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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/861 20060101AFI20240702BHJP
   H01L 29/868 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 21/329 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 29/06 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 29/15 20060101ALI20240702BHJP
   H01L 29/26 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20240702BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
H01L29/91 F
H01L29/91 C
H01L29/91 H
H01L29/91 A
H01L29/06 601S
H01L29/26
C23C16/40
C23C16/30
C23C14/06 P
C23C14/08
C23C14/06 G
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020171432
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2022063087
(43)【公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
【審査官】西村 治郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/229356(WO,A1)
【文献】特開2010-232549(JP,A)
【文献】特開2019-151922(JP,A)
【文献】特開2014-192236(JP,A)
【文献】特開2019-036593(JP,A)
【文献】特開2019-192871(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043503(WO,A1)
【文献】特開2018-170509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/329
H01L 29/06
H01L 29/15
H01L 29/26
H01L 29/861
H01L 29/868
C23C 14/06
C23C 14/08
C23C 16/30
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置(1、2、3、4、5)であって、
第1層(14a)と第2層(14b)が交互に積層して構成されている超格子疑似混晶の領域(14a、14b)を含むp型領域(14)と、
前記p型領域に接するn型領域(12)と、を備えており、
前記第1層は、酸化ガリウム系半導体を含み、
前記第2層は、前記第1層とは異なる材料のp型半導体を含み、
前記第2層の結晶構造が、N、Mg、Zn、Ni、Cu、Rh、Ir、Cr、Fe、Co、Li、Bi、In、Al、Ga、P、Mn、As、Sb、S、Seの群から選択される少なくとも1つを含み、
前記第2層は、p型の酸化物半導体又はp型の非酸化物のGa系半導体であり、
前記第2層が前記酸化物半導体の場合、前記第2層は、NiO、Cu O、Rh 、Ir 、Cr 、ZnMgO、ZnO、ZnGa 、ZnRh 、Fe 、ZnCo 、Li O、Bi 、In 、Mn の群から選択される少なくとも1つを含んでおり、
前記第2層が非酸化物の前記Ga系半導体の場合、前記第2層は、GaN、GaP、GaAs、GaSb、CuGaS 、Ga Se の群から選択される少なくとも1つを含む、
半導体装置。
【請求項2】
前記p型領域の単位体積に占める前記第1層の比率である疑似混晶比が、前記n型領域から離れるにつれて単調減少する、
請求項に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1層の厚みが、前記n型領域から離れるにつれて減少する、
請求項に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2層の厚みが、前記n型領域から離れるにつれて増加する、
請求項又はに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記p型領域と前記n型領域のpn接合面(13)では、前記p型領域の前記第1層が前記n型領域に接している、
