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特許7513467グラフト変性ポリメチルペンテン組成物、成形品、及び銅張積層板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】グラフト変性ポリメチルペンテン組成物、成形品、及び銅張積層板
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/06 20060101AFI20240702BHJP
   C08F 285/00 20060101ALI20240702BHJP
   C08K 5/3477 20060101ALI20240702BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240702BHJP
   C08F 255/08 20060101ALI20240702BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08L51/06
C08F285/00
C08K5/3477
B32B15/08 U
C08F255/08
H05K1/03 610H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020139565
(22)【出願日】2020-08-20
(65)【公開番号】P2022035329
(43)【公開日】2022-03-04
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】秋永 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】今村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-224324(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057049(WO,A1)
【文献】特開2018-021112(JP,A)
【文献】特開平03-153109(JP,A)
【文献】特開2013-166926(JP,A)
【文献】特開2000-239640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 51/06
C08F 285/00
C08K 5/3477
B32B 15/08
C08F 255/08
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)と、架橋剤(B)とを含むグラフト変性ポリメチルペンテン組成物であって
前記グラフト変性ポリメチルペンテン(A)が、グラフト変性により極性基を導入されており、
前記架橋剤(B)が、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる1種以上であり、
前記架橋剤(B)の含有量が、前記グラフト変性ポリメチルペンテン(A)100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であり、
前記グラフト変性ポリメチルペンテン組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、前記グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の質量の割合が80質量%以上である、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
【請求項2】
前記架橋剤(B)の含有量が、前記グラフト変性ポリメチルペンテン(A)100質量部に対して、質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
【請求項3】
前記グラフト変性ポリメチルペンテン(A)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されている、請求項1又は2に記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
【請求項4】
前記グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点が200℃以上である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品。
【請求項6】
請求項に記載の前記成形品に対して前記架橋剤(B)による架橋処理が施された、成形品。
【請求項7】
フィルムである、請求項又はに記載の成形品。
【請求項8】
フィルムである、請求項に記載の成形品を含む、銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物と、当該グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品及びフィルムと、当該グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなるフィルムを含むフレキシブルプリント配線板とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の通信機器や、次世代テレビ等の電子機器において、大容量のデータを高速に送受信することが要求されている。これに伴い、電気信号の高周波数化が進んでいる。具体的には、無線通信分野では、2020年頃に、第5世代移動通信システム(5G)の導入が見込まれる。第5世代移動通信システムの導入に際して、10GHz以上の高周波数帯域の使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、使用される信号の周波数が高くなるに伴い、情報の誤認識を招きうる出力信号の品質低下、すなわち、伝送損失が大きくなる。この伝送損失は、導体に起因する導体損失と、電子機器や通信機器における基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂に起因する誘電損失とからなるが、導体損失は使用する周波数の0.5乗、誘電損失は周波数の1乗に比例するため、高周波帯、とりわけGHz帯においては、この誘電損失による影響が非常に大きくなる。
【0004】
このため、伝送損失を低減するために、誘電損失に係る因子である比誘電率と、誘電正接とが低い低誘電材料が求められている。このような事情から、高周波数帯域で使用され得る低誘電材料として、例えば、低誘電損失及び低誘電正接等の電気特性に優れたポリオレフィンを含む組成物の使用が検討されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-245305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低誘電特性に優れる材料の好ましい用途としては、フレキシブルプリント配線板が挙げられる。フレキシブルプリント配線板において、低誘電特性を有する材料は、通常、フィルム又はシートとして使用される。
【0007】
