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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】キックセンサの取付け構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 19/48 20060101AFI20240702BHJP
   E05F 15/73 20150101ALI20240702BHJP
   F16B 5/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60R19/48 L
E05F15/73
F16B5/06 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020100631
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021194934
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】竜口 賢一
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127804(JP,A)
【文献】実開昭63-147916(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/48
E05F 15/73
F16B 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視略リアバンパーの湾曲面を形成する内法形状に沿う横長の弓状をした薄箱状をなし、両端部に隆起部を形成したキックセンサケースと、
前記キックセンサケースに収納され、前記隆起部間に左右方向に延設された静電容量センサと、を有するキックセンサと、
前記リアバンパーの裏面の緩斜面部分と後端部の立ち上がり部分との接合部の近傍の前記隆起部の位置に対応する個所に車両の前方向に突設され、前記キックセンサケースの固定用孔が穿設された舌片と、を有し、
前記隆起部は、平面視略三角形の浮き上がり状に形成して前記隆起部の下方の隆起空間を前記舌片の挿入空間にすると共に、前記略三角形の底辺を前記リアバンパーへの当接面とし、前記当接面に開口部を設けて、前記舌片を前記挿入空間に挿入可能に構成し、
前記隆起部の前記平面視略三角形の中央部には固定用孔が穿設され、
前記舌片のそれぞれの前記固定用孔とそれぞれの前記隆起部の前記固定用孔とを連結具により連結固定するよう構成したことを特徴とするキックセンサの取付け構造。
【請求項2】
前記平面視略三角形に形成された前記隆起部の両斜辺には、それぞれの前記斜辺に沿った長孔を形成し、
前記舌片は、先端を狭くした略四辺形に形成され、前記挿入空間の奥まで挿入されると前記舌片の両隅部分がそれぞれ前記長孔から突出し、前記隆起部の前記略三角形の頂点の内壁に係止して、前記突出部分を前記長孔の上下端縁部で挟持するよう、又は前記長孔の下端縁部に当接して下方に押圧するよう構成したことを特徴とする請求項1に記載のキックセンサの取付け構造。
【請求項3】
前記連結具は、グロメットクリップである請求項1又は請求項2に記載のキックセンサの取付け構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両のバックドアの開閉に用いられるキックセンサの取付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の背面側のバックドアからラゲージスペースに荷物を入れる場合において、荷物を抱えたままの状態でバックドアを開けるのはユーザの負担が大きいという問題があった。このような課題を解決してユーザの利便性を図るために、車両の背面下部にキックセンサを設け、車両の背面下部に足を差し入れる動作をすると、この動作を検出してバックドアを自動的に開き、もう一度同様の動作をすると、バックドアが自動的に閉じる機能を備えた車両が増えてきている。
【0003】
キックセンサは、ユーザが足先を車両の背面下部に差し入れたことを検出するセンサである。ユーザが足を差し入れる動作は、外見上「蹴る」動作になり、その動作を検出することから、前記足を差し入れたことを検出するセンサは、一般に「キックセンサ」と呼ばれている。このキックセンサを用いることにより、ユーザが荷物を持ったまま、閉状態のバックドアに近づき、足先を車両の背面下部に差し入れると、キックセンサはこれを検出し、バックドアを開制御して自動的に開き、バックドアからラゲージスペースに荷物を入れた後、ユーザがもう一度同様の動作を行うと、バックドアを閉制御して自動的に閉じる機能を実現することができる。