請求項のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1層と前記第2層の各々の厚みが5nm以下である、
請求項のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記第1層と前記第2層の各々の厚みが2nm以下である、
請求項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記第1層が、β-Gaである、
請求項のいずれか一項に記載の半導体装置。
【請求項9】
半導体装置(1、2、3、4、5)であって、
第1層(14a)と第2層(14b)が交互に積層して構成されている超格子疑似混晶の領域(14a、14b)を含むp型領域(14)、を備えており、
前記第1層は、酸化ガリウム系半導体を含み、
前記第2層は、前記第1層とは異なる材料のp型の非酸化物のGa系半導体を含む、
半導体装置。
【請求項10】
前記第2層は、GaN、GaP、GaAs、GaSb、CuGaS 、Ga Se の群から選択される少なくとも1つを含む、
請求項9に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、酸化ガリウム系半導体を用いて製造される半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ガリウム系半導体を用いて製造される半導体装置は、高耐圧、低損失及び高耐熱な特性を発揮できるものとして期待されている。特許文献1~3には、酸化ガリウム系半導体を用いて製造される半導体装置の一例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-170509号公報
【文献】特開2019-36593号公報
【文献】特開2019-192871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3で指摘されるように、高活性なp型の酸化ガリウム系半導体を形成する技術がまだ確立されておらず、良好な伝導性のp型領域を備えた半導体装置を製造することができない。本明細書は、酸化ガリウム系半導体を用いて製造される半導体装置において、良好な伝導性のp型領域を備えた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する半導体装置(1、2、3、4、5)は、第1層(14a)と第2層(14b)が交互に積層して構成されている超格子疑似混晶の領域(14a、14b)を含むp型領域(14)を備えている。前記第1層は、酸化ガリウム系半導体である。前記第2層は、前記第1層とは異なる材料のp型半導体である。
【0006】
上記半導体装置では、p型領域が、酸化ガリウム系半導体とp型半導体が交互に積層して構成されている超格子疑似混晶である。このため、酸化ガリウム系半導体とp型半導体の各々の厚みが超格子疑似混晶の特性を有する程度に薄い。したがって、これらの厚みは正孔キャリアがトンネル可能な程度に薄くなることから、p型領域の全体がp型伝導を有することができる。このように、上記半導体装置は、良好な伝導性のp型領域を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例1の半導体装置の要部断面図を模式的に示す図である。
図2】pn接合面近傍の電界分布を模式的に示す図である。
図3】実施例2の半導体装置の要部断面図を模式的に示す図である。
図4】実施例3の半導体装置の要部断面図を模式的に示す図である。
図5】実施例4の半導体装置の要部断面図を模式的に示す図である。
図6】実施例5の半導体装置の要部断面図を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書が開示する技術要素を、以下に列記する。なお、以下の各技術要素は、それぞれ独立して有用なものである。
【0009】
本明細書が開示する半導体装置は、第1層と第2層が交互に積層して構成されている超格子疑似混晶の領域を含むp型領域を備えることができる。前記第1層は、酸化ガリウム系半導体である。前記酸化ガリウム系半導体とは、酸化ガリウム、及び、一部の原子サイトが他の原子に置換された酸化ガリウムを含む。前記第2層は、前記第1層とは異なる材料のp型半導体である。前記第2層の結晶構造は特に限定されるものではなく、p型伝導を有する様々な半導体を前記第2層に用いることができる。例えば、前記第2層の結晶構造が、N、Mg、Zn、Ni、Cu、Rh、Ir、Cr、Fe、Co、Li、Bi、In、Al、Ga、P、Mn、As、Sb、S、Seの群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。これら原子を含む前記第2層は、高活性なp型とする技術が確立されている結晶構造である。