フレキシブルプリント配線板は、通常、銅張積層板(CCL)であることが多い。しかしながら、特許文献1に記載されるようなポリオレフィン組成物は、通常、銅箔のような金属箔と良好に接着しにくい。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、フィルム化等の成形性が良好であり、銅箔等の金属箔との接着性に優れる成形品を与えるグラフト変性ポリメチルペンテン組成物と、当該グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなるフィルム等の成形品と、前述のフィルムを含む銅張積層板とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(9)を提供する。
(1)グラフト変性ポリメチルペンテン(A)と、架橋剤(B)とを含み、
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)が、グラフト変性により極性基を導入されている、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
(2)架橋剤(B)が、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びトリメタリルイソシアヌレートからなる群から選ばれる1種以上である、(1)に記載のポリメチルペンテン組成物。
(3)架橋剤(B)の含有量が、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下である、(1)又は(2)に記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
(4)グラフト変性ポリメチルペンテン(A)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されている、(1)~(3)のいずれか1つに記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
(5)グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点が200℃以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物。
(6)(1)~(5)のいずれか1つに記載のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品。
(7)(6)に記載の成形品に対して架橋剤(B)による架橋処理が施された、成形品。
(8)フィルムである、(6)又は(7)に記載の成形品。
(9)(8)に記載のフィルムを含む、銅張積層板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、フィルム化等の成形性が良好であり、銅箔等の金属箔との接着性に優れる成形品を与えるグラフト変性ポリメチルペンテン組成物と、当該グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなるフィルム等の成形品と、前述のフィルムを含む銅張積層板とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪グラフト変性ポリメチルペンテン組成物≫
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、極性基を有するグラフト変性ポリメチルペンテン(A)と、架橋剤(B)とを含む。
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品は、架橋剤(B)を含むため、例えば、加熱、電子線照射等の方法による架橋処理され得る。架橋処理が施された成形品には、フレキシブルプリント配線板用途における望ましい耐熱性や、向上した機械的特性が付与される。
【0013】
以下、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物が含み得る、必須、又は任意の成分について説明する。
【0014】
<グラフト変性ポリメチルペンテン(A)>
【0015】
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)は、ポリメチルペンテンがグラフト変性された樹脂であって、極性基を有する樹脂であれば特に限定されない。
【0016】
ここで極性基とは、極性のある原子団のことで,この基が有機化合物中に存在すると,その化合物が極性をもつ基のことである。グラフトによりポリメチルペンテンに導入され得る極性基の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸に由来するカルボキシ基;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等の前述の不飽和カルボン酸の誘導体に由来する酸無水物基、ハロカルボニル基、カルボン酸アミド基、イミド基、及びカルボン酸エステル基;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体に由来するエポキシ基等が挙げられる。これらの極性基の中では、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品と、銅箔等の金属箔との密着性が良好であることや、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)と架橋剤(B)との架橋反応性が良好であること等からエポキシ基が好ましい。
【0017】
典型的には、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)は、ポリメチルペンテンが、ラジカル重合開始剤の存在下で、極性基を有するビニル単量体でグラフト変性された樹脂である。
【0018】
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリメチルペンテンであるのが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリメチルペンテンであるのがより好ましい。
【0019】
ポリメチルペンテンをグラフト変性する際に使用し得るラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、及びメチルアセトアセテートパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、及び2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及びクメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、及びジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシオクテート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、及びジ-tert-ブチルパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル等が挙げられる。上記のラジカル重合開始剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0020】