【0004】
キックセンサは、ユーザの足先が車両の背面下部に差し入れられたことを非接触で検出するものである。非接触でユーザの足先の有無を検出するために採用され得る方式として、一般に、静電容量式と超音波式が知られている。静電容量式は、例えば、発振回路とこれに接続されたコンデンサを形成する電極とからなり、この電極にユーザの足先が近接することにより前記コンデンサの容量が変化することを検出してバックドアを開閉制御するように構成しているものである。超音波式は、超音波発振器にユーザの足先が近接することにより超音波が足先に当たって戻ってくるエコーを検出してバックドアを開閉制御するように構成しているものである。
【0005】
そして、これらのキックセンサは、車両の背面下部にユーザの足先が差し入れられたことを非接触で確実に検出する必要があるために、足先を近接することができる車両の背面下部の奥深くない位置に取り付けることが望ましい。さらに、車両の車体を構成する鋼板などの金属ボディの内側に取り付けたのでは、静電容量式の場合には、電気的に遮蔽されてしまい前記コンデンサ容量の変化を検出することが困難となり、超音波式の場合には、超音波が鋼板に当たって戻ってくるため対象物を検出できないという問題がある。
【0006】
また、車両底面の外側やリアバンパーの外面に取り付けたのでは雨水や泥、塵埃等の影響を受けて汚損するばかりか、特にリアバンパーの外面に取り付けた場合には、意匠的にも好ましくない。このため、外から視認できない車両の底面の室内側や樹脂製のリアバンパーの裏面に取り付けることとなる。静電容量式の場合には、樹脂が導体ではないことから、センシング領域が樹脂の影響をほとんど受けないために、樹脂製のリアバンパーの裏面に取り付けて使用することができる。
【0007】
特許文献1には、車両下部構造において、キックセンサの配置領域に異物が入り込むことを抑制して、誤動作を防止するために、リアバンパカバーと、車両のフロアパネルよりも下方側で、かつ、前記リアバンパカバーに対し車両の前方側に設けられたアンダーカバーと、車両幅方向に延伸している信号線、及び信号線上に配置されたセンサ部を有するキックセンサと、を備え、前記キックセンサは、前記リアバンパカバー及び前記アンダーカバーの接続体に囲まれ車両外部から隔離されて前記フロアパネルの側に形成された閉断面空間の内側に配置されている車両下部構造が開示されている。
【0008】
本開示に係る車両下部構造において、リアフロアカバーは、フロアパネルの側を向く内壁面と一体化されて突き出し、所定の縦壁厚さを有する複数のフロアカバーリブ部を有し、キックセンサは、信号線の外周側を包み込んで支持する信号線保持部、及び信号線保持部と一体化され、かつ、車両前後方向に開閉可能なクリップ部を含み、信号線の延伸方向に沿って複数配置されたキックセンサ係止部と、を有し、クリップ部がフロアカバーリブ部に係止されている。
【0009】
上記構成によれば、キックセンサは、クリップ部でフロアカバーリブ部を挟み込んで信号線を係止することができる。これにより、キックセンサは、リアフロアカバーに対し着脱自在に取り付け固定できるので、例えば、両面接着シート等を用いて固定した場合と異なり、キックセンサの取替が可能となり、信号線の固定作業が容易となり、両面接着シート等の固定用部品のコストを削減でき、取り付け作業工数も削減できるというものである。
【0010】
特許文献2には、車体に対するセンサの向きが変化することを抑制することができる車両用センサの取り付け構造を提供するために、車体の骨格を構成するフレーム部材、または前記フレーム部材に一体化された剛性部材を備え、前記フレーム部材または前記剛性部材には、前記車体の外側に向いて開口した樋状の凹部が形成され、前記凹部に、前記センサが取り付けられていることを特徴とする車両用センサの取り付け構造が開示されている。
【0011】
本開示に係る車両下部構造において、車体の骨格を構成するフレーム部材、またはそのフレーム部材に一体化された剛性部材に、車体の外側に向いて開口した樋状の凹部が形成され、その凹部に、車両の周囲の状況を検出するセンサが取り付けられている。したがって、センサが取り付けられている部分の剛性を比較的高くすることができるので、車両が振動した場合などであっても、車体の向く方向とセンサが向く方向とにずれが生じることを抑制することができ、センサの検出誤差を低減することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2019-127804号公報
