(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】メモリシステム
(51)【国際特許分類】
G11C 7/04 20060101AFI20240702BHJP
G11C 5/04 20060101ALI20240702BHJP
G11C 11/44 20060101ALI20240702BHJP
G11C 29/02 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G11C7/04
G11C5/04 220
G11C11/44
G11C29/02 170
(21)【出願番号】P 2020117214
(22)【出願日】2020-07-07
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】佐貫 朋也
(72)【発明者】
【氏名】饗場 悠太
(72)【発明者】
【氏名】田中 瞳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 正幸
(72)【発明者】
【氏名】松尾 美恵
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 高志
【審査官】後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0176049(US,A1)
【文献】特表2009-540807(JP,A)
【文献】国際公開第2019/133202(WO,A1)
【文献】特開2004-349476(JP,A)
【文献】特表2013-533571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11C 7/04
G11C 5/04
G11C 11/44
G11C 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メモリと、
前記メモリが実装されて-40℃以下に設定される第1基板と、
前記メモリを制御するコントローラと、
前記コントローラが実装されて-40℃以上の温度に設定され、前記第1基板と信号伝送ケーブルを介して信号の送受を行う第2基板と、
外部接続用の複数のピンを有するとともに、前記メモリを覆うパッケージと、
前記メモリが有する複数のパッドと前記複数のピンとを接続する複数の中空ボンディングワイヤと、を備える、メモリシステム。
【請求項2】
前記メモリは、矩形状の複数のチップを積層した積層体であり、
前記複数の中空ボンディングワイヤは、前記積層体の各層のチップから四辺方向に均等に配置される、請求項1に記載のメモリシステム。
【請求項3】
メモリと、
前記メモリが実装されて-40℃以下に設定される第1基板と、
前記メモリを制御するコントローラと、
前記コントローラが実装されて-40℃以上の温度に設定され、前記第1基板と信号伝送ケーブルを介して信号の送受を行う第2基板と、を備え、
前記メモリは、前記メモリの動作条件を記憶する不揮発性記憶部を有し、
前記不揮発性記憶部は、前記メモリをダイシングする前のウエハを-40℃以上の温度条件下でテストした結果に基づいて、-40℃以上の温度で前記動作条件を記憶する、メモリシステム。
【請求項4】
前記不揮発性記憶部は、前記ウエハのテスト結果に基づいて、-40℃以下の温度で前記不揮発性記憶部の読み出しを行うことを想定して、-40℃以上の温度で前記動作条件を記憶する、請求項3に記載のメモリシステム。
【請求項5】
前記不揮発性記憶部は、-40℃以下の温度で前記不揮発性記憶部の読み出しを行う場合、-40℃以上の温度で前記不揮発性記憶部の読み出しを行う場合よりも、閾値電圧が上昇することを想定して前記動作条件を設定する、請求項4に記載のメモリシステム。
【請求項6】
前記コントローラは、-40℃以上の温度で前記不揮発性記憶部に書き込んだ前記動作条件を-40℃以下の温度で読み出して、エラー訂正後に再び前記不揮発性記憶部に書き込む、請求項3に記載のメモリシステム。
【請求項7】
前記コントローラは、-40℃以上の温度で前記メモリに書き込んだデータを、-40℃以下の特定の温度で読み出したときの閾値電圧に基づいて、前記データが書き込まれた時点での温度情報を前記不揮発性記憶部に書き込む、請求項3に記載のメモリシステム。
【請求項8】
メモリと、
前記メモリが実装されて-40℃以下に設定される第1基板と、
前記メモリを制御するコントローラと、
前記コントローラが実装されて-40℃以上の温度に設定され、前記第1基板と信号伝送ケーブルを介して信号の送受を行う第2基板と、を備え、
前記メモリは、-40℃以下の温度条件下で使用を継続した結果、前記メモリの特性が劣化した場合、常温よりも高い所定の温度条件下で所定の時間継続してアニール処理を行い、前記アニール処理により前記特性が回復した後に再び-40℃以下の温度条件下で使用される、メモリシステム。
【請求項9】
前記メモリが実装された前記第1基板を-40℃以下の温度に制御する温度制御部を備える、請求項1
乃至8のいずれか一項に記載のメモリシステム。
【請求項10】
前記メモリ及び前記第1基板の少なくとも一方は、温度検出器を有し、
前記コントローラは、前記温度検出器で検出された温度を前記温度制御部に送信し、
前記温度制御部は、前記温度検出器で検出された温度に基づいて、前記第1基板の温度を制御する、請求項
9に記載のメモリシステム。
【請求項11】
前記メモリは、温度検出器を内蔵し、
前記温度検出器は、前記メモリ内の導電体の抵抗値により、前記メモリの温度を検出する、請求項
8又は9に記載のメモリシステム。
【請求項12】
前記メモリを覆うパッケージの内部、前記パッケージの表面、前記第1基板上の少なくとも一つに配置される温度検出器を有し、
前記温度検出器は、熱電対に生じる電圧にて温度を検出する、請求項
8又は9に記載のメモリシステム。
【請求項13】
前記メモリは、フローティングゲート又はチャージトラップ膜に電荷を保持する不揮発性メモリである、請求項1乃至
12のいずれか一項に記載のメモリシステム。
【請求項14】
前記不揮発性メモリは、NAND型フラッシュメモリ及びNOR型フラッシュメモリの少なくとも一方を有する、請求項
13に記載のメモリシステム。
【請求項15】
前記不揮発性メモリは、NAND型フラッシュメモリ及びNOR型フラッシュメモリの少なくとも一方を内蔵するSSD(Solid State Drive)である、請求項
14に記載のメモリシステム。
【請求項16】
