(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】蛍光性ジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/486 20060101AFI20240702BHJP
C01G 25/02 20060101ALI20240702BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20240702BHJP
A61C 5/70 20170101ALI20240702BHJP
C09K 11/67 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/78 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C04B35/486
C01G25/02
A61C13/083
A61C5/70
C09K11/67
C09K11/08 B
C09K11/78
(21)【出願番号】P 2020081589
(22)【出願日】2020-05-01
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭敬
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛久
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-119485(JP,A)
【文献】特表2003-506191(JP,A)
【文献】特開2019-182689(JP,A)
【文献】米国特許第01071488(US,A)
【文献】国際公開第2019/026809(WO,A1)
【文献】特開2016-117618(JP,A)
【文献】特開2017-128466(JP,A)
【文献】DI Yang, et.al.,Enhanced Sintering Rate of Zirconia (3Y-TZP) Through the Effect of a Weak dc Electric Field on Grain Growth,J. Am. Ceram. Soc.,米国,American Ceramic Society,2010年10月,Vol. 93, No. 10,P. 2935-2937
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48-35/493
A61C 5/00-5/90
A61C 8/00-13/38
C01G 25/00-25/06
C09K 11/00-11/89
A61C 1/00-7/36
A61C 19/00-19/10
A61G 15/14-15/18
A61L 15/00-15/64
A61L 17/00-33/18
A61K 6/818
A61K 6/822
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成後に蛍光性を発現するジルコニア仮焼体の製造方法であって、
試料に5~100V/cmの電界を印加する工程を含み、
前記工程では、試料を所定温度まで加熱する過程で前記電界を印加し、
前記所定温度が、600~950℃であり、
前記電界が、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じない範囲の電界であり、
前記試料が、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まない、電界未印加のジルコニア成形体または電界未印加のジルコニア仮焼体である、焼成後に蛍光性を発現するジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項2】
前記電界が10~50V/cmである、請求項1に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項3】
前記電界を印加する保持時間が1分以上である、請求項1または2に記載のジルコニア仮焼体の製造方法。
【請求項4】
Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まず、3点曲げ強さが70MPa以下である、5~100V/cmの電界を印加してなる、焼成後に蛍光性を発現するジルコニア仮焼体。
【請求項5】
さらに2.0~10.0mol%のイットリアを含む、請求項
4に記載のジルコニア仮焼体。
【請求項6】
歯科用である、請求項4
又は5に記載のジルコニア仮焼体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光性ジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、セラミックの焼結体は、原料粉末を圧粉および成形し、その整形体を高温下で熱処理することで作製される。熱処理温度(これを焼結温度と呼ぶ)は、セラミックの種類にも依存するが、1200℃~1500℃であり、焼結時間は、数時間程度である。焼結体の密度を向上させるためには、上記のような一般的な焼結法以外にも、外部から圧力をかける方法(ホットプレス法やHIP法など)など多様な方法が考案されている。
【0003】
