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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-01
(45)【発行日】2024-07-09
(54)【発明の名称】車両運転システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/02 20120101AFI20240702BHJP
   B60W 40/08 20120101ALI20240702BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20240702BHJP
   B60W 50/04 20060101ALI20240702BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20240702BHJP
   B62D 1/06 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
B60W50/02
B60W40/08
B60W30/14
B60W50/04
B60W50/14
B62D1/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020183953
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073761
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-10-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】塚田 悟之
(72)【発明者】
【氏名】久保 良介
(72)【発明者】
【氏名】関根 將人
(72)【発明者】
【氏名】金上 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 修
(72)【発明者】
【氏名】澤田 剛輝
(72)【発明者】
【氏名】牧野 健治
(72)【発明者】
【氏名】前中 省吾
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-082821(JP,A)
【文献】特開2019-023012(JP,A)
【文献】特開2020-118811(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0185039(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 50/02
B60W 40/08
B60W 30/14
B60W 50/04
B60W 50/14
B62D 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられ、ドライバがステアリングを保持した状態である保舵であるか、または、前記ドライバが前記ステアリングを保持しない状態である非保舵であるかを判定するシステムであり、
前記ステアリングに設けられ、静電容量の変動を測定するタッチセンサと、
前記タッチセンサから入力される情報に基づいて、前記保舵または前記非保舵であるかを判定する制御部と、を具備し、
前記制御部は、前記タッチセンサの故障前に生じる前記静電容量の変動である第1の変動を検知した場合には、その後は、前記タッチセンサから前記制御部に入力される情報が前記保舵を示すものであっても、前記非保舵と判定することを特徴とする車両運転システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記ドライバの所定の操作または前記車両のエンジンが停止することで、前記非保舵と判定することを解除することを特徴とする請求項1に記載の車両運転システム。
【請求項3】
前記車両の走行速度を自動で制御する自動速度制御を行う自動速度制御部を、更に具備し、
前記ドライバの所定の操作が、前記自動速度制御を解除する操作であることを特徴とする請求項2に記載の車両運転システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1の変動とは異なり、前記タッチセンサの故障時に生じる前記静電容量の変動である第2の変動を検知した場合には、その後は、前記タッチセンサから前記制御部に入力される情報が前記保舵を示すものであっても、前記非保舵と判定することを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の車両運転システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記第2の変動を検知する回数が一定に達したら、前記タッチセンサが故障したと判定することを特徴とする請求項4に記載の車両運転システム。
【請求項6】
報知部を更に具備し、