【0010】
前記第2層は、p型の酸化物半導体又はp型の非酸化物のGa系半導体であってもよい。前記第2層が前記酸化物半導体の場合、前記第2層は、NiO、CuO、Rh、Ir、Cr、ZnMgO、ZnO、ZnGa、ZnRh、Fe、ZnCo、LiO、Bi、In、Mnの群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。前記第2層が非酸化物の前記Ga系半導体の場合、前記第2層は、GaN、GaP、GaAs、GaSb、CuGaS、GaSeの群から選択される少なくとも1つを含んでいてもよい。これら例示された材料のバンドギャップ幅は、前記第1層の酸化ガリウム系半導体のバンドギャップ幅よりも狭い。通常、バンドギャップ幅が狭いとp型伝導を有する傾向にある。このため、例えばこれら例示された材料のみを用いれば、良好なp型伝導を有する領域を形成することができる。しかしながら、これら例示された材料のみで形成された領域はバンドギャップ幅が狭く、絶縁破壊電界強度が低い。本実施形態の半導体装置では、前記p型領域が前記第1層と前記第2層の超格子疑似混晶の領域を含む。このため、前記p型領域のバンドギャップ幅は、前記第1層の材料のバンドギャップ幅と前記第2層の材料のバンドギャップ幅の間のバンドギャップ幅となる。したがって、前記p型領域は、前記第2層のみ(即ち、上記で例示された材料のみ)で構成される場合に比して、広いバンドギャップ幅を有することができ、高い絶縁破壊電界強度を有することができる。
【0011】
上記半導体装置は、前記p型領域に接するn型領域をさらに備えていてもよい。前記p型領域が高い絶縁破壊電界強度を有しているので、前記p型領域と前記n型領域のpn接合面での降伏が抑えられる。このような態様の半導体装置は、高耐圧な特性を有することができる。
【0012】
上記半導体装置では、前記p型領域の単位体積に占める前記第1層の比率である疑似混晶比が、前記n型領域から離れるにつれて単調減少してもよい。例えば、前記第1層の厚みが、前記n型領域から離れるにつれて減少してもよい。それに代えて、あるいは、それに加えて、前記第2層の厚みが、前記n型領域から離れるにつれて増加してもよい。前記p型領域内の電界分布に対応して前記第1層と前記第2層の疑似混晶比が調整されており、このような態様の半導体装置は、高耐圧化と低抵抗化を両立することができる。
【0013】
前記p型領域と前記n型領域のpn接合面では、前記p型領域の前記第1層が前記n型領域に接していてもよい。前記p型領域と前記n型領域のpn接合面での降伏が抑えられる。このような態様の半導体装置は、高耐圧な特性を有することができる。
【実施例
【0014】
以下、本明細書が開示する技術がp型のアノード領域に適用されたダイオードを例にして本明細書が開示する技術について説明する。しかしながら、本明細書が開示する技術は、半導体装置の種類には限定されず、各半導体装置が有する様々なp型領域に適用可能である。一例ではあるが、本明細書が開示する技術は、MOSFET及びIGBTのp型領域(例えば、ボディ領域及びガードリング領域)に適用可能である。
【0015】
(実施例1)
図1に示されるように、ダイオード1は、半導体基板10と、半導体基板10の下面を被覆するように設けられているカソード電極22と、半導体基板10の上面の一部を被覆するように設けれているアノード電極24と、を備えている。半導体基板10は、n型のカソード領域12と、p型のアノード領域14と、を有している。ダイオード1は、n型のカソード領域12とp型のアノード領域14がpn接合面13を構成するpn接合ダイオードであり、アノード電極24からカソード電極22に向けてのみ電流を流す整流作用を有している。なお、カソード領域12がn型領域の一例であり、アノード領域14がp型領域の一例である。
【0016】
カソード領域12は、半導体基板10の下面に露出しており、カソード電極22にオーミック接触している。カソード領域12の結晶構造は、酸化ガリウム(Ga)である。結晶相は特に限定されるものではないが、例えばα相又はβ相であってもよい。また、ガリウムサイト又は酸素サイトが他の原子に置換されていてもよい。例えば、カソード領域12の結晶構造は、(InAlGa)であってもよい。
【0017】
アノード領域14は、カソード領域12の表面上に設けられており、半導体基板10の上面に露出しており、アノード電極24にオーミック接触している。アノード領域14は、複数の第1層14aと複数の第2層14bを有しており、第1層14aと第2層14bが交互に積層して構成されている。第1層14aと第2層14bは、公知の結晶成長技術を利用してアノード領域14の表面上から交互に結晶成長して形成される。公知の結晶成長技術としては、例えばCVD法(ミストCVD法を含む)又はMBE法が用いられてもよい。