前記メモリが実装された前記第1基板は、77K以下の温度に設定される、請求項1乃至
15のいずれか一項に記載のメモリシステム。
【請求項17】
前記メモリは、77K以下の温度で動作するメモリコントローラを内蔵する、請求項
16に記載のメモリシステム。
【請求項18】
前記第1基板は、液体窒素中に配置される、請求項
16又は17に記載のメモリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、メモリシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
大きな温度変動環境下、かつ、極低温環境下で使用される電子機器に使用されるメモリやストレージは安定に動作することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国公開公報US2019/0164985
【文献】米国特許公報US7911265
【文献】米国特許公報US7369377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一態様では、極低温で安定かつ低コストで動作させることができるメモリシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、メモリと、
前記メモリが実装されて-40℃以下に設定される第1基板と、
前記メモリを制御するコントローラと、
前記コントローラが実装されて-40℃以上の温度に設定され、前記第1基板と信号伝送ケーブルを介して信号の送受を行う第2基板と、を備える、メモリシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】一実施形態によるメモリシステム1の概略構成を示す図。
【
図2】第1変形例によるメモリシステム1の概略構成を示す図。
【
図3】第2変形例によるメモリシステム1の概略構成を示す図。
【
図4】第3変形例によるメモリシステム1の概略構成を示す図。
【
図6】NANDフラッシュメモリ100の構成を示すブロック図。
【
図7】3次元構造のNANDフラッシュメモリセルアレイの一例を示す回路図。
【
図8】3次元構造のNANDフラッシュメモリのNANDフラッシュメモリセルアレイの一部領域の断面図。
【
図9】本実施形態に係るSSDにおけるメモリセルトランジスタの閾値分布の一例を示す図。
【
図10】メモリチップのパッドとパッケージのピンとをボンディングワイヤで接続する際に中空ボンディングを行う例を示す断面図。
【
図11A】複数のメモリチップを積層した状態を示す斜視図。
【
図12】
図1に示すメモリシステムを製造する手順を模式的に示す工程図。
【
図13】本実施形態によるメモリシステムで用いられるNANDフラッシュメモリのIV特性を示す図。
【
図14】閾値電圧分布が重なり合う不具合に対する対策の手順を示す図。
【
図15】250℃で2時間の熱処理を行う前後のNANDフラッシュメモリの閾値電圧の変動特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して、メモリシステムの実施形態について説明する。以下では、メモリシステムの主要な構成部分を中心に説明するが、メモリシステムには、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0008】
一般に物質は、温度を下げるほど電気伝導率が高くなることが知られている。特に、液体窒素の沸点温度である77K(ケルビン)以下の極低温になると、導電体の電気伝導率は急激に高くなり、損失やノイズ無く電子状態(電気信号による情報)を伝送することができる。このような背景から、例えば量子コンピュータでは、演算処理回路を極低温で動作させることが検討されており、演算処理回路がアクセスするメモリやストレージも、演算処理回路への熱伝達を防止するために、やはり極低温で動作させる必要がある。
【0009】
また、宇宙開発が進んでいるが、宇宙空間は、太陽光が照射される場合と照射されない場合で、温度が著しく異なっており、宇宙空間で使用される電子機器に用いられるメモリやストレージは、大きな温度変動に耐えられ、かつ極低温でも安定に動作することが要求される。
【0010】
ストレージのビット単価は年々下がっており、現状では、NAND型フラッシュメモリを内蔵したSSD(Solid State Drive)のビット単価が安くなっている。このため、極低温で使用されるストレージについても、SSDを使うことができれば望ましい。
【0011】
このような状況、例えば、SSDなどのストレージに関しては、ストレージを極低温で安定的にかつ低コストで動作させる技術の確立が望まれている。
【0012】
以下に説明する一実施形態によるメモリシステムは、1)量子コンピューティング向けのストレージとして使用でき、かつ2)最小のビット単価のストレージを使用でき、かつ3)宇宙産業向けのストレージとしても使用できるものである。本実施形態によるメモリシステムの構成及び動作を説明する前に、上述した1)~3)のストレージについて概略を説明する。
【0013】
1)量子コンピューティング向けのストレージ
量子コンピュータは、既存のコンピュータよりもはるかに高い演算処理能力を持っているが、量子コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、1K未満のmKの極低温で動作させることを前提としている。しかしながら、現実的には、mKの極低温でCPUを動作させることは困難である。その代用として、4K程度で動作するジョセフション接合型素子などの演算処理回路の開発が進められている。極低温で動作する演算処理回路に配線を繋ぐと、熱伝導が生じて演算処理回路の周辺温度が上昇するが、4K程度なら熱伝導を抑制して極低温を維持できる見込みである。
【0014】
CPU等の演算処理回路にはメモリやストレージを接続する必要がある。信号伝送損失と熱伝導を抑制する観点では、メモリやストレージをCPUと同じ温度(例えば4K)に設定するのが望ましい。ところが、メモリやストレージを4Kの温度で動作させるのは困難である。メモリやストレージで使用されるCMOS回路やメモリ素子は、4Kでは動作しないか、特性が大きく異なるために従来と同じ動作をさせることはできない。しかしながら、後述するように本発明者の実験によれば、77Kでは動作することがわかった。量子コンピュータのCPUを例えば4Kで動作させる場合に、CPUとは別の基板にメモリを実装して例えば77Kに設定した場合、メモリからの熱がCPUに伝達されないようにCPUとメモリを配置することは可能である。そこで、本実施形態によるメモリシステムは、77K程度の極低温下でもメモリを正常に動作させることができることを特徴の一つとしている。