前記制御部は、前記タッチセンサが故障したと判定した場合、前記報知部を介して、前記タッチセンサが故障している旨を前記ドライバに報知することを特徴とする請求項4に記載の車両運転システム。
【請求項7】
前記第1の変動は、予め定められた第1設定時間における、前記静電容量の変動であることを特徴とする請求項1に記載の車両運転システム。
【請求項8】
前記第2の変動は、予め定められた第2設定時間における、前記静電容量の変動であることを特徴とする請求項4に記載の車両運転システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転システムに関し、特に、ステアリングに備えられたタッチセンサの出力に基づいて保舵または非保舵を検知することで、安全確保あるいは運転支援を行う車両運転システムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の車両においては、運転者の負担を軽減し、快適且つ安全に運転できるようにするための自動運転システムが種々提案され、一部は既に実用化されている。自動運転システムにおいては、ドライバはステアリングから一時的に手を離すことができる。
【0003】
しかしながら、自動運転システムを阻害する要因が出現した場合、例えば、車両の割り込み、タイヤの空転、カメラ等の外部監視装置の不具合の発生、システム不具合等が発生した場合は、ドライバ自身がステアリングを操作して運転に介入する必要がある。即ち、車両に自動運転機能が組み込まれるようになってくると、ステアリングは、運転者が常に把持するものから、必要に応じて把持するように変わりつつある。
【0004】
よって、自動運転システムが備えられた車両においては、ステアリングにはセンサが設けられ、当該センサの出力に基づいて、ドライバがステアリングを保舵しているか否かを常時検知している。
【0005】
運転者の保舵を検出する技術として、例えば、特許文献1および特許文献2には、ハンドルのリムにタッチセンサ(圧力センサ、容量センサ、電極対等)を設け、運転者のハンドル把持、及び把持位置を検知する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5009473号公報
【文献】特開2019-14447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した各特許文献に記載された技術は、保舵または非保舵を正確に検知する観点から改善の余地があった。
【0008】
具体的には、ステアリングのリムには、その円周方向に沿ってタッチセンサが配設されている。当該タッチセンサは、絶縁層を複数の電極層で挟み込んで形成されており、その電極層はメッキ処理された布から成る繊維導電材である。また、タッチセンサは、ステアリングのリム部において表皮層により強く締め付けられる。よって、経年劣化により繊維導電材が断線等することで、タッチセンサによる保舵または非保舵の判定を正確に行うことが困難になる場合もある。このようになると、本来は非保舵であるにも関わらず、タッチセンサから保舵を示す信号が出力されるようになり、保舵または非保舵の判定を正確に検知することができない恐れが有る。
【0009】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、保舵または非保舵を正確に検知することができる車両運転システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に記載された車両運転システムは、車両に備えられ、ドライバがステアリングを保持した状態である保舵であるか、または、前記ドライバが前記ステアリングを保持しない状態である非保舵であるかを判定するシステムであり、前記ステアリングに設けられ、静電容量の変動を測定するタッチセンサと、前記タッチセンサから入力される情報に基づいて、前記保舵または前記非保舵であるかを判定する制御部と、を具備し、前記制御部は、前記タッチセンサの故障前に生じる前記静電容量の変動である第1の変動を検知した場合には、その後は、前記タッチセンサから前記制御部に入力される情報が前記保舵を示すものであっても、前記非保舵と判定することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載された車両運転システムでは、前記制御部は、前記ドライバの所定の操作または前記車両のエンジンが停止することで、前記非保舵と判定することを解除することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載された車両運転システムでは、前記車両の走行速度を自動で制御する自動速度制御を行う自動速度制御部を、更に具備し、前記ドライバの所定の操作が、前記自動速度制御を解除する操作であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項4に記載された車両運転システムでは、前記制御部は、前記第1の変動とは異なり、前記タッチセンサの故障時に生じる前記静電容量の変動である第2の変動を検知した場合には、その後は、前記タッチセンサから前記制御部に入力される情報が前記保舵を示すものであっても、非保舵と判定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項5に記載された車両運転システムでは、前記制御部は、前記第2の変動を検知する回数が一定に達したら、前記タッチセンサが故障したと判定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の請求項6に記載された車両運転システムでは、報知部を更に具備し、前記制御部は、前記タッチセンサが故障したと判定した場合、前記報知部を介して、前記タッチセンサが故障している旨を前記ドライバに報知することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の請求項7に記載された車両運転システムでは、前記第1の変動は、予め定められた第1設定時間における、前記静電容量の変動であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の請求項8に記載された車両運転システムでは、前記第2の変動は、予め定められた第2設定時間における、前記静電容量の変動であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
従って、本発明の請求項1に記載された車両運転システムによれば、破壊前変動を検知した後は、非保舵と判定することで、実際は非保舵であるにも関わらず保舵であると誤判定してしまうことを防止することができる。
【0019】
従って、本発明の請求項2に記載された車両運転システムによれば、ドライバによる操作またはエンジンが停止した際に、非保舵と判定することを解除することで、再び車両を運転した際に、タッチセンサの出力に基いて保舵または非保舵の判定を行うことができる。
【0020】
従って、本発明の請求項3に記載された車両運転システムによれば、自動速度制御を解除する操作を行った際に、非保舵と判定することを解除することで、再び車両を運転した際に、タッチセンサの出力に基いて保舵または非保舵の判定を行うことができる。
【0021】
従って、本発明の請求項4に記載された車両運転システムによれば、静電容量が大きく変動する破壊後変動を検知した場合は、非保舵と判定することで、実際は非保舵であるにも関わらず保舵であると誤判定してしまうことを防止することができる。
【0022】
従って、本発明の請求項5に記載された車両運転システムによれば、第2の変動の検知回数に基づいて故障判定を行うことで、静電容量の急激な変化が偶発的なものではなく、故障によるものであると判定することができる。
【0023】
従って、本発明の請求項6に記載された車両運転システムによれば、故障している旨をドライバに報知することで、ドライバに対してタッチセンサを修理することを喚起できる。
【0024】
従って、本発明の請求項7に記載された車両運転システムによれば、第1の変動をより正確に検知し、車両運転システムが非保舵を保舵と誤判定することを抑止できる。
【0025】
従って、本発明の請求項8に記載された車両運転システムによれば、第2の変動をより正確に検知し、車両運転システムが、本来は非保舵と判定するべき場合を、誤って保舵として誤判定することを抑止でき、更にはタッチセンサの故障を早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態に係る車両運転システムを示す図であり、(A)はステアリングを示す図であり、(B)はステアリングを部分的に示す断面図であり、(C)は当該断面を更に詳細に示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る車両運転システムの接続構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係る車両運転システムの動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態に係る車両運転システムの動作を示す図であり、(A)は操舵および非保舵における静電容量値の変化を示すタイミングチャートであり、(B)は第1の変動を示すタイミングチャートであり、(C)は第2の変動を示すタイミングチャートである。
図5】本発明の実施形態に係る車両運転システムの動作を詳細に示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る車両運転システム11を図面に基づき詳細に説明する。以下の説明では、同一の部材には原則的に同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0028】
本実施形態に係る車両運転システム11は、自動運転機能を有する車両10に備えることができるため、先ず、自動運転機能の自動運転レベルに関して説明する。
