(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】分岐器密着度合変化検出方法および分岐器密着度合監視装置
(51)【国際特許分類】
G01L 5/00 20060101AFI20240702BHJP
B61L 5/10 20060101ALI20240702BHJP
E01B 7/02 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G01L5/00 Z
B61L5/10 B
E01B7/02
(21)【出願番号】P 2020176101
(22)【出願日】2020-10-20
【審査請求日】2023-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】北島 寿央
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-006895(JP,A)
【文献】特開平01-291135(JP,A)
【文献】国際公開第89/001138(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00ー5/28
G01L 1/00-1/26
B61L 5/10
E01B 1/00-26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定位側においてトングレールを基本レールに密着させる定位側密着状態と、反位側においてトングレールを基本レールに密着させる反位側密着状態とのうちの一方の密着状態から他方の密着状態へと分岐器を転換させる電気転てつ機の転換動作毎の音響データを取得するデータ取得ステップと、
前記音響データに基づいて、前記一方の密着状態を離間させる離間期の音響の大きさを示す離間期音響値と、前記他方の密着状態にさせる密着期の音響の大きさを示す密着期音響値とを算出する算出ステップと、
前記離間期音響値および前記密着期音響値に基づいて、前記トングレールが前記基本レールに密着する密着度合に変化が生じたことを検出する検出ステップと、
を含む分岐器密着度合変化検出方法。
【請求項2】
前記算出ステップは、連続する複数回分の音響データに基づいて、定位側および反位側それぞれの離間期音響値および密着期音響値を算出し、
前記検出ステップは、
定位側の離間期音響値に基づく前記検出の結果と定位側の密着期音響値に基づく前記検出の結果とを用いて定位側の密着度合の異常を判定するステップと、
反位側の離間期音響値に基づく前記検出の結果と反位側の密着期音響値に基づく前記検出の結果とを用いて反位側の密着度合の異常を判定するステップと、
を含む、
請求項1に記載の分岐器密着度合変化検出方法。
【請求項3】
前記算出ステップは、前記音響データから、1回の転換動作中の前記離間期および前記密着期として予め定められた期間のデータ部分を取り出して前記離間期音響値および前記密着期音響値を算出する、
請求項1又は2に記載の分岐器密着度合変化検出方法。
【請求項4】
定位側においてトングレールを基本レールに密着させる定位側密着状態と、反位側においてトングレールを基本レールに密着させる反位側密着状態とのうちの一方の密着状態から他方の密着状態へと分岐器を転換させる電気転てつ機の転換動作毎の音響データを取得するデータ取得部と、
前記音響データに基づいて、前記一方の密着状態を離間させる離間期の音響の大きさを示す離間期音響値と、前記他方の密着状態にさせる密着期の音響の大きさを示す密着期音響値とを算出する算出部と、
前記離間期音響値および前記密着期音響値に基づいて、前記トングレールが前記基本レールに密着する密着度合に変化が生じたことを検出する検出部と、
を備えた分岐器密着度合監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分岐器における基本レールとトングレールとの密着度合の変化を検出する分岐器密着度合変化検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道における分岐器の保守作業として、トングレールと基本レールとの密着力が適正であるかの測定が行われる。この作業は、保守作業員が現場に出向いて実施するものであり、その際に使用する各種の密着力測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道の保守作業は、主に列車が運行されない夜間に行われることが多く、時間制約がある。