IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 矢崎総業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図1
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図2
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図3
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図4
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図5
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図6
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図7
  • 特許-電気接続部品及びその製造方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電気接続部品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/02 20060101AFI20240702BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20240702BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20240702BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C25D13/02 Z
C23C26/00 C
H01R13/03 D
H01R43/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020016117
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021123733
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】葉 楠
(72)【発明者】
【氏名】久保 利隆
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲夫
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/129624(WO,A1)
【文献】Fang Mao, etc.,“Graphene as lubricant on Ag for electrical contact applications”,Journal of Materials Science,2015年,Volume 50,pp.6518-6525
【文献】Diana Berman, etc.,“Graphene: a new emerging lubricant”,MaterialsToday,Volume 17, Number 1,2014年,pp.31-42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 13/02
H01R 13/03
H01R 43/16
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム又はこれらの金属を含む合金により形成された導電性の接続部と、
前記接続部の表面の少なくとも一部に設けられ、酸化グラフェン膜である電気接点と、
を備え、
前記酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体であり、
前記酸化グラフェン膜の厚さは1nm以上50nm以下である、電気接続部品。
【請求項2】
前記電気接続部品は雄型端子又は雌型端子のいずれか一方である、請求項1に記載の電気接続部品。
【請求項3】
前記酸化グラフェン膜は電気泳動堆積法で形成される、請求項1又は2に記載の電気接続部品の製造方法。
【請求項4】
導電性の接続部と、
前記接続部の表面の少なくとも一部に設けられ、酸化グラフェン膜である電気接点と、
を備え、
前記酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体であり、
前記酸化グラフェン膜の厚さは1nm以上50nm以下であり、
前記酸化グラフェン膜は電気泳動堆積法で形成される、電気接続部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接続部品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
端子等の電気接続部品には、相手側端子の電気接点において、高い導電性と、高い耐摩耗性が求められている。そのため、一般的な接点には、金、銀又は錫などの貴金属からなる貴金属めっきが施されている。しかし、高価な貴金属めっきを用いると、端子の生産コストが高くなりやすい。そこで、端子の電気接点に、貴金属めっきに代えてグラフェン膜を施すことが提案されている。
【0003】
ここで、特許文献1には、酸化グラフェンを効率的に還元するため、酸化グラフェンに交流電圧を印加しながら光を照射して、酸化グラフェンを還元することにより、酸化グラフェン還元物からなる電極材料を製造する方法が開示されている。この方法によって電気絶縁性の酸化グラフェンから導電性の酸化グラフェン還元物が得られる。特許文献1では、酸化グラフェン還元物は、燃料電池などの酸素還元電極の材料、又はスーパーキャパシタの電極材料に用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-151398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電極材料の製造方法では、酸化グラフェン還元物が得られるものの、酸化グラフェンが付着した電極を得る工程と、酸化グラフェンを還元する工程とを、別工程で実施する必要がある。酸化グラフェン還元物は、酸化グラフェンと比較し、導電性に優れるものの、酸化グラフェンを還元する工程を必要とし、この工程によって生じる製造コストが大きくなってしまうという課題があった。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして本発明の目的は、酸化グラフェンを用いつつも電気抵抗が低い電気接続部品及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様に係る電気接続部品は、導電性の接続部と、接続部の表面の少なくとも一部に設けられ、酸化グラフェン膜により形成された電気接点と、を備えている。酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体であり、酸化グラフェン膜の厚さは1nm以上50nm以下である。
【0008】
電気接続部品は雄型端子又は雌型端子のいずれか一方であってもよい。
【0009】
本発明の態様に係る電気接続部品の製造方法では、酸化グラフェン膜は電気泳動堆積法で形成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば酸化グラフェンを用いつつも電気抵抗が低い電気接続部品及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】雄型端子と雌型端子が係合した状態の一例を示す断面図である。
図2図1に示す雄型端子に電線を圧着した端子付き電線の一例を示す正面図である。
図3図2に示す端子付き電線の平面図である。
図4図1に示す雌型端子に電線を圧着した端子付き電線の一例を示す斜視図である。
図5図4のV-V線における断面図である。
図6図5のVI-VI線における断面図である。
図7】電気泳動堆積法により酸化グラフェン膜が形成される様子を示す模式図である。
図8】分散液のpHと酸化グラフェンのゼータ電位との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本実施形態に係る電気接続部品及びその製造方法について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0013】
[電気接続部品]
本実施形態に係る電気接続部品は、導電性の接続部と、接続部の表面の少なくとも一部に設けられ、酸化グラフェン膜により形成された電気接点と、を備えている。酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体であり、酸化グラフェン膜の厚さは1nm以上50nm以下である。酸化グラフェン膜自体の電気抵抗は高いが、本実施形態に係る電気接続部品では、酸化グラフェン膜の厚さを50nm以下としているため、酸化グラフェン膜の電気抵抗が低くなっている。
【0014】
図1図6を用いて、本実施形態の電気接続部品の一例として、雄型端子100及び雌型端子200について説明する。図1は、雄型端子100と雌型端子200が係合した状態の一例を示す断面図である。図1に示すように、雄型端子100の接続部10が雌型端子200の接続部110の内部に挿入されると、雄型端子100及び雌型端子200は互いに係合可能なように設けられている。そして、雄型端子100と雌型端子200とが係合すると、雄型端子100の接続部10及び雌型端子200の接続部110は物理的かつ電気的に接続される。後述するように、接続部10と接続部110は導電性を有しているため、電気接点20と電気接点120とが接触することにより、雄型端子100に接続された電線210と雌型端子200に接続された電線210とが導通する。
【0015】
(雄型端子)
まず、図2及び図3を用いて、雄型端子100について説明する。図2は、図1に示す雄型端子100に電線210を圧着した端子付き電線310の一例を示す正面図である。図3は、図2に示す端子付き電線の平面図である。図2及び図3に示すように、雄型端子100は、接続部10と、電気接点20とを備えている。雄型端子100は、圧着部30をさらに備えていてもよい。
【0016】