また、近年では、セラミック圧粉体に電界を印加することで、従来よりも低温、かつ、短時間で焼結を終了できるフラッシュ焼結法が開発されている(非特許文献1参照)。この焼結法の特徴は、電界を印加しながらセラミック圧粉体を昇温していくと、ある温度で急峻に試料電流が上昇し(以下、この現象を「フラッシュ現象」と呼称することがある。)、焼結工程が瞬時に終了することである。また、電界強度を増加させると、焼結体の収縮が始まる温度が低下するとともに、収縮挙動がより急峻に変化することが明らかになっている。
【0004】
一方、セラミックスの一種であるジルコニアは、その透光性と強度の高さから歯科用補綴物等の歯科材料の用途に使用されている。これらの歯科用補綴物は、多くの場合、ジルコニア粒子をプレス成形したりジルコニア粒子を含むスラリーや組成物を用いて成形したりするなどして円盤状や角柱状等の所望の形状を有するジルコニア成形体とし、次いでこれを仮焼して仮焼体(ミルブランク)とし、これを目的とする歯科用補綴物の形状に切削(ミリング)した上で、さらに焼結することにより製造されている。
【0005】
また、ヒトの天然歯は蛍光性を有する。そのため、歯科用補綴物が蛍光性を有していないと、例えばブラックライトで演出されたアミューズメント施設内などの紫外線照射環境下において、歯科用補綴物の部分のみが蛍光せず、歯が抜けたように見えてしまう問題がある。このような問題を解決するために、歯科用補綴物に蛍光剤を含ませることが考えられる。蛍光剤を含むジルコニア焼結体としては、例えば、特許文献1に記載されたものなどが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Marco Cologna et al、「Flash Sintering of Nanograin Zirconia in <5 s at 850℃」、 Rapid Communications of the American Ceramic Society、2010、Vol. 93、No. 11、p. 3556-3559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、ジルコニア焼結体に対して蛍光剤を含ませることを検討する過程で、ジルコニア焼結体に対して単純に蛍光剤を含ませると、透光性が低下するなどの問題のあることを見出した。そこで本発明は、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まないにもかかわらず蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体およびこのようなジルコニア仮焼体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、電界未印加のジルコニア成形体またはジルコニア仮焼体に対して所定の電界を印加することで、蛍光性ジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体が得られることを見出した。このようなジルコニア仮焼体は歯科用補綴物の形状に切削(ミリング)した上で、さらに焼結することで歯科用補綴物形状を有する蛍光性ジルコニア焼結体として利用可能であった。本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下の発明を包含する。
[1]Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まないジルコニア仮焼体であり、
前記ジルコニア仮焼体から得られるジルコニア焼結体が蛍光性ジルコニア焼結体である、ジルコニア仮焼体;
[2]電界印加履歴を有する、[1]に記載のジルコニア仮焼体;
[3]前記電界印加履歴が、酸化ジルコニウムを主成分し、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まない試料を所定温度まで昇温する過程において、前記試料に所定の電界を印加するものであり、前記試料は電界未印加のジルコニア成形体または電界未印加のジルコニア仮焼体である、[2]に記載のジルコニア仮焼体;
[4]前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも低い温度であり、
前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じない範囲の電界である、[3]に記載のジルコニア仮焼体;
[5]前記所定の電界が5~100V/cmである、[3]または[4]に記載のジルコニア仮焼体;
[6]前記所定の電界が10~50V/cmである、[3]または[4]に記載のジルコニア仮焼体;
[7]前記所定の電界を印加する保持時間が1分以上である、[2]~[6]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体;
[8]さらに2.0~10.0mol%のイットリアを含む、[1]~[7]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体;
[9]焼成後に得られるジルコニア焼結体の励起波長366nmの蛍光スペクトルが430~500nmの範囲であり、前記範囲内の最大蛍光強度は、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まず、かつ電界印加履歴を有しないジルコニア仮焼体を同一焼成条件で焼成したジルコニア焼結体の励起波長366nmの蛍光スペクトルの前記範囲内の最大蛍光強度を100%と定義した場合において、150%以上である、請求項2~8のいずれか1項に記載のジルコニア仮焼体;