【文献】特開2017-065636号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示された車両下部構造は、キックセンサをリアフロアカバー若しくはリアバンパーの裏面に直接取り付ける構造、又は係爪付プレートに取り付けてから、前記係爪付プレートを両面接着シート若しくはボルト・ナットなどの締結具を用いてリアバンパーの裏面に取り付ける構造であるために、例えば、係止爪が折損した場合には、係爪付プレートを交換しなければならず、しかも、その交換が必ずしも容易ではないという問題がある。
【0014】
また、キックセンサをリアバンパーの裏面に取り付ける構造の場合においては、前記リアバンパーの裏面の略平坦な部分に取り付けることとなるため、車両の背面下部の奥まった位置にキックセンサが配設されることとなり、ユーザの足先を奥の方まで差し入れないと検出されにくいという問題点がある。
【0015】
特許文献2に開示された車両用センサの取り付け構造は、車両の内側に窪んだ凹部を形成し、その凹部にセンサをボルトなどにより固定、又はブラケットを設け、ブラケットにおける車体の外側を向いた面にセンサを固定するものであるため、そのままでは、キックセンサの取付け構造としては、適用することができないという問題点がある。
【0016】
本発明は、キックセンサケースをリアバンパーの裏面の後端部に取り付け可能とし、かつ、取り付けの作業性を改善すると共に、車両の走行に伴う振動の影響を受け難いキックセンサの取付け構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係るキックセンサの取付け構造は、
平面視略リアバンパーの湾曲面を形成する内法形状に沿う横長の弓状をした薄箱状をなし、両端部に隆起部を形成したキックセンサケースと、
前記キックセンサケースに収納され、前記隆起部間に左右方向に延設された静電容量センサと、を有するキックセンサと、
前記リアバンパーの裏面の緩斜面部分と後端部の立ち上がり部分との接合部の近傍の前記隆起部の位置に対応する個所に車両の前方向に突設され、前記キックセンサケースの固定用孔が穿設された舌片と、を有している。
【0018】
前記隆起部は、平面視略三角形の浮き上がり状に形成して前記隆起部の下方の隆起空間を前記舌片の挿入空間にすると共に、前記略三角形の底辺を前記リアバンパーへの当接面とし、前記当接面に開口部を設けて、前記舌片を前記挿入空間に挿入可能に構成し、
前記隆起部の前記平面視略三角形の中央部には固定用孔が穿設され、
前記舌片のそれぞれの前記固定用孔とそれぞれの前記隆起部の前記固定用孔とを連結具により連結固定するよう構成している。
【0019】
前記平面視略三角形に形成された前記隆起部の両斜辺には、それぞれの前記斜辺に沿った長孔を形成し、
前記舌片は、先端を狭くした略四辺形に形成され、前記挿入空間の奥まで挿入されると前記舌片の両隅部分がそれぞれ前記長孔から突出し、前記隆起部の前記略三角形の頂点の内壁に係止して、前記突出部分を前記長孔の上下端縁部で挟持するよう、又は前記長孔の下端縁部に当接して下方に押圧するよう構成している。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、前記リアバンパーの裏面後端部への取り付けは、前記キックセンサケースの両側端部及び前記舌片に設けた固定用孔を利用して、グロメットクリップを用いてワンタッチで止めることができる。
【0021】
また、前記開口部から舌片を挿入すると、前記舌片は前記開口部及び舌片の挿入空間である隆起空間のいずれかの当接する個所で保持されるために、キックセンサは、前記緩斜面部分の傾斜に沿って前方にずれる力が働いても、前記保持の作用により前方にずれることを防止できる。これにより、簡単な作業で確実に取り付けることができ、作業性を格段に改善することができる。
【0022】
また、キックセンサケースに形成した隆起部下方の隆起空間にリアバンパーの裏面から突設した舌片を挿入して連結する構造としているため、前記キックセンサを、リアバンパーの裏面の接合部側に取り付けることができる。これにより、キックセンサをユーザの足先に近い位置に取り付けることができるためキックセンサの感度を向上させることができ、足先を車両の背面下部の奥の方まで差し入れないと検出されにくいという問題点を解消することができる。
【0023】