近年では、鉄道沿線設備の状態を遠隔から集中監視するシステムの構築が進められており、分岐器の密着力についても、常時監視できるようにすることが望まれている。密着力そのものは、実際に現場に出向いて専用の測定装置を用いて測定する必要があるが、分岐器を常時監視して密着力の変化を検出できるようになれば、分岐器の異常或いは異常の兆候を速やかに発見し、保守や復旧作業に役立てることができる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、分岐器を常時監視して密着力の変化を検出できる新たな技術を提供すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
定位側においてトングレールを基本レールに密着させる定位側密着状態と、反位側においてトングレールを基本レールに密着させる反位側密着状態とのうちの一方の密着状態から他方の密着状態へと分岐器を転換させる電気転てつ機の転換動作毎の音響データを取得するデータ取得ステップ(例えば、
図9のステップS1)と、
前記音響データに基づいて、前記一方の密着状態を離間させる離間期の音響の大きさを示す離間期音響値と、前記他方の密着状態にさせる密着期の音響の大きさを示す密着期音響値とを算出する算出ステップ(例えば、
図9のステップS3,S5)と、
前記離間期音響値および前記密着期音響値に基づいて、前記トングレールが前記基本レールに密着する密着度合に変化が生じたことを検出する検出ステップ(例えば、
図9のステップS7,S9)と、
を含む分岐器密着度合変化検出方法である。
【0007】
また、他の発明として、
定位側においてトングレールを基本レールに密着させる定位側密着状態と、反位側においてトングレールを基本レールに密着させる反位側密着状態とのうちの一方の密着状態から他方の密着状態へと分岐器を転換させる電気転てつ機の転換動作毎の音響データを取得するデータ取得部(例えば、
図5のデータ取得部202)と、
前記音響データに基づいて、前記一方の密着状態を離間させる離間期の音響の大きさを示す離間期音響値と、前記他方の密着状態にさせる密着期の音響の大きさを示す密着期音響値とを算出する算出部(例えば、
図5の音響値算出部204)と、
前記離間期音響値および前記密着期音響値に基づいて、前記トングレールが前記基本レールに密着する密着度合に変化が生じたことを検出する検出部(例えば、
図5の密着度合検出部206)と、
を備えた分岐器密着度合監視装置(例えば、
図5の分岐器密着度合監視装置1)を構成しても良い。
【0008】
第1の発明等によれば、電気転てつ機による分岐器の転換動作毎の音響データから、基本レールにトングレールを密着させる密着度合の変化を検出することができる。つまり、分岐器を常時監視して密着力の変化を検出することができる。電気転てつ機の転換動作によってトングレールが転換する際に音響が生じるが、この音響は電気転てつ機の音響データとして取得される。基本レールとトングレールとの密着力が変化すると、トングレールが転換して基本レールに密着或いは離間する際に生じる音響に変化が生じる。これにより、電気転てつ機の音響データの変化から、分岐器の基本レールとトングレールとの密着力が変化したことを検出できるのである。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
前記算出ステップは、連続する複数回分の音響データに基づいて、定位側および反位側それぞれの離間期音響値および密着期音響値を算出し、
前記検出ステップは、
定位側の離間期音響値に基づく前記検出の結果と定位側の密着期音響値に基づく前記検出の結果とを用いて定位側の密着度合の異常を判定するステップ(例えば、
図9のステップS7)と、
反位側の離間期音響値に基づく前記検出の結果と反位側の密着期音響値に基づく前記検出の結果とを用いて反位側の密着度合の異常を判定するステップ(例えば、
図9のステップS9)と、
を含む、
分岐器密着度合変化検出方法である。
【0010】
第2の発明によれば、分岐器は、転換動作毎に転換方向が変化するから、分岐器における定位側と反位側とを区別して密着度合の変化を検出することができる。また、定位側および反位側のそれぞれについて、基本レールからトングレールが離間および密着する際の両方での音響の変化に基づくことから、密着度合の変化をより精度良く検出できるようになる。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記算出ステップは、前記音響データから、1回の転換動作中の前記離間期および前記密着期として予め定められた期間のデータ部分を取り出して前記離間期音響値および前記密着期音響値を算出する、