[10]3点曲げ強さが70MPa以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体;
[11]歯科用である、[1]~[10]のいずれかに記載のジルコニア仮焼体;
[12]試料に5~100V/cmの電界を印加する工程を含み、前記試料は電界未印加のジルコニア成形体または電界未印加のジルコニア仮焼体である、[1]~[11]のいずれかに記載の焼成後に蛍光性ジルコニア焼結体が得られるジルコニア仮焼体の製造方法;
[13]試料を所定の温度範囲で加熱する過程で所定の電界を印加し、
前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも低い温度であり、
前記所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象が生じない範囲の電界である、[12]に記載の製造方法;
[14]前記所定温度は、600~1200℃である、[13]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蛍光剤を含ませることなく蛍光性ジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体およびこのようなジルコニア仮焼体を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る蛍光性ジルコニア焼結体の蛍光強度の評価位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、所定の温度で焼結させた際の励起波長366nmの蛍光スペクトルが430~500nmである、ジルコニア仮焼体に関する。なお、以下の記載は本発明を限定するものではない。本発明のジルコニア仮焼体から得られるジルコニア焼結体は、蛍光性を示すジルコニア焼結体(以下、蛍光性ジルコニア焼結体ともいう。)である。本発明によって、ジルコニア仮焼体を焼成することによって、所定の蛍光性物質を含まず、透光性の低下が抑制された、蛍光性を示すジルコニア焼結体を得ることができる。本発明の焼成後に蛍光性を発現するジルコニア仮焼体を、以下、「焼成後蛍光発現性ジルコニア仮焼体」、または単に「ジルコニア仮焼体」という。
【0014】
本発明の焼成後蛍光発現性ジルコニア仮焼体は、具体的には、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まない。本発明のジルコニア仮焼体は、酸化ジルコニウム(ZrO2)を主成分し、安定化剤を含むものが好ましい。本発明において、「主成分」とは、一番含有量が多い成分を意味する。安定化剤としては、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、イットリア(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化ランタン(La2O3)、酸化エルビウム(Er2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)、酸化サマリウム(Sm2O3)、酸化ユウロピウム(Eu2O3)および酸化ツリウム(Tm2O3)等の酸化物が挙げられ、イットリアが好ましい。また、ハフニア(HfO2)は天然のジルコニアに約2質量%以下で含まれ得るものである。ある好適な実施形態としては、ジルコニア仮焼体は、ジルコニアを主成分し、イットリアと、ハフニア(約2質量%以下)を含んでいてもよい。ある好適な実施形態としては、ジルコニア仮焼体は、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まない。ジルコニア仮焼体がジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を0.0001wt%以上含む場合、透光性が低下する。
【0015】
本発明のジルコニア仮焼体は、電界印加履歴を有することが好ましい。前記電界印加履歴によって、焼成後に、前記した蛍光性物質を含まないにも関わらず、蛍光性を示すことができる。
【0016】
本発明のある好適な実施形態では、前記電界印加履歴は、酸化ジルコニウムを主成分し、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まない試料を所定温度まで昇温する過程において、前記試料に所定の電界を印加するものであり、前記試料は電界未印加のジルコニア成形体(以下、「電界未印加ジルコニア成形体」ともいう。)または電界未印加のジルコニア仮焼体(以下、「電界未印加ジルコニア仮焼体」ともいう。)である。電界未印加ジルコニア成形体および電界未印加ジルコニア仮焼体のそれぞれにおける酸化ジルコニウムの含有率は、80質量%以上が好ましく、85質量%がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、92質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよい。電界の印加によって成分量は変化しないため、焼成後蛍光発現性ジルコニア仮焼体における酸化ジルコニウムの含有率も、電界未印加ジルコニア仮焼体と同様である。
