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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】電線・ケーブルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20240702BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240702BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20240702BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01B7/02 Z
H01B13/00 511Z
H01B3/44 Z
C08L23/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020117850
(22)【出願日】2020-07-08
(65)【公開番号】P2022015171
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 修一
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-143540(JP,A)
【文献】特開2013-222518(JP,A)
【文献】特開2017-224560(JP,A)
【文献】特開2014-067657(JP,A)
【文献】特開2019-094363(JP,A)
【文献】特開2017-171700(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/00
H01B 3/44
C08L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外周を被覆層で被覆してなる電線・ケーブルにおいて、
前記被覆層は、難燃剤を含有する最外層と、前記最外層の内側の1層以上の内層と、を有する2層以上からなり、
前記内層はポリオレフィン系樹脂および滑剤を含む樹脂組成物から構成され、金属水酸化物を含有せず、
前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ
前記内層の厚みが0.05mm~0.30mmである
ことを特徴とする電線・ケーブル。
【請求項2】
前記導体と前記内層との間に、絶縁層が設けられてなることを特徴とする請求項1に記載の電線・ケーブル。
【請求項3】
前記最外層は、滑剤および酸化防止剤の少なくともいずれか一方を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の電線・ケーブル。
【請求項4】
導体の外周を、最外層と前記最外層の内側の内層とを有する2層以上の被覆層で被覆してなる電線・ケーブルの製造方法において、
前記導体の外周に前記内層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記内層を形成する工程と、
前記内層上に最外層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記最外層を形成する工程と
を有し、
前記内層を形成するための樹脂組成物はポリオレフィン系樹脂および滑剤を含み、金属水酸化物を含有せず、
前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ
前記内層の厚みが0.05mm~0.30mmである
ことを特徴とする電線・ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線・ケーブルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心が世界的に高まっており、電線・ケーブルにおいても焼却時に有害なハロゲンガスなどを発生させないノンハロゲンの組成物を用いたものが普及しつつある。また、ノンハロゲン組成物を用いた電線・ケーブルについて様々な提案がなされている。
【0003】
電線・ケーブルに用いるノンハロゲン組成物としては、ポリオレフィン系樹脂がある。
そこで、近年では、ポリオレフィン系樹脂に難燃剤として金属水酸化物を配合したノンハロゲン難燃性樹脂組成物が多用されるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属導体上に直接又は間接に内層が設けられ、前記内層を覆うように直接最外層が設けられた少なくとも2層の樹脂層からなるノンハロゲン系難燃性多層絶縁電線であって、前記内層と前記最外層の一方が、下記組成:(a11)エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群から選ばれたエチレン系共重合体50~80質量%、(a12)ポリエチレン樹脂5~35質量部、(a13)ポリプロピレン樹脂5~20質量%を含有する樹脂成分(A1)の合計100質量部に対し、(B1)金属水和物120~300質量部を有する難燃性樹脂組成物(X1)を用いて押出被覆され、前記内層と前記最外層の他方が、下記組成:(a21)ポリエチレン樹脂40~95質量%、(a22)エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなる群から選ばれたエチレン系共重合体0~40質量%、(a23)ポリプロピレン樹脂5~30質量%を含有する樹脂成分(A2)の合計100質量部に対し、(B2)金属水和物120~300質量部を有する難燃性樹脂組成物(X2)を用いて押出被覆され、前記内層と前記最外層を構成する難燃性樹脂組成物の少なくともいずれか一方が(C)シリコーンガムを1~6質量部含有することを特徴とするノンハロゲン系難燃性多層絶縁電線が開示されている。