【0018】
第1層14aは、酸化ガリウム系半導体で構成されている。例えば、第1層14aの結晶構造は、酸化ガリウム(Ga)である。結晶相は特に限定されるものではないが、例えばα相又はβ相であってもよい。また、ガリウムサイト又は酸素サイトが他の原子に置換されていてもよい。例えば、第1層14aの結晶構造は、(InAlGa)であってもよい。
【0019】
第1層14aは、アンドープ又はp型である。第1層14aがp型の場合、第1層14aに導入されるドーパントは、N、Mg、Zn、Ni、Cu、Rh、Ir、Cr、Fe、Co、Li、Bi、H、Be、Na、P、S、K、Ca、Mn、As、Se、Rb、Sr、Ru、Pd、Ag、Cd、Sb、Te、Cs、Ba、Pt、Au、Hg、TI、Pb、Po、Fr、Raの群から選択される少なくとも1つを含む。ドーパントは、結晶成長中に導入されてもよく、結晶成長後にイオン注入技術を利用して導入されてもよい。なお、高活性なp型の酸化ガリウムを形成する技術はまだ確立していない。このため、第1層14aに含まれるドーパントの活性化率は低い。
【0020】
第2層14bの結晶構造は、N、Mg、Zn、Ni、Cu、Rh、Ir、Cr、Fe、Co、Li、Bi、In、Al、Ga、P、Mn、As、Sb、S、Seの群から選択される少なくとも1つを含む金属酸化物半導体又は非酸化物のGa系半導体である。第2層14bの材料には、高活性なp型とする技術が確立されている金属酸化物半導体又は非酸化物のGa系半導体が採用されている。このため、第2層14bは、高活性なp型である。ドーパントは、結晶成長中に導入されてもよく、結晶成長後にイオン注入技術を利用して導入されてもよい。
【0021】
第2層14bが金属酸化物半導体の場合、第2層14bは、NiO、CuO、Rh、Ir、Cr、ZnMgO、ZnO、ZnGa、ZnRh、Fe、ZnCo、LiO、Bi、In、Mnの群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。第2層14bが非酸化物のGa系半導体の場合、第2層14bは、GaN、GaP、GaAs、GaSb、CuGaS、GaSeの群から選択される少なくとも1つを含んでもよい。
【0022】
第1層14aと第2層14bの各々の厚み(積層方向の厚みであり、紙面上下方向の厚み)は極めて薄く形成されている。このため、第1層14aと第2層14bが交互に積層して構成されるアノード領域14は、超格子疑似混晶の特性を有している。第1層14aと第2層14bの各々の厚みは、超格子疑似混晶としての特性が得られる限りにおいて特に限定されるものではなく、例えば5nm以下、4nm以下、3nm以下、又は、2nm以下である。
【0023】
本明細書でいう超格子疑似混晶とは、異なる材料の第1層14aと第2層14bで構成されるアノード領域14のバンドギャップが等価的に1つと認められる状態をいう。具体的には、フォトルミネッセンス法を用いてアノード領域14を測定したときに、結晶欠陥及び不純物の影響を除いて観測される光のピークが1つのときに、アノード領域14が超格子疑似混晶の状態と評価できる。
【0024】
このように、ダイオード1では、アノード領域14を構成する第1層14aと第2層14bの各々の厚みが超格子疑似混晶の特性を有する程度に薄く形成されている。このため、これらの厚みは正孔キャリアがトンネル可能な程度に薄いことから、アノード領域14の全体がp型伝導を有することができる。このように、アノード領域14を構成する第1層14aの材料が酸化ガリウム(Ga)であるものの、実質的にp型伝導を有することができる。ダイオード1は、良好なp型伝導を有するアノード領域14を有していることから、低抵抗に動作することができる。
【0025】
また、アノード領域14が超格子疑似混晶の特性を有することにより、以下のような特徴を有することができる。超格子疑似混晶のアノード領域14のバンドギャップ幅は、第1層14aのバンドギャップ幅と第2層14bのバンドギャップ幅の間の大きさとなる。例えば、第1層14aがβ-酸化ガリウム(β-Ga)で形成されている場合、そのバンドギャップ幅は4.5~4.9eVである。第2層14bのバンドギャップ幅は、採用される金属酸化物半導体によって異なるが、第1層14aのバンドギャップ幅よりも狭い。例えば、第2層14bが酸化ニッケル(NiO)で形成されている場合、そのバンドギャップ幅は4eVよりも狭い。第1層14aがβ-酸化ガリウム(β-Ga)であり、第2層14bが酸化ニッケル(NiO)の場合、超格子疑似混晶のアノード領域14のバンドギャップ幅は4eV以上となる。
【0026】
上記したように、アノード領域14は、第1層14aと第2層14bの超格子疑似混晶であることから、第2層14bのみで構成される場合(即ち、酸化ニッケル(NiO)のみで構成される場合)に比して、バンドギャップ幅が広くなり、絶縁破壊電界強度が高くなる。これにより、ダイオード1は、高耐圧な特性を有することができる。