【0017】
ある好適な実施形態では、電界未印加ジルコニア成形体および電界未印加ジルコニア仮焼体は、ZrO2にY2O3を分散固溶させたものであってもよい。また、他のある好適な実施形態では、電界未印加ジルコニア成形体および電界未印加ジルコニア仮焼体は、Y2O3は原料粉末に対して2~10.0mol%のY2O3を含むものであってもよい。該実施形態では、Y2O3の含有率は原料粉末に対して2~8mol%であり、2~6mol%であり、2~4.5mol%であってもよい。原料粉末に対するY2O3の含有率とは、原料粉末に含まれるジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合を意味する。ZrO2にY2O3を分散固溶させる方法は、特に限定されないが、ZrO2の前駆体(例えば、オキシ塩化ジルコニウム(ZrOCl2)およびその八水和物等)と、Y2O3の前駆体(例えば、塩化イットリウム(YCl3)およびその六水和物等)とを必要に応じて溶媒の存在下に混合し、得られる混合物または混合液を酸化物への反応工程に供する方法等が挙げられる。酸化物への反応工程としては、例えば、ゾルゲル法、共沈法などが挙げられる。電界未印加ジルコニア成形体の製造方法は特に限定されず、例えば、ジルコニアとイットリアとを含む混合粉末をプレス成形する工程を含む製造方法で製造できる。前記製造方法において、プレス成形時の圧力は、175MPa以上であってもよく、ジルコニア仮焼体の嵩密度を高める場合、190MPa以上であってもよく、200MPa以上であってもよく、215MPa以上であってもよく、220MPa以上であってもよい。また。プレス成形する際の圧力の上限は、特に限定されず、600MPa以下であってもよく、500MPa以下であってもよく、400MPa以下であってもよい。必要に応じて、さらにプレス成形体にCIP成形を行って電界未印加ジルコニア成形体を得てもよい。電界未印加ジルコニア仮焼体は、前記電界未印加ジルコニア成形体を、仮焼することで得られる。仮焼温度としては、特に限定されず、800~1200℃であってもよい。仮焼温度は、特に限定されず、850℃以上であってもよく、900℃以上であってもよく、950℃以上であってもよい。また、仮焼温度は、1150℃以下であってもよく、1100℃以下であってもよく、1050℃以下であってもよい。
【0018】
本発明のある好適な実施形態では、前記電界印加履歴としては、昇温過程において、所定温度(目的の最終昇温到達温度)は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度(フラッシュ現象が生じる温度)よりも低い温度であることが好ましい。また、前記電界印加履歴において、昇温過程において電界を印加する際の所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象(フラッシュ現象)が生じない範囲の電界であることが好ましい。フラッシュ現象が発生すると、急激にジルコニア仮焼体が収縮し、強度が高くなりすぎ、電界印加後に切削加工できなくなる。
【0019】
また、本発明のある好適な実施形態においては、ジルコニア仮焼体の焼成後に得られるジルコニア焼結体が高い蛍光強度を示す点から、前記所定の電界が5~100V/cmであることが好ましく、10~50V/cmであることがより好ましく、より均一な蛍光性が得られ、かつ高い蛍光強度が得られる点から、20~40V/cmであることがさらに好ましい。
【0020】
本発明のある好適な実施形態においては、電界の印加時間は1分以上印加してもよい。これにより、ジルコニア焼結体の蛍光強度を高めることができる。また、所定の電界を印加する保持時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上である。所定の電界の印加を所定の時間保持することで、従来のジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含有しないジルコニア焼結体では発現しない蛍光性を有するセラミックを製造できる。
【0021】
本発明のジルコニア仮焼体を焼成して、高い蛍光強度を示すジルコニア焼結体が得られる。ジルコニア仮焼体の焼成における加熱温度は、特に限定されず、1200~1650℃であってもよい。該加熱温度は、例えば、1400℃以上が好ましく、1450℃以上がより好ましい。また、該加熱温度は、例えば、1650℃以下が好ましく、1600℃以下がより好ましい。
【0022】
ジルコニア焼結体が蛍光性ジルコニア焼結体となる本発明のジルコニア仮焼体は、歯科材料として加工しやすい点から、3点曲げ強さが70MPa以下であることが好ましく、歯科用CAD/CAMシステムで切削加工しやすい点から、65MPa以下であることがより好ましく、60MPa以下であることがさらに好ましい。
【0023】