【0029】
自動運転レベルは、SAE InternationalのJ3016及びその日本語参考訳であるJASO TP 18004に定義されており、次のように、レベル0からレベル5まで分類されている。
【0030】
レベル0は、運転自動化なしまたは手動運転と称され、具体的には、運転者が全ての動的運転タスクを実行する。レベル1は、運転支援と称され、具体的には、システムが縦方向又は横方向のいずれかの車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行する。レベル2は、部分運転自動化と称され、具体的には、システムが縦方向及び横方向両方の車両運動制御のサブタスクを限定領域において実行する。レベル3は、条件付運転自動化と称され、具体的には、システムが全ての動的運転タスクを限定領域において実行作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に適切に応答する。レベル4は、高度運転自動化と称され、具体的には、システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行する。レベル5は、完全運転自動化と称され、具体的には、システムが、全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答をする。
【0031】
本実施形態における高度自動運転および低度自動運転は、相対的な自動運転のレベルである。即ち、高度自動運転は低度自動運転よりも自動運転のレベルが高く、例えば、高度自動運転がレベル5であれば、低度自動運転はレベル4ないしレベル0の何れかである。ここで、例えば、レベル5の運転は完全自動運転、レベル4ないしレベル1の運転は半自動運転、レベル0の運転は手動運転とも称される。本実施形態に係る車両10は、レベル0ないしレベル5の間で走行することができる。
【0032】
本実施形態に係る車両運転システム11は、車両10に備えられ、ドライバがステアリング12(図1参照)を保持した状態である保舵であるか、または、ドライバがステアリング12を保持しない状態である非保舵であるかを判定するシステムである。また、車両運転システム11は、ステアリング12(図1参照)に設けられ、静電容量の変動を測定するタッチセンサ125と、タッチセンサ125から入力される情報に基づいて、保舵または非保舵であるかを判定するステアリングECU14(図2参照)と、を具備する。更に、図5等を参照して後述するように、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の故障前に生じる静電容量の変動である第1の変動を検知した場合には、その後は、タッチセンサ125からステアリングECU14に入力される情報が保舵を示すものであっても、非保舵と判定する。
【0033】
ここで、保舵および非保舵に関して説明する。保舵とは、ドライバがステアリング12(図1参照)を保持した状態である。車両運転システム11は、後述するタッチセンサ125でセンシングすることにより、ドライバが複数の指、例えば、所定の複数本の指をステアリング12の表面に接触させることで、保舵であると判定する。一方、非保舵とは、ドライバがステアリング12を原則的に保持しない状態である。車両運転システム11は、後述するタッチセンサ125でセンシングすることにより、ドライバがステアリング12に接触していないか、または、ステアリング12に接触しているドライバの指が所定未満である場合、非保舵であると判定する。なお、把持とは、ドライバが両手または片手で、ステアリング12の片面または両面をしっかりと握っている状態であり、保舵に含まれる概念である。
【0034】
図1(A)はステアリング12を示す図であり、図1(B)は図1(A)の切断面線A-Aにおける断面図であり、図1(C)は当該断面を更に詳細に示す図である。
【0035】
図1(A)を参照して、ステアリング12は略円環状に形成されるリム121を有しており、リム121に、後述するタッチセンサ125が備えられている。
【0036】
図1(B)および図1(C)を参照して、リム121は、その中心側から、芯金122、樹脂被服層123、接着層124、タッチセンサ125、接着層126およびレザー層127を有している。樹脂被服層123ないしレザー層127は、この順番で、芯金122を層状に取り巻いている。
【0037】
タッチセンサ125は、ここでは図示しない絶縁層を複数の電極層で挟み込んで形成され、静電容量を計測し、静電容量値を示す電気信号を出力する。タッチセンサ125は、誘電体であるドライバの手または指がリム121に触れた際における、静電容量値の変化を検知する。タッチセンサ125を構成する電極層としては、メッキ処理された布から成る繊維導電材を採用することができる。繊維導電材は、他の導電材料と比較して柔軟性が高いため、芯金122に良好に追従することができる。
【0038】