雄型端子100は、導電性部材により形成されている。導電性部材は、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム又はこれらの金属を含む合金等の導電性を有する金属であることが好ましい。雄型端子100の接続部10と圧着部30は、1枚の導電性部材により形成されおり、接続部10及び圧着部30は導電性を有している。ただし、雄型端子100は、複数の分離した異なる種類の部材により形成されていてもよい。
【0017】
雄型端子100の接続部10は、導電性を有しており、雌型端子200の接続部110と係合するように設けられている。接続部10は、板状であって、金属板が積層されて略直方体の形状に形成されている。
【0018】
電気接点20は、接続部10の表面の少なくとも一部に設けられている。接続部10の表面の少なくとも一部は、雌型端子200との係合時に、雄型端子100の電気接点20を介して雌型端子200と接触する接続部10の外表面であってもよい。電気接点20は、板状の接続部10の表面を形成する面積の大きい2つの表面のうちの一方の表面の一部に設けられていてもよい。雄型端子100の電気接点20は、雌型端子200と係合した場合に、雌型端子200の電気接点120と物理的かつ電気的に接続されるように設けられている。
【0019】
電気接点20は酸化グラフェン膜により形成されている。酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体である。酸化グラフェンは、グラフェンと同様に化学的安定性及び機械強度が高いため、電気接点20を酸化グラフェン膜で形成することにより、雄型端子100の接触信頼性を向上させることができる。酸化グラフェンは、安価で大量に入手可能な黒鉛を化学的に酸化することにより合成される。
【0020】
なお、酸化グラフェンが還元されるとグラフェンが得られる。グラフェンは、炭素原子同士がsp結合して構成された平面状の六角形格子構造を有する1原子の厚さの膜状物質である。グラフェンの導電性は絶縁性の酸化グラフェンと比較して高いことから、導電性が求められる部位には、通常、酸化グラフェンを還元したグラフェンが用いられる。グラフェンは、酸化グラフェンと比較し、導電性に優れるものの、酸化グラフェンを還元する工程を必要とする。しかしながら、本実施形態では、酸化グラフェン膜の厚さが所定の範囲内であるため、酸化グラフェンを用いつつも電気接点の電気抵抗が低い。
【0021】
酸化グラフェン膜の厚さは、1nm以上50nm以下である。炭素原子1個分の大きさは約0.335nmであり、酸化グラフェン単層の厚さが約1nmである。酸化グラフェン膜は、酸化グラフェンが単層である場合も包含するため、上記酸化グラフェン膜の下限は1nmとしている。また、酸化グラフェン膜の厚さを50nm以下とすることにより、雌型端子200の電気接点120から雄型端子100の接続部10までの距離を短くし、酸化グラフェン膜の電気抵抗を小さくしている。酸化グラフェン膜の厚さは、14nm以下であることが好ましく、8nm以下であることがより好ましい。酸化グラフェン膜の厚さは、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)によって酸化グラフェン膜の断面を観察して厚さを測定することにより得ることができる。
【0022】
酸化グラフェン膜に含まれる酸化グラフェンの積層数は、1層以上30層以下であることが好ましい。酸化グラフェンの積層数がこのような範囲であることにより、導電性に優れた雄型端子100を提供することができる。
【0023】
酸化グラフェン膜に含まれる酸化グラフェンの積層数が2層以上である場合、酸化グラフェンの層間に導電性金属がインターカレーションされていてもよい。導電性金属がインターカレーションされることによって、酸化グラフェンの層間の電気抵抗を低下させることができる。導電性金属は、導電性を有する金属であれば特に限定されないが、金、銀、銅、錫、ニッケル、鉄、アルミニウム、及びこれらの混合物等であってもよい。
【0024】
圧着部30は、接続部10に接続され、電線210を圧着可能なように設けられている。圧着部30は、電線210の導体211を圧着する導体圧着部31と、電線210の被覆材212を圧着する被覆材圧着部32とを備えている。圧着部30のうち、少なくとも導体圧着部31は、導電性を有する材料により形成されている。導電性を有する材料としては、例えば、雄型端子100の接続部10に用いられる材料と同様のものが用いられる。
【0025】
電線210は、導体211と、導体211を被覆する被覆材212と、を備えている。導体211の材料は、例えば、銅、アルミニウム又はこれらの金属を含む合金等であってもよく、軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金であることが好ましい。被覆材212の材料は、樹脂であってもよく、オレフィン系の樹脂又はポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とする樹脂であることが好ましい。ここで、主成分とは、被覆材212全体の50質量%以上の成分をいう。オレフィン系の樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン共重合体及びプロピレン共重合体からなる群より選択される1種以上の樹脂であってもよい。これらのうち、ポリプロピレン(PP)又はポリ塩化ビニル(PVC)を主成分とする樹脂は、柔軟性や耐久性が高いため好ましい。