分岐器密着度合変化検出方法である。
【0012】
第3の発明によれば、離間期および密着期は転換動作中において予め定められた期間であり、この各期間のデータ部分を取り出すことで、容易に音響値を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態によって本発明が限定されるものではなく、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものでもない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0015】
[システム構成]
図1は、本実施形態における分岐器密着度合監視装置1の適用システム例である。
図1によれば、分岐器密着度合監視装置1は、転てつ機10それぞれに対応付けて設置された複数の制御端末20と、通信ネットワークNを介して通信可能に接続されている。
【0016】
転てつ機10は、動力源として電気モータ12を用いる電気転てつ機であり、主要構成として、電気モータ12やクラッチ、転換歯車群13、動作かん14、鎖錠かん等を有する。転てつ機10は、電気モータ12の回転出力をクラッチを介して転換歯車群13に伝達し、転換歯車群13が転換機構並びに鎖錠機構を駆動させるのに適切なトルクに変換することで動作かん14を直動運動させる。これにより、動作かん14に連結されたトングレールを転換移動させて分岐器を定位/反位に転換させる。より具体的には、
図2を参照して後述するように、鎖錠機構が解錠動作を行った後、トングレールの基本レールへの密着を開放してトングレールを基本レールから離間させることで転換方向への転換中に移行する。そして転換終期においてトングレールを基本レールに密着させた後、鎖錠機構の鎖錠動作によって動作かん14を固定する。これら一連の転換動作を行う。この転てつ機10の転換動作は、不図示の連動装置が出力する転換指令に従った駆動制御用の制御端末の下、実行される。転換指令には転換方向の指示と転換開始の指示とが含まれる。駆動制御用の制御端末は、この転換指令に従って電気モータ12の回転方向や、回転動作の開始および停止に関する駆動制御を行う。転換が完了した場合、駆動制御用の制御端末は、転換が終了した旨の信号を連動装置に通知する。
【0017】
また、転てつ機10は、転換動作中に生じる音響を検知するための音響センサ16を内蔵或いは外付けして有する。なお、音響センサ16を、転てつ機10の周囲や近傍等の近接位置に設置するとしてもよい。但し、周辺の環境音が大きい場合には転てつ機10の内部に音響センサ16を設置する。転てつ機10の転換動作中に生じる音響には各種の音響があるが、インパルス的な瞬時の音響を除いて、特に基本レールに対するトングレールの離間/密着時に生じる音響が大きい。この基本レールに対するトングレールの離間/密着時に生じる音響には、基本レールとトングレールとの接触に起因する音響の他、その接触により動作かん14に生じる振動に起因する音響が含まれる。音響センサ16による検知信号は、随時、対応する制御端末20へ出力される。また、周辺の環境音等のノイズ音が大きい場合には、音響センサ16にフィルター回路を具備させて、転換動作に係る音響の音域(周波数)に応じた信号以外を除去し、除去後の信号を制御端末20へ出力することにする。
【0018】
制御端末20は、対応する転てつ機10の近傍に、或いは転てつ機10の筐体内に設置される。また、制御端末20は、音響データ抽出部24と、送受信部26と、時計部28とを有する。
【0019】
音響データ抽出部24は、音響センサ16の検知信号から、転てつ機10の1回の転換動作に係る音響データを抽出する。1回の転換動作とは、電気モータ12の回転動作の開始から停止までの期間であり、当該期間の開始および終了のタイミングは、連動装置から取得する情報で判断することができる。連動装置は、転てつ機10に対して転換方向および転換開始の指示を含む転換指令を出力しており、転てつ機10は、この転換指令が入力された旨の信号を制御端末20に出力するため、この信号を転てつ機10から取得することで、当該期間の開始のタイミングを判断することができる。また、転換が完了した場合、転てつ機10から連動装置へ転換が完了した旨もしくは転換状態の信号が通知されるとともに、当該信号を転てつ機10が制御端末20に出力するため、この信号を転てつ機10から取得することで、当該期間の終了のタイミングを判断することができる。そして、抽出した音響データを、転換方向や転換動作を行った日時等のデータと対応付けて、分岐器密着度合監視装置1へ送信する。