また、前記隆起空間は、開口部側の幅員を広く、奥になるほど狭くなるテーパ状に形成されており、しかも、舌片は、その根元部分の幅員を広く、その先端部分をやや狭く形成しているために、舌片の隆起空間への挿入を容易にすることができる。これにより、キックセンサの取り付けの容易化と品質の向上を図ることができる。
【0024】
また、前記開口部から挿入された舌片の隅部分は、長孔から突出して前記長孔の上下端縁部で挟持又は下方に押圧するように構成されており、しかも、キックセンサケースの座面は、リアバンパーの裏面に当接しているために、キックセンサは、前記舌片と、リアバンパーの裏面の緩斜面部分と、リアバンパーの裏面の後端の立ち上がり部分とに挟まれて強固に固定される。したがって、車両の走行に伴う振動の影響を受け難いキックセンサの取付け構造を提供することができる。
以上
【0025】
また、キックセンサが、リアバンパーの裏面の接合部の近傍に確実に密着して取り付けられているか否かは、隆起部の長孔から突出した舌片の隅部分の突出長が所定の寸法であるか否かで判断できるため、舌片が隆起空間の奥まで確実に挿入されていることを目視で判断することができ、挿入が不完全であることに起因する組立不良の発生を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明に係るキックセンサの取付け構造を示す模式側面図である。
図2】本発明に係るキックセンサの取付け構造を示す模式平面図である。
図3】コンデンサの概略構造図である。
図4】静電容量センサを用いたキックセンサの一例を示す回路構成図である。
図5】キックセンサケースの平面図である。
図6】キックセンサケースの構造を示す図5におけるA-A方向矢視断面図である。
図7】本発明に係るキックセンサの取付け状態を示す外観斜視図である。
図8】本発明に係るキックセンサの取付け状態を示す平面図である。
図9】本発明に係るキックセンサの取付け状態を示す図8におけるB-B方向矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<発明の構成>
本発明に係るキックセンサの取付け構造は、リアバンパーの裏面に車両の前方向に突設されて固定用孔が穿設された舌片と、両端部に隆起部を形成し当該隆起部には固定用孔が穿設され、かつ、前記隆起部のリアバンパー側に開口部を有する左右方向に延設されたキックセンサケースに静電容量センサを収納したキックセンサと、からなり、前記キックセンサケースは、前記リアバンパー裏面の後端部に配設され、前記開口部に前記舌片を挿入して前記固定用孔同士を連結手段により連結固定するように構成したものであり、
前記隆起部は、略三角形の浮き上がり状に形成して当該隆起部の下方を前記舌片の挿入空間とすると共に、前記略三角形の底辺を前記リアバンパーへの当接面とし、前記当接面に前記開口部を設けて、前記舌片を前記挿入空間に挿入可能に構成したものであり、
前記略三角形に形成された前記隆起部は、その両斜辺のそれぞれに長孔を形成し、前記舌片は先端を狭くした略四辺形に形成され、前記挿入空間に挿入された舌片は、その隅部分が前記長孔から突出し、当該突出部分が前記長孔の上下端縁部で挟持するよう、又は下端縁部に当接して下方に押圧するよう構成したものである。
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面により説明する。ただし、図面は模式的なものであり、細部の記載については省略している。また、各部の配置や寸法の比率等は必ずしも現実のものと一致するものではない。なお、各図において適宜示される矢印FRは車両の前方側を、矢印RRは車両の後方側を、矢印UPは車両の上方側を、矢印DWは車両の下方側を示し、矢印RHは車両の右側を、矢印LHは車両の左側を示している。また、以下の説明で特記なく前後、上下、左右の方向を用いる場合は、車両の前後方向の前後、車両の上下方向の上下、車両の進行方向を向いた場合の左右を示すものとする。
また、以下において、車両のバックドアは、跳ね上げ式について説明するが、これは説明のための例示であって、横開き式のバックドアであってもよい。
【0029】
図1は、自動車などの車両1における本発明に係るキックセンサの取付け構造を示す模式側面図である。また、図2は、図1の模式側面図で示す例を上から見た模式平面図である。以下の説明では、図1図2に示すように、車両1の背面側にバックドア2が設けられている車種を例に説明するが、車両1の両側面にスライド式のドアが設けられている車種にも適用できることはいうまでもない。
【0030】