【0026】
(雌型端子)
次に、図4図6を用いて、雌型端子200について説明する。図4は、図1に示す雌型端子200に電線220を圧着した端子付き電線320の一例を示す斜視図である。図5は、図4のV-V線における断面図である。図6は、図5のVI-VI線における断面図である。図4図6に示すように、雌型端子200は、接続部110と、電気接点120とを備えている。雌型端子200は、圧着部130をさらに備えていてもよい。
【0027】
雌型端子200は、導電性部材により形成されている。雌型端子200の接続部110と圧着部130は、1枚の導電性部材により形成されおり、接続部110及び圧着部130は導電性を有している。ただし、雄型端子100は、複数の分離した異なる種類の部材により形成されていてもよい。雌型端子200を構成する導電性部材は、雄型端子100と同様の材料を使用することができる。
【0028】
雌型端子200の接続部110は、導電性を有しており、雄型端子100の接続部10と係合するように設けられている。接続部110は、図4図6に示すように、雄型端子100の接続部10が挿入される箱体と、この箱体の一部から箱体中に延び、箱体中に挿入された雄型端子100の接続部10を弾性力で押圧する板状体とを有する。
【0029】
雌型端子200の接続部110の箱体は、第1壁部111、第2壁部112、第3壁部113、第4壁部114及び第5壁部115を含んでおり、かつ第5壁部115が第1壁部111の外側に重なる箱状体である。これらの壁部は、雌型端子200と相手側端子の接続方向に対して垂直方向において略正方形状となるように折り曲げ加工されている。第1壁部111及び第3壁部113、並びに第2壁部112及び第4壁部114は、空間を有して略平行に対向して配置されている。
【0030】
雌型端子200の接続部110の板状体は、第3壁部113の長手方向の端部に連続しかつ強く屈曲して設けられた弾性部116と、この弾性部116の端部に連続しかつ弱く屈曲して設けられた摺動部117とを有する。すなわち、弾性部116は、摺動部117よりも内角の角度が小さくなるように設けられている。
【0031】
弾性部116は、第3壁部113等の接続部110を構成する他の部分と同じ材料により形成されているが、その屈曲形状により強い弾性力が付与されている。摺動部117は、第3壁部113等の接続部110を構成する他の部分と同じ材料により形成されているが、その屈曲形状により弱い弾性力が付与されている。雌型端子200の接続部110の摺動部117は、雄型端子100と雌型端子200との係合時に、弾性部116の強い弾性力及び摺動部117の弱い弾性力により、雄型端子100の電気接点20に押圧される作用を有する。
【0032】
電気接点120は、接続部110の表面の少なくとも一部に設けられている。接続部110の表面の少なくとも一部は、雄型端子100との係合時に、雌型端子200の電気接点120を介して雄型端子100と接触する接続部110の表面であってもよい。電気接点120は、弱く屈曲した摺動部117の表面を形成する面積の大きい2つの表面のうちの外角側の表面の一部に設けられている。電気接点120は、摺動部117の第1壁部111側の表面に設けられている。雌型端子200の電気接点120は、雄型端子100と係合したときに、雄型端子100の電気接点20と物理的かつ電気的に接続されるように設けられている。
【0033】
電気接点20は酸化グラフェン膜により形成されている。酸化グラフェン膜は、雄型端子100の電気接点20に用いられる酸化グラフェン膜と同様のものを使用することができる。すなわち、酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体である。また、酸化グラフェン膜の厚さは、1nm以上50nm以下である。
【0034】
圧着部130は、接続部110に接続され、電線220を圧着可能なように設けられている。圧着部130は、電線220の導体221を圧着する導体圧着部131と、電線220の被覆材222を圧着する被覆材圧着部132とを備えている。圧着部130のうち、少なくとも導体圧着部131は、導電性を有する材料により形成されている。導電性を有する材料としては、例えば、雌型端子200の接続部110に用いられる材料と同様のものが用いられる。
【0035】
電線220は、導体221と、導体221を被覆する被覆材222と、を備えている。電線220の導体221に用いられる導電性部材としては、例えば、電線210の導体211に用いられる導電性部材と同様のものが用いられる。また、電線220の被覆材222に用いられる材料としては、例えば、電線210の被覆材212に用いられる材料と同様のものが用いられる。
【0036】
以上の通り、本実施形態に係る電気接続部品は、導電性の接続部と、接続部の表面の少なくとも一部に設けられ、酸化グラフェン膜により形成された電気接点と、を備えている。酸化グラフェン膜は酸化グラフェン又は酸化グラフェンの積層体であり、酸化グラフェン膜の厚さは1nm以上50nm以下である。したがって、本実施形態に係る電気接続部品は、酸化グラフェンを用いつつも電気抵抗が低い。