【0005】
一般的に従来の電線・ケーブルとしては、例えば導体の外周をシースと呼ばれる被覆層で被覆してなるものが知られている。また別の形態として、前記導体と前記シースとの間に絶縁層を設けたものも知られている。
【0006】
しかし、従来の電線・ケーブルは、その敷設時のシース剥き作業性が悪いという問題点がある。例えば、電線・ケーブルの製造時、絶縁層上にシースを押出成形すると、両者が強く密着し、上記シース剥き作業性が悪化する。シース剥き作業性を改善するには、例えば絶縁層上にタルクやシリコーンを塗布する手法があるが、そのための塗布設備を別に設ける必要があり、また、押出成形時に求められる絶縁層とシースとの適度な密着性を損ない、電線・ケーブルの外観が悪化するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-109229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被覆層(シース)の剥き作業性を高め、外観が良好であり、かつ製造コストを抑制できる電線・ケーブルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る「電線・ケーブル」は、下記(1)~(3)を特徴としている。
(1)
導体の外周を被覆層で被覆してなる電線・ケーブルにおいて、
前記被覆層は、難燃剤を含有する最外層と、前記最外層の内側の1層以上の内層と、を有する2層以上からなり、
前記内層はポリオレフィン系樹脂および滑剤を含む樹脂組成物から構成され、金属水酸化物を含有せず、
前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ
前記内層の厚みが0.05mm~0.30mmであること。
(2)
上記(1)に記載の電線・ケーブルにおいて、
前記導体と前記内層との間に、絶縁層が設けられてなること。
(3)
上記(1)または(2)に記載の電線・ケーブルにおいて、
前記最外層は、滑剤および酸化防止剤の少なくともいずれか一方を含むこと。
【0010】
上記(1)の構成の電線・ケーブルによれば、被覆層における内層に用いられるポリオレフィン系樹脂の種類および構成、滑剤の配合量および内層の厚みを特定化している。
すなわち、前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ前記内層の厚みは0.05mm~0.30mmである。
前記ポリオレフィン系樹脂の種類および構成を上記のように特定化することにより、滑剤との親和性が高まり、電線・ケーブルの外観を損なうことなく滑剤を多量に配合することができ、シース剥き作業性を改善できる。また、特別な塗布装置等を設置する必要はなく、製造コストを抑制できる。
以上から、本発明によれば被覆層(シース)の剥き作業性を高め、外観が良好であり、かつ製造コストを抑制できる電線・ケーブルを提供できる。
【0011】
上記(2)の構成の電線・ケーブルによれば、前記導体と前記内層との間に、絶縁層が設けられている場合でも、被覆層(シース)の剥き作業性を高めつつ、上記押出成形時に求められる絶縁層とシースとの適度な密着性が確保され、外観の悪化を防止できる。また、例えば絶縁層上にタルクやシリコーンを塗布する必要がなく、そのための塗布設備を省略でき、製造コストを抑制できる。
【0012】
上記(3)の構成の電線・ケーブルによれば、前記最外層が滑剤および酸化防止剤の少なくともいずれか一方を含むものであるので、施工性、耐酸化性にさらに優れた電線・ケーブルを提供できる。
【0013】
更に、上述した目的を達成するために、本発明に係る「電線・ケーブルの製造方法」は、下記(4)を特徴としている。
(4)
導体の外周を、最外層と前記最外層の内側の内層とを有する2層以上の被覆層で被覆してなる電線・ケーブルの製造方法において、
前記導体の外周に前記内層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記内層を形成する工程と、
前記内層上に最外層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記最外層を形成する工程と
を有し、
前記内層を形成するための樹脂組成物はポリオレフィン系樹脂および滑剤を含み、金属水酸化物を含有せず、
前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ
前記内層(41)の厚みが0.05mm~0.30mmであること。
【0014】
上記(4)の構成の電線・ケーブルの製造方法によれば、前記導体の外周に前記内層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記内層を形成する工程と、前記内層上に最外層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記最外層を形成する工程とを有し、上記のように被覆層における内層に用いられるポリオレフィン系樹脂の種類および構成、滑剤の配合量および内層の厚みを特定化しているので、被覆層(シース)の剥き作業性を高め、外観が良好であり、かつ製造コストを抑制できる電線・ケーブルを提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被覆層(シース)の剥き作業性を高め、外観が良好であり、かつ製造コストを抑制できる電線・ケーブルおよびその製造方法を提供できる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の電線の一実施形態における断面図である。