本発明のジルコニア仮焼体を焼結して得られる蛍光性ジルコニア焼結体は、励起波長366nmの蛍光スペクトルが430~500nmである。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度(最大蛍光強度)の下限は、株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100で測定した際に45以上が好ましく、50以上がより好ましく、55以上がさらに好ましく、60以上が特に好ましい。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度が45以上だと、人間の歯としての蛍光性が十分である。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度の上限は、株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100で測定した際に2000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1200以下がさらに好ましく、800以下が特に好ましい。430~500nmの範囲での蛍光スペクトルの最大ピーク強度が2000以下だと蛍光性が強すぎず、人間の歯としては不自然に見えない。また、ある好適な実施形態では、蛍光性ジルコニア焼結体が430~500nmの範囲で有する最も高い蛍光強度(最大蛍光強度)は、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まず、かつ電界印加履歴を有しないジルコニア仮焼体を同一焼成条件で焼成したジルコニア焼結体の励起波長366nmの蛍光スペクトルの前記範囲内の最大蛍光強度を100%と定義した場合において、150%以上であることが好ましく、165%以上であることがより好ましく、180%以上であることがさらに好ましく、200%以上が特に好ましい。150%以上であれば、人間の天然歯と比べて十分な蛍光性を有する。また、前記最大蛍光強度の上限は、6500%以下が好ましく、5000%以下がより好ましく、4000%以下がさらに好ましく、2500%以下が特に好ましい。前記範囲内であれば、人間の歯として不自然に見えない。
【0024】
本発明のジルコニア仮焼体は着色剤を含んでいてもよい。ジルコニア仮焼体が着色剤を含むことにより着色されたジルコニア焼結体を作製できる。着色剤の種類に特に制限はなく、セラミックスを着色するために一般的に使用される公知の顔料や、公知の歯科用の液体着色剤などを用いることができる。着色剤としては金属元素を含むものなどが挙げられ、具体的には、鉄、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、マンガン等の金属元素を含む酸化物(例えば、Al2O3、TiO2、Fe2O3)、複合酸化物((Zr,V)O2、Fe(Fe,Cr)2O4、(Ni,Co,Fe)(Fe,Cr)2O4・ZrSiO4、(Co,Zn)Al2O4等)、塩などが挙げられる。また市販されている着色剤を用いることもでき、例えば、Zirkonzahn社製のPrettau Colour Liquidなどを用いることもできる。ジルコニア仮焼体は1種の着色剤を含んでいてもよいし、2種以上の着色剤を含んでいてもよい。
【0025】
ジルコニア仮焼体における着色剤の含有量に特に制限はなく、着色剤の種類や本発明のジルコニア仮焼体から作製可能なジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯科用補綴物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア仮焼体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
【0026】
本発明のジルコニア仮焼体は2.0~10.0mol%のイットリアを含むことが好ましい。ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率が2.0mol%未満の場合には蛍光性ジルコニア焼結体において十分な透光性が得られない。また、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有量が10.0mol%を超える場合には蛍光性ジルコニア焼結体において強度が低下する。透光性および強度により優れた蛍光性ジルコニア焼結体が得られることなどから、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率は、2.5mol%以上であることがより好ましく、3.0mol%以上であることがさらに好ましく、4.0mol%以上であることが特に好ましく、また、9.0mol%以下であることがより好ましく、8.0mol%以下であることがさらに好ましく、7.0mol%以下であることが特に好ましい。なお、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(mol%)を意味する。蛍光性ジルコニア焼結体におけるイットリアの含有率は、ジルコニア仮焼体におけるイットリアの含有率と同様である。
【0027】
また、本発明のジルコニア仮焼体から得られる蛍光性ジルコニア焼結体としては、