まず、キックセンサ10が設けられていない車両1の場合には、例えば、両手で荷物4を抱えたユーザ3は、荷物4の積み降ろしを行うために、車両1の背面に設けられたバックドア2側に回る。しかし、ユーザ3は、荷物4を抱えているために、バックドア2を開けることができない。そこで、一旦荷物4を路面5に置き、バックドア2を開けてから路面5に置いた荷物4を持ち上げて、開いたバックドア2から車両1のラゲージスペース7へ搬入することになる。
【0031】
一方、キックセンサ10が設けられている車両1の場合には、図1図2に示すように、ユーザ3は荷物4を抱えたまま、足先6をリアバンパー30の下部(DW)に差し入れるキック動作を行う。キックセンサ10は、ユーザ3のキック動作を検知し、検知信号を出力する。
【0032】
図示しない制御装置は、キックセンサ10からのキック動作の検知信号によりバックドア2の自動開閉を行う。したがって、ユーザ3がキック動作を行うことによりバックドア2が自動的に開くため、ユーザ3は、荷物4を抱えたまま車両1のラゲージスペース7へ搬入することができ、利便性が格段に向上する。
【0033】
<キックセンサの原理>
ここで、キックセンサ10の原理について静電容量センサ20を使用した例を簡単に説明する。図3は、コンデンサの基本構成図である。コンデンサは、本図に示すように、誘電体が2つの金属板で挟まれた構造となっており、電極となる金属板を対向して配設することにより電荷の蓄積及び放出をすることができる。コンデンサが蓄積できる電荷Qは、Q=CVで表され、印加する電圧Vに比例する。そして、その比例係数であるCを静電容量とよんでいる。コンデンサの静電容量Cは、金属板等の導体の幾何学的な形状と両導体間の誘電体の誘電率により決まり、C=(ε×S)/dで表される。ここで、εは誘電体の誘電率、Sは金属板の面積、dは両金属板間の距離である。
【0034】
この、コンデンサの原理を静電容量センサ20としてキックセンサ10に応用した場合、静電容量センサ20は、導体で形成されているためコンデンサの一方の電極である金属板に該当する。また、ユーザ3は、路面5と同電位の電気の導体と考えてよいから、ユーザ3の足先6はコンデンサの他方の金属板に該当する。つまり、静電容量センサ20とユーザ3の足先6とでコンデンサが形成される。そうすると、両金属板間の距離dは、静電容量センサ20とユーザ3の足先6との距離となる。
【0035】
金属板の面積Sについては、静電容量センサ20の製造時に決定され、使用中に変化することはあり得ないので、一定と考えてよい。誘電体には空気及び樹脂で形成されたリアバンパー30が該当する。そして、空気の誘電率εは1である。したがって、(ε×S)は一定であるため、静電容量Cは、dに反比例し、C∝1/dの関係が成立する。
【0036】
すなわち距離dが小さくなれば静電容量Cは大きくなり、距離dが大きくなれば静電容量Cは小さくなる。したがって、ユーザ3の足先6をキックセンサ10に近づけると静電容量Cは大きくなり、足先6をキックセンサ10から遠ざけると静電容量Cは小さくなることが分かる。以上が、キックセンサ10の原理である。
【0037】
図4は、以上の原理に基づくキックセンサ10の一例を示す回路構成図である。センサ信号処理部21は、高周波発振回路22とキック動作検出回路23とから構成されている。高周波発振回路22は、コンデンサの容量CとコイルのインダクタンスLとから構成されており、静電容量センサ20に接続されている。ここで、静電容量センサ20と、ユーザ3の足先6が差し入れられたときに形成されるコンデンサの容量をC1とする。
【0038】
ここで、ユーザ3が車両1から離れている場合には、コンデンサの容量C1が形成されず、その容量C1は0(ゼロ)である。この場合における、高周波発振回路22の発振周波数fは(1)式で表される。そして、高周波発振回路22は、周波数fで常時発振している。
【0039】
【数1】
【0040】
次に、ユーザ3が足先6を静電容量センサ20に近接させると、静電容量センサ20と足先6との間でコンデンサの容量C1が形成される。このために、高周波発振回路22に接続されているコンデンサの容量は(C+C1)となる。そうすると、高周波発振回路22の発振周波数f1は、(2)式で表される。
【0041】
【数2】
【0042】
すなわち、高周波発振回路22の発振周波数は、fからf1に変化する。キック動作検出回路23は、この周波数のfからf1への変化を検出して、ユーザ3がキック動作を行ったと判断し、キック動作検出信号24を図示しない制御装置に出力する。図示しない制御装置は、このキック動作検出信号24に基づき、バックドア2を開閉制御する。
【0043】
