できる。また、さらにはダイエット用食品、美容食品、運動療法時向けの食品及び肥満治療食として適用してもよい。飲食品において用途の表示を付す場合、各種法律、施行規則、ガイドライン等によって定められた表示が挙げられる。飲食品において用途の表示には、包装、容器等のパッケージへの表示の他、パンフレット等の広告媒体への表示も含まれる。本実施形態の肥満改善用組成物の用途の表示内容としては、肥満の改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延の表示の他、上述した肥満が関連する各種疾患の改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延の表示が挙げられる。また、これらの改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延を示唆する表示も含まれる。例えば体脂肪、体脂肪率、血中中性脂肪、皮下脂肪、おなか周りの脂肪、内臓脂肪等の脂肪の低減、減少又は増加の抑制、体重の低減、減少又は増加の抑制、体格指数(BMI)の低下、高めのBMI値の改善、体型の改善、ウエスト周囲径の減少を助ける等の表現が挙げられる。
【0026】
本実施形態の肥満改善用組成物を、医薬品又は医薬部外品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、経腸投与等を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤等として構成してもよい。また、添加物として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。
【0027】
本実施形態の肥満改善用組成物の作用及び効果について説明する。
(1)一般に、正常な状態に比べ体重が多い状況又は体脂肪が過剰に蓄積した状態を肥満という。最近では、肥満は、BMIを指標として定量的に把握することが可能となった。肥満となる原因は、様々であるが、例えば高カロリー食、飲酒・喫煙、運動不足、ストレス等の生活習慣が原因で生ずることが多い。肥満は、心筋梗塞、脳梗塞等の成人病の原因とされる動脈硬化症の危険因子として知られ、社会的に重大な問題となっている。肥満の症状は、食生活の改善、適度な運動以外に根本的な治療法が確立されていないのが現状である。肥満に該当する人は、健常者に比べ、心筋梗塞や脳梗塞を発症するリスクが高いため、現在、肥満の予防用組成物や改善用組成物の開発が急務となっている。
【0028】
本実施形態の肥満改善用組成物は、米糠のサーモリシン処理物を含むよう構成した。天然由来の成分であるため生体に対して安全に適用することができ、優れた肥満の改善作用を発揮できる。
【0029】
(第2実施形態)
以下、本発明のII型糖尿病改善用組成物を具体化した第2実施形態を説明する。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。本実施形態のII型糖尿病改善用組成物に用いられる米糠のサーモリシン処理物は、第1実施形態と同様である。
【0030】
本実施形態のII型糖尿病改善用組成物は、II型糖尿病改善のために適用され、特に経口摂取により優れたII型糖尿病改善作用を発揮する。特に糖代謝の改善又はインスリン抵抗性の改善により、II型糖尿病の症状を改善させる。II型糖尿病は、血糖値及びヘモグロビンA1c値が所定の基準を超えている状態を示す疾患であるが、本実施形態においては血糖値及びヘモグロビンA1c値が平常値よりも高い状態の者、例えばいわゆる糖尿病予備群も含まれるものとする。糖代謝の改善とは、例えば血糖値及びヘモグロビンA1c(HA1c)値の改善を示す。また、本実施形態のII型糖尿病改善用組成物は、II型糖尿病改善に関する症状の改善を目的とした患者への適用のみならず、症状の悪化の防止又は遅延、健常者のII型糖尿病の予防を目的とした適用も含むものとする。
【0031】
本実施形態のII型糖尿病改善用組成物は、II型糖尿病が関連する糖尿病の各種合併症の改善、悪化の防止、予防のために用いられてもよい。II型糖尿病改善用組成物の適用により糖尿病が改善し、合併症の改善効果が期待される。糖尿病の合併症としては、例えば糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症等が挙げられる。
【0032】