図2図2は、本発明の電線の別の実施形態における断面図である。
図3図3は、本発明のケーブルの一実施形態における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電線・ケーブルの一実施形態について説明する。
【0019】
図1~3は、本実施形態に係る電線・ケーブルの断面図を示し、図1は電線の断面図、図2は別の実施形態の電線の断面図、図3はケーブルの断面図である。
図1に示すように、本実施形態における電線1は、銅線等の導体2と、導体2の外周を被覆する被覆層4とを備える。被覆層4は、電線1の最も外側に設けられる最外層42を備え、最外層42の内側に内層41が設けられている。
また図2に示すように、別の実施形態における電線1は、銅線等の導体2と、導体2の外周を被覆する被覆層4とを備える。被覆層4は、電線1の最も外側に設けられる最外層42を備え、最外層42の内側に内層41が設けられ、かつ導体2と内層41との間に、絶縁層3が設けられている。
また図3に示すように、本実施形態に係るケーブル10は、束ねられた複数の電線1(1a,1b)と、束ねられた複数の電線1の周縁を覆う、被覆層としての被覆層4とを備える。被覆層4は、ケーブル10の最も外側に設けられた最外層42を備え、最外層42の内側に内層41が設けられ、また導体2と内層41との間に、絶縁層3が設けられている。
【0020】
導体2は、1本の素線のみであってもよく、複数本の素線を束ねて形成したものであってもよい。導体2の材料としては従来公知のものを使用でき、特に制限されないが、例えば、銅、メッキされた銅、銅合金、アルミニウム、及びアルミニウム合金等の導電性金属を用いることができる。
【0021】
被覆層4は、前記電線・ケーブル1、10の最も外側に設けられた最外層42を有する。また、最外層42の内側に内層41が設けられる。なお本発明では、図1~3に示す実施形態に制限されず、例えば前記内層41は複数層設けることもできる。
【0022】
内層41は、ポリオレフィン系樹脂および滑剤を含む樹脂組成物から構成される。
【0023】
前記ポリオレフィン系樹脂は、酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかである。
【0024】
前記EVAにおける酢酸ビニル含量、EEAにおけるエチルアクリレート含量、EPDMにおけるエチレン含量またはPEの密度を特定することにより、滑剤との親和性が高まり、電線・ケーブルの外観を損なうことなく滑剤を多量に配合することができ、シース剥き作業性を改善できる。また、特別な塗布装置等を設置する必要はなく、製造コストを抑制できる。前記EVAにおける酢酸ビニル含量、EEAにおけるエチルアクリレート含量、EPDMにおけるエチレン含量またはPEの密度が前記の範囲外であると、滑剤との親和性が悪化し、滑剤を多量に配合することができず、シース剥き作業性を改善できない。
【0025】
前記EVAにおける酢酸ビニル含量は、10~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましく、25~40質量%であることがさらに好ましい。25~45質量%であってもよい。
前記EEAにおけるエチルアクリレート含量は、10~45質量%であることがより好ましく、10~40質量%であることがさらに好ましく、25~40質量%であることがさらに好ましい。25~45質量%であってもよい。
前記EPDMにおけるエチレン含量は、45~65質量%であることがより好ましく、45~60質量%であることがさらに好ましい。
前記PEの密度は、0.880~0.900g/cmであることがさらに好ましい。
【0026】
前記滑剤としては、公知の脂肪酸、金属脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、炭化水素油、シリコーン系滑剤等を使用でき、特に制限されないが、中でも金属脂肪酸、シリコーン系滑剤が好ましい。
【0027】
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部である。前記滑剤の配合量が10質量部未満では、添加量が少なすぎて本発明の効果を奏することができない。また、前記滑剤の配合量が30質量部を超えると、例えば電線・ケーブルの製造時に押出機内部で前記ポリオレフィン系樹脂が滑り混練性が著しく低下し、被覆層の外観が悪化してしまう。
【0028】
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し15~25質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
最外層42は、例えばベース樹脂および難燃剤を含有する樹脂組成物により形成することができる。
【0030】
ベース樹脂は、例えばポリオレフィン系樹脂やゴム成分であることができ、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0031】