しかし、単に、足先6を車両1の背面下部に差し入れただけでバックドア2が開閉するのであれば、第三者が悪意でバックドア2を開閉させることができるし、例えば、子犬などの小動物が車両1の背面下部に侵入するとバックドア2が開閉されるという不都合が生じ得る。そこで、実際の製品化においては、キック動作がされた場合、そのキック動作検出の際に、検出レベルや信号の持続時間等にスレッシュホールドを設けたり、当該行為者等が当該車両1のIDキーを所持しているか否かの認証を無線通信手段により行い、認証が成功した場合にのみバックドア2の開閉制御を行うなどの対策が取られている。
なお、図4に示す静電容量センサ20を使用したキック動作を検出する回路構成は、あくまでも一例であって、本図に示す回路構成例に限定されるものではない。
【0044】
<キックセンサ等の構造>
図5は、キックセンサ10を拡大した平面図である。キックセンサ10は、図2図5に示すように、平面視略横長の弓状をした薄箱状をなしている。そして、図1図2に示すように、車両1のリアバンパー30の裏面の後端部に左右方向に配設されている。すなわち、キックセンサ10は、車両1の背面における左右(RH、LH)方向に比較的広い範囲で、しかも、足先6をリアバンパー30の下部(DW)の奥(FR)にそれほど深く差し入れなくても足先6を検出できる位置に配設されている。
【0045】
キックセンサ10は、図5に示すように、平面視略横長の弓状をした薄箱状をなしたキックセンサケース11と、その内部に収納された静電容量センサ20及びセンサ信号処理部21とから構成されている。
【0046】
キックセンサケース11には、その前端(FR)及び後端(RR)に静電容量センサ挿通溝(以下、「センサ挿通溝」という。)12、12(図6参照)が左右方向(RH、LH)に形成され、当該センサ挿通溝12、12に、静電容量センサ20、20がそれぞれ挿通されている。そして、センサ挿通溝12、12の上端部(UP)には嵌合爪13、13が所定の間隔で配設されている。
【0047】
嵌合爪13は、図5図6に示すように、センサ挿通溝12の上端部に対向して形成され、左右方向に所定の間隔で配設されることによって、前記センサ挿通溝12に挿通された静電容量センサ20を収納保持するものである。
【0048】
センサ挿通溝12は、図6に示すように、キックセンサケース11の前端(FR)及び後端(RR)に所定の幅員及び深さを有する凹部を設けることにより形成されている。そして、各センサ挿通溝12には、静電容量センサ20がそれぞれ挿通されている。すなわち、図5に示す実施例においては、キックセンサケース11の前端(FR)及び後端(RR)に形成されたセンサ挿通溝12、12に合計2個の静電容量センサ20、20がそれぞれ挿通されている。そして、各静電容量センサ20、20は、センサ信号処理部21に接続されている。なお、図6において、センサ挿通溝12の底部に穿設されている抜孔11aは、キックセンサケース11を成形する際に、嵌合爪13を形成するための型抜による孔である。
【0049】
センサ信号処理部21は、先述のとおり、各静電容量センサ20、20からの信号に基づき、足先6を車両1の背面下部に差し入れるキック動作を前記周波数のfからf1への変化により検出し、前記図示しない制御装置にキック動作検出信号24を送出する信号処理部である。
【0050】
また、キックセンサケース11の左右両端には、キックセンサケース11をリアバンパー30の裏面後端部に取り付けるための略三角形の浮き上がり状とした隆起部14、14を形成している。そして、隆起部14の下方は、隆起空間17を形成し、リアバンパー30に突設された舌片31の挿入空間としている。
【0051】
リアバンパー30は、車両1の背面に配設されたバックドア2の下方後端部分を左右方向に覆うための湾曲面を形成する薄板であり、樹脂で成形されている。そして、リアバンパー30の裏面には、図7図8に示すように、キックセンサケース11を、前記隆起部14を介してリアバンパー30に連結固定するための舌片31、31が、前方(FR)に突設されている。
舌片31は、先端を狭くした略四辺形に形成され、その略中央部には固定用孔35(図9参照)が穿設されている。
【0052】
キックセンサケース11の隆起部14は、リアバンパー30と当接する後方側(RR)を前記略三角形の底辺とし、その底辺となる面に開口部15を設けている。
【0053】