II型糖尿病改善用組成物の適用形態としては、第1実施形態と同様である。なお、飲食品に適用される場合、II型糖尿病改善用組成物の用途の表示内容としては、II型糖尿病の改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延の表示の他、上述した合併症の改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延の表示が挙げられる。また、これらの改善、予防、悪化の防止、又は症状の遅延を示唆する表示も含まれる。例えば血糖値又はHA1c値の改善、悪化の防止、食後の血糖値の上昇が緩やか、血糖値が気になる方等の表現が挙げられる。
【0033】
本実施形態のII型糖尿病改善用組成物の作用及び効果について説明する。
(2)本実施形態のII型糖尿病改善用組成物は、米糠のサーモリシン処理物を含むよう構成した。天然由来の成分であるため生体に対して安全に適用することができ、優れたII型糖尿病の改善作用を発揮できる。
【0034】
尚、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の肥満改善用組成物又はII型糖尿病改善用組成物は、ヒト以外の飼養動物に適用してもよい。
【0035】
・上記実施形態の肥満改善用組成物又はII型糖尿病改善用組成物において、医薬品、医薬部外品、又は飲食品に含まれる米糠のサーモリシン処理物の量は、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、固形分中において例えば0.1~100質量%、好ましくは1~90質量%含むよう構成できる。また、一日の摂取量、摂取期間も目的・容態等に応じて適宜設定できる。
【0036】
・上記実施形態の肥満改善用組成物又はII型糖尿病改善用組成物に配合した米糠のサーモリシン処理物中において、圧搾脱脂米糠を原料して調製した場合、米糠原料中の油性成分であるγ-オリザノールは、例えば50mg/100g(固形分)以下、好ましくは25mg/100g(固形分)以下に調製されてもよい。
【実施例
【0037】
以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1:肥満改善及びII型糖尿病改善の各作用について>
(米糠のサーモリシン処理物の調製)
原料米糠としては、サンブラン社製の商品名ハイブレフを用いた。ハイブレフは、米糠を圧搾することより脱脂を行った圧搾脱脂米糠である。また、サーモリシンは、ペプチド研究所社製のもの(Code3504)を用いた。
【0038】
まず、超純水に米糠原料を30g/Lとなるように混合し、これにサーモリシンを0.4g/Lとなるように加えた。そして、当該混合物を37℃インキュベータ内でスターラーを用いて250r.p.m.で攪拌しながら20時間インキュベートしながら酵素処理した。次に、沸騰水浴に浸漬して15分間処理し、酵素を失活させた。その後、15℃、7150r.p.m.(8000×g)で15分遠心分離処理を行い、固液分離を行った。得られた上清のpHをNaOHを用いて7.0に調整し、フィルターペーパーNo.2(アドバンテック社製)を用いて濾過して、得られた濾液を凍結乾燥した。当該凍結乾燥物を、米糠サーモリシン処理物として使用した。なお、米糠サーモリシン処理物中には、限外濾過により約10kDa以下のペプチドが含まれていることを確認している。また、アミノ酸配列分析により、配列番号1及びLeu-Arg-Alaのペプチドが含まれていることを確認している。
【0039】
(マウス及び飼料)
マウスを用いてin vivo試験を行った。マウスはII型糖尿病自然発症マウスであるNSYマウス(星野試験動物飼育所社製)を用いた。NSYマウスは、軽度の肥満、内臓脂肪の蓄積、インスリン抵抗性を特徴としている。
【0040】
試験食は、高脂肪食として下記表1に示される成分からなるHFD-60(オリエンタル酵母社製)を使用した。米糠サーモリシン処理物配合の高脂肪食は、表1に示されるようにHFD-60の組成をベースとして上記米糠サーモリシン処理物を0.04質量%配合した高脂肪食を調製した。
【0041】
なお、高脂肪食に配合した米糠サーモリシン処理物、及び原料米糠として使用した圧搾脱脂米糠(ハイブレフ)のそれぞれについて、γ-オリザノールの含有量をHPLCを用いて測定した。結果を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
(飼育条件及び飼料の投与)