一方、タッチセンサ125を構成する繊維導電材は、レザー層127で強く締め付けられていることから、経年劣化により繊維導電材を構成する細い繊維が断線等することで、タッチセンサ125による静電容量値の検知を正確に行うことが困難になる場合がある。タッチセンサ125による静電容量値の検知が不正確になると、実際は非保舵である状況を、ステアリングECU14が保舵と誤判定してしまい、非保舵の状況において、高度自動運転から低度自動運転に移行してしまう恐れがある。更に、所謂手放し運転を許容してしまう恐れがある。
【0039】
本実施形態の車両運転システム11では、後述するように、タッチセンサ125の故障を示す第1の変動および第2の変動を検知し、第1の変動または第2の変動を検知した場合は、その後の判定を非保舵に固定することで、非保舵の状況を保舵と誤判定してしまうことを抑止している。
【0040】
図2は、車両運転システム11の接続構成を示すブロック図である。
【0041】
車両運転システム11は、主に、ステアリング12に内蔵されたタッチセンサ125と、ステアリングECU14と、を有する。
【0042】
ステアリング12は、前述したように、芯金122、タッチセンサ125およびGNDエレメント128を有している。芯金122およびタッチセンサ125は、CN2を介して、ステアリングECU14と接続される。GNDエレメント128は、CN3を介して、ステアリングECU14と接続される。
【0043】
ステアリングECU14は、CPUやRAM等から成る制御部であり、電源回路部141、センシング部142およびLIN通信回路部143を有している。電源回路部141は、外部から入力される電力を、ステアリングECU14の各部位に適切な電圧で分配する部位である。センシング部142は、タッチセンサ125から入力される静電容量値を示す信号に基づいて、ドライバの状態が保舵または非保舵であるかを判定する。LIN通信回路部143は、ステアリングECU14と、マスタECU13等の他の車載機器とを、所定の規格で通信するための信号処理を行う。
【0044】
マスタECU13は、車両10の主たる運転動作を制御する制御部位であり、SRC(ステアリングロールコネクタ)およびCN1を介して、ステアリングECU14と接続されている。ここで、SRCは省くことができる。また、CN1ないしCN3は1つに集約することもできる。
【0045】
自動速度制御部15は、上記した自動運転機能を実現する制御部位であり、マスタECU13と接続されている。
【0046】
報知部16は、表示装置または発音装置等であり、センシング部142の処理結果に応じて、報知を行う。例えば、後述するように、タッチセンサ125が故障したと判定した場合、報知部16を介して、タッチセンサ125が故障している旨をドライバに報知する。
【0047】
図3および図4を参照して、車両運転システム11の基本動作を説明する。図3は、車両運転システム11が保舵または非保舵を判定する際の、動作を示すフローチャートである。図4(A)は操舵および非保舵における静電容量値の変化を示すタイミングチャートであり、図4(B)は第1の変動を示すタイミングチャートであり、図4(C)は第2の変動を示すタイミングチャートである。
【0048】
ステップS10では、ステアリングECU14は、静電容量値を算出する。図4(A)は静電容量値の経時的変動を示すチャートであり、静電容量値を実線で示し、閾値および基準値を点線で示している。静電容量値は、保舵の場合は基準値から離れた値を示し、非保舵の場合は基準値に近い値を示している。ここでは、静電容量値が閾値を超えた場合を保舵と判定している。
【0049】
ステップS11では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の故障の前兆を示す波形である第1の変動を判定する。図4(B)に、第1の変動の一例を示す。ここで、第1の変動は、予め定められた第1設定時間T1(例えば、数十msec)の間で、静電容量が予め定められた基準値(第1基準値)を下回る変動である。具体的には、静電容量値は、第1設定時間T1の間において、最初の時間T3(例えば、第1設定時間T1よりも短い数十msec)の時点で一端上昇した後に、基準値を下回るまで下降し、その後に元の値に戻っている。静電容量値がこのような短期変動を示す場合、上記したタッチセンサ125を構成する繊維導電材の劣化が始まっていることが予測される。
【0050】
ステップS12では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の故障を示す波形である第2の変動を判定する。図4(C)に、第2の変動の一例を示す。ここで、第2の変動は、第1の変動とは異なる変動であり、タッチセンサ125の故障時に生じる静電容量の変動である。具体的には、第2の変動は、予め定められた第2設定時間T2(例えば数sec)の間で、静電容量が予め定められた基準値(第2基準値)を大きく下回る変動である。ここで、第2基準値は、上記した第1基準値と同じ値でも良いし、第1基準値とは異なる値であっても良い。