開口部15は、リアバンパー30に突設された舌片31の挿入孔を構成している。また、隆起部14の左右の内側面は、開口部15から挿入された舌片31が前記隆起空間17の中へ容易に挿入できるように、開口部15側の幅員を広くし、奥になるほど狭くなるテーパ状に形成されている。また、隆起部14の前方側(FR)の両斜辺には、それぞれ長孔16、16が穿設されている。そして、隆起部14の略中央部には、前記舌片31と連結固定するための固定用孔18(図9参照)が穿設されている。
【0054】
<取付け構造>
次に、キックセンサ10をリアバンパー30の裏面に連結固定する構造について説明する。図7図8及び図9に示すように、キックセンサ10は、車両1の底面におけるリアバンパー30の裏面の緩斜面部分32と後端部の立ち上がり部分33との接合部34の近傍に取り付けられる。
【0055】
キックセンサ10を前記接合部34の近傍に取り付けることにより、ユーザ3は、足先6を車両1の背面下部の奥まで深く差し入れなくてもキック動作の検出がしやすくなる。すなわち、キックセンサ10をリアバンパー30よりも前方(FR)に取り付けたのでは、ユーザ3は、足先6を車両1の背面下部の奥まで深く差し入れなければならず、一方、リアバンパー30の裏面の後端部分(RR)に取り付けたのでは逆に誤動作をするおそれがあるため、いずれも望ましくない。
【0056】
そこで、キックセンサ10は、前記リアバンパー30の裏面の前記緩斜面部分32と、後端部の立ち上がり部分33との接合部34の近傍に取り付けることが望ましい。しかし、緩斜面部分32は、意匠上の理由から前方(FR)に向かって傾斜しているため、キックセンサ10を緩斜面部分32に載置すると、キックセンサ10には、前記傾斜に沿って前方(FR)にずれる力が働く。
【0057】
このため、キックセンサ10を、例えば、リアバンパー30の裏面にネジ止めする場合には、キックセンサ10を緩斜面部分32に載置した際、ずれないように片手で押えておく、または、ずれ落ちないように治具などで保持する必要がある。なお、リアバンパー30に、成形加工時において当該緩斜面部分32に滑り止めの突起を設けることは金型が高価になり好ましくない。かかる突起はリアバンパー30の型抜き方向に対して直角方向となるため、型抜きができなくなるからである。
【0058】
本発明においては、前記隆起部14のリアバンパー30との当接面となる前記略三角形の底辺には開口部15が設けられている。そして、リアバンパー30の裏面には前記舌片31、31が前方(FR)に突設されている。そこで、キックセンサ10を、リアバンパー30の裏面の緩斜面部分32と前記裏面の後端部の立ち上がり部分33との接合部34の近傍に取り付ける際は、まず前記開口部15、15に前記舌片31、31を挿入する。
【0059】
舌片31は、図8図9に示すように、開口部15から挿入され、前記隆起部14の裏面に形成された隆起空間17の奥まで挿入されると、舌片31の隅部分31a、31aが前記長孔16、16からそれぞれ突出する。そして、当該突出した隅部分31a、31aが前記長孔16、16の上下端縁部で挟持される。このように構成されているために、キックセンサ10は、前記緩斜面部分32の傾斜に沿って前方にずれる力が働いても、前記挟持力の作用により前方にずれることはない。
【0060】
開口部15、15から挿入された舌片31、31が、隆起空間17、17の奥まで到達すると、隆起部14、14の略中央部に穿設された固定用孔18、18と、舌片31、31の略中央部に穿設された固定用孔35、35が重なり合う。そこで、グロメットクリップ36、36を前記固定用孔18、18と固定用孔35、35とにそれぞれ貫通させて、キックセンサ10を舌片31に連結固定する。
【0061】
以上のようにして、キックセンサ10を、舌片31、31を介してリアバンパー30の裏面の接合部34の近傍にグロメットクリップ36、36を用いてワンタッチで止めることができるため、簡単な作業で確実に取り付けることができ、作業性を格段に改善することができる。
【0062】
また、本発明は以上のように構成されているために、キックセンサ10が、リアバンパー30の裏面の接合部34の近傍に確実に密着して取り付けられているか否かは、隆起部14の長孔16、16から突出した舌片31の隅部分31a、31aの突出長が所定の寸法であるか否かで判断できるため、舌片31が隆起空間17の奥まで確実に挿入されていることを目視で判断することができ、挿入が不完全であることに起因する組立不良の発生を未然に防止できる。
【0063】
また、前記隆起空間17は、開口部15側の幅員を広く、奥になるほど狭くなるテーパ状に形成されており、しかも、舌片31は、その根元部分の幅員を広く、その先端部分をやや狭く形成しているために、舌片31の隆起空間17への挿入を容易にすることができる。これにより、キックセンサ10の取り付けの容易化と品質の向上を図ることができる。