前記ベース樹脂におけるポリオレフィン系樹脂としては、特に制限されないが、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)、超低密度ポリエチレン(V-LDPE)等のポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)等が挙げられる。これらのポリオレフィン系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
なかでも、ポリエチレン(PE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)およびエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)から選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
前記ベース樹脂におけるポリオレフィン系樹脂は、密度が0.900~0.970g/cmであることが好ましく、0.930~0.960g/cmがより好ましい。前記範囲の密度のポリオレフィン系樹脂を用いることで、機械的特性をさらに向上させることができる。また、ポリオレフィン系樹脂は、溶融粘度(MFR)が0.3~5.0g/10分であることが好ましく、1.0~3.0g/10分がより好ましい。ポリオレフィン系樹脂の溶融温度が前記範囲であると、押出加工性が向上する。
なお、本発明でいう密度は、JIS K7112(1999年)に準拠して測定される値であり、MFRは、JIS K7210(2014年)に準拠し、190℃、2.16kgf荷重にて測定される値である。
【0033】
ゴム成分は、例えばエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)等が挙げられる。なお必要に応じてポリオレフィン系樹脂とゴム成分とは併用することができる。
【0034】
難燃剤としては、電線・ケーブルに使用可能な難燃剤を適宜選択して使用することができ、例えば、臭素化エチレンビスフタルイミド誘導体、ビス臭素化フェニルテレフタルアミド誘導体、臭素化ビスフェノール誘導体、及び1,2-ビス(ブロモフェニル)エタン等の有機系臭素含有難燃剤;水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウム等の金属水酸化物のような無機系難燃剤;芳香族縮合リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、及びメラミンリン酸塩等のリン酸系難燃剤;ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、及びピロリン酸ピペラジン等のイントメッセント系難燃剤等が挙げられる。
【0035】
前記難燃剤の配合量は、最外層42のベース樹脂100質量部に対し、金属水酸化物等の無機系難燃剤においては、5~120質量部であることが好ましく、10~100質量部であることがさらに好ましい。また、上記無機系難燃剤以外の難燃剤においては、5~60質量部であることが好ましく、10~45質量部であることがさらに好ましい。
【0036】
最外層42は、滑剤および酸化防止剤の少なくともいずれか一方を含む形態が好ましい。この形態によれば、施工性、耐酸化性にさらに優れた電線・ケーブルを提供できる。
【0037】
前記最外層42に使用される滑剤としては、前記内層41に使用される滑剤が挙げられる。また酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0038】
前記滑剤の配合量は、最外層42のベース樹脂100質量部に対し、1.0~3.0質量部であることが好ましく、1.5~2.0質量部であることがさらに好ましい。
前記酸化防止剤の配合量は、最外層42のベース樹脂100質量部に対し、0.5~2.0質量部であることが好ましく、1.0~1.5質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
最外層42は、必要に応じて架橋されていてもよい。
架橋剤としては、有機過酸化物が挙げられるが、これに限定されるものではない。具体的には、架橋剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、及びtert-ブチルクミルパーオキサイド等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
架橋助剤としては、特に制限されないが、例えば分子内に二重結合を二個以上有する化合物が挙げられ、具体的には、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、及びポリプロピレングリコールジアクリレートなどのジアクリレート;1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、及びポリエチレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、及びペンタエリスリトールトリアクリレートなどのトリアクリレート;トリメチロールプロパントリメタクリレート、及びトリメチロールエタントリメタクリレートなどのトリメタクリレート;ペンタエリスリトールテトラアクリレート、及びテトラメチロールメタンテトラアクリレートなどのテトラアクリレート;ジビニルベンゼンなどのジビニル芳香族化合物;トリアリルシアヌレート、及びトリアリルイソシアヌレートなどのシアヌレート;ジアリルフタレートなどのジアリル化合物;トリアリル化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