【0051】
静電容量値は、第2設定時間T2の間において、3つのタイミング(P1、P2およびP3)において急減を示している。ここで、第2の変動の判定は、第2設定時間T2の間において、1回の急減を計測することで行っても良いし、複数回の急減を計測することで行っても良い。
【0052】
静電容量値が第2の変動を示す場合、上記したタッチセンサ125を構成する繊維導電材の劣化が進行しており、即ち、タッチセンサ125が故障している可能性が大きい。
【0053】
ステップS13では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の故障を示す波形である第2の変動が無く、且つ、故障波形を検知した回数が、予め定められた設定回数未満であるか否かを判定する。
【0054】
ステップS13でYESの場合、即ち、タッチセンサ125の故障を示す波形である第2の変動が無く、且つ、故障波形を検知した回数が設定回数未満である場合、ステアリングECU14は、ステップS14に移行する。
【0055】
ステップS13でNOの場合、即ち、タッチセンサ125の故障を示す波形である第2の変動が有る、または、故障波形を検知した回数が設定回数以上である場合、ステアリングECU14は、ステップS17に移行する。
【0056】
ステップS14では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の故障の前兆を示す波形である第1の変動が無いか否かを判定する。
【0057】
ステップS14でYESの場合、即ち、タッチセンサ125の故障の前兆を示す波形である第1の変動が無い場合、ステアリングECU14は、ステップS15に移行する。
【0058】
ステップS14でNOの場合、即ち、タッチセンサ125の故障の前兆を示す波形である第1の変動が有る場合、ステアリングECU14は、ステップS17に移行する。
【0059】
ステップS15では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125で計測した静電容量値から基準値を減算した容量変動値が、所定値の一例である9pF以上であるか否かを判定する。
【0060】
ステップS15でYESの場合、即ち、容量変動値が9pF以上であれば、ステアリングECU14は、ステップS16に移行する。
【0061】
ステップS15でNOの場合、ステアリングECU14は、容量変動値が9pF未満であれば、ステアリングECU14は、ステップS17に移行する。
【0062】
ステップS16では、保舵であると判定する。即ち、ステアリングECU14は、ドライバはステアリング12を保舵していると判定する。ステアリングECU14が保舵と判定すれば、高度自動運転から低度自動運転への移行が、可能になる。
【0063】
ステップS17では、ステアリングECU14は、非保舵であると判定する。即ち、ステアリングECU14は、ドライバはステアリング12に接触していないか、接触していたとしても指二本程度で充分に保舵していないと判定する。ステアリングECU14が非保舵と判定すれば、高度自動運転から低度自動運転への移行が、禁止される。
【0064】
このような動作により、車両運転システム11は、保舵または非保舵を判定する。
【0065】
図5は、車両運転システム11の動作の一例を詳細に示すタイミングチャートである。図5では、上段から、エンジンの運転および停止を示すACC、タッチセンサ125の出力値を示す静電容量値、保舵または非保舵の判定、タッチセンサ125の故障を予知する第2の変動を検知した回数、タッチセンサ125の故障の有無をチャートで示している。また、上記したタッチセンサ125の故障の前兆を示す第1の変動をM1で示し、タッチセンサ125の故障を示す第2の変動をM2で示している。ここで、以下の説明でT10等は、時点を示している。
【0066】
T10からT11の間で、ユーザがエンジンを始動した時点では、タッチセンサ125で計測した静電容量値は増加を示していないため、ステアリングECU14は非保舵と判定している。
【0067】
T11からT12の間で、静電容量値が、一定以上(例えば20pF以上)増加し、ステアリングECU14は、保舵と判定する。
【0068】
T12からT13までは、静電容量値は増加を示していないため、ステアリングECU14は非保舵と判定している。
【0069】
T13からT14までは、車両10のエンジンは停止しており、即ち、車両10は停車している。
【0070】
T14からT15までは、車両10のエンジンが再開し、静電容量値は増加を示していないため、ステアリングECU14は非保舵と判定している。
【0071】
T15からT16までは、静電容量値が、一定以上増加し、ステアリングECU14は、保舵と判定する。
【0072】
その後、タッチセンサ125が第1の変動M1を示したので、ステアリングECU14は、判定を非保舵に固定する。即ち、タッチセンサ125が計測した静電容量値の変動が保舵を示すものであっても、ステアリングECU14は、T16からT17までは、非保舵であると判定し続ける。