【0015】
2)最小ビット単価のストレージ
量子コンピュータは、実用化に向けて、種々の技術開発が進められており、極低温で安定して読み書きを行えるメモリに対する需要はますます高まることが予想される。メモリやストレージには、動作原理が異なる種々のタイプのものが存在するが、扱うデータ量は年々増え続けているため、ビット単価が最小のメモリを極低温で安定して動作させることが求められている。現時点では、SSDに用いられるNANDフラッシュメモリが他のメモリや各種の記録装置よりもビット単価が安価であると言われている。よって、本実施形態によるメモリシステムは、NANDフラッシュメモリを極低温(例えば77K)で安定して動作させることを特徴の一つとしている。なお、後述するように、本実施形態によるメモリシステムに用いられるメモリは、必ずしもNANDフラッシュメモリに限定されるものではないが、NANDフラッシュメモリを用いた場合でも、極低温で安定して使用することができる。
【0016】
3)宇宙産業向けのストレージ
宇宙空間では、太陽光が当たらない場所と当たる場所で、温度が-200℃近く~100℃以上まで大きく変動する。宇宙空間で使用する電子機器は、大きな温度変動に耐えられる設計になっていて、内部にヒーターや冷却装置を持ち、内部の電子部品が室温に近い環境で動作させることができるが、コストが高くなるという問題がある。宇宙開発は、今後ますます進展する見込みであり、できるだけ安い価格で安定して動作するメモリが望まれている。
【0017】
以上の1)~3)のストレージとしても利用可能なメモリシステムについて、以下に詳細に説明する。
図1は一実施形態によるメモリシステム1の概略構成を示す図である。
図1に示すように、一実施形態によるメモリシステム1は、信号伝送ケーブル2で互いに接続された第1基板3及び第2基板4を備えている。第1基板3及び第2基板4の種類は特に問わないが、例えばプリント配線板やガラス基板などである。信号伝送ケーブル2の種類及び長さも問わないが、信号伝送ケーブル2は例えば数十cm以上の長さを有する。信号伝送ケーブル2は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)でもよいし、その他の信号伝送ケーブル2、例えばUSB(Universal Serial Bus)信号伝送ケーブル2などでもよい。信号ケーブルを数十cm以上とするのは、第1基板3と第2基板4との間での熱の伝達を防止するためである。
【0018】
第1基板3上にはメモリ5が実装されており、-40℃以下に設定される。なお、温度計や温度センサは環境条件等により測定誤差を含むため、本明細書における「-40℃以下」とは、目標温度を「-40℃以下」にする趣旨であり、温度センサ等による測定誤差に起因して、-40℃よりも若干高い温度に設定される場合もありうる。メモリ5の種類は問わないが、典型的には、NANDフラッシュメモリ又はNORフラッシュメモリ等の不揮発性メモリである。その他の種々の不揮発性メモリ、例えば、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)、PRAM(Phase change RAM)、ReRAM(Resistive RAM)などをメモリ5として用いることも可能である。また、メモリ5は、DRAM(Dynamic RAM)等の揮発性メモリ5でもよい。以下では、メモリ5としてNANDフラッシュメモリ100を用いる例を主に説明する。
【0019】
本明細書では、NANDフラッシュメモリを実装した第1基板3をSSDモジュールと呼ぶことがある。メモリ5は、パッケージングされた状態で第1基板3に実装される。一つのパッケージの中に、複数個のメモリチップ11が積層される場合もありうる。本明細書では、第1基板3に実装されるメモリチップを内蔵するパッケージを総称してメモリ5と呼ぶ。また、メモリ5が実装された第1基板3は、筐体又は樹脂等で覆われてモジュール化されていてもよい。この場合、モジュールの内部の温度を-40℃以下に設定することを想定している。メモリ5が実装された第1基板3を-40℃以下に設定する理由は、本実施形態では極低温でメモリ5を動作させることを想定しているためである。通常のメモリ5が動作を保証する最低温度は-40℃であることが多いが、本実施形態によるメモリ5は、通常のメモリの動作保証温度以下の温度である-40℃以下の温度で使用することを想定している点で、通常のメモリとは異なる。-40℃以下でメモリ5を動作させた場合の特性等については、後述する。メモリ5は、内部にメモリコントローラを有するが、メモリコントローラについては77Kで動作することが本発明者の実験により確認済みである。
【0020】
第2基板4上にはコントローラ6が実装されており、-40℃以上に設定される。コントローラ6は、ホスト機器からの指示に応じて、メモリ5に対するデータの書き込み、読み出し又は消去を制御する。コントローラ6は、CMOS回路によって構成されており、動作保証範囲は一般的に-40℃~125℃であるため、従来のSSD製品に使われている技術で製造されたものを使用することができる。
【0021】
本発明者は、既存のNANDフラッシュメモリが実装された基板を液体窒素(77K、約-196℃)に浸して動作実験を行った。その結果、正常に読み出し動作を行えることを確認した。
【0022】
以上の実験結果を踏まえて、本実施形態によるメモリシステム1では、メモリ5が実装された第1基板3を、通常のメモリ5の動作保証最低温度である-40℃以下で動作させることにした。
【0023】
図1の例では、メモリ5が実装された第1基板3を例えば液体窒素の中に浸すことを想定している。液体窒素は、工業的に安価なコストで製造できるため、液体窒素の中に第1基板3を浸すこと自体は、それほどコストをかけずに実現可能である。なお、第1基板3は、-40℃以下の温度に設定すればよいため、液体窒素以外の冷媒を用いて、冷媒中に第1基板3を配置すればよい。
【0024】
本発明者は、コントローラ6が実装された第2基板4についても、-40℃以下で動作するか否かの実験を行った。具体的には、コントローラ6が実装された第2基板4を複数用意して、それぞれを液体窒素に浸して動作実験を行ったところ、すべての第2基板4のコントローラ6が動作しなかった。その要因として、コントローラ6にはロジック回路が内蔵されており、ロジック回路は-40℃までしか動作保証をしていないことから、ロジック回路内の各信号のタイミングがずれて誤動作したことなどが考えられる。また、コントローラ6は、第1基板3に実装されたすべてのメモリ5を制御するため、発熱が生じやすく、例えば液体窒素に第2基板4を浸した場合に液体窒素の消費量が大きくなり、冷却コストが高くなるという問題もある。
【0025】
そこで、本実施形態では、コントローラ6が実装された第2基板4については、-40℃以上の温度に設定することにした。
【0026】
メモリ5が実装された第1基板3を-40℃以下に設定する具体的な一例として、
図2に示す第1変形例によるメモリシステム1aのように、-40℃以下の冷媒7が収納された筐体8の中に第1基板3を入れることが考えられる。冷媒7としては、例えば液体窒素や液体二酸化炭素などの沸点が-40℃以下の液体である。また、冷媒7は、人間に無害の物質である必要があることに加えて、安価に入手できるものが望ましい。筐体8は、冷媒7が大気に触れて冷媒7の温度が上昇することを防止し、かつ冷媒7が大気中に拡散して冷媒7の量が減ることを防止するために、できるだけ開口部を小さくした断熱容器等が考えられる。
【0027】
一方、コントローラ6が実装された第2基板4は、-40℃以上に設定すればよいため、冷媒7や冷却部材を用いずに例えば室温に設定してもよい。ただし、コントローラ6が発熱するおそれがある場合は、ヒートシンクなどの冷却部材をコントローラ6に接触させる等の放熱対策が適宜行われる。
【0028】
図3は
図1の第2変形例によるメモリシステム1bの概略構成を示す図である。
図3のメモリシステム1bは、メモリ5が実装された第1基板3とコントローラ6が実装された第2基板4の他に、温度制御部9を備えている。温度制御部9は、メモリ5が実装された第1基板3を-40℃以下の温度に制御する。
【0029】
図4は
図3の構成をより具体化した第3変形例によるメモリシステム1cのブロック図である。
図4のメモリシステム1cは、冷媒7が収納された筐体8の中に第1基板3を入れるとともに、冷媒7の温度と量の少なくとも一方を制御する冷媒制御部10を備えている。温度制御部9は、後述するように、第1基板3又はメモリ5の温度を検出する後述する温度検出器からの温度情報に基づいて冷媒制御部10を制御する。冷媒制御部10は、第1基板3が-40℃以下になるように、筐体8内の冷媒7の温度と量の少なくとも一方を制御する。
【0030】
図5Aは温度検出器12の第1例を示す図、
図5Bは温度検出器12の第2例を示す図である。
図5Aと
図5Bはいずれも、第1基板3上に積層された複数のメモリチップ11をパッケージ13で覆ったメモリ5を備えている。
【0031】
図5Aの温度検出器12は、第1基板3上に実装されるメモリ5に内蔵されている。
図5Aは、第1基板3上に複数のメモリチップ11が積層される例を示しているが、必ずしもメモリチップ11ごとに温度検出器12を設ける必要はない。極低温では、熱伝導性がよくなるため、積層された複数のメモリチップ11の温度差は小さくなる。よって、積層された複数のメモリチップ11のうち、一部のメモリチップ11に温度検出器12を設けることで、温度検出器12を内蔵しないメモリチップ11の温度も精度よく推定できる。
【0032】
図5Aの温度検出器12は、例えばメモリチップ11内の導電体(例えば配線パターン)の抵抗値の変化に基づいて、温度を検出する。これにより、小さな回路面積で精度よく温度を検出できる。温度検出器12で検出された温度情報は、信号伝送ケーブル2を介してコントローラ6に送られる。コントローラ6は、温度制御部9に対して温度情報を送信する。なお、温度制御部9は、例えばホスト機器に内蔵されていてもよい。ホスト機器からの指令で、第1基板3を冷却する冷媒7の温度や量が制御されてもよい。
【0033】
図5Bの第2例では、積層された複数のメモリチップ11のうちの一部のメモリチップ11の内部に温度検出器12を設けるとともに、最上層のメモリチップ11の上面と第1基板3上にも温度検出器12を設けている。
図5Bでは省略しているが、パッケージ13の表面に温度検出器12を設けてもよい。このように、メモリチップ11の内部だけでなく、パッケージの内部や表面、第1基板3上に温度検出器12を設けることで、積層された複数のメモリチップ11の温度を精度よく検出できる。
【0034】
上述したように、第1基板3は-40℃以下に設定されるが、例えば-40℃に近い温度での熱伝導率は、-100℃以下の温度での熱伝導率よりも低い。よって、例えば第1基板3を-40℃に近い温度に設定する場合には
図5Bのようにメモリチップ11の内部以外の箇所にも温度検出器12を設けて各メモリチップ11の温度を推定し、熱伝導率が十分に高い極低温に第1基板3を設定する場合は、
図5Aのように一部のメモリチップ11の内部だけに温度検出器12を設けてもよい。
【0035】
図5Bのメモリチップ11の上面又は第1基板3上に配置された温度検出器12は、例えば異なる2つの金属を接続した熱電対であってもよい。熱電対を用いて温度計測を行うことで、小さい回路面積で精度よく温度を検出できる。
【0036】
[NANDフラッシュメモリ]
本実施形態によるメモリ5として、ビット単価の安いNANDフラッシュメモリ100を用いることができる。NANDフラッシュメモリ100と、
図1のコントローラ6に対応するコントローラ200でSSDを構成することができる。
図6はSSDの概略構成を示すブロック図である。
図1に示したように、NANDフラッシュメモリ100は第1基板3に実装され、コントローラ200は第2基板4に実装される。
【0037】
NANDフラッシュメモリ100は複数のメモリセルを備え、データを不揮発に記憶する。コントローラ200は、
図1に示す信号伝送ケーブル2内に設けられるNANDバスによってNANDフラッシュメモリ100に接続され、ホストバスによってホスト機器300に接続される。そしてコントローラ200は、NANDフラッシュメモリ100を制御し、またホスト機器300から受信した命令に応答して、NANDフラッシュメモリ100にアクセスする。ホスト機器300は、例えばパーソナルコンピュータ等の電子機器であり、ホストバスは、例えばPCIexpress(PCIe)(登録商標)、UFS(Universal Flash Storage)、Ethernet(登録商標)などのインタフェースに従ったバスである。NANDバスは、Toggle IFなどのNANDインタフェースに従って信号の送受信を行う。
【0038】