図1に示されるように、一端Pから他端Qに向かう第1方向Yに延在する直線上において、前記一端Pから全長の25%までの区間にある第1点Aの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmであり、当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、前記他端Qから全長の25%までの区間にある第2点Dの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmであり、当該範囲内の第2点Dの最大強度が前記第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましい。本実施形態によれば、実質的にジルコニア、イットリア、ハフニア以外の蛍光性物質を含まないにもかかわらず、均一な蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体を提供することができる。第2点Dの最大強度が前記範囲にあることで、ブラックライト等の紫外線照射環境下における目視において、人工歯で治療した部位を有していても歯の部位による見え方の違いを他者が感じることを抑制できる。第2点Dの最大強度は、第1点Aの最大強度の75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。言い換えると、他の実施形態としては、Pr、Sm、Eu、Ga、Gd、Tm、Nd、Dy、Tb、Er、およびBiの化合物を0.0001wt%以上含まないジルコニア仮焼体であり、前記ジルコニア仮焼体から得られる焼成後のジルコニア焼結体が蛍光性ジルコニア焼結体であり、該蛍光性ジルコニア焼結体において、一端から他端に向かう第1方向に延在する直線上において、前記一端から全長の25%までの区間にある第1点Aの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmであり、当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、前記他端から全長の25%までの区間にある第2点Dの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmであり、当該範囲内の第2点Dの最大強度が前記第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲である、ジルコニア仮焼体が挙げられる。蛍光強度の測定は市販品(株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100等)を用いることができる。蛍光強度の機種間スペクトルの補正にローダミンBを用いることができる。蛍光強度の測定は、試料をマスクして測定することで部位特異的に別々に測定できる。また、例えば、目視確認で、蛍光発光が強い部分と蛍光発光が弱い部分をそれぞれ測定すると、差が30%を超え(例えば、前記第2点Dの最大強度が第1点Aの最大強度の70%未満または130%超の場合)、不均一な蛍光発光となる。
【0028】
図1の蛍光性ジルコニア焼結体において、一端Pから他端Qを結ぶ直線上の点として第1点Aと第2点Dの間の点を第3点Bとする。第3点Bの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmであり、第1点Aの当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、第3点Bの最大強度は、第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。また、第2点Dとの関係において、第2点Dの最大強度を100%と定義した場合において、第3点Bの最大強度は、第2点Dの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第3点Bの最大強度が前記範囲にあることで、ブラックライト等の紫外線照射環境下における目視において、人工歯で治療した部位を有していても歯の部位による見え方の違いを他者が感じることを抑制できる。
【0029】
さらに、第3点Bと第2点Dの間の点を第4点Cとする。第4点Cの励起波長366nmの蛍光スペクトルの蛍光波長が430~500nmであり、第1点Aの当該範囲内の最大強度を100%と定義した場合において、第4点Cの最大強度は、第1点Aの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。また、第2点Dとの関係において、第2点Dの最大強度を100%と定義した場合において、第4点Cの最大強度は、第2点Dの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第3点Bとの関係において、第3点Bの最大強度を100%と定義した場合において、第4点Cの最大強度は、第3点Bの最大強度の70%以上130%以下の範囲であることが好ましく、75%以上125%以下の範囲であることがより好ましく、80%以上120%以下の範囲であることがさらに好ましく、90%以上110%以下の範囲であることが特に好ましい。第4点Cの最大強度が前記範囲にあることで、ブラックライト等の紫外線照射環境下における目視において、人工歯で治療した部位を有していても歯の部位による見え方の違いを他者が感じることを抑制できる。
【0030】
本発明のジルコニア仮焼体の製造方法は、酸化ジルコニウムを主成分とする電界未印加のジルコニア成形体またはジルコニア仮焼体である試料を所定の温度範囲で加熱する過程で所定の電界を印加し、ジルコニア仮焼体を製造する。
【0031】