【0037】
電気接続部品は、例えば、相手側の電気部品に対して電気的に接続可能な電気部品である。電気接続部品は、本実施形態の効果を奏するものであれば特に限定されない。電気接続部品には、例えば、上述した雄型端子若しくは雌型端子などの端子、カードエッジコネクタの端子、リング端子、又はU字端子などが含まれる。電気接続部品は、コネクタ端子であってもよい。
【0038】
電気接続部品は雄型端子又は雌型端子のいずれか一方であってもよい。雄型端子100の接続部10が雌型端子200の接続部110の内部に抜き挿しされる時に、雄型端子100の電気接点20と雌型端子200の電気接点120が接触しながら抜き挿しされる(図1参照)。酸化グラフェン膜は、グラフェンと同様に化学的安定性及び機械強度が高いため、電気接点を酸化グラフェン膜で形成することにより、雄型端子又は雌型端子の接触信頼性を向上させることができる。電気接続部品は、上述した雄型端子であってもよく、上述した雌型端子であってもよい。図1に示すように、雄型端子100としての電気接続部品と雌型端子200としての電気接続部品とを物理的かつ電気的に接続して使用してもよい。また、雄型端子と雌型端子を接続する場合、雄型端子又は雌型端子の一方のみに上述した電気接点を設けてもよい。
【0039】
[電気接続部品の製造方法]
次に、本実施形態に係る電気接続部品の製造方法について説明する。電気接続部品の製造方法では、酸化グラフェン膜は電気泳動堆積法で形成される。当該製造方法は、電気泳動堆積法により、金属母材の表面に酸化グラフェン膜を形成する工程を含んでいてもよい。
【0040】
電気泳動堆積法は、電極上に膜を形成させるために用いられる手法である。電気泳動堆積法は、例えば、分散液中に挿入されたアノードとカソードの電極間に電圧を印加することで分散液中の帯電粒子を泳動させ、電極上に堆積させる成膜法である。電気泳動堆積法は、熱処理を必要とせず、非真空、常温で成膜可能なため、酸化グラフェン膜の成膜を低コストで容易に行うことができる。
【0041】
図7は、電気泳動堆積法に用いられる電気泳動装置400を示している。電気泳動装置400は、電気泳動槽410と、直流電源420の負極に接続されるカソード430と、直流電源420の正極に接続される金属母材440とを有する。本実施形態では、金属母材440はアノードである。電気泳動槽410には、水に酸化グラフェン460が分散された分散液450が収容されている。そして、直流電源420によりカソード430と金属母材440(アノード)との間に電圧を印加すると、負のゼータ電位を有する酸化グラフェン460は金属母材440に向かって移動する。その結果、白抜きの円で示すように、金属母材440の表面に酸化グラフェン460が堆積する。
【0042】
金属母材は、電気接続部品の接続部の由来となる部材である。金属母材としては特に限定はなく、上述した接続部で使用される部材を使用することができる。金属母材は、銅、アルミニウム、鉄、マグネシウム又はこれらの金属を含む合金等の導電性を有する金属により形成されていることが好ましい。金属母材の形状としては、板状、棒状、これらを組み合わせた形状等種々の形状があり、厚み等の寸法は、用途に応じて種々選択可能である。
【0043】
金属母材に酸化グラフェン膜を形成する前に、金属母材の表面の酸化皮膜を除去することが好ましい。酸化皮膜の除去方法は特に限定されず、研磨などによって物理的に酸化皮膜を除去してもよく、薬液によって化学的に酸化皮膜を除去してもよい。薬液は、酸化皮膜の特性に応じて適宜選択することができる。薬液は、例えば、硫酸、塩酸、又は硝酸等の酸性溶液であってもよい。
【0044】
金属母材に膜を形成する前に、金属母材の表面を平滑にすることも好ましい。金属母材の表面を平滑にする方法は特に限定されず、例えば、研磨などによって金属母材の表面を平滑にしてもよい。研磨のなかでも、化学機械研磨によって金属母材の表面を平滑にすることが好ましい。化学機械研磨(CMP)は、酸又は塩基などの薬液を金属母材の表面に塗布し、研磨粒子などによって金属母材の表面を粒子などによって機械的に研磨し、金属母材の表面を平滑にする方法である。CMPによれば、薬液によって金属母材の表面を研磨しやすいように変質させることができるため、機械的な研磨が容易になり、平滑で良好な表面に仕上げることができる。
【0045】
カソードは、特に限定されず、可溶性陰極であってもよく、不溶性陰極であってもよい。可溶性陰極は、含燐銅、電気銅、若しくは無酸素銅等の銅含有金属、又はニッケル若しくはニッケル合金等のニッケル含有金属であってもよい。不溶性陰極は、カーボン、白金、又は白金コーティングを施したチタン等であってもよい。
【0046】
分散液には、酸化グラフェンが含まれている。分散液は、酸化グラフェンを水に分散させてもよく、市販の酸化グラフェン分散液であってもよい。酸化グラフェンは、公知の方法で作製することができるが、市販の酸化グラフェンを用いてもよい。
【0047】
本実施形態において、酸化グラフェン膜は、単層でサイズが1μm~10μmのものが好ましい。ここで、酸化グラフェン膜のサイズとは、酸化グラフェン膜の面の最大長さと最小長さの平均を指す。