【0027】
図2に、本実施形態であるダイオード1及び比較例1、2のpn接合面近傍の電界分布を模式的に示す。pn接合面よりも図示上側がアノード領域14の範囲に対応しており、pn接合面よりも図示下側がカソード領域12の範囲に対応している。比較例1は、アノード領域14の全体が第1層14aの材料のみで構成された例(即ち、アノード領域14の全体がβ-酸化ガリウム(β-Ga)のみで構成された例)であり、比較例2は、アノード領域14の全体が第2層14bの材料のみで構成された例(即ちアノード領域14の全体が酸化ニッケル(NiO)のみで構成された例)である。なお、比較例1については、高活性なp型の酸化ガリウムを形成する技術はまだ確立していないことから、現時点においてこのようなダイオードを実現することはできない。
【0028】
ref1、Eref2、Eembodimentはそれぞれ、比較例1、比較例2、本実施形態の絶縁破壊強度を示す。比較例1では、アノード領域14に用いられる材料がバンドギャップ幅の広いβ-酸化ガリウム(β-Ga)であることから、絶縁破壊強度Eref1が高い。比較例2では、アノード領域14に用いられる材料がバンドギャップ幅の狭い酸化ニッケル(NiO)であることから、絶縁破壊強度Eref2が低い。本実施形態では、アノード領域14に用いられる材料がβ-酸化ガリウム(β-Ga)と酸化ニッケル(NiO)の超格子疑似混晶であることから、絶縁破壊強度EembodimentはEref1とEref2の間である。
【0029】
この種のダイオードでは、pn接合面において電界強度がピークとなる。このため、このpn接合面の電界が絶縁破壊強度を超えたときに降伏が発生する。比較例1は、最も高い絶縁破壊強度Eref1を有しているので、アノード・カソード間で保持可能な電圧(電界分布のアノード・カソード間の積分値であり、電界分布の三角形の面積に相当)が大きい。しかしながら、比較例1は、現時点では製造不可能なダイオードである。比較例2は、最も低い絶縁破壊強度Eref2を有しているので、保持可能な電圧が小さい。このため、比較例2は、高耐圧な特性を有することができない。本実施形態は、比較例2よりも高い絶縁破壊強度Eembodimentを有している。このため、本実施形態は、比較例2よりも高耐圧な特性を有することができる。
【0030】
上記したように、ダイオード1のアノード領域14は、広いバンドギャップの第1層14aと良好なp型伝導の第2層14bが交互に積層して構成されている超格子疑似混晶である。このため、アノード領域14の材料特性は、等価的に広いバンドギャップを有するとともに良好なp型伝導を有することができる。ダイオード1では、アノード領域14を超格子疑似混晶として構成することにより、高耐圧化と低抵抗化を両立することができる。
【0031】
また、本実施形態のダイオード1では、アノード領域14のうちの第1層14aがpn接合面に位置しており、n型のカソード領域12に接している。電界が最も高くなるpn接合面に接するようにバンドギャップ幅が広いβ-酸化ガリウム(β-Ga)の第1層14aが位置しているので、pn接合面における降伏が抑えられる。このため、ダイオード1は高耐圧な特性を有することができる。
【0032】
さらに、本実施形態のダイオード1は、アノード領域14の結晶性が良好という特徴を有している。例えば、上記した比較例2のように、アノード領域14の全体が酸化ニッケル(NiO)のみで構成されれば、アノード領域14は良好なp型伝導を有することができる。しかしながら、このような比較例2では、酸化ニッケル(NiO)のアノード領域14は、下地であるβ-酸化ガリウム(β-Ga)のカソード領域12に対して異種材料である。このため、比較例2では、カソード領域12上に形成されるアノード領域14の結晶性は悪く、電気的特性が悪化する虞がある。一方、本実施形態のダイオード1では、アノード領域14がβ-酸化ガリウム(β-Ga)と酸化ニッケル(NiO)の超格子疑似混晶であることから、アノード領域14の結晶構造がカソード領域12の結晶構造に近くなる。これにより、本実施形態のダイオード1では、カソード領域12上に形成されるアノード領域14の結晶性は良好であり、電気的特性が良好なものとなる。
【0033】
(実施例2)
図3に示すダイオード2では、第1層14aの厚みがカソード領域12から離れるにつれて減少するように構成されている。複数の第2層14bの各々の厚みは同一である。このため、ダイオード2では、アノード領域14の単位体積に占める第1層14aの比率である疑似混晶比がカソード領域12から離れるにつれて単調減少するように構成されている。なお、この例でも、アノード領域14が超格子疑似混晶の特性を有するように、第1層14aと第2層14bの各々の厚みが薄く形成されている。