ラジカル重合開始剤の使用量は、グラフト変性反応が良好に進行する限り特に限定されない。ラジカル重合開始剤の使用量は、ポリメチルペンテン100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0021】
グラフト変性に使用され得る極性基を有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等のこれらの不飽和カルボン酸の誘導体;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、エポキシ基含有ビニル単量体が好ましく、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルがより好ましく、メタクリル酸グリシジルが特に好ましい。
【0023】
上記の極性基を有するビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0024】
ポリメチルペンテンのグラフト変性に使用される極性基を有するビニル単量体の添加量は、ポリメチルペンテン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0025】
かかる範囲内の量の極性基を有するビニル単量体を用いて変性されたポリメチルペンテンを用いることで、銅箔等の金属箔に対して良好に密着する成形品を与えるグラフト変性ポリメチルペンテンを得やすい。
【0026】
前述の通りグラフト変性ポリメチルペンテン(A)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリメチルペンテンであるのが好ましい。
【0027】
極性基を有するビニル単量体と、芳香族ビニル単量体とを併用することにより、グラフト反応が安定化することによって、極性基を有するビニル単量体を所望する量グラフトさせやすいためである。
【0028】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジメチルスチレン、及びトリメチルスチレン等のアルキルスチレン類;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のクロロスチレン類;o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、ジブロモスチレン、及びトリブロモスチレン等のブロモスチレン類;o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、及びトリフルオロスチレン等のフルオロスチレン類;o-ニトロスチレン、m-ニトロスチレン、p-ニトロスチレン、ジニトロスチレン、及びトリニトロスチレン等のニトロスチレン類;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、及びトリヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類;o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、o-ジイソプロペニルベンゼン、m-ジイソプロペニルベンゼン、及びp-ジイソプロペニルベンゼン等のジアルケニルベンゼン類等が挙げられる。
【0029】
これら芳香族ビニル単量体の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、又はジビニルベンゼン異性体混合物が、安価な点で好ましく、特にスチレンが好ましい。
【0030】
芳香族ビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0031】
ポリメチルペンテンのグラフト変性に使用される極性基を有する芳香族ビニル単量体の量は、ポリメチルペンテン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.5質量部以上10質量部以下がより好ましく、1質量部以上8質量部以下が特に好ましい。
【0032】
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点は、特に限定されない。グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点は、80℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、120℃以上240℃以下がさらに好ましい。
成形品の耐熱性の点から、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点は、200℃以上であるのもの好ましい。
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点が、上記の温度であることにより、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品に良好な耐熱性を付与できる。
また、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点が240℃以下であると、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物を調製したり使用したりする際の、架橋剤(B)の分解や昇華を抑制しやすい。
【0033】
<架橋剤(B)>
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、架橋助(B)を含む。架橋剤(B)は、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)を架橋させることにより、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品の耐熱性や機械的特性の向上に寄与する。
【0034】
架橋剤(B)が有する後述の反応性官能基の種類に応じて選択される、加熱や電子線照射等の架橋処理によって、架橋剤(B)は、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)同士を架橋させる。
【0035】
架橋剤(B)は、同一分子内に反応性官能基を2個以上有する化合物である。グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品において、架橋剤(B)による分子架橋を生じさせることにより特に耐熱性に優れる成形品を得やすい。
【0036】
架橋剤(B)が有する反応性官能基としては炭素-炭素二重結合含有基、ハロゲン原子、ジカルボン酸無水物基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、及び水酸基が挙げられる。架橋剤の同一分子内に有する複数の反応性官能基は互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
上記の反応性官能基の中では、架橋反応性と、架橋後の架橋構造の安定性とが優れることから、炭素-炭素二重結合含有基が好ましい。