【0073】
T17では、ドライバが車両10のエンジンを停止し、車両10は停車または駐車する。ステアリングECU14は、車両10のエンジンが停止することで、非保舵と判定を固定することを解除する。このようにすることで、T18において、車両10のエンジンが再度運転することで走行を再開した際に、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の出力に基づいて、保舵または非保舵の判定を行うことができる。ここで、非保舵と判定を固定することの解除は、ドライバの所定の操作、例えば、自動速度制御を解除する操作であっても良い。
【0074】
T18からT19までは、静電容量値は増加を示していないため、ステアリングECU14は非保舵と判定している。
【0075】
T19からT20までは、ステアリングECU14は、静電容量値が一定以上増加しており、保舵と判定する。
【0076】
その後、静電容量値が第1の変動M1を示したので、ステアリングECU14は、非保舵に固定する。
【0077】
T20からT21までは、静電容量値が一定以上(例えば20pF以上)増加しているものの、第1の変動M1が発生した後であることで、ステアリングECU14は非保舵であると判定する。
【0078】
T22では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の出力に基づいて、第2の変動M2を検知している。ステアリングECU14は、第2の変動M2が発生した回数が1回であると記憶する。
【0079】
T23からT24までは、車両10のエンジンは停止している。
【0080】
T24からT25までは、静電容量値は増加を示していないため、ステアリングECU14は非保舵と判定している。
【0081】
T25からT26までは、ステアリングECU14は、タッチセンサ125で計測した静電容量値が一定以上増加しており、保舵と判定する。
【0082】
T26では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の出力に基づいて、第2の変動M2を検知し、第2の変動M2が発生した回数が2回であると記憶する。
【0083】
T26からT27までは、タッチセンサ125で計測した静電容量値が一定以上増加しているが、T26で第2の変動M2を検知した後であるので、ステアリングECU14は、非保舵と判定する。また、ステアリングECU14は、T28でエンジンが停止したら、または、上記したドライバの所定の操作により、非保舵と判定することを停止する。
【0084】
T28からT29までは、車両10のエンジンは停止している。
【0085】
T29からT30までは、静電容量値は増加を示していないため、ステアリングECU14は非保舵と判定している。
【0086】
T30からT31までは、ステアリングECU14は、タッチセンサ125で計測した静電容量値が一定以上増加しており、保舵と判定する。
【0087】
T31では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125の出力に基づいて、第2の変動M2を検知し、第2の変動M2が発生した回数が3回であると記憶する。
【0088】
T32では、静電容量値は変動しているが、T31で第2の変動M2を検知した後であるので、ステアリングECU14は、非保舵と判定する。
【0089】
T33では、ステアリングECU14は、タッチセンサ125を介して第2の変動M2を検知するが、T31で第2の変動M2を検知した後であるので、故障の回数としてカウントしない。このようにすることで、故障の有無をより正確に検知することができる。
【0090】
T34からT35までは、車両10のエンジンは停止している。
【0091】
T36では、ステアリングECU14は、第2の変動M2を検知し、第2の変動M2が発生した回数が4回であると記憶する。
【0092】
T37では、ステアリングECU14は、第2の変動M2を検知し、第2の変動M2が発生した回数が5回であると記憶する。
【0093】
T38では、エンジンの始動以降は、ステアリングECU14は、タッチセンサ125が大きな静電容量値の変化を計測したとしても、非保舵と判定する。ここでは、エンジンの停止やドライバの操作等があった場合でも、非保舵と判定することを続行する。第2の変動M2が頻発する場合、タッチセンサ125が故障している恐れが大きいため、本来は非保舵であるにも関わらず保舵と誤判定することを抑止できる。
【0094】
T39では、ステアリングECU14は、第2の変動M2を検知し、第2の変動M2が発生した回数が、故障と判定するべく予め定められた回数であると記憶する。
【0095】