【0020】
送受信部26は、通信ネットワークNを介して、分岐器密着度合監視装置1といった外部装置とデータの送受信を行う。時計部28は、現在日時や指定タイミングからの経過時間を計時する。
【0021】
分岐器密着度合監視装置1は、転てつ機10を含む鉄道設備を集中監視する鉄道設備監視システムの一つの装置或いは中央装置の一機能として実現される。分岐器密着度合監視装置1は、転てつ機10毎に、制御端末20から取得した当該転てつ機10の転換動作毎の音響データに基づき、当該転てつ機10が転換させる分岐器の基本レールとトングレールとの密着力を示す密着度合を監視して、密着度合が変化したことを検出する。
【0022】
[原理]
分岐器密着度合監視装置1によってなされる、転てつ機10の音響データに基づく分岐器の密着度合の変化の検出について説明する。
図2は、1回の転換動作に係る音響データの概要を示す図である。
図2では、横軸を時刻として、音響センサ16による検知信号の波形の概略を示している。転てつ機10の転換動作は、(1)鎖錠されて動作かん14が停止状態にあるときから、電気モータ12の回転を開始して鎖錠機構を解錠する期間である解錠工程、(2)転換機構による動作かん14の直動運動を開始させることでトングレールを基本レールから離間させて転換を開始し、反対側のトングレールを基本レールに接するまで転換させた後、トングレールの先端を基本レールに密着させるまでの期間である転換中工程、(3)鎖錠機構を鎖錠して動作かん14を停止状態とさせ、電気モータ12の動作を停止するまでの期間である鎖錠工程、からなる。
【0023】
図2に示すように、1回の転換動作に係る音響データの特徴として、転換中工程の最初と最後の期間における信号波形の変動が、他の期間に比較して大きくなっている。これは、トングレールが基本レールに対して離間或いは密着する際に生じる音響が、転てつ機10に設置されている音響センサ16によって検知されるからである。離間/密着の間は、トングレールが床板上を移動する際の摺動に起因する音響が生じているが、離間/密着時に生じる音響に比べると小さい。
【0024】
つまり、転換中工程の最初の期間(以下、この期間を「離間期」と呼ぶ)では、基本レールに密着していたトングレールが、転換を開始して基本レールから離間する際に生じる音響である。また、転換中工程の最後の期間(以下、この期間を「密着期」と呼ぶ)では、基本レールから離間していたトングレールが、基本レールに当接した後、密着するように押し付けられる際に生じる音響である。本実施形態では、トングレールが基本レールから離間および密着する際に生じる音響に着目し、音響データの離間期および密着期における信号波形の指標値(本実施形態では音響値)が、予め定められた基準範囲内か基準範囲外かによって、密着度合の変化(すなわち密着度合が基準から変化したか)を検出する。
【0025】
同一の転てつ機であれば、1回の転換動作に係る音響データの期間の長さには大きな差異がなく、解錠工程、転換中工程および鎖錠工程の各工程の長さも一定とみなすことができる。従って、1回の転換動作に係る音響データを、解錠工程、転換中工程および鎖錠工程の各工程に分割することが可能である。そして、転換中工程のうち、期間の開始時点から所定長さの期間を離間期とし、期間の終了時点から遡って所定長さの期間を密着期とする。離間期および密着期の期間の長さは、転てつ機毎に、分岐器或いは転てつ機の設置時や定期検査時の測定結果から定めておくことができる。
【0026】
離間期および密着期それぞれの期間における信号波形の振幅の平均値を、当該期間における音響の大きさを示す音響値とする。離間期における音響の大きさを表す振幅の平均値を離間期音響値と呼び、密着期における音響の大きさを表す振幅の平均値を密着期音響値と呼ぶ。
【0027】
基本レールとトングレール先端との密着力が変化する(弱くなる)と、トングレールが基本レールと密着或いは離間する際に生じる音響に変化が生じ、その結果、音響センサ16によって検知される音響の大きさ(音響値)が変化する。密着度合の変化と音響値との間には比例的な関係が見られる。このため、密着度合の変化無しとみなす音響値の範囲を閾値範囲として定めておき、音響値が閾値範囲内であれば、密着度合の変化無しと判定し、音響値が閾値範囲外であれば、密着度合の変化有りと判定する。この閾値範囲は、例えば分岐器或いは転てつ機の設置時や定期検査時の測定結果から定めておくことができる。