本発明のジルコニア仮焼体の製造方法は、電界未印加のジルコニア成形体またはジルコニア仮焼体から得られる従来のジルコニア焼結体では発現しない蛍光性を有する蛍光性ジルコニア焼結体を作製可能なジルコニア仮焼体を提供する。
【0032】
電界印加時の所定温度の下限は600℃が好ましく、上限は1200℃が好ましい。上限値は例えば、1000℃であってもよく、950℃であってもよく、900℃であってもよい。電界印加時の所定温度が600℃未満の場合、均一な蛍光性が得られず、1200℃を超える場合、ジルコニア仮焼体の強度が高くなりすぎ、ジルコニア仮焼体の切削(ミリング)が困難となる。所定温度まで昇温しながら電界を印加する場合、所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象(フラッシュ現象)が生じない範囲の電界であることが好ましい。
【0033】
電界は、5~100V/cmの範囲であることが好ましく、10~50V/cmの範囲であることがより好ましく、15~45V/cmの範囲であることがさらに好ましく、20~40V/cmの範囲であることが特に好ましい。電界が前記範囲内にあることで、均一な蛍光性が得られ、かつ高い蛍光強度が得られる。
【0034】
電界の印加方法としては、試料を所定温度まで昇温した後に、所定の電界を印加してもよい。前記所定温度は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加するフラッシュ焼結温度よりも低い温度であることが好ましい。所定の電界は、前記試料に電界を印加しながら昇温した場合に該試料に流れる電流が急激に増加する現象(フラッシュ現象)が生じない範囲の電界であることが好ましい。フラッシュ現象が発生すると、急激にジルコニア仮焼体が収縮し、強度が高くなりすぎ、電界印加後に切削加工できなくなる。
【0035】
電界の印加時間は1分以上印加してもよい。これにより、ジルコニア仮焼体から得られるジルコニア焼結体の蛍光強度を高めることができる。
【0036】
本発明のジルコニア仮焼体を焼成して得られる蛍光性ジルコニア焼結体は、厚さ1.2mmにおいて、ΔL*(W-B)が5以上であるものが好ましい。ΔL*(W-B)は、白色背景での明度(L*)と、黒色背景での明度(L*)との差を意味する。具体的には、白色背景でのL*値(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L*a*b*色空間)と、黒色背景でのL*値の差を意味する。白色背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒色背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。厚さ1.2mmにおけるΔL*(W-B)は分光測色計を用いて測定でき、例えば、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、「CM-3610A」、幾何条件c(di:8°、de:8°)、拡散照明:8°受光、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm)を用い、測定し、コニカミノルタ株式会社製色彩管理ソフトウェア「SpectraMagic NX ver.2.5」を使用して算出することができる。当該測定においては、光源はF11を用いることで求めることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等によって限定されるものではない。なお、各物性の測定方法は以下のとおりである。
【0038】
(実施例1)
ジルコニアの原料粉末として市販の部分安定化ジルコニア粉末を用いた。東ソー株式会社製TZ-3Y(イットリア含有率:3mol%)を使用した。この原料粉末を5×5×15mmの直方体が得られるように3MPaでプレス成形し、次に、プレス成形体に対して100MPaでさらにCIP処理を施して電界未印加のジルコニア成形体を作製した。作製したジルコニア成形体の長手方向の両端面に、電極として白金(Pt)箔をPtペーストにより固定した。次に、電極が固定された試料を、DCおよびAC電源を接続できるように改造を施した示差熱膨張計(Thermo plus EVO2 TMA8301:株式会社リガク製)に設置した。そして、この試料を900℃まで昇温しながら、試料に30V/cmの電界を交流1000Hzの条件で印加した。フラッシュ現象は起きなかった。その後、900℃で1時間保持した後、電圧印加を停止して自然冷却を行い、ジルコニア仮焼体を得た。次いで、得られたジルコニア仮焼体をさらに常圧下1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。電界印加時の最終昇温到達温度を表1に示す。
【0039】
(実施例2)
実施例1で作製した電界未印加のジルコニア成形体を1000℃で2時間焼成することで電界未印加のジルコニア仮焼体を得た。試料として得られたジルコニア仮焼体を用いる以外は実施例1と同様にして電界を印加し、ジルコニア仮焼体を得た。次いで、得られたジルコニア仮焼体をさらに常圧下1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0040】
(実施例3)