コントローラ200は、ホストインタフェース回路210、内蔵メモリ(RAM)220、プロセッサ(CPU)230、バッファメモリ240、NANDインタフェース回路250、及びECC(Error Checking and Correcting)回路260を備えている。
【0039】
ホストインタフェース回路210は、ホストバスを介してホスト機器300と接続され、ホスト機器300から受信した命令及びデータを、それぞれCPU230及びバッファメモリ240に転送する。またCPU230の命令に応答して、バッファメモリ240内のデータをホスト機器300へ転送する。
【0040】
CPU230は、コントローラ200全体の動作を制御する。例えばCPU230は、ホスト機器300から書き込み命令を受信した際には、それに応答して、NANDインタフェース回路250に対して書き込み命令を発行する。読み出し及び消去の際も同様である。またCPU230は、ウェアレベリング等、NANDフラッシュメモリ100を管理するための様々な処理を実行する。なお、以下で説明するコントローラ200の動作はファームウェアをCPUが実行することで実現されても良いし、またはハードウェアで実現されても良い。
【0041】
NANDインタフェース回路250は、信号伝送ケーブル2内のNANDバスを介してNANDフラッシュメモリ100と接続され、NANDフラッシュメモリ100との通信を司る。そしてNANDインタフェース回路250は、CPU230から受信した命令に基づき、種々の信号をNANDフラッシュメモリ100へ送信し、またNANDフラッシュメモリ100から受信する。バッファメモリ240は、書き込みデータや読み出しデータを一時的に保持する。
【0042】
RAM220は、例えばDRAMやSRAM等の半導体メモリ5であり、CPU230の作業領域として使用される。そしてRAM220は、NANDフラッシュメモリ100を管理するためのファームウェアや、各種の管理テーブル等を保持する。
【0043】
ECC回路260は、NANDフラッシュメモリ100に記憶されるデータに関する誤り検出及び誤り訂正処理を行う。すなわちECC回路260は、データの書き込み時には誤り訂正符号を生成して、これを書き込みデータに付与し、データの読み出し時にはこれを復号する。
【0044】
次に、NANDフラッシュメモリ100の構成について説明する。
図6はNANDフラッシュメモリ100を備えたメモリシステム1、1a、1b、1cのブロック図である。
図6に示すようにNANDフラッシュメモリ100は、メモリセルアレイ110、ロウデコーダ120、ドライバ回路130、カラム制御回路140、レジスタ群150、及びシーケンサ160を備える。
【0045】
メモリセルアレイ110は、ロウ及びカラムに対応付けられた複数の不揮発性のメモリセルを含む複数のブロックBLKを備えている。
図6では一例として4つのブロックBLK0~BLK3が図示されている。そしてメモリセルアレイ110は、コントローラ200から与えられたデータを記憶する。
【0046】
ロウデコーダ120は、ブロックBLK0~BLK3のいずれかを選択し、更に選択したブロックBLKにおけるロウ方向を選択する。ドライバ回路130は、選択されたブロックBLKに対して、ロウデコーダ120を介して電圧を供給する。
【0047】
カラム制御回路140は、データの読み出し時には、メモリセルアレイ110から読み出されたデータをセンスし、必要な演算を行う。そして、このデータDATをコントローラ200に出力する。データの書き込み時には、コントローラ200から受信した書き込みデータDATを、メモリセルアレイ110に転送する。
【0048】
レジスタ群150は、アドレスレジスタやコマンドレジスタなどを有する。アドレスレジスタは、コントローラ200から受信したアドレスを保持する。コマンドレジスタは、コントローラ200から受信したコマンドを保持する。
【0049】
シーケンサ160は、レジスタ群150に保持された種々の情報に基づき、NANDフラッシュメモリ100全体の動作を制御する。
【0050】
図7は3次元構造のNANDフラッシュメモリセルアレイ110の一例を示す回路図である。
図7は、3次元構造のNANDフラッシュメモリセルアレイ110内の複数のブロックのうちの1つのブロックBLKの回路構成を示している。NANDフラッシュメモリセルアレイ110の他のブロックも
図7と同様の回路構成を有する。なお、本実施形態は、2次元構造のメモリセルにも適用可能である。
【0051】
図7に示すように、ブロックBLKは、例えば4つのフィンガーFNG(FNG0~FNG3)を有する。また各々のフィンガーFNGは、複数のNANDストリングNSを含む。NANDストリングNSの各々は、例えば縦続接続された8個のメモリセルトランジスタMT(MT0~MT7)と、選択トランジスタST1、ST2とを有する。本明細書では、各々のフィンガーFNGをストリングStと呼ぶ場合がある。
【0052】
なお、NANDストリングNS内のメモリセルトランジスタMTの個数は8個に限られない。メモリセルトランジスタMTは、選択トランジスタST1、ST2の間に、その電流経路が直列接続されるようにして配置されている。この直列接続の一端側のメモリセルトランジスタMT7の電流経路は、選択トランジスタST1の電流経路の一端に接続され、他端側のメモリセルトランジスタMT0の電流経路は、選択トランジスタST2の電流経路の一端に接続されている。
【0053】
フィンガーFNG0~FNG3の各々の選択トランジスタST1のゲートは、それぞれセレクトゲート線SGD0~SGD3に共通接続される。他方で、選択トランジスタST2のゲートは、複数のフィンガーFNG間で同一のセレクトゲート線SGSに共通接続される。また、同一のブロックBLK内にあるメモリセルトランジスタMT0~MT7の制御ゲートは、それぞれワード線WL0~WL7に共通接続される。すなわち、ワード線WL0~WL7及びセレクトゲート線SGSは、同一ブロックBLK内の複数のフィンガーFNG0~FNG3間で共通に接続されているのに対し、セレクトゲート線SGDは、同一ブロックBLK内であってもフィンガーFNG0~FNG3のそれぞれ毎に独立している。
【0054】
NANDストリングNSを構成するメモリセルトランジスタMT0~MT7の制御ゲート電極には、それぞれワード線WL0~WL7が接続されており、また、同一のフィンガーFNG内の各NANDストリングNS中のi番目のメモリセルトランジスタMTi(i=0~n)は、同一のワード線WLi(i=0~n)によって共通接続されている。すなわち、ブロックBLK内の同一行のメモリセルトランジスタMTiの制御ゲート電極は、同一のワード線WLiに接続される。