架橋剤および架橋助剤の使用量は、例えば架橋剤はベース樹脂に対して0.03~0.10質量%、架橋助剤は0.03~0.10質量%であることができる。
【0042】
最外層42の厚みは、0.50~2.20mmであるのが好ましく、0.75~1.95mmであるのがさらに好ましい。
【0043】
なお、前記内層41は未架橋であることができ、また、難燃剤を含んでも含まなくてもよい。
【0044】
本発明の電線・ケーブル1、10において、内層41は厚みが0.05mm~0.30mmであることが必要である。前記内層41の厚みが0.05mm未満であると、滑剤がブリードし外観が悪化し、逆に0.30mmを超えると電線・ケーブル1、10の引張特性が悪化する。前記内層41の厚みは、0.05mm~0.25mmであることがさらに好ましい。
【0045】
なお、図3に示すような平型のケーブルにおいては、内層41の厚みが均一ではない。このように、内層41の全体の厚みが均一でない場合は、内層41が最も薄くなる部分の厚みを、前記内層41の厚みとする。
【0046】
本発明の電線・ケーブル1、10において、被覆層4の全体の厚みは、0.80mm~2.50mmであることが好ましく、1.00mm~2.20mmであることがさらに好ましい。
なお、図3に示すような平型のケーブルにおいては、内層41の厚みが均一ではない。このように、被覆層4の全体の厚みが均一でない場合は、被覆層4が最も薄くなる部分の厚さを、前記被覆層4の全体の厚さとする。
【0047】
被覆層4には、前記滑剤、難燃剤、酸化防止剤以外にも、必要に応じて、充填剤、加工助剤、紫外線吸収剤、顔料、帯電防止剤、分散剤等の公知の各種添加剤を配合することもできる。
【0048】
充填剤としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、マイカ、ペントナイト、ゼオライト、消石灰、カオリン、及びけいそう土等が挙げられる。
【0049】
加工助剤としては、例えば、パラフィン系油、アロマチック系油、及びナフテン系油等の石油系油等が挙げられる。
【0050】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチレート系化合物、置換トリル系化合物、及び金属キレート系化合物等が挙げられる。
【0051】
顔料としては、「顔料便覧(日本顔料技術協会編)」に記載されている一般的な無機顔料や有機顔料を用いることができる。例えば、無機顔料としては、チタンイエロー等のチタンを含む(複合)金属酸化物、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、及び三酸化アンチモン等が挙げられる。有機顔料はフタロシアニン系、アンスラキノン系、キナクリドン系、アゾ系、イソインドリノン系、キノフタロン系、ペリノン系、及びペリレン系等の顔料が挙げられる。
【0052】
帯電防止剤としては、例えば、アルキルリン酸エステル、及びケイ酸化合物等が挙げられる。
【0053】
分散剤としては、例えば、アクリル系分散剤、脂肪酸エステル系分散剤、ポリエチレングリコール系分散剤、非イオン性界面活性剤、両親媒性トリフェニレン誘導体、及びピレン誘導体等が挙げられる。
【0054】
絶縁層3は、所望により設けることができ、その材料はとくに制限されず、公知の絶縁体の中から適宜選択することができ、例えばポリエチレン、架橋ポリエチレン、及びビニル混合物等からなるものが好ましく用いられる。また前記難燃剤および各種添加剤を必要に応じて配合することもできる。
【0055】
本発明の電線・ケーブル1、10は、公知の手段によって製造することができ、例えば以下の工程を有する。
【0056】
(1)必要に応じて、前記導体2の外周に前記絶縁層3を形成するための樹脂組成物を押出し、前記絶縁層3を形成する工程
(2)前記導体2または前記絶縁層3の外周に前記内層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記内層41を形成する工程
(3)前記内層41上に最外層を形成するための樹脂組成物を押出し、前記最外層42を形成する工程
なお、前記押出しの際には、公知の単軸押出機や二軸押出機等の押出機を用いることができる。
【実施例
【0057】
以下、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。
【0058】
下記表1~4に記載の材料および配合量に基づき、各成分を温度200℃のニーダーにて混練し、内層41用の樹脂組成物および最外層42用の樹脂組成物を作製した。
【0059】
直径2.0mmの銅線上に、押出成形機を用いて内層41用の樹脂組成物および最外層42用の樹脂組成物を順次押出し、各種試験電線を作製した。
【0060】
得られた試験電線に対し、次の項目を測定した。
引張強さ:JIS C3005(2014年)に基づき、測定した。10MPa以上を合格(○)とする。
引張伸び:JIS C3005(2014年)に基づき、測定した。350mm以上を合格(○)とする。
被覆層加熱変形:JIS C3005(2014年)に基づき、加熱温度120℃で測定した。10%以下を合格(○)とする。
ケーブル難燃性:JIS C3005(2014年)4.26にしたがい測定した。60秒以内に消火されたものを合格(良)とした。
内層外観:JIS C 3005 4.1に準拠し測定した。なお表中の注1は、内層表面にザラツキ、荒れ等がなければ合格(良)とし、有るものをNGとしたことを意味する。