【0048】
酸化グラフェンは、グラフェンに、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、カルボニル基等の酸素を有する官能基が結合した構造を有していてもよい。酸化グラフェンは極性を有する溶液中においては、官能基中の酸素がマイナスに帯電するため、異なる酸化グラフェン同士で凝集しにくい。そのため、酸化グラフェンは、極性溶媒中において均一に分散しやすい。
【0049】
上述したように、導電性金属が酸化グラフェンの層間にインターカレーションされる場合には、分散液は、例えば、導電性金属の塩を含んでいてもよい。当該導電性金属の塩としては、硫酸塩、又は硝酸塩等が挙げられる。水分散液中の導電性金属の塩の濃度は、酸化グラフェン膜の電気抵抗を低下する観点から、0.0005質量%~0.01質量%であることが好ましく、0.001質量%~0.002質量%であることがより好ましい。水分散液における酸化グラフェンに対する導電性金属の塩の質量比率は、導電性金属が適度にインターカレーションされた酸化グラフェン膜を形成する観点から0.01~0.1であることが好ましく、0.02~0.04であることがより好ましい。
【0050】
導電性金属が酸化グラフェンの層間にインターカレーションされる場合には、酸化グラフェンのゼータ電位が正となるように分散液を調整してもよい。当該調整は分散液のpHを調整することにより行うことができる。ここで、分散液のpHと酸化グラフェンのゼータ電位との関係について説明する。図8は、分散液のpHに対する酸化グラフェンのゼータ電位の関係を示すグラフである。図8より、酸化グラフェンのゼータ電位を正とするには、分散液のpHが小さくなればよいことが分かる。具体的には、分散液のpHを、1~7とすることが好ましく、1~3とすることがより好ましい。分散液のpHを小さくするには、酸を添加すればよく、酸としては、硫酸、塩酸、又は硝酸等が挙げられる。本実施形態においては、0.1Mの硫酸を添加することによりpHを調整することが好ましい。
【0051】
分散液は、酸化グラフェンの他に、種々の添加剤を含んでいてもよい。分散液は、例えば、pH緩衝液、又は防腐剤等を含んでいてもよい。
【0052】
酸化グラフェン膜の厚さは、分散液中の酸化グラフェンの濃度、アノード及びカソードの電極間の電圧、電流密度、電圧の印加時間、又は電極間距離を調整することで制御することができる。
【0053】
本実施形態において、分散液中の酸化グラフェンの濃度は、適度な厚みの酸化グラフェン膜を形成する観点から、0.001mg/L~100mg/Lとすることが好ましく、0.005mg/L~50mg/Lとすることがより好ましい。
【0054】
アノード及びカソードの電極間に印加する電圧は1V以上5V以下であることが好ましい。電圧をこのような範囲とすることによって、酸化グラフェン膜を適度な厚さとすることができる。酸化グラフェン膜の厚さを薄くする観点から、アノード及びカソードの電極間に印加する電圧は、4V以下であることがより好ましく、3V以下であることがさらに好ましい。
【0055】
電圧の印加時間は、電圧にもよるが、0.1分以上4分以下であることが好ましい。印加時間を0.1分以上とすることで、金属母材上に良好な酸化グラフェン膜を形成することができる。また、印加時間を4分以下とすることにより、酸化グラフェン膜の膜厚を薄くすることができる。電圧の印加時間は1分以上であることがより好ましい。また、電圧の印加時間は、3分以下であることがより好ましい。
【0056】
アノード及びカソードの電極間距離は、5mm以上20mm以下であることが好ましい。電極間距離を5mm以上とすることにより、酸化グラフェン膜の膜厚を薄くすることができる。また、電極間距離を20mm以下とすることにより、金属母材上に良好な酸化グラフェン膜を形成することができる。電極間距離は、8mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることがさらに好ましい。また、電極間距離は、15mm以下であることがより好ましい。
【0057】
電気泳動堆積法によれば、酸化グラフェンは、外部電場によるクーロン力によって移動し、金属母材表面に強固に堆積する。そのため、本実施形態で得られる酸化グラフェン膜と金属母材との密着性は、ファンデルワールス力が密着性の要因となるスピンコート等の成膜法で形成されるものより高い。酸化グラフェンの密着力はクーロン力により調整することができる。ここで、外部電場をE(N/C)、電荷をq(C)としたとき、クーロン力F(N)は、F=qEで与えられる。すなわち、分散液中において酸化グラフェンが受けるクーロン力は、酸化グラフェンの電荷又は外部電場によって制御することができる。外部電場は、印加電圧に依存するため、印加電圧によって調整することができる。また、酸化グラフェンの電荷は、上述のように、ゼータ電位によって、すなわち分散液のpHによって調整することができる。従って、印加電圧を上げる及び/又は分散液のpHを小さくすることより、クーロン力を増大させ、酸化グラフェン膜と金属母材との密着性を向上させることができる。