炭素-炭素二重結合含有基としては、ビニル基、アリル基、及びメタリル基等のアルケニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の不飽和アシル基、マレイミド基等が挙げられる。好ましい炭素-炭素二重結合含有基は炭素数2~4のアルケニル基であり、特にアリル基が特に好ましい。
【0037】
架橋剤(B)の好適な具体例としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、トリアリルトリメリテート、m-フェニレンジアミンビスマレイミド、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム、ジプロパルギルテレフタレート、ジアリルフタレート、N,N’,N’’,N’’’-テトラアリルテレフタルアミド、並びにポリメチルビニルシロキサン、及びポリメチルフェニルビニルシロキサン等のビニル基含有ポリシロキサン等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートと、メタクリレートとの双方を意味する。
【0038】
これらの中では、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。特に架橋反応性の点で、架橋剤(B)がトリアリルイソシアヌレート(TAIC)、及び/又はトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTMA)を含むのが好ましく、架橋剤(B)がTAICであるのが特に好ましい。
【0039】
架橋剤(B)の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。グラフト変性ポリメチルペンテン組成物における、架橋剤(B)の使用量は、例えば、グラフト変性ポリメチルペンテン100質量部に対して、1質量部以上100質量部以下が好ましく、3質量部以上50質量部以下がより好ましく、5質量部以上30質量部以下がさらに好ましい。
【0040】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。グラフト変性ポリメチルペンテン組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の質量の割合は、典型的には、80質量%が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0041】
その他の樹脂の例としては、グラフト変性されていないポリオレフィン、グラフト変性ポリメチルペンテン以外のグラフト変性されたポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の非液晶性のポリエステル、液晶性ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられる。
【0042】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0043】
これらの無機充填剤の使用量は、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の低誘電特性を損なわない範囲で、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の用途に応じて適宜決定される。例えば、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0044】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
【0045】
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0046】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の形態は特に限定されない。グラフトオレフィン組成物は、例えば、固体状のグラフト変性ポリメチルペンテン(A)中に架橋剤(B)が分散した組成物であってもよく、粉末状のグラフト変性ポリメチルペンテン(A)と、粉末状の架橋剤(B)とが混合された粉末状の組成物であってもよい。グラフト変性ポリメチルペンテン組成物としては、固体状のグラフト変性ポリメチルペンテン(A)中に架橋剤(B)が分散した組成物が好ましい。
【0047】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の10GHzにおける誘電正接は、0.0025以下が好ましい。
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の周波数10GHzにおける比誘電率は、好ましくは2.8以下である。
【0048】
上記のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、低誘電特性を活かし、高周波数帯域で使用される電気、電子部品、情報通信装置、当該情報通信装置の部品等の用途において好適に使用される。
【0049】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の製造方法は特に限定されない。グラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)と、架橋剤(B)とを混合することにより製造され得る。
グラフト変性ポリメチルペンテン(A)及び架橋剤(B)を混合する方法は特に限定されない。好ましい混合方法としては、一軸押出機や二軸押出機等の溶融混練装置を用いる方法が挙げられる。
【0050】
混合条件は、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)と、架橋剤(B)とを均一に混合でき、各成分が、過度に熱分解したり、昇華したりしない条件であれば特に限定されない。溶融混練装置を用いる場合、例えば、グラフト変性ポリメチルペンテン(A)の融点よりも、好ましくは5℃以上100℃以下高い温度、より好ましくは10℃以上50℃以下高い温度で溶融混練が行われる。
【0051】
グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品に対して、架橋剤(B)による架橋処理が施されるのが好ましい。架橋処理の方法は特に限定されず、架橋剤(B)が有する反応性官能基の種類に応じて適宜選択される。架橋処理の方法としては、電子線照射、加熱、光照射等が挙げられる。
フィルム化後に架橋構造を形成可能である点で電子線照射が好ましい。電子線照射を行う場合の電子線の線量としては、100kGy以上1200kGy以下が好ましく、200kGy以上800kGy以下がより好ましい。
加熱により架橋する方法では、架橋温度が過度に高いと、成形品を架橋させる際に成形品が熱劣化したり変形したりするおそれがある。逆に架橋温度が過度に低いと、押出機内でグラフト変性ポリメチルペンテン組成物が架橋してしまうおそれがある。この場合、液グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の押出機内での増粘により成形品の外観不良が生じやすいため、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物の成形方法として、溶融成形法の適用が難しい。光照射による方法では、特別な場合以外は、光酸発生剤等の開始剤がグラフト変性ポリメチルペンテン組成物に添加される必要がある。しかし、このような開始剤は、高温の押出機内で分解しやすい。以上の点を考慮すると、種々の不具合を生じさせることなく、フィルム等の成形品に架橋構造を容易に形成可能である点で電子線照射が好ましい。