【0064】
また、開口部15から挿入された舌片31が、隆起空間17の奥まで到達すると、舌片31の両方の隅部分31a、31aが前記長孔16、16からそれぞれ突出し、当該長孔16、16の下端縁部に当接して当該長孔16、16の下端縁部を下方(DW)に押圧するよう構成してもよい。
【0065】
このように構成することにより、キックセンサ10は下方に押圧されるため、前記緩斜面部分32の傾斜に沿って前方にずれる力が働いても、前記押圧力の作用により前方にずれることはない。また、車両1の走行に伴う振動に対しても前記押圧力の作用により、その影響を受けることもない。
【0066】
<発明の効果>
本発明は、以上のように構成されているために、
前記リアバンパー30の裏面後端部への取り付けは、前記キックセンサケース11の両側端部及び前記舌片31の略中央部に設けた固定用孔18、35を利用して、例えば、グロメットクリップ36を用いてワンタッチで止めることができる。
【0067】
また、前記開口部15から舌片31を挿入すると、前記舌片31は前記開口部15及び隆起空間17のいずれかの当接個所で保持されるために、キックセンサ10は、前記緩斜面部分32の傾斜に沿って前方にずれる力が働いても、前記保持の作用により前方にずれることを防止できる。これにより、簡単な作業で確実に取り付けることができ、作業性を格段に改善することができる。
【0068】
また、キックセンサケース11に形成した隆起部14下方の隆起空間17にリアバンパー30の裏面から突設した舌片31を挿入して連結する構造としているため、前記キックセンサ10を、リアバンパー30の裏面の接合部34側に取り付けることができる。これにより、キックセンサ10をユーザ3の足先6に近い位置に取り付けることができるためキックセンサ10の感度を向上させることができ、足先6を車両1の背面下部の奥の方まで差し入れないとキック動作が検出されにくいという問題点を解消することができる。
【0069】
また、前記隆起空間17は、開口部15側の幅員を広く、奥になるほど狭くなるテーパ状に形成されており、しかも、舌片31は、その根元部分の幅員を広く、その先端部分をやや狭く形成しているために、舌片31の隆起空間17への挿入を容易にすることができる。これにより、キックセンサ10の取り付けの容易化と品質の向上を図ることができる。
【0070】
また、前記開口部15から挿入された舌片31の隅部分31a、31aは、長孔16、16から突出して前記長孔16、16の上下端縁部で挟持又は下方に押圧するように構成されており、しかも、キックセンサケース11の座面19は、リアバンパー30の裏面に当接しているために、キックセンサ10は、前記舌片31と、リアバンパー30の裏面の緩斜面部分32と、リアバンパー30の裏面の後端の立ち上がり部分33とに挟まれて強固に固定される。したがって、車両1の走行に伴う振動の影響を受け難いキックセンサの取付け構造を提供することができる。
【0071】
また、キックセンサ10が、リアバンパー30の裏面の接合部34の近傍に確実に密着して取り付けられているか否かは、隆起部14の長孔16、16から突出した舌片31の隅部分31a、31aの突出長が所定の寸法であるか否かで判断できるため、舌片31が隆起空間17の奥まで確実に挿入されていることを目視で判断することができ、挿入が不完全であることに起因する組立不良の発生を未然に防止できる。
【0072】
本発明は上述した実施形態に限られず、上述した実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更した構成、公知発明及び上述した実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更した構成、等も含まれる。また、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【符号の説明】
【0073】
1 車両
2 バックドア
3 ユーザ
4 荷物
5 路面
6 足先
10 キックセンサ
11 キックセンサケース
12 静電センサ挿通溝
13 嵌合爪
14 隆起部
15 開口部
16 長孔
17 隆起空間
18 固定用孔
19 座面
20 静電容量センサ
21 センサ信号処理部
30 リアバンパー
31 舌片
31a 隅部分
32 緩斜面部分
33 後端部の立ち上がり部分
34 接合部
35 固定用孔
36 グロメットクリップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9