まず、通常食(CE-2固形)にて予備飼育後、4週齢となったマウスに高脂肪食(HFD-60)のみを3週間与えた。7週齢となったマウスの体重を測定し、各群の体重の平均値の有意差がなくなるように、高脂肪食のみで飼育するコントロール群(n=8)と、米糠サーモリシン処理物配合の高脂肪食を与える実施例群(n=8)の2群に分けた。その後、コントロール群は、26週齢まで高脂肪食のみを与えた。一方、実施例群においては、7週齢から26週齢まで米糠サーモリシン処理物配合の高脂肪食を与えた。尚、飼育中は自由摂食・自由引飲水とし、飼育環境は12時間明期/12時間暗期であった。飼育期間中は1週間ごとに体重を測定し、餌補充時に適宜摂餌量も測定した。また、後述する糖負荷試験においては、別途個体群を用意し、糖負荷試験欄に記載される週齢のマウスを同様の方法にて飼育した。
【0044】
各試験群において7~25週齢まで体重変化を測定した。各試験グループの個体群において平均値±標準誤差を求めた。結果を図1に示す。なお、図中の*は、p<0.05、§はp<0.1(t検定)を示す。
【0045】
また、各試験群において7~25週齢まで試験食の摂取量(g/日)の平均値を求めた。各試験グループの個体群において平均値±標準誤差を求めた。結果を図2に示す。
(糖負荷試験)
糖負荷試験をipGTT法により行った。まず、8~12週齢経過した各個体群のマウス(n=10-11)を1晩(15時間)絶食後、動物の尾を穿刺し、簡易血糖値測定装置を用いて血糖値を測定した(空腹時血糖値)。空腹時血糖値を測定した後、2g/kg B.Wのグルコースを腹腔内投与した。グルコース腹腔内投与後の所定時間毎に、空腹時血糖値測定と同様に尾を穿刺し、簡易血糖値測定装置を用いて血糖値を測定した。各試験グループの個体群において血糖値の平均値±標準誤差を求めた。結果を図3に示す。なお、図中の*は、p<0.05(t検定)を示す。
【0046】
(インスリン負荷試験)
インスリン負荷試験をITT法により行った。まず、26週齢経過した各個体群(n=6-7)のマウスを1晩(15時間)絶食後、動物の尾を穿刺し、簡易血糖値測定装置を用いて血糖値を測定した(空腹時血糖値)。空腹時血糖値を測定した後、0.5 U/kgインスリンを腹腔内投与した。インスリン腹腔内投与後の所定時間毎に、空腹時血糖値測定と同様に尾を穿刺し、簡易血糖値測定装置を用いて血糖値を測定した。各試験グループの個体群において測定開始時の血糖値を100とした場合、血糖値レベルの平均値±標準誤差を求めた。結果を図4に示す。なお、図中の*は、p<0.05(t検定)を示す。
【0047】
(脂肪組織等の質量測定)
上記試験終了後、セボフレンによる麻酔環境下で眼底採血後、肝臓、白色脂肪組織、及び褐色脂肪組織をそれぞれ摘出し、重さ(g)を測定した。各試験グループの個体群において平均値±標準誤差を求めた。コントロール群及び実施例群の肝臓、白色脂肪組織、及び褐色脂肪組織の重さを図5~7にそれぞれ示す。図中の*は、p<0.05(t検定)を示す。
【0048】
(結果)
図1に示されるように、各週齢において体重上昇の割合がコントロール群に比べて米糠サーモリシン処理物を高脂肪食に添加した実施例群において有意に抑制されたことが認められた。
【0049】
図5に示されるように、白色脂肪組織の質量がコントロール群に比べて米糠サーモリシン処理物を高脂肪食に添加した実施例群において有意に低下したことが認められた。
つまり、米糠サーモリシン処理物の摂取により、肥満改善作用が認められた。なお、図2に示されるようにコントロール群と実施例群では、試験食の摂取量に違いは見られなかった。
【0050】
図3に示されるように、糖負荷試験において、コントロール群に比べて米糠サーモリシン処理物を高脂肪食に添加した実施例群において血糖値の上昇が有意に抑制されたことが認められた。
【0051】
図4に示されるように、インスリン負荷試験において、コントロール群のように0.5U/kgと強くインスリン負荷をしても血糖値の低下がみられないのに対し、米糠サーモリシン処理物を高脂肪食に添加した実施例群では血糖値が有意に低下した。米糠サーモリシン処理物には、肥満改善作用の他に、糖代謝の改善及びインスリン抵抗性の改善作用によるII型糖尿病改善作用も認められた。
【0052】
なお、表2に示されるように、米糠サーモリシン処理物は、圧搾脱脂米糠と比べてγ-オリザノールの含有量が著しく少ないため、肥満改善作用及びII型糖尿病改善作用は、脂溶性以外の成分の関与が示唆された。
【0053】
<処方例>
以下に、米糠サーモリシン処理物を用いた処方例を示す。
(処方例1:錠剤)
米糠サーモリシン処理物:10質量%
賦形剤(結晶セルロース等):90質量%
(合計100質量%)
(処方例2:飲料)
米糠サーモリシン処理物:10質量%
果汁:30質量%
水:60質量%
(合計100質量%)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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