つまり、架橋剤(B)により架橋処理された成形品の製造方法としては、
前述のグラフト変性ポリメチルペンテン組成物を上述の方法等により成形して成形品を得ることと、
得られた成形品に電子線を照射して、成形品に対して架橋剤(B)による架橋処理を行うことと、を含む方法が好ましい。
【0052】
以上説明したグラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、高周波帯域における低誘電特性と、フィルム等を加工する際の溶融加工性とに優れるため、好ましくはフィルムに加工され、当該フィルムを用いて銅箔がフィルムに良好に密着した銅張積層板が製造される。
【0053】
また、グラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなる成形品に架橋剤(B)による架橋処理を施すことにより、フレキシブルプリント配線板として好適な耐熱性を有するフィルムやシート等の成形品や、当該成形品を用いた銅張積層板が得られる。
【実施例
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
〔製造例1〕
(変性ポリメチルペンテン1(mTPX)の製造)
(a1)ポリメチルペンテン(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.5質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン1質量部、(d1)グリシジルメタクリレート1質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
【0056】
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン1(mTPX)のグリシジルメタクリレート変性量は0.75質量%だった。
【0057】
〔製造例2〕
(変性ポリプロピレン2(mPP)の製造)
(a1)ポリプロピレン(プライムポリマー製ポリプロピレングレードJ106G)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)0.25質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度200℃、スクリュー回転数150rpmに設定した製造例1と同じ二軸押出機に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン2.5質量部、(d1)グリシジルメタクリレート2.5質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。製造例1と同様に変性量を測定したところ、変性ポリプロピレン(mPP)のグリシジルメタクリレート変性量は1.25質量%だった。
【0058】
〔実施例1~5、及び比較例1~13〕
表1に記載の種類のポリオレフィン100質量部と、表1に記載の種類及び量の架橋剤とを、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)にホッパー口から供給して溶融混錬して、ポリオレフィンと架橋剤とを含む組成物を得た。
【0059】
上記のようにして得られた組成物を230℃で溶融させ、溶融した組成物を140mm幅のTダイから概ね100μmの厚さで押出してフィルムを得た。
【0060】
得られたフィルムに、加速電圧200kVで吸収線量400kGyの条件で電子線を照射して、架橋剤による架橋を行った。
【0061】
架橋されたフィルムについて、以下の方法に従い、誘電特性(Dk(比誘電率)、Df(誘電正接))、及びリフロー耐熱性を評価した。これらの評価結果を表1に記す。
なお、フィルムを作製できなかったり、フィルムの強度が著しく低い場合には、誘電特性の評価を行わなかった。
【0062】
[誘電特性(Dk(比誘電率)、Df(誘電正接))]
測定装置として、空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用い、下記周波数で得られた組成物の比誘電率及び誘電正接を測定した。
測定周波数:10GHz
測定条件:温度22℃~24℃、湿度45%~55%
測定試料:前記測定条件下で、24時間放置した試料を使用した。
【0063】
[リフロー耐熱試験]
銅張積層板としての耐熱性を評価するために、リフロー耐熱試験を行った。
フィルムの試料の両面を電解銅箔(CF-T49A-DS-HD2-12(福田金属箔粉工業(株)社製))で挟み、180℃で真空プレスを行い模擬的な銅張積層板(CCL)を作製した。
得られたCCLを、鉛フリーはんだの使用を想定した条件で高温リフロー炉(アントム社、UNI6116S)を通過させ、高温リフロー炉通過後のCCL試料を観察した。高温リフロー炉の通過条件は、ピーク温度288±3℃、通過時間60秒、通過サイクル数3である。
観察の結果に基づき、以下の基準に従いリフロー耐熱性を評価した。なお、リフロー耐熱性の評価を行えなかった場合について、以下のC又はD評価である。また、リフロー耐熱性についての合格の許容範囲は、下記のA評価である。
A:銅箔が剥離しないか、わずかに剥離し、フィルム形状が維持された。
B:銅箔が著しく剥離し銅箔表面に凹凸が生じ、フィルムにボイドが発生した。
C:銅箔が接着しなかったか、フィルムの強度が低すぎるためにCCLを作製できなかった。
D:フィルムの試料を成形できなかった。
【0064】
表1中の略号は以下の通りである。
mTPX:製造例1で得た、グラフト変性ポリメチルペンテン
mPP:製造例2で得た、グラフト変性ポリプロピレン
TPX:未変性ポリメチルペンテン(三井化学製TPXグレードMX002)
PP:未変性ポリプロピレン(プライムポリマー製ポリプロピレングレードJ108M)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート
TMPTMA:トリメチロールプロパントリメタクリレート
【表1】
【0065】
実施例1~5より、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(A)と架橋剤(B)とを含むグラフト変性ポリメチルペンテン組成物は、良好にフィルム化できることが分かる。また、実施例1~5で得た極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(A)と架橋剤(B)とを含むグラフト変性ポリメチルペンテン組成物からなるフィルムを架橋することで、低誘電特性に優れるフィルムを含み、リフロー耐熱性に優れる銅張積層板(CCL)を製造できることが分かる。
他方、比較例1~13によれば、未変性のポリオレフィンや、ポリメチルペンテン以外のポリオレフィンのグラフト変性体を用いる場合、成膜性が良好な組成物を得にくく、リフロー耐熱性に優れる銅張積層板(CCL)の製造が困難であることが分かる。