【0028】
分岐器では、左右の2本のトングレールのうち、一方のトングレールが基本レールに密着した密着側となり、他方のトングレールは基本レールから離れた開口側となる。そして、トングレールの転換によって密着側と開口側とが逆になり、一方のトングレールが開口側、他方のトングレールが密着側となる。このため、左右の2本のトングレールを区別して密着度合の変化を検出する必要がある。また、左右の2本のトングレールそれぞれについて、基本レールから離間する際、および、基本レールに密着する際のそれぞれの音響について密着度合の変化を検出し、それらの検出結果から、該当するトングレールの密着度合の異常を判定する。
【0029】
図3,
図4は、密着度合の変化の検出を説明する図である。
図3は、分岐器が定位から反位に転換した場合であり、
図4は、分岐器が反位から定位に転換した場合である。
図3,
図4の何れにおいても、上側に、基本レールに対するトングレールの位置関係を示し、下側に、転換動作に係る音響データの概要を示している。また、トングレール30aが基本レールに密着し、トングレール30bが基本レールから離間している状態を定位とし、トングレール30aが基本レールから離間し、トングレール30bが基本レールに密着している状態を反位としている。定位側のトングレール30aが基本レールに密着している状態を定位側密着状態と呼び、また、反位側のトングレール30bが基本レールに密着している状態を反位側密着状態と呼ぶ。
【0030】
図3に示すように、分岐器が定位から反位へ変換する際の音響データにおいて、離間期は、密着状態にあった定位側のトングレール30aが基本レールから離間する際の音響が主成分となる。このため、この離間期を「定位側の離間期」と呼び、定位側の離間期間における音響値(離間期音響値)を「定位側の離間期音響値」と呼ぶ。また、密着期は、離間状態にあった反位側のトングレール30bが基本レールに密着する際の音響が主成分となる。このため、この密着期を「反位側の密着期」と呼び、反位側の密着期における音響値(密着期音響値)を「反位側の密着期音響値」と呼ぶ。
【0031】
図4に示すように、分岐器が反位から定位に転換する際の音響データにおいて、離間期は、密着状態にあった反位側のトングレール30bが基本レールから離間する際の音響が主成分となる。このため、この離間期を「反位側の離間期」と呼び、反位側の離間期間における音響値(離間期音響値)を「反位側の離間期音響値」と呼ぶ。また、密着期は、離間状態にあった定位側のトングレール30aが基本レールに密着する際の音響が主成分となる。このため、この密着期を「定位側の密着期」と呼び、定位側の密着期における音響値(密着期振幅)を「定位側の密着期音響値」と呼ぶ。
【0032】
そして、1本のトングレールについて、少なくとも転換方向が異なる2回以上の転換動作に係る音響データを用いて、密着度合の変化を検出する。すなわち、定位側のトングレール30aについては、分岐器が定位から反位に転換する際の音響データにおける定位側の離間期音響値(
図3参照)と、分岐器が反位から定位に転換する際の音響データにおける定位側の密着期音響値(
図4参照)とに基づいて検出する。具体的には、定位側の離間期音響値および定位側の密着期音響値がともに所定の閾値範囲外、つまり変化有りである場合に、定位側のトングレール30aの密着度合を異常、と判定する。
【0033】
また、反位側のトングレール30bについては、分岐器が定位から反位に転換する際の音響データにおける反位側の密着期音響値(
図3参照)と、分岐器が反位から定位に転換する際の音響データにおける反位側の離間期音響値(
図4参照)とに基づいて検出する。具体的には、反位側の離間期音響値および反位側の密着期音響値がともに所定の閾値範囲外、つまり変化有りである場合に、反位側のトングレール30bの密着度合を異常、と判定する。
【0034】
なお、閾値範囲は、離間期と密着期とで異なるとしてもよいし同じとしてもよい。また、定位側のトングレールと反位側のトングレールとで異なることにしてもよいし、同じとしてもよい。
【0035】
[機能構成]
図5は、分岐器密着度合監視装置1の機能構成を示すブロック図である。
図5によれば、分岐器密着度合監視装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備え、一種のコンピュータとして構成することができる。
【0036】