T40では、ユーザがエンジンを始動させた時点で、ステアリングECU14は、第2の変動M2を検知する回数が一定に達し、タッチセンサ125が故障していると判定し、タッチセンサ125が故障している旨を、報知部16からドライバに報知する。当該報知に基づいて、ドライバは車両10をディーラ等に持ち込んで、タッチセンサ125を修理することができる。
【0096】
前述した本実施形態により、以下のような主要な効果を奏することができる。
【0097】
本発明の車両運転システム11によれば、破壊前変動を検知した後は、非保舵と判定することで、実際は非保舵であるにも関わらず保舵であると誤判定してしまうことを防止することができる。よって、非保舵の状態で、高度自動運転から低度自動運転に移行してしまうことを防止できる。また、車両運転システム11は、ドライバが手放し運転することを確実に検知し、報知部16を介して、ドライバに対して保舵を促すことができる。
【0098】
更に、ドライバによる操作またはエンジンが停止した際に、非保舵と判定することを解除することで、再び車両10を運転した際に、タッチセンサ125の出力に基いて保舵または非保舵の判定を行うことができる。
【0099】
更に、ドライバが自動速度制御を解除する操作を行った際に、非保舵と判定することを解除することで、再び車両10を運転した際に、タッチセンサ125の出力に基いて保舵または非保舵の判定を行うことができる。
【0100】
更に、静電容量が大きく変動する破壊後変動を検知した場合は、非保舵と判定することで、実際は非保舵であるにも関わらず保舵であると誤判定してしまうことを防止することができる。
【0101】
更に、第2の変動M2の検知回数が一定以上に達した場合は、故障判定を行うことで、静電容量の急激な変化が偶発的なものではなく、故障によるものであると判定することができる。
【0102】
更に、故障している旨をドライバに報知することで、ドライバに対してタッチセンサ125を修理することを喚起できる。
【0103】
更に、第1の変動M1をより正確に検知し、車両運転システム11が非保舵を保舵と誤判定することを抑止できる。
【0104】
更に、第2の変動M2をより正確に検知し、車両運転システム11が非保舵を保舵と誤判定することを抑止でき、更にはタッチセンサ125の故障を早期に検知することができる。
【0105】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、前述した各形態は相互に組み合わせることが可能である。
【0106】
例えば、前述した本実施形態では自動運転機能を有する車両10に車両運転システム11を搭載したが、自動運転機能を有さない車両10に車両運転システム11を搭載することもできる。
【0107】
更に、ドライバがステアリング12から手を離す手放し運転をしている場合、車両運転システム11が報知部16を介して、ステアリング12の操作を促すこともできる。
【0108】
更に、タッチセンサ125で、ドライバがステアリング12を握る傾向を把握し、車両運転システム11が、正しい保舵位置、把持方法(力、面積)等を、報知部16を介して促すことができる。
【0109】
更に、タッチセンサ125で、ユーザがステアリング12を操作する動作を把握し、適切にステアリング12を操作しているユーザに対しては、車両運転システム11が、報知部16を介して警告することを遅らせることができる。
【0110】
更に、車両10が高速で走行する高速走行時においては、保舵と判定する閾値を、低速走行時よりも高く設定することができる。更に、車両運転システム11は、高速走行時においては、タッチセンサ125で両手の保舵を確認した際のみ、保舵と判定することもできる。
【0111】
更に、車室内撮影部等を車両10に備え、車室内撮影部の出力によりドライバが前方不注意または居眠りをしていた場合、車両運転システム11が、報知部16を介して警告し、ドライバの保舵を促すことができる。
【0112】
更に、ステアリング12のタッチセンサ125が、所謂タッチパッドの如く機能し、ナビゲーション装置、オーディオ機器、ウィンカー、パドルシフトとして用いることもできる。
【0113】
更に、図4(A)に示した閾値は、ドライバの握力、接触面積、車室内温度、ドライバの性別、年齢等の要因に応じて、適切に変動させることができる。
【0114】
更に、車両運転システム11は、保舵または非保舵であるかの判定のみならず、他の事項を判定することもできる。例えば、車両運転システム11は、タッチセンサ125の出力に基づいて、ドライバの保舵状態または非把舵状態を詳細に検出することで、把舵また非把舵の状態が、操舵に際して安全なものであるかを判定することができる。
【符号の説明】
【0115】
10 車両
11 車両運転システム
12 ステアリング
121 リム
122 芯金
123 樹脂被服層
124 接着層
125 タッチセンサ
126 接着層
127 レザー層
128 GNDエレメント
13 マスタECU
14 ステアリングECU(制御部)
141 電源回路部
142 センシング部
143 LIN通信回路部
15 自動速度制御部
16 報知部
図1
図2
図3
図4
図5