【0055】
各NANDストリングNSは、ワード線WLiに接続するとともにビット線にも接続される。各NANDストリングNS内の各メモリセルは、ワード線WLi及びセレクトゲート線SGD0~SGD3を識別するアドレスとビット線を識別するアドレスとで識別可能である。上述した通り、同一のブロックBLK内にあるメモリセル(メモリセルトランジスタMT)のデータは、一括して消去される。一方、データの読み出し及び書き込みは、物理セクタMS単位で行われる。1物理セクタMSは、1つのワード線WLiに接続され、かつ1つのフィンガーFNGに属する複数のメモリセルを含む。
【0056】
コントローラ200は、一つのフィンガー内の1本のワード線に接続されている全NANDストリングNSを単位として、書込み(プログラム)を行う。このため、コントローラ200がプログラムを行うデータ量の単位は、4ビット×ビット線数になる。
【0057】
リード動作及びプログラム動作時において、物理アドレスに応じて、1本のワード線WLi及び1本のセレクトゲート線SGDが選択され、物理セクタMSが選択される。なお、本明細書では、メモリセルにデータを書き込むことを、必要に応じてプログラムと呼ぶ。
【0058】
図8は3次元構造のNANDフラッシュメモリ100のNANDフラッシュメモリセルアレイ110の一部領域の断面図である。
図8に示すように、半導体基板のp型ウェル領域(P-well)41上に複数のNANDストリングNSが上下方向に形成されている。すなわち、p型ウェル領域41上には、セレクトゲート線SGSとして機能する複数の配線層42、ワード線WLiとして機能する複数の配線層43、及びセレクトゲート線SGDとして機能する複数の配線層44が上下方向に形成されている。
【0059】
そして、これらの配線層42、43、44を貫通してp型ウェル領域41に達するメモリホール45が形成されている。メモリホール45の側面には、ブロック絶縁膜46、電荷蓄積層47、及びゲート絶縁膜48が順次形成され、更にメモリホール45内に導電膜49が埋め込まれている。導電膜49は、NANDストリングNSの電流経路として機能し、メモリセルトランジスタMT並びに選択トランジスタST1及びST2の動作時にチャネルが形成される領域である。電荷蓄積層47は、チャージトラップ膜で形成されてもよいし、フローティングゲートで形成されてもよい。
【0060】
各NANDストリングNSにおいて、p型ウェル領域41上に選択トランジスタST2、複数のメモリセルトランジスタMT、及び選択トランジスタST1が順次積層されている。導電膜49の上端には、ビット線BLとして機能する配線層が形成される。
【0061】
さらに、p型ウェル領域41の表面内には、n+型不純物拡散層及びp+型不純物拡散層が形成されている。n+型不純物拡散層上にはコンタクトプラグ50が形成され、コンタクトプラグ50上には、ソース線SLとして機能する配線層が形成される。またp+型不純物拡散層上にはコンタクトプラグ51が形成され、コンタクトプラグ51上には、ウェル配線CPWELLとして機能する配線層が形成される。ウェル配線CPWELLは消去電圧を印加するために用いられる。
【0062】
図8に示したNANDフラッシュメモリセルアレイ110は、
図8の紙面の奥行き方向に複数配列されており、奥行き方向に一列に並ぶ複数のNANDストリングNSの集合によって、1つのフィンガーFNGが形成される。他のフィンガーFNGは例えば
図8の左右方向に形成されている。
図7には4つのフィンガーFNG0~3が図示されているが、
図8にはコンタクトプラグ50,51の間に3つのフィンガーを配置した例を示している。
【0063】
図9は本実施形態に係るSSDにおけるメモリセルトランジスタMTの閾値分布の一例を示す図である。
図9は、4ビット/Cell(QLC(Quadruple Level Cell))の不揮発性メモリ5の閾値領域の分布の一例を示している。不揮発性メモリ5では、メモリセルの電荷蓄積層47に蓄えられた電子の電荷量により情報を記憶する。各メモリセルは、電子の電荷量に応じた閾値電圧を有する。そして、メモリセルに記憶する複数のデータ値を、閾値電圧が異なる複数の領域(閾値領域)にそれぞれ対応させる。
【0064】
図9の領域S0~S15は、16個の閾値領域内の閾値分布を示している。
図9の横軸は閾値電圧を示し、縦軸はメモリセル数(セル数)である。閾値分布とは、閾値が変動する範囲である。このように、各メモリセルは、15個の境界によって仕切られた16個の閾値領域を有し、各閾値領域は、固有の閾値分布を有する。Vr1~Vr15は、各閾値領域の境界となる閾値電圧である。
【0065】
NANDフラッシュメモリ100のような不揮発性メモリ5では、メモリセルの複数の閾値領域に複数のデータ値をそれぞれ対応させる。この対応をデータコーディングという。このデータコーディングをあらかじめ定めておき、データの書き込み(プログラム)時には、データコーディングに従って記憶するデータ値に応じた閾値領域内となるようにメモリセル内の電荷蓄積層47に電荷を注入する。そして、読み出し時には、メモリセルに読み出し電圧を印加し、読み出し電圧よりメモリセルの閾値が低いか高いかにより、データ論理が決定される。
【0066】
データの読み出し時には、読み出し対象の境界の読み出しレベルよりも、読み出し対象のメモリセルの閾値が低いか高いかでデータの論理が決定される。閾値が最も低い場合は、「消去」状態であり、全てのビットのデータが”1”と定義される。閾値が、「消去」状態よりも高い場合は、「プログラムされた」状態であり、コーディングに従ってデータが”1”または”0”と定義される。
【0067】
[ワイヤボンディング]
上述したように、第1基板3は-40℃以下の温度に設定されるが、第1基板3上に複数のメモリチップ11を積層する場合、各層のメモリチップ11のパッドとパッケージの外部接続用のピンとをボンディングワイヤで接続する必要がある。-40℃以下の温度に設定した状態では、ボンディングワイヤが縮んで圧縮応力が働き、ボンディングワイヤとパッド(ピン)との接合力が弱くなり、場合によってはボンディングワイヤがパッド(ピン)から外れてしまったり、ボンディングワイヤが断線するおそれがある。特に、ボンディングワイヤの周囲が樹脂で覆われている場合、樹脂と金属では低温時の熱収縮率が異なるため、樹脂と金属の熱収縮率のずれによってボンディングワイヤの断線や接続不良が生じやすくなる。
【0068】
そこで、本実施形態では、中空ボンディングを採用することができる。