操作部102は、例えばボタンスイッチやタッチパネル、キーボード等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)やタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に応じた各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に応じた各種音出力を行う。通信部108は、例えば有線或いは無線による通信装置で実現され、通信ネットワークNを介して各制御端末20と通信を行う。
【0037】
処理部200は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算装置で実現され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ等に基づいて、分岐器密着度合監視装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行い、分岐器密着度合監視装置1の全体制御を行う。また、処理部200は、記憶部300に記憶された分岐器密着度合監視プログラム302を実行することで、データ取得部202、音響値算出部204、密着度合検出部206、の各機能ブロックとして機能する。但し、これらの機能ブロックは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等によってそれぞれ独立した演算回路として構成することも可能である。
【0038】
処理部200は、分岐器密着度合監視装置1が監視対象とする全ての転てつ機10に関して、記憶部300に記憶した転てつ機管理データ310によって管理している。転てつ機管理データ310は、転てつ機10毎に生成され、当該転てつ機10を識別する転てつ機ID312と、期間設定データ314と、密着度合変化検出テーブル316と、検出結果データ318と、を格納している。
【0039】
図6は、期間設定データ314の一例である。
図6によれば、期間設定データ314は、1回の転換動作における、解錠工程、転換中工程および鎖錠工程の各工程と、転換中工程における離間期および密着期の各期間とのそれぞれについて、その期間の開始時点および終了時点を、転換動作の開始時点を基準として定めている。本実施形態では、転換方向に関わらず共通の期間設定データ314を用いることとするが、転換方向に応じて異なる期間設定データ314を定めておき、転換方向に応じた期間設定データ314を用いることとしてもよい。
【0040】
図7は、密着度合変化検出テーブル316の一例である。
図7によれば、密着度合変化検出テーブル316は、密着度合の変化有無を判定するための音響値の閾値範囲を定めるデータテーブルであり、転換方向別に、音響値と、密着度合の変化有無とを対応付けて格納している。この閾値範囲は、例えば分岐器或いは転てつ機の設置時や定期検査時の測定結果から定めておくことができる。
【0041】
図8は、検出結果データ318の一例である。
図8によれば、検出結果データ318は、当該転てつ機10の転換動作毎に生成され、当該転換動作がなされた転換日時と、転換方向と、音響データと、離間期音響値と、密着期音響値と、密着度合の判定結果とを格納している。転換日時、転換方向、および、音響データは、データ取得部202によって取得される。離間期音響値および密着期音響値は、音響値算出部204によって算出される。転換方向が定位から反位ならば、離間期音響値は、定位側の離間期音響値であり、密着期音響値は、反位側の密着期音響値である。転換方向が反位から定位ならば、離間期音響値は、反位側の離間期音響値であり、密着期音響値は、定位側の密着期音響値である。密着度合の判定結果は、密着度合検出部206による判定結果である。
【0042】
データ取得部202は、制御端末20から、転てつ機10の転換動作毎の音響データを、当該転てつ機10の転換方向や転換日時を示す情報とともに取得する。データ取得部202は、1回の転換動作に係る音響データを取得すると、当該転換動作に係る検出結果データ318を生成する。
【0043】
音響値算出部204は、データ取得部202によって取得された音響データに基づいて、離間期の音響の大きさを示す離間期音響値と、密着期の音響の大きさを示す密着期音響値と、を算出する。つまり、音響データから、1回の転換動作中の離間期および密着期として予め定められた期間のデータ部分を取り出して振幅の平均を求めることで、離間期音響値および密着期音響値を算出する。音響データにおける離間期および密着期の期間は、該当する転てつ機管理データ310の期間設定データ314として定められている。