実施例2で作製した電界未印加のジルコニア仮焼体を試料として用いた。電界印加時の温度を800℃とする以外は実施例2と同様にして電界を印加し、ジルコニア仮焼体を得た。次いで、得られたジルコニア仮焼体をさらに常圧下1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0041】
(実施例4)
実施例2で作製した電界未印加のジルコニア仮焼体を試料として用いた。印加する電界を20V/cmとする以外は実施例2と同様にして電界を印加し、ジルコニア仮焼体を得た。次いで、得られたジルコニア仮焼体をさらに常圧下1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0042】
(実施例5)
実施例2で作製した電界未印加のジルコニア仮焼体を試料として用いた。印加する電界を10V/cmとする以外は実施例2と同様にして電界を印加し、ジルコニア仮焼体を得た。次いで、得られたジルコニア仮焼体をさらに常圧下1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0043】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でジルコニア成形体を作製した。得られたジルコニア成形体を1000℃で2時間焼成することでジルコニア仮焼体を得た。得られたジルコニア仮焼体を1500℃において2時間焼成した。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示さなかった。
【0044】
(比較例2)
東ソー株式会社製TZ-3Y(イットリア含有率:3mol%)に、酸化ビスマス(Bi2O3)の含有量が0.02質量%となるように添加して、十分に混合しジルコニア粉末を得た。得られたジルコニア粉末から実施例1と同様の方法でジルコニア成形体およびジルコニア焼結体を得た。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0045】
(比較例3)
実施例2で作製した電界未印加のジルコニア仮焼体を試料として用いた。印加する電界を30V/cm、交流1000Hz、制限電流値1200mAでフラッシュ焼結させた。電界の印加を保持する保持時間は試料電流が最高値に到達後15分である。保持温度は、試料電流が制限電流値に到達した温度となる。得られた焼結体を366nmUV光下で観察したところ青白い蛍光を示した。
【0046】
(蛍光強度測定)
実施例1~5および比較例1~3で得られた焼結体を用いて蛍光強度を測定した。蛍光強度は株式会社日立ハイテクサイエンス製分光蛍光光度計F-7100を用いて蛍光モードで励起波長を366nmとし蛍光スペクトルを測定した(n=3)。蛍光強度の機種間スペクトルの補正にローダミンBを用いた。得られたスペクトルの蛍光波長が430から500nmの範囲で最も高い強度を示した蛍光波長を最大波長、最大波長の強度を最大強度とした。結果を表1に示す。
【0047】
(透光性測定)
実施例1~5および比較例1~3で得られた焼結体を厚み1.2mmとなるように#600耐水性研磨紙にて研磨した。研磨したジルコニア焼結体を用いて透光性を測定した。透光性は、色差計CE100(オリンパス株式会社製)、解析ソフトクリスタルアイ(オリンパス株式会社製)を用いて測定した、L*a*b*表色系(JIS Z 8781-4:2013)における色度(色空間)のL*値を用いて算出した(n=1)。焼結体の試料の背景を白色にして測定したL*値を第1のL*値(L*(W))とし、第1のL*値を測定した同一の試料について、試料の背景を黒色にして測定したL*値を第2のL*値(L*(B))とし、第1のL*値から第2のL*値を控除した値(△L*(W-B))を、透光性を示す数値とした。試料の測定面には、屈折率nDが1.60の接触液を塗布した。白色背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒色背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。結果を表1に示す。
【0048】
(強度測定)
実施例1~5および比較例1,2で得られた仮焼体と比較例3で得られた焼結体を厚み1.2mmとなるように#600耐水性研磨紙にて研磨した。強度(3点曲げ強さ)の測定はISO 6872:2015に準拠して実施した(n=3)。測定値の平均値を表1に示す。
【0049】
【0050】
実施例1~5では最大強度も高く、透光性も高い結果であった。また強度が低いため加工が容易である。比較例1では透光性は高かったが青白い蛍光を示さず、最大強度も低かった。比較例2では蛍光性について最大強度は45以上であったものの、透光性が低かった。比較例3は蛍光性について最大強度も高く、透光性も高かったが、強度が高すぎ、加工は困難である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のジルコニア仮焼体は、工業用の研磨材および研削材、歯科用のセラミック材料、電気導電性を利用した固体電解質膜材料、センサ用セラミック材料の製造に利用が可能であり、特に歯科用のセラミック材料に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0052】
10 蛍光性ジルコニア焼結体
A 第1点
B 第3点
C 第4点
D 第2点
P 一端
Q 他端
L 全長
Y 第1方向