図10はメモリチップ11のパッドとパッケージ13のピンとをボンディングワイヤ15で接続する際に中空ボンディングを行う例を示す断面図である。
図10の例では、メモリチップ11の周囲は樹脂部材では覆われておらず、中空になっている。メモリチップ11は、パッケージ13の凹部に配置され、凹部内のメモリチップ11の上方には、パッケージ13を封止するためのリッド部材14が配置されている。リッド部材14、パッケージ13及びメモリチップ11で囲まれる中空部にボンディングワイヤ15が配置されている。中空部は、真空にしてもよいし、特定の気体(例えば窒素)を除去(パージ)してもよい。
図10に示すようにボンディングワイヤ15の周囲を樹脂で覆わないように中空ボンディングを行うことで、樹脂部材と金属部材との熱収縮率の違いによるボンディングワイヤ15の断線や接続不良を防止できる。
【0069】
図10はパッケージ13の凹部に単層のメモリチップ11を配置する例を示したが、積層された複数のメモリチップ11を配置してもよい。複数のメモリチップ11を積層する場合、
図11Aの斜視図に示すように、矩形状のメモリチップ11の四辺から均等にボンディングワイヤ15を引き出すのが望ましい。これにより、メモリチップ11を四辺から略同一の力で支持することになり、応力の偏りがなくなって、一部のボンディングワイヤ15に過度の応力がかからなくなり、ボンディングワイヤ15の断線等の不具合を防止できる。
【0070】
図11Bは
図11Aの積層チップをチップ面の法線方向から見た平面図、
図11Cは
図11Bの矢印の方向から見た側面図である。なお、
図11Aと
図11Bは簡略化のために2つのメモリチップ11を積層した状態を示すのに対し、
図11Cは4つのメモリチップ11を積層した状態を示している。図示のように、各メモリチップ11を段差を持たせて積層することで、積層順が偶数のメモリチップ11のボンディングワイヤ15を同一方向に引き出し、積層順が奇数のメモリチップ11のボンディングワイヤ15を反対側に引き出すことができる。各層とも、四辺のうち隣り合う二辺からボンディングワイヤ15を引き出しており、2つのメモリチップ11を積層したときに、四辺方向に均等にボンディングワイヤ15が引き出されるようにし、ボンディングワイヤ15に均等な応力がかかるようにしている。また、いずれのボンディングワイヤ15も、中空ボンディングが可能であり、ボンディングワイヤ15の断線防止を図ることができる。
【0071】
[メモリシステムの製造手順]
図12は
図1に示すメモリシステム1、1a、1b、1cを製造する手順を模式的に示す工程図である。半導体装置の製造工程では、ウエハ21の状態で半導体テスタ22を用いて電気特性等の検査が行われる。半導体テスタ22は、一般には0℃~85℃の温度範囲を動作保証温度としており、-40℃までの温度で動作する特殊な半導体装置を検査する半導体テスタ22に限って-40℃まで動作保証をしている。本実施形態では、メモリ5が実装された第1基板3を-40℃以下に設定するため、その温度条件下では既存の半導体テスタ22で検査をすることはできない。-40℃以下の温度で検査可能な半導体テスタ22を開発するのには膨大な時間と費用がかかるおそれがある。そこで、本実施形態では、
図12の工程図に示すように、第1基板3に実装されるメモリ5については、ダイシングする前のウエハ21の状態で、既存の半導体テスタ22を用いて、その半導体テスタ22の動作保証温度(例えば、0℃~85℃の温度範囲)で検査を行う(ステップS1)。検査にパスしたウエハ21をダイシングして個々のメモリチップ11に個片化し(ステップS2)、パッケージングを行う(ステップS3)。その後、パッケージ化されたメモリ5を第1基板3に実装するとともに、コントローラ6を第2基板4に実装する(ステップS4)。この後、メモリチップ11が実装された第1基板3を-40℃以下に設定した検査を行う。
【0072】
図12のステップS1において半導体テスタ22で検査を行う際、NANDフラッシュメモリ100内のROMとして使用する一部のメモリ領域(以下、ROMブロックと呼ぶ)に、NANDフラッシュメモリ100の動作に必要な情報を書き込む場合がある。ROMブロック内のデータは、極低温でも正常にデータを読み出せなければならない。そのためには、ROMブロックにデータを書き込む半導体検査工程の温度(例えば室温)から、実使用時には-40℃以下の温度(例えば77K)に下げることを予め念頭に置いて、ROMブロック内にデータを書き込む必要がある。
【0073】
[ROMブロックの書き込み]
図13は本実施形態によるメモリシステム1、1a、1b、1cで用いられるNANDフラッシュメモリ100のメモリセルトランジスタのIV特性を示す図である。
図13の横軸はゲート電圧、縦軸はソース電流である。
図13にはNANDフラッシュメモリ100の温度を変えた場合のIV特性曲線を示している。波形w1は85℃、波形w2は室温(RT:Room Temperature)、波形w3は77K(-196℃)、波形w4は-100℃である。
【0074】
図13の波形w5は、基準となるソース電流(例えば1ナノアンペア)を示している。波形w1~w4と、波形w5との各交点におけるゲート電圧はメモリセルトランジスタの閾値電圧(Vth)であり、その差は、室温と77Kでは1V程度になる。具体的には、77Kの閾値電圧は、室温の閾値電圧よりも1V程度高い方にシフトする。これはすなわち、温度が下がるほど、NANDフラッシュメモリ100の閾値電圧が上昇することを意味する。よって、半導体検査工程にて、ウエハ21の状態で各NANDフラッシュメモリ100内のROMブロックに設定情報を書き込む際には、ROMブロック内のデータを-40℃以下の温度(例えば77K)で読み出すことを念頭に置いて、例えば室温時の閾値電圧よりも1V程度低い閾値電圧になるようにデータを書き込む。これにより、-40℃以下の温度に設定したときに、閾値電圧が上昇することから、エラーが少なくなり、正常にデータを読み出すことが可能となる。
【0075】
また、メモリ5が実装された第1基板3を-40℃以下の温度(例えば77K)に設定した状態で、NANDフラッシュメモリ100内のデータを読み出してエラー訂正を行い、エラー訂正後のデータを再度NANDフラッシュメモリ100に記憶するようにしてもよい。これにより、極低温でエラー訂正したデータを、その温度でNANDフラッシュメモリ100に記憶すれば、同じ温度条件に設定されている限りにおいては、閾値電圧は変動しないため、その後のデータ読み出し時のエラー発生頻度を低下させることができる。