【0044】
分岐器は、転換動作毎に転換方向が変化するから、1回の転換動作に関する音響データ毎に離間期音響値および密着期音響値を算出することで、連続する複数回分の音響データに基づいて、定位側および反位側それぞれの離間期音響値および密着期音響値を算出する、ことになる。また、転換方向の異なる複数の音響データのうち、密着状態が定位側密着状態から転換するときの音響データに基づいて、定位側の離間期音響値および反位側の密着期音響値を算出し、密着状態が反位側密着状態から転換するときの音響データに基づいて、反位側の離間期音響値および定位側の密着期音響値を算出する、ことになる。
【0045】
密着度合検出部206は、音響値算出部204によって算出された離間期音響値および密着期音響値に基づいて、分岐器がトングレールを基本レールに密着させる密着度合に変化が生じたことを検出する。つまり、定位側の離間期音響値および定位側の密着期音響値それぞれについて、所定の閾値範囲外であるかを判定し、ともに閾値範囲外である場合に、定位側の密着度合として異常と判定する。また、反位側の離間期音響値および反位側の密着期音響値それぞれについて、所定の閾値範囲外であるかを判定し、ともに閾値範囲外である場合に、反位側の密着度合として異常と判定する。密着度合の変化有無を判定するための音響値の閾値範囲は、該当する転てつ機管理データ310の密着度合変化検出テーブル316として定められている。
【0046】
記憶部300は、ハードディスクやROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置で実現され、処理部200が分岐器密着度合監視装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、操作部102や通信部108を介した入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、分岐器密着度合監視プログラム302と、転てつ機管理データ310と、が記憶される。
【0047】
[処理の流れ]
図9は、分岐器密着度合監視処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、分岐器密着度合監視装置1において、処理部200が、転てつ機10それぞれを対象として並列的に実行する。
【0048】
先ず、データ取得部202が、制御端末20から送信されてくる転換動作毎の音響データを取得する(ステップS1)。この音響データには、分岐器の転換方向や転換日時を示す情報が付加されている。すると、音響値算出部204が、取得された音響データから、離間期の期間のデータ部分を取り出し、振幅の平均を求めることで、音響の大きさを示す離間期音響値を算出する(ステップS3)。転換方向が定位から反位ならば、定位側の離間期音響値、転換方向が反位から定位ならば、反位側の離間期音響値、となる。また、音響データから、密着期の期間のデータ部分を取り出し、振幅の平均を求めることで、音響の大きさを示す密着期音響値を算出する(ステップS5)。転換方向が定位から反位ならば、反位側の密着期音響値、転換方向が反位から定位ならば、定位側の密着期音響値、となる。
【0049】
続いて、密着度合検出部206が、今回取得した音響データから算出された離間期音響値および密着期音響値と、前回取得した音響データから算出された離間期音響値および密着期音響値とに基づき、分岐器の密着度合の変化を検出する。
【0050】
つまり、今回の転換方向が定位から反位ならば、今回取得した音響データから算出された定位側の離間期音響値、および、前回取得した音響データから算出された定位側の密着期音響値それぞれについて、密着度合の変化有無を判定する。今回の転換方向が反位から定位ならば、今回取得した音響データから算出された定位側の密着期音響値、および、前回取得した音響データから算出された定位側の離間期音響値それぞれについて、密着度合の変化有無を判定する。そして、転換方向が何れであっても、定位側の離間期音響値についての判定結果が密着度合の変化有りであり、且つ、定位側の密着期音響値についての判定結果が密着度合の変化有りであった場合に、定位側の密着度合の変化有りと最終判定する(ステップS7)。
【0051】