絶縁体引抜荷重:ケーブル試料を約150mmに切り取り、端末より100mm±1mmの部分に印をつけ、残り約50mmのシース被覆を剥きとり、絶縁線心を露出させた。露出した絶縁線心を300mm/minの速度で引張、その際の荷重を測定した。10N以下を合格(○)とする。
【0061】
結果を表2~4に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
表1~4の各実施例の結果から、内層41を構成するポリオレフィン系樹脂が、酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、滑剤の配合量が、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ内層41の厚みが0.05mm~0.30mmである試験電線は、被覆層(シース)の剥き作業性が高まり、外観が良好であるとともに、十分な引張強さ、加熱変形率、難燃性を有することが判明した。なお、ポリオレフィン系樹脂としてエチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)を使用した場合でも、各実施例と同等な良好な結果が得られることを本発明者らは確認している。
【0067】
比較例1は、内層41の滑剤の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、絶縁体引抜荷重が上昇し、シースの剥き作業性が悪化した。
比較例2は、内層41の滑剤の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、成形時の押出機内での混練不足により内層外観が悪化した。
比較例3は、EPDMのエチレン含量が本発明で規定する上限を超えているので、ポリオレフィン系樹脂と滑剤の親和性が低下し、内層外観が悪化した。
比較例4は、PEの密度が本発明で規定する上限を超えているので、ポリオレフィン系樹脂と滑剤の親和性が低下し、内層外観が悪化した。
比較例5は、PEの密度が本発明で規定する下限未満であるので、ポリオレフィン系樹脂と滑剤の親和性が高すぎることとなり、滑剤がブリードしないためシースの剥き作業性が悪化した。
比較例6は、内層41の厚みが本発明で規定する下限未満であるので、滑剤のブリードが過剰となり、内層外観が悪化した。
比較例7は、内層41の厚みが本発明で規定する上限を超えているので、引張特性に対する悪影響が生じ、引張強さが低下した。
比較例8は、内層41に滑剤を配合せず、その代わりに絶縁層表面にシリコーンを塗布した例であるので、押出成形時に求められる絶縁層とシースとの適度な密着性が損なわれ、内層41の外観が悪化した。
【0068】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0069】
ここで、上述した本発明に係る電線・ケーブルおよびその製造方法の実施形態の特徴をそれぞれ以下(1)~(4)に簡潔に纏めて列記する。
(1)
導体(2)の外周を被覆層(4)で被覆してなる電線・ケーブル(1、10)において、
前記被覆層(4)は、難燃剤を含有する最外層(42)と、前記最外層(42)の内側の1層以上の内層(41)と、を有する2層以上からなり、
前記内層(41)はポリオレフィン系樹脂および滑剤を含む樹脂組成物から構成され、金属水酸化物を含有せず、
前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ
前記内層(41)の厚みが0.05mm~0.30mmである
ことを特徴とする電線・ケーブル(1、10)。
(2)
上記(1)の電線・ケーブルにおいて、
前記導体(2)と前記内層(41)との間に、絶縁層(3)が設けられてなる、電線・ケーブル(1、10)。
(3)
上記(1)または(2)の電線・ケーブルにおいて、
前記最外層(42)は、滑剤および酸化防止剤の少なくともいずれか一方を含む、電線・ケーブル(1、10)。
(4)
導体(2)の外周を、最外層(42)と前記最外層(42)の内側の内層(41)とを有する2層以上の被覆層(4)で被覆してなる電線・ケーブル(1、10)の製造方法において、
前記導体(2)の外周に前記内層(41)を形成するための樹脂組成物を押出し、前記内層(41)を形成する工程と、
前記内層(41)上に最外層(42)を形成するための樹脂組成物を押出し、前記最外層(42)を形成する工程と
を有し、
前記内層(41)を形成するための樹脂組成物はポリオレフィン系樹脂および滑剤を含み、金属水酸化物を含有せず、
前記ポリオレフィン系樹脂は酢酸ビニル含量が5~50質量%であるエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチルアクリレート含量が5~50質量%であるエチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン含量が40~65質量%であるエチレン-プロピレン-非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)、または密度が0.880~0910g/cmのポリエチレン(PE)のいずれかであり、
前記滑剤の配合量は、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対し10~30質量部であり、かつ
前記内層(41)の厚みが0.05mm~0.30mmである
ことを特徴とする電線・ケーブル(1、10)の製造方法。
【符号の説明】
【0070】
1 電線
2 導体
3 絶縁層
4 被覆層
41 内層
42 最外層
10 ケーブル
図1
図2
図3