【0076】
なお、NANDフラッシュメモリ100内にデータを書き込む際には、書き込み時の温度情報を合わせて書き込むようにしてもよい。
図13に示すように、温度によってNANDフラッシュメモリ100の閾値電圧は変動する。このため、第1基板3を-40℃以下の特定の温度に設定した場合には、NANDフラッシュメモリ100にデータを書き込んだときの温度と、-40以下の特定の温度とに基づいて、特定の温度でのNANDフラッシュメモリ100の閾値電圧を把握することができる。
【0077】
なお、NANDフラッシュメモリ100に書き込んだデータは、時間とともに保持特性が低下して、リテンションエラーが起きる可能性が高くなる。このため、メモリ5が実装された第1基板3を-40℃以下の温度に設定する場合には、-40℃以下の温度に設定する直前にROMブロック等にデータを書き込むのが望ましい。
【0078】
図1に示すメモリ5が実装された第1基板3を、複数の温度条件で使用する場合、メモリ5内に複数の温度条件に対応した複数のメモリ領域を設けてもよい。より具体的な一例としては、NANDフラッシュメモリ100内に、-40℃以上の温度条件で書き込み読み出しをするブロックと、77K(約196℃)で書き込み読み出しをするブロックとを設けてもよい。各ブロックにデータを書き込む際には、読み出す温度を考慮に入れて、書き込み電圧を調整することもできる。
【0079】
[熱処理による特性改善]
NANDフラッシュメモリ100は、読み書きを繰り返すと、隣り合う閾値電圧分布が重なり合うという不具合が生じる。
図14は閾値電圧分布が重なり合う不具合に対する対策の手順を示す図である。
図14のステップS11のように、隣り合う閾値電圧分布が重なり合っている場合、NANDフラッシュメモリ100をパッケージ13されたままで高温で所定時間、熱処理を行うことで(ステップS12)、閾値電圧分布の重なりを解消することができる(ステップS13)。
【0080】
図15は250℃で2時間の熱処理を行う前後のNANDフラッシュメモリ100の閾値電圧の変動特性を示す図である。
図15には4つの書き込み条件(1)~(3)の熱処理前後の閾値変動ΔVth1~ΔVth3が図示されている。(1)のΔVth1は初期の状態で1回だけ読み書きした場合の閾値変動である。(2)のΔVth2は初期の状態から1200回の読み書きを繰り返した後での閾値変動である。(3)のΔVth3は250℃で2時間の熱処理後の閾値変動である。
【0081】
読み書きを繰り返すことによって閾値電圧の変動は大きくなっているが、
図15に示すように、熱処理を行うことで、NANDフラッシュメモリ100の閾値電圧の変動を抑制でき、再び初期の状態に戻すことができる。本実施形態にあるようにNANDフラッシュメモリ100を-40℃以下の温度で使用し、ある程度の回数の読み書きを繰り返したことによってメモリセルトランジスタの閾値電圧の分布の重なりが大きくなってきた場合には、一旦-40℃以下の環境の外にだして、高温で熱処理をすることによって初期の特性に戻し、再び-40℃以下の環境で使用することができる。
【0082】
このように、本実施形態では、NANDフラッシュメモリ100が-40℃以下の温度でも正常に読み書きができることと、コントローラ6については-40℃以上であれば正常に動作できることが実験により確かめられたことから、
図1に示すように、メモリ5が実装される第1基板3を-40℃以下に設定し、第1基板3に信号伝送ケーブル2で接続されコントローラ6が実装される第2基板4を-40℃以上に設定する。-40℃以下でメモリ5の読み書きをすることで、メモリ5のアクセス速度を向上させることができる。また、コントローラ6は、-40℃以上で動作させるため、既存のコントローラ6をそのまま利用でき、開発コストを抑制できる。コントローラ6は、第1基板3に実装されたすべてのメモリ5を制御することから、動作時間が長く、消費電力が大きく発熱量が大きいが、本実施形態ではコントローラ6を-40℃以上で動作させるため、第1基板3を冷却するために用いられる冷媒7(例えば液体窒素)の使用量を抑制でき、保守費用を低く抑えることができる。
【0083】
また、第1基板3と第2基板4を信号伝送ケーブル2で接続しているため、第2基板4上のコントローラ6の熱が第1基板3に伝達されることを防止でき、それほどコストをかけずに第1基板3を低い温度に維持できる。
【0084】
本実施形態の一具体例としては、冷媒7として安価な液体窒素の中に、メモリ5が実装された第1基板3を浸し、第1基板3に接続された信号伝送ケーブル2の他端側に接続される第2基板4を、-40℃以上の温度に設定してコントローラ6を動作させることができる。特に高価な部材を用いずに、既存の部材を用いてメモリシステム1、1a、1b、1cを構築できるため、開発コスト及び保守コストを抑制できる。
【0085】
本実施形態によるメモリシステム1、1a、1b、1cは、-40℃以下の極低温でメモリ5の読み書きを行うことを想定しているため、例えば量子コンピュータが使用するメモリ5に適用可能である。本実施形態によるメモリシステム1、1a、1b、1cでは、第2基板4に実装されたコントローラ6を-40℃以上で動作させるが、第1基板3と第2基板4は信号伝送ケーブル2により熱を遮断しているため、量子コンピュータなどへの適用も容易に行える。
【0086】
また、本実施形態によるメモリシステム1、1a、1b、1cは、宇宙空間などの温度差が非常に大きい場所でも使用することができる。上述したように、第1基板3に実装されるメモリ5内に、複数の温度条件に対応する複数のメモリ領域を設けて、各メモリ領域には、対応する温度条件に最適な閾値電圧を設定することができるため、幅広い温度条件でメモリ5を使用することができる。
【0087】
さらに、第1基板3に実装されるメモリ5として、ビット単価が最も安いNAND型フラッシュメモリ5を使用でき、またコントローラ6は既存のものを流用できるため、本実施形態によるメモリシステム1、1a、1b、1cの部材コストを低く抑えることができる。
【0088】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1、1a、1b、1c メモリシステム、2 信号伝送ケーブル、3 第1基板、4 第2基板、5 メモリ、6 コントローラ、7 冷媒、8 筐体、9 温度制御部、10 冷媒制御部、11 メモリチップ、12 温度検出器、13 パッケージ、100 NANDフラッシュメモリ、200 コントローラ、14 リッド部材、15 ボンディングワイヤ