【0058】
なお、上述の図1図6に示した電気接続部品の接続部において、酸化グラフェン膜は、接続部の表面の少なくとも一部に設けられている。すなわち、接続部には当該酸化グラフェン膜が形成されていない領域が存在してもよい。このような領域は、電気泳動堆積法による処理時に金属母材をマスクすることで設けることができる。具体的には、酸化グラフェン膜を形成しない領域にマスクを配置し、電気泳動堆積法による処理を実行後にマスクを除去すればよい。
【0059】
以上のようにして、酸化グラフェン膜を形成した後は、金属母材を分散液から引き上げ、その後乾燥する。酸化グラフェン膜を乾燥させる際の乾燥温度としては、80℃~120℃とすることが好ましい。乾燥時間としては、5分~30分とすることが好ましい。乾燥雰囲気は、金属母材の酸化を防ぐため、窒素などの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0060】
上述の通り、電気泳動堆積法により、金属母材上に酸化グラフェン膜が形成される。当該酸化グラフェン膜は、薄膜であるため、電気抵抗が低く、密着性に優れる。そのため、電気接続部品の電気接点として有用である。
【0061】
酸化グラフェン膜は、このまま電気接点として使用してもよいが、電気抵抗をさらに小さくするため、酸化グラフェンを還元してもよい。還元は、化学還元処理、熱還元処理、又は光還元処理等の公知の方法により行うことができる。
【実施例
【0062】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
濃度が4mg/Lとなるように酸化グラフェンを水に添加し、酸化グラフェンを含む分散液を調整した。この分散液が収容された電気泳動槽に、アノードとして銅の金属母材を挿入し、カソードとしてアノードと同様の金属母材を挿入した。カソードとアノードは、カソードとアノードの間の電極間距離が10mmとなるように電気泳動槽に固定した。そして、カソードとアノードを直流電源に接続し、カソードとアノードとの間に3Vの直流電圧を3分間印加した。このようにして、電気泳動堆積法により、金属母材の表面に酸化グラフェン膜を堆積させ、試験サンプルを作製した。
【0064】
[実施例2]
酸化グラフェンの濃度を40mg/Lにした以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製した。
【0065】
[実施例3]
酸化グラフェンの濃度を40mg/Lにし、印加時間を5分にした以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製した。
【0066】
[実施例4]
酸化グラフェンの濃度を40mg/Lにし、印加時間を10分にした以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製した。
【0067】
[比較例1]
酸化グラフェンの濃度を40mg/Lにし、印加時間を20分にした以外は、実施例1と同様にして試験サンプルを作製した。
【0068】
[評価]
上記のようにして作製した試験サンプルにおける酸化グラフェン膜の膜厚と接触抵抗を、原子間力顕微鏡(AFM)によって測定した。AFMは、パークシステムズ社から提供されているPark NX10を使用した。酸化グラフェンの膜厚と接触抵抗を同時に測定するため、AMFの測定モードをConductive AFMに設定した。Conductive AFMモードでは、表面形状を測定しながら、カンチレバーと試料との間に一定のバイアス電圧を印加し、カンチレバーから試料に流れる電流の値を計測する。AMFのカンチレバーとしては、シリコンを導電性ダイヤモンドでコーティングしたCDT-NCLR-10を使用した。CDT-NCLR-10の先端の曲率半径は200nmである。カンチレバーの荷重は980nNに設定した。酸化グラフェン膜の接触抵抗は、得られたI-V曲線の勾配から算出した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、実施例1~実施例4に係る試験サンプルでは、比較例1に係る試験サンプル比較し、酸化グラフェンの濃度及び/又は直流電圧の印加時間を短くしたため、酸化グラフェンの膜厚を50nm以下にすることができた。そして、実施例1~実施例4に係る試験サンプルでは、酸化グラフェンの膜厚が50nm以下であるため、酸化グラフェン膜の接触抵抗を100MΩ以下にすることができた。一方、比較例1に係る試験サンプルは、酸化グラフェンの膜厚が50nmを超えているため、酸化グラフェン膜の接触抵抗が100MΩを超えてしまった。実施例1~実施例4に係る試験サンプルのような接触抵抗である場合、端子の電気接点として、十分な導電性を有していると考えられる。
【0071】
以上、本実施形態を実施例によって説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 接続部
20 電気接点
100 雄型端子(電気接続部品)
110 接続部
120 電気接点
200 雌型端子(電気接続部品)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8