【0034】
図2を参照して説明したように、この種のダイオードでは、カソード領域12とアノード領域14のpn接合面において電界強度がピークとなり、アノード領域14内の電界分布は、pn接合面から離れるにつれて減少する。図3に示すダイオード2では、このような電界分布に対応して、電界強度が高い傾向のカソード領域12に近い側において第1層14aの厚みが大きく形成されるとともに、電界強度が低い傾向のカソード領域12から遠い側において第1層14aの厚みが小さく形成されている。カソード領域12に近い側において第1層14aの疑似混晶比が大きく調整されているので、ダイオード2は高耐圧な特性を有することができる。さらに、カソード領域12から遠い側において第1層14aの疑似混晶比が小さく、換言すると、第2層14bの疑似混晶比が大きく調整されているので、ダイオード2は低抵抗な特性を有することができる。このように、ダイオード2は、高耐圧化と低抵抗化のトレードオフの関係を改善することができる。
【0035】
なお、図3に示すダイオード2では、第1層14aの疑似混晶比がカソード領域12から離れるにつれて単調減少するように、第1層14aの厚みがカソード領域12から離れるにつれて減少するように構成されている。この例に代えて、複数の第1層14aの各々の厚みを同一としながら、第2層14bの厚みがカソード領域12から離れるにつれて増加するように構成されてもよい。あるいは、第1層14aの厚みがカソード領域12から離れるにつれて減少するとともに、第2層14bの厚みがカソード領域12から離れるにつれて増加するように構成されてもよい。第1層14aの疑似混晶比がカソード領域12から離れるにつれて単調減少する限りにおいて、第1層14aと第2層14bの各々の厚みは適宜に調整され得る。
【0036】
(実施例3)
図4に示すダイオード3は、アノード領域14がp型のキャップ層14cをさらに備えていることを特徴としている。キャップ層14cは、アノード領域14の最上面に設けられており、半導体基板10の上面に露出しており、アノード電極24にオーミック接触している。キャップ層14cは、第2層14bと同一の材料(例えば、酸化ニッケル(NiO))である。このため、キャップ層14cは、高活性なp型である。キャップ層14cの厚みは比較的に大きく、第1層14a及び第2層14bとともに超格子疑似混晶を構成するものではない。キャップ層14cは、カソード領域12から十分に離れており、電界の小さい領域に対応して配置されている。このようなキャップ層14cが設けられているダイオード3は、低抵抗な特性を有することができる。
【0037】
(実施例4)
図5に示すダイオード4は、アノード領域14がアンドープ又はp型のスペーサー層14dをさらに備えていることを特徴としている。スペーサー層14dは、カソード領域12とアノード領域14の間に設けられている。スペーサー層14dは、アノード領域14の最下面に設けられており、カソード領域12に接している。スペーサー層14dは、第1層14aと同一の材料(例えば、β-酸化ガリウム(β-Ga))である。スペーサー層14dの厚みは比較的に大きく、第1層14a及び第2層14bとともに超格子疑似混晶を構成するものではない。本明細書が開示する技術では、アノード領域14に超格子疑似混晶の領域を形成することから、異種材料が接合するヘテロ接合面が形成される。ダイオード4では、スペーサー層14dが設けられていることにより、ヘテロ接合面がカソード領域12とアノード領域14のpn接合面13から離れた位置となる。電界強度が最大となるpn接合面から離れた位置に、界面準位の多いヘテロ接合面が形成されているので、電気的特性の悪化が抑えられる。
【0038】
(実施例5)
図6に示すダイオード5は、カソード領域12が低濃度層12aをさらに備えていることを特徴としている。低濃度層12aは、カソード領域12の最上面に設けられており、アノード領域14に接している。低濃度層12aは、他のカソード領域12と同一の材料であって、他のカソード領域12よりもキャリア濃度が薄い。このダイオード5では、カソード領域12とアノード領域14のpn接合面13がヘテロ接合面でもある。しかしながら、低濃度層12aが設けられていることにより、界面準位を介したリーク電流が抑えられる。
【0039】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0040】
1、2、3、4、5:ダイオード、 10:半導体基板、 12:カソード領域、
ヘテロ接合面、 14:アノード領域、 14a:第1層、 14b:第2層、 22:カソード電極、 24:アノード電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6