また、今回の転換方向が定位から反位ならば、今回取得した音響データから算出された反位側の密着期音響値、および、前回取得した音響データから算出された反位側の離間期音響値それぞれについて、密着度合の変化有無を判定する。今回の転換方向が反位から定位ならば、今回取得した音響データから算出された反位側の離間期音響値、および、前回取得した音響データから算出された反位側の密着期音響値それぞれについて、密着度合の変化有無を判定する。そして、転換方向が何れであっても、反位側の離間期音響値についての判定結果が密着度合の変化有りであり、且つ、反位側の密着期音響値についての判定結果が密着度合の変化有りであった場合に、反位側の密着度合の変化有りと最終判定する(ステップS9)。
【0052】
以上の処理を行うと、処理部200は、本処理を終了するかを判断し、終了しないならば(ステップS11:NO)、ステップS1に戻る。終了するならば(ステップS11:YES)、本処理は終了となる。
【0053】
[作用効果]
このように、本実施形態の分岐器密着度合監視装置1によれば、転てつ機10による分岐器の転換動作毎の音響データから、基本レールにトングレールを密着させる密着度合の変化を検出することで、分岐器を常時監視して密着力の変化を検出することができる。つまり、転てつ機10の転換動作によってトングレールが転換する際に音響が生じるが、この音響は、転てつ機10が有する音響センサ16によって音響データとして検知される。基本レールとトングレールとの密着力が変化すると、トングレールが転換して基本レールに密着或いは離間する際に生じる音響に変化が生じる。これにより、転てつ機10の音響データの変化から、分岐器の基本レールとトングレールとの密着力が変化したことを検出できる。
【0054】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0055】
(A)変化有無の判定
上述の実施形態では、離間期音響値および密着期音響値の各音響値について、所定の閾値範囲外である場合に密着度合に“変化有り”と判定するようにしたが、この“変化有り”の判定を段階的に行うようにしても良い。具体的には、密着度合変化検出テーブル316(
図7参照)において、密着度合を“変化有り”とした音響値の範囲を段階的な複数範囲として定め、“変化無し”と判定する閾値範囲から離れるほど、“やや変化あり”や“大きな変化有り”といったように“変化有り”の程度が高くなるように定める。そして、各音響値について判定した“変化有り”の程度の組み合わせに応じて、定位側或いは反位側の密着度合の“異常有り”の程度を、“異常の兆し有り”や“要点検”といったように段階的に判定する。
【0056】
(B)音響値
上述の実施形態では、離間期および密着期それぞれの期間における信号波形の振幅の平均値を、当該期間における音響の大きさを示す音響値として、離間期および密着期における信号波形の指標値とした。しかし、信号波形の振幅の平均値ではなく、音響の大きさを表す別の指標値を用いることとしてもよい。例えば、振幅の2乗平均平方根(RMS)や、実効値、波高率、等を指標値として用いることとしてもよい。
【0057】
(C)密着度合の変化有りの最終判定
上述の実施形態では、例えば、定位側であれば、定位側の離間期音響値についての判定結果が密着度合の変化有りであり、且つ、定位側の密着期音響値についての判定結果が密着度合の変化有りであった場合に、定位側の密着度合の変化有りと最終判定することとして説明した。しかし、複数の音響データについての判定結果を組み合わせて最終判定するのではなく、1回分の音響データに基づいて最終判定することとしてもよい。また、連続する3回以上の転換動作に係る音響データについての判定結果を組み合わせて最終判定することとしてもよい。
【0058】
(D)不要な音響データの除去
転てつ機10は複数の音響センサ16を有するようにしてもよい。複数の音響センサ16それぞれの音響データを用いることで、音源の方向を判断し、不要な音響をノイズとして除外する等により、必要な音響のみを抽出することができる。必要な音響とは、基本レールに対するトングレールの離間/密着時に生じる音響であり、基本レールとトングレールとの接触に起因する音響や、その接触により動作かん14に生じる振動に起因する音響等を含む。
【符号の説明】
【0059】
1…分岐器密着度合監視装置
200…処理部
202…データ取得部、204…音響値算出部
206…密着度合検出部
300…記憶部
302…分岐器密着度合監視プログラム
310…転てつ機管理データ
312…転てつ機ID、314…期間設定データ
316…密着度合変化検出テーブル、318…検出結果データ
10…転てつ機
12…電気モータ、13…転換歯車群、14…動作かん、16…音響センサ
20…制御端末
24…音響データ抽出部、26…送受信部、28…時計部